投稿日:2020年01月16日 00:00 文字数:5,099
愛だろう
ステキ数:2
この呪いは俺にも解けないな
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――好きでいてもいいか?
やっとの思いで口にした言葉はひどく震えていたと自分でも思う。
任務中に負った傷は相棒の優秀な治癒術によって塞がれていたが、休息を求めた身体は熱を生んでおり、頭がぼうっとしていた。肉体の不調は精神をも弱らせる。こんなことを言ったら心配そうにこちらを覗き込んでいる相棒に怒られそうだが、「もう駄目かもしれない」と思ってしまった。実際、"もう駄目"かもしれないほどに受けた傷は深かったのだ。相棒による迅速な治療がなければ、こうして宿のベッドに横たわることもなく地面の上で果てていたことだろう。
とはいえ、地上の人間を守るために天界から遣わされた兵士の身であるから、元よりその覚悟はできている。死ぬことが怖くないと言えば嘘になるが、いつかその日が来るという覚悟は常に持っていた。それが"今"なのかもしれないと、そう思っただけだ。
そうだとしたら自分はどうすべきなのだろう。身体も頭も碌に動かないが、今際の際にすべきこと。身体が動かない時点で御使いとしての使命はこれ以上果たしようがない。そもそも使命を果たした結果こうなっているのだから、それ以外の点で最期にすべきことはないだろうか。
朦朧とする頭で視線だけを彷徨わせると、こちらを覗き込む相棒と目が合った。そうだ、そういえばこいつに言っていないことがある。どうせなら言ってしまおうか。今まで隠してきたけれど、これが最後なら伝えてしまってもいいのではないか。お前が好きだと。
(……あぁ、だが――)
この思いを伝えてしまったら、相手に渡してしまったら、自分がいなくなった後にはきっと何も残らない。自分の言う「好き」が相棒に対する感情以上のものであることを、相棒であるこいつはきっと理解できない。親愛としての「好き」だと受け取るだろう。そうしてただの親愛として受け取られてしまったら、この思いは何処へ行く?相手に正しく受け取られないまま、思いを抱えている自分自身がいなくなればその思いも消えてしまう。きっと何処にも残らない。それはなんだか虚しかった。
正しく伝わらなくてもいいから伝えることはしたい。それに加え、この思いが消えてしまわないような――そういう証が欲しい。
今際の際に抱くにしては大きすぎる願いだろうか。けれど、それでも欲しいと思ったのだ。証が。約束が。永遠が。まるで呪いのようなそれが。――問題ない。呪いを解くのは得意だから。
だから永遠を願うことにした。この思いが消えてしまわないよう、永遠を請うた。
――好きでいてもいいか?
自分がいなくなった後もお前がそれを赦してくれるなら、この思いは自分が抱いた形のまま消えることなく世界に残る気がした。
問われた相棒はきょとんとした顔をした後で、いつもの穏やかな笑みを浮かべて言った。
「いいよ」
やはり正しく理解したわけではないのだろうが、それでも赦してくれた。その優しさに、穏やかな碧に、甘えさせてもらう。自分は永遠を得たのだと。
やっとの思いで口にした言葉はひどく震えていたと自分でも思う。
任務中に負った傷は相棒の優秀な治癒術によって塞がれていたが、休息を求めた身体は熱を生んでおり、頭がぼうっとしていた。肉体の不調は精神をも弱らせる。こんなことを言ったら心配そうにこちらを覗き込んでいる相棒に怒られそうだが、「もう駄目かもしれない」と思ってしまった。実際、"もう駄目"かもしれないほどに受けた傷は深かったのだ。相棒による迅速な治療がなければ、こうして宿のベッドに横たわることもなく地面の上で果てていたことだろう。
とはいえ、地上の人間を守るために天界から遣わされた兵士の身であるから、元よりその覚悟はできている。死ぬことが怖くないと言えば嘘になるが、いつかその日が来るという覚悟は常に持っていた。それが"今"なのかもしれないと、そう思っただけだ。
そうだとしたら自分はどうすべきなのだろう。身体も頭も碌に動かないが、今際の際にすべきこと。身体が動かない時点で御使いとしての使命はこれ以上果たしようがない。そもそも使命を果たした結果こうなっているのだから、それ以外の点で最期にすべきことはないだろうか。
朦朧とする頭で視線だけを彷徨わせると、こちらを覗き込む相棒と目が合った。そうだ、そういえばこいつに言っていないことがある。どうせなら言ってしまおうか。今まで隠してきたけれど、これが最後なら伝えてしまってもいいのではないか。お前が好きだと。
(……あぁ、だが――)
この思いを伝えてしまったら、相手に渡してしまったら、自分がいなくなった後にはきっと何も残らない。自分の言う「好き」が相棒に対する感情以上のものであることを、相棒であるこいつはきっと理解できない。親愛としての「好き」だと受け取るだろう。そうしてただの親愛として受け取られてしまったら、この思いは何処へ行く?相手に正しく受け取られないまま、思いを抱えている自分自身がいなくなればその思いも消えてしまう。きっと何処にも残らない。それはなんだか虚しかった。
正しく伝わらなくてもいいから伝えることはしたい。それに加え、この思いが消えてしまわないような――そういう証が欲しい。
今際の際に抱くにしては大きすぎる願いだろうか。けれど、それでも欲しいと思ったのだ。証が。約束が。永遠が。まるで呪いのようなそれが。――問題ない。呪いを解くのは得意だから。
だから永遠を願うことにした。この思いが消えてしまわないよう、永遠を請うた。
――好きでいてもいいか?
自分がいなくなった後もお前がそれを赦してくれるなら、この思いは自分が抱いた形のまま消えることなく世界に残る気がした。
問われた相棒はきょとんとした顔をした後で、いつもの穏やかな笑みを浮かべて言った。
「いいよ」
やはり正しく理解したわけではないのだろうが、それでも赦してくれた。その優しさに、穏やかな碧に、甘えさせてもらう。自分は永遠を得たのだと。
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是非、コメントを投稿して頂き、皆様と共にBLを愛する場所としてpictBLandを盛り上げていければと思います。
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