おむつ

※版権二次創作と統合します。
nm
日ラ:TBR、ryms、他小鳥クルー贔屓

版権二次
utwr:
ヤクトワルト、ヤクオウ、ヤムヤク、ゲンヤク
LF:
アクタ、トキフサ、アクフサ、ディーアク

DCアニメ・ドラマ:
PaF、GF、Discendants

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投稿日:2020年12月24日 09:36    文字数:8,995

ディーアク20201224

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うたわれるものロストフラグ、ディー×アクタなSSです
エロさも緊迫感も控え目なクリスマスプレゼント仕様です
ディーがアクタを揉みます
2021.1.21追記:マッサージの場面の解説絵を追加しました
1 / 1
ああ、まただ。またあの感覚が頭の裏側を掻く。
 これまでもう幾度と無く神経がキャッチしたその「感覚」にアクタは思わず片目を細め、しかめっ面で小さく舌打ちをした。
“――おやおや、終生の友からの念話だというのに舌打ちですか?“
 掻くような感覚がいつものように頭に声を流し始める。
(ったく、誰が終生の友だ誰が)
“――誰がって、決まってるじゃないですか。私とアクタ。このディーとアクタの事ですよ。終生の友とは“
「るっせぇ!!んな事ぁ解ってっから人の考えに勝手に口挟むなっ!!!」
 アクタの荒いだ叫び声は机を叩いたバンという音と共に、この誰もいない黄昏時の自室に虚しく響いた。
 普段であればミナギを始め、この教団でアクタの指示の下活動する多くの仲間達が自室やその周囲でがやがやと動き回っている時間なのであるが、今日に限っては揃いも揃って出払っている。
 アクタが罵声を飛ばしても机を思い切り叩いても誰一人として声をかけたり部屋の襖を開く事はない。



“――誰もいないみたいですねぇ“
「……だな。」
 今日一日、アクタはここ一ヶ月のうちに溜まり込んだあらゆる書類を上に提出する為にまとめ上げていた。
 他の仲間達が出払っているのは普段アクタが担う案件に代理で出向いて貰っているからでもある。
 覚えたての言語を使ったお世辞にも得意とは言えない事務仕事を長時間。それはアクタにとってはストレス以外の何者でもなかった。いや、誰にとってもこの上無いストレスに違いない。
 正直なところ、今日だけで何度かこの場で全ての服を脱ぎ捨て知ってる限りの汚い言葉を叫びながら教団中を走り回りたい衝動に駆られた。
 しかし上着に手を掛けそうになる度、全裸で狂騒する自身を偶然目にした織代に上半身と下半身を真っ二つにされる様を脳裏に浮かべ、荒ぶる感情をどうにか鎮めた。
 こうしてやっとこさ書類の書き上げを進めてゆき、夕暮れには間に合わずとも今日のうちには全てを終わらせる目処が立ってきた。
 そう安堵したところにやって来たディーという厄介者の念話だったのだ。
 アクタにとってはどこまでも厄介としか言い様の無い刺客だった。
 「喋ってても構わねぇが邪魔だけはすんなよ」
 アクタはそう言葉を放つと何事も無かったかのように再び筆を握り、書類の上を滑らせた。
 “――アクタは毎日忙しそうですよね。でも今日はずっと座って字を書いてるだけだし、日々の動き疲れも取れたでしょう?“
 アクタに喋りかける事だけは認められた。そんな確信を胸にしたかのようにディーは念話でしきりに問いかける。
 「馬鹿言うな。こんなチマチマした書類書きなんて俺の性に合うわけねぇだろ。こんな肩の凝る仕事する位なら山で猛獣追っかけ回したり追っかけ回されたりした方がまだ良い」
 “――ほう、書類書きは肩が凝ると“
 「ああ、コリッコリだ。どうにもなんねぇ」
 意識を書類に集中させながらも片手間でディーとの念話に一応雑談を返していたアクタは、そう言うと筆を置いて利き手の腕を動かし辛そうにグルグルと数度回した。
 その直後だった。
 「でしたら揉んで差し上げましょう!」



 それは念話などでは無かった。
 耳元で突如拾われた覚えのある声。確かに耳と頬が感じ取ったヒトの呼吸。そして、大の男の身丈はある翼の圧。
 アクタは思わずウオッと言葉にならない言葉を叫び、突然隣に出現した生身のディーから跳び跳ねるようにして離れた。
 「うわあっ!びっくりしたびっくりしたびっくりした!!」
 強面と称される垂れた三白眼をぐるぐるとさせながら、アクタは腰を抜かしたような情けない姿勢であわあわとディーに向かって叫びを上げる。
 「いきなり出てくるなっ!!」
 背の真白い翼を折り畳んだ綺麗な正座でディーはまるでずっとこの場に居たかのような落ち着いた笑みを浮かべて丸腰のアクタを眺めていた。
 「そこまで驚かせるつもりは無かったんですけれどね。でもまあ、驚いて涙目になるアクタも良いものでした。そそられます」
「 ――うっ…うっせぇっ!」
 ディーの言葉を額面通りに受けた様子のアクタは少し姿勢を整えると戸惑ったような面持ちをして手の甲で両目尻をごしごしと数度擦った。
「さて……話を戻しますが肩が凝っておられるとの事で、私が揉んで差し上げますよ。さあさあ、わたしの前に腰を下ろして」
 そのディーの言葉に、アクタは怪訝な表情をしていまいち乗り気にはなれない事を訴えかける。
「いやいや、別に私の膝の上でなくても良いのですよ」
「当たり前だろ!!!誰が貴様の膝の上になんか座るかっ!!」
「それでは机の前にお戻り下さい。アクタのお仕事の邪魔にならないように身体を解して差し上げますから」



 この男の事だからなにかしら裏があるのかもしれないが、仕事の邪魔にならないようにすると言われたからには別段断る理由もない。
 アクタは無言で書類の並ぶ机の前に戻り、途中で文章が止まっていた報告書に再び筆を入れ始めた。
 間もなくしてディーもまた言葉無くアクタの背後に膝立ちすると、書類書きでかがんだ首の付け根にそっと指を置いた。
「――???」
 不思議な事に、急所にほど近い鼠径部に怪しさ満点の男が両手を添えているはずだというのに、危機感どころか多少なりともビクリとするだろう神経が全く反応しない。
 それどころか、筆を進める手を阻むような圧をも感じる事は無かった。
 だというのに、ディーの手先は確かにアクタの鼠径部を丁度良い力加減で揉み解しているのがわかる。
 何か特殊な術でも使っているのだろうか。そんな事を考えると、
「これは術などではありませんよ。ひとえにアクタと私の波長が合うが故の奇跡のようなものです」
 と、考えを読まれた。
「つまるところ相思相愛なんですよ。アクタと私は」
「―― や め ろ っ 」
 アクタはワントーン低い声で牽制すると同時に、書類の最下部で筆を止めた。
 気が付いたら朝には山積みだったはずの手付かずの紙の山は机の上から消え、全て書き上げられて整った報告書がアクタの真横に綺麗に重ねられていた。
 ディーがやって来た時点でも夕餉前に終われば御の字だという程度には量が残っていたというのに、驚くべき事だ。
 やはりディーによる揉み解しのお陰で作業スピード自体が上がったという事なのだろうか。
「総てはアクタと私の愛の力ですよ」
「うるっせぇなぁ…」
 気味の悪い事ばかりを口にするこの詐欺師のような男にはつい反射的に口汚く返してしまいがちだが、それでも疲労が溜まってきた中での作業に思わぬ効率を与えてくれたのは確かなのだ。
「……でもまぁ、早く終われた事には感謝するぜ」
 アクタが少し不本意そうな複雑な表情でぶっきらぼうな口調の感謝の意を述べると、ディーは変わらぬ涼しい面持ちで口元を指先で覆いながら笑みを浮かべた。



「まだ夕餉までは時間があります。折角ですしもう少しだけ揉み解して差し上げましょうか?」
 出来上がった書類を種類や提出先で分けていると、そんな事をディーが口にした。
 今すぐ書類を提出しに向かっても良いのだが、時間が空いていると言えば空いている。
 それに、アクタにとってはやや不本意ではあるが、ディーの揉み解しはどういうわけだかとても良いものだった。
 しかし、このまま受け入れてしまうのもどうなのだろうかという気持ちもあった。何よりもこのディーという男は腹の中が全く見えない。こちらの腹の中で思うところをいとも簡単に見透かすというのにだ。
 好意をあっさり受け入れてそれを餌に後でとんでもない対価を求められる可能性だって十分に考えられる。
 メリットとデメリットを天秤にかけて悩むこの胸中をも、ディーは今まさに見透かしている最中なのだろう。
 ディーは広角を穏やかに上げたまま、その端正な顔立ちを微動だにしない。
「――何か見返りが欲しいのか?」
「いいえ、アクタが思うような無茶な事は求めません」
「妙な術は絶対にかけんなよ」
「はい、お約束します」
「あとは……――変なとこ触るんじゃねえぞ」
「はい、勿論」
 アクタの疑念を受け流すように次々と了承の意を示すディーの素直さがやけに気味が悪く思えた。
 しかし、これだけ言質が取れれば十分だろう。そう思ったアクタは
「じゃ、じゃあ……少しだけ、宜しく頼むぜ」
 そう言ってディーの目の前に少しだけ粗っぽく腰を下ろした。
 「ではでは。――の前に私からもひとつだけ」
 ディーはそう言うと背の翼をひとつバサリとなびかせ、そして目の前にあるアクタの耳元に顔を寄せてそっと呟いた。
「触って欲しくなったらいつでも教えて下さいね」



「なっ…… ……!!」
「さあさあ、時間が経ってしまいますよ。始めましょう」
 怪訝な表情を隠す事無く絶句するアクタを尻目に、ディーの両手は先ず白地の上っ張りのかかったアクタの両肩に伸びた。
 そして強過ぎず弱過ぎずの力加減で、男らしい広さのある両肩を端から丁寧に揉んでゆく。
 その手捌きも加減も本当に絶妙で、始めて数分もしないうちにアクタの表情からは強張りが消えていた。
「……気持ち良いですか?」
「あ、ああ……悪くないぜ。しっかし、お前何でこんなに肩揉みが上手いんだ?」
 明らかに身体がぽかぽかと温まり始めている。気を抜くと眠りについてしまうのではないだろうか。
「さあ……何でなんでしょうね。別に肩揉みの修行をしたわけではないのですが、多分、ヒトの身体に興味があるからかと」
「ほう」
「こうして触ってみても、オンヴィタイカヤンの身体もヒトとそこまで変わらないところもあるなぁ…と。そうだ、ヒトが好む揉み解し方があるのですが、試してみますか?」
「ん?――痛い事や変な事じゃなければな」
「ああ、それは心配ありません。姿勢はそのままで、少しだけお召し物を緩めて頂ければ」
 ディーはそう言うと肩を揉む手を止めた。
 そしてその手をアクタの着物の胸元へとするりと差し込む。
「うわっ!!!」
 胸元の素肌にディーの指が触れた瞬間、アクタは思わずビクリと反応を示した。
 変な所は触らない約束だったろ!と、声を上げようとした瞬間、ディーは両指先でアクタの胸筋の淵のあたりを擦るように揉み押し始めた。
「んっ……!」
 胸筋の淵を確かな力でなぞり、輪郭を描くように鎖骨の辺りまで指を滑らせる。
 それは想像していたよりも数段は身体がすっきりとするような爽快感のある揉み解しだった。
「耳の辺りはヒトによって形がまちまちなので感触に差があるのですが、胸の下の方から鎖骨の辺りは大体のヒトは気持ち良いものなのですよ」
 ディーの指は休む事無くアクタの胸筋を滑り回る。確かだが実に繊細な力加減で、痛くもくすぐったくも無く、アクタは何度も小さく溜め息をついて、その指先の妙技にしばし身を委ねた。
「次はこの辺りを解しましょう」
 ディーがそう言うと、着物の中で蠢いていた指先がアクタの両胸の間へと移動する。
 アクタは上っ張りの留め具を外してディーの揉み解しの邪魔にならないよう胡座をかく足元に置いた。
 そして、胸の真ん中に添えられたディーの両手指は先程よりやや力を混めて、内側から外側に向かって指の腹で引っ掻くかのような動きを繰り返し始めた。
「――!!!」
 その瞬間、アクタは垂れた三白眼をカッと見開いて思わず漏れそうになった声を殺した。
(オイオイッ!当たる当たる!そんな触り方したらっ……当たるからッ!)
「大丈夫ですよ。アクタの乳首には当てませんし触りませんから」
「なッ!……ちっ、ちくっ…!!」
「それとも、触られたいのですか?」
「バっ!!――!!!」
「でしたら、もう少し力を抜いて下さい。これでは解せるものも解せませんから」
「…… ……!!」
 ディーの声色がほんの少しだけ強くなったような気がした。
 確かにディーの十本の指はアクタの胸のあらゆる場所を掻くように解してはいるが、その指はただの一度たりともアクタの気になる部分に触れてはいない。
 自業自得な部分もあるとはいえ、少し穿った目で見過ぎていたのかもしれない。と、アクタは少々反省した。
「私の方に寄りかかって下さい。そうしたら、力も抜けますし私ももっと丁寧に解せますから」
 耳元でそう囁いたディーの言葉に否定も肯定も返す事無く、アクタは背後のディーに頭からそっと寄りかかり、少しずつ体重を寄せた。
 仮面が張り付きただでさえ狭まっていた左目の視界の殆どを遮る、淀みを帯びた深緑色の髪の束。
 無数の羽を湛えた翼からのお天道様のような香りをふわりと感じた。



 翼を背負った男に身を委ね、寄り掛かり、胸を揉み解されている。こんな姿をミナギやスズリ、クゥランに見られたらどう思われてしまうだろうか。
「見せつけて差しあげましょう」
 あのイエナガに見られてしまった日には、
「ふふふっ、怒ったあの方の顔は想像に容易いです」
「いちいち反応するなっ!」
「――さてさて、そろそろ次に参りましょうか。私に寄りかかったまま両足を立てて……、そうそう。そう、その姿勢で」
 ディーから指示されたのは、いわゆる体育座りのような姿勢だった。
 首、肩、胸と来て、次は脚だろうか。そうアクタが思った瞬間、
「ん!!!」
 それまで胸の上を這い回っていたディーの両指先は器用に帯を緩めたかと思うと、アクタの立っ付けの中にズブッと潜って行った。
「オイッ!!何すんだ変態ッ!!」
 立っ付けの中の褌の装着部分、アクタの脚の両付け根に指先が配置されたのが感触で解った。
「脚はここを揉むと良いのですよ。出来れば全部脱いでもらえるのが一番良いのですが」
 ディーの言葉を受けて、アクタは咄嗟に現在の姿勢で下半身がすっぽんぽんになった状態を想像してみた。
「……絶対嫌だ。このままで頼む」
「はい、解りましたよ」
 ディーが楽しげな声色で返事を返すと同時に、脚の付け根の筋にゴリゴリゴリッと音が立つような強めの刺激を感じた。
「おっ!おっ!おふっ!!」
 それまでの絶妙な加減での揉み解しとは違い、随分と力を入れている感じがある。
 ディーの手捌きに合わせてアクタの全身もぶるっぶるっと微かに揺れ動いた。
「おやおや、ふふふっ……こちらには随分と疲労が溜まっているようで」
 これまでにない力がかかり少しばかりの鈍い痛みのようなものも感じなくはないが、それは決して辛く苦しいものなどではなかった。
 いや、それどころか相当気持ちが良い。
「……気持ちいい」
 アクタの口からは自然とそんな言葉が漏れる。
 どうやらディーの言う通り、疲労がそれなりに蓄積していたのだろう。



 言葉も念話も交わさない時間が過ぎ、気付けばすっかり日が暮れ切っているようだった。
 書類書きは夜半頃まで続くだろうと見越して早めに灯していた行灯の光がやけに強くなった気がしてそこでようやく日暮れに気が付いたのだ。
 ディーは力の要る揉み解しに夢中になっているようで、アクタもまた、ディーの揉み解しの気持ち良さにすっかり耽ってしまっていた。
 背中を任せているディーの温もりも手伝って、アクタの体温も徐々に上がってゆくのが自身でも感じ取れた。
「あぁ……っ、――ふうっ……」
 徐々に深くなってゆく呼吸が少しだけ声帯を揺らせ、吐息のような声を漏らさせる。
 頭もぼうっと惚けているような気がした。
 ディーの揉み解しの振動が、心地良さとはまた別の意味で気持ち良く思えてきたからだ。
 先程まで揉み解されていた胸元の最も敏感な箇所をディーは意図して避けながら揉み解しを行っていたが、そうする事によって却って敏感な箇所に意識が行くようになってしまい、脚の付け根を揉み解す振動で微かに着物の布が触れる度にアクタの神経に少しばかりの悶々とする刺激をもたらした。
 そして揉み解す指先の有る所にはアクタが着けている褌の布もまた有る。指先が力を込めて動くと布が揺れ擦れ、すぐ側にぶら下がるアクタの陰部にまで振動が及ぶ。
 既に把握すら出来てはいないが、きっと体温が上がるのと比例するように膨らんでいる事だろう。
 いつものようにオイ止めろと声を荒げるには余りに心身共に解れ過ぎていた。
 最早この男にこの身の総てを任せてしまっても良い。そんな事を思ってしまいそうなまでにアクタは身体から蕩け果てていた。
「気持ちいいですか?」
 そう問い掛けたディーの声色さえも、今はとても心地良い。
「ああ…… いい… ――……すげぇ」
 最早隠す事も無く荒くなった吐息と共に言葉を吐き出すアクタがゆっくりと顔を上げる。
 そこに有った柔らかな笑みを浮かべるディーの視線が、優しく重なり合う。
 底の見えない詐欺師の眼差しに、全身をそっと包まれるような気がした。
 苛立ちを覚えるその声色に、背をさすられながら眠りに誘われるような気がした。
 そんな想いを抱き始めた時だった。



「たっだいまー!!あ~~~っ疲れた疲れた!」
 バタリッ。と勢い良く部屋の襖が開く。
「アニキぃ、書類書くの終わった??」
 甲高く元気な少年然とした声が、ひとりきりのアクタの部屋に響き渡る。
 クゥランが本日の任務を終えて教団に帰って来たのだ。
「んっ――あ、あぁクゥランか。お疲れ」
 若者らしく任務を終えても未だ元気な様子で、アクタがひとり力なくへたり座る周囲でぐるぐると様子を見て回る。
「うわぁ~アニキすっげぇ!あの山ほどあった書類全部書き終わったんだ!」
 床の上に綺麗に積み上げられた書類を目にしたクゥランは感嘆の声を上げた。
「あ、ああ……今さっきな」
 小さな身体をぴょこぴょこ揺らせて驚いたり褒め称えたりするクゥランを尻目に、アクタは未だ惚けたままの心と身体にはそぐわない嫌な心臓の高鳴りを感じ始めていた。
 クゥランが襖を開けた瞬間、ディーは一瞬にして跡形もなくこの場から消え去ってしまったのだ。
 その指先ですっかり溶け切ったアクタの身体と意識はそのままに。
 あと数秒ずれていたら、下心は無いはずだとは言えディーとのあんな姿をこのクゥランに見られてしまったのかもしれない。
 そんな事を思うだけでも、アクタの心臓はバクバクと大きな音を立てる。嫌な胸の高鳴りだ。
「――ん?……アニキ、なんか変だぞ」
 クゥランの不意を突くようなその一言に、ただでさえ不穏に高鳴る心臓が一層激しく鼓動を打った。
 すぐさまへたり座るアクタの目前へと位置取ると、くりっとした眼でひとしきりアクタを見つめ、そして、か細く延びた黒い前髪を少しだけかきわけると褐色の額をアクタの額にぴたりとくっつけた。
「あっ…!アニキ、熱がある!!」
 クゥランはそう言うと、少し照れ臭そうな表情で額を離す。
「オレが来てからずっと顔赤いしボーッとしてるし服がだらしないし、なーんかいつもと違うと思ったら……。まあ、流石のアニキでもあんだけの書類を全部書き上げたんだから、熱のひとつも出るってもんだよな」
 クゥランは心配そうな面持ちでうんうん。と数度うなずくと、すぐさま立ち上がって部屋の奥に向かったかと思うと、押し入れの襖を開きそこから布団を一組取り出し手早く敷き始めた。
「アニキ、今日はちょっと根詰め過ぎちゃったんじゃないか?ほら、今日はもう寝た方がいいよ」
 そう促されたアクタはぼやぼやする頭を何とか動かして、
「……ああ、そうさせて貰うぜ。――すまねぇな、有り難う」
 そう言いながら馬乗りの馬のような姿勢で布団の方まで向かうと、寝転びやすいようにと掛け布団を持って待っていてくれたクゥランの頭を数度撫でて小さく笑顔を浮かべた。
 寝転んだアクタの上に掛け布団をかけたクゥランはとても嬉しそうな表情で、これから出来上がった書類を届けに行って帰りに何か消化に良い食べ物を持ってくる。会えれば薬師にもこの部屋に来て貰うように言っておく。と告げて部屋から去っていった。
 再び部屋にひとりきりとなったアクタは、クゥランにかけて貰った掛け布団を頭から被り、そしてゆっくりと目を閉じた。



 疲れているのは確かだけれどこの熱には他に理由があるものだ。クゥランには無駄な心配をかけて申し訳ない事をした。
 そんな罪悪感を抱きつつも、未だ身体は先程までの興奮を引き摺り続けている。
 入ったばかりの時はひやりと冷たささえ感じた布団が徐々に温まって来ると、まるで人肌に触れているかのような、ある種の愛おしさを伴う優しい温度を帯びているように感じられる。
 そう、まさについ数分前までの、背を預けて揉み解しを施していたあの男と同じような温かさだ。
 解された癒やしと、それにより血が廻った身体の火照りと、それらが与える心の隙から見え隠れする、ほんの少しだけのいかがわしい快感。
 それらを全てあのディーという男に握られてしまった事が、布団にくるまるアクタの身体と心を大いに乱した。
 ―― 触って欲しくなったらいつでも教えて下さいね ――
 心の中にまで干渉するディーの言葉と声色は、いつだって心の裏側の思わぬ所を不意を突いて掻く。
 それも、強過ぎず弱過ぎない本当に適度な力加減で。そう、全身を骨抜きにしたあの揉み解しの指捌きのように。
 もしも次に同じ様に揉み解しを施されたとしたら、ひょっとしたら快感にまどろむ中で揉み解し以上の事を求めてしまうのかもしれない。
 その一線を越えてしまうのかもしれない。その一線が見えてしまったのかもしれない。
 そんな不安と恐怖に似たような思いがアクタの頭をかすめた。
 けれどもそれ以上に、この身と心がディーの指先を求めてしまったとしたら。
 それはアクタにとって何よりも恐れを抱く事なのだと言わんばかりに、未だ火照りの収まらない身体が小さく震えた。


おわり

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ディーアク20201224
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ああ、まただ。またあの感覚が頭の裏側を掻く。
 これまでもう幾度と無く神経がキャッチしたその「感覚」にアクタは思わず片目を細め、しかめっ面で小さく舌打ちをした。
“――おやおや、終生の友からの念話だというのに舌打ちですか?“
 掻くような感覚がいつものように頭に声を流し始める。
(ったく、誰が終生の友だ誰が)
“――誰がって、決まってるじゃないですか。私とアクタ。このディーとアクタの事ですよ。終生の友とは“
「るっせぇ!!んな事ぁ解ってっから人の考えに勝手に口挟むなっ!!!」
 アクタの荒いだ叫び声は机を叩いたバンという音と共に、この誰もいない黄昏時の自室に虚しく響いた。
 普段であればミナギを始め、この教団でアクタの指示の下活動する多くの仲間達が自室やその周囲でがやがやと動き回っている時間なのであるが、今日に限っては揃いも揃って出払っている。
 アクタが罵声を飛ばしても机を思い切り叩いても誰一人として声をかけたり部屋の襖を開く事はない。



“――誰もいないみたいですねぇ“
「……だな。」
 今日一日、アクタはここ一ヶ月のうちに溜まり込んだあらゆる書類を上に提出する為にまとめ上げていた。
 他の仲間達が出払っているのは普段アクタが担う案件に代理で出向いて貰っているからでもある。
 覚えたての言語を使ったお世辞にも得意とは言えない事務仕事を長時間。それはアクタにとってはストレス以外の何者でもなかった。いや、誰にとってもこの上無いストレスに違いない。
 正直なところ、今日だけで何度かこの場で全ての服を脱ぎ捨て知ってる限りの汚い言葉を叫びながら教団中を走り回りたい衝動に駆られた。
 しかし上着に手を掛けそうになる度、全裸で狂騒する自身を偶然目にした織代に上半身と下半身を真っ二つにされる様を脳裏に浮かべ、荒ぶる感情をどうにか鎮めた。
 こうしてやっとこさ書類の書き上げを進めてゆき、夕暮れには間に合わずとも今日のうちには全てを終わらせる目処が立ってきた。
 そう安堵したところにやって来たディーという厄介者の念話だったのだ。
 アクタにとってはどこまでも厄介としか言い様の無い刺客だった。
 「喋ってても構わねぇが邪魔だけはすんなよ」
 アクタはそう言葉を放つと何事も無かったかのように再び筆を握り、書類の上を滑らせた。
 “――アクタは毎日忙しそうですよね。でも今日はずっと座って字を書いてるだけだし、日々の動き疲れも取れたでしょう?“
 アクタに喋りかける事だけは認められた。そんな確信を胸にしたかのようにディーは念話でしきりに問いかける。
 「馬鹿言うな。こんなチマチマした書類書きなんて俺の性に合うわけねぇだろ。こんな肩の凝る仕事する位なら山で猛獣追っかけ回したり追っかけ回されたりした方がまだ良い」
 “――ほう、書類書きは肩が凝ると“
 「ああ、コリッコリだ。どうにもなんねぇ」
 意識を書類に集中させながらも片手間でディーとの念話に一応雑談を返していたアクタは、そう言うと筆を置いて利き手の腕を動かし辛そうにグルグルと数度回した。
 その直後だった。
 「でしたら揉んで差し上げましょう!」



 それは念話などでは無かった。
 耳元で突如拾われた覚えのある声。確かに耳と頬が感じ取ったヒトの呼吸。そして、大の男の身丈はある翼の圧。
 アクタは思わずウオッと言葉にならない言葉を叫び、突然隣に出現した生身のディーから跳び跳ねるようにして離れた。
 「うわあっ!びっくりしたびっくりしたびっくりした!!」
 強面と称される垂れた三白眼をぐるぐるとさせながら、アクタは腰を抜かしたような情けない姿勢であわあわとディーに向かって叫びを上げる。
 「いきなり出てくるなっ!!」
 背の真白い翼を折り畳んだ綺麗な正座でディーはまるでずっとこの場に居たかのような落ち着いた笑みを浮かべて丸腰のアクタを眺めていた。
 「そこまで驚かせるつもりは無かったんですけれどね。でもまあ、驚いて涙目になるアクタも良いものでした。そそられます」
「 ――うっ…うっせぇっ!」
 ディーの言葉を額面通りに受けた様子のアクタは少し姿勢を整えると戸惑ったような面持ちをして手の甲で両目尻をごしごしと数度擦った。
「さて……話を戻しますが肩が凝っておられるとの事で、私が揉んで差し上げますよ。さあさあ、わたしの前に腰を下ろして」
 そのディーの言葉に、アクタは怪訝な表情をしていまいち乗り気にはなれない事を訴えかける。
「いやいや、別に私の膝の上でなくても良いのですよ」
「当たり前だろ!!!誰が貴様の膝の上になんか座るかっ!!」
「それでは机の前にお戻り下さい。アクタのお仕事の邪魔にならないように身体を解して差し上げますから」



 この男の事だからなにかしら裏があるのかもしれないが、仕事の邪魔にならないようにすると言われたからには別段断る理由もない。
 アクタは無言で書類の並ぶ机の前に戻り、途中で文章が止まっていた報告書に再び筆を入れ始めた。
 間もなくしてディーもまた言葉無くアクタの背後に膝立ちすると、書類書きでかがんだ首の付け根にそっと指を置いた。
「――???」
 不思議な事に、急所にほど近い鼠径部に怪しさ満点の男が両手を添えているはずだというのに、危機感どころか多少なりともビクリとするだろう神経が全く反応しない。
 それどころか、筆を進める手を阻むような圧をも感じる事は無かった。
 だというのに、ディーの手先は確かにアクタの鼠径部を丁度良い力加減で揉み解しているのがわかる。
 何か特殊な術でも使っているのだろうか。そんな事を考えると、
「これは術などではありませんよ。ひとえにアクタと私の波長が合うが故の奇跡のようなものです」
 と、考えを読まれた。
「つまるところ相思相愛なんですよ。アクタと私は」
「―― や め ろ っ 」
 アクタはワントーン低い声で牽制すると同時に、書類の最下部で筆を止めた。
 気が付いたら朝には山積みだったはずの手付かずの紙の山は机の上から消え、全て書き上げられて整った報告書がアクタの真横に綺麗に重ねられていた。
 ディーがやって来た時点でも夕餉前に終われば御の字だという程度には量が残っていたというのに、驚くべき事だ。
 やはりディーによる揉み解しのお陰で作業スピード自体が上がったという事なのだろうか。
「総てはアクタと私の愛の力ですよ」
「うるっせぇなぁ…」
 気味の悪い事ばかりを口にするこの詐欺師のような男にはつい反射的に口汚く返してしまいがちだが、それでも疲労が溜まってきた中での作業に思わぬ効率を与えてくれたのは確かなのだ。
「……でもまぁ、早く終われた事には感謝するぜ」
 アクタが少し不本意そうな複雑な表情でぶっきらぼうな口調の感謝の意を述べると、ディーは変わらぬ涼しい面持ちで口元を指先で覆いながら笑みを浮かべた。



「まだ夕餉までは時間があります。折角ですしもう少しだけ揉み解して差し上げましょうか?」
 出来上がった書類を種類や提出先で分けていると、そんな事をディーが口にした。
 今すぐ書類を提出しに向かっても良いのだが、時間が空いていると言えば空いている。
 それに、アクタにとってはやや不本意ではあるが、ディーの揉み解しはどういうわけだかとても良いものだった。
 しかし、このまま受け入れてしまうのもどうなのだろうかという気持ちもあった。何よりもこのディーという男は腹の中が全く見えない。こちらの腹の中で思うところをいとも簡単に見透かすというのにだ。
 好意をあっさり受け入れてそれを餌に後でとんでもない対価を求められる可能性だって十分に考えられる。
 メリットとデメリットを天秤にかけて悩むこの胸中をも、ディーは今まさに見透かしている最中なのだろう。
 ディーは広角を穏やかに上げたまま、その端正な顔立ちを微動だにしない。
「――何か見返りが欲しいのか?」
「いいえ、アクタが思うような無茶な事は求めません」
「妙な術は絶対にかけんなよ」
「はい、お約束します」
「あとは……――変なとこ触るんじゃねえぞ」
「はい、勿論」
 アクタの疑念を受け流すように次々と了承の意を示すディーの素直さがやけに気味が悪く思えた。
 しかし、これだけ言質が取れれば十分だろう。そう思ったアクタは
「じゃ、じゃあ……少しだけ、宜しく頼むぜ」
 そう言ってディーの目の前に少しだけ粗っぽく腰を下ろした。
 「ではでは。――の前に私からもひとつだけ」
 ディーはそう言うと背の翼をひとつバサリとなびかせ、そして目の前にあるアクタの耳元に顔を寄せてそっと呟いた。
「触って欲しくなったらいつでも教えて下さいね」



「なっ…… ……!!」
「さあさあ、時間が経ってしまいますよ。始めましょう」
 怪訝な表情を隠す事無く絶句するアクタを尻目に、ディーの両手は先ず白地の上っ張りのかかったアクタの両肩に伸びた。
 そして強過ぎず弱過ぎずの力加減で、男らしい広さのある両肩を端から丁寧に揉んでゆく。
 その手捌きも加減も本当に絶妙で、始めて数分もしないうちにアクタの表情からは強張りが消えていた。
「……気持ち良いですか?」
「あ、ああ……悪くないぜ。しっかし、お前何でこんなに肩揉みが上手いんだ?」
 明らかに身体がぽかぽかと温まり始めている。気を抜くと眠りについてしまうのではないだろうか。
「さあ……何でなんでしょうね。別に肩揉みの修行をしたわけではないのですが、多分、ヒトの身体に興味があるからかと」
「ほう」
「こうして触ってみても、オンヴィタイカヤンの身体もヒトとそこまで変わらないところもあるなぁ…と。そうだ、ヒトが好む揉み解し方があるのですが、試してみますか?」
「ん?――痛い事や変な事じゃなければな」
「ああ、それは心配ありません。姿勢はそのままで、少しだけお召し物を緩めて頂ければ」
 ディーはそう言うと肩を揉む手を止めた。
 そしてその手をアクタの着物の胸元へとするりと差し込む。
「うわっ!!!」
 胸元の素肌にディーの指が触れた瞬間、アクタは思わずビクリと反応を示した。
 変な所は触らない約束だったろ!と、声を上げようとした瞬間、ディーは両指先でアクタの胸筋の淵のあたりを擦るように揉み押し始めた。
「んっ……!」
 胸筋の淵を確かな力でなぞり、輪郭を描くように鎖骨の辺りまで指を滑らせる。
 それは想像していたよりも数段は身体がすっきりとするような爽快感のある揉み解しだった。
「耳の辺りはヒトによって形がまちまちなので感触に差があるのですが、胸の下の方から鎖骨の辺りは大体のヒトは気持ち良いものなのですよ」
 ディーの指は休む事無くアクタの胸筋を滑り回る。確かだが実に繊細な力加減で、痛くもくすぐったくも無く、アクタは何度も小さく溜め息をついて、その指先の妙技にしばし身を委ねた。
「次はこの辺りを解しましょう」
 ディーがそう言うと、着物の中で蠢いていた指先がアクタの両胸の間へと移動する。
 アクタは上っ張りの留め具を外してディーの揉み解しの邪魔にならないよう胡座をかく足元に置いた。
 そして、胸の真ん中に添えられたディーの両手指は先程よりやや力を混めて、内側から外側に向かって指の腹で引っ掻くかのような動きを繰り返し始めた。
「――!!!」
 その瞬間、アクタは垂れた三白眼をカッと見開いて思わず漏れそうになった声を殺した。
(オイオイッ!当たる当たる!そんな触り方したらっ……当たるからッ!)
「大丈夫ですよ。アクタの乳首には当てませんし触りませんから」
「なッ!……ちっ、ちくっ…!!」
「それとも、触られたいのですか?」
「バっ!!――!!!」
「でしたら、もう少し力を抜いて下さい。これでは解せるものも解せませんから」
「…… ……!!」
 ディーの声色がほんの少しだけ強くなったような気がした。
 確かにディーの十本の指はアクタの胸のあらゆる場所を掻くように解してはいるが、その指はただの一度たりともアクタの気になる部分に触れてはいない。
 自業自得な部分もあるとはいえ、少し穿った目で見過ぎていたのかもしれない。と、アクタは少々反省した。
「私の方に寄りかかって下さい。そうしたら、力も抜けますし私ももっと丁寧に解せますから」
 耳元でそう囁いたディーの言葉に否定も肯定も返す事無く、アクタは背後のディーに頭からそっと寄りかかり、少しずつ体重を寄せた。
 仮面が張り付きただでさえ狭まっていた左目の視界の殆どを遮る、淀みを帯びた深緑色の髪の束。
 無数の羽を湛えた翼からのお天道様のような香りをふわりと感じた。



 翼を背負った男に身を委ね、寄り掛かり、胸を揉み解されている。こんな姿をミナギやスズリ、クゥランに見られたらどう思われてしまうだろうか。
「見せつけて差しあげましょう」
 あのイエナガに見られてしまった日には、
「ふふふっ、怒ったあの方の顔は想像に容易いです」
「いちいち反応するなっ!」
「――さてさて、そろそろ次に参りましょうか。私に寄りかかったまま両足を立てて……、そうそう。そう、その姿勢で」
 ディーから指示されたのは、いわゆる体育座りのような姿勢だった。
 首、肩、胸と来て、次は脚だろうか。そうアクタが思った瞬間、
「ん!!!」
 それまで胸の上を這い回っていたディーの両指先は器用に帯を緩めたかと思うと、アクタの立っ付けの中にズブッと潜って行った。
「オイッ!!何すんだ変態ッ!!」
 立っ付けの中の褌の装着部分、アクタの脚の両付け根に指先が配置されたのが感触で解った。
「脚はここを揉むと良いのですよ。出来れば全部脱いでもらえるのが一番良いのですが」
 ディーの言葉を受けて、アクタは咄嗟に現在の姿勢で下半身がすっぽんぽんになった状態を想像してみた。
「……絶対嫌だ。このままで頼む」
「はい、解りましたよ」
 ディーが楽しげな声色で返事を返すと同時に、脚の付け根の筋にゴリゴリゴリッと音が立つような強めの刺激を感じた。
「おっ!おっ!おふっ!!」
 それまでの絶妙な加減での揉み解しとは違い、随分と力を入れている感じがある。
 ディーの手捌きに合わせてアクタの全身もぶるっぶるっと微かに揺れ動いた。
「おやおや、ふふふっ……こちらには随分と疲労が溜まっているようで」
 これまでにない力がかかり少しばかりの鈍い痛みのようなものも感じなくはないが、それは決して辛く苦しいものなどではなかった。
 いや、それどころか相当気持ちが良い。
「……気持ちいい」
 アクタの口からは自然とそんな言葉が漏れる。
 どうやらディーの言う通り、疲労がそれなりに蓄積していたのだろう。



 言葉も念話も交わさない時間が過ぎ、気付けばすっかり日が暮れ切っているようだった。
 書類書きは夜半頃まで続くだろうと見越して早めに灯していた行灯の光がやけに強くなった気がしてそこでようやく日暮れに気が付いたのだ。
 ディーは力の要る揉み解しに夢中になっているようで、アクタもまた、ディーの揉み解しの気持ち良さにすっかり耽ってしまっていた。
 背中を任せているディーの温もりも手伝って、アクタの体温も徐々に上がってゆくのが自身でも感じ取れた。
「あぁ……っ、――ふうっ……」
 徐々に深くなってゆく呼吸が少しだけ声帯を揺らせ、吐息のような声を漏らさせる。
 頭もぼうっと惚けているような気がした。
 ディーの揉み解しの振動が、心地良さとはまた別の意味で気持ち良く思えてきたからだ。
 先程まで揉み解されていた胸元の最も敏感な箇所をディーは意図して避けながら揉み解しを行っていたが、そうする事によって却って敏感な箇所に意識が行くようになってしまい、脚の付け根を揉み解す振動で微かに着物の布が触れる度にアクタの神経に少しばかりの悶々とする刺激をもたらした。
 そして揉み解す指先の有る所にはアクタが着けている褌の布もまた有る。指先が力を込めて動くと布が揺れ擦れ、すぐ側にぶら下がるアクタの陰部にまで振動が及ぶ。
 既に把握すら出来てはいないが、きっと体温が上がるのと比例するように膨らんでいる事だろう。
 いつものようにオイ止めろと声を荒げるには余りに心身共に解れ過ぎていた。
 最早この男にこの身の総てを任せてしまっても良い。そんな事を思ってしまいそうなまでにアクタは身体から蕩け果てていた。
「気持ちいいですか?」
 そう問い掛けたディーの声色さえも、今はとても心地良い。
「ああ…… いい… ――……すげぇ」
 最早隠す事も無く荒くなった吐息と共に言葉を吐き出すアクタがゆっくりと顔を上げる。
 そこに有った柔らかな笑みを浮かべるディーの視線が、優しく重なり合う。
 底の見えない詐欺師の眼差しに、全身をそっと包まれるような気がした。
 苛立ちを覚えるその声色に、背をさすられながら眠りに誘われるような気がした。
 そんな想いを抱き始めた時だった。



「たっだいまー!!あ~~~っ疲れた疲れた!」
 バタリッ。と勢い良く部屋の襖が開く。
「アニキぃ、書類書くの終わった??」
 甲高く元気な少年然とした声が、ひとりきりのアクタの部屋に響き渡る。
 クゥランが本日の任務を終えて教団に帰って来たのだ。
「んっ――あ、あぁクゥランか。お疲れ」
 若者らしく任務を終えても未だ元気な様子で、アクタがひとり力なくへたり座る周囲でぐるぐると様子を見て回る。
「うわぁ~アニキすっげぇ!あの山ほどあった書類全部書き終わったんだ!」
 床の上に綺麗に積み上げられた書類を目にしたクゥランは感嘆の声を上げた。
「あ、ああ……今さっきな」
 小さな身体をぴょこぴょこ揺らせて驚いたり褒め称えたりするクゥランを尻目に、アクタは未だ惚けたままの心と身体にはそぐわない嫌な心臓の高鳴りを感じ始めていた。
 クゥランが襖を開けた瞬間、ディーは一瞬にして跡形もなくこの場から消え去ってしまったのだ。
 その指先ですっかり溶け切ったアクタの身体と意識はそのままに。
 あと数秒ずれていたら、下心は無いはずだとは言えディーとのあんな姿をこのクゥランに見られてしまったのかもしれない。
 そんな事を思うだけでも、アクタの心臓はバクバクと大きな音を立てる。嫌な胸の高鳴りだ。
「――ん?……アニキ、なんか変だぞ」
 クゥランの不意を突くようなその一言に、ただでさえ不穏に高鳴る心臓が一層激しく鼓動を打った。
 すぐさまへたり座るアクタの目前へと位置取ると、くりっとした眼でひとしきりアクタを見つめ、そして、か細く延びた黒い前髪を少しだけかきわけると褐色の額をアクタの額にぴたりとくっつけた。
「あっ…!アニキ、熱がある!!」
 クゥランはそう言うと、少し照れ臭そうな表情で額を離す。
「オレが来てからずっと顔赤いしボーッとしてるし服がだらしないし、なーんかいつもと違うと思ったら……。まあ、流石のアニキでもあんだけの書類を全部書き上げたんだから、熱のひとつも出るってもんだよな」
 クゥランは心配そうな面持ちでうんうん。と数度うなずくと、すぐさま立ち上がって部屋の奥に向かったかと思うと、押し入れの襖を開きそこから布団を一組取り出し手早く敷き始めた。
「アニキ、今日はちょっと根詰め過ぎちゃったんじゃないか?ほら、今日はもう寝た方がいいよ」
 そう促されたアクタはぼやぼやする頭を何とか動かして、
「……ああ、そうさせて貰うぜ。――すまねぇな、有り難う」
 そう言いながら馬乗りの馬のような姿勢で布団の方まで向かうと、寝転びやすいようにと掛け布団を持って待っていてくれたクゥランの頭を数度撫でて小さく笑顔を浮かべた。
 寝転んだアクタの上に掛け布団をかけたクゥランはとても嬉しそうな表情で、これから出来上がった書類を届けに行って帰りに何か消化に良い食べ物を持ってくる。会えれば薬師にもこの部屋に来て貰うように言っておく。と告げて部屋から去っていった。
 再び部屋にひとりきりとなったアクタは、クゥランにかけて貰った掛け布団を頭から被り、そしてゆっくりと目を閉じた。



 疲れているのは確かだけれどこの熱には他に理由があるものだ。クゥランには無駄な心配をかけて申し訳ない事をした。
 そんな罪悪感を抱きつつも、未だ身体は先程までの興奮を引き摺り続けている。
 入ったばかりの時はひやりと冷たささえ感じた布団が徐々に温まって来ると、まるで人肌に触れているかのような、ある種の愛おしさを伴う優しい温度を帯びているように感じられる。
 そう、まさについ数分前までの、背を預けて揉み解しを施していたあの男と同じような温かさだ。
 解された癒やしと、それにより血が廻った身体の火照りと、それらが与える心の隙から見え隠れする、ほんの少しだけのいかがわしい快感。
 それらを全てあのディーという男に握られてしまった事が、布団にくるまるアクタの身体と心を大いに乱した。
 ―― 触って欲しくなったらいつでも教えて下さいね ――
 心の中にまで干渉するディーの言葉と声色は、いつだって心の裏側の思わぬ所を不意を突いて掻く。
 それも、強過ぎず弱過ぎない本当に適度な力加減で。そう、全身を骨抜きにしたあの揉み解しの指捌きのように。
 もしも次に同じ様に揉み解しを施されたとしたら、ひょっとしたら快感にまどろむ中で揉み解し以上の事を求めてしまうのかもしれない。
 その一線を越えてしまうのかもしれない。その一線が見えてしまったのかもしれない。
 そんな不安と恐怖に似たような思いがアクタの頭をかすめた。
 けれどもそれ以上に、この身と心がディーの指先を求めてしまったとしたら。
 それはアクタにとって何よりも恐れを抱く事なのだと言わんばかりに、未だ火照りの収まらない身体が小さく震えた。


おわり

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