もちごめ

成人済・左右相手固定
シンイオ(TOA)
シンイオWebオンリーイベント『ダアト式・全部妄想』主催しました。よろしくお願いいたします。

【地雷】
相手違い(モブ・夢含む)・成年×未成年・コスプレ

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投稿日:2021年08月11日 21:10    文字数:3,290

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ザレイズ2部のフルボイス実装おめでとうございます! ザレイズ軸でシンクとイオン様とミトスがわちゃわちゃしている小話です。ピクブラにシンイオ作品を増やしたくて書きました。と言いつつイチャイチャまではたどりついていない!
2部のシナリオを読み返す前に自分なりのシンイオ像を書き起こしておきたかったので、公式のキャラ像からはブレブレかと思われます。あらかじめご了承ください。
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「以前から気になっていたのですが、ミトスは『シスコン』なのですか?」
「…………は?」
 ケリュケイオンの廊下。緑色の髪の少年・イオンが悪気なく口にした言葉でその場の空気が凍りつく。
 ミトス――少女とみまごう金髪の少年は平静を装いつつも、こめかみにはうっすらと青筋が浮かんでいる。何人もの影が事なかれと、あるいはいつもの小競り合いか、とその場を素知らぬ顔で通り過ぎた。荒事・口争い・ひりつくような腹の探り合いは新生救世軍の日常の一部だった。
永遠に続くかのように思われた気まずい沈黙を意外な切り口で破ったのは、先程まであからさまに自室に帰りたそうにしていた「鏡士死ね死ねボーイ」ことシンクだった。

「ふっ…………あっはははははっ!!」
 笑いのフォンスロットに刺さるものがあったのか、仏頂面(仮面のせいで口元からしか表情を読めない)がとうとう崩れ、火中の木の実が爆ぜたように笑い出す。変声期を前にして具現化された少年の哄笑はいやに耳に残り、発言主のイオンは小首を傾げて困惑の表情を浮かべた。こんな風に大口を開けて笑う姿を自分ばかりかミトスも見たことがなかったのか、呆然と目を丸くしている。

「アンコールだ。もう一回言ってやりなよ、イオン」
 やっとのことで呼吸を整え、底意地の悪い笑みを貼り付けシンクが肩を殴って促す。ことさらに親しげに「イオン」と呼ばれたことに気をよくしたのか、シンクと同じ顔を持つ導師はそれを拒まなかった。
「は。はい。し、シスコ……」

「――――口の利き方には気をつけた方がいいよ、導師の坊や」
 冷え切ったボーイソプラノが禁句の詠唱を断ち切った。どこからか召喚したピコピコハンマーでぴこん、と緑色の髪を軽く叩く。「ニンゲンになりそこねたもの」にミトスは優しい。イオンは冷や汗を浮かべながらも、紡ぐ言葉はあっけらかんとしたものだった。
「ははは、すみません。言葉の意味をよく知らなかったものですから」
「ねえ、本当に反省してる?」
 ぴこんぴこん、とやんわり追撃。
「ははは……は」
 そこはかとなく、いやモロに違和感。

 この緑色の髪のこどもは、自分の片割れだと思っていたシンクがぽっと出のボクに取られたような気がして口惜しいのだろうな。そこを突いてうまく操った連中がいるんだろう。それに気が付けないほどミトス=ユグドラシルは幼くも鈍くもない。
 まあいいか。今ボクは特別に機嫌がいいから助け舟を出してやろうかな。今日は姉さまの手料理が食べられるんだ。一案浮かんで、灰緑色の髪を逆立てた仮面の少年に向き直る。

「お前が構ってあげないせいでイオンがおかしなことを言うようになってしまったんでしょう? 監督不行届だよ」
「はぁ? こいつがどうなろうと僕の知ったことじゃないね。このクソみたいな世界には教団なんか無いんだ。だいたいお前が姉貴恋しさに世界を血祭りにあげたのは事実だろ、耄碌勇者サマ?」
「ミトス、申し訳ありませんでした。家族を思うとても尊い言葉だから、ミトスが聞けば大喜びするとジェイドが教えてくれたのですが……」 
 トモダチ、と定義するにはあまりにも刺々しいふたりの応酬を収めるためか、イオンはあっさりと折れた。
 ああ、やっぱりあの陰険腹黒クソメガネの差し金か。脇の甘すぎる導師を触媒として、納得ずくでミトスとシンクの思考が同調する。というかあいつの言葉をあっさり信用するなよ。そんな甘ちゃんだから最期に音素乖離するハメに遭うんだぞ。そういうとこだぞ。

「いいよ、今日のところは許してあげる。けれど言葉の使い方には本当に気をつけてよ、イオンはロイドみたいな単細胞じゃないから解っていると思うけど。イオンだって、リベラやシンクを大切に思う気持ちを周りから茶化されたら悲しいでしょう?」
「はい……。僕にとってシンクはリベラと同じ、兄弟のようなものですから」
「……ッうるさい! そういう薄っぺらい言葉はルークお坊ちゃまとか導師守護役(スパイ)にでも言ってやったら」
 数分前の高笑いが嘘のように、憤然と背中を向けられた。拒絶、劣等感、防衛機制。それでも、元の世界でのすれ違い続けた境遇に比べれば、イオンにとってシンクと同じ高さの目線で言葉を交わし合うことができるこの瞬間は奇跡のようにまばゆい。
「こらこら、シンク相手に『同じ』は禁句だよ? こいつ、一丁前に特別扱いしてほしくて怒ったり怒鳴ったりするんだからさ」
「誰が……!」
「ふふ、そうでしたね」
 愉しげなミトスにゆるやかに微笑みかけて、イオンは仮面の少年に向き直った。
「……シンク。僕はあなたとどう生きていきたいのか形容する言葉をまだ持たない。この世界のあなたには僕と向き合う理由がない。けれど、間違いなく他のだれかでは埋められない『特別』でありたいんです」
 いつしか廊下からは人払いをしたかのように気配が消え、辺りは静まり返っていた。その静寂を包み込むように導師の独唱が続く。
「ご迷惑でしょうけれど、せめて僕だけはそう思っていても、いいですか?」
 重苦しく命を縛る預言(スコア)とはまるきり違って、委ねるように、託すように。
 あなたは僕にとって『特別』――――そう語りかけるイオンの手は自然と祈るように組まれていた。常磐色の眼差しは暖かく真っ直ぐにシンクを見つめている。同じ高さのその目に見透かされてしまえば、ヴァンから与えられた仮面も言葉の刃も最早無意味となってしまう。

「アンタのその目、大ッ嫌いだ」
 舌打ちひとつと絞り出したような憎まれ口で、今度こそ噛み合わない会話は途切れた。
 それでもシンクはここにいる。レプリカの呪わしい出生を歯牙にもかけないひとびとに囲まれて、こうして生きている。その事実が嬉しい。イオンの顔にはそんな満面の笑みが浮かんでいた。
 ごちそうさま、と空色の目を細め、かつての勇者は声を出さずにひとりごちた。
 (そろそろ素直になってもいいだろうに。ちょっとぼんやりしすぎだけれど、ボクにとってのロイドよりはずっとましな「影」だと思うけどね)

「さ、帰ろうイオン。性悪クソミドリに絡まれて気疲れしちゃった」
「先に絡んできたのはそっちだ。腹黒チビ」
 シンクの至極まっとうな抗議は無視された。
「はい。今日の料理当番はマーテルとユアンとティトレイだそうですよ。とっておきのキノコシチューを作ってくれるそうです」
「うわ……姉さまとユアンはともかくボク、あいつ嫌いだ。シスコンだし、暑苦しいし、火口に突き落としてもピンピンしてそうだし」
 わりと図太いイオンと談笑しながら、ミトスはあからさまに仮面の少年に視線を向ける。トラウマに見事クリーンヒットしたようで、仮面越しの殺意が即座に返された。
「本気で殺されたいみたいだね。チキンカレーにしてアッシュとルークに食わせてやろうか」
「二人共、仲良くしてください……!」
「いいの? ボクがシンクとうんと仲良くなって、イオンから獲っちゃっても」
「うっ、それは」
「ふざけるな。ボクが、いつ、ポンコツ導師サマのモノになったんだよ」
 仲がいいのか悪いのか、少年たちの三重奏はケリュケイオンの廊下からハッチへと遠ざかっていった。


「……なんだかんだガキだよな、あいつら」
「はは……そうだね。でもなんだか安心した」
 三人の死角からはらはらと成り行きを見届けていたふたつの影。一つは黒く美しい髪を伸ばした中年のヨウ・ビクエ。もうひとつは橙色の髪を刈り上げたビクエの鏡精・マーク。
「手前勝手に呼び出してしまった立場だけれど、それでもこどもたちには笑っていてほしいじゃないか」
「まーたおっさん臭いこと言ってんな。ま、それは俺も同感だ。精々ガキどもの未来のためにひと肌もふた肌も脱ぐとするかな」
 あいつらのうちの二人はガキにしちゃ邪悪な気がするけどな……とマークは思案しつつ、緩慢に伸びをした。


 常若の国(ティル・ナ・ノーグ)に降ろされし人ならざる子らよ、幸あれかし。
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「以前から気になっていたのですが、ミトスは『シスコン』なのですか?」
「…………は?」
 ケリュケイオンの廊下。緑色の髪の少年・イオンが悪気なく口にした言葉でその場の空気が凍りつく。
 ミトス――少女とみまごう金髪の少年は平静を装いつつも、こめかみにはうっすらと青筋が浮かんでいる。何人もの影が事なかれと、あるいはいつもの小競り合いか、とその場を素知らぬ顔で通り過ぎた。荒事・口争い・ひりつくような腹の探り合いは新生救世軍の日常の一部だった。
永遠に続くかのように思われた気まずい沈黙を意外な切り口で破ったのは、先程まであからさまに自室に帰りたそうにしていた「鏡士死ね死ねボーイ」ことシンクだった。

「ふっ…………あっはははははっ!!」
 笑いのフォンスロットに刺さるものがあったのか、仏頂面(仮面のせいで口元からしか表情を読めない)がとうとう崩れ、火中の木の実が爆ぜたように笑い出す。変声期を前にして具現化された少年の哄笑はいやに耳に残り、発言主のイオンは小首を傾げて困惑の表情を浮かべた。こんな風に大口を開けて笑う姿を自分ばかりかミトスも見たことがなかったのか、呆然と目を丸くしている。

「アンコールだ。もう一回言ってやりなよ、イオン」
 やっとのことで呼吸を整え、底意地の悪い笑みを貼り付けシンクが肩を殴って促す。ことさらに親しげに「イオン」と呼ばれたことに気をよくしたのか、シンクと同じ顔を持つ導師はそれを拒まなかった。
「は。はい。し、シスコ……」

「――――口の利き方には気をつけた方がいいよ、導師の坊や」
 冷え切ったボーイソプラノが禁句の詠唱を断ち切った。どこからか召喚したピコピコハンマーでぴこん、と緑色の髪を軽く叩く。「ニンゲンになりそこねたもの」にミトスは優しい。イオンは冷や汗を浮かべながらも、紡ぐ言葉はあっけらかんとしたものだった。
「ははは、すみません。言葉の意味をよく知らなかったものですから」
「ねえ、本当に反省してる?」
 ぴこんぴこん、とやんわり追撃。
「ははは……は」
 そこはかとなく、いやモロに違和感。

 この緑色の髪のこどもは、自分の片割れだと思っていたシンクがぽっと出のボクに取られたような気がして口惜しいのだろうな。そこを突いてうまく操った連中がいるんだろう。それに気が付けないほどミトス=ユグドラシルは幼くも鈍くもない。
 まあいいか。今ボクは特別に機嫌がいいから助け舟を出してやろうかな。今日は姉さまの手料理が食べられるんだ。一案浮かんで、灰緑色の髪を逆立てた仮面の少年に向き直る。

「お前が構ってあげないせいでイオンがおかしなことを言うようになってしまったんでしょう? 監督不行届だよ」
「はぁ? こいつがどうなろうと僕の知ったことじゃないね。このクソみたいな世界には教団なんか無いんだ。だいたいお前が姉貴恋しさに世界を血祭りにあげたのは事実だろ、耄碌勇者サマ?」
「ミトス、申し訳ありませんでした。家族を思うとても尊い言葉だから、ミトスが聞けば大喜びするとジェイドが教えてくれたのですが……」 
 トモダチ、と定義するにはあまりにも刺々しいふたりの応酬を収めるためか、イオンはあっさりと折れた。
 ああ、やっぱりあの陰険腹黒クソメガネの差し金か。脇の甘すぎる導師を触媒として、納得ずくでミトスとシンクの思考が同調する。というかあいつの言葉をあっさり信用するなよ。そんな甘ちゃんだから最期に音素乖離するハメに遭うんだぞ。そういうとこだぞ。

「いいよ、今日のところは許してあげる。けれど言葉の使い方には本当に気をつけてよ、イオンはロイドみたいな単細胞じゃないから解っていると思うけど。イオンだって、リベラやシンクを大切に思う気持ちを周りから茶化されたら悲しいでしょう?」
「はい……。僕にとってシンクはリベラと同じ、兄弟のようなものですから」
「……ッうるさい! そういう薄っぺらい言葉はルークお坊ちゃまとか導師守護役(スパイ)にでも言ってやったら」
 数分前の高笑いが嘘のように、憤然と背中を向けられた。拒絶、劣等感、防衛機制。それでも、元の世界でのすれ違い続けた境遇に比べれば、イオンにとってシンクと同じ高さの目線で言葉を交わし合うことができるこの瞬間は奇跡のようにまばゆい。
「こらこら、シンク相手に『同じ』は禁句だよ? こいつ、一丁前に特別扱いしてほしくて怒ったり怒鳴ったりするんだからさ」
「誰が……!」
「ふふ、そうでしたね」
 愉しげなミトスにゆるやかに微笑みかけて、イオンは仮面の少年に向き直った。
「……シンク。僕はあなたとどう生きていきたいのか形容する言葉をまだ持たない。この世界のあなたには僕と向き合う理由がない。けれど、間違いなく他のだれかでは埋められない『特別』でありたいんです」
 いつしか廊下からは人払いをしたかのように気配が消え、辺りは静まり返っていた。その静寂を包み込むように導師の独唱が続く。
「ご迷惑でしょうけれど、せめて僕だけはそう思っていても、いいですか?」
 重苦しく命を縛る預言(スコア)とはまるきり違って、委ねるように、託すように。
 あなたは僕にとって『特別』――――そう語りかけるイオンの手は自然と祈るように組まれていた。常磐色の眼差しは暖かく真っ直ぐにシンクを見つめている。同じ高さのその目に見透かされてしまえば、ヴァンから与えられた仮面も言葉の刃も最早無意味となってしまう。

「アンタのその目、大ッ嫌いだ」
 舌打ちひとつと絞り出したような憎まれ口で、今度こそ噛み合わない会話は途切れた。
 それでもシンクはここにいる。レプリカの呪わしい出生を歯牙にもかけないひとびとに囲まれて、こうして生きている。その事実が嬉しい。イオンの顔にはそんな満面の笑みが浮かんでいた。
 ごちそうさま、と空色の目を細め、かつての勇者は声を出さずにひとりごちた。
 (そろそろ素直になってもいいだろうに。ちょっとぼんやりしすぎだけれど、ボクにとってのロイドよりはずっとましな「影」だと思うけどね)

「さ、帰ろうイオン。性悪クソミドリに絡まれて気疲れしちゃった」
「先に絡んできたのはそっちだ。腹黒チビ」
 シンクの至極まっとうな抗議は無視された。
「はい。今日の料理当番はマーテルとユアンとティトレイだそうですよ。とっておきのキノコシチューを作ってくれるそうです」
「うわ……姉さまとユアンはともかくボク、あいつ嫌いだ。シスコンだし、暑苦しいし、火口に突き落としてもピンピンしてそうだし」
 わりと図太いイオンと談笑しながら、ミトスはあからさまに仮面の少年に視線を向ける。トラウマに見事クリーンヒットしたようで、仮面越しの殺意が即座に返された。
「本気で殺されたいみたいだね。チキンカレーにしてアッシュとルークに食わせてやろうか」
「二人共、仲良くしてください……!」
「いいの? ボクがシンクとうんと仲良くなって、イオンから獲っちゃっても」
「うっ、それは」
「ふざけるな。ボクが、いつ、ポンコツ導師サマのモノになったんだよ」
 仲がいいのか悪いのか、少年たちの三重奏はケリュケイオンの廊下からハッチへと遠ざかっていった。


「……なんだかんだガキだよな、あいつら」
「はは……そうだね。でもなんだか安心した」
 三人の死角からはらはらと成り行きを見届けていたふたつの影。一つは黒く美しい髪を伸ばした中年のヨウ・ビクエ。もうひとつは橙色の髪を刈り上げたビクエの鏡精・マーク。
「手前勝手に呼び出してしまった立場だけれど、それでもこどもたちには笑っていてほしいじゃないか」
「まーたおっさん臭いこと言ってんな。ま、それは俺も同感だ。精々ガキどもの未来のためにひと肌もふた肌も脱ぐとするかな」
 あいつらのうちの二人はガキにしちゃ邪悪な気がするけどな……とマークは思案しつつ、緩慢に伸びをした。


 常若の国(ティル・ナ・ノーグ)に降ろされし人ならざる子らよ、幸あれかし。
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