ひだかみゆき

超次元サッカーの元陸上部大好きマンです。

プロフィールタグ

投稿日:2016年05月18日 16:37    文字数:7,818

School Days

ステキ数:2
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメントはあなたと作品投稿者のみに名前と内容が表示されます
サイトから再掲。
以下はあとがき。

元ネタのおまじないがPCゲームと同タイトルのアニメから採ったので奇をてらわずにタイトルは「School Days」そのままなのでした。
最初期間は一か月にしようかと思ったけど、でもググったら3週間だったので、これも元ネタ通りに。
途中円堂が怖い感じになっちゃってますが、誰もヤンデレたりしないよ! 飽くまでラブラブハッピイエンドでw。
3期に入ってからの風丸さんを見てて感じた事も、文中に盛り込んであります。風丸さんはやっと普通にサッカーを楽しめるようになったと思うんだ。
<2010/3/11脱稿>
1 / 1

──何よ、それー?

──あ、私知ってる。好きな人の写メをケータイの待ち受けにして3週間のあいだ誰にも気付かれなければ、その人と結ばれるんだって。

 気怠い空気の漂う昼休み。風丸は席の机に突っ伏して惰眠を貪っていた。連日サッカー部ではボールが見えなくなるくらい真っ暗になるまで、練習の毎日だったし、今朝も早朝に起きて日課のランニングと朝練をこなしたばかりだった。こうして昼休みくらい、昼寝でもしなければ体が保たない。

 そんな昼寝の最中にクラスの女子のおしゃべりが妙に耳に入ってきた。

──へぇ~。じゃ、試してみよっ。

 ごそごそとそのおしゃべり中の一人だろう女子が、携帯を取り出す気配がする。

──ばかっ。ここですんなっ!

 風丸がまだ眠気の残る頭を上げて、教室をふと見回すと、三人の女子が一つ机を隔てた所に寄り集まってるのが見えた。一人の子がピンク色の携帯を風丸に向けてかざしている。

「あ、風丸くん、起きちゃったー?」

「ごめんね、うるさくて。ほら、行こ!」

 携帯をかざしていた一人を咎めるように、二人の女子がぎこちない態度で廊下へ連れ出して行ってしまう。

「あんたバカじゃないの。写メを撮るのを気付かれたら意味ないんだって」

 ひそひそとそう話す声が遠ざかっていった。



School Days




 その日の部活も練習は結構なくらいハードだった。普段の練習の上に、イナビカリ訓練所での特訓、そして連携のセットメニューなど。近々、帝国学園と練習試合がある為だ。

 本来ならこの時期にはこれほどの練習は必要のないものだったが、エイリア学園との決着が終わった今だからこそ、皆して練習に励んでいるのだ。

 特に、元からのサッカー部員だった者たちの奮闘ぶりは、キャプテンである円堂すらも目を見張るほどだった。それはエイリア学園・ジェミニストームとの最初の試合で苦惨を舐められ、怪我で入院を余儀なくされた所為もあったのかも知れない。それに至る要因の一つだった研崎という男が何処からか現れ、エイリア石を見せつけて自分たちを唆したこと。それが為に研崎の手先となりダークエンペラーズとして円堂たちの前に立ちはだかったこと。それらがやはり未だ負い目になっているのだろう。あんな石なんか無くったって、自分たちは強くなってみせる、のだと。

 風丸自身も実際そうなのだから。それが故に、今は以前は繰り出していた必殺技を使うのを自ら禁止するほどだった。ひとえに真摯に、ひとえに禁欲的に。

 「よーしっ。じゃあ今日はこれで上がるぞ! みんなお疲れさん」

 円堂の呼びかけによって、今日の練習が終わる。風丸は体中にまとわりつく汗を拭いながら、皆と一緒に部室へと向かった。自分に宛てられたロッカーを開けると、折り畳んだ制服の上に置いておいた携帯の着信ランプが光っているのが見えた。風丸は急いで確認する。今夜は帰りが遅くなるとの、働いている母からのメールだった。

 ふう、と風丸は息をつく。何か大変な事でもあったんだろうかと思ったが、杞憂だったようだ。折り畳み型の携帯を閉じようとして、昼休みの女子たちのたわいの無いおしゃべりの内容が心に引っかかった。

──好きな人の写メをケータイの待ち受けにして3週間のあいだ誰にも気付かれなければ、その人と結ばれるんだって。

 好きな人……。その言葉と共に、部室内で既に制服に着替え終わっている古い付き合いの顔が浮かんだ。

──写メ。待ち受け。3週間……。

 円堂の顔が心の中で、その単語と一緒に踊り狂う。

 メールの返信をしてる振りをして、風丸は携帯のレンズを円堂に向ける。円堂は部員たちと何やら話をしているようだが、風丸の耳にはどんな会話を交わしているのか、ちっとも入ってこない。

 震える指で撮影決定ボタンを押した。

 完了を示すごく短いメロディが流れ、はっと身を震わすが、誰も風丸の行為には気付かなかったようだ。メール送信のメロディと同じだったのが幸いだった。

 携帯の画面には、円堂が仲間たちと親しげに話す姿が、ピンぼけ気味に写っている。風丸はこっそりとその画像を待ち受けに設定して、パタンと液晶を閉じた。



 それから2週間の間、何事もなく時間は過ぎた。恋のおまじないだなんて、我ながら女々しい。とは思いながらも、風丸は時々こっそり携帯を取り出して画面を確かめた。少しブレ気味の円堂の姿。そしてすぐに携帯を閉じて、誰にも見られてないか周囲を確認する。そんな日々を過ごしていた。

 その日はちょうど帝国学園との練習試合で、本当に久しぶりだったからか、皆の体中から喜びが溢れて動き回ってるのを風丸は感じた。練習とはいえ、やはり普段の特訓とは違うぴりりとした緊張感が肉体を震わす。それが却って心地よい。

 試合はかなり拮抗していて、結局は同点引き分けで終わったのだが、雷門中も帝国学園も互いに満足の出来た試合だった。

「あーっ。やっぱいいな、試合は。よーし、今度は引き分けでなくあいつらに勝ってやる!」

 闘志に満ちた円堂の言葉が、試合を終えて疲れた皆の心に染み渡った。

「風丸っ、帰りに久しぶりに二人で雷雷軒寄って行かないか?」

 円堂が着替え中の風丸に呼びかけてきた。

「ん? 二人だけか。豪炎寺や鬼道は?」

「豪炎寺はこのあと夕香ちゃんと約束があるから、寄り道なしで家に帰るって。鬼道は……ほら」

 円堂が帝国のメンバーに囲まれて楽しげに話をしている鬼道を指差した。

「あいつらとちょっと付き合ってくってさ。お互い積もる話もあるだろうしな」

「ふ~ん……。じゃ、折角だから久しぶりに」

「行こうぜ!」

 同意の返事をすると、にかっと円堂が笑顔を見せた。

 そういえば二人でラーメンを食いに行くというのも、本当に久しぶりなのだと風丸は感じた。思えば、エイリア学園を倒す為にキャラバン入りした時は、それこそ暢気に外食なんてしている訳にはいかなかったし、それ以前もずっとサッカー三昧の日々が始まった頃は、いつもサッカー部の誰かがいたので、二人きりになるのは滅多になかった。

 心弾む気分を押さえながら、風丸は円堂と共に電車で稲妻商店街へと向かった。こんなにも心躍るのは、きっと自分の中で円堂という存在が変わってしまった所為だろうと、風丸は思う。小学校からいつの間にかいつも一緒につるむようになったが、雷門中に上がってからは自分は陸上部、円堂はサッカー部と所属する部活が違ってしまってからは少々互いの存在が遠ざかっていた。それでも毎日のようには会っていたし、あの帝国との試合の為に自分がサッカー部に助っ人として参加するようになってから、昔と違って円堂を見る目が日々変化していった。そのことに気付いたのはごく最近の、いや正しくは自分がエイリア石に魅了され、ダークエンペラーズのキャプテンとして円堂に敵対してからに違いない。円堂は身をもって自分をエイリア石の呪縛から解き放ってくれた。円堂の態度が、心が、自分の中で大きく働きかけたことでやっと、本当の気持ちに気づかされたのだ。それが親友としてではなく、異性に対する恋心そのものなのだと。

 最初はその気持ちに戸惑ったものの、風丸は次第にそれを受け入れていった。男同士がなんだ。自分が“好き”という感情は素直に受け止めるべきではないのか。

 けれども円堂自身に、その本心は打ち明けられずにいた。勿論、円堂が恋愛感情に関してはまだ疎いというのもある。けれども、それを告げてしまえば円堂と自分との間にある“親友”の絆が壊れてしまうのが、目に見えているからだ。だから風丸は飽くまでも、円堂の友人であり仲間であるというスタンスは崩さないままでいようとしていたのだ。

「円堂、俺さ……。お前があの時俺を救ってくれて本当に感謝してる」

「ん?」

 雷雷軒のカウンターに二人並んで腰掛け、熱いラーメンを啜った後、風丸が妙にしんみりとしてそう言うと、円堂が飲みかけのラーメンのスープをカウンターに置いて、首を傾けた。

「『サッカーやろうぜ!』ってさ。……俺、元々お前の熱意に負けてサッカー部の助っ人になったけど、やっぱその時はお前を助けたかっただけだし、キャラバンの時も、入院した半田たちの気持ちに報いたかったからだって。だから、それまでずっと俺にとっては、サッカーって義務っていうか……心からやりたいって訳じゃなかったのかも知れない」

「風丸。でも今は楽しいだろ。サッカー」

「うん。お前が気付かせてくれたから。エイリア石に囚われた俺を、本当に、心からサッカーは楽しいものだって事をさ……。今は純粋にサッカーをやりたいって思ってる」

 風丸の言葉を聞いて、円堂は満足そうにこくんと何度も頷いてみせた。

「へへっ。だって俺、あの時のお前全然楽しそうに見えなかったからさ。なんか……エイリア石とかなんかよりも、その事がお前自身を傷つけてるようで、凄く嫌だった。俺、お前が心から笑ってピッチを走るのを見るのが好きだったから」

 カウンター越しに湯気が湧く厨房が見える。雷門中サッカー部監督でもあり、この店の店主でもある響木が風丸と円堂に背中を向け、洗い物をしている。他には誰もいなくて、二人の会話だけが何処か寂れた店内に微かに漂っていた。

 その時、雰囲気を壊すようなメロディが風丸の鞄のポケットから響き渡った。

「なんだ?」

 風丸が携帯を確認すると母からの通話だった。

「なんだ母さんか……。ああ、メシなら今、雷雷軒で円堂と食ってるよ。ん。そうする」

 風丸は母との通話を終えると携帯を閉じてカウンターに置き、苦笑いをして円堂に振り向いた。

「母さんが仕事で遅くなって、夕食の時間に間に合わないから先に食ってろってさ……。監督、餃子とライス一人前お願いします」

 ラーメンだけの夕食では足りないと、追加を響木に頼むと、ふと気付いた尿意に風丸は円堂に断った。

「すまん、円堂。ちょっとトイレ行ってくる」

「ああ。響木監督、俺もチャーハン追加で」

 にこやかに笑いかけてくる円堂に、風丸は心くすぐられるのを感じて、にやける顔を抑えながらトイレに向かった。さっさと排泄を済ませて、洗面所で手を洗いながら鏡を見る。円堂と二人で久々に……とは言っても響木も居る事は居たが、それは置いておいて……他の仲間に邪魔されずに同じ時を共有できた事が、風丸にとって心から満足したひとときだった。鏡を覗いて前髪を整える。思わず笑みが浮かぶ。なんだか妙に可笑しくなってぷっと噴き出しながら、風丸は濡れた手を拭った。

 今日はなんて嬉しい日なんだ。その暖かい気分に心を委ねて、風丸はカウンターに戻る。風丸を待っていた円堂が手に何かを持っているのに気付くまでは、その心地よい雰囲気に半ば酔っていた。

 円堂の手の中にあるのは、自分の、携帯だった。

「円……堂」

 風丸の中で暖かく心地のいい気分ががらがらと崩れさる。見られた? ピントが外れブレた円堂の待ち受け画像。3週間の間誰に見つからなければ叶う、恋のおまじない……。

「あー。お前のお母さんからまた電話あってさ。つい、俺がとっちゃたんだけど」

「あ……なん、て?」

 声が掠れる。急激に喉が渇いてゆく。

「支払いは後でお母さんが出すから、俺におごってやれって。いや、俺はワリカンで良いって言ったけどさ」

「そ、そうか……」

 引きずるように椅子を引いて座る。けれども椅子はふわふわと浮ついて、座ってもよろけてしまいそうだ。円堂は苦笑して風丸に携帯を返す。震える手で受け取ったが、円堂は普段と変わらぬ顔で作り立てのチャーハンを食べ始めた。

 もしかしたら円堂は待ち受け画像には気付いてなかったのかも知れない。だが風丸は針のむしろに座っている気分で、餃子とライスをもそもそと食べた。まるで味がしない。

 雷雷軒を出て、ぎこちなく世間話をして円堂と別れたが、風丸には月のない夜空同様、心は真っ暗に染まってしまっていた。誰も居ない家に帰り──父親は今日も出張中だ──、一人で自分の部屋の机に突っ伏した。そのときまた、携帯の着信音が鳴った。着信ディスプレーには円堂の名前が浮かんでいる。

「……あ、円堂?」

「…………風丸」

 妙に円堂の声は堅苦しかった。

「今から来れるか? 鉄塔広場まで」

「なんだよ……。話ならさっきいくらでも」

「お前のケータイの事で」

 耳元で円堂の声が冷たく響く。

「俺の……」

「絶対来いよ。約束だ」

 そう言ったきり、ぷつんと一方的に通話は終わった。

 やはり円堂は自分の携帯の待ち受けに気がついたのだろう。そして、例のおまじないの話も知っている……?

 風丸はジャージから着替えもせずに震えながら、鉄塔広場への夜道を一人歩いた。暗闇に街灯がぼんやりと浮かぶ。鉄塔広場のいつも円堂が古タイヤの特訓をしている場所にたどり着くと、やはり自分と同じようにジャージのままの円堂の後ろ姿が目に入った。

「円堂……」

 掠れる声でバンダナを頭に巻いた円堂に声をかける。震える右手には水色の携帯が鈍く光った。

「風丸。見せろよ」

「えっ」

「お前のケータイ」

 くるりと振り向いた円堂は手を差し伸べて、風丸を促した。

「あ……、うん」

 恐る恐る円堂の手のひらに自分の携帯を置く。円堂はさっと開いて液晶画面を覗き込んだ。思わず風丸は下を向いた。

「……なんだよ、これ。ぼけぼけじゃないか」

「すなまい……円堂」

 溜息と共に吐き出された円堂の声が、風丸の心を切り裂いた。

「なんでこんなの待ち受けにするかな……」

「すまない……」

「消していいか?」

 何も言えず、風丸はただ頷くのが精一杯だった。円堂は多分怒っているのだろう。そりゃ、小学校からの付き合いの奴が、自分に邪な想いを抱いて側に居るだなんて、気持ちが悪いに決まっている。風丸はいたたまれない気分を抱えて下を向いた。絶交されるのは間違いない。ただ、その前に訊いておきたい事だけははっきりさせようと思った。

「円堂は……知ってるんだな? おまじないの事を」

 円堂はそれには答えない。黙って風丸の携帯を操作している。

「消した」

 ピッと言う電子音と共に円堂は、ディフォルトの画面に戻った携帯の液晶画面を風丸に向けた。そのまま風丸の手に携帯を握らせる。

 街灯がぼんやり照らす鉄塔広場で、円堂と風丸は黙ったまま向かい合った。円堂はまっすぐ風丸に目を向け、風丸は下を向いたままだった。沈黙を破って円堂が風丸に呼びかける。

「風丸。写メ撮り直せよ」

「えっ」

「ほらっ」

 右手に握らせたままの風丸の携帯を操作して、カメラの機能に切り替えた。

「ほら、ちゃんと俺を撮り直す!」

「円堂……?」

 風丸は訳が分からずに、円堂の言うままに携帯のカメラを向けた。暗闇にジャージ姿の円堂が写り込む。

「ちゃんと撮れよ。ピンぼけは嫌だからな!」

 思わず手が震える。2週間前、部室で円堂を隠し撮りした時のように。けれども円堂が怒ったような顔で促すので、不承不承で風丸は円堂を撮った。完了を示す短いメロディが流れる。

「今の写メ、待ち受けにしろ」

「え……?」

「俺の言う通りにしろよ」

 頭に疑問符が雪崩れるように次々に浮かんだが、風丸は円堂の言われるままに、その画像を待ち受けに設定した。

「……円堂」

 風丸は画面を向けたが、円堂はぷいとそっぽを向いてしまった。

「じゃ、今度は俺の番だ」

「えっ?」

 円堂はズボンのポケットから携帯を取り出すと、右手に持ったまま風丸に近づく。風丸の後頭部てっぺんに左手を回すと、ポニーテールに括っていた赤いゴムをすっと引き抜いた。

「あっ!」

 そのまま括られていた髪の先は風丸の肩にばさりと零れ落ち、流れる。円堂の左手で胸元をとん、と押された。背後にあったベンチに倒されるように腰を下ろされた。

「円堂っ? 一体何を?」

 思わずのけぞった風丸のジャージのファスナーが円堂の手で下ろされ、下に着込んでいた白いTシャツの裾を掴まれ、首元にまで引き上げられた。

「円……堂」

 夜風に晒され、素肌に落ちる寒さで風丸は震え上がった。それよりももっと、円堂が自分に携帯のカメラを向けているのが、風丸には恐ろしく思えた。

 その場にそぐわない携帯の電子メロディが流れる。円堂はそっと風丸のシャツを引き下ろすと、手にした携帯を操作していた。

「えん……」

「風丸。俺さ」

 円堂はぱたんと携帯を閉じると、指に絡んでいた赤いゴムを風丸に手渡した。

「さっき、雷雷軒でお前のケータイ見ちゃって、ビックリしたけど……ほんとは嬉しかった」

「え……?」

 ベンチに起き上がった風丸は髪を下ろしたまま、円堂の顔を驚いた顔で見上げた。

「お前が俺の前から居なくなってからずっと、お前の存在って奴がどんなに俺にとって大切だったかって、やっと分かったんだ。エイリアの奴らとやっと戦いが終わって、お前にやっと会えるって帰ったら、あんな事になって、俺、すげえ悲しかった。お前をやっと取り戻した時、心から嬉しかったよ。でも、また一緒にサッカーやれるようになったのに、なんか、お前を抱きしめたくなったり、キスしたくなったり、もっとエッチな事したいと思うようになっちまって、俺……もう自分でもどうかしちまったんじゃないかと思った」

 円堂の突然の告白に、風丸は唖然と口をあけたまま彼を見つめた。

「サッカーやってりゃ、こんな変な気持ちも薄らぐと思ったんだけどさ。ムリヤリ特訓したりしたんだけど……、もうどうにもならなくなった」

「円堂……」

「おまじないの話はうちのクラスの女子から聞いたよ。だから、お前が俺の写メを見ちゃった時は、嬉しいって思ったと同時に、お前の俺への気持ち台無しにしちまったんだって気付いたら……なんか……」

「円堂……っ!」

 風丸はベンチから立ち上がった。そのまま円堂をぎゅっと抱きしめてしまいたい、と思った。だが円堂は濃青の携帯をかざすと、風丸から一歩後ずさった。

「だからさ。今日のはチャラにして、また一からやり直そう。お互いの待ち受けが3週間の間、誰にも気付かれなかったら、またここで会おう」

「え、円堂」

「約束だぜ!」

 風丸の答えも聞かないまま、円堂は携帯をかざす手を大きく振って鉄塔広場の階段を下りて行ってしまった。



 そうしてきっかり二十一日間の時が過ぎた。登校し雷門中の門をくぐると、陸上部で一緒だった宮坂が風丸に呼びかけてきた。

「風丸さーん!」

 風丸は宮坂の声を聞き、手にしていた携帯をそっと閉じて右手で覆った。

「おはようございますっ」

「あ、宮坂。おはよう……」

 自分に礼をした宮坂が、風丸の右手を凝視する。

「あれっ? 風丸さん、もしかして例のおまじない……?」

「いや……宮坂これは」

「やだなぁ……。見ませんよ、僕」

 苦笑いをして宮坂は小麦色に焼けた顔を風丸に向けた。

「ただ、風丸さんにそれだけ思われるだなんて、ちょっと羨ましいなぁって思っただけです。じゃ、朝練ありますからっ」

 宮坂はもう一度礼をして陸上部の部室へと走り去った。

 子兎のような元後輩を見送って、風丸は携帯の画面をそっと覗き込む。やっと約束の3週間の日々が終わる。待ち受けの円堂を眺めて、心からわき上がる想いに微笑みながら、今日という日をどれだけ待ちわびたかと。満足して頷くと風丸はそっと携帯を閉じた。

 約束の鉄塔広場。多分円堂も自分を待っている。風丸は携帯を制服のポケットにしまい込むと自分の教室へ走り出した。

1 / 1
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました

コメント

ログインするとコメントを投稿できます

是非、コメントを投稿しましょう
ほとんどの作者の方は、「萌えた」の一言でも、好意的なコメントがあれば次作品への意欲や、モチベーションの向上につながります。
コメントは作品投稿者とあなたにしかコメントの内容が表示されず、文字制限は140文字までとなりますので、あまり長いコメントを考える必要はありません。
是非、コメントを投稿して頂き、皆様と共にBLを愛する場所としてpictBLandを盛り上げていければと思います。
School Days
1 / 1

──何よ、それー?

──あ、私知ってる。好きな人の写メをケータイの待ち受けにして3週間のあいだ誰にも気付かれなければ、その人と結ばれるんだって。

 気怠い空気の漂う昼休み。風丸は席の机に突っ伏して惰眠を貪っていた。連日サッカー部ではボールが見えなくなるくらい真っ暗になるまで、練習の毎日だったし、今朝も早朝に起きて日課のランニングと朝練をこなしたばかりだった。こうして昼休みくらい、昼寝でもしなければ体が保たない。

 そんな昼寝の最中にクラスの女子のおしゃべりが妙に耳に入ってきた。

──へぇ~。じゃ、試してみよっ。

 ごそごそとそのおしゃべり中の一人だろう女子が、携帯を取り出す気配がする。

──ばかっ。ここですんなっ!

 風丸がまだ眠気の残る頭を上げて、教室をふと見回すと、三人の女子が一つ机を隔てた所に寄り集まってるのが見えた。一人の子がピンク色の携帯を風丸に向けてかざしている。

「あ、風丸くん、起きちゃったー?」

「ごめんね、うるさくて。ほら、行こ!」

 携帯をかざしていた一人を咎めるように、二人の女子がぎこちない態度で廊下へ連れ出して行ってしまう。

「あんたバカじゃないの。写メを撮るのを気付かれたら意味ないんだって」

 ひそひそとそう話す声が遠ざかっていった。



School Days




 その日の部活も練習は結構なくらいハードだった。普段の練習の上に、イナビカリ訓練所での特訓、そして連携のセットメニューなど。近々、帝国学園と練習試合がある為だ。

 本来ならこの時期にはこれほどの練習は必要のないものだったが、エイリア学園との決着が終わった今だからこそ、皆して練習に励んでいるのだ。

 特に、元からのサッカー部員だった者たちの奮闘ぶりは、キャプテンである円堂すらも目を見張るほどだった。それはエイリア学園・ジェミニストームとの最初の試合で苦惨を舐められ、怪我で入院を余儀なくされた所為もあったのかも知れない。それに至る要因の一つだった研崎という男が何処からか現れ、エイリア石を見せつけて自分たちを唆したこと。それが為に研崎の手先となりダークエンペラーズとして円堂たちの前に立ちはだかったこと。それらがやはり未だ負い目になっているのだろう。あんな石なんか無くったって、自分たちは強くなってみせる、のだと。

 風丸自身も実際そうなのだから。それが故に、今は以前は繰り出していた必殺技を使うのを自ら禁止するほどだった。ひとえに真摯に、ひとえに禁欲的に。

 「よーしっ。じゃあ今日はこれで上がるぞ! みんなお疲れさん」

 円堂の呼びかけによって、今日の練習が終わる。風丸は体中にまとわりつく汗を拭いながら、皆と一緒に部室へと向かった。自分に宛てられたロッカーを開けると、折り畳んだ制服の上に置いておいた携帯の着信ランプが光っているのが見えた。風丸は急いで確認する。今夜は帰りが遅くなるとの、働いている母からのメールだった。

 ふう、と風丸は息をつく。何か大変な事でもあったんだろうかと思ったが、杞憂だったようだ。折り畳み型の携帯を閉じようとして、昼休みの女子たちのたわいの無いおしゃべりの内容が心に引っかかった。

──好きな人の写メをケータイの待ち受けにして3週間のあいだ誰にも気付かれなければ、その人と結ばれるんだって。

 好きな人……。その言葉と共に、部室内で既に制服に着替え終わっている古い付き合いの顔が浮かんだ。

──写メ。待ち受け。3週間……。

 円堂の顔が心の中で、その単語と一緒に踊り狂う。

 メールの返信をしてる振りをして、風丸は携帯のレンズを円堂に向ける。円堂は部員たちと何やら話をしているようだが、風丸の耳にはどんな会話を交わしているのか、ちっとも入ってこない。

 震える指で撮影決定ボタンを押した。

 完了を示すごく短いメロディが流れ、はっと身を震わすが、誰も風丸の行為には気付かなかったようだ。メール送信のメロディと同じだったのが幸いだった。

 携帯の画面には、円堂が仲間たちと親しげに話す姿が、ピンぼけ気味に写っている。風丸はこっそりとその画像を待ち受けに設定して、パタンと液晶を閉じた。



 それから2週間の間、何事もなく時間は過ぎた。恋のおまじないだなんて、我ながら女々しい。とは思いながらも、風丸は時々こっそり携帯を取り出して画面を確かめた。少しブレ気味の円堂の姿。そしてすぐに携帯を閉じて、誰にも見られてないか周囲を確認する。そんな日々を過ごしていた。

 その日はちょうど帝国学園との練習試合で、本当に久しぶりだったからか、皆の体中から喜びが溢れて動き回ってるのを風丸は感じた。練習とはいえ、やはり普段の特訓とは違うぴりりとした緊張感が肉体を震わす。それが却って心地よい。

 試合はかなり拮抗していて、結局は同点引き分けで終わったのだが、雷門中も帝国学園も互いに満足の出来た試合だった。

「あーっ。やっぱいいな、試合は。よーし、今度は引き分けでなくあいつらに勝ってやる!」

 闘志に満ちた円堂の言葉が、試合を終えて疲れた皆の心に染み渡った。

「風丸っ、帰りに久しぶりに二人で雷雷軒寄って行かないか?」

 円堂が着替え中の風丸に呼びかけてきた。

「ん? 二人だけか。豪炎寺や鬼道は?」

「豪炎寺はこのあと夕香ちゃんと約束があるから、寄り道なしで家に帰るって。鬼道は……ほら」

 円堂が帝国のメンバーに囲まれて楽しげに話をしている鬼道を指差した。

「あいつらとちょっと付き合ってくってさ。お互い積もる話もあるだろうしな」

「ふ~ん……。じゃ、折角だから久しぶりに」

「行こうぜ!」

 同意の返事をすると、にかっと円堂が笑顔を見せた。

 そういえば二人でラーメンを食いに行くというのも、本当に久しぶりなのだと風丸は感じた。思えば、エイリア学園を倒す為にキャラバン入りした時は、それこそ暢気に外食なんてしている訳にはいかなかったし、それ以前もずっとサッカー三昧の日々が始まった頃は、いつもサッカー部の誰かがいたので、二人きりになるのは滅多になかった。

 心弾む気分を押さえながら、風丸は円堂と共に電車で稲妻商店街へと向かった。こんなにも心躍るのは、きっと自分の中で円堂という存在が変わってしまった所為だろうと、風丸は思う。小学校からいつの間にかいつも一緒につるむようになったが、雷門中に上がってからは自分は陸上部、円堂はサッカー部と所属する部活が違ってしまってからは少々互いの存在が遠ざかっていた。それでも毎日のようには会っていたし、あの帝国との試合の為に自分がサッカー部に助っ人として参加するようになってから、昔と違って円堂を見る目が日々変化していった。そのことに気付いたのはごく最近の、いや正しくは自分がエイリア石に魅了され、ダークエンペラーズのキャプテンとして円堂に敵対してからに違いない。円堂は身をもって自分をエイリア石の呪縛から解き放ってくれた。円堂の態度が、心が、自分の中で大きく働きかけたことでやっと、本当の気持ちに気づかされたのだ。それが親友としてではなく、異性に対する恋心そのものなのだと。

 最初はその気持ちに戸惑ったものの、風丸は次第にそれを受け入れていった。男同士がなんだ。自分が“好き”という感情は素直に受け止めるべきではないのか。

 けれども円堂自身に、その本心は打ち明けられずにいた。勿論、円堂が恋愛感情に関してはまだ疎いというのもある。けれども、それを告げてしまえば円堂と自分との間にある“親友”の絆が壊れてしまうのが、目に見えているからだ。だから風丸は飽くまでも、円堂の友人であり仲間であるというスタンスは崩さないままでいようとしていたのだ。

「円堂、俺さ……。お前があの時俺を救ってくれて本当に感謝してる」

「ん?」

 雷雷軒のカウンターに二人並んで腰掛け、熱いラーメンを啜った後、風丸が妙にしんみりとしてそう言うと、円堂が飲みかけのラーメンのスープをカウンターに置いて、首を傾けた。

「『サッカーやろうぜ!』ってさ。……俺、元々お前の熱意に負けてサッカー部の助っ人になったけど、やっぱその時はお前を助けたかっただけだし、キャラバンの時も、入院した半田たちの気持ちに報いたかったからだって。だから、それまでずっと俺にとっては、サッカーって義務っていうか……心からやりたいって訳じゃなかったのかも知れない」

「風丸。でも今は楽しいだろ。サッカー」

「うん。お前が気付かせてくれたから。エイリア石に囚われた俺を、本当に、心からサッカーは楽しいものだって事をさ……。今は純粋にサッカーをやりたいって思ってる」

 風丸の言葉を聞いて、円堂は満足そうにこくんと何度も頷いてみせた。

「へへっ。だって俺、あの時のお前全然楽しそうに見えなかったからさ。なんか……エイリア石とかなんかよりも、その事がお前自身を傷つけてるようで、凄く嫌だった。俺、お前が心から笑ってピッチを走るのを見るのが好きだったから」

 カウンター越しに湯気が湧く厨房が見える。雷門中サッカー部監督でもあり、この店の店主でもある響木が風丸と円堂に背中を向け、洗い物をしている。他には誰もいなくて、二人の会話だけが何処か寂れた店内に微かに漂っていた。

 その時、雰囲気を壊すようなメロディが風丸の鞄のポケットから響き渡った。

「なんだ?」

 風丸が携帯を確認すると母からの通話だった。

「なんだ母さんか……。ああ、メシなら今、雷雷軒で円堂と食ってるよ。ん。そうする」

 風丸は母との通話を終えると携帯を閉じてカウンターに置き、苦笑いをして円堂に振り向いた。

「母さんが仕事で遅くなって、夕食の時間に間に合わないから先に食ってろってさ……。監督、餃子とライス一人前お願いします」

 ラーメンだけの夕食では足りないと、追加を響木に頼むと、ふと気付いた尿意に風丸は円堂に断った。

「すまん、円堂。ちょっとトイレ行ってくる」

「ああ。響木監督、俺もチャーハン追加で」

 にこやかに笑いかけてくる円堂に、風丸は心くすぐられるのを感じて、にやける顔を抑えながらトイレに向かった。さっさと排泄を済ませて、洗面所で手を洗いながら鏡を見る。円堂と二人で久々に……とは言っても響木も居る事は居たが、それは置いておいて……他の仲間に邪魔されずに同じ時を共有できた事が、風丸にとって心から満足したひとときだった。鏡を覗いて前髪を整える。思わず笑みが浮かぶ。なんだか妙に可笑しくなってぷっと噴き出しながら、風丸は濡れた手を拭った。

 今日はなんて嬉しい日なんだ。その暖かい気分に心を委ねて、風丸はカウンターに戻る。風丸を待っていた円堂が手に何かを持っているのに気付くまでは、その心地よい雰囲気に半ば酔っていた。

 円堂の手の中にあるのは、自分の、携帯だった。

「円……堂」

 風丸の中で暖かく心地のいい気分ががらがらと崩れさる。見られた? ピントが外れブレた円堂の待ち受け画像。3週間の間誰に見つからなければ叶う、恋のおまじない……。

「あー。お前のお母さんからまた電話あってさ。つい、俺がとっちゃたんだけど」

「あ……なん、て?」

 声が掠れる。急激に喉が渇いてゆく。

「支払いは後でお母さんが出すから、俺におごってやれって。いや、俺はワリカンで良いって言ったけどさ」

「そ、そうか……」

 引きずるように椅子を引いて座る。けれども椅子はふわふわと浮ついて、座ってもよろけてしまいそうだ。円堂は苦笑して風丸に携帯を返す。震える手で受け取ったが、円堂は普段と変わらぬ顔で作り立てのチャーハンを食べ始めた。

 もしかしたら円堂は待ち受け画像には気付いてなかったのかも知れない。だが風丸は針のむしろに座っている気分で、餃子とライスをもそもそと食べた。まるで味がしない。

 雷雷軒を出て、ぎこちなく世間話をして円堂と別れたが、風丸には月のない夜空同様、心は真っ暗に染まってしまっていた。誰も居ない家に帰り──父親は今日も出張中だ──、一人で自分の部屋の机に突っ伏した。そのときまた、携帯の着信音が鳴った。着信ディスプレーには円堂の名前が浮かんでいる。

「……あ、円堂?」

「…………風丸」

 妙に円堂の声は堅苦しかった。

「今から来れるか? 鉄塔広場まで」

「なんだよ……。話ならさっきいくらでも」

「お前のケータイの事で」

 耳元で円堂の声が冷たく響く。

「俺の……」

「絶対来いよ。約束だ」

 そう言ったきり、ぷつんと一方的に通話は終わった。

 やはり円堂は自分の携帯の待ち受けに気がついたのだろう。そして、例のおまじないの話も知っている……?

 風丸はジャージから着替えもせずに震えながら、鉄塔広場への夜道を一人歩いた。暗闇に街灯がぼんやりと浮かぶ。鉄塔広場のいつも円堂が古タイヤの特訓をしている場所にたどり着くと、やはり自分と同じようにジャージのままの円堂の後ろ姿が目に入った。

「円堂……」

 掠れる声でバンダナを頭に巻いた円堂に声をかける。震える右手には水色の携帯が鈍く光った。

「風丸。見せろよ」

「えっ」

「お前のケータイ」

 くるりと振り向いた円堂は手を差し伸べて、風丸を促した。

「あ……、うん」

 恐る恐る円堂の手のひらに自分の携帯を置く。円堂はさっと開いて液晶画面を覗き込んだ。思わず風丸は下を向いた。

「……なんだよ、これ。ぼけぼけじゃないか」

「すなまい……円堂」

 溜息と共に吐き出された円堂の声が、風丸の心を切り裂いた。

「なんでこんなの待ち受けにするかな……」

「すまない……」

「消していいか?」

 何も言えず、風丸はただ頷くのが精一杯だった。円堂は多分怒っているのだろう。そりゃ、小学校からの付き合いの奴が、自分に邪な想いを抱いて側に居るだなんて、気持ちが悪いに決まっている。風丸はいたたまれない気分を抱えて下を向いた。絶交されるのは間違いない。ただ、その前に訊いておきたい事だけははっきりさせようと思った。

「円堂は……知ってるんだな? おまじないの事を」

 円堂はそれには答えない。黙って風丸の携帯を操作している。

「消した」

 ピッと言う電子音と共に円堂は、ディフォルトの画面に戻った携帯の液晶画面を風丸に向けた。そのまま風丸の手に携帯を握らせる。

 街灯がぼんやり照らす鉄塔広場で、円堂と風丸は黙ったまま向かい合った。円堂はまっすぐ風丸に目を向け、風丸は下を向いたままだった。沈黙を破って円堂が風丸に呼びかける。

「風丸。写メ撮り直せよ」

「えっ」

「ほらっ」

 右手に握らせたままの風丸の携帯を操作して、カメラの機能に切り替えた。

「ほら、ちゃんと俺を撮り直す!」

「円堂……?」

 風丸は訳が分からずに、円堂の言うままに携帯のカメラを向けた。暗闇にジャージ姿の円堂が写り込む。

「ちゃんと撮れよ。ピンぼけは嫌だからな!」

 思わず手が震える。2週間前、部室で円堂を隠し撮りした時のように。けれども円堂が怒ったような顔で促すので、不承不承で風丸は円堂を撮った。完了を示す短いメロディが流れる。

「今の写メ、待ち受けにしろ」

「え……?」

「俺の言う通りにしろよ」

 頭に疑問符が雪崩れるように次々に浮かんだが、風丸は円堂の言われるままに、その画像を待ち受けに設定した。

「……円堂」

 風丸は画面を向けたが、円堂はぷいとそっぽを向いてしまった。

「じゃ、今度は俺の番だ」

「えっ?」

 円堂はズボンのポケットから携帯を取り出すと、右手に持ったまま風丸に近づく。風丸の後頭部てっぺんに左手を回すと、ポニーテールに括っていた赤いゴムをすっと引き抜いた。

「あっ!」

 そのまま括られていた髪の先は風丸の肩にばさりと零れ落ち、流れる。円堂の左手で胸元をとん、と押された。背後にあったベンチに倒されるように腰を下ろされた。

「円堂っ? 一体何を?」

 思わずのけぞった風丸のジャージのファスナーが円堂の手で下ろされ、下に着込んでいた白いTシャツの裾を掴まれ、首元にまで引き上げられた。

「円……堂」

 夜風に晒され、素肌に落ちる寒さで風丸は震え上がった。それよりももっと、円堂が自分に携帯のカメラを向けているのが、風丸には恐ろしく思えた。

 その場にそぐわない携帯の電子メロディが流れる。円堂はそっと風丸のシャツを引き下ろすと、手にした携帯を操作していた。

「えん……」

「風丸。俺さ」

 円堂はぱたんと携帯を閉じると、指に絡んでいた赤いゴムを風丸に手渡した。

「さっき、雷雷軒でお前のケータイ見ちゃって、ビックリしたけど……ほんとは嬉しかった」

「え……?」

 ベンチに起き上がった風丸は髪を下ろしたまま、円堂の顔を驚いた顔で見上げた。

「お前が俺の前から居なくなってからずっと、お前の存在って奴がどんなに俺にとって大切だったかって、やっと分かったんだ。エイリアの奴らとやっと戦いが終わって、お前にやっと会えるって帰ったら、あんな事になって、俺、すげえ悲しかった。お前をやっと取り戻した時、心から嬉しかったよ。でも、また一緒にサッカーやれるようになったのに、なんか、お前を抱きしめたくなったり、キスしたくなったり、もっとエッチな事したいと思うようになっちまって、俺……もう自分でもどうかしちまったんじゃないかと思った」

 円堂の突然の告白に、風丸は唖然と口をあけたまま彼を見つめた。

「サッカーやってりゃ、こんな変な気持ちも薄らぐと思ったんだけどさ。ムリヤリ特訓したりしたんだけど……、もうどうにもならなくなった」

「円堂……」

「おまじないの話はうちのクラスの女子から聞いたよ。だから、お前が俺の写メを見ちゃった時は、嬉しいって思ったと同時に、お前の俺への気持ち台無しにしちまったんだって気付いたら……なんか……」

「円堂……っ!」

 風丸はベンチから立ち上がった。そのまま円堂をぎゅっと抱きしめてしまいたい、と思った。だが円堂は濃青の携帯をかざすと、風丸から一歩後ずさった。

「だからさ。今日のはチャラにして、また一からやり直そう。お互いの待ち受けが3週間の間、誰にも気付かれなかったら、またここで会おう」

「え、円堂」

「約束だぜ!」

 風丸の答えも聞かないまま、円堂は携帯をかざす手を大きく振って鉄塔広場の階段を下りて行ってしまった。



 そうしてきっかり二十一日間の時が過ぎた。登校し雷門中の門をくぐると、陸上部で一緒だった宮坂が風丸に呼びかけてきた。

「風丸さーん!」

 風丸は宮坂の声を聞き、手にしていた携帯をそっと閉じて右手で覆った。

「おはようございますっ」

「あ、宮坂。おはよう……」

 自分に礼をした宮坂が、風丸の右手を凝視する。

「あれっ? 風丸さん、もしかして例のおまじない……?」

「いや……宮坂これは」

「やだなぁ……。見ませんよ、僕」

 苦笑いをして宮坂は小麦色に焼けた顔を風丸に向けた。

「ただ、風丸さんにそれだけ思われるだなんて、ちょっと羨ましいなぁって思っただけです。じゃ、朝練ありますからっ」

 宮坂はもう一度礼をして陸上部の部室へと走り去った。

 子兎のような元後輩を見送って、風丸は携帯の画面をそっと覗き込む。やっと約束の3週間の日々が終わる。待ち受けの円堂を眺めて、心からわき上がる想いに微笑みながら、今日という日をどれだけ待ちわびたかと。満足して頷くと風丸はそっと携帯を閉じた。

 約束の鉄塔広場。多分円堂も自分を待っている。風丸は携帯を制服のポケットにしまい込むと自分の教室へ走り出した。

1 / 1
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

PAGE TOP