ひだかみゆき

超次元サッカーの元陸上部大好きマンです。

プロフィールタグ

投稿日:2016年05月19日 10:55    文字数:5,295

体育祭

ステキ数:1
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメントはあなたと作品投稿者のみに名前と内容が表示されます
サイトから再掲。
BL要素なし。雷門2年生メインです。
2ページ目は続きのような同じシチュエーションのものなので纏めました。

以下は当時のあとがきです。

体育祭イラストの為に書いたSS。
あまりにも長くなってしまったので、こちらに掲載。
意外に面白く書けたのは、やっぱ染岡だと思います。何だこのツンデレw。
他にも、普段なら書かないだろーなーってキャラとか、色々書けたので楽しかったんですけどね。
<2009/7/5脱稿>
2ページ目。
体育祭を書いた1年後に思いついたモノですが、その更に1年後に書きかけを発見して完成させたとゆーw。
いくら何でもあっため過ぎな気がしないでもないですが、実は脳内完成済みで形にしてないモノはまだゴロゴロしていたりします。
丁度そんな時期だったりするんで、ちゃんと完成させました。
最近は6月に運動会する所が多いそうですね。中学の体育祭だとどうなのかな~?と思いますが。
<2010/6/1~2011/6/4脱稿>
1 / 2

 突き抜けるような青空が晴れ渡る。体育祭にはもってこいの日だ。クラス毎に紅白に分かれ、グラウンドには生徒たちの歓声があちこちで響いていた。

「へぇ、染岡たちは白組なんだ」

 円堂が白い鉢巻きを巻いている染岡たちを見つけた。

「なんだ、円堂たちは赤かよ」

 染岡と半田が、額に赤い鉢巻きをした円堂と豪炎寺と秋を見て言う。

「僕は白だよ」

 マックスも寄って来ると、皆はそれぞれ紅白どちらに入ったのか確認し始めた。

「一之瀬と土門は?」

「白だって」

「俺は……赤、だよ」

「僕も赤なんですけどね!」

「ほう、見事に分かれたものだな」

 鬼道がきっちりとドレッドの上に白い鉢巻きをして皆の元へやって来た。

「ま、今年は俺たち赤組の勝ちで決まりだけどな!」

「なんで?」

 円堂の言葉に半田が不思議そうな顔をした。

「何たって、赤組には風丸が居るんだからな!」

 自信ありげに言う円堂に、染岡たちが口をへの字に曲げた。

「ちっ、元陸上部のあいつが居るんじゃ不公平だろうがよ!」

「何が不公平だって?」

 それまでリレーの打ち合わせをしていた風丸が、やっと皆と合流した。

「風丸ー! 今日はお前の出番だぞ。元気出していこうぜ!」

 ガッツポーズをとる円堂に、風丸はくすっと笑って応えた。

「風丸君は、どの競技に出るの?」

 秋が尋ねると、風丸は指を折り曲げながら数え出した。

「ええと……。100m走と400m走、それからハードルと1500mリレーと、最後の紅白リレー……かな?」

「何だそれ、トラック競技総なめかよ」

 皆が驚いていると、円堂がこくこくと頷いた。

「そりゃ、風丸が今日のエースだもんな。俺は棒倒しと騎馬戦だけど」

「俺も騎馬戦だ。覚悟しろよ、円堂」

 染岡が円堂に肩を押し付けると二人で牽制しあった。



 体育祭は着々と競技を進め、やがて最後の紅白リレーの時間に押し迫った。

「今ってどっちが勝ってるんだ?」

 2年雷門サッカー部全員がリレーをよく見渡せる場所に集まると、得点ボードを確認する。

「同点かー」

 同じ数だけ貼られた白と赤のバラの造花を見て、皆が溜息をつく。と、リレーの開始を告げる空砲が鳴った。

「って事は、この紅白リレーで決着か」

「風丸が走るんだから、赤の勝ちに決まってるさ!」

 円堂がにやりと笑う。

「それはどうかな?」

 鬼道が険しい顔をしてトラックを見つめる。

「風丸のクラスが最後だ」

「あ……!」

 クラスごとに色違いのタスキを掛けた選手達がバトンを受け取っては走り出す。風丸のクラスは赤いタスキだ。

「本当、赤が最後だなんて……」

 秋が困惑した顔で、口元を手で覆った。

「風丸がアンカーだっけ?」

 土門がトラックの内側で、自分の順が来るのを待機している風丸を見て訊いた。円堂が頷く。

 紅白リレーはアンカーのみ2周走る事になっている。待機中の風丸は手首をぶらぶらと捻ったりストレッチをしているようだった。

「あ~あ、また赤が抜かれましたよ」

 目金がずれ落ちたフレームを直しながらほぼ一周遅れの風丸のクラスの選手を見て、ぼやく。皆の中で気まずい空気が流れた。

「いいや、風丸ならぶっちぎりでトップまで走るさ! 俺は信じてる」

 円堂は確信して、拳を振り上げた。リレーは遂に最終周となり、それぞれのクラスのアンカーたちが真っ直ぐに引かれた白線に並び始めた。風丸は手前の選手が走り出したのを確認して、自分のコースに並んだ。

「どうなるんだよ……」

 皆の顔色が沈み始めた。だが、円堂はぐっと胸元で拳を握りしめている。

 他のコースのアンカーたちが走り始めても、風丸の元にはバトンが渡されない。 他のアンカーたちが4番目の角を曲がり始めた頃に、やっと直前の選手が風丸の元へ駆けて来る。

「あっ!」

 皆が思わず声を上げた。風丸に渡そうとした選手がバトンを取り落としたのだ。

「ヤバくね?」

「……ちっ!」

 染岡が舌打ちする。

 白線ラインにいた風丸は黙ったまま、バトンを落とした選手をじっと待っていた。拾い上げた選手が風丸に、ゴメンというポーズで謝るとバトンを渡す。頷くと風丸は、地面を思い切り蹴りつけて走り出した。既に他のコースの選手が追い抜いて手前にいる。

「……たく、あの野郎!」

 染岡がいきなり前に乗り出すと、大声で風丸に喝を飛ばした。

「風丸っ、まくれ────っ!!!」

「……おいおい、染岡。風丸は赤組……」

「関係ねーだろっ!」

 呆れ顔の半田に染岡は反発した。

「風丸は……俺たちサッカー部の一員だ。応援するのは当たり前だろ!」

 染岡の言葉に、他の皆がそれぞれこくんと頷く。ぽかんと口を開けた半田がやれやれと肩を竦めた。

「『まくれ』ってさ、競輪用語だよね?」

 マックスがくすくすと半田に耳打ちした。

「見ろよ!」

 円堂がトラックを指差す。風丸が手前の選手を抜いた。

「速えぇ!」

「当たり前だろ! あれが風丸だ!」

 円堂が握りしめた拳をぐっと上げる。見る見るうちに風丸が一人、また一人と抜いてゆく。

「ファンタスティックだね!」

 一之瀬が感嘆して見つめる。土門が呼応するように大声を張り上げた。

「よーし! 俺も応援だ。風丸ー、ファイトだ!」

 それに合わせるように、他の皆も風丸に応援を送りだした。風丸はまるで弾丸のようにトラックを走り抜け、コーナーを曲がる。皆が応援してる前を通り抜ける時、風丸がふっと顔を向けると、笑いかけた。

「あ……、あいつ」

「笑ってた」

 走り去った風丸を見て、皆が呆然とする。

「へっ、余裕じゃねぇかよ!」

 染岡が苦笑いすると、更に大声で風丸に声援を送った。

「行け! 風丸」

「頑張ってー、風丸君!」

「風丸!」

 2周目に入った風丸が更に一人抜く。すぐにコーナーを曲がったところでまた一人抜いた。

「行けるか?」

「トップの奴はもうすぐだぞ」

 皆がいる場所の曲がったすぐがゴールだ。疾走する風丸が皆のいる場所へ差し掛かった。

「風丸──っ、ぶっちぎれ──っ!!!」

 円堂が精一杯声を張り上げた。円堂の声に反応するように、風丸は更にスピードを上げると、トップの選手とほぼ並んだ。ゴールには、白いテープが実行委員のスタッフたちの手で張られていた。それをめがけて風丸は最後のダッシュを仕掛けた。

「あ!」

「いったぁ!」

 隣の選手を追い抜き、テープを切ったのは風丸だった。

「やった──っ!!」

 皆が諸手を上げて大喜びをしている頃、トラックの風丸は足をゆっくりと止め、両膝に手をつくと呼吸を整えた。赤い鉢巻きの下から滲んだ汗が零れ落ちる。

「おめでとう、風丸君」

 祝福の声に顔を上げると、体操服に腕章を付けた夏未が手を差し出していた。

「凄かったわね。あなたが一位よ。私は実行委員だからみんなみたいには声援できなかったけれど、あなたの事、応援してたわ」

 風丸はにっこりと微笑むと、夏未の手を取った。

「ありがとう」

「来たわよ」

 握手を送ると、夏未は風丸の元に駆けて来る皆を示し、小さく手を振って本部のテントへと去っていった。

「風丸──っ、やっぱお前凄いよ!! 最高だ!」

 円堂が真っ先に駆けてきて、風丸に抱きつく。円堂に続くように、他の皆も風丸に祝福の言葉をかけたり、肩を叩いたり、頭をもみくちゃになるほど撫でまわした。豪炎寺が黙ったまま、右の親指を上げる。風丸も円堂に抱きつかれたまま、微笑み返すと親指を上げた。

「随分余裕だったじゃねぇか。楽勝って奴か?」

 染岡がつっけんどんに声をかける。そこへ半田が呆れた顔で突っ込んだ。

「なんだよ、染岡。さっきは『風丸は仲間だから応援するのは当たり前だ』って」

「うるせぇよ!」

 顔を紅潮させて、染岡は半田の脳天に拳をぐりぐりと押し付ける。思わず風丸が噴き出した。

「どうだ、風丸。久々の陸上競技は?」

 鬼道がゴーグルの下の瞳を細めて、風丸に感想を訊いた。風丸は皆の顔を見渡すと、ゆっくり頷いた。

「ああ。本当に久し振りだったから、凄く楽しめたよ。──でも、今はみんなと一緒にピッチを駆ける方が最高かな」

 そう言って笑う風丸の笑顔は、今日の青空よりも澄み切って晴れ渡っていた。 

1 / 2
2 / 2

 見事に晴れあがった空の下、雷門中学の体育祭はつつがなく行われている。

 徒競走などは風丸の独壇場だろうが、それでも各々得意な種目がある。円堂は全員が競うものと騎馬戦と棒倒しの他にもう一つ競技に出ることになっていた。それは丁度昼食の前に行われる。

 風丸が二百メートル走でぶっちぎりのトップを独走して決めてくると、サッカー部の面々がたむろして応援している場所へとやって来た。

「へえ……。次は円堂の出番か」

 昼前の競技が始まるのを待ち構えている豪炎寺に話しかけた。トラックの内側では円堂が隣のクラスの男子と談笑しているのが見える。

「お前はあれには出ないのか?」

 豪炎寺はトラックを顎でしゃくって示した。風丸は一瞬「えっ?」という顔をしたがすぐに、苦笑いする。

「ああ……。あーいうのはさ、お遊びみたいなものだろ? 俺みたいのがお遊びにガチで走りにいったら、空気読めないだけだぜ?」

「そうか……」

 長い前髪を指でかきあげながら、風丸は豪炎寺に答えた。

 もうすぐ梅雨空が広がる季節だというのに、陽射しはじりじりと地面を焼きつくす。風丸の額とうなじに汗が玉のように浮かぶのを、豪炎寺は黙って見ていた。

「次の競技は雷門中名物『借り物競走』です。生徒の皆さんの奮闘に期待します!」

 本部の放送席に座る角馬が、ラインに並ぶ選手たちを煽りたてた。

 パンッ! というスターターピストルの破裂音とともに、競技は開始された。

『借り物競走』はコースの中ほどに置かれた紙を拾い、それに指示された物を借りてゴールしなければならない。雷門中の場合、毎回頭をひねるような指示が書かれているのが毎年の恒例だった。

「おーっと! 雷鳴選手! 用務員の古株さんの帽子を借りてきたアァァ!!」

 どうやら彼の指示には『成人男性の帽子』だったらしい。

 それぞれの生徒たちが苦笑いしながら、他の生徒たちに掛けあったり、はたまた教室まで往復して黒板消しを持ってきたりしていた。それを観客の生徒たちが囃したり、声援を送ったり、むちゃくちゃな指示に腹を抱えるのが常だった。

「円堂の奴、出番だぞ」

 風丸がスタートラインについた円堂を見て、豪炎寺に呼びかけた。

「あいつ、どんな指示食らうんだろ?」

 軽い調子で円堂を見守る風丸の横で、豪炎寺は

「どうだかな」

と並んで立った。

 円堂が他の生徒と一緒にスタートしたのはすぐの事。最初のコーナーを曲がった先に、借り物を指示する紙切れが伏せて置かれている。そこまで辿りついた円堂は、その紙を拾って、開いてみた途端、一瞬ぽかんと立ちつくした。

「なにやってるんだ? 円堂」

 もう他の生徒は、借り物を探しにトラックから慌てて走りだしている。風丸は眉を曇らせた。

 豪炎寺が見ると、円堂は手の中の指示書きにこくんと頷くと、きょろきょろとトラックの外を見回していた。

 いきなり、目が合うとこちらに走りだしてきたので、豪炎寺は首を捻った。

「風丸!」

 円堂が叫ぶ。すぐ側の風丸の顔を見下ろして、豪炎寺は指示書きは風丸に関するものの事なんだろうと理解した。だが、次に円堂が叫んだ言葉は

「豪炎寺! お前も」

だった。

「何が書いてあるんだよ、それ」

 駆け寄った風丸に、円堂は

「あとあと!」

と、ふたりの手を引いて走り始めた。風丸は肩をすくめたが、円堂の腰に背中から手を回してしっかり支えると、全速力で走りだす。豪炎寺もそのスピードに、さっき彼が言っていた事とは真逆だと思いながらも、合わせて走る。

「おぉー!? 円堂選手、同じサッカー部の豪炎寺と風丸を連れてきたぞぉ? さぁ一体、紙には何が書かれてるのかぁ~っ??」

 角馬の大げさなアナウンスとともに、円堂はゴールにぴんと張られた白いテープを切った。

 一位の旗を持った大会委員が円堂が示した指示書きを手にすると、頭を捻りだした。困り果てた様子の彼は、判断を下す役の生徒会長の夏未の前に3人を案内する。夏未は委員から紙を渡されそれを見ると、途端に顔を引きつらせた。

「円堂くん? これはどういう事なの!? 指示には『一番大切な人』ってあるのだけれど?」

 夏未は円堂に指示書きを突きつけた。彼女が言った通りの指示が書かれた紙を前にし、円堂はきょとんとした顔で答える。

「ん? ちゃんと借りてきた……ってうか、連れてきたぜ?」

 円堂が豪炎寺と風丸の顔と夏未とを交互に見比べた。

「だから、『一番』って書いてあるでしょ? どうしてふたりも連れてくるのよ……?」

「いやだって、豪炎寺はサッカー部になくてならない『一番大切な』奴だし、風丸だって俺にとってはいつも支えてくれる『一番大切な』存在だぜ? どっちかなんてないのさ!」

 円堂の答えに、夏未は呆れて頭を抱えだした。

 豪炎寺と風丸は、互いの顔を見て次に苦笑いした。

「まあ、円堂だしな」

「しかたない。円堂だからな」

 くすくす笑い出すふたりと、「ん?」と目を丸くする円堂を見て、夏未は呆れた顔で溜息をついた。

2 / 2
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました

コメント

ログインするとコメントを投稿できます

何をコメントすれば良いの?
『コメントって何を投稿したらいいの・・・」と思ったあなたへ。
コメントの文字制限は140文字までとなり、長いコメントを考える必要はございません。
「萌えた」「上手!」「次作品も楽しみ」などひとこと投稿でも大丈夫です。
コメントから交流が生まれ、pictBLandが更に楽しい場所になって頂ければ嬉しいです!
体育祭
1 / 2

 突き抜けるような青空が晴れ渡る。体育祭にはもってこいの日だ。クラス毎に紅白に分かれ、グラウンドには生徒たちの歓声があちこちで響いていた。

「へぇ、染岡たちは白組なんだ」

 円堂が白い鉢巻きを巻いている染岡たちを見つけた。

「なんだ、円堂たちは赤かよ」

 染岡と半田が、額に赤い鉢巻きをした円堂と豪炎寺と秋を見て言う。

「僕は白だよ」

 マックスも寄って来ると、皆はそれぞれ紅白どちらに入ったのか確認し始めた。

「一之瀬と土門は?」

「白だって」

「俺は……赤、だよ」

「僕も赤なんですけどね!」

「ほう、見事に分かれたものだな」

 鬼道がきっちりとドレッドの上に白い鉢巻きをして皆の元へやって来た。

「ま、今年は俺たち赤組の勝ちで決まりだけどな!」

「なんで?」

 円堂の言葉に半田が不思議そうな顔をした。

「何たって、赤組には風丸が居るんだからな!」

 自信ありげに言う円堂に、染岡たちが口をへの字に曲げた。

「ちっ、元陸上部のあいつが居るんじゃ不公平だろうがよ!」

「何が不公平だって?」

 それまでリレーの打ち合わせをしていた風丸が、やっと皆と合流した。

「風丸ー! 今日はお前の出番だぞ。元気出していこうぜ!」

 ガッツポーズをとる円堂に、風丸はくすっと笑って応えた。

「風丸君は、どの競技に出るの?」

 秋が尋ねると、風丸は指を折り曲げながら数え出した。

「ええと……。100m走と400m走、それからハードルと1500mリレーと、最後の紅白リレー……かな?」

「何だそれ、トラック競技総なめかよ」

 皆が驚いていると、円堂がこくこくと頷いた。

「そりゃ、風丸が今日のエースだもんな。俺は棒倒しと騎馬戦だけど」

「俺も騎馬戦だ。覚悟しろよ、円堂」

 染岡が円堂に肩を押し付けると二人で牽制しあった。



 体育祭は着々と競技を進め、やがて最後の紅白リレーの時間に押し迫った。

「今ってどっちが勝ってるんだ?」

 2年雷門サッカー部全員がリレーをよく見渡せる場所に集まると、得点ボードを確認する。

「同点かー」

 同じ数だけ貼られた白と赤のバラの造花を見て、皆が溜息をつく。と、リレーの開始を告げる空砲が鳴った。

「って事は、この紅白リレーで決着か」

「風丸が走るんだから、赤の勝ちに決まってるさ!」

 円堂がにやりと笑う。

「それはどうかな?」

 鬼道が険しい顔をしてトラックを見つめる。

「風丸のクラスが最後だ」

「あ……!」

 クラスごとに色違いのタスキを掛けた選手達がバトンを受け取っては走り出す。風丸のクラスは赤いタスキだ。

「本当、赤が最後だなんて……」

 秋が困惑した顔で、口元を手で覆った。

「風丸がアンカーだっけ?」

 土門がトラックの内側で、自分の順が来るのを待機している風丸を見て訊いた。円堂が頷く。

 紅白リレーはアンカーのみ2周走る事になっている。待機中の風丸は手首をぶらぶらと捻ったりストレッチをしているようだった。

「あ~あ、また赤が抜かれましたよ」

 目金がずれ落ちたフレームを直しながらほぼ一周遅れの風丸のクラスの選手を見て、ぼやく。皆の中で気まずい空気が流れた。

「いいや、風丸ならぶっちぎりでトップまで走るさ! 俺は信じてる」

 円堂は確信して、拳を振り上げた。リレーは遂に最終周となり、それぞれのクラスのアンカーたちが真っ直ぐに引かれた白線に並び始めた。風丸は手前の選手が走り出したのを確認して、自分のコースに並んだ。

「どうなるんだよ……」

 皆の顔色が沈み始めた。だが、円堂はぐっと胸元で拳を握りしめている。

 他のコースのアンカーたちが走り始めても、風丸の元にはバトンが渡されない。 他のアンカーたちが4番目の角を曲がり始めた頃に、やっと直前の選手が風丸の元へ駆けて来る。

「あっ!」

 皆が思わず声を上げた。風丸に渡そうとした選手がバトンを取り落としたのだ。

「ヤバくね?」

「……ちっ!」

 染岡が舌打ちする。

 白線ラインにいた風丸は黙ったまま、バトンを落とした選手をじっと待っていた。拾い上げた選手が風丸に、ゴメンというポーズで謝るとバトンを渡す。頷くと風丸は、地面を思い切り蹴りつけて走り出した。既に他のコースの選手が追い抜いて手前にいる。

「……たく、あの野郎!」

 染岡がいきなり前に乗り出すと、大声で風丸に喝を飛ばした。

「風丸っ、まくれ────っ!!!」

「……おいおい、染岡。風丸は赤組……」

「関係ねーだろっ!」

 呆れ顔の半田に染岡は反発した。

「風丸は……俺たちサッカー部の一員だ。応援するのは当たり前だろ!」

 染岡の言葉に、他の皆がそれぞれこくんと頷く。ぽかんと口を開けた半田がやれやれと肩を竦めた。

「『まくれ』ってさ、競輪用語だよね?」

 マックスがくすくすと半田に耳打ちした。

「見ろよ!」

 円堂がトラックを指差す。風丸が手前の選手を抜いた。

「速えぇ!」

「当たり前だろ! あれが風丸だ!」

 円堂が握りしめた拳をぐっと上げる。見る見るうちに風丸が一人、また一人と抜いてゆく。

「ファンタスティックだね!」

 一之瀬が感嘆して見つめる。土門が呼応するように大声を張り上げた。

「よーし! 俺も応援だ。風丸ー、ファイトだ!」

 それに合わせるように、他の皆も風丸に応援を送りだした。風丸はまるで弾丸のようにトラックを走り抜け、コーナーを曲がる。皆が応援してる前を通り抜ける時、風丸がふっと顔を向けると、笑いかけた。

「あ……、あいつ」

「笑ってた」

 走り去った風丸を見て、皆が呆然とする。

「へっ、余裕じゃねぇかよ!」

 染岡が苦笑いすると、更に大声で風丸に声援を送った。

「行け! 風丸」

「頑張ってー、風丸君!」

「風丸!」

 2周目に入った風丸が更に一人抜く。すぐにコーナーを曲がったところでまた一人抜いた。

「行けるか?」

「トップの奴はもうすぐだぞ」

 皆がいる場所の曲がったすぐがゴールだ。疾走する風丸が皆のいる場所へ差し掛かった。

「風丸──っ、ぶっちぎれ──っ!!!」

 円堂が精一杯声を張り上げた。円堂の声に反応するように、風丸は更にスピードを上げると、トップの選手とほぼ並んだ。ゴールには、白いテープが実行委員のスタッフたちの手で張られていた。それをめがけて風丸は最後のダッシュを仕掛けた。

「あ!」

「いったぁ!」

 隣の選手を追い抜き、テープを切ったのは風丸だった。

「やった──っ!!」

 皆が諸手を上げて大喜びをしている頃、トラックの風丸は足をゆっくりと止め、両膝に手をつくと呼吸を整えた。赤い鉢巻きの下から滲んだ汗が零れ落ちる。

「おめでとう、風丸君」

 祝福の声に顔を上げると、体操服に腕章を付けた夏未が手を差し出していた。

「凄かったわね。あなたが一位よ。私は実行委員だからみんなみたいには声援できなかったけれど、あなたの事、応援してたわ」

 風丸はにっこりと微笑むと、夏未の手を取った。

「ありがとう」

「来たわよ」

 握手を送ると、夏未は風丸の元に駆けて来る皆を示し、小さく手を振って本部のテントへと去っていった。

「風丸──っ、やっぱお前凄いよ!! 最高だ!」

 円堂が真っ先に駆けてきて、風丸に抱きつく。円堂に続くように、他の皆も風丸に祝福の言葉をかけたり、肩を叩いたり、頭をもみくちゃになるほど撫でまわした。豪炎寺が黙ったまま、右の親指を上げる。風丸も円堂に抱きつかれたまま、微笑み返すと親指を上げた。

「随分余裕だったじゃねぇか。楽勝って奴か?」

 染岡がつっけんどんに声をかける。そこへ半田が呆れた顔で突っ込んだ。

「なんだよ、染岡。さっきは『風丸は仲間だから応援するのは当たり前だ』って」

「うるせぇよ!」

 顔を紅潮させて、染岡は半田の脳天に拳をぐりぐりと押し付ける。思わず風丸が噴き出した。

「どうだ、風丸。久々の陸上競技は?」

 鬼道がゴーグルの下の瞳を細めて、風丸に感想を訊いた。風丸は皆の顔を見渡すと、ゆっくり頷いた。

「ああ。本当に久し振りだったから、凄く楽しめたよ。──でも、今はみんなと一緒にピッチを駆ける方が最高かな」

 そう言って笑う風丸の笑顔は、今日の青空よりも澄み切って晴れ渡っていた。 

1 / 2
2 / 2

 見事に晴れあがった空の下、雷門中学の体育祭はつつがなく行われている。

 徒競走などは風丸の独壇場だろうが、それでも各々得意な種目がある。円堂は全員が競うものと騎馬戦と棒倒しの他にもう一つ競技に出ることになっていた。それは丁度昼食の前に行われる。

 風丸が二百メートル走でぶっちぎりのトップを独走して決めてくると、サッカー部の面々がたむろして応援している場所へとやって来た。

「へえ……。次は円堂の出番か」

 昼前の競技が始まるのを待ち構えている豪炎寺に話しかけた。トラックの内側では円堂が隣のクラスの男子と談笑しているのが見える。

「お前はあれには出ないのか?」

 豪炎寺はトラックを顎でしゃくって示した。風丸は一瞬「えっ?」という顔をしたがすぐに、苦笑いする。

「ああ……。あーいうのはさ、お遊びみたいなものだろ? 俺みたいのがお遊びにガチで走りにいったら、空気読めないだけだぜ?」

「そうか……」

 長い前髪を指でかきあげながら、風丸は豪炎寺に答えた。

 もうすぐ梅雨空が広がる季節だというのに、陽射しはじりじりと地面を焼きつくす。風丸の額とうなじに汗が玉のように浮かぶのを、豪炎寺は黙って見ていた。

「次の競技は雷門中名物『借り物競走』です。生徒の皆さんの奮闘に期待します!」

 本部の放送席に座る角馬が、ラインに並ぶ選手たちを煽りたてた。

 パンッ! というスターターピストルの破裂音とともに、競技は開始された。

『借り物競走』はコースの中ほどに置かれた紙を拾い、それに指示された物を借りてゴールしなければならない。雷門中の場合、毎回頭をひねるような指示が書かれているのが毎年の恒例だった。

「おーっと! 雷鳴選手! 用務員の古株さんの帽子を借りてきたアァァ!!」

 どうやら彼の指示には『成人男性の帽子』だったらしい。

 それぞれの生徒たちが苦笑いしながら、他の生徒たちに掛けあったり、はたまた教室まで往復して黒板消しを持ってきたりしていた。それを観客の生徒たちが囃したり、声援を送ったり、むちゃくちゃな指示に腹を抱えるのが常だった。

「円堂の奴、出番だぞ」

 風丸がスタートラインについた円堂を見て、豪炎寺に呼びかけた。

「あいつ、どんな指示食らうんだろ?」

 軽い調子で円堂を見守る風丸の横で、豪炎寺は

「どうだかな」

と並んで立った。

 円堂が他の生徒と一緒にスタートしたのはすぐの事。最初のコーナーを曲がった先に、借り物を指示する紙切れが伏せて置かれている。そこまで辿りついた円堂は、その紙を拾って、開いてみた途端、一瞬ぽかんと立ちつくした。

「なにやってるんだ? 円堂」

 もう他の生徒は、借り物を探しにトラックから慌てて走りだしている。風丸は眉を曇らせた。

 豪炎寺が見ると、円堂は手の中の指示書きにこくんと頷くと、きょろきょろとトラックの外を見回していた。

 いきなり、目が合うとこちらに走りだしてきたので、豪炎寺は首を捻った。

「風丸!」

 円堂が叫ぶ。すぐ側の風丸の顔を見下ろして、豪炎寺は指示書きは風丸に関するものの事なんだろうと理解した。だが、次に円堂が叫んだ言葉は

「豪炎寺! お前も」

だった。

「何が書いてあるんだよ、それ」

 駆け寄った風丸に、円堂は

「あとあと!」

と、ふたりの手を引いて走り始めた。風丸は肩をすくめたが、円堂の腰に背中から手を回してしっかり支えると、全速力で走りだす。豪炎寺もそのスピードに、さっき彼が言っていた事とは真逆だと思いながらも、合わせて走る。

「おぉー!? 円堂選手、同じサッカー部の豪炎寺と風丸を連れてきたぞぉ? さぁ一体、紙には何が書かれてるのかぁ~っ??」

 角馬の大げさなアナウンスとともに、円堂はゴールにぴんと張られた白いテープを切った。

 一位の旗を持った大会委員が円堂が示した指示書きを手にすると、頭を捻りだした。困り果てた様子の彼は、判断を下す役の生徒会長の夏未の前に3人を案内する。夏未は委員から紙を渡されそれを見ると、途端に顔を引きつらせた。

「円堂くん? これはどういう事なの!? 指示には『一番大切な人』ってあるのだけれど?」

 夏未は円堂に指示書きを突きつけた。彼女が言った通りの指示が書かれた紙を前にし、円堂はきょとんとした顔で答える。

「ん? ちゃんと借りてきた……ってうか、連れてきたぜ?」

 円堂が豪炎寺と風丸の顔と夏未とを交互に見比べた。

「だから、『一番』って書いてあるでしょ? どうしてふたりも連れてくるのよ……?」

「いやだって、豪炎寺はサッカー部になくてならない『一番大切な』奴だし、風丸だって俺にとってはいつも支えてくれる『一番大切な』存在だぜ? どっちかなんてないのさ!」

 円堂の答えに、夏未は呆れて頭を抱えだした。

 豪炎寺と風丸は、互いの顔を見て次に苦笑いした。

「まあ、円堂だしな」

「しかたない。円堂だからな」

 くすくす笑い出すふたりと、「ん?」と目を丸くする円堂を見て、夏未は呆れた顔で溜息をついた。

2 / 2
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

PAGE TOP