ひみつのやくそく
BL要素はないです。
ヒロト中心の小学生パラレル設定です。そのため、わざと平仮名多めにしてあります。
以下は当時のあとがきです。
不意に小説の神が降りてきたのでw、書いてみました。
ヒロト中心小学生パロです。ちょっと円←ヒロで円←風で星二郎←ウルビダ気味?
ともかく徹底した純然たるジュブナイルを目指したつもり。
<2010/11/10脱稿。同12/6ちょこっと改訂>
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ヒロトは父さんがだいすきでした。
父さんと言っても、ヒロトとは血はつながってはいません。父さんの名まえは吉良星二郎といって、ヒロトは基山という名まえ。父さんはヒロトのいるお日さま園みんなの父さんなのでした。
まいしゅう、日ようびが父さんのくる日。お日さま園のみんなは父さんがくるのをまちこがれています。父さんがくるときは、みんなにいっぱいのプレゼント、そしてにこにこした大仏さまのようなえがおが、みんなのごほうびでした。
みんなもヒロトと同じように、父さんがだいすきでした。でも、父さんはいちばんにヒロトをかわいがるのです。父さんがお日さま園にくると、まずヒロトの頭をなでてくれます。そうしてほかのみんなの顔を見わたして、まんぞくそうににっこりするのでした。
父さんがくるときはいつももうひとり、瞳子姉さんがいっしょにくるのがきまりです。じつは瞳子姉さんは父さんとただひとり、血がつながっているのです。姉さんもヒロトやみんなをきょうだいのようにかわいがってくれます。でもときどき、ヒロトを見るとつらそうな顔をするのでした。そんな姉さんを見るたびヒロトは、どうしたら姉さんはそんな顔をしないですむのだろう? と思うのでした。
「姉さんはどうしてかなしそうな顔をするんだろうね?」
ある日ようび、ヒロトはおなじとしの玲名という女のこにそう聞いてみました。すると玲名は、ヒロトを軽べつしたような目でいいました。
「なんだ、ヒロト。おまえは知らないのか? おまえは父さんにとってとくべつだからな」
「オレがどうしてとくべつなんだろう?」
「それはおまえが父さんのほんとうの……」
玲名がいおうとするととおくで瞳子姉さんが、首をよこにふりました。玲名はそれを見ると、とたんに口をつぐんでしまうのです。ヒロトがどうしたのかと話しかけても、ぱっとせを向けて走っていってしまいました。
玲名はときどき、ヒロトにいじわるをします。話しかけてもしらんぷりしたり、だいすきな宇宙についてかかれた本をかしてもらおうとしてもほかのみんなにはわたすのに、ヒロトにだけはわたそうとしなかったりします。とくに、父さんがヒロトをかわいがってくれたあとは、おこった顔で見るのです。そんなときの玲名の目をよく見ると、とてもかなしそうな色をしているのでした。
ヒロトは玲名がなぜおこっているのか、とてもふしぎでたまりませんでした。
ヒロトには分からないことばかりです。
ある日の土ようびのことでした。
じつはお日さま園は、ヒロトたちのいるところだけでなく、ほかにも日本じゅうにあるのです。そのほかの、もうふたつのお日さま園の子どもたちといっしょにちかくの山へキャンプにいくことになりました。おおぜいの子どもたちとといっしょということもあって、みんなは大よろこびです。
でもヒロトにとっては、ちょっぴりゆううつでした。それはほかの園の、晴矢と風介もいっしょだからです。
晴矢と風介はいつもいっしょにヒロトをいじめます。かみの毛を引っぱったり、わざところばせたり、はやし立てたりするのでした。
「なまっちろい肌しやがって。べんきょうばっかして父さんの気をひいているんだろう?」
「おまえを見るとこごえた気ぶんになるよ。ちかよるな!」
その日も、そんなふうにヒロトをいじめてきたのです。
「どうしてだよ? どうしてふたりとも、オレをいじめるの?」
ヒロトが聞くと、晴矢と風介はせせら笑って、
「じぶんの顔に聞いてみな!」
と、いうのです。ヒロトはどうしてふたりがそんなことをするのか、さっぱり分かりません。
ヒロトはとてもかなしくなって、みんなのいるキャンプ場からそっとはなれました。
もういやだ。父さんと姉さんはとてもやさしいけれども、玲名はオレをむしするし、晴矢と風介はいつもいじわるをする!
ヒロトがひとりぼっちで山のなかをあるいていると、いつの間にかじぶんのいる場所がどこなのか、わからなくなってしまいました。あるいてもあるいても、目のまえには林がひろがるばかりなのでした。
大ごえで父さんや姉さんをよんでみても、ほかのなかまの名まえをよんでみても、ヒロトのこえは高いこずえの向こうにきえていくばかりです。
目からかってになみだがぽろりとこぼれます。とうとうヒロトは、林のなかでうつむいて、目をつぶってしゃがみこみました。
ああ。オレはもうほんとうのひとりぼっちなんだ……!
そのときです。とおくのほうから、子どもたちの笑うこえが聞えてきたのです。
お日さま園のみんなだ。そう思ってヒロトは立ちあがると、こえが聞えるほうにかけだしました。目のまえの林がひらけて、ひろがってきたのはキャンプ場ではなく大きなひろばでした。そこにいた子どもたちも、ヒロトの知らない顔ばかりです。
ヒロトはがっかりしてひろばを見ました。ひろばにはサッカーのゴールがふたつおいてあります。見しらぬ子どもたちがあつまって、サッカーをしようというのでしょうか?
「みんな! サッカーやろうぜ!」
頭にバンダナをまいた元気そうな男のこがそういうと、ほかの子どもたちが楽しそうにうなずきます。
「でもオレたち、ぜんぶで15にんしかいないぞ? ひとり足りないんじゃないか」
ひとりの子が、そこにいた子どもたちのかずを数えてこまった顔をしました。
「そうだな。どっちかが8にんだと、戦力がかたよらないか?」
変わったかたちのメガネをかけた、頭のよさそうな男のこがバンダナをまいたこにいいました。
「そうか。それじゃ不こうへいだな。う~ん」
じつはヒロトはお日さま園でいちばん、サッカーがじょうずだったのです。でもヒロトには、知らない子どもたちの中にはいって、
「オレもいっしょに入れてくれよ!」
といえるくらいの、ずうずうしさはありません。
だまって木のかげから見ていると、あたりを見まわしたバンダナの男のこと目があってしまいました。
びっくりして木にかくれようとすると、その男のこがヒロトのいる方へかけよってくるではありませんか。
「ねえ、きみ。オレたちといっしょにサッカーやらないか?」
「で、でも……。オレはきみたちのことは知らないし……」
ヒロトがおずおずというと、男のこはにっこり笑いかけます。
「だいじょうぶ! みんなサッカーがだいすきだから、そんなこと、気にはしないさ!」
「でも……」
「オレは円堂守っていうんだ。きみは?」
「基山……ヒロト」
こたえると、円堂はヒロトに手をさしだしました。
「じゃ、ヒロト。手をだして」
ヒロトが円堂に手をだすとしっかりとにぎってきたのです。その手はとてもあたたかでした。
「よし! これでオレたちはともだちだ。サッカーやろうぜ!」
円堂のえがおとあたたかな手に、ヒロトは思わずうなずいてしまいました。
こうしてヒロトは、円堂とそのなかまの子どもたちといっしょにサッカーを始めることになったのです。
みんなは見しらぬヒロトをにこにこしたえがおでむかえてくれました。玲名のようにむしをしたり、晴矢や風介のようにいじわるをする子どもはいません。
ヒロトにとって、円堂たちといっしょにサッカーをするというのは、とてつもないよろこびでした。父さんも姉さんもそこにはいませんでしたが、たぶんはじめての、心からたのしいといえるひとときだったのです。
やがて日が西にかたむいて、夜がちかづいてきました。
「円堂、もうかえらないとおこられるぞ」
円堂のなかまのひとりがそういうと、そのほかの子どももかえりじたくを始めました。
「しょうがないなぁ」
円堂もグローブをぬいでかえろうとしています。けれども、ヒロトにはもう、かえる道はわかりません。
「じゃあな、ヒロト。またあした」
「あっ、円堂くん」
よびかけても、円堂は手をふってじぶんの家にかえってしまいます。ヒロトはとほうにくれました。
たのしいひとときは終わってしまったのです。かなしくなって夕日を見つめていると、とつぜんとおくの林からヒロトをよぶこえが聞えます。
「ヒロト! こんなところにいたのね?」
それは瞳子姉さんのすがたでした。うしろから、しんぱいそうな顔をした父さんがヒロトを見つけて、けっそうをかえてかけよってきます。
「おお! ヒロトや。しんぱいしたのですよ」
父さんのおおきな手が、ヒロトをぎゅっとだきしめます。
「ごめんなさい……。父さん」
「いいや。ヒロトがぶじならなによりですよ」
父さんのむねのなかに抱かれていると、ヒロトはやっとほっとできました。でも父さんのおおきな肩のあいだから、玲名がじぶんを見ているのに気がつきました。
「さあ、かえりましょう」
父さんと姉さんにみちびかれながら、もとのキャンプ場へかえろうとすると、玲名がヒロトにむかってきていいました。
「そうやって、いつもおまえは父さんの気をひこうとする!」
そういったきり、玲名はぷいとよこをむいてしまいました。
ヒロトに、いいようのない悲しみがおとずれたのです。
夜になって、テントの中ではお日さま園のみんなが寝しずまっていました。でもヒロトは、ひるま円堂たちといっしょにサッカーをしたことが寝ぶくろに入っていても、ゆめのように思い出せるのです。むねがどきどきしてとても眠れそうにありません。
またみんなとサッカーがしたい。あんなたのしいことはふたつとない……と。
よく日のことです。
きのうのことがすっかり忘れられなくなったヒロトは、こっそりキャンプ場をぬけだして、きのうのひろばへ行ってみることにしました。
林をぬけてたどりつくと、はたして、きのうと同じように子どもたちがサッカーをしているではありませんか。
「あっ。おお~い! ヒロトじゃないか!」
円堂がいちはやくヒロトを見つけて、声をかけてきます。
「きょうも円堂くんたちとサッカーしにきたんだ。いいかな?」
心がくすぐったくなるのをかんじながらいうと、
「もちろん、だいかんげいさ!」
と、みんなはくちぐちにヒロトをむかえてくれるのです。ヒロトはもう、むちゅうになってみんなとサッカーを始めました。
やがて日がてっぺんまでのぼって、ひといきつこうとみんなはやすむことにしました。
円堂のまわりにはいつもおおぜいの子どもたちがいます。円堂のお日さまみたいなえがおに、みんながひかれたようにあつまっているのです。
ヒロトがその場をはなれ、水のみ場でのどをうるおしていると、ほかの子どもたちをとおまきにして、ひとりの子どもがじっと円堂を見ているのに気がつきました。
なぜヒロトがその子に気がついたのか、それはその子の目が玲名がじぶんを見るときのように、かなしい色をしていたからでした。
その子はきのう、ずっと円堂のそばにいた子どもです。長いかみの毛を頭のてっぺんでくくっているし、玲名にまけないくらいきれいな顔だちをしていたので、てっきりヒロトはその子は女のこだと思っていました。
「あの……きみ」
「うん? なんだ」
はなしてみて初めて、ヒロトはその子がじぶんとおなじ男のこだと気がつきました。びっくりしてヒロトは、
「ごめん」
とくちごもりました。
「ええ……と、その」
「オレは風丸だ。風丸一郎太」
「風丸くん。きみはどうしてここにいるの。円堂くんといっしょじゃないの?」
ヒロトが思いきってそういうと、風丸はおどろいたように、おおきな目を丸くしました。そうしてふし目がちにひろばをながめるのです。
「ヒロトは……円堂のことがすきか?」
どっきりしてヒロトは風丸を見ます。でも左ほほにかかる長いまえ髪が、風丸がいまどんな顔をしているのか、ヒロトからは見えなくさせていました。
「うん。だいすきだよ、円堂くんのことは」
円堂といっしょにいると、ヒロトの心はとてもあたたかくなります。まるでお日さまにてらされてるみたいに、ぽかぽかしてくるのです。かなしいことがあっても、みんなわすれてしまえるのですから。
「……だろうな。円堂のことをすきにならないヤツなんていない」
「じゃあ、風丸くんも円堂くんのことをすきなんだね」
ヒロトがそういうと、長いかみをゆらして風丸はふりむきました。おおきなちゃいろの目は、どこまでもふかく、かなしみをたたえていたのです。
ああ、どうして。どうしてこの子はこんなにかなしい目をしているんだろう。
「……でも、円堂をすきになるにはかくごがいるぜ」
「かくごって?」
ヒロトは首をかしげたけれど、風丸はかまわずことばをつづけます。
「そう、オレは円堂のことがすきだよ。でも円堂のことをすきになればなるほど……つらくなる」
「どうして?」
ヒロトには、風丸のことばがとうていしんじられません。ひとをすきになるのに、それがつらくなるだなんて、それはとてもふしぎなことなのでした。ヒロトは父さんがだいすきでしたが、つらいだなんて思ったことはいちどもありませんでしたから。
「円堂はみんなの円堂だからな。だれかひとりのものじゃない。……でも、円堂がオレいがいのだれかといっしょだと、むねがくるしくなるのさ」
むねがくるしくなるだなんて、ますますヒロトには考えられません。
「風丸くん。オレ、君のいってること、ぜんぜん分からないよ」
「そうか、ヒロト。おまえには分からないか……」
そういって、風丸はためいきをつくばかりです。ヒロトはどうしたら、風丸のこころがつらくなくなるのだろうかと考えました。いっぱい考えて、あることを思いつきました。
「そうだ! 風丸くん。オレたちともだちになろうよ!」
きのうの円堂がヒロトにそういってあくしゅしてくれたのを思いだしたからです。
「なにをいってるんだ、ヒロト。へんなヤツだなぁ、おまえ」
風丸はあきれた顔をしましたが、すぐに思いなおしたのかこういいました。
「よし、いいぜ。オレたちともだちになろう。こんなふうにウジウジしてるのって、ほんとうはイヤなんだ、オレ」
風丸はすこしえがおをとりもどしました。
「でもオレたちがともだちになるには、すこしじょうけんがあるぜ。いいか?」
「なんだい、じょうけんって」
ヒロトがきくと、風丸は
「じゃあ、ヒロト。手をだしてみろ」
とうながします。
ヒロトがいぶかしげに手をさしだしますと、
「いや。手のひらじゃなくて、こうのほうをだすんだ」
とじぶんの手でしめしました。ヒロトがいうとおりにすると、風丸はヒロトの手のうえに、じぶんの手をかさねたのです。
「よし。オレがこれからいうことを、ヒロトも同じようにつづけるんだ。いいな?」
ヒロトがうなずくと、風丸はこう、いいだしたのでした。
「ひとつ。円堂をひとりじめしない!」
「ひとつ。円堂くんをひとりじめしない!」
ヒロトは風丸につづいて、同じことばをいいました。でも、ちょっと首をかしげてしまいます。
「ひとりじめしない、って?」
「円堂とはびょうどうにつきあおうってことだよ」
と、風丸がこたえます。
「つぎ。ひとつ、いつでもともだちのために!」
「ひとつ、いつでもともだちのために! オレは風丸くんのために、風丸くんはオレのために、だね?」
お日さま園においてある本のなかに、そんなことばがあったとヒロトはおもいだしました。
「そうさ。ひとつ。ほかのヤツが円堂となかよくなっても、やきもちはやかない!」
「ひとつ。ほかのヤツが円堂となかよくなっても、やきもちはやかない! ……やきもち?」
「おとこらしくないだろ?」
ヒロトがきくと、風丸はじぶんにいい聞かせるようにそういいました。
「うん。分かったよ、風丸くん」
「あ、それから……」
風丸はもうひとつだけ、つけたします。
「ひとつ。このやくそくはだれにもナイショ! いじょうだ」
「ひとつ。このやくそくはだれにもナイショ!」
「分かったか、ヒロト。やぶったら、オレたちはもうともだちじゃなくなるからな」
「うん、分かったよ。風丸くん」
ヒロトが大きくうなずくと、風丸はまんぞくそうな顔をしました。
「これはしんしきょうてい、ってヤツさ」
「しんし……なに?」
ヒロトが首をかしげると、とおくから円堂がふたりに手をふりました。
「風丸ー、ヒロト、お前たちなにやってるんだ?」
かけよってきた円堂に、ふたりはにっこりわらいかけました。
「オレたちともだちになったのさ」
「へぇ~。よかったじゃないか!」
円堂はまるでじぶんのことのようによろこんでくれました。風丸は円堂の手をぎゅっとにぎるとヒロトを見て、
「ほら」
とよびかけます。ヒロトはいっしゅん、なんだかわかりませんでしたが、風丸がめくばせするので同じように、円堂のあいてる手をぎゅっとにぎりしめました。
「ん? どうした、どうした?」
円堂がふたりの顔を、ふしぎそうにかわりばんこで見ると、風丸が、
「よし。かけっこだ!」
と大きな声でさけびます。その声をあいずがわりに円堂をまんなかにして、3人は手をつないだままひろばを走りだします。
ヒロトはとてもゆかいな気分になりました。風丸もわらっています。
風丸はその名前のように、とてもさわやかな子どもだったのです。そのひとみからはいつしかかなしみが消えて、お日さまの光がキラキラときらめいていたのでした。風丸のそのひとみを見て、ヒロトはほんとうによかったと、心のおくからそう思ったのです。
たのしい時間はあっというまにすぎてしまいます。ヒロトも円堂とそして風丸ともおわかれするときがやってきたのです。
「ざんねんだけど、しばらく会えない。でもいつかきっと、またここへ来るから」
ヒロトは円堂と、風丸の手をかわるがわるにぎると、そういってふたりにわかれをつげました。
「じゃあ、またな!」
ふたりはヒロトにわらいかけながらなんども手をふりました。そうしてヒロトはもお日さま園にもどっていったのです。
次の日ようびがきました。いつもどうりに、父さんがやってきてみんなにいっぱいのおみやげをわたしてくれました。
「ヒロト。いつもいい子にしているね。こっちにおいで」
父さんがヒロトのあたまをなでようと、手まねきします。それをよこ目で玲名があの、かなしそうな目をしているのにヒロトは気がつきました。
ヒロトはあの日の風丸のことを思いだしたのです。
『オレは円堂のことがすきだよ。でも円堂のことをすきになればなるほど……つらくなる』
あのときの風丸と玲名のかおが、ぴったりかさなるのをヒロトはかんじました。ヒロトはやっと、あのときの風丸のきもちが分かったのです。
すきになればなるほど、つらくなる……。ああ、そうか。風丸くんがいってたのって、こういうことだったんだ!
ヒロトはさっそく、星二郎にむかっていいました。
「父さん、ありがとう。でも玲名もとってもいい子にしていたんです。だからオレよりも玲名をなでてくれませんか?」
父さんはヒロトを見て、おどろいた顔をしましたが、すぐにいつものほとけさまのような顔をしたのです。
「ヒロトはほんとうに、いい子だ。ほら、おいで玲名」
その名をよぶと、父さんは玲名のあたまをやさしくなでたのです。すると玲名はぱっと顔をあからめて、そしてすぐにほほえんだのです。そのひとみはあのときの風丸のように、キラキラきらめいていたのでした。
「いったい、さっきはどうしたんだ。ヒロト」
そのあと玲名はヒロトにふしぎそうな顔でききました。
「だって、玲名がうれしくなるんじゃないかと思ったからさ」
ヒロトのことばに、玲名はくびをかしげました。
「おまえ……。へんだぞ」
「風丸くんとやくそくしたからね。しんしきょうてい、ってヤツさ」
「かぜまる、ってだれだ?」
玲名はますますふしぎそうな顔します。でもヒロトはにこにこわらっていました。
だって玲名のひとみからは、あのかなしみがすっかりきえてしまっていたのでしたから。
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