ひだかみゆき

超次元サッカーの元陸上部大好きマンです。

プロフィールタグ

投稿日:2016年05月23日 16:19    文字数:13,139

1月2日

ステキ数:3
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメントはあなたと作品投稿者のみに名前と内容が表示されます
サイトから再掲。
円風姫はじめ話です。えっち描写はそれなりに…。

以下は当時のあとがきです。メールを頂いたお方のHNを表記してあったのですが、再掲に伴いイニシャルに変えさせていただきました。よしなに。

円堂と風丸の姫はじめのお話、でしたw。
実を申しますとNさまからいただいたメールでの(円風祭りは)「ひめはじめですね?」の一言がなければこのお話は生まれなかったのです。
最初、その発想はなかったわ……と思いつつも、アイディアは戴いちゃいました。
1/2はとうに過ぎてしまいましたが、このお話は是非ともNさまに捧げたいと思います。ありがとー。
<2010/1/3~1/14 脱稿>
1 / 4
 毎年1月2日は、それぞれの両親が町内会の新年会で温泉一泊旅行に出かけてしまうので、円堂か風丸の自宅でふたりきりで過ごすのが慣わし、だった。小学生のうちは、どちらかの祖母がふたりの面倒を見てくれていたのだが、流石に中学生ともなると羽目を外したいのもあるし、ふたりともそれなりに分別はついている。出かける前の親たちに何度も戸締まりは確認しろだの何やかやと心配されながらも、
「大丈夫、大丈夫。何たって風丸がいるもんな」
「こう見えても円堂は結構責任感ありますよ」
と、充分安心させるくらいことはお茶の子さいさいだった。
 親たちを見送ってしまうと、円堂は風丸ににかっと笑いかけた。
「なんかさ。こうして家で風丸とふたりっきりで一日中、ってなると正月が来たな~って感じがする」
「俺もそうさ。実際は昨日が元旦なんだけど。不思議だよな」
 今年は円堂の家で過ごすことになった。早速、円堂が大晦日の大掃除で押し入れから見つけた羽子板を持ち出してきた。
「ほら、やろうぜ」
「お手つきしたら、顔に墨塗るんだろうな?」
「もっちろん!」
 円堂あらかじめ用意していた筆ペンを取り出して見せる。
「じゃあ、負けられないな。真剣勝負でいくぞ」
「おう!」
 意気揚々と羽根突きを始めたものの、普段のサッカーとは勝手が違うのか、円堂は何度も小さな羽根を取り落とした。
「おいおい。三度目だぞ」
 呆れ顔で風丸は筆ペンを取った。既に円堂の鼻の頭と片頬が墨でいたずら書きされている。
「額に『肉』って書いてやろうか」
 意地の悪い顔で風丸は円堂の額をつつく。
「うわ、それやめろよー」
 思わず手で額を隠した円堂を苦笑しつつ、風丸はその頬に猫のひげを書き加えた。
「にしても、円堂。お前下手すぎ。ゴールを守ってる時と違って全然ダメじゃないか」
「だって、風丸が俺が走る逆の方に寄こすんだもん」
「当たり前だろ。そうそう、返しやすい所に打つもんか」
 筆ペンの蓋をきゅっと閉めると、風丸は尻ポケットに仕舞い込む。
「ちぇっ。よし、今度は作戦変えてやる」
「負けられるかよ」
 鼻白んで睨む円堂を、風丸は軽くかわして羽根を打ち上げる。
「それっ」
「よしっ!」
 何とか羽根を板で拾って、円堂は打ち返しながら風丸に叫んだ。
「風丸っ!」
「なんだ、よ」
 難なく風丸は円堂に返す。
「お前のこと、大好きだ!」
「えっ」
 円堂の言葉に思わず風丸の身が固まる。道路に黒い玉のついた羽根が跳ねるように落ちた。
「よし! 俺の勝ちだな」
「あ……。ず、ずるいぞ、円堂!」
「なにが?」
 慌てる風丸に、にやりと円堂はほくそ笑んだ。
「だ、だって。いきなり何言い出すんだよ!」
「何って普段、俺がお前に感じてることを言っただけ」
「う」
 恥じらっているのか、頬と鼻の頭を真っ赤にさせた風丸は、思わず目を伏せてしまった。
「お前、ちっちゃい頃からメンタル弱いもん。もう少し、鍛えた方がいいんじゃないのか」
「そりゃ、自分で分かってるけど……。でもなぁ!」
「どっちにしたって、勝負は決まりだぜ。さあ」
 にんまりとした笑顔で右手を差し出す円堂に観念したのか、風丸はふぅと溜息をつくと筆ペンを渡し右頬を向けた。
「分かった。ほら、やれよ」
 渡された筆ペンを手にし、円堂は何を書いてやろうかと考えて……、そしてその滑らかな頬に釘付けになった。つんと少し上を向いた鼻先。ぎゅっと閉じられた目。ふっくらとした赤い唇。それらが形良く配置された横顔に思わず見とれる。何故だか黒い墨で汚してしまうのは惜しい気がした。
「どうした? 円堂。さっさとやれって」
「や、でもさ……」
 なかなか円堂が動かないことに訝しんだのか、風丸が催促する。う~んと唸っていると、急に体の芯から震えがこみ上げた。
「な、なあ。なんか冷えて来ないか」
 躊躇いがちな円堂の言葉に、風丸も目蓋を上げて空を見上げた。真冬特有のしんと冷えきった空は日が傾き、短い昼の終わりを告げて暗闇に染まり始めている。
「汗かいた所為じゃないのか? まあ、もう夕方だしな」
「うん。もう家に入って、風呂にでも入ろうぜ」
「ああ。でも」
 風丸は少女のような風貌のくせに、性格は真面目というか少々頑固で、一度決めたことは絶対に譲らない。飽くまでお手つきの罰はちゃんと受ける気でいる。円堂は本当の気持ちを告げたら、却って怒られそうな気がしたので、何とかごまかそうとした。
「分かってる、分かってる。でもこのまま外にいたら風邪引くだろ! さっさと家に入ろうぜ」
 無理矢理背中を押して、風丸を自分の家に押し込んでしまった。
「よし。ならここでやれ、円堂」
 だがそんな気も知らずか、玄関に入るや否や、風丸は正面から円堂の両肩を掴むと己の顔を突き出した。
「う」
「どうせすぐ風呂に入るんだろ。どんなんでもいいぜ。思い切りやれよ」
 円堂の右手に筆ペンを握らせると、再び目蓋を閉じた。自分がどんなにか躊躇してるだなんて、思いもしない表情で。円堂は目を瞑った風丸の顔を見つめているうちに、ふとある考えが閃いた。
「よしっ。じゃあ、いくぜ。風丸」
「さっさとやれって」
 円堂は催促する風丸の顔を指で持ち上げ、その右頬に唇を寄せると、その柔らかそうな皮膚に思い切り吸い付いた。ちゅぅっと音を立てて唇を離す。
「え、えええええ、円堂っ……!!」
 流石の風丸もこれには仰天したようだ。しどろもどろになりかくかくと顎を上下させた。
「な、何するんだよっ。墨じゃないのかよ!?」
「ん。こっちの方がいいかな~って」
「バ、バカじゃないのか。墨なら風呂で落ちるけど、こんなの下手したらしばらく消えないだろっ!」
 大きく充血した跡のついた頬を擦って、風丸は顔を真っ赤にして抗議の目を向けた。ほんの少し、目尻に涙が浮いている。
「へへっ。どうせ新学期までには消えてるって。それとも……」
 円堂は人差し指を風丸の唇に押し当てる。
「こっちにした方が良かった?」
 今度こそ風丸の悲鳴のような大声が、円堂家の玄関に響き渡った。
「円堂のバカ──ッ!!」
1 / 4
2 / 4

「全く。お前最近、デリカシーってもんが欠如してるんだよな」
 ぶつくさと文句を垂れながら、風丸は着ていたセーターを脱ぎ捨てた。
「でりかしー……けつじょ……」
 風丸の言葉を反芻した円堂が苦笑いして首を傾げる。それをちらりと横目で見て、風丸は妙にばつが悪くなった気がした。
 いいや、昔はアレくらいじゃ全然動じなかった筈だ。だいたい、お互い子供だったし。意識しているのは自分だけなのかもしれない。自分だけが……妙に気になってしまって、そのことに捕われてしまっている。
 冬の脱衣所は冷えきっていて、風呂場を隔てるアルミと樹脂製の曇りドアから暖かそうな湯煙が見える。その中に早く体を委ねてしまいたくなって、急いで着ているものを全部脱いでバスケットに放り込むと、
「俺が一番な」
と、先にドアを開けた。
「あっ、ずるいぞー!」
 続いて、裸になった円堂が風呂場に足を踏み入れた。バスタブにかかっていた蓋を取り除け、たっぷり張られた湯を桶で掬う。風丸はそれを自分の体にではなく、風呂場に入ってきた円堂の頭の天辺にぶちまけるように注ぎかけた。
「ぷはっ!」
 円堂が思わず頭をぶるんと震わせる。
「って、風丸。何するんだよ」
 円堂が両目に覆いかぶさるびしょぬれの前髪を手でかき分けると、今度は温めのシャワーの応酬が円堂の顔面を襲った。
「おい。怒ってるのか? 風丸」
 眉を困ったように下げて伺う円堂の頬を、風丸はシャワーをかけながら手で拭った。シャワーの湯が円堂の両頬と鼻に付いた墨跡をゆっくりと流してゆく。円堂は風丸が自分の顔を洗い清めているのだと、やっと理解した。
「サンキュー。なんだよ、洗ってくれるんならちゃんと言ってくれよー」
「円堂は」
「んっ?」
「……いや、なんでもない」
 お前はまだ、子供のままなんだな。そう言おうとして、やっぱり止めてしまった。自分ばかりがこうして悩みを抱えているのに気がつかない円堂を、だが責めて一体どうするのだ、と気づいたからだ。
「そこに腰おろせよ、円堂。ついでだから背中流してやる」
 プラスティックの風呂椅子を指差して、風丸は円堂に促した。
「ああ! 頼むぜ」
 にっこり笑うと、円堂は腰を下ろして背中を向けた。壁のバーにかかっているスポンジを取ると、ポンプからボディソープを付けて泡立てる。洗おうとして、風丸は円堂の背中が逞しい強張りで覆われはじめているのに気づいてはっとなった。
「円堂。お前、なんか……背中に筋肉付いてないか」
「ん? まぁな」
風丸はゆっくりと筋肉の流れに沿うようにソープを泡立てたスポンジを動かした。背中全体を洗ってしまうと、桶で湯を掬って泡を流し落とす。円堂の筋肉の隆起に湯が溢れてゆくのを確認して、思わず感嘆の息が漏れた。
「円堂。前は?」
 肩に手をかけて、今度は円堂の胸から腹にかけて覗き込んだ。
「腹筋、割れてきてるじゃないか。円堂」
 円堂の腹が、体の真ん中から両脇に沿って緩やかに六つの盛り上りを形作っている。両脚を床にぺたんとつけて、風丸は座り込んだ。円堂が首を傾げて風丸に笑いかける。
「鍛えてるからさ、一応」
「いいな……。俺なんか全然だぜ」
 己の貧相な胸から腹に手を当てて、風丸は溜息をつく。
「へへっ。でも腹筋割れてる風丸って全然想像できない」
「どういう意味だよ」
 口を尖らす風丸に、円堂は慌てて手を横に振った。
「いや、変な意味じゃなくて。俺はゴールキーパーだからそれ用に体作ってるけど、お前は速く走る体してるじゃないか。ほら、ここなんか筋肉ちゃんと付いてる……」
 伸ばした円堂の手が風丸の太腿に触れる。筋肉の流れに沿って擦り上げるその感触に、風丸の雄がぴくりと反応した。
「……あっ」
 慌ててバスタブに手を伸ばした。こんなことで自分が勃ってしまったのが、恥ずかしく情けない。思わず掬った湯を円堂の顔めがけ、かけてしまった。
「うわっぷ!」
 目に入ってしまったのか、円堂が顔をしかめてぶるぶる振った。
「あ、ご、ごめ……」
「やったなー!」
 謝ろうとしたが、その前に円堂がお返しだと言わんばかりにバスタブに張った湯を風丸にかけてくる。その勢いの良さに、風丸も思わず逆にかけ返してしまった。
「それっ!」
「負けるかー!」
 互いに譲らず、ばしゃばしゃと湯を掛け合う。何故だか妙に可笑しく思えて、ふたりとも最後には笑い転げながらバスタブの縁に体を凭れた。
「あははっ! こんなの小学以来だな。風丸、今度はお前がそこに座れよ。髪洗ったげるからさ」
「あ、……うん」
 頷いて腰掛ける。今の湯の掛け合いのお陰か、股間の昂りは収まっている。風丸はほっと胸を撫で下ろした。
「へぇ……。お前の髪、随分伸びたなー」
 頭の後ろ天辺で括ってあった髪を下ろして、円堂に委ねた。下りた毛先が風丸の背中の殆どを覆ってしまう。そのしなやかな髪の一房を手に取って、円堂がそっと指に絡めた。
「ああ。でも流石に暑い日には鬱陶しくなる。そろそろ切っちまおうかな。どうせなら染岡くらいに……」
 冗談まじりに仄めかした風丸の言葉を、円堂が厳しい声で遮った。
「──ダメだ!」
「……円堂?」
「ダメだったら、ダメだ! 俺は……」
 不思議に思って振り向くと、円堂はしかめ面を睨むように風丸の髪に向けている。目が合うと、やっと我に返ったようにぎこちなく笑った。
「あ、……悪い。いや、そんなんじゃなくてさ。俺、ゴールから見えるお前の後ろ髪が好きだから。だから……」
 気まずそうに背けてしまった円堂の横顔に、風丸も両の眉を下げて囁いた。
「俺こそ悪い。今のは冗談さ。切るったって、せいぜい枝毛が出来ないように先っちょだけだし」
「ホントか?」
 風丸が頷くと、円堂がほっとしたように安堵の顔を見せる。風丸の頭にそっと温めの湯をかけて湿らせ、シャンプーの液を手のひらに掬い取って髪に泡立てた。指で地肌から梳き上げるように、風丸の髪を洗ってゆく。円堂が爪を立てないように指の腹を使っている所為か、却ってくすぐったいと風丸は感じた。
 互いに髪と体を洗い終えて、風呂から上がった。羽根つきをした後に、風呂場であれだけ暴れたので、ふたりとも腹がぺこぺこだった。
 風丸の母が作ったおせちをタッパーに詰めて持って来ていたので、円堂も冷蔵庫にある残ったおせちを取り出した。それだけでは足りないので、宅配ピザ屋に注文を頼んだ。届くと早速、居間のテーブルに並べてコーラで乾杯する。
 テレビは正月の特番ばかりだったが、昼間に放送した高校サッカーの中継を録画してあったので、それを観ることにした。
「すげー。今のプレー見たか、風丸」
「ああ。やっぱり高校ともなると、中学サッカーとは違うな」
 地元校のディフェンスのボール捌きに感心しながら、風丸は食い入るように画面を見つめた。
「へへっ」
 突然、円堂が自分の顔を覗き込んで笑いだしたので、風丸は思わずきょとんとなる。
「な、なんだよ。円堂」
「いやさ。去年は風丸がまだサッカー部に入ってなかったから、こうして試合観てても一緒に楽しめなかったけど、今年は違うもんな!」
 にこにことした顔をして心底嬉しそうな円堂に、風丸も表情を崩す。
「そりゃあ、ルールとか今イチ分からなかったし。でも今は色々と参考になるからさ」
「俺、すげぇ嬉しい。お前とこうして同じ時間を分かち合えるのって。去年よりもずっと、だしな」
「そうか……」
 何故だか、そう言われると胸の辺りが熱くなる。いや、何故かは自分で分かっている。その気恥ずかしさを取り繕おうと、風丸はテーブルのおせちに箸を伸ばした。どれを食べようかと物色していると、重箱の隅の黄色に目を奪われた。
「これにしよう」
 だし巻き卵を箸に取り口に運ぶ。ふんわりとした甘さが口内に広がった。
「俺、お前のお母さんが作っただし巻き卵が好きなんだ。優しい味がする」
 口に頬張ってそう言うと、円堂が目を見張る。風丸は円堂の挙動に身じろぎした。何か変なことでも言ってしまっただろうか。
「どうし……たんだ。円堂」
「俺さ」
 円堂はじっと風丸を見つめると目を細めた。
「お前がさ……。さっき、デリカシーとか言ってたろ。俺の知らない言葉を使われると、風丸がどんどん俺から遠くなってくみたいで……、なんか嫌だった。でも今、母ちゃんが作っただし巻き卵を『優しい味』って言ってるの聞いてやっと、俺の風丸だな、って思ったんだ」
「『俺の』って……」
 その言葉に思わず熱くなる頬を堪えて、円堂を見る。
「ん?」
 小首を傾げて見つめ返す円堂に、いや、そう言う意味じゃないよな……と考え直す。そしてやっと分かったこと。自分たちの知らない間にお互い、心も体も、少しずつ成長しているのだ。大人のような言葉を使ってみたり肉体は強靭に変化しているのだ。それに気づいては戸惑う。同じ時間を共有している筈なのに。それでも。
 風丸はそっと円堂の肩に自分の頭を寄せると、目を伏せた。
「何だよ?」
「俺たち、ずっと一緒だよな」
「……ああ!」
 こくんと頷く円堂を見上げる。胸いっぱいに言葉にできない思いが溢れて、零れ落ちそうになる。それを伝えようと円堂の唇に自分の唇をゆっくり押し付けた。
「かぜま……」
 吐息を奪うと、瞬きしてすぐに離れようとした。だが円堂がぎゅっと肩を抱いてそれを拒む。円堂の舌が侵入して風丸の舌に絡んできた。風丸はその動きに夢中になり、自分も円堂の舌に絡み合わせた。右手は円堂のスウェットシャツを握りしめ、空いた左手は円堂の右手の中に滑り込ませる。
 去年も風丸の家で初めてのキスをした。その時は唇を重ね合わせるだけだったけれども。
 今年はもっと大人のキスだ。
 互いに唇を貪る中で、地元校がゴールを決めた事を伝える興奮気味のアナウンスが居間に響いていた。
2 / 4
3 / 4

 おせちとピザをあらかた平らげ、ビデオも見終わった後は、お定まりの円堂の自室で一夜を過ごす準備。ベッドはあるものの、やはりふたりで同じ視線で眠れるよう、布団をふたつ並べる。冬なので一応ヒーターを入れてあるが、パジャマ代わりのスウェット上下では寒いので、自然と体を寄せ合う格好になる。
「これこれ、久しぶりに見ようぜ」
 円堂が本棚からフォトアルバムを引っ張りだしてきた。
 布張り表紙のそれは、円堂と風丸がそれこそ小さな頃の写真から始まって、小学校の行事やクラス写真、卒業式のものなどが張られている。
「ははっ、懐かしいな。これ撮ったあと転けてたっけ、円堂」
 修学旅行の写真を見て、風丸が指差す。
「いらないトコまで覚えてるなよー。あ、これお前がリレーで圧勝した時の」
 運動会で赤い三角旗を手にポーズを取る風丸と、その真後ろで戯けてる円堂の写真を、微笑ましげにふたりは覗き込んだ。
 ページを捲ってゆくと雷門中へ一緒に入学した時分のものに移り、球技大会や学祭の写真、そして風丸がサッカー部の助っ人として、フットボールフロンティアへ出場した時の記念写真へと変わっていった。特に、大会優勝時のメンバー集合写真は八つ切りの大きいもので、それだけでアルバムの1ページが埋まっていた。その次のページには新設された雷門中の校舎をバックに、イレブンとマネージャーの皆と一緒に吹雪や塔子、小暮とリカ、立向居と綱海たちが一緒に写っている写真があるのみで、その間の時間のものは一枚も、ない。
 風丸がそれを目を細めて見つめていたかと思うと、ふっと深い溜息をついた。
「あー、そういやさ。昨日、皆から年賀メールが来てたぜ」
 膝を突き合わせて、円堂が告げる。
「あ、俺の所にも来てた。吹雪と塔子のは写メだったぜ。リカの奴なんかデコメだらけで目がチカチカした」
「そうそう。アレは派手だよなー」
「俺、綱海さんとはあまり話してないのに来てたから、返信の時それとなく訊いてみたら、『円堂のダチは俺のダチ同様!』ってあったぜ」
「へぇー、綱海らしいや」
 にこにこと顎に手をかけて話す円堂に、風丸はそっと呟くように言葉を継いだ。
「みんな、『円堂とはうまくやってるか』って書いてあった……」
膝の上で手を組み、目蓋を伏せる風丸の仕草に、円堂ははっと息をのむ。
「当たり前じゃないか! 『心配するな』って、返したんだろ? みんなに」
 円堂は風丸が組んでいる手を、両手で包み込むようにして握りしめた。風丸は「ん……」と曖昧な表情で応える。
「おいおい」
 むっとした顔で、円堂は風丸と目を合わせようとする。何故だか今にも泣き出すのではないか、と円堂は危惧した。
「ごめん」
 見上げる風丸の目には涙は浮かんでなかった。
「……そんなに、心配かけてるかな。俺たち」
「みんな、心配性なんだよ。気にするな」
「仕方ないだろ。……あんな事があればな」
 そう言って眉間にしわを寄せると口を噤む。円堂は風丸の頬に手を伸ばすと、柔らかく包んでその輪郭に沿ってそっと撫でた。
「俺、もうお前にあんな真似はさせないから。あんな思い、もう二度と」
 今度こそ、風丸の目尻に涙が盛り上がる。
「……それ、俺が言うべき台詞だろ……」
「違う。お前を追いつめたのは、俺の所為でもあるさ」
 円堂は考える。あの時もっと風丸の事を気にかけてやれば、もっと話を聞いてやれば……。それを思うと後悔ばかりが募る。福岡での別れと、その後の新設された雷門中での再会。その間にどれだけ風丸が暗闇の中で煩悶していたのかと、想像するだけで胸が痛む。
「いや。……いいや、悪いのは」
「もう、いいって!」
 皆まで言わせずに、円堂は風丸の体をぎゅっと抱きしめた。夜の冷気に晒された体はほんのり冷たい。けれども密接した肌と肌が、スウェットの布地を通して温もりを分かち合う。
「……円堂」
 円堂の背中にそっと手を手を伸ばして、風丸が耳元で囁く。
「キス、していいか」
 決心を表す声色。潤んだ瞳。その表情を読み取って、円堂は頷いて応えた。
「でもさっきは、何も言わずにキスしただろ」
 にやりと笑って目配せすると、ぽっと風丸の頬が染まった。責めるように上目遣いで円堂を見る。
「だってあれは」
「俺、嬉しかったけどな。お前ああいう事、積極的にしてくれないし?」
「だったら」
 切羽詰まったように、風丸は顔と顔を突き合わせた。
「お前の……腹筋触らせてくれるか?」
 一瞬、きょとんとしたがすぐに円堂はにやりと口角を上げた。
「その程度ならいつだって。てか、そんなに俺のが羨ましい?」
 恥ずかしそうな風丸の顔が頷いた。円堂はスウェットの裾を捲りあげて、風丸に腹部を見せつけてやった。冷気がひやりと肌をかすめたので、思わず顔を顰める。だがすぐに苦笑いで風丸に促した。
 喉をごくりと鳴らすと、風丸はそっと指を円堂の腹に滑らせる。いきなり円堂が身を捩ったので思わず手を引く。
「くすぐったいって」
「ごめん」
 引っ込めた手をそろそろと伸ばし、手のひらで円堂の盛り上がった腹筋を撫でる。はぁ、と感嘆の息が漏れた。
「意外と柔らかいんだな」
 隆起に沿って動かす、その手の温もりに円堂の体の一部が異変をもたらしていく。円堂も堪えきれずに荒い息を漏らした。天井の蛍光灯に照らされた風丸の顔に、そっと陰が落ちる。その整った顔が妙に愛おしくなった。
「……なぁ、風丸」
「うん?」
「今度は俺が触っていいか? あの、お前の太ももに」
「ん?」
 目を丸くした風丸の耳元にこそっと囁いてやる。
「さっき、お前勃ってたよな?」
「円堂っ!」
 円堂の言葉に風丸が慌てて、顔を真っ赤にして身を引いた。
「気づいてたのかよっ、お前」
 引きつらせた顔さえ、円堂には可愛らしく映った。
「だから、風丸が恥ずかしくないようにお湯かけ合いっこした」
「うぅ……」
 唸って黙り込む風丸に円堂は追い討ちをかける。
「ほら。触らせてやったろ。今度は俺がお前に触る番」
「お前ってば……!」
 片手で前髪を掻き揚げるように顔を覆って溜息をついたが、風丸はおずおずと顔を上げると布団の上に立ち上がった。
「分かったよ。円堂の好きにすればいい」
 するりとスウェットの下を脱ぐと、膝を曲げるようにしてその場に座り込む。股間を隠してるのか、両手を床について太腿を円堂の目の前に放り出した。
「じゃ、お言葉に甘えて」
 円堂の手のひらが伸ばされて、風丸の右太腿を撫でる。しなやかな上半身に比べて風丸の下半身は意外に筋肉質だ。
「お。結構びっしり筋肉付いてるな」
「陸上で鍛えたからな」
「これだけ付いてれば、あれだけ足が速いのも分かるぜ。なるほど」
 円堂は感心しながら筋肉の流れに沿って手のひらを動かす。風呂場の時と同じく、再び風丸の雄が反応する。堪えるように息を吐いた。太腿を撫で回す円堂の顔がまともに見れなくて、目を逸らした。
「ん?」
 身を捩って堪える風丸の姿に、円堂はくすぐったいのかと首を捻った。だが風丸の赤く上気した頬に気づき、ははんと思い当たる節を見いだした。悪戯顔で空いた片手を風丸の股間へ伸ばす。
「わっ!」
 びくんと体を跳ねるのに構わず、薄い布地の上から風丸の股間を撫で擦った。
「や、やめろって……」
「なんで? 気持ち良くないのか?」
「良くない……ワケないだろっ……」
 耳朶まで赤く染まった風丸が咎める声を上げる。
「だったら我慢するなよ」
「だって……」
 風丸の中心はとうに硬直していて下着の上からでも一目でそれと分かった。円堂は太腿を撫でていた手を離し、両手でゆっくり扱き上げてゆく。
「俺、お前とエッチしたいんだ」
 快楽に崩れおちそうな感覚から何とか正気を保とうとしている風丸に、円堂は止めの一撃を食らわせた。
3 / 4
4 / 4

「な……何言ってるんだよ、円堂」
「俺、本気だぜ?」
 扱いていた手を一旦止めて風丸のものから離れると、まっすぐ顔を突き出して至極真面目な顔で答える。それでも風丸は、信じられないという顔をした。
「なあ風丸。男同士でエッチするって、どうやるか知ってるか?」
「それは……その」
 ふるふると曖昧に首を振る風丸に、円堂は畳み掛けるように言う。
「尻の穴使うんだって」
 泣き出しそうな、困ったような顔を更に赤らめて、風丸は俯いた。
「知って……るのか。円堂にそんな知識あるとは思わなかった」
「うちのクラスの奴らでワイ談しててさー。そこで」
「ワイ談って……」
 絶句してしまった風丸に対し、円堂は胡座を組んで両膝に手を置くとむっとした顔をする。
「俺、お前が思ってるより子供じゃないぜ。エッチの事だって、人並みに興味ある。ま、女子とやりたがるのが普通なんだけど、俺はお前としたい。お前に……挿れたい」
 真摯な気持ちを声に乗せて、風丸と目を合わせた。一瞬曇った顔は、だが目蓋が伏せられたかと思うとすぐに視線を合わせてきた。すっと立ち上がって、スウェットの裾に手をかける。
「……いいぜ。俺、円堂にならなんだって」
「あ、無理はしなくていいんだぜ。俺、そこまでお前に」
「無理なんかじゃない!」
 風丸の声はほんの少し怒気を孕んでいる。スウェットの上を捲り上げて引きずるように脱ぎ捨て、ボクサーパンツのゴムに手をかけた。
「少し……怖いだけだ」
 呟くようにそう付け足すと、意を決して下着も脱いでしまった。
 円堂は口を唖然と開けて、目の前に立つ風丸を見た。さっき風呂場で見た筈なのに、自分の部屋で見る風丸の裸体が見慣れなくて、この空間からは浮いてしまっているように思える。股間を隠すように手を軽く組む風丸は、円堂の視線に身じろいだ。
「……円堂。俺だけ脱いでるのは流石に恥ずかしい」
「あ、悪い」
 恥じらっているらしく視線を逸らす風丸の言葉に気付き、円堂も急いで自分が着ているものを全部脱ぎ捨てて、ベッドの上に放り投げた。互いに一糸まとわぬ姿になると、「へへっ」と苦笑いして風丸の肩に手をかける。
「え~、と。怖くしないからな」
「分かってる」
 上気した頬。上目遣いで自分を見る表情。どれも自分だけに向けられているのだと思うと、円堂の胸に暖かいものがこみ上げてきた。背中に手を回して抱き込む。頬と頬をすり合わせると、いい匂いがした。
 そろそろと膝まずくように風丸のウエストに手をかけ、布団の上に腰を下ろす。居間でしたように大人のキスをすると、風丸がうっとりと首に抱きついてくる。何度も舌と舌を絡め合い、向きを変えてキスをしていると、終いには呼吸するのももどかしくなり、互いに荒く息を吐きだした。
「ふぅ……」
 互いの唾液で濡れている口元も拭わずに、風丸が息を継ぐ。だらしのない仕草の筈なのに、却ってエッチだと円堂は思った。敷き布団に上半身をそっと押し倒して、ぎゅっと体を抱きしめる。腹部から胸元に手を這わせると、仄赤い突起に突き当たった。
「風丸のここ、硬くなってる。こっちと同じだ」
 胸と股間の隆起したもの両方を撫で擦ってやると、さしもの風丸も甲高い声を上げた。
「ぅあ、……あっ」
「気持ちいいか?」
 こくんと頷く姿が愛しく、まるで自分が追い立てられる気がして、円堂は夢中で風丸の雄を扱き上げた。先端が滑りを帯びて更に擦りやすくなる。
「あっ。えんど……円堂、っ。ダメだ俺、も……出る!」
「出しちゃえよっ」
 必死に快楽に溺れまいとする風丸が堪えきれずに悲鳴を上げた。極限まで硬さを帯び、腹に付くくらいに勃ったものをもっと擦り上げると、突然膨れ上がって先端から熱く白濁したものが噴出した。
「ああっ。はぅあぁぁっ!!」
 びくんと体を跳ね上げ、シーツに爪先を擦り付けるように身悶えると、扱き上げていた円堂の手ごと、風丸は自分の隆起し尽くしたものと腹部をしとどに濡らした。
「……はぁ」
 とろんとした目を円堂に向けて、風丸は息を吐いた。
「すまん。汚れた?」
 シーツに零してないだろうかと、起き上がって確かめる風丸に、円堂は首を横に振った。
「いや、大丈夫。……風丸、お前さぁ。すごく気持ち良さそうだった」
 円堂がそう言うと、顔を赤らめて顎を引いた。
「次……円堂の番」
「うん」
 頷き返すと風丸は片膝を立てて、尻を持ち上げると股を大きく開いた。円堂は風丸の両股の間に腰を沈めて、先程までの風丸と同じようにかちこちに硬くなった自分の雄を押し当てる。
「…………あれ?」
 そのまま身を進めようとしたが、動きが止まる。
「風丸……。ごめん、入らない」
「え……?」
 侵入してくる円堂を目蓋を閉じて待っていた風丸が、目を開ける。円堂の手を引いて該当の箇所を示した。
「ここだ、ここ」
「場所は分かってるって。入らないんだ」
 どう対応すべきなのか困惑している風丸に、円堂は「指なら入るかな?」と首を捻ると人差し指をそこに付き入れた。
「痛っ!」
 思わず顔を顰めた風丸に「ごめん」と頭を下げると、ゆっくり回すように指を差し込む。だが風丸のそこは思ったよりもきつく、円堂の指先をきゅっと締め付ける。痛そうな風丸を見て指を引き抜いた。
「あ~、これじゃなかなか入らないな。そうだ!」
 何か閃いたのか円堂はぽんと手のひらに拳を打つと、がさごそと勉強机の横に置いてあるスポーツバッグの中身を物色し始めた。
「何……やってるんだ?」
「あった!」
 身を起こした風丸が不思議そうな顔をすると、円堂はバッグから取り出した白い容器を見せた。
「これこれ。ケガした時の為に使うワセリン。これ塗れば入れ易くなるんじゃないか?」
 首を傾げた風丸ににかっと笑ってみせると、ワセリンの蓋を取って中身を指先に掬って乗せた。それをそのまま風丸の尻の窄みに塗りたくる。身じろぎする風丸に「痛くないよなー?」と気遣いながら。
「痛くはない。けど……なんかむず痒い」
「ん? ははっ。痛くないんならいいじゃん」
 窄みの内側をぐるりと回すように、円堂は白濁したジェル状のワセリンを塗り込んでいった。圧迫してくる円堂の指の動きを堪えていた風丸が、とある部分に差し掛かると急にはっと息を上げた。
「あ……っ! え、円堂。そ、そこ」
「どうした、風丸」
「あっ! うぅん。は……ん」
 荒げた息が鼻にかかって、妙に艶っぽい。円堂はそこが風丸の一番弱い部分なのだとはまだ分からなかった。風丸の雄が再び鎌首を持ち上げており、興奮しているのを伝えていた。風丸の異変に首を捻っていたが、その乱れるさまがあまりに淫らなので思わずごくんと喉を鳴らした。己の股間ももう爆発しそうに膨れ上がっている。
「風丸っ、も、いいよ。な……?」
 ずぷりと股間の窄みから指を引き抜くと、とろりと溶けだしたワセリンが尻の間を濡らす。熱に浮かされた顔で風丸は円堂に頷く。時折漏れる熱い息が円堂には甘く自分を誘っているように思えた。
「風丸っ」
 円堂は雄叫びを上げると、風丸の両太腿に手をかけて尻が上向くように上半身に押し付けた。目の前に曝け出された窄みは、ワセリンで充分に解され紅くひくつき始めている。円堂はそこ目がけて己の爆発してしまいそうな男根を挿入しようとした。
 が、次の瞬間に絶頂は訪れた。



「ごめん、風丸。本当にごめん!」
 両の手のひらを摺り合わせて、円堂は詫びる。対する風丸は上半身を起こして、円堂がまき散らした白濁したもので塗れた自分の股間と太腿、そしてその下のシーツをティッシュで拭いていた。
「もういいよ、円堂。お前も気持ち良かったんだろ」
「でもさぁ」
 くすっと微笑んで済まなそうな顔の円堂に話しかけた。
「ほら。一応拭いたけどこれ、明日洗濯した方がいいと思う」
 湿り気を帯びたシーツを指で摘まみ上げて風丸は笑いかける。しゅんとした円堂ががくりと肩を落とした。そんな円堂の手を握りしめて、風丸は敷き布団の上に体を横たえた。
「俺さ。こうしてお前と手を繋いで一緒に眠るだけでも満足なんだ」
「ホントか?」
 両眉を下げて首を傾げる円堂に、思わず苦笑いした。
「そりゃあ、お前と快楽を共にする、ってのも嬉しいけれども。でも、俺たちまだ中学生だし。大人になるのは少しずつでいいって思うんだ。焦る必要なんかないぜ」
 去年は去年の。今年は今年の。そして来年はもっと繋がっていればいい。円堂も手を繋いだまま風丸の横で寝転び、布団に潜り込んだ。ぎゅっと手を握り合って、互いに顔を見合わせる。
「そうか……。そうだ、お前の言う通りだな」
「そういう訳で、今日の続きはまた来年」
 風丸がそう言うと円堂が弱り果てた表情になる。
「えーっ! 丸一年エッチはお預けなのか!?」
「冗談だ」
 そう軽口を叩いて笑い合う。真冬の夜はしんと冷え込むけれど、布団の中でふたりの温もりが互いを暖めていた。
<終>


4 / 4
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました

コメント

ログインするとコメントを投稿できます

何をコメントすれば良いの?
『コメントって何を投稿したらいいの・・・」と思ったあなたへ。
コメントの文字制限は140文字までとなり、長いコメントを考える必要はございません。
「萌えた」「上手!」「次作品も楽しみ」などひとこと投稿でも大丈夫です。
コメントから交流が生まれ、pictBLandが更に楽しい場所になって頂ければ嬉しいです!

閲覧制限が掛かった作品です

この作品は投稿者から閲覧制限が掛けられています。性的な描写やグロテスクな表現などがある可能性がありますが閲覧しますか?

閲覧する際は、キーワードタグや作品の説明をよくご確認頂き、閲覧して下さい。

1月2日

キーワードタグ イナズマイレブン  円風  円堂守  風丸一郎太  R18 
作品の説明 サイトから再掲。
円風姫はじめ話です。えっち描写はそれなりに…。

以下は当時のあとがきです。メールを頂いたお方のHNを表記してあったのですが、再掲に伴いイニシャルに変えさせていただきました。よしなに。

円堂と風丸の姫はじめのお話、でしたw。
実を申しますとNさまからいただいたメールでの(円風祭りは)「ひめはじめですね?」の一言がなければこのお話は生まれなかったのです。
最初、その発想はなかったわ……と思いつつも、アイディアは戴いちゃいました。
1/2はとうに過ぎてしまいましたが、このお話は是非ともNさまに捧げたいと思います。ありがとー。
<2010/1/3~1/14 脱稿>
1月2日
1 / 4
 毎年1月2日は、それぞれの両親が町内会の新年会で温泉一泊旅行に出かけてしまうので、円堂か風丸の自宅でふたりきりで過ごすのが慣わし、だった。小学生のうちは、どちらかの祖母がふたりの面倒を見てくれていたのだが、流石に中学生ともなると羽目を外したいのもあるし、ふたりともそれなりに分別はついている。出かける前の親たちに何度も戸締まりは確認しろだの何やかやと心配されながらも、
「大丈夫、大丈夫。何たって風丸がいるもんな」
「こう見えても円堂は結構責任感ありますよ」
と、充分安心させるくらいことはお茶の子さいさいだった。
 親たちを見送ってしまうと、円堂は風丸ににかっと笑いかけた。
「なんかさ。こうして家で風丸とふたりっきりで一日中、ってなると正月が来たな~って感じがする」
「俺もそうさ。実際は昨日が元旦なんだけど。不思議だよな」
 今年は円堂の家で過ごすことになった。早速、円堂が大晦日の大掃除で押し入れから見つけた羽子板を持ち出してきた。
「ほら、やろうぜ」
「お手つきしたら、顔に墨塗るんだろうな?」
「もっちろん!」
 円堂あらかじめ用意していた筆ペンを取り出して見せる。
「じゃあ、負けられないな。真剣勝負でいくぞ」
「おう!」
 意気揚々と羽根突きを始めたものの、普段のサッカーとは勝手が違うのか、円堂は何度も小さな羽根を取り落とした。
「おいおい。三度目だぞ」
 呆れ顔で風丸は筆ペンを取った。既に円堂の鼻の頭と片頬が墨でいたずら書きされている。
「額に『肉』って書いてやろうか」
 意地の悪い顔で風丸は円堂の額をつつく。
「うわ、それやめろよー」
 思わず手で額を隠した円堂を苦笑しつつ、風丸はその頬に猫のひげを書き加えた。
「にしても、円堂。お前下手すぎ。ゴールを守ってる時と違って全然ダメじゃないか」
「だって、風丸が俺が走る逆の方に寄こすんだもん」
「当たり前だろ。そうそう、返しやすい所に打つもんか」
 筆ペンの蓋をきゅっと閉めると、風丸は尻ポケットに仕舞い込む。
「ちぇっ。よし、今度は作戦変えてやる」
「負けられるかよ」
 鼻白んで睨む円堂を、風丸は軽くかわして羽根を打ち上げる。
「それっ」
「よしっ!」
 何とか羽根を板で拾って、円堂は打ち返しながら風丸に叫んだ。
「風丸っ!」
「なんだ、よ」
 難なく風丸は円堂に返す。
「お前のこと、大好きだ!」
「えっ」
 円堂の言葉に思わず風丸の身が固まる。道路に黒い玉のついた羽根が跳ねるように落ちた。
「よし! 俺の勝ちだな」
「あ……。ず、ずるいぞ、円堂!」
「なにが?」
 慌てる風丸に、にやりと円堂はほくそ笑んだ。
「だ、だって。いきなり何言い出すんだよ!」
「何って普段、俺がお前に感じてることを言っただけ」
「う」
 恥じらっているのか、頬と鼻の頭を真っ赤にさせた風丸は、思わず目を伏せてしまった。
「お前、ちっちゃい頃からメンタル弱いもん。もう少し、鍛えた方がいいんじゃないのか」
「そりゃ、自分で分かってるけど……。でもなぁ!」
「どっちにしたって、勝負は決まりだぜ。さあ」
 にんまりとした笑顔で右手を差し出す円堂に観念したのか、風丸はふぅと溜息をつくと筆ペンを渡し右頬を向けた。
「分かった。ほら、やれよ」
 渡された筆ペンを手にし、円堂は何を書いてやろうかと考えて……、そしてその滑らかな頬に釘付けになった。つんと少し上を向いた鼻先。ぎゅっと閉じられた目。ふっくらとした赤い唇。それらが形良く配置された横顔に思わず見とれる。何故だか黒い墨で汚してしまうのは惜しい気がした。
「どうした? 円堂。さっさとやれって」
「や、でもさ……」
 なかなか円堂が動かないことに訝しんだのか、風丸が催促する。う~んと唸っていると、急に体の芯から震えがこみ上げた。
「な、なあ。なんか冷えて来ないか」
 躊躇いがちな円堂の言葉に、風丸も目蓋を上げて空を見上げた。真冬特有のしんと冷えきった空は日が傾き、短い昼の終わりを告げて暗闇に染まり始めている。
「汗かいた所為じゃないのか? まあ、もう夕方だしな」
「うん。もう家に入って、風呂にでも入ろうぜ」
「ああ。でも」
 風丸は少女のような風貌のくせに、性格は真面目というか少々頑固で、一度決めたことは絶対に譲らない。飽くまでお手つきの罰はちゃんと受ける気でいる。円堂は本当の気持ちを告げたら、却って怒られそうな気がしたので、何とかごまかそうとした。
「分かってる、分かってる。でもこのまま外にいたら風邪引くだろ! さっさと家に入ろうぜ」
 無理矢理背中を押して、風丸を自分の家に押し込んでしまった。
「よし。ならここでやれ、円堂」
 だがそんな気も知らずか、玄関に入るや否や、風丸は正面から円堂の両肩を掴むと己の顔を突き出した。
「う」
「どうせすぐ風呂に入るんだろ。どんなんでもいいぜ。思い切りやれよ」
 円堂の右手に筆ペンを握らせると、再び目蓋を閉じた。自分がどんなにか躊躇してるだなんて、思いもしない表情で。円堂は目を瞑った風丸の顔を見つめているうちに、ふとある考えが閃いた。
「よしっ。じゃあ、いくぜ。風丸」
「さっさとやれって」
 円堂は催促する風丸の顔を指で持ち上げ、その右頬に唇を寄せると、その柔らかそうな皮膚に思い切り吸い付いた。ちゅぅっと音を立てて唇を離す。
「え、えええええ、円堂っ……!!」
 流石の風丸もこれには仰天したようだ。しどろもどろになりかくかくと顎を上下させた。
「な、何するんだよっ。墨じゃないのかよ!?」
「ん。こっちの方がいいかな~って」
「バ、バカじゃないのか。墨なら風呂で落ちるけど、こんなの下手したらしばらく消えないだろっ!」
 大きく充血した跡のついた頬を擦って、風丸は顔を真っ赤にして抗議の目を向けた。ほんの少し、目尻に涙が浮いている。
「へへっ。どうせ新学期までには消えてるって。それとも……」
 円堂は人差し指を風丸の唇に押し当てる。
「こっちにした方が良かった?」
 今度こそ風丸の悲鳴のような大声が、円堂家の玄関に響き渡った。
「円堂のバカ──ッ!!」
1 / 4
2 / 4

「全く。お前最近、デリカシーってもんが欠如してるんだよな」
 ぶつくさと文句を垂れながら、風丸は着ていたセーターを脱ぎ捨てた。
「でりかしー……けつじょ……」
 風丸の言葉を反芻した円堂が苦笑いして首を傾げる。それをちらりと横目で見て、風丸は妙にばつが悪くなった気がした。
 いいや、昔はアレくらいじゃ全然動じなかった筈だ。だいたい、お互い子供だったし。意識しているのは自分だけなのかもしれない。自分だけが……妙に気になってしまって、そのことに捕われてしまっている。
 冬の脱衣所は冷えきっていて、風呂場を隔てるアルミと樹脂製の曇りドアから暖かそうな湯煙が見える。その中に早く体を委ねてしまいたくなって、急いで着ているものを全部脱いでバスケットに放り込むと、
「俺が一番な」
と、先にドアを開けた。
「あっ、ずるいぞー!」
 続いて、裸になった円堂が風呂場に足を踏み入れた。バスタブにかかっていた蓋を取り除け、たっぷり張られた湯を桶で掬う。風丸はそれを自分の体にではなく、風呂場に入ってきた円堂の頭の天辺にぶちまけるように注ぎかけた。
「ぷはっ!」
 円堂が思わず頭をぶるんと震わせる。
「って、風丸。何するんだよ」
 円堂が両目に覆いかぶさるびしょぬれの前髪を手でかき分けると、今度は温めのシャワーの応酬が円堂の顔面を襲った。
「おい。怒ってるのか? 風丸」
 眉を困ったように下げて伺う円堂の頬を、風丸はシャワーをかけながら手で拭った。シャワーの湯が円堂の両頬と鼻に付いた墨跡をゆっくりと流してゆく。円堂は風丸が自分の顔を洗い清めているのだと、やっと理解した。
「サンキュー。なんだよ、洗ってくれるんならちゃんと言ってくれよー」
「円堂は」
「んっ?」
「……いや、なんでもない」
 お前はまだ、子供のままなんだな。そう言おうとして、やっぱり止めてしまった。自分ばかりがこうして悩みを抱えているのに気がつかない円堂を、だが責めて一体どうするのだ、と気づいたからだ。
「そこに腰おろせよ、円堂。ついでだから背中流してやる」
 プラスティックの風呂椅子を指差して、風丸は円堂に促した。
「ああ! 頼むぜ」
 にっこり笑うと、円堂は腰を下ろして背中を向けた。壁のバーにかかっているスポンジを取ると、ポンプからボディソープを付けて泡立てる。洗おうとして、風丸は円堂の背中が逞しい強張りで覆われはじめているのに気づいてはっとなった。
「円堂。お前、なんか……背中に筋肉付いてないか」
「ん? まぁな」
風丸はゆっくりと筋肉の流れに沿うようにソープを泡立てたスポンジを動かした。背中全体を洗ってしまうと、桶で湯を掬って泡を流し落とす。円堂の筋肉の隆起に湯が溢れてゆくのを確認して、思わず感嘆の息が漏れた。
「円堂。前は?」
 肩に手をかけて、今度は円堂の胸から腹にかけて覗き込んだ。
「腹筋、割れてきてるじゃないか。円堂」
 円堂の腹が、体の真ん中から両脇に沿って緩やかに六つの盛り上りを形作っている。両脚を床にぺたんとつけて、風丸は座り込んだ。円堂が首を傾げて風丸に笑いかける。
「鍛えてるからさ、一応」
「いいな……。俺なんか全然だぜ」
 己の貧相な胸から腹に手を当てて、風丸は溜息をつく。
「へへっ。でも腹筋割れてる風丸って全然想像できない」
「どういう意味だよ」
 口を尖らす風丸に、円堂は慌てて手を横に振った。
「いや、変な意味じゃなくて。俺はゴールキーパーだからそれ用に体作ってるけど、お前は速く走る体してるじゃないか。ほら、ここなんか筋肉ちゃんと付いてる……」
 伸ばした円堂の手が風丸の太腿に触れる。筋肉の流れに沿って擦り上げるその感触に、風丸の雄がぴくりと反応した。
「……あっ」
 慌ててバスタブに手を伸ばした。こんなことで自分が勃ってしまったのが、恥ずかしく情けない。思わず掬った湯を円堂の顔めがけ、かけてしまった。
「うわっぷ!」
 目に入ってしまったのか、円堂が顔をしかめてぶるぶる振った。
「あ、ご、ごめ……」
「やったなー!」
 謝ろうとしたが、その前に円堂がお返しだと言わんばかりにバスタブに張った湯を風丸にかけてくる。その勢いの良さに、風丸も思わず逆にかけ返してしまった。
「それっ!」
「負けるかー!」
 互いに譲らず、ばしゃばしゃと湯を掛け合う。何故だか妙に可笑しく思えて、ふたりとも最後には笑い転げながらバスタブの縁に体を凭れた。
「あははっ! こんなの小学以来だな。風丸、今度はお前がそこに座れよ。髪洗ったげるからさ」
「あ、……うん」
 頷いて腰掛ける。今の湯の掛け合いのお陰か、股間の昂りは収まっている。風丸はほっと胸を撫で下ろした。
「へぇ……。お前の髪、随分伸びたなー」
 頭の後ろ天辺で括ってあった髪を下ろして、円堂に委ねた。下りた毛先が風丸の背中の殆どを覆ってしまう。そのしなやかな髪の一房を手に取って、円堂がそっと指に絡めた。
「ああ。でも流石に暑い日には鬱陶しくなる。そろそろ切っちまおうかな。どうせなら染岡くらいに……」
 冗談まじりに仄めかした風丸の言葉を、円堂が厳しい声で遮った。
「──ダメだ!」
「……円堂?」
「ダメだったら、ダメだ! 俺は……」
 不思議に思って振り向くと、円堂はしかめ面を睨むように風丸の髪に向けている。目が合うと、やっと我に返ったようにぎこちなく笑った。
「あ、……悪い。いや、そんなんじゃなくてさ。俺、ゴールから見えるお前の後ろ髪が好きだから。だから……」
 気まずそうに背けてしまった円堂の横顔に、風丸も両の眉を下げて囁いた。
「俺こそ悪い。今のは冗談さ。切るったって、せいぜい枝毛が出来ないように先っちょだけだし」
「ホントか?」
 風丸が頷くと、円堂がほっとしたように安堵の顔を見せる。風丸の頭にそっと温めの湯をかけて湿らせ、シャンプーの液を手のひらに掬い取って髪に泡立てた。指で地肌から梳き上げるように、風丸の髪を洗ってゆく。円堂が爪を立てないように指の腹を使っている所為か、却ってくすぐったいと風丸は感じた。
 互いに髪と体を洗い終えて、風呂から上がった。羽根つきをした後に、風呂場であれだけ暴れたので、ふたりとも腹がぺこぺこだった。
 風丸の母が作ったおせちをタッパーに詰めて持って来ていたので、円堂も冷蔵庫にある残ったおせちを取り出した。それだけでは足りないので、宅配ピザ屋に注文を頼んだ。届くと早速、居間のテーブルに並べてコーラで乾杯する。
 テレビは正月の特番ばかりだったが、昼間に放送した高校サッカーの中継を録画してあったので、それを観ることにした。
「すげー。今のプレー見たか、風丸」
「ああ。やっぱり高校ともなると、中学サッカーとは違うな」
 地元校のディフェンスのボール捌きに感心しながら、風丸は食い入るように画面を見つめた。
「へへっ」
 突然、円堂が自分の顔を覗き込んで笑いだしたので、風丸は思わずきょとんとなる。
「な、なんだよ。円堂」
「いやさ。去年は風丸がまだサッカー部に入ってなかったから、こうして試合観てても一緒に楽しめなかったけど、今年は違うもんな!」
 にこにことした顔をして心底嬉しそうな円堂に、風丸も表情を崩す。
「そりゃあ、ルールとか今イチ分からなかったし。でも今は色々と参考になるからさ」
「俺、すげぇ嬉しい。お前とこうして同じ時間を分かち合えるのって。去年よりもずっと、だしな」
「そうか……」
 何故だか、そう言われると胸の辺りが熱くなる。いや、何故かは自分で分かっている。その気恥ずかしさを取り繕おうと、風丸はテーブルのおせちに箸を伸ばした。どれを食べようかと物色していると、重箱の隅の黄色に目を奪われた。
「これにしよう」
 だし巻き卵を箸に取り口に運ぶ。ふんわりとした甘さが口内に広がった。
「俺、お前のお母さんが作っただし巻き卵が好きなんだ。優しい味がする」
 口に頬張ってそう言うと、円堂が目を見張る。風丸は円堂の挙動に身じろぎした。何か変なことでも言ってしまっただろうか。
「どうし……たんだ。円堂」
「俺さ」
 円堂はじっと風丸を見つめると目を細めた。
「お前がさ……。さっき、デリカシーとか言ってたろ。俺の知らない言葉を使われると、風丸がどんどん俺から遠くなってくみたいで……、なんか嫌だった。でも今、母ちゃんが作っただし巻き卵を『優しい味』って言ってるの聞いてやっと、俺の風丸だな、って思ったんだ」
「『俺の』って……」
 その言葉に思わず熱くなる頬を堪えて、円堂を見る。
「ん?」
 小首を傾げて見つめ返す円堂に、いや、そう言う意味じゃないよな……と考え直す。そしてやっと分かったこと。自分たちの知らない間にお互い、心も体も、少しずつ成長しているのだ。大人のような言葉を使ってみたり肉体は強靭に変化しているのだ。それに気づいては戸惑う。同じ時間を共有している筈なのに。それでも。
 風丸はそっと円堂の肩に自分の頭を寄せると、目を伏せた。
「何だよ?」
「俺たち、ずっと一緒だよな」
「……ああ!」
 こくんと頷く円堂を見上げる。胸いっぱいに言葉にできない思いが溢れて、零れ落ちそうになる。それを伝えようと円堂の唇に自分の唇をゆっくり押し付けた。
「かぜま……」
 吐息を奪うと、瞬きしてすぐに離れようとした。だが円堂がぎゅっと肩を抱いてそれを拒む。円堂の舌が侵入して風丸の舌に絡んできた。風丸はその動きに夢中になり、自分も円堂の舌に絡み合わせた。右手は円堂のスウェットシャツを握りしめ、空いた左手は円堂の右手の中に滑り込ませる。
 去年も風丸の家で初めてのキスをした。その時は唇を重ね合わせるだけだったけれども。
 今年はもっと大人のキスだ。
 互いに唇を貪る中で、地元校がゴールを決めた事を伝える興奮気味のアナウンスが居間に響いていた。
2 / 4
3 / 4

 おせちとピザをあらかた平らげ、ビデオも見終わった後は、お定まりの円堂の自室で一夜を過ごす準備。ベッドはあるものの、やはりふたりで同じ視線で眠れるよう、布団をふたつ並べる。冬なので一応ヒーターを入れてあるが、パジャマ代わりのスウェット上下では寒いので、自然と体を寄せ合う格好になる。
「これこれ、久しぶりに見ようぜ」
 円堂が本棚からフォトアルバムを引っ張りだしてきた。
 布張り表紙のそれは、円堂と風丸がそれこそ小さな頃の写真から始まって、小学校の行事やクラス写真、卒業式のものなどが張られている。
「ははっ、懐かしいな。これ撮ったあと転けてたっけ、円堂」
 修学旅行の写真を見て、風丸が指差す。
「いらないトコまで覚えてるなよー。あ、これお前がリレーで圧勝した時の」
 運動会で赤い三角旗を手にポーズを取る風丸と、その真後ろで戯けてる円堂の写真を、微笑ましげにふたりは覗き込んだ。
 ページを捲ってゆくと雷門中へ一緒に入学した時分のものに移り、球技大会や学祭の写真、そして風丸がサッカー部の助っ人として、フットボールフロンティアへ出場した時の記念写真へと変わっていった。特に、大会優勝時のメンバー集合写真は八つ切りの大きいもので、それだけでアルバムの1ページが埋まっていた。その次のページには新設された雷門中の校舎をバックに、イレブンとマネージャーの皆と一緒に吹雪や塔子、小暮とリカ、立向居と綱海たちが一緒に写っている写真があるのみで、その間の時間のものは一枚も、ない。
 風丸がそれを目を細めて見つめていたかと思うと、ふっと深い溜息をついた。
「あー、そういやさ。昨日、皆から年賀メールが来てたぜ」
 膝を突き合わせて、円堂が告げる。
「あ、俺の所にも来てた。吹雪と塔子のは写メだったぜ。リカの奴なんかデコメだらけで目がチカチカした」
「そうそう。アレは派手だよなー」
「俺、綱海さんとはあまり話してないのに来てたから、返信の時それとなく訊いてみたら、『円堂のダチは俺のダチ同様!』ってあったぜ」
「へぇー、綱海らしいや」
 にこにこと顎に手をかけて話す円堂に、風丸はそっと呟くように言葉を継いだ。
「みんな、『円堂とはうまくやってるか』って書いてあった……」
膝の上で手を組み、目蓋を伏せる風丸の仕草に、円堂ははっと息をのむ。
「当たり前じゃないか! 『心配するな』って、返したんだろ? みんなに」
 円堂は風丸が組んでいる手を、両手で包み込むようにして握りしめた。風丸は「ん……」と曖昧な表情で応える。
「おいおい」
 むっとした顔で、円堂は風丸と目を合わせようとする。何故だか今にも泣き出すのではないか、と円堂は危惧した。
「ごめん」
 見上げる風丸の目には涙は浮かんでなかった。
「……そんなに、心配かけてるかな。俺たち」
「みんな、心配性なんだよ。気にするな」
「仕方ないだろ。……あんな事があればな」
 そう言って眉間にしわを寄せると口を噤む。円堂は風丸の頬に手を伸ばすと、柔らかく包んでその輪郭に沿ってそっと撫でた。
「俺、もうお前にあんな真似はさせないから。あんな思い、もう二度と」
 今度こそ、風丸の目尻に涙が盛り上がる。
「……それ、俺が言うべき台詞だろ……」
「違う。お前を追いつめたのは、俺の所為でもあるさ」
 円堂は考える。あの時もっと風丸の事を気にかけてやれば、もっと話を聞いてやれば……。それを思うと後悔ばかりが募る。福岡での別れと、その後の新設された雷門中での再会。その間にどれだけ風丸が暗闇の中で煩悶していたのかと、想像するだけで胸が痛む。
「いや。……いいや、悪いのは」
「もう、いいって!」
 皆まで言わせずに、円堂は風丸の体をぎゅっと抱きしめた。夜の冷気に晒された体はほんのり冷たい。けれども密接した肌と肌が、スウェットの布地を通して温もりを分かち合う。
「……円堂」
 円堂の背中にそっと手を手を伸ばして、風丸が耳元で囁く。
「キス、していいか」
 決心を表す声色。潤んだ瞳。その表情を読み取って、円堂は頷いて応えた。
「でもさっきは、何も言わずにキスしただろ」
 にやりと笑って目配せすると、ぽっと風丸の頬が染まった。責めるように上目遣いで円堂を見る。
「だってあれは」
「俺、嬉しかったけどな。お前ああいう事、積極的にしてくれないし?」
「だったら」
 切羽詰まったように、風丸は顔と顔を突き合わせた。
「お前の……腹筋触らせてくれるか?」
 一瞬、きょとんとしたがすぐに円堂はにやりと口角を上げた。
「その程度ならいつだって。てか、そんなに俺のが羨ましい?」
 恥ずかしそうな風丸の顔が頷いた。円堂はスウェットの裾を捲りあげて、風丸に腹部を見せつけてやった。冷気がひやりと肌をかすめたので、思わず顔を顰める。だがすぐに苦笑いで風丸に促した。
 喉をごくりと鳴らすと、風丸はそっと指を円堂の腹に滑らせる。いきなり円堂が身を捩ったので思わず手を引く。
「くすぐったいって」
「ごめん」
 引っ込めた手をそろそろと伸ばし、手のひらで円堂の盛り上がった腹筋を撫でる。はぁ、と感嘆の息が漏れた。
「意外と柔らかいんだな」
 隆起に沿って動かす、その手の温もりに円堂の体の一部が異変をもたらしていく。円堂も堪えきれずに荒い息を漏らした。天井の蛍光灯に照らされた風丸の顔に、そっと陰が落ちる。その整った顔が妙に愛おしくなった。
「……なぁ、風丸」
「うん?」
「今度は俺が触っていいか? あの、お前の太ももに」
「ん?」
 目を丸くした風丸の耳元にこそっと囁いてやる。
「さっき、お前勃ってたよな?」
「円堂っ!」
 円堂の言葉に風丸が慌てて、顔を真っ赤にして身を引いた。
「気づいてたのかよっ、お前」
 引きつらせた顔さえ、円堂には可愛らしく映った。
「だから、風丸が恥ずかしくないようにお湯かけ合いっこした」
「うぅ……」
 唸って黙り込む風丸に円堂は追い討ちをかける。
「ほら。触らせてやったろ。今度は俺がお前に触る番」
「お前ってば……!」
 片手で前髪を掻き揚げるように顔を覆って溜息をついたが、風丸はおずおずと顔を上げると布団の上に立ち上がった。
「分かったよ。円堂の好きにすればいい」
 するりとスウェットの下を脱ぐと、膝を曲げるようにしてその場に座り込む。股間を隠してるのか、両手を床について太腿を円堂の目の前に放り出した。
「じゃ、お言葉に甘えて」
 円堂の手のひらが伸ばされて、風丸の右太腿を撫でる。しなやかな上半身に比べて風丸の下半身は意外に筋肉質だ。
「お。結構びっしり筋肉付いてるな」
「陸上で鍛えたからな」
「これだけ付いてれば、あれだけ足が速いのも分かるぜ。なるほど」
 円堂は感心しながら筋肉の流れに沿って手のひらを動かす。風呂場の時と同じく、再び風丸の雄が反応する。堪えるように息を吐いた。太腿を撫で回す円堂の顔がまともに見れなくて、目を逸らした。
「ん?」
 身を捩って堪える風丸の姿に、円堂はくすぐったいのかと首を捻った。だが風丸の赤く上気した頬に気づき、ははんと思い当たる節を見いだした。悪戯顔で空いた片手を風丸の股間へ伸ばす。
「わっ!」
 びくんと体を跳ねるのに構わず、薄い布地の上から風丸の股間を撫で擦った。
「や、やめろって……」
「なんで? 気持ち良くないのか?」
「良くない……ワケないだろっ……」
 耳朶まで赤く染まった風丸が咎める声を上げる。
「だったら我慢するなよ」
「だって……」
 風丸の中心はとうに硬直していて下着の上からでも一目でそれと分かった。円堂は太腿を撫でていた手を離し、両手でゆっくり扱き上げてゆく。
「俺、お前とエッチしたいんだ」
 快楽に崩れおちそうな感覚から何とか正気を保とうとしている風丸に、円堂は止めの一撃を食らわせた。
3 / 4
4 / 4

「な……何言ってるんだよ、円堂」
「俺、本気だぜ?」
 扱いていた手を一旦止めて風丸のものから離れると、まっすぐ顔を突き出して至極真面目な顔で答える。それでも風丸は、信じられないという顔をした。
「なあ風丸。男同士でエッチするって、どうやるか知ってるか?」
「それは……その」
 ふるふると曖昧に首を振る風丸に、円堂は畳み掛けるように言う。
「尻の穴使うんだって」
 泣き出しそうな、困ったような顔を更に赤らめて、風丸は俯いた。
「知って……るのか。円堂にそんな知識あるとは思わなかった」
「うちのクラスの奴らでワイ談しててさー。そこで」
「ワイ談って……」
 絶句してしまった風丸に対し、円堂は胡座を組んで両膝に手を置くとむっとした顔をする。
「俺、お前が思ってるより子供じゃないぜ。エッチの事だって、人並みに興味ある。ま、女子とやりたがるのが普通なんだけど、俺はお前としたい。お前に……挿れたい」
 真摯な気持ちを声に乗せて、風丸と目を合わせた。一瞬曇った顔は、だが目蓋が伏せられたかと思うとすぐに視線を合わせてきた。すっと立ち上がって、スウェットの裾に手をかける。
「……いいぜ。俺、円堂にならなんだって」
「あ、無理はしなくていいんだぜ。俺、そこまでお前に」
「無理なんかじゃない!」
 風丸の声はほんの少し怒気を孕んでいる。スウェットの上を捲り上げて引きずるように脱ぎ捨て、ボクサーパンツのゴムに手をかけた。
「少し……怖いだけだ」
 呟くようにそう付け足すと、意を決して下着も脱いでしまった。
 円堂は口を唖然と開けて、目の前に立つ風丸を見た。さっき風呂場で見た筈なのに、自分の部屋で見る風丸の裸体が見慣れなくて、この空間からは浮いてしまっているように思える。股間を隠すように手を軽く組む風丸は、円堂の視線に身じろいだ。
「……円堂。俺だけ脱いでるのは流石に恥ずかしい」
「あ、悪い」
 恥じらっているらしく視線を逸らす風丸の言葉に気付き、円堂も急いで自分が着ているものを全部脱ぎ捨てて、ベッドの上に放り投げた。互いに一糸まとわぬ姿になると、「へへっ」と苦笑いして風丸の肩に手をかける。
「え~、と。怖くしないからな」
「分かってる」
 上気した頬。上目遣いで自分を見る表情。どれも自分だけに向けられているのだと思うと、円堂の胸に暖かいものがこみ上げてきた。背中に手を回して抱き込む。頬と頬をすり合わせると、いい匂いがした。
 そろそろと膝まずくように風丸のウエストに手をかけ、布団の上に腰を下ろす。居間でしたように大人のキスをすると、風丸がうっとりと首に抱きついてくる。何度も舌と舌を絡め合い、向きを変えてキスをしていると、終いには呼吸するのももどかしくなり、互いに荒く息を吐きだした。
「ふぅ……」
 互いの唾液で濡れている口元も拭わずに、風丸が息を継ぐ。だらしのない仕草の筈なのに、却ってエッチだと円堂は思った。敷き布団に上半身をそっと押し倒して、ぎゅっと体を抱きしめる。腹部から胸元に手を這わせると、仄赤い突起に突き当たった。
「風丸のここ、硬くなってる。こっちと同じだ」
 胸と股間の隆起したもの両方を撫で擦ってやると、さしもの風丸も甲高い声を上げた。
「ぅあ、……あっ」
「気持ちいいか?」
 こくんと頷く姿が愛しく、まるで自分が追い立てられる気がして、円堂は夢中で風丸の雄を扱き上げた。先端が滑りを帯びて更に擦りやすくなる。
「あっ。えんど……円堂、っ。ダメだ俺、も……出る!」
「出しちゃえよっ」
 必死に快楽に溺れまいとする風丸が堪えきれずに悲鳴を上げた。極限まで硬さを帯び、腹に付くくらいに勃ったものをもっと擦り上げると、突然膨れ上がって先端から熱く白濁したものが噴出した。
「ああっ。はぅあぁぁっ!!」
 びくんと体を跳ね上げ、シーツに爪先を擦り付けるように身悶えると、扱き上げていた円堂の手ごと、風丸は自分の隆起し尽くしたものと腹部をしとどに濡らした。
「……はぁ」
 とろんとした目を円堂に向けて、風丸は息を吐いた。
「すまん。汚れた?」
 シーツに零してないだろうかと、起き上がって確かめる風丸に、円堂は首を横に振った。
「いや、大丈夫。……風丸、お前さぁ。すごく気持ち良さそうだった」
 円堂がそう言うと、顔を赤らめて顎を引いた。
「次……円堂の番」
「うん」
 頷き返すと風丸は片膝を立てて、尻を持ち上げると股を大きく開いた。円堂は風丸の両股の間に腰を沈めて、先程までの風丸と同じようにかちこちに硬くなった自分の雄を押し当てる。
「…………あれ?」
 そのまま身を進めようとしたが、動きが止まる。
「風丸……。ごめん、入らない」
「え……?」
 侵入してくる円堂を目蓋を閉じて待っていた風丸が、目を開ける。円堂の手を引いて該当の箇所を示した。
「ここだ、ここ」
「場所は分かってるって。入らないんだ」
 どう対応すべきなのか困惑している風丸に、円堂は「指なら入るかな?」と首を捻ると人差し指をそこに付き入れた。
「痛っ!」
 思わず顔を顰めた風丸に「ごめん」と頭を下げると、ゆっくり回すように指を差し込む。だが風丸のそこは思ったよりもきつく、円堂の指先をきゅっと締め付ける。痛そうな風丸を見て指を引き抜いた。
「あ~、これじゃなかなか入らないな。そうだ!」
 何か閃いたのか円堂はぽんと手のひらに拳を打つと、がさごそと勉強机の横に置いてあるスポーツバッグの中身を物色し始めた。
「何……やってるんだ?」
「あった!」
 身を起こした風丸が不思議そうな顔をすると、円堂はバッグから取り出した白い容器を見せた。
「これこれ。ケガした時の為に使うワセリン。これ塗れば入れ易くなるんじゃないか?」
 首を傾げた風丸ににかっと笑ってみせると、ワセリンの蓋を取って中身を指先に掬って乗せた。それをそのまま風丸の尻の窄みに塗りたくる。身じろぎする風丸に「痛くないよなー?」と気遣いながら。
「痛くはない。けど……なんかむず痒い」
「ん? ははっ。痛くないんならいいじゃん」
 窄みの内側をぐるりと回すように、円堂は白濁したジェル状のワセリンを塗り込んでいった。圧迫してくる円堂の指の動きを堪えていた風丸が、とある部分に差し掛かると急にはっと息を上げた。
「あ……っ! え、円堂。そ、そこ」
「どうした、風丸」
「あっ! うぅん。は……ん」
 荒げた息が鼻にかかって、妙に艶っぽい。円堂はそこが風丸の一番弱い部分なのだとはまだ分からなかった。風丸の雄が再び鎌首を持ち上げており、興奮しているのを伝えていた。風丸の異変に首を捻っていたが、その乱れるさまがあまりに淫らなので思わずごくんと喉を鳴らした。己の股間ももう爆発しそうに膨れ上がっている。
「風丸っ、も、いいよ。な……?」
 ずぷりと股間の窄みから指を引き抜くと、とろりと溶けだしたワセリンが尻の間を濡らす。熱に浮かされた顔で風丸は円堂に頷く。時折漏れる熱い息が円堂には甘く自分を誘っているように思えた。
「風丸っ」
 円堂は雄叫びを上げると、風丸の両太腿に手をかけて尻が上向くように上半身に押し付けた。目の前に曝け出された窄みは、ワセリンで充分に解され紅くひくつき始めている。円堂はそこ目がけて己の爆発してしまいそうな男根を挿入しようとした。
 が、次の瞬間に絶頂は訪れた。



「ごめん、風丸。本当にごめん!」
 両の手のひらを摺り合わせて、円堂は詫びる。対する風丸は上半身を起こして、円堂がまき散らした白濁したもので塗れた自分の股間と太腿、そしてその下のシーツをティッシュで拭いていた。
「もういいよ、円堂。お前も気持ち良かったんだろ」
「でもさぁ」
 くすっと微笑んで済まなそうな顔の円堂に話しかけた。
「ほら。一応拭いたけどこれ、明日洗濯した方がいいと思う」
 湿り気を帯びたシーツを指で摘まみ上げて風丸は笑いかける。しゅんとした円堂ががくりと肩を落とした。そんな円堂の手を握りしめて、風丸は敷き布団の上に体を横たえた。
「俺さ。こうしてお前と手を繋いで一緒に眠るだけでも満足なんだ」
「ホントか?」
 両眉を下げて首を傾げる円堂に、思わず苦笑いした。
「そりゃあ、お前と快楽を共にする、ってのも嬉しいけれども。でも、俺たちまだ中学生だし。大人になるのは少しずつでいいって思うんだ。焦る必要なんかないぜ」
 去年は去年の。今年は今年の。そして来年はもっと繋がっていればいい。円堂も手を繋いだまま風丸の横で寝転び、布団に潜り込んだ。ぎゅっと手を握り合って、互いに顔を見合わせる。
「そうか……。そうだ、お前の言う通りだな」
「そういう訳で、今日の続きはまた来年」
 風丸がそう言うと円堂が弱り果てた表情になる。
「えーっ! 丸一年エッチはお預けなのか!?」
「冗談だ」
 そう軽口を叩いて笑い合う。真冬の夜はしんと冷え込むけれど、布団の中でふたりの温もりが互いを暖めていた。
<終>


4 / 4
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

PAGE TOP