ひだかみゆき

超次元サッカーの元陸上部大好きマンです。

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投稿日:2016年05月24日 16:13    文字数:15,353

ウサギになっちゃった

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サイトから再掲。
円風異種姦ものです。例のエイリア石でウサ耳しっぽが生えちゃったお話。

以下は当時のあとがきです。

風丸さんを異種化してみたらと言うテーマでやってみました。
猫耳はありきたりなので、ウサ耳で。
うっかり途中でえろに走りましたがw、まあラブラブ円風やれたのでよしとしようw。
こっそり風←豪なのはうちのサイトですからしょうがないですね。
<2010/6/28脱稿>
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「な、なんなんだよ! これ」
 ある朝、目覚めて鏡を見た風丸は仰天した。洗面ユニットのピカピカに磨かれた鏡面に映る、自分の頭からは異様なものがにょっきりと生えていたからだ。道理で目覚めた時、頭が妙にむずむずした違和感があった訳だ。
「う……ウソ、だろ?」
 頭から生えている<それ>に恐る恐る触ってみる。指でつまんで引っ張ってみる。引っ張るにつれて、頭皮がくいっと持ち上がる。
「なんだ、う……」
 <それ>に触ってるうち、もうひとつ新たな違和感が生じた。それは下半身、というか臀部から感じる。手を後ろにやり、パジャマ代わりのジャージ越しに触れる。もこっ、としたものがそこにある。覚悟を決めて下着の中に手を入れた。
「うああぁ!」
 そこも頭部から生えているものと全く同じ感触だった。いや、形状はちょっと違ったかも知れない。どちらかと言えば、頭部のものよりは丸っこい。
「ど、どうしよう……!」
 風丸は頭を抱えてしゃがみ込んだ。今日、どうやって学校へ行くべきか、大いに悩む羽目になる。


 家を出る前考え抜いた末、なるべく人目につかないように、こそこそと登校する。うなだれている所為か、視界は足下ばかりが映る。
「風丸、おはよう」
 いきなり背後から自分を呼び止めたのは、聞き慣れたチームの司令塔の声だ。
「あ……、鬼道か。おはよう」
「……どうしたんだ? その頭は」
 風丸は鬼道になかなか視線を合わせられなかった。鬼道にも風丸の今の格好は異様に映るだろうからだ。
 風丸の頭部には白い包帯がぐるぐると巻かれていた。
「いや。ちょっと」
「怪我でもしたのか? 大丈夫なのか?」
 ちょっと、大げさに巻きすぎたかな? そう後悔するも、<あれ>を隠すのには仕方がない。
「大したことないんだ。ホント。鬼道が心配する程でもないさ」
「そ、そうなのか?」
 首を傾げる鬼道に、風丸ははっきりと答えられない。
「じゃ、オレ、急ぐからっ」
 急いで鬼道の元から校舎へと走り去った。どう考えても自分の行為は不審そのものなのだが、今の風丸にはそうするしか出来なかった。

「風丸――!」
 昼休み、給食をまだ口に詰め込んでいる最中、教室の扉ががらりと開かれると同時に、古くからの付き合いの少年の声が響き渡った。
「え、円堂っ!」
 給食のパンを支えそうになりながらも、慌てて呑み込む。円堂が風丸の席に駆け寄って、そして――。
「どうしたんだよっ。風丸、そのあた……!」
 襲いかかるんじゃないかというくらい円堂ががばっと顔を寄せてくるのを、風丸は思い切りその口を塞いでやった。
「円堂、し、静かにしてくれ……っ」
 朝、教室でも鬼道からと同じように、散々クラスメイトに質問攻めを食らったばかりだ。出来れば大人しく目立たないようにしていたい。だが、円堂に風丸の気持ちが伝わろう筈はなかった。
「何言ってんだよっ。そんな包帯だらけの頭でっ。風丸がひどいケガしたんじゃ、オレ、どうすりゃいいんだよ!」
「大丈夫だ、円堂。こんなの大したことじゃ」
 とりあえず円堂を黙らせなければ……と、何事もないような振りで話しかけたが、風丸の腐心は通用しない。
「それに、朝だってさ。いつも一緒に登校するのに、お前、さっさと行っちまうんだもん。オレ、お前に嫌われたのかなって、すっげー落ち込んだんだぜ?」
「オレがお前を嫌うワケないだろ」
 円堂の言葉に風丸は慌てた。まさかそんな風に思われてるとは。でも、今日の事態では仕方がない。
 円堂になら、いいかな……?
 風丸は真相を話すべきかと覚悟を決めた。流石に級友たちの目もある。風丸は食べかけの給食に見切りをつけると、円堂を部室へと誘った。


 エイリア学園に襲われた後の雷門中は、理事長の総一郎の手腕によって完璧とも言えるほど、校舎も施設も何処もかしこもピカピカの最新のものに建て直されている。ただし、サッカー部部室だけは少々違っていて、以前に使われていた資材を活用し以前と変わらぬように直された。それは総一郎の、円堂とそしてサッカー部OBたちの思い出への心遣いだ。
「なあ、風丸。ホントに平気なのか」
 部室に入るなり、肩を掴まれた。円堂は本気で風丸の体を心配しているようだった。
「いやその。これはケガじゃないから、そういう意味なら大丈夫さ。ただ……」
「ただ?」
 もったいぶった言い回しの風丸に、円堂は気が気ではない顔をしている。風丸はひとつ息をつくと、躊躇いがちに円堂に告げた。
「円堂。お前だけにはホントのことを話す。だから、驚かないで欲しいんだ」
 真剣な風丸の表情に、円堂もまた顔を強張らせる。
「わかった。何があったって、オレは驚かないからな」
 深く息を吸って、円堂は頷く。風丸はそれを見て、円堂と一緒なら何も心配することなど無いんだと、自分に言い聞かせながら頭部に巻かれた包帯をするすると外し始めた。一巻きごとに包帯は解かれて、少しずつ風丸の異変が露わになってゆく。最初は小首を傾げていた円堂も、<それ>の存在を確認すると、あんぐりと口を開けた。
「か、風丸……。それって!?」
 風丸の足下に巻き始めの包帯の端がするりと落ちた。風丸が落ち着かないように首を蠢かす。
「……驚くな、って言ったじゃないか」
「いや、だって」
 円堂が思わず息を呑む。<それ>は風丸の髪と一体化したかのように、細かな青灰色の毛で覆われている。
「それじゃ、まるでウサギじゃないか!」
 風丸の頭部から、にょっきりと生えた2本の<それ>は、まさしくウサギの耳、そのものだった。
「円堂にも、そう、見えるか……?」
 円堂が頷くと風丸は俯き、たじろいで両の手を組み、更に告げる。
「耳だけじゃないんだ」
「耳だけじゃない、って……?」
 きつく巻かれた包帯から解放された<ウサギの耳>は、ひくひくと動いて、風丸の不安を表した。
「……しっぽが」
「しっぽ!?」
 円堂が素っ頓狂な声を出す。風丸はもじもじと両手を臀部に触れた。
「見るか、円堂」
「う、うん」
 円堂が頷くと、躊躇いながらも風丸はベルトを解いて制服のズボンをずり下げた。すると、ぴょこんと耳と同じ色のふわふわの毛の固まりが飛び出した。
「し、しっぽだ……!」
 円堂がずるりとその場に尻餅をつく。正に腰が抜けたのだろう。
 <しっぽ>は風丸のすべすべとした尻の割れ目の付け根、つまりは尾てい骨と呼ばれる辺りに膨らんだように生えている。<しっぽ>もひくひくと動いて、それが作り物ではないと示していた。
「円堂。オレ、こんな体になっちまったよ。はは……」
 口は笑ってはいるが、風丸の声色は溜息に満ちていた。
「そういうことだったんだな?」
 風丸と円堂が見つめ合い、一瞬の沈黙が流れた後、不意に背後からそう声をかけられた。2人がはっと振り返ると、部室の扉を塞ぐように、鬼道と豪炎寺が立っていた。
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「あ……」
 風丸と円堂は唖然として声を出した。風丸はびくりと怯え、円堂は心底驚いたように。鬼道は辺りを確かめてそっと扉を閉める。豪炎寺は複雑な表情をしていた。
「今朝の風丸の態度。あまりにも異様だったからな。悪いが後を付けさせてもらった」
 鬼道は扉の鍵を下ろすと、風丸に振り返った。ばつが悪そうに風丸は俯く。そんな風丸を円堂がかばった。
「でもさ。いきなり自分の体が、こんなんなっちまったら、誰だって戸惑うに決まってるだろ?」
「気持ちは分かる。だが、一人だけで解決できるような問題では無いだろう」
 鬼道は軽く首を振って2人に諭した。
「何の為にオレたちが居ると思っているんだ?」
 豪炎寺が鬼道の言葉を継ぐ。円堂の顔が歓喜の色に変わった。
「お前たちも協力してくれるのか。風丸、大丈夫だ。オレたち3人が居たら何とかなるさ!」
 だが風丸は口元に手を当てて不安そうな表情を崩さない。
「とりあえず……。その症状はいつからだったんだ、風丸?」
「今朝からさ。目覚めた時には、もう」
 鬼道は指で顎を触ると考え込んだ。
「お前だけなのか、その症状は? 染岡たちは?」
 鬼道の問いに風丸は頭を振った。
「オレ一人だ。多分な」
「となると」
 鬼道は微かに唸ると首を捻る。
「……エイリア石の影響とは考えられないか?」
 風丸が黙り込む。
「どういうことだよ、鬼道」
 代わりに答えたのは円堂だ。豪炎寺は口を真一文字にして風丸のウサギの耳を見ていた。
「元々普通の人間だった者たちが、あの石の所為で身体が変化した。それは多数に及んでいたと、関係者たちから聞いた。つまり、風丸にも……」
「でも、それはエイリア石があった時だけだろ! 今はもう無いんだからさ!」
 鬼道が投げかけた言葉に円堂が必死の形相で反論するが、風丸自身がそれを肯定した。
「ああ……。やっぱりな。そうじゃないかと思ってたんだ」
 俯いたままの風丸の目元が陰る。
「オレは染岡たちより、長くあの石に触れていたからな」
 それを聞いて円堂が泣きそうな顔をした。
「……分かってる。これは罰だ。自分が持ってる以上の力を得ようとした結果がこれさ」
「ちがうっ!」
 円堂が風丸の肩をぎゅっと抱きしめた。
「罰なんかじゃない。もう風丸が苦しむことなんかないんだ!」
 肩をぐっと抱きしめられ、風丸は笑っているような泣いているような口元を歪めて、
「……ありがとう円堂」
と呟いた。
「兎も角、瞳子監督に連絡してみた方がいいんじゃないのか、円堂。彼女からなら、何か助言を受けられるだろう」
「あ、ああ。分かった」
 円堂は風丸の背中を宥めて擦ってやりながら、携帯を取り出す。瞳子の番号を確かめてすぐに発信ボタンを押した。
「もしもし……。あら、円堂くん?」
 落ち着いた調子の瞳子の声。それが今はとても懐かしく思える。円堂は風丸の様子を彼女に伝えた。
「……そう、風丸くんが。ええ、エイリア石がなくなってからも、何らかの影響が残っている子供たちは大勢いるわ。風丸くんと同じような症状は聞いていないけれど……」
 溜息まじりで瞳子は言う。彼女はきっと、残されたエイリア関係の処理に追われ忙殺の真っ最中なのだろう。彼女の声の背後からは大勢の人の声が聞こえた。
「今は落ち着いて、対応して。後から何か分かればそちらに連絡するわ。それから、風丸くんの挙動には注意して。多分心を痛めているだろうから……」
「はいっ。分かりました、瞳子監督」
 円堂が返答する。瞳子の言った意味が分かるのは後になるのだが、今の円堂はそこまで気は回らない。
「では、調べてくるから、一旦切るわね」
 そこで瞳子との通話は終わった。
「瞳子監督が調べてきてくれるって言ってた。鬼道、アドバイスありがとう」
 円堂が鬼道と豪炎寺の顔を見回して礼を言った。
「大したものじゃないぞ」
 鬼道は謙遜して首を振る。
「風丸。あんまり気にするなよ。すぐにそんなの良くなるからさ」
 これで風丸も気が楽になるだろう。そう思って円堂は風丸の背中をぽんと押した。
「ん……」
 頷く風丸の声は曖昧だ。
 その時、それまで黙ったままの豪炎寺がいきなりむずむずとした顔で、とんでもないことを言いだした。
「風丸……。実は夕香が、オレの妹がお前に会いたがっている」
「え?」
 風丸と円堂はきょとんと顔を上げた。
「お前、稲妻病院で夕香の見舞いに行ってくれたんだってな。最近、お前にまた会いたい、と言いだしてな」
 それで? と一同は豪炎寺を見つめた。彼自身は何故だか、拳をぎゅっと握って震わせている。
「だからその、風丸。その姿で夕香に会ってくれないか? 大丈夫だ。夕香は猫とか子犬とか小熊とか可愛いものが好きなんだ。だから今のお前を見たらきっと気に入るハズ……」
「何を言いだすんだ、お前」
 鬼道が呆れた顔をする。
「だ、だから風丸。お願いだ、夕香に会ってくれ! そのウサギの耳としっぽのままで会ってくれ!」
 豪炎寺の声は真剣そのものだ。だが皆が知っている豪炎寺という男が言う言葉には、まるで聞こえなかった。
「豪炎寺っ、夕香ちゃんには風丸が元に戻ってからでいいだろっ!?」
 円堂が、異様な剣幕に怯えだした風丸を庇ってそう叫ぶと、豪炎寺ははっと我に返る。
「あ……。いや、済まん。そうだな、夕香には後でいいか」
 豪炎寺は、自分に言い聞かせるように頷きながら謝った。
「兎も角、今は風丸の体を元に戻すことが先決だ」
 鬼道は咳払いをすると、その場を収めた。
「で、風丸。この後の授業は出れそうか?」
「授業か……。五時間目は体育だ」
「不味いな、それは」
「何が不味いんだ?」
 円堂が首を捻る。風丸の顔が再び不安に晒された。
「着替えとかはどうする? 第一、それで運動して体に異変でも起こったら?」
「……わかった。見学することにする」
 風丸が陰りを帯びた顔で答えると、円堂がそれを打ち消した。
「いや、風丸。もう授業には出るな。ここにいればいいさ」
「その方が懸命かも知れんな」
「でも……」
 風丸が顔を上げたが、真剣な眼で自分を見つめる皆と目が合うと、
「……そうだな」
と、溜息まじりに頷いた。
「とりあえず、風丸はここで休んでろよ。瞳子監督から連絡きたらすぐにすっ飛んでくるからさ」
 円堂が風丸の肩に置いた手に力を込める。風丸の目元が潤んでいた。
「ありがとう。みんな」
 そんな具合で皆に一縷の安堵が生まれた。と、そこへ鬼道が出し抜けに言った。
「ところで、風丸。その耳はどういう構造になっているんだ?」
「どう、って……。見た通りだが」
「少し……触らせてくれないか?」
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「えっ!?」
 風丸が三たび怯えだす。
「いや、風丸。これはやましい考えとかではない。ほんの生物学的な知的好奇心だ。お願いだ。その耳としっぽを少しで良い、オレに触らせてくれっ……」
 いきなり両の指を蠢かし、異様な雰囲気で迫る鬼道に、円堂は思わず喚いた。
「ダメだっ。風丸が怯えてるじゃないか! そっとしてやってくれよ! 2人とも出てってくれ!!」
 円堂は鬼道と豪炎寺を部室からたたき出した。いきなり追い出されて、弁解をはかろうとする2人に、午後の授業の始まりを告げる予鈴が鳴った。
「仕方がない……。風丸と円堂はそっとしておこう」
 諦めた鬼道に、豪炎寺も頷いて、2人は授業を受けるため校舎へと戻って行った。
 部室の窓から、去ってゆく二つの背中を確認すると、円堂はホッとして風丸に呼びかけた。
「もう大丈夫だ、風丸。オレがついてるからな。何にも心配なんか、いらないぜ」
「円堂……!」
 風丸は涙ぐんで円堂の胸の中に飛び込んだ。円堂の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。それほど風丸は不安だったのだ。それを思うと円堂は彼が不憫になって、風丸を抱き返した。
「大丈夫だって。でも、こんなお前見ると、オレたちがガキの頃を思い出すな」
「ん?」
 と風丸は顔を上げる。小首を傾げた仕草が妙に愛らしい。
「小ちゃい頃はさー。お前よく近所の上級生に泣かされてたじゃん」
「そうだな。お前、そいつらに怒ってやり返そうとしたけど、いつも負けてたな」
「その度お前が今みたいに、オレにギュッて抱きついて来たんだよな」
「あったな、そんなこと……」
 懐かしげな顔で昔話をしていると、風丸も落ち着いたのか、笑顔が戻ってくる。円堂は心底安堵した。
「懐かしいな。今のお前じゃ、全然考えられないけどさ」
「いつまでも泣かされっぱなしじゃないさ」
 2人で笑い合う。互いの頬が触れあって、なんだかくすぐったい。風丸のウサギの耳がぴょこんと揺れたのが目に入る。それがとても可愛らしくて、円堂は指で突っつこうとした。
「あ、ゴメン」
 思わず出してしまった指を、円堂は引っ込めようとしたが、風丸は首を振った。
「いいぜ。円堂なら触ってもいい」
「ホント? いいのか、風丸」
 円堂の問いに風丸はこくんと頷く。
「円堂、だから。円堂になら、触られたって構わないんだ、オレ」
 そう微笑む風丸に、円堂はほっとなった。実を言えばさっきから、風丸のウサギの耳に触りたくて堪らなかったのだ。
 左手で風丸の背中を抱きながら、右の人差し指をそっと差し出す。項垂れた風丸の頭から生えている、それ。髪の毛と同色のびっしりと細かい毛で覆われたそれは、ビロードのようにつやつやしている。人差し指でちょこんとつつく。指の腹でゆっくり撫でると、柔らかい手触りがする。
「すげぇや……。ふわふわだ」
 指で撫でるのにつれ、毛はするりとなだらかに動く。えも言われぬ手触りは円堂を魅了した。
「なんか。お前の毛並、触ってるの気持ちいいな」
「そ、そうか。お前にそう言われると、オレも何となく……」
 風丸が思わず恥ずかしそうに目をつむった。よくよく考えると、円堂とこんなに顔を近づけてるのは、いつ以来だろう。思春期という厄介なものは、自然に人と人との距離を引き離す。気がついたら子供の頃のように、円堂と抱き合ったり手を繋いだり、そんな些細なことまで意識してしまっていた。けれども、今、自然に円堂に体を触れさせるのは、照れくさいけれども心地の良いものだった。
「な、なあ円堂。……しっぽも触っていいんだぜ」
「ホントか? じゃあ」
 風丸が臀部を差し出すようねじると、円堂はにっこり笑って右手をしっぽに移動させる。ふさふさとしたそれをゆっくり撫でた。
「うわ……。こっちはもっと柔らかいぜ」
 しっぽの毛はふんわりとして、円堂の指先を喜ばせる。風丸は円堂に撫でられているうちに、体の異変に気がついた。何故だか、体全体が熱い。特に中心に籠っているような熱があった。
「あ……あ!」
「どうしたっ? 風丸」
 円堂が声を上げた風丸に驚いて、顔を覗き込む。
「な、なんか変……なんだ。う……っ」
 かがみ込んでしまった風丸を見て、円堂はおろおろとしてしまった。
「おいっ! 大丈夫か!?」
 瞳子監督から言われたことを思い出す。確か風丸の挙動には注意して、……と。
「風丸っ、どうしたんだよ。変なとこあるんならオレに言ってくれよ、風丸!」
 風丸は頬を上気させ、時折はぁはぁと息を荒くしている。熱でもあるのかと、円堂は風丸の額に手を当てた。だが、さほど熱は高くなかった。
「えん……どっ、オレ……」
 体をくの字に折り曲げた風丸は苦しげに円堂の名を呼ぶ。円堂は必死になって風丸に呼びかけた。
「どこだっ? どこが悪いんだよ、風丸! 言ってくれよ何でも。オレに出来ることならなんだってするからさ! だから、風丸っ!!」
「円堂……。ここが、オレのここが……」
 消え入りそうな風丸の声。円堂は風丸が両手で股間を押さえているので、その上に手を置いて撫で擦ろうとした。
「ここか? ここが痛いのか?」
「違う……。オ……オレ」
「一体、どうしたんだよっ、見せてくれよ!」
 円堂は慌てて、股間を押さえていた風丸の手を引きはがした。その途端目に飛び込んだのは、下着の内側から高くそびえている風丸の性器だった。
「風丸……お前、ちん」
「言うなよっ!」
 顔を真っ赤にして風丸が、円堂の言葉を止めた。
「お前にしっぽ、触られたら……ここが勃起……した」
 目をつむったまま、風丸は小声で呟いた。円堂は口をあんぐりと開けて、床に膝をついた。
「しっぽが?」
 風丸がこくんと頷く。床に横たわって体を震わせている風丸のしっぽを、円堂はもう一度触った。毛がふわりと逆立った。
「う……わぁっ!」
 甲高く風丸が声を上げて悶えた。股間を再び両手で押さえた。円堂はやっと、風丸の体に起こった事態を飲み込んだ。
「つまり……、しっぽに触られるとお前のそこが反応するってことなのか?」
 風丸が悶えながら頷く。円堂は風丸が楽になるようにと、頭を撫でてやった。
「そうか。痛くはないんだな?」
 頬を染めながらも風丸はもう一度頷く。はぁ、と円堂は息をついた。さっき豪炎寺と鬼道が風丸の耳を触りたがっていたが、阻止したのは正解だ、と安堵する。
「良かった。豪炎寺や鬼道に触られたら、大変なことになっていたぞ、今頃」
「……円堂。でも、お前だから。多分。耳もしっぽも。お前が触ったからオレも気持ち良かったし……」
 風丸が熱っぽい眼を潤ませて、円堂を見上げている。そんな風丸が円堂にはとてもいじらしく目に映った。今、風丸は苦しんでいる。それなのにそんなことを自分に言ってくれている。円堂は苦しみから風丸を解放しなければ、と思った。
「なぁ、風丸。さすってやろうか」
「……え。いや、大丈夫だ、円堂」
「遠慮すんなって。オレたちガキの頃からの付き合いだろ?」
「いや、いくらなんでも……」
「じゃあ、こう言えばいいのか?『お前が好きだから』って」
 風丸が息を呑むのが聞こえた。それでも目を逸らさずに円堂を見上げている。円堂は風丸の頬に手を伸ばすと、そっと触れた。息がかかるくらい互いの顔が近づく。
「本気なのか……?」
 風丸が呟くのを円堂は唇を塞ぐことで応えた。ほんの少し温もりが伝わるだけの口づけ。
「本気さ。オレ、キャラバンに乗ってエイリアの奴らと戦っててお前が福岡でいなくなった時、やっと気がついたんだ。お前が側に居ないってことがどんなに辛いのか。だからお前が苦しんでいるのを見るのが、凄くイヤなんだ。お前が笑っていればそれだけで嬉しいのにさ」
「えん……」
 風丸は息が詰まってしまいそれ以上声が出せない。驚きと喜びが交互に胸の中に溢れ、渦巻いた。
「だからオレ、お前を苦しみから救ってあげたい。遠慮なんてしなくていいんだぜ」
 そう囁くと、円堂は股間を押さえる風丸の両手をそっと引きはがした。今度は風丸も抵抗しなかった。
「円堂……」
 まぶたを閉じ円堂の名を呟く風丸のズボンを、ずらして膝まで引き下げる。下着の布地の上から、円堂はまず、形に沿ってやわやわと擦りだした。
「っ、はぁ……」
 風丸が溜息ともつかない、甘い息を吐き出した。
「どうだ? 風丸。気持ちいいか?」
「……うん。でも、直に触って欲しい」
「分かった」
 円堂は潤む目で自分を見ている風丸の、下着の中に手を滑らせた。もう、風丸のそこはぴんといきりたち、先端は既にぬめりを帯びていた。円堂はゆっくりとそれを扱き始めた。
「あ……。うぅ、円堂……」
 甘い吐息は円堂の手の動きにシンクロして吐き出される。円堂が局部だけでなく学ランのボタンを外してシャツの下に手を入れると、肌全体がピンク色に色づきじんわりと汗ばんでいた。
 風丸はオレに触られて、気持ち良さそうによがっているんだ……!
 そう思うと、円堂は心の底から喜びが噴き上がるのを感じた。もうこうなったら風丸を思い切り感じさせてやりたい。と、円堂はますます局部を扱き上げる手の動きを早めた。
「……ぁっ! 円堂、もう、オレっ……!」
 風丸の体がびくんと跳ねる。それに伴い、円堂の手によって充分に高められた昂りが白濁したものを噴出した。
「あっ……あぁ」
 風丸の制服からはだけた肌と握っている円堂の手に、熱の証が降り注ぐ。はぁ……と深い息を吐いて風丸は体を弛緩させた。
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「どうだ? 風丸。もう苦しくないか」
 円堂の呼びかけに一瞬ぐったりとした風丸は、だがすぐに顔を顰めた。
「いや……。すまん円堂。お前の手を汚した」
「これくらいなんともないって」
 円堂は苦笑いして、ズボンのポケットからティッシュを探り出す。自分の手に絡み付いた風丸の体内で渦巻いていたそれを、惜しみつつも拭う。風丸の滑らかな腹にもそれが塗れていたので、拭いてやろうとすると、ぴくりと体が反応した。
「どうした? 風丸」
 よく見ると風丸はまだ震えが止まらないままで、上気した肌には汗が流れ落ちた。
「すまん……。円堂、オレまだ」
「まだ苦しいのか?」
 風丸は唇を震わせると、恥ずかしげに肩をすくめた。
「あ、あのな。……尻の穴がむず痒いんだ……」
 末尾は消え入りそうな声で。
「オレに見せてみろよ!」
 円堂が慌てて風丸の太腿に手をかけると、がばっと押し開く。円堂の目の前に風丸の股間が開かれる。
「えっ、円堂っ! 止めろ恥ずかしい」
 だが羞恥に震える声は無視して、円堂は赤く色づいた風丸のそこを観察した。赤く膨らんだそこは風丸の体液で滴っており、真下の<しっぽ>まで垂れている。
 一体なんだってこんな状態になっているのか……と、好奇心を刺激された円堂は指で直に触れてみる。
「うわ」
 じゅく、という音を立てて、円堂の指はたちまち風丸の中に吸い込まれた。
「ぅあっ! え、円堂……!」
 風丸のそこはとろとろに蕩けていて、円堂の指をすんなり受け入れる。中指で内部を掻き回しながら、人差し指で入り口を突っつくと、それもするりと飲み込んでしまった。
「すげぇや、風丸。指が2本も入っちゃったぜ」
「あっ、ぁあ。えん、ど……っ!」
 風丸の柔らかく包み込むそれを堪能しながら、円堂はじゅぷじゅぷと指を出し入れすると、堪らず抗議の声が上がった。
「や、やめろ、円堂! ……いやだ」
「ホントに? だってすげえ気持ち良さそうじゃないか」
 風丸の腰はがくがくと震え、上気した肌は汗ばんで全体がしっとりと濡れている。再び荒くなった甘い吐息が円堂の耳に届いた。
「ぅ……。指じゃ、いやだ」
「え?」
「指じゃなくて……おまえの、その」
 風丸の視線が自分の股間に向いていることに、円堂は気付いた。合点がいった円堂は思わずごくんと喉を鳴らす。
「いいのか? 初めてのエッチの相手がオレで」
「……いいに決まってるだろ。オレは……もうずっと前から」
 恥ずかしいのか、風丸は目蓋を閉じて声を震わせている。円堂の中に広がる、風丸への思いが衝動に変わってゆく。実のところ、さっきから風丸の体を弄っているうち、円堂も欲望で股間が膨れ上がっていたのだ。
「円堂。オレの体、お前の好きにしていいんだぜ」
 風丸はそう言って微笑むと、学ランの下の白いシャツをボタンを全部外して開く。滑らかな隆起を描いている胸の上で、両手を祈りを捧げるように組んだ。
 これこそ、据え膳って奴か。そう思って、円堂は思わず武者震いをすると、床に横たわる風丸の体の上に覆いかぶさった。
「風丸。オレ、お前のこと大好きだ」
 円堂はウサギの耳としっぽを持つ風丸に、そう囁くと口づけを交わした。組んだ両手をそっと外し、平たい胸の上を撫でる。シャツと学ランに隠された胸の仄赤い突起に触れると、そこにも口づけを落し、くりくりと指で弄った。
「ぁっ。円……堂」
 弄った胸の先から名残惜しくも指を離し、ゆっくりと腹部へ下ろしてゆく。腰の辺りを撫で回すと、感じたのか、風丸の腰が緩やかに揺れた。そうして再び熱を帯び出した風丸の局部に触れ、軽く扱いてやる。風丸の吐息が荒くなった。
 円堂は風丸の両の太腿を掴むと、先程のように押し開いた。隠された小さな窪みは、充血して体液で濡れているのはさっきと変わらない。円堂は鼻を鳴らすと制服のズボンのファスナーを下ろして、下着の中から屹立した己の欲望の証を握り持った。先端をそのまま風丸の誘うような窪みに当てる。
「行くぞ、風丸。一緒に気持ちよくなろうぜ」
 そう言うと、ゆっくり自分のものを風丸の内部に押し進めた。
「あ! んぅ……!」
 風丸が思わず身を捩って身を引こうとしたが、構わず腰を両手で引き寄せた。
「あぁ。あふぅ‥‥…っ!」
「すげ……っ。風丸の中、凄く気持ちいい!」
 風丸のそこは充分に湿り気を帯び、暖かく、程よく円堂を締め付ける。気を抜くとすぐに吐き出してしまいそうになるのを堪えながら、円堂は徐々に奥へ奥へと進んだ。
「あっ、ああ! え、えんど……っ!!」
「ど、どうだ風丸。お前の体とってもいいぞ」
「気持ち……いいのか……?」
「ああ! お前は?」
 押し進めながら円堂は前後に腰を動かすと、風丸が荒い息を吐きながら、にこりと笑った。
「いい……。円堂。オレも気持ち……いい」
「風丸っ」
 風丸が額を流れる汗も厭わずに呟く言葉に、円堂は感激してもっともっと腰を動かし出した。
「風丸ー!」
「あふぅっ、円堂っ!! はぁぁあ……!!」
 部室の中が、2人の温で熱く燃え上がっていた。


 5時間目の授業終了のチャイムが鳴ると、豪炎寺は教室の空っぽの席を見て、溜息をついた。席の持ち主の円堂と風丸は大丈夫なのだろうか? と、そこへ別のクラスから鬼道がやってきた。
「豪炎寺。やっぱり部室を見に行こう」
「気になるか?」
「ああ、どうも腑に落ちなくてな」
 豪炎寺は席を立つと、鬼道と2人で教室を抜け出した。もしかしたら次の授業は2人とも欠席になるかも知れない。だがそんなことを気にしている状況ではなかった。
「さっき、オレも不思議なのだが、風丸のあの耳としっぽを見ていると、おかしな気分になってな」
 実は……とでも言うように、鬼道は豪炎寺に打ち明けた。
「最初はその気などないのに、何故かあの耳としっぽに触りたいと言う衝動に駆られた。豪炎寺、お前は?」
「そうだったのか。鬼道、実はオレもだ」
「妹さんのことは言い訳か」
「いや、夕香が風丸に会いたいと言ってたのは本当だが……」
 部室への通路を急ぎながら、2人は話し合う。
「こうは考えられないだろうか。あの耳としっぽには、見た者を魅了する何かがあるのではないかと」
「……何故だ?」
「うむ。例えば雄のクジャクが立派なしっぽを持っているのはどうしてだ? あれは交配を行う好みの雌を誘惑する為だ。もしくは……」
 鬼道の話を、豪炎寺は首を捻りつつ伺う。
「食虫植物が甘い匂いを獲物の昆虫に向けて出すのは何故だ? 風丸のあの耳としっぽには、同じような作用があるのではないのか……?」
「そうなると?」
「部室に円堂と共に残したのは、不味かったのではないのか」
「風丸が円堂を襲うとでも言うのか!?」
 豪炎寺がいきりたった顔で鬼道を睨む。
「そこまでは言っていない。ただ、非常に不味い気がするのだ」
「急ごう、鬼道」
 背中がぞくりと冷たくなるような予感が襲う。豪炎寺は苦虫を潰した顔をすると、部室へと走り出した。鬼道もそれを追う。
4 / 5
5 / 5

「……ふぅ」
 ゆっくりと息を吐いて、円堂は風丸の体を抱きしめた。ひとときの行為は終わりを告げ、たゆたう思いが部室の中で揺れる。2人とも、学ランの上も下も床に脱ぎ捨ててしまい、シャツと靴下だけ、という格好で体を絡み合わせていた。
 風丸の中にありったけの欲望を吐き出した円堂は、愛おしげに風丸の頭を撫でた。
「円堂……、オレ」
「なんだ? 風丸」
 頬と頬を触れ合わせていたのを互いにずらして見つめ合う。潤んだ瞳と瞳が交差した。思わず微笑み合う。
「こんな状況のときに言うべきことじゃないかも知れないけど……、お前と結ばれて本当に良かった」
「オレだってさ。お前がそんな風にならなかったら、ずっと親友のままだったのか、なぁ」
「それって、オレたちもう親友同士じゃないってことになるのか?」
 風丸がそう言うと、円堂は首を横に振った。
「オレたちは子供の頃からの親友で、恋人同士でもある。そうだろ?」
「ん……」
 風丸は照れ笑いを浮かべて頷く。
「なんか、感謝しなくちゃな。お前のその、耳としっぽに」
 円堂は風丸の耳元に囁くと、頭から生えた2本の耳をそっと撫でた。その柔らかく、ビロードのような手触りの耳をくすぐるように撫で続ける。髪の毛の中に埋没している根元の方まで指を這わせると、ウサギの耳がいきなり、ぽろんと溢れた。
「え」
 円堂には一瞬何が起こったのか、理解ができなかった。恐る恐る右手を動かすと、手のひらで風丸のウサギの耳だけがころんと動く。
「わあああああ!」
「ど、どうしたんだ? 円堂」
 いきなり起き上がってわなわなと右手を震わせている円堂を、風丸はきょとんとして見上げた。
「か、風丸っ。お、オレ、お前の耳、もいじゃった……!」
「耳?」
 風丸も体を起こして、まだ付いたままの耳に手をやった。すると同じようにぽろんと床にウサギの耳は落ちた。
「ぅえっ!?」
「これは一体、どういう……」
 風丸自身も、自分の身に起こった事態が、何がなんだかよく分からない。
「しっぽは? お前のしっぽはどうなんだよっ」
 円堂に促されて、風丸は臀部から生えているしっぽに手を伸ばした。ほどなく、しっぽは指で2、3回ねじっただけで尻から取れた。
「しっぽも取れた……!」
「ってことはさ。風丸、お前」
 円堂は驚き顔を即座に笑顔に変える。
「お前、元の体に戻ったんだよ!」
「あっ、ああ……。そうか」
「良かった! 良かったなぁ! 風丸!!」
 円堂は歓喜のあまり、風丸の体をぎゅっと抱きしめた。風丸にも、やっと自分の体が異変から解放されたのだと、やっと実感がこみ上げてきた。
「円堂……!」
 そのとき。部室のドアをどんどんと叩かれて2人はびっくりして振り返る。
「円堂! 風丸!」
「お前たち、大丈夫なのか!?」
 豪炎寺と鬼道の声だ。円堂は喜び勇んで部室の鍵を開ける。
「お、お前ら……!」
「その格好は……」
 ドアが開くと飛び込む、笑顔の円堂とちょっと恥じらい顔の風丸。対する豪炎寺と鬼道は、シャツと靴下のみ着けている2人を見て、半ば呆れた顔をした。
「喜んでくれ! 風丸は元に戻ったんだ。もう安心だろ」
「話は服を着てからにしろ」
 豪炎寺が咳払いをしてそう言うと、やっと円堂と風丸は自分たちが半裸のままだと気がついた。
「あ、ああああ、あんま見るな」
 慌てて床に落ちた下着と制服のズボンを拾う風丸は、恥ずかしそうに身を屈めた。
「まさかとは思うが……お前たち、した、……のか?」
 鬼道が顔を引きつらせながら訊くと、円堂がにっこり返す。
「ああ。オレ、風丸とエッチした」
「円堂っ!」
 顔を真っ赤にして風丸が円堂をたしなめる。鬼道は呆れて頭を抱え、豪炎寺は面白くなさそうに軽く舌打ちした。
「ん? 悪いことなのか? でもお陰で風丸は元に戻ったんだぜ」
「そ、そうか。やはりオレの予想した通りだったな」
「何が?」
 と、円堂が聞き返そうとすると、机に置いてあった円堂の携帯が鳴った。
「瞳子監督!?」
 着信を確認して円堂が出ると、彼女独特の冷静沈着な声を少々上擦らせた声が聞こえた。
「円堂くんっ? 風丸くんと同じ症状の資料を発見したわ」
「ああ……、そうですか。でも、もう風丸は元に戻ったんです」
「えっ!? 戻ったの」
「ええ、おかげさまで。わざわざありがとうございます」
 携帯の向こうから聞こえる瞳子の声からは、意外そうな溜息が混じった。
「そう……。では風丸くんと……してしまったのかしら?」
「えっ? ええ、まあ……」
 円堂は思わず頭をかいた。
「それでは、こちらから教えることはあまり無いわね。ああ、取れた耳としっぽはどうしたの?」
「ありますけど……。風丸、それ、どうするんだ?」
 円堂は床に転がったウサギの耳としっぽの処遇を、風丸に訊いた。
「勘弁してくれよ。こんな物にもう振り回されたくない。早く捨てちまおうぜ」
 シャツのボタンを閉めていた風丸は、忌々しそうに今まで自分の体から生えていた物を睨みつけた。
「だな。……瞳子監督、処分しようと思うのですが」
「そうした方がいいわね。できれば焼却処分なさい」
「わかりました。本当にありがとうございます!」
 円堂と瞳子の通話はそれで終わった。瞳子は携帯電話を切ると、目の前のモニターに目を落とす。そこにはエイリア石研究についての資料ファイルが開かれていた。
「ウサギ状の耳としっぽが生えるだなんて、困った症状だわ。『それが生えている間は、ちょうど繁殖期に置ける発情状態に陥る』……」
 モニターの文字列を指で追って、瞳子は一人ごちる。
「それにしてもキスをすれば治る症状だなんて……ね。風丸くんがあの年頃だと言うことを考えると……。でも、治ったのなら、それで良いのだろうけれども」
 瞳子はそう呟くと、モニターに映った『スノーホワイト・ラビット症候群』と名付けられたファイルを閉じた。


「お前が予想していた通り、とはどういうことだ?」
 円堂が瞳子との通話の終えた後、全てが終わった部室で豪炎寺が鬼道に尋ねた。
「ああ、つまり。風丸の体内に他人のDNAが侵入することにより、それを媒体として<耳としっぽ>が凝固するのではないか、と予想したのだ」
「なんだ、それ?」
 円堂が学ランの上を羽織りながら突っ込む。
「ともかく……、風丸はもう何ともないのだろう?」
「ああ」
「取れた部分はどうなっている?」
「見るか?」
 風丸は一旦ベルトを締めたズボンを緩めて、下着をずらせて3人に見せた。尾てい骨の辺りがほんのり赤くなっていたが、肌はつるんとしていて、それまでふわふわとしたしっぽがあったとは考えられなかった。
「では頭の方も……」
「おんなじじゃないのか? 髪の毛で分からないけどさ」
 鬼道と円堂が風丸の頭の天辺を見る。風丸が乱れた髪を指で無造作に整えていたが、耳の痕跡は認められなかった。
「――まあ、いいんじゃないのか。これで全部終わったんだから。あの耳としっぽは、風丸の中にあった良くない部分を全部吸い出して消しちまったんだよ」
 円堂が再び衣服を整える風丸の肩を叩きながらそう言った。
「こんなのもう懲り懲りだぜ」
 風丸が腕組みをして床に転がる耳としっぽを一瞥した。
「どうするんだ、それは。そこに置いておくのか?」
 豪炎寺が訊くと、円堂が
「ああ、瞳子監督が処分した方がいいって」
と応える。風丸が
「焼却炉にでも持ってって焼いてくれよ。もう、見たくもない」
と言うので、鬼道も頷いた。
「懸命だな」
 結局6時間目が終わる前に、4人は校舎裏の焼却炉へ行くと、まだふんわりとした手触りのままの<耳としっぽ>を、焼却口に放り込んだ。これであの忌まわしい出来事から完全にさよならだ。
「あ~あ、今日は散々だったぜ」
 軽く背伸びをする風丸。それを微笑ましげに見つめる円堂と、2人を微妙な表情で見る豪炎寺。鬼道は顎を指で突きながら、エイリア石の神秘について考察しようとして、苦笑いをし、やめた。
 放課後、いつも通りに練習に明け暮れるサッカー部の面々たち。だがその頃焼却炉で起こった、異臭と異様な煙の大騒ぎには誰も気付くことはなかった。
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ウサギになっちゃった

キーワードタグ イナズマイレブン  円風  R18 
作品の説明 サイトから再掲。
円風異種姦ものです。例のエイリア石でウサ耳しっぽが生えちゃったお話。

以下は当時のあとがきです。

風丸さんを異種化してみたらと言うテーマでやってみました。
猫耳はありきたりなので、ウサ耳で。
うっかり途中でえろに走りましたがw、まあラブラブ円風やれたのでよしとしようw。
こっそり風←豪なのはうちのサイトですからしょうがないですね。
<2010/6/28脱稿>
ウサギになっちゃった
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「な、なんなんだよ! これ」
 ある朝、目覚めて鏡を見た風丸は仰天した。洗面ユニットのピカピカに磨かれた鏡面に映る、自分の頭からは異様なものがにょっきりと生えていたからだ。道理で目覚めた時、頭が妙にむずむずした違和感があった訳だ。
「う……ウソ、だろ?」
 頭から生えている<それ>に恐る恐る触ってみる。指でつまんで引っ張ってみる。引っ張るにつれて、頭皮がくいっと持ち上がる。
「なんだ、う……」
 <それ>に触ってるうち、もうひとつ新たな違和感が生じた。それは下半身、というか臀部から感じる。手を後ろにやり、パジャマ代わりのジャージ越しに触れる。もこっ、としたものがそこにある。覚悟を決めて下着の中に手を入れた。
「うああぁ!」
 そこも頭部から生えているものと全く同じ感触だった。いや、形状はちょっと違ったかも知れない。どちらかと言えば、頭部のものよりは丸っこい。
「ど、どうしよう……!」
 風丸は頭を抱えてしゃがみ込んだ。今日、どうやって学校へ行くべきか、大いに悩む羽目になる。


 家を出る前考え抜いた末、なるべく人目につかないように、こそこそと登校する。うなだれている所為か、視界は足下ばかりが映る。
「風丸、おはよう」
 いきなり背後から自分を呼び止めたのは、聞き慣れたチームの司令塔の声だ。
「あ……、鬼道か。おはよう」
「……どうしたんだ? その頭は」
 風丸は鬼道になかなか視線を合わせられなかった。鬼道にも風丸の今の格好は異様に映るだろうからだ。
 風丸の頭部には白い包帯がぐるぐると巻かれていた。
「いや。ちょっと」
「怪我でもしたのか? 大丈夫なのか?」
 ちょっと、大げさに巻きすぎたかな? そう後悔するも、<あれ>を隠すのには仕方がない。
「大したことないんだ。ホント。鬼道が心配する程でもないさ」
「そ、そうなのか?」
 首を傾げる鬼道に、風丸ははっきりと答えられない。
「じゃ、オレ、急ぐからっ」
 急いで鬼道の元から校舎へと走り去った。どう考えても自分の行為は不審そのものなのだが、今の風丸にはそうするしか出来なかった。

「風丸――!」
 昼休み、給食をまだ口に詰め込んでいる最中、教室の扉ががらりと開かれると同時に、古くからの付き合いの少年の声が響き渡った。
「え、円堂っ!」
 給食のパンを支えそうになりながらも、慌てて呑み込む。円堂が風丸の席に駆け寄って、そして――。
「どうしたんだよっ。風丸、そのあた……!」
 襲いかかるんじゃないかというくらい円堂ががばっと顔を寄せてくるのを、風丸は思い切りその口を塞いでやった。
「円堂、し、静かにしてくれ……っ」
 朝、教室でも鬼道からと同じように、散々クラスメイトに質問攻めを食らったばかりだ。出来れば大人しく目立たないようにしていたい。だが、円堂に風丸の気持ちが伝わろう筈はなかった。
「何言ってんだよっ。そんな包帯だらけの頭でっ。風丸がひどいケガしたんじゃ、オレ、どうすりゃいいんだよ!」
「大丈夫だ、円堂。こんなの大したことじゃ」
 とりあえず円堂を黙らせなければ……と、何事もないような振りで話しかけたが、風丸の腐心は通用しない。
「それに、朝だってさ。いつも一緒に登校するのに、お前、さっさと行っちまうんだもん。オレ、お前に嫌われたのかなって、すっげー落ち込んだんだぜ?」
「オレがお前を嫌うワケないだろ」
 円堂の言葉に風丸は慌てた。まさかそんな風に思われてるとは。でも、今日の事態では仕方がない。
 円堂になら、いいかな……?
 風丸は真相を話すべきかと覚悟を決めた。流石に級友たちの目もある。風丸は食べかけの給食に見切りをつけると、円堂を部室へと誘った。


 エイリア学園に襲われた後の雷門中は、理事長の総一郎の手腕によって完璧とも言えるほど、校舎も施設も何処もかしこもピカピカの最新のものに建て直されている。ただし、サッカー部部室だけは少々違っていて、以前に使われていた資材を活用し以前と変わらぬように直された。それは総一郎の、円堂とそしてサッカー部OBたちの思い出への心遣いだ。
「なあ、風丸。ホントに平気なのか」
 部室に入るなり、肩を掴まれた。円堂は本気で風丸の体を心配しているようだった。
「いやその。これはケガじゃないから、そういう意味なら大丈夫さ。ただ……」
「ただ?」
 もったいぶった言い回しの風丸に、円堂は気が気ではない顔をしている。風丸はひとつ息をつくと、躊躇いがちに円堂に告げた。
「円堂。お前だけにはホントのことを話す。だから、驚かないで欲しいんだ」
 真剣な風丸の表情に、円堂もまた顔を強張らせる。
「わかった。何があったって、オレは驚かないからな」
 深く息を吸って、円堂は頷く。風丸はそれを見て、円堂と一緒なら何も心配することなど無いんだと、自分に言い聞かせながら頭部に巻かれた包帯をするすると外し始めた。一巻きごとに包帯は解かれて、少しずつ風丸の異変が露わになってゆく。最初は小首を傾げていた円堂も、<それ>の存在を確認すると、あんぐりと口を開けた。
「か、風丸……。それって!?」
 風丸の足下に巻き始めの包帯の端がするりと落ちた。風丸が落ち着かないように首を蠢かす。
「……驚くな、って言ったじゃないか」
「いや、だって」
 円堂が思わず息を呑む。<それ>は風丸の髪と一体化したかのように、細かな青灰色の毛で覆われている。
「それじゃ、まるでウサギじゃないか!」
 風丸の頭部から、にょっきりと生えた2本の<それ>は、まさしくウサギの耳、そのものだった。
「円堂にも、そう、見えるか……?」
 円堂が頷くと風丸は俯き、たじろいで両の手を組み、更に告げる。
「耳だけじゃないんだ」
「耳だけじゃない、って……?」
 きつく巻かれた包帯から解放された<ウサギの耳>は、ひくひくと動いて、風丸の不安を表した。
「……しっぽが」
「しっぽ!?」
 円堂が素っ頓狂な声を出す。風丸はもじもじと両手を臀部に触れた。
「見るか、円堂」
「う、うん」
 円堂が頷くと、躊躇いながらも風丸はベルトを解いて制服のズボンをずり下げた。すると、ぴょこんと耳と同じ色のふわふわの毛の固まりが飛び出した。
「し、しっぽだ……!」
 円堂がずるりとその場に尻餅をつく。正に腰が抜けたのだろう。
 <しっぽ>は風丸のすべすべとした尻の割れ目の付け根、つまりは尾てい骨と呼ばれる辺りに膨らんだように生えている。<しっぽ>もひくひくと動いて、それが作り物ではないと示していた。
「円堂。オレ、こんな体になっちまったよ。はは……」
 口は笑ってはいるが、風丸の声色は溜息に満ちていた。
「そういうことだったんだな?」
 風丸と円堂が見つめ合い、一瞬の沈黙が流れた後、不意に背後からそう声をかけられた。2人がはっと振り返ると、部室の扉を塞ぐように、鬼道と豪炎寺が立っていた。
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「あ……」
 風丸と円堂は唖然として声を出した。風丸はびくりと怯え、円堂は心底驚いたように。鬼道は辺りを確かめてそっと扉を閉める。豪炎寺は複雑な表情をしていた。
「今朝の風丸の態度。あまりにも異様だったからな。悪いが後を付けさせてもらった」
 鬼道は扉の鍵を下ろすと、風丸に振り返った。ばつが悪そうに風丸は俯く。そんな風丸を円堂がかばった。
「でもさ。いきなり自分の体が、こんなんなっちまったら、誰だって戸惑うに決まってるだろ?」
「気持ちは分かる。だが、一人だけで解決できるような問題では無いだろう」
 鬼道は軽く首を振って2人に諭した。
「何の為にオレたちが居ると思っているんだ?」
 豪炎寺が鬼道の言葉を継ぐ。円堂の顔が歓喜の色に変わった。
「お前たちも協力してくれるのか。風丸、大丈夫だ。オレたち3人が居たら何とかなるさ!」
 だが風丸は口元に手を当てて不安そうな表情を崩さない。
「とりあえず……。その症状はいつからだったんだ、風丸?」
「今朝からさ。目覚めた時には、もう」
 鬼道は指で顎を触ると考え込んだ。
「お前だけなのか、その症状は? 染岡たちは?」
 鬼道の問いに風丸は頭を振った。
「オレ一人だ。多分な」
「となると」
 鬼道は微かに唸ると首を捻る。
「……エイリア石の影響とは考えられないか?」
 風丸が黙り込む。
「どういうことだよ、鬼道」
 代わりに答えたのは円堂だ。豪炎寺は口を真一文字にして風丸のウサギの耳を見ていた。
「元々普通の人間だった者たちが、あの石の所為で身体が変化した。それは多数に及んでいたと、関係者たちから聞いた。つまり、風丸にも……」
「でも、それはエイリア石があった時だけだろ! 今はもう無いんだからさ!」
 鬼道が投げかけた言葉に円堂が必死の形相で反論するが、風丸自身がそれを肯定した。
「ああ……。やっぱりな。そうじゃないかと思ってたんだ」
 俯いたままの風丸の目元が陰る。
「オレは染岡たちより、長くあの石に触れていたからな」
 それを聞いて円堂が泣きそうな顔をした。
「……分かってる。これは罰だ。自分が持ってる以上の力を得ようとした結果がこれさ」
「ちがうっ!」
 円堂が風丸の肩をぎゅっと抱きしめた。
「罰なんかじゃない。もう風丸が苦しむことなんかないんだ!」
 肩をぐっと抱きしめられ、風丸は笑っているような泣いているような口元を歪めて、
「……ありがとう円堂」
と呟いた。
「兎も角、瞳子監督に連絡してみた方がいいんじゃないのか、円堂。彼女からなら、何か助言を受けられるだろう」
「あ、ああ。分かった」
 円堂は風丸の背中を宥めて擦ってやりながら、携帯を取り出す。瞳子の番号を確かめてすぐに発信ボタンを押した。
「もしもし……。あら、円堂くん?」
 落ち着いた調子の瞳子の声。それが今はとても懐かしく思える。円堂は風丸の様子を彼女に伝えた。
「……そう、風丸くんが。ええ、エイリア石がなくなってからも、何らかの影響が残っている子供たちは大勢いるわ。風丸くんと同じような症状は聞いていないけれど……」
 溜息まじりで瞳子は言う。彼女はきっと、残されたエイリア関係の処理に追われ忙殺の真っ最中なのだろう。彼女の声の背後からは大勢の人の声が聞こえた。
「今は落ち着いて、対応して。後から何か分かればそちらに連絡するわ。それから、風丸くんの挙動には注意して。多分心を痛めているだろうから……」
「はいっ。分かりました、瞳子監督」
 円堂が返答する。瞳子の言った意味が分かるのは後になるのだが、今の円堂はそこまで気は回らない。
「では、調べてくるから、一旦切るわね」
 そこで瞳子との通話は終わった。
「瞳子監督が調べてきてくれるって言ってた。鬼道、アドバイスありがとう」
 円堂が鬼道と豪炎寺の顔を見回して礼を言った。
「大したものじゃないぞ」
 鬼道は謙遜して首を振る。
「風丸。あんまり気にするなよ。すぐにそんなの良くなるからさ」
 これで風丸も気が楽になるだろう。そう思って円堂は風丸の背中をぽんと押した。
「ん……」
 頷く風丸の声は曖昧だ。
 その時、それまで黙ったままの豪炎寺がいきなりむずむずとした顔で、とんでもないことを言いだした。
「風丸……。実は夕香が、オレの妹がお前に会いたがっている」
「え?」
 風丸と円堂はきょとんと顔を上げた。
「お前、稲妻病院で夕香の見舞いに行ってくれたんだってな。最近、お前にまた会いたい、と言いだしてな」
 それで? と一同は豪炎寺を見つめた。彼自身は何故だか、拳をぎゅっと握って震わせている。
「だからその、風丸。その姿で夕香に会ってくれないか? 大丈夫だ。夕香は猫とか子犬とか小熊とか可愛いものが好きなんだ。だから今のお前を見たらきっと気に入るハズ……」
「何を言いだすんだ、お前」
 鬼道が呆れた顔をする。
「だ、だから風丸。お願いだ、夕香に会ってくれ! そのウサギの耳としっぽのままで会ってくれ!」
 豪炎寺の声は真剣そのものだ。だが皆が知っている豪炎寺という男が言う言葉には、まるで聞こえなかった。
「豪炎寺っ、夕香ちゃんには風丸が元に戻ってからでいいだろっ!?」
 円堂が、異様な剣幕に怯えだした風丸を庇ってそう叫ぶと、豪炎寺ははっと我に返る。
「あ……。いや、済まん。そうだな、夕香には後でいいか」
 豪炎寺は、自分に言い聞かせるように頷きながら謝った。
「兎も角、今は風丸の体を元に戻すことが先決だ」
 鬼道は咳払いをすると、その場を収めた。
「で、風丸。この後の授業は出れそうか?」
「授業か……。五時間目は体育だ」
「不味いな、それは」
「何が不味いんだ?」
 円堂が首を捻る。風丸の顔が再び不安に晒された。
「着替えとかはどうする? 第一、それで運動して体に異変でも起こったら?」
「……わかった。見学することにする」
 風丸が陰りを帯びた顔で答えると、円堂がそれを打ち消した。
「いや、風丸。もう授業には出るな。ここにいればいいさ」
「その方が懸命かも知れんな」
「でも……」
 風丸が顔を上げたが、真剣な眼で自分を見つめる皆と目が合うと、
「……そうだな」
と、溜息まじりに頷いた。
「とりあえず、風丸はここで休んでろよ。瞳子監督から連絡きたらすぐにすっ飛んでくるからさ」
 円堂が風丸の肩に置いた手に力を込める。風丸の目元が潤んでいた。
「ありがとう。みんな」
 そんな具合で皆に一縷の安堵が生まれた。と、そこへ鬼道が出し抜けに言った。
「ところで、風丸。その耳はどういう構造になっているんだ?」
「どう、って……。見た通りだが」
「少し……触らせてくれないか?」
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「えっ!?」
 風丸が三たび怯えだす。
「いや、風丸。これはやましい考えとかではない。ほんの生物学的な知的好奇心だ。お願いだ。その耳としっぽを少しで良い、オレに触らせてくれっ……」
 いきなり両の指を蠢かし、異様な雰囲気で迫る鬼道に、円堂は思わず喚いた。
「ダメだっ。風丸が怯えてるじゃないか! そっとしてやってくれよ! 2人とも出てってくれ!!」
 円堂は鬼道と豪炎寺を部室からたたき出した。いきなり追い出されて、弁解をはかろうとする2人に、午後の授業の始まりを告げる予鈴が鳴った。
「仕方がない……。風丸と円堂はそっとしておこう」
 諦めた鬼道に、豪炎寺も頷いて、2人は授業を受けるため校舎へと戻って行った。
 部室の窓から、去ってゆく二つの背中を確認すると、円堂はホッとして風丸に呼びかけた。
「もう大丈夫だ、風丸。オレがついてるからな。何にも心配なんか、いらないぜ」
「円堂……!」
 風丸は涙ぐんで円堂の胸の中に飛び込んだ。円堂の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。それほど風丸は不安だったのだ。それを思うと円堂は彼が不憫になって、風丸を抱き返した。
「大丈夫だって。でも、こんなお前見ると、オレたちがガキの頃を思い出すな」
「ん?」
 と風丸は顔を上げる。小首を傾げた仕草が妙に愛らしい。
「小ちゃい頃はさー。お前よく近所の上級生に泣かされてたじゃん」
「そうだな。お前、そいつらに怒ってやり返そうとしたけど、いつも負けてたな」
「その度お前が今みたいに、オレにギュッて抱きついて来たんだよな」
「あったな、そんなこと……」
 懐かしげな顔で昔話をしていると、風丸も落ち着いたのか、笑顔が戻ってくる。円堂は心底安堵した。
「懐かしいな。今のお前じゃ、全然考えられないけどさ」
「いつまでも泣かされっぱなしじゃないさ」
 2人で笑い合う。互いの頬が触れあって、なんだかくすぐったい。風丸のウサギの耳がぴょこんと揺れたのが目に入る。それがとても可愛らしくて、円堂は指で突っつこうとした。
「あ、ゴメン」
 思わず出してしまった指を、円堂は引っ込めようとしたが、風丸は首を振った。
「いいぜ。円堂なら触ってもいい」
「ホント? いいのか、風丸」
 円堂の問いに風丸はこくんと頷く。
「円堂、だから。円堂になら、触られたって構わないんだ、オレ」
 そう微笑む風丸に、円堂はほっとなった。実を言えばさっきから、風丸のウサギの耳に触りたくて堪らなかったのだ。
 左手で風丸の背中を抱きながら、右の人差し指をそっと差し出す。項垂れた風丸の頭から生えている、それ。髪の毛と同色のびっしりと細かい毛で覆われたそれは、ビロードのようにつやつやしている。人差し指でちょこんとつつく。指の腹でゆっくり撫でると、柔らかい手触りがする。
「すげぇや……。ふわふわだ」
 指で撫でるのにつれ、毛はするりとなだらかに動く。えも言われぬ手触りは円堂を魅了した。
「なんか。お前の毛並、触ってるの気持ちいいな」
「そ、そうか。お前にそう言われると、オレも何となく……」
 風丸が思わず恥ずかしそうに目をつむった。よくよく考えると、円堂とこんなに顔を近づけてるのは、いつ以来だろう。思春期という厄介なものは、自然に人と人との距離を引き離す。気がついたら子供の頃のように、円堂と抱き合ったり手を繋いだり、そんな些細なことまで意識してしまっていた。けれども、今、自然に円堂に体を触れさせるのは、照れくさいけれども心地の良いものだった。
「な、なあ円堂。……しっぽも触っていいんだぜ」
「ホントか? じゃあ」
 風丸が臀部を差し出すようねじると、円堂はにっこり笑って右手をしっぽに移動させる。ふさふさとしたそれをゆっくり撫でた。
「うわ……。こっちはもっと柔らかいぜ」
 しっぽの毛はふんわりとして、円堂の指先を喜ばせる。風丸は円堂に撫でられているうちに、体の異変に気がついた。何故だか、体全体が熱い。特に中心に籠っているような熱があった。
「あ……あ!」
「どうしたっ? 風丸」
 円堂が声を上げた風丸に驚いて、顔を覗き込む。
「な、なんか変……なんだ。う……っ」
 かがみ込んでしまった風丸を見て、円堂はおろおろとしてしまった。
「おいっ! 大丈夫か!?」
 瞳子監督から言われたことを思い出す。確か風丸の挙動には注意して、……と。
「風丸っ、どうしたんだよ。変なとこあるんならオレに言ってくれよ、風丸!」
 風丸は頬を上気させ、時折はぁはぁと息を荒くしている。熱でもあるのかと、円堂は風丸の額に手を当てた。だが、さほど熱は高くなかった。
「えん……どっ、オレ……」
 体をくの字に折り曲げた風丸は苦しげに円堂の名を呼ぶ。円堂は必死になって風丸に呼びかけた。
「どこだっ? どこが悪いんだよ、風丸! 言ってくれよ何でも。オレに出来ることならなんだってするからさ! だから、風丸っ!!」
「円堂……。ここが、オレのここが……」
 消え入りそうな風丸の声。円堂は風丸が両手で股間を押さえているので、その上に手を置いて撫で擦ろうとした。
「ここか? ここが痛いのか?」
「違う……。オ……オレ」
「一体、どうしたんだよっ、見せてくれよ!」
 円堂は慌てて、股間を押さえていた風丸の手を引きはがした。その途端目に飛び込んだのは、下着の内側から高くそびえている風丸の性器だった。
「風丸……お前、ちん」
「言うなよっ!」
 顔を真っ赤にして風丸が、円堂の言葉を止めた。
「お前にしっぽ、触られたら……ここが勃起……した」
 目をつむったまま、風丸は小声で呟いた。円堂は口をあんぐりと開けて、床に膝をついた。
「しっぽが?」
 風丸がこくんと頷く。床に横たわって体を震わせている風丸のしっぽを、円堂はもう一度触った。毛がふわりと逆立った。
「う……わぁっ!」
 甲高く風丸が声を上げて悶えた。股間を再び両手で押さえた。円堂はやっと、風丸の体に起こった事態を飲み込んだ。
「つまり……、しっぽに触られるとお前のそこが反応するってことなのか?」
 風丸が悶えながら頷く。円堂は風丸が楽になるようにと、頭を撫でてやった。
「そうか。痛くはないんだな?」
 頬を染めながらも風丸はもう一度頷く。はぁ、と円堂は息をついた。さっき豪炎寺と鬼道が風丸の耳を触りたがっていたが、阻止したのは正解だ、と安堵する。
「良かった。豪炎寺や鬼道に触られたら、大変なことになっていたぞ、今頃」
「……円堂。でも、お前だから。多分。耳もしっぽも。お前が触ったからオレも気持ち良かったし……」
 風丸が熱っぽい眼を潤ませて、円堂を見上げている。そんな風丸が円堂にはとてもいじらしく目に映った。今、風丸は苦しんでいる。それなのにそんなことを自分に言ってくれている。円堂は苦しみから風丸を解放しなければ、と思った。
「なぁ、風丸。さすってやろうか」
「……え。いや、大丈夫だ、円堂」
「遠慮すんなって。オレたちガキの頃からの付き合いだろ?」
「いや、いくらなんでも……」
「じゃあ、こう言えばいいのか?『お前が好きだから』って」
 風丸が息を呑むのが聞こえた。それでも目を逸らさずに円堂を見上げている。円堂は風丸の頬に手を伸ばすと、そっと触れた。息がかかるくらい互いの顔が近づく。
「本気なのか……?」
 風丸が呟くのを円堂は唇を塞ぐことで応えた。ほんの少し温もりが伝わるだけの口づけ。
「本気さ。オレ、キャラバンに乗ってエイリアの奴らと戦っててお前が福岡でいなくなった時、やっと気がついたんだ。お前が側に居ないってことがどんなに辛いのか。だからお前が苦しんでいるのを見るのが、凄くイヤなんだ。お前が笑っていればそれだけで嬉しいのにさ」
「えん……」
 風丸は息が詰まってしまいそれ以上声が出せない。驚きと喜びが交互に胸の中に溢れ、渦巻いた。
「だからオレ、お前を苦しみから救ってあげたい。遠慮なんてしなくていいんだぜ」
 そう囁くと、円堂は股間を押さえる風丸の両手をそっと引きはがした。今度は風丸も抵抗しなかった。
「円堂……」
 まぶたを閉じ円堂の名を呟く風丸のズボンを、ずらして膝まで引き下げる。下着の布地の上から、円堂はまず、形に沿ってやわやわと擦りだした。
「っ、はぁ……」
 風丸が溜息ともつかない、甘い息を吐き出した。
「どうだ? 風丸。気持ちいいか?」
「……うん。でも、直に触って欲しい」
「分かった」
 円堂は潤む目で自分を見ている風丸の、下着の中に手を滑らせた。もう、風丸のそこはぴんといきりたち、先端は既にぬめりを帯びていた。円堂はゆっくりとそれを扱き始めた。
「あ……。うぅ、円堂……」
 甘い吐息は円堂の手の動きにシンクロして吐き出される。円堂が局部だけでなく学ランのボタンを外してシャツの下に手を入れると、肌全体がピンク色に色づきじんわりと汗ばんでいた。
 風丸はオレに触られて、気持ち良さそうによがっているんだ……!
 そう思うと、円堂は心の底から喜びが噴き上がるのを感じた。もうこうなったら風丸を思い切り感じさせてやりたい。と、円堂はますます局部を扱き上げる手の動きを早めた。
「……ぁっ! 円堂、もう、オレっ……!」
 風丸の体がびくんと跳ねる。それに伴い、円堂の手によって充分に高められた昂りが白濁したものを噴出した。
「あっ……あぁ」
 風丸の制服からはだけた肌と握っている円堂の手に、熱の証が降り注ぐ。はぁ……と深い息を吐いて風丸は体を弛緩させた。
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「どうだ? 風丸。もう苦しくないか」
 円堂の呼びかけに一瞬ぐったりとした風丸は、だがすぐに顔を顰めた。
「いや……。すまん円堂。お前の手を汚した」
「これくらいなんともないって」
 円堂は苦笑いして、ズボンのポケットからティッシュを探り出す。自分の手に絡み付いた風丸の体内で渦巻いていたそれを、惜しみつつも拭う。風丸の滑らかな腹にもそれが塗れていたので、拭いてやろうとすると、ぴくりと体が反応した。
「どうした? 風丸」
 よく見ると風丸はまだ震えが止まらないままで、上気した肌には汗が流れ落ちた。
「すまん……。円堂、オレまだ」
「まだ苦しいのか?」
 風丸は唇を震わせると、恥ずかしげに肩をすくめた。
「あ、あのな。……尻の穴がむず痒いんだ……」
 末尾は消え入りそうな声で。
「オレに見せてみろよ!」
 円堂が慌てて風丸の太腿に手をかけると、がばっと押し開く。円堂の目の前に風丸の股間が開かれる。
「えっ、円堂っ! 止めろ恥ずかしい」
 だが羞恥に震える声は無視して、円堂は赤く色づいた風丸のそこを観察した。赤く膨らんだそこは風丸の体液で滴っており、真下の<しっぽ>まで垂れている。
 一体なんだってこんな状態になっているのか……と、好奇心を刺激された円堂は指で直に触れてみる。
「うわ」
 じゅく、という音を立てて、円堂の指はたちまち風丸の中に吸い込まれた。
「ぅあっ! え、円堂……!」
 風丸のそこはとろとろに蕩けていて、円堂の指をすんなり受け入れる。中指で内部を掻き回しながら、人差し指で入り口を突っつくと、それもするりと飲み込んでしまった。
「すげぇや、風丸。指が2本も入っちゃったぜ」
「あっ、ぁあ。えん、ど……っ!」
 風丸の柔らかく包み込むそれを堪能しながら、円堂はじゅぷじゅぷと指を出し入れすると、堪らず抗議の声が上がった。
「や、やめろ、円堂! ……いやだ」
「ホントに? だってすげえ気持ち良さそうじゃないか」
 風丸の腰はがくがくと震え、上気した肌は汗ばんで全体がしっとりと濡れている。再び荒くなった甘い吐息が円堂の耳に届いた。
「ぅ……。指じゃ、いやだ」
「え?」
「指じゃなくて……おまえの、その」
 風丸の視線が自分の股間に向いていることに、円堂は気付いた。合点がいった円堂は思わずごくんと喉を鳴らす。
「いいのか? 初めてのエッチの相手がオレで」
「……いいに決まってるだろ。オレは……もうずっと前から」
 恥ずかしいのか、風丸は目蓋を閉じて声を震わせている。円堂の中に広がる、風丸への思いが衝動に変わってゆく。実のところ、さっきから風丸の体を弄っているうち、円堂も欲望で股間が膨れ上がっていたのだ。
「円堂。オレの体、お前の好きにしていいんだぜ」
 風丸はそう言って微笑むと、学ランの下の白いシャツをボタンを全部外して開く。滑らかな隆起を描いている胸の上で、両手を祈りを捧げるように組んだ。
 これこそ、据え膳って奴か。そう思って、円堂は思わず武者震いをすると、床に横たわる風丸の体の上に覆いかぶさった。
「風丸。オレ、お前のこと大好きだ」
 円堂はウサギの耳としっぽを持つ風丸に、そう囁くと口づけを交わした。組んだ両手をそっと外し、平たい胸の上を撫でる。シャツと学ランに隠された胸の仄赤い突起に触れると、そこにも口づけを落し、くりくりと指で弄った。
「ぁっ。円……堂」
 弄った胸の先から名残惜しくも指を離し、ゆっくりと腹部へ下ろしてゆく。腰の辺りを撫で回すと、感じたのか、風丸の腰が緩やかに揺れた。そうして再び熱を帯び出した風丸の局部に触れ、軽く扱いてやる。風丸の吐息が荒くなった。
 円堂は風丸の両の太腿を掴むと、先程のように押し開いた。隠された小さな窪みは、充血して体液で濡れているのはさっきと変わらない。円堂は鼻を鳴らすと制服のズボンのファスナーを下ろして、下着の中から屹立した己の欲望の証を握り持った。先端をそのまま風丸の誘うような窪みに当てる。
「行くぞ、風丸。一緒に気持ちよくなろうぜ」
 そう言うと、ゆっくり自分のものを風丸の内部に押し進めた。
「あ! んぅ……!」
 風丸が思わず身を捩って身を引こうとしたが、構わず腰を両手で引き寄せた。
「あぁ。あふぅ‥‥…っ!」
「すげ……っ。風丸の中、凄く気持ちいい!」
 風丸のそこは充分に湿り気を帯び、暖かく、程よく円堂を締め付ける。気を抜くとすぐに吐き出してしまいそうになるのを堪えながら、円堂は徐々に奥へ奥へと進んだ。
「あっ、ああ! え、えんど……っ!!」
「ど、どうだ風丸。お前の体とってもいいぞ」
「気持ち……いいのか……?」
「ああ! お前は?」
 押し進めながら円堂は前後に腰を動かすと、風丸が荒い息を吐きながら、にこりと笑った。
「いい……。円堂。オレも気持ち……いい」
「風丸っ」
 風丸が額を流れる汗も厭わずに呟く言葉に、円堂は感激してもっともっと腰を動かし出した。
「風丸ー!」
「あふぅっ、円堂っ!! はぁぁあ……!!」
 部室の中が、2人の温で熱く燃え上がっていた。


 5時間目の授業終了のチャイムが鳴ると、豪炎寺は教室の空っぽの席を見て、溜息をついた。席の持ち主の円堂と風丸は大丈夫なのだろうか? と、そこへ別のクラスから鬼道がやってきた。
「豪炎寺。やっぱり部室を見に行こう」
「気になるか?」
「ああ、どうも腑に落ちなくてな」
 豪炎寺は席を立つと、鬼道と2人で教室を抜け出した。もしかしたら次の授業は2人とも欠席になるかも知れない。だがそんなことを気にしている状況ではなかった。
「さっき、オレも不思議なのだが、風丸のあの耳としっぽを見ていると、おかしな気分になってな」
 実は……とでも言うように、鬼道は豪炎寺に打ち明けた。
「最初はその気などないのに、何故かあの耳としっぽに触りたいと言う衝動に駆られた。豪炎寺、お前は?」
「そうだったのか。鬼道、実はオレもだ」
「妹さんのことは言い訳か」
「いや、夕香が風丸に会いたいと言ってたのは本当だが……」
 部室への通路を急ぎながら、2人は話し合う。
「こうは考えられないだろうか。あの耳としっぽには、見た者を魅了する何かがあるのではないかと」
「……何故だ?」
「うむ。例えば雄のクジャクが立派なしっぽを持っているのはどうしてだ? あれは交配を行う好みの雌を誘惑する為だ。もしくは……」
 鬼道の話を、豪炎寺は首を捻りつつ伺う。
「食虫植物が甘い匂いを獲物の昆虫に向けて出すのは何故だ? 風丸のあの耳としっぽには、同じような作用があるのではないのか……?」
「そうなると?」
「部室に円堂と共に残したのは、不味かったのではないのか」
「風丸が円堂を襲うとでも言うのか!?」
 豪炎寺がいきりたった顔で鬼道を睨む。
「そこまでは言っていない。ただ、非常に不味い気がするのだ」
「急ごう、鬼道」
 背中がぞくりと冷たくなるような予感が襲う。豪炎寺は苦虫を潰した顔をすると、部室へと走り出した。鬼道もそれを追う。
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「……ふぅ」
 ゆっくりと息を吐いて、円堂は風丸の体を抱きしめた。ひとときの行為は終わりを告げ、たゆたう思いが部室の中で揺れる。2人とも、学ランの上も下も床に脱ぎ捨ててしまい、シャツと靴下だけ、という格好で体を絡み合わせていた。
 風丸の中にありったけの欲望を吐き出した円堂は、愛おしげに風丸の頭を撫でた。
「円堂……、オレ」
「なんだ? 風丸」
 頬と頬を触れ合わせていたのを互いにずらして見つめ合う。潤んだ瞳と瞳が交差した。思わず微笑み合う。
「こんな状況のときに言うべきことじゃないかも知れないけど……、お前と結ばれて本当に良かった」
「オレだってさ。お前がそんな風にならなかったら、ずっと親友のままだったのか、なぁ」
「それって、オレたちもう親友同士じゃないってことになるのか?」
 風丸がそう言うと、円堂は首を横に振った。
「オレたちは子供の頃からの親友で、恋人同士でもある。そうだろ?」
「ん……」
 風丸は照れ笑いを浮かべて頷く。
「なんか、感謝しなくちゃな。お前のその、耳としっぽに」
 円堂は風丸の耳元に囁くと、頭から生えた2本の耳をそっと撫でた。その柔らかく、ビロードのような手触りの耳をくすぐるように撫で続ける。髪の毛の中に埋没している根元の方まで指を這わせると、ウサギの耳がいきなり、ぽろんと溢れた。
「え」
 円堂には一瞬何が起こったのか、理解ができなかった。恐る恐る右手を動かすと、手のひらで風丸のウサギの耳だけがころんと動く。
「わあああああ!」
「ど、どうしたんだ? 円堂」
 いきなり起き上がってわなわなと右手を震わせている円堂を、風丸はきょとんとして見上げた。
「か、風丸っ。お、オレ、お前の耳、もいじゃった……!」
「耳?」
 風丸も体を起こして、まだ付いたままの耳に手をやった。すると同じようにぽろんと床にウサギの耳は落ちた。
「ぅえっ!?」
「これは一体、どういう……」
 風丸自身も、自分の身に起こった事態が、何がなんだかよく分からない。
「しっぽは? お前のしっぽはどうなんだよっ」
 円堂に促されて、風丸は臀部から生えているしっぽに手を伸ばした。ほどなく、しっぽは指で2、3回ねじっただけで尻から取れた。
「しっぽも取れた……!」
「ってことはさ。風丸、お前」
 円堂は驚き顔を即座に笑顔に変える。
「お前、元の体に戻ったんだよ!」
「あっ、ああ……。そうか」
「良かった! 良かったなぁ! 風丸!!」
 円堂は歓喜のあまり、風丸の体をぎゅっと抱きしめた。風丸にも、やっと自分の体が異変から解放されたのだと、やっと実感がこみ上げてきた。
「円堂……!」
 そのとき。部室のドアをどんどんと叩かれて2人はびっくりして振り返る。
「円堂! 風丸!」
「お前たち、大丈夫なのか!?」
 豪炎寺と鬼道の声だ。円堂は喜び勇んで部室の鍵を開ける。
「お、お前ら……!」
「その格好は……」
 ドアが開くと飛び込む、笑顔の円堂とちょっと恥じらい顔の風丸。対する豪炎寺と鬼道は、シャツと靴下のみ着けている2人を見て、半ば呆れた顔をした。
「喜んでくれ! 風丸は元に戻ったんだ。もう安心だろ」
「話は服を着てからにしろ」
 豪炎寺が咳払いをしてそう言うと、やっと円堂と風丸は自分たちが半裸のままだと気がついた。
「あ、ああああ、あんま見るな」
 慌てて床に落ちた下着と制服のズボンを拾う風丸は、恥ずかしそうに身を屈めた。
「まさかとは思うが……お前たち、した、……のか?」
 鬼道が顔を引きつらせながら訊くと、円堂がにっこり返す。
「ああ。オレ、風丸とエッチした」
「円堂っ!」
 顔を真っ赤にして風丸が円堂をたしなめる。鬼道は呆れて頭を抱え、豪炎寺は面白くなさそうに軽く舌打ちした。
「ん? 悪いことなのか? でもお陰で風丸は元に戻ったんだぜ」
「そ、そうか。やはりオレの予想した通りだったな」
「何が?」
 と、円堂が聞き返そうとすると、机に置いてあった円堂の携帯が鳴った。
「瞳子監督!?」
 着信を確認して円堂が出ると、彼女独特の冷静沈着な声を少々上擦らせた声が聞こえた。
「円堂くんっ? 風丸くんと同じ症状の資料を発見したわ」
「ああ……、そうですか。でも、もう風丸は元に戻ったんです」
「えっ!? 戻ったの」
「ええ、おかげさまで。わざわざありがとうございます」
 携帯の向こうから聞こえる瞳子の声からは、意外そうな溜息が混じった。
「そう……。では風丸くんと……してしまったのかしら?」
「えっ? ええ、まあ……」
 円堂は思わず頭をかいた。
「それでは、こちらから教えることはあまり無いわね。ああ、取れた耳としっぽはどうしたの?」
「ありますけど……。風丸、それ、どうするんだ?」
 円堂は床に転がったウサギの耳としっぽの処遇を、風丸に訊いた。
「勘弁してくれよ。こんな物にもう振り回されたくない。早く捨てちまおうぜ」
 シャツのボタンを閉めていた風丸は、忌々しそうに今まで自分の体から生えていた物を睨みつけた。
「だな。……瞳子監督、処分しようと思うのですが」
「そうした方がいいわね。できれば焼却処分なさい」
「わかりました。本当にありがとうございます!」
 円堂と瞳子の通話はそれで終わった。瞳子は携帯電話を切ると、目の前のモニターに目を落とす。そこにはエイリア石研究についての資料ファイルが開かれていた。
「ウサギ状の耳としっぽが生えるだなんて、困った症状だわ。『それが生えている間は、ちょうど繁殖期に置ける発情状態に陥る』……」
 モニターの文字列を指で追って、瞳子は一人ごちる。
「それにしてもキスをすれば治る症状だなんて……ね。風丸くんがあの年頃だと言うことを考えると……。でも、治ったのなら、それで良いのだろうけれども」
 瞳子はそう呟くと、モニターに映った『スノーホワイト・ラビット症候群』と名付けられたファイルを閉じた。


「お前が予想していた通り、とはどういうことだ?」
 円堂が瞳子との通話の終えた後、全てが終わった部室で豪炎寺が鬼道に尋ねた。
「ああ、つまり。風丸の体内に他人のDNAが侵入することにより、それを媒体として<耳としっぽ>が凝固するのではないか、と予想したのだ」
「なんだ、それ?」
 円堂が学ランの上を羽織りながら突っ込む。
「ともかく……、風丸はもう何ともないのだろう?」
「ああ」
「取れた部分はどうなっている?」
「見るか?」
 風丸は一旦ベルトを締めたズボンを緩めて、下着をずらせて3人に見せた。尾てい骨の辺りがほんのり赤くなっていたが、肌はつるんとしていて、それまでふわふわとしたしっぽがあったとは考えられなかった。
「では頭の方も……」
「おんなじじゃないのか? 髪の毛で分からないけどさ」
 鬼道と円堂が風丸の頭の天辺を見る。風丸が乱れた髪を指で無造作に整えていたが、耳の痕跡は認められなかった。
「――まあ、いいんじゃないのか。これで全部終わったんだから。あの耳としっぽは、風丸の中にあった良くない部分を全部吸い出して消しちまったんだよ」
 円堂が再び衣服を整える風丸の肩を叩きながらそう言った。
「こんなのもう懲り懲りだぜ」
 風丸が腕組みをして床に転がる耳としっぽを一瞥した。
「どうするんだ、それは。そこに置いておくのか?」
 豪炎寺が訊くと、円堂が
「ああ、瞳子監督が処分した方がいいって」
と応える。風丸が
「焼却炉にでも持ってって焼いてくれよ。もう、見たくもない」
と言うので、鬼道も頷いた。
「懸命だな」
 結局6時間目が終わる前に、4人は校舎裏の焼却炉へ行くと、まだふんわりとした手触りのままの<耳としっぽ>を、焼却口に放り込んだ。これであの忌まわしい出来事から完全にさよならだ。
「あ~あ、今日は散々だったぜ」
 軽く背伸びをする風丸。それを微笑ましげに見つめる円堂と、2人を微妙な表情で見る豪炎寺。鬼道は顎を指で突きながら、エイリア石の神秘について考察しようとして、苦笑いをし、やめた。
 放課後、いつも通りに練習に明け暮れるサッカー部の面々たち。だがその頃焼却炉で起こった、異臭と異様な煙の大騒ぎには誰も気付くことはなかった。
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