本格的に梅雨入りをした。
ただそれだけの事実が気分を重くする。
オーストラリアに戻ろうか。
そうすれば反対側の季節で梅雨など関係ない。
仕事上、日本に滞在しているが、多くは日本にいなくてもどうにかなりそうなものばかりだった。
無理にしがみつくこともない。
しかし自由気ままに生きてきた俺が唯一、縛り付けられるものが日本にはあった。
それは能動的に動き、俺を翻弄させる。
時に欲情させ、堕落と背徳の世界へと誘う。
今日もまた訪れてくるに違いない。
「また、何も食べてないのか?」
大きなため息を付きながら、キッチンへと向かう。
そう言えば水以外、何も口にしていなかったと思い出す。
食事に興味を持たない俺は、時折食べることを忘れる。
人間は水分だけで何日も生きられると知っているせいかもしれない。
なにかに時間を取られ忘れることが大半だが、最近は違った。
それは火村に世話を焼いて欲しいから。
火村のご飯が食べたいから。
特別凝った料理をしてくれる訳ではない。
格別に美味しいという訳でもない。
ただ火村が作ってくれる。
それだけで俺の心は満たされていく。
やっぱり、良いよな。
キッチンに立つ後ろ姿を眺めながら、感慨にふける。
エプロン姿も様になっている。
世間はどうして火村の良さを分からないのだろう。
安心感のある安定した音が響く。
そっと立ち上がり、近付いていく。
こちらに気付いていないのか、振り向く気配はない。
声を掛けようかとも思ったが、言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと近寄ると火村の耳元に息を吹きかけた。
びくりと全身を震わせ、こちらを睨む。
「なに、するんだよ…」
頬が僅かに赤い。
瞳も僅かに動揺していた。
手元は完全に止まっている。
「待ちきれない」
そう耳元に吐息を吹きかけると唇を重ねた。
嫌がる火村はキッチン台を背にして、俺から逃げようとしている。
無理やりこじ開けると舌先に火村の熱を感じた。
侵されるように奥へと進んでいく。
それと同時に卑猥な水音とリップ音が響く。
ここはキッチンのはずなのに欲情が抑えられない。
呼吸が浅くなっていく。
徐々に俺を受け入れていく火村をキッチン台に座らせた。
絡んだ舌先は離れることが苦痛だと言わんばかりに唾液の糸を伸ばす。
レンズ越しにしか見えない火村がもったいなくて、眼鏡を外した。
嫌がる素振りはせず、ただ俺を受け入れているようだ。
いや、流されているのかもしれない。
赤らんだ頬と潤んだ瞳は俺だけを映していた。
ずっとそのままでいればいい。
俺以外、考えられないように壊してあげる。
首元にマーキングをする。
俺だけの火村。
彼女の罪悪感を今だけは捨てて。
火村のせいじゃないから、責めないで。
傷付かなくて良いから。
そそり立つ肉棒を露わにさせると視線をそらした。
手のひらで包むと直接火村の鼓動を感じる。
ゆっくりと指先を動かす。
刹那、身体が跳ねる。
それはさらに俺を欲望の渦へと落とした。
指先がリズムを刻み出す。
手のひらはこするように前後する。
「あっ…」
どこからか漏れた甘い吐息は、行為を加速させていく。
愛おしさに溢れた肉棒を咥えると火村が首を振る。
「やめっ…あぁ!」
震え出す身体は、時折波打つ。
そして妖艶に乱れ、真っ白な肌を赤く染め上げる。
汗が滲み出し、産毛が逆立つ。
快楽を楽しんでいるのだろう。
髪が乱れ、肉欲的に求めるように俺の頭に触れる。
いつの間にか結われていない髪も汗で張り付いていた。
もっと求めて。
罪悪感から解放してあげるから。
今だけは俺で悦んで。
次第に動き出す腰つきはいやらしくて、今にも吐き出してしまいそうだった。
それでも俺は離さない。
ドクン、と大きく脈打つ。
そして、白濁した愛液を吐き出した。
それを一滴残らず飲み干すと火村の虚ろな瞳がこちらを見ていた。
力尽きたのか、俺の腕になだれ込んでくる。
隠れていた背後が視界に広がると料理の最中だったことを思い出す。
これは後で怒られるかもしれない。
そう思いつつもそのままベッドへと運ぶ。
お楽しみはまだこれからである。
気怠い梅雨も火村がいれば、乗り越えられそうだ。
もうすぐ夏がやってくる。
鬱陶しくて暑苦しい、大嫌いな季節だ。
けれど、火村と過ごしたあの夏は、一生記憶に刻まれ続けていくだろう。
「お前に出会えて、みんなに出会えて、良かった」
そっと額に口付けを落とす。
満たされた心が僅かな罪悪感で曇る。
もし彼女が生きていたら――。
愚問だな。
リアリストの俺には似合わない。
ただ叶うのならば、火村が救われますように。
いつか深い闇の中を彷徨っている心に光が差し込みますように。
明日晴れるかな。