蜜りんご

ダイの大冒険のラーハルト×ヒュンケルにドはまりしました。10年ぶりの二次創作活動で楽しい毎日です。

投稿日:2022年06月17日 04:21    文字数:5,662

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【注意】
本作は、ダイの大冒険「魂の絆」の世界観をベースにした二次創作です。
ラーハルトのキャラクエネタバレを含みますので未見の方はご注意ください。何でも許せる方向けです。

ヒュンケル魔槍実装前に書いたものなのでヒュンケルは魔剣で戦っている前提です。
1 / 4
【注意】
本作は、ダイの大冒険「魂の絆」の世界観をベースにした二次創作です。
ラーハルトのキャラクエネタバレを含みますので未見の方はご注意ください。
以下、本作の前提です。

・ミラドシアの時間軸を掴みきれていないので、ここでのラーハルトは死んだ直後の記憶を持ち、
ヒュンケルはバラン戦後、一人で魔槍修行をしていた頃の記憶まであることにしてます。
・魔槍ヒュンケルでのプレイ実装前に書いたもののためヒュンケルは魔剣で、ラーハルトは魔槍で戦っているという前提です。

本人はラーヒュンのつもりで書いていますが、それらしい描写はほとんどないので
ブロマンスとして読んでいただいても良いと思います。

1 / 4
2 / 4


「不思議なものだな」
先に口を開いたのはラーハルトの方だった。
村でのモンスター騒動が一段落し、ラーハルトが絆の勇者パーティーに加わった。
ヒュンケルはそのこと自体を歓迎しながらも、心のどこかで落ち着かなさを感じていた。

ラーハルトがミラドシアに現れた直後はモンスターとの戦いでよくよく考える暇もなかったが、こうやって落ち着いて見ると、改めて、自分が一度殺したこの男に、どう接すればよいのかわからない。
彼から遺志を託された際、確かに彼からの強い信頼を感じた。
そしてそれ故に、彼のためにもバランとダイの親子のわだかまりを何とかしてやりたい一心でバランと戦ったのだ。その時、ヒュンケルにとってラーハルトは「かけがえのない友」となった。元の世界にいた頃は魔槍を手にする度、心の内で何度もラーハルトに、彼の遺志に、思いを馳せた。

しかし、ミラドシアで再会したラーハルトは、友と呼ぶにはあまりに素っ気ない。
自分とてあまり愛想の良い方ではないが、それにしても口を開けばダイとバランの話ばかりで、まるでこちらの存在などなかったかのようである。
力を貸してくれと頼んだ時も、己の言葉をあまり気にした風でもなかった。
結局はダイの一言で彼は共に戦うことを選んだのだから。
友だと思っていたのはこちらの一方的な思いだったのか...しかし考えてみれば彼を殺したのはそもそも自分だ、恨まれたとておかしくない。
その思いに至り、ヒュンケルはラーハルトへの接し方を考えあぐねていたのだ。

とはいえ、他の仲間たちは元の世界で「ラーハルトがヒュンケルに魔槍と遺志を託した」
ことを知っているせいか、どうも対で扱われることが多く、今もこうして宿屋の同室におさまっている訳だ。
そして、互いに武具の手入れなどをしている中、ぽつりと話し出されたのが冒頭のラーハルトの言葉である。

2 / 4
3 / 4



「お前に託した筈の魔槍が今こうしてオレの手元にあるのは奇妙な感じだ。もともとオレのものなのに、な」
「確かに。オレの魔剣はバランに砕かれた筈なのに、この世界では当たり前のように存在している。手には馴染むが、やはり違和感はあるな」

お互い、武人である。無愛想な二人でも武具の話をすれば自然と会話は進んだ。

「オレが死んだ後、あっちの世界ではお前、槍を使ったのか?」
ラーハルトが水を向ければヒュンケルはわずかに口元を歪めて笑う。
「使ってくれと言われたからな」
「…槍の経験は?」
「ない。慣れぬから苦労したぞ」
そう、元の世界では魔槍を使いこなそうと必死に修行をしてようやく少し手応えを掴み始めた頃だった。というのに、この世界ではまた自分は魔剣で戦っている。あの槍はラーハルトなのだ。それがミラドシアでは自分の手元にない。まるでラーハルトとの約束などなかったかのように。
そう思えば、ヒュンケルの目は自然と伏せられる。やはりどんな顔でこの男と向き合えば良いのかわからない。普段とて二言三言しか話さないのだ。
けれど
「ではどうやって槍を身に付けたんだ?自己流か?」
もう会話は切り上げどきかと思われたが、今夜は違うらしい。珍しくもラーハルトがヒュンケルに興味を抱いて話を続けてきた。ならばヒュンケルとしても会話を続けることに異論はない。
「…アバンが残してくれた書物に槍殺法が記してあってそれをもとにできる限りはやった。それでもお前には劣るだろうが…」
「そうか、元の世界で魔剣が修復できず残念だったな。魔剣があればお前はそっちを使っただろう?」
今まさにミラドシアで魔剣で戦っているように。それが一番合理的だ。
ラーハルトが言外にそう滲ませて問えば、ヒュンケルは首を横に振る。
「そうだとしても、オレは魔槍で戦う」
「なぜ?」
「魔槍がお前の形見だからだ」
その言葉にラーハルトが驚いたように小さく息を飲んで、眉根を寄せた。
ああ、やはり
不快か。
ヒュンケルは心の中で嘆息する。この男に友情を感じているのは己の一方的なもの。ならばこれ以上は迷惑だろう。潔く白旗をあげよう。

「すまない、ラーハルト」
「なぜ、謝る?」
「形見などとおこがましいな。お前を死なせたのはオレなのに。そして今、お前は生きているのだから…そもそも形見ですらない。今のは忘れてくれ」
「・・・」
ちらり、とラーハルトを見れば苦虫を噛み潰したような顔。

余計なことを言ってしまっただろうか。だが、なんと言えば良いのか。
何も答えないラーハルトにヒュンケルは胸の奥が冷たくなっていくのを感じた。

己のこの気持ちは見返りなど求めない、ラーハルトへの篤い信頼のはずだ。
けれど今、はっきりと自覚する。
応えてほしいのだ、ラーハルトに。お前は信頼できる友だと言ってほしいのだ。
自分はいつからこんなに欲が深くなったのか。
我ながら呆れ果ててしまう。もう止めよう、彼を追うのは。
そう思うのに。
ヒュンケルの口からは言葉が飛び出してしまっていた。
「ラーハルト、お前はオレのことをどう思っているんだ?」
「なんだ、いきなり…」
「恨んで、いるか?オレがお前を殺したこと」
口に出して、しまった。と思うものの、こぼれ出た言葉は取り消せない。ならばいっそ核心をつくまで。
それにラーハルトは盛大な溜息で答えた。
「貴様を恨んでなどおらん。死んだのは勝負の結果だ。それで恨むほどオレは腐ってはいない。みくびるな」
「す、すまん…だが」
「くどいぞ」
話はこれで終いだ、というようにラーハルトがヒュンケルに背を向けて手入れの終わった魔槍を壁に立てかける。
それにまた、ヒュンケルは落胆するのだ。
彼は恨んでいないという、ならば、ならば。
「お前にとって、オレは何なのだ、ラーハルト」
「そういう貴様こそ。オレのことを何だと思っている?厄介ごとを押し付けた男か?それともオレのことなど覚えていなかったか?」
「違う!オレはお前のことを忘れたことは一日たりとてない。ずっとお前のことを考えていた!どうすればお前に報いることができるのか…」
「殺してしまった償い、と言うわけか」
ラーハルトのその言葉は鋭くヒュンケルの胸に刺さる。ちくり、とした痛みの理由はわからない。無論、贖罪の意識が全くなかった訳ではない。そもそも己は贖罪のために生かされているのだから。
けれど、違うのだ。
ラーハルトから遺志を託されたのは、ヒュンケルにとっては光だったのだ。
マァムから与えられた光とも違う、レオナに命じられた道とも違う。
同じ闇を知るものだからこそ、示してくれた光。戦う理由。生きる理由。
それは、救いのように、呪いのように、ヒュンケルの心を震わせる。
誰にも触れさせたくない奥底を彼にならさらけ出せるのではないかという期待。
触れてほしいし、触れたい。

ああ、もう降参だ。どうしようもない。

「ラーハルト。正直に言おう。オレはあの時、お前に託されて嬉しかったのだ。オレはお前のお陰で贖罪以外の、戦う意味を見つけられた。顔を上げて皆と戦えるようになった。お前の願いはオレにとって光なんだ。その光をくれた男のことを、オレは友だと思っている」

ヒュンケルは真っ直ぐに、ラーハルトを見つめた。
その瞳の強さにラーハルトは気圧される。彼が嘘を言っているわけではないことがよくわかった。しかし、「友」などというものは彼の苛烈な人生においてあまりにも馴染みがない。これまで、ラーハルトが心の中に住まわせていたのは母親と、主君のみ。ヒュンケルを入れるカテゴリーがないのだ。
その戸惑いはラーハルトの口からポロリとこぼれ落ちた。
「…オレが、友?」
「そうだ、信頼できる友だと思っている。だが、ラーハルトは…違うのだろう?」
「なぜ、そう思う?」
「お前はダイのことばかりで。オレのことなど気にも留めぬではないか」
「部下が主君を気にするのは当然だ。貴様はオレの主君ではない」
「ならば、お前にとってはオレはそこらの石ころとそう変わらん存在なのか」
「・・・」
言葉を口にしてヒュンケルは後悔する。これはあまりにも、未練たらしい。
唇を噛み締め、小さく息を吐いた。我ながら情けない有様だ。
「すまん」
「だからなぜ貴様はすぐに謝るのだ」
「すまない。お前を戸惑わせた。オレがお前を友と思うようにお前も思ってくれているのではないか、と期待して変なことを口走った。だがお前の気持ちは理解した。もはや一方的な友情を向けるつもりはない。さっきも言ったが、忘れてくれ。これまで通り、ダイの…」
「待て、ヒュンケル!オレはまだ何も答えてないぞ」
ラーハルトが俯いたヒュンケルの肩を掴むと彼に顔を上げさせる。
「オレは貴様に一目置いている。そこらの石ころと同じものか。それくらい分かれ」
「だが、」
「あいにくだが、オレは友などという甘ったれた関係を好んで作ったことはない」
「…なら、やはり迷惑だな、オレのことは…」
「人の話は最後まで聞け!いいか、ヒュンケル。オレは友というものが正直わからん。お前に抱く、この思いが友情なのかも。今まで生てきて…味わったことのない感情なのだ」
その正体はわからない。わからないが、それは手放してはいけないような気がする。
その直感だけは、ラーハルトの中にあった。
「これは『人の心』だと、あの女は言った」
「あの女?」
「あれだ。ピンク色の髪の…」
「ああ、マァムか。お前もいい加減、名前を覚えろ」
「必要ない。ダイ様とお前以外に興味はない」
仲間になるのならばせめて名前くらいは、と言いかけてヒュンケルははたと気づく。
今、ラーハルトは何といった?
『ダイ様とお前以外に興味はない』
それはつまり、
「ラーハルト。それは…オレには興味がある、ということか?」
「だから何度も言っている。オレは貴様に一目置いていると。そうでなければバラン様を、ダイ様を、魔槍を、託すものか。あれがオレの思いの全てだ」
イチイチ言わせるな、と苛立たしげなラーハルトの声音にはわずかに照れが滲む。それはヒュンケルの心をじんわりとした喜びで包んだ。
彼にとってもまた、初めてのことであった。ラーハルトと心を通い合わせるということが、こんなにも嬉しいことだなんて。

「ラーハルト。オレはお前のことを友と思っても良いのだろうか?」
改めて、という面持ちでヒュンケルが告げると片眉を上げてラーハルトが苦笑を漏らした。
「お前はイチイチ言葉にせねば気が済まん男らしいな」
「そういう訳ではないが…オレにもよくわからん。ただ、お前に対する友情はクロコダインに対するものと何か違うような気がして確かめずにはいられない」
「何だそれは」
「だから、オレにもわからん」
「何だそれは」
「…何だろうな?」
降参とでもいうようにヒュンケルは眉尻を下げて小首を傾げた。体格には似合わないその可愛らしい仕草にラーハルトは思わず吹き出してしまう。
「クク、まぁいい。オレとてお前と居るのは心地よい。それが友というものなら、それで構わん」
「…そうか」
「そうだ、満足か?」
「ああ、満足だ」
そのすっきりとした晴れやかなヒュンケルの表情は存外に幼くて愛らしい。
「ヒュンケル。お前、笑うと可愛い顔をするんだな」
「言うに事欠いて可愛いとは。大の男にいうセリフではないだろう」
視線を外してそう言うヒュンケルの頬はうっすらと赤い。男の赤面など見ても面白くないはずなのに。なぜだかそれはラーハルトの胸を熱くした。
初めて知ったヒュンケルの一面。もっと色んなヒュンケルを知りたい。
「お前にはイチイチ言葉にした方が良い様だからな。オレも素直になることにした」
「何だそれは」
「お互い様だ」
「それもそうだな」
神妙な顔で頷くヒュンケルはやはりどこか可愛らしい。
「ふふ」
「笑うな、ラーハルト」
不貞腐れたように顔を逸らすヒュンケルの横顔を見つめて、ラーハルトは己の胸のうちもすっきりと晴れていくのを感じた。

—-おしまい—-

3 / 4
4 / 4


【あとがき】
たまきずのラーハルトイベントで、ラーハルトがあまりにもバラン様、ディーノ様>ヒュンケルすぎてちょっと原作との乖離を感じてしまい、その穴埋めに書きました。
まぁ、でも、原作のラーハルトは死んでる間、魔槍に魂が宿って、魔槍を通じてヒュンケルがいかに健気にラーハルトの遺志に応えようとしているかを知るんですよ。だから棺桶の中できっと「ヒュンケルを嫁にしよう」って心に決めていたはずです。というわけでの槍ドン&目と目で会話&優しい微笑み、なのです。(まるで見てきたかのようにいうオタクあるある)
でもたまきずのラーハルトはソレを経てないので、ツンの側面がまだ強いのかなと妄想しました。この後、ぜバロを倒す戦いの中で共闘し、お友達の階段を駆け上っていくんですよねきっと!期待してます!!!
まずは交換日記からですかね!!!!

初めて書いたたまきず二次創作なのでご感想を頂けると嬉しいです!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
4 / 4
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【注意】
本作は、ダイの大冒険「魂の絆」の世界観をベースにした二次創作です。
ラーハルトのキャラクエネタバレを含みますので未見の方はご注意ください。
以下、本作の前提です。

・ミラドシアの時間軸を掴みきれていないので、ここでのラーハルトは死んだ直後の記憶を持ち、
ヒュンケルはバラン戦後、一人で魔槍修行をしていた頃の記憶まであることにしてます。
・魔槍ヒュンケルでのプレイ実装前に書いたもののためヒュンケルは魔剣で、ラーハルトは魔槍で戦っているという前提です。

本人はラーヒュンのつもりで書いていますが、それらしい描写はほとんどないので
ブロマンスとして読んでいただいても良いと思います。

1 / 4
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「不思議なものだな」
先に口を開いたのはラーハルトの方だった。
村でのモンスター騒動が一段落し、ラーハルトが絆の勇者パーティーに加わった。
ヒュンケルはそのこと自体を歓迎しながらも、心のどこかで落ち着かなさを感じていた。

ラーハルトがミラドシアに現れた直後はモンスターとの戦いでよくよく考える暇もなかったが、こうやって落ち着いて見ると、改めて、自分が一度殺したこの男に、どう接すればよいのかわからない。
彼から遺志を託された際、確かに彼からの強い信頼を感じた。
そしてそれ故に、彼のためにもバランとダイの親子のわだかまりを何とかしてやりたい一心でバランと戦ったのだ。その時、ヒュンケルにとってラーハルトは「かけがえのない友」となった。元の世界にいた頃は魔槍を手にする度、心の内で何度もラーハルトに、彼の遺志に、思いを馳せた。

しかし、ミラドシアで再会したラーハルトは、友と呼ぶにはあまりに素っ気ない。
自分とてあまり愛想の良い方ではないが、それにしても口を開けばダイとバランの話ばかりで、まるでこちらの存在などなかったかのようである。
力を貸してくれと頼んだ時も、己の言葉をあまり気にした風でもなかった。
結局はダイの一言で彼は共に戦うことを選んだのだから。
友だと思っていたのはこちらの一方的な思いだったのか...しかし考えてみれば彼を殺したのはそもそも自分だ、恨まれたとておかしくない。
その思いに至り、ヒュンケルはラーハルトへの接し方を考えあぐねていたのだ。

とはいえ、他の仲間たちは元の世界で「ラーハルトがヒュンケルに魔槍と遺志を託した」
ことを知っているせいか、どうも対で扱われることが多く、今もこうして宿屋の同室におさまっている訳だ。
そして、互いに武具の手入れなどをしている中、ぽつりと話し出されたのが冒頭のラーハルトの言葉である。

2 / 4
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「お前に託した筈の魔槍が今こうしてオレの手元にあるのは奇妙な感じだ。もともとオレのものなのに、な」
「確かに。オレの魔剣はバランに砕かれた筈なのに、この世界では当たり前のように存在している。手には馴染むが、やはり違和感はあるな」

お互い、武人である。無愛想な二人でも武具の話をすれば自然と会話は進んだ。

「オレが死んだ後、あっちの世界ではお前、槍を使ったのか?」
ラーハルトが水を向ければヒュンケルはわずかに口元を歪めて笑う。
「使ってくれと言われたからな」
「…槍の経験は?」
「ない。慣れぬから苦労したぞ」
そう、元の世界では魔槍を使いこなそうと必死に修行をしてようやく少し手応えを掴み始めた頃だった。というのに、この世界ではまた自分は魔剣で戦っている。あの槍はラーハルトなのだ。それがミラドシアでは自分の手元にない。まるでラーハルトとの約束などなかったかのように。
そう思えば、ヒュンケルの目は自然と伏せられる。やはりどんな顔でこの男と向き合えば良いのかわからない。普段とて二言三言しか話さないのだ。
けれど
「ではどうやって槍を身に付けたんだ?自己流か?」
もう会話は切り上げどきかと思われたが、今夜は違うらしい。珍しくもラーハルトがヒュンケルに興味を抱いて話を続けてきた。ならばヒュンケルとしても会話を続けることに異論はない。
「…アバンが残してくれた書物に槍殺法が記してあってそれをもとにできる限りはやった。それでもお前には劣るだろうが…」
「そうか、元の世界で魔剣が修復できず残念だったな。魔剣があればお前はそっちを使っただろう?」
今まさにミラドシアで魔剣で戦っているように。それが一番合理的だ。
ラーハルトが言外にそう滲ませて問えば、ヒュンケルは首を横に振る。
「そうだとしても、オレは魔槍で戦う」
「なぜ?」
「魔槍がお前の形見だからだ」
その言葉にラーハルトが驚いたように小さく息を飲んで、眉根を寄せた。
ああ、やはり
不快か。
ヒュンケルは心の中で嘆息する。この男に友情を感じているのは己の一方的なもの。ならばこれ以上は迷惑だろう。潔く白旗をあげよう。

「すまない、ラーハルト」
「なぜ、謝る?」
「形見などとおこがましいな。お前を死なせたのはオレなのに。そして今、お前は生きているのだから…そもそも形見ですらない。今のは忘れてくれ」
「・・・」
ちらり、とラーハルトを見れば苦虫を噛み潰したような顔。

余計なことを言ってしまっただろうか。だが、なんと言えば良いのか。
何も答えないラーハルトにヒュンケルは胸の奥が冷たくなっていくのを感じた。

己のこの気持ちは見返りなど求めない、ラーハルトへの篤い信頼のはずだ。
けれど今、はっきりと自覚する。
応えてほしいのだ、ラーハルトに。お前は信頼できる友だと言ってほしいのだ。
自分はいつからこんなに欲が深くなったのか。
我ながら呆れ果ててしまう。もう止めよう、彼を追うのは。
そう思うのに。
ヒュンケルの口からは言葉が飛び出してしまっていた。
「ラーハルト、お前はオレのことをどう思っているんだ?」
「なんだ、いきなり…」
「恨んで、いるか?オレがお前を殺したこと」
口に出して、しまった。と思うものの、こぼれ出た言葉は取り消せない。ならばいっそ核心をつくまで。
それにラーハルトは盛大な溜息で答えた。
「貴様を恨んでなどおらん。死んだのは勝負の結果だ。それで恨むほどオレは腐ってはいない。みくびるな」
「す、すまん…だが」
「くどいぞ」
話はこれで終いだ、というようにラーハルトがヒュンケルに背を向けて手入れの終わった魔槍を壁に立てかける。
それにまた、ヒュンケルは落胆するのだ。
彼は恨んでいないという、ならば、ならば。
「お前にとって、オレは何なのだ、ラーハルト」
「そういう貴様こそ。オレのことを何だと思っている?厄介ごとを押し付けた男か?それともオレのことなど覚えていなかったか?」
「違う!オレはお前のことを忘れたことは一日たりとてない。ずっとお前のことを考えていた!どうすればお前に報いることができるのか…」
「殺してしまった償い、と言うわけか」
ラーハルトのその言葉は鋭くヒュンケルの胸に刺さる。ちくり、とした痛みの理由はわからない。無論、贖罪の意識が全くなかった訳ではない。そもそも己は贖罪のために生かされているのだから。
けれど、違うのだ。
ラーハルトから遺志を託されたのは、ヒュンケルにとっては光だったのだ。
マァムから与えられた光とも違う、レオナに命じられた道とも違う。
同じ闇を知るものだからこそ、示してくれた光。戦う理由。生きる理由。
それは、救いのように、呪いのように、ヒュンケルの心を震わせる。
誰にも触れさせたくない奥底を彼にならさらけ出せるのではないかという期待。
触れてほしいし、触れたい。

ああ、もう降参だ。どうしようもない。

「ラーハルト。正直に言おう。オレはあの時、お前に託されて嬉しかったのだ。オレはお前のお陰で贖罪以外の、戦う意味を見つけられた。顔を上げて皆と戦えるようになった。お前の願いはオレにとって光なんだ。その光をくれた男のことを、オレは友だと思っている」

ヒュンケルは真っ直ぐに、ラーハルトを見つめた。
その瞳の強さにラーハルトは気圧される。彼が嘘を言っているわけではないことがよくわかった。しかし、「友」などというものは彼の苛烈な人生においてあまりにも馴染みがない。これまで、ラーハルトが心の中に住まわせていたのは母親と、主君のみ。ヒュンケルを入れるカテゴリーがないのだ。
その戸惑いはラーハルトの口からポロリとこぼれ落ちた。
「…オレが、友?」
「そうだ、信頼できる友だと思っている。だが、ラーハルトは…違うのだろう?」
「なぜ、そう思う?」
「お前はダイのことばかりで。オレのことなど気にも留めぬではないか」
「部下が主君を気にするのは当然だ。貴様はオレの主君ではない」
「ならば、お前にとってはオレはそこらの石ころとそう変わらん存在なのか」
「・・・」
言葉を口にしてヒュンケルは後悔する。これはあまりにも、未練たらしい。
唇を噛み締め、小さく息を吐いた。我ながら情けない有様だ。
「すまん」
「だからなぜ貴様はすぐに謝るのだ」
「すまない。お前を戸惑わせた。オレがお前を友と思うようにお前も思ってくれているのではないか、と期待して変なことを口走った。だがお前の気持ちは理解した。もはや一方的な友情を向けるつもりはない。さっきも言ったが、忘れてくれ。これまで通り、ダイの…」
「待て、ヒュンケル!オレはまだ何も答えてないぞ」
ラーハルトが俯いたヒュンケルの肩を掴むと彼に顔を上げさせる。
「オレは貴様に一目置いている。そこらの石ころと同じものか。それくらい分かれ」
「だが、」
「あいにくだが、オレは友などという甘ったれた関係を好んで作ったことはない」
「…なら、やはり迷惑だな、オレのことは…」
「人の話は最後まで聞け!いいか、ヒュンケル。オレは友というものが正直わからん。お前に抱く、この思いが友情なのかも。今まで生てきて…味わったことのない感情なのだ」
その正体はわからない。わからないが、それは手放してはいけないような気がする。
その直感だけは、ラーハルトの中にあった。
「これは『人の心』だと、あの女は言った」
「あの女?」
「あれだ。ピンク色の髪の…」
「ああ、マァムか。お前もいい加減、名前を覚えろ」
「必要ない。ダイ様とお前以外に興味はない」
仲間になるのならばせめて名前くらいは、と言いかけてヒュンケルははたと気づく。
今、ラーハルトは何といった?
『ダイ様とお前以外に興味はない』
それはつまり、
「ラーハルト。それは…オレには興味がある、ということか?」
「だから何度も言っている。オレは貴様に一目置いていると。そうでなければバラン様を、ダイ様を、魔槍を、託すものか。あれがオレの思いの全てだ」
イチイチ言わせるな、と苛立たしげなラーハルトの声音にはわずかに照れが滲む。それはヒュンケルの心をじんわりとした喜びで包んだ。
彼にとってもまた、初めてのことであった。ラーハルトと心を通い合わせるということが、こんなにも嬉しいことだなんて。

「ラーハルト。オレはお前のことを友と思っても良いのだろうか?」
改めて、という面持ちでヒュンケルが告げると片眉を上げてラーハルトが苦笑を漏らした。
「お前はイチイチ言葉にせねば気が済まん男らしいな」
「そういう訳ではないが…オレにもよくわからん。ただ、お前に対する友情はクロコダインに対するものと何か違うような気がして確かめずにはいられない」
「何だそれは」
「だから、オレにもわからん」
「何だそれは」
「…何だろうな?」
降参とでもいうようにヒュンケルは眉尻を下げて小首を傾げた。体格には似合わないその可愛らしい仕草にラーハルトは思わず吹き出してしまう。
「クク、まぁいい。オレとてお前と居るのは心地よい。それが友というものなら、それで構わん」
「…そうか」
「そうだ、満足か?」
「ああ、満足だ」
そのすっきりとした晴れやかなヒュンケルの表情は存外に幼くて愛らしい。
「ヒュンケル。お前、笑うと可愛い顔をするんだな」
「言うに事欠いて可愛いとは。大の男にいうセリフではないだろう」
視線を外してそう言うヒュンケルの頬はうっすらと赤い。男の赤面など見ても面白くないはずなのに。なぜだかそれはラーハルトの胸を熱くした。
初めて知ったヒュンケルの一面。もっと色んなヒュンケルを知りたい。
「お前にはイチイチ言葉にした方が良い様だからな。オレも素直になることにした」
「何だそれは」
「お互い様だ」
「それもそうだな」
神妙な顔で頷くヒュンケルはやはりどこか可愛らしい。
「ふふ」
「笑うな、ラーハルト」
不貞腐れたように顔を逸らすヒュンケルの横顔を見つめて、ラーハルトは己の胸のうちもすっきりと晴れていくのを感じた。

—-おしまい—-

3 / 4
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【あとがき】
たまきずのラーハルトイベントで、ラーハルトがあまりにもバラン様、ディーノ様>ヒュンケルすぎてちょっと原作との乖離を感じてしまい、その穴埋めに書きました。
まぁ、でも、原作のラーハルトは死んでる間、魔槍に魂が宿って、魔槍を通じてヒュンケルがいかに健気にラーハルトの遺志に応えようとしているかを知るんですよ。だから棺桶の中できっと「ヒュンケルを嫁にしよう」って心に決めていたはずです。というわけでの槍ドン&目と目で会話&優しい微笑み、なのです。(まるで見てきたかのようにいうオタクあるある)
でもたまきずのラーハルトはソレを経てないので、ツンの側面がまだ強いのかなと妄想しました。この後、ぜバロを倒す戦いの中で共闘し、お友達の階段を駆け上っていくんですよねきっと!期待してます!!!
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初めて書いたたまきず二次創作なのでご感想を頂けると嬉しいです!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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