プロフィールタグ

投稿日:2022年08月28日 07:37    文字数:8,113

独占欲

ステキ数:4
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメントはあなたと作品投稿者のみに名前と内容が表示されます
クラウド×風間仁、スマブラ世界でシリーズ物。
依存度激高で進む予定。
1 / 1
 
「お前、今日俺から離れるの禁止な」
「分かった」
「……」
「……?」
 クラウドのベッドの上で。今日一日のスケジュールを確認もせずに言った、わがままでしかない要求が二つ返事で了承された。
 いや、そういうお願いだし、一日中一緒に居られるのが約束されたのは正直、嬉しい。
「室内の移動は?」
「それは、大丈夫」 
 
 生まれた世界とは別の、『こっちの世界』に来てからの変化が大き過ぎて、ようやく慣れたところで出来た恋人。
 お互い慰め合うだけのセフレのような相手だったというのに、会えない時間が寂しいだなんて言い始めたのは、どっちだったのだろう。
 快楽で忘れられる時間だけを求めていたなら相手はどれほど楽だったかと、鳴かされて泣いている最中考えたりもしていた。
 女側を請け負ったのも自分のわがままだ。脳が擦り切れて気絶でも出来れば万々歳。痛みに泣き晴らせるならそれで良いんじゃないかと。
 そんな考えも、優しい顔と傷付けないようにと遠慮された抱き方をされ続けては、考える方が失礼なんだろうなと切り替えさせられる。
 断り続けてたキスをねだるまでになったのは、諦めようとしなかったクラウドのせいだけれど。
 
「何処か行きたい所でもある?」
「いや……特には」
 いつもの服に着替える背中を、ベッドの上で寝転がりながら眺めている。
 忙しなく襲いかかる業務も、戦いも無い。新しい交友関係を広げていく知人達も、父も、知らない顔で自分の横をすり抜けていく。
 自分を見失いそうな中で出会った恋人は枷か楔に近い。
 きっとクラウドがいなければ自分は簡単に崩れるのだろう。
「着替えないのか?」
 着替え終わったクラウドが俺の服を持ってベッドの隣に立つ。面倒見が良いというか、世話焼きというか。
「……、んー」
「襲うぞ」
 俺の服が枕元に放られて、クラウドの顔が近くなった。
 襲う気なんて欠けらも無いのがその顔からよく分かる。真っ直ぐ視線を合わせて返事をした。
「襲って」
「……っふ、はは、もう少し襲われたい顔になってから言ってくれ。ほら、ご飯でも食べよう」
 くすくすと笑いながら腕を掴まれて、引っ張りあげられる。脱力しきっている自分をよくもまあ軽々とあげられるものだ。
 クラウドは座った俺の頭をひと撫でして寝室から出て行った。同い歳な筈の恋人は精神年齢がよくブレる。
 俺の前だと、上にいったり下にいったりと忙しい。
 弱い部分をさらけ出してくれているのだと思えば優越感を感じられるのだが、他人と長く接しているところを観察した事は無いからよく分からない。
「……見たくないな」
 勝手な想像をして勝手にイラついている。
 俺は刃物の類を持たない方がいいのかもしれない。
 
 
 
「おまたせ」
 着替えて身支度をして玄関口で待っているクラウドに声をかける。
 操作している端末はスケジュール調整のやつだ。
「どうかしたのか」
 見なくても今日一日、何も予定が無いのは知っている。明日は朝一で試合があったからあまり夜更かしは出来ない。
「明日の朝の試合がキャンセルになった」
 端末をしまう顔があまり良くない。対戦相手までは流石に覚えていないが、楽しみにしていたメンバーだったのか。
「へえ、珍しい」
「ああ……でも仁と居られる時間が増えたし、行こう」
 クラウドが扉を開けて、自然な動作で手を握られ外に出た。
 今日一日この手を離さないでいられるのだと思うと緩んでしまう口元を、繋いでいない手で隠す。
 こっちを振り返った顔が笑って、指が絡まるように握り直された。
 見透かされているのを気持ち悪いと思わなくていいのは案外、心地が良い。
 
 ひよひよと揺れる金髪越しに賑やかな廊下を眺める。
 大の男二人が手を繋いで歩いているのを物珍しげに眺めるような奴はいない。不可解な現象は他に沢山あるし、恋愛観も多種多様で同性愛をわざわざ糾弾する事など無かった。
「お。今日も一緒だな」
 曲がり角で一人の男が声をかけてきた。いつも迷彩服を着ている、スネーク、だっけな。
「羨ましい?」
「はははっ! ああ、羨ましいな」
 クラウドの軽口が軽快に笑い飛ばされる。気さくな人、というのが第一印象から変わらずあるが、軍人らしい間合いのとりかたや身のこなしは教授願いたい程だ。
 こういう時ファイターでないのが悔しいと思う。
「これからデートか」
「ああ。でも、とりあえず何か食べようと思って」
「食事は大事だ。ちゃんとした物が食べられる内に食べておけよ」
 光る茸を食べてバッテリーが回復した……っていうのはこの人の事だったっけな? 人の体質をとやかく言える立場じゃ無いが、世界が変われば色んな人が居るものだ。
「スネークは試合か?」
「いや、サムスとソニックからトレーニングに呼ばれててな。昼までみっちり扱かれる予定だ」
「楽しそうだ」
「お。混ざるか? カザマ・ジンと組手してみたいと思っていたんだ」
「……俺と?」
 急なご指名に間抜けにも聞き返してしまう。
 にっ、と笑う顔には特に他意があるようには見えない。
「ああ。カズヤとは違うスタイルなんだろう? 気になっててな。ファイターじゃないとはいえトレーニングくらいバチは当たらないだろ」
「それは……「駄目だ。今日は俺と居る日だから別の日にしてくれ」
 今日でなければ断る理由も無かったんだけど。そう伝えようとした言葉を遮るようにクラウドが割って入ってきた。
 俺からクラウドの顔は見えないけど、スネークが驚いた表情をしているのは分かる。
「……ああ、悪かった。お前さんから奪うつもりじゃあなかったんだが」
「あと、仁を誘うなら俺の目が届いていない時に、だ」
「分かった分かった」
 チラリとスネークがこちらを見る。助け舟を出してくれ、と分かりやすく顔に書いてあった。
「あー……と、スネーク、悪いがまた別の機会に頼む。クラウドも、すぐ断らなくてごめんな」
 繋いでいる手に力を込め直して意識を向かせる。僅かな反応の後、少ししてバツの悪そうな声が聞こえた。
「……悪い、カッとなった」
「いいさ。若いってことだ……早いとこ飯食って二人だけになりな」
 ぽん、とスネークの手がクラウドの頭に乗る。それを普通に眺めていたつもりだったのだけど、俺と目が合ったスネークが苦笑いをした。
「ふっ、ははっ、お前らお似合いだなぁ」
「う、わっ?!」
 もう片方の手が伸びてきたと思ったら、ぐしゃぐしゃと俺とクラウドの頭が乱される。
「っ! スネークッ!!」
 クラウドの抗議の声で手が離れたが、スネークは笑いながら去っていってしまう。
 俺達は顔を見合せて複雑な気持ちになりながら、食堂に向かった。
 
 
 ーーーーー 
 トレーニングルームには既にサムスとソニックが居て、準備も終わっているようだった。遅れて入ってきたスネークは片手を上げて挨拶をする。
「遅いぞ、スネーク」
 苦言を呈するサムスに、悪びれることも無くスネークは笑いかける。
「悪い悪い。狼の番と話しててな」
「狼……ウルフに恋人がいたか?」
 ソニックは、狼と聞いて素直にウルフを思い浮かべた。彼の噂になるような色恋沙汰を聞いた事がない為に首を傾げる。
「そっちじゃなくて、クラウド達だ。カザマ・ジンに一緒にトレーニングするかと聞いたんだがフラれちまった」
「そうか、残念だったな」
「番が揃ってる時にちょっかい出すもんじゃないな。危うく噛み切られる寸前だ」
「あの二人にそんな印象無いなぁ。おっさんの気のせいじゃないのか?」
「今なら食堂に行けば会えるぞ、ソニック。片方だけに話しかけてりゃ俺が言った事が分かる」
 真面目な声色でスネークがソニックに提案をする。
 冗談を言っているような雰囲気では無いことに、ソニックは肩を竦めて返事をした。
「……いいや、今はトレーニングする方が大事だから遠慮するぜ」
「ははっ、賢明だな。で、今日はどうするんだ」
「ランダムステージ終点化でアイテム無しだ。時間は三分」
「OKだ」
 ーーーーー
 
 
 食堂、というよりフードコートと言った方が合っている場所には常に人がごった返している。
 アシストやスピリットの数を考えれば食事時に混むのは当然だが、アイスやドーナツの類の店もあるからか空いている時間を探す方が難しい。
 人混みは得意じゃない。食事をするだけなら他にもある。クラウドが手を引いてくれるから、ただそれだけで歩いていた。
「何かテイクアウトして外に行こう」
「じゃあアレがいいな。バーガーのboxになってるやつ」
「アレか、ツイスターもいいよな」
 チョコだバニラだチョコミントだ。焼きだ蒸しだ生肉だ、と議論が白熱している外野の声を聞き流しながら目的の店へ向かう。
「生肉より、刺身が良いな……」
「……何の話だ?」
 思っていた事をつい口に出してしまったようだ。突拍子も無い事を言い出したとクラウドが怪訝そうな顔でこっちを見る。
「ああ、いや、悪い。あっちの話が気になって」
「仁のところには生肉食べる文化は無いだろ」
「……あるとこには、ある」
 馬刺しとかユッケとか。クラウドは火を通さないと食べられない、と言っていたから手をつけすらしないような料理。
「炙った刺身がギリギリセーフだっけ?」
「う、んー……うん、ギリギリ」
 他愛もない会話を続けて。注文した商品を受け取って外に出る。
 一部でフォークや箸が飛び交う戦場と化していたような気もするが、重傷者どころか怪我人すら出ないのだから気にしても仕方ない。
「どこ行こうな」
「人が少ないとこがいいな」
「リオレウスが居る平原とかどうだ」
「いいけど……生肉狩っていかないと」
「お腹空いてると攻撃されるからなー」
 断続的に聞こえる爆発音と、壁が崩れる音を背中越しに聞く。
 白い大きな左手が楽しそうに飛んできたのが視界の端に写った。帰って来る頃には建物ごと復元されているだろう。多分。
 
「アギャア」
「お前、竜なんだろ? こんなに人懐っこくて良いのか?」
「ギャウゥウ」
 切り立った丘の端に座って食事をする俺達の、ほぼ真下でリオレウスが首を伸ばして佇んでいる。
 俺達が着いた気配を察知して飛んできたリオレウスに、その場で狩ったばかりのアプトノスを差し出して縄張りに入る事の許可を求めた。
 ……まあ、そんな事は人間側の勝手な言い分だが攻撃されずこうしていられるのだから、許してくれたのだと思うことにした。
 渡した獲物を巣に持ち帰ったと思ったら何故か戻ってきて、食事風景を見守られているのはちょっと意味が分からないけど。
「バハムートよりは小さいかな」
 boxの中を覗くように近づいてくる大きな頭を、クラウドは撫でながら押し退ける。
「リオレウスが食べれる物は入ってないぞ」
「ギャァウ」
 言葉が通じているのかと思う程、リオレウスは的確に鳴き声をあげ寂しそうな声音に変わる。
「バハムートって……召喚獣の?」
「ああ。サイズ感が似てると思ってたけど一回りくらい違う気がする」
「骨格から違うから比べるのは難しくないか」
「ギャウギャウ」
「今召喚マテリア無いからな……」
「グルゥウウゥ」
 話を聞いてくれない、とでも言いたげな唸り声をあげたリオレウスの頭が俺の方を向いた。
 ぽんぽん、と鼻先を叩いてやると撫でて欲しいのか近づいてきた。
 鱗に沿って手を往復させてやれば、なんとも満足そうな声を出す。
「グゥゥウ」
「はは、本当に大丈夫かお前」
 天空の王者の異名を持っているというのに、ここまで大人しいと本来の生態も疑いたくなってしまう。マスターハンドが色々と弄って必要な時以外は凶暴性を無くしている、というのが正解なのだろうけど。
「仁」
 ビリビリと空の箱を破いていたクラウドが手を差し出してくる。
「ん、待って」
 同じ様に箱を破いていると手の代わりに袋が横に置かれた。
 ゴミを全部入れて、袋の口を縛って立ち上がる。どうしたのかと首を捻るリオレウスにクラウドが話しかけた。
「なあ、もう少しここを歩き回ってても良いか?」
「アギャア」
「そうだな……あの森の中とか」
「グァアウ」
 本当に会話をしているようだ。理解したのか分からないがリオレウスが後退りをして飛行体勢に入った。
「リオレウス、何だって?」
「好きにしろってさ」
 ばさり、と大きな羽音と風圧。飛ばされそうになるのを踏ん張りながら眺めていると、一度頭上で旋回したリオレウスは寝床があるのだろう方向へ飛んで行った。
「仲良くなれたら乗れそうだよな」
「通ってみるか? 暇なのかもしれないし」
「……あー、ここ捕食対象ぐらいしかいないのか」
 生きるのに困らない空間だが、なまじ知能が高そうなだけにつまらないというのは的を得ているのかもしれない。
 
 手を繋いで森の中……は、流石に危険なので離して歩いている。
 俺が打ち抜いたところでビクともしないような巨木ばかり立ち並び、地面はそれらの根っこで盛り上がっている。
 所々平らになっている箇所は元の世界でリオレウスや同族達が歩き回ったのが再現されているのだろう。
 真昼だというのに薄暗い森の中は涼しくて、静かで、心地良かった。
「仁。あっち行ってみよう」
 ふにゃりと笑うクラウドが指を差す先には小さな池があった。
 池の真上に木の葉の天井は無く、透明度の高い池はやたらと眩しくみえる。
「見たことの無い魚ばっかりだ……釣竿があれば釣れるんだけどなぁ」
「やたらキラキラしてるのがいるけど……魚か?」
 黄金色と称するのに相応しいほどキラキラと輝く魚。
 出目金に似た魚に、鯵っぽい魚。
 淡水も海水も関係無いのか、そもそも似ているだけだから気にするなと言われるのか。
 他の世界がこうして見れるのは楽しいが気になる事も増えていく。
「ちょっと休憩しよう、クラウド」
 池の反対側に、丁度寝転がれそうな木陰のスペースがあった。
 今日はまだ時間がある。
 暗くなってから帰ったって罪悪感はわかない。
 クラウドを、独り占めできる。
 手を引っ張って急かす自分は今何歳に見えてるのだろう。
 何をしたって笑って受け止めてくれるから、歯止めが効かなくなりそうだ。
「この後は、どうしたい」
 木陰に並んで座って、質問してくる優しい声に、甘えてばかりではいけないと欲に蓋をする。
「……何か、買いたい物とかあったら行くけど」
「仁が何したいか教えて」
 ぎゅ、と手が握られる。
 今日は駄目だ。わがままが全部通ってしまう。
 だけど、どこまで許してくれる?
「……どこも、行かない。ここに居たい……」
「うん、じゃあここに居よう」
 ずっと、という言葉は飲み込んだ。
 抱きつこうとして体重を掛けすぎたせいで、クラウドを押し倒す形になってしまう。平らな地面で良かった。
 クラウドの肩口に顔を寄せて息を吸えば、土と草の香りとクラウドの匂いがする。
 キスしたい。
 抱き締められたい。
 俺をーーーて。
「仁、眠い?」
 覆い被さったまま動かない俺を心配してか、当たり障りのない言葉がかけられる。
 頭を撫でられるのが、人の体温を感じられるのが嬉しい事だと思い出させてくれた身体を、一度強く抱き締めて隣に転がった。
「……じん?」
「そうだな、眠いんだ。よく考えたら昨日の夜も意識飛ばしかけてるんだから、疲れてるんだよ」
「もっとしたいって言ったのは仁だろ」
「言わないと途中で止めるサドが何言ってるんだ」
「恥ずかしそうに言う顔が好きだから、つい」
「…………言った後に、嬉しそうに笑う顔が、俺は、好き」
「……、……我慢出来なくて泣く顔も好きだよ」
「余裕無くして睨む様な顔つきになるの……嫌いじゃない」
「好きって言うのから逃げたな」
「逃げてない」
 事後のピロートークですらしないような何も考えてない会話。
 向かい合って笑いながらも、だんだんと目蓋が重くなっていくのを感じる。
「……寝ていいよ。目が覚めたら、帰ろう」
「……ああ……」
 帰らなくちゃ、いけないよな。 
 
 
「ニャー」
「くっ……ふ、ふふ。そんな所にいっぱい置くと怒られるぞ」
「ンナ、ナァ」
「ああ、可愛いな」
 楽しそうな声につられて意識が覚醒しだす。
 目の前にいたはずの顔を探して上を向く。真上にそれを見つけて膝枕をされている事に気付いた。
「……くらうど」
「おはよう」
 ぼんやり眺めてクラウドの髪に白い花がくっ付いているのが見えた。
 何処からか飛んできたのか、それを取ろうとして腕を上げると「ニャア」と不満の声があがった。
「……にゃあ……?」
「ニャァア」
 声のした方へ目線を下げた。そこに居たのは白と茶色の二足歩行している猫。
 その猫は木の実やら花やら沢山抱えていた。
「アイルーは、寝ている仁を飾り付けて綺麗にしてたんだよなぁ」
「ナァウ」
 なるほど? ……いや、よく分からないが。
 上げていた手を胸元に落とすと、柔らかい物と固い物が触れる感触があった。寝返りをうてば、ぽろぽろと色とりどりの花や木の実が転がる。
 猫……アイルーが持っていた木の実たちを、転がったそれらと一緒にするように集め出した。
「あ、ごめん」
「ニャーゥ、ニャア」
 気にするな、みたいな雰囲気でアイルーが喋る。
 集め終わったのか今度は花と木の実を分けはじめ、花の方が俺の上着の中へと放り込まれた。
「は……は?」
「くっ、ふ、はははっ! どうしても、そこに入れたいんだな」
 クラウドが笑って、俺が呆けている間にもポンポンと花が放り込まれ首近くまで埋まった。
「ニャ」
 最後の一つが耳の上に付けられて、満足そうにアイルーは胸を張る。
「ナアァ、ウニャ」
「そっか、ありがとう。木の実もくれるって」
 やり遂げた様な顔をしてアイルーが走って行った。ちょこちょことコッチを振り返って手を振っている。
 アイルーの姿が見えなくなって、ようやく俺の頭も動き出す。
「クラウドの頭に付いてるのもアイルーが?」
「これか? 起きたら目の前に立っててさ、どうかしたのかって聞いたら付けられた」
 頭に付けていた白い花を取りながらクラウドは話を続ける。
「俺だと何かが気に食わなかったらしくてムッとした顔されたんだ。そしたら仁の方に色々置き始めて、そうなった」
 俺の胸元を指差しながら、喉の奥でクラウドが笑う。
 凄く楽しそうにしているクラウドを睨みながら、いい加減起き上がる事にした。
 自然と落ちなかった花を取り出して地面に置きながら、ふと考えがよぎる。
「これ置いていったら怒るよな」
「んー……あ、袋もう一つなかった?」
「……ああ、持ち帰りの袋か。俺が持ってた気がする」
 ポケットの中から畳んでおいた袋を出して、木の実や花をしまう。
 あらかたしまい終わったところで、肩を叩かれた。
 振り返って目線を合わせると左の耳の上に白い花が差し込まれた。わざわざ取ったものをもう一度付け直されて、意味が分からない。
「似合ってるよ」
 取ろうとした手が、掛けられた一言で止まってしまう。
 いや、男が頭に花を付けて似合ってると言われて、ちょっと嬉しくなってしまうのはどうかと思うけど。
 クラウドが言うなら悪くない、は流石に盲目的過ぎる。
「さあ、帰るか。お腹は空いた?」
「あんまり。遠回りして帰りたい」
「分かった」
 
 適当に歩いて、適当な店に寄って、だんだんと帰る場所が近付いてくる。
 もう少し、もう少しだけ独占していたいから、灯りのついた店内に目を奪われる振りぐらい許して欲しい。
 手を繋いで見上げてくる目が俺だけのものなんだって自惚れさせて。

 
1 / 1
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました

コメント

ログインするとコメントを投稿できます

あなたのひとことが作者の支えになります。
コメントを投稿する事で作者の支えとなり次作品に繋がるかもしれません。
あまり長いコメントを考えずひとこと投稿だけでも大丈夫です。
コメントは作品投稿者とあなたにしか表示されないため、お気軽に投稿頂ければ幸いです。
独占欲
1 / 1
 
「お前、今日俺から離れるの禁止な」
「分かった」
「……」
「……?」
 クラウドのベッドの上で。今日一日のスケジュールを確認もせずに言った、わがままでしかない要求が二つ返事で了承された。
 いや、そういうお願いだし、一日中一緒に居られるのが約束されたのは正直、嬉しい。
「室内の移動は?」
「それは、大丈夫」 
 
 生まれた世界とは別の、『こっちの世界』に来てからの変化が大き過ぎて、ようやく慣れたところで出来た恋人。
 お互い慰め合うだけのセフレのような相手だったというのに、会えない時間が寂しいだなんて言い始めたのは、どっちだったのだろう。
 快楽で忘れられる時間だけを求めていたなら相手はどれほど楽だったかと、鳴かされて泣いている最中考えたりもしていた。
 女側を請け負ったのも自分のわがままだ。脳が擦り切れて気絶でも出来れば万々歳。痛みに泣き晴らせるならそれで良いんじゃないかと。
 そんな考えも、優しい顔と傷付けないようにと遠慮された抱き方をされ続けては、考える方が失礼なんだろうなと切り替えさせられる。
 断り続けてたキスをねだるまでになったのは、諦めようとしなかったクラウドのせいだけれど。
 
「何処か行きたい所でもある?」
「いや……特には」
 いつもの服に着替える背中を、ベッドの上で寝転がりながら眺めている。
 忙しなく襲いかかる業務も、戦いも無い。新しい交友関係を広げていく知人達も、父も、知らない顔で自分の横をすり抜けていく。
 自分を見失いそうな中で出会った恋人は枷か楔に近い。
 きっとクラウドがいなければ自分は簡単に崩れるのだろう。
「着替えないのか?」
 着替え終わったクラウドが俺の服を持ってベッドの隣に立つ。面倒見が良いというか、世話焼きというか。
「……、んー」
「襲うぞ」
 俺の服が枕元に放られて、クラウドの顔が近くなった。
 襲う気なんて欠けらも無いのがその顔からよく分かる。真っ直ぐ視線を合わせて返事をした。
「襲って」
「……っふ、はは、もう少し襲われたい顔になってから言ってくれ。ほら、ご飯でも食べよう」
 くすくすと笑いながら腕を掴まれて、引っ張りあげられる。脱力しきっている自分をよくもまあ軽々とあげられるものだ。
 クラウドは座った俺の頭をひと撫でして寝室から出て行った。同い歳な筈の恋人は精神年齢がよくブレる。
 俺の前だと、上にいったり下にいったりと忙しい。
 弱い部分をさらけ出してくれているのだと思えば優越感を感じられるのだが、他人と長く接しているところを観察した事は無いからよく分からない。
「……見たくないな」
 勝手な想像をして勝手にイラついている。
 俺は刃物の類を持たない方がいいのかもしれない。
 
 
 
「おまたせ」
 着替えて身支度をして玄関口で待っているクラウドに声をかける。
 操作している端末はスケジュール調整のやつだ。
「どうかしたのか」
 見なくても今日一日、何も予定が無いのは知っている。明日は朝一で試合があったからあまり夜更かしは出来ない。
「明日の朝の試合がキャンセルになった」
 端末をしまう顔があまり良くない。対戦相手までは流石に覚えていないが、楽しみにしていたメンバーだったのか。
「へえ、珍しい」
「ああ……でも仁と居られる時間が増えたし、行こう」
 クラウドが扉を開けて、自然な動作で手を握られ外に出た。
 今日一日この手を離さないでいられるのだと思うと緩んでしまう口元を、繋いでいない手で隠す。
 こっちを振り返った顔が笑って、指が絡まるように握り直された。
 見透かされているのを気持ち悪いと思わなくていいのは案外、心地が良い。
 
 ひよひよと揺れる金髪越しに賑やかな廊下を眺める。
 大の男二人が手を繋いで歩いているのを物珍しげに眺めるような奴はいない。不可解な現象は他に沢山あるし、恋愛観も多種多様で同性愛をわざわざ糾弾する事など無かった。
「お。今日も一緒だな」
 曲がり角で一人の男が声をかけてきた。いつも迷彩服を着ている、スネーク、だっけな。
「羨ましい?」
「はははっ! ああ、羨ましいな」
 クラウドの軽口が軽快に笑い飛ばされる。気さくな人、というのが第一印象から変わらずあるが、軍人らしい間合いのとりかたや身のこなしは教授願いたい程だ。
 こういう時ファイターでないのが悔しいと思う。
「これからデートか」
「ああ。でも、とりあえず何か食べようと思って」
「食事は大事だ。ちゃんとした物が食べられる内に食べておけよ」
 光る茸を食べてバッテリーが回復した……っていうのはこの人の事だったっけな? 人の体質をとやかく言える立場じゃ無いが、世界が変われば色んな人が居るものだ。
「スネークは試合か?」
「いや、サムスとソニックからトレーニングに呼ばれててな。昼までみっちり扱かれる予定だ」
「楽しそうだ」
「お。混ざるか? カザマ・ジンと組手してみたいと思っていたんだ」
「……俺と?」
 急なご指名に間抜けにも聞き返してしまう。
 にっ、と笑う顔には特に他意があるようには見えない。
「ああ。カズヤとは違うスタイルなんだろう? 気になっててな。ファイターじゃないとはいえトレーニングくらいバチは当たらないだろ」
「それは……「駄目だ。今日は俺と居る日だから別の日にしてくれ」
 今日でなければ断る理由も無かったんだけど。そう伝えようとした言葉を遮るようにクラウドが割って入ってきた。
 俺からクラウドの顔は見えないけど、スネークが驚いた表情をしているのは分かる。
「……ああ、悪かった。お前さんから奪うつもりじゃあなかったんだが」
「あと、仁を誘うなら俺の目が届いていない時に、だ」
「分かった分かった」
 チラリとスネークがこちらを見る。助け舟を出してくれ、と分かりやすく顔に書いてあった。
「あー……と、スネーク、悪いがまた別の機会に頼む。クラウドも、すぐ断らなくてごめんな」
 繋いでいる手に力を込め直して意識を向かせる。僅かな反応の後、少ししてバツの悪そうな声が聞こえた。
「……悪い、カッとなった」
「いいさ。若いってことだ……早いとこ飯食って二人だけになりな」
 ぽん、とスネークの手がクラウドの頭に乗る。それを普通に眺めていたつもりだったのだけど、俺と目が合ったスネークが苦笑いをした。
「ふっ、ははっ、お前らお似合いだなぁ」
「う、わっ?!」
 もう片方の手が伸びてきたと思ったら、ぐしゃぐしゃと俺とクラウドの頭が乱される。
「っ! スネークッ!!」
 クラウドの抗議の声で手が離れたが、スネークは笑いながら去っていってしまう。
 俺達は顔を見合せて複雑な気持ちになりながら、食堂に向かった。
 
 
 ーーーーー 
 トレーニングルームには既にサムスとソニックが居て、準備も終わっているようだった。遅れて入ってきたスネークは片手を上げて挨拶をする。
「遅いぞ、スネーク」
 苦言を呈するサムスに、悪びれることも無くスネークは笑いかける。
「悪い悪い。狼の番と話しててな」
「狼……ウルフに恋人がいたか?」
 ソニックは、狼と聞いて素直にウルフを思い浮かべた。彼の噂になるような色恋沙汰を聞いた事がない為に首を傾げる。
「そっちじゃなくて、クラウド達だ。カザマ・ジンに一緒にトレーニングするかと聞いたんだがフラれちまった」
「そうか、残念だったな」
「番が揃ってる時にちょっかい出すもんじゃないな。危うく噛み切られる寸前だ」
「あの二人にそんな印象無いなぁ。おっさんの気のせいじゃないのか?」
「今なら食堂に行けば会えるぞ、ソニック。片方だけに話しかけてりゃ俺が言った事が分かる」
 真面目な声色でスネークがソニックに提案をする。
 冗談を言っているような雰囲気では無いことに、ソニックは肩を竦めて返事をした。
「……いいや、今はトレーニングする方が大事だから遠慮するぜ」
「ははっ、賢明だな。で、今日はどうするんだ」
「ランダムステージ終点化でアイテム無しだ。時間は三分」
「OKだ」
 ーーーーー
 
 
 食堂、というよりフードコートと言った方が合っている場所には常に人がごった返している。
 アシストやスピリットの数を考えれば食事時に混むのは当然だが、アイスやドーナツの類の店もあるからか空いている時間を探す方が難しい。
 人混みは得意じゃない。食事をするだけなら他にもある。クラウドが手を引いてくれるから、ただそれだけで歩いていた。
「何かテイクアウトして外に行こう」
「じゃあアレがいいな。バーガーのboxになってるやつ」
「アレか、ツイスターもいいよな」
 チョコだバニラだチョコミントだ。焼きだ蒸しだ生肉だ、と議論が白熱している外野の声を聞き流しながら目的の店へ向かう。
「生肉より、刺身が良いな……」
「……何の話だ?」
 思っていた事をつい口に出してしまったようだ。突拍子も無い事を言い出したとクラウドが怪訝そうな顔でこっちを見る。
「ああ、いや、悪い。あっちの話が気になって」
「仁のところには生肉食べる文化は無いだろ」
「……あるとこには、ある」
 馬刺しとかユッケとか。クラウドは火を通さないと食べられない、と言っていたから手をつけすらしないような料理。
「炙った刺身がギリギリセーフだっけ?」
「う、んー……うん、ギリギリ」
 他愛もない会話を続けて。注文した商品を受け取って外に出る。
 一部でフォークや箸が飛び交う戦場と化していたような気もするが、重傷者どころか怪我人すら出ないのだから気にしても仕方ない。
「どこ行こうな」
「人が少ないとこがいいな」
「リオレウスが居る平原とかどうだ」
「いいけど……生肉狩っていかないと」
「お腹空いてると攻撃されるからなー」
 断続的に聞こえる爆発音と、壁が崩れる音を背中越しに聞く。
 白い大きな左手が楽しそうに飛んできたのが視界の端に写った。帰って来る頃には建物ごと復元されているだろう。多分。
 
「アギャア」
「お前、竜なんだろ? こんなに人懐っこくて良いのか?」
「ギャウゥウ」
 切り立った丘の端に座って食事をする俺達の、ほぼ真下でリオレウスが首を伸ばして佇んでいる。
 俺達が着いた気配を察知して飛んできたリオレウスに、その場で狩ったばかりのアプトノスを差し出して縄張りに入る事の許可を求めた。
 ……まあ、そんな事は人間側の勝手な言い分だが攻撃されずこうしていられるのだから、許してくれたのだと思うことにした。
 渡した獲物を巣に持ち帰ったと思ったら何故か戻ってきて、食事風景を見守られているのはちょっと意味が分からないけど。
「バハムートよりは小さいかな」
 boxの中を覗くように近づいてくる大きな頭を、クラウドは撫でながら押し退ける。
「リオレウスが食べれる物は入ってないぞ」
「ギャァウ」
 言葉が通じているのかと思う程、リオレウスは的確に鳴き声をあげ寂しそうな声音に変わる。
「バハムートって……召喚獣の?」
「ああ。サイズ感が似てると思ってたけど一回りくらい違う気がする」
「骨格から違うから比べるのは難しくないか」
「ギャウギャウ」
「今召喚マテリア無いからな……」
「グルゥウウゥ」
 話を聞いてくれない、とでも言いたげな唸り声をあげたリオレウスの頭が俺の方を向いた。
 ぽんぽん、と鼻先を叩いてやると撫でて欲しいのか近づいてきた。
 鱗に沿って手を往復させてやれば、なんとも満足そうな声を出す。
「グゥゥウ」
「はは、本当に大丈夫かお前」
 天空の王者の異名を持っているというのに、ここまで大人しいと本来の生態も疑いたくなってしまう。マスターハンドが色々と弄って必要な時以外は凶暴性を無くしている、というのが正解なのだろうけど。
「仁」
 ビリビリと空の箱を破いていたクラウドが手を差し出してくる。
「ん、待って」
 同じ様に箱を破いていると手の代わりに袋が横に置かれた。
 ゴミを全部入れて、袋の口を縛って立ち上がる。どうしたのかと首を捻るリオレウスにクラウドが話しかけた。
「なあ、もう少しここを歩き回ってても良いか?」
「アギャア」
「そうだな……あの森の中とか」
「グァアウ」
 本当に会話をしているようだ。理解したのか分からないがリオレウスが後退りをして飛行体勢に入った。
「リオレウス、何だって?」
「好きにしろってさ」
 ばさり、と大きな羽音と風圧。飛ばされそうになるのを踏ん張りながら眺めていると、一度頭上で旋回したリオレウスは寝床があるのだろう方向へ飛んで行った。
「仲良くなれたら乗れそうだよな」
「通ってみるか? 暇なのかもしれないし」
「……あー、ここ捕食対象ぐらいしかいないのか」
 生きるのに困らない空間だが、なまじ知能が高そうなだけにつまらないというのは的を得ているのかもしれない。
 
 手を繋いで森の中……は、流石に危険なので離して歩いている。
 俺が打ち抜いたところでビクともしないような巨木ばかり立ち並び、地面はそれらの根っこで盛り上がっている。
 所々平らになっている箇所は元の世界でリオレウスや同族達が歩き回ったのが再現されているのだろう。
 真昼だというのに薄暗い森の中は涼しくて、静かで、心地良かった。
「仁。あっち行ってみよう」
 ふにゃりと笑うクラウドが指を差す先には小さな池があった。
 池の真上に木の葉の天井は無く、透明度の高い池はやたらと眩しくみえる。
「見たことの無い魚ばっかりだ……釣竿があれば釣れるんだけどなぁ」
「やたらキラキラしてるのがいるけど……魚か?」
 黄金色と称するのに相応しいほどキラキラと輝く魚。
 出目金に似た魚に、鯵っぽい魚。
 淡水も海水も関係無いのか、そもそも似ているだけだから気にするなと言われるのか。
 他の世界がこうして見れるのは楽しいが気になる事も増えていく。
「ちょっと休憩しよう、クラウド」
 池の反対側に、丁度寝転がれそうな木陰のスペースがあった。
 今日はまだ時間がある。
 暗くなってから帰ったって罪悪感はわかない。
 クラウドを、独り占めできる。
 手を引っ張って急かす自分は今何歳に見えてるのだろう。
 何をしたって笑って受け止めてくれるから、歯止めが効かなくなりそうだ。
「この後は、どうしたい」
 木陰に並んで座って、質問してくる優しい声に、甘えてばかりではいけないと欲に蓋をする。
「……何か、買いたい物とかあったら行くけど」
「仁が何したいか教えて」
 ぎゅ、と手が握られる。
 今日は駄目だ。わがままが全部通ってしまう。
 だけど、どこまで許してくれる?
「……どこも、行かない。ここに居たい……」
「うん、じゃあここに居よう」
 ずっと、という言葉は飲み込んだ。
 抱きつこうとして体重を掛けすぎたせいで、クラウドを押し倒す形になってしまう。平らな地面で良かった。
 クラウドの肩口に顔を寄せて息を吸えば、土と草の香りとクラウドの匂いがする。
 キスしたい。
 抱き締められたい。
 俺をーーーて。
「仁、眠い?」
 覆い被さったまま動かない俺を心配してか、当たり障りのない言葉がかけられる。
 頭を撫でられるのが、人の体温を感じられるのが嬉しい事だと思い出させてくれた身体を、一度強く抱き締めて隣に転がった。
「……じん?」
「そうだな、眠いんだ。よく考えたら昨日の夜も意識飛ばしかけてるんだから、疲れてるんだよ」
「もっとしたいって言ったのは仁だろ」
「言わないと途中で止めるサドが何言ってるんだ」
「恥ずかしそうに言う顔が好きだから、つい」
「…………言った後に、嬉しそうに笑う顔が、俺は、好き」
「……、……我慢出来なくて泣く顔も好きだよ」
「余裕無くして睨む様な顔つきになるの……嫌いじゃない」
「好きって言うのから逃げたな」
「逃げてない」
 事後のピロートークですらしないような何も考えてない会話。
 向かい合って笑いながらも、だんだんと目蓋が重くなっていくのを感じる。
「……寝ていいよ。目が覚めたら、帰ろう」
「……ああ……」
 帰らなくちゃ、いけないよな。 
 
 
「ニャー」
「くっ……ふ、ふふ。そんな所にいっぱい置くと怒られるぞ」
「ンナ、ナァ」
「ああ、可愛いな」
 楽しそうな声につられて意識が覚醒しだす。
 目の前にいたはずの顔を探して上を向く。真上にそれを見つけて膝枕をされている事に気付いた。
「……くらうど」
「おはよう」
 ぼんやり眺めてクラウドの髪に白い花がくっ付いているのが見えた。
 何処からか飛んできたのか、それを取ろうとして腕を上げると「ニャア」と不満の声があがった。
「……にゃあ……?」
「ニャァア」
 声のした方へ目線を下げた。そこに居たのは白と茶色の二足歩行している猫。
 その猫は木の実やら花やら沢山抱えていた。
「アイルーは、寝ている仁を飾り付けて綺麗にしてたんだよなぁ」
「ナァウ」
 なるほど? ……いや、よく分からないが。
 上げていた手を胸元に落とすと、柔らかい物と固い物が触れる感触があった。寝返りをうてば、ぽろぽろと色とりどりの花や木の実が転がる。
 猫……アイルーが持っていた木の実たちを、転がったそれらと一緒にするように集め出した。
「あ、ごめん」
「ニャーゥ、ニャア」
 気にするな、みたいな雰囲気でアイルーが喋る。
 集め終わったのか今度は花と木の実を分けはじめ、花の方が俺の上着の中へと放り込まれた。
「は……は?」
「くっ、ふ、はははっ! どうしても、そこに入れたいんだな」
 クラウドが笑って、俺が呆けている間にもポンポンと花が放り込まれ首近くまで埋まった。
「ニャ」
 最後の一つが耳の上に付けられて、満足そうにアイルーは胸を張る。
「ナアァ、ウニャ」
「そっか、ありがとう。木の実もくれるって」
 やり遂げた様な顔をしてアイルーが走って行った。ちょこちょことコッチを振り返って手を振っている。
 アイルーの姿が見えなくなって、ようやく俺の頭も動き出す。
「クラウドの頭に付いてるのもアイルーが?」
「これか? 起きたら目の前に立っててさ、どうかしたのかって聞いたら付けられた」
 頭に付けていた白い花を取りながらクラウドは話を続ける。
「俺だと何かが気に食わなかったらしくてムッとした顔されたんだ。そしたら仁の方に色々置き始めて、そうなった」
 俺の胸元を指差しながら、喉の奥でクラウドが笑う。
 凄く楽しそうにしているクラウドを睨みながら、いい加減起き上がる事にした。
 自然と落ちなかった花を取り出して地面に置きながら、ふと考えがよぎる。
「これ置いていったら怒るよな」
「んー……あ、袋もう一つなかった?」
「……ああ、持ち帰りの袋か。俺が持ってた気がする」
 ポケットの中から畳んでおいた袋を出して、木の実や花をしまう。
 あらかたしまい終わったところで、肩を叩かれた。
 振り返って目線を合わせると左の耳の上に白い花が差し込まれた。わざわざ取ったものをもう一度付け直されて、意味が分からない。
「似合ってるよ」
 取ろうとした手が、掛けられた一言で止まってしまう。
 いや、男が頭に花を付けて似合ってると言われて、ちょっと嬉しくなってしまうのはどうかと思うけど。
 クラウドが言うなら悪くない、は流石に盲目的過ぎる。
「さあ、帰るか。お腹は空いた?」
「あんまり。遠回りして帰りたい」
「分かった」
 
 適当に歩いて、適当な店に寄って、だんだんと帰る場所が近付いてくる。
 もう少し、もう少しだけ独占していたいから、灯りのついた店内に目を奪われる振りぐらい許して欲しい。
 手を繋いで見上げてくる目が俺だけのものなんだって自惚れさせて。

 
1 / 1
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

PAGE TOP