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投稿日:2023年02月04日 08:21    文字数:4,403

春の雪

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ちょっと足しました。お布団でぬくぬくしててほしい鶴燭です。ファンタジーの世界っぽい。刀要素なしな話を書いていたけど、やっぱり本丸軸な話が好きだなって今朝書き足しました。
1 / 2
 カレンダーは春を告げたというのに今日は昼を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなった。気温は冬に戻ったかのように下がり足元からじわりと冷えた。
 手元にある手紙を丁寧に折りたたむ。手紙には来週の春のまつりには参加出来ないことが、少し神経質な文字で綴られていた。これは末の弟の文字ではない。一緒に暮らしている弟の伴侶のものだろう。風邪を引いたとあるが大事ないだろうか。昨日は真ん中の弟から手紙が届いた、今日と同じく来週の帰郷は難しいこと元気に暮らしていることを知らせだった。

 父と母は3人の兄弟が10の頃にいなくなり、それからはこの地で兄弟三人暮らしてきた。兄弟と言っても、生まれたのが一日、二日違うだけで大差はない。姿かたちもそっくりな弟たちが伴侶を見つけて巣立って行くのを一番上である自分が見届けたことを誇らしく思う。それでもこの春のまつりには、兄弟3人が毎年集まる唯一の行事だ。春の作物の成長とたくさんの収穫を願う。飾り付けられた村や賑わう出店に華やかな人々に心踊らされる、夜には大倫の花火が夜空を飾る。
「今年は、来るかな」
 一人きりの部屋に小さい呟きが落ちた。毎年この時期になるとやってきて一緒に祭りを楽しむひとがいた。両親が生きていた頃からだ。一年に一度会えるのを光忠は心待ちにしている。髪の毛も着ている服も肌も白くて、目の色は自分の密色より薄い金色。皆その人のことを「つるさん」と呼んだ。三兄弟を皆「光坊」と呼ぶのに村の人でも見分けるのが難しい自分たちの顔を一度たりとも間違えたことがない。不思議なひとだった。
(最後に会ったのは2年前だから、もう僕の方が背が大きいかもね!)
 毎年欠かさず来ていた彼が昨年は来訪しなかった。だから今年も来ないかもしれない。そう思うと胸のあたりがちくりとなり、思わず頭を振った。
「かっこ悪いなぁ」
 背丈はここ一年でグンと伸びたはずなのに、心は大事な人たちが離れてく寂しさに子どもの時のように泣きたくなっている。しっかりとしないと、と今日の夕飯の準備を始めた。外を見れば重たい薄墨の空からちらちらと雪が降っている。暖炉に火を入れなければ。雪の粒が大きくなり風も吹いてきた。夕飯を終えて、片づけをしソファでうとうとしていた。目を開ければ時計の針は11時を示している。今日は居間のソファに毛布を持ってきて寝てしまおうと思った時だ。
「ガタッ」と扉をノックする音がした。外の風だろうかと思って玄関に近付くと音が2回、それから聞いたことのある声で「鶴丸だ、開けてくれ」と言った。心臓がやけに早鐘を打ち、扉のロックを外して開けた。とたんに冷たい空気と雪が入り込む。目の前には真っ白なひとがいた。
「つるさん…! どうしたの、いや取り敢えず早く部屋に入って雪まみれじゃないか」手を引けば手袋もはめてない指先が凍るように冷たい。
「よ! 久しぶりだな、光坊。元気にしてたかい。去年は身体を壊してここに来れなかったんだが、ん? きみ一人きりかい? 弟たちは…」
「うん、僕ひとりなんだ。久しぶりだね鶴さん。昨年は来なかったから二年ぶりだ、今拭くもの用意するから! あぁそう、弟たちはね」
 光忠は雪まみれの鶴丸の頭や肩を持ってきたタオルで包んだ。雪はとけて水滴になって顔に落ちていく。暖炉の火を落とさないで良かった。夕飯の後に薪を足しに行ったばかりだ。雪を吸い込んで重さを増した鶴丸の外套を暖炉側に掛けて光忠は鶴丸の顔を覗き込んだ。
「鶴さん、変わってないね! 春のまつりまでまだ一週間もあるよ、今年は早いどうしたんだい?」
 「あぁ、今年は間に合わせたかったからな、うん」
 少し俯きがちに言われた言葉に光忠は首を傾げる。それでも「そうだ! 弟たちはね」と鶴丸に弟たちには伴侶が出来て今年は春のまつりに来れないことを伝えた。光忠の話を椅子に腰かけて聞いてくれた。
「そうか、じゃあ寂しかったろ?」
 鶴丸の言葉にぐっとなる。昨日と今日は手紙を読んで塞いでいたのだ。
「鶴さんが来てくれたからね、大丈夫だよ。そうだお腹空いてないかい? 夕飯の残りで良ければ、今温めるよ!」
「あぁ腹ペコだ、何かもらえるかい?」
 光忠はかぼちゃのシチューとパンにハムとチーズをはさんだサンドイッチを出した。温かいココアを自分の分も用意して鶴丸の向かいに座る。暖炉の火が二人の横顔を照らす。パチパチとやさしい音にゆったりと時間が過ぎた。すっかり乾いた鶴丸の髪の毛の先を光忠はじっと見ていた。唐突に鶴丸が切り出した。
「なぁ、光坊。2年前に俺が言ったこと覚えているかい?」
 鶴丸の言葉に記憶の糸をたぐり寄せる。二年前、兄弟がまだ揃っていたこの家で手を引かれ家の外で話をしたのだ。いつになく真剣な鶴丸の顔は今も忘れていない。
「うん覚えているよ。こんど一緒に旅行に行こう? だったよね。弟たちはもうこの家に帰ることはないから僕一人になっちゃうけど…」
 光忠の言葉に鶴丸は「はぁ~…やっぱり伝わってなかったか」とつぶやいた。光忠は「え? 違ったかい?」と鶴丸の顔をじっと見つめた。
「俺はきみたち兄弟に向けて言ったのでは無くてだな、きみひとりに向けて一緒に旅行しないかと言ったんだ」
「そう…だったの?」光忠はあの日の鶴丸の真剣な表情を思い出した。胸が早鐘を打ち、顔に血が上るのを感じる。鶴丸は? と向かいをみやる。
「きみ達一族がツガイと呼ばれる伴侶を見つけると生まれ育った土地を離れて生活する、と知ったのがあの2年前だ。きみたち兄弟は誰一人この地を離れてなかったから、いつ巣立つのか分からなかったんだが、きみは長子だろ? 一番に巣立つ可能性があるって思ってだな…俺なりに想いを伝えたつもりだったんだがな」
「鶴さん、僕は」僕はあの時なんて言っただろう。
 向かいの鶴丸はシチューもサンドイッチも食べ終わり手にはココアの入ったコップを持っていた。鶴丸の言葉に混乱して分からなくなる。鶴丸は自分の事を好きだったのだろうか? 自分は…?
「光忠、きみはあの日こう答えた。春のまつりの一週間前に誕生日が来るから一緒にお祝いしてくれたら、お返しに旅に一緒に行くよ、って」
 そうだ、そうだった。いつも春のまつりの前日にやってくる鶴丸にあと一週間早ければ一緒に誕生日をお祝い出来るのに、と思っていた。
「でも去年…来なかったじゃないか。僕待っていたよ」
 毎年会えるのを楽しみにしていた、憧れだと思っていたが少しずつ追いつく背丈に髪を梳いてくる優しい白い手にドキドキし始めたのはいつからだろう。それは、もう初めて会った時からかもしれない。
「去年はすまない、身体を壊したというのも嘘じゃないが…きみになんとも思われてなかったらどうしようかと、」鶴丸の顔は見たことも無いくらい赤くなっている。近くでパチリと音を出す暖炉の暖かさのせいではないだろう。それに自分だって負けないくらい赤くなっているはずだ。
「ねぇ鶴さん、時計見て? 今十二時を廻って僕の誕生日が来たよ」
 鶴丸は顔を上げて壁にある時計を見た。
「今年は間に合ったな、誕生日おめでとう」
 鶴丸はにかりと笑う。光忠は「うん」と頷いてみせた。
「ありがとう、お祝いしてくれて。約束だよね、一緒に旅に行こう。僕どこでもいいよ、鶴さんが行きたいところ連れて行ってくれるかい?」そう笑って言えば、目の前の人は瞬きを一つして悔しそうに言った。
「くそぅ、きみほんとかっこいいな。これじゃあ年上の威厳というものが」
「まぁいいか、ほらちょっとこっちきてくれ」
 鶴丸に呼ばれて暖炉の前のソファに移動した。座ったら頬を両手で包まれて唇に触れるようなキスをされた。名残り惜しくて光忠からも鶴丸の頬に両手を添えてキスを贈る。それはあっという間に深くなる。
「二人で寝るにはソファはきついかな?」
「こうやってぎゅっとしてたら落ちないだろ」と鶴丸に言われ夢見心地でそうだね、とささやいた。外は春の雪が音もなく降っている。


 温かい布団から出たくなくて燭台切は胸元にある白い頭を抱き込んだ。今日は厨当番は無かった。だからまだ少しこのままで…と思っていたら鶴丸がごそっと動いた。
「おはよう」
「おはよう、鶴さん。ねぇ今日変な夢を見たんだ。昨日主が暖炉が本丸にあったらいいのに、なんて言うからだよ絶対」燭台切の言葉に「俺も似たような夢見たなぁ」と言った。
「外は大粒の雪が降っているのに暖炉の火がとても暖かくて」幸せな夢だったと。
1 / 2
2 / 2

 暖かい列車から降りた、先程窓から見た雪は更に大きくなりまるで花が落ちるかのように地面を真銀に覆っていた。
(こりゃぁ光坊たちが住む家まで辿り着かないかもな)
 村はずれにある建物を目指して歩き始めたが、あたりが一面の雪、街灯もない野原を記憶を頼りに歩いていく。風はそう強くないが、外気に触れている耳や手の先が冷え切っている。どのくらい経っただろうか、視界の先に灯りが見えた。鶴丸は安堵の息をついて扉をノックした。
「鶴丸だ、開けてくれ」
 開いた扉から温かい光と空気が飛び出す。目の前にはずっと会いたかったひとがいる。抱き着きたくなるのをこらえて「久しぶりだな、元気にしてたかい?」と声をかけた。頭の雪がぱたりぱたりと水滴になって落ちる。

 布団からはみ出した部分が寒くて、温もりを求めて隣にいる燭台切の布団に転がりこんだ。どちらも寝ぼけているけど追い出されなかった。冷えた指先足先に鼻の先まであたたかい体に押し付ける。そのうち体は同じ温度になっていく。
 
「貞ちゃんと僕が両親で、3番目が長谷部くんとくっついた僕で2番目が伽羅ちゃんとくっついた僕でねみんな家を出てったから寂しいなって思ってたら雪の中、鶴さんが来てくれて…」まだ眠そうな声で話し始めたそれは、鶴丸の夢とどこか似ていた。
(光坊に兄弟は出てこなかったが雪の中歩いて会いに行った、ん?確か列車から降りたら寒くて…家に入ったらポカポカしてたのは、俺が布団から布団に移動したからか)
 妙なとこで一致してる。
「僕は燕で鶴さんは鶴、伽羅ちゃんが龍で貞ちゃんと長谷部くんは…うーん、なんだったかな、鳥の種類は思い出せないけど、そう!色んな種族が仲良くしてる村でね」
「見た目は人間、なのかい?」
「うん、不思議な世界だったよ。あ!伽羅ちゃんは龍に変身できるんだよ」
「俺も鶴に…いや、それだと勝てなそうだ」
「鶴さん伽羅ちゃんと喧嘩するの?」
「いやいや」
 燭台切は向かいの鶴丸の顔を両手で挟み込んだ。
「鶴さんが迎えに来てくれて嬉しかったんだ、それで起きたら腕の中にいるからさー」
「驚いたか?」と得意顔の鶴丸に「それはもう!」と笑った。
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春の雪
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 カレンダーは春を告げたというのに今日は昼を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなった。気温は冬に戻ったかのように下がり足元からじわりと冷えた。
 手元にある手紙を丁寧に折りたたむ。手紙には来週の春のまつりには参加出来ないことが、少し神経質な文字で綴られていた。これは末の弟の文字ではない。一緒に暮らしている弟の伴侶のものだろう。風邪を引いたとあるが大事ないだろうか。昨日は真ん中の弟から手紙が届いた、今日と同じく来週の帰郷は難しいこと元気に暮らしていることを知らせだった。

 父と母は3人の兄弟が10の頃にいなくなり、それからはこの地で兄弟三人暮らしてきた。兄弟と言っても、生まれたのが一日、二日違うだけで大差はない。姿かたちもそっくりな弟たちが伴侶を見つけて巣立って行くのを一番上である自分が見届けたことを誇らしく思う。それでもこの春のまつりには、兄弟3人が毎年集まる唯一の行事だ。春の作物の成長とたくさんの収穫を願う。飾り付けられた村や賑わう出店に華やかな人々に心踊らされる、夜には大倫の花火が夜空を飾る。
「今年は、来るかな」
 一人きりの部屋に小さい呟きが落ちた。毎年この時期になるとやってきて一緒に祭りを楽しむひとがいた。両親が生きていた頃からだ。一年に一度会えるのを光忠は心待ちにしている。髪の毛も着ている服も肌も白くて、目の色は自分の密色より薄い金色。皆その人のことを「つるさん」と呼んだ。三兄弟を皆「光坊」と呼ぶのに村の人でも見分けるのが難しい自分たちの顔を一度たりとも間違えたことがない。不思議なひとだった。
(最後に会ったのは2年前だから、もう僕の方が背が大きいかもね!)
 毎年欠かさず来ていた彼が昨年は来訪しなかった。だから今年も来ないかもしれない。そう思うと胸のあたりがちくりとなり、思わず頭を振った。
「かっこ悪いなぁ」
 背丈はここ一年でグンと伸びたはずなのに、心は大事な人たちが離れてく寂しさに子どもの時のように泣きたくなっている。しっかりとしないと、と今日の夕飯の準備を始めた。外を見れば重たい薄墨の空からちらちらと雪が降っている。暖炉に火を入れなければ。雪の粒が大きくなり風も吹いてきた。夕飯を終えて、片づけをしソファでうとうとしていた。目を開ければ時計の針は11時を示している。今日は居間のソファに毛布を持ってきて寝てしまおうと思った時だ。
「ガタッ」と扉をノックする音がした。外の風だろうかと思って玄関に近付くと音が2回、それから聞いたことのある声で「鶴丸だ、開けてくれ」と言った。心臓がやけに早鐘を打ち、扉のロックを外して開けた。とたんに冷たい空気と雪が入り込む。目の前には真っ白なひとがいた。
「つるさん…! どうしたの、いや取り敢えず早く部屋に入って雪まみれじゃないか」手を引けば手袋もはめてない指先が凍るように冷たい。
「よ! 久しぶりだな、光坊。元気にしてたかい。去年は身体を壊してここに来れなかったんだが、ん? きみ一人きりかい? 弟たちは…」
「うん、僕ひとりなんだ。久しぶりだね鶴さん。昨年は来なかったから二年ぶりだ、今拭くもの用意するから! あぁそう、弟たちはね」
 光忠は雪まみれの鶴丸の頭や肩を持ってきたタオルで包んだ。雪はとけて水滴になって顔に落ちていく。暖炉の火を落とさないで良かった。夕飯の後に薪を足しに行ったばかりだ。雪を吸い込んで重さを増した鶴丸の外套を暖炉側に掛けて光忠は鶴丸の顔を覗き込んだ。
「鶴さん、変わってないね! 春のまつりまでまだ一週間もあるよ、今年は早いどうしたんだい?」
 「あぁ、今年は間に合わせたかったからな、うん」
 少し俯きがちに言われた言葉に光忠は首を傾げる。それでも「そうだ! 弟たちはね」と鶴丸に弟たちには伴侶が出来て今年は春のまつりに来れないことを伝えた。光忠の話を椅子に腰かけて聞いてくれた。
「そうか、じゃあ寂しかったろ?」
 鶴丸の言葉にぐっとなる。昨日と今日は手紙を読んで塞いでいたのだ。
「鶴さんが来てくれたからね、大丈夫だよ。そうだお腹空いてないかい? 夕飯の残りで良ければ、今温めるよ!」
「あぁ腹ペコだ、何かもらえるかい?」
 光忠はかぼちゃのシチューとパンにハムとチーズをはさんだサンドイッチを出した。温かいココアを自分の分も用意して鶴丸の向かいに座る。暖炉の火が二人の横顔を照らす。パチパチとやさしい音にゆったりと時間が過ぎた。すっかり乾いた鶴丸の髪の毛の先を光忠はじっと見ていた。唐突に鶴丸が切り出した。
「なぁ、光坊。2年前に俺が言ったこと覚えているかい?」
 鶴丸の言葉に記憶の糸をたぐり寄せる。二年前、兄弟がまだ揃っていたこの家で手を引かれ家の外で話をしたのだ。いつになく真剣な鶴丸の顔は今も忘れていない。
「うん覚えているよ。こんど一緒に旅行に行こう? だったよね。弟たちはもうこの家に帰ることはないから僕一人になっちゃうけど…」
 光忠の言葉に鶴丸は「はぁ~…やっぱり伝わってなかったか」とつぶやいた。光忠は「え? 違ったかい?」と鶴丸の顔をじっと見つめた。
「俺はきみたち兄弟に向けて言ったのでは無くてだな、きみひとりに向けて一緒に旅行しないかと言ったんだ」
「そう…だったの?」光忠はあの日の鶴丸の真剣な表情を思い出した。胸が早鐘を打ち、顔に血が上るのを感じる。鶴丸は? と向かいをみやる。
「きみ達一族がツガイと呼ばれる伴侶を見つけると生まれ育った土地を離れて生活する、と知ったのがあの2年前だ。きみたち兄弟は誰一人この地を離れてなかったから、いつ巣立つのか分からなかったんだが、きみは長子だろ? 一番に巣立つ可能性があるって思ってだな…俺なりに想いを伝えたつもりだったんだがな」
「鶴さん、僕は」僕はあの時なんて言っただろう。
 向かいの鶴丸はシチューもサンドイッチも食べ終わり手にはココアの入ったコップを持っていた。鶴丸の言葉に混乱して分からなくなる。鶴丸は自分の事を好きだったのだろうか? 自分は…?
「光忠、きみはあの日こう答えた。春のまつりの一週間前に誕生日が来るから一緒にお祝いしてくれたら、お返しに旅に一緒に行くよ、って」
 そうだ、そうだった。いつも春のまつりの前日にやってくる鶴丸にあと一週間早ければ一緒に誕生日をお祝い出来るのに、と思っていた。
「でも去年…来なかったじゃないか。僕待っていたよ」
 毎年会えるのを楽しみにしていた、憧れだと思っていたが少しずつ追いつく背丈に髪を梳いてくる優しい白い手にドキドキし始めたのはいつからだろう。それは、もう初めて会った時からかもしれない。
「去年はすまない、身体を壊したというのも嘘じゃないが…きみになんとも思われてなかったらどうしようかと、」鶴丸の顔は見たことも無いくらい赤くなっている。近くでパチリと音を出す暖炉の暖かさのせいではないだろう。それに自分だって負けないくらい赤くなっているはずだ。
「ねぇ鶴さん、時計見て? 今十二時を廻って僕の誕生日が来たよ」
 鶴丸は顔を上げて壁にある時計を見た。
「今年は間に合ったな、誕生日おめでとう」
 鶴丸はにかりと笑う。光忠は「うん」と頷いてみせた。
「ありがとう、お祝いしてくれて。約束だよね、一緒に旅に行こう。僕どこでもいいよ、鶴さんが行きたいところ連れて行ってくれるかい?」そう笑って言えば、目の前の人は瞬きを一つして悔しそうに言った。
「くそぅ、きみほんとかっこいいな。これじゃあ年上の威厳というものが」
「まぁいいか、ほらちょっとこっちきてくれ」
 鶴丸に呼ばれて暖炉の前のソファに移動した。座ったら頬を両手で包まれて唇に触れるようなキスをされた。名残り惜しくて光忠からも鶴丸の頬に両手を添えてキスを贈る。それはあっという間に深くなる。
「二人で寝るにはソファはきついかな?」
「こうやってぎゅっとしてたら落ちないだろ」と鶴丸に言われ夢見心地でそうだね、とささやいた。外は春の雪が音もなく降っている。


 温かい布団から出たくなくて燭台切は胸元にある白い頭を抱き込んだ。今日は厨当番は無かった。だからまだ少しこのままで…と思っていたら鶴丸がごそっと動いた。
「おはよう」
「おはよう、鶴さん。ねぇ今日変な夢を見たんだ。昨日主が暖炉が本丸にあったらいいのに、なんて言うからだよ絶対」燭台切の言葉に「俺も似たような夢見たなぁ」と言った。
「外は大粒の雪が降っているのに暖炉の火がとても暖かくて」幸せな夢だったと。
1 / 2
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 暖かい列車から降りた、先程窓から見た雪は更に大きくなりまるで花が落ちるかのように地面を真銀に覆っていた。
(こりゃぁ光坊たちが住む家まで辿り着かないかもな)
 村はずれにある建物を目指して歩き始めたが、あたりが一面の雪、街灯もない野原を記憶を頼りに歩いていく。風はそう強くないが、外気に触れている耳や手の先が冷え切っている。どのくらい経っただろうか、視界の先に灯りが見えた。鶴丸は安堵の息をついて扉をノックした。
「鶴丸だ、開けてくれ」
 開いた扉から温かい光と空気が飛び出す。目の前にはずっと会いたかったひとがいる。抱き着きたくなるのをこらえて「久しぶりだな、元気にしてたかい?」と声をかけた。頭の雪がぱたりぱたりと水滴になって落ちる。

 布団からはみ出した部分が寒くて、温もりを求めて隣にいる燭台切の布団に転がりこんだ。どちらも寝ぼけているけど追い出されなかった。冷えた指先足先に鼻の先まであたたかい体に押し付ける。そのうち体は同じ温度になっていく。
 
「貞ちゃんと僕が両親で、3番目が長谷部くんとくっついた僕で2番目が伽羅ちゃんとくっついた僕でねみんな家を出てったから寂しいなって思ってたら雪の中、鶴さんが来てくれて…」まだ眠そうな声で話し始めたそれは、鶴丸の夢とどこか似ていた。
(光坊に兄弟は出てこなかったが雪の中歩いて会いに行った、ん?確か列車から降りたら寒くて…家に入ったらポカポカしてたのは、俺が布団から布団に移動したからか)
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「僕は燕で鶴さんは鶴、伽羅ちゃんが龍で貞ちゃんと長谷部くんは…うーん、なんだったかな、鳥の種類は思い出せないけど、そう!色んな種族が仲良くしてる村でね」
「見た目は人間、なのかい?」
「うん、不思議な世界だったよ。あ!伽羅ちゃんは龍に変身できるんだよ」
「俺も鶴に…いや、それだと勝てなそうだ」
「鶴さん伽羅ちゃんと喧嘩するの?」
「いやいや」
 燭台切は向かいの鶴丸の顔を両手で挟み込んだ。
「鶴さんが迎えに来てくれて嬉しかったんだ、それで起きたら腕の中にいるからさー」
「驚いたか?」と得意顔の鶴丸に「それはもう!」と笑った。
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