色めく季節に愛を
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恋人から明るい橙色の花を咲かせた木々の香りが漂うと、そろそろ雪の季節がやってくるのかと夏侯惇は思う。
香を見に纏うのが好きな荀彧は肌寒い季節になると金木犀の香をよく焚く。
初めてその匂いを感じた時、夏侯惇は花の名前を知らなかった。
しかし、嗅いだことのあるその香りが気になり、つい荀彧に顔を近づけてしまい、「夏侯惇殿、お恥ずかしいです」と照れさせてしまったのは懐かしい思い出だ。
「すまん、なんの匂いだったのか記憶を辿っていたらつい」
「本日は金木犀の香です。暑い季節が終わり、金木犀が咲く頃、花を摘み、油と混ぜ、香によくしているので…。金木犀は心を穏やかにさせる効果もあるので、夏侯惇殿の癒しになればと…」
「荀彧…」
頬を桜色に染められこんなことを言われてしまったら、癒しどころではなかった。まだ恋仲ではないのに、さらに意識してしまうではないかと、夏侯惇もまた頬を染めた。
それから数ヶ月後、二人は愛を育むようになり、また木々の葉が色づき、橙色の花が咲き誇る季節がやってきた。
休みが合えば、どこか逢瀬にでも誘うかと夏侯惇が思っていると、荀彧はかごを持ち、花摘みに行きたいと話したため、夏侯惇はならばとともに馬をかけ、自然豊かな山里へ向かった。
金木犀はもちろん、竜胆や彼岸花など様々な花を見ることができ、荀彧はとても喜んでいた。
嬉しいですと微笑みかける姿は花に負けず劣らず美しく、そんなことを思うようになったのだなと武芸にしか興味のなかった自分に夏侯惇は驚きつつ、荀彧の肩を抱いた。
自身よりも大きな掌に胸が高鳴る。
花の芳しい香りだけでなく、夏侯惇の汗の匂いが近く感じ、恋人に愛されていることを知る。
ならば自分もと、土で汚れた黒い手袋を外し、そっと夏侯惇の手のひらに指先を添え、頭を少し、夏侯惇の頬に近づけた。そして二人で花を見ながら、静かな時を過ごした。
二人きりの時間をしばし堪能したあと、荀彧はふと思い出したかのように、夏侯惇に話しかける。
「そういえば、金木犀の茶も大変おいしいので、いつかご馳走させてください。夏侯惇殿…」
「そうなのか。それは楽しみだな。いつにするか?」
「ええっと、いつがよろしいでしょうか?」
「むっ…」
いつか茶をご馳走させて欲しいと微笑む荀彧に、夏侯惇はいつにするかと尋ねる。
すぐにでも会ってくれるなんて嬉しいと思いつつも、夏侯惇も忙しい身であるため、荀彧はつい聞き返してしまうと、夏侯惇は眉間に皺を寄せる。怒らせてしまっただろうかと荀彧は焦りを見せると、夏侯惇は視線を逸らし、髭を指でかきながら、つぶやく。
「俺は休みであればお前と共にいたいとは思っているが…」
「かっ、夏侯惇殿…。でしたら、このあと私の隠れ家でも…」
「それはありがたい。休ませてもらう。だがお前も気を遣うなよ。俺たちは恋仲なのだから」
「夏侯惇殿…!」
いつと決めるのではなく、いつでも共にいたいと話す夏侯惇に荀彧は胸を高鳴らせた。
なんと、愛おしいお方なのだろうか。それに荀彧もまた共にいられるのならばいたいと思っていた。
ならば今誘うしかないと、荀彧は意を決して誘うと、夏侯惇は荀彧の瞳を見つめながらありがたいと微笑みつつ、散策したばかりなのだから気を遣わないで欲しいとも話した。
無骨な彼からは想像できないほどの優しい言葉につい、荀彧も恋人の名前を呼びながら、愛があふれてしまった。
溢れ出した愛に夏侯惇は気づいたのか、ちゅっと荀彧の柔らかな血色の良い唇を軽く塞いだ。
恋仲になってから誰かに見られるようなところで口付けをされたことのない荀彧は真っ赤な紅葉の葉のように頬を染めた。
その様子が愛おしく、夏侯惇は鼻で笑うと、「早くもっと愛したい」と耳元で囁き、荀彧を姫抱きにし、自身の愛馬に乗せ、荀彧を抱き抱えながら、愛を育む場所へと駆けて行った。
到着後、夏侯惇の濃い匂いにくらくらになりつつも、荀彧は乾かし、炒っておいた金木犀を使い、約束の茶を振る舞った。
良い香りだ、落ち着くなと微笑む夏侯惇に荀彧はつられて微笑み、彼もまた好きな花の匂いに包まれて、平穏の時は少しでも彼と共にいたいと願った。
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