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投稿日:2025年02月02日 04:22    文字数:54,048

陽海本線/アフターハピハピバス

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・陽本線→東海道の片思いから始まる陽海本線
・10Pあるのでお暇なときに
・ミュ…のパッションを多分に含んでいます
・本当に何でも大丈夫な方向けです
1 / 10

=========================
好きな奴の誕生日をミニスカサンタで祝祭
=========================
1 プレゼントは名無しさん:23:40 ID:inenysaoul34.net

脈ありか教えてくれ

2 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

聞こうじゃないか

3 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

10月にサンタとは季節外れな

4 @赤い男:23:43 ID:inenysaoul34.net

詳しく書く
・ミニスカサンタで正装
・好きな奴の部屋を勝手に飾りつけ
・ケーキを作った→喜んでいた
・ケーキ入刀→断られた
・騒動により部屋は修復2週間
・「月が奇麗だな」と伝えたら「死ね」と言われた
どう思う

5 プレゼントは名無しさん:23:44 ID:???

どうもこうも判断しかねる

6 プレゼントは名無しさん:23:45 ID:???

相手の部屋に入れる関係ではあるのか?
入刀ってウェディングケーキ?

7 プレゼントは名無しさん:23:47 ID:???

部屋の合鍵持ってる
誕生日ケーキ

8 プレゼントは名無しさん:23:48 ID:???

分からんが合鍵貰ってる時点で脈ありだろ
解散!

9 @赤い男:23:50 ID:inenysaoul34.net

仕事の都合で会社から預かってる
多分あいつは合鍵持ってる事は知らん

10 プレゼントは名無しさん:23:50 ID:???

就業規則違反で脈なし
集合!

11 プレゼントは名無しさん:23:51 ID:???

1が美少女なら不法侵入でも許される

12 プレゼントは名無しさん:23:52 ID:???

サンデーで連載してそうなラブコメ

13 @赤い男:23:53 ID:inenysaoul34.net

俺は男

14 プレゼントは名無しさん:23:54 ID:???

流れ変わってきたな

15 プレゼントは名無しさん:23:55 ID:???

お前がミニスカサンタ?
相手に着せたってこと?

16 @赤い男:23:56 ID:inenysaoul34.net

俺がミニスカサンタ
ちなみに好きな奴も男

17 プレゼントは名無しさん:23:58 ID:???

なるほど地獄絵図

18 プレゼントは名無しさん:23:59 ID:???

サンタは相手の趣味なのか?
頑張って着たってこと?

19 @赤い男:00:00 ID:inenysaoul34.net

俺の勝負服
あいつが好きかは知らん

20 プレゼントは名無しさん:00:01 ID:???

なぜか堂々たる1
なおミニスカサンタ

21 プレゼントは名無しさん:00:01 ID:???

小柄なタイプとか

22 @赤い男:00:03 ID:inenysaoul34.net

178cm70kg

23 プレゼントは名無しさん:00:04 ID:???

うん、でっかい

24 @赤い男:00:06 ID:inenysaoul34.net

男なら相手の好みに媚びるより自分の信念で戦うべきだろうが

25 プレゼントは名無しさん:00:08 ID:???

媚びないにもほどがないか?

26 プレゼントは名無しさん:00:08 ID:???

ミニスカサンタが信念ってなに?

27 プレゼントは名無しさん:00:09 ID:???

ミニスカ情報がなければ名言

28 プレゼントは名無しさん:00:12 ID:???

てか情報がなさすぎる
1と好きな奴ってどういう関係なの

29 @赤い男:00:15 ID:inenysaoul34.net

会社の同僚だな
いろいろあって付き合いは長い

30 プレゼントは名無しさん:00:16 ID:???

会社の同僚が自室でミニスカサンタで立ってるの
想像したら怖すぎるな

31 @赤い男:00:17 ID:inenysaoul34.net

怖くない
絢爛なミラーボールと軽快なBGMで出迎えてやった

32 プレゼントは名無しさん:00:18 ID:???

ホラー映画大賞2022
トリックスター賞おめでとう
それで包丁持ってたら役満だな

33 @赤い男:00:20 ID:inenysaoul34.net

持ってたぞ
ケーキ入刀に必要だからな

34 プレゼントは名無しさん:00:21 ID:???

ホラー映画大賞2022
総合優勝もおめでとう!

35 プレゼントは名無しさん:00:22 ID:???

警察呼ばれなくて良かったな
てか社宅とかなんか?

34 @赤い男:00:23 ID:inenysaoul34.net

いわゆる社宅だな

35 プレゼントは名無しさん:00:25 ID:???

周りに同僚とか住んでんだよな?
どういう反応だった?

36 @赤い男:00:27 ID:inenysaoul34.net

社宅は男だけなんだが他の同僚もその部屋にいてな
全員が美女に扮装し水着を着ていた

37 プレゼントは名無しさん:00:28 ID:???

濃すぎる登場人物が倍増

38 プレゼントは名無しさん:00:29 ID:???

状況についてけてない

39 プレゼントは名無しさん:00:29 ID:???

なんで全員水着?サンタは?
夏か冬かはっきりしろ

39 プレゼントは名無しさん:00:30 ID:???

てか夏も冬も今は秋

40 @赤い男:00:32 ID:inenysaoul34.net

言っておくがな
俺が一番ナイスバディだった

41 プレゼントは名無しさん:00:33 ID:???

それは聞いてない

42 @赤い男:00:24 ID:inenysaoul34.net

誕生日のコンセプトがナイトプールパーティでな
全員勝手に水着を着てた

43 プレゼントは名無しさん:00:35 ID:???

なんだその奇想天外なコンセプト
社宅で誕生祝いなんだよな
混乱してきた

44 プレゼントは名無しさん:00:36 ID:???

じゃあなんでお前だけサンタ?

45 @赤い男:00:40 ID:inenysaoul34.net

サンタには三十以上の理由があるが
長いから割愛する

46 プレゼントは名無しさん:00:41 ID:???

詳しく分からんが凄い情念だ

47 プレゼントは名無しさん:00:41 ID:???

三十以上の理由を背負い
ミニスカサンタを着た男はお前が日本初だよ

48 プレゼントは名無しさん:00:43 ID:???

今までの情報を整理すると
被害者男性の部屋に不法侵入
同僚男性が集まり女性用水着を着用
主催者はミニスカサンタで包丁を所持
ミラーボールをはじめ装飾を不法に設置
被害者男性が帰宅後驚いたところで気絶

なるほどな
この男性に脈がまだあるか知りたいであってるか?
救急車呼んだ?

49 @赤い男:00:44 ID:inenysaoul34.net

物理的な脈じゃない
俺に気があるかどうかの脈な

50 プレゼントは名無しさん:00:45 ID:???

文脈を綺麗にスルーしたな

51 プレゼントは名無しさん:00:46 ID:???

お前に気はないだろ今のところ

52 プレゼントは名無しさん:00:47 ID:???

ある気がしない

53 @赤い男:00:50 ID:inenysaoul34.net

もっと脈を探しに来い

54 プレゼントは名無しさん:00:51 ID:???

脈って探すもんだったんだ

55 プレゼントは名無しさん:00:51 ID:???

ただで探してもらえると思うな

56 プレゼントは名無しさん:00:52 ID:???

その誕生日ケーキってのは1が作ったの?

57 @赤い男:00:53 ID:inenysaoul34.net

そうだ
料理は得意なんでな
渾身の出来だった
わー!とあいつも喜んだぞ

58 プレゼントは名無しさん:00:55 ID:???

⸜( >ᗜ< )⸝ わー!

59 プレゼントは名無しさん:00:55 ID:???

よかったな

60 プレゼントは名無しさん:00:56 ID:???

よく魑魅魍魎の宴で喜べたな

61 プレゼントは名無しさん:00:57 ID:???

好きなケーキってのは?味とか?

62 @赤い男:00:58 ID:inenysaoul34.net

あいつにライフワークみたいなもんがあって
その形でケーキを作った

63 プレゼントは名無しさん:00:59 ID:???

あーサッカーボールとか車みたいな

64 プレゼントは名無しさん:01:00 ID:???

へーキャラケーキ的なやつ
いいじゃん

65 プレゼントは名無しさん:01:01 ID:???

それは普通に嬉しい

66 @赤い男:01:03 ID:inenysaoul34.net

喜んだんでな
ここだと思った
一緒にケーキ入刀するか聞いたら嫌だと断られた
は?

67 プレゼントは名無しさん:01:04 ID:???

喜んだのはケーキにでミニスカサンタではないだろ

68 プレゼントは名無しさん:01:05 ID:???

初デートに婚姻届け持ってくるタイプ?

69 プレゼントは名無しさん:01:05 ID:???

お望みではないだろ、勝手に侵入してんだから

70 プレゼントは名無しさん:01:06 ID:???

だから誕生日ケーキに入刀って何?

71 @赤い男:01:08 ID:inenysaoul34.net

喜んでた

72 プレゼントは名無しさん:01:10 ID:???

なんかごめん

73 プレゼントは名無しさん:01:11 ID:???

喜んでたんだもんな!
わかるよ!

74 プレゼントは名無しさん:01:12 ID:???

ここだと思ったんだよな!

75 @赤い男:01:13 ID:inenysaoul34.net

脈ありだと思うか

76 @赤い男:01:23 ID:inenysaoul34.net

全員死んだ?

77 プレゼントは名無しさん:01:24 ID:???

返事がない、脈もないようだ

78 プレゼントは名無しさん:01:24 ID:???

お前らポジティブに考えよう
いきなり皆の前でケーキ入刀は恥ずかしいだろ

79 プレゼントは名無しさん:01:26 ID:???

ちょっと急ぎ過ぎたんだよな
お前自体を嫌いな訳じゃないと思うぞ

80 @赤い男:01:27 ID:inenysaoul34.net

なるほどな
確かに奥ゆかしいところもある

81 プレゼントは名無しさん:01:28 ID:???

てかもうちょっと相手のスペック教えて

82 @赤い男:01:30 ID:inenysaoul34.net

180cm
年は上

83 プレゼントは名無しさん:01:31 ID:???

雑だな
しかし相手もでかいな
見た目とかは

84 @赤い男:01:32 ID:inenysaoul34.net

ムカつくが見た目は良い

85 プレゼントは名無しさん:01:33 ID:???

顔が良くてムカつくとは複雑だな

86 プレゼントは名無しさん:01:34 ID:???

1が言うならモテ男の予感

87 プレゼントは名無しさん:01:35 ID:???

相手は男が好きなのか?

88 @赤い男:01:38 ID:inenysaoul34.net

違うだろうな
俺も別に男が好きって訳じゃない
あいつが特別

89 プレゼントは名無しさん:01:39 ID:???

なかなかハードル高いな

90 プレゼントは名無しさん:01:41 ID:???

ノンケ相手に仕掛ける誕生祝として
100ステップすっ飛ばした感じはする

91 プレゼントは名無しさん:01:41 ID:???

100ステップ後にもこの展開はないだろ
聞くの怖いが部屋の修復ってのは?

92 @赤い男:01:42 ID:inenysaoul34.net

身バレの都合詳しくは避けるが
祝祭の催しであいつの部屋に火がついて
消火に励む過程で部屋が浸水した

93 プレゼントは名無しさん:01:43 ID:???

身バレならまずミニスカサンタで心配しろ

94 プレゼントは名無しさん:01:44 ID:???

ご愁傷様だったな
誕生日ケーキの蝋燭がカーテンに燃え移ったとか?

95 プレゼントは名無しさん:01:46 ID:???

事故か…
まあそれはしょうがないよな

96 @赤い男:01:48 ID:inenysaoul34.net

舎弟がリンボーダンスを披露してな
火を振り回したら部屋に火がついちゃった

97 プレゼントは名無しさん:01:49 ID:???

何言ってんだ?

98 プレゼントは名無しさん:01:50 ID:???

いやマジで何?

99 プレゼントは名無しさん:01:51 ID:???

火がついちゃった、じゃね~だろ

100 @赤い男:01:52 ID:inenysaoul34.net

リンボーダンス知らんか?

101 プレゼントは名無しさん:01:53 ID:???

リンボーダンスはご存じだよ

102 プレゼントは名無しさん:01:54 ID:???

リンボーは相手の趣味なのか?

103 @赤い男:01:55 ID:inenysaoul34.net

舎弟の思いつき
あいつが好きかは知らん

104 プレゼントは名無しさん:01:57 ID:???

リンボーダンスが好きか人生で考えた事ない

105 プレゼントは名無しさん:01:58 ID:???

俺が知ってるナイトプールにリンボーダンスはない

106 プレゼントは名無しさん:01:59 ID:???

サンタもいないだろ
なんで基本的に相手の好み無視なんだよ

107 @赤い男:02:00 ID:inenysaoul34.net

あいつのこと考えるとよくわからなくなる

108 プレゼントは名無しさん:02:01 ID:???

急に恋する男を出すな

109 プレゼントは名無しさん:02:01 ID:???

いじらしいが、結果が惨すぎる

110 @赤い男:02:03 ID:inenysaoul34.net

プールのおかげで消化できたが
水が窓から噴射してな
これにはあいつもおかんむり

111 プレゼントは名無しさん:02:03 ID:???

1聞いてくれ
今のとこ脈はないぞ

112 プレゼントは名無しさん:02:04 ID:???

てかプールってコンセプトじゃなく実在?
マ?
金脈見つける方が早そう

113 プレゼントは名無しさん:02:04 ID:???

死後硬直始まりそう
逆に1はどこで脈ありかもと思ったんだ

114 プレゼントは名無しさん:02:05 ID:???

「月が奇麗だな」で「死ね」のとこ?

115 @赤い男:02:07 ID:inenysaoul34.net

窓から奇麗な月が見えてな
定番の返しやろ
素直じゃない奴なんでな

116 プレゼントは名無しさん:02:08 ID:???

素直じゃないのは100%お前

117 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

「死んでもいい」じゃなくて「死ね」だろ
それはさ「死ね」って意味だぞ()

118 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

火災のち水没での使用は夏目漱石も免責

119 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

俺なら絶交してる

120 @赤い男:02:11 ID:inenysaoul34.net

脈ありだと思うか

121 @赤い男:02:20 ID:inenysaoul34.net

また全員死んだ?

122 プレゼントは名無しさん:02:21 ID:???

過去じゃなく未来を見ようぜ
本人に聞いちまうしかないだろ

123 プレゼントは名無しさん:02:22 ID:???

それだ!スレ番でLINEしよう

124 プレゼントは名無しさん:02:22 ID:???

いやでもなんて聞くべきか難題だぞ

125 プレゼントは名無しさん:02:23 ID:???

ここはもう一度「月が奇麗だな」しかないだろ!

126 @赤い男:02:24 ID:inenysaoul34.net

いまは寝とるから無理

127 プレゼントは名無しさん:02:25 ID:???

何!?監視してる!?

128 @赤い男:02:26 ID:inenysaoul34.net

いやそこで寝とる

129 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

は!?

130 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

𝑯𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒆𝒏𝒅…………

131 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

おい茶番!?
ブチ切れていいか!?

132 プレゼントは名無しさん:02:28 ID:???

後日談だったってことか

133 プレゼントは名無しさん:02:28 ID:???

解散

134 @赤い男:02:29 ID:inenysaoul34.net

あいつの部屋ダメになったから俺の部屋で寝とる

135 プレゼントは名無しさん:02:30 ID:???

え?もしかしてこれは今日?昨日?の出来事だったのか?

136 プレゼントは名無しさん:02:31 ID:???

まさかのリアルタイム

137 プレゼントは名無しさん:02:31 ID:???

何度驚かすんだよ

138 @赤い男:02:32 ID:inenysaoul34.net

俺の服着て寝とる

139 プレゼントは名無しさん:02:33 ID:???

もしかして:
自慢されている

140 プレゼントは名無しさん:02:34 ID:???

それは浸水させたからだろ

141 プレゼントは名無しさん:02:34 ID:???

一周回って1の不器用さが好きになってきた

142 @赤い男:02:35 ID:inenysaoul34.net

俺はこいつが好き
すまんな

143 プレゼントは名無しさん:02:36 ID:???

俺はなんで振られたの?

144 プレゼントは名無しさん:02:37 ID:???

それは既知情報

145 プレゼントは名無しさん:02:38 ID:???

相手の顔みたい、一瞬だけあげてくれ

146 @赤い男:02:40 ID:inenysaoul34.net

断る

147 プレゼントは名無しさん:02:41 ID:???

えー見たい

148 プレゼントは名無しさん:02:41 ID:???

見たい見たい!

149 プレゼントは名無しさん:02:42 ID:???

見たら脈が見えそうな気がするし
見えそうで見えない気もする

150 プレゼントは名無しさん:02:42 ID:???

相手実在してんのか?
どう考えても創作スレだろ

151 @赤い男:02:44 ID:inenysaoul34.net

おるわ
じゃ保存するなよ
https:// xxxxxx …

152 プレゼントは名無しさん:02:45 ID:???

マジもんの美形じゃねーか

153 プレゼントは名無しさん:02:46 ID:???

人間てこんな綺麗に寝れるんだ

154 プレゼントは名無しさん:02:47 ID:???

えなんかどっかで見たことあるかも
芸能人?

155 @赤い男:02:48 ID:inenysaoul34.net

俺の服着て寝とる

156 プレゼントは名無しさん:02:49 ID:???

それは分かった

157 プレゼントは名無しさん:02:49 ID:???

画像消えちゃった

158 プレゼントは名無しさん:02:50 ID:???

ほんとに秒だったな
スレ民が姿勢を正したのを感じた

159 @赤い男:02:52 ID:inenysaoul34.net

もっと感謝しろや
撮るの緊張したんだからな

160 プレゼントは名無しさん:02:53 ID:???

かわいい面を見せる1

161 プレゼントは名無しさん:02:54 ID:???

よ!恋する男!

162 プレゼントは名無しさん:02:55 ID:???

できれば成就して欲しいが
登る山は高そう

163 プレゼントは名無しさん:02:56 ID:???

つーかさ
部屋にいるなら同衾しちゃえば!?

164 プレゼントは名無しさん:02:57 ID:???

確かに!
もうこうなったら既成事実作っちゃうしかないかも

165 @赤い男:02:58 ID:inenysaoul34.net

付き合ってもないのにそんな事出来るかボケカス
ドタマかち割るぞ

166 プレゼントは名無しさん:02:59 ID:???

凄い罵倒

167 プレゼントは名無しさん:03:00 ID:???

1の倫理観が分からん

168 プレゼントは名無しさん:03:01 ID:???

同衾より凄い祝祭をしただろ

169 プレゼントは名無しさん:03:02 ID:???

つーか1は好きな奴とどうしたいの?付き合いたいの?

170 @赤い男:03:04 ID:inenysaoul34.net

付き合いたいと言えばそうだが
俺から言いたくない
付き合ってくれと言わせたい

171 プレゼントは名無しさん:03:05 ID:???

危険人物の思想だ

172 プレゼントは名無しさん:03:06 ID:???

告白から遠ざけてるだろ
この一連の行動は

173 プレゼントは名無しさん:03:06 ID:???

まだ砂場の山も登ってないのにヒマラヤ登頂を目指すな

174:03:08 ID:inenysaoul34.net

長い付き合いなんでな
確実でもない限り言わん

175 プレゼントは名無しさん:03:10 ID:???

あ~~~~それはそうだよね
振られたら気まずいか

176 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

それはわかる…………

177 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

その気づかいが出来るのに
この催しを開催してしまったんだな

178 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

極端だな

179 プレゼントは名無しさん:03:14 ID:???

もし1が告白したら何%ぐらいOK貰えそう?

180 @赤い男:03:15 ID:inenysaoul34.net

99%

181 プレゼントは名無しさん:03:16 ID:???

え~~~~~~~

182 プレゼントは名無しさん:03:17 ID:???

自信満々

183 プレゼントは名無しさん:03:19 ID:???

1ってジェットコースター?
アップダウン凄いんだけど

184 @赤い男:03:20 ID:inenysaoul34.net

俺も相当いい男だからな
あいつも付き合おうと言われたらな
うん言うはずや
だがあいつから言わせたい

185 プレゼントは名無しさん:03:21 ID:???

たぶん99%じゃないだろ

186 プレゼントは名無しさん:03:21 ID:???

現実を見ろ

187 @赤い男:03:22 ID:inenysaoul34.net

現実主義者だからスレも立てたんやろ
脈ありなら朝勝負に出よう思ってな

188 プレゼントは名無しさん:03:23 ID:???

さんざん脈なしって言われただろ!
つーかもう結局言いたいんだろ1は
言っちゃえ!!

189 プレゼントは名無しさん:03:24 ID:???

待て待て
成功確率限りなく低いだろ
安易に背中押すな

190 プレゼントは名無しさん:03:24 ID:???

脈を見つけるまでこのスレ終わりそうにないぞ

191 プレゼントは名無しさん:03:25 ID:???

最長スレ目指すか

192 プレゼントは名無しさん:03:25 ID:???

スレ99でどんな誕生日が催されるか見物だな

193 プレゼントは名無しさん:03:26 ID:???

最後は五山送り火に負けないぐらい火をつけちゃおうぜ

194 プレゼントは名無しさん:03:27 ID:???

でもさ
奇祭!火災!水没!の惨劇を「死ね」で許してくれる相手って
けっこう1の事好きじゃない?

195 @赤い男:03:27 ID:inenysaoul34.net

やっぱそうだよな

196 プレゼントは名無しさん:03:28 ID:???

レス早

197 プレゼントは名無しさん:03:28 ID:???

最速のレス

198 プレゼントは名無しさん:03:29 ID:???

いや許されてはないだろ!?

199 プレゼントは名無しさん:03:30 ID:???

いい笑顔で打ってんだろうな

200 プレゼントは名無しさん:03:30 ID:???

真顔かもしれんぞ

201 プレゼントは名無しさん:03:31 ID:???

真顔はこわい

202 プレゼントは名無しさん:03:32 ID:???

1はずっとこわい

203 プレゼントは名無しさん:03:33 ID:???

そうそう
他の同僚がいるなか1の部屋にきたんだよな
おそらく奇祭の主催者である1の部屋に!
そこにも脈はないだろうか

204 @赤い男:03:34 ID:inenysaoul34.net

おい待てそういや
お前が責任とれ言うてた

205 プレゼントは名無しさん:03:35 ID:???

そりゃ結婚じゃん

206 プレゼントは名無しさん:03:35 ID:???

結婚だ!

207 プレゼントは名無しさん:03:36 ID:???

Congratulations!!

208 プレゼントは名無しさん:03:37 ID:???

良かった良かった!

209 @赤い男:03:38 ID:inenysaoul34.net

味噌汁の具材買ってくる

210 プレゼントは名無しさん:03:39 ID:???

なんで?

211 プレゼントは名無しさん:03:40 ID:???

今3時だぞ!?

212 プレゼントは名無しさん:03:44 ID:???

本当にレスがない

213 プレゼントは名無しさん:03:46 ID:???

味噌汁の具材ってなに?隠語?

214 プレゼントは名無しさん:03:48 ID:???

地球の裏側まで味噌汁の具材?
を探し行った?

215 プレゼントは名無しさん:03:50 ID:???

1のことだから
・美味い味噌汁を作る
・「この味噌汁を一生作ってくれ」
・相手からの告白!
・𝑯𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒆𝒏𝒅

216 プレゼントは名無しさん:03:51 ID:???

この数時間で1を理解しすぎだろ

217 プレゼントは名無しさん:03:52 ID:???

だから自分から言えよ!!!

218 プレゼントは名無しさん:03:54 ID:???

勝負に出るって味噌汁作るってこと!?
中学生!?

219 プレゼントは名無しさん:03:56 ID:???

これ味噌汁検討スレ?
付き合うまで100年かかりそう

220 プレゼントは名無しさん:03:58 ID:???

今何年目なんだよ
不老不死でもない限り無理だろ

221 プレゼントは名無しさん:04:02 ID:???

そして1は戻ってこなかった

222 プレゼントは名無しさん:04:03 ID:???

悪い奴じゃなかったのに
背中押した奴らは責任とれよ

223 プレゼントは名無しさん:04:05 ID:???

1、骨は拾ってやるからな
美味しい味噌汁を作れよ

224 プレゼントは名無しさん:04:07 ID:???

アーメン

1 / 10
2 / 10

パソコンの画面が手元をちいさく照らす、暗く静かな部屋。マウスを滑らせスクロールし終え、東海道本線は掌を止めた。

「なんだ、これは…」

宿舎自室が倒壊して「お前が責任取れ!」と山陽の部屋に押し掛けた。ずぶ濡れの制服を洗濯機に放り込んでシャワーを浴び、勝手に服を借りベッドにもぐりこんだ。家主を差し置きどうこうと言われたが、もう一寸も聞く気が起きず熟睡。それから何時間経ったか。額にほのかな熱、シャッター音でうっすらと意識が浮上した。ぼやけた頭に響く微かなキータイプ。カシャンと鍵が締まる音で覚醒した。

何度か瞬き、そういや山陽の部屋だったと思い出す。見渡すも家主はおらず。キッチンのテーブルにぽつん、と明かりがついていた。近づくとそれはノートパソコンで、べたべたと球団ステッカーが張りついている。興味本位に覗き、口元を手で抑え、次第に険しい顔になり、最後は混乱した。つらつら書かれた出来事が、二つとあって堪るかと思う。つまりどのように考えても「1」とは、山陽本線の事である。

深夜4時、眉間を揉むと一度考えるのをやめる。ずるずると椅子に凭れると、視線の先、社宅にしては良い冷蔵庫。そういや何も食べてない。空腹感に冷蔵庫を開けると、頬がひやり、その明るさに片目を細めた。丁寧にラップを被った兄さんのケーキ。そろりとテーブルに運び、流しからフォークを借りる。きちんと手を合わせ、手掴みで型崩れたヘッドライトをすくう。

うまい、とつぶやく感想も静か。か細い月明りに皿を引き寄せ、そこに兄さんを照らす。兄さんのフォルムは、いかなる時も甘美で完璧だ。兄さんビューで、もう一口頬張る。「happy Birthday 東海道本線くん♡」のプレートに、遺憾の顔で絞り出す山陽の「ハッピーバースデー」が聞こえた。

山陽本線には、長年嫌われている、はずだ。正直、東海道を堂々嫌う路線は片手に収まる。気儘な宇都宮にも気遣いはあるし、今や関西とも険悪な素振りである。仲良くない、を続けるのは意外と難しい。そのなか山陽はわざわざ顔を突き合わせ「お前が嫌いだ」と心底嫌そうに言う。根気強く百年以上。

それなのにだ。あの山陽本線が、あの書きぶりでは恋仲になりたい意味で俺を好きだと言う。

んなことあるか。

空が赤くなり海が干からびるような話で、どうにも迷子の心地で膝を抱える。豊富な皮肉、大掛かりな罠、陰湿なちょっかい、その数といったら思い返しても憤慨する。その熱量といったら信じがたく、誕生祭もその筆頭だと思った。今だって、用意周到にサイトまで用意し反応を面白がるつもりかもしれない。だったら思い悩むのも馬鹿らしい。

指先で銀のフォークを揺らす。

すっかり冷えた。ケーキは丁重にラップに包み直してお帰り頂き、ノートパソコンの前に座った。マウスを滑らすと省エネモードが息を吹き返し、画面の光が瞳を刺す。マウスを、そっと巻き戻し見つめる。

『俺はこいつが好き』

その言葉、静かな部屋はいっそう音をなくした。

脳裏に浮かぶ山陽は、どれもこれもしかめっ面をしてる。ぎゅっと眉間に皺を寄せた小言、晴れた日ホームで電車を見つめる姿、隣のデスクで手持ち無沙汰にペンを回す掌、式典で背筋を伸ばした立ち姿、あるいは。ぽつ、ぽつ、と様々な場面を捲る。

何度目とも知れぬ溜息が、製氷皿がカチャンと鳴る音に重なった。一応、見てない事にした方が良いだろう。同じところまでマウスを戻し、ベットに潜り込む。古い型のエアコンが軋んで、前髪が揺れる。宿舎の窓越しに車のクラクションが聞こえた。枕に頬を埋めると壁伝いに低音、無精な奴がラジオをつけっぱなしだ。シーツが、山陽くさい。夏の陽に照る海のような溌剌とした香りだ。山陽の匂いなんて考えた事もなかったのに、これだと分かる。分かるのも何だか気にくわない。東海道は瞼を瞑り、ぼんやりと考えた。

好いた相手に嫌がらせなんて、何の得があるんだ。

……

考えながらも体は重く、またベッドに沈んでいく。

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深夜4時。24時間スーパー、野菜コーナー前。山陽本線は仁王立ちしていた。がらんとした店内。効きすぎた空調、気の抜けたBGM、欠伸交じりにスマホを眺めるレジ番。仕入れたての野菜達だけが、青々とカゴに詰まっている。

家主のベッドですーすーと眠る東海道を横目に、ちっとも眠気が来ずパソコンを開いた。ていの良い暇潰しだ。手慰みにあけすけ書いてしまったが、あれがああいう類のものを見る事はまずない。山陽は東海道がどのような男かよく理解してるつもりだ。駆け引きの類もほとんどしない、好いてくる相手を好き、嫌ってくる相手を嫌う、存外素直な男。

だからあれが自分に気がない事も知っている。よく分かっている、だから「暇潰し」なのだ。

掌に触れた野菜はひやりとした。それを手早く選り分けていると、昔の事を思い出した。昔、まだ山陽鉄道だった頃。

人間達に我が子のように育てられた山陽は、人間的な考え方をよくした。周りの人間との違いもさほど感じず、だから初めて東海道に会った時は驚いた。東海道は間違いなく、鉄道であったから。この国のはじまりの鉄道としての使命を背負い「人ならざる」を期待された男。それは山陽が初めて見た違うものであった。

東海道はいつも威圧的で融通が効かず。山陽にとって東海道は、長らく国そのもの、象徴だった。詰め寄れば硬く結ぶ唇も、険しく寄る眉も山陽を苛立たせた。当時多くの者と相対する東海道は、時に処世術として沈黙を用いた。不用意に言質を取られるぐらいなら、黙っていた方が潔い。いまは面影もないが、寡黙な男だと思われていた。しかし山陽は、対話する必要なしと言われたようで腹が立った。だから余計に詰め寄る。もっと対等に、その口を開かせる事は出来ぬものか。それはついぞ叶わぬまま、時は流れ、国有化に至るのだが。

ある春の頃だ。

国有化に伴い官設の宿舎にも順次、元私鉄勢の部屋が設けられた。借り上げた自社の宿舎にそのまま居すわるものも、素直に越してくるものもいた。山陽は西の宿舎に越す予定だが、都合上、東にも住まいを設けると知らされ東京へと足を運んだ。西と比べてもひと回り大きな宿舎、あちこちに見慣れぬ顔。誰しもが物々しいムードを醸していた。由緒ある調度品が規則的に並ぶ長い廊下は年季が入っており、歩くと微かに軋む。あいにく小雨が降っている。気疲れのせいか、着なれぬ新しい制服が肌にまとわりつくようだった。

と、急にがくり態勢を崩し片足で踏ん張る。振り返って、腑に落ちた。視線の先、窓辺に凭れている男を睨みつける。

「ごめんね、僕の脚が長かったみたい」

広げた新聞から覗いた顔は、元日鉄の双子だった。昼にもよく似た顔を見て、あれは大概気性が荒そうだった。こちらは一見大人しそうだが、その声色から似たようなものだと察した。胡散臭く上品ぶった物言いだ。

「そう思うなら丁重にしまっておけ」
「次からそうするよ。ねえ、名前」
「山陽…」
「ああ、やっぱり。あの躾のない犬だと思った」
「あ?お前。…喧嘩売ってんのか?」
「そんな事しないよ、僕はね」
「何が言いたい」
「別に何も。どんな顔してるか見てやろうと思ってたからさ。思った通り野蛮そうな奴だ」
「あ!?」

思わずその襟元を掴むと、新聞がバサバサと散った。随分高い背はびくとも動かなかった。目前の唇が馬鹿にしたようにゆがむ。

「噂通りすぐ手も出る」

挑発的な目の色に、なるほど。それで言わんとする事が分かった。東海道の背を斬った事をなじられてるのだと。東海道が旧来より日鉄とは懇意にある事を噂には聞いている。は、と山陽も笑いが込み上げる。

「ああ、そりゃ悪かったな。俺が野蛮ならお前は東海道様の稚児か?お上品な野次でも頂けるのかね」
「ごめんね、ボソボソよく聞こえなくて。もしかしてまだおしゃぶりが外れない?東海道に新しいのを頼んでやろうか」

襟元から乱暴に手を離す。強くなってきた雨風がガラス窓が打ち、カタカタと揺れていた。分厚い雲が影を落とす。

「東じゃこういう慣れあいが流行りか?趣味の悪いこった」
「ただ世の道理に無知だから教えてあげようと思って。親切だよ」
「あれはそういうもんじゃない。矜持の問題だ」
「へえ、矜持?東じゃ懲罰ものだけど、西だと矜持って言うんだ。勉強になったなあ」
「どうやら東の奴らは情緒ってもんを持ち合わせてないらしい、ならいますぐ罰したらどうだ?」
「東海道が上にあげずでお咎めないらしい。よかったね、おしめも変えて貰えて」
「俺が頼むか、ボケ!…は!どうせあれが恩着せがましくした事だろう。厚かましい、そういう傲慢な所も腹が立つ」

日鉄のはちっとも面白くなさそうに笑った。

「なかなか立派な捻くれ者だね」
「お前もな、頭が腐ってるならいい医者を紹介してやる。手遅れかもしれんがな」

今度は互いに掴んだ襟元が、ぐ、と締まり。力締めた拳に血管がすけた。

「お前とはとことん気が合わんようだ」
「気が合うね、僕もそう思ったところ」
「俺は国に飼われたとて、今後変わるつもりも牙を納めるつもりもない!」

眼差しがひやりと細まった。黒い雨雲が速足に、暗い廊下で瞳だけがぎらぎらとしていた。

「ならその牙、二度と納めるなよ」
「ああ、そうするさ」
「せいぜい、研ぎ過ぎて折れない事を願うよ」

日鉄が手を緩めると、遠巻きに見ていた路線達の声も静まった。誰が言いつけたか、カツカツと音を立て近づいてくるのはくだんの男であった。本日も隙なくビシリと制服を着こなし、眉を顰めている。

「こらッ!路線同士の私闘厳禁!」

聞きなれた声に掌を離し、己の襟元を整える。

「あ~あ、うるさいのがきた」
「チッ」
「お前らは目を離すと、全く!」
「別に、挨拶してただけだよ」
「そんな挨拶があるか!!」

日鉄の、は変わらず暗い目で笑いながら東海道に耳打ちした。東海道は片眉だけ動かし、しかし何も言わなかった。その肩を軽く叩くと、山陽を一瞥し踵を返す。でかい背中がゆうゆう去っていく。あたりの路線も、東海道が視線をくれると、蜘蛛の子散らすように去っていった。膝をつくと、散乱した新聞を溜息交じりに拾い上げ。

「山陽本線」

まださして呼び慣れぬ響きに、眼差しだけ向ける。

「説教なら後にして貰っていいか、俺も忙しいんでね」
「その荒い気性はどうにかしろ」
「それはあれに言え!あれが先に始めた!」
「あれには…もう随分長い事言っている」
「ハア、なら随分と特別扱いですなあ!」

赤い瞳が呆れたように山陽を見る。文句があるのはこちらだと言うのに。

「それで言えば、山陽本線。お前も俺と並び立つ日本の大動脈、折れてはならん背骨だぞ。その重みをゆめゆめ忘れるな」
「これはこれは。犬めに大層なお言葉を、どうも」

恭しく胸に手をあて一礼差し上げると、東海道はいよいようんざりとした顔をした。

「言いつけた通り、お前ももう国のもの。時に感情を飲み込まねばならんし、言い分を分かってやれん時もある」
「今日も傲慢だな、官設。いつ誰が分かって欲しいなど言った?お前なんぞに俺の気持ちは分からん」
「ああ、なら俺が分からんでもいい。いいが、国のために努めろ。そうすれば俺もお前を尊重し歓迎する。まあ、ここには犬扱いを喜ぶ路線もいるが、お前は嫌だと言うのも心得た」

随分と心ない、不遜な謝罪だと山陽は思った。これで嫌味のつもりもないのだから尚悪い。

「ッハ、別にいい。お前にどう思われようが俺には関係ないんでな!」

すると東海道は困った顔をした。そうした顔を、すぐ見せるようになった。

東海道は山陽が強く当たっても、感情を露わにはしなかった。なのに勝手にその土俵から降り、もう前を見ている。先の話、もう仲間だからと温情を図ったに違いない。それは路線として東海道として正しく、合理的だ。山陽はその合理が気にくわなかった。山陽鉄道が山陽本線となった、事実だけに向けられた合理。その優しさはかえって山陽を蔑ろにする、俺の事などどうとも思ってない、だからやすやすと態度も変える。刃を向けた山陽を堂々叱咤すればよかったものを。穏やかに、馴れ馴れしく、それが山陽には堪らなかった。

「分かった、今日はもう言わん」

また、すぐそう諦める。山陽は恨めしく東海道を睨んだ。

いつの間にか雨が止んだ。差し込む西日が眩しく、陽を背負う東海道の髪先が、静かに赤く輝く。その瞳はいつも、夕陽沈む海原のように燃えている。その度、山陽は初めて出会った東海道を思い出す。まだうんと小さな体で見上げた東海道を。自分とは違う、路線の姿を。心に燃えた感情を。むず痒く、制服の胸元を掴む。

この感情をシンプルに言えば「もっと俺を見ろ」という事だった。だが山陽はまだそれを自覚し、言語化する術を持たず、ただ苛々としていた。

「だがこれだけ言っておく。すぐに拳をあげるな、揚げ足を取られる。是非もよく考え、慎重に口にするよう努めろ」

東海道が掌をあげた。おそらく握手だっただろう、伸びた指先に喉が鳴った。無意識に乞うたようで掌を払うと、思うより勢い良く、パシリと高く乾いた音がした。山陽自身が驚き、東海道も目を瞬かせた。宙に浮いた掌。ずっと眺めてたように錯覚したが、ほんの一瞬だった。

東海道はじっと山陽を見つめた。温かく穏やかな瞳。山陽は後ずさるのを堪え、顎を引きぐっと引いた。すると東海道はもう何も言わず、溜息をひとつ、踵を返した。その背に伸びかけた掌を、爪が食い込む程硬く握る。山陽だけその場に佇んだまま。もう外は何の音もしなかった。

それからしばらく。日鉄のあれは、先手打った牽制だったと察した。東海道と話す場に双子がいると、山陽をじっと見つめ、時に口元をちょんちょんと示してくる。お前、牙は折れたのかと。当然腹が立ち、東海道を跳ねのける。別にいい、今後も東海道と慣れ合うつもりなんて毛頭ないのだから。ざわざわ騒ぎ立つ胸からも目を背け、次第に元私鉄達が東海道と旧友のよう振るまったとしても。

俺は違う。絶対に、他の路線達とは違う。

山陽本線、まだ齢十八の頃。その後百年を超え東海道にままならない思いを抱える発端は、あれかも知れない。今や誰もが忘れさった義理だった。

東海道が遠く未来を見る眼差しに、鉄道の行く先へ、次第に山陽も思いをはせるようになった。はじめは東海道と連れ立つ事は、過去を失う事だと思った。しかし過去を重んじながら未来を目指す事は両立出来る。そう考えるに至ったのも随分経ってから。本当はよく笑い、よく憂い、よく怒る男。共にする時間が増え、自身の感情に向き合い、そのかたちを理解した。

しかし。

「いまさら、そんなこと言えるか」

東海道から対等の感情を欲し、特別でなければ嫌だった。だがこの錆びついた意地、もはやどこに油をさすべきか見当もつかない。山陽自身もどうすべきかを知らない。動くならいつだって今が一番早いが、簡単ではない。

心を打ち明け、すげなく断られるのを恐れている。矜持もある、そして今だ、苛立ちも。見込みのない願いは、口にしないに限る。だからいつか東海道が気づき、それが最良のかたちである事を、星に願いをかけるように微かに期待している。149周年祝いだって本当はそうだったのだが。目を瞑ると瞼の裏。上官グッズを台無しにした水浸しの部屋、東海道が怒りの表情を浮かべ自分を見つめていた。想像のあいつが口が開く前に。ふうと肩で息をはき、空を見上げる。

まるい月が雲から顔を出し、奇麗に輝いている。今日はひとり、ビニール袋をさげた掌を握りしめた。

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東海道の頬に朝陽がさして暖かく、いい香りで目が覚めた。小気味よく俎板を叩く音。まだぼけた視界に山陽の背中が映る。今度はちゃんといる。寝転んだままぽつりと声をかけた。

「山陽、ちゃんと寝たか」

音が止まり。またト、ト、と鳴りだす。

「すぐに寝た。まあ、誰かさんがベットで幅きかせてたもんでな、久しぶりに床と仲良うしたわ」
「ご愁傷さまだが…お前が原因だろ!」
「あ?お前が無駄にデカいのは俺のせいか?」
「お前なあ」

東海道は前髪を掻き、目を凝らした。部屋を見渡すとノートパソコンは消えており、朝方見た夢かもしれないと思った。つまり昨日からずっと、悪夢を見ているらしい。のろのろと起き、洗面台で顔を洗うと加減が分からず泡だらけになった。シティホテルの歯ブラシ、分厚いタオル、ドライヤー、導線に欲しい物が悉くある、山陽はそういう気配りは出来る男だ。

「まあ、出来あいの味噌汁ぐらいは出してやる。飲んだら出社するぞ」
「出社の前に、謝罪だろ。今日は…」

は、と軽い笑いひとつ、味噌汁が差し出される。人参に大根に牛蒡、鶏肉まで。仕上げに葱が散り、随分と朝食を忽略している東海道には、どこが出来合いだと言う仕上がり。椅子に腰かけ、夢と現実の狭間の書き込みに、複雑な心境で山陽を見上げる。そして一応、あんな奇祭でも、東海道の祝いにした事だと思い出した。

「山陽本線、ありがとう」

味噌汁の礼と思われたか、山陽は目を合わせず数秒の沈黙で答え、箸を差し出した。木目の椀がやわらかく湯気立つ。山陽が手前に座り、共に手を合わせる。箸をあげると、山陽に見られている事に気づいた。じっと見つめている訳ではない、横目に、さりげなく様子を伺われている。頬がぴりと痺れ、何となしに指で拭う。

「おい、食わんのか」
「いや」
「何だよ」
「もらおう」

両手で椀をあげ、静かにすする。うん。コクと出汁の甘味、箸で摘まむと星形の人参。ほ、と口元がほころぶ。それを眺めた山陽も、ようやく味噌汁をすすった。

テレビから朝のニュースがぽそぽそと流れ、窓越し青い快晴。路線達の朝支度も聞こえる。味噌汁のせいか暖かな胸、牧歌的であった。山陽が調った所作で箸をあげる。見慣れた顔、だが黙せば硬質な端整さがある男だ。精悍な輪郭と涼しげな目元、身支度を整え、パリッとしたシャツ。筋が浮かぶ掌が椀を掴む。

東海道はなんだか、今がいつであったかと懐郷の心地がした。

「山陽、この味噌汁…」

凡庸に誉めかけ、ふと夜更けの掲示板が浮かんだ。「この味噌汁を一生作ってくれ」というレガシーな台詞。一生とは、路線には随分と重い。人間のように限りないこの行く末に。告げてみれば山陽がどんな顔をするか興味が湧いたが、待て、100%馬鹿にされるに違いない。なら単純に褒めるかと思案するが、それも待てだ。山陽は「出来合い」と言った。それなら褒めても安い舌だとか、出来あいでもお前には作れんだろうとか、西の味付けが分かるものかと言うはずだ。反撃がスムーズに思い浮かびムッとする。

全く好きな相手にそんな事言うものか。

と考えて数秒、驚きに肩が跳ねた。この山陽本線相手に、あれを一握りでも信じた事にだ。そうあったら良い、という事だろうか。いや別にそんなことはないが。だが嫌われてるより好かれた方が良いには決まって…

うんうんと黙り込む東海道の百面相、不審に顔を顰める山陽と目が合う。しまった、とまたフリーズしてひと呼吸。さっと頬が熱くなった。

「な、なんでもない」

山陽は面食らった。全くよく分からないが、かなり好意的なリアクションだ。いい事を言おうとした、つまり瓢箪から駒も出る。山陽がこうした手慰みをするのは、立ち行かない状況に、神の遊び心で光明差す事を願うからでもある。喉が鳴り、前のめりに尋ねた。

「なんだよ、言え」

東海道は30度、テレビに向き直り。

「なんでもない、と言ったろ」
「ああ?言いかけたら気になるだろ」
「ほら、山陽、ニュースで」
「ニュースはいい!」
「だから、もういいと」
「は?勝手に終わらすな」
「なんでもなかった、しつこいぞ!」
「何がしつこいじゃボケ!」
「ボケと言う方がボケだ!」
「あー!ガキかお前は!149にもなってたいがいにせえ!それとも本物のボケでも始まったか、じじい」
「お前こそガキかじじいかハッキリしろ!」
「どっちもや、ボケカス!」

東海道は椀をトンとおき、山陽を睨みつける。

「全くお前は!部屋は壊すし嫌味ばかり、俺にはずっとそうだな!」
「は、そりゃ当たり前や。お前を嫌うのは空にお天道様が昇るようなもんやろ!」

いつも通りの軽い返答だった。なのに急に、目頭がじんと熱くなった。咄嗟に顔を背ける。東海道も思うより気落ちした自分に戸惑い、無為に期待した事を後悔した。山陽に好かれていると思ったら、ほのかに、だが確かに嬉しかったのかも知れない。重ねた掌を見つめる。

「……わ」

山陽を上目に伺うとうっすら青白く、固まっていた。

「悪かった」

東海道は予想外に瞬き、だがやはり言葉が見つからず黙った。

どれだけ憎まれ口を叩いても受け流すか怒るかの東海道が、目に見えて沈んでいる。山陽はすぐ、兄のグッズを駄目にしたのは良くなかったと思い当たった。気丈に見えてその実ショックは大きかったに違いない。あれは東海道にとってもはや命と同義。ほのかに赤い目尻、後ろめたい気持ちが、ずしり心を潰した。

「……」
「……」
「…お前の、あれだ。東海道上官の、弁償するからな」
「ああ」

東海道もそれとなく、なるほど、山陽の心当たりを察した。実の所兄グッズは3社宿舎に予備もあり、紙類以外は濡れに強いものばかりでさほどダメージはない。でも山陽とのあれこれにダメージを受けたと知られるよりずっと良く、東海道もそのようにした。

「他にも欲しいもんがあったらな…買ってやってもいい。まあ、誕生日やからな」
「そうか」
「バカ高いやつは止めろよ」
「うん」
「そこそこなら、いい」
「わかった」
「後で教えろ」
「そうする」

いつもより早口に山陽が捲し立て、慰められるのも返って気恥ずかしく、ああ、うん、と頷く。それから何を言うのも妙な空気になり。また二人で味噌汁をすする。ず、ず、と赤子を起こさぬような慎重さで。山陽が空の椀に手をあわせ、東海道もならった。

それから互いに上の空の返事を繰り返し朝支度を整えた。東海道の手持ちの制服はクリーニングに出し、ほぼ変わらぬサイズの山陽のを借りる。一日中この匂いと連れ立つのも落ち着かないが。狭い玄関で靴ベラを引っかけると、山陽の腕が伸びた。東海道が反射的に片目を瞑ると、跳ねた前髪をさらりと直された。至近距離に視線が交差し、逸れる。額を擦っていった指先はやわらかなのに、涼しげな瞳はばつが悪そうだった。優しいところも確かに、ある。廊下を駆ける路線の足音が聞こえる。爪先でトンと床を叩き、山陽に向き直る。

「山陽、さっきの事だが。…味噌汁、また飲みにきてもいいぞ、と言おうとした」

百三十年見慣れたポーカーフェイスが、何を思うのか。東海道に推し量れず、しばしその瞳をのぞく。

「言おうとしたが、お前が嫌味を言うかと思いやめた。言わなくても、言われたがな」

山陽は少し面食らったように目を細め、それから顔を背けた。

「…なら、また来い」
「俺は、言おうと思い、やめた、と言ったんだ」
「いいから来い」
「やめたと言ったろ、バカ野郎」
「来い、ボケカス」
「知らん!もう来ないからな!」
「こっちこそ知らん!ああ、来るな!入れるかボケ!」

む、と同時に顔を顰める。睨めっこよろしく埒が明かん、とノブにかけた手が重なる。ロマンチックの欠片もなく競い合って廊下に出て、同じタイミングでそっぽ向いた。職場も線路も繋がってるので、どうせ行先は同じだが。

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東海道149周年生誕祝西宿舎大破事件だが、偉い人から死ぬほど怒られた。ここまで宿舎を破壊したのは類を見ないとして、各宿舎にも厳重注意が張り出され、全国に轟く事件となった。この事件名称ではさも東海道が主犯みたいで嫌であったし、各地の路線から「あれどうだった」と顛末を尋ねられ、噺家ほどに説明が達者になってしまった。

時は戻り、まだ朝。西営業所で神戸線は横並びこってり絞られた。

東海道が事態を止められたか考えると大いに承服しかねるものの、そこは最年長「俺のせいではない」とも言えず。しかし部屋もグッズも駄目にされ、朝から開き直られ、なぜ主犯のごとく怒られているのか。諸悪の根源は山陽本線である。終わる頃にはさすがに腹が立ち、考えた。

山陽が俺を好く天変地異の可能性に気を取られたが、あれには俺から告白させたいとも書いてあった。誠に遺憾である。どうしたらそうなる。言うなら山陽から言うべきだと思った。好きだとも、付き合おうだとも。山陽がはっきり言えば良いのだ。真偽を明らかに、なんなら言わせてやる。俺があれこれ悩む必要なんてない。

東海道が反論せず粛々と謝罪した事により、きっと山陽にも拳大の悪気を植えつけたはずだ。丁度都合も良い。東海道は一つの勝負に出る事にした。

「山陽、兄さんグッズを弁償すると言ったな」

休憩時間が合う都合、神戸線はやいやい揉めながら昼食をよく共にする。同僚からの「喧嘩しながら食う飯は美味いか」との揶揄にも慣れた。足を運んだ三ノ宮の洋食屋で東海道が切り出すと、山陽はしばし黙ってパスタを巻いていたが、ああ、と応えた。平時の山陽なら、すっとぼけるか、稼いでる奴がしょぼい事をと嫌味で返してくる。第一段階をクリア。少なくとも悪いと思っていると判断し、慎重に進める。

「男に二言はないな」

保険である。この言い方をすると、割と義理堅い山陽は反故にしにくい。足を組み替えながら、ああ、と応える。よし。

「まず弁償だが、せんでいい」
「あ?んだそりゃ」
「考えてもみろ、俺は大事な兄さんグッズを失った上、記念すべき150を前に平に謝罪させられたんだぞ。それを金銭的弁償とは気が済まん。お前も稼ぎがある方だしな。だから反省しろ、と言う意味で罰を考えた」
「やらん」

想定の範囲内だ、あまりの速さに腹が立つ。

「おい、二言はないと言ったろ」
「俺が言ったのは弁償だ。お前が考えた訳のわからん罰じゃない」
「弁償すると言ったのは俺への謝罪の気持ちからだろ。なら、俺が望むべきことをすべきじゃないか」
「詭弁だな、口がよく回る。あとで弁償品のリストを出せ」

山陽がこう嫌味な言い方をするから、こちらも言い返す。すると倍言い返され、喧嘩になる。普段ならこのまま言い合って解散だが、我慢して、黙る。山陽は知らん顔でパスタを頬張っている。気持ち良く消える大きな一口を眺めながら。

「俺があれこれ考えたのに、聞かないのか」

アイス珈琲にシロップ2杯。山陽はこれを使わないのでいつも勝手に使う。マドラーでグルグルかき混ぜると氷が鳴って涼やかな音がした。まだ反応がない。何とか言え、と思いながら。

「…聞かないのか?山陽本線」

カウンターのラジオから懐かしい曲が流れている。サビに差し掛かる頃、完食の皿に、カチリとフォークが鳴った。山陽が長く息を吐き出す。

「聞くだけなら、聞いてやる」

いつもと違う反応にひとまず、安堵する。喜びを露わにしては山陽が気変わりしかねないので、眉を顰め腕組みする。

「聞いたらしてもらうぞ」
「聞くだけや」
「実は俺もあまり言いたくない」
「なんだそりゃ」
「だがこれが効果的だと思う罰だ」
「は?命に関わる事じゃねーだろうな」
「んなこと願うか!第一お前はしぶとい、早々死んだりせんから安心しろ」
「は」

目を細め皮肉っぽく笑う。またバカにしたな。

「罰は二つだ、話すぞ。俺の部屋は修繕中な訳だが、明後日まで西の仕事だ。だから、このままお前の部屋で面倒みろ」
「それが罰か?」
「一つ目のな」
「は、存外に軽いな。だが、もう来ないんじゃなかったか?」
「過去の事ばかり話す男は嫌われるぞ」
「ハッ」

山陽は拍子抜けして椅子に凭れ。

「あ~~金が浮いてよかったわ、すいませんなあ」

呑気に足を組むのを横目に、また嫌な言い方をすると呆れ、咳払いして背を正す。

「分かって何より、なら二つ目もいうぞ。その明後日までだが、お前は俺の事を愛すように!」

山陽は珈琲を勢いよく噴き出しゲホゲホと咽せた。

「は!?」
「明後日まで、お前は俺の事を愛すように、だ」
「復唱すんな!聞こえとるわ!」
「は?と言うからだろ」
「聞こえたうえでの、は!?なんだよ」
「なら説明してやる。当然、振りで構わんが。俺が兄さんを愛すように…いや!俺の兄さんへの愛は地球より、宇宙より大きいから真似るのもなかなか難しいだろうな!だがそれに負けじと、お前は俺を愛すように」
「断る」

山陽は大袈裟に溜息つくと、胸ポケットを叩いてから舌打つ。煙草は切れてるしあいにく禁煙だ。

「口だけの男だな、山陽本線。二言はないと言ったろ」
「聞くだけ言うたやろ。第一なんなんだその罰は、どっから出てきた!」
「お天道様が昇るように俺を嫌いと言ったろ!そのお前が嫌がる事と言ったらな、俺を好く事に違いない。だからその苦痛により、二度と面倒事は起こすまいと心に深く刻むようにしろ!以上だ」
「アホ言うな。な~にが、以上だ、アホ!」
「俺は理にかなってると思うがな、事実、お前が嫌がってるのが証明だ」

ふ、と得意げに笑う。山陽は愚痴りながら随分険しい顔をしていたが、急に背を起こした。

「……まあ、まあ、ええか。しゃーない、ええやろ、二つ目も分かった」
「なんだ、いいのか」
「それでお前も気が収まるんならな、俺が悪かったのも事実やし」
「なんだ、殊勝だな。なら今からそうするか?」
「おう、分かった。明後日までやろ?」
「よし、そうしろ」

東海道はしてやった気持ちだった。こんなに嫌がるなら単純に優れた罰であるし、もし万が一、山陽が東海道の事を好いているならばだ。名目があれば言いやすいと考えた。いわゆる「鳴かぬなら鳴かせてみよう山陽本線」作戦である。そうすればさすがに東海道だって分かる、と意気込んだのはいいものの、だ。

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「ちょっと待て、いつもと何も変わらんじゃないか!!」

西在来の執務室。暴風からの遅延、繁忙の午後、隣並びの神戸線デスク。山陽からはいつも通りの嫌味、皮肉のオンパレードを受け、我慢も限界で立ち上がる。

「なんならいつもより酷い、なんだお前は!」
「は!俺が好いた相手に甘言いうタイプとは限らんじゃろ。お前も、俺にお前を愛すよう言うただけで、どうふるまえとは言っとらん」
「なっ」
「言っとらんよなあ?」
「な……るほど」

山陽からすれば「元々好いてる訳だから態度を変えなくて良い」と頓智で承諾した訳だ。約束を違えた訳でもない、己の閃きを賞賛する。東海道もその抜け道に気づくとなかなか賢いと感心しかけ、きつく唇を結ぶ。おちょくられた訳だ、山陽を睨む。

「なら今から」
「おい!お前が二つと言うたろ。追加はなしだ」

素早く掌で制され、息詰まる。

「ぐ……」
「お前はいつも脇が甘いのう」

恋心とは別にだ、東海道を言い負かすのには代えがたい達成感がある。

「お前な、好いた相手に嫌がらせ等するものか!」
「愛にはいろんな形があるんや、お前にはわからんだろうがな…。ま、うまいもんは作ってやる」

もし山陽が東海道を好いているならまさしく、その通りである。二の句が継げぬ東海道が子供じみた怒りを浮かべ、思わず山陽は声をあげて笑った。

悔しがる貴重な東海道を山陽が鼻歌交じりに撮っていると、休憩戻りの在来達がわらわらと入ってきた。なんだなんだと囲まれ、東海道が経緯を省略し、述べる。

「……と言う訳で今こいつは俺の事を好きな癖に、意地が悪くて憤慨している」
「ほ~~~~」

そりゃいつもの山陽本線だな、と勝手知ったる在来陣は思った。山陽が東海道を好いているのは、もはや東海道だけが知らない公然の秘密。からかいがいのある状況である。しかもだ、お偉い方々にこっぴどく叱られたと知る面々は、このまま東海道の怒りが山陽だけに向かうなら上好であると考えた。ただ実の所、山陽は「東海道に責任を取らされる」事はやぶさかではないはずで、そう心配もないのだが。目配せをし。

「東海道、良い手があるぞ」
「なんだ?」
「おい、こいつに余計な口出しすんな」
「どうどう」

山陽が岩徳に窘められるうち、関西が東海道にでかい声で耳打ちする。

「今山陽は東海道に片想いしてる訳だろ」
「ああ」
「そういや山陽本線は片想い顔だが」
「百年物の片想い顔だな」
「お前ら全員殴り倒してやろうか」

言葉より先に手が出る。関西、山陰、岩徳の脇腹を、粗暴にこづいていく。ぎりぎり拳を逃れた環状が、意気揚々と語る。

「いかにも右手に見えます山陽は片想いのプロフェッショナル」
「そろそろぶち殺すぞ」
「東海道、こいつが片想いする相手に好き好きいうタイプに見えるか」
「分からん、と言いたいところだが。現在進行形で違う、という事だろうな」
「そうだ。これを解決する手段はな…ずばり、両想いになるしかない!つまり東海道も山陽を好いてるという事にすればこの仏頂面もあら不思議、好き好き言い出すと思うぞ」
「なるほどな、一理ある…!」
「あるか!!」

さすがは西の路線達、いつもはボケ倒しに青筋立てるばかりだが仲間にすれば頼もしい。素直に感心した東海道はひとつ頷き明るく告げた。

「なら、俺も山陽本線が好きだ!」

ぱっと集まった視線に驚いて、仰け反る。

「……と、言う事と、する」

ぽつり付け加える。すると、おめでとう、おめでとうと億劫そうな拍手が鳴った。山陽を見ると不機嫌そうに頬肘つき眉を顰めている。重大で、早まった事をした気になった。いまさら考えてみる。山陽が本当に自分を好いてるとして、その真意を聞き出し、どうするか。胸に波立つものを感じ、しかし、すぐ怒りが上回った。東海道の部屋を大破させ、悔しがる姿に大笑いする山陽の心配を、なぜせねばならんのだと。そんなもの、ざまーみろ!と言ってやる。どんとこいだ。

「どんとこいだ」

と口に出ていた。

「おお、東海道もやる気だな」
「良かったな~山陽!」
「ボケ共が、ややこしくすんなや」

関西が軽快に手を叩き「じゃお付き合いを始めたとするぞ」と定規で線引きした。線引きの向こうに佇むと、何となく心もとなく掌を擦る。山陽は、コツコツと苛立ちの表情で机を叩いた。

「さて、両想いのケーキ入刀だ!」
「山陽上官の差し入れがある」
「バーンと切ってくれ」
「ハッ、そりゃもう雑用やろ!」

相変わらず不安定な音階の、ウェディングソング。運ばれてきた立派な贈答用ケーキが、テーブルに鎮座する。フルーツ彩る豪勢なタルトだ。紙袋のリボン、環状が果物ナイフのグリップにチョウチョ結びすれば、何だかそれらしくなった。東海道の掌に恭しく収められる。両手でグリップを握り、東海道は山陽を見た。山陽は広げた両膝に掌をおき、仏頂面で。

「やらん」
「昨日はやる気だったろ」
「知るかボケ」

山陽本線の感情は、かなり、複雑である。あれは東海道の誕生祭、丹精込めた東海道新幹線こと兄の手作りケーキに二人で入刀、という特別なイベントだった。初めての共同作業、夜通し練った計画の重要な一端。こんななおざりなら返ってしたくない。ロマンチストと頑固のハイブリットである。当然その機微が分からぬ東海道は、仏頂面の山陽に「この案は駄目」と悟った。長きに渡る断絶の壁は簡単にどうなるとも思えない。長寿がゆえ、東海道は兄以外の事案をたいがい、時に任せる。

「なら俺がするが」

元気良く手をあげる山陰に、東海道は軽く掌を余所に向け。

「どっちでもいいが。山陰、ナイフを持ってるから気をつけろよ」
「ん!俺の一番でっかく切るが」
「腹を壊すなよ!」

山陽の眉がぴくりと動く。なおざりは嫌だが、だがそれはそれとしてだ。どっちでもいいとは何事だ、先ほど両想いだと決めた。決まったのなら他の奴とケーキ入刀したらそりゃ浮気である。期間限定でもだ。だいたい東海道が言い出した癖に、またすぐ諦める。この温度差も嫌なのだ。もっとこうなんか食い下がって来い!と苛立ちながら立ち上がり、山陰の肩をぐいっと剥がす。

「するのか?」
「わがままだが~」
「うるせえ、やってやるよ!」
「はあ」

山陽はいかにも不機嫌に東海道を後ろから抱き、掌を重ねた。乾いた掌は熱く、制服が擦れると同じ匂いがした。海岸沿いの暖かい風に似た、山陽の匂い。ジッと手元に焦点を定める山陽の睫毛は、髪色と似て透けている。頬に小さく声をかけた。

「なあ、山陽」

ぱちりと青色の眼差しが合うと、山陽の喉がごくり、と鳴るのを見た気がしたが。問いかけは無視された。山陽に任せるまま、やわらかなケーキにスッと刃が通る。するとシュレッダーかけたての社内文書が、紙吹雪よろしく舞った。

「末永く仲良くな」
「幸せになれよ」

随分と棒読みで次々肩を叩かれる。山陽は東海道の掌からナイフを引き抜き、さっさと人数分に切ってしまった。投げ売りの紙皿、花柄の上にケーキが並んでいく。環状がマイク代わりに定規をとり。

「それでは、ファーストバイトのお時間です。来賓の皆様は前にお越しください」
「熟年婚撮ってもなあ」
「画像が怨念で重そうだが」
「撮る振りだ、振り」
「いや俺が思うにこれは売れるぞ!」
「おい、どこに売る気だ」

東海道は溜息交じりに突っ込みながらも、フォークで一口すくい、山陽の口元に差し出した。山陽は、じ、と鼻先のケーキを見つめてから、どすりと椅子に腰かけ腕を組む。

「いらん」

相変わらずの頑固者を前に、行先知らずのフォークを宙に東海道が尋ねる。

「岩徳、そもそもこれはどういう行事だ?」
「新郎新婦がウェディングケーキを食べさせ合う事で、今後食うに困らせない、うまい食事を用意すると言った思いを込めるらしい」
「さすが既婚者」
「なるほど、人間らしい行事だな」
「昔はなかったよなあ」
「いつできた?」
「知らん!いや、待て、という事はだぞ。東海道に食わせて貰えば、今後存分に飯を奢らせる事ができるのではないか!?」

金脈に目を輝かせ掌がノリ良くあがる。

「別に俺は東海道を愛しても構わんぞ!」
「ちょっと待った!東海道、好きだ!」
「奢ってくれる時の横顔がセクシー!」
「よ!財布にカードしかない男!」
「在来の稼ぎ頭!」
「お前らは金の話しかないな!!」

平成初期のお見合い番組がごとく、いっせいに「よろしくお願いします」で差し出された掌に唸る。横目に山陽を見ると、ふてぶてしく仏頂面で眉を顰めている。

「なんだその顔は」
「俺と切ったなら俺に食わすのが筋じゃろ」
「あ?お前はいらんと言ったろ!」
「ああ、いらん!いる訳あるか!いらんが、筋を通せ!」
「まったくお前は…」

東海道は差し出された掌を緩く払うと山陽の横に腰かけ、フォークを口元に寄せた。

「ほら、ならあーんしろ」
「は?」
「あーん!」

あ、の母音で開く唇にずいとフォークを突っ込む。カシャカシャとシャッター音。顰めっ面でクリームつけた山陽に、思わず、ふ、と笑ってしまう。手づから食べさせるなど久方ぶり。今は随分と育った、元小さな路線達を思い出す。山陽の気難しい顔も、ちっとも変わりない。

「どうだ?」

クリームの甘い香り。山陽は勢い良く立ち上がるとづかづかと離れ、一番端の空きデスクを前にどっかり腰かける。明後日の方を向き。

「は、俺が作った方が美味い」
「何でそんな遠く」
「青い」
「青いな」
「元から青いだろ山陽は」

揃いの見慣れた青い制服を眺め、東海道はひと欠けしたケーキをフォークですくい頬張った。山陽新幹線が差し入れるケーキはいつも上等だ。ケーキだけは認める。

「ああ!?」

山陽の大声に皿のケーキが跳ね、慌ててキャッチする。

「何だよ!」
「俺がしとらんだろうが!」
「何がだ」
「ファーストバイトならなあ、食べさせ合う必要があるやろ!」
「そうなのか?」
「おい、言いながら食うな、意地汚い」
「どうせお前はまた、したくないと言うだろ」
「言っとらんじゃろ、ボケ!」
「この後言うだろ!」

東海道は目いっぱい顔を顰めると、山陽に見せつけるように手早くパクパクとケーキを頬張った。苛立った山陽が紙皿が掴み、ぐっと歪む。皿の引き合い、結婚式で到底見た事ない光景だ。

「なんなんだよ!」
「いいから寄越せ!」

あと残り一口でケーキを奪われ、山陽は勝ち誇った顔で皿を掲げた。東海道が苦々しく握ったままのフォークを見て、ひょいと指で摘まみ差し出す。目先のケーキと見つめ合う。この男のどこが俺を好きだ。もはや情緒も何もないが、やらんと収まりがつきそうもない。

「ん!」

東海道がいやいや唇を開けると、ケーキは思うより慎重にそっと、舌に着地した。押し込まれるのを覚悟したので拍子抜けする。山陽の眉間の深い皺に、嫌ならやらねば良いのに、と憤慨する。それでほんの意趣返しだった。差し出された指先をほんの軽く、甘噛みした。指先に柔らかな感触がして、瞬間。強く押されたように後ずさった山陽が、勢い良く椅子を巻き込んで横転する。

「ワア!!!!」

東海道がビックリして飛び跳ねると、在来陣も色めきだってシャッターを切った。

「おい、良い写真撮れたぞ!」
「一面ものの横転だな」
「脚がVの字でビクトリー!」
「ビクトリー山陽!」

山陽は憮然と脚がねじ曲がった椅子を放り。

「……き、気色悪いことすんな」
「い、いや、すまん、そんな事になるとは」
「別にどうともなっとらんが」
「なってるだろ!」

早鐘の心臓を押さえ東海道を睨む。

「なっとらん!!」
「まあ、お前がいいなら、良いが……」

山陽が跳ね起きると髪に埃が舞った。払ってやろうとしたら、凶暴な犬ぐらい警戒され手をあげる。

山陽に好きだと言わせれば、さすがに真意が分かるだろうと踏んだのだが。言うどころか気配もない。何なら俺だけ言わされた。東海道はどうしたものか思案した。親しい路線達は好きも嫌いもはっきりした物言いをする。横須賀しかり北陸本線しかり。自分の愛のモデルケースは、当然東海道新幹線。自分が兄を愛するように、と考える。東海道がそっと隣に座ると、山陽は露骨に厄介そうな顔をした。

「山陽」
「後にしろ、今食っとる」
「食いながらでいい」

掌を添え軽く耳打ちする。

「こいつらにな、東海道が好き過ぎて困る、とかそういう相談をしろ」

プラスチックフォークが紙皿に貫通する。

「するかボケェ!!なんじゃその出鱈目な提案は」
「なんでだよ、俺は兄さんの事を誰にでも話したいぞ!」
「言ったじゃろ。付き合うたとしても、俺には俺の好き方がある!」
「お前な、少しはお前が嫌がる事をしないと罰にならんぞ」
「は、お前のルールが甘いのが悪いじゃろ」

とんとん、とこめかみを叩かれカチンと来る。平たい目で睨んでいると、ケーキを2個載せした山陰が隣にどすり腰かけた。

「山陽、反省して東海道の言うことを聞くべきだが」
「おい、ウスノロ。涼しい顔しとるが1番暴れまわったのはお前だろ」
「けど山陰本線は祝ってくれようとしたんだよな」
「おう、その通り!」
「あ?」

俺も祝おうとしたが、と口には出さない。祝おうとしたが、最終的によく分からなくなってしまったのだ。なのに火をつけた当人が堂々許されてるのは贔屓だろ。東海道と山陰は妙に仲が良く息が合う。山陰が小さな頃からなかなか甘やかして育てたらしい。甘やかされて育つとデカくなるのか。何なんだ、好き好き言ってくる路線を安易に好きよって。東海道には信念がないのか。山陽の苛立ちを他所に、山陰は無表情のまま機嫌良く気に入りの貯金箱を差し出した。

「仕方ね、恋愛相談、俺が聞いてやる。500円だが」
「そうだな、俺も横で聞いてやる、無料でいいぞ」
「もうお前は東に帰れ、ボケ!!」
「あー好きな子にボケ言うとるが」
「これはペケ1だな」
「散れ散れ!!」

並ばせるとろくなことにならん。二人の肩を拳で小突くと、文句言いながら席を離れる。

「そもそもな。好きっつーのは二人の時に言うもんで、誰かに相談するもんじゃないやろ」
「硬派ぶりやがってなあ」
「よく駅前のカップルなじってるもんな」
「山陽の趣味な」
「誰の趣味だ、ぶん殴るぞ」
「いやもう殴ってるだろ!」
「暴力反対!」

ひとしきりボカスカやりきると、全員いい加減に飽きた。飽きるのが早いところも西のいいところである。飽きて午後の業務が始まる。東海道と山陽は横並び、似た所作でデスクに腰かけた。

「しかし、お前。二人の時なら言うんだな」
「あ?」
「言質とったぞ、いや言質とるべきなのか」

東海道は、机に積まれた周年記念ノベルティメモを片手に「13:45 山陽本線 二人の時には正直に言う」と達筆に記し、それを山陽に見せた。怪訝な顔をされる。ちょっと斜め上を仰いでから、あらためて捺印をした。

『13:45 山陽本線 二人の時には正直に言う (東海道本線)』

「お前も判子を押せ」
「押すかボケ、なんじゃそりゃ、仕事せえ!」
「なら言質、渡しておくぞ」
「いらんいらん!」

山陽のポケットに勝手に言質を入れる。指先でポンポンと払って平らにすると、東海道はパソコンに向き合い業務を始めた。画面の光がその青い瞳を照らすのを横目に、山陽は、静かに長い息をはいた。いちいち心乱されていては身が持たない。

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「GOWEST」はもはやいつ誰が作ったとも知れない西在来陣のLINEグループで、東海道はいない。夕方、ポコンと通知が「1」ついた。

山陽本線『写真』

山陰本線『写真じゃわからんが』

大阪環状『頼み方ってもんがあるよな』

山陽本線『[PayPay]受け取り依頼が届きました。下記リンクより、受け取りを完了してください。http://……』

関西本線『話が早い』

大阪環状『特別だぞ』

大阪環状(山陽本線がV字で横転している写真)

山陰本線(「お納めください」と宝箱を持ち上げるスタンプ)

山陽本線(街をバキバキに破壊する猫のスタンプ)

山陽本線『3』

山陽本線『2』

大阪環状(東海道が山陽にケーキを食べさせている写真)

山陽本線(猫が悟りを開き「OK」してるスタンプ)

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7 / 10

終業時間、東海道は手早く書類を整え机を片付けた。鞄を片手に「お疲れ」と誰ともなくかける声に「おー」だの「またな」だの適当な声が返る。いつもの帰宅風景だ。山陽はデスク下で足を組み替え、パソコンを覗く素振りでその背を見送った。家に来るはずじゃないのか、どこかに寄る気なのか、どうしたって一声かけていくべきだ。仕掛りのメールを睨み、明日で構わんとパソコンを閉じる。物言いたげな同僚達の眼差しを軽く払い、さっと廊下に出てロッカールームを覗いた。ベンチの端にちょこんと腰掛けた東海道を見つけ、ほっとする。薄手のロングコートに黒のタートルネック、ロッカーにおいた東海道の私服だ。気づいた癖に、唇をつんとスマホに視線を落としたまま。

「遅いぞ、山陽」
「声かけろよ」
「お前からかけろ」
「どっちからでもええやろ」
「ならお前からでいいだろ。もういい、早く着替えろ」
「今日は家から制服やろ」
「買い物に行くのに目立つだろ」

東海道なりに自分が言った「山陽がうまいものを作る」算段と知り、満更ではない。確かに目立つ制服は、駅以外でも路線と明瞭にアピールする。東海道新幹線のステッカーがでかでか貼られたロッカーの横、上着を脱いで手早く着替える。

見慣れた夜の街、街灯に照らされ並んで歩く。山陽の私服はライダースジャケットにジーンズ、カジュアルなスニーカーで東海道と真逆の装いだ。見た目には同世代の、しかし趣味も仕事も全く合わなそうな二人が、人々の目にどう映るか考える。もし自分達が人間だったら、きっと街中ですれ違う事もなかった。山陽はそう時折ありもしない事を考え、感傷的な気分になる。そんな事知る由もない東海道が、厚い雲越しの月に小さな歌を口ずさんでいる。随分懐かしい歌だ。それが胸のやわらかな箇所をジクジクと刺し、山陽は不用意な言葉がこぼれぬよう、強めに声をあげた。

「おい、何が食いたい。スーパーまでに決めろ」
「俺の好きなもの」
「だから何だよ」
「お前が考える俺の好きなもの、を作ってくれ」
「は?クソ面倒くさい彼女か、お前は」
「知った振りしやがって、お前にそんな彼女はいないだろ」
「うるせえわ」
「そうか、今日は俺が彼女だ。良かったな!」
「良いことあるか、あほ!」

東海道が笑うと、山陽は露骨に顔を顰めた。それからスーパーでどちらがカゴを押すかひと悶着、野菜の選び方でやいやいと言い、東海道が勝手に菓子をカゴに入れるので言い合いになった。帰宅する頃にはすっかり不機嫌な東海道をソファに埋め、食事の支度を始める。一分ほど『俺は怒っている』と言う顔でスマホを睨んでたが、もう気に入りのお笑い番組を見て笑っている。ころころ変わる東海道の顔を横目に、何とも言い難い状況にも、嬉しさが芽生えてしまう。冷えた水に掌をくべ、気を引き締める。

それから十分ほどして手持ち無沙汰になったのか。東海道がキッチンを覗きに来た。背中に気配を感じながらも、支度を優先する。

「手際が良いもんだな」
「はいはい、お褒めの言葉をどうも、お姫さん」
「何作ってるんだ?」
「お前の好きなもんやろ」
「知らんだろ」
「黙って座っとれ!」

山陽が俎板に落とす眼差しは至って真剣で、東海道はじっとそれを見つめた。腕捲くる手がてきぱきと、規則正しく動くのは心地良い。

「モテるためか?」
「何やそれ」
「お前モテるためにやってたろ、ギターかベースだったか」
「……あ?知らんな」
「なんとかなんとか、あれ北陸本線とやってたろ」
「1個も覚えてないやないか」

些か気を悪くして思い出そうとするが。シャキシャキだったか、カミキリムシだったか。どうも正解に近づきそうもなく、余計馬鹿にされそうで諦める。

山陽も山陽でバツが悪くこの話は切り上げたかった。バンド結成時、こっそり東海道本線キラーをコピーに励んでいた。ギターを弾く姿を見せたら、何と言うか心動く事を期待してだ。どうせライブには山陰が誘うだろうと算段してその通りではあったが、兄との予定がどうのであっさり断ってきた。なら仕方ないと就業時間後に執務室の隅でアコギで練習してみせたら東海道が近寄ってきて、内心緊張しながら第一声を待っていたら「うるさい」だったのだ。情緒のない男め、その後大喧嘩になった。

冷静に考えると東海道が、音楽や料理や、まして祝祭で心動かすとは考えにくい。好みじゃないと本当は山陽も分かっている。まず兄と言う圧倒的な存在があり、そこに好みがあるなら、でかくてちょっと馬鹿で思わず構ってやりたくなるような男が好きなのだ。全部分かっているから、腹が立つ。東海道の好みになんて、絶対寄せたくない。山陽が山陽のやり方で、山陽があるまま好かれないと意味がない。逆を張りモテを考えたらああなってしまう。ことごとく外してきた。

「モテるためか?」
「じじい!さっき聞いたろ!黙っとれ」
「料理がどうかは聞いとらん、あれだろ、いま流行ってるだろ」
「俺は百年以上前から家事の出来る男だ、食堂車を走らせた男やぞ」
「ああ」

そういえばそうだ。現代は食の楽しみを存分に覚えた東海道も、あの頃は鉄道が何ぞ洒落た事をして厄介な物だと思ったが。そういえば記憶の端々で、山陽はその手腕を振るっていた。口も態度も粗暴な男が、手先は繊細で器用なのが意外だった。規則正しい包丁に輪切りの葱が小粋に跳ねる。ぽろりと誉め言葉が出た。

「ならお前の連れ合いは得だな」

トン、と山陽は手を止めた。振り返り東海道とぴたりと目が合う。こいつ。人をさんざん振り回しておきながら、すっかり「設定」も忘れ他人事のように言いやがって、腹立つ。息がかかる距離でじっと見つめると、不味い事でも言ったかと東海道の肩が竦む。

「お前やろ、俺の連れ合いは」

急に山陽の声が低く重く、深い青色が細まって東海道は息を飲んだ。言葉が心臓をドキリと刺し、時が止まったよう錯覚する。実際にはほんの数秒間。ぐつぐつと煮える鍋の音で正気に返り、乾いた口を開く。

「……お、俺が得だったか」
「は、さっきお前がご機嫌で言っとったろ!抜けた顔しよって…」

山陽は顔を背けて笑い、コンロをカチリと切る。

「東海道本線様は、いったい誰の彼女なんや」
「いや、それはお前、なんていうか」
「は?」
「山陽本線の……だけどな」
「だけども何もあるか!そうやろ、もう座っとれ!」

すると東海道からは返答なく、素直にソファに戻ってテレビを眺め出した。つらつらとニュースの声が流れている。自由なもんだとキッチンに視線を返す。

東海道はでっかいイコぬいを抱っこして頬を埋めた。確かにこの瞬間忘れていたが、それが目的だった。あんなに抵抗してた癖に、当然の言いざまに動揺してしまった。鼓動がスキップしている。バレないようにイコ越し、薄目で山陽を覗く。変わりなく手際よい後ろ姿、捲った袖から少し焼けた腕が伸びている。どうという事はない態度だ。このありさまで、ざまーみろ!等と俺に出来るものだろうか。

山陽が皿を並べ出し、イコを片手に椅子に座る。

「山陽、イコがいるぞ」
「ああ、いるな」
「食卓のお供に」
「ぬいぐるみを持ち込むな」
「断る」

二人の時には正直に言う、と言質をとってしまったので。休戦だ。イコがいれば三人、つまり言質の条件外と言う東海道の密かな対策に、山陽が気づく事はなく穿った眼差しで見られた。東海道はイコを膝に食卓を眺めた。所狭しと並ぶ華やかで暖かな料理を一品ずつ眺め、山陽を見上げる。

「俺の好きなのだ」
「……あほ」

阿保ってなんだ。しかし随分とやわらかな阿呆であった。勝ち誇ったような、満更でもない笑い方。腹は立たなかった。手を合わせる所作がぴたりと合い、箸を取る。料理は文句なく美味かったし、今度は躊躇なくそのように褒めた。

「うん、どれもうまい」
「俺が美味く作ったんやから、当たり前や」
「不味くなる!」
「あ?」
「謙虚と言う美徳を知らんのか」
「そりゃお前が1番知らんやつやろ!」

深夜のニュースをBGMに、すっかりいつも通りの言い合いに調子が戻ってきた。山陽が誕生日の話を切り出す。

「お前、東でも誕生日祝ってもらったんか」
「ああ、お前が電報したんだろ。いつものケーキと、あとプレゼントも貰ったぞ。俺の事を詠んだ詩集だ。60Pもある。宇都宮がまとめたらしい、あれはああいうのが得意だな、全く。捨てるに忍びないし飾るに躊躇う」
「あ?詩集だと、クソ、すげえじゃねえか…」

東海道には分からない競争心があるらしい。山陽が悔しそうに答えるので、薄目で呆れる。東の詩集、西の水没。

「お前ら、妙に気が合うな」
「合う訳あるか!」
「合うだろ。あとはそう、井上さんのぬいぐるみも貰った。なかなか秀逸だったぞ」
「そりゃ良かったな」
「山陰のガチャガチャも嬉しかったぞ、あいつ、俺にあげたいものが多すぎるからガチャガチャってなあ。昔から可愛いところがある」

思い出し笑う東海道のあどけない声に、今度は山陽が眉を顰める。

「は、俺もガチャぐらい作れる」
「まあ作れるかで言ったら作れるだろ」
「…やりたいんか、ガチャ」
「お前のもあるのか?」
「ない。ないからお前が俺にして欲しい事を書け」
「俺が作るのか?お前が書けよ」
「お前が満足する事が重要なんやろ」
「書いたらするか?」
「見てから考える」
「書かせるならしろ!」
「するかしないかで言うとするとしよう」
「うーん、ならまあ、作るか」

付箋とペンを受け取り、東海道は思案した。行きがかり上だが、今度こそ山陽の真意を知れる良い機会である。よし、と意気込むが、これがなかなか難しい。改めて考えれば「東海道本線を好きと言う」と真正直に書いても、棒読みされる気がする。あれこれ抜け道を探すのが得意な男だ。

そもそも。「好き」と延長線上にある「付き合う」は、山陽にとって何だろうか。東海道は女を抱いた事は数あれど、恋人関係になった事はない。人間は勿論、路線とも。人間のように付き合う願望は、山陽本線が人間に近い価値観を持ち合わせてるからに違いなく、東海道にはない。永い時を生きるはじめの路線には、兄弟、幼馴染、そして直通関係である事、それらこそが時を共にする強い絆であった。

眉間を指の節でこつこつと叩き、考える。

「好き」に立ち返る。まずはそう、好きかどうかを知れば良い。好意がなければ難しい提案、しかしこれも難題だった。普段の山陽なら絶対に断るが、好いてるなら本当は嬉しいだろう事。一通り、世間的な恋仲らしい事を書き出してみる。あとは兄がしてくれたら嬉しい事も。山陽は嬉しいだろうか。好いているなら、嬉しくはあれよと願う。いやしかし「本当は嬉しい」など分かるものだろうか。

書き上げた付箋を見つめ、これが「自分が山陽にして欲しい事」と思われるのも、大分気恥ずかしいと気づいた。別にいいはずだ、山陽がどうあったって百三十年通り仲良くないままでも。でも、俺は知ろうとしている訳で。何度も消しゴムをかける。は、と視線に気づき手元を覆う。

「おい、まだ書いてるだろ!」
「どうせ後で見るんだからいいだろ」
「よくない!後で見ろ!」
「うっさい」

山陽はしぶしぶ立ちあがると、洗面台に向かった。降ろしたての歯ブラシを開けながら、付箋に向かう東海道を眺める。唸りながら随分懸命に書く姿に、ささやかに満足する。恋人らしい振るまいが罰なのだから、全うにいけば「恋人に願う事」を書くはずだ。恋人、こと俺への願いに悩む東海道を記憶におさめる。しかし昼のやり過ぎた問答で気をそぎ、タバスコ一気飲みとか宿舎ロビーでサライ独唱だとかスタンダードな罰ゲームを書く可能性は多いにある。期待は全くしてない。してないが。

歯磨きする事とした。ミントフレーバーのパッケージを睨み、流し台を開けた。買い置きを厳選する。シトラスに変える。良い匂いに越したことはなく、別に可能性に備えている訳ではない。決して。

「歯ぐきから血が出た」
「は?何してるんだ、お前は……よし、書けたぞ」

東海道はやり切った顔で、私用の兄ポーチに折った紙を入れた。山陽は緊張を顔に出さず、面倒くさそうに掌を入れる。指先に紙が擦れると、8~10枚ある。東海道は、山陰がガチャを引くまでうろうろと歩き回ってた気持ちが分かった。何を引かれるものか、腹辺りがそわそわと気忙しい。勿体ぶりやがって!と東海道には見えたが、ひどく緊張してるだけの山陽が摘まんだ紙を、慎重に開く。

『頭をなでる』

山陽は紙を見つめ、しかしうまく考えがまとまらなかった。ちゃんと「恋人同士がして欲しい」方向で書かれている。脳裏に長閑な草原が広がりほわほわ花が咲いていく。なんだなんだ、と紙を覗き込む東海道が山陽に身を寄せ、長い睫毛が瞬いた。蝶が止まりやすそうな睫毛だ。

「は」
「あたまをなでる、だな」
「アホ、読めとるわ。……」
「な、なんだよ」
「あれのもな、抱擁やったしな。こういうもんやな」
「そうだろ?いいだろ」
「よし」

椅子を傾けて向き合い。数秒間。山陽は腕を伸ばすと東海道の膝に座る、イコぬいの頭をわしわしとなでた。

「おーい!」
「誰のとは書いとらん」
「俺のに決まってるだろ!」
「そりゃ」
「ん!」

言葉を遮って目を瞑り、頭を差し出した。乾いた喉がはりつく。東海道がそう待つ姿は、胸に込み上げるものがある。バレぬよう掌を太腿に擦ると、ふう、と息をころし。心を決め、そっと頭をなでる。まるくなだらかで、かたち良い。櫛のように指ですくと、癖毛は思うよりやわらかく、良い香りがした。それが山陽のシャンプーだと気づいて、何とも言いがたい気になった。くすぐったいのか面白いのか、子供のように、くっと東海道が笑った。その揺らぎが掌に伝わる。

東海道も存外気分は良かった。自分がなでた記憶は随分とある、東海道の頭をなでるものは遠くの昔いなくなった。どの路線も東海道をそのようには扱わない。心臓の奥がさわさわとくすぐられる心地。目を開けるとすぐ傍に瞳が合う。山陽の眼差しはいつもより幾分やわらかに思え、何か言わねば、違う、言わせねば、と言う気になる。

「山陽、もっと、こう、なんだ、褒めたりしろ」
「あー…ご立派なもんやな、性格も髪も捻じれとって」
「は?なんだと?」

山陽はわざと乱暴に髪を混ぜ掌を離した。

「ワッ!やめろ!」
「終わりだ、寝るぞ」
「おい、もっと書いたぞ」
「一つやろ」
「なら初めに言え、もう書いた」
「全部やるとは約束しとらんし山陰のも1つやったろ」
「ふーん、山陰と同じで良いんだな」
「あ?」
「お前は山陰と同じぐらいの事、が出来るんだなあ」
「ああ、ムカつく男やな!お前は!」

ん、と兄ポーチを差し出され、溜息交じりに頬を掻く。

「しゃあない、ならあと二つやぞ」
「よし引け!」

重要なのは勢い、今度は引き抜いた紙を思いきりよく開く。

『好きなところを言う』

ズバリの引きに喜ぶ東海道に山陽はひとつ頷き、間髪入れず口を開く。

「この部屋の好きなとこは冷蔵庫や、去年新調した新型で音も静かやろ」

ベシッと胸を叩かれる。

「俺だ!」
「あ~お前、冷蔵庫だったか?旧型やな」
「違う!だからお前が、俺の、どこが好きか言うという事だ!分かっていて何度もやるな!」
「また主語が書いとらん、諦めろ。お前は全く性格も好みも甘ちゃんやなあ」

すると東海道は黙って腕組み、唇をむっと結んだ。見下げた眼差しには迫力があり、山陽が好きな表情の一つであるが、絶対本人には言わない。

「なんだよ」
「お前がすると言うから書いたのに、揚げ足取りおって。意地悪ばかり言うならもうやめる。つまらん、卑怯者、馬鹿野郎」
「言いたい放題やめろ」

態度一転、ツン!と幼く拗ねる素振りをする。兄への朗らかな甘えが、最近の所作に滲み出ている。昔はあんなにピリピリと威圧的だったと言うのに。

「あ~じゃあ全部だ、全部」
「なんていい加減な男だ、この離婚届に判を押せ!」
「まだ結婚しとらんやろ」

適当に差し出された付箋をテンポ良く押し返すと、拗ねてた癖に、もう笑った。山陽が意地を張ると東海道はたいてい怒り、気乗りしなければ受け流し、時折こうして笑う。笑う東海道を見ると、山陽は割とあっさり舵取り出来なくなる。

「……顔」

は、と気づいて失言を掌で覆う。しかし東海道にはしっかり聞こえたようで、何度か瞬いて聞き返される。

「顔のどこだ?」
「知らん」
「ここは鼻、ここは頬だ」
「知っとる!」
「なら言え」
「ちっとはお前で考えろ」
「分からんから聞いてるんだろ。まあ、良い。…顔、うーん、面食いだな」
「おい、自分で言うか」

飽きれて言い返すと、ぽかんとした顔をされた。自分の顔立ちが良いと微塵も疑い持たぬ男の顔だ。東で甘やかされおり不服に思う。第一、一般的な見目の話はしていない、いやもしかしたらそういう話なのかもしれないが。山陽にとって東海道の顔は、瞳は、眉は、唇は、唯一無二の容であり東海道を作り上げるパーツだ。おそらくどれを切り取っても東海道だと分かってしまう。

「でも俺の顔は皆好きだからな」
「いい加減にせえ」

額をパチリと弾かれ、東海道は掌で抑えて黙した。好きな顔なら大事にしろ。あれこれといつも通り山陽は意地悪く、結局好きともいわず、ちっとも嬉しそうでもない。

「これでラストだぞ」

興味深くぴたりと腕に寄り添う東海道に、山陽は嬉しいやら腹立たしいやら、引き剥がす事は出来ず紙を開いた。

『一緒に寝る』

「いいのか」

咄嗟に問いかけ、握った紙に皺が寄った。歯磨きは天啓だった。勢いに顎を引く東海道が、丸い目をして答える。

「ダブルベットだし、いいだろ。最後らしいのを引いたな」

ほんの数秒、見つめ合い。山陽は努めて平静に椅子に凭れた。添い寝の方、そりゃそうだ。そりゃそうだな。そうだそうだ、と頭で何度も繰り返し、ふーっと長く諦観を吐き出すと。

「あ、お前、すけべな事考えたろ」

東海道が冗談めかして自分の肩をギュッと握る。当然そうと思わなかったが、稀にこういうふざけ方をする。首を傾げて顔を覗かれ、山陽は、窓越しにきらめく夜空を見た。長い長い時を経たように感じた。固まってしまった山陽の胸を、指でちょんと押す。

「……は?」
「冗談だ、そんな顔するな」
「は?いや、ボケが、ええ加減にせえよ、誰がお前相手に!んな訳あるか」
「そうすぐ怒る、お前には冗談も言えんな」
「おもんないんじゃボケ!もう寝ろ!」

図星をつかれた山陽は、胸の爆音を鎮めるよう、ベッドシーツを掌で押し広げた。かわいい素振りを見せられると、ほころびを見せんとつい罵倒してしまう。これは長年身についた防衛本能と言うほかない。しかしそういう時の東海道は気を許しいい気分で、やわらかな機嫌に嫌いの刃はよくよく刺さり確執を強くしてきた。

「…好きな相手にそう乱暴な事を言うな、嫌われてしまうぞ」

寂しそうな口ぶりに、山陽の胸が、ぐ、と押された。全くその通りであったし、「山陽の好きな相手」がそしらぬ他人である言いざまだったから。知られたくない癖に、知らないのも腹が立つ。東海道は口を開きかけ、首を振ると端的に言い切り背を向けた。

「寝る」

気落ちした様子で布団にもぐり、端っこに、背を向けて丸まる。それを見る山陽の胸もチクリと痛む。しばらく悩んでから、もう一枚だけ、上官ポーチからそっと取り出した。この静寂に紙擦れ音がしないほどゆっくり、折りたたまれた紙を開き、小さく息をつく。

東海道が背を向けたまま、掌でベットをぽすぽすと叩いた。あれは声をかけたくないが、今日も床で寝させるのは可哀想だ、の折衷案だ。こんな時、あらがいようなく素直に、東海道が好きだと思う。何度も思っている、しかし。あれはここにいるのが俺でなくてもああする男で、またすぐムカついてしまう。山陽は声なく唸ると瞑った瞼に掌を押し当て、明かりを消した。

ダブルベッドの反対側にもぐり込む。10cm距離からつたわる熱、緊張で、片側だけジリジリとやけた。

「おい」

数日ぶりに発したように掠れた声は、微動だせぬ背に無視される。

「東海道」
「…もう寝たぞ」
「起きとるやないか」
「起こされたんだ」
「うそつけ」

東海道が億劫そうにこちらを向いた。前髪がぱらりと鼻先にかかり、ふ、と息を吹く。ふてくされた顔立ちがあどけなく、心臓が息苦しく鳴る。手を伸ばせば簡単に掴める距離に東海道がいて、その輪郭をぼかすよう目を細め、つっけんどんに言う。

「ん、手え、貸せ」

暗がりに手を伸ばすと、東海道は惚けた顔をした。

「お前が書いたやろ、『手をつなぐ』」
「……あー。お前、勝手に開けたな、ズルだぞ」
「ええやろ、俺に書いたもんや」
「お前が三つと言ったろ、俺だってもういい」
「ならええわ」

山陽なりに挽回と考えての事だったが、心残り反面、安堵した。宙をきった手は布団に着地し、目を瞑る。まだ眠れそうにないが、頭は休まるはずだ。瞼の裏に東海道の輪郭を探ってしまう。ようやく力を抜きかけた瞬間、指先の感触にビクリと腕が跳ねた。

「でも、俺からつなぐのは良い」

してやったような、しかし控えめな口ぶりだった。全ての神経が指先に集中したみたいに、山陽の感覚は掌だけになる。東海道が指を擦って掌を握ると、まるで掌が心臓になり息が止まる。

「そう嫌な顔するな」
「……あほ、嫌な思いで反省させるんやろ、俺を。なら大成功やないか」

東海道はどちらともないような顔をして、目を瞑った。つないだ掌がひどく熱い。1分か、10分か、頭に何度も台詞を取り換え、意を決し東海道に話しかけようとしたら、信じられない事に寝ていた。穏やかでやすらかな寝顔だ。夢では良いことでもあったのか、口元がふやけている。ああ、クソ。かわいい。まる二日寝てない山陽の瞼は、まだ落ちそうにない。

7 / 10
8 / 10

381 プレゼントは名無しさん:22:50 ID:???

そりゃ会社が悪くないか

382 プレゼントは名無しさん:22:54 ID:???

法テラスに相談してみろ

383 @赤い男:22:55 ID:inenysaoul34.net



384 プレゼントは名無しさん:22:58 ID:???

え!!!!1じゃん

385 プレゼントは名無しさん:23:02 ID:???

生きてたんかワレ

386 @赤い男:23:04 ID:inenysaoul34.net

報告しにきてやった

387 プレゼントは名無しさん:23:05 ID:???

もう来ないと思ったぞ

388 プレゼントは名無しさん:23:06 ID:???

どうなったんだ?
簡潔に!!

389 @赤い男:23:10 ID:inenysaoul34.net

今手つないで一緒に寝とる
片手で打ちにくい

390 プレゼントは名無しさん:23:11 ID:???

まさか味噌汁からうまくいったのか?
そんな馬鹿な、味噌汁に何をいれた

391 プレゼントは名無しさん:23:12 ID:???

俺も今日から味噌汁作るわ
師匠、教えてください!!!

392 プレゼントは名無しさん:23:12 ID:???

すまん簡潔じゃ無理だった!!詳しく!!

393 プレゼントは名無しさん:23:14 ID:???

付き合っとらん
部屋をダメにした罰で三日間恋人になっとる

394 プレゼントは名無しさん:23:16 ID:???

は?どゆこと?

395 プレゼントは名無しさん:23:18 ID:???

こいつは俺から嫌われてると思っとるから
こいつを好き好きいうのが罰らしい

396 プレゼントは名無しさん:23:19 ID:???

そんなラブコメが存在する訳あるか!!

397 プレゼントは名無しさん:23:21 ID:???

検索かけてるけど引っかからない
何て原作?読みたい

398 @赤い男:23:24 ID:inenysaoul34.net

現実

399 プレゼントは名無しさん:23:26 ID:???

なんか悔しい!
どうせ1もイケメンなんだろ、裏切者がよ!

400 プレゼントは名無しさん:23:28 ID:???

そりゃさすがに両想いなんじゃないか?
俺だったら嫌いな奴に恋人になれなんて言わない

401 プレゼントは名無しさん:23:30 ID:???

そうだな
好き好き言ってくる1を手酷く振るとかさ
そういうのが罰だろ!
なんで手繋いでんの

4-2 @赤い男:23:33 ID:inenysaoul34.net

そりゃ俺が嫌がるからだが
奇想天外な奴だから
よく分からん

403 プレゼントは名無しさん:23:35 ID:???

今日一日どうだったんだ?

404 @赤い男:23:38 ID:inenysaoul34.net

かわいかった

405 プレゼントは名無しさん:23:40 ID:???

そういうことじゃないだろ
そういうことかもしれんが

406 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

なんか、良かったな

407 @赤い男:23:43 ID:inenysaoul34.net

しかし振りでもきつい
このままだと俺から好きだと言ってしまう

408 プレゼントは名無しさん:23:45 ID:???

言えよ
その状況で言う以外の選択肢あるか

409 プレゼントは名無しさん:23:47 ID:???

と言うか好きっていう罰なんじゃないのか
チャンス!!

410 プレゼントは名無しさん:23:49 ID:???

1、もしかせんでも脈はあるぞ

411 @赤い男:23:50 ID:inenysaoul34.net

好きとは言っとらん
こいつから言わせたい

412 プレゼントは名無しさん:23:52 ID:???

もー!!!なんでそうなる!!!

413 プレゼントは名無しさん:23:54 ID:???

プライド高すぎるだろ!

414 @赤い男:23:58 ID:inenysaoul34.net

この状況でこいつはすーすー寝とる
俺は寝れんのに
これで言える訳あるか

415 プレゼントは名無しさん:00:00 ID:???

どういうことだよ

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山陽はスマホをオフすると枕元に放り、眉間を指先で揉んだ。こうして近づく度に思い知る、気持ちの違いを。東海道はきっと、自分が覚えてる全てを覚えてない。初めて出会った日に交わした言葉も、手が触れた日も、笑いかけた時も。

溜息が暗やみにとける。

眠れぬ時は、瞼の裏にホームを思い浮かべる、やる事が多い朝のホームだ。誰もかれも忙しなく電車に詰め込まれていく。すると考えすぎる頭が不思議と散漫とする。それが心地よかった。久方ぶりの眠気に身を任せ、ようやく眠りへと落ちていく。

8 / 10
9 / 10

二日目の朝、東海道は随分と早く目覚めた。

夢を見た気がした。遠い遠い日の夢を。珍しい事だ、本当は見ているのかもしれないが殆ど覚えてない。思い返すに、東海道の記憶は多すぎる。今日も三度瞬く間にその夢はすり抜けていったが、心地良さは残った。

起きかけて気づく、手を繋いだままだった。繋いだまま、しばらく見慣れた天井を見上げる。宿舎の天井はどこも一緒だなと思った。山陽を起こさぬよう、慎重に掌をほどいてベットを抜け出す。洗面台に向かって冷水をすくい、ふーっと浅く息を吐き出す。鏡の自分を見つめた。振り返ると気が滅入るが、結局山陽はいつも通り、どころか酷かった気さえする。好きとは到底聞き出せなかった、やはりないのかもしれないが。

やわらかなタオルを頬に、ひと息つく。昨日環状が言った事を考える、俺が好きと言えば好きと言うと。しかし、俺は初めに言ってやったぞ。山陽本線が好きと。首を捻る。山陽は昨日、口では言わないが料理を作ると言った。つまり山陽にとって料理は愛情表現なのかもしれない。なら真似てみるかと思い当たる。明後日までは恋人と自分でも決めた事、やれることはやると決めれば行動は早かった。

支度をすませキッチンに立つと、山陽のエプロンを拝借した。山陽のように凝った手心はないが、東海道も持ち前の器用さでひとしきり料理は出来る。昨日買っておいたパンと、冷蔵庫の卵、ベーコンを手早く焼いた。付け合わせにホウレン草を炒める。あれこれ口出ししにくい無難なラインナップだ。無精な所があり、全てフライパンですませて食卓に並べ、ポットをオンにする。

そろりとベッドに近寄ると、まだ山陽はしかめっ面で寝ていた。ベットサイドに肘をつき、眺める。こうまじまじと寝顔を見るのは初めてかもしれない。寝てる時は、大人しくていい。眉間に寄る皺を指先でなでると、すーすーと寝息が聞こえた。驚かそうと思ったが気がそがれ、小さな声で耳打ちする。

「山陽、朝ご飯が出来たぞ」
「……ん」

腕があがって、ぽすりと東海道の頭に落ちる。それからわしゃわしゃとかき混ぜられる。寝ぼけている、目覚ましじゃない。

「おい、起きろ」
「るさ……」
「山陽本線」
「……」

山陽の腕が伸び、東海道の肩をぽんぽん、となでる。スウェット越しにも山陽の掌は熱い。くったりとした腕の重みに任せ、胸に耳を当ててみると規則正しい鼓動の音がした。

白い朝陽で山陽の頬が照っている。

ぼーっと眺めてから、人差し指で山陽の鼻先をちょん、とつくと嫌そうに身を捩じられた。ふ、といい気分で頬をとんとんと突いてから、軽く摘まむ。すると無性に気恥ずかしくなった。うんと天井を見つめてから、静かに、顔を伏せる。しょうもない。山陽がもし、自分を好きと言うならば。どんな顔で告げるか考えてみる、目を瞑り、あまりに、思いつかず。山陽の寝息にすーっと胸が膨らむと、つられて欠伸が出た。さすがに朝食も冷めると、気を取り直し目を擦る。いよいよ起こし方も乱暴に、両の頬をどこまで伸びるか引っ張ってみる。すると、急に伸びた腕に掌を取られた。山陽は何度か瞬いて、バッと身を起こす。

「は?」
「朝ご飯が出来たぞ」
「え?は……ああ、は?」

寝起きが悪い方なのか、ともあれ起きた。山陽は何だか疑心暗鬼な様子でこめかみを抑えていたが、じっと、胸元あたり、おそらくエプロンを睨んできたので、東海道はそろそろとそれを外した。勝手に借りてしまったが、物申したそうな気配を察して。山陽はマグカップを机に並べる東海道の頬を掴み、ぐいと伸ばした。怪訝な顔でパシリと掌を払うと、山陽はようやく納得した顔で洗面台に消えていく。なんだなんだ、と冷や汗かきながら、一足先に紅茶を啜る。バシャバシャと顔を洗う音がして、戻ってきたのは通常運行の山陽本線だった。

「よお」
「なんだ、よおって」
「お前が焼いたんか」
「俺以外の誰がこの部屋にいるんだ?」

ふうん、と気がない返事で椅子に座ると。目玉焼きとベーコンをトーストに載せ、塩を振りがぶりと齧った。東海道は、パンをナイフで半分にして、サンドして頬張る。感想を聞くメニューでもなく、会話もなくもぐもぐと皿を開ける。褒めるとも文句もなくぺろりと完食すると、昨日よりは手慣れて支度をすませた。

言うなれば、いい雰囲気ではあった。本日は仕事も運行も至って順調だったし、昼食に気まぐれで入った洋食店は味も気前も良かった。珍しく顔を合わせて笑い、さらに快晴ときてる。朗らかな山陽本線を眺め、東海道もほのかに良い兆しを見たのだったが。

三時を過ぎ業務も落ち着いた頃だ。山陽新幹線が在来の執務室にひょいと顔を出した。在来の部屋に好んで来る稀有な上官である。昨日に続き片手の差し入れを掲げると、上官!上官!とあっという間に奪われていった。今日の差し入れはアラカルト。シュークリーム、ショートケーキ、チーズにチョコ。さっそく覗き込む路線達がこれだあれだと取り合いになる。

「俺もお邪魔しよっかな~」
「山陽さん、食べても良いですけど選ぶのは最後ですよ!」
「俺が持ってきたのに!?」
「上官、いるならお茶入れてください」
「だから俺上官なんだけど!?」

などと言いながら煎れてくれるのが西の上官である。何だかんだ東海道本線もお茶を運び、上座下座もなくソファに詰めていく。頂きますの姿勢のまま、思い出したように山陽新幹線が口を開いた。

「あ、本線、おめでと~ジュニアと付き合い始めたんだって?」
「あ!?」
「顔が怖いってえ!」

誰が言った、と睨みを効かせる、隠す素振りない口笛が鳴る。面々は知らん顔でケーキをつつきながら。

「しょうがねえだろ、上官には報告義務がある」
「俺達もやむを得ずなあ」
「んな殊勝な在来はここにはおらんやろ!」
「俺はいて欲しいけどなあ」
「あんたも面白がりおって、他で言わないでくださいよ」
「はいはい、わかってるよ〜!」

勿論冗談だと心得てる山陽新幹線は、八の字眉でシュークリームを頬張る。

「全く西の口に戸は立てられないな」

東海道も機嫌良くショートケーキをフォークで切り分けている。てっぺんの苺はもうない。

「おい、山陽。東海道上官に挨拶にはいかんのか!」
「アホ言うな」

振った側も本気ではない。茶請けにいつものノリで盛り上がり、茶をすする。

「東海道本線とお付き合いして上官に挨拶せんとはな」
「感心せんなあ!」
「こういう順序は大事だぞ」
「ほざいとれ!」

ワハハ!と談笑に花が咲き、山陽が空の湯呑を覗いた時だった。

「東海道が山陽本線と付き合っているのか」

スローモーション。全員がいっせいに声へ顔を向けると、間違いようもなく、戸口には天下の東海道新幹線が立っていた。茶化した空気がピシャリと凍る。誰かの乾いた喉が、ごくりと鳴り、壁掛け時計の秒針まで聞こえた。山陽は、じわりと首筋が汗ばんだ。嵐の前のような、不穏な静けさ。横目に東海道を見ると、両手を握り心底驚いた顔で固まっている。当然仕込みでもない。

「私は聞いていないが、そうなのか」

怒りも驚きもない事実確認の口ぶりにも、凄みがあった。凛とした強い声に誰しも、思わず背を正す。つられて山陽新幹線まで緊張している。東海道新幹線の眼差しの先には、身を竦ませる弟でなく山陽本線がいた。

「にっ」

東海道本線の呼びかけを、ぴたりと掌で制すると。

「山陽本線、お前に聞いている」

山陽が反射的に立ち上がると、空の湯呑が倒れ、くるり旋回した。全員の眼差しが集まる。東海道と付き合う想像なら何百回としたが、兄への挨拶は考えた事もない。小柄な体躯から溢れんばかりの存在感、今日はなおさらそう感じた。まるで神に指さされた思いで、冗談だと誤魔化す事も嘘つく事も不埒だと思った。『お嬢さんを俺にください』などいつか見たドラマのワンシーンが浮かぶ。それを掻き消し、気の利いた事を懸命に探す、あれもこれも違う。これを好機に変える、ひらめきのような。しかし、拳を握りしめる。

何も浮かばなかった。山陽は踵をつけ、すっと顎を下げた。

「東海道本線とお付き合いしております」
「本気と考えて良いのだな」

限りなく懺悔に近い心境で吐露したのは、現状の事実で、願望であった。じっとりとした緊張に、言葉が重い。

「はい、俺は本気です」

はっきりとした声。東海道の心にぱっと沸きあがったのは、嬉しさだった。山陽本線は兄に嘘をつく男ではない。それだけで、知りたかった感情が、暖かく正しく腑に落ちかたちを成す。張り詰めていた緊張がほどけ、静かに、息をついた。兄とぱちり目が合った。控えめに、ほんの少し口角を上げると、兄も軽く頷いた。

「うむ、ならいいんだ。山陽本線、また話そう」

す、と上がる掌に、応えるよう頭を下げる。山陽新幹線だけはすっかり笑顔で、指先でぱちぱちと拍手して。

「俺も行く!」

去り際、暢気なウィンクとサムズアップ。

二人の足音が遠のき、山陽はどっと気力を使い果たしソファに埋まった。山陽には常に展望がある、こうしたい、こうすべき。それが絶対に言ってはいけない相手に、言ってはいけない男の前で、無様な返答をしたように思った。掌に顔を埋めて、低い声で唸る。さすがに東海道も分かってしまったかもしれない。もっと他に何かあったはずだ、だが何も考えたくない。周囲の路線達も尋常ではない様子に声をかけるのは躊躇い。ご愁傷様と手だけ合わせ、そろ~っと皿を片し外出や業務へと戻っていく。

東海道は隣に腰かけたまま、失意に山陽をまじまじと見つめていた。実に漢らしく明快な答えであったのに、いったい何でこうなるのか。慎重に山陽の肩に掌をやると、さっと逃げられた。

「さん」
「業務時間やろ、仕事するぞ」
「…お、おう」

全力で忙しさを醸しだし目を背ける。東海道の視線が頬に刺さるが、無視する。隣り合わせの都合、離れられる訳でもない。画面に浮かぶ文字なんてちっとも入ってこない。東海道があれを聴いてどう思ったか、考えるのも恐ろしかった。バレたくない、考えるだけで喉がグッと詰まり、ワーッと叫び出したくなる。いよいよ耐えきれなくなり席を立つ。追ってくる東海道の気配に足早に廊下に出るも、さすがに呼び止められる。

「山陽本線!」

聞かぬふりで脚を早めるが、あっさり並ばれる。ぐいと腕を引かれて廊下の端に並ぶ。

「山陽、おい、聞こえてるだろ」
「聞こえん」
「聞きたい事があるんだが」
「聞こえん言うとるやろ」
「いいから聞け」
「止めても言うんじゃねーか」
「山陽、俺のことが好きなのか!」

それでようやく、東海道の顔を見た。当然、怒らせたと思った。上官相手にあそこまでせんでいいと。しかし予想外に、そのぱっちりとした瞳はきらきら陽炎のように光っている。目を奪われ、ぽつりとこぼす。

「……好きだと、昨日お前が決めただろ」
「聞いてるのはそういう事じゃない、分かるだろ」

ああ、好きだ、と言えたら簡単だった。実はずっと好きだった、絶好の機会のはずだ。伝わってしまったなら。

でも山陽はムカついた。百三十年に及ぶ積年の思いを、こんなにやすやすと確かめられたくない。喜んでいる東海道には気持ちが揺らぐ。しかし、勘違いだ。東海道の感情は、俺の好意を知って芽生えた、関心に違いない。急く心を叱咤する。いま生まれたばかりの不確かさに身を委ねたくない。東海道と山陽ではその重みが違う。うまくいくはずない、だから言えなかった。拳をキツく握り、東海道を睨む。

「んなわけあるか!!仕方なくやったに決まっとるやろ……罰なんやし。ああ、これでお前にとっても、罰になったかもな」

東海道は先ほどの山陽を信じた。だから今もこれこそが嘘だとは分かった。しかし、だとしたらなぜなおも突き放す。憮然とした表情と見つめ合う、山陽の考えてる事が分からない。この先も暖かな気持ちになる度に心冷やすのかと思ったら、それは静かでむなしい事だった。力なく掴んだ腕を離す。言い知れぬ気持ちに、強い風をやり過ごすよう目を瞑る。

「そうかも知れないな」

深く沈んだ声に、どきりと山陽の胸が跳ねた。

「山陽本線、罰はもういい。努めてくれてありがとう」

官設の頃を思わす、ひどく淡々とした物言いだった。山陽を試すでも諭すでもない、この男が「もういい」と言った時は、その通り、ただ終わりだという声。山陽はこの暖かな苦行が終わる事を願ったはずなのに、ざらりと身を削られる心地がした。

東海道は仕事に戻るよう誘い、二人のただならぬ気配に他の路線達も声をかけぬまま、いつになく静かな執務室だった。定時が近づいて、今日はこの後どうするのか、本当に、もういいのか。尋ねるにしのんでいると東海道と目が合った。

「今日は駅前のホテルに泊まる、もう予約した」
「ああ。……飯は、食いに行くか」
「いやいい、簡単にすませる」
「そうか」

山陽はパソコンに向かう素振りで、言いようがなく、もう一度東海道に向き直る。

「何か食わんか、奢るぞ」
「いい」
「上官の弁償リストは」
「もういいと言ったぞ」

東海道の顔はちっとも怒っておらず、その口ぶりも至って落ち着いていた。怒ってないからこそ、山陽の心は穏やかではなかった。東海道がこうはっきりと線引きして来ることは今までなかった。だからこそどうすべきか分からない。定時になるとぱたりとパソコンをたたみ、さっと執務室を後にする。鞄を掴んで追いかける。ロッカーで共に私服に着替える間も、東海道は何も言わなかった。

夜の街は休日を前に賑わっている、繁華街を抜ける東海道を追う。居酒屋の喧騒、呼び込む威勢の良い声、看板の灯かり。人混みをすり抜け横に並ぶと、東海道は視線を送らず口だけ開いた。

「山陽、もういいと言ったろ」
「俺の行きたい方向もこっちなだけだ」
「ならどこに行く」
「お前が知らんでもいいだろ」

意地を張り足を速める。風を切りどんどんと進んでいくが、山陽も諦めない。付かず離れず。ライトアップされた神戸港、いつもは観光客で賑わうが、肌寒いのもあり閑散としていた。潮風が頬をうち、東海道はようやく足を止め山陽に向き合う。

「いい加減にしろ」
「どこ行こうと俺の勝手やろ」
「追いかけてくるなと言う意味だ」
「別に追いかけとらん」
「お前なあ」

東海道は髪をかきあげ、観念したように波止場のベンチに腰かけた。きらきらと光る観覧車が、不機嫌なシルエットを縁取る。山陽も、今日をそのまま見送ったら何かが終いになるようで思わず追いかけたが、言うべき言葉は見つかない。ただ隣に佇んでいると、汽笛の音が遠く鳴った。夜の海は黒々と静かで、まるで二人きりのようだった。

「…東海道上官には俺から説明する」

その言葉に東海道は幾分拍子抜けし、首を振った。

「いい。元々は俺が言ったせいだろ、心配するな」

山陽は次の言葉を紡がず、隣に腰を下ろした。東海道は、どうしたものかと思った。嫌いだと言う癖、追いかけてくる。思えばずっとそうだったかも知れない。口では何だかんだと言いながら、山陽本線は傍にいた。先ほどまでは確かに怒っていたが、こうして山陽と二人でいると落ち着く。それは説明しがたい感覚で、穏やかな波が砂をさらっていくように、東海道の怒りや苛立ちは長く続かず、いつもあるべきところに返るような気になる。別に何を言わずとも。それが長く直通してきた二人の関係であった。

「山陽、俺は…」

何と言うべきか、悩んだ。

山陽本線を見つめる。くっきりとした輪郭、涼しげな目尻が伏せがちに、組んだ掌を見つめている。いま東海道が躊躇っているように、山陽もそうなのだろうと思った。俺達はあまりに考え方が違い、その違いを超えるのには、勇気がいる。なら東海道から手を伸ばすべきか、と考える。穏やかな気持ちで、そうしても良いと思った。しかし、そうしても良い、では山陽は許さぬ気がした。厚ぼったい暗闇、肌を湿らす潮風に、ふうと息をつく。

「…俺は、もうお前と話したくない。だから、追いかけるな」

埠頭のライトに黒い靴先がちかちかと光る。

「俺達が金輪際話さん、というのは到底無理だろう。もちろん仕事の話はしてくれ。だがそれ以外は、話したくない。お前に嫌味や皮肉を言われるのにほとほと疲れた」

今は距離をおく方が良い。前向きとは言えないが、後ろ向きでもない。一歩進んだのか、下がったのか、何にせよ変わった事もある。だから時間がどのようにか解決してくれるものだ。近すぎれば期待して、期待すると擦り減ってしまう。

山陽は、眩しそうにじっと東海道を見つめていた。今日はおしまいだと、眼差しを逸らす。逸らした視界の端、山陽が膝に手をおき立ち上がった。神戸港のライトを背負い、暗い港を眺めている。東海道は、帰るつもりなのだと思った。脚を伸ばした瞬間、山陽が勢い良く走り出す、方角は、海へ。振り返り、あっ、と息をのむ間に手摺に手を掛け、乗り越えると。

港に飛び込んだ。

寝静まる神戸港に、どぼん、と鈍く奇麗な水飛沫が上がった。真っ暗だ、遠くに、またぼーっと低い汽笛がなった。船の灯かりが頼りなく、夜の薫りがする潮風が頬をなでる。呆気に取られ、それから跳ね上がるように立ち上がる。

「ワーーーーーッ!!何してる!!」

駆け寄って覗くと、山陽はすでに浮上し頭を覗かせていた。ひとまず、ほっと胸をなでおろし膝をつく。

「なんでお前はそうめちゃくちゃなんだ!!」
「俺にも分からん!!」

東海道が目を逸らした瞬間、そりゃそうだ、と山陽は素直に納得した。東海道は、どれだけ皮肉や嫌味をぶつけても翌日には忘れていた。当たり前に俺を呼び、いつも通り気にもされない事に苛ついて、安堵して。ずっとそういうものだと。ある意味甘えていたのかもしれない、それが限界らしい。真に迫った声に、胸が痛んだ。痛んで、気づいたら海の中にいた。でも、どうすればよかったのか。

「ずっとわからん……」

百年以上そうしている。暗く冷えた海に体が慣れるといっそ暖かで、もう放っておいて欲しかった。ゆらゆら波に揺られてこのまま溶けたい気分だったが、頭上から声がする。

「あがってこい、風邪をひく」
「風邪なんかひくか」
「ひくだろ、馬鹿野郎」
「馬鹿ならひかん」
「お前なあ!」

東海道が意地になって手摺を乗り越えようと身を乗り出し、山陽も観念して防波堤を登った。ギュウと絞ったずぶ濡れの服が、ビシャビシャとコンクリを濡らした。あんまりな有様だ。

「お前、携帯とか…」

不幸中の幸い、荷物はベンチに置き去りだ。山陽はバツが悪そうにポケット探り、取り出した。東海道が掌を覗き込むと、ちいさな魚がピチピチと健気に跳ねた。なんなんだこれは。山陽は何でもなかったようにひょいっと魚を放ると、魚も元気よく港に返ってった。東海道は思わず口をぽかんと開けてから、堪えきれず笑った。

そういえば一昨日もずぶ濡れだった。いい歳して、本当にいい歳をしてこう何度も。こんなことあるものか。東海道はハンカチを取り出し、俯く山陽の頬に当てた。嫌そうに、でも避けず黙っている。仏頂面の山陽が無性におかしくて、あれこれ考えるのも馬鹿らしく、慰められた気にもなった。いつも突拍子のなさに振り回されるが、放ってはおけない。すると二人の考え方の違いも、意地も躊躇いも、さほど問題ではないように思えた。結局自分は東海道本線、自分がどう信じるかが重要なのだと。

「山陽本線、なんというべきか」

ハンカチ越しに、山陽が緊張したのが分かった。もう片手で頬を包むと、ふうと大きく息をつき。

「俺と付き合ってみるか」

ひどく怪訝そうな眼差しは、その言葉を理解してないようだった。その瞳を覗き、ひと息にに続ける。

「俺とお前で、本当に恋人になるかと言っている」

今度ははっきり届き、まるく見開いた目が何度も瞬いた。興奮、苛立ち、感動、不審、その瞳にさまざまな感情が往来するのを、東海道はじっと待った。山陽が、ぽつりと答える。

「ならん」

俺から言わせたいんじゃなかったか。仰け反り、聞いた話と違うぞ、という顔にもなる。山陽は苦々しい顔で、不貞腐れと諦観の狭間に言った。

「いい加減な気持ちなら、ならん」

今度は東海道が惚けた、それから、うんと顔を顰める。この期に及んでこの男、とまた腹が立つ。山陽が求める気持ちはまだないのかも知れない。だがそんなこと、全てのことは初めにない。だから始めようとしてると言うのに。東海道は一歩踏み込み、鼻先触れるほどの距離で声をあげた。

「臆病者、なら一生付き合わんぞ!」

山陽は驚いて仰け反ると、ぐっと険しい顔で踏ん張った。

「お前ここはなァ、いい加減な気持ちじゃない、言うとこやろ!」
「んなこと知るか!お前は、あれこれ考えすぎだ。俺はそうしたいと思って言った!いい加減なら、お前が確かにすればいいだろ。それが不満で出来ないと言うなら、もういい!」

東海道がフンと腕を組むと、山陽は濡れた前髪をガシガシと掻きあげた。眉間に皺が寄せしばし、葛藤して。すうと意を決した面持ちで向き合う。緊張感漂う佇まいに、東海道も、ごくりと喉を鳴らした。等身大の、山陽本線に身構える。真剣な眼差しに胸中まで覗き込まれるようで、胸に掌をギュッと握りしめた。山陽は背を正すと、ふ、と気持ち良く天に息を吐き出し、胸を開いた。

「俺は本気やぞ」
「…うん」
「俺と、付き合ってくれ」

ありきたりな言葉が初めて聞いたように響き、山陽の顔を見つめる。

「そうしろ!」

全く奇想天外な結末を迎えたような、長年こうなるべくしてなったような、不思議な心地だった。もう使い物にならぬハンカチを絞ると、山陽も、ようやく口元を緩めた。

「全くお前は水浸しが好きだな!」
「ああ、水も滴るいい男やろ」

調子を取り戻すのに呆れていると、山陽は東海道の掌を取った。

「東海道、知っとるか。恋人ってのは一人やぞ」
「俺を何だと思ってる、承知してる」
「……生涯に一人やぞ」
「それはまだ分からん」

山陽は深く息をつくと、茫然と共にようやく一条の光がさすような嬉しさを感じた。当然付き合うまでには数え切れぬ願望があり、神戸港に飛び込むプランはなかった。どうしてこうなったのか。目の前にいる東海道本線が、自分の恋人らしい。真っすぐ自分を見つめる瞳に、言い知れぬ気になる。今はそれが掻き消えぬよう掌を強く握り、ゆっくりと瞬き空を見上げた。空に星がぱちぱちと揺れ、ぼんやりとまるい月が薄雲から顔を出している。

「月が奇麗だな」

思わず口をついて出た台詞に、東海道も空を仰いだ。確かに真暗な空を白く照らす、見惚れるような月だった。だが山陽には言っておかねばならない。

「山陽、俺は共に死ぬ事を是とは思わん。共に未来を、走り続けられる奴がいい。文学的表現も好かん。しっかり言わんと分かるものも分からんぞ」

山陽は唇を開きかけ、またしばし葛藤の面相をして、眉に深く皺寄せた。

「…お前が、好きだ。ずっと」

暗い海を背にきらきらと光る山陽の瞳、すき、それは遠く懐かしいような響きだった。東海道は考える。

兄を慕う根幹にあったのは、救済だ。それは生まれた時から使命が救われ、限界を前に現れた光。それが路線として誠に正しい愛なのであれば、山陽の好きは何なのだろうかと。なくても生きていけるのに、どうあってもままならぬほど強い感情。それは人間のようだった。なのに今東海道の心にも、確かに、似た気持ちが芽生えた。それはまだ小さな火種だが、きちんと暖かに燃え出した。いつの時代か、都市伝説めいたおとぎ話があった。路線が恋をしたら人間になってしまうと。東海道はほのかな不安と期待に、掌を自分の胸に当てる。それは規則正しく鳴る、鉄道の心だった。

「うん、ちゃんと分かった。…山陽、ありがとう」

東海道にとって月は長くただの月だった。しかし月を眺めて二人きり、同じように綺麗だと思う事は、確かに愛情のかたちをしているのかも知れない。遠回しで面倒で、理想的だ。空を見上げる山陽の横顔、白く浮かぶ輪郭をなぞる、この男には似合いの台詞だ。

「月が奇麗だな」
「おい」

いかにも不服な低い声に、東海道は堪えきれず笑った。

「俺は良いんだ!だってお前はこういう言い方が好きだろ?良い月だ」

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■アフターアフターハピハピバス

鉄道グッズは乗客の愛着形成、収益面共に重要だ。路線達もグッズ制作には企画段階で関わったり、提供されたサンプル品のレビューや、身に着け販促したりする。西在来の執務室にはその都合、よく段ボール箱で直近発売のグッズが持ち込まれる。今日もそうだった。

「俺これが良い、メルカリで転売しよーっと」
「発売前の商品を転売するな!ちなみに売価いくらなんだ」
「どうせなら食いもんがいいが」
「こんなん売れるかあ?」
「あー何でもいいからお前ら順番に取れ!」

山陽が路線達を仕切っていると、ひょいと東海道が現れた。

「何があるんだ?」

東海道が西のグッズに関心を示すのは珍しい。兄関連グッズ以外にはとんと興味がなくこの定期イベントもいつもは我関せずだ。山陽の隣に並んで段ボールを覗くと、ぴたりと肩がくっついた。頬にふわついた髪が触れ、長い睫毛が瞬き。乾いた喉が鳴り、ぐいとその肩を引き剥がす。

「お前は見んで良い!」
「なんでだよ」
「どうせいらんやろ」
「見ないと分からんだろ」
「いつも見とらんだろ」
「今日は見る!」
「これやるから座っとれ」

山陽は適当に掴んだグッズを東海道の胸に押しつけた。東海道は掌のグッズに視線を落とし、裏返すと口パクで商品名を読み上げた。ふうん、と言う顔で、大人しくデスクに戻る肩がしゅんと下がったように見え、山陽の胸は痛んだ。山陽本線は東海道本線に素直な思いを告げ、二人は「お付き合い」を始める事になった。めでたしめでたし、と終わりに出来ないのが山陽本線である。

目下深刻な悩みがある、東海道に優しく出来ん。

東海道がグッズに興味を示したのは、山陽がこの場を仕切ってるからだ。元来素直な男。付き合い出してから前向きに山陽の理解に努めている。まるで小さな子のように、なんだなんだと山陽を追いかけ尋ねてくる。嬉しい、当然、嬉しくない訳がない。だから山陽は頭を抱えている。

反射的に東海道に跳ねのけてしまう、百三十年意地張ってきた体がなかなか言う事を聞かない。

正直、東海道の心変わりも恐れている。合理的で、切り替えも早いこの男。ある日突然「もうやめた」と言い出すとも知れない。山陽の積年の想いを知られた後に背を向けられるぐらいなら、今のままで良いとも考える。東海道が付き合おうと言い出したのは、山陽への愛情ではなく慈悲や憐憫をふくんでいるのだと踏んでいる。だがそれでもと乗ったのも自分だ。付き合う、宣言したからには向き合うべきで、東海道もそれを望んだと分かっているのだが。

関西と環状と連れ立った社食。したり顔で説教がはじまりうんざりする。

「お前な、あれじゃすぐ振られるぞ」
「うるせえ」
「せっかく付き合い出したのになあ」
「別にええやろ、あれも気にしとらん」
「そうか?さっきもへこんでなかったか」

ぐ、と喉が詰まる。そんなもの、その通りである。自分が一番よく分かってる。ほぐしすぎた定食の鮭を選り分け頬肘をつく。

「今まで恋人はおらんかったけどな、東海道も誰かと付き合うという選択肢が出来た訳だろ」
「そうだそうだ、取られるぞ!」
「は、別に取れるもんなら取ってみろっつーんだよ」

などと話していた午後だ。

執務室の扉を開いたら、山陰本線と東海道がキスしていた。

山陽の頭に世界の終わりの鐘が鳴り、膝から崩れ落ちる。予言だった。二人が気づいて同時に振り返り、目をきつく瞑る。押し寄せる後悔を必死に宥めた。ほら見た事か、気を許さなくて良かった、第一、東海道など気まぐれで横柄で自分勝手でそれで、それで。痺れるほど掌を握りしめる。

諦めきれん。諦めきれなかったからこうなってるのだ。

「おい、どうした」

近寄る気配に薄目を開ければ、屈んだ東海道の前髪に、見慣れぬピンが止まっていた。

「………なんだそりゃ」
「これか?止め方がよく分からなくてな。山陰につけてもらった、な!」
「花丸だが」

心に吹き荒れた強風が、ぴたり止まる。なるほど。二人が重なって即座にキスと勘違いしたが、どうやら東海道の前髪を止めて貰っていたらしい。どうみても浮気現場の雰囲気ではなく、孫とはしゃぐ東海道だ。まだバクバクと鳴り響く鼓動がドラムロールより煩いが、冷静に努めて立ち上がる。

きょとんとしてる東海道を、あらためてみる。イコのピン止めだ。見た事がない、と考えて気づいた。昼に自分が押しつけた発売予定の新作だ。それで前髪の片方を女子高生のように止めてる。白い額がすっきり露わになり、癖毛をきれいにまとめ顔立ちを幼くしていた。今は青い瞳も三割増し輝いている。なんだこりゃ、とんでもなく。

「かわいいが」

思わず口を押えたら、その言葉は山陰からだった。東海道は自信ありげに胸を叩いて応える。は?いや俺が先に思ったが?と腹が立ち顔を背ける。

「は、150を前にかわいこぶるな、じじい」
「うるさい、別にいいだろ」
「似合っとるが」
「そ~だよな~!今日はこれにする!」
「あ?」

なんだって。それから青い制服に身を包み、イコを額にお供した西仕様の東海道は、控えめにいってあちこちで人気だった。上官達との打ち合わせでも勿論目に止まり。

「あ、ジュニア、イコちゃんじゃん!かわい~」
「山陽さん!俺は見世物じゃないですよ!」
「なんだ、ぴよりんではないのか」
「ごめんね、兄さん!次は絶対ぴよりんにするからね♡」

大変ご機嫌の様相。女子社員達の賑わいも凄かった。男前で端整な顔立ちに、満面笑顔のイコがついている。そのギャップが良かったらしい。東海道に差し入れられる菓子が普段の三倍になり、誰からか受け取ったカゴ片手に練り歩けば、一足早くひとりハロウィンと見まごうばかりだった。

その背を眺めて思う。あの日、東海道は「自分が兄を愛するように」と言ったが、東海道の兄に対する気持ちと、山陽から東海道へ思う気持ちは全く違う。あれは誰も彼もが兄を愛すればいいと思っているが、俺は東海道がそうなるのは嫌だ。だがそんな独占欲を、こいつに知られたくない。知られて、それから東海道が気変わりしたら。憂鬱な気になり、溜息に窓が曇った。

終始東海道と、それから己の態度にもムカつきながらデスクに戻る。流行りの歌を口ずさむ東海道に、コツコツと机を叩く。

「おい、それもう取れ」
「なんでだ。皆褒めてたぞ」
「そりゃ似合わんとは言わんやろ」

む、と拗ねた唇で、東海道は前髪のイコを指先でなでた。しかし取る素振りはなく、頬肘ついて顔を顰める。

「つか、なんでそんなもんつけたんや」
「似てるからだろ」
「何が」
「お前に!」

意味が分からず頭を捻ると、ガラス窓に映る自分と目が合った。ああ、イコと顔が似てるからな。ピン止めのイコは口を開けいつもの細目で笑っている、誉め言葉と取るか絶妙なラインだ。憮然としながら、パチ、パチ、とノートパソコンを叩き、遅まきに気づいて東海道に向き直る。

「は?俺に似てるからつけたのか?」
「……なんだ、似てるからくれたんじゃなかったか」

東海道は気を悪くした風もなく、かえって可笑しそうに笑った。

「でもお前がくれたし、嬉しかったぞ」

その言葉はストレートに山陽の胸を打った。この男は、好意を打ち明ける事を恐れない。兄に対しても顕著にそうだ。俺がすげなくしても、周囲が何と言おうと関係ない。自分がそのようにすべきだと思ったら堂々と振るまえる。東海道の輝き、ずっと横目に眺めていたそれを真っすぐ向けられ、心臓がどきりと跳ねた。

それにだ。どうやら東海道は、つまり、ヘアピンを俺の代わりにつけておけ、と取り、それを喜んでつけていたらしい。手を顔で覆う、さすがに可愛いと言わざるを得ない。この男がそんな事するとは、考えも及ばなかった。それなら誰も彼もがかわいいと褒め囃す東海道とは「俺の東海道」ということになる。思わずデスクに伏せる。

「クソ~~~ッッ」
「なんだよ!」
「……すまん。本当は他の奴らがかわいい言うのに妬いとった」

東海道は肩を跳ねさせ、ぱちぱちと瞬いた。嫉妬にはぴんと来てなさそうだが、ほのかに頬が赤らむ。喜んでるらしい。

「そうか。しかし、皆も褒めずにはいられんだろうしなあ…」
「おい、抜かせ」
「見て分かるだろう、何分かわいいからなあ」
「調子のっとるなあ!」

執務室は二人きり、だが東海道はわざわざ椅子のキャスターを転がし小さく耳打ちした。

「山陽、そう心配するな。恋人はお前だろ」

ぐっと喉が詰まり、嬉しさを堪えるのが精一杯だった。額のピンを指先でちょいちょいとつく。

「曲がってるか?」
「ん」

本当は曲がってなどいなかったが、手づからつけなおしたかった。柔らかな前髪を抑えてパチリと止めなおす。陽をすった髪が暖かい。これは誰かに所有される男ではないが、しかしいま一端は確かに、山陽に心を預けている。そう分かった。瞑った長い睫毛に、機嫌よく結んだ唇、白い額。東海道の頬に手を添える。百年以上見慣れた顔が、しかしこの掌の中にある実感に、山陽は急に胸がいっぱいになった。東海道を好いている事を許された気になる。場違いになんだか鼻がツンとして、隠すように、その額にほんの軽く口づけた。ひどく驚いた顔で東海道が口を開け、うっすら頬に赤みさす。初心な反応に、何とも言えず嬉しくなる。分かりやすく動揺した眼差しが逸れ、早口に言う。

「山陽、これは良い商品だ。どうやら恋人にキスしてもらいやすい」

なんだその照れ隠しのレコメンドは。初めてみる顔に、山陽は眩しさを見るよう目を細め、ぽつりとこぼした。

「かわいいな」
「いいピンだな」
「お前や」
「……か、かわいすぎるのも、困りものだな」
「ああ、そうやな」

素直にされると、東海道もまたどうしたら良いか分からない。何分、百三十年間喧嘩してきた。初めて気持ちを確かめた幼子のように、山陽は東海道の指先をちょんと取った。ただ、それだけ。窓からの日差しも大変穏やかで暖かい。東海道は何と言うべきか、照れ隠しににっこり笑ってみた。すると山陽が瞬いて、ん、と嬉しそうにはにかんだ。驚いて、思わず惚れ惚れと眺める。あまり見た事ない屈託のない笑顔。ぽかぽかとした嬉しさを感じていると、扉から濁点つきの悲鳴が上がった。

「おい!いちゃつくなら扉に貼っとけ!」
「貼られても嫌だけどな」
「帰ってやれ、阿保共!」
「職場でいちゃついたら罰金500円入れるが」

どん、と置かれた気に入りの貯金箱を前に、山陽が立ち上がる。「また拳か」と血気盛んに身構える面々を前に、山陽は財布から諭吉を引き抜くと躊躇わず貯金箱に突っ込んだ。

「取っとけ、前払いや」

ブーイングに近い歓声が上がる。

「見たくねータイプの漢気だ」
「もしかしてくっつかん方が良かったな」
「毎日見せられるのか、これを…」
「仲良くてよかったが」

それを見上げる東海道に視線が集まるが、明らかに満更ではない顔だ。きらきらとした眼差しで、誇らしくときめいてすらいる。面々は気づいた。百三十年片思いを拗らせた男と、百五十で初恋を知った男のカップルは、完璧に最悪かもしれないと。
 

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陽海本線/アフターハピハピバス
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=========================
好きな奴の誕生日をミニスカサンタで祝祭
=========================
1 プレゼントは名無しさん:23:40 ID:inenysaoul34.net

脈ありか教えてくれ

2 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

聞こうじゃないか

3 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

10月にサンタとは季節外れな

4 @赤い男:23:43 ID:inenysaoul34.net

詳しく書く
・ミニスカサンタで正装
・好きな奴の部屋を勝手に飾りつけ
・ケーキを作った→喜んでいた
・ケーキ入刀→断られた
・騒動により部屋は修復2週間
・「月が奇麗だな」と伝えたら「死ね」と言われた
どう思う

5 プレゼントは名無しさん:23:44 ID:???

どうもこうも判断しかねる

6 プレゼントは名無しさん:23:45 ID:???

相手の部屋に入れる関係ではあるのか?
入刀ってウェディングケーキ?

7 プレゼントは名無しさん:23:47 ID:???

部屋の合鍵持ってる
誕生日ケーキ

8 プレゼントは名無しさん:23:48 ID:???

分からんが合鍵貰ってる時点で脈ありだろ
解散!

9 @赤い男:23:50 ID:inenysaoul34.net

仕事の都合で会社から預かってる
多分あいつは合鍵持ってる事は知らん

10 プレゼントは名無しさん:23:50 ID:???

就業規則違反で脈なし
集合!

11 プレゼントは名無しさん:23:51 ID:???

1が美少女なら不法侵入でも許される

12 プレゼントは名無しさん:23:52 ID:???

サンデーで連載してそうなラブコメ

13 @赤い男:23:53 ID:inenysaoul34.net

俺は男

14 プレゼントは名無しさん:23:54 ID:???

流れ変わってきたな

15 プレゼントは名無しさん:23:55 ID:???

お前がミニスカサンタ?
相手に着せたってこと?

16 @赤い男:23:56 ID:inenysaoul34.net

俺がミニスカサンタ
ちなみに好きな奴も男

17 プレゼントは名無しさん:23:58 ID:???

なるほど地獄絵図

18 プレゼントは名無しさん:23:59 ID:???

サンタは相手の趣味なのか?
頑張って着たってこと?

19 @赤い男:00:00 ID:inenysaoul34.net

俺の勝負服
あいつが好きかは知らん

20 プレゼントは名無しさん:00:01 ID:???

なぜか堂々たる1
なおミニスカサンタ

21 プレゼントは名無しさん:00:01 ID:???

小柄なタイプとか

22 @赤い男:00:03 ID:inenysaoul34.net

178cm70kg

23 プレゼントは名無しさん:00:04 ID:???

うん、でっかい

24 @赤い男:00:06 ID:inenysaoul34.net

男なら相手の好みに媚びるより自分の信念で戦うべきだろうが

25 プレゼントは名無しさん:00:08 ID:???

媚びないにもほどがないか?

26 プレゼントは名無しさん:00:08 ID:???

ミニスカサンタが信念ってなに?

27 プレゼントは名無しさん:00:09 ID:???

ミニスカ情報がなければ名言

28 プレゼントは名無しさん:00:12 ID:???

てか情報がなさすぎる
1と好きな奴ってどういう関係なの

29 @赤い男:00:15 ID:inenysaoul34.net

会社の同僚だな
いろいろあって付き合いは長い

30 プレゼントは名無しさん:00:16 ID:???

会社の同僚が自室でミニスカサンタで立ってるの
想像したら怖すぎるな

31 @赤い男:00:17 ID:inenysaoul34.net

怖くない
絢爛なミラーボールと軽快なBGMで出迎えてやった

32 プレゼントは名無しさん:00:18 ID:???

ホラー映画大賞2022
トリックスター賞おめでとう
それで包丁持ってたら役満だな

33 @赤い男:00:20 ID:inenysaoul34.net

持ってたぞ
ケーキ入刀に必要だからな

34 プレゼントは名無しさん:00:21 ID:???

ホラー映画大賞2022
総合優勝もおめでとう!

35 プレゼントは名無しさん:00:22 ID:???

警察呼ばれなくて良かったな
てか社宅とかなんか?

34 @赤い男:00:23 ID:inenysaoul34.net

いわゆる社宅だな

35 プレゼントは名無しさん:00:25 ID:???

周りに同僚とか住んでんだよな?
どういう反応だった?

36 @赤い男:00:27 ID:inenysaoul34.net

社宅は男だけなんだが他の同僚もその部屋にいてな
全員が美女に扮装し水着を着ていた

37 プレゼントは名無しさん:00:28 ID:???

濃すぎる登場人物が倍増

38 プレゼントは名無しさん:00:29 ID:???

状況についてけてない

39 プレゼントは名無しさん:00:29 ID:???

なんで全員水着?サンタは?
夏か冬かはっきりしろ

39 プレゼントは名無しさん:00:30 ID:???

てか夏も冬も今は秋

40 @赤い男:00:32 ID:inenysaoul34.net

言っておくがな
俺が一番ナイスバディだった

41 プレゼントは名無しさん:00:33 ID:???

それは聞いてない

42 @赤い男:00:24 ID:inenysaoul34.net

誕生日のコンセプトがナイトプールパーティでな
全員勝手に水着を着てた

43 プレゼントは名無しさん:00:35 ID:???

なんだその奇想天外なコンセプト
社宅で誕生祝いなんだよな
混乱してきた

44 プレゼントは名無しさん:00:36 ID:???

じゃあなんでお前だけサンタ?

45 @赤い男:00:40 ID:inenysaoul34.net

サンタには三十以上の理由があるが
長いから割愛する

46 プレゼントは名無しさん:00:41 ID:???

詳しく分からんが凄い情念だ

47 プレゼントは名無しさん:00:41 ID:???

三十以上の理由を背負い
ミニスカサンタを着た男はお前が日本初だよ

48 プレゼントは名無しさん:00:43 ID:???

今までの情報を整理すると
被害者男性の部屋に不法侵入
同僚男性が集まり女性用水着を着用
主催者はミニスカサンタで包丁を所持
ミラーボールをはじめ装飾を不法に設置
被害者男性が帰宅後驚いたところで気絶

なるほどな
この男性に脈がまだあるか知りたいであってるか?
救急車呼んだ?

49 @赤い男:00:44 ID:inenysaoul34.net

物理的な脈じゃない
俺に気があるかどうかの脈な

50 プレゼントは名無しさん:00:45 ID:???

文脈を綺麗にスルーしたな

51 プレゼントは名無しさん:00:46 ID:???

お前に気はないだろ今のところ

52 プレゼントは名無しさん:00:47 ID:???

ある気がしない

53 @赤い男:00:50 ID:inenysaoul34.net

もっと脈を探しに来い

54 プレゼントは名無しさん:00:51 ID:???

脈って探すもんだったんだ

55 プレゼントは名無しさん:00:51 ID:???

ただで探してもらえると思うな

56 プレゼントは名無しさん:00:52 ID:???

その誕生日ケーキってのは1が作ったの?

57 @赤い男:00:53 ID:inenysaoul34.net

そうだ
料理は得意なんでな
渾身の出来だった
わー!とあいつも喜んだぞ

58 プレゼントは名無しさん:00:55 ID:???

⸜( >ᗜ< )⸝ わー!

59 プレゼントは名無しさん:00:55 ID:???

よかったな

60 プレゼントは名無しさん:00:56 ID:???

よく魑魅魍魎の宴で喜べたな

61 プレゼントは名無しさん:00:57 ID:???

好きなケーキってのは?味とか?

62 @赤い男:00:58 ID:inenysaoul34.net

あいつにライフワークみたいなもんがあって
その形でケーキを作った

63 プレゼントは名無しさん:00:59 ID:???

あーサッカーボールとか車みたいな

64 プレゼントは名無しさん:01:00 ID:???

へーキャラケーキ的なやつ
いいじゃん

65 プレゼントは名無しさん:01:01 ID:???

それは普通に嬉しい

66 @赤い男:01:03 ID:inenysaoul34.net

喜んだんでな
ここだと思った
一緒にケーキ入刀するか聞いたら嫌だと断られた
は?

67 プレゼントは名無しさん:01:04 ID:???

喜んだのはケーキにでミニスカサンタではないだろ

68 プレゼントは名無しさん:01:05 ID:???

初デートに婚姻届け持ってくるタイプ?

69 プレゼントは名無しさん:01:05 ID:???

お望みではないだろ、勝手に侵入してんだから

70 プレゼントは名無しさん:01:06 ID:???

だから誕生日ケーキに入刀って何?

71 @赤い男:01:08 ID:inenysaoul34.net

喜んでた

72 プレゼントは名無しさん:01:10 ID:???

なんかごめん

73 プレゼントは名無しさん:01:11 ID:???

喜んでたんだもんな!
わかるよ!

74 プレゼントは名無しさん:01:12 ID:???

ここだと思ったんだよな!

75 @赤い男:01:13 ID:inenysaoul34.net

脈ありだと思うか

76 @赤い男:01:23 ID:inenysaoul34.net

全員死んだ?

77 プレゼントは名無しさん:01:24 ID:???

返事がない、脈もないようだ

78 プレゼントは名無しさん:01:24 ID:???

お前らポジティブに考えよう
いきなり皆の前でケーキ入刀は恥ずかしいだろ

79 プレゼントは名無しさん:01:26 ID:???

ちょっと急ぎ過ぎたんだよな
お前自体を嫌いな訳じゃないと思うぞ

80 @赤い男:01:27 ID:inenysaoul34.net

なるほどな
確かに奥ゆかしいところもある

81 プレゼントは名無しさん:01:28 ID:???

てかもうちょっと相手のスペック教えて

82 @赤い男:01:30 ID:inenysaoul34.net

180cm
年は上

83 プレゼントは名無しさん:01:31 ID:???

雑だな
しかし相手もでかいな
見た目とかは

84 @赤い男:01:32 ID:inenysaoul34.net

ムカつくが見た目は良い

85 プレゼントは名無しさん:01:33 ID:???

顔が良くてムカつくとは複雑だな

86 プレゼントは名無しさん:01:34 ID:???

1が言うならモテ男の予感

87 プレゼントは名無しさん:01:35 ID:???

相手は男が好きなのか?

88 @赤い男:01:38 ID:inenysaoul34.net

違うだろうな
俺も別に男が好きって訳じゃない
あいつが特別

89 プレゼントは名無しさん:01:39 ID:???

なかなかハードル高いな

90 プレゼントは名無しさん:01:41 ID:???

ノンケ相手に仕掛ける誕生祝として
100ステップすっ飛ばした感じはする

91 プレゼントは名無しさん:01:41 ID:???

100ステップ後にもこの展開はないだろ
聞くの怖いが部屋の修復ってのは?

92 @赤い男:01:42 ID:inenysaoul34.net

身バレの都合詳しくは避けるが
祝祭の催しであいつの部屋に火がついて
消火に励む過程で部屋が浸水した

93 プレゼントは名無しさん:01:43 ID:???

身バレならまずミニスカサンタで心配しろ

94 プレゼントは名無しさん:01:44 ID:???

ご愁傷様だったな
誕生日ケーキの蝋燭がカーテンに燃え移ったとか?

95 プレゼントは名無しさん:01:46 ID:???

事故か…
まあそれはしょうがないよな

96 @赤い男:01:48 ID:inenysaoul34.net

舎弟がリンボーダンスを披露してな
火を振り回したら部屋に火がついちゃった

97 プレゼントは名無しさん:01:49 ID:???

何言ってんだ?

98 プレゼントは名無しさん:01:50 ID:???

いやマジで何?

99 プレゼントは名無しさん:01:51 ID:???

火がついちゃった、じゃね~だろ

100 @赤い男:01:52 ID:inenysaoul34.net

リンボーダンス知らんか?

101 プレゼントは名無しさん:01:53 ID:???

リンボーダンスはご存じだよ

102 プレゼントは名無しさん:01:54 ID:???

リンボーは相手の趣味なのか?

103 @赤い男:01:55 ID:inenysaoul34.net

舎弟の思いつき
あいつが好きかは知らん

104 プレゼントは名無しさん:01:57 ID:???

リンボーダンスが好きか人生で考えた事ない

105 プレゼントは名無しさん:01:58 ID:???

俺が知ってるナイトプールにリンボーダンスはない

106 プレゼントは名無しさん:01:59 ID:???

サンタもいないだろ
なんで基本的に相手の好み無視なんだよ

107 @赤い男:02:00 ID:inenysaoul34.net

あいつのこと考えるとよくわからなくなる

108 プレゼントは名無しさん:02:01 ID:???

急に恋する男を出すな

109 プレゼントは名無しさん:02:01 ID:???

いじらしいが、結果が惨すぎる

110 @赤い男:02:03 ID:inenysaoul34.net

プールのおかげで消化できたが
水が窓から噴射してな
これにはあいつもおかんむり

111 プレゼントは名無しさん:02:03 ID:???

1聞いてくれ
今のとこ脈はないぞ

112 プレゼントは名無しさん:02:04 ID:???

てかプールってコンセプトじゃなく実在?
マ?
金脈見つける方が早そう

113 プレゼントは名無しさん:02:04 ID:???

死後硬直始まりそう
逆に1はどこで脈ありかもと思ったんだ

114 プレゼントは名無しさん:02:05 ID:???

「月が奇麗だな」で「死ね」のとこ?

115 @赤い男:02:07 ID:inenysaoul34.net

窓から奇麗な月が見えてな
定番の返しやろ
素直じゃない奴なんでな

116 プレゼントは名無しさん:02:08 ID:???

素直じゃないのは100%お前

117 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

「死んでもいい」じゃなくて「死ね」だろ
それはさ「死ね」って意味だぞ()

118 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

火災のち水没での使用は夏目漱石も免責

119 プレゼントは名無しさん:02:10 ID:???

俺なら絶交してる

120 @赤い男:02:11 ID:inenysaoul34.net

脈ありだと思うか

121 @赤い男:02:20 ID:inenysaoul34.net

また全員死んだ?

122 プレゼントは名無しさん:02:21 ID:???

過去じゃなく未来を見ようぜ
本人に聞いちまうしかないだろ

123 プレゼントは名無しさん:02:22 ID:???

それだ!スレ番でLINEしよう

124 プレゼントは名無しさん:02:22 ID:???

いやでもなんて聞くべきか難題だぞ

125 プレゼントは名無しさん:02:23 ID:???

ここはもう一度「月が奇麗だな」しかないだろ!

126 @赤い男:02:24 ID:inenysaoul34.net

いまは寝とるから無理

127 プレゼントは名無しさん:02:25 ID:???

何!?監視してる!?

128 @赤い男:02:26 ID:inenysaoul34.net

いやそこで寝とる

129 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

は!?

130 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

𝑯𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒆𝒏𝒅…………

131 プレゼントは名無しさん:02:27 ID:???

おい茶番!?
ブチ切れていいか!?

132 プレゼントは名無しさん:02:28 ID:???

後日談だったってことか

133 プレゼントは名無しさん:02:28 ID:???

解散

134 @赤い男:02:29 ID:inenysaoul34.net

あいつの部屋ダメになったから俺の部屋で寝とる

135 プレゼントは名無しさん:02:30 ID:???

え?もしかしてこれは今日?昨日?の出来事だったのか?

136 プレゼントは名無しさん:02:31 ID:???

まさかのリアルタイム

137 プレゼントは名無しさん:02:31 ID:???

何度驚かすんだよ

138 @赤い男:02:32 ID:inenysaoul34.net

俺の服着て寝とる

139 プレゼントは名無しさん:02:33 ID:???

もしかして:
自慢されている

140 プレゼントは名無しさん:02:34 ID:???

それは浸水させたからだろ

141 プレゼントは名無しさん:02:34 ID:???

一周回って1の不器用さが好きになってきた

142 @赤い男:02:35 ID:inenysaoul34.net

俺はこいつが好き
すまんな

143 プレゼントは名無しさん:02:36 ID:???

俺はなんで振られたの?

144 プレゼントは名無しさん:02:37 ID:???

それは既知情報

145 プレゼントは名無しさん:02:38 ID:???

相手の顔みたい、一瞬だけあげてくれ

146 @赤い男:02:40 ID:inenysaoul34.net

断る

147 プレゼントは名無しさん:02:41 ID:???

えー見たい

148 プレゼントは名無しさん:02:41 ID:???

見たい見たい!

149 プレゼントは名無しさん:02:42 ID:???

見たら脈が見えそうな気がするし
見えそうで見えない気もする

150 プレゼントは名無しさん:02:42 ID:???

相手実在してんのか?
どう考えても創作スレだろ

151 @赤い男:02:44 ID:inenysaoul34.net

おるわ
じゃ保存するなよ
https:// xxxxxx …

152 プレゼントは名無しさん:02:45 ID:???

マジもんの美形じゃねーか

153 プレゼントは名無しさん:02:46 ID:???

人間てこんな綺麗に寝れるんだ

154 プレゼントは名無しさん:02:47 ID:???

えなんかどっかで見たことあるかも
芸能人?

155 @赤い男:02:48 ID:inenysaoul34.net

俺の服着て寝とる

156 プレゼントは名無しさん:02:49 ID:???

それは分かった

157 プレゼントは名無しさん:02:49 ID:???

画像消えちゃった

158 プレゼントは名無しさん:02:50 ID:???

ほんとに秒だったな
スレ民が姿勢を正したのを感じた

159 @赤い男:02:52 ID:inenysaoul34.net

もっと感謝しろや
撮るの緊張したんだからな

160 プレゼントは名無しさん:02:53 ID:???

かわいい面を見せる1

161 プレゼントは名無しさん:02:54 ID:???

よ!恋する男!

162 プレゼントは名無しさん:02:55 ID:???

できれば成就して欲しいが
登る山は高そう

163 プレゼントは名無しさん:02:56 ID:???

つーかさ
部屋にいるなら同衾しちゃえば!?

164 プレゼントは名無しさん:02:57 ID:???

確かに!
もうこうなったら既成事実作っちゃうしかないかも

165 @赤い男:02:58 ID:inenysaoul34.net

付き合ってもないのにそんな事出来るかボケカス
ドタマかち割るぞ

166 プレゼントは名無しさん:02:59 ID:???

凄い罵倒

167 プレゼントは名無しさん:03:00 ID:???

1の倫理観が分からん

168 プレゼントは名無しさん:03:01 ID:???

同衾より凄い祝祭をしただろ

169 プレゼントは名無しさん:03:02 ID:???

つーか1は好きな奴とどうしたいの?付き合いたいの?

170 @赤い男:03:04 ID:inenysaoul34.net

付き合いたいと言えばそうだが
俺から言いたくない
付き合ってくれと言わせたい

171 プレゼントは名無しさん:03:05 ID:???

危険人物の思想だ

172 プレゼントは名無しさん:03:06 ID:???

告白から遠ざけてるだろ
この一連の行動は

173 プレゼントは名無しさん:03:06 ID:???

まだ砂場の山も登ってないのにヒマラヤ登頂を目指すな

174:03:08 ID:inenysaoul34.net

長い付き合いなんでな
確実でもない限り言わん

175 プレゼントは名無しさん:03:10 ID:???

あ~~~~それはそうだよね
振られたら気まずいか

176 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

それはわかる…………

177 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

その気づかいが出来るのに
この催しを開催してしまったんだな

178 プレゼントは名無しさん:03:12 ID:???

極端だな

179 プレゼントは名無しさん:03:14 ID:???

もし1が告白したら何%ぐらいOK貰えそう?

180 @赤い男:03:15 ID:inenysaoul34.net

99%

181 プレゼントは名無しさん:03:16 ID:???

え~~~~~~~

182 プレゼントは名無しさん:03:17 ID:???

自信満々

183 プレゼントは名無しさん:03:19 ID:???

1ってジェットコースター?
アップダウン凄いんだけど

184 @赤い男:03:20 ID:inenysaoul34.net

俺も相当いい男だからな
あいつも付き合おうと言われたらな
うん言うはずや
だがあいつから言わせたい

185 プレゼントは名無しさん:03:21 ID:???

たぶん99%じゃないだろ

186 プレゼントは名無しさん:03:21 ID:???

現実を見ろ

187 @赤い男:03:22 ID:inenysaoul34.net

現実主義者だからスレも立てたんやろ
脈ありなら朝勝負に出よう思ってな

188 プレゼントは名無しさん:03:23 ID:???

さんざん脈なしって言われただろ!
つーかもう結局言いたいんだろ1は
言っちゃえ!!

189 プレゼントは名無しさん:03:24 ID:???

待て待て
成功確率限りなく低いだろ
安易に背中押すな

190 プレゼントは名無しさん:03:24 ID:???

脈を見つけるまでこのスレ終わりそうにないぞ

191 プレゼントは名無しさん:03:25 ID:???

最長スレ目指すか

192 プレゼントは名無しさん:03:25 ID:???

スレ99でどんな誕生日が催されるか見物だな

193 プレゼントは名無しさん:03:26 ID:???

最後は五山送り火に負けないぐらい火をつけちゃおうぜ

194 プレゼントは名無しさん:03:27 ID:???

でもさ
奇祭!火災!水没!の惨劇を「死ね」で許してくれる相手って
けっこう1の事好きじゃない?

195 @赤い男:03:27 ID:inenysaoul34.net

やっぱそうだよな

196 プレゼントは名無しさん:03:28 ID:???

レス早

197 プレゼントは名無しさん:03:28 ID:???

最速のレス

198 プレゼントは名無しさん:03:29 ID:???

いや許されてはないだろ!?

199 プレゼントは名無しさん:03:30 ID:???

いい笑顔で打ってんだろうな

200 プレゼントは名無しさん:03:30 ID:???

真顔かもしれんぞ

201 プレゼントは名無しさん:03:31 ID:???

真顔はこわい

202 プレゼントは名無しさん:03:32 ID:???

1はずっとこわい

203 プレゼントは名無しさん:03:33 ID:???

そうそう
他の同僚がいるなか1の部屋にきたんだよな
おそらく奇祭の主催者である1の部屋に!
そこにも脈はないだろうか

204 @赤い男:03:34 ID:inenysaoul34.net

おい待てそういや
お前が責任とれ言うてた

205 プレゼントは名無しさん:03:35 ID:???

そりゃ結婚じゃん

206 プレゼントは名無しさん:03:35 ID:???

結婚だ!

207 プレゼントは名無しさん:03:36 ID:???

Congratulations!!

208 プレゼントは名無しさん:03:37 ID:???

良かった良かった!

209 @赤い男:03:38 ID:inenysaoul34.net

味噌汁の具材買ってくる

210 プレゼントは名無しさん:03:39 ID:???

なんで?

211 プレゼントは名無しさん:03:40 ID:???

今3時だぞ!?

212 プレゼントは名無しさん:03:44 ID:???

本当にレスがない

213 プレゼントは名無しさん:03:46 ID:???

味噌汁の具材ってなに?隠語?

214 プレゼントは名無しさん:03:48 ID:???

地球の裏側まで味噌汁の具材?
を探し行った?

215 プレゼントは名無しさん:03:50 ID:???

1のことだから
・美味い味噌汁を作る
・「この味噌汁を一生作ってくれ」
・相手からの告白!
・𝑯𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒆𝒏𝒅

216 プレゼントは名無しさん:03:51 ID:???

この数時間で1を理解しすぎだろ

217 プレゼントは名無しさん:03:52 ID:???

だから自分から言えよ!!!

218 プレゼントは名無しさん:03:54 ID:???

勝負に出るって味噌汁作るってこと!?
中学生!?

219 プレゼントは名無しさん:03:56 ID:???

これ味噌汁検討スレ?
付き合うまで100年かかりそう

220 プレゼントは名無しさん:03:58 ID:???

今何年目なんだよ
不老不死でもない限り無理だろ

221 プレゼントは名無しさん:04:02 ID:???

そして1は戻ってこなかった

222 プレゼントは名無しさん:04:03 ID:???

悪い奴じゃなかったのに
背中押した奴らは責任とれよ

223 プレゼントは名無しさん:04:05 ID:???

1、骨は拾ってやるからな
美味しい味噌汁を作れよ

224 プレゼントは名無しさん:04:07 ID:???

アーメン

1 / 10
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パソコンの画面が手元をちいさく照らす、暗く静かな部屋。マウスを滑らせスクロールし終え、東海道本線は掌を止めた。

「なんだ、これは…」

宿舎自室が倒壊して「お前が責任取れ!」と山陽の部屋に押し掛けた。ずぶ濡れの制服を洗濯機に放り込んでシャワーを浴び、勝手に服を借りベッドにもぐりこんだ。家主を差し置きどうこうと言われたが、もう一寸も聞く気が起きず熟睡。それから何時間経ったか。額にほのかな熱、シャッター音でうっすらと意識が浮上した。ぼやけた頭に響く微かなキータイプ。カシャンと鍵が締まる音で覚醒した。

何度か瞬き、そういや山陽の部屋だったと思い出す。見渡すも家主はおらず。キッチンのテーブルにぽつん、と明かりがついていた。近づくとそれはノートパソコンで、べたべたと球団ステッカーが張りついている。興味本位に覗き、口元を手で抑え、次第に険しい顔になり、最後は混乱した。つらつら書かれた出来事が、二つとあって堪るかと思う。つまりどのように考えても「1」とは、山陽本線の事である。

深夜4時、眉間を揉むと一度考えるのをやめる。ずるずると椅子に凭れると、視線の先、社宅にしては良い冷蔵庫。そういや何も食べてない。空腹感に冷蔵庫を開けると、頬がひやり、その明るさに片目を細めた。丁寧にラップを被った兄さんのケーキ。そろりとテーブルに運び、流しからフォークを借りる。きちんと手を合わせ、手掴みで型崩れたヘッドライトをすくう。

うまい、とつぶやく感想も静か。か細い月明りに皿を引き寄せ、そこに兄さんを照らす。兄さんのフォルムは、いかなる時も甘美で完璧だ。兄さんビューで、もう一口頬張る。「happy Birthday 東海道本線くん♡」のプレートに、遺憾の顔で絞り出す山陽の「ハッピーバースデー」が聞こえた。

山陽本線には、長年嫌われている、はずだ。正直、東海道を堂々嫌う路線は片手に収まる。気儘な宇都宮にも気遣いはあるし、今や関西とも険悪な素振りである。仲良くない、を続けるのは意外と難しい。そのなか山陽はわざわざ顔を突き合わせ「お前が嫌いだ」と心底嫌そうに言う。根気強く百年以上。

それなのにだ。あの山陽本線が、あの書きぶりでは恋仲になりたい意味で俺を好きだと言う。

んなことあるか。

空が赤くなり海が干からびるような話で、どうにも迷子の心地で膝を抱える。豊富な皮肉、大掛かりな罠、陰湿なちょっかい、その数といったら思い返しても憤慨する。その熱量といったら信じがたく、誕生祭もその筆頭だと思った。今だって、用意周到にサイトまで用意し反応を面白がるつもりかもしれない。だったら思い悩むのも馬鹿らしい。

指先で銀のフォークを揺らす。

すっかり冷えた。ケーキは丁重にラップに包み直してお帰り頂き、ノートパソコンの前に座った。マウスを滑らすと省エネモードが息を吹き返し、画面の光が瞳を刺す。マウスを、そっと巻き戻し見つめる。

『俺はこいつが好き』

その言葉、静かな部屋はいっそう音をなくした。

脳裏に浮かぶ山陽は、どれもこれもしかめっ面をしてる。ぎゅっと眉間に皺を寄せた小言、晴れた日ホームで電車を見つめる姿、隣のデスクで手持ち無沙汰にペンを回す掌、式典で背筋を伸ばした立ち姿、あるいは。ぽつ、ぽつ、と様々な場面を捲る。

何度目とも知れぬ溜息が、製氷皿がカチャンと鳴る音に重なった。一応、見てない事にした方が良いだろう。同じところまでマウスを戻し、ベットに潜り込む。古い型のエアコンが軋んで、前髪が揺れる。宿舎の窓越しに車のクラクションが聞こえた。枕に頬を埋めると壁伝いに低音、無精な奴がラジオをつけっぱなしだ。シーツが、山陽くさい。夏の陽に照る海のような溌剌とした香りだ。山陽の匂いなんて考えた事もなかったのに、これだと分かる。分かるのも何だか気にくわない。東海道は瞼を瞑り、ぼんやりと考えた。

好いた相手に嫌がらせなんて、何の得があるんだ。

……

考えながらも体は重く、またベッドに沈んでいく。

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深夜4時。24時間スーパー、野菜コーナー前。山陽本線は仁王立ちしていた。がらんとした店内。効きすぎた空調、気の抜けたBGM、欠伸交じりにスマホを眺めるレジ番。仕入れたての野菜達だけが、青々とカゴに詰まっている。

家主のベッドですーすーと眠る東海道を横目に、ちっとも眠気が来ずパソコンを開いた。ていの良い暇潰しだ。手慰みにあけすけ書いてしまったが、あれがああいう類のものを見る事はまずない。山陽は東海道がどのような男かよく理解してるつもりだ。駆け引きの類もほとんどしない、好いてくる相手を好き、嫌ってくる相手を嫌う、存外素直な男。

だからあれが自分に気がない事も知っている。よく分かっている、だから「暇潰し」なのだ。

掌に触れた野菜はひやりとした。それを手早く選り分けていると、昔の事を思い出した。昔、まだ山陽鉄道だった頃。

人間達に我が子のように育てられた山陽は、人間的な考え方をよくした。周りの人間との違いもさほど感じず、だから初めて東海道に会った時は驚いた。東海道は間違いなく、鉄道であったから。この国のはじまりの鉄道としての使命を背負い「人ならざる」を期待された男。それは山陽が初めて見た違うものであった。

東海道はいつも威圧的で融通が効かず。山陽にとって東海道は、長らく国そのもの、象徴だった。詰め寄れば硬く結ぶ唇も、険しく寄る眉も山陽を苛立たせた。当時多くの者と相対する東海道は、時に処世術として沈黙を用いた。不用意に言質を取られるぐらいなら、黙っていた方が潔い。いまは面影もないが、寡黙な男だと思われていた。しかし山陽は、対話する必要なしと言われたようで腹が立った。だから余計に詰め寄る。もっと対等に、その口を開かせる事は出来ぬものか。それはついぞ叶わぬまま、時は流れ、国有化に至るのだが。

ある春の頃だ。

国有化に伴い官設の宿舎にも順次、元私鉄勢の部屋が設けられた。借り上げた自社の宿舎にそのまま居すわるものも、素直に越してくるものもいた。山陽は西の宿舎に越す予定だが、都合上、東にも住まいを設けると知らされ東京へと足を運んだ。西と比べてもひと回り大きな宿舎、あちこちに見慣れぬ顔。誰しもが物々しいムードを醸していた。由緒ある調度品が規則的に並ぶ長い廊下は年季が入っており、歩くと微かに軋む。あいにく小雨が降っている。気疲れのせいか、着なれぬ新しい制服が肌にまとわりつくようだった。

と、急にがくり態勢を崩し片足で踏ん張る。振り返って、腑に落ちた。視線の先、窓辺に凭れている男を睨みつける。

「ごめんね、僕の脚が長かったみたい」

広げた新聞から覗いた顔は、元日鉄の双子だった。昼にもよく似た顔を見て、あれは大概気性が荒そうだった。こちらは一見大人しそうだが、その声色から似たようなものだと察した。胡散臭く上品ぶった物言いだ。

「そう思うなら丁重にしまっておけ」
「次からそうするよ。ねえ、名前」
「山陽…」
「ああ、やっぱり。あの躾のない犬だと思った」
「あ?お前。…喧嘩売ってんのか?」
「そんな事しないよ、僕はね」
「何が言いたい」
「別に何も。どんな顔してるか見てやろうと思ってたからさ。思った通り野蛮そうな奴だ」
「あ!?」

思わずその襟元を掴むと、新聞がバサバサと散った。随分高い背はびくとも動かなかった。目前の唇が馬鹿にしたようにゆがむ。

「噂通りすぐ手も出る」

挑発的な目の色に、なるほど。それで言わんとする事が分かった。東海道の背を斬った事をなじられてるのだと。東海道が旧来より日鉄とは懇意にある事を噂には聞いている。は、と山陽も笑いが込み上げる。

「ああ、そりゃ悪かったな。俺が野蛮ならお前は東海道様の稚児か?お上品な野次でも頂けるのかね」
「ごめんね、ボソボソよく聞こえなくて。もしかしてまだおしゃぶりが外れない?東海道に新しいのを頼んでやろうか」

襟元から乱暴に手を離す。強くなってきた雨風がガラス窓が打ち、カタカタと揺れていた。分厚い雲が影を落とす。

「東じゃこういう慣れあいが流行りか?趣味の悪いこった」
「ただ世の道理に無知だから教えてあげようと思って。親切だよ」
「あれはそういうもんじゃない。矜持の問題だ」
「へえ、矜持?東じゃ懲罰ものだけど、西だと矜持って言うんだ。勉強になったなあ」
「どうやら東の奴らは情緒ってもんを持ち合わせてないらしい、ならいますぐ罰したらどうだ?」
「東海道が上にあげずでお咎めないらしい。よかったね、おしめも変えて貰えて」
「俺が頼むか、ボケ!…は!どうせあれが恩着せがましくした事だろう。厚かましい、そういう傲慢な所も腹が立つ」

日鉄のはちっとも面白くなさそうに笑った。

「なかなか立派な捻くれ者だね」
「お前もな、頭が腐ってるならいい医者を紹介してやる。手遅れかもしれんがな」

今度は互いに掴んだ襟元が、ぐ、と締まり。力締めた拳に血管がすけた。

「お前とはとことん気が合わんようだ」
「気が合うね、僕もそう思ったところ」
「俺は国に飼われたとて、今後変わるつもりも牙を納めるつもりもない!」

眼差しがひやりと細まった。黒い雨雲が速足に、暗い廊下で瞳だけがぎらぎらとしていた。

「ならその牙、二度と納めるなよ」
「ああ、そうするさ」
「せいぜい、研ぎ過ぎて折れない事を願うよ」

日鉄が手を緩めると、遠巻きに見ていた路線達の声も静まった。誰が言いつけたか、カツカツと音を立て近づいてくるのはくだんの男であった。本日も隙なくビシリと制服を着こなし、眉を顰めている。

「こらッ!路線同士の私闘厳禁!」

聞きなれた声に掌を離し、己の襟元を整える。

「あ~あ、うるさいのがきた」
「チッ」
「お前らは目を離すと、全く!」
「別に、挨拶してただけだよ」
「そんな挨拶があるか!!」

日鉄の、は変わらず暗い目で笑いながら東海道に耳打ちした。東海道は片眉だけ動かし、しかし何も言わなかった。その肩を軽く叩くと、山陽を一瞥し踵を返す。でかい背中がゆうゆう去っていく。あたりの路線も、東海道が視線をくれると、蜘蛛の子散らすように去っていった。膝をつくと、散乱した新聞を溜息交じりに拾い上げ。

「山陽本線」

まださして呼び慣れぬ響きに、眼差しだけ向ける。

「説教なら後にして貰っていいか、俺も忙しいんでね」
「その荒い気性はどうにかしろ」
「それはあれに言え!あれが先に始めた!」
「あれには…もう随分長い事言っている」
「ハア、なら随分と特別扱いですなあ!」

赤い瞳が呆れたように山陽を見る。文句があるのはこちらだと言うのに。

「それで言えば、山陽本線。お前も俺と並び立つ日本の大動脈、折れてはならん背骨だぞ。その重みをゆめゆめ忘れるな」
「これはこれは。犬めに大層なお言葉を、どうも」

恭しく胸に手をあて一礼差し上げると、東海道はいよいようんざりとした顔をした。

「言いつけた通り、お前ももう国のもの。時に感情を飲み込まねばならんし、言い分を分かってやれん時もある」
「今日も傲慢だな、官設。いつ誰が分かって欲しいなど言った?お前なんぞに俺の気持ちは分からん」
「ああ、なら俺が分からんでもいい。いいが、国のために努めろ。そうすれば俺もお前を尊重し歓迎する。まあ、ここには犬扱いを喜ぶ路線もいるが、お前は嫌だと言うのも心得た」

随分と心ない、不遜な謝罪だと山陽は思った。これで嫌味のつもりもないのだから尚悪い。

「ッハ、別にいい。お前にどう思われようが俺には関係ないんでな!」

すると東海道は困った顔をした。そうした顔を、すぐ見せるようになった。

東海道は山陽が強く当たっても、感情を露わにはしなかった。なのに勝手にその土俵から降り、もう前を見ている。先の話、もう仲間だからと温情を図ったに違いない。それは路線として東海道として正しく、合理的だ。山陽はその合理が気にくわなかった。山陽鉄道が山陽本線となった、事実だけに向けられた合理。その優しさはかえって山陽を蔑ろにする、俺の事などどうとも思ってない、だからやすやすと態度も変える。刃を向けた山陽を堂々叱咤すればよかったものを。穏やかに、馴れ馴れしく、それが山陽には堪らなかった。

「分かった、今日はもう言わん」

また、すぐそう諦める。山陽は恨めしく東海道を睨んだ。

いつの間にか雨が止んだ。差し込む西日が眩しく、陽を背負う東海道の髪先が、静かに赤く輝く。その瞳はいつも、夕陽沈む海原のように燃えている。その度、山陽は初めて出会った東海道を思い出す。まだうんと小さな体で見上げた東海道を。自分とは違う、路線の姿を。心に燃えた感情を。むず痒く、制服の胸元を掴む。

この感情をシンプルに言えば「もっと俺を見ろ」という事だった。だが山陽はまだそれを自覚し、言語化する術を持たず、ただ苛々としていた。

「だがこれだけ言っておく。すぐに拳をあげるな、揚げ足を取られる。是非もよく考え、慎重に口にするよう努めろ」

東海道が掌をあげた。おそらく握手だっただろう、伸びた指先に喉が鳴った。無意識に乞うたようで掌を払うと、思うより勢い良く、パシリと高く乾いた音がした。山陽自身が驚き、東海道も目を瞬かせた。宙に浮いた掌。ずっと眺めてたように錯覚したが、ほんの一瞬だった。

東海道はじっと山陽を見つめた。温かく穏やかな瞳。山陽は後ずさるのを堪え、顎を引きぐっと引いた。すると東海道はもう何も言わず、溜息をひとつ、踵を返した。その背に伸びかけた掌を、爪が食い込む程硬く握る。山陽だけその場に佇んだまま。もう外は何の音もしなかった。

それからしばらく。日鉄のあれは、先手打った牽制だったと察した。東海道と話す場に双子がいると、山陽をじっと見つめ、時に口元をちょんちょんと示してくる。お前、牙は折れたのかと。当然腹が立ち、東海道を跳ねのける。別にいい、今後も東海道と慣れ合うつもりなんて毛頭ないのだから。ざわざわ騒ぎ立つ胸からも目を背け、次第に元私鉄達が東海道と旧友のよう振るまったとしても。

俺は違う。絶対に、他の路線達とは違う。

山陽本線、まだ齢十八の頃。その後百年を超え東海道にままならない思いを抱える発端は、あれかも知れない。今や誰もが忘れさった義理だった。

東海道が遠く未来を見る眼差しに、鉄道の行く先へ、次第に山陽も思いをはせるようになった。はじめは東海道と連れ立つ事は、過去を失う事だと思った。しかし過去を重んじながら未来を目指す事は両立出来る。そう考えるに至ったのも随分経ってから。本当はよく笑い、よく憂い、よく怒る男。共にする時間が増え、自身の感情に向き合い、そのかたちを理解した。

しかし。

「いまさら、そんなこと言えるか」

東海道から対等の感情を欲し、特別でなければ嫌だった。だがこの錆びついた意地、もはやどこに油をさすべきか見当もつかない。山陽自身もどうすべきかを知らない。動くならいつだって今が一番早いが、簡単ではない。

心を打ち明け、すげなく断られるのを恐れている。矜持もある、そして今だ、苛立ちも。見込みのない願いは、口にしないに限る。だからいつか東海道が気づき、それが最良のかたちである事を、星に願いをかけるように微かに期待している。149周年祝いだって本当はそうだったのだが。目を瞑ると瞼の裏。上官グッズを台無しにした水浸しの部屋、東海道が怒りの表情を浮かべ自分を見つめていた。想像のあいつが口が開く前に。ふうと肩で息をはき、空を見上げる。

まるい月が雲から顔を出し、奇麗に輝いている。今日はひとり、ビニール袋をさげた掌を握りしめた。

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東海道の頬に朝陽がさして暖かく、いい香りで目が覚めた。小気味よく俎板を叩く音。まだぼけた視界に山陽の背中が映る。今度はちゃんといる。寝転んだままぽつりと声をかけた。

「山陽、ちゃんと寝たか」

音が止まり。またト、ト、と鳴りだす。

「すぐに寝た。まあ、誰かさんがベットで幅きかせてたもんでな、久しぶりに床と仲良うしたわ」
「ご愁傷さまだが…お前が原因だろ!」
「あ?お前が無駄にデカいのは俺のせいか?」
「お前なあ」

東海道は前髪を掻き、目を凝らした。部屋を見渡すとノートパソコンは消えており、朝方見た夢かもしれないと思った。つまり昨日からずっと、悪夢を見ているらしい。のろのろと起き、洗面台で顔を洗うと加減が分からず泡だらけになった。シティホテルの歯ブラシ、分厚いタオル、ドライヤー、導線に欲しい物が悉くある、山陽はそういう気配りは出来る男だ。

「まあ、出来あいの味噌汁ぐらいは出してやる。飲んだら出社するぞ」
「出社の前に、謝罪だろ。今日は…」

は、と軽い笑いひとつ、味噌汁が差し出される。人参に大根に牛蒡、鶏肉まで。仕上げに葱が散り、随分と朝食を忽略している東海道には、どこが出来合いだと言う仕上がり。椅子に腰かけ、夢と現実の狭間の書き込みに、複雑な心境で山陽を見上げる。そして一応、あんな奇祭でも、東海道の祝いにした事だと思い出した。

「山陽本線、ありがとう」

味噌汁の礼と思われたか、山陽は目を合わせず数秒の沈黙で答え、箸を差し出した。木目の椀がやわらかく湯気立つ。山陽が手前に座り、共に手を合わせる。箸をあげると、山陽に見られている事に気づいた。じっと見つめている訳ではない、横目に、さりげなく様子を伺われている。頬がぴりと痺れ、何となしに指で拭う。

「おい、食わんのか」
「いや」
「何だよ」
「もらおう」

両手で椀をあげ、静かにすする。うん。コクと出汁の甘味、箸で摘まむと星形の人参。ほ、と口元がほころぶ。それを眺めた山陽も、ようやく味噌汁をすすった。

テレビから朝のニュースがぽそぽそと流れ、窓越し青い快晴。路線達の朝支度も聞こえる。味噌汁のせいか暖かな胸、牧歌的であった。山陽が調った所作で箸をあげる。見慣れた顔、だが黙せば硬質な端整さがある男だ。精悍な輪郭と涼しげな目元、身支度を整え、パリッとしたシャツ。筋が浮かぶ掌が椀を掴む。

東海道はなんだか、今がいつであったかと懐郷の心地がした。

「山陽、この味噌汁…」

凡庸に誉めかけ、ふと夜更けの掲示板が浮かんだ。「この味噌汁を一生作ってくれ」というレガシーな台詞。一生とは、路線には随分と重い。人間のように限りないこの行く末に。告げてみれば山陽がどんな顔をするか興味が湧いたが、待て、100%馬鹿にされるに違いない。なら単純に褒めるかと思案するが、それも待てだ。山陽は「出来合い」と言った。それなら褒めても安い舌だとか、出来あいでもお前には作れんだろうとか、西の味付けが分かるものかと言うはずだ。反撃がスムーズに思い浮かびムッとする。

全く好きな相手にそんな事言うものか。

と考えて数秒、驚きに肩が跳ねた。この山陽本線相手に、あれを一握りでも信じた事にだ。そうあったら良い、という事だろうか。いや別にそんなことはないが。だが嫌われてるより好かれた方が良いには決まって…

うんうんと黙り込む東海道の百面相、不審に顔を顰める山陽と目が合う。しまった、とまたフリーズしてひと呼吸。さっと頬が熱くなった。

「な、なんでもない」

山陽は面食らった。全くよく分からないが、かなり好意的なリアクションだ。いい事を言おうとした、つまり瓢箪から駒も出る。山陽がこうした手慰みをするのは、立ち行かない状況に、神の遊び心で光明差す事を願うからでもある。喉が鳴り、前のめりに尋ねた。

「なんだよ、言え」

東海道は30度、テレビに向き直り。

「なんでもない、と言ったろ」
「ああ?言いかけたら気になるだろ」
「ほら、山陽、ニュースで」
「ニュースはいい!」
「だから、もういいと」
「は?勝手に終わらすな」
「なんでもなかった、しつこいぞ!」
「何がしつこいじゃボケ!」
「ボケと言う方がボケだ!」
「あー!ガキかお前は!149にもなってたいがいにせえ!それとも本物のボケでも始まったか、じじい」
「お前こそガキかじじいかハッキリしろ!」
「どっちもや、ボケカス!」

東海道は椀をトンとおき、山陽を睨みつける。

「全くお前は!部屋は壊すし嫌味ばかり、俺にはずっとそうだな!」
「は、そりゃ当たり前や。お前を嫌うのは空にお天道様が昇るようなもんやろ!」

いつも通りの軽い返答だった。なのに急に、目頭がじんと熱くなった。咄嗟に顔を背ける。東海道も思うより気落ちした自分に戸惑い、無為に期待した事を後悔した。山陽に好かれていると思ったら、ほのかに、だが確かに嬉しかったのかも知れない。重ねた掌を見つめる。

「……わ」

山陽を上目に伺うとうっすら青白く、固まっていた。

「悪かった」

東海道は予想外に瞬き、だがやはり言葉が見つからず黙った。

どれだけ憎まれ口を叩いても受け流すか怒るかの東海道が、目に見えて沈んでいる。山陽はすぐ、兄のグッズを駄目にしたのは良くなかったと思い当たった。気丈に見えてその実ショックは大きかったに違いない。あれは東海道にとってもはや命と同義。ほのかに赤い目尻、後ろめたい気持ちが、ずしり心を潰した。

「……」
「……」
「…お前の、あれだ。東海道上官の、弁償するからな」
「ああ」

東海道もそれとなく、なるほど、山陽の心当たりを察した。実の所兄グッズは3社宿舎に予備もあり、紙類以外は濡れに強いものばかりでさほどダメージはない。でも山陽とのあれこれにダメージを受けたと知られるよりずっと良く、東海道もそのようにした。

「他にも欲しいもんがあったらな…買ってやってもいい。まあ、誕生日やからな」
「そうか」
「バカ高いやつは止めろよ」
「うん」
「そこそこなら、いい」
「わかった」
「後で教えろ」
「そうする」

いつもより早口に山陽が捲し立て、慰められるのも返って気恥ずかしく、ああ、うん、と頷く。それから何を言うのも妙な空気になり。また二人で味噌汁をすする。ず、ず、と赤子を起こさぬような慎重さで。山陽が空の椀に手をあわせ、東海道もならった。

それから互いに上の空の返事を繰り返し朝支度を整えた。東海道の手持ちの制服はクリーニングに出し、ほぼ変わらぬサイズの山陽のを借りる。一日中この匂いと連れ立つのも落ち着かないが。狭い玄関で靴ベラを引っかけると、山陽の腕が伸びた。東海道が反射的に片目を瞑ると、跳ねた前髪をさらりと直された。至近距離に視線が交差し、逸れる。額を擦っていった指先はやわらかなのに、涼しげな瞳はばつが悪そうだった。優しいところも確かに、ある。廊下を駆ける路線の足音が聞こえる。爪先でトンと床を叩き、山陽に向き直る。

「山陽、さっきの事だが。…味噌汁、また飲みにきてもいいぞ、と言おうとした」

百三十年見慣れたポーカーフェイスが、何を思うのか。東海道に推し量れず、しばしその瞳をのぞく。

「言おうとしたが、お前が嫌味を言うかと思いやめた。言わなくても、言われたがな」

山陽は少し面食らったように目を細め、それから顔を背けた。

「…なら、また来い」
「俺は、言おうと思い、やめた、と言ったんだ」
「いいから来い」
「やめたと言ったろ、バカ野郎」
「来い、ボケカス」
「知らん!もう来ないからな!」
「こっちこそ知らん!ああ、来るな!入れるかボケ!」

む、と同時に顔を顰める。睨めっこよろしく埒が明かん、とノブにかけた手が重なる。ロマンチックの欠片もなく競い合って廊下に出て、同じタイミングでそっぽ向いた。職場も線路も繋がってるので、どうせ行先は同じだが。

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東海道149周年生誕祝西宿舎大破事件だが、偉い人から死ぬほど怒られた。ここまで宿舎を破壊したのは類を見ないとして、各宿舎にも厳重注意が張り出され、全国に轟く事件となった。この事件名称ではさも東海道が主犯みたいで嫌であったし、各地の路線から「あれどうだった」と顛末を尋ねられ、噺家ほどに説明が達者になってしまった。

時は戻り、まだ朝。西営業所で神戸線は横並びこってり絞られた。

東海道が事態を止められたか考えると大いに承服しかねるものの、そこは最年長「俺のせいではない」とも言えず。しかし部屋もグッズも駄目にされ、朝から開き直られ、なぜ主犯のごとく怒られているのか。諸悪の根源は山陽本線である。終わる頃にはさすがに腹が立ち、考えた。

山陽が俺を好く天変地異の可能性に気を取られたが、あれには俺から告白させたいとも書いてあった。誠に遺憾である。どうしたらそうなる。言うなら山陽から言うべきだと思った。好きだとも、付き合おうだとも。山陽がはっきり言えば良いのだ。真偽を明らかに、なんなら言わせてやる。俺があれこれ悩む必要なんてない。

東海道が反論せず粛々と謝罪した事により、きっと山陽にも拳大の悪気を植えつけたはずだ。丁度都合も良い。東海道は一つの勝負に出る事にした。

「山陽、兄さんグッズを弁償すると言ったな」

休憩時間が合う都合、神戸線はやいやい揉めながら昼食をよく共にする。同僚からの「喧嘩しながら食う飯は美味いか」との揶揄にも慣れた。足を運んだ三ノ宮の洋食屋で東海道が切り出すと、山陽はしばし黙ってパスタを巻いていたが、ああ、と応えた。平時の山陽なら、すっとぼけるか、稼いでる奴がしょぼい事をと嫌味で返してくる。第一段階をクリア。少なくとも悪いと思っていると判断し、慎重に進める。

「男に二言はないな」

保険である。この言い方をすると、割と義理堅い山陽は反故にしにくい。足を組み替えながら、ああ、と応える。よし。

「まず弁償だが、せんでいい」
「あ?んだそりゃ」
「考えてもみろ、俺は大事な兄さんグッズを失った上、記念すべき150を前に平に謝罪させられたんだぞ。それを金銭的弁償とは気が済まん。お前も稼ぎがある方だしな。だから反省しろ、と言う意味で罰を考えた」
「やらん」

想定の範囲内だ、あまりの速さに腹が立つ。

「おい、二言はないと言ったろ」
「俺が言ったのは弁償だ。お前が考えた訳のわからん罰じゃない」
「弁償すると言ったのは俺への謝罪の気持ちからだろ。なら、俺が望むべきことをすべきじゃないか」
「詭弁だな、口がよく回る。あとで弁償品のリストを出せ」

山陽がこう嫌味な言い方をするから、こちらも言い返す。すると倍言い返され、喧嘩になる。普段ならこのまま言い合って解散だが、我慢して、黙る。山陽は知らん顔でパスタを頬張っている。気持ち良く消える大きな一口を眺めながら。

「俺があれこれ考えたのに、聞かないのか」

アイス珈琲にシロップ2杯。山陽はこれを使わないのでいつも勝手に使う。マドラーでグルグルかき混ぜると氷が鳴って涼やかな音がした。まだ反応がない。何とか言え、と思いながら。

「…聞かないのか?山陽本線」

カウンターのラジオから懐かしい曲が流れている。サビに差し掛かる頃、完食の皿に、カチリとフォークが鳴った。山陽が長く息を吐き出す。

「聞くだけなら、聞いてやる」

いつもと違う反応にひとまず、安堵する。喜びを露わにしては山陽が気変わりしかねないので、眉を顰め腕組みする。

「聞いたらしてもらうぞ」
「聞くだけや」
「実は俺もあまり言いたくない」
「なんだそりゃ」
「だがこれが効果的だと思う罰だ」
「は?命に関わる事じゃねーだろうな」
「んなこと願うか!第一お前はしぶとい、早々死んだりせんから安心しろ」
「は」

目を細め皮肉っぽく笑う。またバカにしたな。

「罰は二つだ、話すぞ。俺の部屋は修繕中な訳だが、明後日まで西の仕事だ。だから、このままお前の部屋で面倒みろ」
「それが罰か?」
「一つ目のな」
「は、存外に軽いな。だが、もう来ないんじゃなかったか?」
「過去の事ばかり話す男は嫌われるぞ」
「ハッ」

山陽は拍子抜けして椅子に凭れ。

「あ~~金が浮いてよかったわ、すいませんなあ」

呑気に足を組むのを横目に、また嫌な言い方をすると呆れ、咳払いして背を正す。

「分かって何より、なら二つ目もいうぞ。その明後日までだが、お前は俺の事を愛すように!」

山陽は珈琲を勢いよく噴き出しゲホゲホと咽せた。

「は!?」
「明後日まで、お前は俺の事を愛すように、だ」
「復唱すんな!聞こえとるわ!」
「は?と言うからだろ」
「聞こえたうえでの、は!?なんだよ」
「なら説明してやる。当然、振りで構わんが。俺が兄さんを愛すように…いや!俺の兄さんへの愛は地球より、宇宙より大きいから真似るのもなかなか難しいだろうな!だがそれに負けじと、お前は俺を愛すように」
「断る」

山陽は大袈裟に溜息つくと、胸ポケットを叩いてから舌打つ。煙草は切れてるしあいにく禁煙だ。

「口だけの男だな、山陽本線。二言はないと言ったろ」
「聞くだけ言うたやろ。第一なんなんだその罰は、どっから出てきた!」
「お天道様が昇るように俺を嫌いと言ったろ!そのお前が嫌がる事と言ったらな、俺を好く事に違いない。だからその苦痛により、二度と面倒事は起こすまいと心に深く刻むようにしろ!以上だ」
「アホ言うな。な~にが、以上だ、アホ!」
「俺は理にかなってると思うがな、事実、お前が嫌がってるのが証明だ」

ふ、と得意げに笑う。山陽は愚痴りながら随分険しい顔をしていたが、急に背を起こした。

「……まあ、まあ、ええか。しゃーない、ええやろ、二つ目も分かった」
「なんだ、いいのか」
「それでお前も気が収まるんならな、俺が悪かったのも事実やし」
「なんだ、殊勝だな。なら今からそうするか?」
「おう、分かった。明後日までやろ?」
「よし、そうしろ」

東海道はしてやった気持ちだった。こんなに嫌がるなら単純に優れた罰であるし、もし万が一、山陽が東海道の事を好いているならばだ。名目があれば言いやすいと考えた。いわゆる「鳴かぬなら鳴かせてみよう山陽本線」作戦である。そうすればさすがに東海道だって分かる、と意気込んだのはいいものの、だ。

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「ちょっと待て、いつもと何も変わらんじゃないか!!」

西在来の執務室。暴風からの遅延、繁忙の午後、隣並びの神戸線デスク。山陽からはいつも通りの嫌味、皮肉のオンパレードを受け、我慢も限界で立ち上がる。

「なんならいつもより酷い、なんだお前は!」
「は!俺が好いた相手に甘言いうタイプとは限らんじゃろ。お前も、俺にお前を愛すよう言うただけで、どうふるまえとは言っとらん」
「なっ」
「言っとらんよなあ?」
「な……るほど」

山陽からすれば「元々好いてる訳だから態度を変えなくて良い」と頓智で承諾した訳だ。約束を違えた訳でもない、己の閃きを賞賛する。東海道もその抜け道に気づくとなかなか賢いと感心しかけ、きつく唇を結ぶ。おちょくられた訳だ、山陽を睨む。

「なら今から」
「おい!お前が二つと言うたろ。追加はなしだ」

素早く掌で制され、息詰まる。

「ぐ……」
「お前はいつも脇が甘いのう」

恋心とは別にだ、東海道を言い負かすのには代えがたい達成感がある。

「お前な、好いた相手に嫌がらせ等するものか!」
「愛にはいろんな形があるんや、お前にはわからんだろうがな…。ま、うまいもんは作ってやる」

もし山陽が東海道を好いているならまさしく、その通りである。二の句が継げぬ東海道が子供じみた怒りを浮かべ、思わず山陽は声をあげて笑った。

悔しがる貴重な東海道を山陽が鼻歌交じりに撮っていると、休憩戻りの在来達がわらわらと入ってきた。なんだなんだと囲まれ、東海道が経緯を省略し、述べる。

「……と言う訳で今こいつは俺の事を好きな癖に、意地が悪くて憤慨している」
「ほ~~~~」

そりゃいつもの山陽本線だな、と勝手知ったる在来陣は思った。山陽が東海道を好いているのは、もはや東海道だけが知らない公然の秘密。からかいがいのある状況である。しかもだ、お偉い方々にこっぴどく叱られたと知る面々は、このまま東海道の怒りが山陽だけに向かうなら上好であると考えた。ただ実の所、山陽は「東海道に責任を取らされる」事はやぶさかではないはずで、そう心配もないのだが。目配せをし。

「東海道、良い手があるぞ」
「なんだ?」
「おい、こいつに余計な口出しすんな」
「どうどう」

山陽が岩徳に窘められるうち、関西が東海道にでかい声で耳打ちする。

「今山陽は東海道に片想いしてる訳だろ」
「ああ」
「そういや山陽本線は片想い顔だが」
「百年物の片想い顔だな」
「お前ら全員殴り倒してやろうか」

言葉より先に手が出る。関西、山陰、岩徳の脇腹を、粗暴にこづいていく。ぎりぎり拳を逃れた環状が、意気揚々と語る。

「いかにも右手に見えます山陽は片想いのプロフェッショナル」
「そろそろぶち殺すぞ」
「東海道、こいつが片想いする相手に好き好きいうタイプに見えるか」
「分からん、と言いたいところだが。現在進行形で違う、という事だろうな」
「そうだ。これを解決する手段はな…ずばり、両想いになるしかない!つまり東海道も山陽を好いてるという事にすればこの仏頂面もあら不思議、好き好き言い出すと思うぞ」
「なるほどな、一理ある…!」
「あるか!!」

さすがは西の路線達、いつもはボケ倒しに青筋立てるばかりだが仲間にすれば頼もしい。素直に感心した東海道はひとつ頷き明るく告げた。

「なら、俺も山陽本線が好きだ!」

ぱっと集まった視線に驚いて、仰け反る。

「……と、言う事と、する」

ぽつり付け加える。すると、おめでとう、おめでとうと億劫そうな拍手が鳴った。山陽を見ると不機嫌そうに頬肘つき眉を顰めている。重大で、早まった事をした気になった。いまさら考えてみる。山陽が本当に自分を好いてるとして、その真意を聞き出し、どうするか。胸に波立つものを感じ、しかし、すぐ怒りが上回った。東海道の部屋を大破させ、悔しがる姿に大笑いする山陽の心配を、なぜせねばならんのだと。そんなもの、ざまーみろ!と言ってやる。どんとこいだ。

「どんとこいだ」

と口に出ていた。

「おお、東海道もやる気だな」
「良かったな~山陽!」
「ボケ共が、ややこしくすんなや」

関西が軽快に手を叩き「じゃお付き合いを始めたとするぞ」と定規で線引きした。線引きの向こうに佇むと、何となく心もとなく掌を擦る。山陽は、コツコツと苛立ちの表情で机を叩いた。

「さて、両想いのケーキ入刀だ!」
「山陽上官の差し入れがある」
「バーンと切ってくれ」
「ハッ、そりゃもう雑用やろ!」

相変わらず不安定な音階の、ウェディングソング。運ばれてきた立派な贈答用ケーキが、テーブルに鎮座する。フルーツ彩る豪勢なタルトだ。紙袋のリボン、環状が果物ナイフのグリップにチョウチョ結びすれば、何だかそれらしくなった。東海道の掌に恭しく収められる。両手でグリップを握り、東海道は山陽を見た。山陽は広げた両膝に掌をおき、仏頂面で。

「やらん」
「昨日はやる気だったろ」
「知るかボケ」

山陽本線の感情は、かなり、複雑である。あれは東海道の誕生祭、丹精込めた東海道新幹線こと兄の手作りケーキに二人で入刀、という特別なイベントだった。初めての共同作業、夜通し練った計画の重要な一端。こんななおざりなら返ってしたくない。ロマンチストと頑固のハイブリットである。当然その機微が分からぬ東海道は、仏頂面の山陽に「この案は駄目」と悟った。長きに渡る断絶の壁は簡単にどうなるとも思えない。長寿がゆえ、東海道は兄以外の事案をたいがい、時に任せる。

「なら俺がするが」

元気良く手をあげる山陰に、東海道は軽く掌を余所に向け。

「どっちでもいいが。山陰、ナイフを持ってるから気をつけろよ」
「ん!俺の一番でっかく切るが」
「腹を壊すなよ!」

山陽の眉がぴくりと動く。なおざりは嫌だが、だがそれはそれとしてだ。どっちでもいいとは何事だ、先ほど両想いだと決めた。決まったのなら他の奴とケーキ入刀したらそりゃ浮気である。期間限定でもだ。だいたい東海道が言い出した癖に、またすぐ諦める。この温度差も嫌なのだ。もっとこうなんか食い下がって来い!と苛立ちながら立ち上がり、山陰の肩をぐいっと剥がす。

「するのか?」
「わがままだが~」
「うるせえ、やってやるよ!」
「はあ」

山陽はいかにも不機嫌に東海道を後ろから抱き、掌を重ねた。乾いた掌は熱く、制服が擦れると同じ匂いがした。海岸沿いの暖かい風に似た、山陽の匂い。ジッと手元に焦点を定める山陽の睫毛は、髪色と似て透けている。頬に小さく声をかけた。

「なあ、山陽」

ぱちりと青色の眼差しが合うと、山陽の喉がごくり、と鳴るのを見た気がしたが。問いかけは無視された。山陽に任せるまま、やわらかなケーキにスッと刃が通る。するとシュレッダーかけたての社内文書が、紙吹雪よろしく舞った。

「末永く仲良くな」
「幸せになれよ」

随分と棒読みで次々肩を叩かれる。山陽は東海道の掌からナイフを引き抜き、さっさと人数分に切ってしまった。投げ売りの紙皿、花柄の上にケーキが並んでいく。環状がマイク代わりに定規をとり。

「それでは、ファーストバイトのお時間です。来賓の皆様は前にお越しください」
「熟年婚撮ってもなあ」
「画像が怨念で重そうだが」
「撮る振りだ、振り」
「いや俺が思うにこれは売れるぞ!」
「おい、どこに売る気だ」

東海道は溜息交じりに突っ込みながらも、フォークで一口すくい、山陽の口元に差し出した。山陽は、じ、と鼻先のケーキを見つめてから、どすりと椅子に腰かけ腕を組む。

「いらん」

相変わらずの頑固者を前に、行先知らずのフォークを宙に東海道が尋ねる。

「岩徳、そもそもこれはどういう行事だ?」
「新郎新婦がウェディングケーキを食べさせ合う事で、今後食うに困らせない、うまい食事を用意すると言った思いを込めるらしい」
「さすが既婚者」
「なるほど、人間らしい行事だな」
「昔はなかったよなあ」
「いつできた?」
「知らん!いや、待て、という事はだぞ。東海道に食わせて貰えば、今後存分に飯を奢らせる事ができるのではないか!?」

金脈に目を輝かせ掌がノリ良くあがる。

「別に俺は東海道を愛しても構わんぞ!」
「ちょっと待った!東海道、好きだ!」
「奢ってくれる時の横顔がセクシー!」
「よ!財布にカードしかない男!」
「在来の稼ぎ頭!」
「お前らは金の話しかないな!!」

平成初期のお見合い番組がごとく、いっせいに「よろしくお願いします」で差し出された掌に唸る。横目に山陽を見ると、ふてぶてしく仏頂面で眉を顰めている。

「なんだその顔は」
「俺と切ったなら俺に食わすのが筋じゃろ」
「あ?お前はいらんと言ったろ!」
「ああ、いらん!いる訳あるか!いらんが、筋を通せ!」
「まったくお前は…」

東海道は差し出された掌を緩く払うと山陽の横に腰かけ、フォークを口元に寄せた。

「ほら、ならあーんしろ」
「は?」
「あーん!」

あ、の母音で開く唇にずいとフォークを突っ込む。カシャカシャとシャッター音。顰めっ面でクリームつけた山陽に、思わず、ふ、と笑ってしまう。手づから食べさせるなど久方ぶり。今は随分と育った、元小さな路線達を思い出す。山陽の気難しい顔も、ちっとも変わりない。

「どうだ?」

クリームの甘い香り。山陽は勢い良く立ち上がるとづかづかと離れ、一番端の空きデスクを前にどっかり腰かける。明後日の方を向き。

「は、俺が作った方が美味い」
「何でそんな遠く」
「青い」
「青いな」
「元から青いだろ山陽は」

揃いの見慣れた青い制服を眺め、東海道はひと欠けしたケーキをフォークですくい頬張った。山陽新幹線が差し入れるケーキはいつも上等だ。ケーキだけは認める。

「ああ!?」

山陽の大声に皿のケーキが跳ね、慌ててキャッチする。

「何だよ!」
「俺がしとらんだろうが!」
「何がだ」
「ファーストバイトならなあ、食べさせ合う必要があるやろ!」
「そうなのか?」
「おい、言いながら食うな、意地汚い」
「どうせお前はまた、したくないと言うだろ」
「言っとらんじゃろ、ボケ!」
「この後言うだろ!」

東海道は目いっぱい顔を顰めると、山陽に見せつけるように手早くパクパクとケーキを頬張った。苛立った山陽が紙皿が掴み、ぐっと歪む。皿の引き合い、結婚式で到底見た事ない光景だ。

「なんなんだよ!」
「いいから寄越せ!」

あと残り一口でケーキを奪われ、山陽は勝ち誇った顔で皿を掲げた。東海道が苦々しく握ったままのフォークを見て、ひょいと指で摘まみ差し出す。目先のケーキと見つめ合う。この男のどこが俺を好きだ。もはや情緒も何もないが、やらんと収まりがつきそうもない。

「ん!」

東海道がいやいや唇を開けると、ケーキは思うより慎重にそっと、舌に着地した。押し込まれるのを覚悟したので拍子抜けする。山陽の眉間の深い皺に、嫌ならやらねば良いのに、と憤慨する。それでほんの意趣返しだった。差し出された指先をほんの軽く、甘噛みした。指先に柔らかな感触がして、瞬間。強く押されたように後ずさった山陽が、勢い良く椅子を巻き込んで横転する。

「ワア!!!!」

東海道がビックリして飛び跳ねると、在来陣も色めきだってシャッターを切った。

「おい、良い写真撮れたぞ!」
「一面ものの横転だな」
「脚がVの字でビクトリー!」
「ビクトリー山陽!」

山陽は憮然と脚がねじ曲がった椅子を放り。

「……き、気色悪いことすんな」
「い、いや、すまん、そんな事になるとは」
「別にどうともなっとらんが」
「なってるだろ!」

早鐘の心臓を押さえ東海道を睨む。

「なっとらん!!」
「まあ、お前がいいなら、良いが……」

山陽が跳ね起きると髪に埃が舞った。払ってやろうとしたら、凶暴な犬ぐらい警戒され手をあげる。

山陽に好きだと言わせれば、さすがに真意が分かるだろうと踏んだのだが。言うどころか気配もない。何なら俺だけ言わされた。東海道はどうしたものか思案した。親しい路線達は好きも嫌いもはっきりした物言いをする。横須賀しかり北陸本線しかり。自分の愛のモデルケースは、当然東海道新幹線。自分が兄を愛するように、と考える。東海道がそっと隣に座ると、山陽は露骨に厄介そうな顔をした。

「山陽」
「後にしろ、今食っとる」
「食いながらでいい」

掌を添え軽く耳打ちする。

「こいつらにな、東海道が好き過ぎて困る、とかそういう相談をしろ」

プラスチックフォークが紙皿に貫通する。

「するかボケェ!!なんじゃその出鱈目な提案は」
「なんでだよ、俺は兄さんの事を誰にでも話したいぞ!」
「言ったじゃろ。付き合うたとしても、俺には俺の好き方がある!」
「お前な、少しはお前が嫌がる事をしないと罰にならんぞ」
「は、お前のルールが甘いのが悪いじゃろ」

とんとん、とこめかみを叩かれカチンと来る。平たい目で睨んでいると、ケーキを2個載せした山陰が隣にどすり腰かけた。

「山陽、反省して東海道の言うことを聞くべきだが」
「おい、ウスノロ。涼しい顔しとるが1番暴れまわったのはお前だろ」
「けど山陰本線は祝ってくれようとしたんだよな」
「おう、その通り!」
「あ?」

俺も祝おうとしたが、と口には出さない。祝おうとしたが、最終的によく分からなくなってしまったのだ。なのに火をつけた当人が堂々許されてるのは贔屓だろ。東海道と山陰は妙に仲が良く息が合う。山陰が小さな頃からなかなか甘やかして育てたらしい。甘やかされて育つとデカくなるのか。何なんだ、好き好き言ってくる路線を安易に好きよって。東海道には信念がないのか。山陽の苛立ちを他所に、山陰は無表情のまま機嫌良く気に入りの貯金箱を差し出した。

「仕方ね、恋愛相談、俺が聞いてやる。500円だが」
「そうだな、俺も横で聞いてやる、無料でいいぞ」
「もうお前は東に帰れ、ボケ!!」
「あー好きな子にボケ言うとるが」
「これはペケ1だな」
「散れ散れ!!」

並ばせるとろくなことにならん。二人の肩を拳で小突くと、文句言いながら席を離れる。

「そもそもな。好きっつーのは二人の時に言うもんで、誰かに相談するもんじゃないやろ」
「硬派ぶりやがってなあ」
「よく駅前のカップルなじってるもんな」
「山陽の趣味な」
「誰の趣味だ、ぶん殴るぞ」
「いやもう殴ってるだろ!」
「暴力反対!」

ひとしきりボカスカやりきると、全員いい加減に飽きた。飽きるのが早いところも西のいいところである。飽きて午後の業務が始まる。東海道と山陽は横並び、似た所作でデスクに腰かけた。

「しかし、お前。二人の時なら言うんだな」
「あ?」
「言質とったぞ、いや言質とるべきなのか」

東海道は、机に積まれた周年記念ノベルティメモを片手に「13:45 山陽本線 二人の時には正直に言う」と達筆に記し、それを山陽に見せた。怪訝な顔をされる。ちょっと斜め上を仰いでから、あらためて捺印をした。

『13:45 山陽本線 二人の時には正直に言う (東海道本線)』

「お前も判子を押せ」
「押すかボケ、なんじゃそりゃ、仕事せえ!」
「なら言質、渡しておくぞ」
「いらんいらん!」

山陽のポケットに勝手に言質を入れる。指先でポンポンと払って平らにすると、東海道はパソコンに向き合い業務を始めた。画面の光がその青い瞳を照らすのを横目に、山陽は、静かに長い息をはいた。いちいち心乱されていては身が持たない。

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「GOWEST」はもはやいつ誰が作ったとも知れない西在来陣のLINEグループで、東海道はいない。夕方、ポコンと通知が「1」ついた。

山陽本線『写真』

山陰本線『写真じゃわからんが』

大阪環状『頼み方ってもんがあるよな』

山陽本線『[PayPay]受け取り依頼が届きました。下記リンクより、受け取りを完了してください。http://……』

関西本線『話が早い』

大阪環状『特別だぞ』

大阪環状(山陽本線がV字で横転している写真)

山陰本線(「お納めください」と宝箱を持ち上げるスタンプ)

山陽本線(街をバキバキに破壊する猫のスタンプ)

山陽本線『3』

山陽本線『2』

大阪環状(東海道が山陽にケーキを食べさせている写真)

山陽本線(猫が悟りを開き「OK」してるスタンプ)

6 / 10
7 / 10

終業時間、東海道は手早く書類を整え机を片付けた。鞄を片手に「お疲れ」と誰ともなくかける声に「おー」だの「またな」だの適当な声が返る。いつもの帰宅風景だ。山陽はデスク下で足を組み替え、パソコンを覗く素振りでその背を見送った。家に来るはずじゃないのか、どこかに寄る気なのか、どうしたって一声かけていくべきだ。仕掛りのメールを睨み、明日で構わんとパソコンを閉じる。物言いたげな同僚達の眼差しを軽く払い、さっと廊下に出てロッカールームを覗いた。ベンチの端にちょこんと腰掛けた東海道を見つけ、ほっとする。薄手のロングコートに黒のタートルネック、ロッカーにおいた東海道の私服だ。気づいた癖に、唇をつんとスマホに視線を落としたまま。

「遅いぞ、山陽」
「声かけろよ」
「お前からかけろ」
「どっちからでもええやろ」
「ならお前からでいいだろ。もういい、早く着替えろ」
「今日は家から制服やろ」
「買い物に行くのに目立つだろ」

東海道なりに自分が言った「山陽がうまいものを作る」算段と知り、満更ではない。確かに目立つ制服は、駅以外でも路線と明瞭にアピールする。東海道新幹線のステッカーがでかでか貼られたロッカーの横、上着を脱いで手早く着替える。

見慣れた夜の街、街灯に照らされ並んで歩く。山陽の私服はライダースジャケットにジーンズ、カジュアルなスニーカーで東海道と真逆の装いだ。見た目には同世代の、しかし趣味も仕事も全く合わなそうな二人が、人々の目にどう映るか考える。もし自分達が人間だったら、きっと街中ですれ違う事もなかった。山陽はそう時折ありもしない事を考え、感傷的な気分になる。そんな事知る由もない東海道が、厚い雲越しの月に小さな歌を口ずさんでいる。随分懐かしい歌だ。それが胸のやわらかな箇所をジクジクと刺し、山陽は不用意な言葉がこぼれぬよう、強めに声をあげた。

「おい、何が食いたい。スーパーまでに決めろ」
「俺の好きなもの」
「だから何だよ」
「お前が考える俺の好きなもの、を作ってくれ」
「は?クソ面倒くさい彼女か、お前は」
「知った振りしやがって、お前にそんな彼女はいないだろ」
「うるせえわ」
「そうか、今日は俺が彼女だ。良かったな!」
「良いことあるか、あほ!」

東海道が笑うと、山陽は露骨に顔を顰めた。それからスーパーでどちらがカゴを押すかひと悶着、野菜の選び方でやいやいと言い、東海道が勝手に菓子をカゴに入れるので言い合いになった。帰宅する頃にはすっかり不機嫌な東海道をソファに埋め、食事の支度を始める。一分ほど『俺は怒っている』と言う顔でスマホを睨んでたが、もう気に入りのお笑い番組を見て笑っている。ころころ変わる東海道の顔を横目に、何とも言い難い状況にも、嬉しさが芽生えてしまう。冷えた水に掌をくべ、気を引き締める。

それから十分ほどして手持ち無沙汰になったのか。東海道がキッチンを覗きに来た。背中に気配を感じながらも、支度を優先する。

「手際が良いもんだな」
「はいはい、お褒めの言葉をどうも、お姫さん」
「何作ってるんだ?」
「お前の好きなもんやろ」
「知らんだろ」
「黙って座っとれ!」

山陽が俎板に落とす眼差しは至って真剣で、東海道はじっとそれを見つめた。腕捲くる手がてきぱきと、規則正しく動くのは心地良い。

「モテるためか?」
「何やそれ」
「お前モテるためにやってたろ、ギターかベースだったか」
「……あ?知らんな」
「なんとかなんとか、あれ北陸本線とやってたろ」
「1個も覚えてないやないか」

些か気を悪くして思い出そうとするが。シャキシャキだったか、カミキリムシだったか。どうも正解に近づきそうもなく、余計馬鹿にされそうで諦める。

山陽も山陽でバツが悪くこの話は切り上げたかった。バンド結成時、こっそり東海道本線キラーをコピーに励んでいた。ギターを弾く姿を見せたら、何と言うか心動く事を期待してだ。どうせライブには山陰が誘うだろうと算段してその通りではあったが、兄との予定がどうのであっさり断ってきた。なら仕方ないと就業時間後に執務室の隅でアコギで練習してみせたら東海道が近寄ってきて、内心緊張しながら第一声を待っていたら「うるさい」だったのだ。情緒のない男め、その後大喧嘩になった。

冷静に考えると東海道が、音楽や料理や、まして祝祭で心動かすとは考えにくい。好みじゃないと本当は山陽も分かっている。まず兄と言う圧倒的な存在があり、そこに好みがあるなら、でかくてちょっと馬鹿で思わず構ってやりたくなるような男が好きなのだ。全部分かっているから、腹が立つ。東海道の好みになんて、絶対寄せたくない。山陽が山陽のやり方で、山陽があるまま好かれないと意味がない。逆を張りモテを考えたらああなってしまう。ことごとく外してきた。

「モテるためか?」
「じじい!さっき聞いたろ!黙っとれ」
「料理がどうかは聞いとらん、あれだろ、いま流行ってるだろ」
「俺は百年以上前から家事の出来る男だ、食堂車を走らせた男やぞ」
「ああ」

そういえばそうだ。現代は食の楽しみを存分に覚えた東海道も、あの頃は鉄道が何ぞ洒落た事をして厄介な物だと思ったが。そういえば記憶の端々で、山陽はその手腕を振るっていた。口も態度も粗暴な男が、手先は繊細で器用なのが意外だった。規則正しい包丁に輪切りの葱が小粋に跳ねる。ぽろりと誉め言葉が出た。

「ならお前の連れ合いは得だな」

トン、と山陽は手を止めた。振り返り東海道とぴたりと目が合う。こいつ。人をさんざん振り回しておきながら、すっかり「設定」も忘れ他人事のように言いやがって、腹立つ。息がかかる距離でじっと見つめると、不味い事でも言ったかと東海道の肩が竦む。

「お前やろ、俺の連れ合いは」

急に山陽の声が低く重く、深い青色が細まって東海道は息を飲んだ。言葉が心臓をドキリと刺し、時が止まったよう錯覚する。実際にはほんの数秒間。ぐつぐつと煮える鍋の音で正気に返り、乾いた口を開く。

「……お、俺が得だったか」
「は、さっきお前がご機嫌で言っとったろ!抜けた顔しよって…」

山陽は顔を背けて笑い、コンロをカチリと切る。

「東海道本線様は、いったい誰の彼女なんや」
「いや、それはお前、なんていうか」
「は?」
「山陽本線の……だけどな」
「だけども何もあるか!そうやろ、もう座っとれ!」

すると東海道からは返答なく、素直にソファに戻ってテレビを眺め出した。つらつらとニュースの声が流れている。自由なもんだとキッチンに視線を返す。

東海道はでっかいイコぬいを抱っこして頬を埋めた。確かにこの瞬間忘れていたが、それが目的だった。あんなに抵抗してた癖に、当然の言いざまに動揺してしまった。鼓動がスキップしている。バレないようにイコ越し、薄目で山陽を覗く。変わりなく手際よい後ろ姿、捲った袖から少し焼けた腕が伸びている。どうという事はない態度だ。このありさまで、ざまーみろ!等と俺に出来るものだろうか。

山陽が皿を並べ出し、イコを片手に椅子に座る。

「山陽、イコがいるぞ」
「ああ、いるな」
「食卓のお供に」
「ぬいぐるみを持ち込むな」
「断る」

二人の時には正直に言う、と言質をとってしまったので。休戦だ。イコがいれば三人、つまり言質の条件外と言う東海道の密かな対策に、山陽が気づく事はなく穿った眼差しで見られた。東海道はイコを膝に食卓を眺めた。所狭しと並ぶ華やかで暖かな料理を一品ずつ眺め、山陽を見上げる。

「俺の好きなのだ」
「……あほ」

阿保ってなんだ。しかし随分とやわらかな阿呆であった。勝ち誇ったような、満更でもない笑い方。腹は立たなかった。手を合わせる所作がぴたりと合い、箸を取る。料理は文句なく美味かったし、今度は躊躇なくそのように褒めた。

「うん、どれもうまい」
「俺が美味く作ったんやから、当たり前や」
「不味くなる!」
「あ?」
「謙虚と言う美徳を知らんのか」
「そりゃお前が1番知らんやつやろ!」

深夜のニュースをBGMに、すっかりいつも通りの言い合いに調子が戻ってきた。山陽が誕生日の話を切り出す。

「お前、東でも誕生日祝ってもらったんか」
「ああ、お前が電報したんだろ。いつものケーキと、あとプレゼントも貰ったぞ。俺の事を詠んだ詩集だ。60Pもある。宇都宮がまとめたらしい、あれはああいうのが得意だな、全く。捨てるに忍びないし飾るに躊躇う」
「あ?詩集だと、クソ、すげえじゃねえか…」

東海道には分からない競争心があるらしい。山陽が悔しそうに答えるので、薄目で呆れる。東の詩集、西の水没。

「お前ら、妙に気が合うな」
「合う訳あるか!」
「合うだろ。あとはそう、井上さんのぬいぐるみも貰った。なかなか秀逸だったぞ」
「そりゃ良かったな」
「山陰のガチャガチャも嬉しかったぞ、あいつ、俺にあげたいものが多すぎるからガチャガチャってなあ。昔から可愛いところがある」

思い出し笑う東海道のあどけない声に、今度は山陽が眉を顰める。

「は、俺もガチャぐらい作れる」
「まあ作れるかで言ったら作れるだろ」
「…やりたいんか、ガチャ」
「お前のもあるのか?」
「ない。ないからお前が俺にして欲しい事を書け」
「俺が作るのか?お前が書けよ」
「お前が満足する事が重要なんやろ」
「書いたらするか?」
「見てから考える」
「書かせるならしろ!」
「するかしないかで言うとするとしよう」
「うーん、ならまあ、作るか」

付箋とペンを受け取り、東海道は思案した。行きがかり上だが、今度こそ山陽の真意を知れる良い機会である。よし、と意気込むが、これがなかなか難しい。改めて考えれば「東海道本線を好きと言う」と真正直に書いても、棒読みされる気がする。あれこれ抜け道を探すのが得意な男だ。

そもそも。「好き」と延長線上にある「付き合う」は、山陽にとって何だろうか。東海道は女を抱いた事は数あれど、恋人関係になった事はない。人間は勿論、路線とも。人間のように付き合う願望は、山陽本線が人間に近い価値観を持ち合わせてるからに違いなく、東海道にはない。永い時を生きるはじめの路線には、兄弟、幼馴染、そして直通関係である事、それらこそが時を共にする強い絆であった。

眉間を指の節でこつこつと叩き、考える。

「好き」に立ち返る。まずはそう、好きかどうかを知れば良い。好意がなければ難しい提案、しかしこれも難題だった。普段の山陽なら絶対に断るが、好いてるなら本当は嬉しいだろう事。一通り、世間的な恋仲らしい事を書き出してみる。あとは兄がしてくれたら嬉しい事も。山陽は嬉しいだろうか。好いているなら、嬉しくはあれよと願う。いやしかし「本当は嬉しい」など分かるものだろうか。

書き上げた付箋を見つめ、これが「自分が山陽にして欲しい事」と思われるのも、大分気恥ずかしいと気づいた。別にいいはずだ、山陽がどうあったって百三十年通り仲良くないままでも。でも、俺は知ろうとしている訳で。何度も消しゴムをかける。は、と視線に気づき手元を覆う。

「おい、まだ書いてるだろ!」
「どうせ後で見るんだからいいだろ」
「よくない!後で見ろ!」
「うっさい」

山陽はしぶしぶ立ちあがると、洗面台に向かった。降ろしたての歯ブラシを開けながら、付箋に向かう東海道を眺める。唸りながら随分懸命に書く姿に、ささやかに満足する。恋人らしい振るまいが罰なのだから、全うにいけば「恋人に願う事」を書くはずだ。恋人、こと俺への願いに悩む東海道を記憶におさめる。しかし昼のやり過ぎた問答で気をそぎ、タバスコ一気飲みとか宿舎ロビーでサライ独唱だとかスタンダードな罰ゲームを書く可能性は多いにある。期待は全くしてない。してないが。

歯磨きする事とした。ミントフレーバーのパッケージを睨み、流し台を開けた。買い置きを厳選する。シトラスに変える。良い匂いに越したことはなく、別に可能性に備えている訳ではない。決して。

「歯ぐきから血が出た」
「は?何してるんだ、お前は……よし、書けたぞ」

東海道はやり切った顔で、私用の兄ポーチに折った紙を入れた。山陽は緊張を顔に出さず、面倒くさそうに掌を入れる。指先に紙が擦れると、8~10枚ある。東海道は、山陰がガチャを引くまでうろうろと歩き回ってた気持ちが分かった。何を引かれるものか、腹辺りがそわそわと気忙しい。勿体ぶりやがって!と東海道には見えたが、ひどく緊張してるだけの山陽が摘まんだ紙を、慎重に開く。

『頭をなでる』

山陽は紙を見つめ、しかしうまく考えがまとまらなかった。ちゃんと「恋人同士がして欲しい」方向で書かれている。脳裏に長閑な草原が広がりほわほわ花が咲いていく。なんだなんだ、と紙を覗き込む東海道が山陽に身を寄せ、長い睫毛が瞬いた。蝶が止まりやすそうな睫毛だ。

「は」
「あたまをなでる、だな」
「アホ、読めとるわ。……」
「な、なんだよ」
「あれのもな、抱擁やったしな。こういうもんやな」
「そうだろ?いいだろ」
「よし」

椅子を傾けて向き合い。数秒間。山陽は腕を伸ばすと東海道の膝に座る、イコぬいの頭をわしわしとなでた。

「おーい!」
「誰のとは書いとらん」
「俺のに決まってるだろ!」
「そりゃ」
「ん!」

言葉を遮って目を瞑り、頭を差し出した。乾いた喉がはりつく。東海道がそう待つ姿は、胸に込み上げるものがある。バレぬよう掌を太腿に擦ると、ふう、と息をころし。心を決め、そっと頭をなでる。まるくなだらかで、かたち良い。櫛のように指ですくと、癖毛は思うよりやわらかく、良い香りがした。それが山陽のシャンプーだと気づいて、何とも言いがたい気になった。くすぐったいのか面白いのか、子供のように、くっと東海道が笑った。その揺らぎが掌に伝わる。

東海道も存外気分は良かった。自分がなでた記憶は随分とある、東海道の頭をなでるものは遠くの昔いなくなった。どの路線も東海道をそのようには扱わない。心臓の奥がさわさわとくすぐられる心地。目を開けるとすぐ傍に瞳が合う。山陽の眼差しはいつもより幾分やわらかに思え、何か言わねば、違う、言わせねば、と言う気になる。

「山陽、もっと、こう、なんだ、褒めたりしろ」
「あー…ご立派なもんやな、性格も髪も捻じれとって」
「は?なんだと?」

山陽はわざと乱暴に髪を混ぜ掌を離した。

「ワッ!やめろ!」
「終わりだ、寝るぞ」
「おい、もっと書いたぞ」
「一つやろ」
「なら初めに言え、もう書いた」
「全部やるとは約束しとらんし山陰のも1つやったろ」
「ふーん、山陰と同じで良いんだな」
「あ?」
「お前は山陰と同じぐらいの事、が出来るんだなあ」
「ああ、ムカつく男やな!お前は!」

ん、と兄ポーチを差し出され、溜息交じりに頬を掻く。

「しゃあない、ならあと二つやぞ」
「よし引け!」

重要なのは勢い、今度は引き抜いた紙を思いきりよく開く。

『好きなところを言う』

ズバリの引きに喜ぶ東海道に山陽はひとつ頷き、間髪入れず口を開く。

「この部屋の好きなとこは冷蔵庫や、去年新調した新型で音も静かやろ」

ベシッと胸を叩かれる。

「俺だ!」
「あ~お前、冷蔵庫だったか?旧型やな」
「違う!だからお前が、俺の、どこが好きか言うという事だ!分かっていて何度もやるな!」
「また主語が書いとらん、諦めろ。お前は全く性格も好みも甘ちゃんやなあ」

すると東海道は黙って腕組み、唇をむっと結んだ。見下げた眼差しには迫力があり、山陽が好きな表情の一つであるが、絶対本人には言わない。

「なんだよ」
「お前がすると言うから書いたのに、揚げ足取りおって。意地悪ばかり言うならもうやめる。つまらん、卑怯者、馬鹿野郎」
「言いたい放題やめろ」

態度一転、ツン!と幼く拗ねる素振りをする。兄への朗らかな甘えが、最近の所作に滲み出ている。昔はあんなにピリピリと威圧的だったと言うのに。

「あ~じゃあ全部だ、全部」
「なんていい加減な男だ、この離婚届に判を押せ!」
「まだ結婚しとらんやろ」

適当に差し出された付箋をテンポ良く押し返すと、拗ねてた癖に、もう笑った。山陽が意地を張ると東海道はたいてい怒り、気乗りしなければ受け流し、時折こうして笑う。笑う東海道を見ると、山陽は割とあっさり舵取り出来なくなる。

「……顔」

は、と気づいて失言を掌で覆う。しかし東海道にはしっかり聞こえたようで、何度か瞬いて聞き返される。

「顔のどこだ?」
「知らん」
「ここは鼻、ここは頬だ」
「知っとる!」
「なら言え」
「ちっとはお前で考えろ」
「分からんから聞いてるんだろ。まあ、良い。…顔、うーん、面食いだな」
「おい、自分で言うか」

飽きれて言い返すと、ぽかんとした顔をされた。自分の顔立ちが良いと微塵も疑い持たぬ男の顔だ。東で甘やかされおり不服に思う。第一、一般的な見目の話はしていない、いやもしかしたらそういう話なのかもしれないが。山陽にとって東海道の顔は、瞳は、眉は、唇は、唯一無二の容であり東海道を作り上げるパーツだ。おそらくどれを切り取っても東海道だと分かってしまう。

「でも俺の顔は皆好きだからな」
「いい加減にせえ」

額をパチリと弾かれ、東海道は掌で抑えて黙した。好きな顔なら大事にしろ。あれこれといつも通り山陽は意地悪く、結局好きともいわず、ちっとも嬉しそうでもない。

「これでラストだぞ」

興味深くぴたりと腕に寄り添う東海道に、山陽は嬉しいやら腹立たしいやら、引き剥がす事は出来ず紙を開いた。

『一緒に寝る』

「いいのか」

咄嗟に問いかけ、握った紙に皺が寄った。歯磨きは天啓だった。勢いに顎を引く東海道が、丸い目をして答える。

「ダブルベットだし、いいだろ。最後らしいのを引いたな」

ほんの数秒、見つめ合い。山陽は努めて平静に椅子に凭れた。添い寝の方、そりゃそうだ。そりゃそうだな。そうだそうだ、と頭で何度も繰り返し、ふーっと長く諦観を吐き出すと。

「あ、お前、すけべな事考えたろ」

東海道が冗談めかして自分の肩をギュッと握る。当然そうと思わなかったが、稀にこういうふざけ方をする。首を傾げて顔を覗かれ、山陽は、窓越しにきらめく夜空を見た。長い長い時を経たように感じた。固まってしまった山陽の胸を、指でちょんと押す。

「……は?」
「冗談だ、そんな顔するな」
「は?いや、ボケが、ええ加減にせえよ、誰がお前相手に!んな訳あるか」
「そうすぐ怒る、お前には冗談も言えんな」
「おもんないんじゃボケ!もう寝ろ!」

図星をつかれた山陽は、胸の爆音を鎮めるよう、ベッドシーツを掌で押し広げた。かわいい素振りを見せられると、ほころびを見せんとつい罵倒してしまう。これは長年身についた防衛本能と言うほかない。しかしそういう時の東海道は気を許しいい気分で、やわらかな機嫌に嫌いの刃はよくよく刺さり確執を強くしてきた。

「…好きな相手にそう乱暴な事を言うな、嫌われてしまうぞ」

寂しそうな口ぶりに、山陽の胸が、ぐ、と押された。全くその通りであったし、「山陽の好きな相手」がそしらぬ他人である言いざまだったから。知られたくない癖に、知らないのも腹が立つ。東海道は口を開きかけ、首を振ると端的に言い切り背を向けた。

「寝る」

気落ちした様子で布団にもぐり、端っこに、背を向けて丸まる。それを見る山陽の胸もチクリと痛む。しばらく悩んでから、もう一枚だけ、上官ポーチからそっと取り出した。この静寂に紙擦れ音がしないほどゆっくり、折りたたまれた紙を開き、小さく息をつく。

東海道が背を向けたまま、掌でベットをぽすぽすと叩いた。あれは声をかけたくないが、今日も床で寝させるのは可哀想だ、の折衷案だ。こんな時、あらがいようなく素直に、東海道が好きだと思う。何度も思っている、しかし。あれはここにいるのが俺でなくてもああする男で、またすぐムカついてしまう。山陽は声なく唸ると瞑った瞼に掌を押し当て、明かりを消した。

ダブルベッドの反対側にもぐり込む。10cm距離からつたわる熱、緊張で、片側だけジリジリとやけた。

「おい」

数日ぶりに発したように掠れた声は、微動だせぬ背に無視される。

「東海道」
「…もう寝たぞ」
「起きとるやないか」
「起こされたんだ」
「うそつけ」

東海道が億劫そうにこちらを向いた。前髪がぱらりと鼻先にかかり、ふ、と息を吹く。ふてくされた顔立ちがあどけなく、心臓が息苦しく鳴る。手を伸ばせば簡単に掴める距離に東海道がいて、その輪郭をぼかすよう目を細め、つっけんどんに言う。

「ん、手え、貸せ」

暗がりに手を伸ばすと、東海道は惚けた顔をした。

「お前が書いたやろ、『手をつなぐ』」
「……あー。お前、勝手に開けたな、ズルだぞ」
「ええやろ、俺に書いたもんや」
「お前が三つと言ったろ、俺だってもういい」
「ならええわ」

山陽なりに挽回と考えての事だったが、心残り反面、安堵した。宙をきった手は布団に着地し、目を瞑る。まだ眠れそうにないが、頭は休まるはずだ。瞼の裏に東海道の輪郭を探ってしまう。ようやく力を抜きかけた瞬間、指先の感触にビクリと腕が跳ねた。

「でも、俺からつなぐのは良い」

してやったような、しかし控えめな口ぶりだった。全ての神経が指先に集中したみたいに、山陽の感覚は掌だけになる。東海道が指を擦って掌を握ると、まるで掌が心臓になり息が止まる。

「そう嫌な顔するな」
「……あほ、嫌な思いで反省させるんやろ、俺を。なら大成功やないか」

東海道はどちらともないような顔をして、目を瞑った。つないだ掌がひどく熱い。1分か、10分か、頭に何度も台詞を取り換え、意を決し東海道に話しかけようとしたら、信じられない事に寝ていた。穏やかでやすらかな寝顔だ。夢では良いことでもあったのか、口元がふやけている。ああ、クソ。かわいい。まる二日寝てない山陽の瞼は、まだ落ちそうにない。

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381 プレゼントは名無しさん:22:50 ID:???

そりゃ会社が悪くないか

382 プレゼントは名無しさん:22:54 ID:???

法テラスに相談してみろ

383 @赤い男:22:55 ID:inenysaoul34.net



384 プレゼントは名無しさん:22:58 ID:???

え!!!!1じゃん

385 プレゼントは名無しさん:23:02 ID:???

生きてたんかワレ

386 @赤い男:23:04 ID:inenysaoul34.net

報告しにきてやった

387 プレゼントは名無しさん:23:05 ID:???

もう来ないと思ったぞ

388 プレゼントは名無しさん:23:06 ID:???

どうなったんだ?
簡潔に!!

389 @赤い男:23:10 ID:inenysaoul34.net

今手つないで一緒に寝とる
片手で打ちにくい

390 プレゼントは名無しさん:23:11 ID:???

まさか味噌汁からうまくいったのか?
そんな馬鹿な、味噌汁に何をいれた

391 プレゼントは名無しさん:23:12 ID:???

俺も今日から味噌汁作るわ
師匠、教えてください!!!

392 プレゼントは名無しさん:23:12 ID:???

すまん簡潔じゃ無理だった!!詳しく!!

393 プレゼントは名無しさん:23:14 ID:???

付き合っとらん
部屋をダメにした罰で三日間恋人になっとる

394 プレゼントは名無しさん:23:16 ID:???

は?どゆこと?

395 プレゼントは名無しさん:23:18 ID:???

こいつは俺から嫌われてると思っとるから
こいつを好き好きいうのが罰らしい

396 プレゼントは名無しさん:23:19 ID:???

そんなラブコメが存在する訳あるか!!

397 プレゼントは名無しさん:23:21 ID:???

検索かけてるけど引っかからない
何て原作?読みたい

398 @赤い男:23:24 ID:inenysaoul34.net

現実

399 プレゼントは名無しさん:23:26 ID:???

なんか悔しい!
どうせ1もイケメンなんだろ、裏切者がよ!

400 プレゼントは名無しさん:23:28 ID:???

そりゃさすがに両想いなんじゃないか?
俺だったら嫌いな奴に恋人になれなんて言わない

401 プレゼントは名無しさん:23:30 ID:???

そうだな
好き好き言ってくる1を手酷く振るとかさ
そういうのが罰だろ!
なんで手繋いでんの

4-2 @赤い男:23:33 ID:inenysaoul34.net

そりゃ俺が嫌がるからだが
奇想天外な奴だから
よく分からん

403 プレゼントは名無しさん:23:35 ID:???

今日一日どうだったんだ?

404 @赤い男:23:38 ID:inenysaoul34.net

かわいかった

405 プレゼントは名無しさん:23:40 ID:???

そういうことじゃないだろ
そういうことかもしれんが

406 プレゼントは名無しさん:23:41 ID:???

なんか、良かったな

407 @赤い男:23:43 ID:inenysaoul34.net

しかし振りでもきつい
このままだと俺から好きだと言ってしまう

408 プレゼントは名無しさん:23:45 ID:???

言えよ
その状況で言う以外の選択肢あるか

409 プレゼントは名無しさん:23:47 ID:???

と言うか好きっていう罰なんじゃないのか
チャンス!!

410 プレゼントは名無しさん:23:49 ID:???

1、もしかせんでも脈はあるぞ

411 @赤い男:23:50 ID:inenysaoul34.net

好きとは言っとらん
こいつから言わせたい

412 プレゼントは名無しさん:23:52 ID:???

もー!!!なんでそうなる!!!

413 プレゼントは名無しさん:23:54 ID:???

プライド高すぎるだろ!

414 @赤い男:23:58 ID:inenysaoul34.net

この状況でこいつはすーすー寝とる
俺は寝れんのに
これで言える訳あるか

415 プレゼントは名無しさん:00:00 ID:???

どういうことだよ

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山陽はスマホをオフすると枕元に放り、眉間を指先で揉んだ。こうして近づく度に思い知る、気持ちの違いを。東海道はきっと、自分が覚えてる全てを覚えてない。初めて出会った日に交わした言葉も、手が触れた日も、笑いかけた時も。

溜息が暗やみにとける。

眠れぬ時は、瞼の裏にホームを思い浮かべる、やる事が多い朝のホームだ。誰もかれも忙しなく電車に詰め込まれていく。すると考えすぎる頭が不思議と散漫とする。それが心地よかった。久方ぶりの眠気に身を任せ、ようやく眠りへと落ちていく。

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二日目の朝、東海道は随分と早く目覚めた。

夢を見た気がした。遠い遠い日の夢を。珍しい事だ、本当は見ているのかもしれないが殆ど覚えてない。思い返すに、東海道の記憶は多すぎる。今日も三度瞬く間にその夢はすり抜けていったが、心地良さは残った。

起きかけて気づく、手を繋いだままだった。繋いだまま、しばらく見慣れた天井を見上げる。宿舎の天井はどこも一緒だなと思った。山陽を起こさぬよう、慎重に掌をほどいてベットを抜け出す。洗面台に向かって冷水をすくい、ふーっと浅く息を吐き出す。鏡の自分を見つめた。振り返ると気が滅入るが、結局山陽はいつも通り、どころか酷かった気さえする。好きとは到底聞き出せなかった、やはりないのかもしれないが。

やわらかなタオルを頬に、ひと息つく。昨日環状が言った事を考える、俺が好きと言えば好きと言うと。しかし、俺は初めに言ってやったぞ。山陽本線が好きと。首を捻る。山陽は昨日、口では言わないが料理を作ると言った。つまり山陽にとって料理は愛情表現なのかもしれない。なら真似てみるかと思い当たる。明後日までは恋人と自分でも決めた事、やれることはやると決めれば行動は早かった。

支度をすませキッチンに立つと、山陽のエプロンを拝借した。山陽のように凝った手心はないが、東海道も持ち前の器用さでひとしきり料理は出来る。昨日買っておいたパンと、冷蔵庫の卵、ベーコンを手早く焼いた。付け合わせにホウレン草を炒める。あれこれ口出ししにくい無難なラインナップだ。無精な所があり、全てフライパンですませて食卓に並べ、ポットをオンにする。

そろりとベッドに近寄ると、まだ山陽はしかめっ面で寝ていた。ベットサイドに肘をつき、眺める。こうまじまじと寝顔を見るのは初めてかもしれない。寝てる時は、大人しくていい。眉間に寄る皺を指先でなでると、すーすーと寝息が聞こえた。驚かそうと思ったが気がそがれ、小さな声で耳打ちする。

「山陽、朝ご飯が出来たぞ」
「……ん」

腕があがって、ぽすりと東海道の頭に落ちる。それからわしゃわしゃとかき混ぜられる。寝ぼけている、目覚ましじゃない。

「おい、起きろ」
「るさ……」
「山陽本線」
「……」

山陽の腕が伸び、東海道の肩をぽんぽん、となでる。スウェット越しにも山陽の掌は熱い。くったりとした腕の重みに任せ、胸に耳を当ててみると規則正しい鼓動の音がした。

白い朝陽で山陽の頬が照っている。

ぼーっと眺めてから、人差し指で山陽の鼻先をちょん、とつくと嫌そうに身を捩じられた。ふ、といい気分で頬をとんとんと突いてから、軽く摘まむ。すると無性に気恥ずかしくなった。うんと天井を見つめてから、静かに、顔を伏せる。しょうもない。山陽がもし、自分を好きと言うならば。どんな顔で告げるか考えてみる、目を瞑り、あまりに、思いつかず。山陽の寝息にすーっと胸が膨らむと、つられて欠伸が出た。さすがに朝食も冷めると、気を取り直し目を擦る。いよいよ起こし方も乱暴に、両の頬をどこまで伸びるか引っ張ってみる。すると、急に伸びた腕に掌を取られた。山陽は何度か瞬いて、バッと身を起こす。

「は?」
「朝ご飯が出来たぞ」
「え?は……ああ、は?」

寝起きが悪い方なのか、ともあれ起きた。山陽は何だか疑心暗鬼な様子でこめかみを抑えていたが、じっと、胸元あたり、おそらくエプロンを睨んできたので、東海道はそろそろとそれを外した。勝手に借りてしまったが、物申したそうな気配を察して。山陽はマグカップを机に並べる東海道の頬を掴み、ぐいと伸ばした。怪訝な顔でパシリと掌を払うと、山陽はようやく納得した顔で洗面台に消えていく。なんだなんだ、と冷や汗かきながら、一足先に紅茶を啜る。バシャバシャと顔を洗う音がして、戻ってきたのは通常運行の山陽本線だった。

「よお」
「なんだ、よおって」
「お前が焼いたんか」
「俺以外の誰がこの部屋にいるんだ?」

ふうん、と気がない返事で椅子に座ると。目玉焼きとベーコンをトーストに載せ、塩を振りがぶりと齧った。東海道は、パンをナイフで半分にして、サンドして頬張る。感想を聞くメニューでもなく、会話もなくもぐもぐと皿を開ける。褒めるとも文句もなくぺろりと完食すると、昨日よりは手慣れて支度をすませた。

言うなれば、いい雰囲気ではあった。本日は仕事も運行も至って順調だったし、昼食に気まぐれで入った洋食店は味も気前も良かった。珍しく顔を合わせて笑い、さらに快晴ときてる。朗らかな山陽本線を眺め、東海道もほのかに良い兆しを見たのだったが。

三時を過ぎ業務も落ち着いた頃だ。山陽新幹線が在来の執務室にひょいと顔を出した。在来の部屋に好んで来る稀有な上官である。昨日に続き片手の差し入れを掲げると、上官!上官!とあっという間に奪われていった。今日の差し入れはアラカルト。シュークリーム、ショートケーキ、チーズにチョコ。さっそく覗き込む路線達がこれだあれだと取り合いになる。

「俺もお邪魔しよっかな~」
「山陽さん、食べても良いですけど選ぶのは最後ですよ!」
「俺が持ってきたのに!?」
「上官、いるならお茶入れてください」
「だから俺上官なんだけど!?」

などと言いながら煎れてくれるのが西の上官である。何だかんだ東海道本線もお茶を運び、上座下座もなくソファに詰めていく。頂きますの姿勢のまま、思い出したように山陽新幹線が口を開いた。

「あ、本線、おめでと~ジュニアと付き合い始めたんだって?」
「あ!?」
「顔が怖いってえ!」

誰が言った、と睨みを効かせる、隠す素振りない口笛が鳴る。面々は知らん顔でケーキをつつきながら。

「しょうがねえだろ、上官には報告義務がある」
「俺達もやむを得ずなあ」
「んな殊勝な在来はここにはおらんやろ!」
「俺はいて欲しいけどなあ」
「あんたも面白がりおって、他で言わないでくださいよ」
「はいはい、わかってるよ〜!」

勿論冗談だと心得てる山陽新幹線は、八の字眉でシュークリームを頬張る。

「全く西の口に戸は立てられないな」

東海道も機嫌良くショートケーキをフォークで切り分けている。てっぺんの苺はもうない。

「おい、山陽。東海道上官に挨拶にはいかんのか!」
「アホ言うな」

振った側も本気ではない。茶請けにいつものノリで盛り上がり、茶をすする。

「東海道本線とお付き合いして上官に挨拶せんとはな」
「感心せんなあ!」
「こういう順序は大事だぞ」
「ほざいとれ!」

ワハハ!と談笑に花が咲き、山陽が空の湯呑を覗いた時だった。

「東海道が山陽本線と付き合っているのか」

スローモーション。全員がいっせいに声へ顔を向けると、間違いようもなく、戸口には天下の東海道新幹線が立っていた。茶化した空気がピシャリと凍る。誰かの乾いた喉が、ごくりと鳴り、壁掛け時計の秒針まで聞こえた。山陽は、じわりと首筋が汗ばんだ。嵐の前のような、不穏な静けさ。横目に東海道を見ると、両手を握り心底驚いた顔で固まっている。当然仕込みでもない。

「私は聞いていないが、そうなのか」

怒りも驚きもない事実確認の口ぶりにも、凄みがあった。凛とした強い声に誰しも、思わず背を正す。つられて山陽新幹線まで緊張している。東海道新幹線の眼差しの先には、身を竦ませる弟でなく山陽本線がいた。

「にっ」

東海道本線の呼びかけを、ぴたりと掌で制すると。

「山陽本線、お前に聞いている」

山陽が反射的に立ち上がると、空の湯呑が倒れ、くるり旋回した。全員の眼差しが集まる。東海道と付き合う想像なら何百回としたが、兄への挨拶は考えた事もない。小柄な体躯から溢れんばかりの存在感、今日はなおさらそう感じた。まるで神に指さされた思いで、冗談だと誤魔化す事も嘘つく事も不埒だと思った。『お嬢さんを俺にください』などいつか見たドラマのワンシーンが浮かぶ。それを掻き消し、気の利いた事を懸命に探す、あれもこれも違う。これを好機に変える、ひらめきのような。しかし、拳を握りしめる。

何も浮かばなかった。山陽は踵をつけ、すっと顎を下げた。

「東海道本線とお付き合いしております」
「本気と考えて良いのだな」

限りなく懺悔に近い心境で吐露したのは、現状の事実で、願望であった。じっとりとした緊張に、言葉が重い。

「はい、俺は本気です」

はっきりとした声。東海道の心にぱっと沸きあがったのは、嬉しさだった。山陽本線は兄に嘘をつく男ではない。それだけで、知りたかった感情が、暖かく正しく腑に落ちかたちを成す。張り詰めていた緊張がほどけ、静かに、息をついた。兄とぱちり目が合った。控えめに、ほんの少し口角を上げると、兄も軽く頷いた。

「うむ、ならいいんだ。山陽本線、また話そう」

す、と上がる掌に、応えるよう頭を下げる。山陽新幹線だけはすっかり笑顔で、指先でぱちぱちと拍手して。

「俺も行く!」

去り際、暢気なウィンクとサムズアップ。

二人の足音が遠のき、山陽はどっと気力を使い果たしソファに埋まった。山陽には常に展望がある、こうしたい、こうすべき。それが絶対に言ってはいけない相手に、言ってはいけない男の前で、無様な返答をしたように思った。掌に顔を埋めて、低い声で唸る。さすがに東海道も分かってしまったかもしれない。もっと他に何かあったはずだ、だが何も考えたくない。周囲の路線達も尋常ではない様子に声をかけるのは躊躇い。ご愁傷様と手だけ合わせ、そろ~っと皿を片し外出や業務へと戻っていく。

東海道は隣に腰かけたまま、失意に山陽をまじまじと見つめていた。実に漢らしく明快な答えであったのに、いったい何でこうなるのか。慎重に山陽の肩に掌をやると、さっと逃げられた。

「さん」
「業務時間やろ、仕事するぞ」
「…お、おう」

全力で忙しさを醸しだし目を背ける。東海道の視線が頬に刺さるが、無視する。隣り合わせの都合、離れられる訳でもない。画面に浮かぶ文字なんてちっとも入ってこない。東海道があれを聴いてどう思ったか、考えるのも恐ろしかった。バレたくない、考えるだけで喉がグッと詰まり、ワーッと叫び出したくなる。いよいよ耐えきれなくなり席を立つ。追ってくる東海道の気配に足早に廊下に出るも、さすがに呼び止められる。

「山陽本線!」

聞かぬふりで脚を早めるが、あっさり並ばれる。ぐいと腕を引かれて廊下の端に並ぶ。

「山陽、おい、聞こえてるだろ」
「聞こえん」
「聞きたい事があるんだが」
「聞こえん言うとるやろ」
「いいから聞け」
「止めても言うんじゃねーか」
「山陽、俺のことが好きなのか!」

それでようやく、東海道の顔を見た。当然、怒らせたと思った。上官相手にあそこまでせんでいいと。しかし予想外に、そのぱっちりとした瞳はきらきら陽炎のように光っている。目を奪われ、ぽつりとこぼす。

「……好きだと、昨日お前が決めただろ」
「聞いてるのはそういう事じゃない、分かるだろ」

ああ、好きだ、と言えたら簡単だった。実はずっと好きだった、絶好の機会のはずだ。伝わってしまったなら。

でも山陽はムカついた。百三十年に及ぶ積年の思いを、こんなにやすやすと確かめられたくない。喜んでいる東海道には気持ちが揺らぐ。しかし、勘違いだ。東海道の感情は、俺の好意を知って芽生えた、関心に違いない。急く心を叱咤する。いま生まれたばかりの不確かさに身を委ねたくない。東海道と山陽ではその重みが違う。うまくいくはずない、だから言えなかった。拳をキツく握り、東海道を睨む。

「んなわけあるか!!仕方なくやったに決まっとるやろ……罰なんやし。ああ、これでお前にとっても、罰になったかもな」

東海道は先ほどの山陽を信じた。だから今もこれこそが嘘だとは分かった。しかし、だとしたらなぜなおも突き放す。憮然とした表情と見つめ合う、山陽の考えてる事が分からない。この先も暖かな気持ちになる度に心冷やすのかと思ったら、それは静かでむなしい事だった。力なく掴んだ腕を離す。言い知れぬ気持ちに、強い風をやり過ごすよう目を瞑る。

「そうかも知れないな」

深く沈んだ声に、どきりと山陽の胸が跳ねた。

「山陽本線、罰はもういい。努めてくれてありがとう」

官設の頃を思わす、ひどく淡々とした物言いだった。山陽を試すでも諭すでもない、この男が「もういい」と言った時は、その通り、ただ終わりだという声。山陽はこの暖かな苦行が終わる事を願ったはずなのに、ざらりと身を削られる心地がした。

東海道は仕事に戻るよう誘い、二人のただならぬ気配に他の路線達も声をかけぬまま、いつになく静かな執務室だった。定時が近づいて、今日はこの後どうするのか、本当に、もういいのか。尋ねるにしのんでいると東海道と目が合った。

「今日は駅前のホテルに泊まる、もう予約した」
「ああ。……飯は、食いに行くか」
「いやいい、簡単にすませる」
「そうか」

山陽はパソコンに向かう素振りで、言いようがなく、もう一度東海道に向き直る。

「何か食わんか、奢るぞ」
「いい」
「上官の弁償リストは」
「もういいと言ったぞ」

東海道の顔はちっとも怒っておらず、その口ぶりも至って落ち着いていた。怒ってないからこそ、山陽の心は穏やかではなかった。東海道がこうはっきりと線引きして来ることは今までなかった。だからこそどうすべきか分からない。定時になるとぱたりとパソコンをたたみ、さっと執務室を後にする。鞄を掴んで追いかける。ロッカーで共に私服に着替える間も、東海道は何も言わなかった。

夜の街は休日を前に賑わっている、繁華街を抜ける東海道を追う。居酒屋の喧騒、呼び込む威勢の良い声、看板の灯かり。人混みをすり抜け横に並ぶと、東海道は視線を送らず口だけ開いた。

「山陽、もういいと言ったろ」
「俺の行きたい方向もこっちなだけだ」
「ならどこに行く」
「お前が知らんでもいいだろ」

意地を張り足を速める。風を切りどんどんと進んでいくが、山陽も諦めない。付かず離れず。ライトアップされた神戸港、いつもは観光客で賑わうが、肌寒いのもあり閑散としていた。潮風が頬をうち、東海道はようやく足を止め山陽に向き合う。

「いい加減にしろ」
「どこ行こうと俺の勝手やろ」
「追いかけてくるなと言う意味だ」
「別に追いかけとらん」
「お前なあ」

東海道は髪をかきあげ、観念したように波止場のベンチに腰かけた。きらきらと光る観覧車が、不機嫌なシルエットを縁取る。山陽も、今日をそのまま見送ったら何かが終いになるようで思わず追いかけたが、言うべき言葉は見つかない。ただ隣に佇んでいると、汽笛の音が遠く鳴った。夜の海は黒々と静かで、まるで二人きりのようだった。

「…東海道上官には俺から説明する」

その言葉に東海道は幾分拍子抜けし、首を振った。

「いい。元々は俺が言ったせいだろ、心配するな」

山陽は次の言葉を紡がず、隣に腰を下ろした。東海道は、どうしたものかと思った。嫌いだと言う癖、追いかけてくる。思えばずっとそうだったかも知れない。口では何だかんだと言いながら、山陽本線は傍にいた。先ほどまでは確かに怒っていたが、こうして山陽と二人でいると落ち着く。それは説明しがたい感覚で、穏やかな波が砂をさらっていくように、東海道の怒りや苛立ちは長く続かず、いつもあるべきところに返るような気になる。別に何を言わずとも。それが長く直通してきた二人の関係であった。

「山陽、俺は…」

何と言うべきか、悩んだ。

山陽本線を見つめる。くっきりとした輪郭、涼しげな目尻が伏せがちに、組んだ掌を見つめている。いま東海道が躊躇っているように、山陽もそうなのだろうと思った。俺達はあまりに考え方が違い、その違いを超えるのには、勇気がいる。なら東海道から手を伸ばすべきか、と考える。穏やかな気持ちで、そうしても良いと思った。しかし、そうしても良い、では山陽は許さぬ気がした。厚ぼったい暗闇、肌を湿らす潮風に、ふうと息をつく。

「…俺は、もうお前と話したくない。だから、追いかけるな」

埠頭のライトに黒い靴先がちかちかと光る。

「俺達が金輪際話さん、というのは到底無理だろう。もちろん仕事の話はしてくれ。だがそれ以外は、話したくない。お前に嫌味や皮肉を言われるのにほとほと疲れた」

今は距離をおく方が良い。前向きとは言えないが、後ろ向きでもない。一歩進んだのか、下がったのか、何にせよ変わった事もある。だから時間がどのようにか解決してくれるものだ。近すぎれば期待して、期待すると擦り減ってしまう。

山陽は、眩しそうにじっと東海道を見つめていた。今日はおしまいだと、眼差しを逸らす。逸らした視界の端、山陽が膝に手をおき立ち上がった。神戸港のライトを背負い、暗い港を眺めている。東海道は、帰るつもりなのだと思った。脚を伸ばした瞬間、山陽が勢い良く走り出す、方角は、海へ。振り返り、あっ、と息をのむ間に手摺に手を掛け、乗り越えると。

港に飛び込んだ。

寝静まる神戸港に、どぼん、と鈍く奇麗な水飛沫が上がった。真っ暗だ、遠くに、またぼーっと低い汽笛がなった。船の灯かりが頼りなく、夜の薫りがする潮風が頬をなでる。呆気に取られ、それから跳ね上がるように立ち上がる。

「ワーーーーーッ!!何してる!!」

駆け寄って覗くと、山陽はすでに浮上し頭を覗かせていた。ひとまず、ほっと胸をなでおろし膝をつく。

「なんでお前はそうめちゃくちゃなんだ!!」
「俺にも分からん!!」

東海道が目を逸らした瞬間、そりゃそうだ、と山陽は素直に納得した。東海道は、どれだけ皮肉や嫌味をぶつけても翌日には忘れていた。当たり前に俺を呼び、いつも通り気にもされない事に苛ついて、安堵して。ずっとそういうものだと。ある意味甘えていたのかもしれない、それが限界らしい。真に迫った声に、胸が痛んだ。痛んで、気づいたら海の中にいた。でも、どうすればよかったのか。

「ずっとわからん……」

百年以上そうしている。暗く冷えた海に体が慣れるといっそ暖かで、もう放っておいて欲しかった。ゆらゆら波に揺られてこのまま溶けたい気分だったが、頭上から声がする。

「あがってこい、風邪をひく」
「風邪なんかひくか」
「ひくだろ、馬鹿野郎」
「馬鹿ならひかん」
「お前なあ!」

東海道が意地になって手摺を乗り越えようと身を乗り出し、山陽も観念して防波堤を登った。ギュウと絞ったずぶ濡れの服が、ビシャビシャとコンクリを濡らした。あんまりな有様だ。

「お前、携帯とか…」

不幸中の幸い、荷物はベンチに置き去りだ。山陽はバツが悪そうにポケット探り、取り出した。東海道が掌を覗き込むと、ちいさな魚がピチピチと健気に跳ねた。なんなんだこれは。山陽は何でもなかったようにひょいっと魚を放ると、魚も元気よく港に返ってった。東海道は思わず口をぽかんと開けてから、堪えきれず笑った。

そういえば一昨日もずぶ濡れだった。いい歳して、本当にいい歳をしてこう何度も。こんなことあるものか。東海道はハンカチを取り出し、俯く山陽の頬に当てた。嫌そうに、でも避けず黙っている。仏頂面の山陽が無性におかしくて、あれこれ考えるのも馬鹿らしく、慰められた気にもなった。いつも突拍子のなさに振り回されるが、放ってはおけない。すると二人の考え方の違いも、意地も躊躇いも、さほど問題ではないように思えた。結局自分は東海道本線、自分がどう信じるかが重要なのだと。

「山陽本線、なんというべきか」

ハンカチ越しに、山陽が緊張したのが分かった。もう片手で頬を包むと、ふうと大きく息をつき。

「俺と付き合ってみるか」

ひどく怪訝そうな眼差しは、その言葉を理解してないようだった。その瞳を覗き、ひと息にに続ける。

「俺とお前で、本当に恋人になるかと言っている」

今度ははっきり届き、まるく見開いた目が何度も瞬いた。興奮、苛立ち、感動、不審、その瞳にさまざまな感情が往来するのを、東海道はじっと待った。山陽が、ぽつりと答える。

「ならん」

俺から言わせたいんじゃなかったか。仰け反り、聞いた話と違うぞ、という顔にもなる。山陽は苦々しい顔で、不貞腐れと諦観の狭間に言った。

「いい加減な気持ちなら、ならん」

今度は東海道が惚けた、それから、うんと顔を顰める。この期に及んでこの男、とまた腹が立つ。山陽が求める気持ちはまだないのかも知れない。だがそんなこと、全てのことは初めにない。だから始めようとしてると言うのに。東海道は一歩踏み込み、鼻先触れるほどの距離で声をあげた。

「臆病者、なら一生付き合わんぞ!」

山陽は驚いて仰け反ると、ぐっと険しい顔で踏ん張った。

「お前ここはなァ、いい加減な気持ちじゃない、言うとこやろ!」
「んなこと知るか!お前は、あれこれ考えすぎだ。俺はそうしたいと思って言った!いい加減なら、お前が確かにすればいいだろ。それが不満で出来ないと言うなら、もういい!」

東海道がフンと腕を組むと、山陽は濡れた前髪をガシガシと掻きあげた。眉間に皺が寄せしばし、葛藤して。すうと意を決した面持ちで向き合う。緊張感漂う佇まいに、東海道も、ごくりと喉を鳴らした。等身大の、山陽本線に身構える。真剣な眼差しに胸中まで覗き込まれるようで、胸に掌をギュッと握りしめた。山陽は背を正すと、ふ、と気持ち良く天に息を吐き出し、胸を開いた。

「俺は本気やぞ」
「…うん」
「俺と、付き合ってくれ」

ありきたりな言葉が初めて聞いたように響き、山陽の顔を見つめる。

「そうしろ!」

全く奇想天外な結末を迎えたような、長年こうなるべくしてなったような、不思議な心地だった。もう使い物にならぬハンカチを絞ると、山陽も、ようやく口元を緩めた。

「全くお前は水浸しが好きだな!」
「ああ、水も滴るいい男やろ」

調子を取り戻すのに呆れていると、山陽は東海道の掌を取った。

「東海道、知っとるか。恋人ってのは一人やぞ」
「俺を何だと思ってる、承知してる」
「……生涯に一人やぞ」
「それはまだ分からん」

山陽は深く息をつくと、茫然と共にようやく一条の光がさすような嬉しさを感じた。当然付き合うまでには数え切れぬ願望があり、神戸港に飛び込むプランはなかった。どうしてこうなったのか。目の前にいる東海道本線が、自分の恋人らしい。真っすぐ自分を見つめる瞳に、言い知れぬ気になる。今はそれが掻き消えぬよう掌を強く握り、ゆっくりと瞬き空を見上げた。空に星がぱちぱちと揺れ、ぼんやりとまるい月が薄雲から顔を出している。

「月が奇麗だな」

思わず口をついて出た台詞に、東海道も空を仰いだ。確かに真暗な空を白く照らす、見惚れるような月だった。だが山陽には言っておかねばならない。

「山陽、俺は共に死ぬ事を是とは思わん。共に未来を、走り続けられる奴がいい。文学的表現も好かん。しっかり言わんと分かるものも分からんぞ」

山陽は唇を開きかけ、またしばし葛藤の面相をして、眉に深く皺寄せた。

「…お前が、好きだ。ずっと」

暗い海を背にきらきらと光る山陽の瞳、すき、それは遠く懐かしいような響きだった。東海道は考える。

兄を慕う根幹にあったのは、救済だ。それは生まれた時から使命が救われ、限界を前に現れた光。それが路線として誠に正しい愛なのであれば、山陽の好きは何なのだろうかと。なくても生きていけるのに、どうあってもままならぬほど強い感情。それは人間のようだった。なのに今東海道の心にも、確かに、似た気持ちが芽生えた。それはまだ小さな火種だが、きちんと暖かに燃え出した。いつの時代か、都市伝説めいたおとぎ話があった。路線が恋をしたら人間になってしまうと。東海道はほのかな不安と期待に、掌を自分の胸に当てる。それは規則正しく鳴る、鉄道の心だった。

「うん、ちゃんと分かった。…山陽、ありがとう」

東海道にとって月は長くただの月だった。しかし月を眺めて二人きり、同じように綺麗だと思う事は、確かに愛情のかたちをしているのかも知れない。遠回しで面倒で、理想的だ。空を見上げる山陽の横顔、白く浮かぶ輪郭をなぞる、この男には似合いの台詞だ。

「月が奇麗だな」
「おい」

いかにも不服な低い声に、東海道は堪えきれず笑った。

「俺は良いんだ!だってお前はこういう言い方が好きだろ?良い月だ」

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■アフターアフターハピハピバス

鉄道グッズは乗客の愛着形成、収益面共に重要だ。路線達もグッズ制作には企画段階で関わったり、提供されたサンプル品のレビューや、身に着け販促したりする。西在来の執務室にはその都合、よく段ボール箱で直近発売のグッズが持ち込まれる。今日もそうだった。

「俺これが良い、メルカリで転売しよーっと」
「発売前の商品を転売するな!ちなみに売価いくらなんだ」
「どうせなら食いもんがいいが」
「こんなん売れるかあ?」
「あー何でもいいからお前ら順番に取れ!」

山陽が路線達を仕切っていると、ひょいと東海道が現れた。

「何があるんだ?」

東海道が西のグッズに関心を示すのは珍しい。兄関連グッズ以外にはとんと興味がなくこの定期イベントもいつもは我関せずだ。山陽の隣に並んで段ボールを覗くと、ぴたりと肩がくっついた。頬にふわついた髪が触れ、長い睫毛が瞬き。乾いた喉が鳴り、ぐいとその肩を引き剥がす。

「お前は見んで良い!」
「なんでだよ」
「どうせいらんやろ」
「見ないと分からんだろ」
「いつも見とらんだろ」
「今日は見る!」
「これやるから座っとれ」

山陽は適当に掴んだグッズを東海道の胸に押しつけた。東海道は掌のグッズに視線を落とし、裏返すと口パクで商品名を読み上げた。ふうん、と言う顔で、大人しくデスクに戻る肩がしゅんと下がったように見え、山陽の胸は痛んだ。山陽本線は東海道本線に素直な思いを告げ、二人は「お付き合い」を始める事になった。めでたしめでたし、と終わりに出来ないのが山陽本線である。

目下深刻な悩みがある、東海道に優しく出来ん。

東海道がグッズに興味を示したのは、山陽がこの場を仕切ってるからだ。元来素直な男。付き合い出してから前向きに山陽の理解に努めている。まるで小さな子のように、なんだなんだと山陽を追いかけ尋ねてくる。嬉しい、当然、嬉しくない訳がない。だから山陽は頭を抱えている。

反射的に東海道に跳ねのけてしまう、百三十年意地張ってきた体がなかなか言う事を聞かない。

正直、東海道の心変わりも恐れている。合理的で、切り替えも早いこの男。ある日突然「もうやめた」と言い出すとも知れない。山陽の積年の想いを知られた後に背を向けられるぐらいなら、今のままで良いとも考える。東海道が付き合おうと言い出したのは、山陽への愛情ではなく慈悲や憐憫をふくんでいるのだと踏んでいる。だがそれでもと乗ったのも自分だ。付き合う、宣言したからには向き合うべきで、東海道もそれを望んだと分かっているのだが。

関西と環状と連れ立った社食。したり顔で説教がはじまりうんざりする。

「お前な、あれじゃすぐ振られるぞ」
「うるせえ」
「せっかく付き合い出したのになあ」
「別にええやろ、あれも気にしとらん」
「そうか?さっきもへこんでなかったか」

ぐ、と喉が詰まる。そんなもの、その通りである。自分が一番よく分かってる。ほぐしすぎた定食の鮭を選り分け頬肘をつく。

「今まで恋人はおらんかったけどな、東海道も誰かと付き合うという選択肢が出来た訳だろ」
「そうだそうだ、取られるぞ!」
「は、別に取れるもんなら取ってみろっつーんだよ」

などと話していた午後だ。

執務室の扉を開いたら、山陰本線と東海道がキスしていた。

山陽の頭に世界の終わりの鐘が鳴り、膝から崩れ落ちる。予言だった。二人が気づいて同時に振り返り、目をきつく瞑る。押し寄せる後悔を必死に宥めた。ほら見た事か、気を許さなくて良かった、第一、東海道など気まぐれで横柄で自分勝手でそれで、それで。痺れるほど掌を握りしめる。

諦めきれん。諦めきれなかったからこうなってるのだ。

「おい、どうした」

近寄る気配に薄目を開ければ、屈んだ東海道の前髪に、見慣れぬピンが止まっていた。

「………なんだそりゃ」
「これか?止め方がよく分からなくてな。山陰につけてもらった、な!」
「花丸だが」

心に吹き荒れた強風が、ぴたり止まる。なるほど。二人が重なって即座にキスと勘違いしたが、どうやら東海道の前髪を止めて貰っていたらしい。どうみても浮気現場の雰囲気ではなく、孫とはしゃぐ東海道だ。まだバクバクと鳴り響く鼓動がドラムロールより煩いが、冷静に努めて立ち上がる。

きょとんとしてる東海道を、あらためてみる。イコのピン止めだ。見た事がない、と考えて気づいた。昼に自分が押しつけた発売予定の新作だ。それで前髪の片方を女子高生のように止めてる。白い額がすっきり露わになり、癖毛をきれいにまとめ顔立ちを幼くしていた。今は青い瞳も三割増し輝いている。なんだこりゃ、とんでもなく。

「かわいいが」

思わず口を押えたら、その言葉は山陰からだった。東海道は自信ありげに胸を叩いて応える。は?いや俺が先に思ったが?と腹が立ち顔を背ける。

「は、150を前にかわいこぶるな、じじい」
「うるさい、別にいいだろ」
「似合っとるが」
「そ~だよな~!今日はこれにする!」
「あ?」

なんだって。それから青い制服に身を包み、イコを額にお供した西仕様の東海道は、控えめにいってあちこちで人気だった。上官達との打ち合わせでも勿論目に止まり。

「あ、ジュニア、イコちゃんじゃん!かわい~」
「山陽さん!俺は見世物じゃないですよ!」
「なんだ、ぴよりんではないのか」
「ごめんね、兄さん!次は絶対ぴよりんにするからね♡」

大変ご機嫌の様相。女子社員達の賑わいも凄かった。男前で端整な顔立ちに、満面笑顔のイコがついている。そのギャップが良かったらしい。東海道に差し入れられる菓子が普段の三倍になり、誰からか受け取ったカゴ片手に練り歩けば、一足早くひとりハロウィンと見まごうばかりだった。

その背を眺めて思う。あの日、東海道は「自分が兄を愛するように」と言ったが、東海道の兄に対する気持ちと、山陽から東海道へ思う気持ちは全く違う。あれは誰も彼もが兄を愛すればいいと思っているが、俺は東海道がそうなるのは嫌だ。だがそんな独占欲を、こいつに知られたくない。知られて、それから東海道が気変わりしたら。憂鬱な気になり、溜息に窓が曇った。

終始東海道と、それから己の態度にもムカつきながらデスクに戻る。流行りの歌を口ずさむ東海道に、コツコツと机を叩く。

「おい、それもう取れ」
「なんでだ。皆褒めてたぞ」
「そりゃ似合わんとは言わんやろ」

む、と拗ねた唇で、東海道は前髪のイコを指先でなでた。しかし取る素振りはなく、頬肘ついて顔を顰める。

「つか、なんでそんなもんつけたんや」
「似てるからだろ」
「何が」
「お前に!」

意味が分からず頭を捻ると、ガラス窓に映る自分と目が合った。ああ、イコと顔が似てるからな。ピン止めのイコは口を開けいつもの細目で笑っている、誉め言葉と取るか絶妙なラインだ。憮然としながら、パチ、パチ、とノートパソコンを叩き、遅まきに気づいて東海道に向き直る。

「は?俺に似てるからつけたのか?」
「……なんだ、似てるからくれたんじゃなかったか」

東海道は気を悪くした風もなく、かえって可笑しそうに笑った。

「でもお前がくれたし、嬉しかったぞ」

その言葉はストレートに山陽の胸を打った。この男は、好意を打ち明ける事を恐れない。兄に対しても顕著にそうだ。俺がすげなくしても、周囲が何と言おうと関係ない。自分がそのようにすべきだと思ったら堂々と振るまえる。東海道の輝き、ずっと横目に眺めていたそれを真っすぐ向けられ、心臓がどきりと跳ねた。

それにだ。どうやら東海道は、つまり、ヘアピンを俺の代わりにつけておけ、と取り、それを喜んでつけていたらしい。手を顔で覆う、さすがに可愛いと言わざるを得ない。この男がそんな事するとは、考えも及ばなかった。それなら誰も彼もがかわいいと褒め囃す東海道とは「俺の東海道」ということになる。思わずデスクに伏せる。

「クソ~~~ッッ」
「なんだよ!」
「……すまん。本当は他の奴らがかわいい言うのに妬いとった」

東海道は肩を跳ねさせ、ぱちぱちと瞬いた。嫉妬にはぴんと来てなさそうだが、ほのかに頬が赤らむ。喜んでるらしい。

「そうか。しかし、皆も褒めずにはいられんだろうしなあ…」
「おい、抜かせ」
「見て分かるだろう、何分かわいいからなあ」
「調子のっとるなあ!」

執務室は二人きり、だが東海道はわざわざ椅子のキャスターを転がし小さく耳打ちした。

「山陽、そう心配するな。恋人はお前だろ」

ぐっと喉が詰まり、嬉しさを堪えるのが精一杯だった。額のピンを指先でちょいちょいとつく。

「曲がってるか?」
「ん」

本当は曲がってなどいなかったが、手づからつけなおしたかった。柔らかな前髪を抑えてパチリと止めなおす。陽をすった髪が暖かい。これは誰かに所有される男ではないが、しかしいま一端は確かに、山陽に心を預けている。そう分かった。瞑った長い睫毛に、機嫌よく結んだ唇、白い額。東海道の頬に手を添える。百年以上見慣れた顔が、しかしこの掌の中にある実感に、山陽は急に胸がいっぱいになった。東海道を好いている事を許された気になる。場違いになんだか鼻がツンとして、隠すように、その額にほんの軽く口づけた。ひどく驚いた顔で東海道が口を開け、うっすら頬に赤みさす。初心な反応に、何とも言えず嬉しくなる。分かりやすく動揺した眼差しが逸れ、早口に言う。

「山陽、これは良い商品だ。どうやら恋人にキスしてもらいやすい」

なんだその照れ隠しのレコメンドは。初めてみる顔に、山陽は眩しさを見るよう目を細め、ぽつりとこぼした。

「かわいいな」
「いいピンだな」
「お前や」
「……か、かわいすぎるのも、困りものだな」
「ああ、そうやな」

素直にされると、東海道もまたどうしたら良いか分からない。何分、百三十年間喧嘩してきた。初めて気持ちを確かめた幼子のように、山陽は東海道の指先をちょんと取った。ただ、それだけ。窓からの日差しも大変穏やかで暖かい。東海道は何と言うべきか、照れ隠しににっこり笑ってみた。すると山陽が瞬いて、ん、と嬉しそうにはにかんだ。驚いて、思わず惚れ惚れと眺める。あまり見た事ない屈託のない笑顔。ぽかぽかとした嬉しさを感じていると、扉から濁点つきの悲鳴が上がった。

「おい!いちゃつくなら扉に貼っとけ!」
「貼られても嫌だけどな」
「帰ってやれ、阿保共!」
「職場でいちゃついたら罰金500円入れるが」

どん、と置かれた気に入りの貯金箱を前に、山陽が立ち上がる。「また拳か」と血気盛んに身構える面々を前に、山陽は財布から諭吉を引き抜くと躊躇わず貯金箱に突っ込んだ。

「取っとけ、前払いや」

ブーイングに近い歓声が上がる。

「見たくねータイプの漢気だ」
「もしかしてくっつかん方が良かったな」
「毎日見せられるのか、これを…」
「仲良くてよかったが」

それを見上げる東海道に視線が集まるが、明らかに満更ではない顔だ。きらきらとした眼差しで、誇らしくときめいてすらいる。面々は気づいた。百三十年片思いを拗らせた男と、百五十で初恋を知った男のカップルは、完璧に最悪かもしれないと。
 

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