告白してよダーリン!
人気者だけどちょっとぼんやりしたところのある木原くん。
幼馴染みの2人の短いお話です。
今年はバレンタインはスルーのつもりだったんですが、ふと書きたくなって書きました。
じたばたもだもだをお楽しみいただけたら幸いです!
| 1 / 1 |
退屈だ。机に肘をついてぼけーっと教室の窓を眺めてると、あっという間に空が赤く染まってくのがわかる。冬の日暮れは早い。けど、あいつは遅ぇな……。よくわからんが、生徒会ってのはそんなに忙しいものなんかな?
オレは腕を上にぐーっと伸ばしてから机の上に目を落とす。きっかり端っこまで書き込みが出来たノートが広げて置いてある。あーあ、残ったら家でやろうと思ってた週末の宿題、待ち時間だけでもう終わっちゃったじゃん。それでも戻ってこないから携帯でゲームを始めた……んだけど、今度は充電が足んなくなった。しょうがなく充電器をくっつけて鞄の中に放り込む。携帯の電池、だいぶへたってきたな。そろそろ新しい携帯欲しいなー。今度あいつと一緒に見に行ってみるか。
まだ来ない。いよいよすることがなくなって筆箱の中をちまちま整理してると、前のドアががらっと勢いよく開いた。
「日野杉! ごめん待たせた!」
飛び込んできたのは、すらりと背の高いイケメンだ。
このイケメンの名前は木原。小学校に上がる年にオレん家のすぐ近くに引っ越してきて、それ以来の腐れ縁だ。オレのなんの捻りもない黒髪と違って、少々ふわっとした茶に近い髪は顔立ちに似合っていてかっこいいと女子の間で評判でいらっしゃる。オレも木原もまったくいじってない自然体って意味では一緒なのにな。
「よし、帰ろうぜ」
散らばった机の上の荷物を鞄に適当に詰め込んで立ち上がると、木原はぱっと顔を輝かせて元気よく2回頷いた。
2人して昇降口に向かうけど、もう誰もいないな。廊下から見ても教室の電気はほぼついてない。あ、そっか、今日は放課後に先生たちの会議があるから部活は全部休みになってるんだっけ。
靴箱は、学年ごとに苗字の50音順で割り振られた金属製のロッカーだ。それが何列もずらりと昇降口に並んでる。オレたちは2番と書かれたロッカーで左右に分かれた。木原と日野杉という苗字は50音順だと結構離れてるから、列が別なんだ。その列の真ん中あたり、裏表ぐらいの位置にオレたちの靴箱がある。だから普通に靴を履き替えながら会話ができるわけだ。
「生徒会って今なにやってんの?」
「うん、3年生を送る会の企画運営。合唱曲と出演する部活の演目が出揃ってきたから順番の調整とか」
「あー、そういやオレも学年の合唱選抜メンバーに選ばれちゃってるんだっけ。練習させられるんだろうなあ。選抜ならちゃんと選抜しろよ、抽選は選抜じゃねえだろ」
「あはは。日野杉の歌、……上手だと思うよ!」
おい、間があったぞ。
それにしても、演劇部とかダンス部とかの発表はそりゃ見ごたえがあるだろう。なんか賞とか貰ってるもんな。でも下の学年の合唱とか聞いて3年は楽しいんだろうか。うーん、まあうちの学校の伝統らしいし、木原がこれだけ頑張ってるんだから、成功してもらわなきゃ困るんだけど。
ガラスのドアから外を見ると、木がわさわさ揺れてる。かなり風が強そうだ。念のためマフラーをぐるぐる巻きにして気合いを入れながら校舎を出たけど、風の割には意外と全然寒くない。でも木原はすすっと寄ってくるとオレの肩に自分の肩をぶつけた。口では「寒い寒い」とかなんとか言っている。ったく、しょうがねえ奴だな。
「マフラー貸すか?」
「えっ。……いや、そうしたら日野杉が寒くなっちゃうだろ、風邪とかひいたら大変だし!」
「うるせえ巻いてろや」
自分の首からマフラーを外し、ばさっと木原の首にかける。なんだよ、断ったわりには大人しく巻かれてんじゃん。
「……ありがとう」
んで顔を埋めてなんかにやにやしてるし。
オレが凝視してるのに気付いたのか、木原はわざとらしくぱっと空を見上げて「あ」と声を上げる。
「そういえば、今日は大変だったね。みんな大騒ぎで」
「だな。土曜の明日がバレンタインデーだと学校休みだもん、そりゃ今日が当日扱いになるわ」
うちの高校では校則はともかくバレンタインデーのチョコ配りでどうこう言われることはない。世間的にこれだけおっきな行事ってなると、完全に止めるのも難しいからなんだろう。担任も「先生は何も見ていない。見ていないからな! あと、教師に渡すのは後がいろいろ面倒なんでそれはやめてください」とか言ってたし。
木原がぐいぐいとさらに距離を詰めてくる。
「それで……その……」
もごもご言いながら両手を擦り合わせたりなんかして。
「日野杉は……チョコもらったの?」
「いや? クラスの女子全員から男子全員にザ・義理チョコって配ってくれたちっちゃいやつあったろ? おまえも食べたやつ。あれだけだよ。あれは1にカウントできねえやつだろ」
「あ、うん。ナッツのね。美味しかった。……えっと、それじゃなくて……」
ははーん。あれか、昼休みに隣のクラスの女子に呼び出された件な。オレは腕を組んではあっと息を吐く。
「あれ、オレ宛じゃなかった」
「へ?」
「オレの兄ちゃんに渡してくれ、だとよ。ほら、学祭で兄ちゃんクラスに来てくれたじゃん。それで見かけてかっこよかったからってさ。ホントは家に来て渡したかったらしいんだけど、オレに誤解されても困るからって」
「ふ、ふーん」
木原め。明らかにほっとしてんじゃねえか。オレが1個も貰えなかったのがそんなに嬉しいっていうのか。てか、そう言うおまえはどうなんだよ。
「オレはともかくさぁ。おまえは誰かからもらったんじゃねえの? モテるんだろ、生徒会長は」
「そんなことないよ。ちゃんと全部断ったし。だって、ほら、一応校則で禁止されてるでしょ。菓子類の持ち込みはいけませんって」
真面目な顔して、木原は力強く拳を握った。だからぁ、そんなのバカ正直に守ってるのっておまえくらいだってば。担任の見逃し発言も聞いてるくせに。
ま、いいや。
「じゃあ、オレたちはお互いに収穫ゼロってことで」
「そういうことだね」
急ににこにこしちゃって。情緒不安定か。
なんて話してると、あっという間に家が見えてきた。
「日野杉、明日は写真部の活動で学校行くんだっけ」
「そ。午後からだけど。よく知ってんな」
「ああ、うん。生徒会に出された届け出を見たんだよ」
「なるほどー。そう、そうなんだよ。休みだってのに、講師してくれるOBの予定がそこしか合わなかったから出てこいってさ。おまえは生徒会?」
「うん、朝から」
はー、おまえのが早いのか。大変そうだな。お疲れ様、とねぎらって、オレたちはオレの家の前で分かれた。
翌日。
ほぼ無人の学校はしーんとしていてやたら静かだ。木原曰く、写真部以外には生徒会くらいしか出てきてないらしいからな。
靴箱を開けると、……赤い包み紙の小さな箱が入っていた。
うーん、オールドスタイル……。
終わった終わった。期待してなかった割には講師の人の話もなかなか面白かったし、充実した時間だったな。しかもちゃんと予定通りの時間に終わったのもよかった。はー、これでようやく土曜日を満喫できる。
角を曲がろうとしたところで、ばったりと木原に出会った。びっくりした顔をした木原は、はっと思い立ったように両腕を広げると、オレの行く手を阻むように両手をばたばたと動かしだす。
「あっ、今帰り? 終わったとこだよね? ちょっと待ってて、一緒に帰ろう!」
「おー。わかった。靴箱んとこで待ってるわ」
てか資料みたいなの抱えてるけど、仕事はちゃんと終わったんだろうか。オレの心配をよそに木原はぐるりとオレに背を向けると、鞄とコートが置いてあるんだろう生徒会室に向かってダッシュする。おーい。校則を守る生徒会長様じゃなかったんか。なに廊下を元気よく走っちゃってんだろうな。……なんかあいつ、たまに大型犬に見えるんだよな。
少しだけ待ったけど、木原は走ってったときと同じ勢いで靴箱までやってきた。しかもにこにこしちゃってめっちゃ嬉しそうだ。
オレは自分の靴箱に手をかける……けど、木原は自分の列には行かず、なんかオレの手元をじっと見てる。
「なに?」
「日野杉……その……今日……」
またもごもごモードだ。でも言いたいことははっきりわかる。オレは思わず肩をすくめて笑った。
「ああ、入ってたぜ、チョコレート。しかも“好きです”のメッセージ付きで」
「……そ、そうか、……よかったな!」
なにやら足元がおぼつかない感じで、木原は自分の靴を取りに行く。どうすんのかなーと思ってたら、そのままふらふらと昇降口に向かっていった。やれやれ。その広いばっかりで少々頼りない背中のあとを追う。
木原は黙ったままだ。このままじゃ無言で終わっちゃいそうだな。仕方ない、校門を出たあたりで後ろから声をかけた。
「いやー、嬉しかったけどさー。メッセージに名前がなかったんだよな~。なあ木原、これ、一体誰からだと思う?」
木原は後ろから見てもわかるくらい視線を泳がせる。
「さ、さあ……。でも、きっと日野杉のことが本気で好きで……溢れる思いを抑えきれなかったんだろうね。気持ちは伝えたいけど、気付いてもらえなくていい……たぶんそんな思いでいるんじゃないかな」
「本気で、ねえ……」
本気で誤魔化してるつもりなんだろうか、こいつは。
あのな。昨日オレらは全校生徒がほぼ全員帰宅した後に一緒に帰ったんだぞ。だから今日はオレより早く来た奴にしか靴箱にチョコなんか仕込めないんだわ。その時点でどんだけ候補が絞り込めると思ってんだ。しかも、これ、めっちゃくっちゃおまえの筆跡なんだわ。腐れ縁ナメんなよ! 挙げ句の果てにこのメッセージカード、駅前の文房具屋で買っただろ。そん時、オレも一緒にいたよなあ!
あー……。もー、この天然ちゃんめ。今時こんな純朴な奴、なかなかいねえぞ。いつもあと一歩、もう一声、ってとこで飲み込んじまうんだからさ。おまえが言いたそうだから、オレ、ずーっと待ってんだぞ。
ったく。そんなぼやっとしたとこも好きなんだけどな。
「な、これからおまえん家寄っていい? 貰ったチョコ、一緒に食おうぜ」
「え……うん!」
あーあー、嬉しそうにしちゃって、まあ。
早く告白してこいよ、ダーリン!
| 1 / 1 |
コメント
ログインするとコメントを投稿できます
コメントの文字制限は140文字までとなり、長いコメントを考える必要はございません。
「萌えた」「上手!」「次作品も楽しみ」などひとこと投稿でも大丈夫です。
コメントから交流が生まれ、pictBLandが更に楽しい場所になって頂ければ嬉しいです!
この作品に関連のあるpictSQUAREのイベント
-
2026年05月31日 00:00〜23:50全寮制学園もの創作BLオンリー一次創作BL 学園ものサークル参加受付期間2 / 10sp
10月12日 19:00 〜 05月25日 00:00

