熊手堂

オリジナルBL小説、二次創作は刀剣乱舞中心、洋画やオッサン刑事ドラマも好きです。

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投稿日:2017年05月22日 21:16    文字数:12,357

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とあるドキュメンタリー番組で緊縛のお仕事をしている方がごく日常的な場所で鮮やかに縄をかけていくのを見て、こっこれはえらいもん見た(@ω@`;)とショックを受けまして。そのショックがなんでか紆余曲折して「バーでたまたま隣り合った心得のある人に、本当は指輪を交換したい人がいるのにできないと愚痴ったら持ち合わせの紅紐で左薬指から肘にかけて綺麗に縛られてあまりに見事だからもったいないとそのまま帰宅、だが待っていた攻にそれを見られて誤解される受」の話を書きなぐってしまいました。攻も受も名前を決めておりません、決めるのが面倒くさかったというのが正直(´・ω・`) だったらpictblandさんの夢小説機能で攻さんも受さんをご覧になる方のお好みに委ねようと登場人物二人の名前が指定できるようにしてあります。

書き上がってどうしてこうなったと本人が一番頭抱えてますが、よろしかったら様々に入力してお楽しみください。

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キーワードタグ オリジナル  創作  創作BL  緊縛  R18 
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とあるドキュメンタリー番組で緊縛のお仕事をしている方がごく日常的な場所で鮮やかに縄をかけていくのを見て、こっこれはえらいもん見た(@ω@`;)とショックを受けまして。そのショックがなんでか紆余曲折して「バーでたまたま隣り合った心得のある人に、本当は指輪を交換したい人がいるのにできないと愚痴ったら持ち合わせの紅紐で左薬指から肘にかけて綺麗に縛られてあまりに見事だからもったいないとそのまま帰宅、だが待っていた攻にそれを見られて誤解される受」の話を書きなぐってしまいました。攻も受も名前を決めておりません、決めるのが面倒くさかったというのが正直(´・ω・`) だったらpictblandさんの夢小説機能で攻さんも受さんをご覧になる方のお好みに委ねようと登場人物二人の名前が指定できるようにしてあります。

書き上がってどうしてこうなったと本人が一番頭抱えてますが、よろしかったら様々に入力してお楽しみください。
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プライベートにも段階はある。
例えば、ランチに使う店。気の置けない同僚と向かう定食が中心の食堂と、上司との少し後ろめたい話をする和食店には明確な段階がある。
就業時間が終り夜に身を置く場所にも当然それは存在している。
自分が属する職場から五駅ほど離れてしまえば、集まる人々の素性も全く違う場所がこの都会には存在する。高層ビルがそびえ立つ人工の密林の麓に点在する、それはまるで違う惑星ほどに違う世界だった。
その中の一つ、新宿、不夜城の異名がこれほど似合う街はないだろう歌舞伎町、その中心部から外れた雑居ビルの地下にあるバーが最近のお気に入りだった。
手に入りにくいレアボトルを置いているわけでもないごくありふれたバーだった。無口な店主は馴れ馴れしくなくそれでいて客のグラスが乾くのを見逃すほどに怠惰ではない。居やすさとしては最高の店だった。
そんな店で頼むのは気取ったカクテルではなくありふれたウイスキー、ダブルをストレート。チェイサーのミネラルウォーターのグラスとセットで薄暗い照明の中に潤んだ光を抱えていた。一人きりの時間を過ごすのに顔見知りのグラスたちに指先で挨拶をして、もしそれが物足りないのならスーツのポケットに忍ばせた文庫本の出番だった。
だが今夜はそこに別の訪問者があった。
「久しぶりですね」
カウンターの中から店主が声をかけたのは僕の隣の客だった。柔和な顔にモノトーンのニットジャケットにタートルネックとシンプルな服装。没個性だがそれが個性になっているそんな男性だった。
「お忙しかったんですか」
「ええ、ちょっとイベントとか」
「ああ」
当たり障りの無い会話が自分の脇を滑り抜けていく。それがむしろ心地よかった。ここでは自分は完全に背景の側にいた。それでいい。背景の色に溶け込んで誰の目にも触れないほどのプライベートモードが欲しかった。そうでもしないと今自分が抱えている想いが滲んで漏れてしまいそうになっている、それが怖かった。
「……お一人ですか」
それなのになぜその殻を破いてくるのだろう。
「ええ」
だがそんなことを顔に出すほどに自制が働かないわけでもなかった。
「すみません、ちょっと雰囲気が違うかなと思ってしまって」
「はは、そうかもしれませんね」
ミディアムグレーのスーツという日本のサラリーマンの一類型そのものの服装の自分は、携帯電話の電波に恵まれていない裏通り地下のバーには不似合いかもしれない。だがその不似合いの具合もそれほど飛び抜けたものではないだろうに。
「清潔感が」
「は?」
むしろ飛び抜けていたのはそのキーワードだった。
「澱んだバーよりは明るいカフェが似合いそうな方だなと」
「は、はあ」
「澱んでいて申し訳ないっすね」
店主が苦笑いとともに隣の客の前に敷かれたコースターにグラスを置いた。タンブラーにライムの濃緑が沈み炭酸が立ちのぼっていた。香りからするとジントニック。そのグラスを長い指がつまみかざしてごく簡単な乾杯の礼をとった。つられて自分もウイスキーのグラスを持ち上げ最低限の礼を返した。
それから会話が弾む事も無く、隣の客はごく控えめな声で店主と二三言葉を交わした。また自分の考えと向き合う時間が訪れた。いや、考えなどない。あるのは心の底に横たわる手のつけられないある思いだけだった。
「似合いそうだな」
「え?」
唐突な問いかけが自分に向けられた物だと気づくのには少し時間がかかった。
「すみませんね度々」
「いいえ」
「手がね、綺麗だなと」
手だって?
自分の手をまじまじと見た。普通の男の手でしかない。手荒れも無く肌は男にしては肌理が細かいと言われたことがある。
ただそれが嬉しいとは思わない。
そのきめ細かさを指摘した相手の手は自分よりも大きく指の節も目立つ力強い手だった。それでいてある特定の所作に長けた者に特有の独特の優雅さを持つ、同性の手だった。
「指が素直だなと思いまして、なにかスポーツされてます?」
「……学生時代に少々」
「そうですか、手って動きで形が変わってくるんですよ。あまり動かさなくても歪んでくるし、骨格がきれいに伸びてるなと思いまして」
「整体でもされてるんですか?」
「あぁー、近いような反対のような」
バーで知らない誰かと話し込むようなことはしない方だ。だが今夜は違った。隣の客は少し考えるような素振りの後にスツールの足下に置いてあったバッグを持ち上げた。開けた口から手を入れて少し探り、取り出されたのは抑えた照明でもわかるほどに紅い紐だった。
「縛る仕事なんです」
それがなにを意味しているのか分かるのに、自分に向けられた問いかけと同じくらいの時間がかかった。
「えっと、それはつまり……」
「うん、縛って撮影したりステージで見せたり」
「あー、はい」
そういう嗜好があるのは知っていた。ただその紐を手にしている人物は、頭の中で繰り広げられている淫美な場面に登場する人物とはずれた穏やかな佇まいでそのギャップに脳は混乱していた。
「これはちょっと細いんですけどね、体を縛るってよりも手とか足とかを縛るアクセサリーに近いというか」
「はあ」
そう説明しながら指がしなやかに動いて結び目を形作っていった。ただ丸いだけではない花びらのように開く形が連続して手の中で生まれていく。それはまるでマジックのようで熟練した技を披露されているのをただ眺めている、それを素直に賞讃する気持ちが湧いてきた。
「きれいですね」
「こんなふうにしても」
「あっ」
複雑に結ばれた紐がたった一カ所を引っ張っただけでたちまち解けて一本の紐に還ってしまった。ますますマジックのようだと見入っていた。
「縛られてみます?」
「え?」
「すぐに解けますから、ああでもジャケットは皺になっちゃうかもな」
戸惑ったがなにに誘われたのか、促されるままにジャケットを脱ぎシャツだけになった自分の手に紐がかけられるのに抵抗はしなかった。紅色の紐は柔らかくしなやかだった。
紐が中指にかけられるのを見ていたが、それがいいか悪いかも考えずに浮かんだままのことを漏らしてしまった。
「すみません、あの、縛るところ変えてもらってもいいですか」
「もちろん」
自分でもなぜそんなことを言い出したのかと口にしてから驚いた。
「あの……薬指を」
「わかりました」
ごく平静な返答だった。迷いの無い手が動いて、自分の左薬指に紅色の紐が巻き付くのを見ていた。
縛られながら、胸の中にしまい一人酒の共にしようとしていた事を口に上らせていた。

恋人がいること。
その恋人とは離れて暮らしていること。気軽には逢えない距離で数ヶ月顔をあわせなかったこともあることを。
そして恋人がいると、そう思っているのは自分だけかもしれないということを。

「そもそも恋人ってのも怪しいんですけどね。好きだと言ったのは確かだけど相手が本当に分かってるかどうかはっきりしなくて」
「そうなんですか」
「……過去に色々あった相手だから、ひょっとしたら僕がそんなことを言い出したのもおかしいと思っているのかもしれない」
だけど過去に色々あった相手だからこそ、自分の事を一番わかっている相手でもある。
そして想いを交わして体も重ねる相手となっても干渉されたくはない、そんなわがままを聞いてもらえる相手でもあった。
つまりは深い関係を結ぶのに一番打算的な位置にいる相手を選んだだけだ。
打算的に生きてきたのを後悔はしていない。周囲も傷つけて自分も傷つけたがそれでもしなければならない生き方だったと思う。独りよがりだと言われても仕方がない。だが一番そう言われるかもしれない相手はそうは言わなかった。それが今の恋人と、自分が思っている相手だった。
だがそれをそもそも恋人と言えるのか。
「……指輪でも交わせたら違うのかもしれませんね」
空いた右手でウイスキーのグラスを口に運びそんなことを呟いた。答の出ない問いかけは自分で噛み砕いてしまうのに限る。そんなことはありえないとわかりきっている戯れ言にもならない問いかけだった。
「不確かさに疲れたらなにかにすがるってそんなにいけないことですかね」
「そんなことはないでしょう」
紅色の端をどこに行き着かせるかをその指は知っているようだった。
「誰かを思うのは美しいけど辛いことでもありますよ」
「そう、ですかね」
「ええ」
左薬指に紐の花が現れた。驚くのは自分はまるで手を動かしていないのに指と手に紐が自在に絡みつきあっという間に手首まで縛られていたことだった。
「もっとも僕の方もそんな相手とつき合おうなんて思うのがどうかしているとは思うけど……」
手首から肘にかけて紐が網目をかけていく。それを固定するためなのだろう、しゅるりと音を立てて紐が左肩にかかり、くんっ、と引かれて腕全体にテンションが行き渡った。
「あっ……」
無意識に上げてしまった声に驚き慌てて唇を固く結んだ。
「痛くはないでしょ?ただきつかったら言ってくださいね」
「は、はい」
紐の網目は肘から手首にかけて規則的にかかっていた。詳しい事はわからないが独特の規則性で並んだその模様は美しかった。
左薬指を基点にしたのはあからさまだったかもしれない。もし男女の出会いでつき合うなら思いの深さを表す印をそこに嵌められるだろう。だが自分たちはそんなこともできない。
堂々巡りの共にしていたウイスキーはそろそろ底をつく。
自分の想いに囚われて縛られる終着点は見逃してしまった。
「はい、できました」
「あー……すごい」
白いシャツに紅色の紐が迷い無く巻き付いていた。
「本当は太腿あたりに固定してもいいんですけどね」
「動けないじゃないですか」
「動けなくするのが目的なんです」
「あっそうか……」
「でもこういうのもいいかもしれませんね、縛られている人の解釈次第でどこまで縛られているのかが変わってくるって」
左手を伸ばして見るとそれほどきつくはないが腕の動きに従って拘束がじわりと肘から手首にきいてくるのがわかった。
「あの」
その締め付けが手放し難いと感じてしまったのはなぜだろう。それともそれは縛られるのを承諾した時から決めていたのだろうか。
「これ、紐と縛ってくれた分負担しますから、このままにしてもいいですか」

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結局ジントニック一杯と紐の代金が左手の拘束の代金になった。縛られた左手をそのままにして帰ってきた。ジャケットを着てスーツパンツのポケットに手を入れれば、端から見れば縛られているなど分からない。
電車の中で吊り革に掴まり暗い背景で鏡面と化した窓ガラスに移る自分の姿を見ても左腕の拘束は全く見えなかった。
左薬指に巻き付いている紐の感触は確かで、電車が揺れる度に腕から指の根元に走るわずかな不自由さが体の熱を掻き立てるのがわかる。その度に小さく息を吐いて気持ちの揺らぎをやり過ごした。
なるほど、これは一つの嗜好として成り立つはずだと納得した。
そしてある皮肉に気づいてこみあげる笑いを奥歯で噛み砕いた。
だっておかしいじゃないか、干渉されたくないと言いながら今自分は文字通り縛られているのだから。
証が欲しいなんて最大の束縛なのに。
だけどその束縛から得ているのは紛れも無い、悦びだった。
そしてその悦びは、今夜の後ろめたい一人遊びの材料になる予定だ。それを惨めだと感じるし、仕方ないと片付けられる、それくらいは自分を許したかった。
自宅のあるマンションまでたどり着き、疲労と高揚を感じながらエントランスをくぐったのは日付が変わる頃だった。
自室のあるフロアまで上がり、ドアの前に誰かがいるのに気づいて足を止めた。
「……なんで」
そこに{攻め}がいた。ドアに背中を預け佇んでいた彼はこちらを向いて、疲れが滲む顔でそれでも笑みを浮かべた。
「やあ、{受け}」
足下にはボストンバッグ、季節外れのショートコートは気候が違う遠くからやってきたことを教えていた。
「やっと休みが取れたんだ」
こちらが疑問を発する前に答を投げてくるのはいつものことだった。気が回る故に言葉は最小限であるそれもいつものこと。それが彼らしいとも思うし、理解と解釈はそっちで勝手にしてくれと投げやりなその態度が憎らしく感じることもあった。
それにしてもこのタイミングでの突然の訪問とは間が悪い。
ポケットの中の左手の拘束が強く感じられた。部屋のカードキーはその指先に触れていた。
「オートロックを抜けたってことはカードキーは忘れなかったんでしょう」
「勝手に入るのは気が引けた」
「……別に入られて困ることなんてありませんよ」
完璧にとはいかないがそれほど散らかってはいないと自信があった。綺麗好きというより散らかすほど家に長くいないだけだった。その方が気が紛れる。忙しさが寂しさをなだめているだなんて絶対に{攻め}には言わないけれど。
「さっさと開けて入ってくださいよ面倒臭い」
「なんでだ?」
「なんでって」
それはカードキーを出せば左薬指に咲いている紐の花を見られてしまうから。愛らしい装飾だと思ってくれればいいが、あいにく目の前の男はそんな都合のいい勘違いをしてくれるほど鈍い男ではない。むしろその勘はいつもこちらが知られたくない方向にばかり働く厄介な相手だ。
カードキーを落とした事にしようか、だがエントランスのオートロックを解除したのはこちらも同じ。ならエレベーターの中で落としたとでも言おうか?でもそれならさっさと探しにいかないのは不自然に思われるだろう。
繰り返しになるけれど相手の勘の良さが恨めしい。
いちかばちか、だな。
「まったく」
大げさに肩を落として、いかにも面倒くさそうにドアの前に立つ。
{攻め}は大人しくドアからどいてバッグを持ち上げた。
「そっち行ってください」
ドアが開く側へと{攻め}を誘導し、そちらに背中を向けてカードキーをつかんだ左手を素早く出し、カードスキャン部分にかざして解錠した。そしてドアを開けて足首を支点にして慎重に身を翻す。その間の視線の角度は左手は死角になるように計算できたはずだ。
「どうぞ」
ドアへと迎え入れる準備、その間に左手はポケットへと戻した。
「邪魔する」
そう言って玄関へと入った後ろ姿を見て、どっと力が抜けるのを感じた。うまくいった。もし気づかれたら間違いなく左手を掴まれてこれはなんだと問い質されたに違いない。それはなく悠長にバッグを持ち靴を脱いでいる、そうそのまま上がってくれ、スリッパの場所もわかってるだろう。
「とりあえず荷物置いてください、なにか胃に入れますか?」
そう言いながらドアを閉めて施錠した。ごくさりげなくバスルームの手前にある洗面所へと向かう。帰宅してからの手洗いに不自然さはないはずだ。もったいないけれど左手の紐は外してしまおう。
そう思ったのに。
玄関から廊下を進んでリビングに進んだだろうと思っていた相手はまだ廊下にいた。その手に右肩を掴まれて固まってしまった。
「……何を隠してる」
もう片方の手が左腕を掴み、ポケットから引き出した。スーツジャケットの袖からのぞく左手の薬指には紅色の紐の花が咲いている。それを見た{攻め}の目が瞬き、そして眉間に皺が寄せられた。
「なんだ、これ」
「……えっと、おまじない?」
咄嗟に出た言葉は実に間抜けだった。ただそんなには悪くはないと思う。事実それはおまじないみたいなものだったのだから。不安と寂しさを紛らわせる、少し如何わしいけど愛らしくもあるおまじないだ。
「あああれか、名前は忘れたが自然に解けるのを待つとかなんとか」
「そうそう名前は忘れたけど手首につけっぱなしにして自然に切れたらなんとかって」
「一時流行ったな」
「流行りましたねぇ小学生の女の子が寄り集まって刺繍糸で編んでたのを思い出しますよ、まあそれのバリエーションでちょっと凝ったやつで」
相手の勘違いに乗ってごまかせれば、とりあえずこの局面を打開できればなんとかなる。あとは疲れてるだろうからとかなんとか風呂に放り込んで軽いものでも食べさせて少しアルコールを与えてベッドに向かわせればなんとかなる、そうなんとか。
「そんなことでごまかせるとでも思ったか?」
ぐいと腕を引かれて、ジャケットの袖を力任せに扱き上げられめくられた。アイロンを丁寧に当てた袖は無惨にも皺だらけになった。
「……これはまた、見事な」
左手首からシャツの上を這い肘まで編まれた紐の模様を見た{攻め}は感心したようだった。見事だという感想には同意しかない、ここまで乱暴にされても緩み一つない。むしろ乱暴に袖をめくられた時にでも解けて独特の如何わしいほどに美しい網目がなくなってくれればまだなんとかなったかもしれないとの弱音を吐かせてくれ。
「こんな特技があったとは」
「そんなわけない」
「じゃあ趣味か」
「そんなわけ」
「その他もろもろ、言い訳はこっちで聞かせてもらおうか」
「やめぇぇぇぇ!」
ジャケットにとっては災難だった。左袖は皺だらけ、僕を引きずる時に掴まれた衿は形が崩れたに違いない。勝手知ったる部屋の中、寝室までの最短距離を引きずられベッドへと投げ出された。
{攻め}は器用にもその投げる勢いでジャケットを剥いだ。裏返しになったジャケットはベッドの端に放り投げられ、仰向けになった僕は自分を組み敷く相手の顔を見上げた。
見下ろす目は表情こそ冷静だがその光は尋常じゃない。
左腕を押さえ込んだ手は力が緩む気配は無かった。
「誰にやられた」
「……知らない人」
「{受け}、もうちょっとましな嘘はつけないのか」
「本当。バーでたまたま隣に座ったプロに好奇心で縛ってもらっただけ」
嘘ではないのを嘘と決めつけられるのは心外だ。ごく正直に告げた、こちらの責任はこれまでだ。
だが納得は得られなかったらしい。
顎を掴まれて顔を覗き込まれ、至近距離で尋問は続いた。
「それが本当だとして、その好奇心の理由を聞こうか」
ああ本当にこの男のこういうところが嫌だ。いつもこうしてこちらが一番言いたくない部分をほじくり返してくる。
「誰彼かまわず手を預けるほど君は不用心じゃないだろ、好みだったのか?」
「なんでそうなるんです。そんなつもりじゃなかった」
顎を上げて見返して、たぶんこの視線は挑発的に見えるだろう。
「そんな相手にこんなことをさせるのか。ただのお遊びにしては刺激が強過ぎると思わないか?」
「刺激が強いかどうかはその人次第でしょう。僕にしてみれば少し興味をそそられただけです」
そう、指に紐をかけられた時はそんな気持ちはなかった、むしろ恥ずかしくなるほどにセンチメンタルだと笑われる想いだったのに。
だけどそんなことは教えてやらない。
教えてはいけない。
「好奇心は好奇心です、理由なんか」
「過去に理由のないことをしたことがない君がそれをした、信じられると思うか?」
「たまたま今日がそれだっただけ」
そう、それは理由じゃない。理由はたぶん理性の側にあるものだろうから。
してもらったその裏付けに意識を向ければ、胸が締め付けられるようでそれを顔に出さずにいられる自信はない。
だからといって顔を背けるのを許してくれる相手でもない。
片手で顎から頬を抑えられて無理矢理上を向かされた。
「……なんて顔してる」
そんなこというそっちの方がなんて顔をしてるんだ。痛みを堪えるような目でこちらを見下ろし、眉間の皺はもう取れなくなるんじゃないかってくらいに深い。そんな顔にせっかくの男前が老けて見えると笑ってやったこともあった。まだこうなる前の気楽な頃。
いや、そんなものはあったかな。いつも気持ちの場所が定まらずに気楽さとは程遠かった記憶しか見つからない。
「反則だぞ」
なにが?
押さえつけていた手が外れて、指先が目尻へと触れた。ぬるりと濡れた感触があった。その時やっと自分が泣いているのに気がついた。
「え、なんで」
照れ隠しでもなんでもなくそんな言葉がぽろりと漏れた。右手で頬に触れると液体が通った道が確認できた。
涙を自覚すると、それがまた新しい涙を呼ぶようだ。ぽろり、と湧いた涙が指先を伝って指をそして手の甲を濡らした。
「あっすみません」
これは失敗した。気持ちの整理がつかないまま放置したらこうなるのか。
整理の行き届いていない道具箱をぶちまけてしまったみたいな気恥ずかしさに襲われて、ひとまず退却と自分に覆い被さっている胸板を押した。
「ちょっと顔洗ってきます……ってシャワーも浴びてないし、先に済ましちゃいますから後でいいですか?だったらお湯ためましょうか……」
だけどそこからは出られなかった。むしろ両腕の檻は肘を突かれて体重をかけられてより強固になってしまった。
手で額を撫でられて、柔らかい感触が落とされた。そして溜め息。前髪の生え際が暖かくなった。
「ある点について、君がどうしようもないポンコツだってことを忘れてた」
「しれっと失礼なこと言ってる自覚ありますか」
「事実だろ?」
また額にキスを落とされた。
そして左手を持ち上げられた。
「こんな悪戯して」
顔をしかめているのかと思った。だがそんな予想は外れて、子供がしでかしたことを辛抱強く見守るような目があった。
「なるほど、こうなってるのか」
左手首を返したり、肘までをたどったりしながらしげしげと見つめられていたが、薬指の裏側に指を入れられ引っ張られた。
「あ」
するすると紐が解けた。
「たいしたもんだな」
感心しながら紐を解いていた{攻め}は、紐の後が微かに残る僕の手をそっと撫でた。その指先が薬指の根元を幾度か往復した。
「……大した意味は無いんです」
残りの結び目も次々と解かれて、最後に左肩から紐が抜けた。
「ただ、そうした方が面白いかなと思っただけ」
「そうか」
体が軽くなった。かけられていた体重がなくなったと同時に背中に手を回され、身を起こした相手の腕の中に閉じ込められた。
肩越しにベッドの上に投げ出された紅色の紐が見えた。
自分の肩に額が押し当てられるのを感じた。
「なんでも理詰めで考えようとする」
背中に回された手に撫でられる、それはとても気持ちがいい。
「その理詰めが及ばない場所について、君はポンコツでしかない」
「本当に失礼ですね」
「事実だろ」
今度は背中を軽く叩かれる。とんとん、と心臓のリズムよりも少し遅いタイミングで。
つくづく失礼な男だと思う。散々ポンコツ呼ばわりされてるがそんなことはわかりきっていることで。
こうして寂しさを宥められているのが悔しいのだと、そんなことはわかりきっているんだ。
後頭部を撫でられて、耳の後ろに指を差し込まれて、親指の腹でまぶたの端をなぞられた。
そして唇を塞がれて、軽く啄まれて小さな音を立てて離れていく。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
ありふれた言葉がひどく暖かかった。
左手薬指の根元をさする感触があった。
「engage、の意味は知っているかい?」
エンゲージリングは婚約指輪、だけど単語の意味は確か契約する、とか約束する、とかそんな意味だった。それと交戦するなんてのもあったか。
「色々使える言葉なんだが、元々の意味は拘束する、だよ」
上手く笑えたかは自信がない。もっともすぐに再開されたキスにそんな取り繕いも必要がなかったらしい。


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覆い被さられて首元に顔を埋められる、その息が荒いのが嬉しいなんて、もう僕の脳髄は蕩けてバカになっているんだろう。
ローションの滑りを借りた指が体を開こうと潜らされている。いつもよりも指を固く感じるのはお互いに少し焦っているからだ。でもそれを指摘する気はお互いなくて、もうそれも仕方ないのだ、だってもうどれだけ体を繋げていない。
は、は、と荒い息が耳をくすぐる。
「ん、もう、いいから……」
そう言っても覆い被さっている男は僕を開く行為を止めようとはしない。確かに日を置いた体に無理に入れば傷つきかねない。こちらとしては別にそれでもいいのだけれど、以前たかが一週間程度の不具合にそれほど深刻になるのもどうかだなんて言って逆鱗に触れたことがあるからそれはタブーになっていた。
それに、今は苦痛を感じることはなくなったこの行為は、ちょっと引いてみれば滑稽にも思えるけれど、ただそこまでのひどく甘やかされてどうかしているほどに優しくされる時間と共に、愛されているのだと感じられる証でもあるから。
今だって。
「んぅ……」
鎖骨から広がる薄い皮膚に吸いついて、微かな痛みで痕が残されたのがわかる。
そんな男の背中に僕は右腕だけでしがみついていた。
左腕は。
「ん……」
左の膝を折り、ぴったりと太腿の裏とふくらはぎがつくほどに曲げられて、左手で左足首を掴みその上から紅色の紐で縛り上げられていた。ただ動かないように固定するだけの無骨な結び目で、後で解くのが大変だ。
「痛くないか?」
縛り上げた本人に言われてもどうかと思う台詞だが、痛みを与えるのが目的でないのだから仕方ないか。
「ん、大丈夫……それより、もう」
そろそろこちらも我慢ができなくなっていた。早く来て、と言葉の代わりに満足に動かせない左手で左足首を掴んだままそっと開いて見せた。
耳元で一際長く息が吐かれて、身を起こした{攻め}が睨んできた。
「煽りやがって」
「あはは」
彼が言葉を崩すのが珍しい。それも自分のせいでと、そんなことが嬉しい。
「ん、いいよ、早く」
「わかってる」
「あ……ゴムいらない、いいから」
「……じゃあ後で風呂つき合う、大変だろうから」
「やだ」
なんだよそれ、役得だと思ってるのが丸わかりだ。目元を緩ませて顔を寄せてくるのに抵抗して首を振るけど、結局負けて唇を塞がれた。
舌が忍び込んでくる、右手だけの抱擁でそれを受け入れる、それと同時に後孔にぴたりと当てられて、小刻みに押しつけられて焦らすのもいい加減にと言うかわりに舌を吸うと、まるでそれに合わせたように入り込まれた。
「ふ、あ、あぁっ……!」
さすがに最初は辛い。なんとか息を吐いてやり過ごそうとキスを外して大きく呼吸した。{攻め}はそんな僕の頬に唇を押し当てて、まだ納めきっていないものをゆっくりと押込んできた。
「ん、んっ……」
左手も使って抱きつけないのがもどかしい。解いて欲しいけれど、さっきまで全身舐め回されている時にあの左腕の拘束のまま自分で慰めるつもりだったのを白状させられてそのお仕置きだと縛られた経緯もあるからそれも無理か。でもそれってこっちが悪いような話だろうか、なんか釈然としない。
「あ、うぅっ!」
そんなことを考えてたら腰を持ち上げられ押込む角度を変えられた。そこは、弱いのに。
「あ、あぁ」
「好きだったな、ここ」
わざわざ言わなくてもいいのに。そうだそこは好きだよ、それとそうやって掠れた声で囁かれるのも好きだ。普段の余裕がある憎らしいほどに隙のない男が、そうやって情欲に塗れた顔と声で僕なんかに夢中になってる。それがたまらなく好きだし、泣きたくなるほどに嬉しい。
だから、もっと。
「ん、ん」
揺さぶられ続けて、左手が滑って足首を持てなくなった。汗だなと気づいたら、ふいに紐が緩く感じた。
「あれ」
解けた左手を持ち上げようとしたが軽く痺れているのか上手くいかない。気づいた{攻め}が、その手をそっと自分の手に沿わせようとした。
それも嬉しいけど、もっとしたいことがあった。
「紐、ほどいて」
そう頼むと、左脚から紐が結び目を残したまま外された。そのまま放り投げようとする手を止めた。
「貸して」
なにをする気だ、と言いたげな{攻め}に笑いかけながら、その首の後ろに手を回し紐を解した。きれいに元に戻らなかったけどしたいことには充分だろう。
自分の右肩の横に置かれた{攻め}の左手、それに右手で触れた。指を絡めようとするとすぐに応えられた。
「なにを……」
紐で輪を作り捻ってそれを{攻め}の薬指にかけ、もう一方の輪を自分の右薬指にかけた。互いの掌の中で余った紐は絡まり合っていた。それごと握るとやっと感覚が戻ってきた左手を背中に回した。
「くそっ……」
それと交差するように右腕が僕の背中に回された。抱き寄せられて、腰を打ちつけられるのが速まっていく。さっき散々射精させられたはずの僕の陰茎ははしたなく膨らんでいるけど、もう出さなくてもいいくらいに満足していた。自分でもバカだと思う、こうして抱かれて縛られて、干渉されたくないなんてわがままは結局怖かっただけの言い訳だと。
こうして自分を抱いている男は、それに気づいているんだろうか。
「あ……」
首筋に強く吸いつかれた。荒い息と鋭い痛み、それが果てる時の癖だとは知っていた。
「うっ……」
「んぅ……!」
体の中で一つ大きく脈打つのがわかった。そしてじわりと自分の物ではない温度が広がった。結構深く入られた。掻き出すのが大変だろうし、首筋にはじんじんと痛みもある。
なんてひどいありさまだろう。
そしてなんてそれが愛おしい。
「あ」
抜かれるのかなと思ったら、膨らんだまま放っておかれた陰茎に触られた。
「え、いいです、もう」
「中途半端にしておけないだろ」
「だって、もう、いっぱい出した、あんっ」
本当に、なんてこんな。



「あんな可愛い真似をされると困る」
「……なにかしましたっけ」
向かい合って寝て髪を撫でられて、もう少しで寝落ちるところでそんなことを言われて頭が働かなかった。
「指同士絡めるなんて、あのまま抱き潰してやろうかと」
「それ洒落にならないからやめてください」
明日も仕事、それはそっちもでしょ。
「だいたいこっち戻ってくるなら連絡してくださいよ」
「したさ。圏外だと言われた」
「……ああ、それ地下にいたから」
「今どき電波が届かない地下があるのか」
「あるんですよ」
そう地下のバーで、あんな出会いがあってそして今夜があって。
左手に触られてるのがわかるけど、もう目を開けられない。
「……かな」
「え」
「シルバー、ゴールド、プラチナ」
投資でもするんですか、そう言いたかったけどもう眠くて無理だった。
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