有沢縫

現在は、必殺仕事人V(政竜)の小説を書いています。たまに絵も描きます。同人誌がメインなのでWebに出すのは多くはありません。
基本的にはpixivにアップしますが、腐れ具合によってピクブラだけに出すものも。
https://pixiv.me/nui-arisawa

最新情報はブログでどうぞ。
http://nuiarisawa.com/vr/

既刊では聖飢魔II(AD)と、クレヨンしんちゃん(しん風)があります。
二次サークル名は「エリートがすきなのだ」。
創作JUNE(オリジナルBL)でバンド・極道ものメインで活動。
サークル名は「VelvetRope」

投稿日:2018年01月22日 21:44    文字数:3,083

【必殺政竜】『闇に陽光、ひと夜花』(サンプル)

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必殺仕事人V、必殺仕事人V:激闘編の政×竜の小説。同人誌『闇に陽光、ひと夜花』のサンプルです。
製本版販売開始!↓
・BOOTH
https://nuiarisawa.booth.pm/items/973221
1 / 2
(サンプルは次項より)

『闇に陽光、ひと夜花』
2018年8月30日発送開始予定(初出2017年9月) A5/P64・750yen
必殺仕事人V 政×竜
小説・切ない・モブ攻め・流血あり・ハッピーエンド・R18

【あらすじ】
佃島の仕事人狩りを境に、姿を消した竜。
絶望的な状況ながらも、遺体さえあがらないことに、政はどうしても諦められず苦しんでいた。
一方、事件の夜に深手を負った竜は、ある男によって連れ去られていた……。
政と竜の出逢いから、相棒になるまで、そして映画「裏か表か」で引き裂かれたふたりのその後。



製本化にあたり、ほんの一部、修正されています。
前回、どうしても最後まで入れるかどうか悩んだところをちょっと削除した程度です。

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 春の花はまばゆい。空が抜けるように明るいからかもしれない。政にとってはそれがなんとなく懐かしい。
 商いを変えて、花にはあまり縁がなくなったように感じる。それはそうだ。日ごと朝から晩まで寒いなかでさまざまな花に囲まれていたのに、いまでは火に炙られる蒸し暑い生活が長すぎるからだ。差がありすぎる。
 普段もまるで花になど縁がなかったかのように振る舞うが、視界に入れば、ほんとうは頭のなかで呟いている。梅か。吉野か。そろそろ咲くな。そんなふうに呟いている。
 たとえば長屋の女たちにも、もともと花屋であると知られれば驚かれた。別段隠すつもりもないのだが、あまりに想像しがたいのかいろいろ勘ぐられる。昔はそんなことを言われることはなかったのに、この頃はやけに過去に興味を持たれるようになってしまった。それだけ自分に影が生まれてしまったのだろうと思うと、ため息が漏れる。
 なぜおまえが仕事人なんてものをやっているのかと仲間に言われるほど、泥臭かったのに。
 空にかかる桜の枝を見ながら、茶碗に口を付ける。久しぶりに子細に花の開き具合や枝の艶を観察してみては、透ける陽光と懐かしさに目をすがめる。そこでふと何度目の桜だろうかと考えて、こんどは浅い息を勢いよく吐いて、茶碗を置いた。
「ごちそうさん」
 威勢の良い娘が甲高い声で礼を言って、政に頭を下げる。娘の帯は黄色く、赤い帯締めがされていた。政は銭を置いて、砂利道を歩きだした。なんとなく足は、寺に向かっていた。
 あの男と半ば運命的に別れて、結局誰とも添いきれていない。過去を過去として懐かしむためには、いまを満たすしかない。それがついぞできないままだった。振り返った道に何人もぶらさげるのは御免だと思っているのに、その数は増えてゆく。いつもいよいよこれで終いになるかなと思うのに、何かの形で駄目になる。相手が死ぬこともある。
 おめえに惚れたらろくなことがねえってことは、てめえが一番よく知ってるはずじゃねえか。
 まったくほんとうに酷い言いぐさだが、あたりすぎている。おまえは呪いでもかけていったのかと、思うくらいだ。
 そしてそう言ったてめえもだろ、と、頭のなかで言ってやった途端、思い出し笑いにゆるんでいた頬が歪んでしまったことに政はいやになった。しかもこの変わらぬ空想の会話を、またも繰り返してしまったことに、自嘲する。
 自分もあの男も餓鬼だった。いま思えば何もわかっちゃいないくせに生意気を言ってやがると思う。それなのに、もう一〇年以上も前の子供の声をまだ引きずるのか。いい加減にしろと、自分の年齢を思いだして、苦く笑う。
 なぜ花に縁がなかったかのように振る舞うのかといえば、そういうことだった。花屋を営んでいたころを露骨に思い出せば、いやでも一緒に記憶が蘇る。
 どうしても、忘れられぬ。
 どうしても。
 鍛冶屋を営む年数の方がとっくに勝っているというのに、花とともにあった時間は、そんな年月など一瞬で無に帰するほど、鮮やかなのだ。
 ひとりにかける想いは、決して軽くはない。軽くなれるほど器用じゃない。丁寧に相手と向き合ってきたつもりだ。だから優劣などつけたくはない。
 しかし、お涼のことはいまもすこし切ない。特別と言わざるを得ない。若いころに純粋に想い合った記憶は褪せないどころか、美しく保存されるのだ。そして、そのあとに別れた男の存在があまりに重すぎて、それ以降がぷっつりと切れたように、思い出が厚みをなくしてしまっている。
 政自身そう思うのは不本意だし、以降の女たちにもすまなく思う。自分なりに過去とは決別しようと試み続けて生きてきたのだ。しかしどうやらそれは上手くいっていない。そもそもお涼のことは過去だといえても、あの男のことだけは、美しく保存されるどころか、消えそうになる記憶を無意識に手繰り寄せて、腕の中に留めてしまう。そうやって現在(いま)に、継続させてしまうのだ。
 女が離れるときも、ほとんどが政のほんのわずかの瞬間の虚無感を読み取るからだった。本気で惚れているからこそ、やるせなさで苦しくなり、醒めてしまう。政は肚を決めて共にいようとするのに、何かを嗅ぎ取る女のそういった感覚にはどうしようもなかった。そしてそれを訴えられても、どうもできない。無意識など、どうやっても、操れなかったのだ。
 いったいなんなのだろうと思う。情人であったと訊かれれば、それもよくわからなかった。べつに契ったわけでもない。それは曖昧なままで、突然別れてしまった。なにせたったいちど、抱き合っただけだった。
 それでも過去にできないのは、すべてが曖昧だからなのかもしれない。関係も、そして、ほんとうに死んだのかさえも。
 死体のひとつでもあがれば前に進めるかもしれなかった。だが誰ひとりとして、あの男の最期の姿を見たものはいない。血の海はあっても、身体はなかった。それが絶望と希望とを混濁させて、胸の中に重く留まらせている。昔はちっとも気にしなかったのに、女を見ればかならず、帯締めや髪を結う紐に目をやるようになってしまった。それがいまも抜けない。自分でもわからないまま、いつまでも手がかりを、探してしまうのだ。
 石段を登って、門の前に立った。右手をついた柱はひんやりとしていた。向こう側にも桜が咲いていて、政はしばらくそこで風に吹かれながら、遠く揺れる花弁を見た。
 桜を見るのは、あれから一〇回目だ。
 ほんとうは、ずっと数えていた。
 いまの歳になったあの男が、うまく想像できない。どうせきっと相変わらずひな人形みたいに、綺麗でいるんだろう。一年に一回包み紙からそっと解放されるだけの、そんな白い顔で。
 枝垂れ桜の下で、袖に手を入れて佇む横顔を思い起こす。あの男は、綺麗だった。あのころは、あの不可思議な感覚がわからなかった。女たちがよく口にしていたけれど、そんな女たちの目を借りてあの男を見ようとしなかったから、ぴんと来なかった。
 だがいまならわかる。あの男は、綺麗だった。とてつもなく綺麗だったのだ。それが行きすぎていて、感覚の範囲を超えていたのだ。
 言ってやったら、どんな顔をするだろう。
 呆れるか、それとも、当然という顔をするのか、それとも、おまえにそんな良識があったとはと、揶揄するのか。
 曖昧なまま、鈍感な自分を残して消えるとは、つくづく性格の悪い奴だと思う。
 まだ見ていない顔がある。まだ言っていないことがある。まだ聞いていないことがある。
 政は門をくぐった。青すぎる空を仰いで、目をすがめる。
 政は風にながれてゆく花弁が、滲むのを見た。


(サンプル・終わり)
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【必殺政竜】『闇に陽光、ひと夜花』(サンプル)

キーワードタグ 半ナマ  告知  サンプル  R18  必殺仕事人  政竜  京本政樹  村上弘明  必殺  組紐屋の竜  花屋の政  鍛冶屋の政 
作品の説明 必殺仕事人V、必殺仕事人V:激闘編の政×竜の小説。同人誌『闇に陽光、ひと夜花』のサンプルです。
製本版販売開始!↓
・BOOTH
https://nuiarisawa.booth.pm/items/973221
【必殺政竜】『闇に陽光、ひと夜花』(サンプル)
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『闇に陽光、ひと夜花』
2018年8月30日発送開始予定(初出2017年9月) A5/P64・750yen
必殺仕事人V 政×竜
小説・切ない・モブ攻め・流血あり・ハッピーエンド・R18

【あらすじ】
佃島の仕事人狩りを境に、姿を消した竜。
絶望的な状況ながらも、遺体さえあがらないことに、政はどうしても諦められず苦しんでいた。
一方、事件の夜に深手を負った竜は、ある男によって連れ去られていた……。
政と竜の出逢いから、相棒になるまで、そして映画「裏か表か」で引き裂かれたふたりのその後。



製本化にあたり、ほんの一部、修正されています。
前回、どうしても最後まで入れるかどうか悩んだところをちょっと削除した程度です。

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 春の花はまばゆい。空が抜けるように明るいからかもしれない。政にとってはそれがなんとなく懐かしい。
 商いを変えて、花にはあまり縁がなくなったように感じる。それはそうだ。日ごと朝から晩まで寒いなかでさまざまな花に囲まれていたのに、いまでは火に炙られる蒸し暑い生活が長すぎるからだ。差がありすぎる。
 普段もまるで花になど縁がなかったかのように振る舞うが、視界に入れば、ほんとうは頭のなかで呟いている。梅か。吉野か。そろそろ咲くな。そんなふうに呟いている。
 たとえば長屋の女たちにも、もともと花屋であると知られれば驚かれた。別段隠すつもりもないのだが、あまりに想像しがたいのかいろいろ勘ぐられる。昔はそんなことを言われることはなかったのに、この頃はやけに過去に興味を持たれるようになってしまった。それだけ自分に影が生まれてしまったのだろうと思うと、ため息が漏れる。
 なぜおまえが仕事人なんてものをやっているのかと仲間に言われるほど、泥臭かったのに。
 空にかかる桜の枝を見ながら、茶碗に口を付ける。久しぶりに子細に花の開き具合や枝の艶を観察してみては、透ける陽光と懐かしさに目をすがめる。そこでふと何度目の桜だろうかと考えて、こんどは浅い息を勢いよく吐いて、茶碗を置いた。
「ごちそうさん」
 威勢の良い娘が甲高い声で礼を言って、政に頭を下げる。娘の帯は黄色く、赤い帯締めがされていた。政は銭を置いて、砂利道を歩きだした。なんとなく足は、寺に向かっていた。
 あの男と半ば運命的に別れて、結局誰とも添いきれていない。過去を過去として懐かしむためには、いまを満たすしかない。それがついぞできないままだった。振り返った道に何人もぶらさげるのは御免だと思っているのに、その数は増えてゆく。いつもいよいよこれで終いになるかなと思うのに、何かの形で駄目になる。相手が死ぬこともある。
 おめえに惚れたらろくなことがねえってことは、てめえが一番よく知ってるはずじゃねえか。
 まったくほんとうに酷い言いぐさだが、あたりすぎている。おまえは呪いでもかけていったのかと、思うくらいだ。
 そしてそう言ったてめえもだろ、と、頭のなかで言ってやった途端、思い出し笑いにゆるんでいた頬が歪んでしまったことに政はいやになった。しかもこの変わらぬ空想の会話を、またも繰り返してしまったことに、自嘲する。
 自分もあの男も餓鬼だった。いま思えば何もわかっちゃいないくせに生意気を言ってやがると思う。それなのに、もう一〇年以上も前の子供の声をまだ引きずるのか。いい加減にしろと、自分の年齢を思いだして、苦く笑う。
 なぜ花に縁がなかったかのように振る舞うのかといえば、そういうことだった。花屋を営んでいたころを露骨に思い出せば、いやでも一緒に記憶が蘇る。
 どうしても、忘れられぬ。
 どうしても。
 鍛冶屋を営む年数の方がとっくに勝っているというのに、花とともにあった時間は、そんな年月など一瞬で無に帰するほど、鮮やかなのだ。
 ひとりにかける想いは、決して軽くはない。軽くなれるほど器用じゃない。丁寧に相手と向き合ってきたつもりだ。だから優劣などつけたくはない。
 しかし、お涼のことはいまもすこし切ない。特別と言わざるを得ない。若いころに純粋に想い合った記憶は褪せないどころか、美しく保存されるのだ。そして、そのあとに別れた男の存在があまりに重すぎて、それ以降がぷっつりと切れたように、思い出が厚みをなくしてしまっている。
 政自身そう思うのは不本意だし、以降の女たちにもすまなく思う。自分なりに過去とは決別しようと試み続けて生きてきたのだ。しかしどうやらそれは上手くいっていない。そもそもお涼のことは過去だといえても、あの男のことだけは、美しく保存されるどころか、消えそうになる記憶を無意識に手繰り寄せて、腕の中に留めてしまう。そうやって現在(いま)に、継続させてしまうのだ。
 女が離れるときも、ほとんどが政のほんのわずかの瞬間の虚無感を読み取るからだった。本気で惚れているからこそ、やるせなさで苦しくなり、醒めてしまう。政は肚を決めて共にいようとするのに、何かを嗅ぎ取る女のそういった感覚にはどうしようもなかった。そしてそれを訴えられても、どうもできない。無意識など、どうやっても、操れなかったのだ。
 いったいなんなのだろうと思う。情人であったと訊かれれば、それもよくわからなかった。べつに契ったわけでもない。それは曖昧なままで、突然別れてしまった。なにせたったいちど、抱き合っただけだった。
 それでも過去にできないのは、すべてが曖昧だからなのかもしれない。関係も、そして、ほんとうに死んだのかさえも。
 死体のひとつでもあがれば前に進めるかもしれなかった。だが誰ひとりとして、あの男の最期の姿を見たものはいない。血の海はあっても、身体はなかった。それが絶望と希望とを混濁させて、胸の中に重く留まらせている。昔はちっとも気にしなかったのに、女を見ればかならず、帯締めや髪を結う紐に目をやるようになってしまった。それがいまも抜けない。自分でもわからないまま、いつまでも手がかりを、探してしまうのだ。
 石段を登って、門の前に立った。右手をついた柱はひんやりとしていた。向こう側にも桜が咲いていて、政はしばらくそこで風に吹かれながら、遠く揺れる花弁を見た。
 桜を見るのは、あれから一〇回目だ。
 ほんとうは、ずっと数えていた。
 いまの歳になったあの男が、うまく想像できない。どうせきっと相変わらずひな人形みたいに、綺麗でいるんだろう。一年に一回包み紙からそっと解放されるだけの、そんな白い顔で。
 枝垂れ桜の下で、袖に手を入れて佇む横顔を思い起こす。あの男は、綺麗だった。あのころは、あの不可思議な感覚がわからなかった。女たちがよく口にしていたけれど、そんな女たちの目を借りてあの男を見ようとしなかったから、ぴんと来なかった。
 だがいまならわかる。あの男は、綺麗だった。とてつもなく綺麗だったのだ。それが行きすぎていて、感覚の範囲を超えていたのだ。
 言ってやったら、どんな顔をするだろう。
 呆れるか、それとも、当然という顔をするのか、それとも、おまえにそんな良識があったとはと、揶揄するのか。
 曖昧なまま、鈍感な自分を残して消えるとは、つくづく性格の悪い奴だと思う。
 まだ見ていない顔がある。まだ言っていないことがある。まだ聞いていないことがある。
 政は門をくぐった。青すぎる空を仰いで、目をすがめる。
 政は風にながれてゆく花弁が、滲むのを見た。


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