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Caligula-カリギュラ-(鍵主鍵、主鍵主中心)
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投稿日:2018年02月18日 12:54    文字数:6,022

鳥籠の中の幸福論

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残滓カギP×主人公です。自宅部長設定「日暮白夜(ひぐれ・びゃくや)」。アプデで実装された残滓カギPというものがあまりに美味しすぎてダメになった結果。
1 / 1
 「油断しましたね、先輩」

 揺れる意識の端っこで、含み嗤うそんな声を聞いた。強かに打ち付けた背中の痛みに思わず呻く。衝撃で真っ白になった意識を何とか手繰り寄せた。
 「黙ってましたけど、今の僕、物凄く強いんですよ」
 その間に、声の主は白夜のすぐそばまでやって来る。仰向けに倒れた白夜を見下ろして、眼鏡越しに笑顔を浮かべた。無邪気な、不自然なほど迷いのない笑顔が、視界に広がる。
 響鍵介……の、残滓。カギPと呼ばれて、オスティナートの楽士として君臨していた頃の彼。
 「ああ、もう立ち上がらない方がいいですよ。何度やったって同じですから」
 呻き、身体を起こそうとした白夜に、やはり不自然に屈託のない声で『鍵介』は言った。
 そう言われて諦めるわけにはいかない。忠告を無視して力を入れ、起き上がろうとした白夜を、彼の手が制した。
 「あっ」
 肩を地面に押し付けられ、そのまま馬乗りになられて、背中に走る痛みに声を上げる。せめてもの抵抗として睨み付けるが、『鍵介』は白夜の反応に気を悪くするどころか、むしろ機嫌よさそうにするばかりだ。もう獲物は手の中だ。そう思っているのか。
 「もう思い出してるでしょ、先輩。何回目でしたっけ、僕に洗脳されるの」
 ほんと、懲りない人ですよねと、忍び嗤う。ずきり、と白夜の心が鋭い痛みを訴えた。
 思い出した記憶が、自分自身の間違いが呼び起こされる。かつて、この世界との相性の悪さから何度も洗脳が解け、そのたびにカギPに再洗脳を受けていた記憶。そして最後には、それを自ら望んだ記憶だ。
 「一周回って可愛くなってきましたよ」
 白夜の瞳に浮かんだ戸惑いの色を見逃さず、『鍵介』は笑顔のまま、その白い肌に手を這わせる。そして細い顎に指をかけると、やや強引に持ち上げた。視線が固定され、白夜は『鍵介』から目が逸らせなくなる。
 「本当に、いつまでたっても弱くて可愛い先輩。仲間が出来て、いろんなことがたまたま上手く行って、勘違いしちゃいました? 現実も悪くないかなって?」
 笑えますね、と、『鍵介』は白夜の過ごしてきた時間を、鍵介と過ごしてきた日々を、一蹴する。
 「だめですよ」
 『鍵介』の声が一気に冷える。同時に、指先が顎から首筋に移動する。確かめ挑発するようなその動きに、身体がびくりと震えた。無防備な急所を、『敵』に嬲られる恐怖と、ほんの少しそれとは別の感覚が心と体を駆け巡る。
 「僕にさえ勝てない先輩じゃ、現実に帰るなんて無理です」
 諦めてください、と、冷えた声は続けた。恐怖に似た不思議な感覚に突き動かされ、白夜は尚も『鍵介』を見上げて睨む。
 「無理か、どうかは、わからない……っ……まだ、俺は、負けてない……」
 なんとか自分にかかる体重を押し返そうと躍起になるが、そんな抵抗は無意味だった。戦いに傷ついた身体は疲労感で言うことを聞かない。それでも健気に抵抗しようとする白夜に、『鍵介』は微笑む。
 そのささやかで無意味で無駄で、あまりにそそる仕草に。
 不意にまた顎を掴み上げられ、視界から光が消える。気付いた時には、唇に柔らかいものが当たっていた。
 「んっ! ……んん!」
 すぐに唇を舌が撫で、強引に割り入って来る。やっと自分が何をされているか気付いた白夜が、今度こそ激しく抵抗するが、馬乗りになられた状態ではそれもさしたる意味を成さない。身体は地面に押し付けられ、顎は固定されて、顔を背けることさえ許されなかった。
 舌が口内に容易く入り込み、歯列を丁寧になぞっていく。舌に吸い付かれ、裏側をなぶられて、反射的に目を閉じた。
 ちゅ、と名残惜しげに吸い付く音を残して、あまりに丁寧なキスが終わる。荒い息を吐きだし、目を開けると、そこには満足げな『鍵介』の顔がある。
 「いい加減何回も洗脳するの大変なんで。これで終わりにしましょうか」
 冷えた声の奥に、何か別の感情を押し殺しているように、『鍵介』は言う。とびっきりの名案を思いついた子供のように、笑う。
 あらゆるものの希少価値や、これから行うことの恐ろしさなど、一切関知しない子供の笑顔。そこにただあるのは、「興味があるか、ないか」……あるいは「それが欲しいかどうか」だけだ。
 「ひ、ぁ……!」
 首筋に吸い付かれ、舌でゆっくり舐めあげられる感触に、思わず声が漏れる。びくん、と反射的に震える手を、『鍵介』の指が確かめるように撫でていた。くすくすと、無邪気な笑い声が自分の胸元から響いてくる。
 細い指先が肩口、鎖骨を撫で、そのくぼみに舌を這わせられた。自分の意思に反して反応する身体に、思わず顔が熱くなる。
 違うのに。これは鍵介であって、鍵介ではないのに。でも、愛おしい人の姿を取っているから。
 「普通にやっても戻っちゃいまいたからね。こうやって、思いっきり気持ちよくなってもらってから洗脳するとかどうです?」
 そして愛しい人と同じ姿の彼は、楽しそうに、さらりと恐ろしいことを言う。
 本来、鍵介は思慮深い性質だ。思慮深く、やる前からあらゆることを考えてしまって、身動きが取れなくなるタイプのはずだ。それが彼の苦しみであり、逃避の本質だった。だからこそ、カギPはその部分が「欠落している」。
 思い悩み、決断から逃避する性質から解放された『鍵介』。自分が相手にしているのはその残滓だ。
 「大丈夫ですよ、終わったら、違和感なんて感じられなくなりますから。そしたらずっと傍に置いてあげますね。洗脳が解けたら、すぐわかるように」
 布ずれの音がする。抵抗できないまま、一枚一枚、身を護るものを剥がされていく。
 「何回でも、何回でも。僕のものにしてあげます。嬉しいですよね、先輩。先輩は僕が好きなんですもんね」
 逃げ場はない。助けも来ない。無邪気な子供が抱える鳥籠の中に放り込まれ、白夜に成すすべはなかった。
 
 一体何回果てたのだろう。途切れ途切れになる意識を必死で繋ぎ止めながら、白夜はぼんやりと思う。
 「先輩、ほら、寝ちゃダメですよ?」
 「ッあ、あぁ、あ……ッ……」
 それと同時に楽しげな声がして、ぐり、と自分の急所が強めに刺激されたのが分かった。目を見開いて、首を振りながらその快感をなんとか逃がそうとする。しかし、背中に手を回され、上半身を引き寄せられてそれも満足に叶わない。
 「ふふ、ここ、もうぐちゃぐちゃですね」
 上手く力が入らない白夜の身体をしっかりと支えながら、『鍵介』快楽と恐怖とに濡れる白夜の瞳を覗き込む。片手で柔く包み込まれ、もったいぶった手つきで昂る中心を撫で上げられた。悪寒にも似た快感が腹のあたり、そして背中を突き抜けて、鼻がかった嬌声が口から零れ落ちる。
 それでも物足りない、と反射的に思う自分に恥じ入る。しかし、そんな理性に縛られた思考とは別の本能が、腰をゆらゆらと揺らしていた。
 「ちがう、ちが……っ……!」
 「何が違うんです? ほら、とっても気持ちよさそうですけど?」
 こことか、と意地の悪い笑みで、『鍵介』が熱を持った中心をなぞる。裏側を指先で、ゆっくり、白夜に分かるように丁寧に。
 「ん、ん、ぅ……っは、ッひ、や、そこ、ゃあッ!」
 そのもどかしく切ない快楽に酔いしれていると、そのまま辿りついた先端を指の腹でくりくりと刺激される。瞬間的な強い快感に神経が悲鳴を上げた。とろり、と溢れる先走りを指で弄び絡めて、『鍵介』はまた楽しそうに声を潜めて笑う。
 口では嫌だと言いながら快楽の証拠を絶えず溢れさせて、腕の中で鳴く獲物は本当に可愛い。ダメと言いながら灰色の瞳は情欲に溺れ、言外に「もっと」と強請ってくる。細い指先が鍵介の肩を必死で掴み、絶え絶えに呼吸をする姿はなまめかしい。
 いつまでも眺めていたい気分だ。いや、眺めていられる。自分の後先、未来を放棄した子供は、ただ目の前の「欲しいもの」に夢中になれるのだから。
 「先輩のここ、僕のこと大好きみたいですね。ほら、こんなになってる」
 とくり、と呼吸するように、先走りがまた零れた。白いものが入り混じるそれを、『鍵介』は愛おし気に指に絡め、また白夜自身にもこすりつける。白夜の視線が、その淫猥な情景をじっと見つめていた。
 「あ、あ……」
 『鍵介』の指遣いに翻弄され、快感を与えられ、それを悦んでいる自分を見せつけられる。そしてそれから、目を離せない。自分が目の前で犯される光景を、焼き付けられる。
 すでに十分張りつめた中心は、もどかしくもったいぶった愛撫のせいで達することさえ出来なかった。ぽろりと目じりから零れる涙を、白夜は自分で拭うことさえできない。全ては『鍵介』の思い通りだ。
 口ではうわ言のように「ダメ」と「やめて」、「ちがう」と繰り返すが、もうその声に意味や思考は伴っていない。代わりに頭を埋め尽くすのは、快楽の肯定と、先を強請る言葉だけ。それを口にだけは出すまいと、必死で押しとどめるなけなしの理性だった。
 「ああ、本当に先輩は可愛いなぁ。必死で我慢して、否定して。でも本当は欲しいんですよね。大丈夫ですよ、わかってますから。先輩が素直になるまで、ずーっとこうしてますからね」
 ため息混じりの口調でそう言って、『鍵介』がまた強引に口付ける。最初に奪った時からすれば、ほとんど抵抗なく白夜は口付け受け入れた。まるで吐息を入れ替え合うようにゆっくりと、唇に吸い付き、舌を割り入れ、味わう。
 焦点の合っていない目で白夜はそれを享受して、終われば息を吐く。そしてまた貪られる。そんな口づけを何度も何度も繰り返す。
 口付けられるたび、愛されるのではなく、愛でられているのだと、思い知らされる。弱くて可愛い先輩。『鍵介』がそう言って嗤った通りの白夜が、鍵介の上で暴かれ貪られていた。
 「あ……」
 『鍵介』の膝に座らせられているような恰好のまま、後ろのその部分を指が撫でる。もう何度もなぶられて、ぐちゅりと音を立てているのが潤滑油なのか体液なのか、それすらも曖昧だ。卑猥な水音を聞けば、自分がもう何度も犯された後だという事実を思い知らされる。耳を塞ぎたかったが、それも許されない。
 籠の持ち主が許さない限りは、あらゆることは思い通りにならないのだ。
 内壁をぐるりとなぞられて、身体が震えた。そして、そこが当たり前のように『鍵介』の指を飲み込んでいく。見えなくてもわかった。たぶん、白夜がよくそれを思い知るように、ゆっくり、ゆっくりと指を奥へ進めている。
 「ほら、もうこんなに柔らかい」
 『鍵介』が囁き、指の関節を少し曲げて敏感な部分のさする。それだけで面白いように白夜の白い肢体が震え、反射的に目の前の『鍵介』にしがみ付いた。
 「……っ、ふ……んぅ、ぁ」
 弱い部分へ、執拗に、断続的に与えられる快感に、視界がぼやけていく。思考がふやかされていく。一定のリズムで震える身体を、あやすように『鍵介』の手が撫でていた。
 気持ちいい。思ってはいけないとわかっていながら、そう思うのを止められない。跳ね除けるには、『鍵介』が言う通り、白夜はあまりに弱い。
 「ねえ、いい加減わかりました? 先輩」
 僕には勝てないって。
 耳元でそう囁かれ、揺さぶられる。その柔らかく解された部分から指が引き抜かれ、腰を持ち上げられた。次に何が与えられるのか理解しながら、抵抗することを取り上げられた白夜は、ただぼんやりと、『鍵介』を見下ろす。
 ゆっくりと、そこに熱が入り込んでくる。か細い悲鳴を上げながらそれに耐え、受け入れる白夜を、『鍵介』が満足げに見つめていた。粘着質な水音が、自分ではない他人のものを受け容れているのだと、思い知らせてくる。
 「っ……は……ふふ、いまの、よかったんですね。かわいい」
 思わず力を入れて締め付けてしまい、『鍵介』は嬉しそうに、またキスを繰り返した。中を抉られ、口内を貪られて、自分の中が全部、犯されているような錯覚を覚える。
 丁寧に、ひたすらに丁寧に。白夜が誰のものか、誰に犯されているのか、それを思い知らせることが目的なのだと言わんばかりに、その行為は続く。腰を掴まれ、内壁を容赦なく嬲られた。一気に奥まで突き入れられて、悲鳴を上げる。指では届かない部分を何度も何度も、責めたてられた。
 「あ、あっ……ひ、だめ、……ッ」
 びくん、と、激しく身体が震える。『鍵介』がそれを察して、また白夜の腰を一気に引き寄せた。限界近くで敏感になったそこを無遠慮に貫かれ、白夜は可哀想なくらい悲鳴を上げる。
 それと同時に、白夜自身がどくりと欲望を吐き出した。先走りに混じった白より濃く苦い精が、とろとろと鍵介の白い腹を汚していた。
 「ふ、あは……先輩、そんなに、きもちよかった、ですか?」
 「ちが……っああぁ、ん、や……ちが、だ、めぇ……っひ、ぁ」
 違わない。ダメなわけがない。限界まで焦らされ、やっと解放された欲望があまりに気持ちよく、ぽろぽろと白夜の両目から透明な涙が零れる。そして頬を伝い、細い顎からぽたぽたと、鍵介の肌に落ちていった。そのまま、先ほど吐き出したばかりの白いものと混ざり合う。
 『鍵介』が、その光景を見て、うっとりと目を細めた。
 「……だめ、ですか? 本当に?」
 白夜の細い腰を掴み、震える身体を抱きしめて、なるべく白夜の耳に近いところで『鍵介』は囁く。二人の身体を出来る限り近づけ、自分の欲望を奥へ、限界まで白夜のナカに埋め込もうとする。
 「けん、すけ、ぇ……っ」
 白夜の甘い声が、『鍵介』を呼ぶ。一足先に達して敏感な内部が、きゅう、と埋め込まれた『鍵介』自身を締め付けた。どろどろとして、甘く、酔いそうな快楽に、『鍵介』は暗く嗤う。
 そうしてさしたる間を置かずに、ナカで『鍵介』が達するのが分かった。どくり、どくりと熱いものが白夜の内部を撫で落ちていく。奥へ、奥へと押し込もうとするように、腰を掴まれ打ち付けられる。
 「ねえ、先輩……教えてください。なにが、だめなんでしたっけ?」
 「な、に……?」
 だめ。なにが? 本当に?
 『鍵介』の言葉が意識の中を回る。ろくな答えが出ないまま、また口づけられ思考が中断する。
 気持ちいい。その言葉が浮かぶ回数がどんどん増えて、すべてがどうでもよくなっていく。何がだめなのか、分からなくなっていく。
 「わかん、ない……も、わから、ない……」
 ぼんやりとしながら、力の抜けた身体を『鍵介』に預けて、白夜は呟いた。
 「いいんですよ、わからなくても」
 その身体を抱きしめて、『鍵介』が髪を優しく撫でる。それがあまりに気持ちよくて、白夜はうっとりと目を細めた。
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鳥籠の中の幸福論

キーワードタグ カリギュラ  R18  カギ主 
作品の説明 残滓カギP×主人公です。自宅部長設定「日暮白夜(ひぐれ・びゃくや)」。アプデで実装された残滓カギPというものがあまりに美味しすぎてダメになった結果。
鳥籠の中の幸福論
1 / 1
 「油断しましたね、先輩」

 揺れる意識の端っこで、含み嗤うそんな声を聞いた。強かに打ち付けた背中の痛みに思わず呻く。衝撃で真っ白になった意識を何とか手繰り寄せた。
 「黙ってましたけど、今の僕、物凄く強いんですよ」
 その間に、声の主は白夜のすぐそばまでやって来る。仰向けに倒れた白夜を見下ろして、眼鏡越しに笑顔を浮かべた。無邪気な、不自然なほど迷いのない笑顔が、視界に広がる。
 響鍵介……の、残滓。カギPと呼ばれて、オスティナートの楽士として君臨していた頃の彼。
 「ああ、もう立ち上がらない方がいいですよ。何度やったって同じですから」
 呻き、身体を起こそうとした白夜に、やはり不自然に屈託のない声で『鍵介』は言った。
 そう言われて諦めるわけにはいかない。忠告を無視して力を入れ、起き上がろうとした白夜を、彼の手が制した。
 「あっ」
 肩を地面に押し付けられ、そのまま馬乗りになられて、背中に走る痛みに声を上げる。せめてもの抵抗として睨み付けるが、『鍵介』は白夜の反応に気を悪くするどころか、むしろ機嫌よさそうにするばかりだ。もう獲物は手の中だ。そう思っているのか。
 「もう思い出してるでしょ、先輩。何回目でしたっけ、僕に洗脳されるの」
 ほんと、懲りない人ですよねと、忍び嗤う。ずきり、と白夜の心が鋭い痛みを訴えた。
 思い出した記憶が、自分自身の間違いが呼び起こされる。かつて、この世界との相性の悪さから何度も洗脳が解け、そのたびにカギPに再洗脳を受けていた記憶。そして最後には、それを自ら望んだ記憶だ。
 「一周回って可愛くなってきましたよ」
 白夜の瞳に浮かんだ戸惑いの色を見逃さず、『鍵介』は笑顔のまま、その白い肌に手を這わせる。そして細い顎に指をかけると、やや強引に持ち上げた。視線が固定され、白夜は『鍵介』から目が逸らせなくなる。
 「本当に、いつまでたっても弱くて可愛い先輩。仲間が出来て、いろんなことがたまたま上手く行って、勘違いしちゃいました? 現実も悪くないかなって?」
 笑えますね、と、『鍵介』は白夜の過ごしてきた時間を、鍵介と過ごしてきた日々を、一蹴する。
 「だめですよ」
 『鍵介』の声が一気に冷える。同時に、指先が顎から首筋に移動する。確かめ挑発するようなその動きに、身体がびくりと震えた。無防備な急所を、『敵』に嬲られる恐怖と、ほんの少しそれとは別の感覚が心と体を駆け巡る。
 「僕にさえ勝てない先輩じゃ、現実に帰るなんて無理です」
 諦めてください、と、冷えた声は続けた。恐怖に似た不思議な感覚に突き動かされ、白夜は尚も『鍵介』を見上げて睨む。
 「無理か、どうかは、わからない……っ……まだ、俺は、負けてない……」
 なんとか自分にかかる体重を押し返そうと躍起になるが、そんな抵抗は無意味だった。戦いに傷ついた身体は疲労感で言うことを聞かない。それでも健気に抵抗しようとする白夜に、『鍵介』は微笑む。
 そのささやかで無意味で無駄で、あまりにそそる仕草に。
 不意にまた顎を掴み上げられ、視界から光が消える。気付いた時には、唇に柔らかいものが当たっていた。
 「んっ! ……んん!」
 すぐに唇を舌が撫で、強引に割り入って来る。やっと自分が何をされているか気付いた白夜が、今度こそ激しく抵抗するが、馬乗りになられた状態ではそれもさしたる意味を成さない。身体は地面に押し付けられ、顎は固定されて、顔を背けることさえ許されなかった。
 舌が口内に容易く入り込み、歯列を丁寧になぞっていく。舌に吸い付かれ、裏側をなぶられて、反射的に目を閉じた。
 ちゅ、と名残惜しげに吸い付く音を残して、あまりに丁寧なキスが終わる。荒い息を吐きだし、目を開けると、そこには満足げな『鍵介』の顔がある。
 「いい加減何回も洗脳するの大変なんで。これで終わりにしましょうか」
 冷えた声の奥に、何か別の感情を押し殺しているように、『鍵介』は言う。とびっきりの名案を思いついた子供のように、笑う。
 あらゆるものの希少価値や、これから行うことの恐ろしさなど、一切関知しない子供の笑顔。そこにただあるのは、「興味があるか、ないか」……あるいは「それが欲しいかどうか」だけだ。
 「ひ、ぁ……!」
 首筋に吸い付かれ、舌でゆっくり舐めあげられる感触に、思わず声が漏れる。びくん、と反射的に震える手を、『鍵介』の指が確かめるように撫でていた。くすくすと、無邪気な笑い声が自分の胸元から響いてくる。
 細い指先が肩口、鎖骨を撫で、そのくぼみに舌を這わせられた。自分の意思に反して反応する身体に、思わず顔が熱くなる。
 違うのに。これは鍵介であって、鍵介ではないのに。でも、愛おしい人の姿を取っているから。
 「普通にやっても戻っちゃいまいたからね。こうやって、思いっきり気持ちよくなってもらってから洗脳するとかどうです?」
 そして愛しい人と同じ姿の彼は、楽しそうに、さらりと恐ろしいことを言う。
 本来、鍵介は思慮深い性質だ。思慮深く、やる前からあらゆることを考えてしまって、身動きが取れなくなるタイプのはずだ。それが彼の苦しみであり、逃避の本質だった。だからこそ、カギPはその部分が「欠落している」。
 思い悩み、決断から逃避する性質から解放された『鍵介』。自分が相手にしているのはその残滓だ。
 「大丈夫ですよ、終わったら、違和感なんて感じられなくなりますから。そしたらずっと傍に置いてあげますね。洗脳が解けたら、すぐわかるように」
 布ずれの音がする。抵抗できないまま、一枚一枚、身を護るものを剥がされていく。
 「何回でも、何回でも。僕のものにしてあげます。嬉しいですよね、先輩。先輩は僕が好きなんですもんね」
 逃げ場はない。助けも来ない。無邪気な子供が抱える鳥籠の中に放り込まれ、白夜に成すすべはなかった。
 
 一体何回果てたのだろう。途切れ途切れになる意識を必死で繋ぎ止めながら、白夜はぼんやりと思う。
 「先輩、ほら、寝ちゃダメですよ?」
 「ッあ、あぁ、あ……ッ……」
 それと同時に楽しげな声がして、ぐり、と自分の急所が強めに刺激されたのが分かった。目を見開いて、首を振りながらその快感をなんとか逃がそうとする。しかし、背中に手を回され、上半身を引き寄せられてそれも満足に叶わない。
 「ふふ、ここ、もうぐちゃぐちゃですね」
 上手く力が入らない白夜の身体をしっかりと支えながら、『鍵介』快楽と恐怖とに濡れる白夜の瞳を覗き込む。片手で柔く包み込まれ、もったいぶった手つきで昂る中心を撫で上げられた。悪寒にも似た快感が腹のあたり、そして背中を突き抜けて、鼻がかった嬌声が口から零れ落ちる。
 それでも物足りない、と反射的に思う自分に恥じ入る。しかし、そんな理性に縛られた思考とは別の本能が、腰をゆらゆらと揺らしていた。
 「ちがう、ちが……っ……!」
 「何が違うんです? ほら、とっても気持ちよさそうですけど?」
 こことか、と意地の悪い笑みで、『鍵介』が熱を持った中心をなぞる。裏側を指先で、ゆっくり、白夜に分かるように丁寧に。
 「ん、ん、ぅ……っは、ッひ、や、そこ、ゃあッ!」
 そのもどかしく切ない快楽に酔いしれていると、そのまま辿りついた先端を指の腹でくりくりと刺激される。瞬間的な強い快感に神経が悲鳴を上げた。とろり、と溢れる先走りを指で弄び絡めて、『鍵介』はまた楽しそうに声を潜めて笑う。
 口では嫌だと言いながら快楽の証拠を絶えず溢れさせて、腕の中で鳴く獲物は本当に可愛い。ダメと言いながら灰色の瞳は情欲に溺れ、言外に「もっと」と強請ってくる。細い指先が鍵介の肩を必死で掴み、絶え絶えに呼吸をする姿はなまめかしい。
 いつまでも眺めていたい気分だ。いや、眺めていられる。自分の後先、未来を放棄した子供は、ただ目の前の「欲しいもの」に夢中になれるのだから。
 「先輩のここ、僕のこと大好きみたいですね。ほら、こんなになってる」
 とくり、と呼吸するように、先走りがまた零れた。白いものが入り混じるそれを、『鍵介』は愛おし気に指に絡め、また白夜自身にもこすりつける。白夜の視線が、その淫猥な情景をじっと見つめていた。
 「あ、あ……」
 『鍵介』の指遣いに翻弄され、快感を与えられ、それを悦んでいる自分を見せつけられる。そしてそれから、目を離せない。自分が目の前で犯される光景を、焼き付けられる。
 すでに十分張りつめた中心は、もどかしくもったいぶった愛撫のせいで達することさえ出来なかった。ぽろりと目じりから零れる涙を、白夜は自分で拭うことさえできない。全ては『鍵介』の思い通りだ。
 口ではうわ言のように「ダメ」と「やめて」、「ちがう」と繰り返すが、もうその声に意味や思考は伴っていない。代わりに頭を埋め尽くすのは、快楽の肯定と、先を強請る言葉だけ。それを口にだけは出すまいと、必死で押しとどめるなけなしの理性だった。
 「ああ、本当に先輩は可愛いなぁ。必死で我慢して、否定して。でも本当は欲しいんですよね。大丈夫ですよ、わかってますから。先輩が素直になるまで、ずーっとこうしてますからね」
 ため息混じりの口調でそう言って、『鍵介』がまた強引に口付ける。最初に奪った時からすれば、ほとんど抵抗なく白夜は口付け受け入れた。まるで吐息を入れ替え合うようにゆっくりと、唇に吸い付き、舌を割り入れ、味わう。
 焦点の合っていない目で白夜はそれを享受して、終われば息を吐く。そしてまた貪られる。そんな口づけを何度も何度も繰り返す。
 口付けられるたび、愛されるのではなく、愛でられているのだと、思い知らされる。弱くて可愛い先輩。『鍵介』がそう言って嗤った通りの白夜が、鍵介の上で暴かれ貪られていた。
 「あ……」
 『鍵介』の膝に座らせられているような恰好のまま、後ろのその部分を指が撫でる。もう何度もなぶられて、ぐちゅりと音を立てているのが潤滑油なのか体液なのか、それすらも曖昧だ。卑猥な水音を聞けば、自分がもう何度も犯された後だという事実を思い知らされる。耳を塞ぎたかったが、それも許されない。
 籠の持ち主が許さない限りは、あらゆることは思い通りにならないのだ。
 内壁をぐるりとなぞられて、身体が震えた。そして、そこが当たり前のように『鍵介』の指を飲み込んでいく。見えなくてもわかった。たぶん、白夜がよくそれを思い知るように、ゆっくり、ゆっくりと指を奥へ進めている。
 「ほら、もうこんなに柔らかい」
 『鍵介』が囁き、指の関節を少し曲げて敏感な部分のさする。それだけで面白いように白夜の白い肢体が震え、反射的に目の前の『鍵介』にしがみ付いた。
 「……っ、ふ……んぅ、ぁ」
 弱い部分へ、執拗に、断続的に与えられる快感に、視界がぼやけていく。思考がふやかされていく。一定のリズムで震える身体を、あやすように『鍵介』の手が撫でていた。
 気持ちいい。思ってはいけないとわかっていながら、そう思うのを止められない。跳ね除けるには、『鍵介』が言う通り、白夜はあまりに弱い。
 「ねえ、いい加減わかりました? 先輩」
 僕には勝てないって。
 耳元でそう囁かれ、揺さぶられる。その柔らかく解された部分から指が引き抜かれ、腰を持ち上げられた。次に何が与えられるのか理解しながら、抵抗することを取り上げられた白夜は、ただぼんやりと、『鍵介』を見下ろす。
 ゆっくりと、そこに熱が入り込んでくる。か細い悲鳴を上げながらそれに耐え、受け入れる白夜を、『鍵介』が満足げに見つめていた。粘着質な水音が、自分ではない他人のものを受け容れているのだと、思い知らせてくる。
 「っ……は……ふふ、いまの、よかったんですね。かわいい」
 思わず力を入れて締め付けてしまい、『鍵介』は嬉しそうに、またキスを繰り返した。中を抉られ、口内を貪られて、自分の中が全部、犯されているような錯覚を覚える。
 丁寧に、ひたすらに丁寧に。白夜が誰のものか、誰に犯されているのか、それを思い知らせることが目的なのだと言わんばかりに、その行為は続く。腰を掴まれ、内壁を容赦なく嬲られた。一気に奥まで突き入れられて、悲鳴を上げる。指では届かない部分を何度も何度も、責めたてられた。
 「あ、あっ……ひ、だめ、……ッ」
 びくん、と、激しく身体が震える。『鍵介』がそれを察して、また白夜の腰を一気に引き寄せた。限界近くで敏感になったそこを無遠慮に貫かれ、白夜は可哀想なくらい悲鳴を上げる。
 それと同時に、白夜自身がどくりと欲望を吐き出した。先走りに混じった白より濃く苦い精が、とろとろと鍵介の白い腹を汚していた。
 「ふ、あは……先輩、そんなに、きもちよかった、ですか?」
 「ちが……っああぁ、ん、や……ちが、だ、めぇ……っひ、ぁ」
 違わない。ダメなわけがない。限界まで焦らされ、やっと解放された欲望があまりに気持ちよく、ぽろぽろと白夜の両目から透明な涙が零れる。そして頬を伝い、細い顎からぽたぽたと、鍵介の肌に落ちていった。そのまま、先ほど吐き出したばかりの白いものと混ざり合う。
 『鍵介』が、その光景を見て、うっとりと目を細めた。
 「……だめ、ですか? 本当に?」
 白夜の細い腰を掴み、震える身体を抱きしめて、なるべく白夜の耳に近いところで『鍵介』は囁く。二人の身体を出来る限り近づけ、自分の欲望を奥へ、限界まで白夜のナカに埋め込もうとする。
 「けん、すけ、ぇ……っ」
 白夜の甘い声が、『鍵介』を呼ぶ。一足先に達して敏感な内部が、きゅう、と埋め込まれた『鍵介』自身を締め付けた。どろどろとして、甘く、酔いそうな快楽に、『鍵介』は暗く嗤う。
 そうしてさしたる間を置かずに、ナカで『鍵介』が達するのが分かった。どくり、どくりと熱いものが白夜の内部を撫で落ちていく。奥へ、奥へと押し込もうとするように、腰を掴まれ打ち付けられる。
 「ねえ、先輩……教えてください。なにが、だめなんでしたっけ?」
 「な、に……?」
 だめ。なにが? 本当に?
 『鍵介』の言葉が意識の中を回る。ろくな答えが出ないまま、また口づけられ思考が中断する。
 気持ちいい。その言葉が浮かぶ回数がどんどん増えて、すべてがどうでもよくなっていく。何がだめなのか、分からなくなっていく。
 「わかん、ない……も、わから、ない……」
 ぼんやりとしながら、力の抜けた身体を『鍵介』に預けて、白夜は呟いた。
 「いいんですよ、わからなくても」
 その身体を抱きしめて、『鍵介』が髪を優しく撫でる。それがあまりに気持ちよくて、白夜はうっとりと目を細めた。
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