まるとも

男主夢が主食です。
美少年と寡夫と纏足が大好物です。

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投稿日:2015年05月01日 00:18    文字数:5,940

傾界の美青年

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名前変換ができると聞いて試しに使ってみました。
後日サイトに掲載予定の血界戦線シリーズ1話目。ツェッドくん贔屓です。
夢主は設定もりもり、ほぼオリキャラなので苦手な方は注意。恐らく夢主受け。

夢小説作品

この作品は下記の登場人物の名前を変換することができます。

登場人物1

主人公の名前(デフォルト名:ナルキス)
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傾界の美青年
1 / 1

 異界と現世が交わる街、ヘルサレムズ・ロット。異形と人類がひしめき共存するこの街では、道端での小競り合いから国際情勢を揺るがす陰謀までが日常茶飯事、一秒後の生存さえ保証されない。

 そんな危険で理不尽極まりない街の均衡を保つために暗躍する組織――秘密結社ライブラ、その事務所では、今日も優秀な構成員たちが密命を受けていた。

「要人警護ォ?」

 不服も露わに響いた声は、愛人宅から緊急で呼び出されて絶賛不機嫌中のザップのものであった。チンピラの見本のように大股開きでどっかとソファに腰を下ろし、抗議の視線をスティーブンに投げる。

「ンなの、この半魚人だけで十分じゃないっすか? わざわざ俺まで行かなくても」

 暗に面倒だ、やる気が出ないとぼやく兄弟子に、ツェッドは軽蔑の眼差しを向けた。スティーブンが斗流血法の使い手であるツェッドたち二人を召集したということは、二人分の戦力が必要な理由があるからだ。ザップも分かっていない筈はないだから、ただ文句を垂れたいだけなのだ。全くもって大人げない。

 子供のように駄々をこねるザップに、スティーブンが苦笑した。

「ちょっと面倒な案件なんだ。ことの詳細はチェインが調査中だが、なんと言っても『あちら側』のお偉方から、内々でのご依頼でなあ」

「それはまた、大層なことですね……」

 数々の死地を抜け、日頃から異界と現世の思惑渦巻く事件を扱ってきている彼が「面倒」と称すとは相当だ。斗流の名に賭けて失態を晒すわけにはいかない――いかないが、当の兄弟子がこの体たらく。ツェッドは助けを求めてスティーブンに視線を送り、彼は「仕方ない」と肩を竦めた。

「じゃあ、ツェッド一人に任せるしかないなー。護衛対象は『絶世の美人』だって聞いてたんだがなー。ザップが行きたくないって言うんだからしょうがないよなー」

 流石、人を動かす術に長けた副官殿である。ソファから跳ね起きたザップは背筋を伸ばし、おまけに敬礼までして任務を承服したのだった。

 スティーブンに指示されてやってきたのは、ヘルサレムズ・ロットでも屈指の高級ホテルだった。その最上階スイートに、護衛対象の「美人」は一ヶ月前から滞在しているらしい。

 異形頭のホテルマンに案内され、不逞の輩を排除するために何重にもかけられた術式をエレベーターがすり抜けていくのを感じながら(隣で鼻歌を歌うザップが不逞の輩でないことを祈りつつ)、ツェッドは自分たちに与えられた任務の内容を脳内で反復していた。対象はヒューマーだが、護衛依頼は異界の重鎮複数から。依頼人は極秘ルートを何重にも介してコンタクトを取ってきたため、詳細はライブラの誰も知らないらしいが、訳アリなんてこの街では珍しくなく、自らの安全のためには余計なことを知るべきではないことをツェッドは心得ている。その「美人」の身を狙う物騒な連中から対象を守ること、ついでに敵をぶちのめしてしまっても構わないというのが今回のお達しだ。ライブラ所属の牙狩りである自分が言うのも何だが、相変わらず治安が悪いこと。

 とうとう件の「美人」が滞在する部屋に案内され、ツェッドは気合いを入れた。とにかく、隣の男が変な気を起こさないようにしっかり見張っておかなければ――!

 最上級の部屋に相応しい繊細な装飾が施された重厚な扉、ホテルマンが厳重にかけられた魔術錠を解いてそれを開けば、広い部屋の奥に対象の人物を目視できた。

「ああ、君たちがライブラか」

 その人間は、窓のへりに腰を下ろして、霧に煙るヘルサレムズ・ロットを見下ろしていた。

「話は聞いてる。精々僕を守りたまえよ」

 すい、とこちらに向けられた顔。気合いを入れたまま硬直したツェッドと、にやにやと弛緩しきった表情筋のままに唖然とするザップ。彼らをまっすぐに見る瞳は一片の濁りなく澄み切り、動きにあわせて揺れる髪の毛はさらさらと流れた。

 そこにあったのは、暴力的なまでの美しさを持ったものだった。美の定義は人それぞれ、文化それぞれであれど、そこにあるのは理屈を越えた普遍的な説得力を有した輝き。その美貌は美しいという言葉では語りきれない――いや、どんな言葉を尽くしてもこれを表現することは不可能であろう。見た者の脳に直接殴りかかってくるような、言語に絶する煌めきだ。あえて表現するなら、滑らかに研磨された大理石のごとき白い肌、光の当たる角度で緑にも紫にも照るつややかな黒髪、南国の海洋を思わせる碧の眼球とでも言おうか。けれども言葉にした瞬間にその美しさは陳腐になり、言語の限界を思い知らされる。

 たっぷり三十秒見つめ合って、先に言語機能を取り戻したのはザップだった。

「…………って、てめえ男じゃねえか!!」

「うん、男だけど?」

 だからどうした、と美貌の青年は首を傾げた。まっすぐに伸びた黒髪が、キャミソールから覗く平らな胸元で揺れる。美術品のごとき肢体が伸び、美人が腰を上げた。重力に従っただけの髪の毛の動きですら、見る者の頭をガンガン揺さぶってくるのだから、こちらに歩み寄ってくる彼をまともに見てしまったツェッドは、吹っ飛びそうになる意識を縛り付けておくだけで精一杯だった。というか、これまた女物だろう綿のホットパンツから伸びる、かたちの良い膝と滑らかな筋肉でつくられた素足が、美術館に飾られた彫像のように眩しい。そういえばスティーブンは「美人」としか言っていなかったから、勝手に女性と勘違いしたのはザップとツェッドではあるが――これはそういう次元の問題ではない。

 この青年は立ち上がると身長はそれなりにあり(170cmは越えているだろう)、それが値踏みするようにザップとツェッドをじろじろと見つめた。ツェッドはきょろきょろ落ち着きなく視線をさまよわせたあと、やり場に困って彼の頭上10cmあたりに目を向けることにした。こちらの反応など全く意に介さないらしい相手は、かろやかな足取りでさらに数歩距離を詰める。

「君たちは相当荒事に強いらしいじゃないか。僕に危害を及ぼそうなどという身の程を知らずを返り討ちにしてくれるよう期待しているよ」

「随分偉っそうだなァ、オイ」

 男と分かった途端に態度を豹変させてガンを飛ばすザップは、しかし普段より幾分語気が弱い。こんな美貌を目の前に普段通りでいられる人間の方が稀だろうが。

 動揺する護衛二人を前に、青年はきょとんとして「僕が偉いのは当然だろう」と真顔で言い放った。

「だって僕はこの世で一番美しい存在なのだから」

 傍若無人な言葉、そこには聞いた者を力ずくで納得させてしまう説得力が――いや、それだけでなく何か魔性のような力があった。理屈を超越する、まるで呪い。

 これ以上彼のペースに乗せられてはいけないと悟ったツェッドは、うっかりすると一瞬にして沸騰してしまいそうな意識を手繰り寄せて、喉に力を込めた。

「と、とにかく! 貴方の安全が確保されるまで、護衛をするのが僕らの役目です。貴方を狙う者たちについては、ライブラの別動隊が調査していますので、そちらの対処が終わるまでは行動を共にします!」

「ふぅん。それって具体的にどれくらい?」

「……おそらく、三日」

 自分で言っておきながら、ツェッドはその過酷さを想像して眩暈を覚えた。この青年と一秒だって顔を付き合わせているのも精神的に耐え難いのに、それが三日もだなんて、護衛のこちらが身体と精神の危険を感じてしまう。この青年の美貌を目にすることは、まともな神経を持つ者には荷が勝ちすぎる。

 落ち着け。ツェッドは自分に言い聞かせた。どんなに美人だろうと、その美しさが常識を遥かに越えていようと、彼は会話のできる人間なのである。ならば普通に、人間らしく接すれば良いはずだ。ツェッドは背筋を正して、水掻きのある右手を差し出した。

「……挨拶を、しましょう。僕はツェッド・オブライエン。こっちはザッップ・レンフロ」

「てめ、勝手に俺を紹介してんじゃねーよ!」

「よろしく」

 ザップの抗議を無視して、極々平凡なコミュニケーションを試みた。けれどもその手が取られることはなく、美青年は花びらのごとき口唇を震わせた。

「この手は、何だ?」

 基本的な意志の疎通を拒んだ彼に、ツェッドは面食らい、隣の兄弟子からはこめかみの血管がぶっつりと切れる音がした、気がする。そんな二人のことなど意に介さず、美青年は尊大に、けれどどこまでも自然にそこに存在した。

「僕の名はナルキス。僕をその目に映せた幸運に感謝したまえ」

「こんのクソガキ、言わせておけば――!」

 遂に、辛抱の限界に達したらしいザップがブチ切れた。調子乗ってんじゃねーぞと中指を立てて、ナルキスと名乗った青年に迫る、その図は犯罪一歩手前だ。ザップの無駄にある度胸と無礼極まりない行動に冷や汗をかいて、ツェッドは絶望的な気分だった。この青年と、兄弟子と一緒に、あと三日。七十二時間。四千三百二十分。

 はぁ、とツェッドが大きなため息を吐いた。――が、それがナルキスの耳に届くより速く、ハッと表情に緊張を走らせたザップとツェッドは、常人の認識を越えたスピードで斗流血法カグツチ、シナトベを発現させた。

 瞬間、耳をつんざく轟音とともに、室内は無数の弾丸に強襲された。二秒前には敵の来襲を察知していた二人にとって、機関銃型の武器からの掃射も恐るることはない。目の前のナルキスを抱き寄せて自らの影に隠したザップを確認し、ツェッドは三叉槍を操り凶弾を弾ききった。

 ホテル自慢のロイヤルスイートは一面蜂の巣のごとき様相、被害額を想像するだけでぞっとするのだが――弁償は現在ツェッドたちを囲む者たちに請求すればいいだろう。

 高層ホテルの最上階に窓ガラスをブチ破って侵入してきたのは、十体ほどのパワードスーツだった。元は人類向けの軍事用だったと思しきそれは、異界の技術で飛行機能付きの半生体兵器に魔改造されたようで、何らかの生物の一部と見られる砲身を、ザップの腕の中で顰めっ面をしているナルキスに向けられていた。スーツを装着しているのが人類か異界人かは判別できない。

「それを渡してもらおうか」

 一人が警告だとばかりにガチャリと武器を鳴らして言う。それに怯むことはなく、ツェッドは槍を構えた。

「渡せと言われて渡すワケがないでしょう」

「フン……こちらも手ぶらで帰るわけにはいかないのだ。手段を選んではいられないか」

 最後通牒だと、敵は一歩にじり寄った。一回り小さくなった輪の中で、照準はブレることなくこちらを向いている。ツェッドはどうやってこの場を切り抜けるべきかとすばやく考えを巡らせていた。自分と兄弟子だけならこのような雑魚など余裕で制圧できるが、こちらにはナルキスがいるのだ。無茶な力技でパワードスーツたちを振り切っても、この青年に怪我を負わせるわけにはいかない。

 慎重に、確実に。そう思ったとき、今まで黙っていたザップが「なあ」と声を上げた。

「テメェら、このガキ見て、何ともねえのか?」

 その言葉にツェッドはハッと気づいた。そうだ、この場には見る者の正気を一瞬にして奪うような常識外れの美青年がいるのだ。斗流血法の鍛錬を詰み精神力を養った二人だからまともでいられるのであって、ナルキスのこの容姿を前にして全く隙がないというのも妙である。

「もしかして、」

「ああ、こいつら、見てねェぜ!」

 ザップがライターを握りしめ、それを合図にしてツェッドも僅かに腰を落とす。二人の様子に合点がいっていないらしいナルキスがザップの腕の中で困惑していた。

「君たち、何を……」

「喋ってると舌噛むぜ、クソガキ――斗流血法、カグツチ」

「斗流血法シナトベ」

 ざわりと、二人に呼応するように、大気が揺らめいた。強靱なパワードスーツの中の敵たちが、あっと息を呑むのを感じ取る。

「七獄天羽鞴」

 紅蓮の火柱が敵を包んだ。耐火性のスーツに身を固めた敵に対して、通常ならば炎は足止めの意味をなさない。しかしツェッドたちの予測したとおり、敵は炎の中の三人の姿を見失い、混乱に陥った様子。形勢が崩れた敵の中をナルキスを抱えたザップが駆け抜け、ツェッドはその後を追い、敵が侵入する際に大穴を開けた窓から迷うことなく霧の中の街へと飛び降りた。

 風を切って落下していくなか、ナルキスの悲鳴がビルの谷間に響く。

「な、なにを考えているんだ君たちは! 正気か!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇよ、ちゃんと着地してやっから騒ぐな!」

 言いながら、ザップは血液で編んだ糸を操り、地面周辺にクッションとなる網を張っていた。やっぱり器用だなあ、とヒレ状器官を羽のように使って滑空しながらツェッドは感心する。きちんと自分が下になって網に着地し、ナルキスが受ける衝撃を和らげてやるところまで、珍しく気が利いている。

 空から人間が降ってきたことに通行人たちがざわめき、野次馬たちが集まってくる。ツェッドはハッとしてザップに目配せし、その意味を察したザップが腕の中のナルキスをより強く抱き寄せ、彼の秀麗な顔を胸に隠した。こんな往来であの顔を晒してしまったら、どんな騒ぎになるか想像するだけで恐ろしい。

「とりあえず、ここを離れましょう。すぐに追っ手が来ます」

「……いや、もう来てるわ」

 ホレ、とザップが顎で示した先には、混乱から一番に抜け出てきたらしいパワードスーツが一体、こちらに向かって飛行してきていた。そのまま砲身を構え、ナルキスを守るツェッドとザップを排除すべく敵は躊躇なく砲撃を行った。

 あ、そこ撃っちゃうんだ、と手段を選ばない相手にツェッドは呆れを隠さない。砲撃の先には多くの一般人、それを巻き込むことを厭わずナルキスを奪おうとするとは、こちらの予想以上に相手は切羽詰まっているのか。

 躱せば無関係の人間に被害が出よう、そう判断したツェッドは血液で作り出した三叉槍を掌で一回転、そうして寸分違わぬ狙いで迫り来る砲弾に向かい投擲した。

 槍に貫かれた弾は、空中で轟音を立てて爆発した。盛大な爆風が吹き抜け黒煙が立ちこめるが、あの距離でならどんなに不運でも死人は出ないだろう。ツェッドが隣のザップに頷くと、彼はナルキスを肩に担ぎ上げ、立ち上った煙を煙幕に三人はその場を離脱した。

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