sungen

お知らせ
思い出語りの修行編、続きをpixivで更新しています。
旅路③まで書きました。
鯰尾と今剣は完結しました(^^)pixivに完全版が投稿してあります。
刀剣は最近投稿がpixivメインになりつつありますのでそちらをご覧下さい。
こちらはバックアップとして置いておこうと思ってます。

ただいま鬼滅の刃やってます。のんびりお待ち下さい。同人誌作り始めました。
思い出語り続きは書けた時です。未定。二話分くらいは三日月さん視点の過去の三日鯰です。

誤字を見つけたらしばらくお待ちください。そのうち修正します。

いずれ作品をまとめたり、非公開にしたりするかもしれないので、ステキ数ブクマ数など集計していませんがステキ&ブクマは届いています(^^)ありがとうございます!

またそれぞれの本丸の話の続き書いていこうと思います。
いろいろな本丸のどうしようもない話だとシリーズ名長すぎたので、シリーズ名を鯰尾奇譚に変更しました。

よろしくお願いします。

妄想しすぎで恥ずかしいので、たまにフォロワー限定公開になっている作品があります。普通のフォローでも匿名フォローでも大丈夫です。sungenだったりさんげんだったりしますが、ただの気分です。

投稿日:2019年06月17日 10:09    文字数:4,836

井戸の水(三日鯰)

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単発です。モブ出てきます。そこそこ健全。歴史系は捏造。
※普通に三日月×鯰尾ですのでご注意を。
1 / 2
井戸の水(三日鯰)

モブ出てきます。
健全
色々捏造


1 / 2
2 / 2


「……大分減ったなぁ」
三助は井戸をのぞき込んだ。

ここのところ日照りが続き、井戸の水はあと少しだ。
どのくらいかというと――。
三助はつるべを落とした。ガコ、という音がする。
まだ水は汲める物の。雨の多いこの時期にこれでは。
……畑もひからびている。

――これは、まずいかもしれん。

その時、少し風が吹いた。
「ん?」

三助は振り返り呆気取られた。そこに居たのは若い男だった。
青い着物を纏って、立派な帯に、太刀を履いている。
つややかな黒髪には金の総飾り……。見た事も無いような美丈夫だった。
が、良く見ると着物が少し破れ。ごく浅い傷を負っている。

「そこな者。その井戸は使えるか?」
男はそう言った。

「へ、へえ」
三助がうろたえて言うと、男は微笑んだ。
「それは良かった。俺が使ってもよいか?水を少し貰いたいのだが」
男は腰に下げた竹筒を外した。それだけで良いらしい。
「へ、へえ、どうぞ」
「すまんな」

男がつるべを落とすと、ガコン、と鳴って、少量の水が汲めた。
するすると縄を引く動作さえ優雅だった。程なくしてつるべは戻った。
男はこぼさないように気を付けながら竹筒に水を注いだ。
その後で井戸をすこしのぞいた。

「ここも、じきに枯れそうだなぁ。探し回ったのだが。他はほとんど枯れているという。この辺りに川は無いのか?」
「はあ、こんな平地じゃ、日照りがいっとうおそがいもんです」
「左様か。まあじきに雨が来るだろう」
「はあ。だといい――」
その時、三助は後ろの茂みに馬がいるのに気が付いた。
黒毛の見た事も無い程、立派な馬だ。こちらは緋色と金色の飾りを付け、鞍も豪華だ。

「こ、これはとんだ無礼を」
三助は慌てて平伏した。これは殿様にちがいない。従者はいないようだが、遠乗りにでも来たのだろうか。

「ははは。俺はそんなえらい物では無い。礼を言うぞ。そうだ――しばらく。俺や共の者がこの辺りをうろつくが、気にしないでくれ」
「は、ははっ」
三助はさらに頭を下げた。やはり共はいるらしい。
そこでふと、気になったことを尋ねた。

「あの、その怪我は」
「ん?ああ。これか?転んでな。何。大した事は無い。急ぐのでな」
「ご、ご無礼を」
「ははは」
男は笑って、馬を引き、立ち去った。

三助は腰を抜かしそうになった。

「こいつはたまげたなぁ……」
今見た者は何だったのだろう。現実だったのだろうか。

■ ■ ■

「鯰尾。持って来たぞ」
三日月は木陰で休む鯰尾に声をかけた。
「……ずいぶんかかりましたね」
座っていた鯰尾はかすれた声で言った。連戦であちこち負傷しているが、重傷では無い。
敵を刈り尽くした後。三日月は水を汲んでくる、と言って結局、半日近く戻って来なかった。
喉は渇くし。心配になるし。鯰尾は待ちくたびれていた。
「はは。すまんな。どこも涸れ井戸でな」
三日月は鯰尾に水筒を渡した。
――竹筒とは別の物だ。
「?ありがとうございます」
水がなくなったので、汲みに行ったのではなかったのか?
鯰尾は不思議に思ったが、受け取って蓋をあけ、喉を潤した。

「どうぞ。三日月さんも」
三日月に渡し、三日月に返す。三日月も喉を湿らす。

「……」
鯰尾はしばらく木々の先を見た。

「――行きましょうか」
「ああ」
そうして、連れだってその場を離れた。

■ ■ ■

それから程なくして、雨が降った。

「やれ、良かったな」
「ええ、本当に」
身重のつれあいとそういう話をした。
つれあいは腹を撫でた。

雨はしばらく続きそうだ。
「これで一安心だなぁ。不思議な事もあるもんだ」
三助は言った。
「お侍さんなら、お天道様のごきげんがわかるんじゃあ?」
つれあいが笑った。
「はは――かもしれないな」
三助も笑った。

■ ■ ■

「一帯を調べたが、今の所、敵の気配は無い」
三日月は審神者に報告をした。

「そうか。さすがに……まだ先の話だからな。このまま警戒を続けよう」
「次はいつ飛ぶ?」
「明日にでも……と言いたい所だが。別の者を使わそう。お前と鯰尾は五日後に」
審神者が言った。
「……あいわかった。では失礼する」
三日月が頷いて頭を下げた。

「――お疲れ様。休むと良い」
審神者が言った。

■ ■ ■

「どうだ。一緒に呑まんか?」

三日月は鯰尾を誘い、縁側で月を見ながら酒を呑む。

「……」
鯰尾は無言で酒をあおる。
「こら、そう急ぐと、酔いが回ってしまう」
「あーそんなの」
鯰尾は溜息を付いた。

鯰尾がうつむく。
「……ここは平和ですね」
「そうだなぁ……」

「三日月さん」
鯰尾が三日月を見る。瞳が揺れている。
三日月は鯰尾が何か言うのを待った。

「……」
鯰尾は口を開きかけて、また閉じてしまった。
「あの村が」
三日月はぽつりと呟く。

「……」
鯰尾は三日月を見ている。

「よもや……、ああなってしまうとは。俺も思わなかった」
三日月は酒杯を見つめた。

「……どうしようもないですよ」
鯰尾は言った。
――三ヶ月後。あの村は無くなる。
――鯰尾と三日月は、先にそれを見てきた。
見てしまった、と言ってもいい。

鯰尾は笑った。
「……でも秀吉のおばあさんが助かれば良いんですから。あとは奴らが入って来ないように、見張ってるだけだし?」
「そうだな。俺達はしばらく休みだ」
三日月は呟く。
鯰尾は俯いた。

「――折角だ。どこかに出かけるか」
「……どこです」
「そうだなぁ。五日もある。ふたりでゆっくり、能でも見るか?」
三日月が言うと、鯰尾が肩を震わせた。
「――っ。いや眠くなりますって」
「そうか?」
「そうですよ……」

鯰尾が口元を押さえる。顔色が悪かった。
「……すみません、飲み過ぎたみたいです」
「吐きそうか」
「いえ……」
「すまなかったなぁ」
「いいえ。大丈夫です」
「忘れるといい」
「……そうですね」

鯰尾は酒を注いで、また少しずつ飲み始めた。

「……飲み過ぎだ」
「そんな事ないですよ……」
「それで終いに」
「そうですね……」
鯰尾は小さくあくびをして、眠そうに目を擦った。

「もう一杯」
「やめておけ」
「もう、いいじゃないですか」
「悪酔いするぞ」
「さそったのは貴方ですし。お酒美味しい」
「……」
三日月は鯰尾を支えた。
「ん……何ですか?」
鯰尾は目をこすった。
「少し奥で休むと良い。後で運んでやろう」
「それも……そうですね」
鯰尾は瞼を閉じた。

■ ■ ■

『三日月、鯰尾。お前達には、ある村へ行ってもらう。そこの三助という男は流行病で死ぬが、その妻は助かる。その妻の子供が秀吉の祖母だ。一応、歴史改変の兆候が無いか見て来て欲しい』
審神者はそう言った。

簡単な任務のはずだった。

炎が、悲鳴が。
助けを求められて、駄目だと分かっていても。
鯰尾は飛び出していた。

鯰尾はそれまで、生々しい人の営みを見た事が無かった。
人間は争う。略奪。殺し合い。
無論知ってはいたのだが――。
敵は斬っても。人を斬った事は無かった。

『……この程度では、歴史は変わらぬ』
三日月はそう言った。
『……でも……!こんなに沢山。この子は?』
『それより、見つかると不味い。しばし身を隠す』

そうして全てが終わった後で、赤子だけ置いて来た。

『此度の事は――敵が仕向けた事のようだ』
審神者が言った。鯰尾はほっとした。
動揺をひた隠し、引き続き任務に就いた。

もちろん、鯰尾のした事は三日月が報告しただろう。
主はどう思うだろうか――?

「ううう、う……」
背後でうめきが聞こえる。三日月は筆をいて様子を見た。
布団に入れたが、夢見は良くないようだ。

三日月は鯰尾の額を撫でた。
鯰尾は、ふっと涙をこぼした。

■ ■ ■

「……美味しい!」
「それは良かった」
甘味を食べた鯰尾が、ようやく笑った。三日月は微笑んだ。

「それにしても、能ってよく分からないですねー」
「ははは。なら、今度は歌舞伎にするか」
「いえ、でも少しは……楽しかったです。色々すみません」
「いいや。して、次はどこへ行く?」
「夕飯はどうします?」
「食べて帰るか?どちらでもよいと言われた」
「三日月さんは、疲れてませんか?」
「この通り。寝ていたからな」
「ですよね」
鯰尾が苦笑した。
久々の非番、三日月に誘われ――街に来て能を見たのだが、三日月は途中で寝ていた。
二人して寝てはいけないと思い、鯰尾は頑張って見た。
終幕には三日月も起きだして、最後は微笑み手を叩いた。

「……三日月さん」
あの任務は未だ終わっていない。
鯰尾はそれが気に掛かって楽しめずにいた。それを申し訳無く思う。

「何だ?」
「……いえ。何でもありません。任務、頑張りましょう」
鯰尾は微笑んだ。

■ ■ ■

それから一月かけて、鯰尾と三日月は任務を終えた。
決して気持ちの良い任務では無かったが、赤子――秀吉の祖母は無事に暮らしている。

三日月の部屋の中で二振は杯を交わす。
しとしとと雨が降っているから、縁側では濡れてしまう。

「……歴史を守るって、大変な事なんですね」
鯰尾が言った。

「そうだな」
三日月が頷く。
「そうだ。三日月さん、聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「大した意味はないのかもしれませんが。二度目のあの時、……どうして水を探しに行ったんですか?調査ですか?」

「……ああ。俺は主から、疫病の原因は水にあると聞いていたからな。……日照りが続き、水を求め、村人達は沼を見つける。そこの水が原因だと……。あの村は敵のせいで野盗に襲われ滅んだが。二度目の調査の時、井戸や畑がどうなっていたかも調べたかったのだ。どの程度歴史を改変されているか。疫病の件も、結果として報告する必要があったからな」
「そうだったんですか」
鯰尾は感心した。三日月が水を汲んでくると言ったのは、その調査も兼ねてだったのだ。あの時の鯰尾は連戦で消耗していて、同行できなかった。

「……知っていれば、行動できた。そういう物なんですね。もっと体力付けないとな。三日月さんも、できれば詳しく教えて下さい」
鯰尾は溜息を付いた。

「ああ。そうだなぁ。そうする。が、知っていても、動けるとはかぎらん……」
「う。……ですね……。すみません、生意気言って」
鯰尾は暗に断られたと思い頭を下げた。
しかし、三日月は首を振った。
「そうではない。俺は――あの時、動けなかった。お主はすぐに止めに入ったというのに。俺は突っ立っていた」

遡行軍にそそのかされた野盗達が群がり、三郎の妻を犯し殺そうとした。
三日月と鯰尾が来た時にはすでに、腕や腹が……。

歴史に無い光景はあまりに衝撃的で。三日月は一瞬、介入をためらった。鯰尾は飛び出し野盗を殺した。
「俺は何が起きているのか。理解出来なかった――情けないことだ」

「……俺の行動も正しかったのか、分かりません。……間違っていたと思います」
鯰尾はうつむいた。主は咎められなかったのだろうか?
咎は無いとこんのすけが言っていたが。詳しい事は何も教えてもらえない。
「そうだな。……だが、赤子は助かった。それが全てだ」
三日月は鯰尾を見つめた。
「……そうですね」
取り上げた赤子は瀕死だった。それでも。助かった。

――歴史は守られた。

三日月はうつむく鯰尾を引き寄せて、袖で包んだ。

「じじいの胸で泣いても良いぞ」
「泣きませんよ。このくらいじゃ」
鯰尾は顔を上げて苦笑した。
「ははは」

三日月は鯰尾を抱きしめていた。

〈おわり〉
2 / 2
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「……大分減ったなぁ」
三助は井戸をのぞき込んだ。

ここのところ日照りが続き、井戸の水はあと少しだ。
どのくらいかというと――。
三助はつるべを落とした。ガコ、という音がする。
まだ水は汲める物の。雨の多いこの時期にこれでは。
……畑もひからびている。

――これは、まずいかもしれん。

その時、少し風が吹いた。
「ん?」

三助は振り返り呆気取られた。そこに居たのは若い男だった。
青い着物を纏って、立派な帯に、太刀を履いている。
つややかな黒髪には金の総飾り……。見た事も無いような美丈夫だった。
が、良く見ると着物が少し破れ。ごく浅い傷を負っている。

「そこな者。その井戸は使えるか?」
男はそう言った。

「へ、へえ」
三助がうろたえて言うと、男は微笑んだ。
「それは良かった。俺が使ってもよいか?水を少し貰いたいのだが」
男は腰に下げた竹筒を外した。それだけで良いらしい。
「へ、へえ、どうぞ」
「すまんな」

男がつるべを落とすと、ガコン、と鳴って、少量の水が汲めた。
するすると縄を引く動作さえ優雅だった。程なくしてつるべは戻った。
男はこぼさないように気を付けながら竹筒に水を注いだ。
その後で井戸をすこしのぞいた。

「ここも、じきに枯れそうだなぁ。探し回ったのだが。他はほとんど枯れているという。この辺りに川は無いのか?」
「はあ、こんな平地じゃ、日照りがいっとうおそがいもんです」
「左様か。まあじきに雨が来るだろう」
「はあ。だといい――」
その時、三助は後ろの茂みに馬がいるのに気が付いた。
黒毛の見た事も無い程、立派な馬だ。こちらは緋色と金色の飾りを付け、鞍も豪華だ。

「こ、これはとんだ無礼を」
三助は慌てて平伏した。これは殿様にちがいない。従者はいないようだが、遠乗りにでも来たのだろうか。

「ははは。俺はそんなえらい物では無い。礼を言うぞ。そうだ――しばらく。俺や共の者がこの辺りをうろつくが、気にしないでくれ」
「は、ははっ」
三助はさらに頭を下げた。やはり共はいるらしい。
そこでふと、気になったことを尋ねた。

「あの、その怪我は」
「ん?ああ。これか?転んでな。何。大した事は無い。急ぐのでな」
「ご、ご無礼を」
「ははは」
男は笑って、馬を引き、立ち去った。

三助は腰を抜かしそうになった。

「こいつはたまげたなぁ……」
今見た者は何だったのだろう。現実だったのだろうか。

■ ■ ■

「鯰尾。持って来たぞ」
三日月は木陰で休む鯰尾に声をかけた。
「……ずいぶんかかりましたね」
座っていた鯰尾はかすれた声で言った。連戦であちこち負傷しているが、重傷では無い。
敵を刈り尽くした後。三日月は水を汲んでくる、と言って結局、半日近く戻って来なかった。
喉は渇くし。心配になるし。鯰尾は待ちくたびれていた。
「はは。すまんな。どこも涸れ井戸でな」
三日月は鯰尾に水筒を渡した。
――竹筒とは別の物だ。
「?ありがとうございます」
水がなくなったので、汲みに行ったのではなかったのか?
鯰尾は不思議に思ったが、受け取って蓋をあけ、喉を潤した。

「どうぞ。三日月さんも」
三日月に渡し、三日月に返す。三日月も喉を湿らす。

「……」
鯰尾はしばらく木々の先を見た。

「――行きましょうか」
「ああ」
そうして、連れだってその場を離れた。

■ ■ ■

それから程なくして、雨が降った。

「やれ、良かったな」
「ええ、本当に」
身重のつれあいとそういう話をした。
つれあいは腹を撫でた。

雨はしばらく続きそうだ。
「これで一安心だなぁ。不思議な事もあるもんだ」
三助は言った。
「お侍さんなら、お天道様のごきげんがわかるんじゃあ?」
つれあいが笑った。
「はは――かもしれないな」
三助も笑った。

■ ■ ■

「一帯を調べたが、今の所、敵の気配は無い」
三日月は審神者に報告をした。

「そうか。さすがに……まだ先の話だからな。このまま警戒を続けよう」
「次はいつ飛ぶ?」
「明日にでも……と言いたい所だが。別の者を使わそう。お前と鯰尾は五日後に」
審神者が言った。
「……あいわかった。では失礼する」
三日月が頷いて頭を下げた。

「――お疲れ様。休むと良い」
審神者が言った。

■ ■ ■

「どうだ。一緒に呑まんか?」

三日月は鯰尾を誘い、縁側で月を見ながら酒を呑む。

「……」
鯰尾は無言で酒をあおる。
「こら、そう急ぐと、酔いが回ってしまう」
「あーそんなの」
鯰尾は溜息を付いた。

鯰尾がうつむく。
「……ここは平和ですね」
「そうだなぁ……」

「三日月さん」
鯰尾が三日月を見る。瞳が揺れている。
三日月は鯰尾が何か言うのを待った。

「……」
鯰尾は口を開きかけて、また閉じてしまった。
「あの村が」
三日月はぽつりと呟く。

「……」
鯰尾は三日月を見ている。

「よもや……、ああなってしまうとは。俺も思わなかった」
三日月は酒杯を見つめた。

「……どうしようもないですよ」
鯰尾は言った。
――三ヶ月後。あの村は無くなる。
――鯰尾と三日月は、先にそれを見てきた。
見てしまった、と言ってもいい。

鯰尾は笑った。
「……でも秀吉のおばあさんが助かれば良いんですから。あとは奴らが入って来ないように、見張ってるだけだし?」
「そうだな。俺達はしばらく休みだ」
三日月は呟く。
鯰尾は俯いた。

「――折角だ。どこかに出かけるか」
「……どこです」
「そうだなぁ。五日もある。ふたりでゆっくり、能でも見るか?」
三日月が言うと、鯰尾が肩を震わせた。
「――っ。いや眠くなりますって」
「そうか?」
「そうですよ……」

鯰尾が口元を押さえる。顔色が悪かった。
「……すみません、飲み過ぎたみたいです」
「吐きそうか」
「いえ……」
「すまなかったなぁ」
「いいえ。大丈夫です」
「忘れるといい」
「……そうですね」

鯰尾は酒を注いで、また少しずつ飲み始めた。

「……飲み過ぎだ」
「そんな事ないですよ……」
「それで終いに」
「そうですね……」
鯰尾は小さくあくびをして、眠そうに目を擦った。

「もう一杯」
「やめておけ」
「もう、いいじゃないですか」
「悪酔いするぞ」
「さそったのは貴方ですし。お酒美味しい」
「……」
三日月は鯰尾を支えた。
「ん……何ですか?」
鯰尾は目をこすった。
「少し奥で休むと良い。後で運んでやろう」
「それも……そうですね」
鯰尾は瞼を閉じた。

■ ■ ■

『三日月、鯰尾。お前達には、ある村へ行ってもらう。そこの三助という男は流行病で死ぬが、その妻は助かる。その妻の子供が秀吉の祖母だ。一応、歴史改変の兆候が無いか見て来て欲しい』
審神者はそう言った。

簡単な任務のはずだった。

炎が、悲鳴が。
助けを求められて、駄目だと分かっていても。
鯰尾は飛び出していた。

鯰尾はそれまで、生々しい人の営みを見た事が無かった。
人間は争う。略奪。殺し合い。
無論知ってはいたのだが――。
敵は斬っても。人を斬った事は無かった。

『……この程度では、歴史は変わらぬ』
三日月はそう言った。
『……でも……!こんなに沢山。この子は?』
『それより、見つかると不味い。しばし身を隠す』

そうして全てが終わった後で、赤子だけ置いて来た。

『此度の事は――敵が仕向けた事のようだ』
審神者が言った。鯰尾はほっとした。
動揺をひた隠し、引き続き任務に就いた。

もちろん、鯰尾のした事は三日月が報告しただろう。
主はどう思うだろうか――?

「ううう、う……」
背後でうめきが聞こえる。三日月は筆をいて様子を見た。
布団に入れたが、夢見は良くないようだ。

三日月は鯰尾の額を撫でた。
鯰尾は、ふっと涙をこぼした。

■ ■ ■

「……美味しい!」
「それは良かった」
甘味を食べた鯰尾が、ようやく笑った。三日月は微笑んだ。

「それにしても、能ってよく分からないですねー」
「ははは。なら、今度は歌舞伎にするか」
「いえ、でも少しは……楽しかったです。色々すみません」
「いいや。して、次はどこへ行く?」
「夕飯はどうします?」
「食べて帰るか?どちらでもよいと言われた」
「三日月さんは、疲れてませんか?」
「この通り。寝ていたからな」
「ですよね」
鯰尾が苦笑した。
久々の非番、三日月に誘われ――街に来て能を見たのだが、三日月は途中で寝ていた。
二人して寝てはいけないと思い、鯰尾は頑張って見た。
終幕には三日月も起きだして、最後は微笑み手を叩いた。

「……三日月さん」
あの任務は未だ終わっていない。
鯰尾はそれが気に掛かって楽しめずにいた。それを申し訳無く思う。

「何だ?」
「……いえ。何でもありません。任務、頑張りましょう」
鯰尾は微笑んだ。

■ ■ ■

それから一月かけて、鯰尾と三日月は任務を終えた。
決して気持ちの良い任務では無かったが、赤子――秀吉の祖母は無事に暮らしている。

三日月の部屋の中で二振は杯を交わす。
しとしとと雨が降っているから、縁側では濡れてしまう。

「……歴史を守るって、大変な事なんですね」
鯰尾が言った。

「そうだな」
三日月が頷く。
「そうだ。三日月さん、聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「大した意味はないのかもしれませんが。二度目のあの時、……どうして水を探しに行ったんですか?調査ですか?」

「……ああ。俺は主から、疫病の原因は水にあると聞いていたからな。……日照りが続き、水を求め、村人達は沼を見つける。そこの水が原因だと……。あの村は敵のせいで野盗に襲われ滅んだが。二度目の調査の時、井戸や畑がどうなっていたかも調べたかったのだ。どの程度歴史を改変されているか。疫病の件も、結果として報告する必要があったからな」
「そうだったんですか」
鯰尾は感心した。三日月が水を汲んでくると言ったのは、その調査も兼ねてだったのだ。あの時の鯰尾は連戦で消耗していて、同行できなかった。

「……知っていれば、行動できた。そういう物なんですね。もっと体力付けないとな。三日月さんも、できれば詳しく教えて下さい」
鯰尾は溜息を付いた。

「ああ。そうだなぁ。そうする。が、知っていても、動けるとはかぎらん……」
「う。……ですね……。すみません、生意気言って」
鯰尾は暗に断られたと思い頭を下げた。
しかし、三日月は首を振った。
「そうではない。俺は――あの時、動けなかった。お主はすぐに止めに入ったというのに。俺は突っ立っていた」

遡行軍にそそのかされた野盗達が群がり、三郎の妻を犯し殺そうとした。
三日月と鯰尾が来た時にはすでに、腕や腹が……。

歴史に無い光景はあまりに衝撃的で。三日月は一瞬、介入をためらった。鯰尾は飛び出し野盗を殺した。
「俺は何が起きているのか。理解出来なかった――情けないことだ」

「……俺の行動も正しかったのか、分かりません。……間違っていたと思います」
鯰尾はうつむいた。主は咎められなかったのだろうか?
咎は無いとこんのすけが言っていたが。詳しい事は何も教えてもらえない。
「そうだな。……だが、赤子は助かった。それが全てだ」
三日月は鯰尾を見つめた。
「……そうですね」
取り上げた赤子は瀕死だった。それでも。助かった。

――歴史は守られた。

三日月はうつむく鯰尾を引き寄せて、袖で包んだ。

「じじいの胸で泣いても良いぞ」
「泣きませんよ。このくらいじゃ」
鯰尾は顔を上げて苦笑した。
「ははは」

三日月は鯰尾を抱きしめていた。

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