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最終更新日:2022年09月21日 23:48

だらだらと語る

非会員にも公開
Twitterは鍵付きな上に色んなジャンルを呟いているので、ゲームとメインカプの話はこちらでだらだら呟けたら。
一応Twitterアカウント→@SiNGUmgmg
  SiNGU
  • 2022年09月21日 23:48
    ※今後の更新について
    ピクログの更新は最低限の記事だけ残して停止します。
    今後の更新はこちら(https://twitter.com/SiNGUmgmg)メインになります
  • 2018年06月16日 17:29  
    カミュ主で参加した(https://pictbland.net/items/detail/523346)ローズフェスティバル2018の薔薇が当たりましたー。

    と言う訳でこちらに掲載。
    カミュ主に合わせてオレンジを選択、花言葉は『信頼』『絆』だそうです
  • 2018年05月21日 04:18
    多分『護りたいもの』設定の女体化ネタのカミュ主。
    護りたいものではあんまり語られてない、旅の最中の二人の距離は多分こんな感じ。

    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。



    「はぁ……」
     イレブンは慣れない格好で町のベンチに座り込んで途方に暮れていた。

     悪魔の子、と不名誉な称号で呼ばれてからどれくらい経ったのだろうか、今のところは名前だけでその容姿こそは殆どの人に知られてはいない、男か女かすら、世界中の全ての人間が知って居る訳ではない、謎に包まれた悪魔の子。……だからか、仲間の一人がこんな事を言い出したのだ。

    『じゃあ、町にいる間は別の格好とかどう? 悪魔の子と呼ばれる勇者がその辺で歩いているような町娘なんて誰も思わないわ!』

     シルビアがそんな事を言い出して、マルティナはそれは名案だと納得し、セーニャは賛同した上で目を輝かせて、……ベロニカは最初こそはセーニャと同じようにいいじゃないと賛同してくれたものの自分の意見が支持されて上機嫌なシルビアと目を輝かせたセーニャ、そして真面目に妹を心配するマルティナの三人に取り囲まれた姿を見て、『頑張ってね』とやや同情した視線でされるがままのイレブンを最終的に見守るのみだった。
     そうして、イレブンはシンプルな長袖の足首まで丈のあるワンピースを着せられ、頭は腰までの長髪の赤毛のウィッグを被らされ、控えめながらもメイクをしっかりされた状態という姿だった。
     自分を思っての好意なので抵抗はしなかったが、正直思ったのは、半分は本気で、半分は遊ばれていたような気がするのは気のせいではないだろう、慣れない格好もあって少し疲れたように溜め息を吐いた。
    (……でも、正直悪くないかな、この格好)
     ヒラヒラと裾を持って揺らす、長い間肌が隠れる服しか着てなかったので流石にいきなり肌を晒すのには抵抗があって、長袖の丈のあるワンピースこそは譲らなかったが、イレブン自身、スカート自体には抵抗は無かった、むしろ興味は以前からあった。しかし昔着せられた時に動きづらい印象があって、村の中を生活するにはズボンの方が楽だったし、旅に出る際も母に紫のロングベストを着せられた時なんてお爺ちゃんのよ、なんて言われなかったらあちこち動き回るのにヒラヒラしているのは嫌だ、と着ていくことは無かったのかもしれない。だから、戦いとは無縁の町中で着られるのはほんの少し嬉しかったし、充分に楽しめた。
    (そろそろ帰ろうかな……)
     そんな事を考えつつも、帰路につくために傍らに置いていた紙袋を抱え、ベンチから立ち上がる。着替えさせられた時に「どうせなら買い物でも行ってきたら?」と勧められて道具屋まで買い物まで行った帰りで、あまり遅くなって仲間達が心配する前に、と部屋を取っている宿へと向かう。

     その途中、建物に挟まれた階段があった。足首まで丈のあるスカートでは引き摺ってしまうと紙袋を持っていない片手でスカートを持ち上げる、しかし慣れないスカートでは扱いも甘かった。
    「あっ……!」
     裾を充分に持ち上げきっていなかったようで、裾を踏んでしまい、身体のバランスを崩す、普段の戦いで瞬発的な判断が養われていたお陰かこのままでは階段から落ちてしまうと気付き、イレブンは咄嗟に壁に両手を付いて寄りかかれば、その場に崩れて座り込むに留まる。しかし身を守ることを優先したせいか、持っていた紙袋は手元から離れて、そのまま階下まで転がり落ちる、中身は薬草系ばかりで割れる物は入っていなかったのは幸いだが、一歩間違えれば自分自身もあの紙袋のように階段から落ちていたかもしれないと思うと冷や汗が全身を流れ、心臓は強く鼓動を打ち、すぐに立ち上がって落ちた紙袋を拾いに行く気が起きなかった。
     周囲には誰もいなかったのは幸いか、落ち着いたらゆっくり立って拾いに行こう、なんて考えていると。
    「おい、あんた、大丈夫か?」
     背後から突然声を掛けられる、まさか誰かに見られていたのかと慌てて振り返るとそこには、イレブンがよく知る相手がそこに立っていた。
    (……カミュ!?)
     そこには自身の相棒、町にいる時は個々が自由行動ではあるがまさかこんな場所で出会うなんて、自身の格好もあってすぐに逃げ出したい気分ではあるが、ふと落としてしまったままの紙袋へ視線をやると、カミュはそれに気付いて。
    「いい、無理すんな、俺が拾いに行く」
     すぐに立ち上がれないイレブンを気遣って、カミュは足早に階下まで降りると、落ちた紙袋を拾って、付いた砂埃を払いながら、イレブンが座り込んでいる場所まで再び登る。
    「ったく、驚いたよ、あんたがいきなり視界から消えるの見た時は」
     そう言いながら紙袋を渡すカミュに違和感を覚える。
    (まさか……気付いて……ない?)
     どうやらカミュは話している相手がイレブンだと全く気付いていないようで、たまたま階段を落ちそうになった町娘を見掛けたぐらいの気持ちで声を掛けてきたらしい。
    「あ、ありがとう、ございます」
    (……たしかにウィッグ着けて化粧してもらった顔を鏡で見た時、僕も別人かと思った程だし……そりゃ気付かないか)
     しかしそうなってくると、逆にカミュに正体を知られたくないとイレブンは思っていた。こんな格好をしているなんて、何を言われるか分かったもんじゃない、男っぽい格好しか知らないカミュからすればこんな格好なんて似合わないと言われるかもしれない。
     なるべく顔を見ないようにイレブンは紙袋を受け取ろうとした、するとその直後、紙袋は引っ込められて目の前に手を差し伸べられて。
    「立てるか? 手を貸せ」
     ……この場合、大丈夫です! と言ってさっさと立ち上がって逃げ出すのが正解なのは分かっている、しかし慣れないスカートでそんなに素早く動ける自身もないし、ここで慌ててしまったら再び裾を踏みかねない気がして。
    「……すみません」
     渋々ながらも頼るしか無く、その手を素直に取るしか無かった。
     カミュの手に支えられてそのまま立ち上がり、すぐ手を離そうとしたが、カミュの手はしっかりイレブンの手を握っていて。
    「あ、あの、……」
    「遠慮すんな、また視界から消えても困るし、下に降りるまで手を持っててやる」
     荷物を手渡すのを止めたのはスカートを持つ為かと、イレブンはすぐに空いている方で裾を、今度はしっかりと持つ。そしてもう片方はカミュに取られたまま、誘導するように一歩ずつ階段を降りていく。
    (なんか……お姫様みたい……)
     そう思ったのは丈の長いスカートと、カミュがいわゆるイケメンとよく女性に騒がれる容姿のせいか、まるでエスコートされているようで。緊張してしまっているのか普段ならカミュと居て何とも思わないのに、やけに心臓の鼓動がバクバクと体内でうるさかった。
     ――しかし同時に、何故か胸がチクリと痛む、カミュが優しいのは他でもないイレブンがよく知っている、だから困っているなら自分以外の――女性ならば誰でもこうしてしまうのか、と。
    (い、いや、何考えてんの、僕!)
     自分とカミュは相棒という関係なんだし、他人の恋愛に口挟むなんて、とイレブンは我に返る。
    「……ほら、着いたぞ、ところで――」
     そうこうしている内に、階段下まで着く、カミュが最後まで丁寧に手を下ろしてそのまま離せば、イレブンは何か言いかけているカミュに構わず降りている間に小脇に抱えてくれた荷物の紙袋を引ったくるように持つ。
    「も、もう大丈夫です! ありがとうございました!」
     階段さえ降りてしまえば、多少動きづらくても何とかなる、正体がバレる前にとイレブンはカミュにお礼だけ告げて、その場から走り去った。
     




    「……何やってんだ、あいつ」
     訝しい表情で、カミュから見れば謎の女性が走り去った方向を見つめる。
    (頭隠してなんとやら、ってやつだな……)
     カミュは女性の正体に気付いていた、たまたま通りかかったこの場所で、女性が階段を降りようとしていた後ろ姿を見掛けて、よくある光景だとすぐに視線を戻そうとした矢先に、カミュの視界から女性が消えてしまったのだから、落ちたのかと慌てて駆け寄った。
     幸いにも女性は、階段に座り込む形で踏み止まっていた事に安堵したものの、目撃した以上は放っておくわけにもいかず、仕方なく声を掛け無傷なのを確認し、落とした荷物を拾って立ち去ろうと思ったのだが、荷物を受け取ろうとした女性の左手の甲に見慣れた痣が目に入って、ようやくその女性がイレブンだという事に気付いた。……だからこそ、まずは階段から降ろす為にその手を取って一緒に階段を降りて、『何でそんな格好をしてるんだ、イレブン』と訊きかけた所で逃げられてしまった。
    「……もうちょっとじっくり見たかったんだけどな」
     イレブンと気付いてもウィッグを被っていたせいか一瞬誰か分からない程、着飾られていたその姿、カミュの正直な感想を言えばむしろウィッグなんか不要だと思えるほど、イレブンは綺麗だった。
     どうしてそんな格好をしているのか、というのは最大の疑問ではあるが、大方、オトメ辺りが余計なことを言い出して、そんな格好をさせられたのは想像がつくものの、あそこまで露骨に逃げられると、そんなにあの格好は嫌だったのかと思ってしまって。
    (……似合ってるからまた着て欲しいなんて言ったら、嫌がるだろうな……)

     そして様子から、イレブンはカミュが気付いていた事は知らないだろうと察して、下手に触れない方がいいな、とカミュはイレブンの今後を思って心の中に留めておくことにした。


     ――お互いにそうして勘違いを抱えたまま、旅はまだまだ続く。

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  • 2018年05月07日 05:16

    『護りたいもの:番外編1~月光シンフォニア』
    セーニャ視点
    女体化ネタでセニャ→主要素ありの為、ピクブラ規約に引っかかる恐れがあるため、本文はこちらにて掲載。
    長いため、分割しています、こちらは2/2
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。







     それから翌日の午後、無事にイレブンを保護し、後から合流したマルティナの案でデルカダールで身柄を預かる事になったものの、イレブン本人が体調を崩した事もあって、一度仲間達は解散という形となって、セーニャはベロニカと城を後にした時の事だった。
     ベロニカが疲れた様子を見せたので、てっきり真っ直ぐラムダへ帰るのかと思いきやベロニカはルーラを唱える前にセーニャにこう言い出した。
    「ね、セーニャ、せっかくだし久々に一緒にどっか行きましょ、たまにはパーッと遊びたいわ」
     疲れていたのでは。姉を心配してそう言ったが、ベロニカはそれとこれとは別、と言い出して、妹の返事を待たずにルーラを唱えた。

     移動した先はダーハルーネだった、港があって物流の中心地であるその町はいつ来てもお祭りのように人が溢れかえっており、城下町とは違った活気があった。
     何故ベロニカがここを選んだのか疑問を抱くが、それは口にする前に本人が答えた。
    「あたしだって欲しいものいっぱいあるのに、あんただけダーハルーネで買い物なんてズルいじゃない、今日は付き合ってもらうからね!」
     それはイレブンの世話をしていた時に何度かダーハルーネでお使いしていた事を指しているようで、ズルいと言われてセーニャは思わず苦笑いを浮かべてしまう、しかし久々に姉と一緒にこうして何気ないことで出掛けるのがどこか嬉しいのは気のせいではなく。
     ほら、行くわよ。と先を歩くベロニカに、人混みのせいで置いて行かれないようにセーニャは後をすぐに追う。

     欲しいものがいっぱいあるというベロニカの言葉は本当だったようで、彼女自身の財布の中身が許す限り、ベロニカは色んなものを買っていた。普段はそこまで散財しないはずだが、久々の私用の買い物でついつい羽目を外しているようで、付き合っているセーニャはいつの間にか荷物持ちになってしまっていた。
     粗方の買い物をした後、町中を見て回る。その中で、ふとセーニャはある出店の前で足を止めた。
    「何、どうしたの?」
     突然足を止めた妹に、先を歩いていたベロニカもすぐに気付いて足を止めセーニャへ近付く、並んでいる品物を覗くと、そこは女性が好みそうな様々なアクセサリーが並んでいる店だった。
    「あら、綺麗じゃない」
     主に細かいアンティーク調の銀色の装飾でワンポイントとして小さめの綺麗な石が控えめに使われており、それらのデザインでペンダントやイヤリング、髪留めなどの一通りのアクセサリーが揃っていた。確かに控えめなセーニャが好みそうなデザインだと納得していると。
    「おや、お嬢ちゃん、また来たのかい、いらっしゃい」
     その時、店主らしき老齢に近い女性がセーニャに気付いて声を掛けてきた、セーニャは声を掛けられるとは思っていなかったようで、こんにちは、とお辞儀をすると、女性はニコニコと笑って。
    「この間のプレゼントはどうだった? お友達は喜んでくれたかい?」
    「……ええ、ありがとう、と笑顔で受け取ってくださいました」
     どうやらセーニャは以前この店で何かを買って、店主はそれを覚えていたようだ。そこからしばらく話し込む二人を尻目に、ベロニカも品揃えを眺める、しかしふとその中で髪留めが目に入ると、どこかで見たデザインだと既視感を覚えた。
    (これ、確か……)
    「お姉様」
    「ん?」
    「お姉様に似合うかと思って……受け取ってくださいまし」
     どうやら、セーニャは店主と話している内に再び購入したらしく、それは更にベロニカへのプレゼントだったようで、セーニャは小さな赤の石が散りばめられた髪飾りらしきアクセサリーを差し出す。
    「……いいの?」
    「ええ、今回は散々迷惑掛けてしまいましたし、そのお詫びも兼ねて」
    「そこまで気を遣わなくていいのに……ま、いいわ、受け取ってあげる」
     お詫び、と言われてしまっては少し遠慮してしまいそうだったが、自分に似合うと言われて渡されれば妹からの好意には変わらないので素直に受け取る事にする。そして代わりに今度はベロニカが店主へ声を掛ける、店主がはい、と応えれば、ベロニカは受け取った髪飾りの石の部分の色違いを指差して、くださいな、と告げる。
    「お揃いなんて何年振りかしらね」
     そうセーニャに言いながら、支払いを済ませれば、ベロニカは小さな緑の石が散りばめられた貰った物と同じデザインの髪飾りをセーニャに差し出す。
    「え?」
    「まさかあたしからのプレゼントが受け取れない?」
     少し意地悪い表情で言えば、とんでもない、とセーニャは慌てて受け取る、まさか姉からお揃いという形でプレゼントされるなんて思いもよらなかったのか、困惑しつつも少し嬉しそうな笑みを浮かべていた。
     そんなセーニャの反応に満足していると、店主はそんな姉妹のやり取りが微笑ましく思ったのか良かったら、と試着用で使っていると思われる顔を写すくらいの小さな鏡台を出して、着けていったらと促して、二人はお言葉に甘えて着けていく事にする。
     最初にベロニカが鏡と向き合って、髪飾りの位置を確認しつつ着ける、しかし若干残念そうに零した。
    「うーん、これ、ちょっと上品すぎるから三つ編みだと似合わないわね、あたしもたまにはセーニャみたいに髪を下ろしてみようかしら」
     妹が選んでくれた、というのもあってか尚更残念な気持ちにさせる、今は出掛け先でそんな暇も無いのでとりあえずは妥協して一先ずは装着する。
     しかしセーニャは似合いますわ、と変わらず笑顔で髪飾りを着けたベロニカを見て喜んでいる姿にほんの少しだけ照れくさくなりつつも、次はセーニャだと鏡台の前を譲る、セーニャはお揃いと言うこともあってかベロニカと同じ場所に装着しようと髪飾りを持った手を上げた時、ベロニカはセーニャの手の甲に異変が起きていることに初めて気が付いた。
    「あんた、どうしたのその手!?」
     セーニャの手の甲より少し下、少しだけ袖に隠れるように青紫の痛々しい痣が大きく在った。
    「……え? あ……」
    「見せなさい!」
     セーニャはベロニカに指摘され、髪飾りを着けるのを止めて自身の手の甲を見る、ベロニカはその手を少し引っ張るように取った。
    「……まさか、カミュと戦った時の……こんなに痣になって……どうして言わなかったのよ!」
     そんな場所に痣が出来る可能性はどこかにぶつける位しかないがベロニカは真っ先にカミュと戦った時に出来た物だと気が付く。あの時、セーニャから槍を離すためにカミュはその手の甲を強く叩いていた、手加減はしていただろうが武器の柄で男の力で当てられれば、かなりの衝撃がセーニャに掛かって、幸い痣で済んでいるようだが、骨まで行ってもおかしくはない程の痛みだった筈だ。
    「いえ、ずっとイレブン様の事に気を取られてて……少し痛いとは思ってましたけども……」
    「全く! 相変わらず鈍臭いんだから!」
     手の甲という分かりやすい箇所にも関わらず、どうやらセーニャは指摘されるまで全く気付いてなかったようで、相変わらず抜けている部分のある妹にベロニカは深く溜め息を吐くと、店主にごめんなさい! と謝りつつも落ち着いた場所へ連れて行く為にセーニャと共にその場を急いで後にした。


     向かった先は宿屋だった。元々パーッと遊ぶと宣言したのもあって一泊する予定だったつもりで、それを少し早めた。部屋を取ってすぐに入れば買い物の荷物をそこそこにベロニカは部屋の椅子にセーニャを座らせ、袖を捲り手の甲を改めて診る。
    「……駄目ね、少し放置しちゃったから自然治癒に任せるしかないわ」
     もしも本当に骨まで響いていたり、分かりやすい切り傷などは回復魔法や治癒術で治せるが、ただの打ち身の痣は身体本来の治癒能力が働いているのもあってか、魔法でも痛みこそは引いても、痕は数日残ってしまう。医療の知識の無いベロニカもそれは理解しており、深く溜め息を吐いた。
    「まったく、アイツ! あたしの妹に傷つけるなんて! 次会った時には文句言ってやるわ!」
    「……いいんです、お姉様。 私もカミュ様を傷つけてしまいましたし、これくらいは……」
     むしろセーニャからすれば自らの行いに報いを受けた物だと感じており、痕の付いた甲を庇うように手を重ねるセーニャの姿に、ベロニカは何度目か分からない溜め息を吐きつつも、セーニャの向かい側にテーブルを挟んで座り込む、しばらくその状態で沈黙が続いていたが、しばらくして徐ろにベロニカが口を開いた
    「……ね、セーニャ」
    「……はい?」
    「あんた、イレブンの事、好きなの?」
     突然のベロニカの言葉に、セーニャを目を見開いて驚いて顔を上げて、え、と動揺する。イレブンに対する感情は昨日シルビアに見破られたくらいしかなく、姉とはいえベロニカには明かした事は無かった、何故知られているのかと少し顔を赤らめて困惑するしかない。
     目で見て明らかに分かりやすい反応に、何故かベロニカは面白く思えて、小さく吹き出しそうになったが、口を片手で軽く抑えてギリギリで踏み止まりつつ。
    「イレブンの髪留め、あれ、あんたがあの店で買ってあげたものよね?」
     先ほどの店で既視感があった髪留め、ベロニカはどこで見たのか思い出していた、それは髪が長くなって纏めるようになったイレブンの髪留めと似ていた。そして先ほどの店主との会話を思い出せば、セーニャは誰かに何かをプレゼントしており、それらから考えれば違和感なく繋がる。
    「……そ、そうです……、イレブン様に似合うかと思って……でも、イレブン様は遠慮して受け取ってくれないと思って、私のお下がりの服と一緒に渡したんです……」
     あっさり認めたセーニャが言うには、最初の頃のお使いでたまたま見つけたそれを気に入り、イレブンにプレゼントしたくて買ったのはいいが、何も無いのに渡すのは遠慮して受け取って貰えないと思い、渡す機会を失っていた。――そんな矢先、イレブンは伸び始めた自身の髪を切ってしまおうか悩んでいて、セーニャはその綺麗な髪を切るのは勿体ない、と必死に止めた。
     その頃、イレブンの腹部は服の上からでも分かるほど膨らんでおり、セーニャがお下がりで良ければ、と妊娠中でも過ごしやすいワンピースや産後の授乳でも困らない前開きのチュニックを譲る話が出ていて、セーニャはそれらと一緒にお下がりとして髪留めをイレブンに渡したらしい。
    「……回りくどすぎない? それ」
    「それが私の精一杯だったんで……」
     先ほどの笑いそうだった様子とは打って変わって、今度は呆れ気味に、セーニャの話を聞き入れる。……確かにイレブンもセーニャに頼っているという後ろめたさは抱えていたに違いない状況で、素直に受け取るか分からないのも理解は出来る。
    「……あんたよくそんなんで、イレブンを護るなんて言えたものね……」
     とは言っても、姉としてセーニャがこうした恋愛事には奥手なのも理解しているのでそれ以上野暮な事は突っ込まないようにする、そして一方で、セーニャはどうして? とベロニカにイレブンへの恋心が知られてしまったのかと不思議そうに見つめていて。
    「あのねぇ、あんたとどれだけ一緒にいると思ってるのよ、そのくらいのこと、このベロニカ様にはお見通しよ」
     実はベロニカもここまで言っておいて、イレブンに対してここまで尽くすセーニャに疑問を持っていた程度でその気持ちをはっきり確認するまでは半信半疑だった。だがこうして妹の恋心を知って姉としては応援したいが――
    「……ねぇ、セーニャ、これからあんたはどうしたい?」
     その上であえて問う、本当にこのままでいいのか、と。ただでさえカミュ相手でも恋愛感情を抱く素振りを見せなかった彼女のことだ、セーニャの気持ちにも気付いていないだろう。
    「赤ちゃんの出自が分からなくても、あのカミュが黙ったままでいるわけがない、だからきっとあの二人は一緒になると思う、あんたはそれでいいの?」
     今ならまだ間に合うかもしれない、セーニャにこれからもイレブンを支えるつもりがあるのならば、少し勇気を出せばその想いは成就するかもしれない、だからセーニャの今の気持ちを改めて確認する。するとセーニャは胸に両手を当てて目を閉ざす。

    「……私は、イレブン様が望むように。……イレブン様が幸せに笑ってくだされば良いんです、だから私はあの時――」
     
    『――カミュ様がそのつもりでしたら、私がイレブン様を貰い受けます、たとえ、貴方と戦うような事になっても……!』

     ふとその時セーニャの脳内を過ったのは、覚えの無い記憶だった。しかし知っている、自分は確かにカミュにそう告げた事を。そしてカミュはようやく自分の本心を認めて、そしてその後に通りかかった彼女の手を強引に取って――
    「……もう気持ちの整理は付いてますから」
     昨日シルビアに諭された事もあってかやけに落ち着いた様子で静かにポツリと。

     何があったのかベロニカには分からない、しかしその雰囲気から既に妹が失恋していることを察して。
    「……要領悪いとこも昔から変わらないわね、あんた」
     厳しい言葉ではあったが、表情はどこか柔らかいのはセーニャを心配してだろう。
     ベロニカは座り込んでいた椅子から降りると、そのまま椅子を持ってセーニャの隣へ移動して、セーニャに背中を預けるように座り直す。
    「……お姉様?」
     いきなりどうしたのかとベロニカの行動の意図が分からず、セーニャは首を傾げる。ベロニカは背を預けたまま、セーニャを見ないまま少し控えめな声で告げた。
    「……あたしね、自分がどこか遠くに行ってしまうんじゃないか、って不安に襲われる時期があ
    ったわ。……どうしてなのか分からない、でも、そうしたらあんたは……セーニャはどうなっちゃうんだろうって思ったの。だからあんたと距離置いたんだけども……」
     それは初めてセーニャに語る、ここしばらく突き放して一人にしていた理由。
    「……駄目ね、結局あんたがそうして落ち込んでいるところをみちゃうとさ」
     ずっとベロニカはそうした方がセーニャの為なのだと信じていた、生まれた時から一緒に居る双子の姉妹とはいえ、いつかは離れてしまう、その日をキチンとお互いが受け入れられるように、そうすることが正しいのだと。
     しかし今回の一連の騒動で、やり方が強引すぎたのだとベロニカは感じていた、セーニャを独りにして傷つけたかった訳ではなかった。
    「仕方ない、以前のようにまた一緒に過ごしましょ」
    「……え?」
    「だ・か・ら、もう少し一緒に居てあげるって言ってんの、やっぱりあんた心配で目が離せないわ」
     それは元々大好きな姉と一緒に居ることが好きだったセーニャにとって願ってもないことで、照れ混じりにベロニカが告げれば、セーニャはすぐに嬉々とはい、と返事して。
     その提案は失恋したセーニャをベロニカなりに慰めているのも兼ねているのだろう、相変わらずセーニャの方を見ることは無かったが、「今度はどこに行きたい?」と今日のようにまたどこかへ一緒に遊びに行く計画を、二人はしばらく話し合っていた。








    「……でも、ありがとね、世界と、あたしの為にこの未来に来てくれて」
     それから数週間後、色々話し合った末にイシの村に戻ったイレブンに呼ばれて、ベロニカとセーニャは村へ訪れていた。話したいことがあると言われて、イレブンから告げられた事は端から聞けばにわかには信じられない事実だった、時を渡った、という事は既に聞かされていたがその理由が異なる未来で命を落としたベロニカの為だと言うことを。
     そして、セーニャは前にベロニカが語っていた理由も無い不安を抱いていた訳にようやく思い至る、それはベロニカも同様だったのだろう、むしろようやくその漠然とした気持ちの正体を捉える事が出来たお陰か、いつもの調子でイレブンに気にするなと告げつつも、自分の為に今この瞬間に来てくれたイレブンを抱き締めてお礼を告げた。
     ……そんな光景に、セーニャはゆっくり立ち上がる。セーニャも時を渡ったと告げられた時から、また、理解していた、あの覚えの無い記憶の意味を、そこでどうしてカミュと自分が彼女を巡って言い争っていたのかを。
    「イレブン様」
     優しく声を掛けると、イレブンが顔を上げ、目と目が合う。何気ないその仕草、けれども、セーニャは深い深い心底で改めて感じていた。
     ――ああ、自分は彼女を本当に護りたかったのだ、と
    「ごめん、セーニャには一番面倒みて貰ったのに、何もかも言わなくて、ずっと黙ったままで」
    「いいえ、私はイレブン様の傍に居られて幸せでした、だから気にしないで下さい」
     全ては覚えていない、けれども忘れてない、もしもあの時『彼』が時を渡る彼女を引き留めようとしていたら、自分は彼女の意思を尊重していただろう、時を渡る覚悟を秘めた彼女の阻むならば、と。
     しかしその中で彼の本心を知って、自分はやはり彼に敵わないことを、自分は出る幕がないのだと悟った、だから代わりに誓った。
     彼女が笑ってくれるなら、幸せでいてくれるなら、自分はそれを護ろうと、時を渡ってもきっと、必ず――
     記憶が無くとも自分はこうして彼女を護ることが出来たのだと。
     それを実感するようにセーニャはイレブンの手を包むように優しく取る。
    「……どうか幸せに、なってくださいね」

     さようなら、愛し人

     その言葉は永遠に届かない、けれども、それでいい。
     最初はお姫様に憧れていたはずなのに、いつからだろう、そのお姫様を護る騎士に憧れるようになったのは。
     それは貴女に恋したから、だから自分はお姫様を護る騎士になれたのだから。

     その直後、イレブンはこれからも宜しくね、と告げ、セーニャは勿論です。と返す。
     きっとこれからも二人の関係はこうして続いていく、それは親友という間柄として。

     その後、ベロニカが密かに訪れていたカミュの存在に気が付いて、少し場が騒がしかった。二人がじゃれ合うように言い合っていたが、その中でベロニカの言葉が容赦ないのは恐らくセーニャの手の甲の痣の件も含まれているのは姉妹しか分からない秘密だろう。
     ベロニカの気が済んだところでここから先はイレブンと二人きりにした方がいいとベロニカが判断して、お暇しようとした矢先、イレブンに止められてしまった。どうやら赤子の命名をカミュが戻って来た時にと決めていたようで、良ければ二人にも立ち会って欲しいとの事だった。
    「……そういう事なら、あたしは構わないけども……セーニャ、大丈夫?」
     ベロニカは二人と一緒に居て辛くないか、と聞きたいのだろう、セーニャの様子を窺うその表情は少し暗い。しかしセーニャは微笑む。
     それに赤子の名前は確かに産まれる前から面倒を看ていたセーニャにとっては、我が子のように気になっていた事だ、ここで帰ってしまうのは勿体ない。
    「……ええ、私は大丈夫です、心配なさらないでください、お姉様」

     未練や迷いはセーニャにはすでに無かった、何故なら、自分はイレブンの掛け替えのない親友なのだから。

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  • 2018年05月07日 05:15
    『護りたいもの:番外編1~月光シンフォニア』
    セーニャ視点
    女体化ネタでセニャ→主要素ありの為、ピクブラ規約に引っかかる恐れがあるため、本文はこちらにて掲載。
    長いため、分割しています、こちらは1/2

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    『カミュ様、お話があります』

     これは、誰の記憶なのか

     ――他でも無い、わたくし自身の記憶

     けれども、知らない記憶

    『その勇者の剣を、私に渡してください』


       【月光シンフォニア】



     それはいつからだったのでしょう、貴女に、恋い焦がれるようになったのは。
     初めて会った時、眠っていた私を心配そうに覗き込んだ貴女を見て思ったのは『綺麗』でした。まるで眠り姫を起こしてくれた王子様のようだと思っていたのも今なら認めます。
     性別を感じさせないその外見は、一目惚れ……だったのだと今なら思います。

     その後、貴女が私達が探し求めていた勇者様であることを知った時は胸が躍りました。
     中性的な見た目ではありましたが、女性と知っても不思議と驚きはしませんでした、それどころか嬉しい、とすら感じました、それは幼い頃に読んだ憧れの女性騎士の物語のような凜々しさを持っていて、ああ、理想通りの素敵な方で良かった、と感じました。
     それに同性ならば貴女の傍にいくら居ても大丈夫と思ったからです。
     けれども、貴女には既にその背中を預ける事の出来る方がおりました、話を聞けば旅に出た先で知り合った元盗賊で、縁あって勇者様の旅に同行しているのだと。
     盗賊、と聞いた時は少しだけ恐ろしさを感じましたが、勇者様と旅してからは魔物相手にしか盗みをしていないこと、そして人柄が盗賊とは感じられないほど誠実な方で、戦いにおいても器用に前線に出て、私達と出会うまで色々あったらしく勇者様はすっかりその方に信頼を寄せていました。

     私にはお姉様よりも秀でた唯一の才能がありました、それは癒やしの力。
     普段は恥ずかしがって褒めてくれることの少ないお姉様も、それだけは何度も何度も褒めてくださって、それが嬉しくて癒やしの力を活用するために医術も勉強しました、それはいつか訪れる勇者様を護る使命の為に、癒やしの力で全てを護れると信じていたのです。

    『これから先、どんな旅になるか分からないし、そうなるとセーニャの呪文は必要不可欠だし、僕がセーニャを守ってあげた方がいいかな?』
     しかしそんな考えは勇者様本人のお言葉によって覆される事になりました、勇者様は私の癒やしの力を知れば勿体ないくらいのお言葉と共に期待を掛けていただいたものの、その力を発揮するために私を守ると申し出たのです。
     確かにこの癒やしの力は誰にも負けないように日々力を高めていました、ですが、それだけでは勇者様を護れないという事に気付いてしまいました。
     しかし私には癒やしの力以外に自信を持って発揮できる力など持っていませんでした。
     ――ふと、頭を過ったのは、魔物との戦いの最中、勇者様の背を護るように立つ彼の姿。
     自分もその背に庇われるのではなく、その背を護るようにできれば――
     そんな想いから、多少習っていた事もあった槍を手にする決意を固めました。
     羨ましかったのです、自分もあんな風に勇者様を……いえ、彼女を護れたら、と。
     昔は騎士に護られるお姫様に憧れる事もありました、けれどもいつしか自分がかつての物語の女性騎士のようにお姫様を護れるように憧れてたのかもしれません。

     長い、本当に長い旅路でした。
     悪魔の子と呼ばれた勇者様は魔物だけでなく、人からも追われる身、困難はいくつもありました、しかし皆様や私自身も勇者様の為に精一杯持つ力を惜しむことなく発揮して乗り越えました。そんな中でいつしか私と勇者様は何気ない会話でも笑いながら交わすような仲になり、彼のように自分も彼女に近付けたような気がしたのです、けれどもそれは、私の思い違いだったという事を思い知らされるのです。

     一度だけ、問いかけた事があります、『私のことはどう思っていますか?』と
     貴女は迷いなく笑顔で答えました、『大事な仲間で、友達で、大切な人だよ』と
     そしてもう一つ問いました、『カミュ様の事はどう思っていらっしゃるのですか?』と
     貴女は少し悩みながら答えました、『大事な仲間で……相棒なんだけども、なんだろう、大切な人、なのかな?』
     その答えを聞いた時、私は悲しくなりました、私のことは悩みながら答えてもくれない、友情すら越えることの出来ない仲でしかないのだと。

     でも認めてはいました、自分は彼のようになれない、彼のように彼女の隣に立てない。
     そんな想いは日々募っていきました、醜い嫉妬だというのは理解していました、だからこそ内に内にと仕舞い込み、友情でもと少しでも貴女の傍に居ることを望みました。

     ――だから、その日が訪れた時は、私にとって人生で最大の幸運で、そして最大の罪でした。
     それは邪神を倒した後、貴女に対する恋心をそっと秘めつつも平和になった世界で、ラムダで、貴女に再会したのは。
     再会した貴女の姿は一部だけ以前と異なっていて、それは胎内に命を宿していた姿でした。
     驚いたのは確かです、何故なら、私の知る『彼』と貴女は突然そんな関係を持つとは思わなかったから、だから訊いたのです、相手は誰なのかと。
     彼女は自覚はなくても彼を裏切るような事はしない、だって自分は彼女のそんな実直な部分も好きなのだから。
     彼女は辛そうな顔をして「それだけは言えない」と答えた時、察しました、事実はどうであれ、誰にも告げられないその命を彼女は隠そうとして遙々ここまで身一つでやってきたのだと。
     しかし同時に悪魔が私に囁きました、仕舞い込んだ筈の醜い嫉妬がドロドロと溢れ出てきたのです。
     これはチャンスなのだと、彼から彼女を横取り出来るのではないかと、それも、彼だけではなく世界から永遠に彼女を独り占め出来る事も――
     そんな悪魔に魅了された私は平然と告げるのです、『イレブン様も、そのお腹の子も、私が護ります』と。

     自分の欲の為だけにそう告げたことに対して罪悪感はもちろんありました、しかし旅の時はあまり人に頼ることのなかった彼女が私を信頼して甘えてくれるだけ私の心は満たされ、悪魔が囁いたように永遠にこの時間が続けばと願ったことも否定しません。
     その後ろめたさを悟られないように私は彼女に何でも尽くしました、独り占めにして軟禁するような真似をした私なりの償いのつもりでした、身重の彼女の為に医術の知識は余すことなくつぎ込み、分からないことは調べて、彼女がこうしたいと言えば彼女の願いに沿う形で何でも従いました、結界を張ったのも、彼女の代わりにお使いであちこち行ったのも。

     ――しかし私が尽くせば尽くすほど、彼女の表情はどこか晴れなかったのも気付いていました。
     それは抱えていた命や秘密に対して、ということや、無条件に私が何でもしてくれることに対して遠慮しているという事もあったのでしょう、しかし一緒に過ごしていて感じたのはきっと彼女は無意識に傍にいる相手が私ではなく『彼』だったら、と思っていたのだと思います。
     そう思ったからこそ、醜い嫉妬は残り続けていました。
     どうして、私が傍にいるのに、どうして。
     私ではやはり『彼』には敵わない、『彼』の代わりにはなれないのだと、何度でも思い知らされたような気がしたからです。

     彼女が失踪したと皆様に知られた時、きっと『彼』は彼女を探すのでしょう、私にはそれが恐ろしかったのです、見つかれば彼女はきっと『彼』の元に行ってしまう、――彼女が奪われてしまう。
     だから、ラムダでカミュ様に見つかった時、私は逃げたのかもしれません。お姉様が知らせを受けて慌ててイシの村に行ったように皆様がイレブン様を心配して必死に探していたのは理解していました、私が皆様や彼の立場ならそうしていたでしょうから。
     でも、私は最後まで悪あがきをしてしまいました、私の傍でようやく独り占め出来た彼女を彼に渡したくないと、嫉妬が渦巻いていたからです、彼女を護るなんてそれらしい言葉を並べて、彼女を渡したくなかった。
     そしてそうすることで初めてかつての『彼』のように彼女を護っているのだと思い上がってしまったのも事実で、私が彼女の騎士になれたような気がしたのです、何も知らない『彼』には絶対出来ない、何もかもを知る私しか彼女を護れないのだと。

     ――イレブン様、貴女の為ならば、わたくしは――

    「……それが、私の懺悔の全てです」
     セーニャが祈るように手を重ねたまま、最後にそう告げると、全てを聞いていたシルビアはすぐには掛ける言葉が見つからなかったのか、沈痛な面持ちで、そう、と一言だけ呟いた。
     そこは始祖の森の祭壇近くのキャンプ、セーニャとシルビアはカミュをイレブンが居る大樹へ送り出した後、二人で待機している最中、シルビアが突然セーニャにイレブンをどう思っているのか切り出したのだ。
     ……シルビアだけはオトメの勘というモノなのか唯一気付いていた、セーニャがイレブンの傍にいたのはただかつての旅の仲間や護るという使命がある勇者様という感情だけでは無いと、しかしデリケートな話だとベロニカやカミュがいる前では下手に訊けず、カミュとセーニャで始祖の森の祭壇に向かうという話が出た時に、純粋に残るセーニャが心配だったのもあって、ちょうどいいタイミングだとシルビアは同行を申し出て、カミュを送り出した後はこうして今に至り、語られたのはセーニャの懺悔という名の独白だった。
     彼女の抱えていた想いは根深く、それを受けたシルビアが一度黙ってしまったせいなのか、セーニャは申し訳なさそうに口を開く。
    「……ごめんなさい」
    「ヤダっ、どうしてセーニャちゃんが謝るのよ! 根掘り葉掘り聞き出したアタシが悪いんだから!」
    「……いえ、こんな……軽蔑したでしょう……私は純粋に勇者様に仕えていた訳ではなく、全て不純でしかなく私利私欲の為だったなんて話……聖職者としても恥ずべき行いなのも理解しております……」
     確かにそれは予想外だった、イレブンに恋情を抱いていたのは察していても、そこまで胸の内を語るとは思わず、シルビアは驚いて黙り込んでしまったが、その心に踏み込んだのはシルビアの方なのだから落ち込むセーニャに謝る理由はないと告げて。
    「それにセーニャちゃんはそこまで独善的でもないわ、だって本当に自分のためにイレブンちゃんを独り占めしたかったならアタシ達の事なんか構わず、いくらでも抵抗出来たはずよ」
    「でも、私は現に皆様に刃を向けてカミュ様に傷を……」
    「確かにそれは反省するべき所ね、でも反省したからこそ、セーニャちゃんは全部アタシ達に打ち明けて、カミュちゃんを指名して大樹まで送ってくれたわけじゃない。ライバルに塩を送るような真似にも関わらずね」
     自身が語ったように悪魔がセーニャを魅了して取り憑いたままだったのならば、きっと容赦なく彼女を護るという名目の下で抵抗しただろう、イレブンを自分だけが独占できるように。
     確かに武器を仲間に向けた、だがそれは気の迷いでしかないと断言できる。それは今こうして過ごしていることが何よりの根拠で。
     今回のきっかけであった手紙も素直に届けず握り潰すという方法もあった、カミュとの一騎打ちだって即死魔法を容赦なく唱えて黙らせることも出来た、観念してもイレブンの事も打ち明けずに隙を見て逃げ出すことも有り得た。しかしそれはいずれも実行されることはなかった、他でもないセーニャ自身の良心がそれを咎めたからこそだ。
     シルビアはこれまでを見守っていたのもあって理解していたが、セーニャ本人は理解していない様子で、罪悪感を未だに抱える姿に諭すような口調で。
    「あのね、セーニャちゃん、むしろ自分勝手な部分があるのが恋なのよ」
    「……そうなのですか?」
    「相手の気持ちを無視して『この人を自分のものにしたい』という所から始まるんだから、自分
    勝手以外のなんでもないわ」
     シルビアは年齢相応に色んな恋を知っている、それは自分自身の事も、他人の事も、だからこそ言い切ってしまえる、恋なんて独り善がりな感情なのだと。
    「でもそれでもセーニャちゃんはわざわざカミュちゃんを指名した、それは大好きなイレブンちゃんの為でしょう?」
     同時に独り善がりだからこそ相手をどう想えるのかが大事だと言うことも知っている、セーニャのイレブンを護りたい支えたい、という感情は間違いなくイレブンを想った上の本心で、イレブンの為にどうすればいいのか考えて自分が辛い思いをする事が分かっていても、恋敵の背中を押すことを選んだ。
     シルビアはそんなセーニャの気持ちを誰にも批判することは出来ないと思っていたからこそ、セーニャの想いを一切否定することはない。
    「それにね、セーニャちゃんの話を聞いてアタシ安心しちゃった、セーニャちゃんってイレブンちゃんと似て、献身的すぎる所があるから、自分の気持ちを殺してばかりじゃないかって」
     だから二人は仲良くなったのかもね、とシルビアは普段のイレブンとセーニャの仲を思い出したのだろう、そんなことも告げつつ微笑ましそうな様子で。
    「確かに恋は全てが実るわけじゃない。でも一番大切なのはセーニャちゃんもちゃんと恋が出来る、それって素敵な事なのよ、人を愛する事に性別も人種も関係ないんだから」
     その一言にセーニャはハッと息を呑むような反応を示す、それはとんでもない事をしでかしてしまったのだと罪悪感を抱えたセーニャにとって一筋の光だった、醜いと思っていた嫉妬が、叶わない恋が、全ての想いが第三者にこうして肯定されて認められたのだから。
    「シルビア様……ありがとうございます……、わたくし……」
    「ウフフッ! お礼なら今度一緒にスイーツを食べに行きましょ! この間は一緒に行けなかったものね」
     感銘を受けて言葉にならないセーニャに余計な気を遣わせないようにシルビアは少し前のダーハルーネでの件をあえて話題に出して言いくるめる、そんなシルビアの心遣いにセーニャは口には出来なくとも心の中で何度も礼を告げた。
     しかしそれとは別に、シルビアはふと陽が傾いていることに気が付く。
    「あら、もうこんな時間? なら今日は泊まりになりそうね、カミュちゃんが上手く説得してくれても、イレブンちゃんだけならまだしも坊やがいるなら無理に降りてこないでしょうし……」
     とは言ってもまだ明るいのでこの後降りてくるかもしれないが、生まれたばかりの赤子を抱えて無理に行動は出来ないだろうと踏んで、シルビアはキャンプの支度を始めることにする、セーニャもそれを受け慌てて手伝いに入る。その最中、ふとセーニャが零した。
    「……大丈夫でしょうか、カミュ様も、イレブン様も」
    「大丈夫よ、セーニャちゃんはカミュちゃんも信じてるでしょ? 一緒に戻ってくるのを待ってるって言ってたものね」
     そんなシルビアの言葉に、セーニャはふと何故イレブンの説得にカミュを指名したのか自分で疑問を抱いた。
     姉の追求もあってついあの場では勘だと言ってしまったが、確信に近いそれをセーニャはカミュから直接聞いたような、そんな気がしていた。

    『ああ、そうだよ、俺は、イレブンが好きだ』

     それはどこだったのか、確かにセーニャはその言葉を聞いた、けれどもどこでだったのか思い出せない、……にも関わらずすんなりと受け入れている自分がいて、不思議とそれ以上の疑問は湧いてくることもなく。
    「……ええ、そうでしたわね」
     セーニャは納得して微笑んだ。



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  • 2018年04月29日 03:04

    護りたいもの・最終話の最初の部分にて
    『大樹で独りで泣いていた時期があったのが夢に現れた』部分の、実際に現実で起きていた出来事です。
    14話の説明文の方で『書き直した』と明記しましたが、実は書き直す前のお蔵入りした一部で、それを最終話にて改めて一部引用して出したという経緯があります。
    その為、殆どが最終話のコピペなうえ、途中で終わっていますが、それでも構わない方のみどうぞ。
    赤子側も母親を護ろうとしていた、という気持ちだったのかな、と思いつつ。
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     護りたいもの・大樹で現実のイレブンが経験したもの
     ――――――――――――

     イレブンはお腹を抱えて大樹の中を歩いていた。
     しばらく歩くと拓けた場所へ出る、その奥には勇者の剣が奉納されているこの大樹の中核部と呼んでいい神域、大樹の魂と呼ばれる聖なる光が大樹自身の蔓に守られて存在している。
     ふと足元を見ると、黒い小さな塊が目に入った、掌よりやや小さなそれ、お腹に気を遣いながらしゃがんで拾い上げる。
    (これ、欠片だ)
     ここでホメロスと戦った際に持ち込んでいた魔王の剣、最終的には砕けてしまったその欠片の一部だった。
    (……もう遠い昔の出来事みたいだ)
     時を渡った直後に起こった、自分だけが知る最初で最後の死闘、これさえ乗り越えられれば、全てが助かって世界が平和になると信じていた。その時は時を渡った事を仲間達に明かすつもりだった、けれども太古の昔に封印され復活した邪神が現れ、そして自身が懐妊したことによりそれは永遠に告げられなくなって。
     両手で包み込むように腹部を撫でる、何があっても護ると決めた命、これから先、たった一人で。
    「……怖いよ」
     そう思った瞬間、ぽつりとそれは無意識に零れた。
    「私、どうなっちゃうんだろう……」
     昔から落ち込んだり、恐怖に苛まれ一人になった時、こうして本来のイレブンが顔を覗かせる事があった。

     怖い、本当は怖くて怖くてたまらない。
     自分はちゃんとこの命を、護る事が出来るのか。
     これから、たった一人で、ずっと。

     腹部が膨らむのを実感していく内に早く会いたいという慈愛が溢れて産まれてくる日はまだかと楽しみに指折り数えるようになっていた。しかし反対に、産まれたら自分は母として新しい命を責任もって育てていかないといけないという重圧と責任が不安として日々積もっていった。
     それらは以前から天秤のように均等な比率でイレブンの心に存在していて、この命を護るという気持ちだけで上手く相殺して自身を保っていられた。
     この子の為にも自分がしっかりしないといけないのに、けれども今は強がれば強がるほど逆効果になっていって、こうしてふとした瞬間に天秤は傾いた。
    「たすけて……」
     何から? それはイレブンにも答えられない、ただこの押し潰されそうな不安を誰かに知って貰いたかった、誰かが受け止めてくれて理解してもらえるだけで良かった。
    (あ……)
     しかしその誰かは、イレブン自身が全て拒絶してしまったではないかと思い出す、家族も親友も仲間も、……最愛の人も全て自分が捨ててしまったのだという事を。
     自覚した瞬間、涙が溢れた。
     それは自業自得、もうイレブンには誰も居ない。

     誰も、居ない。

     苦しい、首を絞められたように息が出来ない、だから泣き叫ぶ事すらも許されなかった。

     ――トクン

    「えっ?」
     その時、しっかりしろと言いたげに、胎内からトン、と小突かれるような感覚が走り、思わずお腹を押さえる。
    (これって……まさか)
     最初は自覚なかった妊娠も、ここまでくれば胎動は少し前から感じていた、しかしはっきりとこうして動いている感覚は初めてで、驚きで涙は一気に引っ込んでこれまで抱えてた不安は気付いたらどこかへ消え失せていて。
    (……ごめん、僕は僕が出来る事をしないとね)
     胎内にいる命は必死に生きようとしていることに気付かされる、自分はここでうじうじと落ち込んでどうするんだと気を取り直した、不安は完全に失せた訳ではなかったが独り善がりなだけだと否定するように首を横に振って。
    (……もし、カミュがいたなら、どんな反応してくれたんだろう)
     無理に気を逸らそうとしたせいか、ふと、そんな事を考えてしまった。
     胎動を初めて感じた時、世話をしてくれているセーニャに話したら自分の事のように喜んでくれたが、どこかで寂しさを感じていた。
     最初は一人で産もうと思っていたのだから命の成長を喜んで共感してくれる人がいるだけで恵まれているのだと我儘や贅沢を言ってはいけないのは分かっている、しかしどこかで思ってしまうのだ、『父親であるカミュならどんな反応をしてくれたのだろう』と。
    (想像できないなぁ……)
     優しいのは知っているが、育ちもあってか現実主義寄りで冷静な部分もありつつも熱い所もある、大人な部分もあるがたまに子供っぽい所も顔を見せる、そんなカミュが子煩悩な所がなんとなく想像がつかなかった。けれども、物理的には器用な癖に、不器用に戸惑いつつも子供を可愛がる光景は何となく想像できて、思わず零れるようにクスリと笑って。
    (……でも、全部夢のような話だよね)
     しかしいくら思ってもそんな日は訪れない、イレブンはこの命を一人で護りきるしか道はないのだから。不安が完全に失せずにどこかで残っているのはそんな思いがあるからだろう、けれども確かに感じる胎動に、イレブンは優しく包むように腹部を抱き締めた。

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  • 2018年04月25日 02:00  
    ずくも様より頂いた、『護りたいもの』の表紙絵(ピクブラの仕様だと大きいイラストが見られないので)
  • 2018年04月25日 01:39
    終わった今だからこそこそっと公開、『護りたいもの~イヴの断片』のIFルート
    連載途中で思いついた没シナリオです、ちゃんとした話にする予定は今のところありません


    本当に設定だけを箇所書きにしているのでオチがありませんが、興味ある方のみどうぞ

    ※内容は本編でもしも聖竜がイレブンと会って『大樹に来なさい』と誘わなかったら、というIF設定

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    護りたいもの~IFルート


    1、そこはナプガーナ密林、10歳前後の子供が迷い込む。子供は魔物に追われており、逃げていたが追い詰められ、襲われるが間一髪の所で二人の旅人に助けられる。

    2、二人はカミュとセーニャ、イレブンは十年以上前に失踪しており、手がかりが一切掴めないのもあって、他の仲間が止めるのも聞かずに二人だけでイレブンを探して旅をしている、その為仲間以上の関係ではない。

    3、子供は物心ついた時から母親と二人きりで人里離れた場所で暮らしており、倒れた母親の為に薬を買いにデルカダールを目指していた。

    4、事情を知ったカミュとセーニャが放っておけないと子供に協力することに、セーニャが母親を診て薬を作る話に。

    5、しかし夕方だったのもあって、子供が住む場所に向かうのは明日以降とまずはデルカダールへ向かうことに。

    6、セーニャがその途中、世間話として子供に母親の名を訊く、しかし子供は「お母さんはお母さん、名前は知らない」ということ、そしてずっと二人きりで場所を変えながら生きてきた事を話して、不思議に思う。

    7、そうこうしている内にデルカダールに到着、中央の広場には約十年の間に勇者の功績を讃えてイレブンの銅像が建てられており、子供がそれを見た瞬間、呟く 「お母さん……?」


    ※補足:IFルートは本編で聖竜が大樹に導かなかった場合のイレブンが辿った運命、実は聖竜はこの未来を視ており、その運命を辿らない為にイレブンの元へ現れて大樹へ導いた。それ故に、イレブンがラムダでセーニャに見つかるのも知っており、ある意味、セーニャに見つかったのは予定調和だった。


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  • 2018年01月19日 01:38
    ストーリー中全く触れていない、にょたイレブンさんのスペック(※すでに自由に想像している方はイメージがひっくり返されたり、固定される恐れがあるので読まない方がいいです)
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    イレブン♀
    身長はカミュより少し低め、しかしブーツ着用時はほぼ一緒か少し高くなる
    小さい頃からテオの教えの元で剣を習っていた、身体をつかう事が好きなので小さい頃から村の男性に混じって力仕事を進んでやっていた。その影響か体つきはやや筋肉質(腹筋が若干割れてる)一人称は『僕』 誰も矯正はしなかったためそのままで成長する、考え方も男性よりだが、本能的な部分では女性のせいか身体に関して男性っぽい部分に関して若干のコンプレックス持ち。
    幼馴染みのエマが色んな事に興味を持ち、それを良く聞いていた為か、全くの世間知らずという訳ではなく、また祖父を亡くしてからは母を支えていた為か年齢に対してやや大人っぽく精神年齢は+3歳くらい。ただしまだ十代なので考え方は年齢相応に未熟。
    性別を知らない人から見れば中性的な外見な為、男女関係なく惚れられることも、ただし本人は恋愛事には一切興味がないせいか気付くことはない。

    胸の大きさはE、ただし旅の間は祖父の服でうまい具合に隠れていた為、そんなに目立たない。なので脱いだら凄いといわれそうなギャップが。

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