【白桃】空っぽの英雄【一】
600年も虚栄心の塊だったと思われる記述と、ルリオ回の桃タロー君の天狗になってから折れる描写にガタっとなったのと、鬼灯は「さん」なのに白澤は「様」なのってなんでだろうという所の自己解釈です。
あと数回、続きをアップさせてもらいますm(_ _)m
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【 一 】
「~…君、ロー君…」
「…ん?」
日も暮れ、閉店の看板も出し、肩を回しながら心地よい一日の疲れの中で片づけを始めていた桃太郎は、聞きなれた声が外からする事に気が付いた。
「桃タロー君~!」
「…もしかして…」
先ほどよりも明瞭に聞こえた声は自分を呼ぶ声。
しかし入口の方からではなく、店の側面から聞こえて来る。
纏めていた道具を置いて外に出てみると、先ほどから聞こえる声はやはり、店の側面からしている。
その方向に小走りで行ってみれば、外の温泉の囲い付近で横向きに寝ながら顔を真っ赤に染め、薪と藁をまとめた包みをリズミカルに叩いている酔っぱらいが居た。
「桃タロー君、ねえちょっと聞いてる?うちの中まで連れてって欲しいんだってばー」
「それ俺じゃねえし!!つかどこも似てないんですけど!?」
「なんか違うところから声がする?え、桃タロー君だよね、ほらこの丸いフォルム」
「丸い形だけしか合ってねーし、失礼だなこの酔っぱらい!!」
「んー?あれ、桃タロー君いつのまにそっちに?」
「酔っ払いの相手は疲れるからもうしない事にした…」
顔の表情筋の全てが緩々になっている泥酔状態の酔っ払いはやはりというか予想通り店主の白澤だった。
失礼極まりない事を言われてもだいぶ慣れて来たのか、ひとまず突っ込みを入れてから脇の下に手を入れて持ち上げようとしたが、膝が崩れそうになり桃太郎は慌てて態勢を整える。何故かいつもよりも大分重かったのだ。
「もしかして…」
体の下に隠れていた白澤の片手を覗くと、そこにはしっかりと抱えられた酒瓶二本が白澤の胸に収まっていた。
「酒瓶抱える力があるなら足腰の力入れろよこのジジイ!!」
「ええー、歩けるよ僕大丈夫だよ~」
「大丈夫じゃねーから俺に運べって言ってるんだろが、ああもう重いな!!」
仕方なく両腕を肘まで白澤の脇下に通すと上に曲げ、白澤の体を両腕で支えながら後ろへと引きずっていく。
温泉の近くだったのが幸いし、縁側とでも言うべきか店の側面に作られた腰掛へとそのまま酔っ払いを引きずっていった介護者は、遠慮せずに力任せに抱えていた酒臭い体を腰掛けに放り出す。
「痛苦!乱暴は良くないよ桃タロー君~」
「鬼灯さんの突っ込みに比べれば痛くも痒くもないだろが!
とりあえずここで酔い冷まして下さいよ、俺も店番でちょっと疲れてるから店まで引きずるの無理です。
つか酒瓶大事にし過ぎだろ、何でアンタ落としてないの今ので!?」
「酒我喜欢~」
「酔っぱらうと中国語多くなるからわかんないっつの」
桃太郎はやれやれと自分も腰掛に腰を落ち着けると、隣で白澤は酒瓶を抱えたまま仰向けに態勢を変える。
ちらりと隣を見た桃太郎は次の瞬間、ぽかんと口を開けていた。そして。
「寝るの早っ!!!!」
すでに寝息を立てていた白澤に盛大に突っ込むと額に手を当てる。
すでにだらしなく下肢を投げ出して口も開けっ放しの姿に軽く目眩を覚えたのは疲れのせいか彼のせいか。
寝てしまうと更に重くなるのにさてどうやってうちの中に連れて行くかと考えれば、思わず頭痛がしてくる。
重さを少しでも軽減しようと大事に抱えられている酒瓶を白澤の腕から離そうとするが、熟睡しているにも関わらず腕の力は強く、幾ら離そうと力を込めても腕から酒瓶が離れる様子は無い。
「ああもう!」
諦めたか桃太郎は白澤から腕を離すと再度背を壁に付けた。
空を見上げれば完全に太陽は姿を消して、丸い満月が穏やかに自分を見下ろしている。
柔らかい月の光と、湧き出す温泉の湯気、周りを囲んでいる桃の木、なんと平和な光景だろう。隣が酒臭い酔っ払いが居ても気にならない程の平和。
そして、心地よい気温の天国は外に居ても寒さを感じない。
「…月をこんなにのんびり見上げるのって、幸せなんだな…」
誰に声を掛けたわけでもなく、普段よりも柔らかい声音で桃太郎は呟いていた。
顔を隣に向ければ、熟睡している白澤。
その顔の上に片手を翳し振ってみるが、特に反応は無い。
「白澤様、寝てますよね?」
答えはない事は承知で声を掛けてみると、何やらむにゃむにゃと寝言が返ってきた。
その様子に小さく笑うと、先ほどの騒動で乱れていた白澤の服を直す。
見た目は人間そのもの、それでもこの人は神獣なんだよなと改めて思いながら気持ちよさそうに眠り込む姿に吹き出す。
手を離してもう一度空を見上げれば、先ほどと変わりの無い平和な夜空が広がっている。
「……むかし、むかし、ある所に。
太陽にも月にも暴言を吐き、天国は地獄だと思っていた虚栄心の塊の人間がおりました」
小さく吐き出した言葉に、自分で笑ってしまう。
「見栄しか残っていないその人間は、いつまで経っても過去の栄光にしがみついていました。
英雄と言われたその人間の中身は、ただの空っぽの人間でした」
小さく吹いた風が目の前の桃の葉を揺らす。
――それはむかしむかしの、ある英雄のお話。
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