秋生(鮭の丸焼き)

萌えが滾った時に細々と投稿させて頂くと思います。
好きなジャンルは多種なので、雑多になりそうですがよろしくお願いします!

なお、pixivでは投稿しずらいものをこちらに投稿させて頂こうと思っております。

投稿日:2016年01月09日 23:52    文字数:5,980

【白桃】空っぽの英雄【一】

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pixivにアップしていたものですが、個人的に一番書きたかった白桃の関係性の話を改めて纏めたくて、ということで細々と続きもアップさせて頂ければと思います!

600年も虚栄心の塊だったと思われる記述と、ルリオ回の桃タロー君の天狗になってから折れる描写にガタっとなったのと、鬼灯は「さん」なのに白澤は「様」なのってなんでだろうという所の自己解釈です。

あと数回、続きをアップさせてもらいますm(_ _)m
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【 一 】


「~…君、ロー君…」

「…ん?」

日も暮れ、閉店の看板も出し、肩を回しながら心地よい一日の疲れの中で片づけを始めていた桃太郎は、聞きなれた声が外からする事に気が付いた。

「桃タロー君~!」
「…もしかして…」

先ほどよりも明瞭に聞こえた声は自分を呼ぶ声。
しかし入口の方からではなく、店の側面から聞こえて来る。
纏めていた道具を置いて外に出てみると、先ほどから聞こえる声はやはり、店の側面からしている。
その方向に小走りで行ってみれば、外の温泉の囲い付近で横向きに寝ながら顔を真っ赤に染め、薪と藁をまとめた包みをリズミカルに叩いている酔っぱらいが居た。

「桃タロー君、ねえちょっと聞いてる?うちの中まで連れてって欲しいんだってばー」
「それ俺じゃねえし!!つかどこも似てないんですけど!?」
「なんか違うところから声がする?え、桃タロー君だよね、ほらこの丸いフォルム」
「丸い形だけしか合ってねーし、失礼だなこの酔っぱらい!!」
「んー?あれ、桃タロー君いつのまにそっちに?」
「酔っ払いの相手は疲れるからもうしない事にした…」

顔の表情筋の全てが緩々になっている泥酔状態の酔っ払いはやはりというか予想通り店主の白澤だった。
失礼極まりない事を言われてもだいぶ慣れて来たのか、ひとまず突っ込みを入れてから脇の下に手を入れて持ち上げようとしたが、膝が崩れそうになり桃太郎は慌てて態勢を整える。何故かいつもよりも大分重かったのだ。

「もしかして…」

体の下に隠れていた白澤の片手を覗くと、そこにはしっかりと抱えられた酒瓶二本が白澤の胸に収まっていた。

「酒瓶抱える力があるなら足腰の力入れろよこのジジイ!!」
「ええー、歩けるよ僕大丈夫だよ~」
「大丈夫じゃねーから俺に運べって言ってるんだろが、ああもう重いな!!」

仕方なく両腕を肘まで白澤の脇下に通すと上に曲げ、白澤の体を両腕で支えながら後ろへと引きずっていく。
温泉の近くだったのが幸いし、縁側とでも言うべきか店の側面に作られた腰掛へとそのまま酔っ払いを引きずっていった介護者は、遠慮せずに力任せに抱えていた酒臭い体を腰掛けに放り出す。

「痛苦!乱暴は良くないよ桃タロー君~」
「鬼灯さんの突っ込みに比べれば痛くも痒くもないだろが!
とりあえずここで酔い冷まして下さいよ、俺も店番でちょっと疲れてるから店まで引きずるの無理です。
つか酒瓶大事にし過ぎだろ、何でアンタ落としてないの今ので!?」
「酒我喜欢~」
「酔っぱらうと中国語多くなるからわかんないっつの」

桃太郎はやれやれと自分も腰掛に腰を落ち着けると、隣で白澤は酒瓶を抱えたまま仰向けに態勢を変える。
ちらりと隣を見た桃太郎は次の瞬間、ぽかんと口を開けていた。そして。

「寝るの早っ!!!!」

すでに寝息を立てていた白澤に盛大に突っ込むと額に手を当てる。
すでにだらしなく下肢を投げ出して口も開けっ放しの姿に軽く目眩を覚えたのは疲れのせいか彼のせいか。
寝てしまうと更に重くなるのにさてどうやってうちの中に連れて行くかと考えれば、思わず頭痛がしてくる。
重さを少しでも軽減しようと大事に抱えられている酒瓶を白澤の腕から離そうとするが、熟睡しているにも関わらず腕の力は強く、幾ら離そうと力を込めても腕から酒瓶が離れる様子は無い。

「ああもう!」

諦めたか桃太郎は白澤から腕を離すと再度背を壁に付けた。
空を見上げれば完全に太陽は姿を消して、丸い満月が穏やかに自分を見下ろしている。
柔らかい月の光と、湧き出す温泉の湯気、周りを囲んでいる桃の木、なんと平和な光景だろう。隣が酒臭い酔っ払いが居ても気にならない程の平和。
そして、心地よい気温の天国は外に居ても寒さを感じない。

「…月をこんなにのんびり見上げるのって、幸せなんだな…」

誰に声を掛けたわけでもなく、普段よりも柔らかい声音で桃太郎は呟いていた。
顔を隣に向ければ、熟睡している白澤。
その顔の上に片手を翳し振ってみるが、特に反応は無い。

「白澤様、寝てますよね?」

答えはない事は承知で声を掛けてみると、何やらむにゃむにゃと寝言が返ってきた。
その様子に小さく笑うと、先ほどの騒動で乱れていた白澤の服を直す。
見た目は人間そのもの、それでもこの人は神獣なんだよなと改めて思いながら気持ちよさそうに眠り込む姿に吹き出す。
手を離してもう一度空を見上げれば、先ほどと変わりの無い平和な夜空が広がっている。

「……むかし、むかし、ある所に。
太陽にも月にも暴言を吐き、天国は地獄だと思っていた虚栄心の塊の人間がおりました」

小さく吐き出した言葉に、自分で笑ってしまう。

「見栄しか残っていないその人間は、いつまで経っても過去の栄光にしがみついていました。
英雄と言われたその人間の中身は、ただの空っぽの人間でした」

小さく吹いた風が目の前の桃の葉を揺らす。

――それはむかしむかしの、ある英雄のお話。

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【 二 】

おそらくその一年が一番の絶頂期だった。
鬼ヶ島からその人間が帰った後、すぐに村人もその隣の村の者も、全てが喝采と称賛を与えた。
殿からも称賛と褒美を与えられた。
持ち帰った鬼の宝と殿からの褒美、その人間には有り余る宝で回りを埋め尽くされ、言葉の褒美が何をしていなくとも降り注ぐ。

親孝行をしたいと考えていたその人間は、あっという間に「もっと称えて欲しい」と欲を出すようになっていた。

「桃太郎さん、助けて!」
「はいはい、押さないで何をすれば良い?」

その人間は、鬼を倒して村に富をもたらした、英雄桃太郎と呼ばれて囃し立てられ名声はどこまでも広がった。



「ああ、待って待って、俺は一人だからさ!順番にやるから何でも言えよな!」



そして彼の鼻はどんどんと高くなっていった。



「ねえ、桃太郎何でも受け過ぎじゃない?」
「そうだぜ、この前だって河川の修復なんて―…」

「俺は英雄だぞ!良いことをして何が悪いんだよ!お前たちだって褒められるんだぞ、褒美だってまた貰えるんだ!」

「…桃太郎アンタ、変わったよな」
「何がだよ。何か文句あるのかよ」
「…桃太郎が良いなら、俺は構わないよ」

桃太郎はなぜ、お供してくれた1匹と1頭と1羽が最近口を出すようになったかわからなかった。いや、わかろうとしなかった。
今が楽しかった、何をしても褒められる事が何よりも快感だった。

「お爺さん、桃太郎は鬼退治してくれただけじゃなく、こんなに村の為に尽くしてくれるなんて、本当に自慢の息子ですよね」
「本当じゃ、神様は何て素敵な褒美をワシらにくださったんじゃろう」

桃太郎が一番嬉しかったのは育ててくれた祖父母からの言葉だった。
良いことをすればまた祖父母が喜ぶ。村人も喜ぶ。感謝されて悪い事なんてないんだ。


―しかし、人の興味は次第に薄れていく。
英雄の話も、1年・3年・5年と過ぎていく内に英雄の話は過去の話になっていく。


「なんなんだよ、最近は!!野良犬退治しろって、俺は英雄だぞ!」
「でも受けたのは桃太郎だよ?」
「断ったら嫌な顔されるだろ、そんなの嫌だ」
「…じゃあ俺が行ってくるよ」
「なんでだよ、お供にやらせるのかって言われるだろ俺が行くしかねえだろ」
「…うん」
「桃太郎、きっと村人は皆感謝しておるよ、お前のおかげで村の周りの悪い動物も出なくなったし、物盗りもなくなった」
「そうですよ、きっとみんな桃太郎が好きだから何か頼みたくなるんですよ」
「…行ってきます」



そしてまた1年、3年と過ぎて行く。
英雄は、頼まれごとなら何でもやった。
だって俺は英雄だぞ、英雄なんだからとそれが口癖だった。
お供の動物達はそれを寂しそうに見ながらも何も言えなくなっていた。


――突然の別れは、英雄になってから9年後に訪れた。

「お爺さん!」
「桃太郎、そんな顔をするな。
もうワシは元々年だったんじゃ。最後にお前と会えて、過ごせた日々はとても幸せだったよ」
「…お爺さん…」

いつも見守ってくれていた、優しい言葉を掛けてくれたお爺さんが亡くなった。


それから数か月後、追いかけるかのようにお婆さんも亡くなった。
「あなたは自慢の息子、素敵な一生を過ごしなさいね」と笑顔で桃太郎の頬を撫でてくれた。

二人の温もりは桃太郎にとって幸せの象徴だった、何にも代えられない味方だった。
二人の喜ぶ顔があったから、村人の無理難題にも英雄として受けてきた。

だが。

もう、求めてもその温かさは二度と受け取れないと、失って初めて痛感していた。

「なあ、桃太郎どうしたんだよ荷物なんか纏めて」
「…もう、この村に居る必要は無い」
「え?どうしたんだよ桃太郎!」
「英雄って言ってくるのは何かやって欲しい時だけじゃねーか、ここの村人達。
この前覚えてるか、最近生まれた子供がお前本当に鬼倒したのかよ!って言って来ただろ」
「…」
「俺は英雄だ!鬼も倒した!殿にも褒められた!こんなに凄い事をしてきたのに、なんなんだよ誰も敬わない!!
畑の手伝い?肥料作り!?なんだよそれ、それが英雄のする事かよ、違うだろ!!」
「桃太郎、怖いよ…」
「お前達にはわからないんだよ、英雄の孤独なんてわかんねーんだよ」
「そんなこと無いって」
「ルリオだってそんな事言って、上から見て笑ってんだろ!」
「…俺はアンタのお供だよ、アンタの味方だよ」
「オレもだよ、桃太郎のそばにいるよ」
「人間は勝手なんだよ、大丈夫だって俺たちは鬼と戦ってきた仲間だろ!」
「ルリオ…シロ…柿助…」


それは暖かな春のある日。
村の英雄は、突然村から消えた。 


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【 三 】

どこに行ったんだ、荷物が何もなくなっているぞと捜索が始まる中で、何人かが裏の山に入っていったのを見たかもしれないと話が出る。

しかし村人総出で探しても桃太郎もお供の者も見つからなかった。

そのうち、山に入った者は良いことがあると噂され、きっと桃太郎は山が授けた御子で、育ての人間が亡くなったから山に帰ったんだと噂が更に流れ、いつのまにか小さな社が建てられたのは桃太郎が村を去ってから1年頃だった。



「…勝手な事言ってるな村人は…」
「俺は桃太郎が褒められてるのは嬉しいよ、いなくなっても桃太郎凄いって言われてるよ」
「…あっそ。別にもうどうでも良いよ、結局探すったって奥まで来なかったじゃないか。
俺に会いたいわけじゃねーんだ、厄介ごと代わりにやるやつが欲しいだけだろ、英雄様を何だと思ってるんだよ」
「…」

その山のかなり奥に桃太郎達は小屋を建てて住んでいた。
今更どこかの村に行こうという気にはなれなかったのだ。

「つっまんねぇ」

英雄と言われた人間には過去の栄光と、傍にいてくれる動物達にしか、もう、味方は存在しなかった。

それでも褒めてくれるシロやルリオ、柿助がいたから自尊心が保ていた。
このままならと、思っていた。

桃太郎は与えられる心地良さしか見ていなかったから、彼らにも別れがあると忘れていた。

考えようとしていなかった。



まず、ルリオが徐々に衰弱していった。
次にシロも弱っていった。
焦る桃太郎を励ます柿助の手足も細くなっていた。


彼らは桃太郎の知らない所で社にお願いに来る村人の願いを聞いて、できる所をこっそりと願いを叶えようと動いていた。
柿助は社の供え物を器用な手先を生かして桃太郎に渡していた。
すでに蓄えはなく山の恵みで繋いでいたが、体がすでに疲れていたのだった。
桃太郎がそれらに気が付いた時には遅かった。

「大丈夫だよ、俺達は桃太郎の味方だよ」

ああなんでだろう。
なんで離れていくんだ。
英雄ってなんだったんだ、なあ俺は頑張ったじゃないか、何で一人にするんだよ。



そして英雄は空っぽになっていた。
自分の周りにも、自分の中にもなくなっていた。


だから。
それは、だたの気まぐれだった。


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【 四 】

物盗りが最近現れて困るとさめざめと泣く老夫婦の声が、社近くに降りたときに聞こえた。
見つかりたくないから近づいていなかったが、供えられている桃を見つけた。
桃太郎様、どうかどうかお慈悲を。


ーーもう見ることができない祖父母と重なった。


夜半過ぎ、人気のなくなった村に下りると村は変わっていなかった。
何も変わっていなかった。
それでも自分の居場所ではないと感じた。

物音のする方へ行けば、見覚えがある住んでいた家だった。
物盗りかと身構えたが、音のする場所が低い。
目を凝らすと喉奥から捻りだされたような低音が聞こえてくる。これは――人間じゃない。獣だ。

薄暗い中で鳴き声ともうめき声とも聞き分けのつかない音だけが聞こえる。
しかし、光る眼のお陰で位置が分かる。


大丈夫だ、大丈夫だ。
ほら鬼よりも怖くない、あの時は鬼はもっと居たが今はどうだ、全然少ないじゃないか。

そう心の中で呟くのとは別に体が思うように動かない、足が前に進まない。
何でだよ、俺は凄いだろ強いだろ!!

刀が震えるのを見た桃太郎は舌打ちをする。
ああ何年刀を振るわなかったんだろう。
ぼんやりと動く体とは別に頭の隅で冷静な声がする。

飛び掛かってくる獣も何かわからない、腕や足を噛まれてもどこか遠い出来事のようにも思えた。
だが、ふと思い出したいなくなってしまった人と、親友達。

「―――俺は!!英雄桃太郎だ!!ふざけるな!!!!」

その叫びは数年聞いた事のない自分の声。
その声に驚いたか獣が後ずさる。

ちくしょう、鬼ヶ島よりも怖くないと思っていたのに。
俺の周りに今誰がいる、後ろに誰がいる。
なあ誰もいないじゃないか。

それでも、俺は。俺はなんだ。
そうだ、そうだよ俺は――――――

刀がゆらりと薙いで目の前の獣を峰打ちにし、周りにも飛び掛かる胴目がけて刀を叩きつける。

「俺は!!英雄だ!!!桃太郎だ!!!!」


峰打ちを胴、頭と受けた獣達は低い唸り声を残して足音を遠ざけて行った。

あれ自分はこんなに荒い息をするんだったか。
ああ、痛い、痛い。

体を、刀を引きずりながら山の中へと歩いていく時に後ろから声が聞こえた。

「桃太郎様が!やっつけてくれたぞ!」
「山から下りてきて下さった!」
「神様だ!」

遠くに聞こえるその声は懐かしい称賛の声。
でも、違うんだ。
俺は神じゃない、英雄だ。英雄なんだ。
聴きたい声はどこへ行った、あんなに一緒にいてくれたのに、一人で残されてどうしろって言うんだ。


口の端が引きあがるのは笑っているからだろうか。
目元の冷たさはなんだ、顔から零れ落ちた滴はなんだろう、ああ汗だろうか。

ぼんやり考えていた頭で最後に聞いたのは先ほど聞いた獣の鳴き声だった。
ああ、シロが夜は山に入るの危ないってなんか怒ってた事があったっけなぁ。

近づいてくる鳴き声に目を閉じれば体が軽くなった気が桃太郎はしていた。

そして、一瞬感じた鋭い痛みと共に意識が途切れた。


もう俺は頑張ったよな、英雄だよな。なあ、なあ、なあ。

(誰か、俺を褒めてくれよ)

 

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【白桃】空っぽの英雄【一】
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【 一 】


「~…君、ロー君…」

「…ん?」

日も暮れ、閉店の看板も出し、肩を回しながら心地よい一日の疲れの中で片づけを始めていた桃太郎は、聞きなれた声が外からする事に気が付いた。

「桃タロー君~!」
「…もしかして…」

先ほどよりも明瞭に聞こえた声は自分を呼ぶ声。
しかし入口の方からではなく、店の側面から聞こえて来る。
纏めていた道具を置いて外に出てみると、先ほどから聞こえる声はやはり、店の側面からしている。
その方向に小走りで行ってみれば、外の温泉の囲い付近で横向きに寝ながら顔を真っ赤に染め、薪と藁をまとめた包みをリズミカルに叩いている酔っぱらいが居た。

「桃タロー君、ねえちょっと聞いてる?うちの中まで連れてって欲しいんだってばー」
「それ俺じゃねえし!!つかどこも似てないんですけど!?」
「なんか違うところから声がする?え、桃タロー君だよね、ほらこの丸いフォルム」
「丸い形だけしか合ってねーし、失礼だなこの酔っぱらい!!」
「んー?あれ、桃タロー君いつのまにそっちに?」
「酔っ払いの相手は疲れるからもうしない事にした…」

顔の表情筋の全てが緩々になっている泥酔状態の酔っ払いはやはりというか予想通り店主の白澤だった。
失礼極まりない事を言われてもだいぶ慣れて来たのか、ひとまず突っ込みを入れてから脇の下に手を入れて持ち上げようとしたが、膝が崩れそうになり桃太郎は慌てて態勢を整える。何故かいつもよりも大分重かったのだ。

「もしかして…」

体の下に隠れていた白澤の片手を覗くと、そこにはしっかりと抱えられた酒瓶二本が白澤の胸に収まっていた。

「酒瓶抱える力があるなら足腰の力入れろよこのジジイ!!」
「ええー、歩けるよ僕大丈夫だよ~」
「大丈夫じゃねーから俺に運べって言ってるんだろが、ああもう重いな!!」

仕方なく両腕を肘まで白澤の脇下に通すと上に曲げ、白澤の体を両腕で支えながら後ろへと引きずっていく。
温泉の近くだったのが幸いし、縁側とでも言うべきか店の側面に作られた腰掛へとそのまま酔っ払いを引きずっていった介護者は、遠慮せずに力任せに抱えていた酒臭い体を腰掛けに放り出す。

「痛苦!乱暴は良くないよ桃タロー君~」
「鬼灯さんの突っ込みに比べれば痛くも痒くもないだろが!
とりあえずここで酔い冷まして下さいよ、俺も店番でちょっと疲れてるから店まで引きずるの無理です。
つか酒瓶大事にし過ぎだろ、何でアンタ落としてないの今ので!?」
「酒我喜欢~」
「酔っぱらうと中国語多くなるからわかんないっつの」

桃太郎はやれやれと自分も腰掛に腰を落ち着けると、隣で白澤は酒瓶を抱えたまま仰向けに態勢を変える。
ちらりと隣を見た桃太郎は次の瞬間、ぽかんと口を開けていた。そして。

「寝るの早っ!!!!」

すでに寝息を立てていた白澤に盛大に突っ込むと額に手を当てる。
すでにだらしなく下肢を投げ出して口も開けっ放しの姿に軽く目眩を覚えたのは疲れのせいか彼のせいか。
寝てしまうと更に重くなるのにさてどうやってうちの中に連れて行くかと考えれば、思わず頭痛がしてくる。
重さを少しでも軽減しようと大事に抱えられている酒瓶を白澤の腕から離そうとするが、熟睡しているにも関わらず腕の力は強く、幾ら離そうと力を込めても腕から酒瓶が離れる様子は無い。

「ああもう!」

諦めたか桃太郎は白澤から腕を離すと再度背を壁に付けた。
空を見上げれば完全に太陽は姿を消して、丸い満月が穏やかに自分を見下ろしている。
柔らかい月の光と、湧き出す温泉の湯気、周りを囲んでいる桃の木、なんと平和な光景だろう。隣が酒臭い酔っ払いが居ても気にならない程の平和。
そして、心地よい気温の天国は外に居ても寒さを感じない。

「…月をこんなにのんびり見上げるのって、幸せなんだな…」

誰に声を掛けたわけでもなく、普段よりも柔らかい声音で桃太郎は呟いていた。
顔を隣に向ければ、熟睡している白澤。
その顔の上に片手を翳し振ってみるが、特に反応は無い。

「白澤様、寝てますよね?」

答えはない事は承知で声を掛けてみると、何やらむにゃむにゃと寝言が返ってきた。
その様子に小さく笑うと、先ほどの騒動で乱れていた白澤の服を直す。
見た目は人間そのもの、それでもこの人は神獣なんだよなと改めて思いながら気持ちよさそうに眠り込む姿に吹き出す。
手を離してもう一度空を見上げれば、先ほどと変わりの無い平和な夜空が広がっている。

「……むかし、むかし、ある所に。
太陽にも月にも暴言を吐き、天国は地獄だと思っていた虚栄心の塊の人間がおりました」

小さく吐き出した言葉に、自分で笑ってしまう。

「見栄しか残っていないその人間は、いつまで経っても過去の栄光にしがみついていました。
英雄と言われたその人間の中身は、ただの空っぽの人間でした」

小さく吹いた風が目の前の桃の葉を揺らす。

――それはむかしむかしの、ある英雄のお話。

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【 二 】

おそらくその一年が一番の絶頂期だった。
鬼ヶ島からその人間が帰った後、すぐに村人もその隣の村の者も、全てが喝采と称賛を与えた。
殿からも称賛と褒美を与えられた。
持ち帰った鬼の宝と殿からの褒美、その人間には有り余る宝で回りを埋め尽くされ、言葉の褒美が何をしていなくとも降り注ぐ。

親孝行をしたいと考えていたその人間は、あっという間に「もっと称えて欲しい」と欲を出すようになっていた。

「桃太郎さん、助けて!」
「はいはい、押さないで何をすれば良い?」

その人間は、鬼を倒して村に富をもたらした、英雄桃太郎と呼ばれて囃し立てられ名声はどこまでも広がった。



「ああ、待って待って、俺は一人だからさ!順番にやるから何でも言えよな!」



そして彼の鼻はどんどんと高くなっていった。



「ねえ、桃太郎何でも受け過ぎじゃない?」
「そうだぜ、この前だって河川の修復なんて―…」

「俺は英雄だぞ!良いことをして何が悪いんだよ!お前たちだって褒められるんだぞ、褒美だってまた貰えるんだ!」

「…桃太郎アンタ、変わったよな」
「何がだよ。何か文句あるのかよ」
「…桃太郎が良いなら、俺は構わないよ」

桃太郎はなぜ、お供してくれた1匹と1頭と1羽が最近口を出すようになったかわからなかった。いや、わかろうとしなかった。
今が楽しかった、何をしても褒められる事が何よりも快感だった。

「お爺さん、桃太郎は鬼退治してくれただけじゃなく、こんなに村の為に尽くしてくれるなんて、本当に自慢の息子ですよね」
「本当じゃ、神様は何て素敵な褒美をワシらにくださったんじゃろう」

桃太郎が一番嬉しかったのは育ててくれた祖父母からの言葉だった。
良いことをすればまた祖父母が喜ぶ。村人も喜ぶ。感謝されて悪い事なんてないんだ。


―しかし、人の興味は次第に薄れていく。
英雄の話も、1年・3年・5年と過ぎていく内に英雄の話は過去の話になっていく。


「なんなんだよ、最近は!!野良犬退治しろって、俺は英雄だぞ!」
「でも受けたのは桃太郎だよ?」
「断ったら嫌な顔されるだろ、そんなの嫌だ」
「…じゃあ俺が行ってくるよ」
「なんでだよ、お供にやらせるのかって言われるだろ俺が行くしかねえだろ」
「…うん」
「桃太郎、きっと村人は皆感謝しておるよ、お前のおかげで村の周りの悪い動物も出なくなったし、物盗りもなくなった」
「そうですよ、きっとみんな桃太郎が好きだから何か頼みたくなるんですよ」
「…行ってきます」



そしてまた1年、3年と過ぎて行く。
英雄は、頼まれごとなら何でもやった。
だって俺は英雄だぞ、英雄なんだからとそれが口癖だった。
お供の動物達はそれを寂しそうに見ながらも何も言えなくなっていた。


――突然の別れは、英雄になってから9年後に訪れた。

「お爺さん!」
「桃太郎、そんな顔をするな。
もうワシは元々年だったんじゃ。最後にお前と会えて、過ごせた日々はとても幸せだったよ」
「…お爺さん…」

いつも見守ってくれていた、優しい言葉を掛けてくれたお爺さんが亡くなった。


それから数か月後、追いかけるかのようにお婆さんも亡くなった。
「あなたは自慢の息子、素敵な一生を過ごしなさいね」と笑顔で桃太郎の頬を撫でてくれた。

二人の温もりは桃太郎にとって幸せの象徴だった、何にも代えられない味方だった。
二人の喜ぶ顔があったから、村人の無理難題にも英雄として受けてきた。

だが。

もう、求めてもその温かさは二度と受け取れないと、失って初めて痛感していた。

「なあ、桃太郎どうしたんだよ荷物なんか纏めて」
「…もう、この村に居る必要は無い」
「え?どうしたんだよ桃太郎!」
「英雄って言ってくるのは何かやって欲しい時だけじゃねーか、ここの村人達。
この前覚えてるか、最近生まれた子供がお前本当に鬼倒したのかよ!って言って来ただろ」
「…」
「俺は英雄だ!鬼も倒した!殿にも褒められた!こんなに凄い事をしてきたのに、なんなんだよ誰も敬わない!!
畑の手伝い?肥料作り!?なんだよそれ、それが英雄のする事かよ、違うだろ!!」
「桃太郎、怖いよ…」
「お前達にはわからないんだよ、英雄の孤独なんてわかんねーんだよ」
「そんなこと無いって」
「ルリオだってそんな事言って、上から見て笑ってんだろ!」
「…俺はアンタのお供だよ、アンタの味方だよ」
「オレもだよ、桃太郎のそばにいるよ」
「人間は勝手なんだよ、大丈夫だって俺たちは鬼と戦ってきた仲間だろ!」
「ルリオ…シロ…柿助…」


それは暖かな春のある日。
村の英雄は、突然村から消えた。 


2 / 4
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【 三 】

どこに行ったんだ、荷物が何もなくなっているぞと捜索が始まる中で、何人かが裏の山に入っていったのを見たかもしれないと話が出る。

しかし村人総出で探しても桃太郎もお供の者も見つからなかった。

そのうち、山に入った者は良いことがあると噂され、きっと桃太郎は山が授けた御子で、育ての人間が亡くなったから山に帰ったんだと噂が更に流れ、いつのまにか小さな社が建てられたのは桃太郎が村を去ってから1年頃だった。



「…勝手な事言ってるな村人は…」
「俺は桃太郎が褒められてるのは嬉しいよ、いなくなっても桃太郎凄いって言われてるよ」
「…あっそ。別にもうどうでも良いよ、結局探すったって奥まで来なかったじゃないか。
俺に会いたいわけじゃねーんだ、厄介ごと代わりにやるやつが欲しいだけだろ、英雄様を何だと思ってるんだよ」
「…」

その山のかなり奥に桃太郎達は小屋を建てて住んでいた。
今更どこかの村に行こうという気にはなれなかったのだ。

「つっまんねぇ」

英雄と言われた人間には過去の栄光と、傍にいてくれる動物達にしか、もう、味方は存在しなかった。

それでも褒めてくれるシロやルリオ、柿助がいたから自尊心が保ていた。
このままならと、思っていた。

桃太郎は与えられる心地良さしか見ていなかったから、彼らにも別れがあると忘れていた。

考えようとしていなかった。



まず、ルリオが徐々に衰弱していった。
次にシロも弱っていった。
焦る桃太郎を励ます柿助の手足も細くなっていた。


彼らは桃太郎の知らない所で社にお願いに来る村人の願いを聞いて、できる所をこっそりと願いを叶えようと動いていた。
柿助は社の供え物を器用な手先を生かして桃太郎に渡していた。
すでに蓄えはなく山の恵みで繋いでいたが、体がすでに疲れていたのだった。
桃太郎がそれらに気が付いた時には遅かった。

「大丈夫だよ、俺達は桃太郎の味方だよ」

ああなんでだろう。
なんで離れていくんだ。
英雄ってなんだったんだ、なあ俺は頑張ったじゃないか、何で一人にするんだよ。



そして英雄は空っぽになっていた。
自分の周りにも、自分の中にもなくなっていた。


だから。
それは、だたの気まぐれだった。


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【 四 】

物盗りが最近現れて困るとさめざめと泣く老夫婦の声が、社近くに降りたときに聞こえた。
見つかりたくないから近づいていなかったが、供えられている桃を見つけた。
桃太郎様、どうかどうかお慈悲を。


ーーもう見ることができない祖父母と重なった。


夜半過ぎ、人気のなくなった村に下りると村は変わっていなかった。
何も変わっていなかった。
それでも自分の居場所ではないと感じた。

物音のする方へ行けば、見覚えがある住んでいた家だった。
物盗りかと身構えたが、音のする場所が低い。
目を凝らすと喉奥から捻りだされたような低音が聞こえてくる。これは――人間じゃない。獣だ。

薄暗い中で鳴き声ともうめき声とも聞き分けのつかない音だけが聞こえる。
しかし、光る眼のお陰で位置が分かる。


大丈夫だ、大丈夫だ。
ほら鬼よりも怖くない、あの時は鬼はもっと居たが今はどうだ、全然少ないじゃないか。

そう心の中で呟くのとは別に体が思うように動かない、足が前に進まない。
何でだよ、俺は凄いだろ強いだろ!!

刀が震えるのを見た桃太郎は舌打ちをする。
ああ何年刀を振るわなかったんだろう。
ぼんやりと動く体とは別に頭の隅で冷静な声がする。

飛び掛かってくる獣も何かわからない、腕や足を噛まれてもどこか遠い出来事のようにも思えた。
だが、ふと思い出したいなくなってしまった人と、親友達。

「―――俺は!!英雄桃太郎だ!!ふざけるな!!!!」

その叫びは数年聞いた事のない自分の声。
その声に驚いたか獣が後ずさる。

ちくしょう、鬼ヶ島よりも怖くないと思っていたのに。
俺の周りに今誰がいる、後ろに誰がいる。
なあ誰もいないじゃないか。

それでも、俺は。俺はなんだ。
そうだ、そうだよ俺は――――――

刀がゆらりと薙いで目の前の獣を峰打ちにし、周りにも飛び掛かる胴目がけて刀を叩きつける。

「俺は!!英雄だ!!!桃太郎だ!!!!」


峰打ちを胴、頭と受けた獣達は低い唸り声を残して足音を遠ざけて行った。

あれ自分はこんなに荒い息をするんだったか。
ああ、痛い、痛い。

体を、刀を引きずりながら山の中へと歩いていく時に後ろから声が聞こえた。

「桃太郎様が!やっつけてくれたぞ!」
「山から下りてきて下さった!」
「神様だ!」

遠くに聞こえるその声は懐かしい称賛の声。
でも、違うんだ。
俺は神じゃない、英雄だ。英雄なんだ。
聴きたい声はどこへ行った、あんなに一緒にいてくれたのに、一人で残されてどうしろって言うんだ。


口の端が引きあがるのは笑っているからだろうか。
目元の冷たさはなんだ、顔から零れ落ちた滴はなんだろう、ああ汗だろうか。

ぼんやり考えていた頭で最後に聞いたのは先ほど聞いた獣の鳴き声だった。
ああ、シロが夜は山に入るの危ないってなんか怒ってた事があったっけなぁ。

近づいてくる鳴き声に目を閉じれば体が軽くなった気が桃太郎はしていた。

そして、一瞬感じた鋭い痛みと共に意識が途切れた。


もう俺は頑張ったよな、英雄だよな。なあ、なあ、なあ。

(誰か、俺を褒めてくれよ)

 

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