偶然と必然
BL、NLとも要素はないです。多分。
以下は当時のあとがきです。
三期のラスト2話で、冬花が雷門に転校してるようなので、そこの所含めて補完的に書いてみました。
あとちょっと、円風馴れ初め妄想含めたりしてw。あと微妙に豪風話のときの設定も入ってます。話は繋がってませんけどね。
一応カプなしではあるんですが、ほんのり豪→風で円←風な気がしないでもないけど、それはうちではデフォなのでしょうがない。
ゲーム未プレイの方に一応説明しますと、東と大谷さんはゲームで出るキャラです。
東が円堂の幼馴染みでご近所さんって設定なのに、円堂の中では風丸さんの方が重要視なのは……。
大谷さんは無駄に可愛いクラスメイトだったので、2と3でスカウトできる仕様になってたのは良い驚きでした。
<2011/5/16脱稿>
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世界中を熱狂的なサッカーの渦に巻いたフットボールフロンティア・インターナショナルは、イナズマジャパンの優勝で幕を閉じた。
イナズマジャパンはキャプテンの円堂をはじめとする雷門中サッカー部が中心のチームとあって、優勝が決まった後も、稲妻町は優勝パレードやなんやかんやで町中が盛り上がっていた。
そんな、熱もまだ下がりきれないある日、雷門中学にひとりの転校生がやってきた。
「え~、みなさんに転校生を紹介します。まあ、このクラスには知らない人はいないと思いますが……」
担任の曽田は教室の中ほどに席している円堂の顔をちらり、と見ると入り口に立っている女生徒に声をかけた。
「フユッペ!?」
速攻で反応したのは当の円堂だ。今ままで他の中学に居たはずの冬花が、雷門の制服ではにかみながら教壇の曽田の隣りに立った。
イナズマジャパンのマネージャーとして円堂たちの面倒を見てきたときは、違う制服だったが、雷門の制服も彼女にはじゅうぶん似合っていた。
「今日から君たちと勉学を共にする、久遠冬花くんだ。まあ、学期末までそう日はないが、クラスメイトとして仲良くするように」
曽田が頷くなり、冬花はぺこりとみんなにお辞儀をすると、
「久遠冬花です。短いあいだですがよろしくお願いします」
と、挨拶してにっこりと微笑んだ。
「久遠くんの席は……、東。きみの隣りで」
曽田が円堂の後ろにいる東を指差した。
「しかし、びっくりしたなぁ……。フユッペが雷門に転校してくるなんて」
幼馴染みである円堂は、休み時間に何度か冬花に話しかけたが、あまりたいした時間も取れず、結局ゆっくり話せるのは昼休みになってからだった。
とはいえ、クラスには同じサッカー部の豪炎寺やマネージャーの秋、それに冬花の隣りをご指名された東や、彼らと仲の良い大谷つくしも交えて、ではあったが。
「あのね。マモルくん。実はお父さんが響木さんの代わりに雷門の監督をすることになったの。それで……」
「ええ~~っ!? 久遠監督が雷門に!」
まだ外は冬の様相だが、ヒーターが効いて暖かい教室内に正に青天の霹靂といった円堂の大声が響いた。
「そうなんだ。だから冬花さんも一緒にうちに転校してきたのね」
4人で輪になって冬花を囲んでいた、秋がにっこりと笑う。
「ええ。まだ手術が終わって間もないし、お店の事もあるから、監督の仕事はお父さんに任せるって決めたんだって」
「じゃあ、冬花さんもサッカー部に入ってマネージャーするんだ?」
つくしが冬花と秋の顔を見比べながら言った。
「あ……。いいの、かな?」
冬花が気後れ気味に頬を染めた。
「当然オッケーだよ、なぁ。豪炎寺?」
みんなとは少し離れて椅子に座っていた豪炎寺は円堂にそう、話を振られてたじろぐ。
「いや、俺に聞かれても」
「そうしてもらえると助かるわ。うちのサッカー部、FFI後に部員が大量に増えちゃって。3人だけじゃ大変だったの」
空気を読んだ秋がさりげなくフォローを入れた。
「じゃあ、喜んでマネージャーつとめさせていただきます。秋さん、マモルくん、それに豪炎寺くんも、これからよろしく」
3人の顔を見回して、冬花は礼をした。そんな彼女の手を秋が取って、互いににっこり笑った。
「それにしても……、夏未さまに音無にそれに久遠さんか。サッカー部、可愛い子ばっかりで優遇され過ぎだろ?」
それまでずっとみんなの会話を聞いていた東が、頬杖をついて心底羨ましそうに呟いた。
「もちろん、秋ちゃんも可愛いわよ」
何気に忘れられた秋の名を、つくしは付け足して東の顔を横目で睨んだ。
「あ、そういうお世辞はいいって。だって東くんの言う通り、みんな綺麗だもの……」
「え~? そんなことないって。ねぇ、円堂くん?」
つくしがそう訊くと、円堂はぽかんという顔をした。
「え? う~ん。そうなのか? あんまそういうの、気にしたことないけど」
「あちゃ~~」
ぽりぽりと頬をかく円堂に、つくしと東が同時に呆れた顔をする。
「なに言ってんだよ、円堂。まぁ,お前は昔っからそうだけどよ」
「円堂くんって好きなアイドルとかいないの?」
つくしが訊くと、東がオーバーアクションで手を横に振った。
「あー、ダメダメ。円堂はそう言うのからっきし、だから。美醜の差も分からないんだって」
椅子の背もたれに手をかけて、東は溜息ともつかない息を吐いた。
「いや、だってさ。アイドルとか言ってもさぁ……。大体、フユッペも秋も、夏未も春奈も、風丸とそう変わらないだろ」
「はぁ!?」
今度こそ、つくしが引きつった顔をした。
「そう。円堂は昔っからこうだよ。風丸と比べるなんて、よく分からねー」
「……いや。風丸なら仕方ないな……」
呆れ顔の東を打ち消すように豪炎寺がぼそりと呟いた。
「えっ? 豪炎寺くん。それどう言う意味?」
豪炎寺のその言葉を聞きつけ、つくしがきょとんとした目で見る。豪炎寺は気まずそうな顔をした。
「あら? 噂をすればなんとやらよ」
秋が教室の入り口から、当の風丸が円堂に呼びかけてきたのに気がついたのだ。
「円堂、昨日お前に貸した……」
「お久しぶり。風丸くん」
近寄ってきた風丸に、冬花がはきはきした声で話しかけた。
「えっ、久遠!? 何でここに……って、その制服……」
風丸は冬花が雷門の制服に身を包んでいるのを、びっくりした顔で見る。
「驚いたろ! フユッペうちに転校してきたんだぜ」
「あ、ああ……。そうなんだ」
にっこり笑う円堂と冬花の顔を見比べて、風丸は納得したように頷いた。
「で、それはいいけど円堂。お前に、俺のアルトリコーダー貸したままなんだけど」
「あ! 忘れてた」
円堂は立ちあがると、ロッカーに突っ込んである借りっ放しのリコーダーを探し出すと、風丸に差し出した。
「ありがとうな。お陰で助かった」
「今度は忘れるなよ」
にかっと笑いながら返す円堂の顔を、肩をすくめて風丸は受け取る。そのまま自分の教室に帰ろうとする風丸の肩に、つくしは手を置いた。
「さぁさぁ。風丸くんも私たちに付き合おうね?」
「な、何だよ?」
半ば強制的に彼らの会話に加わられた風丸は、みんなの好奇心が覗く目を見て、身をすくめた。
「今ちょうど、風丸くんの話してたのよ」
秋がそう説明すると、風丸は呆れた顔でちらりと円堂の顔を見た。
「まさか……。円堂が変なことでも言ったか?」
「いやさ。大谷が俺に好きなアイドルがどうとか……。で、フユッペも秋も、お前と変わんねーだろ? って」
円堂の話に風丸が今度は首を捻った。
「円堂、話が見えない。俺の何が変わらないんだ?」
「つまりさ。円堂は、久遠さんがこんなとこ居るのが不思議なくらい綺麗だってのに、お前とたいした変わらないとか言ってるんだ」
代わりに東が分かり易いように説明すると、風丸と冬花が同時に顔を赤くした。
「おかしいだろ? 変だろ? 何で比較対象が風丸になるんだよ」
ぼやく東に、冬花が膝の上に置いた手の指を、もじもじと恥じらいながら交互に組み合わせた。
「いえそんな……。私、東くんが言うほど綺麗なんかじゃないです……」
「謙遜だよ、それは~。俺、午前中、授業中ずっと隣りで緊張しまくったんだから」
「緊張って、……東の方が変だぞ。フユッペとは小1の頃、一緒に遊んでただろ!?」
東の言葉に、逆に円堂が首を傾げた。
「そりゃ、お互い小っちゃかったし。それだって7年も前の話だぜ。もうその頃の記憶なんておぼろげだしさ、正直な話!」
「でも、私、マモルくんと東くんのことおぼえてる。マモルくんの家の近くの公園で遊んだよね」
冬花がそう言うと、円堂はうんうんと頷いた。だが、冬花はそれまで、はにかみ気味だったのを突然何かに気づいたようにはっと顔を上げた。そして視線をひとりの顔に集中する。
「そういえば、私、風丸くんと遊んだおぼえがない……」
彼女が過去に遭遇した不幸なことで無くしかけた記憶を、辿りながら風丸の顔をじっと目を凝らしてみるが、おぼろげな思い出の中にそれは見いだせなかった。
「そりゃあ、そうだろ。俺が稲妻町に越してきたのは2年生のときだ」
回答はすぐに当の本人が発した。
「えっ?」
だが、違う疑問がみんなの中にひろがった。
「円堂くんと風丸くんって、小さい頃からの仲だって話じゃなかったっけ?」
つくしが言うと、秋も首をちょこんと傾げた。
「私もそう聞いたけど」
「その通りだぜ。……あ、そういや、フユッペが稲妻町にいたときは、風丸あんま、うちに来てなかったよなぁ……」
更に深まる疑問に、
「どういうこと?」
と、つくしが風丸に視線を送った。一瞬、ぎょっとした風丸はみんなの顔を見回す。
「それは……。いやでも、ここでそんな話しても、面白くなんかないぜ?」
だが、冬花が興味ありげに首を振った。
「ううん。私、マモルくんと風丸くんの小さい頃の話聞きたいな」
「私も聞いてみたいわ」
冬花に続き秋が頷くと、はやすようにつくしが微笑んだ。
「風丸くん、言っちゃえ、言っちゃえ。この際だもん」
いつの間にか、みんなから離れて話を聞いていた豪炎寺が身を乗り出して聞き入ってるのを、ちらりと見ると風丸は思いなおして、姿勢を正して話し始めた。
「そうだな。……まず、円堂のお母さんと俺ん家の母さんが元々高校の同級生でな。俺がまだ幼稚園に入る前から、よく円堂ん家に遊びに行ってたんだ」
「そうそう。東おぼえてないか?」
「あ~。なんかおぼえてるような、おぼえてないような……」
「俺はその頃、ずっと離れてる所だったんだけど、何度も来てるうち、うちの親が稲妻町をすっかり気に入っちまってさ。で、やっと中古でいい家が見つかったから、引っ越してきたのがちょうど小2のとき」
「小1のときはずっと空家探したんだっけ?」
「そう。だから、そんときはあんま、円堂んとこ遊びに行ってないしな」
「あ、思いだした。風丸が転校してきたときも、円堂。お前今日みたいにすげぇはしゃいでたな、そういや」
3人の話を、残りの3人は頷いたり興味深そうに感心して聞いていた。
「そっから、風丸は俺の親友だった。前は週によくて一回くらいしか会えなかったけど、そんときからは毎日一緒だったからさ!」
円堂がぼくとくな調子でそう言うと、風丸はほんの少し頬を赤らめた。
「あ。そういや、思いだしたんだけど、ちょっと不満なことあってさ……」
「何だ? 不満って」
眉をひそめる風丸に、円堂はちょっと頬を膨らませた。
「その。稲妻町に越してきたときから、風丸、俺のこと『マモル』って呼ばなくなっちゃって……」
風丸ががくりと肩を落とすと呆れた顔を向けた。
「当たり前だろ! 他の奴らだって、みんな『円堂』って名字で呼んでただろ?」
「『いっちゃん』って呼ぶのもダメって言われたときなんか、俺、ほんとにさ。悲しくなって」
「その子供っぽい呼び方、言うなって!」
机にへたり込む円堂の背中を、咎めるように押す風丸を眺めながら、つくしと秋が顔を見合わせる。
「『いっちゃん』……」
「そう呼んでたんだ……」
微笑ましそうにふたりを見ていた冬花は、
「ねぇ、風丸くんの家って、何処にあるの?」
と尋ねた。
「俺の家?」
顔を上げておうむ返しする風丸に冬花は頷いた。
「ああ。んとな……、円堂ん家のそばにある公園から河川敷の方に5丁ぶん行ったとこに、『稲妻ニュータウン』ってアーチがあるだろ。そこから入って3軒目の青い屋根の家」
頭で距離を測りながら、風丸はそう説明した。目を伏せてそれを反芻した冬花は突然、目をびくりと見開いた。
「『稲妻ニュータウン』……、3軒目の青い屋根……!」
「それがどうかしたのか?」
一瞬、固まった冬花は次に頬を薔薇色に染めた。
「風丸くんの家……、もしかして、私が昔住んでた……、かも」
「え~~っ!?」
途端に円堂が素っ頓狂な声を上げた。
「いやだって、フユッペん家ってさ。……あれっ?」
「そういや、俺。小さい頃の久遠さん、いつも公園でしか見たことなかったな」
東がそう漏らすと、冬花は頷く。
「うん。私、マモルくんたちと遊ぶときはいつも公園行ってたから、家は知らない……はず」
「それって、すごい偶然じゃない? だって冬花さんと風丸くんの家が同じだったんだよ」
秋が両手を組んで嬉々とした声を上げた。
「なんか……偶然か。驚いたな」
目を瞬いて、驚きを隠せない風丸に、豪炎寺がそっと呟いた。
「いいや、偶然じゃない。久遠の家が引っ越したから、空いた家に風丸が入ってきた。それまで、ずっとお前の親は家を探してたんだろう? これは必然だ」
豪炎寺の言葉をみんなは染み入るように聞いた。
「偶然じゃなくて、必然か!」
「俺たちがここにいるのも……偶然なんかじゃなくて、必然なのかもな」
「それって、とても素敵ね」
互いに互いの顔を見て、みんなは頷き合う。
「ねぇ、風丸くん。今度、お家に行っていい、かな?」
冬花が尋ねると、風丸は顔を赤らめながらも、
「いいけど……。俺ん家たいして見るものないぜ?」
と答える。すると、豪炎寺がぼそりと言った。
「お前の家は花がたくさん咲いてるから、女子なら喜ぶんじゃないのか?」
「んっ? 何で豪炎寺くん、そんなこと知ってるのかな~?」
聞き捨てならないと、つくしがにやにや笑うと、豪炎寺はぶっきらぼうにそっぽを向く。ちょうど鳴りだした予鈴のチャイムを、風丸に指で示した。
それを機会に、みんな立ちあがった。
返してもらったリコーダーを手に他のクラスへ帰る風丸の背中と、背伸びをして元の席に戻る円堂。黙ったまま窓側の席に着く豪炎寺。頷いて微笑む秋とつくしの顔を冬花はじっとみつめて、そして呟いた。
「必然。それって、とても素敵なこと、ね……」
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