投稿日:2016年05月30日 16:44 文字数:17,122
HOPE1:そうだ、デートに行こう!
サイトから再掲。
円←風前提の豪風です。
基本、三人で買い物してるだけのお話なので行為とかはないです。まだw
以下は当時のあとがき。
円←風←豪の基本形として、書いてみました。
今回新しく挑戦したのは、完全一人称。
下書き途中までは豪炎寺よりの三人称だったのを、こっちの方がいいやと書き直してしまった。
それにしても、豪炎寺が気の毒すぎたので、どうにかして思いを遂げさせてやりたいんですがw、そうしたら風丸に円堂を諦めさせるしかないという苦痛な選択。
ま、円堂×サッカーもある意味公式だからなw。
そういうワケで、いずれ続きを書く予定、です。
<2009/9/3脱稿>
円←風前提の豪風です。
基本、三人で買い物してるだけのお話なので行為とかはないです。まだw
以下は当時のあとがき。
円←風←豪の基本形として、書いてみました。
今回新しく挑戦したのは、完全一人称。
下書き途中までは豪炎寺よりの三人称だったのを、こっちの方がいいやと書き直してしまった。
それにしても、豪炎寺が気の毒すぎたので、どうにかして思いを遂げさせてやりたいんですがw、そうしたら風丸に円堂を諦めさせるしかないという苦痛な選択。
ま、円堂×サッカーもある意味公式だからなw。
そういうワケで、いずれ続きを書く予定、です。
<2009/9/3脱稿>
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それは円堂が漏らした一言から始まった。
「あー……、グローブ、穴があいちゃってる」
サッカー部の部室でユニフォームに着替え、それをはめようとした円堂がすり切れを見つけ溜息を付いたのだ。指で摘んでぶらぶらと振ってみせる。
「本当だな。もう替え時じゃないのか?」
屈んでシューズの紐を締めていた風丸が、立ち上がって円堂が摘んでいるグローブを見た。
「んー。でもこのグローブ、帝国との練習試合の時から付けてたんだぜ? 愛着がわいちゃってさぁ」
そうぼやく円堂に、風丸は苦笑する。
「それだけ働いたんなら、もう充分だろ。休ませてやったらどうなんだ」
「そっかぁ……」
顔を突き合わせて、親しげに話し合う円堂と風丸を、俺は黙ったまま見つめていた。
ほんの二、三ヶ月前に雷門中学に転校してきた俺にとっては、この二人が古くからの知り合いということしか知らない。円堂が元々このサッカー部の部長で、風丸は陸上部だったらしいが、帝国学園との練習試合の為に助っ人として加わったと聞いたくらいだ。だから知り合いと言っても、いつからなのか、どんないきさつで仲良くなったのかなんて、知る由はない。尤も、その辺りの事情に関しては、他の部員たちも同様らしかったが。
それにしてもこの二人の親密振りには、誰にも割り込めなさそうな雰囲気を周囲に撒き散らしている。
「しょうがないな。新しいの買うか。今までおつかれさん」
円堂はくたびれたグローブを名残惜しそうにぽんと叩く。風丸が足元に目を落とすと、円堂に言った。
「俺のシューズも穴が空きそうなんだ。そろそろ買い替えようと思うんだけど」
「えー、どれどれ」
風丸が右足を上げて、シューズの裏を見せると円堂が覗き込んだ。
「ホントだな」
「今までは走り込みやパスだけで良かったけど、ほら、炎の風見鶏打つようになってから、かなり酷使しただろ。ここん所もうボロボロだぜ」
特に痛みの激しい所を指差すと、風丸は足を下ろした。
「じゃー、ちょうどいい。一緒に買いにいこうぜ!」
「……ああ」
円堂と風丸は一緒にスポーツショップへ行く相談をしている。俺はそれを特に何するでもなく、ぼんやりと見ていた。すると、不意に風丸が振り向いた。
「豪炎寺も行かないか」
「えっ?」
いきなり俺に振ってきた。
答えに窮していると、円堂もそれに同意する。
「そうだな。豪炎寺、ヒマだったら俺たちと一緒に行こうぜ!」
「え……。いつだ?」
「明日の昼過ぎ。何か用事でもあるのか?」
「いや。別に予定はないが……」
「じゃ、決まりだな」
俺がはっきり答えてないのに、円堂はさっさと取り決めてしまった。
「明日は三人で買い物に行くぞ!」
翌日は土曜日だった。サッカー部の練習は午前中だけだったので、昼食を各自の家でとってから、待ち合わせをすることとなった。
俺は自宅のマンションの一室に帰ると、帰り道で買ったコンビニ弁当を食べながら、午後出掛ける時どの服を着ようかと考え込んだ。
円堂と……風丸と一緒か。
やはり少々見栄えのいい服装をするべきだろうか。円堂はあまり気に留めないだろうから、そう気を使うこともないだろう。だが風丸が一緒なら話は別だ。
食べかけの弁当を一旦リビングのテーブルの上に置くと、自分の部屋のクローゼットを開けた。中にかかっているシャツや上着やズボンを次々に出しては、自分の身に当ててみる。合わない奴は全部ベッドの上に放り投げた。どれを着るべきか、どの服なら好印象なのか。
──これじゃまるでデートだ。
はた、とその答えに行き着くと俺は急にバカバカしくなって、ベッドの上に散らばった服を苦笑いして元に戻した。
何を考えているんだ、俺は。普段着で充分だろ。
結局、普段着慣れたTシャツとチノパン、そしてパーカーに着替えた。別に気取ることなんてないのだ。変に気を回したら、逆に不審がられるに違いない。多分、そういう所に彼は敏感だ。
ベッドの上に腰掛けて、あいつのことを考える。
風丸一郎太。同じサッカー部のディフェンスで円堂の親友。
最初会った時は、特に気にも留めてなかったし、今のようにこんなに心の中を支配することもなかった。いや、整った顔立ちと、長く伸ばしたポニーテールに纏めている色素の薄い蒼い髪は、一見少女めいてはいたが。何より長い睫毛に彩られた、前髪で半分隠れている赤茶色の瞳は、とても印象的だった。だが、そんなのはいつも見ていれば慣れて気にならなくなるものだし、俺にとっても単なるチームメイト、そのはずだった。
それなのに最近、風丸のことばかりが気にかかる。丁度、風丸と一緒に協力して行う必殺シュート、炎の風見鶏の特訓の為、二人きりになる機会が多いのも一因だろう。
だが、それにしたって──。
学校の授業中、妹の夕香の看病で病室を訪れている時、こうして自宅に居る時、そして何よりサッカー部の練習中に、風丸の姿が心を占める。グラウンドや校内で、風丸の姿を追ってしまう。どうしてなのかは、俺自身もよく分からない。
冷静で、根が真面目で、後輩たちの面倒をよく見ている。責任感があって芯が強い反面、何処か脆い所があって、その脆い一面を知ってしまったあとは、どうにもあいつのことが気がかりでならなくなった。
多分それがきっかけ。既に後戻りはできず、かと言ってその想いを告げる訳にもいかなかった。何といっても男同士であるという事実からは、抗えようになかった。
俺は溜め息をつくと、ベッドから立ち上がってリビングに戻った。テーブルの上に食べかけのコンビニ弁当があったが、既に食欲はない。蓋を閉めて冷蔵庫に放り込むと、ペットボトルのお茶を飲み干して時計を見る。待ち合わせの時間にはまだ余裕があったが、もう出ることにしようと思った。いや、その前に歯を磨いた方が良いか。
待ち合わせは稲妻駅前、午後の1時半だった。いつもよりも丁寧に歯を磨き上げてから家を出たが、約束の時間には充分すぎる程だった。
「あっ」
待ち合わせ場所の目印は、駅前ロータリーにある雷型のモニュメントだ。そこは稲妻町の住民には格好の待ち合わせ場所として有名らしい。その前に、既に見覚えのあるポニーテールの少年の姿があった。もう来ていたのか。
だが、モニュメントの前で待っていたのは、風丸だけでなく、彼を取り囲むように二人の男が立っていたのだ。
「あいつらは……!」
二人連れには見覚えがある。あれは確か、この町に越してきた当日、たまたま通り縋った時、円堂に絡んでいた二人組だ。それに気がつくと同時に、俺は矢も楯もたまらず走り出した。
二人組はどうやら風丸を女と間違えているらしく、しつこく付きまとっては、あわよくば誘い出して事に及ぼうとしているらしかった。だが勿論、それに軽々と乗ってしまう風丸ではない。
「おい、いいだろ。ヒマなら俺たちと良いトコ行こうぜ」
背の高い方の男が、風丸の腕を引いて連れて行こうとする。
「離せ」
風丸が手を振り払うと、二人の男が気に食わなそうに怒りをあらわにした。
「何だてめぇ!? お高く止まりやがって、このアマ!」
「いやだから俺は女じゃな」
「待て!」
風丸が二人組への反論を言おうとした時、やっと駆けつける事が出来た。
「なんだてめ……あっ!」
背の低い方の男が、俺の顔を覚えていたのか、急に青ざめた。
「マズいよ、安井。こいつ例のサッカーの……」
「な、何だと!?」
二人に睨みをきかせると、俺は低い声を出してやった。
「離れろ。そいつは俺の女だ」
「な!」
二人の男よりも風丸の方が、俺の言葉に反応した。でも俺はそれには構わず、目を剥き出して顔を歪めている男たちに更ににじり寄った。
「ひいいい!」
「おっ、覚えてやがれ!!」
たちまち二人の男たちは、怯えながら捨て台詞を吐いて走り去る。それを見送って、俺はほっと風丸に振り向いた。
「もう来てたのか」
駅舎の時計は、約束の時間の15分前を差している。風丸は釈然としない顔で、頷く。
待ち合わせていた風丸は、いつものユニフォームでもジャージでも学ランでもなく、ブルーと紫のストライプのシャツを羽織って、素肌の上にミントグリーンのタンクトップを着ている。下は白っぽいジーンズにライトブルーのラインが入ったスニーカーで、清潔感のある彼にはとても相応しい格好をしていた。
「な、何だよ。俺、変な格好か?」
余りにも熱心に見てしまったらしい、風丸が俺の視線を感じてたじろいだ。
「あ、いや。……普段着のお前を見るのは初めてだから」
「俺も普段の豪炎寺見るの初めてだけど」
風丸はぶっきらぼうに返す。
「そうだったな」
と、思い返して風丸の横に並ぶと、一瞬右肩と左肩が触れた。すぐさま風丸が一歩離れる。その行為に何だか俺は、ある種の違和感を抱いた。
「風丸」
風丸が二人の男たちに絡まれていたのを思い返す。急にとある考えが頭に浮かんだ。それを実行すべく左腕を伸ばした。横でモニュメントの前に立っている風丸の左肩を掴むと、ぐっと引き寄せる。風丸の体がびくんと反応した。
「何するんだ!?」
大声で叫ぶと、風丸は俺の手を振り払って逃げた。
「あ、いや……。悪い。恋人の振りをしておけば、さっきの奴らみたいなのに絡まれなくて済むだろうと……」
「はぁ!?」
風丸は呆れた顔をして、身構えたかと思うとそっぽを向いた。
──しまった。機嫌を損ねたか?
「豪炎寺」
そっぽを向いたまま、風丸が俺の名を呼んだ。
「さっきも、あいつら追い払うのに『俺の女』とか言ったな? 今だって恋人の振りとか言って、俺を女扱いしている」
「あ……」
風丸の機嫌が悪い理由にやっと思い当たった。
「確かに俺、よく女に間違えられるさ。……うん。それは俺の外見の所為だって分かってる。分かってるけど、そんな風に扱われるのはちょっと……癪に障る」
最後の方は小声で呟くように言った。
「風丸」
普段、どちらかと言えば冷静で、あまり感情を表に出さない風丸が、こんな風に思ってる事をむき出しにするのは初めて見るし、その原因が自分の迂闊な行為にあると分かり、心底済まないと思った。
「悪かった、風丸。お前の気持ちとか全く考えてなかった。でも、俺はお前が誰よりも男らしい奴だって事くらい、ちゃんと分かってるつもりだ」
そこまで言うと、深く頭を下げた。
「本当に、済まない」
「豪炎寺……」
流石に風丸も言い過ぎたと思ったのか、少し態度が軟化した。
「もういいよ。頭まで下げる事ないだろ」
「しかし、お前を怒らせたのは確かだ」
「もういいって」
頭さえ元に戻したが下を向いたままでいると、風丸はすっと横に立って、俺の左手に右手を絡めると、ぎゅっと握った。
──えっ?
思わず風丸の顔を伺うと、ほんの少し頬を染めてはにかんだ笑顔を見せた。
「恋人の振りするなら、手を握ってるだけで充分だろ……」
「あ、……ああ」
今俺の左手の中に風丸の右手がある。思ってる以上に柔らかい手だ。掌から風丸の温もりが広がる。次第に左手が汗ばみ、鼓動はどきどきと高鳴る。風丸に気付かれるかと思ったが、そ知らぬ顔をしていた。
「円堂の奴、遅いな……」
ロータリーに繋がる道路を見て、風丸は円堂がなかなか現れないのを不安げに立っている。駅舎の時計は当に約束の時間を過ぎていた。
「ああ。一体どうしたんだろうな」
風丸と俺との間に、一瞬の間が訪れる。何か話題がないだろうかと思ったが、気の利いた台詞一つ思いつかなかった。自分の不器用さを思わず呪う。互いの手が汗ばむ程に握りあい、肩と肩とが触れ合う程接近しているのに、俺には風丸が遠く離れてるように感じた。
そう言えば今までも二人きりになった時、大した話はしてなかった。俺は汗で滑りそうになる掌を、ぐっと握り直すと風丸に呼びかけた。
「風丸、お前に」
「あ!」
握り直した手は突然、するりと払われ、呼びかけた言葉は宙に消える。
「円堂!!」
顔をほころばせた風丸が、ロータリーの向こうから駆けてくる円堂に手を振った。円堂も手を振り返して叫ぶ。
「おお~い!! 風丸! 豪炎寺!」
円堂はブルーのTシャツとジーパンに、ワンショルダーのリョックを引っ掛けた格好で、モニュメントの前まで駆け寄るとはあはあと肩で息をついた。
「遅かったじゃないか、円堂」
時計を見ると優に2時近くになっていた。
「悪い悪い。ちゃんと間に合うように家を出るつもりだったんだけど、母ちゃんに部屋の掃除しとけって、言われちゃったからさ」
顔の前に立てた掌で、謝る格好をする円堂に、風丸は仕方なさそうに肩を竦めた。
「お前のお母さん、そういう所厳しいからな」
「いや、ホントごめん。でも二人だったから、退屈はしなかっただろ?」
「あ……」
俺は思わず口を噤んだ。風丸が二人組に絡まれていた事、そいつらを追っ払った時、気まずい空気になったこと。そして難を逃れる為に、恋人の振りして手を握りあってた事……。それらを円堂に報告すべきだろうか。
だが風丸は、そんな事は一切感じさせずに、こくんと円堂に頷いた。
「ああ」
円堂に余計な心配をかけさせたくないのだろうか。俺はそれに対する言葉を飲み込んでしまった。
「よしっ。ちょっと遅れたけど、とりあえず行こうぜ!」
円堂は風丸と俺を見て、こくこくと頷くと右手を大きく振り上げた。
「あー……、グローブ、穴があいちゃってる」
サッカー部の部室でユニフォームに着替え、それをはめようとした円堂がすり切れを見つけ溜息を付いたのだ。指で摘んでぶらぶらと振ってみせる。
「本当だな。もう替え時じゃないのか?」
屈んでシューズの紐を締めていた風丸が、立ち上がって円堂が摘んでいるグローブを見た。
「んー。でもこのグローブ、帝国との練習試合の時から付けてたんだぜ? 愛着がわいちゃってさぁ」
そうぼやく円堂に、風丸は苦笑する。
「それだけ働いたんなら、もう充分だろ。休ませてやったらどうなんだ」
「そっかぁ……」
顔を突き合わせて、親しげに話し合う円堂と風丸を、俺は黙ったまま見つめていた。
ほんの二、三ヶ月前に雷門中学に転校してきた俺にとっては、この二人が古くからの知り合いということしか知らない。円堂が元々このサッカー部の部長で、風丸は陸上部だったらしいが、帝国学園との練習試合の為に助っ人として加わったと聞いたくらいだ。だから知り合いと言っても、いつからなのか、どんないきさつで仲良くなったのかなんて、知る由はない。尤も、その辺りの事情に関しては、他の部員たちも同様らしかったが。
それにしてもこの二人の親密振りには、誰にも割り込めなさそうな雰囲気を周囲に撒き散らしている。
「しょうがないな。新しいの買うか。今までおつかれさん」
円堂はくたびれたグローブを名残惜しそうにぽんと叩く。風丸が足元に目を落とすと、円堂に言った。
「俺のシューズも穴が空きそうなんだ。そろそろ買い替えようと思うんだけど」
「えー、どれどれ」
風丸が右足を上げて、シューズの裏を見せると円堂が覗き込んだ。
「ホントだな」
「今までは走り込みやパスだけで良かったけど、ほら、炎の風見鶏打つようになってから、かなり酷使しただろ。ここん所もうボロボロだぜ」
特に痛みの激しい所を指差すと、風丸は足を下ろした。
「じゃー、ちょうどいい。一緒に買いにいこうぜ!」
「……ああ」
円堂と風丸は一緒にスポーツショップへ行く相談をしている。俺はそれを特に何するでもなく、ぼんやりと見ていた。すると、不意に風丸が振り向いた。
「豪炎寺も行かないか」
「えっ?」
いきなり俺に振ってきた。
答えに窮していると、円堂もそれに同意する。
「そうだな。豪炎寺、ヒマだったら俺たちと一緒に行こうぜ!」
「え……。いつだ?」
「明日の昼過ぎ。何か用事でもあるのか?」
「いや。別に予定はないが……」
「じゃ、決まりだな」
俺がはっきり答えてないのに、円堂はさっさと取り決めてしまった。
「明日は三人で買い物に行くぞ!」
翌日は土曜日だった。サッカー部の練習は午前中だけだったので、昼食を各自の家でとってから、待ち合わせをすることとなった。
俺は自宅のマンションの一室に帰ると、帰り道で買ったコンビニ弁当を食べながら、午後出掛ける時どの服を着ようかと考え込んだ。
円堂と……風丸と一緒か。
やはり少々見栄えのいい服装をするべきだろうか。円堂はあまり気に留めないだろうから、そう気を使うこともないだろう。だが風丸が一緒なら話は別だ。
食べかけの弁当を一旦リビングのテーブルの上に置くと、自分の部屋のクローゼットを開けた。中にかかっているシャツや上着やズボンを次々に出しては、自分の身に当ててみる。合わない奴は全部ベッドの上に放り投げた。どれを着るべきか、どの服なら好印象なのか。
──これじゃまるでデートだ。
はた、とその答えに行き着くと俺は急にバカバカしくなって、ベッドの上に散らばった服を苦笑いして元に戻した。
何を考えているんだ、俺は。普段着で充分だろ。
結局、普段着慣れたTシャツとチノパン、そしてパーカーに着替えた。別に気取ることなんてないのだ。変に気を回したら、逆に不審がられるに違いない。多分、そういう所に彼は敏感だ。
ベッドの上に腰掛けて、あいつのことを考える。
風丸一郎太。同じサッカー部のディフェンスで円堂の親友。
最初会った時は、特に気にも留めてなかったし、今のようにこんなに心の中を支配することもなかった。いや、整った顔立ちと、長く伸ばしたポニーテールに纏めている色素の薄い蒼い髪は、一見少女めいてはいたが。何より長い睫毛に彩られた、前髪で半分隠れている赤茶色の瞳は、とても印象的だった。だが、そんなのはいつも見ていれば慣れて気にならなくなるものだし、俺にとっても単なるチームメイト、そのはずだった。
それなのに最近、風丸のことばかりが気にかかる。丁度、風丸と一緒に協力して行う必殺シュート、炎の風見鶏の特訓の為、二人きりになる機会が多いのも一因だろう。
だが、それにしたって──。
学校の授業中、妹の夕香の看病で病室を訪れている時、こうして自宅に居る時、そして何よりサッカー部の練習中に、風丸の姿が心を占める。グラウンドや校内で、風丸の姿を追ってしまう。どうしてなのかは、俺自身もよく分からない。
冷静で、根が真面目で、後輩たちの面倒をよく見ている。責任感があって芯が強い反面、何処か脆い所があって、その脆い一面を知ってしまったあとは、どうにもあいつのことが気がかりでならなくなった。
多分それがきっかけ。既に後戻りはできず、かと言ってその想いを告げる訳にもいかなかった。何といっても男同士であるという事実からは、抗えようになかった。
俺は溜め息をつくと、ベッドから立ち上がってリビングに戻った。テーブルの上に食べかけのコンビニ弁当があったが、既に食欲はない。蓋を閉めて冷蔵庫に放り込むと、ペットボトルのお茶を飲み干して時計を見る。待ち合わせの時間にはまだ余裕があったが、もう出ることにしようと思った。いや、その前に歯を磨いた方が良いか。
待ち合わせは稲妻駅前、午後の1時半だった。いつもよりも丁寧に歯を磨き上げてから家を出たが、約束の時間には充分すぎる程だった。
「あっ」
待ち合わせ場所の目印は、駅前ロータリーにある雷型のモニュメントだ。そこは稲妻町の住民には格好の待ち合わせ場所として有名らしい。その前に、既に見覚えのあるポニーテールの少年の姿があった。もう来ていたのか。
だが、モニュメントの前で待っていたのは、風丸だけでなく、彼を取り囲むように二人の男が立っていたのだ。
「あいつらは……!」
二人連れには見覚えがある。あれは確か、この町に越してきた当日、たまたま通り縋った時、円堂に絡んでいた二人組だ。それに気がつくと同時に、俺は矢も楯もたまらず走り出した。
二人組はどうやら風丸を女と間違えているらしく、しつこく付きまとっては、あわよくば誘い出して事に及ぼうとしているらしかった。だが勿論、それに軽々と乗ってしまう風丸ではない。
「おい、いいだろ。ヒマなら俺たちと良いトコ行こうぜ」
背の高い方の男が、風丸の腕を引いて連れて行こうとする。
「離せ」
風丸が手を振り払うと、二人の男が気に食わなそうに怒りをあらわにした。
「何だてめぇ!? お高く止まりやがって、このアマ!」
「いやだから俺は女じゃな」
「待て!」
風丸が二人組への反論を言おうとした時、やっと駆けつける事が出来た。
「なんだてめ……あっ!」
背の低い方の男が、俺の顔を覚えていたのか、急に青ざめた。
「マズいよ、安井。こいつ例のサッカーの……」
「な、何だと!?」
二人に睨みをきかせると、俺は低い声を出してやった。
「離れろ。そいつは俺の女だ」
「な!」
二人の男よりも風丸の方が、俺の言葉に反応した。でも俺はそれには構わず、目を剥き出して顔を歪めている男たちに更ににじり寄った。
「ひいいい!」
「おっ、覚えてやがれ!!」
たちまち二人の男たちは、怯えながら捨て台詞を吐いて走り去る。それを見送って、俺はほっと風丸に振り向いた。
「もう来てたのか」
駅舎の時計は、約束の時間の15分前を差している。風丸は釈然としない顔で、頷く。
待ち合わせていた風丸は、いつものユニフォームでもジャージでも学ランでもなく、ブルーと紫のストライプのシャツを羽織って、素肌の上にミントグリーンのタンクトップを着ている。下は白っぽいジーンズにライトブルーのラインが入ったスニーカーで、清潔感のある彼にはとても相応しい格好をしていた。
「な、何だよ。俺、変な格好か?」
余りにも熱心に見てしまったらしい、風丸が俺の視線を感じてたじろいだ。
「あ、いや。……普段着のお前を見るのは初めてだから」
「俺も普段の豪炎寺見るの初めてだけど」
風丸はぶっきらぼうに返す。
「そうだったな」
と、思い返して風丸の横に並ぶと、一瞬右肩と左肩が触れた。すぐさま風丸が一歩離れる。その行為に何だか俺は、ある種の違和感を抱いた。
「風丸」
風丸が二人の男たちに絡まれていたのを思い返す。急にとある考えが頭に浮かんだ。それを実行すべく左腕を伸ばした。横でモニュメントの前に立っている風丸の左肩を掴むと、ぐっと引き寄せる。風丸の体がびくんと反応した。
「何するんだ!?」
大声で叫ぶと、風丸は俺の手を振り払って逃げた。
「あ、いや……。悪い。恋人の振りをしておけば、さっきの奴らみたいなのに絡まれなくて済むだろうと……」
「はぁ!?」
風丸は呆れた顔をして、身構えたかと思うとそっぽを向いた。
──しまった。機嫌を損ねたか?
「豪炎寺」
そっぽを向いたまま、風丸が俺の名を呼んだ。
「さっきも、あいつら追い払うのに『俺の女』とか言ったな? 今だって恋人の振りとか言って、俺を女扱いしている」
「あ……」
風丸の機嫌が悪い理由にやっと思い当たった。
「確かに俺、よく女に間違えられるさ。……うん。それは俺の外見の所為だって分かってる。分かってるけど、そんな風に扱われるのはちょっと……癪に障る」
最後の方は小声で呟くように言った。
「風丸」
普段、どちらかと言えば冷静で、あまり感情を表に出さない風丸が、こんな風に思ってる事をむき出しにするのは初めて見るし、その原因が自分の迂闊な行為にあると分かり、心底済まないと思った。
「悪かった、風丸。お前の気持ちとか全く考えてなかった。でも、俺はお前が誰よりも男らしい奴だって事くらい、ちゃんと分かってるつもりだ」
そこまで言うと、深く頭を下げた。
「本当に、済まない」
「豪炎寺……」
流石に風丸も言い過ぎたと思ったのか、少し態度が軟化した。
「もういいよ。頭まで下げる事ないだろ」
「しかし、お前を怒らせたのは確かだ」
「もういいって」
頭さえ元に戻したが下を向いたままでいると、風丸はすっと横に立って、俺の左手に右手を絡めると、ぎゅっと握った。
──えっ?
思わず風丸の顔を伺うと、ほんの少し頬を染めてはにかんだ笑顔を見せた。
「恋人の振りするなら、手を握ってるだけで充分だろ……」
「あ、……ああ」
今俺の左手の中に風丸の右手がある。思ってる以上に柔らかい手だ。掌から風丸の温もりが広がる。次第に左手が汗ばみ、鼓動はどきどきと高鳴る。風丸に気付かれるかと思ったが、そ知らぬ顔をしていた。
「円堂の奴、遅いな……」
ロータリーに繋がる道路を見て、風丸は円堂がなかなか現れないのを不安げに立っている。駅舎の時計は当に約束の時間を過ぎていた。
「ああ。一体どうしたんだろうな」
風丸と俺との間に、一瞬の間が訪れる。何か話題がないだろうかと思ったが、気の利いた台詞一つ思いつかなかった。自分の不器用さを思わず呪う。互いの手が汗ばむ程に握りあい、肩と肩とが触れ合う程接近しているのに、俺には風丸が遠く離れてるように感じた。
そう言えば今までも二人きりになった時、大した話はしてなかった。俺は汗で滑りそうになる掌を、ぐっと握り直すと風丸に呼びかけた。
「風丸、お前に」
「あ!」
握り直した手は突然、するりと払われ、呼びかけた言葉は宙に消える。
「円堂!!」
顔をほころばせた風丸が、ロータリーの向こうから駆けてくる円堂に手を振った。円堂も手を振り返して叫ぶ。
「おお~い!! 風丸! 豪炎寺!」
円堂はブルーのTシャツとジーパンに、ワンショルダーのリョックを引っ掛けた格好で、モニュメントの前まで駆け寄るとはあはあと肩で息をついた。
「遅かったじゃないか、円堂」
時計を見ると優に2時近くになっていた。
「悪い悪い。ちゃんと間に合うように家を出るつもりだったんだけど、母ちゃんに部屋の掃除しとけって、言われちゃったからさ」
顔の前に立てた掌で、謝る格好をする円堂に、風丸は仕方なさそうに肩を竦めた。
「お前のお母さん、そういう所厳しいからな」
「いや、ホントごめん。でも二人だったから、退屈はしなかっただろ?」
「あ……」
俺は思わず口を噤んだ。風丸が二人組に絡まれていた事、そいつらを追っ払った時、気まずい空気になったこと。そして難を逃れる為に、恋人の振りして手を握りあってた事……。それらを円堂に報告すべきだろうか。
だが風丸は、そんな事は一切感じさせずに、こくんと円堂に頷いた。
「ああ」
円堂に余計な心配をかけさせたくないのだろうか。俺はそれに対する言葉を飲み込んでしまった。
「よしっ。ちょっと遅れたけど、とりあえず行こうぜ!」
円堂は風丸と俺を見て、こくこくと頷くと右手を大きく振り上げた。
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