投稿日:2016年06月01日 16:20 文字数:15,468
HOPE:2 ふたりの距離
サイトから再掲。
そうだ、デートに行こう!https://pictbland.net/items/detail/162856の続きです。
豪風キス話。風丸さん視点です。
以下は当時のあとがき。
やったね! とりあえずキスで始まってキスで終わりましたよ。
それにしても円堂に傾いてる風丸さんを無理矢理豪炎寺に向かせるには、大変苦労するってことが分かりました。
風丸さんは色々考え過ぎだ。でもまあ一杯悩むといいよ!
豪炎寺はもっとがんばれよぅ!
……と言うわけでまだ続きがあるんですが、10月2日豪風の日までは無理っぽいので、いずれなんとかしようと思います。
<2009/09/30 脱稿>
そうだ、デートに行こう!https://pictbland.net/items/detail/162856の続きです。
豪風キス話。風丸さん視点です。
以下は当時のあとがき。
やったね! とりあえずキスで始まってキスで終わりましたよ。
それにしても円堂に傾いてる風丸さんを無理矢理豪炎寺に向かせるには、大変苦労するってことが分かりました。
風丸さんは色々考え過ぎだ。でもまあ一杯悩むといいよ!
豪炎寺はもっとがんばれよぅ!
……と言うわけでまだ続きがあるんですが、10月2日豪風の日までは無理っぽいので、いずれなんとかしようと思います。
<2009/09/30 脱稿>
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みんな必死だった。闇雲でも走り続けて、もがき続けていた。
それでもどうしようもないくらい、圧倒的な力の差。
俺もまともな試合なんか初めてだったから、それこそ必死だし、あいつらは終いには円堂一人を攻撃するから、体を張ってでも護るしかなかった。
けれどもたかが1週間程度の練習じゃ、追い縋るどころじゃなかった。
でもそこへ現れたのは、それこそ救世主と言うべきものかもしれない。円堂があれほど肩入れしてたワケだ。
(あいつのシュートさ、凄いんだぜ! 風丸も一辺見たらすぐに、俺の気持ちが分かるって!)
そう言って顔をほころばせた円堂。
一体どんな奴なんだ。お前をそこまで喜ばせる奴なんて──。
正直嫉妬した。俺じゃ、ダメなのか。
……いや、ダメなんだろうな。俺は元々陸上部だし、円堂には精々サッカーの練習に付き合ってあげてた程度だ。
でも結局、円堂の言う“そいつ”は円堂と同じクラスに転校したものの、サッカー部には寄らず終いで、どういう格好の奴なのか、どんなプレースタイルなのか、どんな性格の奴なのか……は、全く分からないままだった。
円堂には悪いが、所詮その程度の奴だったんじゃないか。俺はそう思ってた。でも。
宙を舞うあいつ。
紅蓮の軌道を描いて、帝国のゴールポストを直撃するシュートを放ったあいつ。
──ああ、正直に言うよ。
そのシュートに俺は、見蕩れてしまった。
初めて感じたサッカーの熱さ。それ、そのもの。
たった1本のシュートがみんなの気持ちさえ変えてしまえるだなんて。
俺の胸にずっとそれは、微熱のように刻まれてしまった。
ふたりの距離
俺たち雷門中サッカー部は、ついこの間、元帝国学園の鬼道が入ってきたかと思えば、更に今度はアメリカからやって来たという──しかも、土門とマネージャーの木野とは幼馴染みらしい──一之瀬が入部してきたものだから、いつの間にか全部で15人という部活動としてはまずまずの人数になっていた。
陸上部で俺が円堂とサッカーの練習に付き合ってやってた頃はまだ7人だったから、倍以上になり、円堂もよっぽど嬉しいのか、このところ毎日すこぶる元気だ。
「よーし! 今日も練習、頑張ろうぜ!」
「ああ。俺と土門とお前の必殺技、もっとパーフェクトにしたいしね!」
「円堂、次の試合のフォーメーションなんだが」
「円堂、練習メニューの件だけど」
「円堂くん。タオル洗濯終わったからベンチに運んでいいかな?」
最近、円堂の周りにはしょっちゅう誰かが側にいる状態になり、円堂自身もそれを気にする事なく、精力的に日々を過ごしている。
いつの間にやら、俺はそれを遠巻きに見るようになっていた。
「風丸さん。ランニングの先導お願いします」
円堂を遠くから眺めていた俺に、1年たちが頭を下げてきた。
「ああ……。分かった、今行く」
俺は円堂のそばに行くと、ランニングを始めると声をかけたが、鬼道と何やら相談してるらしくて、他の2年たちを促すと俺に、
「悪い、風丸。作戦会議中だからさ。他のみんなを頼むぜ」
と、両手を合わせて謝るポーズを取った。
俺は肩を竦めて了解すると、円堂はニッと笑って俺を見送った。
ランニングは、校庭と学校の外周を2周。俺が先導して音頭をとる。途中、ベンチの辺りで鬼道と会話してる円堂を見たら、何だか胸の辺りがもやもやした。
いつもの通りにやったはずなのに、ランニングが終わった途端に、1年たちがバテたのかグラウンドにへばり込んだ。
「……今日のランニング、キツいッスよ~!」
「そうでやんす。ちょっとピッチが速かったんじゃないでやんすか、風丸さん」
「えっ」
俺は思わず、息を切らせて座り込んでいる1年たちを見下ろした。ちくりと胸が痛む。
「だらしねえぞ、1年。次の試合は準決勝だし、もっと練習量上げないと勝てるもんも勝てねぇだろ。それでランニングのピッチも速くした。そうだろ? 風丸」
腰に手を当てて染岡が俺に言う。
「あ、ああ……」
頷いたが、それは嘘だ。本当は……二人だけで話し合う円堂と鬼道を見て、思わず足を速めてしまった。後ろめたさが俺の胸に忍び込んだ。
「あのさー、ちょっと訊きたいんだけど」
いつの間にか俺の足元にマックスがしゃがみ込んで、じっと真下を覗き込んでいる。
「な、何だよ?」
「風丸が足につけてるミサンガ、豪炎寺のとおそろい、だよね?」
「えっ!?」
俺だけでなく、周りの皆が反応した。それぞれ俺の足首と豪炎寺の手首を見比べる。
「あ、ホントだ」
「柄だけ同じの色違いですねー」
「ってか、ペアなんじゃね?」
興味津々で俺と豪炎寺を見るみんなの視線が居たたまれなくて、俺は慌てて首を振った。
「あ、いや。同じ店で買ったし。って言うか、俺のは貰いもので豪炎寺のはあげたんだけど……。いやいや、円堂も同じのしてるから別にペアってワケじゃ……!」
しどろもどろになって俺は訳を言う。その間、豪炎寺は黙ってそっぽを向いていた。
「なんだ。円堂も同じのしてるのか」
「グローブで見えなかったでやんすねー」
「いいなぁ。3人でおそろい、いいなぁ……」
羨ましげな顔のみんなを見て、俺はうんざりと汗ばんだ額にかかる前髪を払いのけた。
「そんなに欲しいんなら、お前らにもやるよ。但し、明日のランニングはもっと速いピッチでいくからな!」
「うへぇ……」
「貰えるのはいいんですけど」
「風丸さん、マジパネェっす!」
「分かったら、次はストレッチと腹筋始めるぞ!」
居たたまれなさと恥ずかしさ、そんなものを吹き飛ばすように、俺は練習メニューの開始を指図する。胸のもやもやはまだ晴れない。
その日の練習が終わり、汗でぐしょぐしょのユニフォームから制服に着替える。窓から見える空は茜色に染まり、妙な寂しさに包まれる。円堂が部活日誌を片付けると、大きく欠伸をした。
「腹減ったー。ああ。これからみんなで雷雷軒行かないか!?」
「いいねぇ!」
土門と一之瀬が即座に同意した。他の何人かも同意して、円堂の周りを囲んでいた。
「風丸。お前も行くよな?」
円堂が当然のように俺に呼びかけてきた。何人もが取り囲む中から俺に向ける笑顔。
「あ……、いや。今日はよしとく」
「なんでだ?」
きょとんとした顔で俺を見る。
「あんまり腹へってないんだ」
「え~? あんなに練習したのに?」
円堂は俺に近寄ると、いきなり額に手を当ててきた。
「うわ。何するんだよ?」
「いや、熱でもあるのかな、って思って」
正直見透かされている気がした。
「何ともないさ。ただ、今ラーメン食うと、晩飯食べられなくなるから……」
「そっか?」
俺は頷く。円堂は本気で心配してるらしい。俺の顔色を伺って、何処か体が悪いのかと疑っているようだ。
「ああ。……俺が小食な事くらい知ってるだろ」
「そっか。じゃあまた今度な」
円堂がそう言ったので、俺は肩かけ鞄を背負うと片手を上げて、背を向けた。
「また明日な」
部室のドアを開けると、急いで校庭に飛び出した。小走りで校門に向かう。走りながら、俺は自分自身を何度も罵った。
バカ。……バカ、バカ、バカ、バカ……!
くたびれた体で通学路を通り、ふと目を上げると、茜混じりの群青色の空に黄色い稲妻のシンボルマークをつけた鉄塔が浮かんでいた。
いつの間にか足は鉄塔広場に向かっていた。誰も居ないベンチ。円堂が特訓の為に木に括りつけた大きな古タイヤが風に揺れている。
俺は古タイヤにそっと指を触れてみた。誰も居ないし、それに触った形跡もないから、古タイヤ特有のゴム臭い匂いがするだけだ。
手のひらで撫でて、少し押してみる。括りつけた荒縄がきりりと鳴ってゆっくりと揺れた。
誰も居ない……。
俺と円堂の距離がどんどん遠くなっていくのが分かる。サッカー部が部活としてきちんと活動してなかった、その頃よりもずっと。
俺の元に返ってきた古タイヤを、今度は思い切り押してみる。荒縄はぎりりと鳴る。タイヤが大きく揺れる。
勢い良くタイヤは俺の元に返って来るけど、円堂は……俺の側に戻ってきてくれるのだろうか……?
そんな想いに暮れていた時、不意に俺の肩が誰かに掴まれた。
思わず振り向くとそこに居たのは、見慣れたツンツン頭だった。
「……豪炎寺?」
俺の肩を掴んだまま、豪炎寺は黙っている。
「何だよ、みんなとラーメン食いに行ってたんじゃないのか?」
「……途中まで行ってやめた」
ぶっきらぼうにそう答える。
何だ、そりゃ。そう言おうかと思ったが、それきり黙ってしまった豪炎寺に、俺も無言で返すしかなかった。
正直に言うと、豪炎寺が目の前に居ると俺は気後れする。豪炎寺は黙っていても男らしさが全身から漂っている奴だ。外見とか髪型とか、そんなものじゃない。俺が懸命に男らしく振る舞おうとしているのに、あいつはそんなものを気にも留めずに乗り越えてく。
「で、何か用か?」
訪れた沈黙に耐えられなくて、俺はあいつに尋ねる。
「いや、別に……」
たいした用はなさそうなのに、視線は俺に向けたまま。何か俺に言いにくい事でもあるのか?
陽は落ちきって、群青色の空がどんどん濃さを増してゆく。一番星が輝く。宵の明星。俺はあいつの視線を無視して、空にぽつんと光る星を眺めた。
「風丸」
いきなり俺の名を呼ぶ。木からぶら下がった古タイヤに左手を凭れていた俺は、でも、それを無視した。
古タイヤに触れていた左手を掴まれた。学ランの袖から赤いミサンガが覗く。俺があげて、縛ってやったものだ。それについ、目を留めているとぐっと体が引き寄せられて、気がついたら豪炎寺の顔が俺に迫っていた。そして。
俺の唇はあいつに奪われていた。
重なる、唇と唇。触れ合う、呼吸。心臓がどきんと鳴った。キスされてると分かった瞬間、頬がかっと熱くなった。
「……あっ!」
思わず豪炎寺の体を押しのける。一歩後ずさって、体を構えた。
「……風丸」
俺の名を呼ぶ。けれども、俺は上擦った声をあげるのが精一杯で、豪炎寺の顔がまともに見られない。踵を返すと、俺は一目散に走り出した。
それでもどうしようもないくらい、圧倒的な力の差。
俺もまともな試合なんか初めてだったから、それこそ必死だし、あいつらは終いには円堂一人を攻撃するから、体を張ってでも護るしかなかった。
けれどもたかが1週間程度の練習じゃ、追い縋るどころじゃなかった。
でもそこへ現れたのは、それこそ救世主と言うべきものかもしれない。円堂があれほど肩入れしてたワケだ。
(あいつのシュートさ、凄いんだぜ! 風丸も一辺見たらすぐに、俺の気持ちが分かるって!)
そう言って顔をほころばせた円堂。
一体どんな奴なんだ。お前をそこまで喜ばせる奴なんて──。
正直嫉妬した。俺じゃ、ダメなのか。
……いや、ダメなんだろうな。俺は元々陸上部だし、円堂には精々サッカーの練習に付き合ってあげてた程度だ。
でも結局、円堂の言う“そいつ”は円堂と同じクラスに転校したものの、サッカー部には寄らず終いで、どういう格好の奴なのか、どんなプレースタイルなのか、どんな性格の奴なのか……は、全く分からないままだった。
円堂には悪いが、所詮その程度の奴だったんじゃないか。俺はそう思ってた。でも。
宙を舞うあいつ。
紅蓮の軌道を描いて、帝国のゴールポストを直撃するシュートを放ったあいつ。
──ああ、正直に言うよ。
そのシュートに俺は、見蕩れてしまった。
初めて感じたサッカーの熱さ。それ、そのもの。
たった1本のシュートがみんなの気持ちさえ変えてしまえるだなんて。
俺の胸にずっとそれは、微熱のように刻まれてしまった。
ふたりの距離
俺たち雷門中サッカー部は、ついこの間、元帝国学園の鬼道が入ってきたかと思えば、更に今度はアメリカからやって来たという──しかも、土門とマネージャーの木野とは幼馴染みらしい──一之瀬が入部してきたものだから、いつの間にか全部で15人という部活動としてはまずまずの人数になっていた。
陸上部で俺が円堂とサッカーの練習に付き合ってやってた頃はまだ7人だったから、倍以上になり、円堂もよっぽど嬉しいのか、このところ毎日すこぶる元気だ。
「よーし! 今日も練習、頑張ろうぜ!」
「ああ。俺と土門とお前の必殺技、もっとパーフェクトにしたいしね!」
「円堂、次の試合のフォーメーションなんだが」
「円堂、練習メニューの件だけど」
「円堂くん。タオル洗濯終わったからベンチに運んでいいかな?」
最近、円堂の周りにはしょっちゅう誰かが側にいる状態になり、円堂自身もそれを気にする事なく、精力的に日々を過ごしている。
いつの間にやら、俺はそれを遠巻きに見るようになっていた。
「風丸さん。ランニングの先導お願いします」
円堂を遠くから眺めていた俺に、1年たちが頭を下げてきた。
「ああ……。分かった、今行く」
俺は円堂のそばに行くと、ランニングを始めると声をかけたが、鬼道と何やら相談してるらしくて、他の2年たちを促すと俺に、
「悪い、風丸。作戦会議中だからさ。他のみんなを頼むぜ」
と、両手を合わせて謝るポーズを取った。
俺は肩を竦めて了解すると、円堂はニッと笑って俺を見送った。
ランニングは、校庭と学校の外周を2周。俺が先導して音頭をとる。途中、ベンチの辺りで鬼道と会話してる円堂を見たら、何だか胸の辺りがもやもやした。
いつもの通りにやったはずなのに、ランニングが終わった途端に、1年たちがバテたのかグラウンドにへばり込んだ。
「……今日のランニング、キツいッスよ~!」
「そうでやんす。ちょっとピッチが速かったんじゃないでやんすか、風丸さん」
「えっ」
俺は思わず、息を切らせて座り込んでいる1年たちを見下ろした。ちくりと胸が痛む。
「だらしねえぞ、1年。次の試合は準決勝だし、もっと練習量上げないと勝てるもんも勝てねぇだろ。それでランニングのピッチも速くした。そうだろ? 風丸」
腰に手を当てて染岡が俺に言う。
「あ、ああ……」
頷いたが、それは嘘だ。本当は……二人だけで話し合う円堂と鬼道を見て、思わず足を速めてしまった。後ろめたさが俺の胸に忍び込んだ。
「あのさー、ちょっと訊きたいんだけど」
いつの間にか俺の足元にマックスがしゃがみ込んで、じっと真下を覗き込んでいる。
「な、何だよ?」
「風丸が足につけてるミサンガ、豪炎寺のとおそろい、だよね?」
「えっ!?」
俺だけでなく、周りの皆が反応した。それぞれ俺の足首と豪炎寺の手首を見比べる。
「あ、ホントだ」
「柄だけ同じの色違いですねー」
「ってか、ペアなんじゃね?」
興味津々で俺と豪炎寺を見るみんなの視線が居たたまれなくて、俺は慌てて首を振った。
「あ、いや。同じ店で買ったし。って言うか、俺のは貰いもので豪炎寺のはあげたんだけど……。いやいや、円堂も同じのしてるから別にペアってワケじゃ……!」
しどろもどろになって俺は訳を言う。その間、豪炎寺は黙ってそっぽを向いていた。
「なんだ。円堂も同じのしてるのか」
「グローブで見えなかったでやんすねー」
「いいなぁ。3人でおそろい、いいなぁ……」
羨ましげな顔のみんなを見て、俺はうんざりと汗ばんだ額にかかる前髪を払いのけた。
「そんなに欲しいんなら、お前らにもやるよ。但し、明日のランニングはもっと速いピッチでいくからな!」
「うへぇ……」
「貰えるのはいいんですけど」
「風丸さん、マジパネェっす!」
「分かったら、次はストレッチと腹筋始めるぞ!」
居たたまれなさと恥ずかしさ、そんなものを吹き飛ばすように、俺は練習メニューの開始を指図する。胸のもやもやはまだ晴れない。
その日の練習が終わり、汗でぐしょぐしょのユニフォームから制服に着替える。窓から見える空は茜色に染まり、妙な寂しさに包まれる。円堂が部活日誌を片付けると、大きく欠伸をした。
「腹減ったー。ああ。これからみんなで雷雷軒行かないか!?」
「いいねぇ!」
土門と一之瀬が即座に同意した。他の何人かも同意して、円堂の周りを囲んでいた。
「風丸。お前も行くよな?」
円堂が当然のように俺に呼びかけてきた。何人もが取り囲む中から俺に向ける笑顔。
「あ……、いや。今日はよしとく」
「なんでだ?」
きょとんとした顔で俺を見る。
「あんまり腹へってないんだ」
「え~? あんなに練習したのに?」
円堂は俺に近寄ると、いきなり額に手を当ててきた。
「うわ。何するんだよ?」
「いや、熱でもあるのかな、って思って」
正直見透かされている気がした。
「何ともないさ。ただ、今ラーメン食うと、晩飯食べられなくなるから……」
「そっか?」
俺は頷く。円堂は本気で心配してるらしい。俺の顔色を伺って、何処か体が悪いのかと疑っているようだ。
「ああ。……俺が小食な事くらい知ってるだろ」
「そっか。じゃあまた今度な」
円堂がそう言ったので、俺は肩かけ鞄を背負うと片手を上げて、背を向けた。
「また明日な」
部室のドアを開けると、急いで校庭に飛び出した。小走りで校門に向かう。走りながら、俺は自分自身を何度も罵った。
バカ。……バカ、バカ、バカ、バカ……!
くたびれた体で通学路を通り、ふと目を上げると、茜混じりの群青色の空に黄色い稲妻のシンボルマークをつけた鉄塔が浮かんでいた。
いつの間にか足は鉄塔広場に向かっていた。誰も居ないベンチ。円堂が特訓の為に木に括りつけた大きな古タイヤが風に揺れている。
俺は古タイヤにそっと指を触れてみた。誰も居ないし、それに触った形跡もないから、古タイヤ特有のゴム臭い匂いがするだけだ。
手のひらで撫でて、少し押してみる。括りつけた荒縄がきりりと鳴ってゆっくりと揺れた。
誰も居ない……。
俺と円堂の距離がどんどん遠くなっていくのが分かる。サッカー部が部活としてきちんと活動してなかった、その頃よりもずっと。
俺の元に返ってきた古タイヤを、今度は思い切り押してみる。荒縄はぎりりと鳴る。タイヤが大きく揺れる。
勢い良くタイヤは俺の元に返って来るけど、円堂は……俺の側に戻ってきてくれるのだろうか……?
そんな想いに暮れていた時、不意に俺の肩が誰かに掴まれた。
思わず振り向くとそこに居たのは、見慣れたツンツン頭だった。
「……豪炎寺?」
俺の肩を掴んだまま、豪炎寺は黙っている。
「何だよ、みんなとラーメン食いに行ってたんじゃないのか?」
「……途中まで行ってやめた」
ぶっきらぼうにそう答える。
何だ、そりゃ。そう言おうかと思ったが、それきり黙ってしまった豪炎寺に、俺も無言で返すしかなかった。
正直に言うと、豪炎寺が目の前に居ると俺は気後れする。豪炎寺は黙っていても男らしさが全身から漂っている奴だ。外見とか髪型とか、そんなものじゃない。俺が懸命に男らしく振る舞おうとしているのに、あいつはそんなものを気にも留めずに乗り越えてく。
「で、何か用か?」
訪れた沈黙に耐えられなくて、俺はあいつに尋ねる。
「いや、別に……」
たいした用はなさそうなのに、視線は俺に向けたまま。何か俺に言いにくい事でもあるのか?
陽は落ちきって、群青色の空がどんどん濃さを増してゆく。一番星が輝く。宵の明星。俺はあいつの視線を無視して、空にぽつんと光る星を眺めた。
「風丸」
いきなり俺の名を呼ぶ。木からぶら下がった古タイヤに左手を凭れていた俺は、でも、それを無視した。
古タイヤに触れていた左手を掴まれた。学ランの袖から赤いミサンガが覗く。俺があげて、縛ってやったものだ。それについ、目を留めているとぐっと体が引き寄せられて、気がついたら豪炎寺の顔が俺に迫っていた。そして。
俺の唇はあいつに奪われていた。
重なる、唇と唇。触れ合う、呼吸。心臓がどきんと鳴った。キスされてると分かった瞬間、頬がかっと熱くなった。
「……あっ!」
思わず豪炎寺の体を押しのける。一歩後ずさって、体を構えた。
「……風丸」
俺の名を呼ぶ。けれども、俺は上擦った声をあげるのが精一杯で、豪炎寺の顔がまともに見られない。踵を返すと、俺は一目散に走り出した。
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