蜜りんご

ダイの大冒険のラーハルト×ヒュンケルにドはまりしました。10年ぶりの二次創作活動で楽しい毎日です。

投稿日:2022年06月10日 21:15    文字数:14,078

【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|前編

ステキ数:3
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメントはあなたと作品投稿者のみに名前と内容が表示されます
こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
性描写を含むため未成年者の閲覧厳禁。
1 / 4
こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
大事なことなのでもう一度、言います。
ヒュンケルがBL作家です。そうです、あのヒュンケルが、です。
こんな感じです。
2Q==
メガネ外すと美形なんですけどね。
Z

はい、嫌な予感がした方はそっと閉じプリーズ。

え、意味が分からないけどナニそれ面白そう!と思える方はどうぞこの先にお進みください。
来たれ同志よ。


1 / 4
2 / 4


(ええい、ままよ!)
オレは散々悩み迷った挙句、心の中でその言葉を唱えて「購入確定」をクリックした。時を置かずしてスマホがブルルと震え、画面には今しがた利用したWEBショップからのメールが表示される。「ご購入ありがとうございます」という件名に、じわりと実感がにじんだ。

やってしまった。ついに、ついに。

オレは椅子に深くもたれかかり天井を見上げた。
ふぅと漏れた息と肩から力が抜けた感覚に、それなりに緊張していたことを知る。大の男がこんなことで情けないと思う反面、無理もないだろうと己を慰めたくもなった。

ついにやってくるのだ。
彼氏いない歴=年齢だったこのオレがバージンを捨てる日が。

自己紹介が遅れた。
オレの名はヒュンケル。27歳、小説を書くことを生業としている。
生物学的には男だ。

男なのに「バージン」というのはおかしいのかもしれないが、生まれてこの方セックスを経験したことがないのだから「バージン」と言って差し支えないだろう。一般的に性経験の無い男のことを「童貞」というが、それはいわゆる「抱く」側の話である。経験がない癖になぜわかるのかと問われれば、直観としかいいようがないのだが、長年鬱屈したくすぶりの中で思うのは己は男に「抱かれたい」側の人間だということだ。欲求不満が高じてみた夢の中では常に己は男の腕の中にいた。女も男も、誰かを抱いた夢を見たことはない。そこから推察されるようにオレはいわゆる「ネコ専」のゲイ…と自己認知している。

自分の肉体に違和感を覚えたことはないが、己の性嗜好が友人たちと違うことは思春期の早い段階で気づいた。しかし、周りはノンケの男ばかり。友人関係を深めるうちに、いいなと思う相手ができても、アプローチすらままならない。そうこうしているうちに男友達には彼女ができて疎遠となっていった。告げることもできないまま何度も失恋を繰り返し、いつしか現実世界で恋をすることを諦めた。そんなオレの心の慰めになったのが本、とりわけ小説だった。

本はいい。本は自由だ。
男同士の恋愛もセックスも何の問題もなく成り立つ。
現実には難しい激しいプレイも、甘く官能的なラブシーンもなんだって成り立つ。
己の夢想がおかしいことなのかと苦しくなった思春期にはそういう物語に大いに心救われた。どこか冷静にこれは夢物語だとわかってはいたものの、夢だからこそ本の世界にのめりこんだ。読み進めるうち何かが物足りなくなり、ついには己で筆を執り、今ではこうして小説を書くことで生計を立てるまでになった。いくつかの雑誌連載も執筆している。もちろん、主題材は男同士の恋愛…いわゆるBLと呼ばれるジャンル。そう、表向きペンネームは女性名になっているが、オレはゲイであり、腐男子であり、BL作家なのだ。

これまで作品の中で様々な恋愛、プレイをえがいてきた。切ない悲恋もあれば肉体関係だけを求めるドライな人間模様を綴った物語も書いた。中でも濃密なセックス描写には定評があると自負している。しかし、これまで実体験はなかった。

それがだ、この春に、生まれて初めての彼氏ができてしまった。
恋人だ。My Darlingだ。名をラーハルトという。
同い年の会社員で、同じマンションの隣の部屋に越してきた男だ。
はっきり言おう、めちゃくちゃイケメンである。金髪にやや紫がかった瞳が褐色の肌とマッチしてエキゾチックで品がある雰囲気を醸し出している。街で10人の女性とすれ違ったら10人とも見惚れるだろう。顔に惚れたわけではないがあの目に見つめられて「好きだ」と言われて落ちない人間がいるだろうか。いや、いない。
何も出合い頭に「好きだ」と言われたわけではなくそれなりに紆余曲折を経てお付き合いをする流れになったわけだが、長くなるので今回は割愛する。

そんな訳で、目下、オレは初めての恋人の存在に舞い上がっている。
お互い成人男性で肉体的な欲求があることは理解していて、その上、互いに恋情を抱いている関係だ。キスだけならばもう幾度となく交わしていて、最初は受け止めるだけであったそれに自ら舌を絡ませられるくらいにはオレも成長した。いまだに唇からとけてしまうのではないかというくらいクラクラとした心地よさで包まれるラーハルトとのキスは最高で……やめよう、キリがない。

順調に関係を深めてきたのだけれど、ここにきて問題が発生した。
いや問題ではなく、BL的に言えばごくごく自然な流れであるというのはオレもわかっているのだが…ラーハルトがさらに一歩関係を深めようとしてきたのだ。

キスをしながら抱き合った時、彼が明確な意図を持ってオレの腰や尻を撫で始めた。経験はないと言えども、幾度もそういうシーンを書いてきたオレだ。それがセックスの誘いであること位はわかる。熱っぽい眼差しで「ヒュンケル…いいか?」と囁いてくるラーハルトに頭の芯まで溶かされてふわふわとした夢見心地のままにオレはコクンと頷いた。

まではよかった。

服を脱がされながらベッドに押し倒されてドキドキと高鳴る胸を押さえ彼を見上げると、形の良い唇の端をニヤリと吊り上げて「そんな物欲しそうな顔をするな」とからかわれる。ラーハルトは既に服を脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になっていた。盛り上がった大胸筋や腕のラインが美しくてオレは頬が紅潮するのを止められない。今からあの腕であの胸の中に…。そう思うだけで達しそうになる。
期待していた、いつかこうなる日が来ることを。ついにその日が来たのだ。知らず知らず彼の滑らかな筋肉のラインにそって目線が下がり、鼠蹊部を経て、それを目にした時、オレは硬直した。

凶暴だ。凶暴すぎる。
何が、というとナニだ。ラーハルトのナニだ。
オレも男なのでペニス自体は見慣れているし、オレのも決して小さくはなく標準的なサイズだと思う。が、ラーハルトのは規格外だ。BLマンガならでかい海苔が貼られるアレだ。背景にゴゴゴという効果音がつきそうな位デカい。
一瞬にしてこれはダメだと悟った。
これは初心者が相手にしていい代物ではない。あれをなんの経験もないオレの尻に入れたら多分死ぬ。
「ひっ!ら、ラーハルト…」
オレの口からは情けないほどに震えた声が漏れる。おそらく顔も青ざめていただろう。
盛り上がりかけていたオレのペニスももはやペシャンコだ。
実を言うと、ラーハルトにはオレがバージンであることは告げていない。彼は元来ノンケで男を好きになるのも抱くのもオレが初めてだそうだ。そんな彼に対して、バージンだと知られたら気を使わせてしまうのではないか、もっと有体に言えば面倒くさがられるんじゃないか、そんな不安があって口にすることはできなかった。さらには、BL作家という職業なのに「未経験」だというのがなんとなく気恥ずかしくて言えなかったというのもあった。幸い、BL知識だけは豊富だ。これまではなんとかかんとか誤魔化してきた。

だが、万事休す。
脳内のBL知識を総動員したが、この難局を乗り越える手立ては思い浮かばない。
オレが妖艶なキャラであれば口でご奉仕してひとまずラーハルトを開放してやることもできるだろうが、知識ばかりで実践経験はないのだ。そんなに上手くできるとも思えない。
もう正直にバージンであることを告げて白旗を上げてしまおうか、いやしかし、それでドン引かれてしまったら…と逡巡していると、ラーハルトが悲しげに笑った。
「すまん、驚かせたな。少し急ぎすぎた…」
優しい、けれど残念さが滲み出ているその表情に胸が締め付けられる。
「ラーハルト、オレは…んっ!」
言いかけた言葉は恋人の唇に絡め取られ奪われた。チュウッとリップ音を立てて離れた彼の唇からはため息と共に諦めたような苦笑が漏れる。
「いいんだ、ヒュンケル。オレはこういう反応は慣れている。悪い、怖がらせたな。」
そう言ってオレの髪を撫で頬を暖かい手で包み込んだ。優しい。ただひたすらに優しいラーハルト。その優しさにオレは胸が熱くなる。
反面、己が変な見栄を張っていたことが急激に恥ずかしくなった。ここで本当のことを告げねば、ラーハルトの優しさに対して不実である。オレは一つ息を吸い込むとその言葉を絞り出した。
「ごめん、ラーハルト…実はこういうことをするのはお前が…初めてなんだ。だから、その、まだ準備ができてなくて…その、お前のせいじゃなくて…」
「ヒュンケル…」
「お前といつかは繋がりたいと思っている。でも、まだ…すまない…」
正直に謝り頭を下げる。それを上げさせラーハルトがギュウっと抱きしめてきた。
「ありがとうヒュンケル。その言葉で十分だ。無理をさせるつもりはない」
抱きしめられた腕の中、彼のそのセリフを聞きながら、ふと下を見ると、やはりラーハルトのそれはまだ臨戦態勢だ。同じ男としてその状態で開放されないという辛さはよくわかる。
オレは意を決すると、恋人に告げた。
「上手くできるかわからないが…ラーハルト、手でシてやっても良いか?」
「無理はするな」
「触りたいんだ。お前の大きさをちゃんと感じておきたいし…これからのために…」
恥ずかしくて最後は消え入りそうな声になってしまい、ちゃんとラーハルトの耳に届いていたかは自信がない。けれど、彼はオレの手を取るとそれを彼のペニスへと導いた。
「…わかった。触ってくれ、ヒュンケル」
耳元で息を吹きかけるように囁かれて、手には熱い塊が触れる。それがラーハルトなのだと思うと愛おしくて堪らなくて、ゆっくりと愛しむように輪郭をなぞった。ピクリと反応するソレに恋人が感じてくれているのだとわかり嬉しさが込み上げる。誰かのペニスに触ったことなどないが、自分のソレには触ったことはあるし慰めたこともある。どこをどうすれば良いのかは何となくあたりはつく。BL知識もある。
オレはラーハルトの陰嚢をやわやわと揉みしだき、下から裏筋にそって竿部分を撫で上げた。じわり、と先端から先走りが滲み出てきたそれを手に取りニチャニチャと水音を響かせながら手のひらで包み込むようにして恋人のペニスを愛撫する。
「っ、!お前、手つき…イヤらしいなっ、本当に初めてか…?」
「ふふ、伊達にBL作家はやっていない。知識だけならある」
我ながら自慢できることか、と思いつつも、手管を誉められると嬉しかった。
「ク…、ヒュンケル…っ!」
声に一層熱がこもりラストスパートか、と思いかけた時、ラーハルトが手を伸ばしオレのペニスに触れた。恋人をイかせることに夢中で気づかなかったが、こちらも相当興奮していたらしい。そこは勢いを取り戻しトロトロと蜜が溢れ始めていた。
「ラー、なにを…!?」
「オレもお前に触れたい。いいだろう?」
熱に浮かされた瞳に、甘い声。クラクラする。こんな時までかっこいいなんて反則じゃないか、ラーハルト。
「っ!ずるいぞ、そんな風に言われたら…ああっ!」
陰茎を握り込まれて上下に扱かれる。途端、全身を駆け巡る甘い疼き。
「嫌か?ヒュンケル…?」
「ヤじゃない…もっと、もっと…触ってくれ…ラー」
ふにゃりと思考は溶け体に力が入らない。もはやラーハルトのも握っていられなくてするりと手が解けた。ラーハルトは剥き出しになったソレをオレのものと重ね合わせる。熱と熱がふれあい、またしても全身に快感が走り口からは自分の声とは思えない甲高い嬌声が漏れた。
熱い、気持ちいい、嬉しい、様々な感覚が襲ってくる。
「ヒュンケル、ほら、触ってくれ」
ラーハルトがオレの手をとり、二本のペニスをまとめて握るように導く。無論ラーハルトのが大きすぎてオレの手だけでは収まらない。それを補うようにラーハルトが己の手を重ねた。オレは手の中に感じる熱と重ねられた恋人の手の熱にますます煽られる。
「ヒュンケル…なぁ、一緒に…」
「ん、ラー…」
彼の手が上下に動くのに合わせて自分も手を動かす。擦れ合う快感に頭が真っ白になって
「あ、あ、あ…!!らーはるとっ…!も、だめ、イクっ!」
「オレも…!っ、ヒュンケルっ…!!!」
気づくとほぼ二人同時に果てていた。

今思い出してもあの時の彼はカッコよくてエロくて優しかった。なんてやつだ、ラーハルト。お前、スパダリじゃないか。よし、いつか小説の一節に使おう。
そう思ってこのやりとりはメモにとっている。いつか使おう。

2 / 4
3 / 4


それはさておき。

こうしてオレと恋人との初夜は挿入は叶わず兜合わせで終わったのだ。
それ以来、ラーハルトとは手コキをし合う関係で止まっている。
恋人に無理をさせたくない思いが強いのか、ラーハルトが行為を強要してくることはないし、オレもあの巨根を受け入れる覚悟が定まらずずっとその一歩を踏み出せずにいた。

そんな折、ラーハルトが温泉に行かないか、と誘ってきた。
何でも会社で彼が成績上位者として表彰されたらしい。そのインセンティブとして某高級温泉宿のペア宿泊招待券を貰ったそうだ。しかも客室露天風呂付き。
言い忘れたが、オレは風呂が好きだ。取り分け、温泉は大好きだ。ラーハルトもそれを知っていてオレを誘ってくれたらしい。いつかは泊まってみたいと思っていたその温泉旅館。なかなか自分では予約が取れない。それに誘われて断るなんて選択肢はない。二つ返事でOKしたものの、一方的に奢られるのは申し訳ない。自分の宿泊代くらいは自分で出すと言ったら笑われてしまった。
「気にするな。金を出したのは会社だ」
「じゃあせめて、ガソリン代くらいは…」
「だから気にするな。オレはお前とゆっくり温泉につかって、お前が喜んでくれるならそれで十分なんだ。たまには彼氏らしくカッコつけさせてくれ」
ラーハルトはいつだってかっこいいじゃないかと思いつつ、そんな風に言われてしまえばそれ以上は何も言えなくて、結局彼の厚意に甘えることにしたのだ。

しかし、恋人と温泉旅行。
これはアレだ。どう考えてもセックスする流れだろう。
BLなら鉄板だ。攻めと受けが連れ立って温泉に行って何もありませんでした、なんてことになったら読者は怒り心頭だろう。オレだってそう思う。

いよいよ覚悟を決める時がやってきてしまったようだ。
オレも男だ。もはや腹を括らねばなるまい。しかし、あの巨根だ。
いきなりの当日で、入るわけがない。
何とかしなければ…その一心で情報収集を行った。BL小説を連載している出版社の伝手で取材と称してネコ側の経験者に話を聞きにいったりもした。
そして導き出されたのが、ある秘密兵器である。

それが冒頭、オレがWEBショップで注文した品だ。
温泉旅行まであと二週間。果たして間に合うだろうか、と一抹の不安を抱きながらもオレの心は温泉旅行へと浮き足立って行った。

そして、それはちょうど旅行一週間前のことだった。

3 / 4
4 / 4


「ヒュンケル、せっかくの旅行だ。どこか観光でもするか?」
そう言って、金髪の精悍な顔の恋人ラーハルトが笑った。

今、オレ達は部屋で来週の温泉旅行について話し合っている。
実はここの温泉街には前々から目を付けていた。山間にある川沿いの温泉街で特色ある観光施設も多く、気になる場所があったのだ。しかし、誘われた身で図々しいかと思い目立った希望は何も言わずに恋人が示すプランにうなずくのみだった。が、希望があることはバレていたらしい。恋人に冒頭の言葉で水を向けられた。そうまでお膳立てされて希望を口にしないのも失礼だ。
オレは飲みかけていたグラスを置いてラーハルトの肩口にコテンと頭を寄せた。
「行ってみたい美術館があるんだ」
「美術館か。さすが、作家様は違うな」
「からかうなよ」
「悪い。もちろんいいぞ、一緒に行こう」
「ん。ありがとう…楽しみだな、旅行」
「ああ、楽しみだ」
するり、と自然なしぐさでラーハルトがオレの頬を撫で顎をそっと押し上げて唇を重ねる。
「…ラー…」
「ヒュンケル…」
絡まる舌と視線。甘く幸せな時間。とろけてしまいそうだ。
いつもならこのまま体の触れ合いに突入する。が、今日はそういうわけにはいかない事情があった。オレは腰に添えられたラーハルトの手をそっと離し、唇も離した。
「ん…ラーハルトは明日も朝から仕事だろ。今日はもうお開きにしよう」
「何だ、気が乗らないのか?」
「ごめん。締め切りが近くて…原稿しなきゃ」
「…そうか、なら仕方ないな」
嘘である。原稿はほとんどできている。が、嘘も方便というやつだ。
本当に本当に本当に残念だが、今日はどうしても彼に早めにお帰り願わなければならなかった。勘の良いラーハルトはその気配を察知してか、それ以上は追及せず、名残惜し気にもう一度オレにキスをすると律儀に食器をキッチンに片づけて部屋を出て行った(隣に住んでるけど)

玄関でもう一度キスをして恋人を見送りパタンとドアが閉まった後、ふうと我ながら甘いため息が漏れた。
愛しい愛しいラーハルト。大好きだ。

オレは恋人が帰宅した後、急いでノートパソコンを開いて作成中の原稿を確認する。いくつかしっくりこない表現があって迷っていたが、さっきラーハルトとイチャイチャしている時にいいのを思いついた。忘れないうちにそれを打ち込む。
うん、いいぞ。これなら締め切りにも間に合うだろう。

ラーハルトと恋人関係になってから、BL作家としてのオレも調子が良い。
自分でもこれまでより表現の幅が広がったと思う。読者からは「少し作風が変わった」と言われることもあるけれど、それはおおむね好意的な感想としてだ。

彼は仕事でも、私生活でも、オレに潤いを与えてくれる。
カラカラの乾いた砂漠がオアシスになったようだ。

大切で、とても恋しい人。
やはり、ラーハルトに捧げたい。オレのバージンを。

彼とは思いを重ね合わせる中でそれなりの肉体的接触も行ってきたが、未だに行為は「触りあいっこ」、つまり挿入はなく、せいぜい「兜合わせ」止まりである。いや、もちろん兜合わせも気持ちいいし、恋人に触れて共に達する時に幸福も感じている。しかし、オレはBL作家だ。男同士の関係にその先があることを知っている。そしてオレ自身、それを望んでもいるのだ。ならばさっさと抱かれろと思うだろう?
言うは易し行うは難し。
実行に移すには難しい壁がある。
恋人のナニのサイズだ。デカい。まさに巨根というにふさわしい。何の経験もない慎ましやかなオレの尻では到底受け止めきれない。これがBL小説ならば、無理やりでもどうにかなるだろう。しかしこれは現実だ。甘くはない。無策で臨めば流血沙汰だ。

目の前には、二人での初めての温泉旅行というビックイベントが迫っている。
どうにかしてここで、ラーハルトを受け入れて繋がりたい。

そのために、秘密兵器を用意した。
WEBショップで購入したそれが今日、届いたのだ。

シャワーを浴びてバスローブに着替えてから、クローゼットの奥深くに隠していた宅配便の段ボールを取り出す。いよいよだ。ドキドキと胸が高鳴る。段ボールを開けるとさらに小さな白い無地の箱が出てきた。一見したところ何の箱かはわからない。もう少し派手なパッケージを想像していたので無難なそれに少しホッとする。これなら万一恋人の目に触れても怪しまれることはないだろう。
段ボールに同梱されていたメッセージカードには「初めてのアナル開発セットのご購入をありがとうございます」と書いてあった。そう、オレはラーハルトとのセックスに備え自分で尻を開発しておくことにしたのだ。いくらか挿入に慣らしておけば、当日全く入らない、という事態は避けられるはずだ、多分。オレの心持ちとしても余裕ができるので最初に恋人のモノを見た時のように青ざめることもないだろう。

いざ、開封の儀。

白い箱の中には、アナル専用ローションやゴム、防水シートと共に幾つかのグッズが入っていた。薄いピンクや紫色のそれらはザ、アダルトグッズという感じで、流石にこれをラーハルトに見られてしまったら何も言い訳できそうもない。やはり鍵がかかる引き出しにしまっておくのが安全そうだ。

一週間ほど前、WEBショップでこれらのグッズを購入して今日ようやく届いたのだが、それまでオレも何もしなかった訳ではない。特殊な器具が不要な練習として風呂の中で会陰部やアナルの周りをほぐしたり指を一、二本挿入してみることはやってきた。こちらについては大体のコツは掴めてきたとは思う。しかし快感を得るまでには至っていない。あくまで事前準備で、本番練習はこれからである。

満を辞して開発グッズが届き、先ほど洗腸も済ませてきた。
ベッドの上に防水シートを敷く。グッズを風呂場で試そうかとも思ったが防水性がどこまでのものかイマイチよく分からなかったので説明書にある通り、ベッドに防水シートを引いて使ってみることにした。

まず、オレが手に取ったのはピンク色のバイブだ。アナニー(アナルオナニー)初心者用の振動しないスティックタイプのセットと迷ったが「快感を得にくい人は振動するのがおすすめ」とか「アナニーではなく挿入の準備としてならバイブ」というWEBショップの説明を読んで、今のオレに相応しいのは振動するタイプのセットだと判断した。自分が尻で快感を得にくいタイプかどうかはわからないが、もし、そうだった場合、ラーハルトとつながる時に苦痛だけを覚えることになる。最初はそれでも致し方ないとオレ自身は思っているし、BLでも最初は受けが痛がっても気持ち良くなっていくことが多いのも知っている。ただ、もし、オレが痛がる様子を見て恋人が「もう止めよう」なんて言い出したら困る。ラーハルトはあれでいて優しい男なのだ。彼が負い目を感じぬよう、ちゃんと受け止めオレ自身が悦びに満ちていることを伝えたい。そのためにも、オレの尻の開発は不可欠だ。少なくとも痛みがないようにだけは慣らしておきたい。

バイブは充電タイプだった。説明書には多少は充電されていると書いてあるのでひとまずはこのままで使えそうだ。ドキドキしながら電源ボタンをそっと押してみる…が、特に反応はない。充電が足りなかったのかと思い電源ボタンを押したまま説明書を再度読もうとして…
突然、ブルル!と手の中のバイブが震えた…
「うわぁあっ…!」
長押しタイプだったようで突然、電源が入った。オレは予期せぬ振動にびっくりして手の中のそれを放り出した。床の上でのたうち回る細長いそれは生き物のようですらある。
WEBショップの商品ページには「静音タイプのバイブ」と書かれていたが、なかなかしっかりとモーター音がする。これで静音タイプなのか、普通タイプのバイブだったらもっとすごい音がするということだろう。これでは玩具プレイする時に攻めがドSなセリフを言っても受けに聞こえないのではないだろうか?まぁ、いいか、所詮BLはフィクションだ。オレの作品の中では引き続き、玩具プレイの時は攻めにドSなセリフを言わせよう。あるいは静音タイプだな。

そんなことを考えながら、オレは震えるバイブの電源ボタンを何回かカチカチと押した。
ブーブーブー
ブルッ……ブルッ……
キュウぃいーーン
ぶる!ぶる!ぶるるるるるう!!!
「うぉっ!」
手の中で大きく震えるバイブにまたしても驚く。電源ボタンを押す度にモードが変わるようだ。何回か押すうちに出力マックスになってバイブは信じられないくらい大きく振動した。
怖い。
ちょっとこれを尻に入れる気にはなれない。本当に初心者用なのだろうか…

ひとまず、バイブの電源をオフにして改めてその形状を確認する。アナルパールを模したように球状のもの(パール)が繋がって一本の棒になっている。先端のパールは少し尖っていて挿入しやすよう工夫されていた。先の方から根元にかけて徐々にパールのサイズが大きくなっている。全長約30cm。触ってみた感覚はぷにぷにとして意外とやわらかい。そして、棒の形状を自由に変えられるようになっていた。先端だけ少し曲げたり根元だけ曲げたりと変幻自在。なるほど、これなら前立腺にヒットさせやすそうだ。商品名はドラゴンヘッド。まぁ、そう言われてみればゴツゴツした感じはドラゴンの頭に見えないこともないこともないこともない。大きさ的に考えてもこれに慣れたらラーハルトのも何とか受け入れられそうな気はする。

ただ、怖い。さすがはドラゴンである。完全に怖気付いてしまった。
さっき見た動きやデカさ、やはりどう考えても初心者向けではないだろう。練習初日でいきなりコレは無理だ。何事も焦りは禁物というもの。

オレはドラゴンヘッドを白い無地の箱の中に戻した。これはもう少し慣れてからチャレンジすることにしよう。代わりにもう1つのグッズを取り出す。薄紫色のミニローターだ。こちらも充電式で、ドラゴンヘッドと同じ様にパールが繋がって棒状になっている。ただし小さい。パール3つ分、せいぜい5cmくらいだ。差し詰めミニドラゴンというところか。
ミニドラゴンは、パール部とリモコンが線で繋がっていて、これなら尻にパール部を全部入れても取り出せそうだ。
ひとまずの目標としては、パール部を全部挿れられるようになること。そこをターゲットに進めていこう。大丈夫。サイズ的にはこれまで試してきた指一、二本とそう変わらない。
ミニドラゴンのスイッチを押すとブルっと手の中でパールが震えた。
「うあっ!」
驚いてまたしても大きな声が出てしまう。動くものだとわかっていても見慣れないそれが突然震えるのはやはりびっくりする。しかし、落ち着いてよくよく見てみると、その振動は先ほどのドラゴンヘッドに比べ控えめだ。音も小さい。静音タイプというのはミニドラゴンのことだったのかもしれない。これこそまさに初心者向け。安心して使えそうだ。

今日の相手はこのミニドラゴンにしよう。

そうと決めたら実践だ。
オレは一旦使わないグッズを片付けてベッドの上でミニドラゴンに向き合う。まずはWEBショップの説明で見た通りに、ミニドラゴンと自分の指に専用のゴムを被せる。BL小説ではわざわざ自分の指にゴムをつける描写を入れたりしないが、説明書きには衛生的観点からゴムを付けるべしとあったのでそれに倣った。
ぶちゅ、とローションのボトルから手のひらに中身を出す。なんとなくだが、通常ペニスに使うモノよりも粘度が高い気がする。アナルを傷つけないようにねっとりとした乾きにくい素材が使われているそうだ。これは旅行でも使うかもしれない。一応、持っていこう。

手のひらで温めたローションをミニドラゴンに塗りつける。手に収まるサイズのそれはすぐにぬるぬるになった。よし、これなら大丈夫だろう。
オレはミニドラゴンの根元を持ち、先端を尻穴の入り口にそっと当てがう。
「ふ、ぅ…」
いよいよだ。ここから先には自分がまだ知らない快感が待っている。
そう思うと、ドキドキと心臓が早鐘を打った。ふと、脳裏にラーハルトの顔が過ぎる。本当は初めてココに迎えるのは恋人であって欲しかった。なのに、今、自分は彼に秘密でアナニーをしている…何だかイケナイ…気分だ。
いやいや、これも全て、ラーハルトとの初交合を成功させるためなのだ。
決してオレは玩具遊びをしたくてこんなことをしているわけではない。
意を決して、ミニドラゴンをググッと尻穴に押し入れる。ローションのおかげか、あるいは事前処理の賜物か、それは意外なほどすんなりと1つ目のパールまで入った。パールの一番膨らんでいる部分が入り口を通るときにほんの少し違和感はあるものの痛くはないので、オレはさらに2つ目、3つ目のパールを押し込む。
「ふ…、っ…ふぅ…」
息を吐き、力まないようにすれば、スルスルとそれは簡単に飲み込まれていき全てがオレの尻に収まった。順調だ、これは幸先がいい。この調子であればそう遠くないうちに親ドラゴンも飼い慣らせるかもしれない。
ただミニドラゴンは少し小さすぎたのか、挿れたところで特段気持ち良くはない。おそらく前立腺まで届いていないのだろう。これは少し動かしてみた方が良いかもしれない。オレはミニドラゴンを尻に挿れたままの状態でリモコンのスイッチを押した。
ヴヴヴ…
「んっ…!」
内部からの振動で反射的に体はビクリと跳ね、妙な興奮を覚えた。
「は、あ、あ…」
ブルブルとした刺激はうっすらと下半身を熱くする。じわりと奥から何かが滲んでくる気配はするけれど、気持ち良いというには決定打に欠けて。
もっと奥にコレが欲しい。
知らず知らずのうちに腰が揺れた。
「ん、あ…ラー…」
目を閉じて思い浮かべるのは愛しい男。彼に致されているのだと夢想するとジンジンとした熱が半身から迫り上がってくる。これが気持ち良い、ということなのか。けれどまだ達するには程遠い。
「…ら…ぁ…はる、と…」
無意識に彼の目を、彼の唇を、彼の手を思い出す。あの逞しい腕に抱かれて、彼をココに受け入れて、ひとつになって。彼の口から己の名が囁かれて…

ー『ヒュンケル』

「アッ、ん!」
ズクンと熱が膨れる。頭がぼう、としてきた。近づいている。ソレは近づいてきている。ああ、もどかしい。あと、少しなのに。
「あ…も、イかせて…!」
一層、グッと腰をベッドに擦り付けて、グラインドさせる。それが良かったのか、ブブブと震える先端が核心を掠めた。
「あっ…」
来る。

予感したその時、

ピンポーン

「え…?」
玄関のチャイムの音。
こんな夜更けに誰だろう。イタズラだろうか、と反応せずに居ると、またしてもピンポーンと、チャイムが鳴った。そして、
「ヒュンケル!開けてくれ!!」
ラーハルトである。
恋人が、今、玄関前にいる。
まあ、隣に住んでいるのだから訪ねてきてもおかしくないのだが、タイミングが悪い。悪すぎる。何もアナルにローターを突っ込んでいる時じゃなくて良いだろうに。どうしよう。どうすべきだ?寝たふりをするか?いや、しかし、部屋の明かりがついていることはバレているだろうし、何より切羽詰まったようなラーハルトの口調が気になる。
「おい!ヒュンケル!?」
ドンドンとドアを叩く音。冷静なラーハルトが取り乱すなんて珍しい。が、このままでは近所迷惑だ。と、とりあえずでも、何か答えなければ。

オレはベッドの上のものを全部白い箱にぶち込んでクローゼットに押し込んだ。ローターを外す余裕はない。何なら今もミニドラゴンはオレの中で震えている。が、こちらはそれどころではない。突然のことに全ての快感が吹っ飛んだ。
ミニドラゴンは幸い静音タイプだ。そう簡単にバレはしないだろう。そう思って、インターホンのマイクをオンにする。
「ラーハルト…こんな時間に…近所迷惑だぞ」
「ヒュンケル、今、お前ひとりか?」
「???ひとりだが…?いきなりどうした?」
「ドアを開けてくれ」
え?は?本当に突然どうしたんだろう。会いたいと思ってくれるのは嬉しいが、今はちょっと流石に不味い。バスローブ姿にローターだ。いくらBL作家のオレでもこれは恥ずかしい。
「いや、ラー、今は…バスローブだし。何か用ならインターホンで…」
「お前の姿が見たい」
「え…?」
「だめなのか?」
「今は、ちょっと…都合が悪いというか…」
どうしても歯切れが悪くなる。咄嗟のことで頭が回らない。が、ラーハルトは畳み掛けてきた。こちらも相当切羽詰まっている。
「ヒュンケル、お前、さっき、悲鳴あげていたよな?」
「悲鳴?」
そう言われてみて、はたと気づく。確かにドラゴンの動きに驚いてそれっぽい声を出したかもしれない。だが、そんなに大声で叫んだ訳ではない。ここは新しくて比較的防音性の高いマンションだ。窓でも開けていない限り、そう簡単に、隣にだって音は聞こえないはずだ。そう思いながら窓の方に視線を巡らせ、オレは凍りついた。

開いている。窓が開けっぱなしだ。

まずいまずいまずいまずい。
さっきまでの声をラーハルトに聞かれている。
どうしよう。本当に困った。彼はどこまで気づいているだろうか?
いや、見られた訳ではないのだ。音だ。声だけだ。
しっかりしろ、ヒュンケル!お前はBL作家だろう。誤魔化せ!これまで培ってきたありとあらゆる創造力を駆使しろ。

「ラーハルト、あれだ…ちょっとコードに躓いて…転びそうになっただけだ。心配するな」
「本当か?…何回か悲鳴が聞こえたが?お前は何度もコードに躓いたのか?」
「あ、その…」
我ながら情けない。もう少しマシな言い訳はないのか、どうしたオレの創造力。
というか、そんなに何回もオレは声を出していたのか、気づかなかった。
どうしよう、これは、、、本当にどうしよう。

判断に迷って声を出せないでいると、インターンホンからチッと舌打ちの音が聞こえた。
ラーハルトだ。彼がイラつくなんて珍しい。

「ヒュンケル」

いつもは甘くとろけるような優しい声なのに、聞こえたのは冷たくワントーン低い声。
「お前、まさか…他の男といるんじゃないだろうな?」
聞いたこともない彼のその声音に、思いもしなかった彼のセリフに、オレは愕然とする。
「ば、ばか!そんな訳ないだろ!」
驚いた、まさか浮気の心配をされるとは。いや、確かに声だけ聞けば、誤解されても仕方ないかもしれない。これはまずい。別の意味で非常にまずい。
「なら、ドアを開けてくれ。確かめさせてくれ」
「あ、いや、その…ちょっと待って。今、バスローブだし、着替えるから」
「だめだ、その間に男を逃す気か?」
「だから、そんな奴はいない!(尻にローターは入れているけど)」
「なら今すぐ開けろ。頼む、お前を信じさせてくれ…!」
「ラーハルト…わかった…」
恋人にここまで言われて追い返すわけにもいかない。
オレは覚悟を決めて、玄関に向かった。


<後編へ>
 
4 / 4
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました

コメント

ログインするとコメントを投稿できます

何をコメントすれば良いの?
『コメントって何を投稿したらいいの・・・」と思ったあなたへ。
コメントの文字制限は140文字までとなり、長いコメントを考える必要はございません。
「萌えた」「上手!」「次作品も楽しみ」などひとこと投稿でも大丈夫です。
コメントから交流が生まれ、pictBLandが更に楽しい場所になって頂ければ嬉しいです!

閲覧制限が掛かった作品です

この作品は投稿者から閲覧制限が掛けられています。性的な描写やグロテスクな表現などがある可能性がありますが閲覧しますか?

閲覧する際は、キーワードタグや作品の説明をよくご確認頂き、閲覧して下さい。

【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|前編

キーワードタグ R18  ダイの大冒険  ヒュンケル  ラーハルト  ラーハルト×ヒュンケル  ラーヒュン  アダルトグッズ 
作品の説明 こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
性描写を含むため未成年者の閲覧厳禁。
【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|前編
1 / 4
こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
大事なことなのでもう一度、言います。
ヒュンケルがBL作家です。そうです、あのヒュンケルが、です。
こんな感じです。
2Q==
メガネ外すと美形なんですけどね。
Z

はい、嫌な予感がした方はそっと閉じプリーズ。

え、意味が分からないけどナニそれ面白そう!と思える方はどうぞこの先にお進みください。
来たれ同志よ。


1 / 4
2 / 4


(ええい、ままよ!)
オレは散々悩み迷った挙句、心の中でその言葉を唱えて「購入確定」をクリックした。時を置かずしてスマホがブルルと震え、画面には今しがた利用したWEBショップからのメールが表示される。「ご購入ありがとうございます」という件名に、じわりと実感がにじんだ。

やってしまった。ついに、ついに。

オレは椅子に深くもたれかかり天井を見上げた。
ふぅと漏れた息と肩から力が抜けた感覚に、それなりに緊張していたことを知る。大の男がこんなことで情けないと思う反面、無理もないだろうと己を慰めたくもなった。

ついにやってくるのだ。
彼氏いない歴=年齢だったこのオレがバージンを捨てる日が。

自己紹介が遅れた。
オレの名はヒュンケル。27歳、小説を書くことを生業としている。
生物学的には男だ。

男なのに「バージン」というのはおかしいのかもしれないが、生まれてこの方セックスを経験したことがないのだから「バージン」と言って差し支えないだろう。一般的に性経験の無い男のことを「童貞」というが、それはいわゆる「抱く」側の話である。経験がない癖になぜわかるのかと問われれば、直観としかいいようがないのだが、長年鬱屈したくすぶりの中で思うのは己は男に「抱かれたい」側の人間だということだ。欲求不満が高じてみた夢の中では常に己は男の腕の中にいた。女も男も、誰かを抱いた夢を見たことはない。そこから推察されるようにオレはいわゆる「ネコ専」のゲイ…と自己認知している。

自分の肉体に違和感を覚えたことはないが、己の性嗜好が友人たちと違うことは思春期の早い段階で気づいた。しかし、周りはノンケの男ばかり。友人関係を深めるうちに、いいなと思う相手ができても、アプローチすらままならない。そうこうしているうちに男友達には彼女ができて疎遠となっていった。告げることもできないまま何度も失恋を繰り返し、いつしか現実世界で恋をすることを諦めた。そんなオレの心の慰めになったのが本、とりわけ小説だった。

本はいい。本は自由だ。
男同士の恋愛もセックスも何の問題もなく成り立つ。
現実には難しい激しいプレイも、甘く官能的なラブシーンもなんだって成り立つ。
己の夢想がおかしいことなのかと苦しくなった思春期にはそういう物語に大いに心救われた。どこか冷静にこれは夢物語だとわかってはいたものの、夢だからこそ本の世界にのめりこんだ。読み進めるうち何かが物足りなくなり、ついには己で筆を執り、今ではこうして小説を書くことで生計を立てるまでになった。いくつかの雑誌連載も執筆している。もちろん、主題材は男同士の恋愛…いわゆるBLと呼ばれるジャンル。そう、表向きペンネームは女性名になっているが、オレはゲイであり、腐男子であり、BL作家なのだ。

これまで作品の中で様々な恋愛、プレイをえがいてきた。切ない悲恋もあれば肉体関係だけを求めるドライな人間模様を綴った物語も書いた。中でも濃密なセックス描写には定評があると自負している。しかし、これまで実体験はなかった。

それがだ、この春に、生まれて初めての彼氏ができてしまった。
恋人だ。My Darlingだ。名をラーハルトという。
同い年の会社員で、同じマンションの隣の部屋に越してきた男だ。
はっきり言おう、めちゃくちゃイケメンである。金髪にやや紫がかった瞳が褐色の肌とマッチしてエキゾチックで品がある雰囲気を醸し出している。街で10人の女性とすれ違ったら10人とも見惚れるだろう。顔に惚れたわけではないがあの目に見つめられて「好きだ」と言われて落ちない人間がいるだろうか。いや、いない。
何も出合い頭に「好きだ」と言われたわけではなくそれなりに紆余曲折を経てお付き合いをする流れになったわけだが、長くなるので今回は割愛する。

そんな訳で、目下、オレは初めての恋人の存在に舞い上がっている。
お互い成人男性で肉体的な欲求があることは理解していて、その上、互いに恋情を抱いている関係だ。キスだけならばもう幾度となく交わしていて、最初は受け止めるだけであったそれに自ら舌を絡ませられるくらいにはオレも成長した。いまだに唇からとけてしまうのではないかというくらいクラクラとした心地よさで包まれるラーハルトとのキスは最高で……やめよう、キリがない。

順調に関係を深めてきたのだけれど、ここにきて問題が発生した。
いや問題ではなく、BL的に言えばごくごく自然な流れであるというのはオレもわかっているのだが…ラーハルトがさらに一歩関係を深めようとしてきたのだ。

キスをしながら抱き合った時、彼が明確な意図を持ってオレの腰や尻を撫で始めた。経験はないと言えども、幾度もそういうシーンを書いてきたオレだ。それがセックスの誘いであること位はわかる。熱っぽい眼差しで「ヒュンケル…いいか?」と囁いてくるラーハルトに頭の芯まで溶かされてふわふわとした夢見心地のままにオレはコクンと頷いた。

まではよかった。

服を脱がされながらベッドに押し倒されてドキドキと高鳴る胸を押さえ彼を見上げると、形の良い唇の端をニヤリと吊り上げて「そんな物欲しそうな顔をするな」とからかわれる。ラーハルトは既に服を脱ぎ捨てて一糸纏わぬ姿になっていた。盛り上がった大胸筋や腕のラインが美しくてオレは頬が紅潮するのを止められない。今からあの腕であの胸の中に…。そう思うだけで達しそうになる。
期待していた、いつかこうなる日が来ることを。ついにその日が来たのだ。知らず知らず彼の滑らかな筋肉のラインにそって目線が下がり、鼠蹊部を経て、それを目にした時、オレは硬直した。

凶暴だ。凶暴すぎる。
何が、というとナニだ。ラーハルトのナニだ。
オレも男なのでペニス自体は見慣れているし、オレのも決して小さくはなく標準的なサイズだと思う。が、ラーハルトのは規格外だ。BLマンガならでかい海苔が貼られるアレだ。背景にゴゴゴという効果音がつきそうな位デカい。
一瞬にしてこれはダメだと悟った。
これは初心者が相手にしていい代物ではない。あれをなんの経験もないオレの尻に入れたら多分死ぬ。
「ひっ!ら、ラーハルト…」
オレの口からは情けないほどに震えた声が漏れる。おそらく顔も青ざめていただろう。
盛り上がりかけていたオレのペニスももはやペシャンコだ。
実を言うと、ラーハルトにはオレがバージンであることは告げていない。彼は元来ノンケで男を好きになるのも抱くのもオレが初めてだそうだ。そんな彼に対して、バージンだと知られたら気を使わせてしまうのではないか、もっと有体に言えば面倒くさがられるんじゃないか、そんな不安があって口にすることはできなかった。さらには、BL作家という職業なのに「未経験」だというのがなんとなく気恥ずかしくて言えなかったというのもあった。幸い、BL知識だけは豊富だ。これまではなんとかかんとか誤魔化してきた。

だが、万事休す。
脳内のBL知識を総動員したが、この難局を乗り越える手立ては思い浮かばない。
オレが妖艶なキャラであれば口でご奉仕してひとまずラーハルトを開放してやることもできるだろうが、知識ばかりで実践経験はないのだ。そんなに上手くできるとも思えない。
もう正直にバージンであることを告げて白旗を上げてしまおうか、いやしかし、それでドン引かれてしまったら…と逡巡していると、ラーハルトが悲しげに笑った。
「すまん、驚かせたな。少し急ぎすぎた…」
優しい、けれど残念さが滲み出ているその表情に胸が締め付けられる。
「ラーハルト、オレは…んっ!」
言いかけた言葉は恋人の唇に絡め取られ奪われた。チュウッとリップ音を立てて離れた彼の唇からはため息と共に諦めたような苦笑が漏れる。
「いいんだ、ヒュンケル。オレはこういう反応は慣れている。悪い、怖がらせたな。」
そう言ってオレの髪を撫で頬を暖かい手で包み込んだ。優しい。ただひたすらに優しいラーハルト。その優しさにオレは胸が熱くなる。
反面、己が変な見栄を張っていたことが急激に恥ずかしくなった。ここで本当のことを告げねば、ラーハルトの優しさに対して不実である。オレは一つ息を吸い込むとその言葉を絞り出した。
「ごめん、ラーハルト…実はこういうことをするのはお前が…初めてなんだ。だから、その、まだ準備ができてなくて…その、お前のせいじゃなくて…」
「ヒュンケル…」
「お前といつかは繋がりたいと思っている。でも、まだ…すまない…」
正直に謝り頭を下げる。それを上げさせラーハルトがギュウっと抱きしめてきた。
「ありがとうヒュンケル。その言葉で十分だ。無理をさせるつもりはない」
抱きしめられた腕の中、彼のそのセリフを聞きながら、ふと下を見ると、やはりラーハルトのそれはまだ臨戦態勢だ。同じ男としてその状態で開放されないという辛さはよくわかる。
オレは意を決すると、恋人に告げた。
「上手くできるかわからないが…ラーハルト、手でシてやっても良いか?」
「無理はするな」
「触りたいんだ。お前の大きさをちゃんと感じておきたいし…これからのために…」
恥ずかしくて最後は消え入りそうな声になってしまい、ちゃんとラーハルトの耳に届いていたかは自信がない。けれど、彼はオレの手を取るとそれを彼のペニスへと導いた。
「…わかった。触ってくれ、ヒュンケル」
耳元で息を吹きかけるように囁かれて、手には熱い塊が触れる。それがラーハルトなのだと思うと愛おしくて堪らなくて、ゆっくりと愛しむように輪郭をなぞった。ピクリと反応するソレに恋人が感じてくれているのだとわかり嬉しさが込み上げる。誰かのペニスに触ったことなどないが、自分のソレには触ったことはあるし慰めたこともある。どこをどうすれば良いのかは何となくあたりはつく。BL知識もある。
オレはラーハルトの陰嚢をやわやわと揉みしだき、下から裏筋にそって竿部分を撫で上げた。じわり、と先端から先走りが滲み出てきたそれを手に取りニチャニチャと水音を響かせながら手のひらで包み込むようにして恋人のペニスを愛撫する。
「っ、!お前、手つき…イヤらしいなっ、本当に初めてか…?」
「ふふ、伊達にBL作家はやっていない。知識だけならある」
我ながら自慢できることか、と思いつつも、手管を誉められると嬉しかった。
「ク…、ヒュンケル…っ!」
声に一層熱がこもりラストスパートか、と思いかけた時、ラーハルトが手を伸ばしオレのペニスに触れた。恋人をイかせることに夢中で気づかなかったが、こちらも相当興奮していたらしい。そこは勢いを取り戻しトロトロと蜜が溢れ始めていた。
「ラー、なにを…!?」
「オレもお前に触れたい。いいだろう?」
熱に浮かされた瞳に、甘い声。クラクラする。こんな時までかっこいいなんて反則じゃないか、ラーハルト。
「っ!ずるいぞ、そんな風に言われたら…ああっ!」
陰茎を握り込まれて上下に扱かれる。途端、全身を駆け巡る甘い疼き。
「嫌か?ヒュンケル…?」
「ヤじゃない…もっと、もっと…触ってくれ…ラー」
ふにゃりと思考は溶け体に力が入らない。もはやラーハルトのも握っていられなくてするりと手が解けた。ラーハルトは剥き出しになったソレをオレのものと重ね合わせる。熱と熱がふれあい、またしても全身に快感が走り口からは自分の声とは思えない甲高い嬌声が漏れた。
熱い、気持ちいい、嬉しい、様々な感覚が襲ってくる。
「ヒュンケル、ほら、触ってくれ」
ラーハルトがオレの手をとり、二本のペニスをまとめて握るように導く。無論ラーハルトのが大きすぎてオレの手だけでは収まらない。それを補うようにラーハルトが己の手を重ねた。オレは手の中に感じる熱と重ねられた恋人の手の熱にますます煽られる。
「ヒュンケル…なぁ、一緒に…」
「ん、ラー…」
彼の手が上下に動くのに合わせて自分も手を動かす。擦れ合う快感に頭が真っ白になって
「あ、あ、あ…!!らーはるとっ…!も、だめ、イクっ!」
「オレも…!っ、ヒュンケルっ…!!!」
気づくとほぼ二人同時に果てていた。

今思い出してもあの時の彼はカッコよくてエロくて優しかった。なんてやつだ、ラーハルト。お前、スパダリじゃないか。よし、いつか小説の一節に使おう。
そう思ってこのやりとりはメモにとっている。いつか使おう。

2 / 4
3 / 4


それはさておき。

こうしてオレと恋人との初夜は挿入は叶わず兜合わせで終わったのだ。
それ以来、ラーハルトとは手コキをし合う関係で止まっている。
恋人に無理をさせたくない思いが強いのか、ラーハルトが行為を強要してくることはないし、オレもあの巨根を受け入れる覚悟が定まらずずっとその一歩を踏み出せずにいた。

そんな折、ラーハルトが温泉に行かないか、と誘ってきた。
何でも会社で彼が成績上位者として表彰されたらしい。そのインセンティブとして某高級温泉宿のペア宿泊招待券を貰ったそうだ。しかも客室露天風呂付き。
言い忘れたが、オレは風呂が好きだ。取り分け、温泉は大好きだ。ラーハルトもそれを知っていてオレを誘ってくれたらしい。いつかは泊まってみたいと思っていたその温泉旅館。なかなか自分では予約が取れない。それに誘われて断るなんて選択肢はない。二つ返事でOKしたものの、一方的に奢られるのは申し訳ない。自分の宿泊代くらいは自分で出すと言ったら笑われてしまった。
「気にするな。金を出したのは会社だ」
「じゃあせめて、ガソリン代くらいは…」
「だから気にするな。オレはお前とゆっくり温泉につかって、お前が喜んでくれるならそれで十分なんだ。たまには彼氏らしくカッコつけさせてくれ」
ラーハルトはいつだってかっこいいじゃないかと思いつつ、そんな風に言われてしまえばそれ以上は何も言えなくて、結局彼の厚意に甘えることにしたのだ。

しかし、恋人と温泉旅行。
これはアレだ。どう考えてもセックスする流れだろう。
BLなら鉄板だ。攻めと受けが連れ立って温泉に行って何もありませんでした、なんてことになったら読者は怒り心頭だろう。オレだってそう思う。

いよいよ覚悟を決める時がやってきてしまったようだ。
オレも男だ。もはや腹を括らねばなるまい。しかし、あの巨根だ。
いきなりの当日で、入るわけがない。
何とかしなければ…その一心で情報収集を行った。BL小説を連載している出版社の伝手で取材と称してネコ側の経験者に話を聞きにいったりもした。
そして導き出されたのが、ある秘密兵器である。

それが冒頭、オレがWEBショップで注文した品だ。
温泉旅行まであと二週間。果たして間に合うだろうか、と一抹の不安を抱きながらもオレの心は温泉旅行へと浮き足立って行った。

そして、それはちょうど旅行一週間前のことだった。

3 / 4
4 / 4


「ヒュンケル、せっかくの旅行だ。どこか観光でもするか?」
そう言って、金髪の精悍な顔の恋人ラーハルトが笑った。

今、オレ達は部屋で来週の温泉旅行について話し合っている。
実はここの温泉街には前々から目を付けていた。山間にある川沿いの温泉街で特色ある観光施設も多く、気になる場所があったのだ。しかし、誘われた身で図々しいかと思い目立った希望は何も言わずに恋人が示すプランにうなずくのみだった。が、希望があることはバレていたらしい。恋人に冒頭の言葉で水を向けられた。そうまでお膳立てされて希望を口にしないのも失礼だ。
オレは飲みかけていたグラスを置いてラーハルトの肩口にコテンと頭を寄せた。
「行ってみたい美術館があるんだ」
「美術館か。さすが、作家様は違うな」
「からかうなよ」
「悪い。もちろんいいぞ、一緒に行こう」
「ん。ありがとう…楽しみだな、旅行」
「ああ、楽しみだ」
するり、と自然なしぐさでラーハルトがオレの頬を撫で顎をそっと押し上げて唇を重ねる。
「…ラー…」
「ヒュンケル…」
絡まる舌と視線。甘く幸せな時間。とろけてしまいそうだ。
いつもならこのまま体の触れ合いに突入する。が、今日はそういうわけにはいかない事情があった。オレは腰に添えられたラーハルトの手をそっと離し、唇も離した。
「ん…ラーハルトは明日も朝から仕事だろ。今日はもうお開きにしよう」
「何だ、気が乗らないのか?」
「ごめん。締め切りが近くて…原稿しなきゃ」
「…そうか、なら仕方ないな」
嘘である。原稿はほとんどできている。が、嘘も方便というやつだ。
本当に本当に本当に残念だが、今日はどうしても彼に早めにお帰り願わなければならなかった。勘の良いラーハルトはその気配を察知してか、それ以上は追及せず、名残惜し気にもう一度オレにキスをすると律儀に食器をキッチンに片づけて部屋を出て行った(隣に住んでるけど)

玄関でもう一度キスをして恋人を見送りパタンとドアが閉まった後、ふうと我ながら甘いため息が漏れた。
愛しい愛しいラーハルト。大好きだ。

オレは恋人が帰宅した後、急いでノートパソコンを開いて作成中の原稿を確認する。いくつかしっくりこない表現があって迷っていたが、さっきラーハルトとイチャイチャしている時にいいのを思いついた。忘れないうちにそれを打ち込む。
うん、いいぞ。これなら締め切りにも間に合うだろう。

ラーハルトと恋人関係になってから、BL作家としてのオレも調子が良い。
自分でもこれまでより表現の幅が広がったと思う。読者からは「少し作風が変わった」と言われることもあるけれど、それはおおむね好意的な感想としてだ。

彼は仕事でも、私生活でも、オレに潤いを与えてくれる。
カラカラの乾いた砂漠がオアシスになったようだ。

大切で、とても恋しい人。
やはり、ラーハルトに捧げたい。オレのバージンを。

彼とは思いを重ね合わせる中でそれなりの肉体的接触も行ってきたが、未だに行為は「触りあいっこ」、つまり挿入はなく、せいぜい「兜合わせ」止まりである。いや、もちろん兜合わせも気持ちいいし、恋人に触れて共に達する時に幸福も感じている。しかし、オレはBL作家だ。男同士の関係にその先があることを知っている。そしてオレ自身、それを望んでもいるのだ。ならばさっさと抱かれろと思うだろう?
言うは易し行うは難し。
実行に移すには難しい壁がある。
恋人のナニのサイズだ。デカい。まさに巨根というにふさわしい。何の経験もない慎ましやかなオレの尻では到底受け止めきれない。これがBL小説ならば、無理やりでもどうにかなるだろう。しかしこれは現実だ。甘くはない。無策で臨めば流血沙汰だ。

目の前には、二人での初めての温泉旅行というビックイベントが迫っている。
どうにかしてここで、ラーハルトを受け入れて繋がりたい。

そのために、秘密兵器を用意した。
WEBショップで購入したそれが今日、届いたのだ。

シャワーを浴びてバスローブに着替えてから、クローゼットの奥深くに隠していた宅配便の段ボールを取り出す。いよいよだ。ドキドキと胸が高鳴る。段ボールを開けるとさらに小さな白い無地の箱が出てきた。一見したところ何の箱かはわからない。もう少し派手なパッケージを想像していたので無難なそれに少しホッとする。これなら万一恋人の目に触れても怪しまれることはないだろう。
段ボールに同梱されていたメッセージカードには「初めてのアナル開発セットのご購入をありがとうございます」と書いてあった。そう、オレはラーハルトとのセックスに備え自分で尻を開発しておくことにしたのだ。いくらか挿入に慣らしておけば、当日全く入らない、という事態は避けられるはずだ、多分。オレの心持ちとしても余裕ができるので最初に恋人のモノを見た時のように青ざめることもないだろう。

いざ、開封の儀。

白い箱の中には、アナル専用ローションやゴム、防水シートと共に幾つかのグッズが入っていた。薄いピンクや紫色のそれらはザ、アダルトグッズという感じで、流石にこれをラーハルトに見られてしまったら何も言い訳できそうもない。やはり鍵がかかる引き出しにしまっておくのが安全そうだ。

一週間ほど前、WEBショップでこれらのグッズを購入して今日ようやく届いたのだが、それまでオレも何もしなかった訳ではない。特殊な器具が不要な練習として風呂の中で会陰部やアナルの周りをほぐしたり指を一、二本挿入してみることはやってきた。こちらについては大体のコツは掴めてきたとは思う。しかし快感を得るまでには至っていない。あくまで事前準備で、本番練習はこれからである。

満を辞して開発グッズが届き、先ほど洗腸も済ませてきた。
ベッドの上に防水シートを敷く。グッズを風呂場で試そうかとも思ったが防水性がどこまでのものかイマイチよく分からなかったので説明書にある通り、ベッドに防水シートを引いて使ってみることにした。

まず、オレが手に取ったのはピンク色のバイブだ。アナニー(アナルオナニー)初心者用の振動しないスティックタイプのセットと迷ったが「快感を得にくい人は振動するのがおすすめ」とか「アナニーではなく挿入の準備としてならバイブ」というWEBショップの説明を読んで、今のオレに相応しいのは振動するタイプのセットだと判断した。自分が尻で快感を得にくいタイプかどうかはわからないが、もし、そうだった場合、ラーハルトとつながる時に苦痛だけを覚えることになる。最初はそれでも致し方ないとオレ自身は思っているし、BLでも最初は受けが痛がっても気持ち良くなっていくことが多いのも知っている。ただ、もし、オレが痛がる様子を見て恋人が「もう止めよう」なんて言い出したら困る。ラーハルトはあれでいて優しい男なのだ。彼が負い目を感じぬよう、ちゃんと受け止めオレ自身が悦びに満ちていることを伝えたい。そのためにも、オレの尻の開発は不可欠だ。少なくとも痛みがないようにだけは慣らしておきたい。

バイブは充電タイプだった。説明書には多少は充電されていると書いてあるのでひとまずはこのままで使えそうだ。ドキドキしながら電源ボタンをそっと押してみる…が、特に反応はない。充電が足りなかったのかと思い電源ボタンを押したまま説明書を再度読もうとして…
突然、ブルル!と手の中のバイブが震えた…
「うわぁあっ…!」
長押しタイプだったようで突然、電源が入った。オレは予期せぬ振動にびっくりして手の中のそれを放り出した。床の上でのたうち回る細長いそれは生き物のようですらある。
WEBショップの商品ページには「静音タイプのバイブ」と書かれていたが、なかなかしっかりとモーター音がする。これで静音タイプなのか、普通タイプのバイブだったらもっとすごい音がするということだろう。これでは玩具プレイする時に攻めがドSなセリフを言っても受けに聞こえないのではないだろうか?まぁ、いいか、所詮BLはフィクションだ。オレの作品の中では引き続き、玩具プレイの時は攻めにドSなセリフを言わせよう。あるいは静音タイプだな。

そんなことを考えながら、オレは震えるバイブの電源ボタンを何回かカチカチと押した。
ブーブーブー
ブルッ……ブルッ……
キュウぃいーーン
ぶる!ぶる!ぶるるるるるう!!!
「うぉっ!」
手の中で大きく震えるバイブにまたしても驚く。電源ボタンを押す度にモードが変わるようだ。何回か押すうちに出力マックスになってバイブは信じられないくらい大きく振動した。
怖い。
ちょっとこれを尻に入れる気にはなれない。本当に初心者用なのだろうか…

ひとまず、バイブの電源をオフにして改めてその形状を確認する。アナルパールを模したように球状のもの(パール)が繋がって一本の棒になっている。先端のパールは少し尖っていて挿入しやすよう工夫されていた。先の方から根元にかけて徐々にパールのサイズが大きくなっている。全長約30cm。触ってみた感覚はぷにぷにとして意外とやわらかい。そして、棒の形状を自由に変えられるようになっていた。先端だけ少し曲げたり根元だけ曲げたりと変幻自在。なるほど、これなら前立腺にヒットさせやすそうだ。商品名はドラゴンヘッド。まぁ、そう言われてみればゴツゴツした感じはドラゴンの頭に見えないこともないこともないこともない。大きさ的に考えてもこれに慣れたらラーハルトのも何とか受け入れられそうな気はする。

ただ、怖い。さすがはドラゴンである。完全に怖気付いてしまった。
さっき見た動きやデカさ、やはりどう考えても初心者向けではないだろう。練習初日でいきなりコレは無理だ。何事も焦りは禁物というもの。

オレはドラゴンヘッドを白い無地の箱の中に戻した。これはもう少し慣れてからチャレンジすることにしよう。代わりにもう1つのグッズを取り出す。薄紫色のミニローターだ。こちらも充電式で、ドラゴンヘッドと同じ様にパールが繋がって棒状になっている。ただし小さい。パール3つ分、せいぜい5cmくらいだ。差し詰めミニドラゴンというところか。
ミニドラゴンは、パール部とリモコンが線で繋がっていて、これなら尻にパール部を全部入れても取り出せそうだ。
ひとまずの目標としては、パール部を全部挿れられるようになること。そこをターゲットに進めていこう。大丈夫。サイズ的にはこれまで試してきた指一、二本とそう変わらない。
ミニドラゴンのスイッチを押すとブルっと手の中でパールが震えた。
「うあっ!」
驚いてまたしても大きな声が出てしまう。動くものだとわかっていても見慣れないそれが突然震えるのはやはりびっくりする。しかし、落ち着いてよくよく見てみると、その振動は先ほどのドラゴンヘッドに比べ控えめだ。音も小さい。静音タイプというのはミニドラゴンのことだったのかもしれない。これこそまさに初心者向け。安心して使えそうだ。

今日の相手はこのミニドラゴンにしよう。

そうと決めたら実践だ。
オレは一旦使わないグッズを片付けてベッドの上でミニドラゴンに向き合う。まずはWEBショップの説明で見た通りに、ミニドラゴンと自分の指に専用のゴムを被せる。BL小説ではわざわざ自分の指にゴムをつける描写を入れたりしないが、説明書きには衛生的観点からゴムを付けるべしとあったのでそれに倣った。
ぶちゅ、とローションのボトルから手のひらに中身を出す。なんとなくだが、通常ペニスに使うモノよりも粘度が高い気がする。アナルを傷つけないようにねっとりとした乾きにくい素材が使われているそうだ。これは旅行でも使うかもしれない。一応、持っていこう。

手のひらで温めたローションをミニドラゴンに塗りつける。手に収まるサイズのそれはすぐにぬるぬるになった。よし、これなら大丈夫だろう。
オレはミニドラゴンの根元を持ち、先端を尻穴の入り口にそっと当てがう。
「ふ、ぅ…」
いよいよだ。ここから先には自分がまだ知らない快感が待っている。
そう思うと、ドキドキと心臓が早鐘を打った。ふと、脳裏にラーハルトの顔が過ぎる。本当は初めてココに迎えるのは恋人であって欲しかった。なのに、今、自分は彼に秘密でアナニーをしている…何だかイケナイ…気分だ。
いやいや、これも全て、ラーハルトとの初交合を成功させるためなのだ。
決してオレは玩具遊びをしたくてこんなことをしているわけではない。
意を決して、ミニドラゴンをググッと尻穴に押し入れる。ローションのおかげか、あるいは事前処理の賜物か、それは意外なほどすんなりと1つ目のパールまで入った。パールの一番膨らんでいる部分が入り口を通るときにほんの少し違和感はあるものの痛くはないので、オレはさらに2つ目、3つ目のパールを押し込む。
「ふ…、っ…ふぅ…」
息を吐き、力まないようにすれば、スルスルとそれは簡単に飲み込まれていき全てがオレの尻に収まった。順調だ、これは幸先がいい。この調子であればそう遠くないうちに親ドラゴンも飼い慣らせるかもしれない。
ただミニドラゴンは少し小さすぎたのか、挿れたところで特段気持ち良くはない。おそらく前立腺まで届いていないのだろう。これは少し動かしてみた方が良いかもしれない。オレはミニドラゴンを尻に挿れたままの状態でリモコンのスイッチを押した。
ヴヴヴ…
「んっ…!」
内部からの振動で反射的に体はビクリと跳ね、妙な興奮を覚えた。
「は、あ、あ…」
ブルブルとした刺激はうっすらと下半身を熱くする。じわりと奥から何かが滲んでくる気配はするけれど、気持ち良いというには決定打に欠けて。
もっと奥にコレが欲しい。
知らず知らずのうちに腰が揺れた。
「ん、あ…ラー…」
目を閉じて思い浮かべるのは愛しい男。彼に致されているのだと夢想するとジンジンとした熱が半身から迫り上がってくる。これが気持ち良い、ということなのか。けれどまだ達するには程遠い。
「…ら…ぁ…はる、と…」
無意識に彼の目を、彼の唇を、彼の手を思い出す。あの逞しい腕に抱かれて、彼をココに受け入れて、ひとつになって。彼の口から己の名が囁かれて…

ー『ヒュンケル』

「アッ、ん!」
ズクンと熱が膨れる。頭がぼう、としてきた。近づいている。ソレは近づいてきている。ああ、もどかしい。あと、少しなのに。
「あ…も、イかせて…!」
一層、グッと腰をベッドに擦り付けて、グラインドさせる。それが良かったのか、ブブブと震える先端が核心を掠めた。
「あっ…」
来る。

予感したその時、

ピンポーン

「え…?」
玄関のチャイムの音。
こんな夜更けに誰だろう。イタズラだろうか、と反応せずに居ると、またしてもピンポーンと、チャイムが鳴った。そして、
「ヒュンケル!開けてくれ!!」
ラーハルトである。
恋人が、今、玄関前にいる。
まあ、隣に住んでいるのだから訪ねてきてもおかしくないのだが、タイミングが悪い。悪すぎる。何もアナルにローターを突っ込んでいる時じゃなくて良いだろうに。どうしよう。どうすべきだ?寝たふりをするか?いや、しかし、部屋の明かりがついていることはバレているだろうし、何より切羽詰まったようなラーハルトの口調が気になる。
「おい!ヒュンケル!?」
ドンドンとドアを叩く音。冷静なラーハルトが取り乱すなんて珍しい。が、このままでは近所迷惑だ。と、とりあえずでも、何か答えなければ。

オレはベッドの上のものを全部白い箱にぶち込んでクローゼットに押し込んだ。ローターを外す余裕はない。何なら今もミニドラゴンはオレの中で震えている。が、こちらはそれどころではない。突然のことに全ての快感が吹っ飛んだ。
ミニドラゴンは幸い静音タイプだ。そう簡単にバレはしないだろう。そう思って、インターホンのマイクをオンにする。
「ラーハルト…こんな時間に…近所迷惑だぞ」
「ヒュンケル、今、お前ひとりか?」
「???ひとりだが…?いきなりどうした?」
「ドアを開けてくれ」
え?は?本当に突然どうしたんだろう。会いたいと思ってくれるのは嬉しいが、今はちょっと流石に不味い。バスローブ姿にローターだ。いくらBL作家のオレでもこれは恥ずかしい。
「いや、ラー、今は…バスローブだし。何か用ならインターホンで…」
「お前の姿が見たい」
「え…?」
「だめなのか?」
「今は、ちょっと…都合が悪いというか…」
どうしても歯切れが悪くなる。咄嗟のことで頭が回らない。が、ラーハルトは畳み掛けてきた。こちらも相当切羽詰まっている。
「ヒュンケル、お前、さっき、悲鳴あげていたよな?」
「悲鳴?」
そう言われてみて、はたと気づく。確かにドラゴンの動きに驚いてそれっぽい声を出したかもしれない。だが、そんなに大声で叫んだ訳ではない。ここは新しくて比較的防音性の高いマンションだ。窓でも開けていない限り、そう簡単に、隣にだって音は聞こえないはずだ。そう思いながら窓の方に視線を巡らせ、オレは凍りついた。

開いている。窓が開けっぱなしだ。

まずいまずいまずいまずい。
さっきまでの声をラーハルトに聞かれている。
どうしよう。本当に困った。彼はどこまで気づいているだろうか?
いや、見られた訳ではないのだ。音だ。声だけだ。
しっかりしろ、ヒュンケル!お前はBL作家だろう。誤魔化せ!これまで培ってきたありとあらゆる創造力を駆使しろ。

「ラーハルト、あれだ…ちょっとコードに躓いて…転びそうになっただけだ。心配するな」
「本当か?…何回か悲鳴が聞こえたが?お前は何度もコードに躓いたのか?」
「あ、その…」
我ながら情けない。もう少しマシな言い訳はないのか、どうしたオレの創造力。
というか、そんなに何回もオレは声を出していたのか、気づかなかった。
どうしよう、これは、、、本当にどうしよう。

判断に迷って声を出せないでいると、インターンホンからチッと舌打ちの音が聞こえた。
ラーハルトだ。彼がイラつくなんて珍しい。

「ヒュンケル」

いつもは甘くとろけるような優しい声なのに、聞こえたのは冷たくワントーン低い声。
「お前、まさか…他の男といるんじゃないだろうな?」
聞いたこともない彼のその声音に、思いもしなかった彼のセリフに、オレは愕然とする。
「ば、ばか!そんな訳ないだろ!」
驚いた、まさか浮気の心配をされるとは。いや、確かに声だけ聞けば、誤解されても仕方ないかもしれない。これはまずい。別の意味で非常にまずい。
「なら、ドアを開けてくれ。確かめさせてくれ」
「あ、いや、その…ちょっと待って。今、バスローブだし、着替えるから」
「だめだ、その間に男を逃す気か?」
「だから、そんな奴はいない!(尻にローターは入れているけど)」
「なら今すぐ開けろ。頼む、お前を信じさせてくれ…!」
「ラーハルト…わかった…」
恋人にここまで言われて追い返すわけにもいかない。
オレは覚悟を決めて、玄関に向かった。


<後編へ>
 
4 / 4
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

PAGE TOP