蜜りんご

ダイの大冒険のラーハルト×ヒュンケルにドはまりしました。10年ぶりの二次創作活動で楽しい毎日です。

投稿日:2022年06月10日 21:28    文字数:19,921

【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|後編

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こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるというとんでもない妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。続きモノのためまずは①をお読みください。
性描写を含むため未成年者の閲覧を固く禁じます。

後日談はLove me moreです
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こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
大事なことなのでもう一度、言います。
ヒュンケルがBL作家です。そうです、あのヒュンケルが、です。

はい、嫌な予感がした方はそっと閉じプリーズ。

え、意味が分からないけどナニそれ面白そう!と思える方はどうぞこの先にお進みください。
来たれ同志よ。

続きモノのため、未読の方はまずは前編をお読みください

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ガチャリと開かれた玄関ドア。
そこには喜色を浮かべ顔をほころばせている愛しい人。
 キラキラと輝く銀髪、透き通るような白い肌、小さな薄い桃 色の唇、ペリドットの瞳。いつ見ても美しい。彫刻のように整った顔立ち。恐らく、街で10人とすれ違ったなら10人ともが振り返ってしまうだろう、しかも男女問わず。それほどまでに人を魅了する男。

初めて出会った時は、全く違う印象だった。
長い前髪に、似合わないメガネをかけ、楽だという理由から流行遅れのダボダボの服を着るという己の見た目に全く頓着しない有様であり、こちらからすれば隣に住むただのダサい男。
それが、何の運命のいたずらか。様々な偶然から彼の人となりを知るうちに、その姿を目で追うようになって、言葉を交わせれば安らいで、笑顔を見れば嬉しくて。会えないと、切なくて。
自分が恋をしているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

交流を重ねる中で、服を見繕ったり似合うメガネを探してやったりしていくうち、彼も興味が湧いたのか、最近はコンタクトレンズを利用したり、服のコーディネートを楽しんだりしているようだ。そうやって磨きがかかってしまい、今では一緒に出歩く度、あらゆる方向から秋波を向けられている。幸いなのは、どこか鈍感な彼がそれらに全く気づいていないことだ。

“彼”の名はヒュンケル。恋愛経験の少ない恋愛小説家で、オレのかわいい恋人。
そして、オレの名はラーハルト。
27歳会社員。性別は男だ。恋愛対象は女…だった、これまでは。いわゆるノンケだ。なのに男に惚れる日が来るなんて。人生どうなるかわからないものだ。
けれど、味気なかった日常が、ヒュンケルと過ごすというだけで温かく色づいていく。幸せだ。これを幸せと言わずして、何というのだろう。
今日はそんな恋人との初旅行。空は快晴。絶好の旅行日和。
そして、玄関ドアから出てきた恋人は今日もかわいい。

「ラーハルト。悪い、待たせたな」
「よしよし、今日もちゃんとオシャレさんだな」
「からかうなよ。お前との旅行くらいちゃんとするさ」
大事な恋人との初めての旅行なんだから。
と恥ずかしそうに、嬉しそうに笑うヒュンケルの姿に愛おしさが募る。
かわいい。本当にかわいい。会うたびにかわいくなる。今すぐキスしたい。いや、はっきり言おう、抱きたい。
今まではヒュンケルが不安がる姿に一線を越えるのは控えてきた。が、最近のリラックスした様子から見るに…そろそろ、そろそろ、オレ達もより深い段階に進んでもよさそうな気がする。決して下心ありきで誘った訳ではないが…決して決して無理強いする気はないのだが、イけるならば今夜こそキめたい。そのためにローションも避妊具もバッチリ準備済だ。男同士の行為についての予習もできる限りのことはやった。
とはいえ、恋人との初めての旅行だ。いきなりがっつくのも格好が悪い。ここはできる限りスマートなスタートを切りたい。抱きしめたい衝動を抑え、できる限り冷静な振りをして恋人をエスコートし、車に乗りこんだ。
運転席にはオレ、助手席にはヒュンケル。
「いつも悪いな、ラーハルト。お前ばかりに運転させて…」
「オレは好きだから構わん。が、たまには運転してみるか?」
「免許を取って以来ハンドルを握っていない完全ペーパーだ。オレが運転したら目的地に着く前にあの世に着いてしまう」
「お前と心中なら悪くないぞ?」
「ばかを言うなよ。オレはお前と生きて温泉に入るんだ。他にもしたいことあるし…」
少し照れて言葉をにごしたヒュンケル。うっすらピンクに上気した顔もまたたまらない。だめだ。さっきからオレは「ヒュンケル♡かわいい♡」しか考えていない。どうやらだいぶ舞い上がっているようだ。少し、冷静になろう。
オレは一つ深呼吸をしてから車のエンジンをかけた。

平日に休暇をとったので観光地に向かう道路もそんなに混んでおらず旅程は順調そのもの。途中、サービスエリアに立ち寄ってベンチで少し休憩をする。
「そういえば、原稿は終わったのか?」
アイスコーヒーを飲みながらオレは隣に座るヒュンケルに話しかけた。
彼が飲んでいるのはミルクティー。熱いのだろう、フーフーと息を吹きかけている。かわいい。あまったるい香りはあまりオレの好みではないが、それでも恋人が飲んでいる、というだけでなんだか好ましく感じるのだから不思議だ。
「ああ、おかげさまで。今日は心置きなく遊べるぞ」
その言葉に喜ぶ。と同時に先日の自分の失態について思い出してしまった。
「あー、その、この前は悪かったな、ヒュンケル…夜中に突然押しかけて」
「え?あ、ああ…あれか、すまん、むしろオレこそ、誤解させて…」
状況を思い出したのか、ヒュンケルの顔が真っ赤に染まった。
誤解。確かに誤解してしまっていた。
それも仕方ないだろう。夜中に突然、隣に住む恋人の悲鳴が聞こえたのだから。
いや最初は、悲鳴、というほどでもなかった。少し驚いたような声が聞こえただけだった。しかし、ガタゴトという物音や、再びヒュンケルの驚いた声…これは何かあったのか?けれど、よく聞こえない。状況をつかもうと耳をそばだてると…「んっ…!」とか「アッ、ん!」とか悩まし気な恋人の声がかすかに聞こえるではないか。脳裏に過るのは、その日共に過ごした時のヒュンケルのつれない態度。実は少し気になっていた。いい雰囲気になってキスをして、それ以上をしようとしたらやんわりと拒否された。いつもとは違う、オレに早く帰ってほしそうな様子。
まさか、まさか、まさか。他に誰かがヒュンケルと…?
そう思ったら居ても立ってもいられずに、オレは気づくと恋人の部屋のチャイムを鳴らしていた。
あの時は我ながら、ひどく頭に血が上っていた。馬鹿な話だ。ヒュンケルが浮気なんてするわけがないのに。結局、それは誤解だった。懇願して部屋の中に入れてもらったが、そこにいたのは真っ赤な顔をした彼一人。
「ラーハルト?」
「ああ、すまん。あの時のことを思い出していた。まさかお前があんなモノを持っているとはな」
「おい!その話はしない約束だろ。あれは…」
「小説の参考用、なんだろ?」
「っ…!そうだ!だからもう言わないでくれ…」
顔を真っ赤にして目をそらす恋人。あの時はオレも正直驚いた。
彼のおかしな様子を問い詰めた結果、部屋から出てきたのはアナル用のバイブ。確か「ドラゴンヘッド」だったか。なんでも彼の書く小説でバイブが登場するシーンがあるが、どうしても臨場感に欠けるので実物を手にしてみたのだとか。じゃあバイブなんて書かなければいいと思うが、そうもいかんらしい。オレにはさっぱりわからんが作家というのも大変なものだ。
「あの時は、一瞬お前があれを愛用しているのかと思ったぞ、ヒュンケル」
「っッ!!!ゴホゴホっ!!」
「むせるなよ。おい、大丈夫か?」
背中をさすってやりながらポケットティッシュを彼に差し出す。
「ラーハルトが変なことを言うからだ!」
「自然な発想だろう?」
エッチな声も聞こえたしな、と耳元で囁けばヒュンケルは涙で潤んだ瞳で睨みつけてきた。かわいい。
「あの時も説明しただろう。ちょっとキャラクターに感情移入しすぎて…セリフを書いている時に…」
「声が出てしまった、と」
まぁ、確かに漫画家がキャラクターの表情を描くときに同じ表情をしてしまう、というのは聞いたことがある。なら、小説家だってセリフが口から出てくることがあるのかもしれない。そんな話は聞いたことはないが、かわいい恋人がそう言うのならばそういうことにしておく。
「と、とにかく!オレは原稿も終わったし、この話はもうお終いだ」
「OK、わかった。もう言わないから拗ねるな」
「拗ねてない」
そっぽをむいて言われても説得力がない。が、そんな様子でさえ愛おしいと思ってしまう。全く以って、恋は盲目とはよく言ったものだ。
「ほら、ヒュンケル。機嫌を直せ。そろそろ行くぞ、まずは美術館だろ?」
「…と、ああ。すまん。わがままに付き合わせて」
「丁度良いさ、オレも興味がある」
「そうか、なら良かった」
ふわり、とヒュンケルが柔らかな微笑みを浮かべる。
途端にじんわりとあたたかな気持ちが灯り、胸の奥がたまらなく切なくなる。
この笑顔、これこそ、大切にしたかったもの。守りたかったもの。
今度こそ、彼を幸せにしたい。きっと、必ず。

・・・今度こそ?

ふと過る胸の痛みと切なさ。このところヒュンケルと過ごすたびに感じる既視感。
まるで昔から知っていたかのように手に馴染む彼の体温。この春に出会ったばかりだというのに。とんだ夢想に呆れてしまう、一体自分はどれだけヒュンケルに首ったけなのか。

オレは微笑む恋人の頬を手のひらでそっと撫でる。柔らかくて温かくて彼が生きていることを実感する。目を細めてオレの手に擦り寄る愛しい人。かわいい。やっぱりかわいい。
「今日はめいっぱい楽しもうな、ヒュンケル」
「ああ、もちろんだ」

喜びに満ちて素直に笑うヒュンケル。
ああ、よかった、彼を旅行に誘って、本当によかった。

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平日ということもあり、美術館はほとんど人がおらず快適に見て回れた。
正直に言えばオレ自身が「芸術」というものに興味があるかというと、特にはない。しかし、ヒュンケルが惹かれるものには興味がある。彼が何が好きで、何を感じて、何に喜ぶのか、それらを一つ一つ知っていくのは、欠けたピースをつなぎ合わせていくようで、とても楽しい。

ヒュンケルはよほど楽しいのか、美術館ではあちこちにオレを連れ回した。
油絵、水彩画、彫刻…それらを真剣に見つめては、色の重なりやその形をよくよく観察している。その横顔を美しいと思いながら見惚れていると、彼は屋外を示した。
「ラーハルト、次は、外のオブジェを見に行こう」
外に出ると、初夏の爽やかな風が吹いて、とても気持ち良い。
美術館の広大な庭には塔のようなオブジェ。ヒュンケルのお目当てはそれらしい。
近づいて外観を見てみると、全体がやや灰色がかった白で、先が鋭く尖った塔だった。高さは3階建のビル程度か。
「ヒュンケル、これは何だ?」
「うん、これは槍を模した塔で、作品名は『しあわせの誓い』だ」
「幸せ?槍なのにか?槍は戦う道具じゃないのか?」
「想いの強さを表してるんだよ…槍のように強く、誰かの幸せを願う気持ち。オレは…わかるような気がする」
「ふーん、なるほどな」
と口で言いながらも実はよくわからない。己なら槍は、ヒュンケルによからぬことを考える輩の脳天をぶち抜くのに使うだろうに。
いや、待て。オレは何を考えてるんだ、物騒にもほどがある。

気を取り直して、他のオブジェを見てみようかと踵を返したところでヒュンケルに腕を掴まれた。
「ラー、ここ、中に入れるんだ。行こう」
「そうか」
こんな味気ない塔に入っても何か面白いことがあるだろうか、と思いつつヒュンケルが行きたいというなら特に断る理由もない。彼に腕を引かれるまま、塔の中に入り、螺旋階段を登る。案の定、塔の中は暗く、特に面白みもない。何度かぐるぐると階段を回りながら上に登って行くと、目の前にドアがあらわれた。一足先を進んでいたヒュンケルがそのドアを開く。
「ほら、ラーハルト!早く。来てみろよ」
子供のようにはしゃぐ恋人の声。彼が開いたドアからは光が溢れて。
暗さに慣れた目にとっては一瞬の強い刺激。眩しさに一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
「っ、すごいな」
目の前に広がるのは色とりどりの光。360度見渡す限りのステンドグラス。見上げれば天井までびっしりと壁という壁がキラキラと光るガラスに彩られていて圧倒される。
平日の昼下がり。そこにはオレ達しかいなくて。白い床にこぼれて舞うステンドグラスの影が神秘的な美しさを生み出している。
「まるで教会みたいだな」
「だから『しあわせの誓い』なんだろう。“恋人たちの聖地”らしいぞ。ここで愛を誓うと幸せになれるらしい」
ヒュンケルが旅行ガイドを見ながら説明する。
「なんだ、そんなロマンチックな場所だったのか。外側とは大違いだな」
「内に秘めた思いはそう簡単にはわからないってことじゃないか」
「なるほど」
物騒な槍の内側には「しあわせの誓い」か、なかなか洒落ている。これは悪くない。
上を見上げてぐるりと見渡す。よく見るとドラゴンや剣といった戦いのモチーフを花々が囲んでいるような構図だ。何かの物語を表しているのかもしれない。不思議と惹きつけられる。きらきらきらきら光るかけら達。
光の美しさに見惚れていると、まるで気をひくようにヒュンケルがオレの小指にそっと触れてきた。見れば、彼の顔はほんのりと赤く染まっている。
「ここに…来たかったんだ…ラーハルトと…幸せになりたい、から」
恥ずかしがりながらもしっかりとその言葉を告げる恋人の姿。
「ヒュンケル…本当に、オレと幸せになりたい、か?」
嬉しいくせに、なぜだがすぐには信じられなくて思わず聞き返してしまった。
「そんなにおかしいか…?オレが…お前と幸せになりたいって思うのは」
「いや、おかしくない!」
俯きかけたヒュンケルを抱きしめる。嬉しくて切なくて恋しくて、強く強く抱きしめていないと心がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「お、おい。ラーハルト…誰か来たら…」
「かまわんだろ、恋人たちの聖地に来て、恋人をハグして何が悪い?」
「そ。それは…そうだけど…」
口ではそう言いながらもおとなしくオレの腕の中におさまっている彼の姿に、胸が喜びで満ちた。愛おしい人。大切な人。ずっと、ずっと。
「ありがとう、ヒュンケル。また、オレを選んでくれて」
「変な、ラーハルト。なんだよ、“また”って」
「確かに。でも嬉しいんだ。お前とこうして過ごせることが。お前が笑っていることが」
「ん。オレも嬉しい。ラーハルトとまた出会えて」
「“また”?」
「あれ?オレもおかしいな」
二人で目を見合わせる。どちらからともなく笑いがこぼれた。
「ふふ、まあいいさ。愛してるぞ、ヒュンケル」
「ああ、オレもだ、ラーハルト」
二人きりの塔の中、オレ達は静かに誓いのキスをした。

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と、ここまでは良かった。
美術館でキスしたあと、ミュージアムショップでおそろいの「誓いの魔槍キーホルダー」を買ってしまうほどには二人とも浮かれていた。温泉旅館にチェックインして、案内された離れの客室は見事な露天風呂付きだ。こじんまりとしているが、本館から離れているせいか、静かで、緑に囲まれてとても美しい。ヒュンケルも気に入ったようだった。

そう
美しい景色。美味い飯。露天風呂付きの豪華な客室。可愛い恋人。
パーフェクトだ。全て揃っている。
なのに、なぜ。

なぜ、オレは一人で温泉に浸かっているのだろう。

ついさっき誓いのキスをした相思相愛の恋人同士が温泉旅館に来たのだぞ?
誰もいない二人きりの空間。そうなれば、当然触れ合うだろう。イチャイチャするだろう!あんなところやこんなところを弄り合うだろう!
当然、一緒に温泉に入るものだと思っていた。エッチな展開にならなくても構わないのだ。二人でゆっくり湯に浸かりながらくつろぐ。触れ合う肌と肌を心地よく感じて、自然とお互いを…いや、まぁ、そこまでいかなくてもいい。でも、一緒に入るだろう?何のための客室露天風呂だ。ヒュンケルが温泉に入ると言うので、さりげなく、オレも一緒に入ろうとしたら、却下された。却下されたのだ。
え?意味がわからない。
「恥ずかしいから、絶対に入ってくるな」
なぜだ?これまでもっと恥ずかしいことをしてきただろう???最終的に挿入には至らないものの肉体的に愛し合う行為はこれまでだってしてきた。お互いの裸だって何度も見てきた。それが今、なぜ「絶対に覗くな」になるんだ?これは何だ、実はヒュンケルは鶴なのか?鶴の恩返しなのか???
いや、落ち着け、鶴を助けた覚えはないな。

そんな風に悶々としながらも恋人が嫌がることをできるはずもなく、ヒュンケルが湯から上がるまで待機した後、こうして一人で湯に浸かっている訳だ。

え、意味がわからない。オレは何かしくじっただろうか?ヒュンケルはああ見えてなかなかのロマンチストだ。お気に召さないことがあったのか?しかし、宿に着くまではラブラブだったのだ。車の中でチュッと触れ合うくらいのキスもした。お互い、気分は最高潮だったはずだ。それがどうしたことか、部屋に入ってからのヒュンケルはやたらとソワソワして落ち着かない。オレからのアプローチを待っているのかと、そっと触れようとしたらさりげなくかわされてしまった。この辺りからおかしかった。が、何ら落ち度に心当たりはない。

思い当たることがあるとすれば、アレだ。ナニだ。
これは決して自慢ではなく、むしろコンプレックスに近いのだが、オレのイチモツは一般男性よりデカい。歴代彼女のなかでもコレを全部受け止められた女はいない。大抵はビビられる。初めてそれを目にした時のヒュンケルの青ざめた顔もよく覚えている。だから決して無理強いするつもりはないのだ。無論、体目当ての旅行だと思われるのも心外だ。ゆえに彼に不安や不審を抱かせないように、極力スマートに接してきた。

が、これは想定以上に警戒されている。温泉でリラックスして心も体も開放してやれれば、などと考えていたが今夜は無理かもしれない。もし、ヒュンケルがまだ心の準備ができていないのだとしたら、今は潔く諦めよう。またチャンスはあるはずだ。
オレはそう気持ちを切り替えると、湯から上がって恋人が待つ居室へと向かった。
 
部屋ではダブルベッドの上にちょこんと座る浴衣姿のヒュンケル。残念ながらこちらに背を向けているので表情はわからないが、後ろ姿でさえもエロい。まずいな、浴衣姿はまずい。正面から見たらさぞかし艶っぽいだろう。先ほど、今夜は無理強いしないと決めたばかりなのに理性がグラつく。いや、待てよ。風呂から上がったら恋人がベッドに座っているのだ…ひょっとしたらひょっとして、今夜はイけるのではないだろうか?
知らず、ゴクリと喉が鳴った。
「ヒュンケル」
名を呼べばハッとして慌てたように彼は振り向いた。
「なんだラーハルト、もう出たのか。ゆっくり入ればいいのにせっかくの温泉だぞ」
「オレはお前ほど長風呂は好きではない。のぼせる」
「そ、そうか…」
スッと視線を逸らすヒュンケル。頬はうっすらと上気して期待しているようにも警戒しているようにも見える。さて、これはどちらなのか。しかし、まぁ、ここまで来たらウダウダ考えても仕方がない。ストレートに勝負に出るしかあるまい。
「ヒュン…」
オレは彼の横に腰掛けると、その細い腰に腕を回し耳元で囁いた。びくり、とヒュンケルの体が跳ねる。
「ラー…あの、っ…」
「好きだ。お前が欲しい」
「っ…オレも…好きだ。でも…あっ」
とさり、と彼をベッドに押し倒した。顔を真っ赤に染めて瞳を潤ませているヒュンケル。かわいい、どうしようもなくかわいい。これはダメだ。限界だ。彼の首筋に唇を寄せる。風呂上がりのしっとりした肌が心地良い。チュッチュッと音を立てながら首筋をたどり鎖骨へと舌を滑らせると恋人の口からは艶を帯びた声が漏れ始めた。
「ン…らぁ、はると…」
大きな抵抗を見せることのない姿にひとまず安心して、オレはさらに一歩踏み込むことにした。ヒュンケルの浴衣の合わせ目から手を滑り込ませてその太腿を撫であげる。
「あ、待って!ラーハルト、まだ…!!」
途端、彼は首を振りオレの体を押して、手から逃れようと身を捩った。

なるほど、そうか…やはりダメか…
ダメなのか、そうか…ああ、うん、仕方ない。仕方ないぞ、ラーハルト。
泣くな。我慢だ。ここは引け。引くんだ。負けるが勝ちという戦いもある。

オレはヒュンケルから体を離し、両手を上げた。
「わかった。ヒュンケル、安心しろ、今夜は何もしない」
「ら、ラーハルト?」
「もう身構えるな。獣じゃないんだ、お前の意志を無視して襲ったりしないさ」
「あ、いや、その…」
「まだ心配か?オレはそこのソファにでも寝るから…」
「だ、だめだ!ラーハルトと…一緒に寝たい」
一緒に寝たい。
ぐらりと視界が揺らぐような衝撃。一緒に寝たい。セックスはしたくないが一緒に寝たいということか。そうなのか、うん、やはり嫌われてはいないようだな。まだ心の準備ができていないとかいうアレか。そうか、うん、だが、キツいぞ。流石にこの状態は生殺しがすぎる。保つか?オレの理性、保つのか?????いや、無理だろ。絶対無理だ。
OK、もう降参だ。
「ヒュンケル、お前の願いは何だって叶えてやりたいが…さすがに同じベッドで寝て何もしないのは無理だ…すまん」
「わ、わかってる!!オレだって…ラーハルトに…」
「オレに?」
ドキドキと心臓の音がうるさい。ヒュンケルが目を彷徨わせて唇を噛み締める。なんだ、どっちだ、どっちの迷いなんだ、抱かれたいのか、抱かれたくないのか。決して言葉を急かさないように、けれど真剣に彼を見つめた。逃がさない。たとえどちらだろうと、彼の本心なら。
その思いが伝わったのか、観念するようにひとつ息を吐いてヒュンケルが言葉を紡いだ。
「お前に抱かれたい。今夜は最後までシて欲しい」
「ヒュンケル…」
そうか、そうか。そっちか。よかった。受け入れてもらえる。彼に受け入れてもらえるのだ。そう思ったら何だか肩の力が抜けてヒュンケルの肩口にもたれかかるようにして彼を抱きしめた。
「ラー?」
「良かった…今夜はダメかと。お前、態度が素っ気なかったから…」
「そ、そうか?」
「風呂も一緒は嫌だと言うし、今だって…オレの手を拒んだだろ」
「あ、いや、その、まだ準備が…」
「準備?なんだ、まだ決心がつかんのか?」
「そうじゃなくて…色々、終わってないから…」
「何が?」
聞き返せば、ヒュンケルは見たこともない程に真っ赤に顔を染めた。うっすら涙もにじんでいる。なんなんだ。準備とは一体なんだ、可愛い勝負下着でも用意してきたのか?いや、ちがうな、コイツはそんなことはしないだろう。なら、一体…
「ラーハルト、離してくれ。ちょっと…トイレに…すぐ済むから」
消え入りそうな小さな声。相変わらず真っ赤な顔。何だ、トイレを我慢していたのか、それならそうと早く言えばいいのに可愛い奴だな。と納得しかけて、はた、と気づく。
準備、トイレ、抱かれるつもりのヒュンケル。
まさか。
こちらの腕をすり抜けようとするヒュンケルの手首を掴むと引き寄せて再びベッドに押し倒した。
「ラー!?何を…!あっ…」
ばさり、と恋人の浴衣を捲り上げてその足を開かせる。顕になる彼の下半身。そこには…
「ヒュンケル、お前…」
「嫌だ、見るな…!」
ゆるく兆しかけたペニスが隠されることなくオレの目の前に現れた。ノーパンだ。いや、まぁそれは良い。オレとの行為を期待している証とも言えるそれは何もおかしくない。問題はその下だ。ペニスの下。本来なら排泄器官である筈のそこにはずっぽりとピンク色の何かが収まっている。見覚えのある柄の形。それは、先日恋人の部屋で見たドラゴンなんとかとか言うバイブ。なかなかのデカさだったそれが…資料用だと言っていたのに、今や半分ほど恋人の尻に収まってる。
「は、離してくれ、ラー!」
恋人の悲痛な叫びに思わず手の力が緩んだ。それを逃さずヒュンケルは素早く体勢を整えると、ソレをオレから隠すように浴衣の前を合わせた。
「お前、準備って…」
アナルへの挿入の場合、確かに準備が必要なことは知っている。膣とは違い、受け入れるための器官ではないそこにペニスが入るのだ。入念に入念にほぐさなければいけない。オレとしては前戯の一つとしてそれをしてやるつもりでいた。剥いたらすぐに挿れられるなんて思っていない。じっくり丁寧にじわじわとたっぷり、愛してやるつもりだった。なのに、なのに、なぜ、そこに先客がいるんだ。
「すまん、ラー、すぐ抜いてくるから…」
「待てよ、何でそんなの挿れてるんだ…?」
またしても逃げようとするヒュンケルの手首を掴んで問いただせば、彼は目を逸らして渋々というように話し始めた。
「ちゃんと…ラーハルトを受け入れたかったし…男を抱くのは面倒、なんて思われたくなかったから、すぐに挿れられるように…」
「ばか野郎、オレはその準備もしてやりたかったんだが…?」
「え?」
「オレだって、男がすぐに挿れられる状態にならないことくらい知っている。お前の本にだって、攻めがそこをほぐすシーンがあっただろう」
「読んだのか!?オレの本」
「そりゃ読むさ、恋人が書いた本なら何だって読みたいだろう。まだ全巻は読めてないが」
「もう絶対に読むな!!!って、そうではなく、あのな…BLと現実は違うんだラーハルト。自分でやってみてわかった。これは想像よりずっと手間がかかる…この一週間、毎日少しずつ慣らしてきたが、それでもまだコレは全部入らない…」
ヒュンケルが目線を下げて眉間に皺を寄せる。
毎日慣らしてダメなのか。それは確かに想像以上に大変な道のりだ。
ん、待て。毎日?え、毎日、慣らしたのか?そのドラゴンで?
「ヒュンケル、じゃあ、まさか…あの夜、お前…自分でそれを…?」
エッチな声が聞こえたのは彼が自ら尻をいじっていたからということなのか?資料用だなんておかしいとは思っていたが…まさか、隣の部屋でそんなことが行われていたなんて。
オレはあまりの驚愕で二の句がつなげない。それを批難と捉えたのかヒュンケルは一層顔を顰めて俯いた。浴衣を握りしめた拳がブルブルと震えている。
「お前の考えている通りだ、ラーハルト。すまん、気持ち悪いよな、こんなのを尻に挿れているなんて…でも、これが入るくらいじゃないとお前を受け入れられないと思って…どうにかしようとギリギリまで頑張ったんだが…すまん」
「待て、ヒュンケル。では、お前は…オレが風呂に入っている間に一人で準備していた、というのか?」
「…そうだ。というか、宿に着いてから少しずつ準備してた」
「!?じゃあ、妙にお前が素気なかったのは…」
「…すまない。その、冷たくするつもりはなかったんだ。でも、まだ準備できていなかったから、少し…時間稼ぎをした…」
いや、なんだこれは。なんなんだ、あれ?待ってくれ、頭が追いつかない。
つまり、ヒュンケルはオレに抱かれるためにオレの知らないところでアレコレ頑張っていたということか。え、なんだこれ。めちゃくちゃ健気じゃないか?可愛すぎじゃないか???
「すまない、こんなの見たら…萎えるよな…」
おい、どうしてそうなる?待て
「抜いてくるから…ラーハルトは…オレのこと、もう気にしないでくれ」
無理だろ。待て。待て待て待て待て!
「ダメだ!ヒュンケル、オレにやらせろ!!!」
愛しているとか、オレの気持ちは変わらないとか、そんなことを言うつもりだったのに、オレの口からこぼれ落ちたのは、そんな間抜けな言葉だった。


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「痛くないか、ヒュンケル…?」
「ん…大丈夫だ…」
オレはそっと恋人の後孔を撫でた。そこはガチガチにバイブを咥え込み硬くなっていて、指を挿れる隙間もない。
「もう少し力を抜け」
「わ、わかってる…ん…」
あの後、改めて恋人の後孔の状態を見てオレは絶句した。異物を咥え込んで真っ赤に充血しているソコ。彼が相当無理をして準備しようとしていたことを理解する。その健気さに胸が熱くなると同時にこれ以上痛い思いをさせたくないと思った。少しでも緊張をほぐしてバイブを取り出しやすくするため、オレたちは湯の中でそれを抜こうと試みている。手を動かす度、チャプチャプっとお湯のはねる音。けれど、ソコは一向に緩まない。
「ごめ、ん。ラーハルト…も、一気に抜いていいから…」
「ダメだ!傷付いたらどうする」
とはいえ、なかなか緩まない。このままでは最悪、病院行きだ。それはなんとか避けてやりたい。どうすべきだ、こういう時、攻めはどうすべきなんだ?この日のために読んできた参考書籍(BL本)を思い出す。何か、何か、良い手はなかったか?
と、その時、オレの脳裏にはヒュンケルが書いた本の一節がよみがえってきた。

ー彼の唇や舌が触れる度、やわらかく意識は溶けて体から力が抜けた。体中がとろけるようだ。

コレだ。
挿入時、攻めは口でしてやっていた。それは多分、受けにとって気持ちの良い事なのだろう。そうやってリラックスさせて緩める。ヒュンケルがそれを悦ぶかはわからないが、今試せるのはコレしかない。よし。

オレは一旦、ソコから手を離すと恋人に向き直った。
「ヒュンケル、いつもとはちょっと違うことをするが、オレに任せてくれるか?」
「?ああ…分かった」
返事を確かめ、オレは彼の体を抱え上げて湯から出し、湯場の淵に座らせた。不安げに見つめてくる恋人。キスをしてその体をゆっくり押し倒した。
「ん、…らー?」
「大丈夫だ、ヒュンケル。痛いことは何もしない。気持ちよくなろうな」
そう言って彼の唇から首筋に口を滑らせてちゅちゅとそこかしこを啄んだ。唇が触れる度、恋人からは甘い吐息が漏れる。うん、よし、いいぞ。そのまま口を下腹にまで滑らせて、彼の脚をそっと持ち上げる。ヒュンケルは一瞬びくりと震えて、けれど今度は抵抗せず、大人しく脚を開いた。相変わらず顔は真っ赤で可愛い。オレは愛しさとどうにかしてやりたい想いとで、彼のソコに舌を這わせた。にゅるり、とバイブとアナルの間に舌が入り込む。
「あ!や、ラーハルト!だめ、そんな所、汚い、から…!」
「汚くないだろ、さっき湯に入ったばかりだし、ほら、集中しろ」
オレは他人より舌が長い。舌技には自信があった。舐めて溶かすようにそこを弄れば肉壁は緩み、オレを誘うように蠢いた。そうしてチュパチュパと吸ったり舐めたりしながらゆっくりとバイブを手前に引く。ず、ず、と少しずつそれは動いていった。ヒュンケルからは意味をなさない言葉がポロポロこぼれたが、痛みを訴えるものではないようなのでそのまま口淫を続けながら、バイブを全て引き抜いた。
「あっ…!は、あっ…!」
引き抜く時、ヒュンケルの体はぶるりと震えて脱力した。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ…でも、ごめん…かえって手間をかけた…」
「気にしなくていい。オレこそ早くに気づいてやれず悪かった。まさかお前が、ここまでしてくれるなんて思ってなくて…すまん。だが、次からは一人でしようとするな…一緒にする。いいな?」
「…わかった」
コクンと小さく頷いた恋人を見届けてオレはどうするか迷っていた。続けるべきか、否か。ヒュンケルのダメージを考えれば今夜は無理すべきではない。しかし、オレの方もだいぶキツい。半身は張り裂けそうなほど昂っている。しかし、いや、でも。
逡巡していると、ヒュンケルが抱きついてきた。
「どうした?ヒュン?」
まだ怖いのだろう、、、やはり止めておくか、そう言いかけた時、恋人が口を開いた。
「ここまで手間をかけさせて言うことではないかもしれないが」
「ん?」
「もう立てなくて…ベッドに運んでくれないか」
「なんだそんな事か。お安い御用だ」
湯場で脱力した恋人の体をタオルで包んで抱え上げる。俗に言うお姫様だっこだ。
「ラーハルト、あの、別に肩を貸してくれれば…」
「そうはいかない。オレの大事なお姫様。丁重にベッドまでお運びしますよ」
「お、おい…!お姫様って…」
文句を言いながらも、やはり体がきつかったのだろう、結局ヒュンケルは大人しくオレに運ばれることを選んだ。
ベッドの上に恋人の体を下ろす。顔が近づいた拍子にそのままキスしそうになるのを堪えて、オレは半身の処理をするため再び湯場に向かおうと一歩足を踏み出した。が、腕をヒュンケルに掴まれてしまった。
「ラー、続き、しないのか?」
「あのなヒュンケル、無理はしなくていいんだ。また機会はある」
「無理なんかしてない。せっかくここまで来たんだし…」
「オレだってお前を今すぐにでも抱きたい。抱きたいが、もうオレも限界だ…優しくしてやれる自信がない」
もはや見栄などはれずに正直に心の内を告げるとヒュンケルがくすりと笑った。
「優しくなんてしなくていい。痛みでもお前と繋がれた証ならオレはそれが欲しい」
「オレはお前に痛みより気持ちよさを感じてほしい」
「ラーハルト、あの、さ。これまであのバイブを使っても気持ちよくなれなかったんだ…オレはナカで感じられないタイプらしい。だから、たとえ別の日でも多分無理だ…だったら今、ちゃんと抱かれたい」
「ヒュンケル…」
「大丈夫だ。幸い、ナカは今広がっているし…このまま抱いてくれ。ラーハルトと一つになりたいんだ」
真っ直ぐ己を見つめる瞳に射抜かれる。ここまでの想いと覚悟を持っている恋人の願いだ。それを無碍にすることなんて出来なかった。


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「ん、う…はっ…あ、あ…」
薄闇の中で白い体が艶かしく動いた。ベッドサイドの穏やかなあかりがヒュンケルの体を照らす。それから逃れようとするかのように彼は脚を交差させてその秘部を隠していた。今更の可愛らしい抵抗。全くもって無駄なのに。
「ほらヒュンケル、もっと脚を開いて見せてくれ」
「っ!う…ん」
腕で顔を隠しながら、おずおずとヒュンケルが脚を開いた。中心はしっかりと勃ち上がり先走りの蜜をこぼしている。彼も期待しているのだ、この先を。
「えっちだな、もうこんなトロトロで」
蜜が溢れる先端を指の腹でぐりぐりとなじれば甲高い悲鳴のような嬌声が上がる。
「あ、ん、や、や…それ、だめ…!」
「ん?嫌なのか?止めるか?」
「っ!やだ、止めるな…」
「ふふ、どっちだ?ん?」
「も、らぁ…はると焦らすなっ…!」
少し怒らせてしまったらしい。腕の隙間から涙目がのぞいて、こちらを軽く蹴ってきた。
「悪い悪い。お前が可愛いから、つい、いじめたくなる」
「ばか」
「お前だってオレにいじめられるの好きだろ?少しMっ気あるもんな?」
「そんなのない!ばかやろう!」
「怒るなよ。もう意地悪しないから、ほら」
「あっ…!」
つぷり、とローションで濡らした指をヒュンケルのアナルに入り口に挿し入れる。先ほどまでバイブを咥え込んでいたソコは大した抵抗を見せることなく簡単に指を受け入れた。それでも、万一ということもある。オレは慎重にゆっくりと縁をなぞりながら指をすすめた。たっぷり注いだローションが中でクチュクチュと淫猥な水音を立てる。
「っ…んっ…ん…」
恋人の口からは切なげな吐息。その声に、痛みはないようだと判断しオレはさらに挿れる指を増やした。
「気持ちいいのか、どうだ?ヒュンケル」
「ん、ん…わからない…痛くはない、けど…」
わからない、か。なるほど、確かにヒュンケルはナカで快感を覚えられるタイプではないようだ。しかし、参考資料(BL本)によれば、男がナカで感じるには前立腺への刺激が必要だとかいうので、ヒュンケルは未だソコが開発されていなだけかもしれない。ひょっとしたら一般よりも奥に彼の前立腺はあるのかもしれない。ならば、もう少し試してみてもいいだろう。拡張という点においてはドラゴンに遅れを取ったが、ここから先は誰にも譲れない。ググッとさらに奥へと進ませると、指先に何かが引っかかった。少し狭くなっているのか。オレは慎重にソレを押した。
「ひゃあんっ!」
途端、ヒュンケルの口から女の子のような嬌声が飛び出した。キタ、これだ。
それを確かめるようにゆっくりクニクニと揉むように押しつぶす。
「やっ!あ!やぁん…!」
艶めかしい悲鳴を上げながら、ヒュンケルの体がビクビクと跳ねる。
間違いない。ココだ。
「気持ちいいのか、どうだ?ヒュンケル」
先ほどと同じように問いかける。けれど、答えはない。ならば表情で確認しようとするがヒュンケルは相変わらず顔を腕で覆い、よく見えない。もどかしい。それを力づくで退かせることは簡単だが、彼の意志を確認したい。
「ヒュン?顔を見せてくれ。ちゃんと気持ちいいのか知りたいんだ」
「っ…!」
素直に懇願すればゆっくりと彼は交差した腕を解きシーツの上に投げ出した。
現れたのは、
薄く開いた口。耳まで真っ赤に染まった顔。快楽で潤んだ瞳。
早く欲しいとその目が先を強請っている。
ああ、たまらない。
「気持ちいいか?ヒュンケル?」
再度、問えば彼はコクンと頷いて。その拍子に目尻から涙が一筋溢れた。
今、オレはコイツを気持ち良くしている。コイツは快楽を感じている、オレの手で。
そう思うと、愛おしさとヒュンケルを己のモノにしているのだという雄としての充足が心に満ちる。決して美しいとは言えないケダモノじみた欲求。獣のように襲ったりしないと言ったのにこのザマだ。本性では、この男が欲しくてたまらない。
もっともっと、蕩かせてグズグズになった姿を見たい。
もはや限界だった。早く、ヒュンケルのナカに入りたい。オレは避妊具を取り出すと素早く装着し、ペニスを恋人の後孔にあてがう。
「入れるぞ」
気遣ってやる余裕などなくて、短く告げるとそのままずぶりと押し込んだ。
「あぅっ、らぁはると…っ!」
ググッと腰を押し付ければヒュンケルがのけぞって逃れようとした。が、許さない。腰をガッチリ掴んで引き寄せる。恋人を労りたい気持ちと征服したい気持ちが交錯する。頭に血が上る。暴発しそうな欲を抑えて、ヒュンケルを覗き見た。辛いのか、ぎゅうっと耐えるように目を瞑り頬にはいく筋もの涙の跡。ああ、くそ、しまった。オレは腰を進めるのを止めて、恋人の髪を撫でた。今更遅いかもしれないが、優しくしてやりたかったのも本音なのだ。
「ヒュンケル、大丈夫か…?」
辛うじての理性で抑えて愛しい人のこめかみにキスをする。相変わらずヒュンケルは静かに泣いていた。ああ、そうだった。この男はここぞという時、我慢する。
「だい、じょうぶ…大丈夫だ…ラーハルト。痛く、ないから」
「じゃあ、なぜ泣く?」
また無理をしてるのだろう?と文句を言おうとして唇を塞がれた。
「ん、違う。嬉しいんだ。人は嬉しい時にも泣くんだぞ、ラーハルト」
するりと、手を滑らせてヒュンケルが自分の腹を撫でた。
「ここに、お前がいる。オレのナカに。繋がっている、お前と」
「ヒュンケル…」
「こんなにも満たされるものなんだな」
「オレも嬉しいぞ、お前と繋がれた」
「ああ。だから、もっと奥に…お前でいっぱいにしてくれ、ラーハルト」
「…わかった」
もう遠慮はいらなかった。オレは先ほど見つけたヒュンケルの好い場所を目がけて腰を進める。
「ヒャあっ!ん!ラー!あ、イイ…あっ!!」
「クッ!すごいな、締まるっ…!」
未だ全ては入り切っていなかったが、それ以上は保ちそうになくて、オレは、ナカの膨らんだそれを刺激しながらヒュンケルのペニスを握った。
「ラー、や、らめ!両方はっ、イく!あ、あ…んん!!」
「オレもイくっ!ヒュンケル…っ!」
強烈な締め付けに襲われオレは恋人の腹の中に精を吐き出した。
と、同時に手の中のヒュンケルも白濁を飛ばして、果てた。

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遠く遠くでドラゴンの鳴き声が聞こえた気がした。


ゆっくり目を開くとそこには穏やかに微笑む愛しい人。銀糸がサラサラと流れて彼の整った相貌を更に美しく彩っている。
「おはよう、ラーハルト」
「ああ、おはよう。今、何時だ?」
「6時位かな」
「早いな」
「まだ寝てていいぞ」
くすりと笑むヒュンケルの顔に手を伸ばして触れれば彼は猫が甘えるように頬を擦り寄せてきた。ああ、やっぱり、かわいい。
「ヒュンケル、体調は?よく眠れたか?」
昨夜は無理をさせた自覚はある。本当はもう少し優しく抱くつもりだったのに。
「大丈夫だ、よく眠れたよ。体…ラーハルトが綺麗にしてくれたんだな」
「それくらいはやらせろ。お前の彼氏なんだからな」
「ふふ、そうだな。ありがとう。こんなにいい男が恋人だなんて、オレは幸せ者だな」
「それはこっちのセリフだ。こんなにかわいい恋人が居てオレは幸せだ」
お互い、そんなことを言い合って。それから二人で額を寄せ合って笑った。

朝の日差しがカーテンの隙間から入り込む。チチチと朝の小鳥のさえずり。腕の中には愛しい人。幸せだ。紛れもなく、オレ達は幸せだ。
そう思ったら鼻の奥がツンとなった。なぜだかひどく感傷的な気分。今朝方見た夢のせいかもしれない。

「ラーハルト、不思議な夢を見たんだ」
「ほう」
「お前が槍を持ってドラゴンに乗っていた」
「…オレも不思議な夢を見た。ヒュンケルが剣を、オレが槍を持ってドラゴンに乗っていた」
「へぇ、不思議だな。昨日、槍の塔を見たせいかな」
「かもなぁ」
「なぁ、ひょっとしてオレたちの前世だったりして」
「さすが、ロマンチストの恋愛作家様はいうことが違うな」
「馬鹿にしてるのか」
「違うさ、感心しているんだ」
少しむくれた恋人の額に軽くキスをしてご機嫌をとる。指の腹で耳の下を撫でるとヒュンケルはくすぐったいと笑った。愛おしいぬくもり。
「なぁ、ラーハルト。前世でもオレたち、恋人同士だったのかなぁ」
「きっとそうさ。出会っていたならオレがお前を好きにならないはずがない」
「さすが、モテる男は言うことが違うな」
「お前だってモテてただろ。男も女もオリハルコンも魔族も構わず」
「え?あ、おい、ラーハルト!?」
するりと彼の腰に手を回して首筋に顔を埋める。
「思い出したら腹が立ってきた。もう一回抱かせろ、忘れないように刻み込んでやる」
「あ、こら、どうしてそうなるんだっ…!ラーハルト!あっ…」
「せっかくの二人きりの時間だ。存分に楽しまんとな。問題があるか?」
「…ない」

柔らかく降り注ぐ朝の光が二人を静かに祝福した。


あとがきとちょこっとおまけ→
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【あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございます!
BL作家なヒュンケルとその彼氏ラーハルトとの初体験物語はいかがでしたでしょうか?
あま〜い感じになってしまったのは、まぁ、いつものことなので反省してません。基本的に少女漫画ノリなラーヒュンが大好きなんですよ。少年漫画も少女漫画も読んで育ってきたんで。ちなみに若かりし頃の?の愛読雑誌は、ジャンプとなかよしと小コミとプリンセスゴールドです。多分、もろ影響を受けたのは小コミでしょうね。。。だってちょっとエッチな少女漫画風ってラーヒュンにピッタリじゃないですか????え、違います?そうですか。まあ考え方は人それぞれですからね!
あ、ヒュンケルがBLを書くわけないでしょ、なんていう至極真っ当なツッコミはこのお話を読むことを選んだ時点で野暮ってもんですw共犯です(違うよ?)

?はBL作家ヒュンケルの話を書くのはめちゃくちゃ楽しかったです。本作では割愛しましたけどBL作家ゲイとノンケリーマンがどうやったら恋人になるのか…も一応設定はあります。いつかまた書けたら書きたいですね。他にも、ヒュンケルは普段、愛蔵書(当然BL本)をどこにしまっているのか?とかそれを彼氏が読んだらどうなるだろう?とか、ヒュンケルがスランプに陥ったらラーハルトがあれこれしてくれてイケメンネタ閃くんじゃないかな?とか考えるのが楽しすぎました。皆さんもちょっと考えてみませんか???めちゃくちゃ楽しいですよ???あ、ちょっと考えてみちゃったそこのアナタ!よろしければそれを作品にしてみませんか?
本作と関連があろうがなかろうが、BL作家なヒュンケルと彼氏のラーハルト物語を私はめちゃくちゃ読みたいです。お知らせいただけると飛び跳ねて喜びます!!!!

また、ご感想など頂けると引き続きもりもりと狂ったラーヒュンを書きます♡

と言っていたら、早速素敵なマロをいただいたのでちょこっとおまけを書いてみました。
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次のページはマロに触発されて書いたちょっとしたおまけ話です。
それでは、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!!!

蜜りんご?

➡取り止めもないおまけ
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「ヒュンケル。で、お前は毎日ソレをどんなふうに挿れてどう弄って開発してたんだ?」
「…ラーハルト。それは帰りの荷支度をしている今、言うことか?」
チェックアウト前の荷物整理。ふと、ヒュンケルの荷物を見るとそこには例のドラゴンが鎮座していた。
見てしまったからには気になるもので、オレは問いかけずにはいられなかった。
「お前、ソレ、持って帰るんだな」
「…旅館に置いて帰るわけにはいくまい」
「それはそうだが、もうお役御免だろう。オレが捨てといてやる」
単なる玩具を気にするのもなんだか器の小ささを示すようで嫌ではあるのだが、それ以上に、恋人がそれに現をぬかすようなことは阻止したい。もちろん、ヒュンケルに限ってそんなことはないと思うが。
ないと思うが。念のためだ。
オレはドラゴンを受け取るため、手を差し出した。
「ほら、よこせ」
「いや、これは持って帰る」
「なぜだ?」
「なぜって、小説の参考材料として…」
ヒュンケルが視線を外してゴニョゴニョと言葉を濁した。これまではあまり詳しくはない世界の話だと思っていたので彼の言葉をイチイチ真に受けていたが、散々っぱら振り回された今回の件でオレも少し学習した。こういう風に作家業を盾に取るときはたいてい何かを誤魔化してる。「もうその手には乗らんぞ」と凄んでみせればさらに彼の視線が泳いだ。
「うっ。いや、自分が体験してみるというのも一つの重要な参考材料だ。体験を言葉にすることで作品に深みが出るんじゃないかとオレは思っている」
「ほう。ならば、どんな風に体験したのかオレに説明してもらおうか」
「どうしてそうなるんだ!?」
「体験を言葉にすることが大事なんだろう?」
ヒュンケルがいけしゃあしゃあと言うものだからこちらとしても引っ込みがつかない。また単純に興味もあった。恋人が一体どんな風に、あれを使ったのかも。それこそ何か今後の参考になるかもしれない、色々と。
「ぐっ…!わ、わかった。だが、今でなくてもよいだろう。次の作品で…」
「だめだ、今だ。今、言わなければコイツは捨てる」
「や、やめろ!…オレが話せば本当にそいつを見のがしてくれるのか…?」
「オレが欲しいのはお前の言葉だけだ。さぁ、どうする!?」
どこかで聞いたことがあるセリフ。我ながら芝居がかっているなと思いつつも、真剣な表情の恋人に今更、揶揄っただけだとも言えない。ヒュンケルは一つ息を吐き呼吸を整えると、話し始めた。
「いいだろう…話してやる。オレは…まず、ミニドラゴンから始めた」
ん?ミニドラゴン?
「いきなり大きいのは無理だったから…小さい方から…」
待て待て待て
「おい、ヒュンケル。ミニドラゴンだと?他にもドラゴンが居るのか!?」
「そうだ。ミニサイズは家に置いてきた」
「…お前、一体いくつ持ってるんだ…」
「ドラゴンは2つだけだ!」
「ドラゴンは、だと?他にもあるのか、ヒュンケル!?」
「……」
おい、ちょっと待ってくれ。なぜ無言になるんだ。
あるんだな、ドラゴン以外にも、お前、何かあるんだな???そんなにいくつも玩具を持っているのか。あれ、ひょっとしてひょっとすると、ヒュンケルは既に…
「…オレより玩具の方がイイのか…?」
「そんなわけないだろう!!!」
「ならばなぜそんなにドラゴンに執着するんだ!?」
「ドラゴンは…っからだ…」
「なんだ?聞こえんぞ?」
「だから!ソレがなかったら、オレはお前と繋がれなかったんだ!…初エッチの記念に持って帰ったっていいじゃないか!!!悪いか!!!」
顔を真っ赤にした恋人にそんなことを言われたら案外、反論できなくて
オレは結局、ヒュンケルがドラゴンを持ち帰ることを容認したのだった。

おしまい♡
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【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|後編

キーワードタグ R18  ダイの大冒険  ヒュンケル  ラーハルト  ラーハルト×ヒュンケル  ラーヒュン  現パロ 
作品の説明 こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるというとんでもない妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。続きモノのためまずは①をお読みください。
性描写を含むため未成年者の閲覧を固く禁じます。

後日談はLove me moreです
【ラーヒュン】BL作家ヒュンケルの恋愛事情|後編
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こちらはヒュンケルがBL作家(処女)であるという妄想により生まれた現パロラーヒュン物語です。
大事なことなのでもう一度、言います。
ヒュンケルがBL作家です。そうです、あのヒュンケルが、です。

はい、嫌な予感がした方はそっと閉じプリーズ。

え、意味が分からないけどナニそれ面白そう!と思える方はどうぞこの先にお進みください。
来たれ同志よ。

続きモノのため、未読の方はまずは前編をお読みください

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ガチャリと開かれた玄関ドア。
そこには喜色を浮かべ顔をほころばせている愛しい人。
 キラキラと輝く銀髪、透き通るような白い肌、小さな薄い桃 色の唇、ペリドットの瞳。いつ見ても美しい。彫刻のように整った顔立ち。恐らく、街で10人とすれ違ったなら10人ともが振り返ってしまうだろう、しかも男女問わず。それほどまでに人を魅了する男。

初めて出会った時は、全く違う印象だった。
長い前髪に、似合わないメガネをかけ、楽だという理由から流行遅れのダボダボの服を着るという己の見た目に全く頓着しない有様であり、こちらからすれば隣に住むただのダサい男。
それが、何の運命のいたずらか。様々な偶然から彼の人となりを知るうちに、その姿を目で追うようになって、言葉を交わせれば安らいで、笑顔を見れば嬉しくて。会えないと、切なくて。
自分が恋をしているのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

交流を重ねる中で、服を見繕ったり似合うメガネを探してやったりしていくうち、彼も興味が湧いたのか、最近はコンタクトレンズを利用したり、服のコーディネートを楽しんだりしているようだ。そうやって磨きがかかってしまい、今では一緒に出歩く度、あらゆる方向から秋波を向けられている。幸いなのは、どこか鈍感な彼がそれらに全く気づいていないことだ。

“彼”の名はヒュンケル。恋愛経験の少ない恋愛小説家で、オレのかわいい恋人。
そして、オレの名はラーハルト。
27歳会社員。性別は男だ。恋愛対象は女…だった、これまでは。いわゆるノンケだ。なのに男に惚れる日が来るなんて。人生どうなるかわからないものだ。
けれど、味気なかった日常が、ヒュンケルと過ごすというだけで温かく色づいていく。幸せだ。これを幸せと言わずして、何というのだろう。
今日はそんな恋人との初旅行。空は快晴。絶好の旅行日和。
そして、玄関ドアから出てきた恋人は今日もかわいい。

「ラーハルト。悪い、待たせたな」
「よしよし、今日もちゃんとオシャレさんだな」
「からかうなよ。お前との旅行くらいちゃんとするさ」
大事な恋人との初めての旅行なんだから。
と恥ずかしそうに、嬉しそうに笑うヒュンケルの姿に愛おしさが募る。
かわいい。本当にかわいい。会うたびにかわいくなる。今すぐキスしたい。いや、はっきり言おう、抱きたい。
今まではヒュンケルが不安がる姿に一線を越えるのは控えてきた。が、最近のリラックスした様子から見るに…そろそろ、そろそろ、オレ達もより深い段階に進んでもよさそうな気がする。決して下心ありきで誘った訳ではないが…決して決して無理強いする気はないのだが、イけるならば今夜こそキめたい。そのためにローションも避妊具もバッチリ準備済だ。男同士の行為についての予習もできる限りのことはやった。
とはいえ、恋人との初めての旅行だ。いきなりがっつくのも格好が悪い。ここはできる限りスマートなスタートを切りたい。抱きしめたい衝動を抑え、できる限り冷静な振りをして恋人をエスコートし、車に乗りこんだ。
運転席にはオレ、助手席にはヒュンケル。
「いつも悪いな、ラーハルト。お前ばかりに運転させて…」
「オレは好きだから構わん。が、たまには運転してみるか?」
「免許を取って以来ハンドルを握っていない完全ペーパーだ。オレが運転したら目的地に着く前にあの世に着いてしまう」
「お前と心中なら悪くないぞ?」
「ばかを言うなよ。オレはお前と生きて温泉に入るんだ。他にもしたいことあるし…」
少し照れて言葉をにごしたヒュンケル。うっすらピンクに上気した顔もまたたまらない。だめだ。さっきからオレは「ヒュンケル♡かわいい♡」しか考えていない。どうやらだいぶ舞い上がっているようだ。少し、冷静になろう。
オレは一つ深呼吸をしてから車のエンジンをかけた。

平日に休暇をとったので観光地に向かう道路もそんなに混んでおらず旅程は順調そのもの。途中、サービスエリアに立ち寄ってベンチで少し休憩をする。
「そういえば、原稿は終わったのか?」
アイスコーヒーを飲みながらオレは隣に座るヒュンケルに話しかけた。
彼が飲んでいるのはミルクティー。熱いのだろう、フーフーと息を吹きかけている。かわいい。あまったるい香りはあまりオレの好みではないが、それでも恋人が飲んでいる、というだけでなんだか好ましく感じるのだから不思議だ。
「ああ、おかげさまで。今日は心置きなく遊べるぞ」
その言葉に喜ぶ。と同時に先日の自分の失態について思い出してしまった。
「あー、その、この前は悪かったな、ヒュンケル…夜中に突然押しかけて」
「え?あ、ああ…あれか、すまん、むしろオレこそ、誤解させて…」
状況を思い出したのか、ヒュンケルの顔が真っ赤に染まった。
誤解。確かに誤解してしまっていた。
それも仕方ないだろう。夜中に突然、隣に住む恋人の悲鳴が聞こえたのだから。
いや最初は、悲鳴、というほどでもなかった。少し驚いたような声が聞こえただけだった。しかし、ガタゴトという物音や、再びヒュンケルの驚いた声…これは何かあったのか?けれど、よく聞こえない。状況をつかもうと耳をそばだてると…「んっ…!」とか「アッ、ん!」とか悩まし気な恋人の声がかすかに聞こえるではないか。脳裏に過るのは、その日共に過ごした時のヒュンケルのつれない態度。実は少し気になっていた。いい雰囲気になってキスをして、それ以上をしようとしたらやんわりと拒否された。いつもとは違う、オレに早く帰ってほしそうな様子。
まさか、まさか、まさか。他に誰かがヒュンケルと…?
そう思ったら居ても立ってもいられずに、オレは気づくと恋人の部屋のチャイムを鳴らしていた。
あの時は我ながら、ひどく頭に血が上っていた。馬鹿な話だ。ヒュンケルが浮気なんてするわけがないのに。結局、それは誤解だった。懇願して部屋の中に入れてもらったが、そこにいたのは真っ赤な顔をした彼一人。
「ラーハルト?」
「ああ、すまん。あの時のことを思い出していた。まさかお前があんなモノを持っているとはな」
「おい!その話はしない約束だろ。あれは…」
「小説の参考用、なんだろ?」
「っ…!そうだ!だからもう言わないでくれ…」
顔を真っ赤にして目をそらす恋人。あの時はオレも正直驚いた。
彼のおかしな様子を問い詰めた結果、部屋から出てきたのはアナル用のバイブ。確か「ドラゴンヘッド」だったか。なんでも彼の書く小説でバイブが登場するシーンがあるが、どうしても臨場感に欠けるので実物を手にしてみたのだとか。じゃあバイブなんて書かなければいいと思うが、そうもいかんらしい。オレにはさっぱりわからんが作家というのも大変なものだ。
「あの時は、一瞬お前があれを愛用しているのかと思ったぞ、ヒュンケル」
「っッ!!!ゴホゴホっ!!」
「むせるなよ。おい、大丈夫か?」
背中をさすってやりながらポケットティッシュを彼に差し出す。
「ラーハルトが変なことを言うからだ!」
「自然な発想だろう?」
エッチな声も聞こえたしな、と耳元で囁けばヒュンケルは涙で潤んだ瞳で睨みつけてきた。かわいい。
「あの時も説明しただろう。ちょっとキャラクターに感情移入しすぎて…セリフを書いている時に…」
「声が出てしまった、と」
まぁ、確かに漫画家がキャラクターの表情を描くときに同じ表情をしてしまう、というのは聞いたことがある。なら、小説家だってセリフが口から出てくることがあるのかもしれない。そんな話は聞いたことはないが、かわいい恋人がそう言うのならばそういうことにしておく。
「と、とにかく!オレは原稿も終わったし、この話はもうお終いだ」
「OK、わかった。もう言わないから拗ねるな」
「拗ねてない」
そっぽをむいて言われても説得力がない。が、そんな様子でさえ愛おしいと思ってしまう。全く以って、恋は盲目とはよく言ったものだ。
「ほら、ヒュンケル。機嫌を直せ。そろそろ行くぞ、まずは美術館だろ?」
「…と、ああ。すまん。わがままに付き合わせて」
「丁度良いさ、オレも興味がある」
「そうか、なら良かった」
ふわり、とヒュンケルが柔らかな微笑みを浮かべる。
途端にじんわりとあたたかな気持ちが灯り、胸の奥がたまらなく切なくなる。
この笑顔、これこそ、大切にしたかったもの。守りたかったもの。
今度こそ、彼を幸せにしたい。きっと、必ず。

・・・今度こそ?

ふと過る胸の痛みと切なさ。このところヒュンケルと過ごすたびに感じる既視感。
まるで昔から知っていたかのように手に馴染む彼の体温。この春に出会ったばかりだというのに。とんだ夢想に呆れてしまう、一体自分はどれだけヒュンケルに首ったけなのか。

オレは微笑む恋人の頬を手のひらでそっと撫でる。柔らかくて温かくて彼が生きていることを実感する。目を細めてオレの手に擦り寄る愛しい人。かわいい。やっぱりかわいい。
「今日はめいっぱい楽しもうな、ヒュンケル」
「ああ、もちろんだ」

喜びに満ちて素直に笑うヒュンケル。
ああ、よかった、彼を旅行に誘って、本当によかった。

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平日ということもあり、美術館はほとんど人がおらず快適に見て回れた。
正直に言えばオレ自身が「芸術」というものに興味があるかというと、特にはない。しかし、ヒュンケルが惹かれるものには興味がある。彼が何が好きで、何を感じて、何に喜ぶのか、それらを一つ一つ知っていくのは、欠けたピースをつなぎ合わせていくようで、とても楽しい。

ヒュンケルはよほど楽しいのか、美術館ではあちこちにオレを連れ回した。
油絵、水彩画、彫刻…それらを真剣に見つめては、色の重なりやその形をよくよく観察している。その横顔を美しいと思いながら見惚れていると、彼は屋外を示した。
「ラーハルト、次は、外のオブジェを見に行こう」
外に出ると、初夏の爽やかな風が吹いて、とても気持ち良い。
美術館の広大な庭には塔のようなオブジェ。ヒュンケルのお目当てはそれらしい。
近づいて外観を見てみると、全体がやや灰色がかった白で、先が鋭く尖った塔だった。高さは3階建のビル程度か。
「ヒュンケル、これは何だ?」
「うん、これは槍を模した塔で、作品名は『しあわせの誓い』だ」
「幸せ?槍なのにか?槍は戦う道具じゃないのか?」
「想いの強さを表してるんだよ…槍のように強く、誰かの幸せを願う気持ち。オレは…わかるような気がする」
「ふーん、なるほどな」
と口で言いながらも実はよくわからない。己なら槍は、ヒュンケルによからぬことを考える輩の脳天をぶち抜くのに使うだろうに。
いや、待て。オレは何を考えてるんだ、物騒にもほどがある。

気を取り直して、他のオブジェを見てみようかと踵を返したところでヒュンケルに腕を掴まれた。
「ラー、ここ、中に入れるんだ。行こう」
「そうか」
こんな味気ない塔に入っても何か面白いことがあるだろうか、と思いつつヒュンケルが行きたいというなら特に断る理由もない。彼に腕を引かれるまま、塔の中に入り、螺旋階段を登る。案の定、塔の中は暗く、特に面白みもない。何度かぐるぐると階段を回りながら上に登って行くと、目の前にドアがあらわれた。一足先を進んでいたヒュンケルがそのドアを開く。
「ほら、ラーハルト!早く。来てみろよ」
子供のようにはしゃぐ恋人の声。彼が開いたドアからは光が溢れて。
暗さに慣れた目にとっては一瞬の強い刺激。眩しさに一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
「っ、すごいな」
目の前に広がるのは色とりどりの光。360度見渡す限りのステンドグラス。見上げれば天井までびっしりと壁という壁がキラキラと光るガラスに彩られていて圧倒される。
平日の昼下がり。そこにはオレ達しかいなくて。白い床にこぼれて舞うステンドグラスの影が神秘的な美しさを生み出している。
「まるで教会みたいだな」
「だから『しあわせの誓い』なんだろう。“恋人たちの聖地”らしいぞ。ここで愛を誓うと幸せになれるらしい」
ヒュンケルが旅行ガイドを見ながら説明する。
「なんだ、そんなロマンチックな場所だったのか。外側とは大違いだな」
「内に秘めた思いはそう簡単にはわからないってことじゃないか」
「なるほど」
物騒な槍の内側には「しあわせの誓い」か、なかなか洒落ている。これは悪くない。
上を見上げてぐるりと見渡す。よく見るとドラゴンや剣といった戦いのモチーフを花々が囲んでいるような構図だ。何かの物語を表しているのかもしれない。不思議と惹きつけられる。きらきらきらきら光るかけら達。
光の美しさに見惚れていると、まるで気をひくようにヒュンケルがオレの小指にそっと触れてきた。見れば、彼の顔はほんのりと赤く染まっている。
「ここに…来たかったんだ…ラーハルトと…幸せになりたい、から」
恥ずかしがりながらもしっかりとその言葉を告げる恋人の姿。
「ヒュンケル…本当に、オレと幸せになりたい、か?」
嬉しいくせに、なぜだがすぐには信じられなくて思わず聞き返してしまった。
「そんなにおかしいか…?オレが…お前と幸せになりたいって思うのは」
「いや、おかしくない!」
俯きかけたヒュンケルを抱きしめる。嬉しくて切なくて恋しくて、強く強く抱きしめていないと心がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「お、おい。ラーハルト…誰か来たら…」
「かまわんだろ、恋人たちの聖地に来て、恋人をハグして何が悪い?」
「そ。それは…そうだけど…」
口ではそう言いながらもおとなしくオレの腕の中におさまっている彼の姿に、胸が喜びで満ちた。愛おしい人。大切な人。ずっと、ずっと。
「ありがとう、ヒュンケル。また、オレを選んでくれて」
「変な、ラーハルト。なんだよ、“また”って」
「確かに。でも嬉しいんだ。お前とこうして過ごせることが。お前が笑っていることが」
「ん。オレも嬉しい。ラーハルトとまた出会えて」
「“また”?」
「あれ?オレもおかしいな」
二人で目を見合わせる。どちらからともなく笑いがこぼれた。
「ふふ、まあいいさ。愛してるぞ、ヒュンケル」
「ああ、オレもだ、ラーハルト」
二人きりの塔の中、オレ達は静かに誓いのキスをした。

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と、ここまでは良かった。
美術館でキスしたあと、ミュージアムショップでおそろいの「誓いの魔槍キーホルダー」を買ってしまうほどには二人とも浮かれていた。温泉旅館にチェックインして、案内された離れの客室は見事な露天風呂付きだ。こじんまりとしているが、本館から離れているせいか、静かで、緑に囲まれてとても美しい。ヒュンケルも気に入ったようだった。

そう
美しい景色。美味い飯。露天風呂付きの豪華な客室。可愛い恋人。
パーフェクトだ。全て揃っている。
なのに、なぜ。

なぜ、オレは一人で温泉に浸かっているのだろう。

ついさっき誓いのキスをした相思相愛の恋人同士が温泉旅館に来たのだぞ?
誰もいない二人きりの空間。そうなれば、当然触れ合うだろう。イチャイチャするだろう!あんなところやこんなところを弄り合うだろう!
当然、一緒に温泉に入るものだと思っていた。エッチな展開にならなくても構わないのだ。二人でゆっくり湯に浸かりながらくつろぐ。触れ合う肌と肌を心地よく感じて、自然とお互いを…いや、まぁ、そこまでいかなくてもいい。でも、一緒に入るだろう?何のための客室露天風呂だ。ヒュンケルが温泉に入ると言うので、さりげなく、オレも一緒に入ろうとしたら、却下された。却下されたのだ。
え?意味がわからない。
「恥ずかしいから、絶対に入ってくるな」
なぜだ?これまでもっと恥ずかしいことをしてきただろう???最終的に挿入には至らないものの肉体的に愛し合う行為はこれまでだってしてきた。お互いの裸だって何度も見てきた。それが今、なぜ「絶対に覗くな」になるんだ?これは何だ、実はヒュンケルは鶴なのか?鶴の恩返しなのか???
いや、落ち着け、鶴を助けた覚えはないな。

そんな風に悶々としながらも恋人が嫌がることをできるはずもなく、ヒュンケルが湯から上がるまで待機した後、こうして一人で湯に浸かっている訳だ。

え、意味がわからない。オレは何かしくじっただろうか?ヒュンケルはああ見えてなかなかのロマンチストだ。お気に召さないことがあったのか?しかし、宿に着くまではラブラブだったのだ。車の中でチュッと触れ合うくらいのキスもした。お互い、気分は最高潮だったはずだ。それがどうしたことか、部屋に入ってからのヒュンケルはやたらとソワソワして落ち着かない。オレからのアプローチを待っているのかと、そっと触れようとしたらさりげなくかわされてしまった。この辺りからおかしかった。が、何ら落ち度に心当たりはない。

思い当たることがあるとすれば、アレだ。ナニだ。
これは決して自慢ではなく、むしろコンプレックスに近いのだが、オレのイチモツは一般男性よりデカい。歴代彼女のなかでもコレを全部受け止められた女はいない。大抵はビビられる。初めてそれを目にした時のヒュンケルの青ざめた顔もよく覚えている。だから決して無理強いするつもりはないのだ。無論、体目当ての旅行だと思われるのも心外だ。ゆえに彼に不安や不審を抱かせないように、極力スマートに接してきた。

が、これは想定以上に警戒されている。温泉でリラックスして心も体も開放してやれれば、などと考えていたが今夜は無理かもしれない。もし、ヒュンケルがまだ心の準備ができていないのだとしたら、今は潔く諦めよう。またチャンスはあるはずだ。
オレはそう気持ちを切り替えると、湯から上がって恋人が待つ居室へと向かった。
 
部屋ではダブルベッドの上にちょこんと座る浴衣姿のヒュンケル。残念ながらこちらに背を向けているので表情はわからないが、後ろ姿でさえもエロい。まずいな、浴衣姿はまずい。正面から見たらさぞかし艶っぽいだろう。先ほど、今夜は無理強いしないと決めたばかりなのに理性がグラつく。いや、待てよ。風呂から上がったら恋人がベッドに座っているのだ…ひょっとしたらひょっとして、今夜はイけるのではないだろうか?
知らず、ゴクリと喉が鳴った。
「ヒュンケル」
名を呼べばハッとして慌てたように彼は振り向いた。
「なんだラーハルト、もう出たのか。ゆっくり入ればいいのにせっかくの温泉だぞ」
「オレはお前ほど長風呂は好きではない。のぼせる」
「そ、そうか…」
スッと視線を逸らすヒュンケル。頬はうっすらと上気して期待しているようにも警戒しているようにも見える。さて、これはどちらなのか。しかし、まぁ、ここまで来たらウダウダ考えても仕方がない。ストレートに勝負に出るしかあるまい。
「ヒュン…」
オレは彼の横に腰掛けると、その細い腰に腕を回し耳元で囁いた。びくり、とヒュンケルの体が跳ねる。
「ラー…あの、っ…」
「好きだ。お前が欲しい」
「っ…オレも…好きだ。でも…あっ」
とさり、と彼をベッドに押し倒した。顔を真っ赤に染めて瞳を潤ませているヒュンケル。かわいい、どうしようもなくかわいい。これはダメだ。限界だ。彼の首筋に唇を寄せる。風呂上がりのしっとりした肌が心地良い。チュッチュッと音を立てながら首筋をたどり鎖骨へと舌を滑らせると恋人の口からは艶を帯びた声が漏れ始めた。
「ン…らぁ、はると…」
大きな抵抗を見せることのない姿にひとまず安心して、オレはさらに一歩踏み込むことにした。ヒュンケルの浴衣の合わせ目から手を滑り込ませてその太腿を撫であげる。
「あ、待って!ラーハルト、まだ…!!」
途端、彼は首を振りオレの体を押して、手から逃れようと身を捩った。

なるほど、そうか…やはりダメか…
ダメなのか、そうか…ああ、うん、仕方ない。仕方ないぞ、ラーハルト。
泣くな。我慢だ。ここは引け。引くんだ。負けるが勝ちという戦いもある。

オレはヒュンケルから体を離し、両手を上げた。
「わかった。ヒュンケル、安心しろ、今夜は何もしない」
「ら、ラーハルト?」
「もう身構えるな。獣じゃないんだ、お前の意志を無視して襲ったりしないさ」
「あ、いや、その…」
「まだ心配か?オレはそこのソファにでも寝るから…」
「だ、だめだ!ラーハルトと…一緒に寝たい」
一緒に寝たい。
ぐらりと視界が揺らぐような衝撃。一緒に寝たい。セックスはしたくないが一緒に寝たいということか。そうなのか、うん、やはり嫌われてはいないようだな。まだ心の準備ができていないとかいうアレか。そうか、うん、だが、キツいぞ。流石にこの状態は生殺しがすぎる。保つか?オレの理性、保つのか?????いや、無理だろ。絶対無理だ。
OK、もう降参だ。
「ヒュンケル、お前の願いは何だって叶えてやりたいが…さすがに同じベッドで寝て何もしないのは無理だ…すまん」
「わ、わかってる!!オレだって…ラーハルトに…」
「オレに?」
ドキドキと心臓の音がうるさい。ヒュンケルが目を彷徨わせて唇を噛み締める。なんだ、どっちだ、どっちの迷いなんだ、抱かれたいのか、抱かれたくないのか。決して言葉を急かさないように、けれど真剣に彼を見つめた。逃がさない。たとえどちらだろうと、彼の本心なら。
その思いが伝わったのか、観念するようにひとつ息を吐いてヒュンケルが言葉を紡いだ。
「お前に抱かれたい。今夜は最後までシて欲しい」
「ヒュンケル…」
そうか、そうか。そっちか。よかった。受け入れてもらえる。彼に受け入れてもらえるのだ。そう思ったら何だか肩の力が抜けてヒュンケルの肩口にもたれかかるようにして彼を抱きしめた。
「ラー?」
「良かった…今夜はダメかと。お前、態度が素っ気なかったから…」
「そ、そうか?」
「風呂も一緒は嫌だと言うし、今だって…オレの手を拒んだだろ」
「あ、いや、その、まだ準備が…」
「準備?なんだ、まだ決心がつかんのか?」
「そうじゃなくて…色々、終わってないから…」
「何が?」
聞き返せば、ヒュンケルは見たこともない程に真っ赤に顔を染めた。うっすら涙もにじんでいる。なんなんだ。準備とは一体なんだ、可愛い勝負下着でも用意してきたのか?いや、ちがうな、コイツはそんなことはしないだろう。なら、一体…
「ラーハルト、離してくれ。ちょっと…トイレに…すぐ済むから」
消え入りそうな小さな声。相変わらず真っ赤な顔。何だ、トイレを我慢していたのか、それならそうと早く言えばいいのに可愛い奴だな。と納得しかけて、はた、と気づく。
準備、トイレ、抱かれるつもりのヒュンケル。
まさか。
こちらの腕をすり抜けようとするヒュンケルの手首を掴むと引き寄せて再びベッドに押し倒した。
「ラー!?何を…!あっ…」
ばさり、と恋人の浴衣を捲り上げてその足を開かせる。顕になる彼の下半身。そこには…
「ヒュンケル、お前…」
「嫌だ、見るな…!」
ゆるく兆しかけたペニスが隠されることなくオレの目の前に現れた。ノーパンだ。いや、まぁそれは良い。オレとの行為を期待している証とも言えるそれは何もおかしくない。問題はその下だ。ペニスの下。本来なら排泄器官である筈のそこにはずっぽりとピンク色の何かが収まっている。見覚えのある柄の形。それは、先日恋人の部屋で見たドラゴンなんとかとか言うバイブ。なかなかのデカさだったそれが…資料用だと言っていたのに、今や半分ほど恋人の尻に収まってる。
「は、離してくれ、ラー!」
恋人の悲痛な叫びに思わず手の力が緩んだ。それを逃さずヒュンケルは素早く体勢を整えると、ソレをオレから隠すように浴衣の前を合わせた。
「お前、準備って…」
アナルへの挿入の場合、確かに準備が必要なことは知っている。膣とは違い、受け入れるための器官ではないそこにペニスが入るのだ。入念に入念にほぐさなければいけない。オレとしては前戯の一つとしてそれをしてやるつもりでいた。剥いたらすぐに挿れられるなんて思っていない。じっくり丁寧にじわじわとたっぷり、愛してやるつもりだった。なのに、なのに、なぜ、そこに先客がいるんだ。
「すまん、ラー、すぐ抜いてくるから…」
「待てよ、何でそんなの挿れてるんだ…?」
またしても逃げようとするヒュンケルの手首を掴んで問いただせば、彼は目を逸らして渋々というように話し始めた。
「ちゃんと…ラーハルトを受け入れたかったし…男を抱くのは面倒、なんて思われたくなかったから、すぐに挿れられるように…」
「ばか野郎、オレはその準備もしてやりたかったんだが…?」
「え?」
「オレだって、男がすぐに挿れられる状態にならないことくらい知っている。お前の本にだって、攻めがそこをほぐすシーンがあっただろう」
「読んだのか!?オレの本」
「そりゃ読むさ、恋人が書いた本なら何だって読みたいだろう。まだ全巻は読めてないが」
「もう絶対に読むな!!!って、そうではなく、あのな…BLと現実は違うんだラーハルト。自分でやってみてわかった。これは想像よりずっと手間がかかる…この一週間、毎日少しずつ慣らしてきたが、それでもまだコレは全部入らない…」
ヒュンケルが目線を下げて眉間に皺を寄せる。
毎日慣らしてダメなのか。それは確かに想像以上に大変な道のりだ。
ん、待て。毎日?え、毎日、慣らしたのか?そのドラゴンで?
「ヒュンケル、じゃあ、まさか…あの夜、お前…自分でそれを…?」
エッチな声が聞こえたのは彼が自ら尻をいじっていたからということなのか?資料用だなんておかしいとは思っていたが…まさか、隣の部屋でそんなことが行われていたなんて。
オレはあまりの驚愕で二の句がつなげない。それを批難と捉えたのかヒュンケルは一層顔を顰めて俯いた。浴衣を握りしめた拳がブルブルと震えている。
「お前の考えている通りだ、ラーハルト。すまん、気持ち悪いよな、こんなのを尻に挿れているなんて…でも、これが入るくらいじゃないとお前を受け入れられないと思って…どうにかしようとギリギリまで頑張ったんだが…すまん」
「待て、ヒュンケル。では、お前は…オレが風呂に入っている間に一人で準備していた、というのか?」
「…そうだ。というか、宿に着いてから少しずつ準備してた」
「!?じゃあ、妙にお前が素気なかったのは…」
「…すまない。その、冷たくするつもりはなかったんだ。でも、まだ準備できていなかったから、少し…時間稼ぎをした…」
いや、なんだこれは。なんなんだ、あれ?待ってくれ、頭が追いつかない。
つまり、ヒュンケルはオレに抱かれるためにオレの知らないところでアレコレ頑張っていたということか。え、なんだこれ。めちゃくちゃ健気じゃないか?可愛すぎじゃないか???
「すまない、こんなの見たら…萎えるよな…」
おい、どうしてそうなる?待て
「抜いてくるから…ラーハルトは…オレのこと、もう気にしないでくれ」
無理だろ。待て。待て待て待て待て!
「ダメだ!ヒュンケル、オレにやらせろ!!!」
愛しているとか、オレの気持ちは変わらないとか、そんなことを言うつもりだったのに、オレの口からこぼれ落ちたのは、そんな間抜けな言葉だった。


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「痛くないか、ヒュンケル…?」
「ん…大丈夫だ…」
オレはそっと恋人の後孔を撫でた。そこはガチガチにバイブを咥え込み硬くなっていて、指を挿れる隙間もない。
「もう少し力を抜け」
「わ、わかってる…ん…」
あの後、改めて恋人の後孔の状態を見てオレは絶句した。異物を咥え込んで真っ赤に充血しているソコ。彼が相当無理をして準備しようとしていたことを理解する。その健気さに胸が熱くなると同時にこれ以上痛い思いをさせたくないと思った。少しでも緊張をほぐしてバイブを取り出しやすくするため、オレたちは湯の中でそれを抜こうと試みている。手を動かす度、チャプチャプっとお湯のはねる音。けれど、ソコは一向に緩まない。
「ごめ、ん。ラーハルト…も、一気に抜いていいから…」
「ダメだ!傷付いたらどうする」
とはいえ、なかなか緩まない。このままでは最悪、病院行きだ。それはなんとか避けてやりたい。どうすべきだ、こういう時、攻めはどうすべきなんだ?この日のために読んできた参考書籍(BL本)を思い出す。何か、何か、良い手はなかったか?
と、その時、オレの脳裏にはヒュンケルが書いた本の一節がよみがえってきた。

ー彼の唇や舌が触れる度、やわらかく意識は溶けて体から力が抜けた。体中がとろけるようだ。

コレだ。
挿入時、攻めは口でしてやっていた。それは多分、受けにとって気持ちの良い事なのだろう。そうやってリラックスさせて緩める。ヒュンケルがそれを悦ぶかはわからないが、今試せるのはコレしかない。よし。

オレは一旦、ソコから手を離すと恋人に向き直った。
「ヒュンケル、いつもとはちょっと違うことをするが、オレに任せてくれるか?」
「?ああ…分かった」
返事を確かめ、オレは彼の体を抱え上げて湯から出し、湯場の淵に座らせた。不安げに見つめてくる恋人。キスをしてその体をゆっくり押し倒した。
「ん、…らー?」
「大丈夫だ、ヒュンケル。痛いことは何もしない。気持ちよくなろうな」
そう言って彼の唇から首筋に口を滑らせてちゅちゅとそこかしこを啄んだ。唇が触れる度、恋人からは甘い吐息が漏れる。うん、よし、いいぞ。そのまま口を下腹にまで滑らせて、彼の脚をそっと持ち上げる。ヒュンケルは一瞬びくりと震えて、けれど今度は抵抗せず、大人しく脚を開いた。相変わらず顔は真っ赤で可愛い。オレは愛しさとどうにかしてやりたい想いとで、彼のソコに舌を這わせた。にゅるり、とバイブとアナルの間に舌が入り込む。
「あ!や、ラーハルト!だめ、そんな所、汚い、から…!」
「汚くないだろ、さっき湯に入ったばかりだし、ほら、集中しろ」
オレは他人より舌が長い。舌技には自信があった。舐めて溶かすようにそこを弄れば肉壁は緩み、オレを誘うように蠢いた。そうしてチュパチュパと吸ったり舐めたりしながらゆっくりとバイブを手前に引く。ず、ず、と少しずつそれは動いていった。ヒュンケルからは意味をなさない言葉がポロポロこぼれたが、痛みを訴えるものではないようなのでそのまま口淫を続けながら、バイブを全て引き抜いた。
「あっ…!は、あっ…!」
引き抜く時、ヒュンケルの体はぶるりと震えて脱力した。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ…でも、ごめん…かえって手間をかけた…」
「気にしなくていい。オレこそ早くに気づいてやれず悪かった。まさかお前が、ここまでしてくれるなんて思ってなくて…すまん。だが、次からは一人でしようとするな…一緒にする。いいな?」
「…わかった」
コクンと小さく頷いた恋人を見届けてオレはどうするか迷っていた。続けるべきか、否か。ヒュンケルのダメージを考えれば今夜は無理すべきではない。しかし、オレの方もだいぶキツい。半身は張り裂けそうなほど昂っている。しかし、いや、でも。
逡巡していると、ヒュンケルが抱きついてきた。
「どうした?ヒュン?」
まだ怖いのだろう、、、やはり止めておくか、そう言いかけた時、恋人が口を開いた。
「ここまで手間をかけさせて言うことではないかもしれないが」
「ん?」
「もう立てなくて…ベッドに運んでくれないか」
「なんだそんな事か。お安い御用だ」
湯場で脱力した恋人の体をタオルで包んで抱え上げる。俗に言うお姫様だっこだ。
「ラーハルト、あの、別に肩を貸してくれれば…」
「そうはいかない。オレの大事なお姫様。丁重にベッドまでお運びしますよ」
「お、おい…!お姫様って…」
文句を言いながらも、やはり体がきつかったのだろう、結局ヒュンケルは大人しくオレに運ばれることを選んだ。
ベッドの上に恋人の体を下ろす。顔が近づいた拍子にそのままキスしそうになるのを堪えて、オレは半身の処理をするため再び湯場に向かおうと一歩足を踏み出した。が、腕をヒュンケルに掴まれてしまった。
「ラー、続き、しないのか?」
「あのなヒュンケル、無理はしなくていいんだ。また機会はある」
「無理なんかしてない。せっかくここまで来たんだし…」
「オレだってお前を今すぐにでも抱きたい。抱きたいが、もうオレも限界だ…優しくしてやれる自信がない」
もはや見栄などはれずに正直に心の内を告げるとヒュンケルがくすりと笑った。
「優しくなんてしなくていい。痛みでもお前と繋がれた証ならオレはそれが欲しい」
「オレはお前に痛みより気持ちよさを感じてほしい」
「ラーハルト、あの、さ。これまであのバイブを使っても気持ちよくなれなかったんだ…オレはナカで感じられないタイプらしい。だから、たとえ別の日でも多分無理だ…だったら今、ちゃんと抱かれたい」
「ヒュンケル…」
「大丈夫だ。幸い、ナカは今広がっているし…このまま抱いてくれ。ラーハルトと一つになりたいんだ」
真っ直ぐ己を見つめる瞳に射抜かれる。ここまでの想いと覚悟を持っている恋人の願いだ。それを無碍にすることなんて出来なかった。


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「ん、う…はっ…あ、あ…」
薄闇の中で白い体が艶かしく動いた。ベッドサイドの穏やかなあかりがヒュンケルの体を照らす。それから逃れようとするかのように彼は脚を交差させてその秘部を隠していた。今更の可愛らしい抵抗。全くもって無駄なのに。
「ほらヒュンケル、もっと脚を開いて見せてくれ」
「っ!う…ん」
腕で顔を隠しながら、おずおずとヒュンケルが脚を開いた。中心はしっかりと勃ち上がり先走りの蜜をこぼしている。彼も期待しているのだ、この先を。
「えっちだな、もうこんなトロトロで」
蜜が溢れる先端を指の腹でぐりぐりとなじれば甲高い悲鳴のような嬌声が上がる。
「あ、ん、や、や…それ、だめ…!」
「ん?嫌なのか?止めるか?」
「っ!やだ、止めるな…」
「ふふ、どっちだ?ん?」
「も、らぁ…はると焦らすなっ…!」
少し怒らせてしまったらしい。腕の隙間から涙目がのぞいて、こちらを軽く蹴ってきた。
「悪い悪い。お前が可愛いから、つい、いじめたくなる」
「ばか」
「お前だってオレにいじめられるの好きだろ?少しMっ気あるもんな?」
「そんなのない!ばかやろう!」
「怒るなよ。もう意地悪しないから、ほら」
「あっ…!」
つぷり、とローションで濡らした指をヒュンケルのアナルに入り口に挿し入れる。先ほどまでバイブを咥え込んでいたソコは大した抵抗を見せることなく簡単に指を受け入れた。それでも、万一ということもある。オレは慎重にゆっくりと縁をなぞりながら指をすすめた。たっぷり注いだローションが中でクチュクチュと淫猥な水音を立てる。
「っ…んっ…ん…」
恋人の口からは切なげな吐息。その声に、痛みはないようだと判断しオレはさらに挿れる指を増やした。
「気持ちいいのか、どうだ?ヒュンケル」
「ん、ん…わからない…痛くはない、けど…」
わからない、か。なるほど、確かにヒュンケルはナカで快感を覚えられるタイプではないようだ。しかし、参考資料(BL本)によれば、男がナカで感じるには前立腺への刺激が必要だとかいうので、ヒュンケルは未だソコが開発されていなだけかもしれない。ひょっとしたら一般よりも奥に彼の前立腺はあるのかもしれない。ならば、もう少し試してみてもいいだろう。拡張という点においてはドラゴンに遅れを取ったが、ここから先は誰にも譲れない。ググッとさらに奥へと進ませると、指先に何かが引っかかった。少し狭くなっているのか。オレは慎重にソレを押した。
「ひゃあんっ!」
途端、ヒュンケルの口から女の子のような嬌声が飛び出した。キタ、これだ。
それを確かめるようにゆっくりクニクニと揉むように押しつぶす。
「やっ!あ!やぁん…!」
艶めかしい悲鳴を上げながら、ヒュンケルの体がビクビクと跳ねる。
間違いない。ココだ。
「気持ちいいのか、どうだ?ヒュンケル」
先ほどと同じように問いかける。けれど、答えはない。ならば表情で確認しようとするがヒュンケルは相変わらず顔を腕で覆い、よく見えない。もどかしい。それを力づくで退かせることは簡単だが、彼の意志を確認したい。
「ヒュン?顔を見せてくれ。ちゃんと気持ちいいのか知りたいんだ」
「っ…!」
素直に懇願すればゆっくりと彼は交差した腕を解きシーツの上に投げ出した。
現れたのは、
薄く開いた口。耳まで真っ赤に染まった顔。快楽で潤んだ瞳。
早く欲しいとその目が先を強請っている。
ああ、たまらない。
「気持ちいいか?ヒュンケル?」
再度、問えば彼はコクンと頷いて。その拍子に目尻から涙が一筋溢れた。
今、オレはコイツを気持ち良くしている。コイツは快楽を感じている、オレの手で。
そう思うと、愛おしさとヒュンケルを己のモノにしているのだという雄としての充足が心に満ちる。決して美しいとは言えないケダモノじみた欲求。獣のように襲ったりしないと言ったのにこのザマだ。本性では、この男が欲しくてたまらない。
もっともっと、蕩かせてグズグズになった姿を見たい。
もはや限界だった。早く、ヒュンケルのナカに入りたい。オレは避妊具を取り出すと素早く装着し、ペニスを恋人の後孔にあてがう。
「入れるぞ」
気遣ってやる余裕などなくて、短く告げるとそのままずぶりと押し込んだ。
「あぅっ、らぁはると…っ!」
ググッと腰を押し付ければヒュンケルがのけぞって逃れようとした。が、許さない。腰をガッチリ掴んで引き寄せる。恋人を労りたい気持ちと征服したい気持ちが交錯する。頭に血が上る。暴発しそうな欲を抑えて、ヒュンケルを覗き見た。辛いのか、ぎゅうっと耐えるように目を瞑り頬にはいく筋もの涙の跡。ああ、くそ、しまった。オレは腰を進めるのを止めて、恋人の髪を撫でた。今更遅いかもしれないが、優しくしてやりたかったのも本音なのだ。
「ヒュンケル、大丈夫か…?」
辛うじての理性で抑えて愛しい人のこめかみにキスをする。相変わらずヒュンケルは静かに泣いていた。ああ、そうだった。この男はここぞという時、我慢する。
「だい、じょうぶ…大丈夫だ…ラーハルト。痛く、ないから」
「じゃあ、なぜ泣く?」
また無理をしてるのだろう?と文句を言おうとして唇を塞がれた。
「ん、違う。嬉しいんだ。人は嬉しい時にも泣くんだぞ、ラーハルト」
するりと、手を滑らせてヒュンケルが自分の腹を撫でた。
「ここに、お前がいる。オレのナカに。繋がっている、お前と」
「ヒュンケル…」
「こんなにも満たされるものなんだな」
「オレも嬉しいぞ、お前と繋がれた」
「ああ。だから、もっと奥に…お前でいっぱいにしてくれ、ラーハルト」
「…わかった」
もう遠慮はいらなかった。オレは先ほど見つけたヒュンケルの好い場所を目がけて腰を進める。
「ヒャあっ!ん!ラー!あ、イイ…あっ!!」
「クッ!すごいな、締まるっ…!」
未だ全ては入り切っていなかったが、それ以上は保ちそうになくて、オレは、ナカの膨らんだそれを刺激しながらヒュンケルのペニスを握った。
「ラー、や、らめ!両方はっ、イく!あ、あ…んん!!」
「オレもイくっ!ヒュンケル…っ!」
強烈な締め付けに襲われオレは恋人の腹の中に精を吐き出した。
と、同時に手の中のヒュンケルも白濁を飛ばして、果てた。

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遠く遠くでドラゴンの鳴き声が聞こえた気がした。


ゆっくり目を開くとそこには穏やかに微笑む愛しい人。銀糸がサラサラと流れて彼の整った相貌を更に美しく彩っている。
「おはよう、ラーハルト」
「ああ、おはよう。今、何時だ?」
「6時位かな」
「早いな」
「まだ寝てていいぞ」
くすりと笑むヒュンケルの顔に手を伸ばして触れれば彼は猫が甘えるように頬を擦り寄せてきた。ああ、やっぱり、かわいい。
「ヒュンケル、体調は?よく眠れたか?」
昨夜は無理をさせた自覚はある。本当はもう少し優しく抱くつもりだったのに。
「大丈夫だ、よく眠れたよ。体…ラーハルトが綺麗にしてくれたんだな」
「それくらいはやらせろ。お前の彼氏なんだからな」
「ふふ、そうだな。ありがとう。こんなにいい男が恋人だなんて、オレは幸せ者だな」
「それはこっちのセリフだ。こんなにかわいい恋人が居てオレは幸せだ」
お互い、そんなことを言い合って。それから二人で額を寄せ合って笑った。

朝の日差しがカーテンの隙間から入り込む。チチチと朝の小鳥のさえずり。腕の中には愛しい人。幸せだ。紛れもなく、オレ達は幸せだ。
そう思ったら鼻の奥がツンとなった。なぜだかひどく感傷的な気分。今朝方見た夢のせいかもしれない。

「ラーハルト、不思議な夢を見たんだ」
「ほう」
「お前が槍を持ってドラゴンに乗っていた」
「…オレも不思議な夢を見た。ヒュンケルが剣を、オレが槍を持ってドラゴンに乗っていた」
「へぇ、不思議だな。昨日、槍の塔を見たせいかな」
「かもなぁ」
「なぁ、ひょっとしてオレたちの前世だったりして」
「さすが、ロマンチストの恋愛作家様はいうことが違うな」
「馬鹿にしてるのか」
「違うさ、感心しているんだ」
少しむくれた恋人の額に軽くキスをしてご機嫌をとる。指の腹で耳の下を撫でるとヒュンケルはくすぐったいと笑った。愛おしいぬくもり。
「なぁ、ラーハルト。前世でもオレたち、恋人同士だったのかなぁ」
「きっとそうさ。出会っていたならオレがお前を好きにならないはずがない」
「さすが、モテる男は言うことが違うな」
「お前だってモテてただろ。男も女もオリハルコンも魔族も構わず」
「え?あ、おい、ラーハルト!?」
するりと彼の腰に手を回して首筋に顔を埋める。
「思い出したら腹が立ってきた。もう一回抱かせろ、忘れないように刻み込んでやる」
「あ、こら、どうしてそうなるんだっ…!ラーハルト!あっ…」
「せっかくの二人きりの時間だ。存分に楽しまんとな。問題があるか?」
「…ない」

柔らかく降り注ぐ朝の光が二人を静かに祝福した。


あとがきとちょこっとおまけ→
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【あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございます!
BL作家なヒュンケルとその彼氏ラーハルトとの初体験物語はいかがでしたでしょうか?
あま〜い感じになってしまったのは、まぁ、いつものことなので反省してません。基本的に少女漫画ノリなラーヒュンが大好きなんですよ。少年漫画も少女漫画も読んで育ってきたんで。ちなみに若かりし頃の?の愛読雑誌は、ジャンプとなかよしと小コミとプリンセスゴールドです。多分、もろ影響を受けたのは小コミでしょうね。。。だってちょっとエッチな少女漫画風ってラーヒュンにピッタリじゃないですか????え、違います?そうですか。まあ考え方は人それぞれですからね!
あ、ヒュンケルがBLを書くわけないでしょ、なんていう至極真っ当なツッコミはこのお話を読むことを選んだ時点で野暮ってもんですw共犯です(違うよ?)

?はBL作家ヒュンケルの話を書くのはめちゃくちゃ楽しかったです。本作では割愛しましたけどBL作家ゲイとノンケリーマンがどうやったら恋人になるのか…も一応設定はあります。いつかまた書けたら書きたいですね。他にも、ヒュンケルは普段、愛蔵書(当然BL本)をどこにしまっているのか?とかそれを彼氏が読んだらどうなるだろう?とか、ヒュンケルがスランプに陥ったらラーハルトがあれこれしてくれてイケメンネタ閃くんじゃないかな?とか考えるのが楽しすぎました。皆さんもちょっと考えてみませんか???めちゃくちゃ楽しいですよ???あ、ちょっと考えてみちゃったそこのアナタ!よろしければそれを作品にしてみませんか?
本作と関連があろうがなかろうが、BL作家なヒュンケルと彼氏のラーハルト物語を私はめちゃくちゃ読みたいです。お知らせいただけると飛び跳ねて喜びます!!!!

また、ご感想など頂けると引き続きもりもりと狂ったラーヒュンを書きます♡

と言っていたら、早速素敵なマロをいただいたのでちょこっとおまけを書いてみました。
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次のページはマロに触発されて書いたちょっとしたおまけ話です。
それでは、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!!!

蜜りんご?

➡取り止めもないおまけ
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「ヒュンケル。で、お前は毎日ソレをどんなふうに挿れてどう弄って開発してたんだ?」
「…ラーハルト。それは帰りの荷支度をしている今、言うことか?」
チェックアウト前の荷物整理。ふと、ヒュンケルの荷物を見るとそこには例のドラゴンが鎮座していた。
見てしまったからには気になるもので、オレは問いかけずにはいられなかった。
「お前、ソレ、持って帰るんだな」
「…旅館に置いて帰るわけにはいくまい」
「それはそうだが、もうお役御免だろう。オレが捨てといてやる」
単なる玩具を気にするのもなんだか器の小ささを示すようで嫌ではあるのだが、それ以上に、恋人がそれに現をぬかすようなことは阻止したい。もちろん、ヒュンケルに限ってそんなことはないと思うが。
ないと思うが。念のためだ。
オレはドラゴンを受け取るため、手を差し出した。
「ほら、よこせ」
「いや、これは持って帰る」
「なぜだ?」
「なぜって、小説の参考材料として…」
ヒュンケルが視線を外してゴニョゴニョと言葉を濁した。これまではあまり詳しくはない世界の話だと思っていたので彼の言葉をイチイチ真に受けていたが、散々っぱら振り回された今回の件でオレも少し学習した。こういう風に作家業を盾に取るときはたいてい何かを誤魔化してる。「もうその手には乗らんぞ」と凄んでみせればさらに彼の視線が泳いだ。
「うっ。いや、自分が体験してみるというのも一つの重要な参考材料だ。体験を言葉にすることで作品に深みが出るんじゃないかとオレは思っている」
「ほう。ならば、どんな風に体験したのかオレに説明してもらおうか」
「どうしてそうなるんだ!?」
「体験を言葉にすることが大事なんだろう?」
ヒュンケルがいけしゃあしゃあと言うものだからこちらとしても引っ込みがつかない。また単純に興味もあった。恋人が一体どんな風に、あれを使ったのかも。それこそ何か今後の参考になるかもしれない、色々と。
「ぐっ…!わ、わかった。だが、今でなくてもよいだろう。次の作品で…」
「だめだ、今だ。今、言わなければコイツは捨てる」
「や、やめろ!…オレが話せば本当にそいつを見のがしてくれるのか…?」
「オレが欲しいのはお前の言葉だけだ。さぁ、どうする!?」
どこかで聞いたことがあるセリフ。我ながら芝居がかっているなと思いつつも、真剣な表情の恋人に今更、揶揄っただけだとも言えない。ヒュンケルは一つ息を吐き呼吸を整えると、話し始めた。
「いいだろう…話してやる。オレは…まず、ミニドラゴンから始めた」
ん?ミニドラゴン?
「いきなり大きいのは無理だったから…小さい方から…」
待て待て待て
「おい、ヒュンケル。ミニドラゴンだと?他にもドラゴンが居るのか!?」
「そうだ。ミニサイズは家に置いてきた」
「…お前、一体いくつ持ってるんだ…」
「ドラゴンは2つだけだ!」
「ドラゴンは、だと?他にもあるのか、ヒュンケル!?」
「……」
おい、ちょっと待ってくれ。なぜ無言になるんだ。
あるんだな、ドラゴン以外にも、お前、何かあるんだな???そんなにいくつも玩具を持っているのか。あれ、ひょっとしてひょっとすると、ヒュンケルは既に…
「…オレより玩具の方がイイのか…?」
「そんなわけないだろう!!!」
「ならばなぜそんなにドラゴンに執着するんだ!?」
「ドラゴンは…っからだ…」
「なんだ?聞こえんぞ?」
「だから!ソレがなかったら、オレはお前と繋がれなかったんだ!…初エッチの記念に持って帰ったっていいじゃないか!!!悪いか!!!」
顔を真っ赤にした恋人にそんなことを言われたら案外、反論できなくて
オレは結局、ヒュンケルがドラゴンを持ち帰ることを容認したのだった。

おしまい♡
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