蜜りんご

ダイの大冒険のラーハルト×ヒュンケルにドはまりしました。10年ぶりの二次創作活動で楽しい毎日です。

投稿日:2022年08月09日 17:04    文字数:15,818

【ラーヒュン】未来の男

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時をかけるラーハルト第2弾です。第1弾は20代ラーハルト✖️30代ヒュンケルのえっちなおねえさん話でした→ 「10年度の世界」https://pictbland.net/items/detail/1791661

今度は30代のラーハルトが10年前にタイムスリップするお話です。30代ラーハルト✖️20代ヒュンケル。ラーハルトがえっち指南をしてくれます。若い頃より2倍は口が滑らかなラーハルト。ヒュンケルの♡喘ぎもあります。お楽しみください。
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【side Hynckel】 

 とろりとろりとかすむ意識の中、ヒュンケルは旅のつれあいを見た。
 青い肌に尖った耳、目の下の特徴的な痣、精悍な顔立ちの魔族の男――ラーハルト。唯一無二の友であり、大事な弟弟子を主と奉る男。その弟弟子の消息をつかむために彼らは旅をしていた。ヒュンケルもそれはわかっていた。それでも、彼の脳裏には貼り付いて離れない思いがあった。
 一体なぜ自分はこの友と旅路を共にしているのか、なぜ碌に戦えもしない己を旅の供としたのか。合理的なこの友にしては酷く非合理的な判断。役立たず己の体。それを時折思い出しては胸の奥がざわざわと震えた。


 
 今日、立ち寄った街は何かの大きな祭りがあったようで、至る所に屋台が並び、色とりどりの祭り菓子は目に華やかで。肉の焼ける香ばしい匂いは食欲をそそった。街は活気に満ちていてラーハルトとヒュンケルもそれに当てられたのかも知れない。珍しくも肉や酒を買い込んで二人は宿屋でそれを愉しんだ。先日、魔物退治をして路銀が潤ったせいもあっただろう。魔物はラーハルト一人で倒してしまったのだが。
 
 久しぶりに飲んだ酒は思っていたより早く身の内に回って。ヒュンケルはゆっくりと思考がふやけていくのを感じた。
 窓の外では、ちらちらと白い雪が降っている。街の明りに照らされてそれは存外よく見えた。宿屋の温かい部屋の内から雪を眺めるなんて、随分な贅沢だ。己にはそんな資格はないのに。
 そう思えば、その言葉は自然と口からこぼれていた。
「ラーハルト、もうオレを置いていけ。足手まといだろう?」
「貴様、何を」
「戦いでお前の役に立てぬとわかっている。なのに傍に居るのはつらい。オレはオレでどうにかするから、捨てて行ってくれ」
 その言葉を口にしたとき、ラーハルトの瞳には明確な怒りがにじんだ。その色に気付くとほぼ同時にヒュンケルはベッドに押し倒される。
「ラーハルト、何を……?」
「オレが貴様を単なる戦力として見ているだけだと思っているのか?」
「お前は優しいから……友として同情してくれたのだろう。だがオレは……」
「ハッ! 何もわかっていないな。わからせてやろうか?」
 ラーハルトの手がヒュンケルの下半身に伸びて、ゆっくりと股間を撫でた。それで理解してしまった。友が何をしようとしているのかを、何を欲しているのかを。大魔王バーンに“お気に入り”として与えられてきた数々の経験から、ヒュンケルはラーハルトの欲するものを理解してしまったのだ。
 
(それをラーハルトが望むなら……それで彼の役に立てるなら……)

 受け入れよう、何もかも。
 そう決意して、ヒュンケルは静かに目を閉じた。

 以来、ラーハルトは何かにつけヒュンケルを抱くようになった。ヒュンケルも抵抗はしなかった。けれど。
「すまん、ヒュンケル」
「何がだ?」
「またひどくしてしまった」
「構わん、それでお前の気が晴れるなら。他所でやるより合理的だ」
「だが」
 体を重ねる度、こちらを労わろうとするラーハルトをヒュンケルは受け入れなかった。
 経験上、彼は知っていたのだ。痛がれば痛がるほど、相手は悦ぶこと、こちらに執着すること。それ以外は知らない。それ以外になることが、ひどく恐ろしかった。

 
 そんな二人の関係が続いたある日、ラーハルトがとあるアイテム情報を仕入れてきた。
 山向こうのダンジョンの奥には真実の望みを叶えるという願い石「アメル」があるというのだ。真偽は確かではない。しかし、万一真実であれば願い石アメルで、かの勇者を見つけることができるかもしれない。そうであるならば、彼らは――特にラーハルトはそれを試さずにはいられない。
 話し合いの末、ダンジョンにはラーハルト一人で向かうことになった。三日経っても戻らない場合はヒュンケルが救助に向かうという条件で。万一に備え、ヒュンケルはダンジョンの近くで野営をした。そして、三日経たずしてラーハルトはその野営地に戻ってきたのだ、願い石アメルを携えて。それをヒュンケルに渡す。
「願ってみろ、ダイ様の帰還を」
 コクンと頷いて、ヒュンケルが恭しく願い石アメルを空に掲げ願いを告げた。
願い石アメルよ、ダイの……勇者ダイの居場所を示してくれ」
 願いが叶うと割れるという願い石は、しかし、うんともすんとも反応がない。
「…………」
「…………何も起こらんな。お前、ダイ様のことをちゃんと願ったか?」
「そのつもりだが。ラーハルトもやってみろ」
 願い石アメルを受け取りラーハルトも試してみたがやはり何も反応はなかった。そこにはただただキラキラと静かに輝く美しい石があるばかり。
「チッ! ガセだったみたいだな」
「……そのようだな」
 期待外れだったはずなのに。ヒュンケルはなぜだかひどく安心して――そんな自分に嫌気がさした。この関係に執着をしているのはラーハルトではない、自分の方。けれど、それは決して口に出してはいけないこと。いずれかの勇者が見つかれば、友は彼と共に行ってしまうだろう、自分の手が届かない所に。そうでなくても、いずれ友は離れる。しかるべき愛しい女性と出会えば自分との肉体関係も終わる。いわば自分はそれまでの「つなぎ」でしかないのだ。
 それはわかっている。だから。
 とさり、と押し倒されて、ラーハルトが肌を撫ぜてきた時もヒュンケルは大して抵抗はしなかった。
「ラー、ハルト」
「久しぶりの戦闘だったからな、まだ体がおさまらん。つきあえ」
「……わかった」
 ただただ、ヒュンケルにできるのは頷くことのみ。それをラーハルトがどう思っているのかはわからない。ただ、己で誘ったくせに苦虫を噛み潰したような顔をしてヒュンケルの首筋に唇を寄せそこにガブリと噛みついた。魔族の犬歯が皮膚を引き裂いてうっすら血がにじむ。
「っ、う……ラー」
 ラーハルトの手がヒュンケルの半身に触れて、そこをやわやわと揉みしだいた。
「お前は相変わらず嫌がらないんだな」
「この身が役に立てるなら……好きに使って構わん。抵抗する方が好みなら、そうするが……っあ!」
「余計なことを言うな」
 唇に、噛みつくようなキス。
 思わず目を閉じて。そして、次に瞼を開いた時、見えたのは――青い肌に尖った耳、目の下の特徴的な痣、精悍な顔立ちの魔族の男――友によく似た、けれど友よりもだいぶ年嵩の男の姿だった。
「な……!? 貴様、何者だ!」
 驚いたヒュンケルが腰にさしていた護身用の剣を引き抜く。が、それより先に男は動き、ヒュンケルの剣を奪って彼を組み伏せた。
「危ないな。こんなものを向けるなよ」
 離せ、と言いかけてハッと気づく。この声は、この気配は――間違えるはずもない。彼はやはり
「ラーハルト、なのか?」
「お前は、ヒュンケルだな? なぜ、そんな若作りをしているんだ。それにここはどこだ、オレたちは家にいたはずだが?」
「ま、待て。若作り? 家? 何のことだ? 大体、お前の方こそどうしてそんな急に年をとったんだ?」
 色々と噛み合わない。ダイを探して旅をしている自分達に「家」と呼べるような場所はないし、二日前からずっとこの森で野営を続けている。もちろん若作りなんかしていない。そう告げると、ラーハルトはひどく驚いたような顔をして考え込んだ。
「……どうやら状況の整理が必要なようだな。今は大魔王バーンが死んでから何年後だ?」
「一年も経っていない。半年くらいだろうか」
 答えながら、段々とわかってきた。目の前の魔族はこの時代のラーハルトではない。
「お前は未来のラーハルトなんだな。この時代のラーハルトはどうなったんだ? さっきまでココに居たのに」
「恐らく、オレと入れ替わったと考えるのが妥当だろう。なぜそうなったのかはわからんが……で、それは何だ?」
 ラーハルトが指差したのは、ダンジョンから持ち帰った願いを叶えるというアメル(願い石)。まさか、これのせいでラーハルトは未来に行ってしまったのだろうか? ダイの情報を得るために。そして、入れ替わりで未来のラーハルトがこちらに来てしまったと言うのか?
 そこまで考えてハタと気づく。未来から来たと言うのならこの男は知っているかもしれない、ダイの居場所を。それを問い質すとラーハルトは苦笑して事情を聞いてきた。ヒュンケルは願い石アメルのことを、それにダイの居場所を知りたいと願ったことをラーハルトに伝える。
「なるほど、確かにこの願い石のせいかもしれんな。ならば心配はいらんだろう。安心しろ、ダイ様ならご健在だ。それを知ったらこの時代のオレもここに戻ってこれるんじゃないか?」
「じゃあこの時代のダイはどこに……」
「悪いが、それは教えられない。お前が知ることで未来が変わっては困るからな」
「そう、か……」
 せっかくダイの居場所が突き止められるかと思ったのに、そう甘い話ではないらしい。思わず項垂れる。さらり、と銀髪が流れて彼の首筋を露わにした。
「ヒュンケル、どうした。ココ、血が出ているぞ?」
 首筋の噛み跡をラーハルトが優しく撫でる。
「どうした、って……これはお前が……」
「オレが? そうか、お前とそう言う関係になったのは確かにこの頃だったな。お楽しみを邪魔したのか、それは……悪かったな」
 ラーハルトの指が、ヒュンケルの顔の輪郭をゆっくりとなぞった。
 友にそんな触れ方をされたのは初めてだった。
 艶然と笑む魔族の男。
 
「詫びに……シてやろうか? 続きを、オレが」

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 【side Larhart】
 ラーハルトは、ヒュンケルとキスをしていた筈だった。

 大魔王との戦いから十年。数年前に勇者ダイも見つかり、冥竜王ヴェルザーとの戦いも終わった。
 勇者と共に魔界に旅立ったラーハルトであったが、今や、唯一無二の友であり生涯の伴侶でもあるヒュンケルと人里離れた森で静かに暮らす生活を送っている。

 それは、主の命でひと月かけた魔物の調査も終わり、生涯の伴侶ヒュンケルと暮らす家に帰ってきたばかりという時だった。愛おし気に見つめてくる恋人の瞳に気付いて惹き寄せられるようにその身をソファに押し倒した。何度もその唇を塞いで、もれる吐息と熱に甘く揺れるオリーブグレイの瞳にこちらまで溶かされて。見れば、彼の左手の薬指には自分が贈った揃いの指輪。どちらかが死してその指輪が崩れるまで互いが互いのものである証。それにラーハルトは何ともいえぬ幸福を覚えるのだ。
「ん、ラーハルト……」
 触れ合う肌の温もりは年を経るほどに馴染んでいく。ゆっくりと下衣を脱がせると受け入れたくて仕様がないというようにヒクつく後孔の周りを優しく愛撫した。焦らすつもりはなかったのだけれど、もっと奥に触れてほしいのだろう、ヒュンケルの瞳には焦れた色が浮かんでいる。愛おしい。
「久しぶりなんだ。もう少し」
 じっくり味合わせろ、と宥めるように口づけをして目を開けたら、
 別の場所にいた。

 目の前には、かつてのヒュンケルの姿。一瞬、戸惑ったけれど彼と話すうちに理解した。謎のアイテムのせいで自分は過去に来てしまったのだと。実はラーハルトがタイムスリップをしたのは初めてではない。その時は自然と元の世界に戻れた。何か条件をクリアしたのだろうが、もう随分前なので詳細はよく覚えていない。ただ一度経験しているためか「どうにかなるだろう」という直感はあった。
 それよりも、ラーハルトは目の前の若人を愛しみたくて仕様がなかった。憂に満ちた昏い瞳。それはそれで美しいのだけれど、未来の、柔らかな光を湛えた瞳のつれあいを知る身としては労らずにはいられない。少なくとも、自分が抱いている間は他に何も見えなくなるほど、満たしてやりたい。
 誘う口実は何でも良かった。首筋についた跡が誰のものかなんて聞かずともわかる。ヒュンケルの服があまり乱れていないことを考えると、行為を始めたばかりで入れ替わってしまったのだろう。ならば火はまだ燻っているはずだ、ヒュンケルも自分も。
「お楽しみを邪魔したのか、それは……悪かったな。詫びに……シてやろうか? 続きを、オレが」
 するり、と手を伸ばしてヒュンケルの唇に触れる。それだけで顔を真っ赤にして目を逸らす様は初々しくラーハルトの庇護欲を刺激した。
 ただひたすらに気持ち良くして解放してやりたい、縮こまってしまっている彼の心を。体を。その思いを込めてゆっくりと指を滑らせ、耳の後ろに差し込んで彼に顔を上げさせる。瞳を合わせれば、そこには緊張と期待の色。
「ラーハルト……な、にを……」
「心配するな。今のオレとするよりずっと気持ち良くして、愛してやるからな」
「あ、い……?」
 目線と目線が絡まり合って、ゆっくりと二人の唇が重なる。初めは啄むような優しいキス。それを何度も繰り返して、口が開いたらそこに舌を差し入れる。舌同士が触れ合うと、ヒュンケルは一瞬、びくりと体を強張らせた。それにラーハルトは苦笑を浮かべ耳元で囁く。
「緊張しているお前も可愛いな。でも、そんなに頑なになるな。もっと開放して見せてくれ。可愛いお前をもっと味わいたい」
 チュウっと耳の後ろに口付けて、そこをちろりと舐め上げる。
「ひゃっ」
「ふふ、可愛い声も出るじゃないか」
 右手をヒュンケルの背に添えて左手でゆっくりと太ももを撫で上げれば、腕の中の肢体はビクビクと震えた。
「っ! やめろ、ラーハルト。オレ達はそんな……そんな甘やかな関係じゃない」
「ん? そうか、セックスするのにか?」
「違う。これは……ただの処理だ。そのうちラーハルトに相応しい女性が……だからオレはその時までの」
 目を逸らして俯くヒュンケルの表情はわからない。けれど、恐らくひどく思い詰めた顔をしているだろう。思い出す、ああ、そうだ、ヒュンケルはこういう男だったと。自分の価値を不当に見積もる悪癖の持ち主だったと。そしてさらに悪いことには、ラーハルトが彼を抱くのはただの性欲処理と思っているらしい。ああ、全く、世話が焼ける。
「顔を上げろ、ヒュンケル。良いことを教えてやる」
 声をかければようやく彼はこちらを見つめた。
「オレはこの世界の約十年後の未来から来た訳だが、少なくともそこには“相応しい女性”とやらは居らんぞ。オレは今、愛しい男と暮らしている」
「男……そんな。まさかラーハルトはオレとの行為のせいで男色家に……?」
「話は最後まで聞け、ヒュンケル。いいか、オレが選んだ相手はお前だ。十年後もお前はオレと共に居る。オレの生涯の伴侶として」
 ヒュンケルは大きく頭を振った。
「馬鹿な!? 何かの間違いだ。ラーハルトは相応しい相手と結ばれるべきだ、オレなんかではない、もっと素晴らしい人と」
「まだわからないのか? だからそれがお前なんだよ」
「なぜ……どうして、オレなんか」
 本当に、心底わからないという顔をしてヒュンケルは視線を彷徨わせる。あまりに動揺する姿にラーハルトは一層面白くなった。今や、こんなに戸惑うヒュンケルの姿など滅多に見れるものではない。愛していると囁けば当然の顔をして受け取るのだから。それはそれで嬉しいものだが、これはこれで、懐かしくもある。これは何としてでもわからせてやらねばなるまい、自分がいかにヒュンケルを大切にしているか、ヒュンケルが自分(ラーハルト)をいかに愛しているか。わからせてやらねばなるまい。
 ラーハルトは、混乱するヒュンケルを抱きしめた。
「お前を愛するのに、理由がいるのか? 要るのならば教えてやろう。まずは……」
「やめろ、やめてくれ。恥ずかしくて死にそうだ」
「死なれては困るな。では、これだけにしよう。『愛している、お前が欲しい』」
 真っ赤に染まる顔。たったこれだけでこんなにも初心な反応を見せる姿に煽られる。可愛い。ひたすらに可愛くて愛おしくて。ラーハルトはヒュンケルの顎を掴んでその顔を覗き込み、甘い声で囁いた。
「――返事は、ヒュンケル?」

 若人は視線を彷徨わせて、それから小さくコクンと頷いた。

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【side Hynckel】
 草の上に敷かれたマント。その上でヒュンケルは一糸まとわぬ姿になっていた。見上げればラーハルトが艶然と微笑んで唇を落としてくれる。これまでの情交とはあまりにも違う、何もかも。
 
『愛している、お前が欲しい』
 
 その言葉に全身が歓喜した。けれど、ヒュンケルは何も言葉にすることができなかった。
「愛している」――ラーハルトからその言葉を向けられるなんて考えたこともなかったのだ。ずっと、肉欲のせいだと思っていた。彼が自分を抱くのは、彼に抱かれたいと思うのは、全部、肉欲のせいだと。なのに。
「ヒュンケル、好きだ」
「っ、あ……」
 睦言を囁きながらラーハルトが触れてくる箇所は全部気持ち良くて、思考は熱に溶かされていく。最初に彼に抱かれた時のようだ。溶けてふやけた頭。抵抗できない。それどころか、もっともっとと心の奥で叫んでいる、卑しい己が。
「声を出せ、ヒュンケル」
 するり、とラーハルトがヒュンケルの半身に触れる。そこはすでに立ち上がり、彼の状態を如実に表していた。
「ふふ、もうこんなになって。可愛いやつだな」
「いやだ、さ、さわるな……」
「未来のお前はもう少し素直なんだがな。毎日愛し合っているぞ?」
「う、嘘だ」
「バレたか、流石に毎日は言い過ぎだな。でも、それくらい愛している。いくら年を重ねようが少しも変わらない。むしろ益々お前が愛おしくなってくるんだ」
 そんなこと、あってはいけないのに。
 なのに。
 なのに。
 胸の内が熱くてたまらない。もし本当にラーハルトとずっと共にいられる未来があるのなら――
「声を出せ、ヒュンケル。全部、見せてくれ」
「む、無理だ。そんな……っあ」
 ラーハルトがツゥと、陰茎の裏筋を指でなぞった。腰から甘い痺れが這い上がってきて思わず声が出そうになるのをすんでの所で堪える。
「っ、ふ……」
「強情なやつだな。未来のお前はもっと素直に喘いでいるぞ? うるさいくらいにな」
「うるさいんだろ、なら……っ!」
「言葉のアヤだ。そう言うところも含めて、全部愛している。お前なしではいられない」
 ふぅっと耳元で息を吹きかけられて甘く囁かれて。どこか楽しげに自分を翻弄するラーハルト。顔も、声も、彼なのにあまりにいつもと違う。クラクラする。首筋から始まった彼の唇の愛撫。それが今や胸に達していて。中心の突起をペロリと舐められた。
「ああっ……!」
 これまでラーハルトに触れられたことのなかったその場所に触れられて、体の力が抜けるような快感が全身を巡った。
「いい声が出せるじゃないか」
「あ……や、だ」
 怖かった。自分が自分で無くなりそうな、その一線を越えると戻れなくなりそうな、そんな境に今、自分はいるのだと思った。
「怖がらなくていい。ヒュンケル。大丈夫だ、おいで」
 優しい優しいラーハルト。これは夢なんだろうか?
 あまりにも都合が良すぎて、信じられない。気づくと、それが口から溢れていた。
「お前……本当にラーハルトなのか?」
「なんだ、まだ信じられないのか? こんなにいい男が他にいると思っているのか?」
「じ、自分で言うな。確かにラーハルトはいい男だが……オレの知っているあいつはお前みたいに、その、あ……愛している、なんて言うような男じゃない」
「それは意気地のない……済まなかったな。初めてなんだ、こんなに誰かを愛しく思うなんて。オレもどうしていいのかわからなかったんだろう」
 チュウと、また突起に吸い付いて、ラーハルトがそこを舌でクニクニと押しつぶす。そうしながら、もう一つの突起を指の平でゆっくりと撫で回した。控えめだったそこは赤く色づいてぷっくりと立ち上がる。それにラーハルトはまたむしゃぶりつくのだ。
「っん、そこ、や、ぁっ!」
「嫌なのか? ん?」
 言いながらも手を休めない。突起をこねくり回しながら、ヒュンケルの額に、目元に、頬に、口に、唇を落としていく。ラーハルトの唇が触れるたび、ヒュンケルの中の何かがゆっくりと融けていった。
「あぅ……ラー、ハルト」
「ん?」
「その……あの……」
「嫌か? 止めるか?」
「い、やだ……」

――やめないで

 顔が熱い。何を言っているのか。口にしてから気づくがもう遅い。
 
「ふふ、たっぷり可愛がってやるからな、ヒュンケル」
見れば男の瞳にも熱が宿っていた。彼も欲しているのだ、自分を。それが体を一層熱くした。
 するり、と男の手が伸びる。
「もうここもトロトロ。感じてるんだな」
 ラーハルトが半身の先端に触れると、そこはすでに先走りの蜜をこぼしていた。それにまた羞恥を覚え、ヒュンケルは彼を正視できない。
「恥ずかしがるな、ほら」
 逃げようとする腰をグイッと掴んで引き寄せて、ラーハルトがヒュンケルの手を自分の半身へと導く。そこは既に大きく膨らんでいた。
「わかるだろ、オレも興奮しているんだ」
 触ってくれ、と耳元で囁かれ、頭はクラクラして。もうどうしていいのかわからない。ただ、言われるまま、男のそこにゆっくりと触れた。手に触れる熱の塊は、大きくて、硬くて。これが今から自分の中に入るのだ。今までラーハルトと何度も交わしてきた行為のはずなのに、ひどく胸がドキドキする。この先を期待しているのだと、自分でもわかった。
「ラーハルト……もう……」
 耐えきれなかった。抱かれるのなら早く抱かれてしまいたかった。こんなにも心臓が壊れそうなほどに脈打っていて、このまま焦らされたら気が狂ってしまいそうだった。
 早く抱いてくれ。
 その願いを込めて彼を見つめると、柔らかな笑みを浮かべて男が唇を寄せる。
「慌てるな。ちゃんと解さないと、お前が痛いだけだぞ?」
「いい。いつも……そんなことはしていない」
「何だと? いつもしていないって……ここのオレは解しもせずにお前に挿れているのか?」
「? そうだが……?」
 雲行きが怪しい。今の今まで、余裕に満ちた顔をしていた男が急に焦り始めた。何か、拙いことでも言ってしまったのだろうか?
「ちょっと、見せてみろ」
「あっ……!」

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 【Larhart & Hynckel】
 
 ラーハルトは目の前の光景に絶句した。
 普段、行為の時は慣らしていないというヒュンケルの足を開かせてその奥の秘部を見る。幸いにも切れてはいないようだが、赤く腫れて痛々しい。
「っ、これはひどいな。オレはいつもお前にこんな無理を強いているのか? これでは、痛いばかりで気持ちよくはないだろう?」
「それでラーハルトが満足するなら、オレは別に……」
「馬鹿。こういう時は怒っていいんだ! 痛いといって蹴り飛ばしてやれ。ああ、くそ。腹立たしいな、過去とはいえオレがお前にこんな……」
 一瞬、ぎりりと拳を握り締めてラーハルトが何やら考え込んだ後、ふうと一つ息を漏らした
「手当をしてやろう。良く効く軟膏がある」
「ま、待ってくれ。ラーハルト、しないのか……その、続きは」
 目を反らしながらも顔を赤く染め、ヒュンケルは行為の継続をねだった。
「こんな状態でシたらお前が痛いばかりだぞ?」
「構わない。中途半端な状態でいる方がつらい……」
「ヒュンケル……」
 ここまで言われて断れる男がいるだろうか。ラーハルトは意を決すると、ヒュンケルに向き直った。
「なるべく痛みの無いように進める。つらかったら言え、いいな?」
 ヒュンケルがコクンとうなずくのを見届けてからラーハルトはヒュンケルの足を抱え上げる。太ももの内側に唇を落としながら、徐々に中心に向けて舌を這わせた。
「っ、ふ……」
 まだ緊張しているのだろう、ヒュンケルの口からは控えめな吐息だけが漏れる。けれど拒む様子はない。ラーハルトはそれを確認してさらに一歩踏み込むことにした。
「痛かったら言えよ」
 それだけを伝え、ヒュンケルの秘部に舌を這わせる。たっぷりの唾液を含んで、そこに流し込むかのように舌先を入口につぷりと挿し込んだ。
「ラーハルト!? やだ、そんなところ汚い!」
 その言葉にラーハルトは苦笑を漏らす。全く初々しい反応である。しかし、痛いわけではないようなので少し安心する。
「汚くないだろ。お前は全部綺麗だ。心も体も、ずっと」
「何を言って……ああっ!」
 ペロリとまた舐められてヒュンケルの体はビクリと跳ねる。
「痛いか?」
「大丈夫、だ」
 赤く腫れあがる秘部を見て驚いてしまったが、見た目ほどには痛みはないのかもしれない。だが、しかし相手はヒュンケルである。痛みへの耐性が異常な男だ。ここはやはり用心を重ねるべきだろう。
 ラーハルトは、再度、そこに舌を這わせた。最初は縁を広げるように。次に、ゆっくりと舌先を先ほどより深いところまで挿し込んで、少しずつ円を描きながら前進する。そうしてもう進めない所まで行きつくとそこを解すように舐めまわした。
「ラー……あっ、は……っん」
 痛みではない快楽の色を帯びて漏れる声に満足して、軟膏を取り出すとそれを自分の指に塗り付ける。
「ラー、ハルト……それは?」
「傷に効く軟膏だ。香油の代わりに使う、手当も兼ねてな」
 少し冷たいぞ、と前置きして軟膏をヒュンケルの秘部にも塗り付けるが
「ひゃあ」
「可愛い、ヒュンケル」
 やはりひやりとした感覚に驚いたのかヒュンケルが小さな悲鳴を上げ反射的に足を閉じる。けれど、ラーハルトはそれを許さない。
「隠すなヒュンケル。全部オレに見せろ、ありのままのお前を」
「ありのままの……オレ?」
 脳裏に過るのは、かつての魔王軍で受けた数々の辱めと自分の痴態。大魔王の手で何度も絶頂を迎えはしたなくも悦ぶ自分。大魔王の命で他にも多くの魔物や魔族に犯されてきた。決して綺麗なんかではないのだ、ありのままの自分は。その思いは、気づくと口から滑り落ちていた。
「オレは……本当のオレは綺麗なんかじゃない、汚れているんだ」
「構わん、見せろ。大丈夫だ、オレは知っている」
 うつむく顔を上げさせてラーハルトがヒュンケルの固く閉じられた目元に口づける。
「……知っているのか、オレの過去を」
「ああ、お前が話してくれた」
「ならばわかるだろう、オレは汚れている。性欲処理に使うくらいでちょうどいいんだ」
「ヒュンケル」
 名を呼ばれ、目を開けると優しく微笑むラーハルト。 
「大丈夫だ。オレを信じろ。それでもお前の美しさは消えない。ほら、見せてくれ、ヒュンケル?」
 そんな風に甘く名前を呼ばれたら逆らえるわけはなく、ヒュンケルは一度閉じた足をおずおずと開いた。
「ん、いい子だ。指、入れるからな」
 下唇をかみしめて羞恥に耐えながらコクコクとうなずくヒュンケルの姿はなかなかにクるものがある。ラーハルトはすぐにでも貫きたい衝動を抑え、ゆっくりと指を埋めた。
「っ……ん……ん……」
「ヒュンケル、息を止めるな。ほら、息を吐いてみろ」
「む、りだ……変な声が出てしまう……」
「それを聞きたいんだがな、まぁいい」
 ヒュンケルが痛がっていないことを確認しながらゆっくりゆっくりと中を広げ、三本目の指も挿入する。軟膏が熱で溶けぬるぬるとして滑りはよく、難なくそれはヒュンケルの奥へと進んでいった。そして、目当てのしこりを見つけると、指の腹で優しくノックする。
「あんっ!」
「いいな、今の声」
「な、なんだ、これ……あっ、あっ。ラー、押すな。そこ、変になる……あっあん……!」
「ここはな、お前がオンナノコになるスイッチだ」
「な、なにを言って……あ! やぁっ、ん、んぅ……ラーハルト、だ、だめ。なんか、変……」
「ふふ、ここはして貰ったことはなかったようだな。気持ちいいだろ? ほら」
 ラーハルトがしこりをクニクニと押しつぶす。
「あっ♡ あっ♡ あ、あ…♡」
 自分で自分が信じられなかった。ラーハルトがソコを押すたびに全身に強烈な快感が走り、目の前がチカチカして、体を制御することができない。口からは女のような喘ぎが漏れて耳を塞いでしまいたいような気持になる。恥ずかしい。こんなにもラーハルトの手で暴かれてしまうなんて。
「やだ、も、変だ……オレ……あ♡  あアっンン♡♡」
「聞かせろ、もっとだ」
 ラーハルトが一層強くそこを押すと、腹の奥から何かがせりあがってくる。
「や! だめ! ラー、何かくる! あ、あ♡ あああっ~~~♡♡」
 びゅ、びゅっ、プシュウウ!
 堰を切ったかのようにヒュンケルのペニスからはとめどなく液体が零れた。どうやら初めての経験らしく本人も驚いて戸惑っている。
「ラーハルト、なんだ、これ……オレ……こんな」
「大丈夫だ、ヒュンケル。潮を吹いただけだから」
「……済まない、こんな…こんなみっともない……」
 よほど恥ずかしいのか、可哀そうになるくらい真っ赤に顔を染めてヒュンケルは視線から逃れようと身をよじった。けれど、逃すラーハルトではない。一度、指を引き抜くとヒュンケルの体を抱え起こして自分の膝に座らせるような形で、目線を合わせる。いわゆる対面座位の格好だ。
「気持ちよかったんだろ? オレは嬉しいぞ。もっともっと、お前を気持ちよくしてやりたいんだ。オレを受け入れてくれ。お前の深くまで」
 向き合ったままそっと口づけた。唇をなぞれば、おずおずと舌が差し出されて。それに舌を絡めて吸い上げる。もはやヒュンケルの抵抗はなかった。それどころか、彼はラーハルトの首に腕を回しその唇を貪った。
「ん♡ んん~~♡♡」
「可愛い、ヒュンケル。なあ、そろそろオレもお前に挿れたい」
 見ればラーハルトのペニスはもう限界近くにまで大きく膨れ上がっている。心なしか、普段の彼の挿入時よりも大きい気がする。ヒュンケルはそんなことを考えながら、彼が挿入しやすいようにと後背位の姿勢に移ろうとした。それをラーハルトが引き留める。
「そっちじゃない。ほら、ここに座れ。お前がこれを自分で挿れるんだ」
 いきり立った一物を見せつけられてヒュンケルはたじろいだ。
「自分で? むりだ、そんな……」
「ここに腰を落とせばいいだけだ。自分でやるから痛かったらやめられる。今のお前にちょうど良い体位だろ」
「そんな……でも……」
「ほら、おいで。ヒュンケル」
 ヒュンケルの腰に手を添えてラーハルトが優しく誘う。抗えるはずがないだろう、愛しい男からの優しい声の誘いに。
 ヒュンケルは意を決すると、ラーハルトのペニスを掴んでそれを己の秘部に押し当てながらゆっくりと腰を下ろした。
「ふっ……っ……!」
 毎度のことながら大きさにひるむ。それでも、今日は丁寧に解されたおかげか、ほとんど痛みを感じることなくラーハルトを受け入れることができた。腹の中に彼を感じる。それがとてもうれしかった。
 
 胸の内にじんわりと広がるあたたかさ。
 本当は、ずっと。
 ずっと、こんな風につながりたかった、ラーハルトと。
 
「ヒュンケル。お前のナカは温かいな。気持ちいい」
「ん……オレもナカで感じる……ラーハルトの……熱い」
 ラーハルトの胸に縋るように身を預けると逞しい腕が包み込んで抱きしめてくれた。
 優しくてあたたかくて泣きそうになる。
 セックスはこんなにも甘やかなものだったろうか。
「ヒュンケル、動くぞ」
 細く白い腰をつかむとラーハルトが奥をめがけて突き上げる。
「あっ……」
 途端に走る甘い痺れ。
 倒れそうになる体をラーハルトが支える。
「ヒュンケル、ほら、オレの肩に手を置いて。そう、そうだ」
 言われるままの体勢を取ると、ラーハルトはもう一度小刻みに腰を打ち付けてきた。
「あ!? また、そこ、だめだ……あんっ♡」
「そんな声で言われても説得力がないな。ほら、気持ちいいだろ。この体勢だとちょうどお前の好い所に当たるんだ」
「ぁ……すごい、だめ、だ。も、おかしくなる…」
 繋がったばかりだというのに、自分でも信じられないくらいに気持ちがよかった。体の奥を優しくトントンと突かれると波のように次々と腰を蕩かせる快感が襲ってくる。魔王軍に居た頃、媚薬で強制的に快楽を感じさせられたことはあったけれど、こんな風にただ繋がっているだけで満たされるような悦びは初めてで。ずっと、ずっとこうしていたいとさえ思う。
 快感と熱に侵されて目の前の男の姿に、いつものラーハルトの姿がダブった。
「あ……!」
「ふふ、今、すごく締まったな。っ、何を考えていた?」
「聞く、な……」
「教えてくれ、ヒュンケル?」
 甘く柔らかく、耳元で囁かれる声にますます脳が蕩ける。逆らえるはずがないのだ、この男の声に。
「っ……う、ラーハルトと、あっん……こんな風に繋がれるなんて……オレに、そんな未来があるんだと思ったら……あっ!」
 ズクンと、ナカのラーハルトが一層大きくなる。それにより、好い所がより強く押し込まれ、再びヒュンケルの体をせつない快感が襲った。
「あ、ラー、だめ、も、ほんとうに、イきそ……」
「そうか、じゃあ一緒にイくぞ……!」
 バチンと腰を打ち付けられ、前立腺をゴリュッと押し込まれて。
「クッ……ヒュンケル!!」
「あ♡ あああああ♡♡ ラーハルト♡ イグぅ――――!!」
 突然の強すぎる刺激で、脳天に電撃を喰らったような衝撃。下半身を焼くような強いオルガスムにヒュンケルの目がグルンと宙を仰ぐ。直後、全身に快感が広がり、腹の奥が甘く甘く痺れた。
 初めてだった。前を触れられることなく、後ろだけで達してしまうなんて。
 それをどう受け止めればいいのかわからないまま、ヒュンケルは意識を手放した。


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 頬に触れる冷たく心地よい感触で目が覚める。
「起きたか、まだ寝てていいぞ」
「ラー……ハルト?」
 そこには未来のラーハルト。一瞬、先ほどの情交は己の願望が見せた夢かと思ったが、違うのだ。十年後の未来からラーハルトがやってきて、その彼と体を繋げた。
「体、大丈夫か?」
「あ、ああ」
 寝ている間に後処理はラーハルトがやってくれたのだろう。己の身なりはすっかりきれいに整えられていた。
「どうだった? ヒュンケル」
「どうって……」
「オレは嬉しかったぞ? お前とつながれて。気持ちよかった」
「お、オレも……」
 嬉しかった、気持ちよかった、と言おうとして言葉が出てこなかった。不甲斐なさに泣きたくなる。ただ思いだけは伝えたくてラーハルトを見つめた。それを汲んでなのか、男は片眉を上げてクスリと笑った。
「わかった。なかなか難しいものだからな、本当の願いや気持ちを口にするのは」
「本当の願い……。ラーハルト、オレは……」
 ヒュンケルがようやくその言葉を口にしようとしたとき、突然、ラーハルトの全身が青く光り出した。
「ヒュンケル。もう少しお前と居たかったが時間切れのようだ」
「戻るのか、未来に?」
「おそらく。なぁ、最後に抱きしめていいか?」
「ああ」
 青く輝く光に包まれたラーハルトがヒュンケルを抱きしめる。ヒュンケルもラーハルトを抱きしめ返した。
「ヒュンケル。ありのままのお前をこっちのオレにも見せてやってくれ。信じてやってくれ」
 唇と唇が触れる――その時、青い光が弾けた。

 眩い光に目を閉じて、開けるとそこにはラーハルトが居た。
 未来の男ではない、現在のラーハルト。鼻と鼻が触れ合う至近距離で見るその友の姿に思わず後退りしてしまう。
「っと……す、すまん。ぶ、無事でよかったラーハルト」
 くるりと背を向ける。今のラーハルトに合わせる顔がなかった。一体、どんな顔をすればいいのか、わからなかった。先ほどまで未来のラーハルトと抱き合っていたのだ。今、顔を見てしまったらきっと彼との甘やかな行為を思い出してしまうだろう。変なことを口走ってしまうかもしれない。その思いから、ヒュンケルは背を向けたのだった。それをラーハルトが後ろから抱きしめる。
「ラ、ラーハルト!?」
「ヒュンケル。お前に伝えねばならないことがある。聞いてくれるか?」
 ラーハルトの声はこれまで聞いたこともないほどに真剣で、ヒュンケルは振り向くことができない。振り向いてしまえばきっと何かが変わってしまう。早鐘を打つ己の心臓の音が嫌に大きく聞こえた。
 どんな言葉が飛び出すのか、聞きたい、聞きたくない。怖い。それでも。
 ――「ヒュンケル。ありのままのお前をこっちのオレにも見せてやってくれ。信じてやってくれ」
 脳裏には、未来の男の言葉が過ぎる。ありのままの自分を曝け出すのは怖い。けれど、このままでいるのも不誠実なのだと、ようやくわかったのだ。ラーハルトが本音で向き合おうとしてくれているのならばこちらもそれ相応の対応をせねばならないだろう。たとえ、罵られようと。ヒュンケルは覚悟を決めて振り返った。
 
 そこにいたのは、今にも泣きそうな顔のラーハルト。

「好きだ。愛している」
「ラー、ハルト?」
「ヒュンケルが好きだ。お前がオレから離れたがっているのはわかる。でも、オレは離れたくない。
 お前と共に生きていきたい、この先もずっと」

 他者からの恋慕の情など、受け付けるべきではないと思っていたはずなのに。
 なぜだかラーハルトの言葉だけはするりと胸の内に滑り込んで。
 ああ、それは望んでいた言葉なのだと、己の頬を伝う涙で気づいた。


 
 ヒュンケルの足元では 願い石アメルが割れてキラキラとカケラが光っていた。


<おしまい>
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【あとがき】
 未来からきた30代ラーハルト✖️20代ヒュンケルのお話はいかがだったでしょうか?
未来にタイムスリップしてしまった20代ラーハルト✖️30代ヒュンケルのお話「10年後の世界」と色々とリンクさせている場面がありますのでそんなところも「ああかな、こうかな?」と考えながらお楽しみいただければ幸いです。
 30代ということで20代とはまた違った魅力を表現したかったのですが、非常に難しかったです。特に30代ラーのお口が滑らかすぎて、?もびっくりですよ。まぁ、それも年を重ねた余裕がなせるのだと大目に見てください。
 お、なかなかいいじゃん!と思われたかったはいいねボタンをクリックしていただければ嬉しいです。
 ご感想一言コメントも大歓迎です!よろしくお願いします。
 
 


 
 

 
 
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【ラーヒュン】未来の男

キーワードタグ R18  ダイの大冒険  ヒュンケル  ラーハルト  ラーハルト×ヒュンケル  ラーヒュン  原作終了後  ハート喘ぎ 
作品の説明 時をかけるラーハルト第2弾です。第1弾は20代ラーハルト✖️30代ヒュンケルのえっちなおねえさん話でした→ 「10年度の世界」https://pictbland.net/items/detail/1791661

今度は30代のラーハルトが10年前にタイムスリップするお話です。30代ラーハルト✖️20代ヒュンケル。ラーハルトがえっち指南をしてくれます。若い頃より2倍は口が滑らかなラーハルト。ヒュンケルの♡喘ぎもあります。お楽しみください。
【ラーヒュン】未来の男
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【side Hynckel】 

 とろりとろりとかすむ意識の中、ヒュンケルは旅のつれあいを見た。
 青い肌に尖った耳、目の下の特徴的な痣、精悍な顔立ちの魔族の男――ラーハルト。唯一無二の友であり、大事な弟弟子を主と奉る男。その弟弟子の消息をつかむために彼らは旅をしていた。ヒュンケルもそれはわかっていた。それでも、彼の脳裏には貼り付いて離れない思いがあった。
 一体なぜ自分はこの友と旅路を共にしているのか、なぜ碌に戦えもしない己を旅の供としたのか。合理的なこの友にしては酷く非合理的な判断。役立たず己の体。それを時折思い出しては胸の奥がざわざわと震えた。


 
 今日、立ち寄った街は何かの大きな祭りがあったようで、至る所に屋台が並び、色とりどりの祭り菓子は目に華やかで。肉の焼ける香ばしい匂いは食欲をそそった。街は活気に満ちていてラーハルトとヒュンケルもそれに当てられたのかも知れない。珍しくも肉や酒を買い込んで二人は宿屋でそれを愉しんだ。先日、魔物退治をして路銀が潤ったせいもあっただろう。魔物はラーハルト一人で倒してしまったのだが。
 
 久しぶりに飲んだ酒は思っていたより早く身の内に回って。ヒュンケルはゆっくりと思考がふやけていくのを感じた。
 窓の外では、ちらちらと白い雪が降っている。街の明りに照らされてそれは存外よく見えた。宿屋の温かい部屋の内から雪を眺めるなんて、随分な贅沢だ。己にはそんな資格はないのに。
 そう思えば、その言葉は自然と口からこぼれていた。
「ラーハルト、もうオレを置いていけ。足手まといだろう?」
「貴様、何を」
「戦いでお前の役に立てぬとわかっている。なのに傍に居るのはつらい。オレはオレでどうにかするから、捨てて行ってくれ」
 その言葉を口にしたとき、ラーハルトの瞳には明確な怒りがにじんだ。その色に気付くとほぼ同時にヒュンケルはベッドに押し倒される。
「ラーハルト、何を……?」
「オレが貴様を単なる戦力として見ているだけだと思っているのか?」
「お前は優しいから……友として同情してくれたのだろう。だがオレは……」
「ハッ! 何もわかっていないな。わからせてやろうか?」
 ラーハルトの手がヒュンケルの下半身に伸びて、ゆっくりと股間を撫でた。それで理解してしまった。友が何をしようとしているのかを、何を欲しているのかを。大魔王バーンに“お気に入り”として与えられてきた数々の経験から、ヒュンケルはラーハルトの欲するものを理解してしまったのだ。
 
(それをラーハルトが望むなら……それで彼の役に立てるなら……)

 受け入れよう、何もかも。
 そう決意して、ヒュンケルは静かに目を閉じた。

 以来、ラーハルトは何かにつけヒュンケルを抱くようになった。ヒュンケルも抵抗はしなかった。けれど。
「すまん、ヒュンケル」
「何がだ?」
「またひどくしてしまった」
「構わん、それでお前の気が晴れるなら。他所でやるより合理的だ」
「だが」
 体を重ねる度、こちらを労わろうとするラーハルトをヒュンケルは受け入れなかった。
 経験上、彼は知っていたのだ。痛がれば痛がるほど、相手は悦ぶこと、こちらに執着すること。それ以外は知らない。それ以外になることが、ひどく恐ろしかった。

 
 そんな二人の関係が続いたある日、ラーハルトがとあるアイテム情報を仕入れてきた。
 山向こうのダンジョンの奥には真実の望みを叶えるという願い石「アメル」があるというのだ。真偽は確かではない。しかし、万一真実であれば願い石アメルで、かの勇者を見つけることができるかもしれない。そうであるならば、彼らは――特にラーハルトはそれを試さずにはいられない。
 話し合いの末、ダンジョンにはラーハルト一人で向かうことになった。三日経っても戻らない場合はヒュンケルが救助に向かうという条件で。万一に備え、ヒュンケルはダンジョンの近くで野営をした。そして、三日経たずしてラーハルトはその野営地に戻ってきたのだ、願い石アメルを携えて。それをヒュンケルに渡す。
「願ってみろ、ダイ様の帰還を」
 コクンと頷いて、ヒュンケルが恭しく願い石アメルを空に掲げ願いを告げた。
願い石アメルよ、ダイの……勇者ダイの居場所を示してくれ」
 願いが叶うと割れるという願い石は、しかし、うんともすんとも反応がない。
「…………」
「…………何も起こらんな。お前、ダイ様のことをちゃんと願ったか?」
「そのつもりだが。ラーハルトもやってみろ」
 願い石アメルを受け取りラーハルトも試してみたがやはり何も反応はなかった。そこにはただただキラキラと静かに輝く美しい石があるばかり。
「チッ! ガセだったみたいだな」
「……そのようだな」
 期待外れだったはずなのに。ヒュンケルはなぜだかひどく安心して――そんな自分に嫌気がさした。この関係に執着をしているのはラーハルトではない、自分の方。けれど、それは決して口に出してはいけないこと。いずれかの勇者が見つかれば、友は彼と共に行ってしまうだろう、自分の手が届かない所に。そうでなくても、いずれ友は離れる。しかるべき愛しい女性と出会えば自分との肉体関係も終わる。いわば自分はそれまでの「つなぎ」でしかないのだ。
 それはわかっている。だから。
 とさり、と押し倒されて、ラーハルトが肌を撫ぜてきた時もヒュンケルは大して抵抗はしなかった。
「ラー、ハルト」
「久しぶりの戦闘だったからな、まだ体がおさまらん。つきあえ」
「……わかった」
 ただただ、ヒュンケルにできるのは頷くことのみ。それをラーハルトがどう思っているのかはわからない。ただ、己で誘ったくせに苦虫を噛み潰したような顔をしてヒュンケルの首筋に唇を寄せそこにガブリと噛みついた。魔族の犬歯が皮膚を引き裂いてうっすら血がにじむ。
「っ、う……ラー」
 ラーハルトの手がヒュンケルの半身に触れて、そこをやわやわと揉みしだいた。
「お前は相変わらず嫌がらないんだな」
「この身が役に立てるなら……好きに使って構わん。抵抗する方が好みなら、そうするが……っあ!」
「余計なことを言うな」
 唇に、噛みつくようなキス。
 思わず目を閉じて。そして、次に瞼を開いた時、見えたのは――青い肌に尖った耳、目の下の特徴的な痣、精悍な顔立ちの魔族の男――友によく似た、けれど友よりもだいぶ年嵩の男の姿だった。
「な……!? 貴様、何者だ!」
 驚いたヒュンケルが腰にさしていた護身用の剣を引き抜く。が、それより先に男は動き、ヒュンケルの剣を奪って彼を組み伏せた。
「危ないな。こんなものを向けるなよ」
 離せ、と言いかけてハッと気づく。この声は、この気配は――間違えるはずもない。彼はやはり
「ラーハルト、なのか?」
「お前は、ヒュンケルだな? なぜ、そんな若作りをしているんだ。それにここはどこだ、オレたちは家にいたはずだが?」
「ま、待て。若作り? 家? 何のことだ? 大体、お前の方こそどうしてそんな急に年をとったんだ?」
 色々と噛み合わない。ダイを探して旅をしている自分達に「家」と呼べるような場所はないし、二日前からずっとこの森で野営を続けている。もちろん若作りなんかしていない。そう告げると、ラーハルトはひどく驚いたような顔をして考え込んだ。
「……どうやら状況の整理が必要なようだな。今は大魔王バーンが死んでから何年後だ?」
「一年も経っていない。半年くらいだろうか」
 答えながら、段々とわかってきた。目の前の魔族はこの時代のラーハルトではない。
「お前は未来のラーハルトなんだな。この時代のラーハルトはどうなったんだ? さっきまでココに居たのに」
「恐らく、オレと入れ替わったと考えるのが妥当だろう。なぜそうなったのかはわからんが……で、それは何だ?」
 ラーハルトが指差したのは、ダンジョンから持ち帰った願いを叶えるというアメル(願い石)。まさか、これのせいでラーハルトは未来に行ってしまったのだろうか? ダイの情報を得るために。そして、入れ替わりで未来のラーハルトがこちらに来てしまったと言うのか?
 そこまで考えてハタと気づく。未来から来たと言うのならこの男は知っているかもしれない、ダイの居場所を。それを問い質すとラーハルトは苦笑して事情を聞いてきた。ヒュンケルは願い石アメルのことを、それにダイの居場所を知りたいと願ったことをラーハルトに伝える。
「なるほど、確かにこの願い石のせいかもしれんな。ならば心配はいらんだろう。安心しろ、ダイ様ならご健在だ。それを知ったらこの時代のオレもここに戻ってこれるんじゃないか?」
「じゃあこの時代のダイはどこに……」
「悪いが、それは教えられない。お前が知ることで未来が変わっては困るからな」
「そう、か……」
 せっかくダイの居場所が突き止められるかと思ったのに、そう甘い話ではないらしい。思わず項垂れる。さらり、と銀髪が流れて彼の首筋を露わにした。
「ヒュンケル、どうした。ココ、血が出ているぞ?」
 首筋の噛み跡をラーハルトが優しく撫でる。
「どうした、って……これはお前が……」
「オレが? そうか、お前とそう言う関係になったのは確かにこの頃だったな。お楽しみを邪魔したのか、それは……悪かったな」
 ラーハルトの指が、ヒュンケルの顔の輪郭をゆっくりとなぞった。
 友にそんな触れ方をされたのは初めてだった。
 艶然と笑む魔族の男。
 
「詫びに……シてやろうか? 続きを、オレが」

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 【side Larhart】
 ラーハルトは、ヒュンケルとキスをしていた筈だった。

 大魔王との戦いから十年。数年前に勇者ダイも見つかり、冥竜王ヴェルザーとの戦いも終わった。
 勇者と共に魔界に旅立ったラーハルトであったが、今や、唯一無二の友であり生涯の伴侶でもあるヒュンケルと人里離れた森で静かに暮らす生活を送っている。

 それは、主の命でひと月かけた魔物の調査も終わり、生涯の伴侶ヒュンケルと暮らす家に帰ってきたばかりという時だった。愛おし気に見つめてくる恋人の瞳に気付いて惹き寄せられるようにその身をソファに押し倒した。何度もその唇を塞いで、もれる吐息と熱に甘く揺れるオリーブグレイの瞳にこちらまで溶かされて。見れば、彼の左手の薬指には自分が贈った揃いの指輪。どちらかが死してその指輪が崩れるまで互いが互いのものである証。それにラーハルトは何ともいえぬ幸福を覚えるのだ。
「ん、ラーハルト……」
 触れ合う肌の温もりは年を経るほどに馴染んでいく。ゆっくりと下衣を脱がせると受け入れたくて仕様がないというようにヒクつく後孔の周りを優しく愛撫した。焦らすつもりはなかったのだけれど、もっと奥に触れてほしいのだろう、ヒュンケルの瞳には焦れた色が浮かんでいる。愛おしい。
「久しぶりなんだ。もう少し」
 じっくり味合わせろ、と宥めるように口づけをして目を開けたら、
 別の場所にいた。

 目の前には、かつてのヒュンケルの姿。一瞬、戸惑ったけれど彼と話すうちに理解した。謎のアイテムのせいで自分は過去に来てしまったのだと。実はラーハルトがタイムスリップをしたのは初めてではない。その時は自然と元の世界に戻れた。何か条件をクリアしたのだろうが、もう随分前なので詳細はよく覚えていない。ただ一度経験しているためか「どうにかなるだろう」という直感はあった。
 それよりも、ラーハルトは目の前の若人を愛しみたくて仕様がなかった。憂に満ちた昏い瞳。それはそれで美しいのだけれど、未来の、柔らかな光を湛えた瞳のつれあいを知る身としては労らずにはいられない。少なくとも、自分が抱いている間は他に何も見えなくなるほど、満たしてやりたい。
 誘う口実は何でも良かった。首筋についた跡が誰のものかなんて聞かずともわかる。ヒュンケルの服があまり乱れていないことを考えると、行為を始めたばかりで入れ替わってしまったのだろう。ならば火はまだ燻っているはずだ、ヒュンケルも自分も。
「お楽しみを邪魔したのか、それは……悪かったな。詫びに……シてやろうか? 続きを、オレが」
 するり、と手を伸ばしてヒュンケルの唇に触れる。それだけで顔を真っ赤にして目を逸らす様は初々しくラーハルトの庇護欲を刺激した。
 ただひたすらに気持ち良くして解放してやりたい、縮こまってしまっている彼の心を。体を。その思いを込めてゆっくりと指を滑らせ、耳の後ろに差し込んで彼に顔を上げさせる。瞳を合わせれば、そこには緊張と期待の色。
「ラーハルト……な、にを……」
「心配するな。今のオレとするよりずっと気持ち良くして、愛してやるからな」
「あ、い……?」
 目線と目線が絡まり合って、ゆっくりと二人の唇が重なる。初めは啄むような優しいキス。それを何度も繰り返して、口が開いたらそこに舌を差し入れる。舌同士が触れ合うと、ヒュンケルは一瞬、びくりと体を強張らせた。それにラーハルトは苦笑を浮かべ耳元で囁く。
「緊張しているお前も可愛いな。でも、そんなに頑なになるな。もっと開放して見せてくれ。可愛いお前をもっと味わいたい」
 チュウっと耳の後ろに口付けて、そこをちろりと舐め上げる。
「ひゃっ」
「ふふ、可愛い声も出るじゃないか」
 右手をヒュンケルの背に添えて左手でゆっくりと太ももを撫で上げれば、腕の中の肢体はビクビクと震えた。
「っ! やめろ、ラーハルト。オレ達はそんな……そんな甘やかな関係じゃない」
「ん? そうか、セックスするのにか?」
「違う。これは……ただの処理だ。そのうちラーハルトに相応しい女性が……だからオレはその時までの」
 目を逸らして俯くヒュンケルの表情はわからない。けれど、恐らくひどく思い詰めた顔をしているだろう。思い出す、ああ、そうだ、ヒュンケルはこういう男だったと。自分の価値を不当に見積もる悪癖の持ち主だったと。そしてさらに悪いことには、ラーハルトが彼を抱くのはただの性欲処理と思っているらしい。ああ、全く、世話が焼ける。
「顔を上げろ、ヒュンケル。良いことを教えてやる」
 声をかければようやく彼はこちらを見つめた。
「オレはこの世界の約十年後の未来から来た訳だが、少なくともそこには“相応しい女性”とやらは居らんぞ。オレは今、愛しい男と暮らしている」
「男……そんな。まさかラーハルトはオレとの行為のせいで男色家に……?」
「話は最後まで聞け、ヒュンケル。いいか、オレが選んだ相手はお前だ。十年後もお前はオレと共に居る。オレの生涯の伴侶として」
 ヒュンケルは大きく頭を振った。
「馬鹿な!? 何かの間違いだ。ラーハルトは相応しい相手と結ばれるべきだ、オレなんかではない、もっと素晴らしい人と」
「まだわからないのか? だからそれがお前なんだよ」
「なぜ……どうして、オレなんか」
 本当に、心底わからないという顔をしてヒュンケルは視線を彷徨わせる。あまりに動揺する姿にラーハルトは一層面白くなった。今や、こんなに戸惑うヒュンケルの姿など滅多に見れるものではない。愛していると囁けば当然の顔をして受け取るのだから。それはそれで嬉しいものだが、これはこれで、懐かしくもある。これは何としてでもわからせてやらねばなるまい、自分がいかにヒュンケルを大切にしているか、ヒュンケルが自分(ラーハルト)をいかに愛しているか。わからせてやらねばなるまい。
 ラーハルトは、混乱するヒュンケルを抱きしめた。
「お前を愛するのに、理由がいるのか? 要るのならば教えてやろう。まずは……」
「やめろ、やめてくれ。恥ずかしくて死にそうだ」
「死なれては困るな。では、これだけにしよう。『愛している、お前が欲しい』」
 真っ赤に染まる顔。たったこれだけでこんなにも初心な反応を見せる姿に煽られる。可愛い。ひたすらに可愛くて愛おしくて。ラーハルトはヒュンケルの顎を掴んでその顔を覗き込み、甘い声で囁いた。
「――返事は、ヒュンケル?」

 若人は視線を彷徨わせて、それから小さくコクンと頷いた。

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【side Hynckel】
 草の上に敷かれたマント。その上でヒュンケルは一糸まとわぬ姿になっていた。見上げればラーハルトが艶然と微笑んで唇を落としてくれる。これまでの情交とはあまりにも違う、何もかも。
 
『愛している、お前が欲しい』
 
 その言葉に全身が歓喜した。けれど、ヒュンケルは何も言葉にすることができなかった。
「愛している」――ラーハルトからその言葉を向けられるなんて考えたこともなかったのだ。ずっと、肉欲のせいだと思っていた。彼が自分を抱くのは、彼に抱かれたいと思うのは、全部、肉欲のせいだと。なのに。
「ヒュンケル、好きだ」
「っ、あ……」
 睦言を囁きながらラーハルトが触れてくる箇所は全部気持ち良くて、思考は熱に溶かされていく。最初に彼に抱かれた時のようだ。溶けてふやけた頭。抵抗できない。それどころか、もっともっとと心の奥で叫んでいる、卑しい己が。
「声を出せ、ヒュンケル」
 するり、とラーハルトがヒュンケルの半身に触れる。そこはすでに立ち上がり、彼の状態を如実に表していた。
「ふふ、もうこんなになって。可愛いやつだな」
「いやだ、さ、さわるな……」
「未来のお前はもう少し素直なんだがな。毎日愛し合っているぞ?」
「う、嘘だ」
「バレたか、流石に毎日は言い過ぎだな。でも、それくらい愛している。いくら年を重ねようが少しも変わらない。むしろ益々お前が愛おしくなってくるんだ」
 そんなこと、あってはいけないのに。
 なのに。
 なのに。
 胸の内が熱くてたまらない。もし本当にラーハルトとずっと共にいられる未来があるのなら――
「声を出せ、ヒュンケル。全部、見せてくれ」
「む、無理だ。そんな……っあ」
 ラーハルトがツゥと、陰茎の裏筋を指でなぞった。腰から甘い痺れが這い上がってきて思わず声が出そうになるのをすんでの所で堪える。
「っ、ふ……」
「強情なやつだな。未来のお前はもっと素直に喘いでいるぞ? うるさいくらいにな」
「うるさいんだろ、なら……っ!」
「言葉のアヤだ。そう言うところも含めて、全部愛している。お前なしではいられない」
 ふぅっと耳元で息を吹きかけられて甘く囁かれて。どこか楽しげに自分を翻弄するラーハルト。顔も、声も、彼なのにあまりにいつもと違う。クラクラする。首筋から始まった彼の唇の愛撫。それが今や胸に達していて。中心の突起をペロリと舐められた。
「ああっ……!」
 これまでラーハルトに触れられたことのなかったその場所に触れられて、体の力が抜けるような快感が全身を巡った。
「いい声が出せるじゃないか」
「あ……や、だ」
 怖かった。自分が自分で無くなりそうな、その一線を越えると戻れなくなりそうな、そんな境に今、自分はいるのだと思った。
「怖がらなくていい。ヒュンケル。大丈夫だ、おいで」
 優しい優しいラーハルト。これは夢なんだろうか?
 あまりにも都合が良すぎて、信じられない。気づくと、それが口から溢れていた。
「お前……本当にラーハルトなのか?」
「なんだ、まだ信じられないのか? こんなにいい男が他にいると思っているのか?」
「じ、自分で言うな。確かにラーハルトはいい男だが……オレの知っているあいつはお前みたいに、その、あ……愛している、なんて言うような男じゃない」
「それは意気地のない……済まなかったな。初めてなんだ、こんなに誰かを愛しく思うなんて。オレもどうしていいのかわからなかったんだろう」
 チュウと、また突起に吸い付いて、ラーハルトがそこを舌でクニクニと押しつぶす。そうしながら、もう一つの突起を指の平でゆっくりと撫で回した。控えめだったそこは赤く色づいてぷっくりと立ち上がる。それにラーハルトはまたむしゃぶりつくのだ。
「っん、そこ、や、ぁっ!」
「嫌なのか? ん?」
 言いながらも手を休めない。突起をこねくり回しながら、ヒュンケルの額に、目元に、頬に、口に、唇を落としていく。ラーハルトの唇が触れるたび、ヒュンケルの中の何かがゆっくりと融けていった。
「あぅ……ラー、ハルト」
「ん?」
「その……あの……」
「嫌か? 止めるか?」
「い、やだ……」

――やめないで

 顔が熱い。何を言っているのか。口にしてから気づくがもう遅い。
 
「ふふ、たっぷり可愛がってやるからな、ヒュンケル」
見れば男の瞳にも熱が宿っていた。彼も欲しているのだ、自分を。それが体を一層熱くした。
 するり、と男の手が伸びる。
「もうここもトロトロ。感じてるんだな」
 ラーハルトが半身の先端に触れると、そこはすでに先走りの蜜をこぼしていた。それにまた羞恥を覚え、ヒュンケルは彼を正視できない。
「恥ずかしがるな、ほら」
 逃げようとする腰をグイッと掴んで引き寄せて、ラーハルトがヒュンケルの手を自分の半身へと導く。そこは既に大きく膨らんでいた。
「わかるだろ、オレも興奮しているんだ」
 触ってくれ、と耳元で囁かれ、頭はクラクラして。もうどうしていいのかわからない。ただ、言われるまま、男のそこにゆっくりと触れた。手に触れる熱の塊は、大きくて、硬くて。これが今から自分の中に入るのだ。今までラーハルトと何度も交わしてきた行為のはずなのに、ひどく胸がドキドキする。この先を期待しているのだと、自分でもわかった。
「ラーハルト……もう……」
 耐えきれなかった。抱かれるのなら早く抱かれてしまいたかった。こんなにも心臓が壊れそうなほどに脈打っていて、このまま焦らされたら気が狂ってしまいそうだった。
 早く抱いてくれ。
 その願いを込めて彼を見つめると、柔らかな笑みを浮かべて男が唇を寄せる。
「慌てるな。ちゃんと解さないと、お前が痛いだけだぞ?」
「いい。いつも……そんなことはしていない」
「何だと? いつもしていないって……ここのオレは解しもせずにお前に挿れているのか?」
「? そうだが……?」
 雲行きが怪しい。今の今まで、余裕に満ちた顔をしていた男が急に焦り始めた。何か、拙いことでも言ってしまったのだろうか?
「ちょっと、見せてみろ」
「あっ……!」

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 【Larhart & Hynckel】
 
 ラーハルトは目の前の光景に絶句した。
 普段、行為の時は慣らしていないというヒュンケルの足を開かせてその奥の秘部を見る。幸いにも切れてはいないようだが、赤く腫れて痛々しい。
「っ、これはひどいな。オレはいつもお前にこんな無理を強いているのか? これでは、痛いばかりで気持ちよくはないだろう?」
「それでラーハルトが満足するなら、オレは別に……」
「馬鹿。こういう時は怒っていいんだ! 痛いといって蹴り飛ばしてやれ。ああ、くそ。腹立たしいな、過去とはいえオレがお前にこんな……」
 一瞬、ぎりりと拳を握り締めてラーハルトが何やら考え込んだ後、ふうと一つ息を漏らした
「手当をしてやろう。良く効く軟膏がある」
「ま、待ってくれ。ラーハルト、しないのか……その、続きは」
 目を反らしながらも顔を赤く染め、ヒュンケルは行為の継続をねだった。
「こんな状態でシたらお前が痛いばかりだぞ?」
「構わない。中途半端な状態でいる方がつらい……」
「ヒュンケル……」
 ここまで言われて断れる男がいるだろうか。ラーハルトは意を決すると、ヒュンケルに向き直った。
「なるべく痛みの無いように進める。つらかったら言え、いいな?」
 ヒュンケルがコクンとうなずくのを見届けてからラーハルトはヒュンケルの足を抱え上げる。太ももの内側に唇を落としながら、徐々に中心に向けて舌を這わせた。
「っ、ふ……」
 まだ緊張しているのだろう、ヒュンケルの口からは控えめな吐息だけが漏れる。けれど拒む様子はない。ラーハルトはそれを確認してさらに一歩踏み込むことにした。
「痛かったら言えよ」
 それだけを伝え、ヒュンケルの秘部に舌を這わせる。たっぷりの唾液を含んで、そこに流し込むかのように舌先を入口につぷりと挿し込んだ。
「ラーハルト!? やだ、そんなところ汚い!」
 その言葉にラーハルトは苦笑を漏らす。全く初々しい反応である。しかし、痛いわけではないようなので少し安心する。
「汚くないだろ。お前は全部綺麗だ。心も体も、ずっと」
「何を言って……ああっ!」
 ペロリとまた舐められてヒュンケルの体はビクリと跳ねる。
「痛いか?」
「大丈夫、だ」
 赤く腫れあがる秘部を見て驚いてしまったが、見た目ほどには痛みはないのかもしれない。だが、しかし相手はヒュンケルである。痛みへの耐性が異常な男だ。ここはやはり用心を重ねるべきだろう。
 ラーハルトは、再度、そこに舌を這わせた。最初は縁を広げるように。次に、ゆっくりと舌先を先ほどより深いところまで挿し込んで、少しずつ円を描きながら前進する。そうしてもう進めない所まで行きつくとそこを解すように舐めまわした。
「ラー……あっ、は……っん」
 痛みではない快楽の色を帯びて漏れる声に満足して、軟膏を取り出すとそれを自分の指に塗り付ける。
「ラー、ハルト……それは?」
「傷に効く軟膏だ。香油の代わりに使う、手当も兼ねてな」
 少し冷たいぞ、と前置きして軟膏をヒュンケルの秘部にも塗り付けるが
「ひゃあ」
「可愛い、ヒュンケル」
 やはりひやりとした感覚に驚いたのかヒュンケルが小さな悲鳴を上げ反射的に足を閉じる。けれど、ラーハルトはそれを許さない。
「隠すなヒュンケル。全部オレに見せろ、ありのままのお前を」
「ありのままの……オレ?」
 脳裏に過るのは、かつての魔王軍で受けた数々の辱めと自分の痴態。大魔王の手で何度も絶頂を迎えはしたなくも悦ぶ自分。大魔王の命で他にも多くの魔物や魔族に犯されてきた。決して綺麗なんかではないのだ、ありのままの自分は。その思いは、気づくと口から滑り落ちていた。
「オレは……本当のオレは綺麗なんかじゃない、汚れているんだ」
「構わん、見せろ。大丈夫だ、オレは知っている」
 うつむく顔を上げさせてラーハルトがヒュンケルの固く閉じられた目元に口づける。
「……知っているのか、オレの過去を」
「ああ、お前が話してくれた」
「ならばわかるだろう、オレは汚れている。性欲処理に使うくらいでちょうどいいんだ」
「ヒュンケル」
 名を呼ばれ、目を開けると優しく微笑むラーハルト。 
「大丈夫だ。オレを信じろ。それでもお前の美しさは消えない。ほら、見せてくれ、ヒュンケル?」
 そんな風に甘く名前を呼ばれたら逆らえるわけはなく、ヒュンケルは一度閉じた足をおずおずと開いた。
「ん、いい子だ。指、入れるからな」
 下唇をかみしめて羞恥に耐えながらコクコクとうなずくヒュンケルの姿はなかなかにクるものがある。ラーハルトはすぐにでも貫きたい衝動を抑え、ゆっくりと指を埋めた。
「っ……ん……ん……」
「ヒュンケル、息を止めるな。ほら、息を吐いてみろ」
「む、りだ……変な声が出てしまう……」
「それを聞きたいんだがな、まぁいい」
 ヒュンケルが痛がっていないことを確認しながらゆっくりゆっくりと中を広げ、三本目の指も挿入する。軟膏が熱で溶けぬるぬるとして滑りはよく、難なくそれはヒュンケルの奥へと進んでいった。そして、目当てのしこりを見つけると、指の腹で優しくノックする。
「あんっ!」
「いいな、今の声」
「な、なんだ、これ……あっ、あっ。ラー、押すな。そこ、変になる……あっあん……!」
「ここはな、お前がオンナノコになるスイッチだ」
「な、なにを言って……あ! やぁっ、ん、んぅ……ラーハルト、だ、だめ。なんか、変……」
「ふふ、ここはして貰ったことはなかったようだな。気持ちいいだろ? ほら」
 ラーハルトがしこりをクニクニと押しつぶす。
「あっ♡ あっ♡ あ、あ…♡」
 自分で自分が信じられなかった。ラーハルトがソコを押すたびに全身に強烈な快感が走り、目の前がチカチカして、体を制御することができない。口からは女のような喘ぎが漏れて耳を塞いでしまいたいような気持になる。恥ずかしい。こんなにもラーハルトの手で暴かれてしまうなんて。
「やだ、も、変だ……オレ……あ♡  あアっンン♡♡」
「聞かせろ、もっとだ」
 ラーハルトが一層強くそこを押すと、腹の奥から何かがせりあがってくる。
「や! だめ! ラー、何かくる! あ、あ♡ あああっ~~~♡♡」
 びゅ、びゅっ、プシュウウ!
 堰を切ったかのようにヒュンケルのペニスからはとめどなく液体が零れた。どうやら初めての経験らしく本人も驚いて戸惑っている。
「ラーハルト、なんだ、これ……オレ……こんな」
「大丈夫だ、ヒュンケル。潮を吹いただけだから」
「……済まない、こんな…こんなみっともない……」
 よほど恥ずかしいのか、可哀そうになるくらい真っ赤に顔を染めてヒュンケルは視線から逃れようと身をよじった。けれど、逃すラーハルトではない。一度、指を引き抜くとヒュンケルの体を抱え起こして自分の膝に座らせるような形で、目線を合わせる。いわゆる対面座位の格好だ。
「気持ちよかったんだろ? オレは嬉しいぞ。もっともっと、お前を気持ちよくしてやりたいんだ。オレを受け入れてくれ。お前の深くまで」
 向き合ったままそっと口づけた。唇をなぞれば、おずおずと舌が差し出されて。それに舌を絡めて吸い上げる。もはやヒュンケルの抵抗はなかった。それどころか、彼はラーハルトの首に腕を回しその唇を貪った。
「ん♡ んん~~♡♡」
「可愛い、ヒュンケル。なあ、そろそろオレもお前に挿れたい」
 見ればラーハルトのペニスはもう限界近くにまで大きく膨れ上がっている。心なしか、普段の彼の挿入時よりも大きい気がする。ヒュンケルはそんなことを考えながら、彼が挿入しやすいようにと後背位の姿勢に移ろうとした。それをラーハルトが引き留める。
「そっちじゃない。ほら、ここに座れ。お前がこれを自分で挿れるんだ」
 いきり立った一物を見せつけられてヒュンケルはたじろいだ。
「自分で? むりだ、そんな……」
「ここに腰を落とせばいいだけだ。自分でやるから痛かったらやめられる。今のお前にちょうど良い体位だろ」
「そんな……でも……」
「ほら、おいで。ヒュンケル」
 ヒュンケルの腰に手を添えてラーハルトが優しく誘う。抗えるはずがないだろう、愛しい男からの優しい声の誘いに。
 ヒュンケルは意を決すると、ラーハルトのペニスを掴んでそれを己の秘部に押し当てながらゆっくりと腰を下ろした。
「ふっ……っ……!」
 毎度のことながら大きさにひるむ。それでも、今日は丁寧に解されたおかげか、ほとんど痛みを感じることなくラーハルトを受け入れることができた。腹の中に彼を感じる。それがとてもうれしかった。
 
 胸の内にじんわりと広がるあたたかさ。
 本当は、ずっと。
 ずっと、こんな風につながりたかった、ラーハルトと。
 
「ヒュンケル。お前のナカは温かいな。気持ちいい」
「ん……オレもナカで感じる……ラーハルトの……熱い」
 ラーハルトの胸に縋るように身を預けると逞しい腕が包み込んで抱きしめてくれた。
 優しくてあたたかくて泣きそうになる。
 セックスはこんなにも甘やかなものだったろうか。
「ヒュンケル、動くぞ」
 細く白い腰をつかむとラーハルトが奥をめがけて突き上げる。
「あっ……」
 途端に走る甘い痺れ。
 倒れそうになる体をラーハルトが支える。
「ヒュンケル、ほら、オレの肩に手を置いて。そう、そうだ」
 言われるままの体勢を取ると、ラーハルトはもう一度小刻みに腰を打ち付けてきた。
「あ!? また、そこ、だめだ……あんっ♡」
「そんな声で言われても説得力がないな。ほら、気持ちいいだろ。この体勢だとちょうどお前の好い所に当たるんだ」
「ぁ……すごい、だめ、だ。も、おかしくなる…」
 繋がったばかりだというのに、自分でも信じられないくらいに気持ちがよかった。体の奥を優しくトントンと突かれると波のように次々と腰を蕩かせる快感が襲ってくる。魔王軍に居た頃、媚薬で強制的に快楽を感じさせられたことはあったけれど、こんな風にただ繋がっているだけで満たされるような悦びは初めてで。ずっと、ずっとこうしていたいとさえ思う。
 快感と熱に侵されて目の前の男の姿に、いつものラーハルトの姿がダブった。
「あ……!」
「ふふ、今、すごく締まったな。っ、何を考えていた?」
「聞く、な……」
「教えてくれ、ヒュンケル?」
 甘く柔らかく、耳元で囁かれる声にますます脳が蕩ける。逆らえるはずがないのだ、この男の声に。
「っ……う、ラーハルトと、あっん……こんな風に繋がれるなんて……オレに、そんな未来があるんだと思ったら……あっ!」
 ズクンと、ナカのラーハルトが一層大きくなる。それにより、好い所がより強く押し込まれ、再びヒュンケルの体をせつない快感が襲った。
「あ、ラー、だめ、も、ほんとうに、イきそ……」
「そうか、じゃあ一緒にイくぞ……!」
 バチンと腰を打ち付けられ、前立腺をゴリュッと押し込まれて。
「クッ……ヒュンケル!!」
「あ♡ あああああ♡♡ ラーハルト♡ イグぅ――――!!」
 突然の強すぎる刺激で、脳天に電撃を喰らったような衝撃。下半身を焼くような強いオルガスムにヒュンケルの目がグルンと宙を仰ぐ。直後、全身に快感が広がり、腹の奥が甘く甘く痺れた。
 初めてだった。前を触れられることなく、後ろだけで達してしまうなんて。
 それをどう受け止めればいいのかわからないまま、ヒュンケルは意識を手放した。


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 頬に触れる冷たく心地よい感触で目が覚める。
「起きたか、まだ寝てていいぞ」
「ラー……ハルト?」
 そこには未来のラーハルト。一瞬、先ほどの情交は己の願望が見せた夢かと思ったが、違うのだ。十年後の未来からラーハルトがやってきて、その彼と体を繋げた。
「体、大丈夫か?」
「あ、ああ」
 寝ている間に後処理はラーハルトがやってくれたのだろう。己の身なりはすっかりきれいに整えられていた。
「どうだった? ヒュンケル」
「どうって……」
「オレは嬉しかったぞ? お前とつながれて。気持ちよかった」
「お、オレも……」
 嬉しかった、気持ちよかった、と言おうとして言葉が出てこなかった。不甲斐なさに泣きたくなる。ただ思いだけは伝えたくてラーハルトを見つめた。それを汲んでなのか、男は片眉を上げてクスリと笑った。
「わかった。なかなか難しいものだからな、本当の願いや気持ちを口にするのは」
「本当の願い……。ラーハルト、オレは……」
 ヒュンケルがようやくその言葉を口にしようとしたとき、突然、ラーハルトの全身が青く光り出した。
「ヒュンケル。もう少しお前と居たかったが時間切れのようだ」
「戻るのか、未来に?」
「おそらく。なぁ、最後に抱きしめていいか?」
「ああ」
 青く輝く光に包まれたラーハルトがヒュンケルを抱きしめる。ヒュンケルもラーハルトを抱きしめ返した。
「ヒュンケル。ありのままのお前をこっちのオレにも見せてやってくれ。信じてやってくれ」
 唇と唇が触れる――その時、青い光が弾けた。

 眩い光に目を閉じて、開けるとそこにはラーハルトが居た。
 未来の男ではない、現在のラーハルト。鼻と鼻が触れ合う至近距離で見るその友の姿に思わず後退りしてしまう。
「っと……す、すまん。ぶ、無事でよかったラーハルト」
 くるりと背を向ける。今のラーハルトに合わせる顔がなかった。一体、どんな顔をすればいいのか、わからなかった。先ほどまで未来のラーハルトと抱き合っていたのだ。今、顔を見てしまったらきっと彼との甘やかな行為を思い出してしまうだろう。変なことを口走ってしまうかもしれない。その思いから、ヒュンケルは背を向けたのだった。それをラーハルトが後ろから抱きしめる。
「ラ、ラーハルト!?」
「ヒュンケル。お前に伝えねばならないことがある。聞いてくれるか?」
 ラーハルトの声はこれまで聞いたこともないほどに真剣で、ヒュンケルは振り向くことができない。振り向いてしまえばきっと何かが変わってしまう。早鐘を打つ己の心臓の音が嫌に大きく聞こえた。
 どんな言葉が飛び出すのか、聞きたい、聞きたくない。怖い。それでも。
 ――「ヒュンケル。ありのままのお前をこっちのオレにも見せてやってくれ。信じてやってくれ」
 脳裏には、未来の男の言葉が過ぎる。ありのままの自分を曝け出すのは怖い。けれど、このままでいるのも不誠実なのだと、ようやくわかったのだ。ラーハルトが本音で向き合おうとしてくれているのならばこちらもそれ相応の対応をせねばならないだろう。たとえ、罵られようと。ヒュンケルは覚悟を決めて振り返った。
 
 そこにいたのは、今にも泣きそうな顔のラーハルト。

「好きだ。愛している」
「ラー、ハルト?」
「ヒュンケルが好きだ。お前がオレから離れたがっているのはわかる。でも、オレは離れたくない。
 お前と共に生きていきたい、この先もずっと」

 他者からの恋慕の情など、受け付けるべきではないと思っていたはずなのに。
 なぜだかラーハルトの言葉だけはするりと胸の内に滑り込んで。
 ああ、それは望んでいた言葉なのだと、己の頬を伝う涙で気づいた。


 
 ヒュンケルの足元では 願い石アメルが割れてキラキラとカケラが光っていた。


<おしまい>
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【あとがき】
 未来からきた30代ラーハルト✖️20代ヒュンケルのお話はいかがだったでしょうか?
未来にタイムスリップしてしまった20代ラーハルト✖️30代ヒュンケルのお話「10年後の世界」と色々とリンクさせている場面がありますのでそんなところも「ああかな、こうかな?」と考えながらお楽しみいただければ幸いです。
 30代ということで20代とはまた違った魅力を表現したかったのですが、非常に難しかったです。特に30代ラーのお口が滑らかすぎて、?もびっくりですよ。まぁ、それも年を重ねた余裕がなせるのだと大目に見てください。
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