秋生(鮭の丸焼き)

萌えが滾った時に細々と投稿させて頂くと思います。
好きなジャンルは多種なので、雑多になりそうですがよろしくお願いします!

なお、pixivでは投稿しずらいものをこちらに投稿させて頂こうと思っております。

投稿日:2024年06月18日 21:47    文字数:8,715

【鬼徹・白桃】若干距離の近い桃源郷師弟

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支部の作品もこちらに少しずつ纏めてアップしようかなと思ってハマった初期の頃に書いた話です。
限りなくプラスに近い、人外感がある白澤様と一般人代表タローくんのドタバタが大好きです!

白澤様って女の子と遊ぶけど妊娠させちゃう危険性ないの?って疑問を白澤様と確認するタローくんと、
給料五万って安くねえ?って白澤様に詰め寄るタローくんの二つです。

私の中ではカプなのですがカプ要素がほぼ皆無です
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【白桃】白面に紅葉、その理由について

うさぎ漢方極楽満月。
桃源郷にある漢方店として相応しい名前を冠している店は、豊かな桃園に囲まれ兎達が草を食み、桃源郷に相応しい様子をしている。

しかし。

「最っっっ低男!!!!」

バチンと大きな音を立てて店の中から張り手の音がしたと思えば、こめかみに青筋を立てた女性が女性らしからぬ足音を立てながら入口の扉を開けて出てきた。

兎達はちらりとそちらを見ると慣れている風景にまた草を食む事に集中し始める。

そう、幸せな風景をぶち壊す修羅場が日夜繰り広げられる、ここが、うさぎ漢方極楽満月。



「アンタまたですか、これで何人目だよ」
「さあ、何人目だろうね?」

極楽満月の店の中で従業員及び弟子である桃太郎が生薬をすり潰しながら視線を向ける先には、肩を竦めてニコニコと笑っている雇い主兼師匠の白澤。その色白な頬には目元の紅と同じくらいに真っ赤な手形がついている。
そんな師匠を見る桃太郎の視線は呆れを通り越し、すでに無心になりかけているのだが、それに気がついても白澤は困ったもんだねと飄々と漢方の整理を始めた。

「あの……つかぬ事を聞いても良いですかね」
「ん? なんだい?」

重い溜息を吐いた弟子が声を掛ければ、その様子にもニコニコと振り返る師匠の様子に桃太郎の太めの右眉がピクリと動く。

「前々から気になってたんですけど。女性の方になんかあったらどうする気なんスか?」
「何かって?」
「いや、だから夜もお楽しみするでしょ、白澤様」
「うん」
「だから」
「だから?」
「っだあああああ!!!!」」

問いかける度に首を左右に傾げる女性なら可愛いと思えそうな仕草だが、詰問している相手にそんな態度をされた桃太郎は頭を掻き毟ると、机を勢いよく叩くと真っ直ぐに白澤を指さす。

「妊娠! したら! どうすんだって聞いてんだよ!!!」

怒りと羞恥がないまぜな様子が顕な弟子に指差された女の手形が残るその人は、細めていた目を開くと、まるでその空気を受け流すかのように再度首を傾げる。

「しないよ、妊娠」

「あ、あのな!!! いや避妊方法あるの知ってるけど、それでもな!」
「いやだからね」

更にヒートアップしそうな様子に相手を冷まそうとしているのか、言葉を遮ると白澤は両手を出してひらひらと手を上下に振るとニッコリと笑った。

「僕、精液は出ないから、大丈夫なの」
「だっ、えっ、え。はい? え、ええ!?」

一切予想していなかった言葉と相手の全く変わらない態度に、桃太郎は思わず小さな目を開いて言葉にならない言葉を続けて、もう一度白澤の言った言葉を反芻して、再度「え!?」と白澤を見る。

「前に聞いたよね、神獣である僕には対になる相手は必要がないって」
「え、ああ、確かそうでしたね……」
「種の繁栄の為、子孫を残す為に性器が動物に存在するのは桃タロー君も知っているよね?」
「あ。はい」

今までの自分の勢いをすっかり飲まれ、まるでいつもの漢方の調合を教えてもらうような口調で説明される会話の内容に桃太郎はどうにか答えながら頭が混乱してきた。
なんで責めようとしたのに、こんな状態になってるんだ、しかもなんだこの会話。

「まあ、性器の有無は絶対じゃないけれど、つまりは子孫が必要じゃなければその器官はないわけ」
「え、でも、あの、その、下半身に……」
「ああ、あるよね人型には性器。でもそれはあくまで人間の体に性器がなかったらおかしいから合わせた体にしている。
ああ違う違う元の体にも性器はあるよ。でも精液を作る器官はないわけ」

まるで今日のご飯の献立を説明するような軽い口調に、桃太郎は口を開け閉めするだけで言葉が出ない。
その様子に楽しそうに小さく笑った白澤は手元の漢方整理を再度始めた。

「見た目は人間だけど、僕は人間じゃない。神獣白澤は他にいないし、他の生き物と繋がる必要もない。だから、僕と遊んでくださいって言っているんだよね」

確かに記憶の中で「結婚してくれとは言わない、遊んでくださいと言うのが誠実ってことだ」と白澤に前に言われた気がするのを思い出したが、そうなのだが。

「……始めからそれ、言った方が良いんじゃないスかね…? 白澤様と本気で付き合って欲しい方がほら、いるから問題が起こるわけで、いざこざが減るかもしれないし…」
「遊ぶ度に言うの? 僕は精液出ないけど子孫残す事はできないけど良いかい、って?」
「いや、ないですねそれ……。すいません……」
「桃タロー君は真面目だねぇ」

よいしょと抱えていたビンを棚に戻した白澤は終始変わらない笑顔で振り返り、自分のまわりで生薬を仕分けている兎を撫でると桃太郎を見た。

「まあ、だから僕は真面目に楽しめるわけ。お酒も女性も、僕は常に真面目だよ。
だから相手が真面目に求めれば真面目に返す、そしてはたかれる。
振られるばかりだけれど、楽しい毎日だよ。それに振られても僕は付き合ってくれた子は皆好きなことには変わりないからね」

まじまじと自分と変わらない人間にしか見えない師匠を見つめながら、弟子はそのあっけらかんと言われた様子に改めて目を瞬かせる。
忘れがちだったが、この目の前の柔和だけど遊び好きの人は神獣で自分とは全く違う世界の中で生きてきたのだ。
人と同じカテゴリーで考えるのがそもそも。違うということに今更気がつかされる。


「あの、なんかすいません変な事聞いて……」
「別に? 聞かれないから答えないだけだし、心の中で勝手にあれこれ思われるより聞いてくれた方が僕としては嬉しいね」
「今俺、神獣だったって思い出しました……」
「え、それまで僕なんだと思われていたの?」
「最低な人」
「君、従業員兼弟子だよね!?」
「兼、世話係兼面倒事巻き込まれ苦労人だと思っていたので当然かなと」

サクサクと言い返されて憮然とした表情になった白澤だったが、すぐに肩を竦めただけでいつもの表情に戻った。

「だいぶ弟子らしくなったとも言えるかねぇ、その返答」

ニコニコと笑う白澤に、思わず返答しようとしていた言葉がのど奥に引っ込んでしまった。
飄々としている、彼なりに誠実真面目な対応は確かにしているんだろう、それが最終的にダメ人間に見えても。いや、人間じゃなくて神獣なのだが。

「……まあ、余り遊びすぎるのもやっぱり気を付けてくださいよね……」
「え、僕の事心配してくれたの?」
「世界中にいる女性の気持ちを心配してるんだよ!」
「あ、そうなの」
「あと、店を壊させるな、壊すな、前に女性暴れて漢方のビン壊された事あっただろ!」
「いやいやあれは不可抗力だし」
「アンタの対応のせいもあるんだよ!」
「あ、それもあるかもね」
「……あと、体壊さないでくださいよね。唯一無二なんでしょ、白澤様」

最後にぼそりとつぶやかれた一言に目を何度か瞬かせる。
言った当人は、手元の生薬をつぶす作業に戻っているが、いつもの呆れた様子ではなく。

「僕の心配もしてくれるんだ?」
「まあ、従業員兼弟子兼世話係としては当然ですけど」
「あっははは、言うねー!」

手元を見ている桃太郎には見えなかったが、笑った後に見せた白澤の笑みはとても柔らかく。
一人頷きながら、白澤は腕を上に伸ばして体を伸ばすと「よしっ」と一言呟いた。

「さて、依頼の漢方を僕も調合しようかね!」
「はい、是非お願いしますよ」


「あ、あの、こんにちは。すみません、風邪に効く漢方ってありますか?」
「あ、いらっしゃい! 君、可愛いね体が冷えるならあっためる薬を特別に君の部屋であげようか?」
「アンタ、さっき依頼の薬用意するって言ったろが!!!」



うさぎ漢方極楽満月。
今日も女性と弟子と神獣の声が響き渡る、賑やかな桃源郷の漢方薬局。

****

「ところで精液が出ないって、あの……その……」
「夜の営みについて気になってる?」
「あ、少しぼかしてくれてどうもッス……」
「まあ、そこは快感はちゃんとあるからね。精液が出ないけど人型の時は女の子を気持ち良くしたいのもあるし、疑似精液みたいなのは出るよ」
「……へえ……」
「何その目」
「いや何でそこだけ真面目に考えてるのかと……」
「だから遊びも真面目なの僕は」
「やっぱりダメだ内容は頭に入っても納得には至らねー!!」
「桃タロー君は真面目だねぇ」
「あんな話聞いてはいそうですかーって言えるか!!」
「僕は言えるよ?」
「そりゃアンタは神獣だからな!」
「あ、一応神獣って覚えてくれたんだ」
「色々なんか腑におちねぇぇぇぇ!!!」

/終

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【鬼徹腐】俺の給料上げてください

うさぎ漢方極楽満月。

すっかり日も落ち、星が頭上で幾つも瞬くのが見える中。

漢方に囲まれた店の中で、桃太郎はカウンターで本日の売り上げを纏めている白澤の後ろに無言で立っていた。

「ええと……桃タロー君? 何でそんなピッタリ後ろについてるの?」
「……いえ、先日この店の売り上げ内訳の話があったじゃないスか。
さすが今まで一人で店切り盛りしてただけあって売り上げはご自身で管理していてそこは尊敬してましたけどね」
「う、うん、あ、ありがとう?」
「で、やっぱり俺の給料5万って安くないかなと」
「ちょっと何でそんな目が据わってるの桃タロー君!?」
「本日の売り上げから月単位で換算して、交際費とその他経費内訳を計算し直しして給料値上げ交渉しようかと思いまして」
「怖いよ抑揚ない声で淡々と話さないでくれるかな!? なんか桃タロー君、あの鬼に似てきてない!?」
「納得できない事は俺も鬼になりますよ」
「この店に鬼はいらないの!!!!」

頭にそりの合わない鬼神を思い浮かべたのか苦虫を潰したような顔で、売り上げを持ったま体をずらすとじっと見てくる従業員。
その視線を受けつつも売り上げは見せない雇い主。

「その手の中見せやがれ神獣様」
「口調と内容合ってないからね、今の!?」

すぐさま答えつつ、一歩後ずされば近づく桃太郎。
また一歩後ずさればまた近づいてくる桃太郎。
片手で頭を掻くと、諦めたのか溜息をつくと売り上げを体からずらして並べ始めた。
無言で手元のノートに金額を書き始める従業員、もとい桃太郎を頬杖付いて見つめながら、雇い主、もとい白澤はとんとんと人差し指で机を叩く。

「よし、換算しても良いけど、ここでハッキリ僕からもしておこう。君の給料は適正価格だ」
「はい!?」

計算するために金額を書いていた手を止め、素っ頓狂な声を上げながら桃太郎は顔を上げると、いつものニコニコ笑顔な白澤と目が合う。一瞬バチッと火花が走ったような気がした桃太郎は目を瞬かせるが、目の前にはニコニコといつも通りの白澤が姿勢を変えて机に向き合っていた。

「よし、じゃあ桃タロー君の疑問から答えるよ」
「給料5万」
「そうだ、給料5万。でもね、新聞よく読んでるから平均月給とか現代の見た事あるよね」
「ありますよ、だから安いって思ったッス」
「じゃあそこからだ!」

棚から藁半紙を取り出した雇い主は筆を取り出すと素早く硯と墨を用意し、20万と書いた。

「20万?」
「これが平均月給とする」
「俺の4倍ッスよ!?」
「待て待て、ここからが本番だからね」

そう言うとニコッと笑った雇い主に、従業員はびくっと肩を震わせた。
その笑顔がいつもと違う事が何となくわかったのだ。これ何か有利に進めようとされている気がする、咄嗟に感じたが上手い返しが見つからない。
その間に筆が藁半紙を滑り、文字が現れはじめた。

「僕ね、現代の研究は好きだから現代の会社事情も調べているよ」
「お、俺も調べてますよ?」
「じゃあ話は早いね」

再度嬉しそうに笑顔を向けてくる雇い主。
あれ、俺は墓穴を何か掘ったんだろうか。勢いで行けると踏んでいた心が急に不安に駆られ始めた事を悟らせないよう首を振る。

「さて、まずこれ」

示された藁半紙に書かれた漢字をそのまま読み上げる。

「控除」
「そう、世の中には控除というのがあってね、雇い主が代わりに払うのとかを給料から引かせてもらう」
「そ、そうっすね」
「という事でまずは光熱費と食費。現在君はここで住み込みだから自分のお金は払わなくて済むから、僕のお店から出している」
「そうなりますよね」
「という事で買い出し行ってもらっているからだいたいの食費はわかるだろうから、それを2で割ってみて。ああ、だいたいで良いよ」
「うっ、ええと」

売り上げを書いていたノートに昨日の買い出しの金額を思い出す。
数日分で買ったのが1万くらいで4日として、約30日で8万、割って……

「4万くらい……?」
「じゃあ引いて16万。光熱費はそうだね僕は夜いない事が多いし、そこを考えても約1万5千かな」
「14.5万円…」

藁半紙の上の文字が少なくなるたびに5万にはまだ届かない数値なのに不安がどんどん大きくなっていく。

「あと通信費ね。シロちゃんとかにも電話したりするよね」
「してますね……」
「まあ5千かな」
「14万……」
「さて、練習用の生薬は育てないで買ってるのもあるよね。さあ君が買い出ししたので練習したのはいくら?」
「う、1万くらい」
「13万になったねぇ」
「んんん?」

さらさらと流れるように数字が下がっていく。
なんだろう、これはまずい流れなんじゃないだろうか。
いやまだまだ2倍以上の金額だ、焦るな桃太郎。まだ巻き返せるさ、相手は口が達者なだけだ、飲み込まれるな俺。
そう心を鼓舞しても白澤のニコニコ笑顔と説明は止まらない。

「さて桃タロー君の使っているタオルとか日用品も買ったし、日用品は纏めて買うよね」
「そ、そッスね」
「これはいくらくらいだと思う?」
「分割すると5千円くらい……?」
「さて。残り12.5万だねぇ」
「ま、まだ2倍ありますけど!?」
「じゃあ次ね。この前も僕は住み込みで働いてるじゃないかって言ったよね」
「そうですけどーー……もしかして後は家賃?」
「そう、家賃! と言っても天国にはその概念がないから日本の家賃にしてみようかな。
まあ駅とか近くにないからそこらへん差し引いて田舎あたりの借りる所と考えてそうだな、6万くらいじゃない?どう?」
「……たぶんそれくらいかも……いやそこらへんちょっと詳しくなーー」
「では残り6.5万」

ますます雇い主の笑顔が深くなる。

「交通費も、配達のついでとか遊んで来て良いよって言う事あるから僕から出す事あるよね」
「うっ」
「そうだねまた5千円かな」
「6万……」
「さて、他には保険代が引かれるらしいって知ってた?」
「保険!?」
「まあ、そこは知らなかったのかな。要は具合が悪くなったりした時の保険とかね。
具合が悪くなればここの漢方で済ませられるし、病院が必要な場合もウチの従業員だからね払う予定だからね」
「漢方代……病院代……」
「いざとなったら幾らかかるかなー? 今でも具合悪い時には教える傍ら店の商品を調剤しているよね!」
「ほ、ほぼ5万……」

スラスラと値段が下がり、最終的に見慣れた値段になる。
どうしてこうなった。

「まあザッと出しただけどね、どうかなー? 何かあるかな桃タロー君?」

ニコニコニコと心から楽しそうに笑う雇い主と藁半紙を見比べる。
今まで言われた値段でおかしいと思うものはなかった。と思う。
むしろ一気に捲し立てられた気もする、が反論が見つからないと頭を抱える。

「まあ、そういう事だから~」

歌うようにそれだけ言うと、並べてあった売り上げが白澤の手元に引き寄せられた。
その時、桃太郎はハッと目を開くとその手を勢いよく掴んだ。

「えっ、何!?」
「いや、おかしい、おかしい事があるぞ!!」
「どこがだよ、どこもおかしくないだろ!」
「まず残業代!! 店を閉めた後、店の後片づけとは雑用全てしているし、明日の用意とかそれも全部俺がしている!」
「それは住み込みでーー」
「それだけじゃない!!! 介護代の給料!!」
「ん!? 介護だって!?」
「アンタが酔っぱらって厠の神様に謝っている間の店の準備から対応! そして酔っぱらったアンタの介抱!この給料はどうしてくれる!」
「それは一人でもーー」
「店を閉めて閉じ籠る事はできるけれどその間店は開かなかったわけだが、今はその間も俺が対応して売り上げに貢献している」
「いやお店その間誰も本当は来なかったかもだよ?」
「ちゃんと朝から晩まで時間通りに開くようになってからお客さんに、前より開いてよかったです前は開いてなくて帰ったんですってさて何度言われた!!」
「さあ知らないな~?」
「すっとぼけんな、今日のお客さんにだって同じ事言われてごめんねーって言ってたのはどこのどいつだ!」
「あれは僕に会いたかったが為の嘘って言う事も考えられるね!」
「アンタはーー……。あっ!!!」

雇い主が無茶苦茶な返答をした後、急に叫んだ桃太郎は言葉を返す事なく自室兼倉庫に一目散で走り出した。
取り残された白澤は一時休戦と思ったか、頭に手を当てると天を仰ぎ息を大きく吐く。肩の力を抜いて机に手を掛けた瞬間、行きと同じ勢いで戻ってきた桃太郎の手に光る物を見つけた雇い主は思わず目を開いて後ずさる。

「ちょっ、桃タロー君!?」

光る物―愛用の鎌―を握ったままゆらりと歩み出す桃太郎に、もう一歩後ずさると手を勢い良く外に突き出した。

「早まるな、僕を殺しても問題解決にならないぞ!」
「誰が殺すか、あの鬼神と一緒にすんな!!」
「いや君、今鬼神と同じ目をしているからね、鏡見てごらん!」
「見るのが必要なのはこっちだ、この鎌!! 危うく乗せられるところだった、危なっ!」

桃太郎はふう、とそこで大きく息をつくと、鎌を片手にもう一歩、歩み寄ると口の端を痙攣させ笑っているのか怒っているのかどっちつかずの表情で白澤と目を合わせ、一言ゆっくりと告げた。

「仙桃の庭園管理は誰がしてるんでしたっけね」

その一言に白澤は藁半紙をゆっくりと手元に引き寄せる。

「何してんだダメ雇い主」
「いや、ちょっとね~…」

ビリィッッ!!!

「あっ!?」
「今の話は無効」
「このクソ雇い主ぃぃぃぃ!!!」

鎌を机に置くと両手で雇い主の襟首を掴んだかわいそうな従業員は力任せに掴んだ襟を前後に振るが、鬼神の攻撃を頻繁に受けている身にとっては大したダメージではないようでヘラリと笑いながら明後日の方向を見る相手に、更に手に力が籠る。

「えーと、えーと……ああ、そうだそうだよ、ちょっと落ち着いて桃タロー君」
「落ち着いてられるかこの野郎」
「とりあえずね、ほら、君この前誰かに言われてたじゃない、奥さんみたいだって」
「……はい?」

突然出てきた話題に思わず手が止まると、これ幸いとばかりに態勢を整えた白澤は襟首を掴む手を離すべく相手の指先をどうにか持ち上げながらいつもの笑顔で首を傾げる。

「という事で君、今日から僕の奥さんね。あ、内縁の妻って事でとりあえず」
「はいいいい!!??」
「家族経営っていうのは家族も会社も一心同体、つまり5万円はお小遣いと考えたらほら大金!!」
「……ポリシー曲げてでも交遊費につぎ込みたいのか、こんちくしょう!つか勝手に妻とかふざけんな、なんだそれ!」
「僕だって願い下げだけどこの場を落ち着かせる為にはこの考え方が一番しっくり来る」
「来ねーよ、ひとっつもしっくり来ないからな!!」
「もーわかったよ、じゃあお母さんみたいだから僕のお母さんって事で、ほら義理の母っていうか」
「家族経営に逃げるなこの野郎ー!!!!」
「ほらほら血圧上がるから興奮しない方が良いですよお母さん」
「やめろ、こんな遊び人の息子なんかいらねーよ!!!」

そこまで叫んで急にぴたりと動きが止まった桃太郎。
その手は思わず白澤の首を絞めはじめていたが、ゆっくりと手を下ろされる。

「も、桃タロー君?」
「何かを得る為には、同等の対価が必要って言葉ありますよね……」
「え、それどこの錬金術師?」

ノリで突っ込んだ白澤も見ずにゆらりと体を動かすと桃太郎はゆっくりと出口の方へと向かう。

「え、どうしたの桃タロー君?ちょっと怖いよ?」

先ほどまでの喧騒が嘘のような不気味な様子に白澤が恐る恐る声を掛けると、ちらりと振り向いた桃太郎は口の端を上げて見たこともない薄暗い笑顔を浮かべた。

「こっちは地獄に乗り込んだ時点ですでに色々失ってますからね、これ以上失うものないし、無駄な虚栄心は身を滅ぼすってわかっているんですよ……」
「え。ちょっと、桃タロー君?」

カッと目を見開いた瞬間、体をビシッと白澤の方に向けた桃太郎は両手を腰に当てると少々小太りな体を逸らせた。まるで応援団のような態勢で白澤を真っ直ぐ睨むと片足を地面に打ち付けた。

「そっちがその気なら俺にだって手はあるからな!!! 売り上げ纏めて待ってろ!!!」

バタンッ!!!

勢いよく開けられた入口の扉は同じく勢いよく閉じられ。
取り残された白澤はぽかんと口を開けたまま、一瞬でいなくなった桃太郎が居た場所をしばらく見ていたが、首をゆっくりと傾げると我関せずというようにそっぽ向いていた兎の一羽を捕まえた。

「え、何してくると思う……?」




その後。
数時間して何事もなかったように帰ってきた桃太郎に白澤が問い詰めても「何がッスか?」と言われ、普段通りに一日の終わりを迎えた事に白澤が嫌な予感を抱えていた頃。

地獄では、まことしやかに白澤が何を血迷ってか桃太郎を嫁にしたあげく、お小遣いだけで生活させようとしているという噂が広まり。ああ可哀相な桃太郎、何をトチ狂ったかあの神獣なんて話も出始め。

人に限らず鬼でも噂は尾ひれがつくもので、その噂に気が付いた白澤が必至に火消しに回ろうとも勝手に拡散される噂に頭を抱え、桃太郎の給料について2回目の話し合いが開かれたというのは、49日経ってから再度広まった噂。

さてさて、本当の事実はどこでしょう?


/終

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【鬼徹・白桃】若干距離の近い桃源郷師弟
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【白桃】白面に紅葉、その理由について

うさぎ漢方極楽満月。
桃源郷にある漢方店として相応しい名前を冠している店は、豊かな桃園に囲まれ兎達が草を食み、桃源郷に相応しい様子をしている。

しかし。

「最っっっ低男!!!!」

バチンと大きな音を立てて店の中から張り手の音がしたと思えば、こめかみに青筋を立てた女性が女性らしからぬ足音を立てながら入口の扉を開けて出てきた。

兎達はちらりとそちらを見ると慣れている風景にまた草を食む事に集中し始める。

そう、幸せな風景をぶち壊す修羅場が日夜繰り広げられる、ここが、うさぎ漢方極楽満月。



「アンタまたですか、これで何人目だよ」
「さあ、何人目だろうね?」

極楽満月の店の中で従業員及び弟子である桃太郎が生薬をすり潰しながら視線を向ける先には、肩を竦めてニコニコと笑っている雇い主兼師匠の白澤。その色白な頬には目元の紅と同じくらいに真っ赤な手形がついている。
そんな師匠を見る桃太郎の視線は呆れを通り越し、すでに無心になりかけているのだが、それに気がついても白澤は困ったもんだねと飄々と漢方の整理を始めた。

「あの……つかぬ事を聞いても良いですかね」
「ん? なんだい?」

重い溜息を吐いた弟子が声を掛ければ、その様子にもニコニコと振り返る師匠の様子に桃太郎の太めの右眉がピクリと動く。

「前々から気になってたんですけど。女性の方になんかあったらどうする気なんスか?」
「何かって?」
「いや、だから夜もお楽しみするでしょ、白澤様」
「うん」
「だから」
「だから?」
「っだあああああ!!!!」」

問いかける度に首を左右に傾げる女性なら可愛いと思えそうな仕草だが、詰問している相手にそんな態度をされた桃太郎は頭を掻き毟ると、机を勢いよく叩くと真っ直ぐに白澤を指さす。

「妊娠! したら! どうすんだって聞いてんだよ!!!」

怒りと羞恥がないまぜな様子が顕な弟子に指差された女の手形が残るその人は、細めていた目を開くと、まるでその空気を受け流すかのように再度首を傾げる。

「しないよ、妊娠」

「あ、あのな!!! いや避妊方法あるの知ってるけど、それでもな!」
「いやだからね」

更にヒートアップしそうな様子に相手を冷まそうとしているのか、言葉を遮ると白澤は両手を出してひらひらと手を上下に振るとニッコリと笑った。

「僕、精液は出ないから、大丈夫なの」
「だっ、えっ、え。はい? え、ええ!?」

一切予想していなかった言葉と相手の全く変わらない態度に、桃太郎は思わず小さな目を開いて言葉にならない言葉を続けて、もう一度白澤の言った言葉を反芻して、再度「え!?」と白澤を見る。

「前に聞いたよね、神獣である僕には対になる相手は必要がないって」
「え、ああ、確かそうでしたね……」
「種の繁栄の為、子孫を残す為に性器が動物に存在するのは桃タロー君も知っているよね?」
「あ。はい」

今までの自分の勢いをすっかり飲まれ、まるでいつもの漢方の調合を教えてもらうような口調で説明される会話の内容に桃太郎はどうにか答えながら頭が混乱してきた。
なんで責めようとしたのに、こんな状態になってるんだ、しかもなんだこの会話。

「まあ、性器の有無は絶対じゃないけれど、つまりは子孫が必要じゃなければその器官はないわけ」
「え、でも、あの、その、下半身に……」
「ああ、あるよね人型には性器。でもそれはあくまで人間の体に性器がなかったらおかしいから合わせた体にしている。
ああ違う違う元の体にも性器はあるよ。でも精液を作る器官はないわけ」

まるで今日のご飯の献立を説明するような軽い口調に、桃太郎は口を開け閉めするだけで言葉が出ない。
その様子に楽しそうに小さく笑った白澤は手元の漢方整理を再度始めた。

「見た目は人間だけど、僕は人間じゃない。神獣白澤は他にいないし、他の生き物と繋がる必要もない。だから、僕と遊んでくださいって言っているんだよね」

確かに記憶の中で「結婚してくれとは言わない、遊んでくださいと言うのが誠実ってことだ」と白澤に前に言われた気がするのを思い出したが、そうなのだが。

「……始めからそれ、言った方が良いんじゃないスかね…? 白澤様と本気で付き合って欲しい方がほら、いるから問題が起こるわけで、いざこざが減るかもしれないし…」
「遊ぶ度に言うの? 僕は精液出ないけど子孫残す事はできないけど良いかい、って?」
「いや、ないですねそれ……。すいません……」
「桃タロー君は真面目だねぇ」

よいしょと抱えていたビンを棚に戻した白澤は終始変わらない笑顔で振り返り、自分のまわりで生薬を仕分けている兎を撫でると桃太郎を見た。

「まあ、だから僕は真面目に楽しめるわけ。お酒も女性も、僕は常に真面目だよ。
だから相手が真面目に求めれば真面目に返す、そしてはたかれる。
振られるばかりだけれど、楽しい毎日だよ。それに振られても僕は付き合ってくれた子は皆好きなことには変わりないからね」

まじまじと自分と変わらない人間にしか見えない師匠を見つめながら、弟子はそのあっけらかんと言われた様子に改めて目を瞬かせる。
忘れがちだったが、この目の前の柔和だけど遊び好きの人は神獣で自分とは全く違う世界の中で生きてきたのだ。
人と同じカテゴリーで考えるのがそもそも。違うということに今更気がつかされる。


「あの、なんかすいません変な事聞いて……」
「別に? 聞かれないから答えないだけだし、心の中で勝手にあれこれ思われるより聞いてくれた方が僕としては嬉しいね」
「今俺、神獣だったって思い出しました……」
「え、それまで僕なんだと思われていたの?」
「最低な人」
「君、従業員兼弟子だよね!?」
「兼、世話係兼面倒事巻き込まれ苦労人だと思っていたので当然かなと」

サクサクと言い返されて憮然とした表情になった白澤だったが、すぐに肩を竦めただけでいつもの表情に戻った。

「だいぶ弟子らしくなったとも言えるかねぇ、その返答」

ニコニコと笑う白澤に、思わず返答しようとしていた言葉がのど奥に引っ込んでしまった。
飄々としている、彼なりに誠実真面目な対応は確かにしているんだろう、それが最終的にダメ人間に見えても。いや、人間じゃなくて神獣なのだが。

「……まあ、余り遊びすぎるのもやっぱり気を付けてくださいよね……」
「え、僕の事心配してくれたの?」
「世界中にいる女性の気持ちを心配してるんだよ!」
「あ、そうなの」
「あと、店を壊させるな、壊すな、前に女性暴れて漢方のビン壊された事あっただろ!」
「いやいやあれは不可抗力だし」
「アンタの対応のせいもあるんだよ!」
「あ、それもあるかもね」
「……あと、体壊さないでくださいよね。唯一無二なんでしょ、白澤様」

最後にぼそりとつぶやかれた一言に目を何度か瞬かせる。
言った当人は、手元の生薬をつぶす作業に戻っているが、いつもの呆れた様子ではなく。

「僕の心配もしてくれるんだ?」
「まあ、従業員兼弟子兼世話係としては当然ですけど」
「あっははは、言うねー!」

手元を見ている桃太郎には見えなかったが、笑った後に見せた白澤の笑みはとても柔らかく。
一人頷きながら、白澤は腕を上に伸ばして体を伸ばすと「よしっ」と一言呟いた。

「さて、依頼の漢方を僕も調合しようかね!」
「はい、是非お願いしますよ」


「あ、あの、こんにちは。すみません、風邪に効く漢方ってありますか?」
「あ、いらっしゃい! 君、可愛いね体が冷えるならあっためる薬を特別に君の部屋であげようか?」
「アンタ、さっき依頼の薬用意するって言ったろが!!!」



うさぎ漢方極楽満月。
今日も女性と弟子と神獣の声が響き渡る、賑やかな桃源郷の漢方薬局。

****

「ところで精液が出ないって、あの……その……」
「夜の営みについて気になってる?」
「あ、少しぼかしてくれてどうもッス……」
「まあ、そこは快感はちゃんとあるからね。精液が出ないけど人型の時は女の子を気持ち良くしたいのもあるし、疑似精液みたいなのは出るよ」
「……へえ……」
「何その目」
「いや何でそこだけ真面目に考えてるのかと……」
「だから遊びも真面目なの僕は」
「やっぱりダメだ内容は頭に入っても納得には至らねー!!」
「桃タロー君は真面目だねぇ」
「あんな話聞いてはいそうですかーって言えるか!!」
「僕は言えるよ?」
「そりゃアンタは神獣だからな!」
「あ、一応神獣って覚えてくれたんだ」
「色々なんか腑におちねぇぇぇぇ!!!」

/終

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【鬼徹腐】俺の給料上げてください

うさぎ漢方極楽満月。

すっかり日も落ち、星が頭上で幾つも瞬くのが見える中。

漢方に囲まれた店の中で、桃太郎はカウンターで本日の売り上げを纏めている白澤の後ろに無言で立っていた。

「ええと……桃タロー君? 何でそんなピッタリ後ろについてるの?」
「……いえ、先日この店の売り上げ内訳の話があったじゃないスか。
さすが今まで一人で店切り盛りしてただけあって売り上げはご自身で管理していてそこは尊敬してましたけどね」
「う、うん、あ、ありがとう?」
「で、やっぱり俺の給料5万って安くないかなと」
「ちょっと何でそんな目が据わってるの桃タロー君!?」
「本日の売り上げから月単位で換算して、交際費とその他経費内訳を計算し直しして給料値上げ交渉しようかと思いまして」
「怖いよ抑揚ない声で淡々と話さないでくれるかな!? なんか桃タロー君、あの鬼に似てきてない!?」
「納得できない事は俺も鬼になりますよ」
「この店に鬼はいらないの!!!!」

頭にそりの合わない鬼神を思い浮かべたのか苦虫を潰したような顔で、売り上げを持ったま体をずらすとじっと見てくる従業員。
その視線を受けつつも売り上げは見せない雇い主。

「その手の中見せやがれ神獣様」
「口調と内容合ってないからね、今の!?」

すぐさま答えつつ、一歩後ずされば近づく桃太郎。
また一歩後ずさればまた近づいてくる桃太郎。
片手で頭を掻くと、諦めたのか溜息をつくと売り上げを体からずらして並べ始めた。
無言で手元のノートに金額を書き始める従業員、もとい桃太郎を頬杖付いて見つめながら、雇い主、もとい白澤はとんとんと人差し指で机を叩く。

「よし、換算しても良いけど、ここでハッキリ僕からもしておこう。君の給料は適正価格だ」
「はい!?」

計算するために金額を書いていた手を止め、素っ頓狂な声を上げながら桃太郎は顔を上げると、いつものニコニコ笑顔な白澤と目が合う。一瞬バチッと火花が走ったような気がした桃太郎は目を瞬かせるが、目の前にはニコニコといつも通りの白澤が姿勢を変えて机に向き合っていた。

「よし、じゃあ桃タロー君の疑問から答えるよ」
「給料5万」
「そうだ、給料5万。でもね、新聞よく読んでるから平均月給とか現代の見た事あるよね」
「ありますよ、だから安いって思ったッス」
「じゃあそこからだ!」

棚から藁半紙を取り出した雇い主は筆を取り出すと素早く硯と墨を用意し、20万と書いた。

「20万?」
「これが平均月給とする」
「俺の4倍ッスよ!?」
「待て待て、ここからが本番だからね」

そう言うとニコッと笑った雇い主に、従業員はびくっと肩を震わせた。
その笑顔がいつもと違う事が何となくわかったのだ。これ何か有利に進めようとされている気がする、咄嗟に感じたが上手い返しが見つからない。
その間に筆が藁半紙を滑り、文字が現れはじめた。

「僕ね、現代の研究は好きだから現代の会社事情も調べているよ」
「お、俺も調べてますよ?」
「じゃあ話は早いね」

再度嬉しそうに笑顔を向けてくる雇い主。
あれ、俺は墓穴を何か掘ったんだろうか。勢いで行けると踏んでいた心が急に不安に駆られ始めた事を悟らせないよう首を振る。

「さて、まずこれ」

示された藁半紙に書かれた漢字をそのまま読み上げる。

「控除」
「そう、世の中には控除というのがあってね、雇い主が代わりに払うのとかを給料から引かせてもらう」
「そ、そうっすね」
「という事でまずは光熱費と食費。現在君はここで住み込みだから自分のお金は払わなくて済むから、僕のお店から出している」
「そうなりますよね」
「という事で買い出し行ってもらっているからだいたいの食費はわかるだろうから、それを2で割ってみて。ああ、だいたいで良いよ」
「うっ、ええと」

売り上げを書いていたノートに昨日の買い出しの金額を思い出す。
数日分で買ったのが1万くらいで4日として、約30日で8万、割って……

「4万くらい……?」
「じゃあ引いて16万。光熱費はそうだね僕は夜いない事が多いし、そこを考えても約1万5千かな」
「14.5万円…」

藁半紙の上の文字が少なくなるたびに5万にはまだ届かない数値なのに不安がどんどん大きくなっていく。

「あと通信費ね。シロちゃんとかにも電話したりするよね」
「してますね……」
「まあ5千かな」
「14万……」
「さて、練習用の生薬は育てないで買ってるのもあるよね。さあ君が買い出ししたので練習したのはいくら?」
「う、1万くらい」
「13万になったねぇ」
「んんん?」

さらさらと流れるように数字が下がっていく。
なんだろう、これはまずい流れなんじゃないだろうか。
いやまだまだ2倍以上の金額だ、焦るな桃太郎。まだ巻き返せるさ、相手は口が達者なだけだ、飲み込まれるな俺。
そう心を鼓舞しても白澤のニコニコ笑顔と説明は止まらない。

「さて桃タロー君の使っているタオルとか日用品も買ったし、日用品は纏めて買うよね」
「そ、そッスね」
「これはいくらくらいだと思う?」
「分割すると5千円くらい……?」
「さて。残り12.5万だねぇ」
「ま、まだ2倍ありますけど!?」
「じゃあ次ね。この前も僕は住み込みで働いてるじゃないかって言ったよね」
「そうですけどーー……もしかして後は家賃?」
「そう、家賃! と言っても天国にはその概念がないから日本の家賃にしてみようかな。
まあ駅とか近くにないからそこらへん差し引いて田舎あたりの借りる所と考えてそうだな、6万くらいじゃない?どう?」
「……たぶんそれくらいかも……いやそこらへんちょっと詳しくなーー」
「では残り6.5万」

ますます雇い主の笑顔が深くなる。

「交通費も、配達のついでとか遊んで来て良いよって言う事あるから僕から出す事あるよね」
「うっ」
「そうだねまた5千円かな」
「6万……」
「さて、他には保険代が引かれるらしいって知ってた?」
「保険!?」
「まあ、そこは知らなかったのかな。要は具合が悪くなったりした時の保険とかね。
具合が悪くなればここの漢方で済ませられるし、病院が必要な場合もウチの従業員だからね払う予定だからね」
「漢方代……病院代……」
「いざとなったら幾らかかるかなー? 今でも具合悪い時には教える傍ら店の商品を調剤しているよね!」
「ほ、ほぼ5万……」

スラスラと値段が下がり、最終的に見慣れた値段になる。
どうしてこうなった。

「まあザッと出しただけどね、どうかなー? 何かあるかな桃タロー君?」

ニコニコニコと心から楽しそうに笑う雇い主と藁半紙を見比べる。
今まで言われた値段でおかしいと思うものはなかった。と思う。
むしろ一気に捲し立てられた気もする、が反論が見つからないと頭を抱える。

「まあ、そういう事だから~」

歌うようにそれだけ言うと、並べてあった売り上げが白澤の手元に引き寄せられた。
その時、桃太郎はハッと目を開くとその手を勢いよく掴んだ。

「えっ、何!?」
「いや、おかしい、おかしい事があるぞ!!」
「どこがだよ、どこもおかしくないだろ!」
「まず残業代!! 店を閉めた後、店の後片づけとは雑用全てしているし、明日の用意とかそれも全部俺がしている!」
「それは住み込みでーー」
「それだけじゃない!!! 介護代の給料!!」
「ん!? 介護だって!?」
「アンタが酔っぱらって厠の神様に謝っている間の店の準備から対応! そして酔っぱらったアンタの介抱!この給料はどうしてくれる!」
「それは一人でもーー」
「店を閉めて閉じ籠る事はできるけれどその間店は開かなかったわけだが、今はその間も俺が対応して売り上げに貢献している」
「いやお店その間誰も本当は来なかったかもだよ?」
「ちゃんと朝から晩まで時間通りに開くようになってからお客さんに、前より開いてよかったです前は開いてなくて帰ったんですってさて何度言われた!!」
「さあ知らないな~?」
「すっとぼけんな、今日のお客さんにだって同じ事言われてごめんねーって言ってたのはどこのどいつだ!」
「あれは僕に会いたかったが為の嘘って言う事も考えられるね!」
「アンタはーー……。あっ!!!」

雇い主が無茶苦茶な返答をした後、急に叫んだ桃太郎は言葉を返す事なく自室兼倉庫に一目散で走り出した。
取り残された白澤は一時休戦と思ったか、頭に手を当てると天を仰ぎ息を大きく吐く。肩の力を抜いて机に手を掛けた瞬間、行きと同じ勢いで戻ってきた桃太郎の手に光る物を見つけた雇い主は思わず目を開いて後ずさる。

「ちょっ、桃タロー君!?」

光る物―愛用の鎌―を握ったままゆらりと歩み出す桃太郎に、もう一歩後ずさると手を勢い良く外に突き出した。

「早まるな、僕を殺しても問題解決にならないぞ!」
「誰が殺すか、あの鬼神と一緒にすんな!!」
「いや君、今鬼神と同じ目をしているからね、鏡見てごらん!」
「見るのが必要なのはこっちだ、この鎌!! 危うく乗せられるところだった、危なっ!」

桃太郎はふう、とそこで大きく息をつくと、鎌を片手にもう一歩、歩み寄ると口の端を痙攣させ笑っているのか怒っているのかどっちつかずの表情で白澤と目を合わせ、一言ゆっくりと告げた。

「仙桃の庭園管理は誰がしてるんでしたっけね」

その一言に白澤は藁半紙をゆっくりと手元に引き寄せる。

「何してんだダメ雇い主」
「いや、ちょっとね~…」

ビリィッッ!!!

「あっ!?」
「今の話は無効」
「このクソ雇い主ぃぃぃぃ!!!」

鎌を机に置くと両手で雇い主の襟首を掴んだかわいそうな従業員は力任せに掴んだ襟を前後に振るが、鬼神の攻撃を頻繁に受けている身にとっては大したダメージではないようでヘラリと笑いながら明後日の方向を見る相手に、更に手に力が籠る。

「えーと、えーと……ああ、そうだそうだよ、ちょっと落ち着いて桃タロー君」
「落ち着いてられるかこの野郎」
「とりあえずね、ほら、君この前誰かに言われてたじゃない、奥さんみたいだって」
「……はい?」

突然出てきた話題に思わず手が止まると、これ幸いとばかりに態勢を整えた白澤は襟首を掴む手を離すべく相手の指先をどうにか持ち上げながらいつもの笑顔で首を傾げる。

「という事で君、今日から僕の奥さんね。あ、内縁の妻って事でとりあえず」
「はいいいい!!??」
「家族経営っていうのは家族も会社も一心同体、つまり5万円はお小遣いと考えたらほら大金!!」
「……ポリシー曲げてでも交遊費につぎ込みたいのか、こんちくしょう!つか勝手に妻とかふざけんな、なんだそれ!」
「僕だって願い下げだけどこの場を落ち着かせる為にはこの考え方が一番しっくり来る」
「来ねーよ、ひとっつもしっくり来ないからな!!」
「もーわかったよ、じゃあお母さんみたいだから僕のお母さんって事で、ほら義理の母っていうか」
「家族経営に逃げるなこの野郎ー!!!!」
「ほらほら血圧上がるから興奮しない方が良いですよお母さん」
「やめろ、こんな遊び人の息子なんかいらねーよ!!!」

そこまで叫んで急にぴたりと動きが止まった桃太郎。
その手は思わず白澤の首を絞めはじめていたが、ゆっくりと手を下ろされる。

「も、桃タロー君?」
「何かを得る為には、同等の対価が必要って言葉ありますよね……」
「え、それどこの錬金術師?」

ノリで突っ込んだ白澤も見ずにゆらりと体を動かすと桃太郎はゆっくりと出口の方へと向かう。

「え、どうしたの桃タロー君?ちょっと怖いよ?」

先ほどまでの喧騒が嘘のような不気味な様子に白澤が恐る恐る声を掛けると、ちらりと振り向いた桃太郎は口の端を上げて見たこともない薄暗い笑顔を浮かべた。

「こっちは地獄に乗り込んだ時点ですでに色々失ってますからね、これ以上失うものないし、無駄な虚栄心は身を滅ぼすってわかっているんですよ……」
「え。ちょっと、桃タロー君?」

カッと目を見開いた瞬間、体をビシッと白澤の方に向けた桃太郎は両手を腰に当てると少々小太りな体を逸らせた。まるで応援団のような態勢で白澤を真っ直ぐ睨むと片足を地面に打ち付けた。

「そっちがその気なら俺にだって手はあるからな!!! 売り上げ纏めて待ってろ!!!」

バタンッ!!!

勢いよく開けられた入口の扉は同じく勢いよく閉じられ。
取り残された白澤はぽかんと口を開けたまま、一瞬でいなくなった桃太郎が居た場所をしばらく見ていたが、首をゆっくりと傾げると我関せずというようにそっぽ向いていた兎の一羽を捕まえた。

「え、何してくると思う……?」




その後。
数時間して何事もなかったように帰ってきた桃太郎に白澤が問い詰めても「何がッスか?」と言われ、普段通りに一日の終わりを迎えた事に白澤が嫌な予感を抱えていた頃。

地獄では、まことしやかに白澤が何を血迷ってか桃太郎を嫁にしたあげく、お小遣いだけで生活させようとしているという噂が広まり。ああ可哀相な桃太郎、何をトチ狂ったかあの神獣なんて話も出始め。

人に限らず鬼でも噂は尾ひれがつくもので、その噂に気が付いた白澤が必至に火消しに回ろうとも勝手に拡散される噂に頭を抱え、桃太郎の給料について2回目の話し合いが開かれたというのは、49日経ってから再度広まった噂。

さてさて、本当の事実はどこでしょう?


/終

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