「愛しのあの子に夢で会える! 安眠⭐︎パーフェクトドリーム」
という訳で、区分はR18だけど内容的にはR15です⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
恋のABC的にいうならBっすね。……この辺イマドキ分かる人おるんかな……(><)
タイトルは今回登場する魔法道具の商品名です。
やや睡眠姦。アッでもこれも厳密なひとには許されないタイプかも……
兜合わせと素股なので随分薄めです。その辺りご理解いただければと⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
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◆◇◆◇◆
「ドット、」
軽く首を傾げた動作に従って、ピアスがしゃらりと輪郭に触れる。そっと頬を撫でて来るその手は壊れ物を扱うように慎重だ。
ドットは息の仕方さえ忘れたように硬直した。ただもう、頬を上下する指先の滑らかな感触しか分からない。綺麗な瞳がゆっくりと細まる。胸どころか腹の底まで響き渡るほど心臓がばくばくと煩くなった。なんでだ?どうしてこんなことに?いや腕、アイツを突き飛ばせよ!
観念してギュッと瞳を瞑った瞬間に、ジリリリリと破裂音がしてドットの意識が遠く浮上する──
◆◇◆◇◆
「……はっ!」
びくんと痙攣するようにドットは飛び起きた。寝ぼけ頭のまま慌てて左右を見渡せば、いつも通り自分の目覚まし時計が震えている。
(ゆめ……)
ホッとしたような、残念なような。
八つ当たりのようにボタンをペンッと叩くと、けたたましい音を立てていた目覚まし時計は静かになる。コイツ、このヤロウ。……いや、それはどっちの意味かと言われると困るんだが。
ふと視線を上げると、ドットのベットの上方、ヘッドボードに朝日を受けて輝く飾りがちょこんと鎮座していた。その能天気な輝きに思わずため息が漏れる。
「……おい、チンピラ」
「ふぁあああ!……ッ朝っぱらから驚かすんじゃねぇよ!」
「うるさい」
これ見よがしに片耳を指で塞いだランスはいつも通りの仏頂面である。つい今さっきまで、ドットが見ていた夢の中のランスはもっと、……もっと?……辞めよう。気が付きたくなかったことに気が付きそうだ。
寝起きとは思えない動悸に朝から頭は大混乱だ。思わずジリッと後退りする。眉を顰めた相変わらずの美形は、止めたばかりの目覚まし時計をすっと指差した。
「ぼんやりしていると遅刻するぞ」
「は……?……あっ、やっべこんな時間!」
慌ててベッドから飛び起きるドットを尻目にしっかりと制服を着込んだランスは腕を組んで苛立たしげにこちらを睨む。シャツを引っ掴みながら、なんだよ、とドットは唇を曲げる。
(……夢と全然違うじゃん)
夢と同じでも困るんだが。
ギリギリと歯軋りしながら、いつものようにヘアバンドを手に取った。
***
先進技術が発達した現代において、睡眠の問題は非常に重大である。社畜と呼ばれる労働者達はより短い睡眠でより深い疲労回復効果を求めるし、不眠、入眠に不安を抱くひともいるだろう。
そんな、アナタに、『ヨクネムレール』シリーズ!
「もう手放せない……!」「これひとつで睡眠障害から回復しました!」のお声を頂戴しております。
※個人の感想であり、実感には個人差があります。
お買い求めはお近くの薬局まで!
初めてその広告を見た時、正直、「ウソくせ〜〜〜〜!」と思った。思ったがまぁ、ネタとしては面白い。そんなに高くないし。なにより一応「健康増進商品」として普通に薬局に売っているのだから。ドットが買ったのは、「好きなひとが出て来る夢を見られる」魔法道具だ。そんな物を手に入れた理由はひとつである。
「レモンちゃんが!出て来る!!夢が見たい!!!」
いそいそとヘッドボードに説明書通りに魔法道具を置くドットを見てランスが「この単細胞……」と悪態を吐いたのは、まぁ、いつもの事だった。
魔法道具の使い方は至って簡単。意中の人を思い浮かべながら嵌められた魔石の色が変わるまで魔力を込めて、スイッチを入れるだけ。チャージした魔力分だけ任意の夢が見られる、という寸法だ。……寸法だった。
ドットがその日見た夢にはランスが出てきた。
いつものように「やれやれ、」と肩をすくめて、ちょっと嫌味を言って、そして、ドットが知らない顔で微笑んだ。それはたぶん、妹の写真を納めたペンダントにしか向けられない笑顔だっただろう。ドットは、その横顔しか見たことがないはずだ。
びっくりした。
オレにもそんな顔を向けられるだなんて。
ランスはもとより顔がいいから、あの表情を正面から想像したことがないかと聞かれると、さすがに「ない」は嘘になる。綺麗なものは瞳を惹く。悔しいが、仕方ないことだ。とはいえ自分に向けられるなんて想像したことはないから、目を開けた後もしばらくは呆然としていた。けれど「なにをボサっとしているチンピラ」と、いつもの蔑むような声にハッと跳ね起きた。その日は遅刻しなかったが、ダッシュはした、とだけ言い添えておこう。
これはどう考えても魔法道具の不備であったに違いない。まさか自分が、ランスが出てくるように願いながら魔力を注ぐはずがないのだ。たぶん悪態を吐かれてムッとした気持ちが魔法道具に伝播しただけ。きっとそれだけだ。そう自らを納得させたドットであったが、次の日も、その次の日も、見る夢に出てくるのはランス・クラウンそのひとだった。おかしい。魔法道具の不具合ではないか?何度もその可能性を考えたが、わざわざお客様相談室に電話してみるのも、「じゃあどんなひとの出てくる夢を見たんですか?」と聞かれたらと思うとなかなか踏み切れず、今に至る。
どうやらドットが考えていたよりもこの魔法道具はコスパが良いらしく、最初の1回目に魔力を供給して以来、まだ1度も追加で魔力を入れていないのに「使用可能」の緑色のまま、一向に色が変わらない。魔力が切れてくれないと、やっぱり不良品だったから捨てました、なんて自分の中に区切りをつける事も出来ず、悶々とした日々が続いている。結局毎夜使用している辺り、魔力が切れて欲しいのか、欲しくないのか、正直なところ自分でもよく分からない。
だって、夢の中のランスはなんだかちょっと優しいのだ。……いや、別に現実世界のランスも、取り分け身内に対しての情が厚くて、結構友情を大切にするタイプ、というのは知っている。ただ、よりにもよってドットにあんな顔はしないだろう。……まるでそう、愛おしくて堪らない、というような。
(……あ〜〜〜ッ、待った待った今のなし!!)
自分の思考が著しくおかしな方向に向かっていることは、だいたい理解している。頭を抱えたままチラリと視線をランスにやると、ドットにしか分からないように口パクで「お得意の発作か?」とかムカつくことを言ってくる。授業中に頭を掻きむしった自分が悪いのを重々承知で吠え立てたくなる気持ちをドットは苦心して抑え込んだ。一応授業だから。落ち着けオレ。
目の前のランスはいつだってこう、変なちょっかいをかけて来る奴なのに、夢の中のランスは優しいから、だんだんよく分からなくなる。どっちが本当のランスなんだろう?とか。……そんなの決まっているのに。胸がドキドキとするのだってきっと、何かの勘違いとか誤作動だろう。
でなければおかしいのだ。ランスの動きをつい目で追ってしまって、ドキドキと胸がうるさい、だなんて。
◆◇◆◇◆
さらりと誰かが前髪を、そして額を撫でる。柔らかく触れる指先が心地良くて、ドットはむにむにと唇を動かした。
「……なんだ、どうした?」
不明瞭な声には優しさだけが詰まっている。首を動かしてその指先に擦り寄ると、鼻から抜けるような吐息が少しドットを笑った気がした。けれどそれはいつも聞くほど嫌味な感じではない。優しくくすぐるように輪郭を辿り、ドットの頬を撫でた。
「かわいいな」
思わず漏れたようなその声は、意外なほどドットの耳に大きく響いた。そんな声で「かわいい」なんて言うのか。というか、オレのこと「かわいい」なんて思ってたのか、お前。途端に気分が良くなって、むふー、とため息が漏れる。その間も、ランスの手は優しくドットを撫で続けた。……ランス?そうだ、この手はたぶんランスだ。節張って、しっかり太くて、でも貴族らしく滑らかで綺麗なランスの指だ。ランスなのに、優しい。
(……お前って、オレにそんな触れ方出来たんだ)
意外なような、そうでもないような。
とにかくドットは、麗らかな陽射しのようなその指の感触を瞳を閉じて味わっていた。
◆◇◆◇◆
「いつまで寝てる、この寝坊助」
耳がその声を捉えるより早く、ばちん!と音がして、遅れて額がびりびりと痛みを訴える。
「んなァ……!」
ドットは思わず額を抑えて飛び起きた。案の定、いつもの澄まし顔に気が付いて怒鳴ろうとするも、周囲の視線に思わず口を噤む。教室中の視線がこちらを向いていた。それは授業を担当する教員の視線も例外ではなかった。寝起きの頭でも分かる。さぁって血の気が引いた。言い訳しようもない状況に、ぱくぱくと口を開閉させるドットを、隣のランスは腕を組んで「マヌケが……」と言っている。元はと言えばお前が……!いや、アレは夢の中のランスだったか?それにしたってもっと穏当に起こしてくれればオレだって、
「ドット・バレット……あなたというひとは……」
「すみまっせーーーーーん!!」
叱られる前にと思って謝ってみる。しかしそれでお説教を免れる訳もなく。大目玉を喰らったのは言うまでもなかった。
***
居眠りの罰として教材を運ぶ雑用をして、ドットはぐったりと中庭のベンチに伸びた。教室と教科準備室を5往復もさせられた。絶対ひとりでやるような量じゃねぇ。
「あ、ドットくん。お疲れ様」
「おー……」
別件で教員に呼び出されていたフィンが胸に自分の教科書とノートを抱えたままちょこんと隣に座る。色々あって兄と和解した後、フィンはかなり勉学に力を入れている。きっと彼の中で何かの心境の変化があったのだろう。詮索はしないがなんとなく応援したくなる。
「災難だったねぇ」
「全くだぜ!ランスの奴がさァ」
「……まぁ、乱暴な起こし方だったよね」
「起こし方も何も、アイツはいつも乱暴なの」
「そうかなぁ……」
困ったようにフィンが首を傾げる。その苦笑は何か言いたげだった。「ん?」と首を傾げて促してみると、フィンは少し迷うよう素振りを見せつつ、おずおずと口を開く。
「ドットくんが起きる直前まで、ランスくんたらドットくんを撫でてたんだよ」
「……はぁ?」
「すっごく優しい顔してたのに、突然デコピンするからビックリしちゃった」
きゃらきゃらと笑うフィンの言葉に、ドットの方がびっくりしている。アイツが?優しい顔をして?オレを撫でるとかあり得るのか?
確かに夢の中のランスならするかもしれない。というか、直前までその夢を見ていたし。……あれ、待ってくれ。
(……もしかしてアレって、夢じゃなかったのか?)
確かにさっきまで微睡んでいた夢の中では、アイツの顔なんか見ていない。声と、指先でランスだろうと思っただけだ。アレが夢じゃなくて現実だったとしたら……。
「あれ、ドットくん、暑い?」
「え……」
「顔真っ赤だよ」
飲み物買ってこようか?と言うキョトンとしたその瞳に急に居心地が悪くなって、ドットは身を小さく縮めた。
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***
その後も依然としてドット・バレットの魔法道具が見せる夢には全てランス・クラウンが出てきた。最近は「これはホンモノっぽい」とか「さすがにこれはオウジサマすぎ」とか、夢を見ている最中でもツッコミを入れられるくらいドットも慣れてきた。これだけ夢を見ているのに、魔法道具の魔力が切れない。ホントだったら超コスパ最強魔法道具だっつーのになぁ!
そろそろ魔法道具の使用を止めるべきか。いや、実害がない以上別に良いような気もする。というか、白状しよう。ドットは段々ランスが出て来る夢が嬉しくなってきてしまったのだ。
なんせシュチュエーションは様々だ。
授業の一幕だったり、幼少期のドットの記憶の延長のような場面になぜかランスがいたり、それこそファンタジー調に吸血鬼姿だったり。しかし毎回必ずドットはランスに気が付く。どんな格好をしていても、顔なんか見えなくても、「たぶんコイツだな」と。
夢の中のランスは多少意地が悪かったりしても基本的には親切で、ドットには優しい。それはもう、朝になって、なんとも言えない不機嫌そうなランスを見ると少しがっかりしてしまうくらいには。夢は記憶の整理の他、自分の感情の調整の為に見るらしい。あんなランスを、自分は現実世界でも見たいと思っている、かも、しれない。そう思うと無性に気に食わないが、認める他ないだろう。
「……あ〜〜、くっそ……」
夢に見ているうちに、気が付いたら現実のランスのことも好きになってしまった、なんて。ありゃオレの無意識が見せている都合の良いランス・クラウン、というのは重々承知しているのに、夢で見たように「貴様は全く仕方がないな」とかなんとか言いながら結局世話を焼いてくれるランスとか、妹にしか見せない笑顔を向けて来るランスだとか、妙に気取った衣装でオレの前に跪くランスとかを、鮮明に想像している自分がいる。こんな風に特別扱いされたら、どれだけ嬉しいだろうか、なんて。
(……うーん、やっぱりアレは捨てるか)
このままだと、色々とまずい気がする。
……いや、ダチに本気で惚れてるっぽい時点で既にダメだが、同じ部屋で生活しておいて、実はこっそり夢で自分の思い通りに振る舞うランスの姿を見てメロメロしてるって、なんかもうすごいダメな気がする。ヒトとして。もちろんドットが白状しなければバレたりなんかしないが、寝言で何を言うかは保証できない。同室である以上、油断は禁物だ。最近は授業中に颯爽と魔法を使うランスの姿にもちょっとキュンキュン来ちゃったりしているから、バレたらもう、どう頑張っても言い訳できない。
「……はぁ」
ランスはよく知らない人間には男女問わずもっと辛辣だし、ドットを雑に扱うのだって、「身内」に対する甘えみたいなモノが見え隠れするから、それが嫌とか、そういう訳でもない。でも、なんていうか、もうちょっと、さぁ……。相変わらずヘッドボードに鎮座する魔法道具をひょいと摘み上げた。魔法石の色は使用可能の緑色。この色が消えているところを、ドットはまだ購入したその日以来見ていない。触った感じ、まだ潤沢に魔力が篭っているような気がする。
「ううーん……」
良くはない、良くはない、の、だが……。
……せっかく魔力が入っているままなのに、使わないのは、もったいない、ような気もする。
(今日だけ、今夜だけ使って、捨てるかぁ……)
まだ魔力残ってるし、もう1回くらいはセーフじゃなかろうか。ドットは誰にともなく言い訳をする。正直惜しい。夢に出て来るランスに会いたいと思ってしまっている自分がいる。けれど同じくらい、現実のランスに不義理な気もしている。アイツ、たまにめっちゃムカつくけど……でもやっぱり……。
とりあえず寝台を整えて、ぴょんとランスはベッドから飛び退いた。この後フィンと勉強会をしようと約束していたのだった。ノートと教科書を乱雑に掴み、隣室へと飛んで行った。
***
ぼんやりとした月明かりに、ドットは薄目を開けた。いま何時だろう、と目覚まし時計を見るほどの気力が湧かない。半分起きているような、寝ているような微睡みにゆらゆらと身を浸す。
「あぇ……」
月の光に鋭利な何かが光を返した。
一瞬眩んだ瞳に、ドットは瞳をきつく閉じる。しかしぼんやりと浮かんだシルエットは、見覚えがあった。
「らんす……?」
ぽやぽやと薄目を開くと、耳元のピアスを外すランスの姿がなんとなく分かった。先ほどの光は月光をピアスが反射したのだろう。
「……なんだ、起きたのか」
「んー……」
起きているといえば起きているし、いないといえばいない。むずかるようにドットは顔を左右に振った。上手く動かない思考の中で、ああそう言えば、こんな感じの夢もあったな、と思い出す。パジャマ姿のランスと一緒にハーブティを囲む夢だ。もちろん、ハーブティはドットが淹れたものである。夢だから実際にハーブティなど飲んではいないはずなのに、どこかふわふわホカホカと身体が温かくなったのを良く覚えている。その時もランスはいつものピアスを外していた。一応眠る前のルーティンだから。今日はそう言えば、ランスがピアスを外すところを見ただろうか。フィンと勉強会をした影響で風呂の時間が微妙にズレて、ドットが先に消灯した、ような気もする。分からない。思い出せない。
「ドット」
枕元に腰掛けたランスがドットの髪を撫でる。優しいその指先に、ふにゃふにゃと気持ちが解ける。
ここでドットは理解した。なるほどこれは、
(夢か……)
ランスが憎まれ口でなくドットの名前をストレートに呼ぶことは珍しい。夢の中では、何度となく聞いたけど。妙に身体が重くて動き難いけれど、夢の中で猛ダッシュしようとするとこれくらいの体感だから、そういうものかと一人で納得する。
「んぁ……なぁにぃ……?」
答えようとする自分の声も、随分と重たげだ。ランスの眉間に深めな皺が刻まれる。あ、その顔は現実のランスっぽい。
「……まったく、お前はいつもいつも」
小言が始まりそうな予感に、ドットは眉を顰めた。夢の中でくらい理想的な「ドットに甘いランス」で居てくれたって良いだろうに。自分の想像力を少し恨む。
身体の横に置かれた綺麗な指に、ドットは自分の指を絡めて握った。途端、ぴたりとランスの小言が止まる。
「あぇ……?」
ぱしぱしと、瞳を瞬かせる。雲の影にでも入っているのか、揺らめく月明かりではその顔は良く見えない。もったいないことだ。曇りひとつない美しい顔は、ランス・クラウンの美点だろうに。
絡ませた指を少し引くと、存外素直にランスの手はドットに従う。どうしようかとちょっぴりだけ考えて、ぽふ、と自分の頭にランスの手を置いた。頬に当たる手のひらが、ひんやりと冷たい。この場合、ドットの頬の方が温かいのだろうか。分からない。上手く頭が回らない。ランスの手の甲に自分の手のひらを乗せる。やはり手のひらにも冷たさを感じた。冷たいな。筋肉量ありそうなのにな。オレの方がムキムキってこと?その関節を、骨を確かめるようにゆっくりと指を這わせる。
「……お前は」
「んー……?」
「なぜ、夢のオレにばかり懐く」
「……んぇ……?」
ぱしぱしと、半分くらい降り掛けている瞼をなんとか押し上げる。こちらをジッと見詰めるランスの眉間には相変わらず深々と皺が刻まれていた。
夢のランスに懐くというか、そもそも現実のお前、甘えさせてくれるような隙とかないじゃないか。だいたい起きている時にドットが同じように手を取ったとて、秒で振り払われたはずだ。……まぁ、別にそれはいいけど。でも分かってて手を伸ばして自分の頬に手のひらを押し付けようとするなんて、平手打ちしてくれと言うようなものではないか?
「…………撫でれば、良いのか」
「はれ……ぇ……?」
ドットは口に出して言っただろうか。霞がかった思考は不鮮明で、よく分からない。しかしドットの熱が移ったのか、少し温かくなったランスの手が頬を上下する感覚は心地よい。ドットは上機嫌に瞳を閉じた。
あーあ。
ずっとランスが夢の中のように優しければ良いのに。
だってオレは、
そこまで思った瞬間、ぐいと肩を押されてドットの身体がベッドの上で泳ぐ。驚いてさすがに瞳を開けば、仰向けに寝転ぶドットに覆い被さるようにこちらを見つめているランスがいた。ぱちぱち、再びドットは瞬きを繰り返す。妙に、ランスの身体に質感がある。ぎゅうと押し付けられた背中も肩も。月明かりに照らされてキラキラと輝く髪が、嘘みたいに美しかった。
そっと、その指先がドットの唇を撫でる。
「…………か?」
「……んぇ?」
夢の中なのに夢のような光景に驚いて、ちっともランスの問いかけを聞いていなかった。曖昧な返事に、ランスはふっと笑う。その表情は夢の中で散々見てきたものと全く同じだったから、ドットは思わず身体に入っていた力を抜いた。なんだ、びっくりした。ランスの身体が思ったよりもがっしりと重たかったから、これはいよいよ現実かと思ってしまった。そんな訳ないだろうに、まったく。ぬうっと迫ってくるランスの顔を、ドットはぼんやりと見上げた。やっぱり顔が良いなぁ、これだけイケメンならさぞかしモテるんだろう、と誰に向けた嫉妬か定かではない感情を胸の中に浮かべながら。……だから、全てにおいて反応が遅れた。
「……んっ」
ちゅ、と存外可愛らしい音がして、ふたりの唇が重なる。ゆっくりと離れていくランスの顔を、ドットはぽかんと口を開いたまま見送る。
「……なんでちゅー、したの」
「良いと言っただろう」
言ったっけ?
言ったかも。夢だし?
そう内心首を傾げている間にも、ランスの唇が顔中に落ちて、ドットはきゃらきゃらと笑う。すごい、イケメンは仕草さえイケメンだ。
「……お前は、そのイケメン観をどうにかした方がいい」
「……んっ」
何を、と言う前に、ランスの唇がドットの唇を塞ぐ。かばかりか、にゅるりとドットの口腔に柔らかいものが滑り込む。ランスの舌だ、と意識する間もなく、ぬるぬると舐め回されて息が苦しくなる。しかし不思議と危機感はなかった。ぼーっとされるがままにしていると、なんだか頭の中までふわふわとしてきて、ドットはゆっくり瞳を閉じる。ゾワゾワと身震いしそうな、それでいて腹の底から熱が込み上げて来そうな、不思議な感覚に身を浸す。落ち着かない心地ではあるものの、悪くはない。しかしその気持ち良さも束の間、ぺちぺちと頬を叩く無粋な手に、再びドットの意識は引っ張り上げられる。
「んぇ……?」
「おい、寝るな」
「……ひぇてねぇ」
「嘘つくな。寝ていただろう」
「んー……」
「寝るな」
夢の中のランスの癖にうるさい。むずむずと身を捩るとランスが更に上からのし掛かり、喉仏にかぷりと齧り付く。ぷぇ、と我ながら頼りない声が漏れた。もちろん甘噛みだからちっとも痛くはない。けれどドットの声に驚いてか、悪いと思ったのか、ぺろりと噛んだ部分に舌を這わせた。
「……っあッ」
「…………」
「……ん、……なァにぃ……?……んっ、ん……っ?」
声が奇妙に裏返って、自分で自分に驚く。思わず口を手で押さえるが、なおも首筋を甘噛みしたり舐めたりしてくる。ランスは、何をしているのだろう。のし掛かられた肩を押し返そうとするも、体格も体重もほぼ変わらないから、どかそうにも上手くいかない。そうこうするうちに、段々と下腹部にむずむずと違和感を覚え始めた。思わずドットは膝を擦り合わせる。腰の居座りが悪くて、寝返りを打とうとするが、顎を鷲掴みにしたランスが上からじっと見つめてくる。
「らんす……?」
「ドット」
その眼光は強く、じりじりと炙られるような心地がした。或いは、ぎらぎら、と言い換えても良いかもしれない。月光の下で輝くその髪と同じくらい、沈黙するランスの瞳は美しかった。まるで、獲物を見下ろす肉食獣のような。ぞくりと背筋に甘い痺れが走る。のし掛かられているからか、身体を押さえ込まれているからか、それとも燻るような熱が今もなお下腹部にあるからか。ランスはむずむずとするそこに、思わず手を置いた。そこで、あれ、と意識が股間の方に移る。
「やばい」
「は?」
「勃った、かも……?」
「はぁッ?」
手を置いたそこを服越しにさする。当たり前だが、ちょっと気持ちいい。居心地の悪いむずむずとした感覚が少しだけ薄れるような気がした。
「ゔ〜……」
「おい、ドット、ちょっと待て、貴様」
「んぇえ……?」
手首を掴んだランスに押さえつけられて、局部を刺激出来なくなる。なんで止めるんだ、オレの夢の癖に!
「ちがう。……いや違わない。くっそ……」
「ん〜……っ」
「こら、ドット」
ランスの足を挟んで密着し腰を揺らすと、これまた骨盤を上から押さえつけたランスが短い言葉で咎める。むーむー唸っても離してくれない。
じいっとドットはランスを下から睨め付けた。まつ毛の一本一本が長く綺麗なカールを描いている。そこでふと、気がついた。
(……オレって、こんなに至近距離でランスを見たことあったっけ?)
いや、あってもなくても夢の中なら勝手に補完して目の前に現れるのだろうけれども。月明かりにまつ毛の先までキラキラと光るその顔は、ドットの想像にしては解像度が高い。
「あれ……?」
ドットの手と腰を押さえつける手も、妙に力強い。質感も、雲を掴むようなふわふわしたものではなく、しっかりとした輪郭がある。夢か?本当に?こんなに本物っぽいのに?
「……ぁっ、ちょお、ちょ、ちょ、ちょっと待った!」
「……は?」
「え……あ……?……ぇ、ランス、ちょっと何して……?」
ぱちぱちと必死で瞬きを繰り返す。このランス、ひょっとすると、ひょっとするのではないか。思わず飛び退きそうになるが、鋭く舌打ちしたランスが更に体重を掛けて動けなくなる。おかしい、おかしい、絶対におかしい!
「な……なんでこんな……んっ、ちょお、ランス……!」
「うるさい」
「…………んぅ……ッ」
じたばたと暴れ出したドットの顎を掴んだランスはそのまま唇を奪う。ちょっと待てきょうび少女漫画でもこんなコテコテの事はしない。そう思うのに、舌を絡められ口腔をぐちゃぐちゃに掻き回されると、酸欠で頭がふわふわとしてくる。息苦しいと、暴れる手がランスに縋り付く段になって、ようやく唇が離れた。息は、みっともないほどに上がっている。そんなドットの頬をさらりと撫でたランスは、ふっと雰囲気を緩めた。ぽやぽやと上手く回らない頭のまま、ドットはそれを見上げた。口の周りが湿っているような気がして、思わず舌で舐め取る。
「……かわいいな」
「…………え、」
「可愛い」
さらりと指先で前髪を避け、額を撫でてからまたそこに唇が落ちる。ドットはぶわりと自分の体温が上がるのがわかった。なんだこりゃ。本物のランスがこんなことする筈がない。まだ自分は夢の中にいるのか。いやでもこの感じはどう考えても、
「ドット、」
「……ふ……っえ、」
ちゅっと掠めるように唇に柔らかいものが押し当てられて、離れていく。思わず自分の唇に指を当てた。じんじんと痺れるような感覚が、まだここにある。
心臓がうるさいくらいに鳴っている。呼吸を通じて、ランスにも届いてしまいそうだ。くらりと眩暈がした。これが夢であっても、夢でなくとも、どちらでも大差ないかもしれない。だって月明かりに照らされてこちらを見降ろすランスの瞳があまりにも美しいから。耳が痛くなるほどの静寂の中、互いの息遣いだけがうるさい。
「ドット、」
「……ぁッ」
「勃っているんだろう?……なんとかしてやる」
するりと臍の下を撫でたランスは下着ごとズボンを下げる。寝巻きの柔らかい素材は簡単に引き下ろされた。目を白黒とさせている間に、ひたりと冷たい指先が熱く腫れているドットのそこに絡む。
「あぁ……っ……、……ッちょお、」
「可愛い」
「はぁ……ッ……!」
のしかかって来たランスがドットの首筋に顔を埋め、ちゅっと吸い付く。お陰で局部がどうなっているか、ドットに見る術はないが、ちゅこちゅこと水音を立てる音と下腹部から押し上げられる甘い痺れで何が起こっているかは想像に難くない。
「うぁあ……まっ、待って……っ」
「なんだ」
「……ッ」
耳元に吸い付いたランスが手を止める。かく、と腰が上がってドットは言い得もしれない恥ずかしさが湧き上がる。夢か?現実か?その想いを巡らせてみても、もう上手く頭が回らない。震える舌先には隠しきれない感情がそのまま乗っかる。
「はっ……恥ずかしいんだけど……」
「…………」
「オレだけこんな……勘弁しろよ……」
「可愛い」だなんて、あの授業中に見た夢以来言ってきたことないだろお前。……いやあの夢は夢じゃなったんだったか?今はどっちだって良いけども。「可愛い」って言えばなんでも許されると思うなよ!
一瞬虚を突かれたように瞳を丸くさせたランスはふっと笑う。そして何かごそごそしているかと思えば、ひたりと熱いモノが、内腿を辿ってずるずると上がってくる。ひぇ、と小さな悲鳴が漏れた。本当に、思わず。ランスは少し嬉しそうに頬を寄せる。やめろ、なんか、どうにかなってしまいそうだ。登ってくる熱がどくんと跳ねた気がして、ドットは身を捩る。もちろんそれは一歩も二歩も遅くて、双球を押し上げるように身体を辿ったその熱は最後の終着点、陰茎にひたりと押し当てられる。
「これなら、……ハァ……、恥ずかしくない、だろ」
「…………っ」
どういう理屈だと、いつもなら食ってかかった筈だ。ぬるぬると重ね合わされるソレが何なのか、見なくても分かる。自分の身体の上で気持ちよさそうに息を乱すイケメンの顔にも、本当なら何か文句を言うべきなのに。
「……ッぁああ♡」
だというのに、なんで自分の手は、コイツの肩に縋り付いているのだろう。
綺麗な顔が、欲情している。その顔に興奮してしまって、息が整わない。自分ばかり早くイくのはなんか嫌だ、と焦るが、長く我慢出来そうな気もしない。二人の間の先走りを塗り込めるように、擦るランスの手が速くなる。頭の奥がチカチカと瞬いて、ドットは思わず身を丸める。しかしそれを許さないとばかりに首筋にランスが噛みついた。痛くはない。けれど歯が皮膚に埋まる感覚に、押さえていた熱が弾ける。
「……〜〜〜ッ♡」
食いしばった奥歯がガチンと硬質な音を立てた。まるで全速力で駆け抜けたような、いやそれは案外間違いではないが、それくらいの荒い息を繰り返すドットの頬に、額に、ランスがキスを繰り返す。額のその位置は、ちょうど十字の痣が浮かび上がるところだ。執拗に唇で愛撫されるのに、奇妙な居心地の悪さがある。
「……スマン、ドット」
「ぷぇ……、……わぁ……!」
くるりとランスがドットの身体をひっくり返す。身長も体重もほとんど変わらない筈なのに、あっさり転がされてしまうのは鍛え方の問題か、これが夢だからか。真っ白な自分の枕に顔をうずめて、ドットは頭の中にはてなを大量に浮かべた。のっしりと背中に覆い被さってくるランスは奇妙な威圧感でもって、ドットをシーツに押し付ける。下腹部に滑り込んだ手のひらが、ぐっとドットの腰を上げさせて固定した。先ほど感じた冷たさは全くなく、それよりもぐちゃりと鳴った水音の正体に気が付いて顔に熱が上がる。十中八九、これは先ほどドットが溢した精液だろう。そう思えば、妙に生々しい。
むに、と尻を掴んだランスが、太ももを抱えるようにして足を閉じさせる。不安的なその体勢に思わず背後を振り返るが、見なければ良かったと後悔した。
「……っ、」
ランスの瞳は完全に据わっていた。ぞわりとするほどの威圧感に息を呑む。それよりも下腹部、完全に勃ったそこは、綺麗な顔に似合わず赤黒く月明かりに照らされていた。いや体格を思えば相応だけども。そして別に風呂やらなんやらで見たことがない訳ではないけれど。それにしたって臨戦体勢のランスのモノを見たことなどはない。思わず逃げを打つ身体はあっさりと引き戻された。ばかりか、むに、と尻と太ももの境目に湿り気を帯びた熱棒が押し当てられて、悲鳴が上がりそうになるのを寸でで堪える。
ドットとて平均的な思春期の男児だ。当然、ランスのことが好きかも?と思った段階であれやこれやのことは調べた。調べた上で、ちょっと無理かもな、とも思った。尻の穴とか、痔とか怖いし。
「ちょお、待っ、」
「待たない」
流血沙汰は勘弁、と思ったが、背後から競り上がった感覚は、想像したような激痛ではなかった。ぎゅっと閉じさせられた筋肉質な太ももの間にずるんと熱が突き立てられ、また抜けていく。
「……ッ……!」
その未知の感覚をどう言い表して良いのか。ドットはただただ息を呑んだ。ぬこ、ぬこ、と入っては抜けていく熱棒はぬるぬると身体を滑る。時より力の抜けたドットの双球を掠め、その度に身体が跳ねる。それよりも耳の近くで荒い息を溢すランスの息遣いがくすぐったくてならない。息そのものが当たっている訳ではない。けれど、なんていうか、ランスがドットで興奮していると思うと、腰の辺りにずくずくと良くない疼きが走る。身を捩ろうにも、がっちりと押さえ込むランスの手は手の跡でも残るのではないかと思うほどの強さで掴んでくる。痛くはない。痛くはないが、ぞくぞくとして、口から心臓が飛び出しそうだ。
「……っん!?」
すん、とランスがドットの頭に顔を押し付けて鼻を鳴らした。嗅がれた、かも、知れない。何度目か分からないほど、ドットの顔に熱が集まる。どうしよう、と混乱した頭で枕をぎゅうと握りしめる。だって、ドットも、
(勃っちまったんだけどー!?)
逆に、好きな奴にのしかかられてハァハァされながら内腿刺激されて、勃たない奴はついてねぇんじゃねぇの。ぐるぐると混乱する思考の中で、ドットは自分を正当化する。しかし尚も、ぬっちぬっちと一定のリズムで抽挿されるランスの熱は時よりドットの敏感な部分を掠める。……待ったコレ、勃ってるってバレたらどうなんの?分からない。分からないが、愉快なことにはならないだろうとは、ドットだって分かる。しかしジリっと身を動かせば腰を掴む手に力が入る。どうしたらいい。うろうろと視線をその辺りに這わせている間に、ぬるりとした感触が下腹部を撫でた。
「……ぁッ♡」
ドットが出した精液を纏ったランスの右手が、ドットの陰茎をゆるく握る。筒状になったその手の隙間目掛けて、ぬちゃ、ぬちゃ、とランスの陰茎がぶつかり、抜けていく。
「〜〜ッら、んす……っん♡」
「……はぁっ、……はぁっ」
「う〜〜ッ♡」
ランスの息遣いが頭の中に響く。額を枕に押し付けると、自分の息も荒くなっているのに気が付いた。身体の厚み分、陰茎同士がぶつかってもドットの先端部分には当たらない。それがどうにももどかしく感じて、ぎゅっと強く瞳を閉じた。すると腰を押さえていたはずの左手がぬうっと伸びてきて、その先端を丸く握る。思わず声にならない悲鳴が喉から迸る。
「〜〜〜っ♡♡」
「……はぁっ……ドット……」
「んっ♡ んぅ……ッ♡」
「……いい、か……?」
「……んぁあっ♡」
どうしよう、また先にイっちゃう、と頭のどこかは思うのに、また別のどこかは早く解放されたくて、ぎゅっと膝を内側に擦り合わせて自然と腰がゆらめかせる。自分がいま、息を吸っているのか、吐いているのかもう分からない。チカチカと瞳の奥が瞬いて、ドットは衝撃に逆らわずにぶるりと身体を震わせる。
「ふぁ、ぁああッ♡♡♡」
「……っく……、」
背後でも切羽詰まった声がして、2人分の欲望が弾ける。覆い被さるランスがドットを押し潰すように倒れ込んで来て、背中にどっしりとした体温を感じた。気持ちいい。どうしよう。やばい。
「……どっと」
「ん……っ」
ドットの髪を退かすように撫で付けて、再びランスは顔中に唇を落とす。ふわふわとした気持ちは、もうそれだけで心地良くてゆっくりと瞳を閉じた。ちゅうっと唇に吸い付く柔らかい感触がして、それがまた、ドキドキと胸を騒がせて、ドットはされるがまま、意識を手放した。
***
ジリリリリリといつもの破裂音にドットは息を呑んだ。反射で目覚まし時計をペンっと叩く。静かになったそれは静かにドットを見上げていた。
(……いっ、いまのは……ッ!)
思わずドットは衣類の乱れをチェックした。確かにシーツは多少乱れていたものの、つい一瞬前まで眠っていたのだから当然であろう。むしろ、あれだけ淫靡な夢を見たというのに妙にスッキリとしていて、ドットは愕然とする。一応確認したが、勃ってもいない。健全な思春期男児としてはあり得ない。
(……ど、どっちだ……!?)
8割がた、コッチではないかと思っている。けれどアッチという可能性はゼロではない。混乱した頭を両手で抱えた。もちろんその手には不快な滑りもじりじり炙られるような体温も、どこにも残ってはいない。……ってことはアレか。あの後全部ひとりで片付けたって訳か。いやいやいやいや、体感では物凄くスッキリしてしまっているけど、単にアレは夢で現実で起きた訳じゃないかも知れない。すると、片付けるべきアレコレも存在していない筈で……、
「おい、何を百面相している」
「……ッ!」
10cmくらい飛び上がったんじゃないかと思うくらい、ドットは大袈裟に身を跳ねさせた。まるで油を差していない機械のようにぎこちない動きで振り返る。そこには案の定というべきか、ランスが腕組みをしていた。いつものように、その耳にはピアスが光っている。太陽の光に照らされたそれは、やましいことなど何ひとつないとでも言いたげにドットを見下ろしていた。
「……〜〜〜ッ!」
思わず掛け布団を引っ張って、ドットはランスの視線から身体を隠した。自分でも、何を思っての行動か分からない。けれどジリジリと焼け付くような昨夜の瞳の余韻が、まだベッドの上に残っている気がした。それを、やや意外そうに目を丸くして見つめたランスが、ふっと笑う。
「……ぼんやりしていると遅刻するぞ」
いつか聞いたその言葉はどこか甘さを含んでいて、思わずドットは身を捩る。恐らく顔も赤いだろう。そんなドットの反応を満足げに見下ろしたランスは、口角を上げて踵を返した。
ヘッドボードに残った魔法道具は、未だ使用可能の緑色の光を宿したままであった。
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「愛しのあの子に夢で会える! 安眠⭐︎パーフェクトドリーム」
ランドト マッシュル R15 睡眠姦 R18毎回こう、「R指定はつくんだけど、これR18じゃなくてR15なんすよねぇ……(´-ω-`)」って時が1番悩ましいんすよねぇ……
という訳で、区分はR18だけど内容的にはR15です⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
恋のABC的にいうならBっすね。……この辺イマドキ分かる人おるんかな……(><)
タイトルは今回登場する魔法道具の商品名です。
やや睡眠姦。アッでもこれも厳密なひとには許されないタイプかも……
兜合わせと素股なので随分薄めです。その辺りご理解いただければと⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
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◆◇◆◇◆
「ドット、」
軽く首を傾げた動作に従って、ピアスがしゃらりと輪郭に触れる。そっと頬を撫でて来るその手は壊れ物を扱うように慎重だ。
ドットは息の仕方さえ忘れたように硬直した。ただもう、頬を上下する指先の滑らかな感触しか分からない。綺麗な瞳がゆっくりと細まる。胸どころか腹の底まで響き渡るほど心臓がばくばくと煩くなった。なんでだ?どうしてこんなことに?いや腕、アイツを突き飛ばせよ!
観念してギュッと瞳を瞑った瞬間に、ジリリリリと破裂音がしてドットの意識が遠く浮上する──
◆◇◆◇◆
「……はっ!」
びくんと痙攣するようにドットは飛び起きた。寝ぼけ頭のまま慌てて左右を見渡せば、いつも通り自分の目覚まし時計が震えている。
(ゆめ……)
ホッとしたような、残念なような。
八つ当たりのようにボタンをペンッと叩くと、けたたましい音を立てていた目覚まし時計は静かになる。コイツ、このヤロウ。……いや、それはどっちの意味かと言われると困るんだが。
ふと視線を上げると、ドットのベットの上方、ヘッドボードに朝日を受けて輝く飾りがちょこんと鎮座していた。その能天気な輝きに思わずため息が漏れる。
「……おい、チンピラ」
「ふぁあああ!……ッ朝っぱらから驚かすんじゃねぇよ!」
「うるさい」
これ見よがしに片耳を指で塞いだランスはいつも通りの仏頂面である。つい今さっきまで、ドットが見ていた夢の中のランスはもっと、……もっと?……辞めよう。気が付きたくなかったことに気が付きそうだ。
寝起きとは思えない動悸に朝から頭は大混乱だ。思わずジリッと後退りする。眉を顰めた相変わらずの美形は、止めたばかりの目覚まし時計をすっと指差した。
「ぼんやりしていると遅刻するぞ」
「は……?……あっ、やっべこんな時間!」
慌ててベッドから飛び起きるドットを尻目にしっかりと制服を着込んだランスは腕を組んで苛立たしげにこちらを睨む。シャツを引っ掴みながら、なんだよ、とドットは唇を曲げる。
(……夢と全然違うじゃん)
夢と同じでも困るんだが。
ギリギリと歯軋りしながら、いつものようにヘアバンドを手に取った。
***
先進技術が発達した現代において、睡眠の問題は非常に重大である。社畜と呼ばれる労働者達はより短い睡眠でより深い疲労回復効果を求めるし、不眠、入眠に不安を抱くひともいるだろう。
そんな、アナタに、『ヨクネムレール』シリーズ!
「もう手放せない……!」「これひとつで睡眠障害から回復しました!」のお声を頂戴しております。
※個人の感想であり、実感には個人差があります。
お買い求めはお近くの薬局まで!
初めてその広告を見た時、正直、「ウソくせ〜〜〜〜!」と思った。思ったがまぁ、ネタとしては面白い。そんなに高くないし。なにより一応「健康増進商品」として普通に薬局に売っているのだから。ドットが買ったのは、「好きなひとが出て来る夢を見られる」魔法道具だ。そんな物を手に入れた理由はひとつである。
「レモンちゃんが!出て来る!!夢が見たい!!!」
いそいそとヘッドボードに説明書通りに魔法道具を置くドットを見てランスが「この単細胞……」と悪態を吐いたのは、まぁ、いつもの事だった。
魔法道具の使い方は至って簡単。意中の人を思い浮かべながら嵌められた魔石の色が変わるまで魔力を込めて、スイッチを入れるだけ。チャージした魔力分だけ任意の夢が見られる、という寸法だ。……寸法だった。
ドットがその日見た夢にはランスが出てきた。
いつものように「やれやれ、」と肩をすくめて、ちょっと嫌味を言って、そして、ドットが知らない顔で微笑んだ。それはたぶん、妹の写真を納めたペンダントにしか向けられない笑顔だっただろう。ドットは、その横顔しか見たことがないはずだ。
びっくりした。
オレにもそんな顔を向けられるだなんて。
ランスはもとより顔がいいから、あの表情を正面から想像したことがないかと聞かれると、さすがに「ない」は嘘になる。綺麗なものは瞳を惹く。悔しいが、仕方ないことだ。とはいえ自分に向けられるなんて想像したことはないから、目を開けた後もしばらくは呆然としていた。けれど「なにをボサっとしているチンピラ」と、いつもの蔑むような声にハッと跳ね起きた。その日は遅刻しなかったが、ダッシュはした、とだけ言い添えておこう。
これはどう考えても魔法道具の不備であったに違いない。まさか自分が、ランスが出てくるように願いながら魔力を注ぐはずがないのだ。たぶん悪態を吐かれてムッとした気持ちが魔法道具に伝播しただけ。きっとそれだけだ。そう自らを納得させたドットであったが、次の日も、その次の日も、見る夢に出てくるのはランス・クラウンそのひとだった。おかしい。魔法道具の不具合ではないか?何度もその可能性を考えたが、わざわざお客様相談室に電話してみるのも、「じゃあどんなひとの出てくる夢を見たんですか?」と聞かれたらと思うとなかなか踏み切れず、今に至る。
どうやらドットが考えていたよりもこの魔法道具はコスパが良いらしく、最初の1回目に魔力を供給して以来、まだ1度も追加で魔力を入れていないのに「使用可能」の緑色のまま、一向に色が変わらない。魔力が切れてくれないと、やっぱり不良品だったから捨てました、なんて自分の中に区切りをつける事も出来ず、悶々とした日々が続いている。結局毎夜使用している辺り、魔力が切れて欲しいのか、欲しくないのか、正直なところ自分でもよく分からない。
だって、夢の中のランスはなんだかちょっと優しいのだ。……いや、別に現実世界のランスも、取り分け身内に対しての情が厚くて、結構友情を大切にするタイプ、というのは知っている。ただ、よりにもよってドットにあんな顔はしないだろう。……まるでそう、愛おしくて堪らない、というような。
(……あ〜〜〜ッ、待った待った今のなし!!)
自分の思考が著しくおかしな方向に向かっていることは、だいたい理解している。頭を抱えたままチラリと視線をランスにやると、ドットにしか分からないように口パクで「お得意の発作か?」とかムカつくことを言ってくる。授業中に頭を掻きむしった自分が悪いのを重々承知で吠え立てたくなる気持ちをドットは苦心して抑え込んだ。一応授業だから。落ち着けオレ。
目の前のランスはいつだってこう、変なちょっかいをかけて来る奴なのに、夢の中のランスは優しいから、だんだんよく分からなくなる。どっちが本当のランスなんだろう?とか。……そんなの決まっているのに。胸がドキドキとするのだってきっと、何かの勘違いとか誤作動だろう。
でなければおかしいのだ。ランスの動きをつい目で追ってしまって、ドキドキと胸がうるさい、だなんて。
◆◇◆◇◆
さらりと誰かが前髪を、そして額を撫でる。柔らかく触れる指先が心地良くて、ドットはむにむにと唇を動かした。
「……なんだ、どうした?」
不明瞭な声には優しさだけが詰まっている。首を動かしてその指先に擦り寄ると、鼻から抜けるような吐息が少しドットを笑った気がした。けれどそれはいつも聞くほど嫌味な感じではない。優しくくすぐるように輪郭を辿り、ドットの頬を撫でた。
「かわいいな」
思わず漏れたようなその声は、意外なほどドットの耳に大きく響いた。そんな声で「かわいい」なんて言うのか。というか、オレのこと「かわいい」なんて思ってたのか、お前。途端に気分が良くなって、むふー、とため息が漏れる。その間も、ランスの手は優しくドットを撫で続けた。……ランス?そうだ、この手はたぶんランスだ。節張って、しっかり太くて、でも貴族らしく滑らかで綺麗なランスの指だ。ランスなのに、優しい。
(……お前って、オレにそんな触れ方出来たんだ)
意外なような、そうでもないような。
とにかくドットは、麗らかな陽射しのようなその指の感触を瞳を閉じて味わっていた。
◆◇◆◇◆
「いつまで寝てる、この寝坊助」
耳がその声を捉えるより早く、ばちん!と音がして、遅れて額がびりびりと痛みを訴える。
「んなァ……!」
ドットは思わず額を抑えて飛び起きた。案の定、いつもの澄まし顔に気が付いて怒鳴ろうとするも、周囲の視線に思わず口を噤む。教室中の視線がこちらを向いていた。それは授業を担当する教員の視線も例外ではなかった。寝起きの頭でも分かる。さぁって血の気が引いた。言い訳しようもない状況に、ぱくぱくと口を開閉させるドットを、隣のランスは腕を組んで「マヌケが……」と言っている。元はと言えばお前が……!いや、アレは夢の中のランスだったか?それにしたってもっと穏当に起こしてくれればオレだって、
「ドット・バレット……あなたというひとは……」
「すみまっせーーーーーん!!」
叱られる前にと思って謝ってみる。しかしそれでお説教を免れる訳もなく。大目玉を喰らったのは言うまでもなかった。
***
居眠りの罰として教材を運ぶ雑用をして、ドットはぐったりと中庭のベンチに伸びた。教室と教科準備室を5往復もさせられた。絶対ひとりでやるような量じゃねぇ。
「あ、ドットくん。お疲れ様」
「おー……」
別件で教員に呼び出されていたフィンが胸に自分の教科書とノートを抱えたままちょこんと隣に座る。色々あって兄と和解した後、フィンはかなり勉学に力を入れている。きっと彼の中で何かの心境の変化があったのだろう。詮索はしないがなんとなく応援したくなる。
「災難だったねぇ」
「全くだぜ!ランスの奴がさァ」
「……まぁ、乱暴な起こし方だったよね」
「起こし方も何も、アイツはいつも乱暴なの」
「そうかなぁ……」
困ったようにフィンが首を傾げる。その苦笑は何か言いたげだった。「ん?」と首を傾げて促してみると、フィンは少し迷うよう素振りを見せつつ、おずおずと口を開く。
「ドットくんが起きる直前まで、ランスくんたらドットくんを撫でてたんだよ」
「……はぁ?」
「すっごく優しい顔してたのに、突然デコピンするからビックリしちゃった」
きゃらきゃらと笑うフィンの言葉に、ドットの方がびっくりしている。アイツが?優しい顔をして?オレを撫でるとかあり得るのか?
確かに夢の中のランスならするかもしれない。というか、直前までその夢を見ていたし。……あれ、待ってくれ。
(……もしかしてアレって、夢じゃなかったのか?)
確かにさっきまで微睡んでいた夢の中では、アイツの顔なんか見ていない。声と、指先でランスだろうと思っただけだ。アレが夢じゃなくて現実だったとしたら……。
「あれ、ドットくん、暑い?」
「え……」
「顔真っ赤だよ」
飲み物買ってこようか?と言うキョトンとしたその瞳に急に居心地が悪くなって、ドットは身を小さく縮めた。
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***
その後も依然としてドット・バレットの魔法道具が見せる夢には全てランス・クラウンが出てきた。最近は「これはホンモノっぽい」とか「さすがにこれはオウジサマすぎ」とか、夢を見ている最中でもツッコミを入れられるくらいドットも慣れてきた。これだけ夢を見ているのに、魔法道具の魔力が切れない。ホントだったら超コスパ最強魔法道具だっつーのになぁ!
そろそろ魔法道具の使用を止めるべきか。いや、実害がない以上別に良いような気もする。というか、白状しよう。ドットは段々ランスが出て来る夢が嬉しくなってきてしまったのだ。
なんせシュチュエーションは様々だ。
授業の一幕だったり、幼少期のドットの記憶の延長のような場面になぜかランスがいたり、それこそファンタジー調に吸血鬼姿だったり。しかし毎回必ずドットはランスに気が付く。どんな格好をしていても、顔なんか見えなくても、「たぶんコイツだな」と。
夢の中のランスは多少意地が悪かったりしても基本的には親切で、ドットには優しい。それはもう、朝になって、なんとも言えない不機嫌そうなランスを見ると少しがっかりしてしまうくらいには。夢は記憶の整理の他、自分の感情の調整の為に見るらしい。あんなランスを、自分は現実世界でも見たいと思っている、かも、しれない。そう思うと無性に気に食わないが、認める他ないだろう。
「……あ〜〜、くっそ……」
夢に見ているうちに、気が付いたら現実のランスのことも好きになってしまった、なんて。ありゃオレの無意識が見せている都合の良いランス・クラウン、というのは重々承知しているのに、夢で見たように「貴様は全く仕方がないな」とかなんとか言いながら結局世話を焼いてくれるランスとか、妹にしか見せない笑顔を向けて来るランスだとか、妙に気取った衣装でオレの前に跪くランスとかを、鮮明に想像している自分がいる。こんな風に特別扱いされたら、どれだけ嬉しいだろうか、なんて。
(……うーん、やっぱりアレは捨てるか)
このままだと、色々とまずい気がする。
……いや、ダチに本気で惚れてるっぽい時点で既にダメだが、同じ部屋で生活しておいて、実はこっそり夢で自分の思い通りに振る舞うランスの姿を見てメロメロしてるって、なんかもうすごいダメな気がする。ヒトとして。もちろんドットが白状しなければバレたりなんかしないが、寝言で何を言うかは保証できない。同室である以上、油断は禁物だ。最近は授業中に颯爽と魔法を使うランスの姿にもちょっとキュンキュン来ちゃったりしているから、バレたらもう、どう頑張っても言い訳できない。
「……はぁ」
ランスはよく知らない人間には男女問わずもっと辛辣だし、ドットを雑に扱うのだって、「身内」に対する甘えみたいなモノが見え隠れするから、それが嫌とか、そういう訳でもない。でも、なんていうか、もうちょっと、さぁ……。相変わらずヘッドボードに鎮座する魔法道具をひょいと摘み上げた。魔法石の色は使用可能の緑色。この色が消えているところを、ドットはまだ購入したその日以来見ていない。触った感じ、まだ潤沢に魔力が篭っているような気がする。
「ううーん……」
良くはない、良くはない、の、だが……。
……せっかく魔力が入っているままなのに、使わないのは、もったいない、ような気もする。
(今日だけ、今夜だけ使って、捨てるかぁ……)
まだ魔力残ってるし、もう1回くらいはセーフじゃなかろうか。ドットは誰にともなく言い訳をする。正直惜しい。夢に出て来るランスに会いたいと思ってしまっている自分がいる。けれど同じくらい、現実のランスに不義理な気もしている。アイツ、たまにめっちゃムカつくけど……でもやっぱり……。
とりあえず寝台を整えて、ぴょんとランスはベッドから飛び退いた。この後フィンと勉強会をしようと約束していたのだった。ノートと教科書を乱雑に掴み、隣室へと飛んで行った。
***
ぼんやりとした月明かりに、ドットは薄目を開けた。いま何時だろう、と目覚まし時計を見るほどの気力が湧かない。半分起きているような、寝ているような微睡みにゆらゆらと身を浸す。
「あぇ……」
月の光に鋭利な何かが光を返した。
一瞬眩んだ瞳に、ドットは瞳をきつく閉じる。しかしぼんやりと浮かんだシルエットは、見覚えがあった。
「らんす……?」
ぽやぽやと薄目を開くと、耳元のピアスを外すランスの姿がなんとなく分かった。先ほどの光は月光をピアスが反射したのだろう。
「……なんだ、起きたのか」
「んー……」
起きているといえば起きているし、いないといえばいない。むずかるようにドットは顔を左右に振った。上手く動かない思考の中で、ああそう言えば、こんな感じの夢もあったな、と思い出す。パジャマ姿のランスと一緒にハーブティを囲む夢だ。もちろん、ハーブティはドットが淹れたものである。夢だから実際にハーブティなど飲んではいないはずなのに、どこかふわふわホカホカと身体が温かくなったのを良く覚えている。その時もランスはいつものピアスを外していた。一応眠る前のルーティンだから。今日はそう言えば、ランスがピアスを外すところを見ただろうか。フィンと勉強会をした影響で風呂の時間が微妙にズレて、ドットが先に消灯した、ような気もする。分からない。思い出せない。
「ドット」
枕元に腰掛けたランスがドットの髪を撫でる。優しいその指先に、ふにゃふにゃと気持ちが解ける。
ここでドットは理解した。なるほどこれは、
(夢か……)
ランスが憎まれ口でなくドットの名前をストレートに呼ぶことは珍しい。夢の中では、何度となく聞いたけど。妙に身体が重くて動き難いけれど、夢の中で猛ダッシュしようとするとこれくらいの体感だから、そういうものかと一人で納得する。
「んぁ……なぁにぃ……?」
答えようとする自分の声も、随分と重たげだ。ランスの眉間に深めな皺が刻まれる。あ、その顔は現実のランスっぽい。
「……まったく、お前はいつもいつも」
小言が始まりそうな予感に、ドットは眉を顰めた。夢の中でくらい理想的な「ドットに甘いランス」で居てくれたって良いだろうに。自分の想像力を少し恨む。
身体の横に置かれた綺麗な指に、ドットは自分の指を絡めて握った。途端、ぴたりとランスの小言が止まる。
「あぇ……?」
ぱしぱしと、瞳を瞬かせる。雲の影にでも入っているのか、揺らめく月明かりではその顔は良く見えない。もったいないことだ。曇りひとつない美しい顔は、ランス・クラウンの美点だろうに。
絡ませた指を少し引くと、存外素直にランスの手はドットに従う。どうしようかとちょっぴりだけ考えて、ぽふ、と自分の頭にランスの手を置いた。頬に当たる手のひらが、ひんやりと冷たい。この場合、ドットの頬の方が温かいのだろうか。分からない。上手く頭が回らない。ランスの手の甲に自分の手のひらを乗せる。やはり手のひらにも冷たさを感じた。冷たいな。筋肉量ありそうなのにな。オレの方がムキムキってこと?その関節を、骨を確かめるようにゆっくりと指を這わせる。
「……お前は」
「んー……?」
「なぜ、夢のオレにばかり懐く」
「……んぇ……?」
ぱしぱしと、半分くらい降り掛けている瞼をなんとか押し上げる。こちらをジッと見詰めるランスの眉間には相変わらず深々と皺が刻まれていた。
夢のランスに懐くというか、そもそも現実のお前、甘えさせてくれるような隙とかないじゃないか。だいたい起きている時にドットが同じように手を取ったとて、秒で振り払われたはずだ。……まぁ、別にそれはいいけど。でも分かってて手を伸ばして自分の頬に手のひらを押し付けようとするなんて、平手打ちしてくれと言うようなものではないか?
「…………撫でれば、良いのか」
「はれ……ぇ……?」
ドットは口に出して言っただろうか。霞がかった思考は不鮮明で、よく分からない。しかしドットの熱が移ったのか、少し温かくなったランスの手が頬を上下する感覚は心地よい。ドットは上機嫌に瞳を閉じた。
あーあ。
ずっとランスが夢の中のように優しければ良いのに。
だってオレは、
そこまで思った瞬間、ぐいと肩を押されてドットの身体がベッドの上で泳ぐ。驚いてさすがに瞳を開けば、仰向けに寝転ぶドットに覆い被さるようにこちらを見つめているランスがいた。ぱちぱち、再びドットは瞬きを繰り返す。妙に、ランスの身体に質感がある。ぎゅうと押し付けられた背中も肩も。月明かりに照らされてキラキラと輝く髪が、嘘みたいに美しかった。
そっと、その指先がドットの唇を撫でる。
「…………か?」
「……んぇ?」
夢の中なのに夢のような光景に驚いて、ちっともランスの問いかけを聞いていなかった。曖昧な返事に、ランスはふっと笑う。その表情は夢の中で散々見てきたものと全く同じだったから、ドットは思わず身体に入っていた力を抜いた。なんだ、びっくりした。ランスの身体が思ったよりもがっしりと重たかったから、これはいよいよ現実かと思ってしまった。そんな訳ないだろうに、まったく。ぬうっと迫ってくるランスの顔を、ドットはぼんやりと見上げた。やっぱり顔が良いなぁ、これだけイケメンならさぞかしモテるんだろう、と誰に向けた嫉妬か定かではない感情を胸の中に浮かべながら。……だから、全てにおいて反応が遅れた。
「……んっ」
ちゅ、と存外可愛らしい音がして、ふたりの唇が重なる。ゆっくりと離れていくランスの顔を、ドットはぽかんと口を開いたまま見送る。
「……なんでちゅー、したの」
「良いと言っただろう」
言ったっけ?
言ったかも。夢だし?
そう内心首を傾げている間にも、ランスの唇が顔中に落ちて、ドットはきゃらきゃらと笑う。すごい、イケメンは仕草さえイケメンだ。
「……お前は、そのイケメン観をどうにかした方がいい」
「……んっ」
何を、と言う前に、ランスの唇がドットの唇を塞ぐ。かばかりか、にゅるりとドットの口腔に柔らかいものが滑り込む。ランスの舌だ、と意識する間もなく、ぬるぬると舐め回されて息が苦しくなる。しかし不思議と危機感はなかった。ぼーっとされるがままにしていると、なんだか頭の中までふわふわとしてきて、ドットはゆっくり瞳を閉じる。ゾワゾワと身震いしそうな、それでいて腹の底から熱が込み上げて来そうな、不思議な感覚に身を浸す。落ち着かない心地ではあるものの、悪くはない。しかしその気持ち良さも束の間、ぺちぺちと頬を叩く無粋な手に、再びドットの意識は引っ張り上げられる。
「んぇ……?」
「おい、寝るな」
「……ひぇてねぇ」
「嘘つくな。寝ていただろう」
「んー……」
「寝るな」
夢の中のランスの癖にうるさい。むずむずと身を捩るとランスが更に上からのし掛かり、喉仏にかぷりと齧り付く。ぷぇ、と我ながら頼りない声が漏れた。もちろん甘噛みだからちっとも痛くはない。けれどドットの声に驚いてか、悪いと思ったのか、ぺろりと噛んだ部分に舌を這わせた。
「……っあッ」
「…………」
「……ん、……なァにぃ……?……んっ、ん……っ?」
声が奇妙に裏返って、自分で自分に驚く。思わず口を手で押さえるが、なおも首筋を甘噛みしたり舐めたりしてくる。ランスは、何をしているのだろう。のし掛かられた肩を押し返そうとするも、体格も体重もほぼ変わらないから、どかそうにも上手くいかない。そうこうするうちに、段々と下腹部にむずむずと違和感を覚え始めた。思わずドットは膝を擦り合わせる。腰の居座りが悪くて、寝返りを打とうとするが、顎を鷲掴みにしたランスが上からじっと見つめてくる。
「らんす……?」
「ドット」
その眼光は強く、じりじりと炙られるような心地がした。或いは、ぎらぎら、と言い換えても良いかもしれない。月光の下で輝くその髪と同じくらい、沈黙するランスの瞳は美しかった。まるで、獲物を見下ろす肉食獣のような。ぞくりと背筋に甘い痺れが走る。のし掛かられているからか、身体を押さえ込まれているからか、それとも燻るような熱が今もなお下腹部にあるからか。ランスはむずむずとするそこに、思わず手を置いた。そこで、あれ、と意識が股間の方に移る。
「やばい」
「は?」
「勃った、かも……?」
「はぁッ?」
手を置いたそこを服越しにさする。当たり前だが、ちょっと気持ちいい。居心地の悪いむずむずとした感覚が少しだけ薄れるような気がした。
「ゔ〜……」
「おい、ドット、ちょっと待て、貴様」
「んぇえ……?」
手首を掴んだランスに押さえつけられて、局部を刺激出来なくなる。なんで止めるんだ、オレの夢の癖に!
「ちがう。……いや違わない。くっそ……」
「ん〜……っ」
「こら、ドット」
ランスの足を挟んで密着し腰を揺らすと、これまた骨盤を上から押さえつけたランスが短い言葉で咎める。むーむー唸っても離してくれない。
じいっとドットはランスを下から睨め付けた。まつ毛の一本一本が長く綺麗なカールを描いている。そこでふと、気がついた。
(……オレって、こんなに至近距離でランスを見たことあったっけ?)
いや、あってもなくても夢の中なら勝手に補完して目の前に現れるのだろうけれども。月明かりにまつ毛の先までキラキラと光るその顔は、ドットの想像にしては解像度が高い。
「あれ……?」
ドットの手と腰を押さえつける手も、妙に力強い。質感も、雲を掴むようなふわふわしたものではなく、しっかりとした輪郭がある。夢か?本当に?こんなに本物っぽいのに?
「……ぁっ、ちょお、ちょ、ちょ、ちょっと待った!」
「……は?」
「え……あ……?……ぇ、ランス、ちょっと何して……?」
ぱちぱちと必死で瞬きを繰り返す。このランス、ひょっとすると、ひょっとするのではないか。思わず飛び退きそうになるが、鋭く舌打ちしたランスが更に体重を掛けて動けなくなる。おかしい、おかしい、絶対におかしい!
「な……なんでこんな……んっ、ちょお、ランス……!」
「うるさい」
「…………んぅ……ッ」
じたばたと暴れ出したドットの顎を掴んだランスはそのまま唇を奪う。ちょっと待てきょうび少女漫画でもこんなコテコテの事はしない。そう思うのに、舌を絡められ口腔をぐちゃぐちゃに掻き回されると、酸欠で頭がふわふわとしてくる。息苦しいと、暴れる手がランスに縋り付く段になって、ようやく唇が離れた。息は、みっともないほどに上がっている。そんなドットの頬をさらりと撫でたランスは、ふっと雰囲気を緩めた。ぽやぽやと上手く回らない頭のまま、ドットはそれを見上げた。口の周りが湿っているような気がして、思わず舌で舐め取る。
「……かわいいな」
「…………え、」
「可愛い」
さらりと指先で前髪を避け、額を撫でてからまたそこに唇が落ちる。ドットはぶわりと自分の体温が上がるのがわかった。なんだこりゃ。本物のランスがこんなことする筈がない。まだ自分は夢の中にいるのか。いやでもこの感じはどう考えても、
「ドット、」
「……ふ……っえ、」
ちゅっと掠めるように唇に柔らかいものが押し当てられて、離れていく。思わず自分の唇に指を当てた。じんじんと痺れるような感覚が、まだここにある。
心臓がうるさいくらいに鳴っている。呼吸を通じて、ランスにも届いてしまいそうだ。くらりと眩暈がした。これが夢であっても、夢でなくとも、どちらでも大差ないかもしれない。だって月明かりに照らされてこちらを見降ろすランスの瞳があまりにも美しいから。耳が痛くなるほどの静寂の中、互いの息遣いだけがうるさい。
「ドット、」
「……ぁッ」
「勃っているんだろう?……なんとかしてやる」
するりと臍の下を撫でたランスは下着ごとズボンを下げる。寝巻きの柔らかい素材は簡単に引き下ろされた。目を白黒とさせている間に、ひたりと冷たい指先が熱く腫れているドットのそこに絡む。
「あぁ……っ……、……ッちょお、」
「可愛い」
「はぁ……ッ……!」
のしかかって来たランスがドットの首筋に顔を埋め、ちゅっと吸い付く。お陰で局部がどうなっているか、ドットに見る術はないが、ちゅこちゅこと水音を立てる音と下腹部から押し上げられる甘い痺れで何が起こっているかは想像に難くない。
「うぁあ……まっ、待って……っ」
「なんだ」
「……ッ」
耳元に吸い付いたランスが手を止める。かく、と腰が上がってドットは言い得もしれない恥ずかしさが湧き上がる。夢か?現実か?その想いを巡らせてみても、もう上手く頭が回らない。震える舌先には隠しきれない感情がそのまま乗っかる。
「はっ……恥ずかしいんだけど……」
「…………」
「オレだけこんな……勘弁しろよ……」
「可愛い」だなんて、あの授業中に見た夢以来言ってきたことないだろお前。……いやあの夢は夢じゃなったんだったか?今はどっちだって良いけども。「可愛い」って言えばなんでも許されると思うなよ!
一瞬虚を突かれたように瞳を丸くさせたランスはふっと笑う。そして何かごそごそしているかと思えば、ひたりと熱いモノが、内腿を辿ってずるずると上がってくる。ひぇ、と小さな悲鳴が漏れた。本当に、思わず。ランスは少し嬉しそうに頬を寄せる。やめろ、なんか、どうにかなってしまいそうだ。登ってくる熱がどくんと跳ねた気がして、ドットは身を捩る。もちろんそれは一歩も二歩も遅くて、双球を押し上げるように身体を辿ったその熱は最後の終着点、陰茎にひたりと押し当てられる。
「これなら、……ハァ……、恥ずかしくない、だろ」
「…………っ」
どういう理屈だと、いつもなら食ってかかった筈だ。ぬるぬると重ね合わされるソレが何なのか、見なくても分かる。自分の身体の上で気持ちよさそうに息を乱すイケメンの顔にも、本当なら何か文句を言うべきなのに。
「……ッぁああ♡」
だというのに、なんで自分の手は、コイツの肩に縋り付いているのだろう。
綺麗な顔が、欲情している。その顔に興奮してしまって、息が整わない。自分ばかり早くイくのはなんか嫌だ、と焦るが、長く我慢出来そうな気もしない。二人の間の先走りを塗り込めるように、擦るランスの手が速くなる。頭の奥がチカチカと瞬いて、ドットは思わず身を丸める。しかしそれを許さないとばかりに首筋にランスが噛みついた。痛くはない。けれど歯が皮膚に埋まる感覚に、押さえていた熱が弾ける。
「……〜〜〜ッ♡」
食いしばった奥歯がガチンと硬質な音を立てた。まるで全速力で駆け抜けたような、いやそれは案外間違いではないが、それくらいの荒い息を繰り返すドットの頬に、額に、ランスがキスを繰り返す。額のその位置は、ちょうど十字の痣が浮かび上がるところだ。執拗に唇で愛撫されるのに、奇妙な居心地の悪さがある。
「……スマン、ドット」
「ぷぇ……、……わぁ……!」
くるりとランスがドットの身体をひっくり返す。身長も体重もほとんど変わらない筈なのに、あっさり転がされてしまうのは鍛え方の問題か、これが夢だからか。真っ白な自分の枕に顔をうずめて、ドットは頭の中にはてなを大量に浮かべた。のっしりと背中に覆い被さってくるランスは奇妙な威圧感でもって、ドットをシーツに押し付ける。下腹部に滑り込んだ手のひらが、ぐっとドットの腰を上げさせて固定した。先ほど感じた冷たさは全くなく、それよりもぐちゃりと鳴った水音の正体に気が付いて顔に熱が上がる。十中八九、これは先ほどドットが溢した精液だろう。そう思えば、妙に生々しい。
むに、と尻を掴んだランスが、太ももを抱えるようにして足を閉じさせる。不安的なその体勢に思わず背後を振り返るが、見なければ良かったと後悔した。
「……っ、」
ランスの瞳は完全に据わっていた。ぞわりとするほどの威圧感に息を呑む。それよりも下腹部、完全に勃ったそこは、綺麗な顔に似合わず赤黒く月明かりに照らされていた。いや体格を思えば相応だけども。そして別に風呂やらなんやらで見たことがない訳ではないけれど。それにしたって臨戦体勢のランスのモノを見たことなどはない。思わず逃げを打つ身体はあっさりと引き戻された。ばかりか、むに、と尻と太ももの境目に湿り気を帯びた熱棒が押し当てられて、悲鳴が上がりそうになるのを寸でで堪える。
ドットとて平均的な思春期の男児だ。当然、ランスのことが好きかも?と思った段階であれやこれやのことは調べた。調べた上で、ちょっと無理かもな、とも思った。尻の穴とか、痔とか怖いし。
「ちょお、待っ、」
「待たない」
流血沙汰は勘弁、と思ったが、背後から競り上がった感覚は、想像したような激痛ではなかった。ぎゅっと閉じさせられた筋肉質な太ももの間にずるんと熱が突き立てられ、また抜けていく。
「……ッ……!」
その未知の感覚をどう言い表して良いのか。ドットはただただ息を呑んだ。ぬこ、ぬこ、と入っては抜けていく熱棒はぬるぬると身体を滑る。時より力の抜けたドットの双球を掠め、その度に身体が跳ねる。それよりも耳の近くで荒い息を溢すランスの息遣いがくすぐったくてならない。息そのものが当たっている訳ではない。けれど、なんていうか、ランスがドットで興奮していると思うと、腰の辺りにずくずくと良くない疼きが走る。身を捩ろうにも、がっちりと押さえ込むランスの手は手の跡でも残るのではないかと思うほどの強さで掴んでくる。痛くはない。痛くはないが、ぞくぞくとして、口から心臓が飛び出しそうだ。
「……っん!?」
すん、とランスがドットの頭に顔を押し付けて鼻を鳴らした。嗅がれた、かも、知れない。何度目か分からないほど、ドットの顔に熱が集まる。どうしよう、と混乱した頭で枕をぎゅうと握りしめる。だって、ドットも、
(勃っちまったんだけどー!?)
逆に、好きな奴にのしかかられてハァハァされながら内腿刺激されて、勃たない奴はついてねぇんじゃねぇの。ぐるぐると混乱する思考の中で、ドットは自分を正当化する。しかし尚も、ぬっちぬっちと一定のリズムで抽挿されるランスの熱は時よりドットの敏感な部分を掠める。……待ったコレ、勃ってるってバレたらどうなんの?分からない。分からないが、愉快なことにはならないだろうとは、ドットだって分かる。しかしジリっと身を動かせば腰を掴む手に力が入る。どうしたらいい。うろうろと視線をその辺りに這わせている間に、ぬるりとした感触が下腹部を撫でた。
「……ぁッ♡」
ドットが出した精液を纏ったランスの右手が、ドットの陰茎をゆるく握る。筒状になったその手の隙間目掛けて、ぬちゃ、ぬちゃ、とランスの陰茎がぶつかり、抜けていく。
「〜〜ッら、んす……っん♡」
「……はぁっ、……はぁっ」
「う〜〜ッ♡」
ランスの息遣いが頭の中に響く。額を枕に押し付けると、自分の息も荒くなっているのに気が付いた。身体の厚み分、陰茎同士がぶつかってもドットの先端部分には当たらない。それがどうにももどかしく感じて、ぎゅっと強く瞳を閉じた。すると腰を押さえていたはずの左手がぬうっと伸びてきて、その先端を丸く握る。思わず声にならない悲鳴が喉から迸る。
「〜〜〜っ♡♡」
「……はぁっ……ドット……」
「んっ♡ んぅ……ッ♡」
「……いい、か……?」
「……んぁあっ♡」
どうしよう、また先にイっちゃう、と頭のどこかは思うのに、また別のどこかは早く解放されたくて、ぎゅっと膝を内側に擦り合わせて自然と腰がゆらめかせる。自分がいま、息を吸っているのか、吐いているのかもう分からない。チカチカと瞳の奥が瞬いて、ドットは衝撃に逆らわずにぶるりと身体を震わせる。
「ふぁ、ぁああッ♡♡♡」
「……っく……、」
背後でも切羽詰まった声がして、2人分の欲望が弾ける。覆い被さるランスがドットを押し潰すように倒れ込んで来て、背中にどっしりとした体温を感じた。気持ちいい。どうしよう。やばい。
「……どっと」
「ん……っ」
ドットの髪を退かすように撫で付けて、再びランスは顔中に唇を落とす。ふわふわとした気持ちは、もうそれだけで心地良くてゆっくりと瞳を閉じた。ちゅうっと唇に吸い付く柔らかい感触がして、それがまた、ドキドキと胸を騒がせて、ドットはされるがまま、意識を手放した。
***
ジリリリリリといつもの破裂音にドットは息を呑んだ。反射で目覚まし時計をペンっと叩く。静かになったそれは静かにドットを見上げていた。
(……いっ、いまのは……ッ!)
思わずドットは衣類の乱れをチェックした。確かにシーツは多少乱れていたものの、つい一瞬前まで眠っていたのだから当然であろう。むしろ、あれだけ淫靡な夢を見たというのに妙にスッキリとしていて、ドットは愕然とする。一応確認したが、勃ってもいない。健全な思春期男児としてはあり得ない。
(……ど、どっちだ……!?)
8割がた、コッチではないかと思っている。けれどアッチという可能性はゼロではない。混乱した頭を両手で抱えた。もちろんその手には不快な滑りもじりじり炙られるような体温も、どこにも残ってはいない。……ってことはアレか。あの後全部ひとりで片付けたって訳か。いやいやいやいや、体感では物凄くスッキリしてしまっているけど、単にアレは夢で現実で起きた訳じゃないかも知れない。すると、片付けるべきアレコレも存在していない筈で……、
「おい、何を百面相している」
「……ッ!」
10cmくらい飛び上がったんじゃないかと思うくらい、ドットは大袈裟に身を跳ねさせた。まるで油を差していない機械のようにぎこちない動きで振り返る。そこには案の定というべきか、ランスが腕組みをしていた。いつものように、その耳にはピアスが光っている。太陽の光に照らされたそれは、やましいことなど何ひとつないとでも言いたげにドットを見下ろしていた。
「……〜〜〜ッ!」
思わず掛け布団を引っ張って、ドットはランスの視線から身体を隠した。自分でも、何を思っての行動か分からない。けれどジリジリと焼け付くような昨夜の瞳の余韻が、まだベッドの上に残っている気がした。それを、やや意外そうに目を丸くして見つめたランスが、ふっと笑う。
「……ぼんやりしていると遅刻するぞ」
いつか聞いたその言葉はどこか甘さを含んでいて、思わずドットは身を捩る。恐らく顔も赤いだろう。そんなドットの反応を満足げに見下ろしたランスは、口角を上げて踵を返した。
ヘッドボードに残った魔法道具は、未だ使用可能の緑色の光を宿したままであった。
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