北都

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投稿日:2026年07月26日 16:00    文字数:18,732

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ランスくんネタばらし編。
いやはや、久しぶりのちゃんとしたR18はカロリーが高い(><)

今回こそは恋愛のABC的に「C」までやってます!胸を張ってのR18ですのでご安心下さい。
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最近ルームメイトが怪しげな魔法道具を買ってきた。嬉々として枕元に設置をしたくせに、その朝、望み通りの夢が見られなかったのか、呆然としていた。その顔を見た時、ふと思い付いたのだ。

はっきり言って、最初は出来心だった。

どうせアイツが夢に出てきて欲しいと思う人間は分かっている。あの魔法道具を持ってきた時から「レモンちゃんの!夢が!!見たい!!!」とかけたたましく言っていた。……ここでアイツが、「好きな相手の夢が見られる」との触れ込みの道具を使ってランスの夢を見たらどうなるのだろうか。単純だから本当はランスのことが好きだったと勘違いする?普通に魔法道具が粗悪品だと激怒する?正直なところ、どちらでも良かった。耳障りな「レモンちゃん!レモンちゃん!!」と呼ぶ声がなくなるのならば。
魔法道具を改造するのはさして難しくなかった。なんせ、一般流通している大したことのない魔法道具だ。それなりにしっかりした作りではあったが、分解してみればなんのことはない、「ちょっとすっきりした気分で目覚める」程度の魔法しか刻まれていなかった。どこが「好きな相手の夢を見られる」魔法道具だ。さすがに誇大広告ではないか?
それはともかく、ドットは意外と放課後は忙しくしていて、部屋を空けている時間が多い。その間に魔法道具を分解し、中の術式を書き直してランスの夢を見るように設定し、魔力が切れないように定期的にメンテナンスを行うなど造作もないことだった。呑気なドットは魔力切れを起こさないことにもちっとも疑問を抱かず、毎夜魔法道具を使用している。バカなのか?いや、魔法道具が正常に機能していないのか?このランス・クラウンが刻み直した魔法が?……不安を抱いて一度ドットの夢の中に入ってみた。いつも以上にぽやぽやとしていたドットは、キスが出来そうなほどに身体を近付けても、照れ臭そうに身を縮めるだけだった。おい大丈夫なのか。夢の中とはいえ触れてしまうぞ、と思うくらいのタイミングでドットの意識が浮上して、ランスは強制的に夢から弾き飛ばされた。その後の夢がどうなったのか分からない。ただその朝、今までになくドットが動揺していたのだけは確かであった。本物の自分はすでに夢から弾き出された後だから、補完したとしたら夢の中で再構築された偽物のランスであろう。些か、腹が立った。現実世界でも夢の中でも本物のランスに許さないような距離を、ランスの似姿には許していると思うと、さすがに。しかし天啓のように閃いたのは腹立たしい事実ばかりではなかった。

これはひょっとすると、ひょっとするのでは?

ランスに無用な希望を抱かせるのには余りにもドットの反応は好都合すぎた。だって、ランスは夢の内容を「ランスが出て来る」と設定しただけでそれ以上はいじくっていないのだ。いつものように喧嘩していたり、夢の中と注釈されても頭に来るとはいえ、ドットにぶちのめされている自分を想像しない訳ではなかった。あくまでも夢の中の主導権を握るのはドットである。彼の望みが、或いは無意識下の考えが夢に反映される。いつもの調子を思えば、事あるごとに「スカシ野郎」と蔑むランスを打ち負かして「すっきりとした目醒め」を実現しているドットの方が、筋が通る。しかし実際へにゃへにゃと笑って至近距離を許したのはドットの方だ。ランスは、そりゃ他人の魔法道具を分解して中身を書き換えたことを除いては、なにひとつ悪くはないと断言しよう。あんな風に甘えられたら、こっちだって気がおかしくなる。

かわいい。
可愛い。

ずっと彼のことを可愛らしいと思っている。おおよそ同じ学年の、そして体格も同じくらいの同性に向けて使う形容詞でないことは分かっている。けれど彼はとにかく可愛い。誰がなんと言おうと。そしてランスは、ドットの可愛らしさを他に喧伝するつもりもない。
ある意味での転機は、授業中にドットが居眠りをした日だったと思う。魔法道具は寮のベッドの近くにあるから、ランスが干渉した訳ではない。ただ魔法道具に細工してから眠りが浅いのか、日中も眠そうにしていることが増えたドットが机に突っ伏している姿は無防備で、思わず手が伸びた。額を、髪をそっと撫でていたら、寝惚けているのか、あろうことかドットはこちらの手に頬擦りしてきた。授業中であるにも関わらず叫びそうになったランスの気持ちが分かるだろうか。教師がこちらへ振り向こうとしたから、咄嗟にデコピンをしてしまった。跳ね起きたドットはまなじりを吊り上げて烈火の如く怒りを示したが、ランスはそれどころではない。心臓がはち切れそうな程ドキドキして、ドットを撫でていた手をどうしてしまおうかと思った。ドットとは反対隣りに座るフィンが苦笑していたから、彼はドットを撫でるランスに気が付いていたのかもしれない。
大丈夫なのか。アイツはアレで。とはいえランスにはそれを咎める理由も名分もなく悶々とするばかりであった。もう少しだけでもドットが魔法道具に詳しく用心深ければよかった。或いは、魔法道具の不具合を第三者に訴えるような素朴さを持っていれば。自分の行為がエスカレートしていると自覚していても、ランスには踏むブレーキはついていないのだから。
寝惚けたドットにのしかかった時、その身体に触れた時、ベッドの上で好き勝手にいじくり回した時、いずれもどこかに引き返せるタイミングはあった筈だ。でも結局しなかった。ランスはそれほど理性的な人間ではない。
とはいえ、真実寝ぼけていた人間にどうこうするほど性根は腐っていないので、明くる朝いつものように目覚まし時計を止めてからもベッドの上でぼうっとするドットに話しかけた。後ろめたさや気恥ずかしさはあれども、いつも通りに。いつも通りではなかったのはドットの方だ。思わずといった様子で首元まで掛け布団を引き上げて身体を隠すその仕草は、明らかにランスの目を気にしていた。オロオロと視線を彷徨わせる瞳は恥じらいが浮かぶ反面、嫌悪感や憤怒等の負の感情はちっとも見当たらない。暗がりによく見えなくなっていた夜とは違う。燦々と朝日が降り注ぐ中のその表情は、きっとあの夜と同じだっただろう。そう、なんの根拠もなく信じたランスは間違ってはいない。ドット・バレットはミスを犯した。彼は何がなんでも憶えていないふりをするべきだった。……いや、根が真っ直ぐなドットには難しがろう。であれば、侮蔑の視線を向けてランスを嘲罵するべきであった。あのような表情では、軽率で恥知らずな行為に及んだこちらを調子付かせるだけである。

「ドット」

例えば、まさしく今のように。
まだ寝起きでぼんやりとしているドットの顎を取る。流石に連日となれば気が付いて「あ、」と怯えに似た逡巡を見せるドットの額に、掠めるようにキスをした。彼の種族の特異体質として、気持ちが昂ればそこに十字の痣が浮かぶことは知っている。しかし毎朝性懲りも無く額を抑えて真っ赤になるドットの手のひらに隠された額をランスが確認したことは一度としてない。もちろん、興奮は興奮でも意味が違うから、そこには十字架は現れないかもしれないけれど。

「起きろ。遅れるぞ」
「んぁ、……ちょ、ちょっと待てよ」

もぞもぞと着替えるその姿に背を向ける。授業や水泳、風呂の時間に彼の肉体を見たことくらいあるのではないかと聞かれれば答えはイエス。だが、見て平静を保てるかと聞かれればノー。流石にランスも健全な思春期の男児である。朝っぱらから色々と元気になっては困る。
いつしかドットの枕元からは魔法道具は消えていた。ようやくか馬鹿者、と言いたい気持ちと、些か残念に思う気持ちは、半々くらいか。「夢の中のランス」という名の偽物にドットが踊らされなくなったのには願ったり叶ったりだが、魔法道具をどこかへやってしまったのは単にあの夜のランスに思うところがあるのではないか、と思うとじわじわと不安のようなものが湧き上がる。ランスも、正直に言おう、あそこまでする気ではなかった。しかし素股で済んだのは理性の賜物と言って良い。吹けば飛んでしまいそうな理性ではあるが。

「ドット」
「…………っ」

乱れたネクタイを解いて結び直してやる。ドットは少しだけ気まずそうに、しかし静かにランスの好きなようにさせていた。満足のいくノットに形を整えて、ポンとドットの肩を叩く。いつものオレは、「甘えにくい」のだったか。チラリと表情を伺えば、ドットは慌てて視線を逸らした。しかし耳まで真っ赤である。

あの日以来、ランス・クラウンはずっと、正攻法でドット・バレットを口説こうとしている。



***



ランスはこれまで、「最も気の置けない友人」という立場を確立してきたつもりでいた。ドットはあの通り、結構繊細な趣味を持つとはいえ、普段の言動はがさつの一言だ。だから彼に合わせてやや雑に扱う方が、より親密な感覚なのだろうと思い込んでいた。そう。思い込み。ぽやぽやと寝ぼけたドットの言葉がどこまで正しいかは本人のみぞ知るところだが、少なくともランスの頭の中で構築されたドット・バレットイメージよりはずっと本物に近いだろう。

「ドット」
「……ぅぇっ、え、な、なに……?」
「放課後の予定は?」

名前を呼ばれてあからさまに飛び上がるドットは、えぇと、と少し逡巡して、小さな声で「フィンと勉強」と口にした。視界の端でフィンが瞳を丸くさせていたから、真実約束していたかどうかは怪しいものだ。けれど追求はせず、鷹揚に頷く。

「分かった。……フィン、オレも参加していいか」
「えっ、えっと……」

話を振られたフィンの視線が分かりやすく泳ぐ。けれどやはり小さく頷いた。フィンの性格を思えば、面と向かって頼まれて断れるはずがない。想定通りである。ぱっとドットへ視線を戻すと、またピャッと飛び上がった。小動物のようだ。まったく。

「……だ、そうだ。いいか?ドット」
「あぁ……フィンが、良いなら……」

俯いたドットはもじもじと指をこねくり回している。いつか根本から指が抜けてしまうのではないかと思うが、それほど弱々しい手でもない。関節や骨の形がしっかりと浮き出た、逞しい手だ。でも短い爪は薄らと桃色がかって、なんとも言えず可愛らしい。その爪の先にキスをしたらどんな反応をするだろうか、と考えると妙にソワソワとしたが、ランスは不埒な気持ちを丁寧に腹の底に沈める。今はまだ、少しばかり早いだろう。
「単純接触効果」、というものがあるらしい。
要は顔を合わせる時間を増やせば増やすほど相手からの好意を得やすくなる、ということらしいが、同室である以上今更さほどの意味はないだろう。とはいえ、あの夜の一件で分かりやすくこちらを意識しているドットからいま目を離すのは得策とは思えない。
ドットは頬杖をついてランスの反対側を向いた。耳ばかりか無防備に曝け出されたうなじまで赤く染まっている。ついと指先を伸ばして首筋を撫でると、「ひぁ!?」と声を上げてこちらに振り向いた。

「……ッなんだよ!」
「もう少し詰めろ。座れない」
「そっ……そういうのは、口で先に言えよな……」

段々とトーンを下げた声で言いながらドットはじりじりと反対側に身を寄せる。始めから、空いたスペースに座れない訳ではなかった。ただ、「相手に意識させるにはさりげないボディタッチ!」だとかなんとかいう雑誌の言うことを実践しているだけである。効果のほどはよく分からない。ただ、いちいち律儀にオーバーリアクションを返すドットにランスの方がドキドキとしてしまって困る。コイツはちゃんと、ランスの意図通りにこちらを意識しているのだろうか。本気で嫌がっている訳ではなさそうだ、ということくらいは分かる。一部始終を見ていたフィンが口を手で抑えて何か思わせぶりな視線を寄越している辺り、それなりに成功しているとは思うけれども。真っ赤な髪にちらちらと見える耳たぶに触れたい気持ちが浮かび、ランスはきゅっと拳を作ってそれを我慢する。こっちに振り向かないかな。あの顎のラインを撫でて、強制的に振り向かせたらどうなる。そこまでいくと「さりげないボディタッチ」を逸脱するだろうか。そんなことを考えていると、ぱっと赤髪が翻る。頬を染めたドットが人差し指を鼻先に突きつけた。

「お前、見過ぎ」
「は?」
「視線がうるせぇ」

ふすふすと鼻を鳴らすドットは、気まずげではあっても困ったように身を捩るだけだった。それを認めてランスは笑う。ぱちくりと瞳を丸くするその表情さえ愛らしかった。

「……お前に振り向いて欲しくて、見つめていただけだ」
「〜〜〜ッ、この、クソイケメン」

褒めているのか貶しているのか定かではないことを言いながらドットはランスの肩を拳で殴りつける。本気の彼の拳はもっと痛い。猫パンチのようなまるで力の入っていないそれに、ランスは再び笑みを深めた。



***



そんな調子で日々ドットに茶々を入れながら過ごしていると、段々フィンが白けた視線を向けてくるようになった。ランスにしてみれば彼は客観的な視点と思って良いだろうから、我ながら分かりやす過ぎる行動が他から見てもやはりあからさま過ぎるアプローチなのだろうと思う。……それでもあの単細胞に通じているのか甚だ疑問ではあるが。照れてばかりのドットは、困惑した様子ではあるものの、決定的にランスを拒むことはない。それは丁度、あの夜の時のように。

結局のところ、ドットはランスのことをどう思っているのだろうか。

ランスは当然のように「押せばいける」と思っているのだが、ことドットとなると、この想定が正しいか甚だ疑問である。ぼちぼち引くべきか、このまま押して押して押しまくって告白までしてしまう方が良いか、悩んでいるうちに、そっとドットのヘッドボードに戻ってきたものがある。夢を見せる魔法道具である。
間違いなく今朝はなかった。一応はランスの魔力を込めた道具にランス本人が気が付かないはずがない。放課後ドットがどこぞへと出掛けて行った後に我が物顔で鎮座するそれは、あの夜以来忽然と消えていたものだ。見た瞬間、腹が立って衝動的に魔法道具を壊してやろうと思った。アレはまた、どうして夢の中のランスばかりを気に掛ける。分解して中に刻まれた術式を確認したが、相変わらずランスが手を加えた状態のまま、「夢の中に必ずランスが現れる」とされていた。

ドットの意図が分からない。
なぜ今更、この魔法道具を必要とする。
現実のランスが、ドットに構っているというのに?

息をゆっくりと吸って、吐いて、ランスは心を整える。ここで魔法道具を始末してしまうのは、簡単ではあるがあまりに短絡的過ぎるだろう。
相変わらず、アイツは。
ランスの心を掻き乱すだけ乱して、決定的なものを何ひとつ与えようとはしない。
ランスはぐしゃぐしゃと自分の髪を乱して、奥歯を噛み締めた。



***



日が沈んだ後戻ってきたドットと隣室のマッシュとフィンとレモンのいつものメンバーで夕食を摂り、風呂を済ませてベッドを整えている間にも、ランスはじりじりと焼け付くような焦燥を感じていた。とはいえ、積み立てるように戦略を練り、その為に努力し、事態が変わるまで根気良く待つことは、得意な方だ。それこそ神覚者を目指して級硬貨を集めていた時のように。

「うひー」

ひょっこりと姿を現したドットは風呂上がりらしくいつもは上げてセットされた髪を下ろしていた。ドライヤーはしたのだろうけれど、少しばかりしっとりとした風情はいつものようにランスの胸の内を忙しなくさせる。けれど、今日重要なのはそんなことではない。

「ドット」

冷えたミネラルウォーターのペットボトルを開けながら椅子へ向かって爪先を向けていたドットは、ランスの呼びかけに瞳を丸くさせた。小首を傾げながらのこのことこちらへ近づいてくる。ちょこんとサイドチェストにペットボトルを置いたところで、ランスは素早くその手首を捕らえた。

「うぉっ!?……なんだよ」
「……これは、なんだ?」

彼の顔の高さに魔法道具を掲げて見せる。嵌め込まれた魔法石は相変わらずの使用可能の緑色だ。一応言っておくが、今回ランスは魔力を込め直してはいない。
ぱちぱちと瞬きをしたドットは、やや気まずそうに視線を逸らした。なるほどドットにもコレを居た堪れなく感じる程度の感性はあったのか、と八つ当たりめいたことを思った。キュッと唇を噛んだドットがゆるゆると口を開く。固唾を飲んでランスはそれを見守った。

「オレの魔法道具だろ。なに勝手にいじくってんだよ」

だいぶ耳の痛い話だ。
しかしランスはまなじりを吊り上げる。ドットが知っていようがいまいが、この魔法道具で夢に現れるのはランスである。であれば、出演料くらい巻き上げたって構わないのではないか。ランスが出て来るよう再設定したのは自分でありこの言い分にはだいぶ無理があるとは分かっているものの、無理とは押し切るものである。じっとドットの瞳を見れば、なぜか向こうから瞳を逸らした。

「……好きなひとの夢をみる魔法道具、だったか?」
「…………」
「お前は今夜、誰の夢をみるつもりだ」

ドットの答えがどうあっても、自分の苛立ちは収まらないだろうことは分かっていた。レモン・アーヴィンの名前であれば言わずもがな、たとえランス自身の名前があがったとしても。ドットの夢に現れるランスはランスであってランスではない。ドットが頭の中で都合よく作り上げた幻想である。「夢の中のランスの方が良かった」なんて言われた日には、重力でなにを押し潰すか分かったものではない。
じっとりと睨め付けるランスを見もせずに、ドットはあからさまに慌てた。掴まれたままの手を引っ込めようとしたり、ランスの手が離れないとみるや、うろうろと忙しなく視線を彷徨わせてみたり。正直に言うと、かなり可愛い。しかし勿論、可愛い仕草をしてみせればなんでもかんでも許すほどこのランス・クラウンは甘くないのだ。……可愛いけれども。

「あー……その、」

ドットは握られた手を取り返すのは諦めて、困ったように頬を掻いた。目元まで薄っすらと頬を染め、落ち着かなげに体を揺らす。そしてそっと、上目遣いでこちらを覗き込む。ランスとドットの身長はほぼ変わらない。だから上目遣いになるには、ちょっぴりだけ首を傾げたり身を捩らねばならない。それはもう、なんともあざとい仕草であった。苛立ちを募らせていたランスの心を揺らす程度には。

「ン゛ン゛ン゛ッ」

感嘆じみた声を咳払いで誤魔化した。
ランスのプライドとして、ドットに自分の心の中を気取られるのはなんだか嫌だった。鈍感め、早く気が付け、と日々思っていることと矛盾しているのは分かっている。それでもなお揺れる心は恋心という奴だろう。持ち主でさえ、計り知れない。
そんな物騒なものを向けられている本人は本当に何を計るでもなく首を傾げた。

「ランス?」
「……なんでもない。……なんだ?」

平静を装えたであろうか。ドットは困ったように鼻の頭を掻く。ちょこんとした小さな鼻先が妙に視界に入った。

「その……バカにしねぇ?」
「……物による」
「…………じゃ、なんでもない」

ぷい、とドットが明後日の方向に顔をやる。

「おい、ドット」
「も、物によるってなんだよ、バカにしてんのかよ」
「してない」

きゅっと手首を掴む手に力を入れると、そこからトクトクトクと早鐘を打つ鼓動が聞こえる。思わず顔を覗き込むと、一歩後退りしたドットは拳を頬に当てるようにして顔を隠す。けれど少し湿った髪の先に隠れた耳が赤い。それこそ綺麗な飴細工のように。思わず首を伸ばして、甘い色をしている耳たぶに齧り付く。

「ひょわ……っ!?」

想像よりは甘くはなかった。けれど階段を駆け上がるような心臓の音にふっと笑みが溢れた。くいっと顎を持ち上げて至近距離でドットの瞳を覗く。ゆらゆらと揺れる宝石のような瞳に、ランスの心もぐらぐらと揺れた。これは、もう押して良いんじゃあなかろうか。とはいえ寝ぼけたドットにその、いろいろしてしまったあの夜の二の舞は避けたい。……であるが、この顔である。ぽやぽやとしたドットの表情はけしてランスを拒んでいるようには見えない。いや、さすがに「拒む様子ではない」にせよ、それで強引に事を進めて良いという話にはならない。……いやいやいや、とはいえドットのこの様子は、と、ランスの中の天使と悪魔が脳内で猛烈に争い合う。表情を上手く保てず、眉間に皺が寄った。ランスの脳内を知らないドットは些か不安げにこちらを見つめている。

「……怒ってんの?」
「おこってない」

ドットはぎゅうと顔を顰める。全然、信用されていない。
まぁ、怒っているかと言われると、すこし、怒っている、かも、しれない。だいたいなんなんだ、この状況で「怒ってんの?」とは。可愛い。言葉のチョイスが既に可愛い過ぎる。コイツはどうなっているんだ。ランスは掴んだ手首をついと引いて手のひらを握る。そういえばいつか、この爪の先にキスをしたらどうなるか、なんて考えたことがあったな。そんなことを思いながらドットの小さな爪にキスをする。

「……ッ!」
「……お前が夢に見ようとしていた人間を、教えてほしい」

顔を真っ赤にして瞬きを繰り返すドットが口の中でもごもごと悪態を吐く。その響きほど瞳は嫌そうではないのを確かめてランスは笑った。それを認めてドットの頬が膨れる。

「ばか、あほ、このくそイケメン……」
「悪かったな」
「くっそー……」

声が萎むと同時に、ドットも頭を抱えてしゃがみ込む。その手だけは、ランスに握られて掲げたままだった。

「…………」

これは、一体どういう状況だろうか。
何やら妙な雰囲気になって、ドットが物凄く照れている、ということはよく分かるのだが。顔を隠すように俯いたその姿からは、ちょこんと覗く耳くらいしか見えない。

「…………」

ランスは辛抱強く待った。
才能がある故に、局所的には何でもかんでも拙速に進めがちなランスとして、かなり努力をしたと思う。目の前で耳の先まで真っ赤に染めて、明らかに自分に気がありそうな想い人が口を開くまで待ったのだから。褒められたって良いくらいだ。ちらりと腕の隙間からこちらを見上げる視線があまりにも可愛らしくて、ランスはぎゅっと奥歯を噛む。でなければ、耳たぶどころかどこまでもかぷかぷと噛んでしまいそうだった。

「ゆっ、……夢に出て来るヤツは誰か、確かめようと思ったんだ」
「…………」
「その……、好きなヤツの夢を見せる魔法道具だから、それを使えばオレが本当に好きなヤツは誰か分かると思って……」

ランスはしゃがんで、ドットと視線を合わせた。う、と言葉に詰まったドットは後退り、そのままぺしゃりと腰を床につける。その顔にそっと自らの顔を寄せた。

「魔法道具なんか使わなくとも、好きなヤツくらい分かるだろう」
「しょっ……しょーがねぇじゃん、……だって、その、踏ん切りが……」
「…………」

踏ん切り。
これは、もう、良いのではないか。
ほとんど白状したも同然ではないか。
いやでもしかし、と自分の中で反論する自分が萎んでいく。つうっとドットの指の股を撫でながら、ランスはこの後の自分の行動をゆっくり思案した。その不穏な間は、「待つ」という状態にひどく似ていた。けれどそれほど思い遣りに満ちていた訳ではない。

「ドット」

短く呼んだ名前は、ほとんど命令だった。顔を上げてこちらを見ろ、という。聞いたドットが意味を正確に掴んだかどうかは分からない。けれどゆっくりと、ドットが視線を上げる。もごもごと何か言いたげに蠢く口先はランスを誘っているようだった。ぐっと踏み込んで、ドットの方へと体重をかけた。鈍いのか聡いのか、ドットはその仕草で慌ててランスを押し返そうとするが、あまりにも体勢が不利すぎた。しかしそれでもドットの右手がランスの唇を隠すように覆う。

「ま、待って、待った、すとっぷ」
「んぐぐ……」

これ以上、何を待てというのか。
ランスの言いたいことは分かっているのか、弱り切った顔でドットは眉を下げ、しかし首を左右に振る。何か本人の中で踏ん切りがついたらしく、きっと眉を吊り上げてこちらに挑み掛かるように見つめて来る。ランスは、少し意外な気持ちのまま僅かばかり身体を引いた。そのまま床に腰を落ち着けると、ほ、と安心したように息を吐き出したドットがゆっくりとランスの口から手を離す。

「だから……おっ、お前がっ!夢に出て来ると思ったんだよ!」

一世一代の大告白……というような表情で、しかし顔を真っ赤にしたドットはその先の言葉を紡がない。仕方ないと、片手はドットの手を握りしめたままランスは肩をすくめる。

「…………それで?」
「〜〜〜っ分かンだろ!ここまで言えば!」
「ちっとも分からん」

この期に及んで言い渋るドットの気持ちなど。
じいっと顔を覗き込んでいれば、唸り声を上げたドットは小さく「くっそー……」と呟いた。

「ゆ、夢にお前が出てしたら……、ちゃ、ちゃんと、告白しようって思ったんだ……」
「……夢のオレに会わなくっても、分かるだろうが」
「……だって……」

モゴモゴと何事かを呟いたドットが俯く。髪が影を作って顔がよく見えない。それが嫌で、ランスはそっとドットの髪を梳き、頬を撫でる。そうっと上向く顔が、その瞳が、雄弁にドットの胸の内を伝えた。ランスは自分の唇がむずむずとするのを感じた。その気持ちが何かと言われると大変困るのだが、湧き上がる感情をなんとか留めて額に唇を押し当てる。丁度、怒りに身を任せた時に十字の痣が浮かぶその場所に。

「オレも好きだ、ドット」
「ふぁあ……」
「……だから、金輪際、その魔法道具で見た偽物のオレに会おうとするのは辞めてくれ。付き合って早々に浮気か?」
「……………。………いや、それはさすがに違くね?浮気とは呼ばなくね?」
「明らかに浮気だろう。悪いが、お前の妄想の中のオレでも容赦はしない」

ランスは深く頷いた。どこか瞳を眇めたドットが、「なんでオレこんなヤツのこと好きになっちゃったんだろう……」と呟いた気がするが、何はどうあれ言質は取った。好きだと思ってくれるならばそれで良い。
そっと、そのまろい頬に自らの頬を寄せて擦り付ける。きゅっと身体を丸めるドットは満更でもなさそうに笑い声を上げた。

「ランス」

短く呼ぶその声は、悪戯っぽく耳に響く。両手でランスの頬を挟んだドットは、身体を伸ばしてチュっとキスをした。意外すぎるその行動に、ランスは呼吸さえ止まる。

「えへへ。……奪っちゃった」

ほわほわと微笑むその顔に目眩を覚え、ランスの身体はぐらりとよろめく。それを照れくさそうにドットが首を傾げて見つめていた。

1 / 2
2 / 2

***



実のところランスはどうしてこうなったのかよく覚えていない。ドットからキスされて、頭が真っ白になった。多分その後、めちゃくちゃに唇を奪って、力の抜けた身体を少々乱暴にベッドへと引っ張り上げたんだろうと思う。そこまでは朧げな記憶がある。床でことに及ぶと硬くて痛いだろうと、配慮出来るほど頭が回っていた訳ではない。恐らくその手の営みは、夜にベッドで行うもの、という埒も明かないランスの性常識がなせる技である。気が付いたら、真っ白いシーツに寝転んだドットがこちらを見上げていた。とろりと蕩ける瞳が飴細工のように美しい。コイツの身体はひょっとしたら、どこもかしこも飴で出来ているのかもしれない。

「……んぁ、ランス……」
「…………なんだ?」

我ながら、声が甘苦しい。どろどろに砂糖を煮詰めたような自分の声は、ふつふつと茶色く濁っていくような、危うい響きがあった。わかっているのかいないのか、ドットは動揺するランスの頬をそっと指の腹で撫でた。そして、ちいさく呟く。

「……なァ、お前も、」

脱いで。

その声を耳が拾った瞬間、カッと頭に血が登った。鼻血を出していないのは、たぶん何か運が良かっただけだろうと思う。何をどうされるのか、分かっているのかいないのか定かではないドットはしかし、夢見るような瞳でこちらを見上げてくる。夢の中のランスへこんな表情を向けていたのかと思えば腹も立つが、それ以上に目の前の人間に食らいつきたくて仕方ない。

「……ッ、」

正直、パジャマのボタンを面倒に思った事はこれまでなかった。けれど自分の分も、ドットの分も、脱がせるのには億劫過ぎる。逸る気持ちのままシャツを脱ぎ、脱がしている間にドットの手が腰に這う。予想外に積極的な動きに瞠目していると、身体の下の赤毛は気まずそうに視線を逸らす。

「見んな。……ハズいだろ」

如実に目の前がクラクラとした。これは、本当に現実か。いや夢であっては困る。更に言えば、夢なんかで済まされては困る。ドットの頬を撫でて視線を戻させると、不服そうに唇が尖っていた。その可愛らしい口先にチュッと触れて、ランスは首を振る。

「見せろ。……可愛いんだから」
「は……はぁ!?」
「かわいい。……世界一。だから、ちゃんとこっちを向け」

言いながら身体を撫でさすり、下半身の布も取り去る。自分も下着ごとズボンを脱いでその辺に投げ散らした。その衣類が落ちる方向を確かめるのすら惜しい。ぴたりと触れ合う素肌は、触れるだけでじんじんと痺れるくらい、妙な感動があった。ほんの少し、ドットの方が体温が高い。それがじんわりと溶け合っていく。

「んっ」

身体の輪郭を確かめるように指先で辿り、額に、頬に、首筋に唇を落とす。それにいちいち反応してドットは身を小さく縮めた。それでも宥めるようにキスを続けていると、ゆっくりと力が抜けていく。

「ランス、」

名前を呼ばれて、彼の言いたいことが手に取るように分かる。そっと頬に置かれた手を更に上から撫でながら、その唇にキスをした。最初は触れるだけ。次第にそれでは我慢できなくなり舌を絡ませ口腔に忍び込む。ちゅるりと吸い込んだ唾液がひどく甘く感じて、堪らない気持ちになった。はむはむと下唇を食んでいると、ドットの腕がランスの首の後ろへと回った。空いた脇をそうっと撫でると、くすぐったそうに身を捩る。
どれほどそうしていたのだろう。
ずっと唇をくっ付けていたい気持ちと息苦しさとで、ギリギリまで辛抱して、どちらからともなく身体が離れる。はぁはぁとした息遣いが顔に当たり、照れ臭さにドットの首筋に顔を埋めた。先ほどよりも汗を帯びた身体は、舐めれば少し塩っぱい。それに少しばかり驚いている自分に笑ってしまう。

「ランス……?」

不安げにドットが名前を呼ぶ。可愛い。もっと読んで欲しい。こめかみにキスをするとふるりと目蓋が震えた。ぎしりとベッドが軋む。ドットが身を捩った音らしい。腰骨を撫でると、ころりと身体が逃げる。横を向いた身体をひと撫でして顔を覗き込むと、ぎゅうっと何かを耐えるように瞳を強く瞑っていた。

「ドット?」
「あっ、あのさぁ!オ、オレ男なんだけど……!?」
「……?……知っているが?」

腕を、腿を、揉み込むようにさする。確かに硬い筋肉を感じた。同じ歳、同じ性別、同じ体重、そして、同じように「無邪気な淵源」事件に戦力として呼ばれる人間としては、妥当な範疇の肉体だ。ふにふにと二の腕を揉み、ふと、肘の内側に口付ける。筋肉の弾力を感じる他の部分と違って、そこは少し柔らかい。

「ひょわっ」

はむ、はむ、と手のひらの方へ向かって甘噛みすると、やはり少し汗ばんだ身体は思ったよりも塩味がする。指先をちゅうっと吸うと、手のひらを唇に押し当てたままドットを見る。信じられないものを見るような瞳でランスを見返すその顔は、耐えられないとばかりにシーツに懐く。まるで無体を働いているかのような心地がしたが、とはいえ寝ぼけたドットに挑みかかるほどひどい行動もしていないと思う。我ながらどうしようもないことだが、一度最低の行動をしてしまうと、何をやらかしても「アレよりはマシか……」と思ってしまう。眼前にある無防備な耳たぶをかぷりと食んだ。歯先に戻る弾力を確かめながらべろべろと舐め回す。

「んっ、……んッ、……らんす、ちょっと待って……!」
「…………なんだ」
「だっ、だから、……オレ、男だから、」

この期に及んで何を、とランスが顔を上げると、そこには悩ましく眉を寄せている真っ赤な顔があった。そして内緒話をするように顔を傾け声を潜める。

「たっ、……ちゃうんだけど」

なんだコイツは、本当になんなんだ。
苛立ちに似た衝撃が胸を駆け抜ける。
なんのために服なんか脱いだと思っている。双方「勃っちゃう」ようなことをする為だろう。ランスは自分が挑発されているのか、ドットが本当に天然なのか測りかねた。ただいずれにせよ看過出来まい。
ぐっと肩を押して、ドットの身体を正面へ向けさせた。しかしドットはさっと両手で局部を隠してしまう。思わず舌打ちが漏れた。

「な、何するんだよ!」
「見せろ」
「ヤだよ、……ちょ、ばかばかばかばかっ」
「バカはどっちだバカ」
「ランスほど立派じゃないんだって!ちょ、むりむりむりむり」

なんで今ランスのブツを褒めた?……あぁもう、本当に意味がわからない!周囲の人間は、ランスを「天才」と誉めそやす。実際自分も、要領が良いタイプだと思っている。そんなランスでも計り知れない人間がドット・バレットという男だ。時に頭から火が出そうなほど苛立たしいし、……時に眩暈がするほど愛おしい。
ランスはチッ、とひとつ舌打ちをして、ドットの手を股間から退かせるのは諦めた。しかし代わりにぐっと自分の腰をドットの股ぐらに擦り付ける。

「ぅあ、あっ……?……な、……っ!」
「……はぁっ……見せなくてもいい、から、……付き合え」
「ぇあ、ちょ、ランス……!」

ぐり、ぐり、とランスは自身の熱く滾った陰茎を押し付けるように腰をゆらめかせる。押し除けようとしたのか、反射的に動かしてしまったのか、浮いたドットの手を取って、自分のそれを握らせる。

「あ、あつ……っ」
「当たり前だろう」

至近距離で瞳を白黒とさせているその額に自分の額を擦り付ける。はぁ、と漏れた息は我ながら熱い。

「好きなヤツと、裸で触れ合ったら、男はこうなる」
「……ッ」

その表情はただ照れているばかりで嫌悪感など微塵も浮かんでいない。顔中にキスをして、ドットの手をゆっくりと上下させる。その度にドットの動きは少しぎこちなくなりランスの局部はどくどくと熱を持つ。下腹部に血が集中して頭が回らなくなってくるが、それでも度々「ふわぁあ、」とか「ひぇ……」とか、小さな声で感嘆し震えるドットが愛おしい。
ふと、太ももに自分以外の熱が触れる。見ればぎゅうっと瞳を閉じたドットの手はシーツを掴み皺を作っていた。見られるのが嫌と言っていただけなのだから触れるのは良いだろう。そう都合よく解釈して、そこに自分の腰を押し付ける。

「……ッあ」
「ふ……っ、」

見なくとも、しっかりと勃ち上がったドットの陰茎は熱い。それをランスの物と一緒に掴み、ドットの手に握らせた。

「ふぁああッ、ランス……!」

シーツを掴んでいたはずの手がランスの肩に掛かる。ちり、と痛みが走って爪を立てられたのだろうと知るが、その動きはランスを引き剥がそうとする動きではない。むしろ、縋り付こうとする動きであった。可愛い。かわいい。どうしてくれよう。
浮き出た喉仏を喰む。口の中で舐め回して前歯をぐっと押し当てる。愛咬が残れば良いのに、と強めに力を入れれば痙攣するようにドットの身体が震える。それを自らの体重で抑えつけて、更に顎に力を入れた。

「…あっ、……んんんッ♡」
「……ふ……っ」

手の中のドットの陰茎が震え、熱い飛沫を迸らせる。ランスの手で、達した、と思った瞬間なんとも言えない充足感に、ランス自身も絶頂に達した。ドットの肩口に顔を埋めると、はぁはぁと荒い息を溢すドットの腕がきゅうと抱き付いてくる。堪らない気持ちになって、目の前にある首筋に吸い付いた。そのまま顎先にキスをし、頬にキスをし、唇にキスをする。

「……ん……♡」

小さく上がる甘い声に胸の奥が騒めいて、その衝動に任せてやや乱暴に舌を捩じ込んだ。ぬるぬるとした粘膜が重なり合うのが気持ちいい。

「んっ♡…………ッ、んー!んー!」

陶然とキスを続けていると、バシバシと肩が叩かれた。少しムッとしながら唇を離すと、「ぷはぁ!」と大きく息を吐き出されて更にムッとした。情趣がない。

「……おい」
「しょ、しょーがねーじゃん、息、苦しくなっちゃったんだから……」

ドットも悪いとは思っているのか身を縮める。実のところ、もう少し文句を言ってやりたい気持ちがあったが、ちらちらとこちらを窺う顔が可愛らしいので渋々ながら諦めた。髪を梳き、露わになった額にキスをして自分の感情を宥める。

「ひゃっ」

ランスが身体を動かしたせいか、2人の身体の間でぬちゃりと音が響く。汚れたままの右手でドットの陰毛を擽り、更に奥まで指先を伸ばすと、ドットの身体が再び跳ねた。すりすりと窄まりを撫でるが、当然ぴっちりと締まったそこにはランスの指が挿入るような余地はない。どうしたものか、としばし思案する。この前のように、素股でも悪くはない。けれど折角想いが通じたのだから、身体を重ねたいとも思う。なるべく隙間なく、ぴっちりと。往生際悪く尻を撫でていると、ドットが「あー、」とか「うー……」とか唸り、震える手でベッド脇に置かれたサイドチェストを指差す。

「あそこ、……その、ボディクリームなら入ってるけど……」
「…………」
「む、無言になるのやめてくんね!?」
「………………」
「ま、待った待った待った、超怖いんだけど!?」

逆に問いたいのだが、貴様はオレをどうしたいんだ。
浮かんだ気持ちは言葉にならず、ただ引き出しの中にあるボディクリームを出してくるくると蓋を開けるばかりである。興奮し過ぎて息が苦しい。手のひらに出したクリームをなんとか尻のあわいに擦り付ける。量が多過ぎたのか、にちゃ、と鳴る音が余りにも卑猥であった。

「ドット、」
「……ひゃっ」

自分の声は、地を這うようであった。焦げてきな臭ささえ感じるその音に自分を嗤う余裕もない。

「……いいんだな?」

今更「ダメだ」と言われたところで引き返せもしない癖に、確認を取った自分の行動がちっとも理解出来ない。けれど少し強張った顔のまま、ドットは間違いなく頷いた。それに、ほ、と息が漏れる。

「……ぁっ」
「ドット、……ドット」

何も含ませたことがないだろう窄まりは、当然の如くボディクリームの滑りがあってもなかなか指先ひとつ入らない。けれどこの状況で、ドットに受け入れる気があることが何よりもランスを興奮させた。皺の一本一本にクリームを塗り込める傍ら、その顔中にキスをする。誘うように覗く舌に食い付いて、けれど苦しそうな素振りがあったら身を引いて、自分の身体をコントロール出来ていることが信じられない。理性なんて最早、欠片ほども残ってはいないのに。

「……んぁ……♡」

気が付けばドットの唇はどちらのものか分からない唾液で濡れそぼっていたし、見上げる瞳はとろんと熱を帯びていた。後孔に沈む指も3本になり、ぬちゃぬちゃと水音を立てながらスムーズに出入りする。扱いて準備するまでもなく熱く勃った陰茎を後孔に押し付けると、くぷ、と吸い付くように窄まりが蠢く。危うく飲み込まれそうになって、ランスは息を詰めた。そこに、か細く自分を呼ぶ声がする。咄嗟に視線を下げれば、ドットはへにゃりと笑った。

「ランス……」
「……っ、」
「好きだ……」
「…………ッ!」

この期に及んでコイツは!
今日は何度、頭の中でドットを罵倒したかは知れないが、今のは輪をかけて酷い。こちらは十分、ドットに配慮を示して慎重に慎重を重ねて事に及んでいるというのに!ランスの真心などちっとも理解しない目の前の可愛い男は、ランスの首に腕を絡めてチュッとキスをした。あまつさえ、唇を離すと、えへへ、と笑ってさえ見せた。この、ランスのどうしようもない気持ちが分かるだろうか。

「こ、の……っ」
「んんんっ、」

腰をほんの少し進めるだけで、柔らかくほぐれたそこはぬぷぬぷとランスを飲み込んでいく。言おうと思った文句はその甘い締め付けの中で霞んで分からなくなった。

「……ッんぁっ♡ あっ♡ あっ♡」
「…………っ」

ランスは内心混乱していた。気持ち良すぎる。ドットの可愛らしい嬌声は直接的に脳を焼く。狭いそこを割開くように突き入れて、腰を引けば内壁が甘く絡みつく。もう止まらない。

「……ひぁっ、あぁあッ♡♡♡」
「………ふ…っ、……んっ」

射精したのは、一体どちらが先であったか。そんな瑣末な事どうでも良くなるくらい気持ち良い。くったりと力を失ったランスを収める後孔は、震えるように蠕動して熱く甘く陰茎を締め付ける。息を吐くより先にドットの目尻にキスを落とせば、肩を縮めて嬉しそうな笑い声が下方から聞こえた。

「ランス……」
「……なんだ」
「………、…きもちい……」

その言葉が感嘆文だったのか疑問文だったのか、この至近距離で聞いたのによく理解出来なかった。けれどどちらでも然程の変わりはないだろう。乱れた髪を指先でそっと撫で付け、顔を露わにさせる。こちらを見上げる瞳は相変わらずぽやぽやとしていた。出会った頃はもう少し、眼光鋭かったはずなのに、と思ったところで妙に得心が行った。なるほど、これがドット・バレットが恋している時の瞳か。思えばずっとこの瞳に見つめられていたのに、周囲のありとあらゆる物に嫉妬していたランスは他人のことを言えないほど鈍かったのかもしれない。

「ドット、」
「……んぇ?……ふぁあっ!?」

脱力しているドットの腕を引っ張って、その身体ごと身を起こす。胡座をかいた膝の上にドットを乗せるようにして抱き止めた。繋がりっぱなしの後孔から重力に従ってどろりとランスが出した精液が流れ出すのを感じる。実際に咥えさせられているドットは悲鳴混じりに身を捩った。

「ひぁ……っ♡ ちょぉ……っ」
「…ドット、」
「あっ♡ あっ♡ まっ、待って、これ、へん……ッ♡」

逃げかける腰を掴んで、もがく腕を抱き締める。足をランスの腰に沿わせるように開かせれば、密着したままドットの身体はぴったりとランスに重なる。無論、ランスを食い締めたままの後孔も、その熱い杭の上に、ぴったりと。

「……ッぁああぁあっ♡♡」
「っ……、」

声に合わせてきゅうきゅうと後ろが締まり、こぷりと先ほどよりも深くランスを飲み込む。奥へ奥へと誘うようなその動きは、余りにも気持ち良過ぎて目の前がチカチカとした。仰け反るドットの背中を支えながら、背骨を数え上げるように指でなぞると、ドットの方からもぎゅうっとこちらへ抱き付いてくる。

「……ぁっ♡ あっ♡ や♡ ふかぃいい……っ♡」

ランスの肩に顎を乗せ、背中に爪を立てるドットは浅い息を繰り返す。背中をそっと撫でてやるだけでも強張り切ってぶるぶると震える。どこもかしこも奇妙に力の入った身体は当然ながら後孔もぎゅうぎゅうに締め付けて、しかしほんの少しランスが身体を揺らすだけで甘い嬌声が溢れた。

「……ぁっ♡ ゆさゆさ♡ しちゃあ……っ♡」

ぱさぱさとドットの髪が頬に当たる。首を左右に振っているのだろう。可愛い。あまりにも可愛い。

「ふ……、……かわい、」
「……ッらんすっ♡ ぁあっ♡」
「くっ付け、もっと……っ」
「んんんんっ♡」

言われるがままドットがランスに抱き付く。思わずその頭を撫でてやると、ドットの額が首筋に擦り付けられる。2人の身体の間でドットの陰茎が擦れ、ぐちゅっと音を立てた。

「……ッあ♡ ぁあッ♡♡♡」
「…………くっ、」

ゆすゆすと軽く身体を揺さぶっているだけなのに、感じ入ったドットの興奮が後孔を締め付け、その刺激でランスは絶頂に達する。2人の間にもいつの間にか熱い飛沫を感じる辺り、ドットも達したらしい。脱力した身体を抱き締め撫でていると、はぁ、と首筋に甘い息が掛かる。

「らんす……」
「ん、」

上気する頬に口付ける。照れくさそうに瞳を瞑ってランスのキスを受け入れたドットの瞳は、まだ欲が渦巻いていた。その唇に掠めるようにキスをして、顔を覗き込む。

「……ドット」

もういっかい。
どちらからともなく唇を重ね、貪りあった。



***



「あー!コレ見ろよランス」

言いながら身体を寄せて、ドットが配信記事を指差す。ランスはドキドキと不健康な程に高鳴る胸を抱えながら、素知らぬ顔で指の示すところに顔を向けた。まったく。ドットは心臓に悪い。相変わらず。

「リコールだってよ」
「…………」

それは見覚えがあり過ぎる魔法道具のリコール記事であった。「ヨクネムレール」シリーズの新商品「安眠⭐︎パーフェクトドリーム」は分解し中の魔法術式を容易に書き換えることが可能となっており、魔法道具管理局の安全基準を満たしていなかった。目立った被害報告はないものの、他人の夢に干渉し健康被害を引き起こす恐れがある事から全ての商品を回収する。また、「好きなひとの夢が見られる」も誇大広告として指導を受け、同社はお詫び広告を掲載するものとする──
やはりと言うべきか、妥当な処分にランスは黙り込んだ。普通に、市場に出回って良い魔法道具ではなかったことは確かである。それは、他人の魔法道具を勝手に改造したランスが太鼓判を押す。しかししょんぼりと肩を落としたドットがため息をついた。

「……コイツ、手元に残しといちゃダメかな」
「ダメに決まっているだろう」
「だよな……」

はぁ、とドットは再びため息を吐く。

「お前と両想いになったきっかけの魔法道具なのに……」
「ン゛ン゛ッ」
「……?ランス?」

思わず変な声が漏れそうになって、すんでで咳払いで誤魔化した。いやドットが首を傾げている辺り、誤魔化せてはいないかもしれないが。ランスは心持ち深呼吸をして、ゆっくり慎重に言葉を紡ぐ。

「魔法道具管理局のトップはフィンの兄だろう。隠しておいてもいずれバレる」
「あー……そっか」
「それに……夢でなんか見なくとも、いつも現実のオレがいるだろう」
「…………ッ!」

顔を真っ赤にしたドットは「この、ばか、イケメンめ!」と唸りながらランスの背中をバシバシ叩く。今回ばかりはこの八つ当たりも甘んじて受け入れてやろう。

「…………」

リコール商品は二度と元の所有者の手には戻らない。これできっと、ドット・バレットはランス・クラウンが掛けた魔法に気がつく事はないのだから。

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「安眠⭐︎パーフェクトドリームを探しています! 記載リコール商品をお持ちの方は下記までご連絡下さい」

キーワードタグ ランドト  マッシュル  R18  ♡喘ぎ 
作品の説明 ランドト続きです⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
ランスくんネタばらし編。
いやはや、久しぶりのちゃんとしたR18はカロリーが高い(><)

今回こそは恋愛のABC的に「C」までやってます!胸を張ってのR18ですのでご安心下さい。
「安眠⭐︎パーフェクトドリームを探しています! 記載リコール商品をお持ちの方は下記までご連絡下さい」
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最近ルームメイトが怪しげな魔法道具を買ってきた。嬉々として枕元に設置をしたくせに、その朝、望み通りの夢が見られなかったのか、呆然としていた。その顔を見た時、ふと思い付いたのだ。

はっきり言って、最初は出来心だった。

どうせアイツが夢に出てきて欲しいと思う人間は分かっている。あの魔法道具を持ってきた時から「レモンちゃんの!夢が!!見たい!!!」とかけたたましく言っていた。……ここでアイツが、「好きな相手の夢が見られる」との触れ込みの道具を使ってランスの夢を見たらどうなるのだろうか。単純だから本当はランスのことが好きだったと勘違いする?普通に魔法道具が粗悪品だと激怒する?正直なところ、どちらでも良かった。耳障りな「レモンちゃん!レモンちゃん!!」と呼ぶ声がなくなるのならば。
魔法道具を改造するのはさして難しくなかった。なんせ、一般流通している大したことのない魔法道具だ。それなりにしっかりした作りではあったが、分解してみればなんのことはない、「ちょっとすっきりした気分で目覚める」程度の魔法しか刻まれていなかった。どこが「好きな相手の夢を見られる」魔法道具だ。さすがに誇大広告ではないか?
それはともかく、ドットは意外と放課後は忙しくしていて、部屋を空けている時間が多い。その間に魔法道具を分解し、中の術式を書き直してランスの夢を見るように設定し、魔力が切れないように定期的にメンテナンスを行うなど造作もないことだった。呑気なドットは魔力切れを起こさないことにもちっとも疑問を抱かず、毎夜魔法道具を使用している。バカなのか?いや、魔法道具が正常に機能していないのか?このランス・クラウンが刻み直した魔法が?……不安を抱いて一度ドットの夢の中に入ってみた。いつも以上にぽやぽやとしていたドットは、キスが出来そうなほどに身体を近付けても、照れ臭そうに身を縮めるだけだった。おい大丈夫なのか。夢の中とはいえ触れてしまうぞ、と思うくらいのタイミングでドットの意識が浮上して、ランスは強制的に夢から弾き飛ばされた。その後の夢がどうなったのか分からない。ただその朝、今までになくドットが動揺していたのだけは確かであった。本物の自分はすでに夢から弾き出された後だから、補完したとしたら夢の中で再構築された偽物のランスであろう。些か、腹が立った。現実世界でも夢の中でも本物のランスに許さないような距離を、ランスの似姿には許していると思うと、さすがに。しかし天啓のように閃いたのは腹立たしい事実ばかりではなかった。

これはひょっとすると、ひょっとするのでは?

ランスに無用な希望を抱かせるのには余りにもドットの反応は好都合すぎた。だって、ランスは夢の内容を「ランスが出て来る」と設定しただけでそれ以上はいじくっていないのだ。いつものように喧嘩していたり、夢の中と注釈されても頭に来るとはいえ、ドットにぶちのめされている自分を想像しない訳ではなかった。あくまでも夢の中の主導権を握るのはドットである。彼の望みが、或いは無意識下の考えが夢に反映される。いつもの調子を思えば、事あるごとに「スカシ野郎」と蔑むランスを打ち負かして「すっきりとした目醒め」を実現しているドットの方が、筋が通る。しかし実際へにゃへにゃと笑って至近距離を許したのはドットの方だ。ランスは、そりゃ他人の魔法道具を分解して中身を書き換えたことを除いては、なにひとつ悪くはないと断言しよう。あんな風に甘えられたら、こっちだって気がおかしくなる。

かわいい。
可愛い。

ずっと彼のことを可愛らしいと思っている。おおよそ同じ学年の、そして体格も同じくらいの同性に向けて使う形容詞でないことは分かっている。けれど彼はとにかく可愛い。誰がなんと言おうと。そしてランスは、ドットの可愛らしさを他に喧伝するつもりもない。
ある意味での転機は、授業中にドットが居眠りをした日だったと思う。魔法道具は寮のベッドの近くにあるから、ランスが干渉した訳ではない。ただ魔法道具に細工してから眠りが浅いのか、日中も眠そうにしていることが増えたドットが机に突っ伏している姿は無防備で、思わず手が伸びた。額を、髪をそっと撫でていたら、寝惚けているのか、あろうことかドットはこちらの手に頬擦りしてきた。授業中であるにも関わらず叫びそうになったランスの気持ちが分かるだろうか。教師がこちらへ振り向こうとしたから、咄嗟にデコピンをしてしまった。跳ね起きたドットはまなじりを吊り上げて烈火の如く怒りを示したが、ランスはそれどころではない。心臓がはち切れそうな程ドキドキして、ドットを撫でていた手をどうしてしまおうかと思った。ドットとは反対隣りに座るフィンが苦笑していたから、彼はドットを撫でるランスに気が付いていたのかもしれない。
大丈夫なのか。アイツはアレで。とはいえランスにはそれを咎める理由も名分もなく悶々とするばかりであった。もう少しだけでもドットが魔法道具に詳しく用心深ければよかった。或いは、魔法道具の不具合を第三者に訴えるような素朴さを持っていれば。自分の行為がエスカレートしていると自覚していても、ランスには踏むブレーキはついていないのだから。
寝惚けたドットにのしかかった時、その身体に触れた時、ベッドの上で好き勝手にいじくり回した時、いずれもどこかに引き返せるタイミングはあった筈だ。でも結局しなかった。ランスはそれほど理性的な人間ではない。
とはいえ、真実寝ぼけていた人間にどうこうするほど性根は腐っていないので、明くる朝いつものように目覚まし時計を止めてからもベッドの上でぼうっとするドットに話しかけた。後ろめたさや気恥ずかしさはあれども、いつも通りに。いつも通りではなかったのはドットの方だ。思わずといった様子で首元まで掛け布団を引き上げて身体を隠すその仕草は、明らかにランスの目を気にしていた。オロオロと視線を彷徨わせる瞳は恥じらいが浮かぶ反面、嫌悪感や憤怒等の負の感情はちっとも見当たらない。暗がりによく見えなくなっていた夜とは違う。燦々と朝日が降り注ぐ中のその表情は、きっとあの夜と同じだっただろう。そう、なんの根拠もなく信じたランスは間違ってはいない。ドット・バレットはミスを犯した。彼は何がなんでも憶えていないふりをするべきだった。……いや、根が真っ直ぐなドットには難しがろう。であれば、侮蔑の視線を向けてランスを嘲罵するべきであった。あのような表情では、軽率で恥知らずな行為に及んだこちらを調子付かせるだけである。

「ドット」

例えば、まさしく今のように。
まだ寝起きでぼんやりとしているドットの顎を取る。流石に連日となれば気が付いて「あ、」と怯えに似た逡巡を見せるドットの額に、掠めるようにキスをした。彼の種族の特異体質として、気持ちが昂ればそこに十字の痣が浮かぶことは知っている。しかし毎朝性懲りも無く額を抑えて真っ赤になるドットの手のひらに隠された額をランスが確認したことは一度としてない。もちろん、興奮は興奮でも意味が違うから、そこには十字架は現れないかもしれないけれど。

「起きろ。遅れるぞ」
「んぁ、……ちょ、ちょっと待てよ」

もぞもぞと着替えるその姿に背を向ける。授業や水泳、風呂の時間に彼の肉体を見たことくらいあるのではないかと聞かれれば答えはイエス。だが、見て平静を保てるかと聞かれればノー。流石にランスも健全な思春期の男児である。朝っぱらから色々と元気になっては困る。
いつしかドットの枕元からは魔法道具は消えていた。ようやくか馬鹿者、と言いたい気持ちと、些か残念に思う気持ちは、半々くらいか。「夢の中のランス」という名の偽物にドットが踊らされなくなったのには願ったり叶ったりだが、魔法道具をどこかへやってしまったのは単にあの夜のランスに思うところがあるのではないか、と思うとじわじわと不安のようなものが湧き上がる。ランスも、正直に言おう、あそこまでする気ではなかった。しかし素股で済んだのは理性の賜物と言って良い。吹けば飛んでしまいそうな理性ではあるが。

「ドット」
「…………っ」

乱れたネクタイを解いて結び直してやる。ドットは少しだけ気まずそうに、しかし静かにランスの好きなようにさせていた。満足のいくノットに形を整えて、ポンとドットの肩を叩く。いつものオレは、「甘えにくい」のだったか。チラリと表情を伺えば、ドットは慌てて視線を逸らした。しかし耳まで真っ赤である。

あの日以来、ランス・クラウンはずっと、正攻法でドット・バレットを口説こうとしている。



***



ランスはこれまで、「最も気の置けない友人」という立場を確立してきたつもりでいた。ドットはあの通り、結構繊細な趣味を持つとはいえ、普段の言動はがさつの一言だ。だから彼に合わせてやや雑に扱う方が、より親密な感覚なのだろうと思い込んでいた。そう。思い込み。ぽやぽやと寝ぼけたドットの言葉がどこまで正しいかは本人のみぞ知るところだが、少なくともランスの頭の中で構築されたドット・バレットイメージよりはずっと本物に近いだろう。

「ドット」
「……ぅぇっ、え、な、なに……?」
「放課後の予定は?」

名前を呼ばれてあからさまに飛び上がるドットは、えぇと、と少し逡巡して、小さな声で「フィンと勉強」と口にした。視界の端でフィンが瞳を丸くさせていたから、真実約束していたかどうかは怪しいものだ。けれど追求はせず、鷹揚に頷く。

「分かった。……フィン、オレも参加していいか」
「えっ、えっと……」

話を振られたフィンの視線が分かりやすく泳ぐ。けれどやはり小さく頷いた。フィンの性格を思えば、面と向かって頼まれて断れるはずがない。想定通りである。ぱっとドットへ視線を戻すと、またピャッと飛び上がった。小動物のようだ。まったく。

「……だ、そうだ。いいか?ドット」
「あぁ……フィンが、良いなら……」

俯いたドットはもじもじと指をこねくり回している。いつか根本から指が抜けてしまうのではないかと思うが、それほど弱々しい手でもない。関節や骨の形がしっかりと浮き出た、逞しい手だ。でも短い爪は薄らと桃色がかって、なんとも言えず可愛らしい。その爪の先にキスをしたらどんな反応をするだろうか、と考えると妙にソワソワとしたが、ランスは不埒な気持ちを丁寧に腹の底に沈める。今はまだ、少しばかり早いだろう。
「単純接触効果」、というものがあるらしい。
要は顔を合わせる時間を増やせば増やすほど相手からの好意を得やすくなる、ということらしいが、同室である以上今更さほどの意味はないだろう。とはいえ、あの夜の一件で分かりやすくこちらを意識しているドットからいま目を離すのは得策とは思えない。
ドットは頬杖をついてランスの反対側を向いた。耳ばかりか無防備に曝け出されたうなじまで赤く染まっている。ついと指先を伸ばして首筋を撫でると、「ひぁ!?」と声を上げてこちらに振り向いた。

「……ッなんだよ!」
「もう少し詰めろ。座れない」
「そっ……そういうのは、口で先に言えよな……」

段々とトーンを下げた声で言いながらドットはじりじりと反対側に身を寄せる。始めから、空いたスペースに座れない訳ではなかった。ただ、「相手に意識させるにはさりげないボディタッチ!」だとかなんとかいう雑誌の言うことを実践しているだけである。効果のほどはよく分からない。ただ、いちいち律儀にオーバーリアクションを返すドットにランスの方がドキドキとしてしまって困る。コイツはちゃんと、ランスの意図通りにこちらを意識しているのだろうか。本気で嫌がっている訳ではなさそうだ、ということくらいは分かる。一部始終を見ていたフィンが口を手で抑えて何か思わせぶりな視線を寄越している辺り、それなりに成功しているとは思うけれども。真っ赤な髪にちらちらと見える耳たぶに触れたい気持ちが浮かび、ランスはきゅっと拳を作ってそれを我慢する。こっちに振り向かないかな。あの顎のラインを撫でて、強制的に振り向かせたらどうなる。そこまでいくと「さりげないボディタッチ」を逸脱するだろうか。そんなことを考えていると、ぱっと赤髪が翻る。頬を染めたドットが人差し指を鼻先に突きつけた。

「お前、見過ぎ」
「は?」
「視線がうるせぇ」

ふすふすと鼻を鳴らすドットは、気まずげではあっても困ったように身を捩るだけだった。それを認めてランスは笑う。ぱちくりと瞳を丸くするその表情さえ愛らしかった。

「……お前に振り向いて欲しくて、見つめていただけだ」
「〜〜〜ッ、この、クソイケメン」

褒めているのか貶しているのか定かではないことを言いながらドットはランスの肩を拳で殴りつける。本気の彼の拳はもっと痛い。猫パンチのようなまるで力の入っていないそれに、ランスは再び笑みを深めた。



***



そんな調子で日々ドットに茶々を入れながら過ごしていると、段々フィンが白けた視線を向けてくるようになった。ランスにしてみれば彼は客観的な視点と思って良いだろうから、我ながら分かりやす過ぎる行動が他から見てもやはりあからさま過ぎるアプローチなのだろうと思う。……それでもあの単細胞に通じているのか甚だ疑問ではあるが。照れてばかりのドットは、困惑した様子ではあるものの、決定的にランスを拒むことはない。それは丁度、あの夜の時のように。

結局のところ、ドットはランスのことをどう思っているのだろうか。

ランスは当然のように「押せばいける」と思っているのだが、ことドットとなると、この想定が正しいか甚だ疑問である。ぼちぼち引くべきか、このまま押して押して押しまくって告白までしてしまう方が良いか、悩んでいるうちに、そっとドットのヘッドボードに戻ってきたものがある。夢を見せる魔法道具である。
間違いなく今朝はなかった。一応はランスの魔力を込めた道具にランス本人が気が付かないはずがない。放課後ドットがどこぞへと出掛けて行った後に我が物顔で鎮座するそれは、あの夜以来忽然と消えていたものだ。見た瞬間、腹が立って衝動的に魔法道具を壊してやろうと思った。アレはまた、どうして夢の中のランスばかりを気に掛ける。分解して中に刻まれた術式を確認したが、相変わらずランスが手を加えた状態のまま、「夢の中に必ずランスが現れる」とされていた。

ドットの意図が分からない。
なぜ今更、この魔法道具を必要とする。
現実のランスが、ドットに構っているというのに?

息をゆっくりと吸って、吐いて、ランスは心を整える。ここで魔法道具を始末してしまうのは、簡単ではあるがあまりに短絡的過ぎるだろう。
相変わらず、アイツは。
ランスの心を掻き乱すだけ乱して、決定的なものを何ひとつ与えようとはしない。
ランスはぐしゃぐしゃと自分の髪を乱して、奥歯を噛み締めた。



***



日が沈んだ後戻ってきたドットと隣室のマッシュとフィンとレモンのいつものメンバーで夕食を摂り、風呂を済ませてベッドを整えている間にも、ランスはじりじりと焼け付くような焦燥を感じていた。とはいえ、積み立てるように戦略を練り、その為に努力し、事態が変わるまで根気良く待つことは、得意な方だ。それこそ神覚者を目指して級硬貨を集めていた時のように。

「うひー」

ひょっこりと姿を現したドットは風呂上がりらしくいつもは上げてセットされた髪を下ろしていた。ドライヤーはしたのだろうけれど、少しばかりしっとりとした風情はいつものようにランスの胸の内を忙しなくさせる。けれど、今日重要なのはそんなことではない。

「ドット」

冷えたミネラルウォーターのペットボトルを開けながら椅子へ向かって爪先を向けていたドットは、ランスの呼びかけに瞳を丸くさせた。小首を傾げながらのこのことこちらへ近づいてくる。ちょこんとサイドチェストにペットボトルを置いたところで、ランスは素早くその手首を捕らえた。

「うぉっ!?……なんだよ」
「……これは、なんだ?」

彼の顔の高さに魔法道具を掲げて見せる。嵌め込まれた魔法石は相変わらずの使用可能の緑色だ。一応言っておくが、今回ランスは魔力を込め直してはいない。
ぱちぱちと瞬きをしたドットは、やや気まずそうに視線を逸らした。なるほどドットにもコレを居た堪れなく感じる程度の感性はあったのか、と八つ当たりめいたことを思った。キュッと唇を噛んだドットがゆるゆると口を開く。固唾を飲んでランスはそれを見守った。

「オレの魔法道具だろ。なに勝手にいじくってんだよ」

だいぶ耳の痛い話だ。
しかしランスはまなじりを吊り上げる。ドットが知っていようがいまいが、この魔法道具で夢に現れるのはランスである。であれば、出演料くらい巻き上げたって構わないのではないか。ランスが出て来るよう再設定したのは自分でありこの言い分にはだいぶ無理があるとは分かっているものの、無理とは押し切るものである。じっとドットの瞳を見れば、なぜか向こうから瞳を逸らした。

「……好きなひとの夢をみる魔法道具、だったか?」
「…………」
「お前は今夜、誰の夢をみるつもりだ」

ドットの答えがどうあっても、自分の苛立ちは収まらないだろうことは分かっていた。レモン・アーヴィンの名前であれば言わずもがな、たとえランス自身の名前があがったとしても。ドットの夢に現れるランスはランスであってランスではない。ドットが頭の中で都合よく作り上げた幻想である。「夢の中のランスの方が良かった」なんて言われた日には、重力でなにを押し潰すか分かったものではない。
じっとりと睨め付けるランスを見もせずに、ドットはあからさまに慌てた。掴まれたままの手を引っ込めようとしたり、ランスの手が離れないとみるや、うろうろと忙しなく視線を彷徨わせてみたり。正直に言うと、かなり可愛い。しかし勿論、可愛い仕草をしてみせればなんでもかんでも許すほどこのランス・クラウンは甘くないのだ。……可愛いけれども。

「あー……その、」

ドットは握られた手を取り返すのは諦めて、困ったように頬を掻いた。目元まで薄っすらと頬を染め、落ち着かなげに体を揺らす。そしてそっと、上目遣いでこちらを覗き込む。ランスとドットの身長はほぼ変わらない。だから上目遣いになるには、ちょっぴりだけ首を傾げたり身を捩らねばならない。それはもう、なんともあざとい仕草であった。苛立ちを募らせていたランスの心を揺らす程度には。

「ン゛ン゛ン゛ッ」

感嘆じみた声を咳払いで誤魔化した。
ランスのプライドとして、ドットに自分の心の中を気取られるのはなんだか嫌だった。鈍感め、早く気が付け、と日々思っていることと矛盾しているのは分かっている。それでもなお揺れる心は恋心という奴だろう。持ち主でさえ、計り知れない。
そんな物騒なものを向けられている本人は本当に何を計るでもなく首を傾げた。

「ランス?」
「……なんでもない。……なんだ?」

平静を装えたであろうか。ドットは困ったように鼻の頭を掻く。ちょこんとした小さな鼻先が妙に視界に入った。

「その……バカにしねぇ?」
「……物による」
「…………じゃ、なんでもない」

ぷい、とドットが明後日の方向に顔をやる。

「おい、ドット」
「も、物によるってなんだよ、バカにしてんのかよ」
「してない」

きゅっと手首を掴む手に力を入れると、そこからトクトクトクと早鐘を打つ鼓動が聞こえる。思わず顔を覗き込むと、一歩後退りしたドットは拳を頬に当てるようにして顔を隠す。けれど少し湿った髪の先に隠れた耳が赤い。それこそ綺麗な飴細工のように。思わず首を伸ばして、甘い色をしている耳たぶに齧り付く。

「ひょわ……っ!?」

想像よりは甘くはなかった。けれど階段を駆け上がるような心臓の音にふっと笑みが溢れた。くいっと顎を持ち上げて至近距離でドットの瞳を覗く。ゆらゆらと揺れる宝石のような瞳に、ランスの心もぐらぐらと揺れた。これは、もう押して良いんじゃあなかろうか。とはいえ寝ぼけたドットにその、いろいろしてしまったあの夜の二の舞は避けたい。……であるが、この顔である。ぽやぽやとしたドットの表情はけしてランスを拒んでいるようには見えない。いや、さすがに「拒む様子ではない」にせよ、それで強引に事を進めて良いという話にはならない。……いやいやいや、とはいえドットのこの様子は、と、ランスの中の天使と悪魔が脳内で猛烈に争い合う。表情を上手く保てず、眉間に皺が寄った。ランスの脳内を知らないドットは些か不安げにこちらを見つめている。

「……怒ってんの?」
「おこってない」

ドットはぎゅうと顔を顰める。全然、信用されていない。
まぁ、怒っているかと言われると、すこし、怒っている、かも、しれない。だいたいなんなんだ、この状況で「怒ってんの?」とは。可愛い。言葉のチョイスが既に可愛い過ぎる。コイツはどうなっているんだ。ランスは掴んだ手首をついと引いて手のひらを握る。そういえばいつか、この爪の先にキスをしたらどうなるか、なんて考えたことがあったな。そんなことを思いながらドットの小さな爪にキスをする。

「……ッ!」
「……お前が夢に見ようとしていた人間を、教えてほしい」

顔を真っ赤にして瞬きを繰り返すドットが口の中でもごもごと悪態を吐く。その響きほど瞳は嫌そうではないのを確かめてランスは笑った。それを認めてドットの頬が膨れる。

「ばか、あほ、このくそイケメン……」
「悪かったな」
「くっそー……」

声が萎むと同時に、ドットも頭を抱えてしゃがみ込む。その手だけは、ランスに握られて掲げたままだった。

「…………」

これは、一体どういう状況だろうか。
何やら妙な雰囲気になって、ドットが物凄く照れている、ということはよく分かるのだが。顔を隠すように俯いたその姿からは、ちょこんと覗く耳くらいしか見えない。

「…………」

ランスは辛抱強く待った。
才能がある故に、局所的には何でもかんでも拙速に進めがちなランスとして、かなり努力をしたと思う。目の前で耳の先まで真っ赤に染めて、明らかに自分に気がありそうな想い人が口を開くまで待ったのだから。褒められたって良いくらいだ。ちらりと腕の隙間からこちらを見上げる視線があまりにも可愛らしくて、ランスはぎゅっと奥歯を噛む。でなければ、耳たぶどころかどこまでもかぷかぷと噛んでしまいそうだった。

「ゆっ、……夢に出て来るヤツは誰か、確かめようと思ったんだ」
「…………」
「その……、好きなヤツの夢を見せる魔法道具だから、それを使えばオレが本当に好きなヤツは誰か分かると思って……」

ランスはしゃがんで、ドットと視線を合わせた。う、と言葉に詰まったドットは後退り、そのままぺしゃりと腰を床につける。その顔にそっと自らの顔を寄せた。

「魔法道具なんか使わなくとも、好きなヤツくらい分かるだろう」
「しょっ……しょーがねぇじゃん、……だって、その、踏ん切りが……」
「…………」

踏ん切り。
これは、もう、良いのではないか。
ほとんど白状したも同然ではないか。
いやでもしかし、と自分の中で反論する自分が萎んでいく。つうっとドットの指の股を撫でながら、ランスはこの後の自分の行動をゆっくり思案した。その不穏な間は、「待つ」という状態にひどく似ていた。けれどそれほど思い遣りに満ちていた訳ではない。

「ドット」

短く呼んだ名前は、ほとんど命令だった。顔を上げてこちらを見ろ、という。聞いたドットが意味を正確に掴んだかどうかは分からない。けれどゆっくりと、ドットが視線を上げる。もごもごと何か言いたげに蠢く口先はランスを誘っているようだった。ぐっと踏み込んで、ドットの方へと体重をかけた。鈍いのか聡いのか、ドットはその仕草で慌ててランスを押し返そうとするが、あまりにも体勢が不利すぎた。しかしそれでもドットの右手がランスの唇を隠すように覆う。

「ま、待って、待った、すとっぷ」
「んぐぐ……」

これ以上、何を待てというのか。
ランスの言いたいことは分かっているのか、弱り切った顔でドットは眉を下げ、しかし首を左右に振る。何か本人の中で踏ん切りがついたらしく、きっと眉を吊り上げてこちらに挑み掛かるように見つめて来る。ランスは、少し意外な気持ちのまま僅かばかり身体を引いた。そのまま床に腰を落ち着けると、ほ、と安心したように息を吐き出したドットがゆっくりとランスの口から手を離す。

「だから……おっ、お前がっ!夢に出て来ると思ったんだよ!」

一世一代の大告白……というような表情で、しかし顔を真っ赤にしたドットはその先の言葉を紡がない。仕方ないと、片手はドットの手を握りしめたままランスは肩をすくめる。

「…………それで?」
「〜〜〜っ分かンだろ!ここまで言えば!」
「ちっとも分からん」

この期に及んで言い渋るドットの気持ちなど。
じいっと顔を覗き込んでいれば、唸り声を上げたドットは小さく「くっそー……」と呟いた。

「ゆ、夢にお前が出てしたら……、ちゃ、ちゃんと、告白しようって思ったんだ……」
「……夢のオレに会わなくっても、分かるだろうが」
「……だって……」

モゴモゴと何事かを呟いたドットが俯く。髪が影を作って顔がよく見えない。それが嫌で、ランスはそっとドットの髪を梳き、頬を撫でる。そうっと上向く顔が、その瞳が、雄弁にドットの胸の内を伝えた。ランスは自分の唇がむずむずとするのを感じた。その気持ちが何かと言われると大変困るのだが、湧き上がる感情をなんとか留めて額に唇を押し当てる。丁度、怒りに身を任せた時に十字の痣が浮かぶその場所に。

「オレも好きだ、ドット」
「ふぁあ……」
「……だから、金輪際、その魔法道具で見た偽物のオレに会おうとするのは辞めてくれ。付き合って早々に浮気か?」
「……………。………いや、それはさすがに違くね?浮気とは呼ばなくね?」
「明らかに浮気だろう。悪いが、お前の妄想の中のオレでも容赦はしない」

ランスは深く頷いた。どこか瞳を眇めたドットが、「なんでオレこんなヤツのこと好きになっちゃったんだろう……」と呟いた気がするが、何はどうあれ言質は取った。好きだと思ってくれるならばそれで良い。
そっと、そのまろい頬に自らの頬を寄せて擦り付ける。きゅっと身体を丸めるドットは満更でもなさそうに笑い声を上げた。

「ランス」

短く呼ぶその声は、悪戯っぽく耳に響く。両手でランスの頬を挟んだドットは、身体を伸ばしてチュっとキスをした。意外すぎるその行動に、ランスは呼吸さえ止まる。

「えへへ。……奪っちゃった」

ほわほわと微笑むその顔に目眩を覚え、ランスの身体はぐらりとよろめく。それを照れくさそうにドットが首を傾げて見つめていた。

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***



実のところランスはどうしてこうなったのかよく覚えていない。ドットからキスされて、頭が真っ白になった。多分その後、めちゃくちゃに唇を奪って、力の抜けた身体を少々乱暴にベッドへと引っ張り上げたんだろうと思う。そこまでは朧げな記憶がある。床でことに及ぶと硬くて痛いだろうと、配慮出来るほど頭が回っていた訳ではない。恐らくその手の営みは、夜にベッドで行うもの、という埒も明かないランスの性常識がなせる技である。気が付いたら、真っ白いシーツに寝転んだドットがこちらを見上げていた。とろりと蕩ける瞳が飴細工のように美しい。コイツの身体はひょっとしたら、どこもかしこも飴で出来ているのかもしれない。

「……んぁ、ランス……」
「…………なんだ?」

我ながら、声が甘苦しい。どろどろに砂糖を煮詰めたような自分の声は、ふつふつと茶色く濁っていくような、危うい響きがあった。わかっているのかいないのか、ドットは動揺するランスの頬をそっと指の腹で撫でた。そして、ちいさく呟く。

「……なァ、お前も、」

脱いで。

その声を耳が拾った瞬間、カッと頭に血が登った。鼻血を出していないのは、たぶん何か運が良かっただけだろうと思う。何をどうされるのか、分かっているのかいないのか定かではないドットはしかし、夢見るような瞳でこちらを見上げてくる。夢の中のランスへこんな表情を向けていたのかと思えば腹も立つが、それ以上に目の前の人間に食らいつきたくて仕方ない。

「……ッ、」

正直、パジャマのボタンを面倒に思った事はこれまでなかった。けれど自分の分も、ドットの分も、脱がせるのには億劫過ぎる。逸る気持ちのままシャツを脱ぎ、脱がしている間にドットの手が腰に這う。予想外に積極的な動きに瞠目していると、身体の下の赤毛は気まずそうに視線を逸らす。

「見んな。……ハズいだろ」

如実に目の前がクラクラとした。これは、本当に現実か。いや夢であっては困る。更に言えば、夢なんかで済まされては困る。ドットの頬を撫でて視線を戻させると、不服そうに唇が尖っていた。その可愛らしい口先にチュッと触れて、ランスは首を振る。

「見せろ。……可愛いんだから」
「は……はぁ!?」
「かわいい。……世界一。だから、ちゃんとこっちを向け」

言いながら身体を撫でさすり、下半身の布も取り去る。自分も下着ごとズボンを脱いでその辺に投げ散らした。その衣類が落ちる方向を確かめるのすら惜しい。ぴたりと触れ合う素肌は、触れるだけでじんじんと痺れるくらい、妙な感動があった。ほんの少し、ドットの方が体温が高い。それがじんわりと溶け合っていく。

「んっ」

身体の輪郭を確かめるように指先で辿り、額に、頬に、首筋に唇を落とす。それにいちいち反応してドットは身を小さく縮めた。それでも宥めるようにキスを続けていると、ゆっくりと力が抜けていく。

「ランス、」

名前を呼ばれて、彼の言いたいことが手に取るように分かる。そっと頬に置かれた手を更に上から撫でながら、その唇にキスをした。最初は触れるだけ。次第にそれでは我慢できなくなり舌を絡ませ口腔に忍び込む。ちゅるりと吸い込んだ唾液がひどく甘く感じて、堪らない気持ちになった。はむはむと下唇を食んでいると、ドットの腕がランスの首の後ろへと回った。空いた脇をそうっと撫でると、くすぐったそうに身を捩る。
どれほどそうしていたのだろう。
ずっと唇をくっ付けていたい気持ちと息苦しさとで、ギリギリまで辛抱して、どちらからともなく身体が離れる。はぁはぁとした息遣いが顔に当たり、照れ臭さにドットの首筋に顔を埋めた。先ほどよりも汗を帯びた身体は、舐めれば少し塩っぱい。それに少しばかり驚いている自分に笑ってしまう。

「ランス……?」

不安げにドットが名前を呼ぶ。可愛い。もっと読んで欲しい。こめかみにキスをするとふるりと目蓋が震えた。ぎしりとベッドが軋む。ドットが身を捩った音らしい。腰骨を撫でると、ころりと身体が逃げる。横を向いた身体をひと撫でして顔を覗き込むと、ぎゅうっと何かを耐えるように瞳を強く瞑っていた。

「ドット?」
「あっ、あのさぁ!オ、オレ男なんだけど……!?」
「……?……知っているが?」

腕を、腿を、揉み込むようにさする。確かに硬い筋肉を感じた。同じ歳、同じ性別、同じ体重、そして、同じように「無邪気な淵源」事件に戦力として呼ばれる人間としては、妥当な範疇の肉体だ。ふにふにと二の腕を揉み、ふと、肘の内側に口付ける。筋肉の弾力を感じる他の部分と違って、そこは少し柔らかい。

「ひょわっ」

はむ、はむ、と手のひらの方へ向かって甘噛みすると、やはり少し汗ばんだ身体は思ったよりも塩味がする。指先をちゅうっと吸うと、手のひらを唇に押し当てたままドットを見る。信じられないものを見るような瞳でランスを見返すその顔は、耐えられないとばかりにシーツに懐く。まるで無体を働いているかのような心地がしたが、とはいえ寝ぼけたドットに挑みかかるほどひどい行動もしていないと思う。我ながらどうしようもないことだが、一度最低の行動をしてしまうと、何をやらかしても「アレよりはマシか……」と思ってしまう。眼前にある無防備な耳たぶをかぷりと食んだ。歯先に戻る弾力を確かめながらべろべろと舐め回す。

「んっ、……んッ、……らんす、ちょっと待って……!」
「…………なんだ」
「だっ、だから、……オレ、男だから、」

この期に及んで何を、とランスが顔を上げると、そこには悩ましく眉を寄せている真っ赤な顔があった。そして内緒話をするように顔を傾け声を潜める。

「たっ、……ちゃうんだけど」

なんだコイツは、本当になんなんだ。
苛立ちに似た衝撃が胸を駆け抜ける。
なんのために服なんか脱いだと思っている。双方「勃っちゃう」ようなことをする為だろう。ランスは自分が挑発されているのか、ドットが本当に天然なのか測りかねた。ただいずれにせよ看過出来まい。
ぐっと肩を押して、ドットの身体を正面へ向けさせた。しかしドットはさっと両手で局部を隠してしまう。思わず舌打ちが漏れた。

「な、何するんだよ!」
「見せろ」
「ヤだよ、……ちょ、ばかばかばかばかっ」
「バカはどっちだバカ」
「ランスほど立派じゃないんだって!ちょ、むりむりむりむり」

なんで今ランスのブツを褒めた?……あぁもう、本当に意味がわからない!周囲の人間は、ランスを「天才」と誉めそやす。実際自分も、要領が良いタイプだと思っている。そんなランスでも計り知れない人間がドット・バレットという男だ。時に頭から火が出そうなほど苛立たしいし、……時に眩暈がするほど愛おしい。
ランスはチッ、とひとつ舌打ちをして、ドットの手を股間から退かせるのは諦めた。しかし代わりにぐっと自分の腰をドットの股ぐらに擦り付ける。

「ぅあ、あっ……?……な、……っ!」
「……はぁっ……見せなくてもいい、から、……付き合え」
「ぇあ、ちょ、ランス……!」

ぐり、ぐり、とランスは自身の熱く滾った陰茎を押し付けるように腰をゆらめかせる。押し除けようとしたのか、反射的に動かしてしまったのか、浮いたドットの手を取って、自分のそれを握らせる。

「あ、あつ……っ」
「当たり前だろう」

至近距離で瞳を白黒とさせているその額に自分の額を擦り付ける。はぁ、と漏れた息は我ながら熱い。

「好きなヤツと、裸で触れ合ったら、男はこうなる」
「……ッ」

その表情はただ照れているばかりで嫌悪感など微塵も浮かんでいない。顔中にキスをして、ドットの手をゆっくりと上下させる。その度にドットの動きは少しぎこちなくなりランスの局部はどくどくと熱を持つ。下腹部に血が集中して頭が回らなくなってくるが、それでも度々「ふわぁあ、」とか「ひぇ……」とか、小さな声で感嘆し震えるドットが愛おしい。
ふと、太ももに自分以外の熱が触れる。見ればぎゅうっと瞳を閉じたドットの手はシーツを掴み皺を作っていた。見られるのが嫌と言っていただけなのだから触れるのは良いだろう。そう都合よく解釈して、そこに自分の腰を押し付ける。

「……ッあ」
「ふ……っ、」

見なくとも、しっかりと勃ち上がったドットの陰茎は熱い。それをランスの物と一緒に掴み、ドットの手に握らせた。

「ふぁああッ、ランス……!」

シーツを掴んでいたはずの手がランスの肩に掛かる。ちり、と痛みが走って爪を立てられたのだろうと知るが、その動きはランスを引き剥がそうとする動きではない。むしろ、縋り付こうとする動きであった。可愛い。かわいい。どうしてくれよう。
浮き出た喉仏を喰む。口の中で舐め回して前歯をぐっと押し当てる。愛咬が残れば良いのに、と強めに力を入れれば痙攣するようにドットの身体が震える。それを自らの体重で抑えつけて、更に顎に力を入れた。

「…あっ、……んんんッ♡」
「……ふ……っ」

手の中のドットの陰茎が震え、熱い飛沫を迸らせる。ランスの手で、達した、と思った瞬間なんとも言えない充足感に、ランス自身も絶頂に達した。ドットの肩口に顔を埋めると、はぁはぁと荒い息を溢すドットの腕がきゅうと抱き付いてくる。堪らない気持ちになって、目の前にある首筋に吸い付いた。そのまま顎先にキスをし、頬にキスをし、唇にキスをする。

「……ん……♡」

小さく上がる甘い声に胸の奥が騒めいて、その衝動に任せてやや乱暴に舌を捩じ込んだ。ぬるぬるとした粘膜が重なり合うのが気持ちいい。

「んっ♡…………ッ、んー!んー!」

陶然とキスを続けていると、バシバシと肩が叩かれた。少しムッとしながら唇を離すと、「ぷはぁ!」と大きく息を吐き出されて更にムッとした。情趣がない。

「……おい」
「しょ、しょーがねーじゃん、息、苦しくなっちゃったんだから……」

ドットも悪いとは思っているのか身を縮める。実のところ、もう少し文句を言ってやりたい気持ちがあったが、ちらちらとこちらを窺う顔が可愛らしいので渋々ながら諦めた。髪を梳き、露わになった額にキスをして自分の感情を宥める。

「ひゃっ」

ランスが身体を動かしたせいか、2人の身体の間でぬちゃりと音が響く。汚れたままの右手でドットの陰毛を擽り、更に奥まで指先を伸ばすと、ドットの身体が再び跳ねた。すりすりと窄まりを撫でるが、当然ぴっちりと締まったそこにはランスの指が挿入るような余地はない。どうしたものか、としばし思案する。この前のように、素股でも悪くはない。けれど折角想いが通じたのだから、身体を重ねたいとも思う。なるべく隙間なく、ぴっちりと。往生際悪く尻を撫でていると、ドットが「あー、」とか「うー……」とか唸り、震える手でベッド脇に置かれたサイドチェストを指差す。

「あそこ、……その、ボディクリームなら入ってるけど……」
「…………」
「む、無言になるのやめてくんね!?」
「………………」
「ま、待った待った待った、超怖いんだけど!?」

逆に問いたいのだが、貴様はオレをどうしたいんだ。
浮かんだ気持ちは言葉にならず、ただ引き出しの中にあるボディクリームを出してくるくると蓋を開けるばかりである。興奮し過ぎて息が苦しい。手のひらに出したクリームをなんとか尻のあわいに擦り付ける。量が多過ぎたのか、にちゃ、と鳴る音が余りにも卑猥であった。

「ドット、」
「……ひゃっ」

自分の声は、地を這うようであった。焦げてきな臭ささえ感じるその音に自分を嗤う余裕もない。

「……いいんだな?」

今更「ダメだ」と言われたところで引き返せもしない癖に、確認を取った自分の行動がちっとも理解出来ない。けれど少し強張った顔のまま、ドットは間違いなく頷いた。それに、ほ、と息が漏れる。

「……ぁっ」
「ドット、……ドット」

何も含ませたことがないだろう窄まりは、当然の如くボディクリームの滑りがあってもなかなか指先ひとつ入らない。けれどこの状況で、ドットに受け入れる気があることが何よりもランスを興奮させた。皺の一本一本にクリームを塗り込める傍ら、その顔中にキスをする。誘うように覗く舌に食い付いて、けれど苦しそうな素振りがあったら身を引いて、自分の身体をコントロール出来ていることが信じられない。理性なんて最早、欠片ほども残ってはいないのに。

「……んぁ……♡」

気が付けばドットの唇はどちらのものか分からない唾液で濡れそぼっていたし、見上げる瞳はとろんと熱を帯びていた。後孔に沈む指も3本になり、ぬちゃぬちゃと水音を立てながらスムーズに出入りする。扱いて準備するまでもなく熱く勃った陰茎を後孔に押し付けると、くぷ、と吸い付くように窄まりが蠢く。危うく飲み込まれそうになって、ランスは息を詰めた。そこに、か細く自分を呼ぶ声がする。咄嗟に視線を下げれば、ドットはへにゃりと笑った。

「ランス……」
「……っ、」
「好きだ……」
「…………ッ!」

この期に及んでコイツは!
今日は何度、頭の中でドットを罵倒したかは知れないが、今のは輪をかけて酷い。こちらは十分、ドットに配慮を示して慎重に慎重を重ねて事に及んでいるというのに!ランスの真心などちっとも理解しない目の前の可愛い男は、ランスの首に腕を絡めてチュッとキスをした。あまつさえ、唇を離すと、えへへ、と笑ってさえ見せた。この、ランスのどうしようもない気持ちが分かるだろうか。

「こ、の……っ」
「んんんっ、」

腰をほんの少し進めるだけで、柔らかくほぐれたそこはぬぷぬぷとランスを飲み込んでいく。言おうと思った文句はその甘い締め付けの中で霞んで分からなくなった。

「……ッんぁっ♡ あっ♡ あっ♡」
「…………っ」

ランスは内心混乱していた。気持ち良すぎる。ドットの可愛らしい嬌声は直接的に脳を焼く。狭いそこを割開くように突き入れて、腰を引けば内壁が甘く絡みつく。もう止まらない。

「……ひぁっ、あぁあッ♡♡♡」
「………ふ…っ、……んっ」

射精したのは、一体どちらが先であったか。そんな瑣末な事どうでも良くなるくらい気持ち良い。くったりと力を失ったランスを収める後孔は、震えるように蠕動して熱く甘く陰茎を締め付ける。息を吐くより先にドットの目尻にキスを落とせば、肩を縮めて嬉しそうな笑い声が下方から聞こえた。

「ランス……」
「……なんだ」
「………、…きもちい……」

その言葉が感嘆文だったのか疑問文だったのか、この至近距離で聞いたのによく理解出来なかった。けれどどちらでも然程の変わりはないだろう。乱れた髪を指先でそっと撫で付け、顔を露わにさせる。こちらを見上げる瞳は相変わらずぽやぽやとしていた。出会った頃はもう少し、眼光鋭かったはずなのに、と思ったところで妙に得心が行った。なるほど、これがドット・バレットが恋している時の瞳か。思えばずっとこの瞳に見つめられていたのに、周囲のありとあらゆる物に嫉妬していたランスは他人のことを言えないほど鈍かったのかもしれない。

「ドット、」
「……んぇ?……ふぁあっ!?」

脱力しているドットの腕を引っ張って、その身体ごと身を起こす。胡座をかいた膝の上にドットを乗せるようにして抱き止めた。繋がりっぱなしの後孔から重力に従ってどろりとランスが出した精液が流れ出すのを感じる。実際に咥えさせられているドットは悲鳴混じりに身を捩った。

「ひぁ……っ♡ ちょぉ……っ」
「…ドット、」
「あっ♡ あっ♡ まっ、待って、これ、へん……ッ♡」

逃げかける腰を掴んで、もがく腕を抱き締める。足をランスの腰に沿わせるように開かせれば、密着したままドットの身体はぴったりとランスに重なる。無論、ランスを食い締めたままの後孔も、その熱い杭の上に、ぴったりと。

「……ッぁああぁあっ♡♡」
「っ……、」

声に合わせてきゅうきゅうと後ろが締まり、こぷりと先ほどよりも深くランスを飲み込む。奥へ奥へと誘うようなその動きは、余りにも気持ち良過ぎて目の前がチカチカとした。仰け反るドットの背中を支えながら、背骨を数え上げるように指でなぞると、ドットの方からもぎゅうっとこちらへ抱き付いてくる。

「……ぁっ♡ あっ♡ や♡ ふかぃいい……っ♡」

ランスの肩に顎を乗せ、背中に爪を立てるドットは浅い息を繰り返す。背中をそっと撫でてやるだけでも強張り切ってぶるぶると震える。どこもかしこも奇妙に力の入った身体は当然ながら後孔もぎゅうぎゅうに締め付けて、しかしほんの少しランスが身体を揺らすだけで甘い嬌声が溢れた。

「……ぁっ♡ ゆさゆさ♡ しちゃあ……っ♡」

ぱさぱさとドットの髪が頬に当たる。首を左右に振っているのだろう。可愛い。あまりにも可愛い。

「ふ……、……かわい、」
「……ッらんすっ♡ ぁあっ♡」
「くっ付け、もっと……っ」
「んんんんっ♡」

言われるがままドットがランスに抱き付く。思わずその頭を撫でてやると、ドットの額が首筋に擦り付けられる。2人の身体の間でドットの陰茎が擦れ、ぐちゅっと音を立てた。

「……ッあ♡ ぁあッ♡♡♡」
「…………くっ、」

ゆすゆすと軽く身体を揺さぶっているだけなのに、感じ入ったドットの興奮が後孔を締め付け、その刺激でランスは絶頂に達する。2人の間にもいつの間にか熱い飛沫を感じる辺り、ドットも達したらしい。脱力した身体を抱き締め撫でていると、はぁ、と首筋に甘い息が掛かる。

「らんす……」
「ん、」

上気する頬に口付ける。照れくさそうに瞳を瞑ってランスのキスを受け入れたドットの瞳は、まだ欲が渦巻いていた。その唇に掠めるようにキスをして、顔を覗き込む。

「……ドット」

もういっかい。
どちらからともなく唇を重ね、貪りあった。



***



「あー!コレ見ろよランス」

言いながら身体を寄せて、ドットが配信記事を指差す。ランスはドキドキと不健康な程に高鳴る胸を抱えながら、素知らぬ顔で指の示すところに顔を向けた。まったく。ドットは心臓に悪い。相変わらず。

「リコールだってよ」
「…………」

それは見覚えがあり過ぎる魔法道具のリコール記事であった。「ヨクネムレール」シリーズの新商品「安眠⭐︎パーフェクトドリーム」は分解し中の魔法術式を容易に書き換えることが可能となっており、魔法道具管理局の安全基準を満たしていなかった。目立った被害報告はないものの、他人の夢に干渉し健康被害を引き起こす恐れがある事から全ての商品を回収する。また、「好きなひとの夢が見られる」も誇大広告として指導を受け、同社はお詫び広告を掲載するものとする──
やはりと言うべきか、妥当な処分にランスは黙り込んだ。普通に、市場に出回って良い魔法道具ではなかったことは確かである。それは、他人の魔法道具を勝手に改造したランスが太鼓判を押す。しかししょんぼりと肩を落としたドットがため息をついた。

「……コイツ、手元に残しといちゃダメかな」
「ダメに決まっているだろう」
「だよな……」

はぁ、とドットは再びため息を吐く。

「お前と両想いになったきっかけの魔法道具なのに……」
「ン゛ン゛ッ」
「……?ランス?」

思わず変な声が漏れそうになって、すんでで咳払いで誤魔化した。いやドットが首を傾げている辺り、誤魔化せてはいないかもしれないが。ランスは心持ち深呼吸をして、ゆっくり慎重に言葉を紡ぐ。

「魔法道具管理局のトップはフィンの兄だろう。隠しておいてもいずれバレる」
「あー……そっか」
「それに……夢でなんか見なくとも、いつも現実のオレがいるだろう」
「…………ッ!」

顔を真っ赤にしたドットは「この、ばか、イケメンめ!」と唸りながらランスの背中をバシバシ叩く。今回ばかりはこの八つ当たりも甘んじて受け入れてやろう。

「…………」

リコール商品は二度と元の所有者の手には戻らない。これできっと、ドット・バレットはランス・クラウンが掛けた魔法に気がつく事はないのだから。

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