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pictBLand
作品ID2646227
投稿日2026年09月21日 17:03
文字数27,521字

カナリヤ 20

3本線編2/2です。最終話⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝!!! 大きくなった杖の形状は、敢えて書いてないので適当に妄想して下さい。ただし、「ワースくんにはただしい杖の形が分かっているけど周囲からはワースくんが空間の切れ目に手ェ突っ込んでるように見える」謎設定があります⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝笑 これ本編読んだ人は伝わると思うんですけど、1/2でツララ様がソフィナさんを揶揄うのは、彼女だけが全然問題ないことを知っていたからです⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝小ネタ笑 今回もR指定部分あるのですが、最後の幕間(禁書ちゃん視点)をその後に投稿しています。私的にはR指定部分も含めて作品な気がしてるので、そのままの流れで読んで欲しいからこういう投稿の仕方をしておりますが、未成年&R指定ダメな方はこのまま最後の幕間編に飛んで下さい。


かつて、「吸血鬼の真祖」と呼ばれた化け物がいた。

言論学者、古文辞学者、魔法生物学者、化石研究者、その他様々な学者の中で正確な分類は意見が分かれる。ただひとつ確かな事は、この化け物は「吸血鬼ドラキュラ伯爵」と呼ばれ、好んで女性の血を吸い自らの配下とし、多数の死者を出しながら大陸を横断して、最後には当時の魔法生物学者兼医師のエイブラハム・ヴァン・ヘルシングを代表とする討伐グループに封印されたということである。魔法界では有名な話だ。魔法史で必ず習う。吸血鬼殺しの英雄エイブラハム・ヴァン・ヘルシングを以てしてもドラキュラ伯爵の討伐は叶わなかった。だからドラキュラ伯爵の肉体は棺に収められ、ヘルシングの末裔が管理・監視を行っている。……その筈である。

(……リトルデビル、意見はあるか)

ううーん、とワースの魔導書は困ったように唸った。「たぶん、あれはホンモノだねぇ」と。ワースは眉を顰める。びりびりと身体を刺すような独特の威圧感は、リトルデビルの言葉を信じるに相応しい禍々しさであった。
「一応「わたし」、ドラキュラ伯爵と会ったことがあるんだよね」と、更にとんでもないことを言い始めたリトルデビルにしかし、さもありなんとワースは黙る。なんせ、魔導書の知覚は人知を遥かに超える。直接相見えた記録がなくとも、同時代に生きていれば或いは、空間を超えて「会ったこと」があるかもしれない。その推論にリトルデビルは肯定を返した。しかし、ただし、と注釈が戻る。「アレは多分、本人の一部だと思う」と。

(……なるほど、伝説級の吸血鬼だから封印する時に身体も分けたのか)

そう言われてみれば、ワースも吸血鬼伯爵にさほど関心がないので深く調べたことはなかった。棺が複数あるのはもっともな話である。たぶんそう、とリトルデビルからの返事も戻る。さすが英雄エイブラハム・ヴァン・ヘルシング!とワースが膝を叩くまさにその瞬間、禁書からの追加情報が入った。「アレは頭」。ワースにとって絶望的な知らせだ。

(ダメじゃん!!)

吸血鬼はその名の通り血を吸う種族である。退治するためには口の中にニンニクを詰め込み、十字架で心臓を打つ必要がある。単なる人間のワースもかなりうげっとする退治方法だが、当のドラキュラ伯爵はこれで死んでない。それだけ魔法的にも生物的にもしぶとい。他人の血から魔力を得るのであれば、頭だけでも充分脅威だ。肉体を分けた封印がそれぞれ連動していれば、頭だけで人を襲い血を飲んでいる間に全身を取り戻しかねない。

「…………」

事件の概要がようやくワースにも飲み込めてきた。
この距離でワースもドラキュラ伯爵の気配に気付ける程だ、あの棺の封印は解けかかっていると見て良い。けれど開けるにはまだ足りない。遠目で確証こそ持てないが、魔法陣の描きぶりから見ても、封印自体はあと数十年くらい間違いなく保つ。通常、封印魔法にも種類があって、手順を守り魔力を込めると解けるものと、対抗する魔法をぶつけてこじ開けるものとに大別される。あの棺の封印魔法は明らかに後者だ。床に描かれた魔法陣は封印魔法の対抗術式。つまり、棺にかけられた封印魔法を破れるだけの魔力を何者かが込める必要がある。これをワースの魔導書の魔力でやらせようという腹だろう。

(……バカなのか?)

魔法陣は基本的に、魔力が少ない人間が使う術だ。補助的な魔力インクを用いて、時間を掛けて準備をする。これだけの量の魔法陣を刻んだ努力は認めよう。だがそれは、誘拐犯たちの力の無さを示しているだけだ。いま杖を持たないとはいえ、さすがに魔法陣に頼りきりの人間に負けるほどワースは弱くもない。問題は、どうやって魔力供給を行うつもりか、ということか。当然ワースに協力する意思はない。どう頼まれようとも。力づくが無理なら魔力集積能力が高いリトルデビル本体の強奪の可能性は、なくはないが、それなら最初に捕らえた時にしているべきだし、何よりすでに所有者がいる魔導書に所有者以外が命令を下すことはできない。

(あり得るとしたら、洗脳魔法、幻覚魔法、人質や何らかの脅し……)

有効な可能性があるとしたら後者だ。いつかの事件のように、相手を操る魔法道具によりセコンズを使わされたフィンとワースは根本的に違う。防衛魔法はそれなりに修めているし、そもそも魔法に対する抵抗力が生まれつき1本線のフィンより2本線のワースの方がある。精神を操る魔法はなかなか難しいのだ。人質に取るとしたら……と順に近しい間柄の人間を思い浮かべるが、学生を含め、誰ひとり静かに人質になってはくれなさそうである。むしろ、まさに、この場所。地下室におり、リトルデビルの最大火力で吹っ飛ばしたら容易く潰れてしまいそうな建物にいる今のこの状況は、ある意味危険かも知れない。信者なのか使用人なのかわからないが人間が多過ぎる。これが崩壊したら……。ううーん、とワースは思わず頭を抱えた。誘拐犯たちが分かっているかは定かではないが、ワースとの忍耐勝負というよりは、リトルデビルとの忍耐勝負になる。……どちらかと言えば、魔導書がうっかりキレて誘拐犯たちが殺されないように、ワースが宥める方向の。滅多なことはしないで欲しい、切実に。

(リトルデビル、俺に何か魔法を掛けられそうになったら問答無用で防御してくれるか)

いつものように「わかったー!」と元気の良い返事が戻る。術者を殺さないように念入りに言い付けて、ワースはため息を吐く。

(……本当に、ドラキュラ伯爵を起こすのが狙いなのか?確かにモノはやべーけど、冷静に考えるとこれで成功するとは……)

はっきり言って無謀なのだ。この計画を立てた者はよっぽどバカか、まだ他の手があるとしか思えない。……いやどうだろう。結構単純に人質のワースが出て来られてしまったし、見張りがあの寮長だったことを踏まえるとそこまでは考え過ぎなのかもしれない。取り敢えず地下3階まで降りて、魔法陣の記述を確かめてからでも遅くはないだろう。外に張られた結界魔法をどう破るか、まだ方針は決まっていない。せめて杖か、魔法インクのひと瓶でも見つかれば使える手は増える。見取り図の案内に従って、とにかくそれっぽく見えるようにワースは足を動かす。暫くして階段があると思しき扉を見つけたが、当然のように閉まっている。ワースの部屋につけられていた魔法よりもやや複雑だ。というか。

(これモロに禁書管理局で使われてる結界魔法じゃん!)

結構基礎的な形式の魔法が使われている。少し逡巡して、しかしワースは胸の内に抱いたリトルデビルを開き手を翳す。
罠かも知れない。というか、罠の可能性の方が大いにあり得る。禁書管理局1年目が扱うような超初歩的な封印魔法だからだ。ワースを誘拐したならば、どう考えてもこの封印魔法を使うのは不適切である。……が、ここまで来たら「エイブラハムの棺」の封印がどの程度破られているのか、床に書かれている魔法陣がどのような内容かを確かめてから脱出した方が良い。十中八九、中にいるドラキュラ伯爵を復活させようと目論んだならば、たとえ名門ヘルシング家に連なる貴族であっても罰を受けるだろう。開いた扉に身を滑り込ませるようにしてワースは階段を進む。光魔法も一切ないが、リトルデビルのナビゲートがあれば特に見えずとも支障はなかった。自分の足音ばかりが響く。

(そもそも、なんでこんなところにドラキュラ伯爵の頭部なんかあるんだ?)

普通、こんな危険物はヘルシング本家が扱うはずだ。何らかの理由で騙されて貸し出してしまったのか、あるいは何かの手違いで盗まれたか。そんなに簡単に貸し出すとも思えない。しかし状況として、盗まれる方が輪をかけてあり得ない。……が、無理矢理想定するならば、「盗まれた」とした方が、やや納得がいく。もしもワースがヘルシング家の立場であれば、間違っても管理下にある危険物を盗まれたとは言えない。魔法局にも相談しづらいだろう。それを見越してこの杜撰な計画なのか?

「…………」

ようやく階段が終わり、再び扉が現れた。触れればやはり、入り口同様簡単な結界魔法である。怪しい。怪し過ぎるが、進んでみないことにはなんともならない。

(行くぞ)

リトルデビルが扉の先をスキャンした限り、やはり1番大きな棺の気配以外に気になるものはない、との回答だった。ゆっくりと開き、すぐさま柱の影に隠れる。吹き抜けになっている分、上から誰がみているかは分からない。近場から魔法陣を読んでいくしかあるまい。

(しっかし、まじで古い……)

一応古代の文法には覚えがある方だが、それでもかなり読みにくい。しかもその多くが吸血鬼を賛美する内容であるから、かなり困る。術式に本来関係がない記述なのだ。その割には文法の誤りがないから、本気でこの施設がなんなのか気になる。

(……さっきは随分前に書かれたものだと思ったけど、たぶん違う。結構最近になって書かれたやつだ……)

なんせ、文法に比べてインクが新しい。
どんな魔法であれ、時間が経てばゆっくりと魔力は抜けていく。死者の肉体なんかが代表的であるが、普通、どれだけ効率の良い魔力の込め方をしても経年劣化には敵わない。だが書かれた魔法陣は、いつ発動してもおかしくない程の瑞々しさである。足りないのは魔力。確かに。でも、そうであるならおかしい。

(……この棺は一体いつ、ここに運ばれたんだ?)

魔法陣は、事前に書いて準備しておくものだ。それ以上でも以下でもない。この屋敷の形から考えるに、初めから棺を安置するために準備されたと言われても納得してしまうかも知れない。けれど、本当にそうか。

(あ、そっか。家紋がないから)

ヘルシング家や、それに連なる家系の人間は、当然自分の持っている血筋に対しての自尊心が高い。当然である。英雄の血筋だから。その屋敷であれば、そこかしこの意匠に家紋が使われる。もしもその英雄の血筋の人間が封じたドラキュラ伯爵を復活させようとなるならば、そこには彼らなりの何か正当性を主張するものがあるはずだ。正当性を訴えられるならば、そもそも家紋を隠す理由がない。

(こんなコソ泥みたいな真似をするか?)

そこまで考えた瞬間、足元で何かが発動してごっそり魔力が抜かれる。

「……!?」

慌てて飛び退くが、妙な虚脱感が重く肩にのし掛かる。目を凝らすと、先程までいた地点に崩れていく魔法陣が見える。薄い色の魔法インクで描かれた魔法陣?あんなところに?役割を果たした魔法陣が空気に溶けるように消える。ワースは悪態を吐いた。考え事をしていたせいで、リトルデビルからの「あ、ちょっとまずいかも、」の信号への反応が遅れた。

(なんだ今の……!)

リトルデビルから素直な「分からない」の返事が戻る。ごもっともである。

(魔法インクに床に紛れる色なんか聞いたことねぇんだけど……!?)

いやこの暗さだ。調合割合を弄れば意外と……というか、目の前に巨大で不穏な魔力が鎮座しているせいで、ワースもリトルデビルも気がつくことが出来なかった。奪われた魔力は棺に集積され、さらに存在感が増す。元々リトルデビルの魔力探知は対生物に特化していて無機物を「視る」のは得意ではない。もちろんこの魔法陣も、同様だ。未訓練の波動魔法を選択出来るくらいだ、この点もひょっとすると知られていたのかも知れない。

(どうする……!?)

もう少し身を隠すか、いっそ吹き抜けから飛んで離脱するか。魔法陣が起動した以上何者かがこの講堂に入ったことはバレているだろう。入り口の階段は使えない。

「……ぐ……っ!」

暗がりに向けて踏み出した瞬間、また魔法陣が起動して魔力が抜かれる。思わずワースは膝を付いた。

やばい。
かつてないピンチだと思う。冗談抜きで。

(こんなんアリか……!?)

ありかなしかで言えば、恐らく「あり」だ。自分の中の冷静な部分が即座に判定を下す。
恐らく魔法陣の設定上「泥魔法使いの魔力を奪う」としているのだろう。たとえばここでうっかり杖や魔法インクが手に入ったところでワースの魔法のベースは泥魔法だ。魔法陣そのものを攻撃した瞬間に魔力が奪われる。
ドラキュラ伯爵を目覚めさせるのに必要な魔力がどれだけか分からないけれど、良くて魔力を奪われたワースの為にリトルデビルが魔力供給し続けて魔力暴走を引き起こすか、悪くてドラキュラ伯爵が目覚める。八方塞がりとはこのことか。ふすふすと怒る魔導書の表紙を撫でながら宥める。術者を攻撃されているのだから魔導書が怒るのは当然だ。しかしいま、この出力で「怒り」を示されては、……たぶん普通に地下階がドラキュラ伯爵の棺ごと埋まる。リトルデビルが泥魔法系統の魔法を使わなければ伯爵は目覚めずに済むが、数百人程度いる地下室の人間は関係なく生き埋めとなる。ようは人質だ。先ほどの想像が冗談ではなくなる。敵ながらよく考えていると舌打ちしたくなった。魔法局はある意味で「正義の味方」だ。裁判も受けさせていない、今回の企みにどの程度関わっているかも分からない、たかだか奇矯な宗教を信仰していた程度の人間を犠牲にすることはできない。

(……ここに)

泥魔法使いでなければ良いのだから。

(オーターがいれば……!)

あの砂魔法の鋭さならば、数百の人数がいたとて相手にはならない。即刻制圧する姿が目に浮かぶようだ。……いやバカなことを考えていないで知恵を絞らないと、そう思った瞬間、拍手が鳴り響いた。ワースは思わず身を固める。

「その魔法陣を2度も踏んで意識を保っているとは素晴らしい」

悠々と歩いてきた人物には見覚えがあった。というか、禁書管理局で知らない人物の方が珍しい。

「副、局長……!?」

好々爺然とした男は、にやりと笑った。

「その魔法陣は泥魔法に特化して魔力を奪うものだ。さてワース1級魔法陣技師、条件を絞った魔法陣を描く利点は何かな?」
「…………発動効率が上がる」
「素晴らしい」

いやらしい拍手音が轟く。ワースを禁書管理局内での役職名でなく資格名で呼ぶところが1番いやらしい。
禁書管理局に幹部は数人いるが、ぶっちゃけワースは副局長をあまり知らない。いや、一般的なことは知っている。禁書を所有する名門出身者で自身は禁書使いではない。けれど結界魔法や波動魔法に秀でている。ソフィナとの関係性が悪いとは一切聞いたことはない。というかそもそも、ワースは圧倒的な能力を持つ神覚者を引き摺り下ろそうとする人間が同局内にいることに、昨夜から驚いている。寮長をはじめ、そりゃ多少の不満がある人間が居たとしても、ソフィナは全く、良い上司のはずだ。……まぁ、どうやら目の前の副局長にはそう映っていないようであるが。
リトルデビルに魔法陣を探してマッピングするように言い、意識的に深く息を吸う。魔力が尽きてこの場に倒れでもしたら、何が起こるか分からない。

「しかし、まさかあの部屋から出てくるとは思わなかった。本当に杖なしで禁書を制御出来るんだねぇ」
「……杖をお返し頂ければ、もう少し面白いものを見せられますけど」

副局長は肩をすくめた。

「キミたちの実力は知っている。さすがに私1人ではキミの禁書は抑え込めない」

よく言う、とワースは悪態を吐きかけたが、辛抱する。寮長は挑発したところで問題はなかったが、目の前の人物は違う。恐らく外に張られている結界魔法はこの男が作った結界だ。アレのお陰でだいぶリトルデビルの「視界」は遮られた。……とはいえ、最終的にここが「魔法局から半径10km圏内」と割り出したのだから、それを使って揺さぶるべきか。敢えて隠すべきか。……いや、今はとにかく会話を長引かせて、リトルデビルが周囲の魔法陣の様子を掴む時間を稼がねばならない。

「…………アレ、「エイブラハムの棺」でしょう?どこからそんなものを?」

考えて、全く関係ない話題を振ることにした。下手にリトルデビルの性能をアピールして警戒されても、まぁ今更ではあるが、よろしくはない。副局長は、場面にそぐわず、破顔した。

「良い質問だ、ワースくん。アレは正真正銘、ヘルシングの分家から借り受けたものだ。……ソフィナ・ブリビアの局長印を使用してね」
「…………!」
「彼女の捺印がある時点で当然関与が疑われる。ついでにソフィナ・ブリビア逮捕の号外を出しておいたから今頃魔法局は大忙しだろう」

なるほど、計画が杜撰であった理由が分かった。屋敷に囚われたワースは重要ではなかったのだ。逃げ出したとしても、外の結界魔法はさすがに杖なしでは解けない。「エイブラハムの棺」がある講堂に入ればどこかで魔法陣を踏み魔力を奪われる。どう転んでも構わなかったのだろう。

(ナメやがって……!)

ぐるぐると頭の中に言いたいことが様々巡る。けれど、ワースはひとつため息を吐いて全てを誤魔化した。

「他人の魔法印の不正使用は、法律に抵触しますけど」
「なに、問題ない。なんせドラキュラ伯爵の復活で全ての秩序はひっくり返る」
「…………」
「ここからは予定をお話ししよう、ワースくん。キミにはこれから、吸血鬼伯爵に魔力を捧げて貰う。復活したドラキュラ伯爵は自身を信仰していた数百の吸血鬼信仰者をすべて自らの眷属にしてしまうだろう。人の身で吸血鬼を討伐することは叶わないから、封印魔法が使用される」
「……そこで、活躍するって?」
「無論だとも」

副局長は鼻で笑うように胸を張る。

「いにしえより禁書を封じてきた我々なら当然」
「それまでに、どれだけ吸血鬼伯爵の被害が広がると思ってる……!」
「貴重な、しかし些細な犠牲だ」
「ンだと……」

演技でなく、本気で眉根が寄った。これを副局長として頂いていたのかと思うと嫌悪感さえある。しかしワースの憤りなど歯牙にもかけず、ふっと副局長は肩をすくめた。

「アザなしのマッシュ・バーンデッドも「無邪気な淵源」を倒して魔法界に認められただろう?我々が同じことをして何が悪い?」
「……話になんねーな」
「安心したまえワースくん。キミは貴重な禁書に取り憑かれた術者だ。ドラキュラ伯爵復活に尽力してくれるなら、ソフィナ・ブリビアを追い落とした後、キミにもそれなりの席を用意しよう」

ワースはゆっくり立ち上がる。恐る恐るといったように、魔導書が魔力を渡してくれるが、杖がないと力加減が分からないのだろう。多過ぎると魔力過多でぶっ倒れるから、仕方ない。与えられる魔力を慎重に身体の隅々まで行き渡らせる。勿論全然足りないが、ないよりずっとマシだ。本当によくやってくれている。魔導書の表紙をゆっくりと撫でてやる。

「助けは来ない。諦めたまえワース・ウォーカー」

一瞬、あれそっか、と思った自分にワースは苦笑した。いま現在アベルの養子になっているから、ワースの苗字は「ウォーカー」だ。魔法局内部での登録もそうなっている。けれど自分は案外、ずっと長いこと「ワース・マドル」だと自認していたようだ。それはきっと、家名を捨てた後、ずっとオーターと共にいたから。

「助けは来ない?」

知らん、そんなの。
他の誰が禁書管理局の危機に駆けずり回っていても、たぶんたった1人、オーターだけはワースを探してくれるだろう。信頼、というのとは少し違った。たぶん言葉をつけるなら、これは「確信」だ。
ワースは身を翻して、タッと暗がりに駆け出す。

「フン……じきに魔法陣の餌食だぞ」
「本当にそうだと思うか?」

何のために散々時間を稼いだと思っている。リトルデビルが真ん中の「エイブラハムの棺」周辺の魔法陣以外の解析を終えたから動き出したに決まっている。確かに泥魔法から魔力を奪う魔法陣は強力であるし、ワースのような泥魔法使いには危険極まりない。けれど、見えているなら避ければ良い。それだけの話だ。

「無駄なことを……」

遠ざかる声を聞きながら、ワースの足音は暗い回廊の中に紛れていった。

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北都
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