投稿日:2018年07月18日 23:26 文字数:6,917
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「理解」。甘めな琵琶主。サイトで連載しているものhttp://5w1h.minibird.jp/2018/05/26/struggle/の続き物です。
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カーテンが翻り、夕焼けが光の帯となって彼に降り注いでいたあの日。
砂漠の真ん中……あの煌びやかな街の中心で、彼がスポットライトを浴びて立っていたことを思い出した。
お前にはわからないと線を引かれたあの時。
闇に塗りつぶされた舞台の上と下に引き裂かれ、この手は決して届かないことを痛感した、あの瞬間を思い出した。
そして長い時間が経ち。
今、彼は自分の腕の中にいる。
***
最初の印象は「いいカモ」だった。
目深にかぶった帽子に、野暮ったい服装。このきらびやかな世界に似つかわしくない、浮いた東洋人。おそらくは、この街の派手な評判だけで覗きに来た田舎者なのだろうことは容易に察しがついた。だから、琵琶坂永至は人好きする笑顔に優しい声を塗り重ね、ひたすら優し気に話しかける。
「よかったらひと試合どうだい? キミ日本人だろう。同郷の縁ということで記念に、さ」
どれだけ田舎ものだろうがズレた格好だろうが、このラスベガスに来ている以上は彼も賭け事を楽しみに来たはずだ。同じ日本人であることに安心して金をこぼして行ってくれるならまさに儲けもの。せいぜい勉強代だと思って搾り取られて行ってもらおう。そんなことを考えながら、心の中でほくそ笑んだ。
だが、そのカモは少し考え込んだ後、予想外の答えをよこす。
「……遠慮しとく。初心者狩りはマナー違反だ」
しん、と辺りが静まり返ったような気がした。実際は、変わらない喧騒が二人を取り巻いていたのだが、心の上ではそのように錯覚する。
自分は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。空気が音を立ててひび割れたのかと思ったほどだ。
「しょしんしゃ……?」
思わず、彼の言葉を反芻する。聞き間違いかと思ったが、野暮ったい格好の男はおうむ返しした言葉にうなづいて見せ、すまなさそうな笑顔すら浮かべていた。
こちらを侮る目。自分より実力の低いものを気遣う……平たく言えば、舐めている顔。
ああ、と合点が行く。先ほどひび割れたのは空気ではなく、自分の……琵琶坂永至のプライドだった。
「貴様……!」
「おいカズ、次おまえだろ早くしろ!試合、呼ばれてるぞ!」
ようやく状況を把握し激昂した。声を荒げ、相手に詰め寄りかけた矢先、その出鼻をくじくように向こうの方から別の男が割り込んできた。
「まじで!?やば!」
カズ、と呼ばれた男はそれを聞くと、慌てた様子で琵琶坂に背を向けてしまう。
ものすごい勢いの駆け出しだった。慌てて手を伸ばすが、その指先は肩をかすめることすら叶わずむなしく空を切る。
「おい、待て!」
叫んで後を追った。見慣れたカジノの景色はあっという間に背後へと流れ、開けた場所へたどり着いたところでようやくその背中が射程範囲内に入る。
追ってくる人の気配に気づいたのか、そこでようやく帽子の男はこちらを振り返った。
帽子からこぼれる黒髪の隙間から、いたずらっ子が浮かべるような不敵な笑みが垣間見る。目が合った瞬間、茶化すように舌を出された。
この、とさらに怒りを膨らませ強く踏み出したが、そこでなぜか琵琶坂のほうを引き止める力がかかった。
「パスはお持ちですか?」
現地の言葉でそう問いかけられる。それはまったくの第三者で、恐らくは現地のスタッフらしい人間だった。
邪魔されただけでも腹が立つのに、彼はなぜか琵琶坂だけを引き止め、あのカズという男とその友人らしき東洋人は素通ししてしまう。苛立ちはいよいよ頂点に達しそうだった。
「はあ!?最初に身分証は見せただろうが!ほかになにを、」
「代表選手用のパスです」
その『選手』という言葉に、ひどい違和感を覚えたのをまだ覚えている。
意味がわからない、という趣旨の言葉を紡ごうとして、その声は突如として湧き上がった歓声にかき消された。
反射的に振り返った瞬間、琵琶坂は自分が先ほどとまったく雰囲気の違う場所へ迷い込んでいたことに気づく。
いつのまにか照明が落とされ、辺りは薄暗くなっていた。耳をつんざくような歓声は熱狂的で、それを発する全ての人間が壇上に注目しているのがわかる。
勝手気ままに賭博を楽しむ輩ばかりのこの街で、これほどまでに一体感を感じたのは初めてだ。
ねこだましでも食らったように、胸の内の苛立ちが引いていく。それほどまでに、今のラスベガスは琵琶坂の知らない顔を見せていた。熱狂の波が、体を透過して入り込んできたような心地がした。
そして自分の目線ほどの高さの壇上に、突如としてスポットライトが当たる。
(あの男はさっきの)
カズ、と、すぐ近くで名を呼ぶ声が聞こえた気がした。ついさっき見たばかりの野暮ったい服装そのままで、その男は壇上に現れた。
スポットライトが彼を追う。彼だけを浮かび上がらせ、逆にそれ以外を黒に塗りつぶす。そう、琵琶坂さえも。
そして帽子が外され、その顔があらわになる。濡れたような黒髪の、あどけない印象がまだ残る青年だった。
あのスタッフが言っていた言葉がふとよみがえる。
(選手……)
壇上で歓声を一身に受け止め不敵に笑う姿は、たしかにパフォーマーのそれではない。それならもっと客に媚びるような雰囲気があるはずだ。
このカズという青年から感じるのは、ただただ肌が焼けるような戦意だけだった。まるで歓声など聞きなれたとでもいうような、不遜ささえ感じさせる振舞いだった。
ライトを追う。視線がさらわれる。ふと考えた。さきほどまでくすぶっていたあの苛立ちがまだ生きていたとして、今の自分は彼にそれを投げつけられただろうか。
答えは「NO」だ。だってきっと、そんなことをしても歯牙にもかけてはもらえない。
「これより準決勝、第1試合を開始します。両者、握手を」
あの場所に立てるのは、そんな傲慢を許された勝者だけ。なんとなくそれを悟った。
自らの実力で他者をなぎ倒し、勝利したもの。砂のような凡人の山から掬い上げられた数粒の宝石。世界には、そういう存在にのみ許される権利がたしかにある。琵琶坂はその考え方に強く賛同する人間だった。なぜなら彼は、自分自身もその宝石の一粒だと確信していたからだ。
もちろん、世界には自分以外にも宝石はいるのだろう。だが琵琶坂は自分の人生で宝石たる人物を見たことはなかったし、それは彼にとって存在しないこととほぼ同義だった。
だけれど、その日。
自分を差し置いてスポットライトを浴びる彼の後ろ姿を見た日。
それは琵琶坂永至の世界に、ふたつめの宝石が現れた日だった。
砂漠の真ん中……あの煌びやかな街の中心で、彼がスポットライトを浴びて立っていたことを思い出した。
お前にはわからないと線を引かれたあの時。
闇に塗りつぶされた舞台の上と下に引き裂かれ、この手は決して届かないことを痛感した、あの瞬間を思い出した。
そして長い時間が経ち。
今、彼は自分の腕の中にいる。
***
最初の印象は「いいカモ」だった。
目深にかぶった帽子に、野暮ったい服装。このきらびやかな世界に似つかわしくない、浮いた東洋人。おそらくは、この街の派手な評判だけで覗きに来た田舎者なのだろうことは容易に察しがついた。だから、琵琶坂永至は人好きする笑顔に優しい声を塗り重ね、ひたすら優し気に話しかける。
「よかったらひと試合どうだい? キミ日本人だろう。同郷の縁ということで記念に、さ」
どれだけ田舎ものだろうがズレた格好だろうが、このラスベガスに来ている以上は彼も賭け事を楽しみに来たはずだ。同じ日本人であることに安心して金をこぼして行ってくれるならまさに儲けもの。せいぜい勉強代だと思って搾り取られて行ってもらおう。そんなことを考えながら、心の中でほくそ笑んだ。
だが、そのカモは少し考え込んだ後、予想外の答えをよこす。
「……遠慮しとく。初心者狩りはマナー違反だ」
しん、と辺りが静まり返ったような気がした。実際は、変わらない喧騒が二人を取り巻いていたのだが、心の上ではそのように錯覚する。
自分は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。空気が音を立ててひび割れたのかと思ったほどだ。
「しょしんしゃ……?」
思わず、彼の言葉を反芻する。聞き間違いかと思ったが、野暮ったい格好の男はおうむ返しした言葉にうなづいて見せ、すまなさそうな笑顔すら浮かべていた。
こちらを侮る目。自分より実力の低いものを気遣う……平たく言えば、舐めている顔。
ああ、と合点が行く。先ほどひび割れたのは空気ではなく、自分の……琵琶坂永至のプライドだった。
「貴様……!」
「おいカズ、次おまえだろ早くしろ!試合、呼ばれてるぞ!」
ようやく状況を把握し激昂した。声を荒げ、相手に詰め寄りかけた矢先、その出鼻をくじくように向こうの方から別の男が割り込んできた。
「まじで!?やば!」
カズ、と呼ばれた男はそれを聞くと、慌てた様子で琵琶坂に背を向けてしまう。
ものすごい勢いの駆け出しだった。慌てて手を伸ばすが、その指先は肩をかすめることすら叶わずむなしく空を切る。
「おい、待て!」
叫んで後を追った。見慣れたカジノの景色はあっという間に背後へと流れ、開けた場所へたどり着いたところでようやくその背中が射程範囲内に入る。
追ってくる人の気配に気づいたのか、そこでようやく帽子の男はこちらを振り返った。
帽子からこぼれる黒髪の隙間から、いたずらっ子が浮かべるような不敵な笑みが垣間見る。目が合った瞬間、茶化すように舌を出された。
この、とさらに怒りを膨らませ強く踏み出したが、そこでなぜか琵琶坂のほうを引き止める力がかかった。
「パスはお持ちですか?」
現地の言葉でそう問いかけられる。それはまったくの第三者で、恐らくは現地のスタッフらしい人間だった。
邪魔されただけでも腹が立つのに、彼はなぜか琵琶坂だけを引き止め、あのカズという男とその友人らしき東洋人は素通ししてしまう。苛立ちはいよいよ頂点に達しそうだった。
「はあ!?最初に身分証は見せただろうが!ほかになにを、」
「代表選手用のパスです」
その『選手』という言葉に、ひどい違和感を覚えたのをまだ覚えている。
意味がわからない、という趣旨の言葉を紡ごうとして、その声は突如として湧き上がった歓声にかき消された。
反射的に振り返った瞬間、琵琶坂は自分が先ほどとまったく雰囲気の違う場所へ迷い込んでいたことに気づく。
いつのまにか照明が落とされ、辺りは薄暗くなっていた。耳をつんざくような歓声は熱狂的で、それを発する全ての人間が壇上に注目しているのがわかる。
勝手気ままに賭博を楽しむ輩ばかりのこの街で、これほどまでに一体感を感じたのは初めてだ。
ねこだましでも食らったように、胸の内の苛立ちが引いていく。それほどまでに、今のラスベガスは琵琶坂の知らない顔を見せていた。熱狂の波が、体を透過して入り込んできたような心地がした。
そして自分の目線ほどの高さの壇上に、突如としてスポットライトが当たる。
(あの男はさっきの)
カズ、と、すぐ近くで名を呼ぶ声が聞こえた気がした。ついさっき見たばかりの野暮ったい服装そのままで、その男は壇上に現れた。
スポットライトが彼を追う。彼だけを浮かび上がらせ、逆にそれ以外を黒に塗りつぶす。そう、琵琶坂さえも。
そして帽子が外され、その顔があらわになる。濡れたような黒髪の、あどけない印象がまだ残る青年だった。
あのスタッフが言っていた言葉がふとよみがえる。
(選手……)
壇上で歓声を一身に受け止め不敵に笑う姿は、たしかにパフォーマーのそれではない。それならもっと客に媚びるような雰囲気があるはずだ。
このカズという青年から感じるのは、ただただ肌が焼けるような戦意だけだった。まるで歓声など聞きなれたとでもいうような、不遜ささえ感じさせる振舞いだった。
ライトを追う。視線がさらわれる。ふと考えた。さきほどまでくすぶっていたあの苛立ちがまだ生きていたとして、今の自分は彼にそれを投げつけられただろうか。
答えは「NO」だ。だってきっと、そんなことをしても歯牙にもかけてはもらえない。
「これより準決勝、第1試合を開始します。両者、握手を」
あの場所に立てるのは、そんな傲慢を許された勝者だけ。なんとなくそれを悟った。
自らの実力で他者をなぎ倒し、勝利したもの。砂のような凡人の山から掬い上げられた数粒の宝石。世界には、そういう存在にのみ許される権利がたしかにある。琵琶坂はその考え方に強く賛同する人間だった。なぜなら彼は、自分自身もその宝石の一粒だと確信していたからだ。
もちろん、世界には自分以外にも宝石はいるのだろう。だが琵琶坂は自分の人生で宝石たる人物を見たことはなかったし、それは彼にとって存在しないこととほぼ同義だった。
だけれど、その日。
自分を差し置いてスポットライトを浴びる彼の後ろ姿を見た日。
それは琵琶坂永至の世界に、ふたつめの宝石が現れた日だった。
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どちらのものともつかない、荒い息が聞こえる。ゆっくりと目を開くと、すぐ目の前に猫目石のような瞳があった。
怪物の瞳。実際には普通よりほんの少しだけ瞳孔が小さいだけなのだろうが、琵琶坂にはその異質さがよくわかっていた。
小鳥遊和詩。それがあの日『カズ』と呼ばれていた少年のほんとうの名前。琵琶坂に背を向け、決して届かない場所で不敵に笑っていた彼の正体。
あの眠らない街では指一本届かないと思えた存在が、何の因果か今はこんなにも近くにいる。あのときは露とも知らなかった心の傷も本性も全てさらけ出して、大人しく琵琶坂に抱かれている。
和詩自身はどうやら琵琶坂のことを覚えていないようだったが無理もない。現実とメビウスでは外見年齢が違いすぎるし、なにより琵琶坂にとっては印象深いあの記憶も、和詩にとってはきっと些細なことだからだ。
それを認めたくなくて、腹立たしくて、「前にどこかで会ったことがあるか」という質問には答えなかった。きっと和詩がみずから思い出すまで口にはしないだろう。
呼吸を整え、また唇を重ねる。早急に唇を開かせ、温かい口内をゆっくりと、だが確実に蹂躙していく。
「んっ…んぅ…っ」
和詩は息を奪われ苦しげな声を上げるが、そこに拒絶の色は薄い。それどころかその先をねだるような艶すら含んでいた。それが琵琶坂の支配欲を否応にもくすぐっていく。
ひどく緩慢で、長いキスだ。まるで雛が親鳥に餌でももらうように、離れてはまた秒をおかず唇がふれあい、熱っぽい声がこぼれ落ちる。今まで和詩のほうから愛撫やキスを望むそぶりは見せなかったが、今夜は違った。
「……っは…せん、ぱ……」
「今日はずいぶん気持ちよさそうじゃないか? まあ、素直なのはいいことだがね」
はだけたシャツの中に手を差し入れ胸の突起をいじると、やはり甘い声が断続的に聞こえてきた。
「あっ……っあ!?」
快楽にびくっと身体がはねたのを狙って、がら空きになった首筋に軽く噛みつく。太い血管があるそこからは、どくどくと鼓動に合わせたかすかな振動が感じ取れて、自分がこの少年の生殺与奪を確かに握っているのだと教えてくれていた。
本当に牙でも立てられると思っているのか、和詩は怯えたように体を硬直させて細い呼吸を繰り返している。そうしていれば、本当に小動物……普通のニンゲンにしか見えない。
だが、と琵琶坂はゆっくりと首筋から顔を上げる。
「本当に、いい目だ」
うっとりと話しかけ、その頬に手を添える。自分を見上げるその瞳はやはり尋常ではない色をしたままだ。
怯えているように思えるのは、この少年が衝動を必死に抑えているからだ。小鳥遊和詩が真に恐れるのは琵琶坂ではなく、自分自身の本性だけだから。
それをなだめるように、慰めるように愛撫を続ける。そうしているうちにだんだんと体が弛緩し、また甘い声が聞こえるようになる。
痛みと快楽。飴と鞭。
これは調教だ。琵琶坂永至にしかできない、この人食いの怪物を手なずける行為だった。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないか。僕はキミなんかには殺されないって何度言ったらわかるのかな? 部長くんは」
くつくつと笑いながら前髪をかきあげると、組み敷かれた部長の顔が赤くなるのが見えた。視線をそらそうとするのを、おとがいをつかんで阻止する。
「っもう、わかってるよ……」
空気を求めて、そして快楽から逃げようとあえぎながら、和詩が答えた。意外な抵抗に目を見開いてみせると、ひどく疲れたような笑みを浮かべて言葉を続ける。
「でも、長い間ずっと怯えてきたんだ。いや、怯えるようにしてきた、かな……だから、クセみたいなもんだ。っでも、本当は……」
そこで一度、呼吸を整えて。
「本当は、もう楽になりたい。ぜんぶ、先輩の言った通りだ」
絞り出すように。懺悔するように、うるんだ瞳で彼は答えた。
その言葉に思わず息をのむ。その間にゆっくりと和詩が両腕を伸ばし、琵琶坂を抱きしめた。そのまま、ぎり、と背中に爪を立てられてかすかに痛みを感じたが、それだけだ。綺麗に切りそろえられた爪は、几帳面さとは程遠い性格の彼には似つかわしくない。それもまた『怯えるようにしてきた』結果なのだろう。
「なら、僕は止めない。隣に置くなら、ニンゲンより怪物のほうがいい」
ほんとうにくだらない、と心の中で一蹴する。
そんな怯えなど、僕らには不要なものだ、と。
「ん……」
ただの吐息にも聞こえる声といっしょに、その細い顎が肯定の形に揺れた気がして、なぜだかすこし安堵した。とらえられ、錯乱し暴れる猛獣がやっと大人しくなったようだった。
飽きるほどしたキスをやっとやめて、どちらのものともわからない先走りとローションで濡れた下腹部に触れる。焦らすようにそこを撫でまわした後、硬くなったモノを見せつけるように後ろへあてがった。
はあ、と覚悟を決めるように吐息を吐いて和詩が自分を見上げる。やはり疲れのにじむ、けれどどこか期待と諦観の色を含んだあどけない表情だった。
「いい子だ」
抵抗するそぶりを見せないことを誉めて、ゆっくりと腰を進める。どれだけ慣らしても多少のきつさは否めないが、精神的な充足感が先だってさほど気にならなかった。
「あ…ッ、く、ぅ、ぅ……!」
痛みと息苦しさを逃がそうと浅い息を繰り返しながら、また縋るように和詩の腕が伸びてきた。それを受け入れるように身をかがめ、そのまま少々強引に奥へと入り込む。
「ひ…っあ!」
悲鳴のような声が聞こえて、びく! と腕の中の体が痙攣した。それと同時にナカがきゅっと締まり、侵入してきた琵琶坂自身を強く抱きしめる。
「……っ」
思わず自分も声を上げそうになって、済んでのところで飲み込んだ。
体が熱い。今まで何度も体を重ねてきたはずだが、今ほど理性の糸が心もとなかったことはない。柄にもなくがっついてしまっている自分に自嘲の笑みが浮かんだ。
でもあともう少し。そう心のなかで唱えて、和詩が逃げてしまわないよう、背中へ手を回して腰辺りをしっかりと捕まえた。
ぐちゅ、と卑猥な水音がかすかに聞こえて、腕の中の体が羞恥に震えるのがわかった。
「動くぞ」
努めて冷静に言って聞かせると、彼はほんの少しの間を空けたあとこくりとうなづいた。
「っあ、あっ、あ。あ。あ……っ!!」
返事が終わるより早く、ずちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、と、断続的にくぐもった音がして、体内にもぐりこませた熱いものが挿出される。何度も何度も、糸を引くような執拗さで内部を抉る。そうしているうちに最初は苦痛の色のほうが濃かった声がだんだんと色を帯びていくのがわかって、どうしようもなく気分が高揚した。
「あ、ぅ、……ッは…ぁ…そこ……っ」
とん、と奥を軽く突いた瞬間、和詩の声が一層甘やかさを増した。それを確かに聞き届け、乾いた唇を舐めて湿らせてからにやりと笑う。
熱に浮かされたような声を堪能しながら、先ほどねだられた箇所をしつこく突きあげる。望む快楽を何度も味わわされて、腕の中の少年は息も絶え絶えだった。
「……っ、は、どうしよ……これ、やばい、な……」
汗と白濁にまみれぐっしょりと濡れた髪の隙間から、怪物の目がこちらをぼんやり見つめている。
「なんだ」
言葉少なに問いかけてやると、夢うつつといった様子の表情で、ささやくような答えが返ってきた。
「めちゃくちゃ、気持ちいい……っあ!」
聞いたことのない、うっとりとした声だった。背筋に電気が走ったようになって、また口の端が吊り上がる。さらに熱を蓄えた琵琶坂自身が、和詩の中をまた激しく蹂躙し始める。
「は。そんなしおらしいことを言って、無理してるんじゃないかい? まだ少しつらそうじゃないか」
がくがくと乱暴に揺さぶってやると、やはり痛むらしく顔をしかめる。それを見て憎まれ口をたたいた。
痛みを耐えながら、しかし和詩はうっすらと微笑んで見せた。疲弊と一緒に、確かな幸福感を感じさせる表情だった。
「ん、痛い、けど……やっぱ、気持ちいいよ……」
そこで合点がいく。それはきっと、肉体的な快楽の話ではなかった。彼が言いたかったのは、心が自律の鎖から解き放たれたことの心地よさだ。上気した顔に浮かぶその幸せそうな顔が、短い言葉の中でなにより饒舌に語っていた。
そうして、疲れ切ったからだを持ち上げ、触れるようなキスを寄越す。
まちがいなく、和詩のほうから口づけをしたのは、これがはじめてだった。
はは、と乾いた笑いを残して、力尽き再び離れていく体を抱きとめる。そのまま一気に最奥まで貫いた。
「っあぁっ!?」
硬く抱きしめられ、逃げ場を失ったところへ一番の急所を貫かれ、びくびくと和詩の体が激しく痙攣する。もうほんの少しだって自力で動くことはできないだろうとわかる体を、それでも逃がすまいときつく抱きしめ、何度も何度も弱い部分を打ち付ける。
「せんぱ、いっ。先輩、っあ、あ、あ、あっ!」
生理的な涙を幾筋もこぼしながら、それでも名前を呼ぶ声はどこまでも甘い響きを含んでいた。ぐずるような、すがるような響きが嗜虐心と支配欲をさらに逆なでする。
「……うるさい」
満たされているはずなのに、裏腹な言葉が口を突いて出た。余裕は消え失せ、ぎゅっと一層強く自分を抱きしめてくるナカの心地よさに酔う。そのまま熱いものを欲望のまま吐き出した。
「あ、ぁ、あ……!」
されるがままに受け入れさせられ、本能的に逃げようと身をよじるのを阻止する。どくどくと注ぎ込んだものをすべて彼が飲み込みきらないうちに、再び律動を再開する。そうすると、流し込んだそれが粘つきながら奥へ奥へと押しやられていくのがわかってたまらなかった。
「和詩」
名前を呼ぶ。きっと気づきはしないだろうと高をくくって、ひどく小さな声量でもってささやいたその名前を、しかし和詩は聞き取ったようだった。余韻のような呻き声を混じらせながら、またあの満ち足りた笑顔がふわりと浮かんだ。
「カズでいいよ」
痛みと快楽と疲労で力尽きた彼の代わりにその意図を汲む。今度は琵琶坂が顔を寄せ、そっと触れるだけのキスが果たされた。
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Caligula CaligulaOD 主人公(Caligula) 琵琶主 琵琶坂永至 R18「理解」。甘めな琵琶主。サイトで連載しているものhttp://5w1h.minibird.jp/2018/05/26/struggle/の続き物です。
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カーテンが翻り、夕焼けが光の帯となって彼に降り注いでいたあの日。
砂漠の真ん中……あの煌びやかな街の中心で、彼がスポットライトを浴びて立っていたことを思い出した。
お前にはわからないと線を引かれたあの時。
闇に塗りつぶされた舞台の上と下に引き裂かれ、この手は決して届かないことを痛感した、あの瞬間を思い出した。
そして長い時間が経ち。
今、彼は自分の腕の中にいる。
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目深にかぶった帽子に、野暮ったい服装。このきらびやかな世界に似つかわしくない、浮いた東洋人。おそらくは、この街の派手な評判だけで覗きに来た田舎者なのだろうことは容易に察しがついた。だから、琵琶坂永至は人好きする笑顔に優しい声を塗り重ね、ひたすら優し気に話しかける。
「よかったらひと試合どうだい? キミ日本人だろう。同郷の縁ということで記念に、さ」
どれだけ田舎ものだろうがズレた格好だろうが、このラスベガスに来ている以上は彼も賭け事を楽しみに来たはずだ。同じ日本人であることに安心して金をこぼして行ってくれるならまさに儲けもの。せいぜい勉強代だと思って搾り取られて行ってもらおう。そんなことを考えながら、心の中でほくそ笑んだ。
だが、そのカモは少し考え込んだ後、予想外の答えをよこす。
「……遠慮しとく。初心者狩りはマナー違反だ」
しん、と辺りが静まり返ったような気がした。実際は、変わらない喧騒が二人を取り巻いていたのだが、心の上ではそのように錯覚する。
自分は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。空気が音を立ててひび割れたのかと思ったほどだ。
「しょしんしゃ……?」
思わず、彼の言葉を反芻する。聞き間違いかと思ったが、野暮ったい格好の男はおうむ返しした言葉にうなづいて見せ、すまなさそうな笑顔すら浮かべていた。
こちらを侮る目。自分より実力の低いものを気遣う……平たく言えば、舐めている顔。
ああ、と合点が行く。先ほどひび割れたのは空気ではなく、自分の……琵琶坂永至のプライドだった。
「貴様……!」
「おいカズ、次おまえだろ早くしろ!試合、呼ばれてるぞ!」
ようやく状況を把握し激昂した。声を荒げ、相手に詰め寄りかけた矢先、その出鼻をくじくように向こうの方から別の男が割り込んできた。
「まじで!?やば!」
カズ、と呼ばれた男はそれを聞くと、慌てた様子で琵琶坂に背を向けてしまう。
ものすごい勢いの駆け出しだった。慌てて手を伸ばすが、その指先は肩をかすめることすら叶わずむなしく空を切る。
「おい、待て!」
叫んで後を追った。見慣れたカジノの景色はあっという間に背後へと流れ、開けた場所へたどり着いたところでようやくその背中が射程範囲内に入る。
追ってくる人の気配に気づいたのか、そこでようやく帽子の男はこちらを振り返った。
帽子からこぼれる黒髪の隙間から、いたずらっ子が浮かべるような不敵な笑みが垣間見る。目が合った瞬間、茶化すように舌を出された。
この、とさらに怒りを膨らませ強く踏み出したが、そこでなぜか琵琶坂のほうを引き止める力がかかった。
「パスはお持ちですか?」
現地の言葉でそう問いかけられる。それはまったくの第三者で、恐らくは現地のスタッフらしい人間だった。
邪魔されただけでも腹が立つのに、彼はなぜか琵琶坂だけを引き止め、あのカズという男とその友人らしき東洋人は素通ししてしまう。苛立ちはいよいよ頂点に達しそうだった。
「はあ!?最初に身分証は見せただろうが!ほかになにを、」
「代表選手用のパスです」
その『選手』という言葉に、ひどい違和感を覚えたのをまだ覚えている。
意味がわからない、という趣旨の言葉を紡ごうとして、その声は突如として湧き上がった歓声にかき消された。
反射的に振り返った瞬間、琵琶坂は自分が先ほどとまったく雰囲気の違う場所へ迷い込んでいたことに気づく。
いつのまにか照明が落とされ、辺りは薄暗くなっていた。耳をつんざくような歓声は熱狂的で、それを発する全ての人間が壇上に注目しているのがわかる。
勝手気ままに賭博を楽しむ輩ばかりのこの街で、これほどまでに一体感を感じたのは初めてだ。
ねこだましでも食らったように、胸の内の苛立ちが引いていく。それほどまでに、今のラスベガスは琵琶坂の知らない顔を見せていた。熱狂の波が、体を透過して入り込んできたような心地がした。
そして自分の目線ほどの高さの壇上に、突如としてスポットライトが当たる。
(あの男はさっきの)
カズ、と、すぐ近くで名を呼ぶ声が聞こえた気がした。ついさっき見たばかりの野暮ったい服装そのままで、その男は壇上に現れた。
スポットライトが彼を追う。彼だけを浮かび上がらせ、逆にそれ以外を黒に塗りつぶす。そう、琵琶坂さえも。
そして帽子が外され、その顔があらわになる。濡れたような黒髪の、あどけない印象がまだ残る青年だった。
あのスタッフが言っていた言葉がふとよみがえる。
(選手……)
壇上で歓声を一身に受け止め不敵に笑う姿は、たしかにパフォーマーのそれではない。それならもっと客に媚びるような雰囲気があるはずだ。
このカズという青年から感じるのは、ただただ肌が焼けるような戦意だけだった。まるで歓声など聞きなれたとでもいうような、不遜ささえ感じさせる振舞いだった。
ライトを追う。視線がさらわれる。ふと考えた。さきほどまでくすぶっていたあの苛立ちがまだ生きていたとして、今の自分は彼にそれを投げつけられただろうか。
答えは「NO」だ。だってきっと、そんなことをしても歯牙にもかけてはもらえない。
「これより準決勝、第1試合を開始します。両者、握手を」
あの場所に立てるのは、そんな傲慢を許された勝者だけ。なんとなくそれを悟った。
自らの実力で他者をなぎ倒し、勝利したもの。砂のような凡人の山から掬い上げられた数粒の宝石。世界には、そういう存在にのみ許される権利がたしかにある。琵琶坂はその考え方に強く賛同する人間だった。なぜなら彼は、自分自身もその宝石の一粒だと確信していたからだ。
もちろん、世界には自分以外にも宝石はいるのだろう。だが琵琶坂は自分の人生で宝石たる人物を見たことはなかったし、それは彼にとって存在しないこととほぼ同義だった。
だけれど、その日。
自分を差し置いてスポットライトを浴びる彼の後ろ姿を見た日。
それは琵琶坂永至の世界に、ふたつめの宝石が現れた日だった。
砂漠の真ん中……あの煌びやかな街の中心で、彼がスポットライトを浴びて立っていたことを思い出した。
お前にはわからないと線を引かれたあの時。
闇に塗りつぶされた舞台の上と下に引き裂かれ、この手は決して届かないことを痛感した、あの瞬間を思い出した。
そして長い時間が経ち。
今、彼は自分の腕の中にいる。
***
最初の印象は「いいカモ」だった。
目深にかぶった帽子に、野暮ったい服装。このきらびやかな世界に似つかわしくない、浮いた東洋人。おそらくは、この街の派手な評判だけで覗きに来た田舎者なのだろうことは容易に察しがついた。だから、琵琶坂永至は人好きする笑顔に優しい声を塗り重ね、ひたすら優し気に話しかける。
「よかったらひと試合どうだい? キミ日本人だろう。同郷の縁ということで記念に、さ」
どれだけ田舎ものだろうがズレた格好だろうが、このラスベガスに来ている以上は彼も賭け事を楽しみに来たはずだ。同じ日本人であることに安心して金をこぼして行ってくれるならまさに儲けもの。せいぜい勉強代だと思って搾り取られて行ってもらおう。そんなことを考えながら、心の中でほくそ笑んだ。
だが、そのカモは少し考え込んだ後、予想外の答えをよこす。
「……遠慮しとく。初心者狩りはマナー違反だ」
しん、と辺りが静まり返ったような気がした。実際は、変わらない喧騒が二人を取り巻いていたのだが、心の上ではそのように錯覚する。
自分は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。空気が音を立ててひび割れたのかと思ったほどだ。
「しょしんしゃ……?」
思わず、彼の言葉を反芻する。聞き間違いかと思ったが、野暮ったい格好の男はおうむ返しした言葉にうなづいて見せ、すまなさそうな笑顔すら浮かべていた。
こちらを侮る目。自分より実力の低いものを気遣う……平たく言えば、舐めている顔。
ああ、と合点が行く。先ほどひび割れたのは空気ではなく、自分の……琵琶坂永至のプライドだった。
「貴様……!」
「おいカズ、次おまえだろ早くしろ!試合、呼ばれてるぞ!」
ようやく状況を把握し激昂した。声を荒げ、相手に詰め寄りかけた矢先、その出鼻をくじくように向こうの方から別の男が割り込んできた。
「まじで!?やば!」
カズ、と呼ばれた男はそれを聞くと、慌てた様子で琵琶坂に背を向けてしまう。
ものすごい勢いの駆け出しだった。慌てて手を伸ばすが、その指先は肩をかすめることすら叶わずむなしく空を切る。
「おい、待て!」
叫んで後を追った。見慣れたカジノの景色はあっという間に背後へと流れ、開けた場所へたどり着いたところでようやくその背中が射程範囲内に入る。
追ってくる人の気配に気づいたのか、そこでようやく帽子の男はこちらを振り返った。
帽子からこぼれる黒髪の隙間から、いたずらっ子が浮かべるような不敵な笑みが垣間見る。目が合った瞬間、茶化すように舌を出された。
この、とさらに怒りを膨らませ強く踏み出したが、そこでなぜか琵琶坂のほうを引き止める力がかかった。
「パスはお持ちですか?」
現地の言葉でそう問いかけられる。それはまったくの第三者で、恐らくは現地のスタッフらしい人間だった。
邪魔されただけでも腹が立つのに、彼はなぜか琵琶坂だけを引き止め、あのカズという男とその友人らしき東洋人は素通ししてしまう。苛立ちはいよいよ頂点に達しそうだった。
「はあ!?最初に身分証は見せただろうが!ほかになにを、」
「代表選手用のパスです」
その『選手』という言葉に、ひどい違和感を覚えたのをまだ覚えている。
意味がわからない、という趣旨の言葉を紡ごうとして、その声は突如として湧き上がった歓声にかき消された。
反射的に振り返った瞬間、琵琶坂は自分が先ほどとまったく雰囲気の違う場所へ迷い込んでいたことに気づく。
いつのまにか照明が落とされ、辺りは薄暗くなっていた。耳をつんざくような歓声は熱狂的で、それを発する全ての人間が壇上に注目しているのがわかる。
勝手気ままに賭博を楽しむ輩ばかりのこの街で、これほどまでに一体感を感じたのは初めてだ。
ねこだましでも食らったように、胸の内の苛立ちが引いていく。それほどまでに、今のラスベガスは琵琶坂の知らない顔を見せていた。熱狂の波が、体を透過して入り込んできたような心地がした。
そして自分の目線ほどの高さの壇上に、突如としてスポットライトが当たる。
(あの男はさっきの)
カズ、と、すぐ近くで名を呼ぶ声が聞こえた気がした。ついさっき見たばかりの野暮ったい服装そのままで、その男は壇上に現れた。
スポットライトが彼を追う。彼だけを浮かび上がらせ、逆にそれ以外を黒に塗りつぶす。そう、琵琶坂さえも。
そして帽子が外され、その顔があらわになる。濡れたような黒髪の、あどけない印象がまだ残る青年だった。
あのスタッフが言っていた言葉がふとよみがえる。
(選手……)
壇上で歓声を一身に受け止め不敵に笑う姿は、たしかにパフォーマーのそれではない。それならもっと客に媚びるような雰囲気があるはずだ。
このカズという青年から感じるのは、ただただ肌が焼けるような戦意だけだった。まるで歓声など聞きなれたとでもいうような、不遜ささえ感じさせる振舞いだった。
ライトを追う。視線がさらわれる。ふと考えた。さきほどまでくすぶっていたあの苛立ちがまだ生きていたとして、今の自分は彼にそれを投げつけられただろうか。
答えは「NO」だ。だってきっと、そんなことをしても歯牙にもかけてはもらえない。
「これより準決勝、第1試合を開始します。両者、握手を」
あの場所に立てるのは、そんな傲慢を許された勝者だけ。なんとなくそれを悟った。
自らの実力で他者をなぎ倒し、勝利したもの。砂のような凡人の山から掬い上げられた数粒の宝石。世界には、そういう存在にのみ許される権利がたしかにある。琵琶坂はその考え方に強く賛同する人間だった。なぜなら彼は、自分自身もその宝石の一粒だと確信していたからだ。
もちろん、世界には自分以外にも宝石はいるのだろう。だが琵琶坂は自分の人生で宝石たる人物を見たことはなかったし、それは彼にとって存在しないこととほぼ同義だった。
だけれど、その日。
自分を差し置いてスポットライトを浴びる彼の後ろ姿を見た日。
それは琵琶坂永至の世界に、ふたつめの宝石が現れた日だった。
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どちらのものともつかない、荒い息が聞こえる。ゆっくりと目を開くと、すぐ目の前に猫目石のような瞳があった。
怪物の瞳。実際には普通よりほんの少しだけ瞳孔が小さいだけなのだろうが、琵琶坂にはその異質さがよくわかっていた。
小鳥遊和詩。それがあの日『カズ』と呼ばれていた少年のほんとうの名前。琵琶坂に背を向け、決して届かない場所で不敵に笑っていた彼の正体。
あの眠らない街では指一本届かないと思えた存在が、何の因果か今はこんなにも近くにいる。あのときは露とも知らなかった心の傷も本性も全てさらけ出して、大人しく琵琶坂に抱かれている。
和詩自身はどうやら琵琶坂のことを覚えていないようだったが無理もない。現実とメビウスでは外見年齢が違いすぎるし、なにより琵琶坂にとっては印象深いあの記憶も、和詩にとってはきっと些細なことだからだ。
それを認めたくなくて、腹立たしくて、「前にどこかで会ったことがあるか」という質問には答えなかった。きっと和詩がみずから思い出すまで口にはしないだろう。
呼吸を整え、また唇を重ねる。早急に唇を開かせ、温かい口内をゆっくりと、だが確実に蹂躙していく。
「んっ…んぅ…っ」
和詩は息を奪われ苦しげな声を上げるが、そこに拒絶の色は薄い。それどころかその先をねだるような艶すら含んでいた。それが琵琶坂の支配欲を否応にもくすぐっていく。
ひどく緩慢で、長いキスだ。まるで雛が親鳥に餌でももらうように、離れてはまた秒をおかず唇がふれあい、熱っぽい声がこぼれ落ちる。今まで和詩のほうから愛撫やキスを望むそぶりは見せなかったが、今夜は違った。
「……っは…せん、ぱ……」
「今日はずいぶん気持ちよさそうじゃないか? まあ、素直なのはいいことだがね」
はだけたシャツの中に手を差し入れ胸の突起をいじると、やはり甘い声が断続的に聞こえてきた。
「あっ……っあ!?」
快楽にびくっと身体がはねたのを狙って、がら空きになった首筋に軽く噛みつく。太い血管があるそこからは、どくどくと鼓動に合わせたかすかな振動が感じ取れて、自分がこの少年の生殺与奪を確かに握っているのだと教えてくれていた。
本当に牙でも立てられると思っているのか、和詩は怯えたように体を硬直させて細い呼吸を繰り返している。そうしていれば、本当に小動物……普通のニンゲンにしか見えない。
だが、と琵琶坂はゆっくりと首筋から顔を上げる。
「本当に、いい目だ」
うっとりと話しかけ、その頬に手を添える。自分を見上げるその瞳はやはり尋常ではない色をしたままだ。
怯えているように思えるのは、この少年が衝動を必死に抑えているからだ。小鳥遊和詩が真に恐れるのは琵琶坂ではなく、自分自身の本性だけだから。
それをなだめるように、慰めるように愛撫を続ける。そうしているうちにだんだんと体が弛緩し、また甘い声が聞こえるようになる。
痛みと快楽。飴と鞭。
これは調教だ。琵琶坂永至にしかできない、この人食いの怪物を手なずける行為だった。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないか。僕はキミなんかには殺されないって何度言ったらわかるのかな? 部長くんは」
くつくつと笑いながら前髪をかきあげると、組み敷かれた部長の顔が赤くなるのが見えた。視線をそらそうとするのを、おとがいをつかんで阻止する。
「っもう、わかってるよ……」
空気を求めて、そして快楽から逃げようとあえぎながら、和詩が答えた。意外な抵抗に目を見開いてみせると、ひどく疲れたような笑みを浮かべて言葉を続ける。
「でも、長い間ずっと怯えてきたんだ。いや、怯えるようにしてきた、かな……だから、クセみたいなもんだ。っでも、本当は……」
そこで一度、呼吸を整えて。
「本当は、もう楽になりたい。ぜんぶ、先輩の言った通りだ」
絞り出すように。懺悔するように、うるんだ瞳で彼は答えた。
その言葉に思わず息をのむ。その間にゆっくりと和詩が両腕を伸ばし、琵琶坂を抱きしめた。そのまま、ぎり、と背中に爪を立てられてかすかに痛みを感じたが、それだけだ。綺麗に切りそろえられた爪は、几帳面さとは程遠い性格の彼には似つかわしくない。それもまた『怯えるようにしてきた』結果なのだろう。
「なら、僕は止めない。隣に置くなら、ニンゲンより怪物のほうがいい」
ほんとうにくだらない、と心の中で一蹴する。
そんな怯えなど、僕らには不要なものだ、と。
「ん……」
ただの吐息にも聞こえる声といっしょに、その細い顎が肯定の形に揺れた気がして、なぜだかすこし安堵した。とらえられ、錯乱し暴れる猛獣がやっと大人しくなったようだった。
飽きるほどしたキスをやっとやめて、どちらのものともわからない先走りとローションで濡れた下腹部に触れる。焦らすようにそこを撫でまわした後、硬くなったモノを見せつけるように後ろへあてがった。
はあ、と覚悟を決めるように吐息を吐いて和詩が自分を見上げる。やはり疲れのにじむ、けれどどこか期待と諦観の色を含んだあどけない表情だった。
「いい子だ」
抵抗するそぶりを見せないことを誉めて、ゆっくりと腰を進める。どれだけ慣らしても多少のきつさは否めないが、精神的な充足感が先だってさほど気にならなかった。
「あ…ッ、く、ぅ、ぅ……!」
痛みと息苦しさを逃がそうと浅い息を繰り返しながら、また縋るように和詩の腕が伸びてきた。それを受け入れるように身をかがめ、そのまま少々強引に奥へと入り込む。
「ひ…っあ!」
悲鳴のような声が聞こえて、びく! と腕の中の体が痙攣した。それと同時にナカがきゅっと締まり、侵入してきた琵琶坂自身を強く抱きしめる。
「……っ」
思わず自分も声を上げそうになって、済んでのところで飲み込んだ。
体が熱い。今まで何度も体を重ねてきたはずだが、今ほど理性の糸が心もとなかったことはない。柄にもなくがっついてしまっている自分に自嘲の笑みが浮かんだ。
でもあともう少し。そう心のなかで唱えて、和詩が逃げてしまわないよう、背中へ手を回して腰辺りをしっかりと捕まえた。
ぐちゅ、と卑猥な水音がかすかに聞こえて、腕の中の体が羞恥に震えるのがわかった。
「動くぞ」
努めて冷静に言って聞かせると、彼はほんの少しの間を空けたあとこくりとうなづいた。
「っあ、あっ、あ。あ。あ……っ!!」
返事が終わるより早く、ずちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、と、断続的にくぐもった音がして、体内にもぐりこませた熱いものが挿出される。何度も何度も、糸を引くような執拗さで内部を抉る。そうしているうちに最初は苦痛の色のほうが濃かった声がだんだんと色を帯びていくのがわかって、どうしようもなく気分が高揚した。
「あ、ぅ、……ッは…ぁ…そこ……っ」
とん、と奥を軽く突いた瞬間、和詩の声が一層甘やかさを増した。それを確かに聞き届け、乾いた唇を舐めて湿らせてからにやりと笑う。
熱に浮かされたような声を堪能しながら、先ほどねだられた箇所をしつこく突きあげる。望む快楽を何度も味わわされて、腕の中の少年は息も絶え絶えだった。
「……っ、は、どうしよ……これ、やばい、な……」
汗と白濁にまみれぐっしょりと濡れた髪の隙間から、怪物の目がこちらをぼんやり見つめている。
「なんだ」
言葉少なに問いかけてやると、夢うつつといった様子の表情で、ささやくような答えが返ってきた。
「めちゃくちゃ、気持ちいい……っあ!」
聞いたことのない、うっとりとした声だった。背筋に電気が走ったようになって、また口の端が吊り上がる。さらに熱を蓄えた琵琶坂自身が、和詩の中をまた激しく蹂躙し始める。
「は。そんなしおらしいことを言って、無理してるんじゃないかい? まだ少しつらそうじゃないか」
がくがくと乱暴に揺さぶってやると、やはり痛むらしく顔をしかめる。それを見て憎まれ口をたたいた。
痛みを耐えながら、しかし和詩はうっすらと微笑んで見せた。疲弊と一緒に、確かな幸福感を感じさせる表情だった。
「ん、痛い、けど……やっぱ、気持ちいいよ……」
そこで合点がいく。それはきっと、肉体的な快楽の話ではなかった。彼が言いたかったのは、心が自律の鎖から解き放たれたことの心地よさだ。上気した顔に浮かぶその幸せそうな顔が、短い言葉の中でなにより饒舌に語っていた。
そうして、疲れ切ったからだを持ち上げ、触れるようなキスを寄越す。
まちがいなく、和詩のほうから口づけをしたのは、これがはじめてだった。
はは、と乾いた笑いを残して、力尽き再び離れていく体を抱きとめる。そのまま一気に最奥まで貫いた。
「っあぁっ!?」
硬く抱きしめられ、逃げ場を失ったところへ一番の急所を貫かれ、びくびくと和詩の体が激しく痙攣する。もうほんの少しだって自力で動くことはできないだろうとわかる体を、それでも逃がすまいときつく抱きしめ、何度も何度も弱い部分を打ち付ける。
「せんぱ、いっ。先輩、っあ、あ、あ、あっ!」
生理的な涙を幾筋もこぼしながら、それでも名前を呼ぶ声はどこまでも甘い響きを含んでいた。ぐずるような、すがるような響きが嗜虐心と支配欲をさらに逆なでする。
「……うるさい」
満たされているはずなのに、裏腹な言葉が口を突いて出た。余裕は消え失せ、ぎゅっと一層強く自分を抱きしめてくるナカの心地よさに酔う。そのまま熱いものを欲望のまま吐き出した。
「あ、ぁ、あ……!」
されるがままに受け入れさせられ、本能的に逃げようと身をよじるのを阻止する。どくどくと注ぎ込んだものをすべて彼が飲み込みきらないうちに、再び律動を再開する。そうすると、流し込んだそれが粘つきながら奥へ奥へと押しやられていくのがわかってたまらなかった。
「和詩」
名前を呼ぶ。きっと気づきはしないだろうと高をくくって、ひどく小さな声量でもってささやいたその名前を、しかし和詩は聞き取ったようだった。余韻のような呻き声を混じらせながら、またあの満ち足りた笑顔がふわりと浮かんだ。
「カズでいいよ」
痛みと快楽と疲労で力尽きた彼の代わりにその意図を汲む。今度は琵琶坂が顔を寄せ、そっと触れるだけのキスが果たされた。
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