有沢@必殺の政竜

※シリーズタグ機能してませんすみません!
・必殺仕事人V 政×竜(竜受)
・村京(政竜中の人。こめまさと呼んでいます)
・村京クロスオーバー

【同人誌通販】
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【pixivFANBOX】
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【Twitter】
https://twitter.com/hissatsunuichan

小説メインでたまに絵を描きます。
基本的に作品はオフで出していますが、まれにオンでも。
ご感想は大変励みになっています! 感謝です!

【過去】
・聖○魔II AD
・クレしん しん風

二次サークル名は「エリートがすきなのだ」。
創作JUNE(オリジナルBL)でバンド・極道ものメインのサークル名は「VelvetRope」です。

もちろん成人済み

ピクログ
https://pictbland.net/blogs/detail/84231

投稿日:2018年07月20日 21:33    文字数:5,550

【こめまさ】277、青、その背を縮めるために(サンプル)

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販売開始しました!
https://nuiarisawa.booth.pm/items/951240

※とにかくフィクションであることをご理解いただける方のみお願いします。
※ご本人や関係者に送りつける行為などはご遠慮ください。
※ネット上で表紙や中身を公開することはご遠慮ください。
※フリマアプリ・オークションには出品しないでください。(一般のファンの方の目に入ります)
※R18具合が不安で気になる方はお問い合わせください(笑)。若干のネタばれでお伝えします。

2018年8月2日 A5/P54・600yen
必殺仕事人V政竜中身(こめまさ あるいは 村京)
小説・シリアス・モブ攻め要素・ハッピーエンド・R18

【あらすじ】
20年が経ち、3度目の共演を果たしたふたりは、久しぶりの食事を終えて、夜の横浜へと車を走らせる。
思い出話に花を咲かせながらも、Kは出逢った当時の苦い記憶と、そして互いに触れられないMとの秘めた思い出に、やがて気持ちが追い詰められてゆく。
一緒にいるとすごく愉しい。だけど辛くなる。277メートル上空の、もう子どもじゃないふたり。
(モブ攻め要素がありますが、露骨な暴力シーンなどはありません)

BOOTHあんしんパック(匿名発送)で頒布する予定です。
1 / 3
こちらは必殺仕事人Vの政竜中身本のサンプルです。

下記を十分にご理解いただける方のみ、ご覧ください。

※とにかくフィクションであることをご理解いただける方のみお願いします。
※ご本人や関係者に送りつける行為などはご遠慮ください。
※ネット上で表紙や中身を公開することはご遠慮ください。
※本などはフリマアプリ・オークションには出品しないでください。(一般のファンの方の目に入ります)
※R18具合が不安で気になる方はお問い合わせください(笑)。若干のネタばれでお伝えします。

【詳細】
2018年8月5日 A5/P54・600yen(予定)
必殺仕事人V政竜中身(こめまさ あるいは 村京)
小説・シリアス・モブ攻め要素・ハッピーエンド・R18

【あらすじ】
20年が経ち、3度目の共演を果たしたふたりは、久しぶりの食事を終えて、夜の横浜へと車を走らせる。
思い出話に花を咲かせながらも、Kは出逢った当時の苦い記憶と、そして互いに触れられないMとの秘めた思い出に、やがて気持ちが追い詰められてゆく。
一緒にいるとすごく愉しい。だけど辛くなる。277メートル上空の、もう子どもじゃないふたり。
(モブ攻め要素がありますが、露骨な暴力シーンなどはありません)


サンプルは次ページから置いてあります。
よろしくお願いします。

1 / 3
2 / 3



 277、青、その背を縮めるために(サンプル)


「そのときもさ、村上! 何やっとんねん! って言われちゃってねえ」
「あの頃はさ、俺たち毎日怒られてたからね」
「人生で一番叱られたよね」
「ほんとほんと」
 揃えばまるで初めて話すかのようにかならず出てくる会話をしながら、京本は尻ポケットに財布を差して振り返る。自分が押したガラスドアをくぐるのに、ぶつからない距離でも頭を下げてしまう村上を見るのが、いつも面白い。
 いつもといっても、もうそんな頻度はない。政と竜であった日から、二〇年近い時間が経とうとしているのだ。あの頃は互いに業界的にも新人であったし、新しく誕生したコンビとして若干呆然とするほどに着火し、わけのわからぬまま濁流に呑み込まれた。たった二年程度ではあったが、自分たちも日々顔を合わせながら相方であることを意識し、激流のなか泳ぎが下手な者同士頼りにしていたように思う。少なくとも、自分はそうだ。
 あれから一〇年ほど経ち、また共演した。さらに一〇年が経ち、今回も一緒に時代劇をやった。それで食事に行こうと約束を取り付けた。共演がなくともたまに食事に出かけていたとはいえ、実際のところは、自分が押して開いたドアを背を縮めてくぐる彼を見るのは、思った以上に久しぶりなのだ。
 ちいさな段を降りてわずかに弾んだ彼が、満足のため息を漏らしながらなんとなく顔を横にする。サングラスをしているからあの上目遣いが見えない。額に寄る皺と持ち上がっている口角を見て、そんなことを思う。
「なによ、機嫌良いね、君」
 村上が自分を見て歯を見せ、ジーンズのポケットに手を入れる。すこしにやにやして顔を見てしまっていたか。
「いやさ、弘明さんっていうかね、俺たちもおっさんになったんだなあと思ってさあ」
「あれから二〇年だからねえ」
 老けたねと素直に言い合える関係は、走り出したスタート地点が一緒だったからだ。そこにたどり着くまではそれぞれの道からやってきたが、相棒として出逢ったあの場所が、自分たちにとっての別世界へのスタートだった。
「お互いよくここまで来たよね。続くと思ってた?」
「うーん。わからない。我武者羅だったから」
「俺も」
 これもよく出る話題だ。ふたりでつま先を見るように顎を引き、笑いながら車へと歩きだす。
「だいぶ腹はいっぱいになったけど、弘明さん、時間は?」
「大丈夫よ。君とは基本、朝までコースだろうと思ってるから。マッサージ?」
「や、マッサージは今日休みなんだよ」
「あ、そうなの?」
「お茶しようよ」
 ここまで食べてお茶って、と笑い合う。バターたっぷりのフレンチにみっちりと腹が満たされているが、とにかく話し足りない。それは村上の明るい声を聴いていても同じだとなんとなくわかる。
「いいねえ、ドライブでもしながら」
「じゃあちょっと走って腹空かしてからにしよう」
 乗り込んで、京本がキーをまわす。エンジン音が唸って、そんなすぐに腹は空かないよと村上が笑ってシートベルトを伸ばす。メーター横の時計は完璧にあわせている。まだ二一時を過ぎたばかりだ。

     *

 首都高に入り、レインボーブリッヂを通った。ふたりともサングラスは外していた。自分が通るときはかならずライトアップがされて虹色だと主張すると、村上は、ああそうすごいねえと穏やかに言う。村上のそういう声はどうでもいいのかとよく他人に突っ込まれるのだが、京本は気にならず次の話題にすぐ移る。村上も臆さず聞いているからそのテンポはまわりからすると独特らしく、いいコンビだと言われることがある。先日もラジオのプロデューサーに言われたし、マネージャーには毎度毎度言われる。
「弘明さんとさ、こんなふうにゆっくり車でデートする日が来るとは思わなかったよなあ」
「まあねえ。君は会ったときから車を乗り回していたけど、こんなすごい車で、出世したねえ」
「竜のおかげだね」
 ステアリングをまわしながらちいさく呟く。苦い思い出もあるから、当時を知る村上の前では本音がより声に出る。
 そういう自分を察してか、村上も、そうねえと言ってそれ以上はない。散々叱られ、政は残って自分は降板させられた。これだけでも大変なことだが、ほんとうはそれだけではない――ステアリングのざらつきがすこしだけ浮き上がってくるような気がした。だが村上がそれだけでも理解して、京本の気分を傷つけないようにするのがとても有り難い。いや、有り難いというよりも、嬉しいといえばいいのか。鈍感に見せかけて、きちんと優しさが動くところが嬉しいのだ。いいコンビだと言われるのは、ほんとうはこういうところで真になると思うのだが、おそらく第三者には見えないところだろう。京本は考えて、ほっとしたように息を吐いた。
「弘明さんとこうして遊べるのも、竜のおかげ」
 こんどははっきりと声にする。にんまりと笑った顔を一瞬だけ向けると、村上がすこし笑った。
2 / 3
3 / 3


(中略)********************


「弘明さん、疲れた?」
 耐えきれず、訊いた。ただの確認の声色に、村上がちいさな咳払いをして応えた。
「いや?」
 横を見た。村上はサングラスを外していた。目が合って、どうして自分はまだサングラスをしていたのだろうと思った。村上はいつもの穏やかな無表情をしていた。
 顔を戻し、開いた手を伸ばして、ステアリングに腕を乗せる。前傾になって、横切ってゆくまばらな車を見る。
「――飲みたいな」
 考える前に、口に出た。言ってから、かすかに呼吸が苦しくなった。
「飲みたいって、酒?」
「うん」
 やんわりと前歯で下唇をおさえるようにして、横を向く。
 膝が無意識にワイパーにあわせて、ゆっくりとリズムをとっていた。
 村上は黙っていた。息苦しさが消えて、すこしの投げやりな気持ちが戻ってきていた。不快なのではない。こころは、静かだった。
「ね、つきあってよ、お酒」
 明るく言った。朝までコースだと本人が言っていたのだ。もういちど振り返ろうとしたところで、信号が青になって、姿勢を戻した。
「べつに俺ひとりで泊まっていくしさ」
 アクセルを入れながら、どうしてそんな可愛げのないことを言ったのかと後悔する。
「弘明さんタクシーか迎えになっちゃうけど」
 そして村上に返事を挟ませない自分に、いやになる。
 中華街の華美な門の前を通り過ぎた。元町に入る。
 ふいに、黙っていた村上が、口を開いた。
「そんなに飲みたいなら、つきあおうか」
 胸が跳ねた。低い声が、面白そうにそう言った。
 京本は前を見たまま、笑いだした。
「弘明さん、まるですごい飲めるみたいに」
 べつに強くもないくせに先輩面で偉そうに言うから、たまらない。笑いすぎている気がする。そんなに面白いのか。ただ過剰に面白く感じるだけだ。心臓がすこし膨れあがったような感じがする。ステアリングを握る手が硬くなり、突っ張るように腕を伸ばし、シートが背中を包み込む。
「さっきのところ、戻ろっか。俺最上階、行きたい」
 この横浜でもっとも高いところに行きたい。そういう景色を見たい。そうしようかと言う村上には返事をせず、京本はハンドルを切った。

     *

 俺たちなにやってんだろうと笑いながら、さっき出たばかりの駐車場からエレベーターに乗る。こんどはすぐには降りられない。何者かに肩をそっと押さえつけられるような圧が来て、耳にも真綿を詰め込まれたような感覚が来た。
 上昇する。ポケットに両手を入れて上向いて、その感覚に意識を向けた。村上も隣で上向いていた。
 70階で扉が開くと、琥珀色の空間が口を開けた。肥えた白髪の外国人がすれ違いざまにエレベーターに乗りこみ、笑顔を贈ってくれた。ふたりで微笑みを返して、京本はその村上の紳士然とした顔に、まるで芝居だと胸中で呟いた。
 天体を模したドーム型の天井が頭上を包み込み、磨き上げられた床にはコンパスのような星が描かれている。黒髪を叮嚀に撫でつけたボーイがすぐに会釈をして迎え入れ、店へと誘導してくれた。
 ラウンジに足を踏み入れると、濃紺が塗り込まれたような色に変わった。サングラスをしたままだったが、自分たちが何者であるかを察したらしい。秘めやかな、しかし含むような微笑で、人のいない窓際の席に案内された。
 濡れたガラス窓の向こうを見下ろして、村上が呟く。
「あんなに小っさくなっちゃうのか」
 さっきまで目前に迫っていた大観覧車と半月型のホテルが遠くでこじんまりと光っている。
「弘明さんがでかすぎるんじゃないの?」
 笑ってこちらを見た村上に、サングラスをしていると柔和な顔もただただ綺麗に見えるのだと、改めて思う。
 そのサングラスを外しながらソファに腰を下ろした村上が、深く息を吐く。長い脚をゆっくりと組み、膝の上に合わせた手を引っかける。オフだから髪のセットはしていない。あの頃よりは短いが、まっすぐな首に襟足の髪のくせがかっているのを、京本はなんとなく懐かしく眺めた。
「なに飲む?」
 差しだされたメニューに気づいて目を落とし、京本もサングラスをとる。ぱっと目に入ったオリジナルカクテルを指差した。
「〝シリウス・ツーダブルセブン・277mの空から〟――だって。すごいね、これだね」
 唸るように言って頷く。一九〇〇円の、何でできているかわからないが黄色い星が浮かぶ、スカイブルーの色をしたカクテルだ。村上は最初だから飲みたいとビールを頼み、色気のないと京本がからかった。
 今日いちども脱がなかったニット帽をはずし、くしゃくしゃになった赤毛を撫ぜる。もともと猫毛ではあるが、若い頃に比べてカラーとアイロンも手伝い柔くなりさらに手に負えないほど広がるようになった。午前中に雑誌の取材があったおかげでいまは落ち着いているが、そうでなければ外で帽子をとるのはなかなか勇気が要る。
 髪を整えているとグラスが届き、京本の眉が上がる。
「あ、綺麗だね。さすがブルーライトヨコハマ」
「あ、ほんとだ」
 ボーイは得意げな微笑を浮かべて京本の前にそっと置いた。細長いコリンズグラスにまるで発光しているかのような淡いブルーが満ちて、二センチほどの星が三つ、気泡で押しあげられて控えめに揺れている。珍しそうに開いたままの京本の唇が閉じられると、覗きこむようにしている村上に笑みを向ける。
「飲みたい? ダメ」
「なんだよなにも言ってないでしょうが」
「弘明さんは色気のないビールを飲んでください」
 はい乾杯、とグラスを持つと、村上が文句を言いながらもグラスを合わせた。どことなく嬉しそうな村上を見て口をつける。酒飲みというのは、やはり相手が一緒に飲んでこそなのだろう。
「グレープフルーツだ」
 ひとくち飲んでグラスを離し、京本が唇をすりあわせて感心したような顔で言う。
「ああだからすこし濁ってるのね」
 なるほどと言って無意識にグラスを差しだす。村上が大きな手で摘まむように受け取り、ちびりと飲んだ。
「ああ、ほんとうだ」
「おいしいね」
「おいしい」
「あ、飲ませちゃったよ」
 そこで京本が気づいて、笑った。
 オリーブの塩漬けに、パストラミなどの肉も頼んだ。ふたりして細いピックで突き刺し、大口を開けてひとくちで食べる。京本はすでに、じわりじわりと酒が細胞に沁みて広がってゆくのを感じていた。カクテルは酒の味があまりしないから、すぐに飲み終えてしまった。
「ちょっとピッチが早いんじゃないの」
「そうかな。でも俺もうひとつのほうも飲みたい」
 口では心配しているが、村上はやはり嬉しそうだ。メニューにはふたつのオリジナルカクテルがある。もうひとつのカクテルにも、〝ザ・プラネタリウム―満点の星空―〟という大仰な名前がつけられている。値段も二二五七円とさすがという額だ。正直痛くも痒くもないが、しかし一般の感覚を完全に失ったわけではない。ビールが一〇〇〇円ほどだ。結構立派だねと言い合いながら、村上も同じものを頼んだ。


(サンプル・おわり)
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【こめまさ】277、青、その背を縮めるために(サンプル)

キーワードタグ ナマモノ  サンプル  花屋の政  鍛冶屋の政  組紐屋の竜  京本政樹  村上弘明  R18  必殺仕事人  こめまさ 
作品の説明 販売開始しました!
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20年が経ち、3度目の共演を果たしたふたりは、久しぶりの食事を終えて、夜の横浜へと車を走らせる。
思い出話に花を咲かせながらも、Kは出逢った当時の苦い記憶と、そして互いに触れられないMとの秘めた思い出に、やがて気持ちが追い詰められてゆく。
一緒にいるとすごく愉しい。だけど辛くなる。277メートル上空の、もう子どもじゃないふたり。
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【あらすじ】
20年が経ち、3度目の共演を果たしたふたりは、久しぶりの食事を終えて、夜の横浜へと車を走らせる。
思い出話に花を咲かせながらも、Kは出逢った当時の苦い記憶と、そして互いに触れられないMとの秘めた思い出に、やがて気持ちが追い詰められてゆく。
一緒にいるとすごく愉しい。だけど辛くなる。277メートル上空の、もう子どもじゃないふたり。
(モブ攻め要素がありますが、露骨な暴力シーンなどはありません)


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 277、青、その背を縮めるために(サンプル)


「そのときもさ、村上! 何やっとんねん! って言われちゃってねえ」
「あの頃はさ、俺たち毎日怒られてたからね」
「人生で一番叱られたよね」
「ほんとほんと」
 揃えばまるで初めて話すかのようにかならず出てくる会話をしながら、京本は尻ポケットに財布を差して振り返る。自分が押したガラスドアをくぐるのに、ぶつからない距離でも頭を下げてしまう村上を見るのが、いつも面白い。
 いつもといっても、もうそんな頻度はない。政と竜であった日から、二〇年近い時間が経とうとしているのだ。あの頃は互いに業界的にも新人であったし、新しく誕生したコンビとして若干呆然とするほどに着火し、わけのわからぬまま濁流に呑み込まれた。たった二年程度ではあったが、自分たちも日々顔を合わせながら相方であることを意識し、激流のなか泳ぎが下手な者同士頼りにしていたように思う。少なくとも、自分はそうだ。
 あれから一〇年ほど経ち、また共演した。さらに一〇年が経ち、今回も一緒に時代劇をやった。それで食事に行こうと約束を取り付けた。共演がなくともたまに食事に出かけていたとはいえ、実際のところは、自分が押して開いたドアを背を縮めてくぐる彼を見るのは、思った以上に久しぶりなのだ。
 ちいさな段を降りてわずかに弾んだ彼が、満足のため息を漏らしながらなんとなく顔を横にする。サングラスをしているからあの上目遣いが見えない。額に寄る皺と持ち上がっている口角を見て、そんなことを思う。
「なによ、機嫌良いね、君」
 村上が自分を見て歯を見せ、ジーンズのポケットに手を入れる。すこしにやにやして顔を見てしまっていたか。
「いやさ、弘明さんっていうかね、俺たちもおっさんになったんだなあと思ってさあ」
「あれから二〇年だからねえ」
 老けたねと素直に言い合える関係は、走り出したスタート地点が一緒だったからだ。そこにたどり着くまではそれぞれの道からやってきたが、相棒として出逢ったあの場所が、自分たちにとっての別世界へのスタートだった。
「お互いよくここまで来たよね。続くと思ってた?」
「うーん。わからない。我武者羅だったから」
「俺も」
 これもよく出る話題だ。ふたりでつま先を見るように顎を引き、笑いながら車へと歩きだす。
「だいぶ腹はいっぱいになったけど、弘明さん、時間は?」
「大丈夫よ。君とは基本、朝までコースだろうと思ってるから。マッサージ?」
「や、マッサージは今日休みなんだよ」
「あ、そうなの?」
「お茶しようよ」
 ここまで食べてお茶って、と笑い合う。バターたっぷりのフレンチにみっちりと腹が満たされているが、とにかく話し足りない。それは村上の明るい声を聴いていても同じだとなんとなくわかる。
「いいねえ、ドライブでもしながら」
「じゃあちょっと走って腹空かしてからにしよう」
 乗り込んで、京本がキーをまわす。エンジン音が唸って、そんなすぐに腹は空かないよと村上が笑ってシートベルトを伸ばす。メーター横の時計は完璧にあわせている。まだ二一時を過ぎたばかりだ。

     *

 首都高に入り、レインボーブリッヂを通った。ふたりともサングラスは外していた。自分が通るときはかならずライトアップがされて虹色だと主張すると、村上は、ああそうすごいねえと穏やかに言う。村上のそういう声はどうでもいいのかとよく他人に突っ込まれるのだが、京本は気にならず次の話題にすぐ移る。村上も臆さず聞いているからそのテンポはまわりからすると独特らしく、いいコンビだと言われることがある。先日もラジオのプロデューサーに言われたし、マネージャーには毎度毎度言われる。
「弘明さんとさ、こんなふうにゆっくり車でデートする日が来るとは思わなかったよなあ」
「まあねえ。君は会ったときから車を乗り回していたけど、こんなすごい車で、出世したねえ」
「竜のおかげだね」
 ステアリングをまわしながらちいさく呟く。苦い思い出もあるから、当時を知る村上の前では本音がより声に出る。
 そういう自分を察してか、村上も、そうねえと言ってそれ以上はない。散々叱られ、政は残って自分は降板させられた。これだけでも大変なことだが、ほんとうはそれだけではない――ステアリングのざらつきがすこしだけ浮き上がってくるような気がした。だが村上がそれだけでも理解して、京本の気分を傷つけないようにするのがとても有り難い。いや、有り難いというよりも、嬉しいといえばいいのか。鈍感に見せかけて、きちんと優しさが動くところが嬉しいのだ。いいコンビだと言われるのは、ほんとうはこういうところで真になると思うのだが、おそらく第三者には見えないところだろう。京本は考えて、ほっとしたように息を吐いた。
「弘明さんとこうして遊べるのも、竜のおかげ」
 こんどははっきりと声にする。にんまりと笑った顔を一瞬だけ向けると、村上がすこし笑った。
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(中略)********************


「弘明さん、疲れた?」
 耐えきれず、訊いた。ただの確認の声色に、村上がちいさな咳払いをして応えた。
「いや?」
 横を見た。村上はサングラスを外していた。目が合って、どうして自分はまだサングラスをしていたのだろうと思った。村上はいつもの穏やかな無表情をしていた。
 顔を戻し、開いた手を伸ばして、ステアリングに腕を乗せる。前傾になって、横切ってゆくまばらな車を見る。
「――飲みたいな」
 考える前に、口に出た。言ってから、かすかに呼吸が苦しくなった。
「飲みたいって、酒?」
「うん」
 やんわりと前歯で下唇をおさえるようにして、横を向く。
 膝が無意識にワイパーにあわせて、ゆっくりとリズムをとっていた。
 村上は黙っていた。息苦しさが消えて、すこしの投げやりな気持ちが戻ってきていた。不快なのではない。こころは、静かだった。
「ね、つきあってよ、お酒」
 明るく言った。朝までコースだと本人が言っていたのだ。もういちど振り返ろうとしたところで、信号が青になって、姿勢を戻した。
「べつに俺ひとりで泊まっていくしさ」
 アクセルを入れながら、どうしてそんな可愛げのないことを言ったのかと後悔する。
「弘明さんタクシーか迎えになっちゃうけど」
 そして村上に返事を挟ませない自分に、いやになる。
 中華街の華美な門の前を通り過ぎた。元町に入る。
 ふいに、黙っていた村上が、口を開いた。
「そんなに飲みたいなら、つきあおうか」
 胸が跳ねた。低い声が、面白そうにそう言った。
 京本は前を見たまま、笑いだした。
「弘明さん、まるですごい飲めるみたいに」
 べつに強くもないくせに先輩面で偉そうに言うから、たまらない。笑いすぎている気がする。そんなに面白いのか。ただ過剰に面白く感じるだけだ。心臓がすこし膨れあがったような感じがする。ステアリングを握る手が硬くなり、突っ張るように腕を伸ばし、シートが背中を包み込む。
「さっきのところ、戻ろっか。俺最上階、行きたい」
 この横浜でもっとも高いところに行きたい。そういう景色を見たい。そうしようかと言う村上には返事をせず、京本はハンドルを切った。

     *

 俺たちなにやってんだろうと笑いながら、さっき出たばかりの駐車場からエレベーターに乗る。こんどはすぐには降りられない。何者かに肩をそっと押さえつけられるような圧が来て、耳にも真綿を詰め込まれたような感覚が来た。
 上昇する。ポケットに両手を入れて上向いて、その感覚に意識を向けた。村上も隣で上向いていた。
 70階で扉が開くと、琥珀色の空間が口を開けた。肥えた白髪の外国人がすれ違いざまにエレベーターに乗りこみ、笑顔を贈ってくれた。ふたりで微笑みを返して、京本はその村上の紳士然とした顔に、まるで芝居だと胸中で呟いた。
 天体を模したドーム型の天井が頭上を包み込み、磨き上げられた床にはコンパスのような星が描かれている。黒髪を叮嚀に撫でつけたボーイがすぐに会釈をして迎え入れ、店へと誘導してくれた。
 ラウンジに足を踏み入れると、濃紺が塗り込まれたような色に変わった。サングラスをしたままだったが、自分たちが何者であるかを察したらしい。秘めやかな、しかし含むような微笑で、人のいない窓際の席に案内された。
 濡れたガラス窓の向こうを見下ろして、村上が呟く。
「あんなに小っさくなっちゃうのか」
 さっきまで目前に迫っていた大観覧車と半月型のホテルが遠くでこじんまりと光っている。
「弘明さんがでかすぎるんじゃないの?」
 笑ってこちらを見た村上に、サングラスをしていると柔和な顔もただただ綺麗に見えるのだと、改めて思う。
 そのサングラスを外しながらソファに腰を下ろした村上が、深く息を吐く。長い脚をゆっくりと組み、膝の上に合わせた手を引っかける。オフだから髪のセットはしていない。あの頃よりは短いが、まっすぐな首に襟足の髪のくせがかっているのを、京本はなんとなく懐かしく眺めた。
「なに飲む?」
 差しだされたメニューに気づいて目を落とし、京本もサングラスをとる。ぱっと目に入ったオリジナルカクテルを指差した。
「〝シリウス・ツーダブルセブン・277mの空から〟――だって。すごいね、これだね」
 唸るように言って頷く。一九〇〇円の、何でできているかわからないが黄色い星が浮かぶ、スカイブルーの色をしたカクテルだ。村上は最初だから飲みたいとビールを頼み、色気のないと京本がからかった。
 今日いちども脱がなかったニット帽をはずし、くしゃくしゃになった赤毛を撫ぜる。もともと猫毛ではあるが、若い頃に比べてカラーとアイロンも手伝い柔くなりさらに手に負えないほど広がるようになった。午前中に雑誌の取材があったおかげでいまは落ち着いているが、そうでなければ外で帽子をとるのはなかなか勇気が要る。
 髪を整えているとグラスが届き、京本の眉が上がる。
「あ、綺麗だね。さすがブルーライトヨコハマ」
「あ、ほんとだ」
 ボーイは得意げな微笑を浮かべて京本の前にそっと置いた。細長いコリンズグラスにまるで発光しているかのような淡いブルーが満ちて、二センチほどの星が三つ、気泡で押しあげられて控えめに揺れている。珍しそうに開いたままの京本の唇が閉じられると、覗きこむようにしている村上に笑みを向ける。
「飲みたい? ダメ」
「なんだよなにも言ってないでしょうが」
「弘明さんは色気のないビールを飲んでください」
 はい乾杯、とグラスを持つと、村上が文句を言いながらもグラスを合わせた。どことなく嬉しそうな村上を見て口をつける。酒飲みというのは、やはり相手が一緒に飲んでこそなのだろう。
「グレープフルーツだ」
 ひとくち飲んでグラスを離し、京本が唇をすりあわせて感心したような顔で言う。
「ああだからすこし濁ってるのね」
 なるほどと言って無意識にグラスを差しだす。村上が大きな手で摘まむように受け取り、ちびりと飲んだ。
「ああ、ほんとうだ」
「おいしいね」
「おいしい」
「あ、飲ませちゃったよ」
 そこで京本が気づいて、笑った。
 オリーブの塩漬けに、パストラミなどの肉も頼んだ。ふたりして細いピックで突き刺し、大口を開けてひとくちで食べる。京本はすでに、じわりじわりと酒が細胞に沁みて広がってゆくのを感じていた。カクテルは酒の味があまりしないから、すぐに飲み終えてしまった。
「ちょっとピッチが早いんじゃないの」
「そうかな。でも俺もうひとつのほうも飲みたい」
 口では心配しているが、村上はやはり嬉しそうだ。メニューにはふたつのオリジナルカクテルがある。もうひとつのカクテルにも、〝ザ・プラネタリウム―満点の星空―〟という大仰な名前がつけられている。値段も二二五七円とさすがという額だ。正直痛くも痒くもないが、しかし一般の感覚を完全に失ったわけではない。ビールが一〇〇〇円ほどだ。結構立派だねと言い合いながら、村上も同じものを頼んだ。


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