投稿日:2019年04月14日 22:07 文字数:6,659
思い出語り 番外編② 昼寝
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番外編。たまにはエロ無し。
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思い出語り 番外編② 昼寝
電灯を持っての夜回りを終えた鯰尾は、部屋に戻る事にした。
そこでふと、顔を上げた。
少し先に気配がある。
「……しょうがないなぁ」
呟いて、そちらへ向かった。
■ ■ ■
鯰尾は三日月に声をかけた。
三日月が縁側に座って、縁側に行燈の形をした電灯を置き、中途半場な月を眺め酒を飲んでいる。
……酒を飲んでいて良い時間では無い。
「三日月さん。そろそろ寝た方が良いですよ。もうとっくに消灯しましたから」
鯰尾が腰に手を当てて言った。三日月は鯰尾が当番の時に限って毎度、わざわざ寝ずに、こうして鯰尾を待っている。
三日月が微笑んだ。
「少し付き合ってはくれぬか。丁度、肴が欲しかったところだ」
「肴って、鯰ですけど。……一献貰ったら、寝ますよ」
鯰尾は溜息をつき、靴を脱いで縁側に上がり、三日月の隣に片膝を立てて適当に座った。
「では一献」
「頂きます」
陶器がふれ合い、小気味よい音がする。
鯰尾は三日月と飲む酒が嫌いでは無かった。
どちらかと言えば好きだ。それは三日月を好ましく思っているからだろう。もしそうで無くても、月見酒に誘われて断る理由は無い。
三日月も鯰尾も忙しい日が続いていて。
「最近また、忙しいですね」
鯰尾は言った。
三日月は笑った。合唱対決も終わり。日常――出陣の繰り返しが戻って来た。
「三日月さんも大分練度が上がったし。今度手合わせしましょうか」
鯰尾は言った。
「全く……勝てる気がしないのだが……、あいわかった」
三日月が言った。
鯰尾は苦笑した。
『三日月宗近』はこういう物なのだろうか?
鯰尾の三日月宗近、へのイメージだと、「あいわかった。善処しよう」とか、もう少し自信ありげな事を言いそうなのに。この本丸の三日月はそういう事を言わない。
「なんか、三日月さんって変ですね」
杯が空になってしまい、鯰尾は杯をのぞき込んだ。少し物足りない。
「もう一献」
「もらいます」
「いえ、変というか。変ですね……」
「?」
鯰尾が呟くので、三日月が目線で促して来た。
「いえ、もっとこう、三日月さんは自信ありげな感じかなって『あいわかった。善処しよう』とか『俺の三日月を見る者は死ぬぞ』とか」
鯰尾が言うと、三日月がくっ、と笑った。肩を震わせて、口元を手で抑え笑っている。
大分ウケたらしい。くつくつ笑った後に、はっはっは、と穏やかに笑う。
「どこかの三日月はそうかもしれぬが。ここの俺は、まだすこし若いようだ」
三日月は微笑む。
「あ、良い感じですね。お酒入ると舌が回るタイプ?」
鯰尾は思っていた事を言った。昼間の三日月は正直言って、年中挙動不審だ。
「――年寄りをあまりからかうな」
三日月はにこにこと笑った。
鯰尾の前では、三日月はだいたい笑っている。
二人きりの時はずっと笑っている。孫を見るおじいちゃんの心境なのだろうか。
それだけではないと思うけど、その辺りも入っていそうだ。
孫を見るおじいちゃんの心境と、鯰尾を好いている気持ち。
二つが絶妙に合わさっているのが三日月さん?
「何か、俺、三日月さんが分からなくなって来ました……」
鯰尾は溜息を付く。
三日月は微笑む。
「このくらいにしましょうか。もう片付けますよ」
鯰尾は杯を盆に置いた。鯰尾が片付けないと、三日月は置いたまま寝てしまう。
三日月はしっかりしているようで、意外と手がかかる。どこの三日月もそうかもしれないが。
明かりを消して、そっと近づくと、抱き寄せられた。
向き合うと、三日月の瞳がよく見えて、鯰尾は満足する。
――唇が重なって、ああ、やっちゃった、と思う。
昼間はお互い照れてしまって、こういう事はできない。鯰尾は、こういう事は閨でこっそりやりたいと思う。
ほんの少しの間、お互いに抱きしめ合う。
「……おやすみなさい」
「ああ。また明日」
気恥ずかしいので、そそくさと三日月から離れ、盆を持って立ち去る。
心臓がドキドキしていて、鯰尾は何やってるんだろう俺、という気分になる。
恋なのか、愛なのか。
台所で銚子を片付けながら、一人で頰を染め、溜息をついた。
■ ■ ■
三日月は鯰尾が去ってから、座ったまま、縁側で打ち震えた。
……恋刀が可愛くて死にそうだ。体が熱い。寿命が千年延びた。
鯰尾ときたら。
いつまでも初で……可愛いを超えている。全てを超えている。
全てを超えている。
「……」
三日月は、もうしばらく縁側で鯰尾について考える事にした。
■ ■ ■
「ふむ……喉が痛いのだが……」
「風邪だと思う」
翌朝、骨喰が三日月を薬研の部屋へ連れて来た。
「大将、口開けてくれ」
薬研に言われ、三日月は口をあけた。
「もうちょい大きく。あーやっぱり。完璧に風邪の初期症状だな。扁桃腺が腫れてる。一昨日から寒かったから、それだろう。微熱もあるな……。手入れ部屋行くか?」
薬研が言った。
「いや。この程度なら寝ていれば治るだろう。酷いようなら行かせる」
骨喰が言う。すっかり保護者だ。
「わかった、じゃあ薬を出そう。飲むやつでいいな。飯の後にこれを一包ずつ飲んでくれ。出陣、稽古はしばらく禁止だ。鯰兄にもそう伝えとくぜ」
「……あいわかった」
そうして、三日月は初期症状の段階で、風邪をしっかり治した。
はずだった。
■ ■ ■
「あっ三日月さん!風邪はもう良いみたいですね」
それから七日。
出陣から帰った鯰尾は、本丸の廊下で三日月に出会った。
――三日月は出陣服を着込んでいて、顔色も良い。
ここ一週間。三日月は全く姿を見せなかった。
文に細かく病状がかかれていたので、初めは気にしていなかったのだが……。
さすがに臥せっているから見舞いには絶対来るな、風邪が移るといけないから、と言われると心配になる。見舞いに行こうとしたら骨喰に止められた。
昨日ようやく、もう良くなった、明日は部屋から出る、という言づてが骨喰を介して届いたので、鯰尾は朝一番で会いに行こうと思ったのだが、あいにく朝からいつもの演習が入っていた。三日月は食事場にはいなかった。部屋で食べたらしい。
「――鯰尾か。久しいな」
「お久しぶりです。もう良いんですか?」
鯰尾は苦笑した。
三日月からの手紙には、する事が無くて暇だという愚痴が沢山書いてあった。
「ああ。見ての通り。大事を取っていただけだ」
「そうなんですね。良かった」
鯰尾はほっとした。軽いと言っても風邪は風邪。風邪を引くのは初めてだろうし、体も辛かっただろう。
手入れ部屋に入ったらどうかな、と言ったのだが、それほどでは無いと言われた。
ちょうどその時、愛染が通りかかった。
「あっ。ようじっちゃん、大丈夫だったか?」
「ああ、心配をかけたな」
「良かった。まあ風邪には気を付けないとな、じゃ!」
愛染は去って行った。
鯰尾は愛染を見送った。
「報告が終わったら、どこか行きましょう、あ。でも今日はまだ出かけない方がいいか。じゃあお菓子でも食べましょう。治りそうだって聞いて、和菓子を買って来たんですよ。食べられますか?お茶は緑茶でいいですか?」
鯰尾が言うと、三日月は表情を綻ばせた。
「粥には飽きたところだ」
つられて鯰尾も微笑む。
「じゃあ、そうだ、南の縁側があったかいですよ。そこで待ってて下さい。あ、いや待って、もうすぐ報告終わりますから、そこにいて下さい」
鯰尾は言って、駆け出した。
■ ■ ■
報告を終え、厨房へ一緒に歩く途中で、御手杵と堀川に出会った。
「おっ。三日月さんもういいのか?」
「三日月さん、心配したんだよ」
「なに。この通り」
三日月は苦笑した。
「良かった。風邪は気を付けないとね」「俺はひいたこと無いなぁ……」
二振は去って行った。
厨房には加州と、大和守がいた。椅子に座ってだべっている。
「あれー、三日月さん?」
加州が言った。
「生きてたの?」
大和守が言って、三日月が苦笑する。
「この通り」
「ならよかった。ホント、びっくりしたよ」
「三日月さんでも大風邪引くんだねー、気を付けないと」
大和守の言葉に、鯰尾はジト目で三日月を見た。
「……オオカゼ?」
「ははは」
三日月は朗らかに笑ってごまかした。ように見える。
なんか、聞いてた話と違うような……。
「ねえ、加州さん、三日月さんの風邪、酷かったんです?」
「あれ、知らなかった?もー、大変。なんか、鶴丸と山姥切が交代で看病してたらしいよ。薬研も手入れ部屋使えって言ってたけど、このくらい自分で治すって言って聞かなかったらしくて」
「どれ、茶を煎れよう」
三日月は言って、茶筒の蓋を抜いた。すぽんと飛んで中身が机にこぼれた。
たぶんわざとじゃないあたりが三日月だ。
「……そうだったんですか?」
鯰尾の言葉に大和守が頷く。
「うん。ああ、こぼしちゃったね」
「なんだ、そうだったんだ……」
鯰尾は呟き、とりあえず茶っぱを戻して、和菓子を取り出した。
「またにします?」
「……」
三日月の前でちらつかせると、三日月は和菓子をじっと見て首を振った。
鯰尾は溜息をついて、もう、これっきりですからね。
と言って茶を煎れた。
「具合が悪いならちゃんとそう言って下さい。隠されると……少し寂しいですから」
「……あいわかった」
三日月はしゅんとして、鯰尾の後を追い、出ていった。
■ ■ ■
「もう、言ってくれれば、看病したのに。三日月さんのばーか」
ガラス戸のある縁側に座布団を敷いて、茶を飲みながら鯰尾はぶつぶつ言った。
「すまんな」
三日月は微笑み、茶をしばいている。
「少し濃かったかな……?」
鯰尾は溜息をついた。
軽い風邪だと聞いていたから、そんなに心配もしていなかった。
和菓子も買って、明日は非番だから出かけようと思っていたくらいだ。
「なに――こうして元通りになったのだ。それで許してくれ」
三日月が言うので、鯰尾は焦った。
「そんな、こっちこそ。三日月さんがしんどいのに『暇なら、お返事下さい』って書いちゃって。色々送っちゃったし」
近頃は出陣が込んでいて、鯰尾も疲れていた。
「ごめんなさい」
どうしてだか悲しくなって、涙ぐんでしまった。
ものすごく気を遣われたのだろう。
鯰尾はうつむいた。
「いつも、三日月さんは優しいのに。俺はどうしてこうなんだろ。本当は、三日月さんともっと堂々と、仲良くできたらって思うんですけど……」
「近侍だし、しっかりしないと、って思うと……いえ、役目がつらいとか、そういう訳じゃ無いんですよ。でも、皆の手前、弱音吐けないって言うか。俺がそんな事言って、色恋にかまけてたら、あまり戦に出ない方達が怒りますし……。別に怒られないんですけどね!」
鯰尾は苦笑で終わらせた。
じっと三日月を見る。
「本当に、もう大丈夫なんですか?」
「ああ。この通り……」
三日月は何を思ったか、はたと止まり、こちらに向け腕を持ち上げて着物の袖をひらひらと揺らした。
よく分からない動きに、鯰尾は首を傾げた。
「どうかしました?」
「いや。――近う」
「今日は……変な事しないですか?」
鯰尾は言ってみた。
「さて。どうかなぁ」
三日月が、少し微笑み小首を傾げた。その様子は無害そうで。
なんとなく、大丈夫そうな気がした。
「じゃあ、少しだけなら……」
鯰尾は座布団から降りて、そろりと近寄って、あぐらをかく三日月の左隣に座る。
三日月の左手が空いていたので、そっと手を重ねてみる。
「……具合悪いなら、無理しないで下さいね。看病だってしますから。っていうか俺、風邪なんて引いたことないんですから!心配無用ですよ?」
三日月の手が少し冷たいので温めるつもりで握る。
「……そうか。それもそうだな。では、いずれ頼もう」
「いずれって、いつです?」
「俺がまた倒れたときか?」
三日月は首を傾げて、ふっ、と口元を隠して笑った。
「此度は急だった故……、軽い風邪なら自然に治る、と思い油断した。次はすぐ手入れを受けよう」
「そうして下さい。いつ手入れ受けたんです?」
「一昨日だ。その後は大事を取って、部屋にいたのだが……。急に悪くなってしまってな。まともに身を起こすことも叶わず、折れるかと思ったぞ。主は戦の疲れが原因だろう、と言っていた」
三日月の言葉に、鯰尾は頷いた。
「――ああ。確かに気が付かない間に疲れてる、ってことはありますよね。手入れは傷は綺麗に治りますけど、疲れまでは取れませんから。……本当に、無理しないで下さいね。最近、三日月さんを編成に良く入れているから……無理そうなら言って下さい。今度から少し、調整しておきます」
こうして手だけでも触れあっていると落ち着く……。
久しぶりにみる三日月は相変わらず綺麗で、良い匂いがした。
鯰尾は三日月にもたれかかった。
(……ちょっと積極的すぎる、かな)
「……やっぱり、会いたいって気持ちがあるみたいです。たぶん、三日月さんのこと、す、すきだから……」
言ってしまってドキドキした。
抱擁をねだるように着物を引くと、包み込むように引き寄せられた。
大きな袖にすっぽり包まれて、鯰尾はもういいや、と思って力を抜いた。
ふむ、と言う呟きが聞こえて、三日月が足を崩した。
鯰尾の頰に三日月の唇がそっと触れた。
「……風邪が移るか」
「手入れは受けたんでしょう?なら平気ですよ」
鯰尾は、何をされるかとか、何をするかとかは考えていなかった。
もしかしてそういう雰囲気なのだろうか?
でも風邪の後だし……。
そうだ。
鯰尾はひらめいた。
「そうだ。少し奥で横になりましょう?丁度客間ですし、布団もあったはずだし。ちょっと昼寝しましょうよ」
少し照れながら、そんな事を口走った。
■ ■ ■
一つ奥の、さらにもう一つ奥の部屋は空き部屋で、布団が入っていた。
好奇心による家捜しの結果、鯰尾は本丸の部屋を全て把握している。
当然どの押し入れに何があるかも知っている。
――普段使われていない寝具ほどふわふわで心地よい物は無し――。
ほんのり差す陽を障子が遮る。温かい六畳一間。
ここで昼寝でもしたら静かで気持ち良いだろうと、少し前からこっそり思っていた。
実は――目覚まし時計まで仕込んであるのだ。
「ついに実行する時が来た」
鯰尾はふすまを閉め、箪笥を開けて布団を敷き、甲冑を解いた。
三日月はもたついている。
「あ。手伝います。そうだ昼寝前に歯を磨かないと。行きましょう」
「??あいわかった」
三日月の手を引いて、鯰尾は三日月と共に歯磨きを済ませた。
――三日月の着物を脱がして畳んでいく。
「これ、防具取ります?昼寝しにくいですよね」
ほいほい、と着物を脱がし、鯰尾は上手く防具だけを外した。
「……無自覚とは、恐ろしいものだなぁ」
三日月がしみじみと溜息を付いたので、鯰尾は首を傾げた。
「?」
「鯰尾……」
「何です?」
三日月がつぶやいたので鯰尾は顔を上げた。
「昼間とは言え、この部屋は薄暗い。それに、人気もない」
「そうですね」
三日月は自分の頰に手を当てた。
「……こんな所でおぬしと二人寝ていて、うっかり見つかったら何を言われるか……」
鯰尾はしゅんとした。
「……そういうつもりじゃ無かったんです。でも、駄目ですか?」
鯰尾が言うと、三日月は微笑んだ。
「無論――駄目な訳がない。さて、寝るか」
三日月はぽいと籠手を外して袴を放り、ぱたりと横になった。
「ですよねー!おやすみなさい!」
鯰尾は微笑み、上着を脱いで髪を解き、三日月と共に布団に入った。
「枕、あげますね。俺は無しでも寝られるんで」
鯰尾は、それほど厚くないくて柔らかい、大きめの枕――を三日月に譲った。
「ふむ。余るくらいだな」
三日月がまくらを確かめる。
鯰尾は近寄ってまくらを少しもらった。
三日月が心地よさげに目を閉じる。お互いゆるく抱き合った。
三日月が鯰尾の頭を撫でる。
「これはよきかな……」
「あー気持ちいー……いい匂い……」
極上の寝心地だった。
〈おわり〉
電灯を持っての夜回りを終えた鯰尾は、部屋に戻る事にした。
そこでふと、顔を上げた。
少し先に気配がある。
「……しょうがないなぁ」
呟いて、そちらへ向かった。
■ ■ ■
鯰尾は三日月に声をかけた。
三日月が縁側に座って、縁側に行燈の形をした電灯を置き、中途半場な月を眺め酒を飲んでいる。
……酒を飲んでいて良い時間では無い。
「三日月さん。そろそろ寝た方が良いですよ。もうとっくに消灯しましたから」
鯰尾が腰に手を当てて言った。三日月は鯰尾が当番の時に限って毎度、わざわざ寝ずに、こうして鯰尾を待っている。
三日月が微笑んだ。
「少し付き合ってはくれぬか。丁度、肴が欲しかったところだ」
「肴って、鯰ですけど。……一献貰ったら、寝ますよ」
鯰尾は溜息をつき、靴を脱いで縁側に上がり、三日月の隣に片膝を立てて適当に座った。
「では一献」
「頂きます」
陶器がふれ合い、小気味よい音がする。
鯰尾は三日月と飲む酒が嫌いでは無かった。
どちらかと言えば好きだ。それは三日月を好ましく思っているからだろう。もしそうで無くても、月見酒に誘われて断る理由は無い。
三日月も鯰尾も忙しい日が続いていて。
「最近また、忙しいですね」
鯰尾は言った。
三日月は笑った。合唱対決も終わり。日常――出陣の繰り返しが戻って来た。
「三日月さんも大分練度が上がったし。今度手合わせしましょうか」
鯰尾は言った。
「全く……勝てる気がしないのだが……、あいわかった」
三日月が言った。
鯰尾は苦笑した。
『三日月宗近』はこういう物なのだろうか?
鯰尾の三日月宗近、へのイメージだと、「あいわかった。善処しよう」とか、もう少し自信ありげな事を言いそうなのに。この本丸の三日月はそういう事を言わない。
「なんか、三日月さんって変ですね」
杯が空になってしまい、鯰尾は杯をのぞき込んだ。少し物足りない。
「もう一献」
「もらいます」
「いえ、変というか。変ですね……」
「?」
鯰尾が呟くので、三日月が目線で促して来た。
「いえ、もっとこう、三日月さんは自信ありげな感じかなって『あいわかった。善処しよう』とか『俺の三日月を見る者は死ぬぞ』とか」
鯰尾が言うと、三日月がくっ、と笑った。肩を震わせて、口元を手で抑え笑っている。
大分ウケたらしい。くつくつ笑った後に、はっはっは、と穏やかに笑う。
「どこかの三日月はそうかもしれぬが。ここの俺は、まだすこし若いようだ」
三日月は微笑む。
「あ、良い感じですね。お酒入ると舌が回るタイプ?」
鯰尾は思っていた事を言った。昼間の三日月は正直言って、年中挙動不審だ。
「――年寄りをあまりからかうな」
三日月はにこにこと笑った。
鯰尾の前では、三日月はだいたい笑っている。
二人きりの時はずっと笑っている。孫を見るおじいちゃんの心境なのだろうか。
それだけではないと思うけど、その辺りも入っていそうだ。
孫を見るおじいちゃんの心境と、鯰尾を好いている気持ち。
二つが絶妙に合わさっているのが三日月さん?
「何か、俺、三日月さんが分からなくなって来ました……」
鯰尾は溜息を付く。
三日月は微笑む。
「このくらいにしましょうか。もう片付けますよ」
鯰尾は杯を盆に置いた。鯰尾が片付けないと、三日月は置いたまま寝てしまう。
三日月はしっかりしているようで、意外と手がかかる。どこの三日月もそうかもしれないが。
明かりを消して、そっと近づくと、抱き寄せられた。
向き合うと、三日月の瞳がよく見えて、鯰尾は満足する。
――唇が重なって、ああ、やっちゃった、と思う。
昼間はお互い照れてしまって、こういう事はできない。鯰尾は、こういう事は閨でこっそりやりたいと思う。
ほんの少しの間、お互いに抱きしめ合う。
「……おやすみなさい」
「ああ。また明日」
気恥ずかしいので、そそくさと三日月から離れ、盆を持って立ち去る。
心臓がドキドキしていて、鯰尾は何やってるんだろう俺、という気分になる。
恋なのか、愛なのか。
台所で銚子を片付けながら、一人で頰を染め、溜息をついた。
■ ■ ■
三日月は鯰尾が去ってから、座ったまま、縁側で打ち震えた。
……恋刀が可愛くて死にそうだ。体が熱い。寿命が千年延びた。
鯰尾ときたら。
いつまでも初で……可愛いを超えている。全てを超えている。
全てを超えている。
「……」
三日月は、もうしばらく縁側で鯰尾について考える事にした。
■ ■ ■
「ふむ……喉が痛いのだが……」
「風邪だと思う」
翌朝、骨喰が三日月を薬研の部屋へ連れて来た。
「大将、口開けてくれ」
薬研に言われ、三日月は口をあけた。
「もうちょい大きく。あーやっぱり。完璧に風邪の初期症状だな。扁桃腺が腫れてる。一昨日から寒かったから、それだろう。微熱もあるな……。手入れ部屋行くか?」
薬研が言った。
「いや。この程度なら寝ていれば治るだろう。酷いようなら行かせる」
骨喰が言う。すっかり保護者だ。
「わかった、じゃあ薬を出そう。飲むやつでいいな。飯の後にこれを一包ずつ飲んでくれ。出陣、稽古はしばらく禁止だ。鯰兄にもそう伝えとくぜ」
「……あいわかった」
そうして、三日月は初期症状の段階で、風邪をしっかり治した。
はずだった。
■ ■ ■
「あっ三日月さん!風邪はもう良いみたいですね」
それから七日。
出陣から帰った鯰尾は、本丸の廊下で三日月に出会った。
――三日月は出陣服を着込んでいて、顔色も良い。
ここ一週間。三日月は全く姿を見せなかった。
文に細かく病状がかかれていたので、初めは気にしていなかったのだが……。
さすがに臥せっているから見舞いには絶対来るな、風邪が移るといけないから、と言われると心配になる。見舞いに行こうとしたら骨喰に止められた。
昨日ようやく、もう良くなった、明日は部屋から出る、という言づてが骨喰を介して届いたので、鯰尾は朝一番で会いに行こうと思ったのだが、あいにく朝からいつもの演習が入っていた。三日月は食事場にはいなかった。部屋で食べたらしい。
「――鯰尾か。久しいな」
「お久しぶりです。もう良いんですか?」
鯰尾は苦笑した。
三日月からの手紙には、する事が無くて暇だという愚痴が沢山書いてあった。
「ああ。見ての通り。大事を取っていただけだ」
「そうなんですね。良かった」
鯰尾はほっとした。軽いと言っても風邪は風邪。風邪を引くのは初めてだろうし、体も辛かっただろう。
手入れ部屋に入ったらどうかな、と言ったのだが、それほどでは無いと言われた。
ちょうどその時、愛染が通りかかった。
「あっ。ようじっちゃん、大丈夫だったか?」
「ああ、心配をかけたな」
「良かった。まあ風邪には気を付けないとな、じゃ!」
愛染は去って行った。
鯰尾は愛染を見送った。
「報告が終わったら、どこか行きましょう、あ。でも今日はまだ出かけない方がいいか。じゃあお菓子でも食べましょう。治りそうだって聞いて、和菓子を買って来たんですよ。食べられますか?お茶は緑茶でいいですか?」
鯰尾が言うと、三日月は表情を綻ばせた。
「粥には飽きたところだ」
つられて鯰尾も微笑む。
「じゃあ、そうだ、南の縁側があったかいですよ。そこで待ってて下さい。あ、いや待って、もうすぐ報告終わりますから、そこにいて下さい」
鯰尾は言って、駆け出した。
■ ■ ■
報告を終え、厨房へ一緒に歩く途中で、御手杵と堀川に出会った。
「おっ。三日月さんもういいのか?」
「三日月さん、心配したんだよ」
「なに。この通り」
三日月は苦笑した。
「良かった。風邪は気を付けないとね」「俺はひいたこと無いなぁ……」
二振は去って行った。
厨房には加州と、大和守がいた。椅子に座ってだべっている。
「あれー、三日月さん?」
加州が言った。
「生きてたの?」
大和守が言って、三日月が苦笑する。
「この通り」
「ならよかった。ホント、びっくりしたよ」
「三日月さんでも大風邪引くんだねー、気を付けないと」
大和守の言葉に、鯰尾はジト目で三日月を見た。
「……オオカゼ?」
「ははは」
三日月は朗らかに笑ってごまかした。ように見える。
なんか、聞いてた話と違うような……。
「ねえ、加州さん、三日月さんの風邪、酷かったんです?」
「あれ、知らなかった?もー、大変。なんか、鶴丸と山姥切が交代で看病してたらしいよ。薬研も手入れ部屋使えって言ってたけど、このくらい自分で治すって言って聞かなかったらしくて」
「どれ、茶を煎れよう」
三日月は言って、茶筒の蓋を抜いた。すぽんと飛んで中身が机にこぼれた。
たぶんわざとじゃないあたりが三日月だ。
「……そうだったんですか?」
鯰尾の言葉に大和守が頷く。
「うん。ああ、こぼしちゃったね」
「なんだ、そうだったんだ……」
鯰尾は呟き、とりあえず茶っぱを戻して、和菓子を取り出した。
「またにします?」
「……」
三日月の前でちらつかせると、三日月は和菓子をじっと見て首を振った。
鯰尾は溜息をついて、もう、これっきりですからね。
と言って茶を煎れた。
「具合が悪いならちゃんとそう言って下さい。隠されると……少し寂しいですから」
「……あいわかった」
三日月はしゅんとして、鯰尾の後を追い、出ていった。
■ ■ ■
「もう、言ってくれれば、看病したのに。三日月さんのばーか」
ガラス戸のある縁側に座布団を敷いて、茶を飲みながら鯰尾はぶつぶつ言った。
「すまんな」
三日月は微笑み、茶をしばいている。
「少し濃かったかな……?」
鯰尾は溜息をついた。
軽い風邪だと聞いていたから、そんなに心配もしていなかった。
和菓子も買って、明日は非番だから出かけようと思っていたくらいだ。
「なに――こうして元通りになったのだ。それで許してくれ」
三日月が言うので、鯰尾は焦った。
「そんな、こっちこそ。三日月さんがしんどいのに『暇なら、お返事下さい』って書いちゃって。色々送っちゃったし」
近頃は出陣が込んでいて、鯰尾も疲れていた。
「ごめんなさい」
どうしてだか悲しくなって、涙ぐんでしまった。
ものすごく気を遣われたのだろう。
鯰尾はうつむいた。
「いつも、三日月さんは優しいのに。俺はどうしてこうなんだろ。本当は、三日月さんともっと堂々と、仲良くできたらって思うんですけど……」
「近侍だし、しっかりしないと、って思うと……いえ、役目がつらいとか、そういう訳じゃ無いんですよ。でも、皆の手前、弱音吐けないって言うか。俺がそんな事言って、色恋にかまけてたら、あまり戦に出ない方達が怒りますし……。別に怒られないんですけどね!」
鯰尾は苦笑で終わらせた。
じっと三日月を見る。
「本当に、もう大丈夫なんですか?」
「ああ。この通り……」
三日月は何を思ったか、はたと止まり、こちらに向け腕を持ち上げて着物の袖をひらひらと揺らした。
よく分からない動きに、鯰尾は首を傾げた。
「どうかしました?」
「いや。――近う」
「今日は……変な事しないですか?」
鯰尾は言ってみた。
「さて。どうかなぁ」
三日月が、少し微笑み小首を傾げた。その様子は無害そうで。
なんとなく、大丈夫そうな気がした。
「じゃあ、少しだけなら……」
鯰尾は座布団から降りて、そろりと近寄って、あぐらをかく三日月の左隣に座る。
三日月の左手が空いていたので、そっと手を重ねてみる。
「……具合悪いなら、無理しないで下さいね。看病だってしますから。っていうか俺、風邪なんて引いたことないんですから!心配無用ですよ?」
三日月の手が少し冷たいので温めるつもりで握る。
「……そうか。それもそうだな。では、いずれ頼もう」
「いずれって、いつです?」
「俺がまた倒れたときか?」
三日月は首を傾げて、ふっ、と口元を隠して笑った。
「此度は急だった故……、軽い風邪なら自然に治る、と思い油断した。次はすぐ手入れを受けよう」
「そうして下さい。いつ手入れ受けたんです?」
「一昨日だ。その後は大事を取って、部屋にいたのだが……。急に悪くなってしまってな。まともに身を起こすことも叶わず、折れるかと思ったぞ。主は戦の疲れが原因だろう、と言っていた」
三日月の言葉に、鯰尾は頷いた。
「――ああ。確かに気が付かない間に疲れてる、ってことはありますよね。手入れは傷は綺麗に治りますけど、疲れまでは取れませんから。……本当に、無理しないで下さいね。最近、三日月さんを編成に良く入れているから……無理そうなら言って下さい。今度から少し、調整しておきます」
こうして手だけでも触れあっていると落ち着く……。
久しぶりにみる三日月は相変わらず綺麗で、良い匂いがした。
鯰尾は三日月にもたれかかった。
(……ちょっと積極的すぎる、かな)
「……やっぱり、会いたいって気持ちがあるみたいです。たぶん、三日月さんのこと、す、すきだから……」
言ってしまってドキドキした。
抱擁をねだるように着物を引くと、包み込むように引き寄せられた。
大きな袖にすっぽり包まれて、鯰尾はもういいや、と思って力を抜いた。
ふむ、と言う呟きが聞こえて、三日月が足を崩した。
鯰尾の頰に三日月の唇がそっと触れた。
「……風邪が移るか」
「手入れは受けたんでしょう?なら平気ですよ」
鯰尾は、何をされるかとか、何をするかとかは考えていなかった。
もしかしてそういう雰囲気なのだろうか?
でも風邪の後だし……。
そうだ。
鯰尾はひらめいた。
「そうだ。少し奥で横になりましょう?丁度客間ですし、布団もあったはずだし。ちょっと昼寝しましょうよ」
少し照れながら、そんな事を口走った。
■ ■ ■
一つ奥の、さらにもう一つ奥の部屋は空き部屋で、布団が入っていた。
好奇心による家捜しの結果、鯰尾は本丸の部屋を全て把握している。
当然どの押し入れに何があるかも知っている。
――普段使われていない寝具ほどふわふわで心地よい物は無し――。
ほんのり差す陽を障子が遮る。温かい六畳一間。
ここで昼寝でもしたら静かで気持ち良いだろうと、少し前からこっそり思っていた。
実は――目覚まし時計まで仕込んであるのだ。
「ついに実行する時が来た」
鯰尾はふすまを閉め、箪笥を開けて布団を敷き、甲冑を解いた。
三日月はもたついている。
「あ。手伝います。そうだ昼寝前に歯を磨かないと。行きましょう」
「??あいわかった」
三日月の手を引いて、鯰尾は三日月と共に歯磨きを済ませた。
――三日月の着物を脱がして畳んでいく。
「これ、防具取ります?昼寝しにくいですよね」
ほいほい、と着物を脱がし、鯰尾は上手く防具だけを外した。
「……無自覚とは、恐ろしいものだなぁ」
三日月がしみじみと溜息を付いたので、鯰尾は首を傾げた。
「?」
「鯰尾……」
「何です?」
三日月がつぶやいたので鯰尾は顔を上げた。
「昼間とは言え、この部屋は薄暗い。それに、人気もない」
「そうですね」
三日月は自分の頰に手を当てた。
「……こんな所でおぬしと二人寝ていて、うっかり見つかったら何を言われるか……」
鯰尾はしゅんとした。
「……そういうつもりじゃ無かったんです。でも、駄目ですか?」
鯰尾が言うと、三日月は微笑んだ。
「無論――駄目な訳がない。さて、寝るか」
三日月はぽいと籠手を外して袴を放り、ぱたりと横になった。
「ですよねー!おやすみなさい!」
鯰尾は微笑み、上着を脱いで髪を解き、三日月と共に布団に入った。
「枕、あげますね。俺は無しでも寝られるんで」
鯰尾は、それほど厚くないくて柔らかい、大きめの枕――を三日月に譲った。
「ふむ。余るくらいだな」
三日月がまくらを確かめる。
鯰尾は近寄ってまくらを少しもらった。
三日月が心地よさげに目を閉じる。お互いゆるく抱き合った。
三日月が鯰尾の頭を撫でる。
「これはよきかな……」
「あー気持ちいー……いい匂い……」
極上の寝心地だった。
〈おわり〉
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