sungen

お知らせ
思い出語りの修行編、続きをpixivで更新しています。
旅路③まで書きました。
鯰尾と今剣は完結しました(^^)pixivに完全版が投稿してあります。
刀剣は最近投稿がpixivメインになりつつありますのでそちらをご覧下さい。
こちらはバックアップとして置いておこうと思ってます。

ただいま鬼滅の刃やってます。のんびりお待ち下さい。同人誌作り始めました。
思い出語り続きは書けた時です。未定。二話分くらいは三日月さん視点の過去の三日鯰です。

誤字を見つけたらしばらくお待ちください。そのうち修正します。

いずれ作品をまとめたり、非公開にしたりするかもしれないので、ステキ数ブクマ数など集計していませんがステキ&ブクマは届いています(^^)ありがとうございます!

またそれぞれの本丸の話の続き書いていこうと思います。
いろいろな本丸のどうしようもない話だとシリーズ名長すぎたので、シリーズ名を鯰尾奇譚に変更しました。

よろしくお願いします。

妄想しすぎで恥ずかしいので、たまにフォロワー限定公開になっている作品があります。普通のフォローでも匿名フォローでも大丈夫です。sungenだったりさんげんだったりしますが、ただの気分です。

投稿日:2019年04月15日 10:37    文字数:7,384

鯰尾奇譚15―思い出語り 番外編⑤ 乱と恋占い 

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思い出語りの本丸の乱ちゃんが占いに行く話。同田貫×乱、健全です。
※この鯰尾はシリーズ鯰尾奇譚―鯰おおにいがいる本丸、の鯰尾(鶴鯰の方の鯰尾)です。
なんとなく続き物。
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鯰尾奇譚15―思い出語り 番外編⑤ 乱と恋占い 

鯰尾藤四郎がこの場所に店を構えて、もう十年になる。
客はそう来ない。なぜならそれほど店を開いていないからだ。
週に一、二回程度。
店は非常に込み入った場所にあるのだが……、たまにうっかり迷い込んで、ついでだし占いをして欲しいという刀剣が訪れる。

――それ以外にも、人づてに聞いて訪ねてくる刀剣もいる。

■ ■ ■

今日の客は、乱藤四郎。
(……可愛いなぁ……)
鯰尾は久しぶりに間近で見る兄弟に、目を細めた。

「いらっしゃい」
「あれ?もしかして鯰尾…兄?」
鯰尾は髪を下ろしているし、布で顔を隠しているのだが乱は声で気が付いたらしい。

「そうだよ。しがない鯰尾。訳あって占い師をやってるんだ。さて兄弟。今日は何を占って欲しい?」
「ええと、……恋占い、をして欲しいんだ」

「先払いだけどいい?三十分、二千円コースと、一時間四千円コースがあるけど」
「あ、うん、延長ってできるの?」
「お客が来なければ。その時言って。延長は十五分で千円です」

「うん。ええと……じゃあとりあえず二千円で、お願いします。延長はその時決めます」
乱は財布を取り出し、お金を払った。

「ありがとうございます。じゃあ、早速、恋占いを始めましょう。――まず、事情を簡単に教えて貰える?何について占って欲しい?」
鯰尾の言葉に、乱は事情を説明した。

……最近、乱は失恋をした。
その後、新しく気になる刀剣が出来た。
その刀剣とはまだお付き合いしていないし、告白もまだ。相手が乱の事をどう思ってるかは分からない。
新しい刀剣と上手く行く可能性はある?
それに中々、前好きだった刀剣の事も気になって、むしろまだ好きで。吹っ切れない。
本当に色々不安定で。占いしてもらったら、落ち着くかもしれないと思って来た。

――あと、普段のお礼として、できればその――今気になっている刀にちょっとした贈り物をしたいのだが、何がいいのか。

「なるほど。じゃあまずは手相から。両手を出して」
乱が両手を差しだした。
「これで、分かるの……?うちの鶴丸さんが……同じ刀剣でも、手相が一振ずつ違うって言ってたけど、本当?」
「本当だよ。刀剣によってだいたい基本形があるけど、やっぱり刀のもち癖、普段の使い方、その時の状況とかで、例えば同じ鯰尾でも、同じ相が出るってことはない。俺はそれに加えて本人の霊力も見られるから、結構当たるって評判。タロットとかもできるよ……そうだね、次、少しやってみよう」
鯰尾はまず手相を視た。
「うん」
乱は目を輝かせている。

鯰尾はカードを用意した。それをまぜる。
「じゃあ兄弟。左手だけで、この山を適当に三つに分けて、また元に戻して。ありがとう」
そうして札をめくって、読み取る。

「……なるほど。新しいお相手は野性的な刀剣……小狐丸か、同田貫とか?」
「!」
乱が目を見開く。
「すごい当たってる!同田貫さんだよ」
「うん、ここにハッキリ出てる。札をみると、乱ちゃんは長い恋の後の、つらい失恋だったみたいだけど……。あれ。でも同田貫さんは、ずっと君を見てた?」

「……そう、そうなんだ」
乱がこくこくと真剣そのものの表情で頷く。鯰尾は札を指さして、説明をした。
「ここを見ると、結構、同田さんは静かにだけど、すごく一途に押してきてるね……。君もまんざらでもなかったみたいだけど……この、なんだろう。すごく力強い何か、それが同田貫さんを邪魔していたんだ。乱暴者みたいな……?なんだろう」
「あー……」
乱は思い当たる節があるらしい。

「それ、もしかして、ずお兄かな……?違うかな……うちの近侍で、とにかく強いの」
「なるほど……そうか。あ……ひょっとして、前の恋の相手?」
「うん……」
乱が頷いた。
「そうか俺か……だからここに隔絶する障害、が出てるんだな。同じ刀派だし兄弟だから……それだね。大変だっただろう……。でももう一つ、これは……明らかに、かなり強い刀剣、天下五剣クラスかな?それが分かりやすく邪魔してる……これは……。……乱ちゃんには辛いだろうけど……現状だとちょっと勝ち目が薄いかも……」

乱は肩を落とした。
「あー……やっぱり?」
「これは、君の占いだからその鯰尾さんも見ないとなんとも言えないけど、でも、その鯰尾さんも、君の事は嫌いじゃ無い、どちらかと言えば、強い好意を持ってる、って出てる。情の深い刀みたいだ」
「そう。……だから、迷ちゃって……」
乱が言った。
「……ただ、それは多分……」
鯰尾はまた数枚めくった。

「ああ。そうだね。親愛の情、恋愛感情では無い。ただ。……過去は好きだったって出てる。……もう少し前なら上手く行ったかもしれない。でも、もう無理そうなんだよね……?」

鯰尾が言うと、乱の目に、みるみる涙が貯まった。

「……っ」
乱はこくりと頷いた。ぽとりと涙がこぼれる。

「でもっ、僕が、もっと早く、告白してたら……って思うと」
「……告白はしてない?」
「……なかなか、二人きりで話せることも、なくて」
「それは、向こうが避けてたのかもね……」
乱は涙を流したまま頷く。
「そんな感じはしてた。でも少し前だったら、告白したら上手く行った……かもって思うの。僕、それで最近、すごく悩んじゃって……」
乱が項垂れる。

「……ダメって分かってても、あの時に戻れたらいいのにって思っちゃったんだ。……それで、とにかく、誰かの意見を聞きたくて、来たんだ……。僕はどうしたらいいんだろう」

「……さっき手相をみたんだけど。君はすごく優しい性格が相が出てるし、あと凄く真面目だ。鍛刀日占いってのもあるけど、鍛刀日は……覚えて無いよね?」
「!その、実は、聞いてきたの!ずお兄と、僕と、同田貫さん」
「本当?教えて貰って良い?」

乱に聞き、それを帳面に書き付けて、鯰尾は書物を開いた。

「……まず、君と鯰尾さんの相性をだけど、――ああ……うーん、鯰尾さんと君だと、ここの字が一緒だ。この二人は意外と、近くにいるとぶつかることがある。けど悪く無い……。そうか……結構似た感じの性格だね……。ただ、鯰尾さんの方が、もしかして、君よりも……すごく大人しい?のかな」
「え?ずお兄、大人しいの?」
「無口な感じだろうね。自覚は無いけど、少し言葉が足りない。けれど情があって、気遣いは出来る。言わないけど分かってくれる……。そういうところに、君はたぶん、ぐっと来たんだろう。性格的に近いから、ああなりたいって言う、憧れから始まる恋みたいな……」

「うわ……すごく当たってる……」
乱が泣くのも忘れて呟いた。

「ただ、彼はプライドが高い――それを表に出さないタイプなんだけど。真面目で人間関係に悩むタイプだから……」
鯰尾はまた別の書物を開く。

「……たぶん君の事で、少し疲れてたと思う。これは当てずっぽうじゃなくて、彼の巡りが、かなりの苦境って出てるから、おととし、去年辺りは恋愛どころじゃなかったんだろう。……これは、告白しても断られたかもしれないね」

乱が目を丸くした。
「苦境?……そうなんだ……?でも、確かに本丸始まって……大変だったかも……」
乱は呟いた。独り言だ。

「それ以外にも――この札は病気とかそういうのもあるかもしれないね。結構強く出てる」
「え病気……?あ。そういえば、ずお兄、よく倒れてた……!夢見が悪いって言ってた……」
乱が言った。

「顕現したての鯰尾にはたまにあるよ。今は?鯰尾さんは大丈夫そう?」
「うん。たぶん……でも、ずお兄、そういうのあまり言わないから。ちょっと寂しいな。僕はどうしたら、吹っ切れるのかな……」
「そうだな……、話を聞くと、兄弟は、吹っ切りたいんだよね?鯰尾さんの方は上手くいってる感じ?」
乱はうなずいた。
「うん。たぶんだけど。もう勝ち目はないなって……。僕もたぬさんに……心が動いてるって言うか。でもどうしたらいいか分からなくて」

うなずいて、鯰尾は続けた。
「そうだなぁ……これは個人的な意見だし、他にも色々方法はあるけど、もし話せるなら、前好きだったんだけど、って打ち明けてみてもいいと思う。注意して欲しいのは、占いはあくまで占いだから。君がどうするかは、君次第だ……、聞けそうな感じ?」
鯰尾が尋ねると、乱はうーん、と言った。

「ずお兄とは仲良いんだけど、今はなんか、自分の恋愛で忙しいみたいで……」

「だから僕がじゃまするのもなって……。いつも笑わないから。あんなに楽しそうなの珍しいよ」

「……あれ?僕、結構、もう気持ちの整理、できてるのかも」
乱は言いながら、少し考える様子だ。

「そうだ――やっぱり、もし前、告白してたら上手く行ってた、っていうのが引っかかってたんだ」
乱はつぶやいた。

鯰尾は頷く。
「なるほど。でも、今はもう、大分そこから過ぎてしまっている……」

乱も肩を落としてうなずいた。
「確かに……もう、そうだね。あー、なんだか悲しくなくなってきちゃった。もう過ぎたことだし、ええと、その時でも……ダメだった、って分かれば。自ずと?踏ん切りが付くかも……」

「もー、うちのずお兄ってわかりにくいんだよ……!もう。はぁ」
乱は頭を抱えて、さらに大きなため息をついた。

鯰尾がくすくすと笑った。言葉を紡ぐ。
「もし過去に戻れたとして、その時告白しても上手く行ったかどうかは、やっぱり鯰尾さん次第だ。その鯰尾さんも、色々な事を考えて君と接していたと思うよ。君は可愛いし、今こうして話してても、感情が表に出やすいタイプだから、鯰尾さんも君に好意を持たれてるって気が付いていたかもしれない……。以前の鯰尾さんがもし君の事が好きだったら、この札で見る感じだと、素直に喜んだと思う。逆に……ちょっと慎重になったりとか。避けられたりとか。君をたしなめたりとか、もしかして……そういう気配はあった?」

「避けられた事は無いかな……。慎重、たしなめは……。あ、でも……」
乱はさらに考えて、思い出しているようだ。
少し後。
「……あったかも……」
と言った。

「ううん、あった。ずお兄、あれ、わざとだ。僕が近づくといつも、『恋愛に疎いです』って感じ出してた!――ああっ。そうだ。なんで気が付かなかったんだろう……あれ遠回しに、僕の事は好きじゃ無いって、伝えたかったんだ!」

言って乱は、かあっと頰を染めた。
「うわー……そうかぁ……。僕、恥ずかしい。すごく子供だった……」
口元を手で押さえた。

「でも。あれ?ねえ、あのずお兄って、意外とそういうの、頭回る方なんだ……?」
乱が思わず敬語を忘れて言う。
鯰尾はあのずお兄という言い方に苦笑し、「そうだね、この刀の場合は……」と言って、先程書き付けた物を見た。

「真面目だから……気配りは出来るだろうね。頭も普通に回るんだけど。でもそういうの考えるのは、自分ではあまり得意では無いと思ってそうだ。この刀、どちらかと言えば奔放な刀で――、組織には馴染まないね」
「……え?そうなの?」

「我が道を行く、少し我が儘、って感じかも。一匹狼みたいな。自制はできる方だろうけど。あと……この鯰尾さん、情熱的な星が二つもあるから……。今、付き合ってる刀剣がいるなら、意外と早くまとまったんじゃないかな?」

――鯰尾が言うと、乱はうわ、という顔をした。
「……すごく当たってる……。確かに、どうして?何で?ってくらい早かった。相手に『これは僕でも惚れるな』ってきっかけはあったんだけど、本当に、すぐで……。僕、それで訳分からなくなっちゃって……」

「と、そろそろ三十分だけど、延長する?」
「え?もう?す、する!します。ええと。じゃあ十五分お願いします。それで、えっと、ずお兄はいいや。とりあえず同田貫さんは何が欲しいか分かる?」
「それを考えるのは乱ちゃん自身だけど、そうだね……ふふっ。アドバイスくらいはしようかな?手相、もう一回見せて頂けます?」
「?はい」
「……」
鯰尾は乱の手相を見て、ついでに気を少し受け取り。札をまとめた物にしばらく手を置いて、また札をめくる。

「……ん?あれっ」
思わず笑った。

「何が出たの?」
「……ええとね、彼は物はいらないみたいだ。だから食べ物とかがいいかもしれない……。懐かしい味。甘いもの……?彼が好きそうなものかな」

「甘い物――で、好きそうな……鯛焼きとか?」
「そうそう。そういう物で良いと思う。物よりも、君ともっと過ごしたい、君を守りたいって出てるし……。これは君から何を貰っても喜ぶと思うよ」

「そ、そうなんだ……?」
乱は頰を染めた。
「刀剣男士はだいたい真面目だけど、偶にとんでもないのもいる……。相手がそういう刀だったら気をつけて、って言うんだけど。この刀剣は大丈夫そうだ。彼の性格は普通に同田貫だけど、融通が利くって出てる。仲間とも上手くやれるタイプだ。乱ちゃんとも相性はそこまで悪く無いよ」
「悪く無い……良くは無いの?」
「ぴったり、っていう方が珍しいし、それで上手く行くとも限らないんだ。合いすぎると刺激がなくてどちらかが浮気したりとか。希に喧嘩しながら仲が良いとかもあるし。ほどほどが一番」
「なるほど、そうかも……」
乱は頷いた。
「乱ちゃんと似たタイプって言えば、あれ?同田貫さんは、お兄さんとも相性は悪くないね……二振って仲が良い?」
「うん。そういえば、よく話してる気がする」
乱がうなずいた。

――鯰尾はある可能性にたどり着いたが、それを言うのは控えた。
もしかしたら、『近侍のずお兄』は同田貫の乱に対する一途な想いを知っていて、彼に遠慮したのかもしれない。けれど、これは占いには出ていない。ただの推測だ。
言えば乱が混乱するだろうし……。

「とんでもないのって……どんな刀がいるの?」
幸い、乱は気が付いていないようだ。別の事を尋ねてきた。
「表面上は良いんだけど、付き合うとすごく面倒だったりとか、おかしな性癖を隠してたりとかそういう。俺は、まあ……占いの結果を見れば、明らかにやめた方が良い相手はすぐに分かる」
鯰尾は溜息を付いた。

「そうなんだ。凄いなぁ……、それでいくと、たぬさんは大丈夫なんだ。良かった。あ、もし食べ物以外で、プレゼントをあげるなら?」
「……ううん。やっぱり何かあげたいか。出るかな……。……久しぶりに、ちょっと頑張るか」
「なにか方法があるの?」
「半分くらい当たる占い……がある」

鯰尾は立ち上がり、紙を取り出した。そこには円を囲むように、様々な文字が書かれている。
中心に同田貫、と書いた紙切れを置く。
乱がその様子を、固唾を飲んで見守る。

鯰尾は紙の紐で封をした箱から賽を二つ取り出し、しばらく握って霊力を込めた後、賽を紙切れの上に、落とすように転がす。

カラカラ。と音がし、賽が止まる。

転がった方向を見て、指を賽の目の分だけ動かしながら、結果を読み上げる。
「――。住、大きさは小さい。不満がある。すぐ欲しい、実用品では無い飾り、堅い……。薄い、木でできたもの。かけら……?んん?四角……?助け?」

鯰尾は顎に手を当てた。
「……んー……。部屋に四角くて薄い物、絵とか掛け軸があるなら、それの支えが壊れたかな。心当たりがあるなら、当てずっぽうで買ってみたら?それか、連絡して聞いてみたらどうだろう?ちょうど今――たぶん今日。困ってるみたいだ」

「……」
乱はぽかんとした。

「……え?ちょ、すごい。そんなに分かるの!?あの、だって!たぬさん、部屋に額縁あるの。今朝は壊れて無かったけど……?ちょっと聞いてみても……?いい?今?」
興奮気味に言った。

「壊れてるかは分からないけど。何か住まいに不満があるって出てる。聞いてみたら?」
「う、うん。少し連絡していい?」
「いいよー、これは当たるかは分からないけど。正直、五~七割くらいかな」
鯰尾は当たるかな~?と思いながら賽を眺めた。

乱は大きめの端末を取り出して、本丸に繋いだ。画像が映るタイプの物だ。
繋いだ先は薬研だ。
『乱?何か用か?』
「……あ、薬研。ねえ、たぬさんいる?いるなら、たぬさんに、ちょっと欲しいもの無いか聞いて欲しいんだけど。どこか壊れたとか、不満があるとかそう言うのだったら、出たついでに買ってくから?――え、………、」

『あ。そうだ。さっき部屋で素振りして、額縁の支え折ったって言ってたぜ。おーい、同田貫』
鯰尾にも薬研の声が聞こえた。鯰尾は布の下でよしっ、と思い微笑んだ。
――鯰尾は自分の占いが当たると顔に出るので、それを隠すために布をかぶっている。
辻占として経験を積んでも……持って顕現したこの性質は直らない。

「うん、ねえ、代わってくれる?あ、たぬさん。薬研から聞いたんだけど、額縁、壊れちゃったの?――そうなんだ。なら、僕ちょうど出た所だから。買っていくよ。本丸で良く使ってるやつでいい?ああ、それだ。うん分かった。念の為に薬研に写メ頂戴って言っておいて。じゃあ僕が買って帰るから。待っててね、あ、うん。お店は――まだやってる時間だから」

『わりぃな。助かるぜ。やっぱ素振りは道場だな』
嬉しそうな様子で、同田貫が言った。

「――うん。じゃあ、またね!」

端末を切って、乱は大きく息を吐いた。

「――すごい。本当に当たってた……!嘘、本当!?ありがとう!」
とびきりの笑顔で言った。
「当たって良かった。普段の料金だとここまでやらないんだけど、兄弟だしサービスしとく。この店は趣味みたいな物だけど、こんな感じでやってます。これ名刺です」
鯰尾は微笑んだ。
「うわぁ、ありがとうございます。なんか、気持ちが軽くなったよ。ずお兄の事も、ちゃんと考えて、本人に聞いてみようかな……?」

カンカン、と引き戸を叩く音がした。
乱が振り返る。
「あれ、誰か来た――?」

〈おわり〉
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鯰尾奇譚15―思い出語り 番外編⑤ 乱と恋占い 
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鯰尾奇譚15―思い出語り 番外編⑤ 乱と恋占い 

鯰尾藤四郎がこの場所に店を構えて、もう十年になる。
客はそう来ない。なぜならそれほど店を開いていないからだ。
週に一、二回程度。
店は非常に込み入った場所にあるのだが……、たまにうっかり迷い込んで、ついでだし占いをして欲しいという刀剣が訪れる。

――それ以外にも、人づてに聞いて訪ねてくる刀剣もいる。

■ ■ ■

今日の客は、乱藤四郎。
(……可愛いなぁ……)
鯰尾は久しぶりに間近で見る兄弟に、目を細めた。

「いらっしゃい」
「あれ?もしかして鯰尾…兄?」
鯰尾は髪を下ろしているし、布で顔を隠しているのだが乱は声で気が付いたらしい。

「そうだよ。しがない鯰尾。訳あって占い師をやってるんだ。さて兄弟。今日は何を占って欲しい?」
「ええと、……恋占い、をして欲しいんだ」

「先払いだけどいい?三十分、二千円コースと、一時間四千円コースがあるけど」
「あ、うん、延長ってできるの?」
「お客が来なければ。その時言って。延長は十五分で千円です」

「うん。ええと……じゃあとりあえず二千円で、お願いします。延長はその時決めます」
乱は財布を取り出し、お金を払った。

「ありがとうございます。じゃあ、早速、恋占いを始めましょう。――まず、事情を簡単に教えて貰える?何について占って欲しい?」
鯰尾の言葉に、乱は事情を説明した。

……最近、乱は失恋をした。
その後、新しく気になる刀剣が出来た。
その刀剣とはまだお付き合いしていないし、告白もまだ。相手が乱の事をどう思ってるかは分からない。
新しい刀剣と上手く行く可能性はある?
それに中々、前好きだった刀剣の事も気になって、むしろまだ好きで。吹っ切れない。
本当に色々不安定で。占いしてもらったら、落ち着くかもしれないと思って来た。

――あと、普段のお礼として、できればその――今気になっている刀にちょっとした贈り物をしたいのだが、何がいいのか。

「なるほど。じゃあまずは手相から。両手を出して」
乱が両手を差しだした。
「これで、分かるの……?うちの鶴丸さんが……同じ刀剣でも、手相が一振ずつ違うって言ってたけど、本当?」
「本当だよ。刀剣によってだいたい基本形があるけど、やっぱり刀のもち癖、普段の使い方、その時の状況とかで、例えば同じ鯰尾でも、同じ相が出るってことはない。俺はそれに加えて本人の霊力も見られるから、結構当たるって評判。タロットとかもできるよ……そうだね、次、少しやってみよう」
鯰尾はまず手相を視た。
「うん」
乱は目を輝かせている。

鯰尾はカードを用意した。それをまぜる。
「じゃあ兄弟。左手だけで、この山を適当に三つに分けて、また元に戻して。ありがとう」
そうして札をめくって、読み取る。

「……なるほど。新しいお相手は野性的な刀剣……小狐丸か、同田貫とか?」
「!」
乱が目を見開く。
「すごい当たってる!同田貫さんだよ」
「うん、ここにハッキリ出てる。札をみると、乱ちゃんは長い恋の後の、つらい失恋だったみたいだけど……。あれ。でも同田貫さんは、ずっと君を見てた?」

「……そう、そうなんだ」
乱がこくこくと真剣そのものの表情で頷く。鯰尾は札を指さして、説明をした。
「ここを見ると、結構、同田さんは静かにだけど、すごく一途に押してきてるね……。君もまんざらでもなかったみたいだけど……この、なんだろう。すごく力強い何か、それが同田貫さんを邪魔していたんだ。乱暴者みたいな……?なんだろう」
「あー……」
乱は思い当たる節があるらしい。

「それ、もしかして、ずお兄かな……?違うかな……うちの近侍で、とにかく強いの」
「なるほど……そうか。あ……ひょっとして、前の恋の相手?」
「うん……」
乱が頷いた。
「そうか俺か……だからここに隔絶する障害、が出てるんだな。同じ刀派だし兄弟だから……それだね。大変だっただろう……。でももう一つ、これは……明らかに、かなり強い刀剣、天下五剣クラスかな?それが分かりやすく邪魔してる……これは……。……乱ちゃんには辛いだろうけど……現状だとちょっと勝ち目が薄いかも……」

乱は肩を落とした。
「あー……やっぱり?」
「これは、君の占いだからその鯰尾さんも見ないとなんとも言えないけど、でも、その鯰尾さんも、君の事は嫌いじゃ無い、どちらかと言えば、強い好意を持ってる、って出てる。情の深い刀みたいだ」
「そう。……だから、迷ちゃって……」
乱が言った。
「……ただ、それは多分……」
鯰尾はまた数枚めくった。

「ああ。そうだね。親愛の情、恋愛感情では無い。ただ。……過去は好きだったって出てる。……もう少し前なら上手く行ったかもしれない。でも、もう無理そうなんだよね……?」

鯰尾が言うと、乱の目に、みるみる涙が貯まった。

「……っ」
乱はこくりと頷いた。ぽとりと涙がこぼれる。

「でもっ、僕が、もっと早く、告白してたら……って思うと」
「……告白はしてない?」
「……なかなか、二人きりで話せることも、なくて」
「それは、向こうが避けてたのかもね……」
乱は涙を流したまま頷く。
「そんな感じはしてた。でも少し前だったら、告白したら上手く行った……かもって思うの。僕、それで最近、すごく悩んじゃって……」
乱が項垂れる。

「……ダメって分かってても、あの時に戻れたらいいのにって思っちゃったんだ。……それで、とにかく、誰かの意見を聞きたくて、来たんだ……。僕はどうしたらいいんだろう」

「……さっき手相をみたんだけど。君はすごく優しい性格が相が出てるし、あと凄く真面目だ。鍛刀日占いってのもあるけど、鍛刀日は……覚えて無いよね?」
「!その、実は、聞いてきたの!ずお兄と、僕と、同田貫さん」
「本当?教えて貰って良い?」

乱に聞き、それを帳面に書き付けて、鯰尾は書物を開いた。

「……まず、君と鯰尾さんの相性をだけど、――ああ……うーん、鯰尾さんと君だと、ここの字が一緒だ。この二人は意外と、近くにいるとぶつかることがある。けど悪く無い……。そうか……結構似た感じの性格だね……。ただ、鯰尾さんの方が、もしかして、君よりも……すごく大人しい?のかな」
「え?ずお兄、大人しいの?」
「無口な感じだろうね。自覚は無いけど、少し言葉が足りない。けれど情があって、気遣いは出来る。言わないけど分かってくれる……。そういうところに、君はたぶん、ぐっと来たんだろう。性格的に近いから、ああなりたいって言う、憧れから始まる恋みたいな……」

「うわ……すごく当たってる……」
乱が泣くのも忘れて呟いた。

「ただ、彼はプライドが高い――それを表に出さないタイプなんだけど。真面目で人間関係に悩むタイプだから……」
鯰尾はまた別の書物を開く。

「……たぶん君の事で、少し疲れてたと思う。これは当てずっぽうじゃなくて、彼の巡りが、かなりの苦境って出てるから、おととし、去年辺りは恋愛どころじゃなかったんだろう。……これは、告白しても断られたかもしれないね」

乱が目を丸くした。
「苦境?……そうなんだ……?でも、確かに本丸始まって……大変だったかも……」
乱は呟いた。独り言だ。

「それ以外にも――この札は病気とかそういうのもあるかもしれないね。結構強く出てる」
「え病気……?あ。そういえば、ずお兄、よく倒れてた……!夢見が悪いって言ってた……」
乱が言った。

「顕現したての鯰尾にはたまにあるよ。今は?鯰尾さんは大丈夫そう?」
「うん。たぶん……でも、ずお兄、そういうのあまり言わないから。ちょっと寂しいな。僕はどうしたら、吹っ切れるのかな……」
「そうだな……、話を聞くと、兄弟は、吹っ切りたいんだよね?鯰尾さんの方は上手くいってる感じ?」
乱はうなずいた。
「うん。たぶんだけど。もう勝ち目はないなって……。僕もたぬさんに……心が動いてるって言うか。でもどうしたらいいか分からなくて」

うなずいて、鯰尾は続けた。
「そうだなぁ……これは個人的な意見だし、他にも色々方法はあるけど、もし話せるなら、前好きだったんだけど、って打ち明けてみてもいいと思う。注意して欲しいのは、占いはあくまで占いだから。君がどうするかは、君次第だ……、聞けそうな感じ?」
鯰尾が尋ねると、乱はうーん、と言った。

「ずお兄とは仲良いんだけど、今はなんか、自分の恋愛で忙しいみたいで……」

「だから僕がじゃまするのもなって……。いつも笑わないから。あんなに楽しそうなの珍しいよ」

「……あれ?僕、結構、もう気持ちの整理、できてるのかも」
乱は言いながら、少し考える様子だ。

「そうだ――やっぱり、もし前、告白してたら上手く行ってた、っていうのが引っかかってたんだ」
乱はつぶやいた。

鯰尾は頷く。
「なるほど。でも、今はもう、大分そこから過ぎてしまっている……」

乱も肩を落としてうなずいた。
「確かに……もう、そうだね。あー、なんだか悲しくなくなってきちゃった。もう過ぎたことだし、ええと、その時でも……ダメだった、って分かれば。自ずと?踏ん切りが付くかも……」

「もー、うちのずお兄ってわかりにくいんだよ……!もう。はぁ」
乱は頭を抱えて、さらに大きなため息をついた。

鯰尾がくすくすと笑った。言葉を紡ぐ。
「もし過去に戻れたとして、その時告白しても上手く行ったかどうかは、やっぱり鯰尾さん次第だ。その鯰尾さんも、色々な事を考えて君と接していたと思うよ。君は可愛いし、今こうして話してても、感情が表に出やすいタイプだから、鯰尾さんも君に好意を持たれてるって気が付いていたかもしれない……。以前の鯰尾さんがもし君の事が好きだったら、この札で見る感じだと、素直に喜んだと思う。逆に……ちょっと慎重になったりとか。避けられたりとか。君をたしなめたりとか、もしかして……そういう気配はあった?」

「避けられた事は無いかな……。慎重、たしなめは……。あ、でも……」
乱はさらに考えて、思い出しているようだ。
少し後。
「……あったかも……」
と言った。

「ううん、あった。ずお兄、あれ、わざとだ。僕が近づくといつも、『恋愛に疎いです』って感じ出してた!――ああっ。そうだ。なんで気が付かなかったんだろう……あれ遠回しに、僕の事は好きじゃ無いって、伝えたかったんだ!」

言って乱は、かあっと頰を染めた。
「うわー……そうかぁ……。僕、恥ずかしい。すごく子供だった……」
口元を手で押さえた。

「でも。あれ?ねえ、あのずお兄って、意外とそういうの、頭回る方なんだ……?」
乱が思わず敬語を忘れて言う。
鯰尾はあのずお兄という言い方に苦笑し、「そうだね、この刀の場合は……」と言って、先程書き付けた物を見た。

「真面目だから……気配りは出来るだろうね。頭も普通に回るんだけど。でもそういうの考えるのは、自分ではあまり得意では無いと思ってそうだ。この刀、どちらかと言えば奔放な刀で――、組織には馴染まないね」
「……え?そうなの?」

「我が道を行く、少し我が儘、って感じかも。一匹狼みたいな。自制はできる方だろうけど。あと……この鯰尾さん、情熱的な星が二つもあるから……。今、付き合ってる刀剣がいるなら、意外と早くまとまったんじゃないかな?」

――鯰尾が言うと、乱はうわ、という顔をした。
「……すごく当たってる……。確かに、どうして?何で?ってくらい早かった。相手に『これは僕でも惚れるな』ってきっかけはあったんだけど、本当に、すぐで……。僕、それで訳分からなくなっちゃって……」

「と、そろそろ三十分だけど、延長する?」
「え?もう?す、する!します。ええと。じゃあ十五分お願いします。それで、えっと、ずお兄はいいや。とりあえず同田貫さんは何が欲しいか分かる?」
「それを考えるのは乱ちゃん自身だけど、そうだね……ふふっ。アドバイスくらいはしようかな?手相、もう一回見せて頂けます?」
「?はい」
「……」
鯰尾は乱の手相を見て、ついでに気を少し受け取り。札をまとめた物にしばらく手を置いて、また札をめくる。

「……ん?あれっ」
思わず笑った。

「何が出たの?」
「……ええとね、彼は物はいらないみたいだ。だから食べ物とかがいいかもしれない……。懐かしい味。甘いもの……?彼が好きそうなものかな」

「甘い物――で、好きそうな……鯛焼きとか?」
「そうそう。そういう物で良いと思う。物よりも、君ともっと過ごしたい、君を守りたいって出てるし……。これは君から何を貰っても喜ぶと思うよ」

「そ、そうなんだ……?」
乱は頰を染めた。
「刀剣男士はだいたい真面目だけど、偶にとんでもないのもいる……。相手がそういう刀だったら気をつけて、って言うんだけど。この刀剣は大丈夫そうだ。彼の性格は普通に同田貫だけど、融通が利くって出てる。仲間とも上手くやれるタイプだ。乱ちゃんとも相性はそこまで悪く無いよ」
「悪く無い……良くは無いの?」
「ぴったり、っていう方が珍しいし、それで上手く行くとも限らないんだ。合いすぎると刺激がなくてどちらかが浮気したりとか。希に喧嘩しながら仲が良いとかもあるし。ほどほどが一番」
「なるほど、そうかも……」
乱は頷いた。
「乱ちゃんと似たタイプって言えば、あれ?同田貫さんは、お兄さんとも相性は悪くないね……二振って仲が良い?」
「うん。そういえば、よく話してる気がする」
乱がうなずいた。

――鯰尾はある可能性にたどり着いたが、それを言うのは控えた。
もしかしたら、『近侍のずお兄』は同田貫の乱に対する一途な想いを知っていて、彼に遠慮したのかもしれない。けれど、これは占いには出ていない。ただの推測だ。
言えば乱が混乱するだろうし……。

「とんでもないのって……どんな刀がいるの?」
幸い、乱は気が付いていないようだ。別の事を尋ねてきた。
「表面上は良いんだけど、付き合うとすごく面倒だったりとか、おかしな性癖を隠してたりとかそういう。俺は、まあ……占いの結果を見れば、明らかにやめた方が良い相手はすぐに分かる」
鯰尾は溜息を付いた。

「そうなんだ。凄いなぁ……、それでいくと、たぬさんは大丈夫なんだ。良かった。あ、もし食べ物以外で、プレゼントをあげるなら?」
「……ううん。やっぱり何かあげたいか。出るかな……。……久しぶりに、ちょっと頑張るか」
「なにか方法があるの?」
「半分くらい当たる占い……がある」

鯰尾は立ち上がり、紙を取り出した。そこには円を囲むように、様々な文字が書かれている。
中心に同田貫、と書いた紙切れを置く。
乱がその様子を、固唾を飲んで見守る。

鯰尾は紙の紐で封をした箱から賽を二つ取り出し、しばらく握って霊力を込めた後、賽を紙切れの上に、落とすように転がす。

カラカラ。と音がし、賽が止まる。

転がった方向を見て、指を賽の目の分だけ動かしながら、結果を読み上げる。
「――。住、大きさは小さい。不満がある。すぐ欲しい、実用品では無い飾り、堅い……。薄い、木でできたもの。かけら……?んん?四角……?助け?」

鯰尾は顎に手を当てた。
「……んー……。部屋に四角くて薄い物、絵とか掛け軸があるなら、それの支えが壊れたかな。心当たりがあるなら、当てずっぽうで買ってみたら?それか、連絡して聞いてみたらどうだろう?ちょうど今――たぶん今日。困ってるみたいだ」

「……」
乱はぽかんとした。

「……え?ちょ、すごい。そんなに分かるの!?あの、だって!たぬさん、部屋に額縁あるの。今朝は壊れて無かったけど……?ちょっと聞いてみても……?いい?今?」
興奮気味に言った。

「壊れてるかは分からないけど。何か住まいに不満があるって出てる。聞いてみたら?」
「う、うん。少し連絡していい?」
「いいよー、これは当たるかは分からないけど。正直、五~七割くらいかな」
鯰尾は当たるかな~?と思いながら賽を眺めた。

乱は大きめの端末を取り出して、本丸に繋いだ。画像が映るタイプの物だ。
繋いだ先は薬研だ。
『乱?何か用か?』
「……あ、薬研。ねえ、たぬさんいる?いるなら、たぬさんに、ちょっと欲しいもの無いか聞いて欲しいんだけど。どこか壊れたとか、不満があるとかそう言うのだったら、出たついでに買ってくから?――え、………、」

『あ。そうだ。さっき部屋で素振りして、額縁の支え折ったって言ってたぜ。おーい、同田貫』
鯰尾にも薬研の声が聞こえた。鯰尾は布の下でよしっ、と思い微笑んだ。
――鯰尾は自分の占いが当たると顔に出るので、それを隠すために布をかぶっている。
辻占として経験を積んでも……持って顕現したこの性質は直らない。

「うん、ねえ、代わってくれる?あ、たぬさん。薬研から聞いたんだけど、額縁、壊れちゃったの?――そうなんだ。なら、僕ちょうど出た所だから。買っていくよ。本丸で良く使ってるやつでいい?ああ、それだ。うん分かった。念の為に薬研に写メ頂戴って言っておいて。じゃあ僕が買って帰るから。待っててね、あ、うん。お店は――まだやってる時間だから」

『わりぃな。助かるぜ。やっぱ素振りは道場だな』
嬉しそうな様子で、同田貫が言った。

「――うん。じゃあ、またね!」

端末を切って、乱は大きく息を吐いた。

「――すごい。本当に当たってた……!嘘、本当!?ありがとう!」
とびきりの笑顔で言った。
「当たって良かった。普段の料金だとここまでやらないんだけど、兄弟だしサービスしとく。この店は趣味みたいな物だけど、こんな感じでやってます。これ名刺です」
鯰尾は微笑んだ。
「うわぁ、ありがとうございます。なんか、気持ちが軽くなったよ。ずお兄の事も、ちゃんと考えて、本人に聞いてみようかな……?」

カンカン、と引き戸を叩く音がした。
乱が振り返る。
「あれ、誰か来た――?」

〈おわり〉
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