投稿日:2019年07月19日 15:31 文字数:3,513
思い出語り 夏⑩ ー旅路ー①
ステキ数は非公開です
ここから少しだけ三日月の話になります。鯰尾は少しお休み。
続きはまた書いたときにアップします。予定は未定です。
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思い出語り 夏⑩ ー旅路ー①
日も暮れた宿場町、その裏路地の片隅で二人の男が会話していた。
同じ宿の下働きであろう。湯を沸かす為の薪を運んでいる。
「おい。あの骨の化け物、隣の客達も見たってよ。向こうの宿も大騒ぎだ」
「何。すると旦那さん達の見間違えじゃあなかったのか?こええなぁ、迷惑だなぁ。お前は見たのか?」
「いいや。俺が見た時にはいなかった。だが今度は――大きな鬼も」
「そこの者」
そこにちょうど、一人の侍が通りかかった。
男達は固まった。
傘で顔を隠しているが、背丈が高い――。
ありふれた旅装束に、草履、脚絆。
棒を布切れで包み下げている。
それはもちろん刀だろう。気配が侍のそれだ。
「俺は今しがた着いた所なのだが」
「へ、へえ?」
「この宿に泊まっても良いか?」
どうやら客のようだ。男達は顔を見合わせた。
先程の会話は聞こえていなかったらしい。
「へえ、ですが、今日は、宿のそばを化け物がうろついていたとかで……。客が逃げていきましてね。うちには人っ子一人いねえんです、できれば他の宿に行かれた方が……」
「――化け物?それは大変だなぁ。どういうものだ?」
いやにのんびりした口調だ。
「骨の化け物と、鬼だそうで。あっしらは見て無いんですが」
その時、一人の女が戸口から顔を出した。二十半ばの女だった。
「――あんた達、何油売ってるの、危ないから早く入りなさい!戸を閉めて――」
「その人は?」
「お富さん」「お客さんですが、どうします?」
「……あんた、お侍さん?」
「ああ。そうだ」
「背丈はあるね。――お侍さんでいいかい、腕に自信はおありですか?」
女はその客を見た。宿には侍も多く泊まる。長物を持っているし、一目でそれと分かった。
「そうだなぁ。まだまだ、と言った所かな。故あって諸国を旅している。宿代はあるぞ」
客は懐を示した。
旅慣れているようだ。
客の正直な物言いに女は呆れたようだ。
「まだまだなのかい……、でも、宿探ししてるなら、今日一晩、泊まって行ってくれないかい?お代は半値でいいからさ。腕の立つやつが全部逃げたんだ。――それに、もう今じゃどこも一杯だよ。うちから出て行った客でさ」
女は苦笑した。
「それは大変だな。俺で良ければ泊まって良いか?」
「あー、助かるよ。おとっさんもおっかさんも寝込んじまって……、さ、どうぞ入って下さい。ああ、もちろん表からね。足を洗ってあげるよ。ほら、あんた達も、五助はおっとさんに達に伝えて、寝込んでる場合じゃ無いって言って」
女が言って、男達はへえ、と言って慌ただしく動き始める。
「こんな時だから、不自由させるかも知れないけど、半分だからね」
「あっはは。あいわかった」
客は鷹揚に笑い、女に連れられ表に回った。
「しっかし、なんで裏側を通って来たんだい?」
普通は旅籠の並ぶ、表の道を歩いてくるものだ。しかもこんな時間に。
「野良猫を追っていたら、道に迷ってしまってなぁ」
「はあ。そいつは難儀だったね、どうぞこしかけて下さいな」
客は椅子に座わった。
女は傘を取って長椅子に置いて、桶を用意して、振り返って――。ぽかんとした。
「まあ、こりゃなんだ?……」
「?どうかしたか」
客は小首を傾げた。
日も暮れた宿場町、その裏路地の片隅で二人の男が会話していた。
同じ宿の下働きであろう。湯を沸かす為の薪を運んでいる。
「おい。あの骨の化け物、隣の客達も見たってよ。向こうの宿も大騒ぎだ」
「何。すると旦那さん達の見間違えじゃあなかったのか?こええなぁ、迷惑だなぁ。お前は見たのか?」
「いいや。俺が見た時にはいなかった。だが今度は――大きな鬼も」
「そこの者」
そこにちょうど、一人の侍が通りかかった。
男達は固まった。
傘で顔を隠しているが、背丈が高い――。
ありふれた旅装束に、草履、脚絆。
棒を布切れで包み下げている。
それはもちろん刀だろう。気配が侍のそれだ。
「俺は今しがた着いた所なのだが」
「へ、へえ?」
「この宿に泊まっても良いか?」
どうやら客のようだ。男達は顔を見合わせた。
先程の会話は聞こえていなかったらしい。
「へえ、ですが、今日は、宿のそばを化け物がうろついていたとかで……。客が逃げていきましてね。うちには人っ子一人いねえんです、できれば他の宿に行かれた方が……」
「――化け物?それは大変だなぁ。どういうものだ?」
いやにのんびりした口調だ。
「骨の化け物と、鬼だそうで。あっしらは見て無いんですが」
その時、一人の女が戸口から顔を出した。二十半ばの女だった。
「――あんた達、何油売ってるの、危ないから早く入りなさい!戸を閉めて――」
「その人は?」
「お富さん」「お客さんですが、どうします?」
「……あんた、お侍さん?」
「ああ。そうだ」
「背丈はあるね。――お侍さんでいいかい、腕に自信はおありですか?」
女はその客を見た。宿には侍も多く泊まる。長物を持っているし、一目でそれと分かった。
「そうだなぁ。まだまだ、と言った所かな。故あって諸国を旅している。宿代はあるぞ」
客は懐を示した。
旅慣れているようだ。
客の正直な物言いに女は呆れたようだ。
「まだまだなのかい……、でも、宿探ししてるなら、今日一晩、泊まって行ってくれないかい?お代は半値でいいからさ。腕の立つやつが全部逃げたんだ。――それに、もう今じゃどこも一杯だよ。うちから出て行った客でさ」
女は苦笑した。
「それは大変だな。俺で良ければ泊まって良いか?」
「あー、助かるよ。おとっさんもおっかさんも寝込んじまって……、さ、どうぞ入って下さい。ああ、もちろん表からね。足を洗ってあげるよ。ほら、あんた達も、五助はおっとさんに達に伝えて、寝込んでる場合じゃ無いって言って」
女が言って、男達はへえ、と言って慌ただしく動き始める。
「こんな時だから、不自由させるかも知れないけど、半分だからね」
「あっはは。あいわかった」
客は鷹揚に笑い、女に連れられ表に回った。
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普通は旅籠の並ぶ、表の道を歩いてくるものだ。しかもこんな時間に。
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