高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2023年06月20日 22:28    文字数:10,276

3こ目;僕は君の宝物 第3話

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2021/06/25公開。
蒼生ちゃんが中2…!今書いているところは大学2年なので、なんというか…懐かしいですね。

>>>>>>>>
蒼生、中学2年生の走馬灯。
波乱の幕開け……そして森くんと笹原くんの登場です。
次第にペースを乱されていく蒼生くんの様子をお楽しみください(笑)。
1 / 1
 中学2年生の始まりは、まさに「波乱の幕開け」って感じだった。僕と健ちゃんは呆然と掲示板を眺めていた。
 幼稚園、小学校、中1、ずっとクラスが一緒だった僕たち。一緒の紙に書かれ続けた名前が、初めて隣の紙に書かれている。健ちゃんは目に見えて動揺してた。僕だって頭の中真っ白だ。
 とりあえず今日一緒に帰ることを約束して、僕と健ちゃんは教室の前で別れたのだった……。

 初めて入る教室にはもう結構人がいた。前の掲示板に座席表が貼ってあったので見に行く。1列ずつ男子と女子になっているんだな。ええと、僕はここか。窓際の席だ。前の席に笹原、後ろには森、と書かれてる。あいうえお順ってわけじゃないのか。
 僕はとりあえず席につく。……間。うわ。どうしよう。健ちゃんがいない時ってどうしてたっけ。落ち着こう、そうだ本読もう。軽い鞄には何度も読んだ小説が入っている。読めば少しは落ち着くかもしれない。そうしてる間にも人が増えていく。ちらと目をあげて見るけど、見事に知り合いがいない。知ってる顔はあるもののまともに話したことがない。
 うわあ……ここから友達作っていかなきゃなのか。なんだか急に面倒になってきた。こういう事態見越してちゃんと知り合い作っておかなきゃだったんだな……。つい健ちゃんがいる前提で全部考えてた。健ちゃんがそばにいないことなんて考えもしなかった。
 あー……。僕、健ちゃんに頼りすぎだったな。改めて思う。
 ほとんど内容が入って来ない文字列を目で追っていると、突然そこに影が落ちた。視線を上げると目の前に立つ男子生徒が2人。片方はがっしりした優しそうな人。もう片方は色素の薄い髪に冷ややかな印象の目をする人だった。目が合ったので、とりあえず頭を下げた。
 ……知ってるぞ。この2人有名だ。
 がっしりしたほう、森くんは柔道の小学生チャンピオンだ。隣の小学校だったけど地区から全国大会優勝者が出たって大盛り上がりだった。地域の広報紙に写真が載ってたから顔も知ってる。去年の大会でもいいところまで行ったらしい。やたら強いっていうから勝手に怖いイメージを持ってたんだけど、すごく穏やかな感じだ。
 もうひとり……笹原くんてあの笹原くんか。告白は断らないって噂の。噂にせよこの年齢でそんなふうに言われるなんて相当だよね。たしかにめちゃくちゃイケメンだ。もしかするとうちの長兄タイプなのかな。だとしたら話は合わなそうだ。
 彼らは一言二言会話すると、僕の前後に座った。この人たち友達同士だったのか。席挟まれるって、ものすごく気まずい。

 この日は始業式だけだったので、午前中で終わりだ。教室を出ると、階段の脇に健ちゃんが立っていた。
「お疲れ~。どうだった?」
「なんだかゼロからのスタートって感じ……。健ちゃんは?」
「教室に蒼生がいない……」
 そりゃあそうだ。でも健ちゃんのクラスには花井くんもいるし、健ちゃんならすぐ慣れるだろうな。
 問題は僕か~……。
「ま、とりあえず頑張ろ」
 健ちゃんは気を取り直したように明るく笑った。


 翌日から授業が始まった。初日だから新しい教科の先生と顔合わせって感じだけど。去年と同じ先生が多いから授業は聞きやすそうだな。時間割の名前を確認すると、午後の教科も知ってる先生だ。さっさとお弁当食べて図書室にでも行こうかな。
「野木沢」
 後ろから声がする。振り向くと、森くんがお弁当の袋を振っていた。
 あ。そうか、前の席の笹原くんと友達なんだもんね、僕がいたら邪魔だ。
「ごめん、すぐどくね」
 森くんはにこにこ笑っている。
「そうじゃなくてさ。野木沢って昼誰かと約束してる?」
「え、してないけど」
「じゃ一緒に食お。いったん椅子そっちやって」
 はい? なんだかよくわからないけど勢いに押されて自分の椅子を窓際に寄せる。その出来た空間に森くんは自分の机を押して、僕の机にくっつけた。その間に笹原くんは椅子を後ろ向きにして僕の机にサンドイッチを乗せた。
 え、これ、噂に聞くリア充の行動力ってやつ? 僕の能力じゃ処理しきれないんだけど!
「どうぞ」
 森くんがエスコートするように腕を広げるので、混乱したまま座る。何。何この絵ヅラ。
「いただきます」
「い、いただきます」
 何が起きてるんだろう。笹原くんずっと無言だし。森くんの話も延々とりとめもないし。ヤバい、面倒な人に絡まれたかも……。
「野木沢って去年の国語も松島先生?」
「うん」
「なんか取っつきにくそうだったな」
「でも教え方丁寧でわかりやすいよ」
「そうなんだ」
 旧知の仲みたいに話しかけてくるけど、昨日が初対面だ。あの時は穏やかな感じだと思ったのに、ぐいぐい来るタイプの人なのか。ははあ、世の中の人はこうやって人脈を広げていくんですね……。
「そういえばさ、野木沢っていつも寺田と一緒だけど。ずいぶん仲いいよな」
 ……ああ。
 なるほど。それが聞きたかったのか。そうだよね、目立つよね。昔からの知り合いじゃない人たちにしてみたら妙な光景なんだろうな。陰で色々言われてるのも知ってる。どうでもいいけど。健ちゃんのためには反論したほうがいいのかなって思うことはある。とはいえ反応したら負けな気もするし。
 でも面と向かって聞かれたのは初めてだ。
「幼馴染みなんだ。家が隣で、生まれた時から一緒だから、なんだろうな、ほとんど兄弟みたいな感じじゃないかな」
「よく抱きつかれてるの見るけど」
「たぶんぬいぐるみ扱いなんだと思うよ」
 へえ、とだけ森くんは言った。
 普段思っていることだけど、初めて口に出したなぁ。それだけなのに、なんでだろう。胸の真ん中あたりがちくりとした。


 たぶん聞きたいことを聞いたから、もう話しかけたりしてこないだろうなって思ってたんだけど。翌日からも森くんは僕に頻繁に声をかけて来たし、昼ごはんも毎日誘われた。なんていうのかな、人懐こい? そんな感じだ。面倒だと思ってるのに、にっこり笑って押しきられる。
 笹原くんも特別何か話題を振るでもなくそこにいる。聞かれたことに答えはするから、口数が少ないタイプとかなんだろうか。僕にはやっぱり2人の意図が見えなかった。
 あと、勢いにもついていけなかった。
「野木沢ってゲームとかするほう?」
「あんまり……。父の古いゲームならやらせてもらって好きだったのはあるけど」
「へえ、なんてやつ?」
「スピリットアリアっていうアクションもの……得意じゃなかったけど、世界観が好きで」
「あー! 知ってる? それ、最近続編がゲーセンに置いてあるの」
「えっ、そうなの?」
「精霊がどうのって話だっけ。今でも根強い人気があるとかで、何年だったかな、周年記念で続編出したらしいよ」
「うん、選ぶ精霊の種類によって内容が変化するんだ。そっか、元々はゲームセンターにあったゲームだとは知ってたけど」
「よし放課後行ってみよう。ちょうど今日は道場も休みだし。時間大丈夫だろ?」
「えっ」
 早い。スピードが早い! なんだこれ世の中こういうスピードで動いてるの?

 帰りに寄り道は禁止ってされてるんだけど、まったく彼らは気にすることなく駅向こうのゲームセンターへ僕を連れて行った。まあひとりじゃ来られないし、幼心に好きだったゲームは見てみたいし、いいか。
 昔からあるような少し古めの店の中は、いろんなゲームの音が混ざって賑やかだ。お客さんの数はそんなに多くないみたい。森くんはクレーンゲームの合間を抜け、店の奥へ向かう。すると、ほとんど端の一角に、緑に塗られた機械がふたつ並んでいた。縁には懐かしいキャラクターのイラストがちょっと今ふうにアレンジして描かれている。
「対戦するか」
「えっ、僕ヘタだけど」
「大丈夫大丈夫。俺は大地にしよう」
「あ、水の精霊で……」
 ひえ。好きなのは世界観でプレイは得意じゃないんだけど。しかも家庭用ゲーム機とゲームセンターの機械とでは触るボタンもスティックも違う。とりあえず、操作面の脇に書かれてるやり方でなんとか技を出す。グラフィックが綺麗で、エフェクトがすごいんだけど、見てる余裕がない。しかも森くんは僕が技を出すのを確実に待ってる。これ、あれだ。接待プレイってやつだ。しかも結局負けたし。
「……画面見たいから、良かったら森くんのプレイを隣で見させてもらっていい?」
 敗北宣言をすると、森くんは「もちろん」と爽やかに笑った。コインを投入口に放り込むと、たたん、とリズムよくボタンを叩いた。今度はさっき僕が使った水の精霊を選ぶ。わぁ……なんだかもう違うゲームみたいだ。綺麗に技を次々に決めると、背景が海の底のような景色に変わっていった。
「これ、相手にある程度攻撃させてから反撃すると、景色が混じりあって綺麗だよ」
 はー、なるほど。柔道少年にこんな特技があったとは。森くんは他の精霊のプレイも見せてくれたあと、他のアクションゲームもいくつかやって見せてくれた。すごいプレイだから、見てるだけで楽しい。
 見てるだけ、といえば、笹原くんもだ。ずっと近くにいるから、楽しくないわけじゃないと思うんだけど、表情が乏しくて何を考えてるのかまったくわからない。
「笹原くんはやらないの?」
 聞くと、肩をすくめる。
「得意じゃない。あと、見てるのが楽しい」
 だそうだ。まあ、こんな上手な人と一緒にやるのは大変そうだもんね。
 やりとりを見ていた森くんがにやりと笑う。
「最後にレースゲームやろう。負けたらジュース奢りな。笹原もここは強制参加」
「ええ……」
 笹原くんが抗議の声っぽいものを上げるけど、森くんは意に介さない。4つ席の並んだレースゲームの運転席、その一番奥に座って手招きをする。僕も嫌いじゃないけど……。
 森くんの隣に僕が座り、その隣に笹原くんが座る。森くんがコースを選ぶ。キャピタルコースか、障害物がなくて走りやすいコースだ。シグナルが頭上に現れ、カウントダウンが始まる……って、えぇ……? 待って。ちょ、なにそれ。笹原くんめちゃくちゃ速い。思わずちらっと見ちゃったけど、ハンドル捌きもギアチェンジも的確で無駄がない。対する森くんも無難なラインを攻めてくる。
 いや、勝てるか!
「……笹原くんすごい」
 すんなり1位を獲った笹原くんは、ふっと小さく笑った。
「これは得意なんだ」
 ああもう、なんだこの人。さらっとこういうことやっちゃうタイプか。カッコいいな。ハンドルに片手残して片足だけこっちに下ろしてるポーズも様になってるし。モテる噂は伊達じゃないな……。僕の背中の方向では森くんの笑い声が聞こえる。でしょうね、森くんは笹原くんがレース得意なの知ってたもんね。そりゃあ僕が負けるよなあ。
 最初はリア充の勢い怖い、って思ってたけど、すごく楽しかった。子供だけでゲームセンターに来たことも初めてだったし、ゲームに負けてジュース奢るなんてことも初めてだったし。なんか、すごく「友達」っぽい、と思った。


 梅雨が近付く頃になると、じわりとみんなの登校が遅くなってきて、僕が来る頃には半分も席が埋まっていないようになった。湿気でみんな重くなるんだろうかと適当なことを考えながら、教科書とノートを鞄から机に移す。かしゃり、机の中から想像してなかった音がした。なんだろうと覗いて見ると、小さな封筒が奥で半分に折れていた。あー……。
 引っ張り出して、外れかけた封のテープを指で弾く。封筒の中には同じ色合いの紙。案の定、お呼び出しの文言が書かれている。指定時間は昼休み、しかも中途半端な時間だ。授業が終わってからの時間を考慮したのかもしれないけど。面倒だけどすっぽかすわけにもいかないよね。
 最後に名前を確認する。この名前、……男子かあ。

 指定時間までにお弁当を食べきれる自信はなかったので、後回しにすることにして校舎裏に向かう。裏門に近いイチョウの木の下にひとりの男子が立っていた。見たことがある、同じ学年の人だ。彼は僕に気が付くと、あっと声をあげた。
「野木沢くん……急に呼び出してごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。それより、僕に話ってなんですか?」
 白々しいな、僕。でも僕のほうから切り出すのもおかしな話だし。彼は何度も息を吸っては吐いてを繰り返す。しばらくして、ようやく意を決したようだ。
「の……野木沢くん、す、好きです! 付き合ってください!」
 僕は目線を落として指を組んだ。
「ありがとう……。でも、ごめんなさい。僕、まだ誰ともお付き合いするつもりないんです。気持ちは嬉しかったです」
 明らかにがっかりしたように彼は肩を落とした。
「だよね……。こちらこそ、気持ちを否定しないでくれてありがとう」
 無理に笑い、彼は踵を返した。
 あー……。毎回同じ言葉で断る自分の無神経さは本当どうかと思う。他に言葉が浮かばない。嫌気がさす。
 そもそも何で僕なんだ。そんなに隙があるんだろうか。それとも変なチャレンジでも流行ってるの?
 あと、中2に上がってから何故か男子にも告白されるようになった。それって純粋に断る回数が増えるってことで、そのたびに精神が削られていく気がする。ああ、もう、面倒。頼むから放っておいて……。
 そんなこんなで、戻ってから昼食って時間でもなくなった。森くんが心配して声をかけてくれたけど、大丈夫。放課後食べてから帰るから。
 午後の授業はおなかがすいたまま、なんとか耐えきった。帰りのホームルームも終わり、さて、とお弁当の袋に手を伸ばす。
「あ、野木沢。ちょっと資料室まで荷物運ぶの手伝ってくれ」
 ……はーい。知ってた。

 プリントの束を先生と一緒に資料室に持っていき、ついでに枚数の確認をする。それだけだったので、割とすぐに終わった。
「野木沢、ありがとな」
「いえ。失礼します」
 職員室に戻る先生に頭を下げ、僕は教室に向かう。まあ、他にも人いたのに僕なんだなあ、とか思うことがないわけじゃないけど、役に立てたならそれでいいや。使いやすい奴くらいに思われてるのかもしれないけどどうでもいい。
 ああ、もう帰ろ。さっさと帰ろ。
 ひとつ息を吐いて、ざわめく教室に入った……つもりだったのに、教室はしんと静まり返っていた。ただ窓際にひとり、笹原くんだけが机に向かっていた。あれ、他のみんなはどうしたんだろう。笹原くんは僕に気付いて顔を上げた。
「笹原くんだけ?」
 聞くと、笹原くんは表情の読めない顔で首をわずかに傾げる。
「残ってた奴らも雨が降りそうだって急いで出てった」
 雨? 廊下の窓が近いので、振り向いて外を見る。そういえばさっきから電気ついてるのに薄暗いなと思ってた。
「ああ、急に曇ったもんねぇ」
 やだな、傘は持ってるけど。今日の予報では夜までもつってことだったから、折り畳みの小さい傘しかない。笹原くんは置き傘があるらしい。だから急いでないのかな。降り出す前に僕は帰ろう。席に戻って鞄に手を伸ばす。と。
「昼飯はどうすんの」
 ……ああ、気にしてくれてたんだ。あんまり表情動かないし、ぱっと見クールな印象だからわかりづらいけど、笹原くんて優しい人だと思う。
「もういいかな。帰って夜ごはんにでもするよ」
 どうせこの時間に食べたら夜に差し支えるし。あんまり量食べられないんだよなあ。
「野木沢」
 やけに静かな声が、僕の手を止めさせた。
 見ると、色素の薄い目がじっと僕を見つめている。
 どうしたの、と聞く前に笹原くんは口を開いた。
「野木沢ってさ、実は全部面倒だって思ってるだろ」
 え。
 何?
 笹原くん、何言っ……。
「人に話しかけられることも、他に人がいるのに自分だけ用事言いつけられることも、誰も答えない時真っ先に手ぇ挙げるのも、全部嫌いだよな」
 僕はただ黙っていつもよりよくしゃべる笹原くんの顔を見る。
 いや、違う、言葉が出ないんだ。
「面倒だって思ってるけど、後で波風立つほうがめんどくさいって思ってるタイプ?」
 …………。
 ああ。
 そうか。
 こういうこと、あるんだ。
 僕はなんとなく、笹原くんと同じ高さで目線を合わせたくなって、椅子を引いて座る。
「……バレたの、笹原くんが初めてだ」
 笹原くんは、椅子ごと僕のほうに向きなおる。
 真正面から見る目が優しい。
「……まあ、わかるよ。面倒なことが多すぎるんだ。俺は堂々と拒否してるけどな」
 少し笑って肩をすくめる笹原くんに、僕も笑う。笑えちゃう。
「ふふふ。それが出来れば僕ももう少し楽だったかな」
「今からだって出来るんじゃない?」
「出来るかなぁ」
 そうかあ。
 バレることってあるんだぁ。
 びっくりした。
 あと、ちょっと、なんか、背中のあたりがくすぐったかった。


 1学期の終業式を残すばかりになった夏の土曜日、両親と僕は駅からちょっと離れたところにあるショッピングセンターに来ていた。でもって、健ちゃんも一緒だ。
 僕たちの学校では、中2の夏に校外学習という名前のキャンプに行くことになっていた。キャンプっていってもテントじゃなくて、ちゃんとした宿に泊まれるらしいけど。簡単なオリエンテーリングと自然観察と調理実習が混ざった感じなのかな。別に何泊もするわけじゃないし、特別なものは必要ないから買い足すものはないかなって思ってたんだけど、健ちゃんに誘われたので両親が買い物に来るついでに連れてきてもらった。
「新しいTシャツ着ていきたいんだよな!」
 健ちゃんは楽しそうだ。僕にとっては面倒極まりない行事なんだけど、健ちゃんには合うんだろうな。これはインドア派とアウトドア派の違いだから仕方がない。
「服って移動とか行事中は体操着でしょ」
「飯の時と寝る時は私服じゃん。せっかくだからぱりっとしたくねぇ?」
 適当じゃ駄目なのか……。健ちゃんは後ろから僕にのしかかりながら棚に置かれたTシャツに手を伸ばす。グラデーションの綺麗なシャツだ。
「これ蒼生に似合いそ」
「えっ、僕も?」
「そ、蒼生も。これにしなよ、オレこっちにするから」
「色違いのお揃いになっちゃうよ」
「お揃い、いいじゃん」
 健ちゃんってほんとこういうとこ子供だ。小さい子同士なら可愛いかもしれないけど、僕たち中学2年生だよ? まあ、でもそれが無邪気な健ちゃんのいいとこなんだよね。それに色違いでまるきり同じじゃないし、このくらいならいいか。

 そうそう。
 この、健ちゃんの飛びつき癖。彼女がいる時にはやめたほうがいいって健ちゃんには言ったんだけど、話し合いの結果、やめなくてもいいということになった。というのも、先日こういうことがあったからだ。
 その日はやっぱり健ちゃんに飛びつかれて、新しい彼女が出来たって聞いたばかりの時だったから、僕は同じことを言った。すると健ちゃんは僕を席に座らせると、頬を膨らませて言った。
「そりゃあ彼女は大切な存在だ。でも、オレにとっちゃ幼馴染みで親友の蒼生もすっげえ大事な存在なわけ。彼女は彼女、親友は親友、どっちも大事でいいじゃん!」
 なるほど、と思った。
「そもそもなんで蒼生は彼女が出来たら友達をほっといていいなんて思ってるんだよ」
「だってこうちゃんが、いつも友達との約束すっぽかして彼女とばっかり遊んでたからそういうものなんだと思って」
「こう兄を参考にしちゃだめ! アレは悪い例だから!」
 ……そっか。そうか。こうちゃんが特殊なのか。
 それを言った後、健ちゃんははっとしたように声を潜めた。
「あっ、駄目な例って言ったこと、こう兄には内緒な。女の人絡まなきゃこう兄だっていい人だよ」
 フォローになってるんだかなってないんだかわかんない。だけど僕はその言い分に納得した。だから、僕と健ちゃんの距離感はまだこれでいいんだ。
 それに、よくは知らないんだけど、笹原くんも彼女が途切れることがほとんどないらしい。森くんによると、しょっちゅう彼女が変わってるって。でも学校で僕や森くんと一緒にいる時には、彼女がいることをまったく感じさせない。つまりそれは、健ちゃんの言うとおり「彼女は彼女、友達は友達」っていうことなんだろう。
 はあ、みんな器用なんだな。ちゃんと切り替えてるんだ。とてもじゃないけど僕には出来そうもない。そういうのに興味なくてよかった。


 週が明けるとすぐに終業式だった。しかも僕のクラスは明日明後日で校外学習にでかける。普通こういうのってちょっとしてから始まるものだと思うんだけど、クラスごとで7月中に全部終わらせるにはどうしてもこういう日程になるらしい。もうそれって1学期の続きなのでは……。
 なんか億劫で、僕はだらだらと持って帰る荷物をまとめる。そうこうしてるうちに教室の中は人が少なくなっていた。
 前の席で外を眺めていた笹原くんがプリントの束を撫でる。
「夏休みの課題たくさん出たな」
 本当に、それ。勘弁してほしい。しかも終業式後、さっきのホームルームでとんでもない追撃があったのだ。
「科目ごとにもいろいろあるのに、まさか最後に日記まで課されるとは思ってなかった……」
 夏休みの宿題に日記、だなんて許されるのは小学生までなんじゃないんだろうか。いやわかんないけど。とりあえず絵日記じゃなかっただけセーフかな。
「箇条書きとかならなんとかなりそうな気がするけど、どっちにしてもいちいち行動履歴を報告するのも面倒だな」
「だよね。1日に1ページなんて絶対多いって」
 夏休みって1か月以上あるわけで、単調な日々だとどうしても体裁が悪い。結果、どこかに行ったり誰かに会わなきゃいけない気がしたり、出来事から日記が出来るわけじゃなくて日記に振り回される日々になる。それがどうにも嫌だった。
「あー、昔から日記の類はほんと苦手」
 思わず溜め息がこぼれた。と、笹原くんが顔を伏せて肩を震わせていた。うわ、しまった。気を抜いてた。この前いろいろバレちゃって、笹原くんにはもう繕っても仕方ないって思っちゃってたからつい……!
「……あ、ごめん」
 言うと、笹原くんは顔を上げた。あれ? 笑ってた?
「何が?」
 不思議そうにそう聞かれる。何って、えっと。
「いや、だから、こんなぐちぐち言っちゃってごめん、って。笹原くんと話してると楽で、つい気を抜いちゃう」
 笹原くんは柔らかい色の瞳をさらに和ませる。
「いや、素の野木沢と話してるの楽しいよ。こっちのほうが全然いい」
「本当? 笹原くんって本当に優しいよね」
 ん? なんですかその困惑した顔は。
「……初めて言われた」
「そう? だっていつもさりげなく助けてくれるじゃん。優しいから我慢してくれちゃうかもしれないけど、僕が嫌なこと言ったりとか調子に乗ったりしたらすぐに言ってね。僕、笹原くんとはずっと友達でいたいから」
 僕は、つい勢いでそこまでを一気に言った。
 いや、あの、いつか言いたかったんだ。笹原くんといるとなんだかすごく気持ちが落ち着く。それは僕が被ってた猫に気付かれたからとかそういうわけじゃない。空気がすごく気持ちいい人だと思った。だから、ずっと友達でいてほしいなってちょっと前から思ってて。……うう、いざ言葉にするとものすごく恥ずかしい。
 でも笹原くんは小さく笑って、頷いてくれた。
「……うん」
 本当に、笹原くんはいい人だ。これって僕を友達だって認めてくれたってことだよね。すごく嬉しい。

 笹原くんはプリントを鞄にすべて詰め込みながら、ぽつんと言った。
「そういえば土曜日、ショッピングセンターにいなかった?」
 土曜日。健ちゃんと服買ってた日だ。
「いたよ。……え、笹原くんもいたの? 声かけてくれればよかったのに」
「親と一緒だったみたいだから遠慮した」
 あー。そうか、そうだよね。自分が親といるの見られるのも微妙だし、友達の親に会うのも無駄に緊張するよね。
 笹原くんは、ふと目を落として黙る。そしてちょっと間を置いて僕のほうを見た。
「なあ、野木沢ってさ」
「うん?」
「家族にもあんなふうに笑ってるんだな」
「ああ……」
 本当に。笹原くんってよく見てるよなあ。ここまで隠し通して、僕、結構自信があったんだよ。
「だから言ったでしょ、これがバレたの笹原くんが初めてだって」
 秘密を全部知られてしまったみたいで正直照れる。しかもそれをこんな……、なんか、あれ、僕、今ものすごく恥ずかしい言い方したような……!?
 このままじゃダメだ、話題、話題変えよう。
「でも笹原くんだってずいぶん優しく笑うようになったよね」
 最初はなんの反応もしてくれなかったのに。最近はこんなふうに笑ってくれる。
「え?」
 きょとんとする笹原くん。え。びっくりしたのはこっちだ。うわ、これ、無自覚だったのか!


 校外学習を前に、笹原くんとこんなふうにもっと仲良くなれた。おかげで校外学習は楽しかった。僕、初めて学校行事が楽しいと思えたような気がする。
 本当は健ちゃんがいなくてめちゃくちゃ不安だったけど、なんとかなるものなんだなあ。
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3こ目;僕は君の宝物 第3話
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 中学2年生の始まりは、まさに「波乱の幕開け」って感じだった。僕と健ちゃんは呆然と掲示板を眺めていた。
 幼稚園、小学校、中1、ずっとクラスが一緒だった僕たち。一緒の紙に書かれ続けた名前が、初めて隣の紙に書かれている。健ちゃんは目に見えて動揺してた。僕だって頭の中真っ白だ。
 とりあえず今日一緒に帰ることを約束して、僕と健ちゃんは教室の前で別れたのだった……。

 初めて入る教室にはもう結構人がいた。前の掲示板に座席表が貼ってあったので見に行く。1列ずつ男子と女子になっているんだな。ええと、僕はここか。窓際の席だ。前の席に笹原、後ろには森、と書かれてる。あいうえお順ってわけじゃないのか。
 僕はとりあえず席につく。……間。うわ。どうしよう。健ちゃんがいない時ってどうしてたっけ。落ち着こう、そうだ本読もう。軽い鞄には何度も読んだ小説が入っている。読めば少しは落ち着くかもしれない。そうしてる間にも人が増えていく。ちらと目をあげて見るけど、見事に知り合いがいない。知ってる顔はあるもののまともに話したことがない。
 うわあ……ここから友達作っていかなきゃなのか。なんだか急に面倒になってきた。こういう事態見越してちゃんと知り合い作っておかなきゃだったんだな……。つい健ちゃんがいる前提で全部考えてた。健ちゃんがそばにいないことなんて考えもしなかった。
 あー……。僕、健ちゃんに頼りすぎだったな。改めて思う。
 ほとんど内容が入って来ない文字列を目で追っていると、突然そこに影が落ちた。視線を上げると目の前に立つ男子生徒が2人。片方はがっしりした優しそうな人。もう片方は色素の薄い髪に冷ややかな印象の目をする人だった。目が合ったので、とりあえず頭を下げた。
 ……知ってるぞ。この2人有名だ。
 がっしりしたほう、森くんは柔道の小学生チャンピオンだ。隣の小学校だったけど地区から全国大会優勝者が出たって大盛り上がりだった。地域の広報紙に写真が載ってたから顔も知ってる。去年の大会でもいいところまで行ったらしい。やたら強いっていうから勝手に怖いイメージを持ってたんだけど、すごく穏やかな感じだ。
 もうひとり……笹原くんてあの笹原くんか。告白は断らないって噂の。噂にせよこの年齢でそんなふうに言われるなんて相当だよね。たしかにめちゃくちゃイケメンだ。もしかするとうちの長兄タイプなのかな。だとしたら話は合わなそうだ。
 彼らは一言二言会話すると、僕の前後に座った。この人たち友達同士だったのか。席挟まれるって、ものすごく気まずい。

 この日は始業式だけだったので、午前中で終わりだ。教室を出ると、階段の脇に健ちゃんが立っていた。
「お疲れ~。どうだった?」
「なんだかゼロからのスタートって感じ……。健ちゃんは?」
「教室に蒼生がいない……」
 そりゃあそうだ。でも健ちゃんのクラスには花井くんもいるし、健ちゃんならすぐ慣れるだろうな。
 問題は僕か~……。
「ま、とりあえず頑張ろ」
 健ちゃんは気を取り直したように明るく笑った。


 翌日から授業が始まった。初日だから新しい教科の先生と顔合わせって感じだけど。去年と同じ先生が多いから授業は聞きやすそうだな。時間割の名前を確認すると、午後の教科も知ってる先生だ。さっさとお弁当食べて図書室にでも行こうかな。
「野木沢」
 後ろから声がする。振り向くと、森くんがお弁当の袋を振っていた。
 あ。そうか、前の席の笹原くんと友達なんだもんね、僕がいたら邪魔だ。
「ごめん、すぐどくね」
 森くんはにこにこ笑っている。
「そうじゃなくてさ。野木沢って昼誰かと約束してる?」
「え、してないけど」
「じゃ一緒に食お。いったん椅子そっちやって」
 はい? なんだかよくわからないけど勢いに押されて自分の椅子を窓際に寄せる。その出来た空間に森くんは自分の机を押して、僕の机にくっつけた。その間に笹原くんは椅子を後ろ向きにして僕の机にサンドイッチを乗せた。
 え、これ、噂に聞くリア充の行動力ってやつ? 僕の能力じゃ処理しきれないんだけど!
「どうぞ」
 森くんがエスコートするように腕を広げるので、混乱したまま座る。何。何この絵ヅラ。
「いただきます」
「い、いただきます」
 何が起きてるんだろう。笹原くんずっと無言だし。森くんの話も延々とりとめもないし。ヤバい、面倒な人に絡まれたかも……。
「野木沢って去年の国語も松島先生?」
「うん」
「なんか取っつきにくそうだったな」
「でも教え方丁寧でわかりやすいよ」
「そうなんだ」
 旧知の仲みたいに話しかけてくるけど、昨日が初対面だ。あの時は穏やかな感じだと思ったのに、ぐいぐい来るタイプの人なのか。ははあ、世の中の人はこうやって人脈を広げていくんですね……。
「そういえばさ、野木沢っていつも寺田と一緒だけど。ずいぶん仲いいよな」
 ……ああ。
 なるほど。それが聞きたかったのか。そうだよね、目立つよね。昔からの知り合いじゃない人たちにしてみたら妙な光景なんだろうな。陰で色々言われてるのも知ってる。どうでもいいけど。健ちゃんのためには反論したほうがいいのかなって思うことはある。とはいえ反応したら負けな気もするし。
 でも面と向かって聞かれたのは初めてだ。
「幼馴染みなんだ。家が隣で、生まれた時から一緒だから、なんだろうな、ほとんど兄弟みたいな感じじゃないかな」
「よく抱きつかれてるの見るけど」
「たぶんぬいぐるみ扱いなんだと思うよ」
 へえ、とだけ森くんは言った。
 普段思っていることだけど、初めて口に出したなぁ。それだけなのに、なんでだろう。胸の真ん中あたりがちくりとした。


 たぶん聞きたいことを聞いたから、もう話しかけたりしてこないだろうなって思ってたんだけど。翌日からも森くんは僕に頻繁に声をかけて来たし、昼ごはんも毎日誘われた。なんていうのかな、人懐こい? そんな感じだ。面倒だと思ってるのに、にっこり笑って押しきられる。
 笹原くんも特別何か話題を振るでもなくそこにいる。聞かれたことに答えはするから、口数が少ないタイプとかなんだろうか。僕にはやっぱり2人の意図が見えなかった。
 あと、勢いにもついていけなかった。
「野木沢ってゲームとかするほう?」
「あんまり……。父の古いゲームならやらせてもらって好きだったのはあるけど」
「へえ、なんてやつ?」
「スピリットアリアっていうアクションもの……得意じゃなかったけど、世界観が好きで」
「あー! 知ってる? それ、最近続編がゲーセンに置いてあるの」
「えっ、そうなの?」
「精霊がどうのって話だっけ。今でも根強い人気があるとかで、何年だったかな、周年記念で続編出したらしいよ」
「うん、選ぶ精霊の種類によって内容が変化するんだ。そっか、元々はゲームセンターにあったゲームだとは知ってたけど」
「よし放課後行ってみよう。ちょうど今日は道場も休みだし。時間大丈夫だろ?」
「えっ」
 早い。スピードが早い! なんだこれ世の中こういうスピードで動いてるの?

 帰りに寄り道は禁止ってされてるんだけど、まったく彼らは気にすることなく駅向こうのゲームセンターへ僕を連れて行った。まあひとりじゃ来られないし、幼心に好きだったゲームは見てみたいし、いいか。
 昔からあるような少し古めの店の中は、いろんなゲームの音が混ざって賑やかだ。お客さんの数はそんなに多くないみたい。森くんはクレーンゲームの合間を抜け、店の奥へ向かう。すると、ほとんど端の一角に、緑に塗られた機械がふたつ並んでいた。縁には懐かしいキャラクターのイラストがちょっと今ふうにアレンジして描かれている。
「対戦するか」
「えっ、僕ヘタだけど」
「大丈夫大丈夫。俺は大地にしよう」
「あ、水の精霊で……」
 ひえ。好きなのは世界観でプレイは得意じゃないんだけど。しかも家庭用ゲーム機とゲームセンターの機械とでは触るボタンもスティックも違う。とりあえず、操作面の脇に書かれてるやり方でなんとか技を出す。グラフィックが綺麗で、エフェクトがすごいんだけど、見てる余裕がない。しかも森くんは僕が技を出すのを確実に待ってる。これ、あれだ。接待プレイってやつだ。しかも結局負けたし。
「……画面見たいから、良かったら森くんのプレイを隣で見させてもらっていい?」
 敗北宣言をすると、森くんは「もちろん」と爽やかに笑った。コインを投入口に放り込むと、たたん、とリズムよくボタンを叩いた。今度はさっき僕が使った水の精霊を選ぶ。わぁ……なんだかもう違うゲームみたいだ。綺麗に技を次々に決めると、背景が海の底のような景色に変わっていった。
「これ、相手にある程度攻撃させてから反撃すると、景色が混じりあって綺麗だよ」
 はー、なるほど。柔道少年にこんな特技があったとは。森くんは他の精霊のプレイも見せてくれたあと、他のアクションゲームもいくつかやって見せてくれた。すごいプレイだから、見てるだけで楽しい。
 見てるだけ、といえば、笹原くんもだ。ずっと近くにいるから、楽しくないわけじゃないと思うんだけど、表情が乏しくて何を考えてるのかまったくわからない。
「笹原くんはやらないの?」
 聞くと、肩をすくめる。
「得意じゃない。あと、見てるのが楽しい」
 だそうだ。まあ、こんな上手な人と一緒にやるのは大変そうだもんね。
 やりとりを見ていた森くんがにやりと笑う。
「最後にレースゲームやろう。負けたらジュース奢りな。笹原もここは強制参加」
「ええ……」
 笹原くんが抗議の声っぽいものを上げるけど、森くんは意に介さない。4つ席の並んだレースゲームの運転席、その一番奥に座って手招きをする。僕も嫌いじゃないけど……。
 森くんの隣に僕が座り、その隣に笹原くんが座る。森くんがコースを選ぶ。キャピタルコースか、障害物がなくて走りやすいコースだ。シグナルが頭上に現れ、カウントダウンが始まる……って、えぇ……? 待って。ちょ、なにそれ。笹原くんめちゃくちゃ速い。思わずちらっと見ちゃったけど、ハンドル捌きもギアチェンジも的確で無駄がない。対する森くんも無難なラインを攻めてくる。
 いや、勝てるか!
「……笹原くんすごい」
 すんなり1位を獲った笹原くんは、ふっと小さく笑った。
「これは得意なんだ」
 ああもう、なんだこの人。さらっとこういうことやっちゃうタイプか。カッコいいな。ハンドルに片手残して片足だけこっちに下ろしてるポーズも様になってるし。モテる噂は伊達じゃないな……。僕の背中の方向では森くんの笑い声が聞こえる。でしょうね、森くんは笹原くんがレース得意なの知ってたもんね。そりゃあ僕が負けるよなあ。
 最初はリア充の勢い怖い、って思ってたけど、すごく楽しかった。子供だけでゲームセンターに来たことも初めてだったし、ゲームに負けてジュース奢るなんてことも初めてだったし。なんか、すごく「友達」っぽい、と思った。


 梅雨が近付く頃になると、じわりとみんなの登校が遅くなってきて、僕が来る頃には半分も席が埋まっていないようになった。湿気でみんな重くなるんだろうかと適当なことを考えながら、教科書とノートを鞄から机に移す。かしゃり、机の中から想像してなかった音がした。なんだろうと覗いて見ると、小さな封筒が奥で半分に折れていた。あー……。
 引っ張り出して、外れかけた封のテープを指で弾く。封筒の中には同じ色合いの紙。案の定、お呼び出しの文言が書かれている。指定時間は昼休み、しかも中途半端な時間だ。授業が終わってからの時間を考慮したのかもしれないけど。面倒だけどすっぽかすわけにもいかないよね。
 最後に名前を確認する。この名前、……男子かあ。

 指定時間までにお弁当を食べきれる自信はなかったので、後回しにすることにして校舎裏に向かう。裏門に近いイチョウの木の下にひとりの男子が立っていた。見たことがある、同じ学年の人だ。彼は僕に気が付くと、あっと声をあげた。
「野木沢くん……急に呼び出してごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。それより、僕に話ってなんですか?」
 白々しいな、僕。でも僕のほうから切り出すのもおかしな話だし。彼は何度も息を吸っては吐いてを繰り返す。しばらくして、ようやく意を決したようだ。
「の……野木沢くん、す、好きです! 付き合ってください!」
 僕は目線を落として指を組んだ。
「ありがとう……。でも、ごめんなさい。僕、まだ誰ともお付き合いするつもりないんです。気持ちは嬉しかったです」
 明らかにがっかりしたように彼は肩を落とした。
「だよね……。こちらこそ、気持ちを否定しないでくれてありがとう」
 無理に笑い、彼は踵を返した。
 あー……。毎回同じ言葉で断る自分の無神経さは本当どうかと思う。他に言葉が浮かばない。嫌気がさす。
 そもそも何で僕なんだ。そんなに隙があるんだろうか。それとも変なチャレンジでも流行ってるの?
 あと、中2に上がってから何故か男子にも告白されるようになった。それって純粋に断る回数が増えるってことで、そのたびに精神が削られていく気がする。ああ、もう、面倒。頼むから放っておいて……。
 そんなこんなで、戻ってから昼食って時間でもなくなった。森くんが心配して声をかけてくれたけど、大丈夫。放課後食べてから帰るから。
 午後の授業はおなかがすいたまま、なんとか耐えきった。帰りのホームルームも終わり、さて、とお弁当の袋に手を伸ばす。
「あ、野木沢。ちょっと資料室まで荷物運ぶの手伝ってくれ」
 ……はーい。知ってた。

 プリントの束を先生と一緒に資料室に持っていき、ついでに枚数の確認をする。それだけだったので、割とすぐに終わった。
「野木沢、ありがとな」
「いえ。失礼します」
 職員室に戻る先生に頭を下げ、僕は教室に向かう。まあ、他にも人いたのに僕なんだなあ、とか思うことがないわけじゃないけど、役に立てたならそれでいいや。使いやすい奴くらいに思われてるのかもしれないけどどうでもいい。
 ああ、もう帰ろ。さっさと帰ろ。
 ひとつ息を吐いて、ざわめく教室に入った……つもりだったのに、教室はしんと静まり返っていた。ただ窓際にひとり、笹原くんだけが机に向かっていた。あれ、他のみんなはどうしたんだろう。笹原くんは僕に気付いて顔を上げた。
「笹原くんだけ?」
 聞くと、笹原くんは表情の読めない顔で首をわずかに傾げる。
「残ってた奴らも雨が降りそうだって急いで出てった」
 雨? 廊下の窓が近いので、振り向いて外を見る。そういえばさっきから電気ついてるのに薄暗いなと思ってた。
「ああ、急に曇ったもんねぇ」
 やだな、傘は持ってるけど。今日の予報では夜までもつってことだったから、折り畳みの小さい傘しかない。笹原くんは置き傘があるらしい。だから急いでないのかな。降り出す前に僕は帰ろう。席に戻って鞄に手を伸ばす。と。
「昼飯はどうすんの」
 ……ああ、気にしてくれてたんだ。あんまり表情動かないし、ぱっと見クールな印象だからわかりづらいけど、笹原くんて優しい人だと思う。
「もういいかな。帰って夜ごはんにでもするよ」
 どうせこの時間に食べたら夜に差し支えるし。あんまり量食べられないんだよなあ。
「野木沢」
 やけに静かな声が、僕の手を止めさせた。
 見ると、色素の薄い目がじっと僕を見つめている。
 どうしたの、と聞く前に笹原くんは口を開いた。
「野木沢ってさ、実は全部面倒だって思ってるだろ」
 え。
 何?
 笹原くん、何言っ……。
「人に話しかけられることも、他に人がいるのに自分だけ用事言いつけられることも、誰も答えない時真っ先に手ぇ挙げるのも、全部嫌いだよな」
 僕はただ黙っていつもよりよくしゃべる笹原くんの顔を見る。
 いや、違う、言葉が出ないんだ。
「面倒だって思ってるけど、後で波風立つほうがめんどくさいって思ってるタイプ?」
 …………。
 ああ。
 そうか。
 こういうこと、あるんだ。
 僕はなんとなく、笹原くんと同じ高さで目線を合わせたくなって、椅子を引いて座る。
「……バレたの、笹原くんが初めてだ」
 笹原くんは、椅子ごと僕のほうに向きなおる。
 真正面から見る目が優しい。
「……まあ、わかるよ。面倒なことが多すぎるんだ。俺は堂々と拒否してるけどな」
 少し笑って肩をすくめる笹原くんに、僕も笑う。笑えちゃう。
「ふふふ。それが出来れば僕ももう少し楽だったかな」
「今からだって出来るんじゃない?」
「出来るかなぁ」
 そうかあ。
 バレることってあるんだぁ。
 びっくりした。
 あと、ちょっと、なんか、背中のあたりがくすぐったかった。


 1学期の終業式を残すばかりになった夏の土曜日、両親と僕は駅からちょっと離れたところにあるショッピングセンターに来ていた。でもって、健ちゃんも一緒だ。
 僕たちの学校では、中2の夏に校外学習という名前のキャンプに行くことになっていた。キャンプっていってもテントじゃなくて、ちゃんとした宿に泊まれるらしいけど。簡単なオリエンテーリングと自然観察と調理実習が混ざった感じなのかな。別に何泊もするわけじゃないし、特別なものは必要ないから買い足すものはないかなって思ってたんだけど、健ちゃんに誘われたので両親が買い物に来るついでに連れてきてもらった。
「新しいTシャツ着ていきたいんだよな!」
 健ちゃんは楽しそうだ。僕にとっては面倒極まりない行事なんだけど、健ちゃんには合うんだろうな。これはインドア派とアウトドア派の違いだから仕方がない。
「服って移動とか行事中は体操着でしょ」
「飯の時と寝る時は私服じゃん。せっかくだからぱりっとしたくねぇ?」
 適当じゃ駄目なのか……。健ちゃんは後ろから僕にのしかかりながら棚に置かれたTシャツに手を伸ばす。グラデーションの綺麗なシャツだ。
「これ蒼生に似合いそ」
「えっ、僕も?」
「そ、蒼生も。これにしなよ、オレこっちにするから」
「色違いのお揃いになっちゃうよ」
「お揃い、いいじゃん」
 健ちゃんってほんとこういうとこ子供だ。小さい子同士なら可愛いかもしれないけど、僕たち中学2年生だよ? まあ、でもそれが無邪気な健ちゃんのいいとこなんだよね。それに色違いでまるきり同じじゃないし、このくらいならいいか。

 そうそう。
 この、健ちゃんの飛びつき癖。彼女がいる時にはやめたほうがいいって健ちゃんには言ったんだけど、話し合いの結果、やめなくてもいいということになった。というのも、先日こういうことがあったからだ。
 その日はやっぱり健ちゃんに飛びつかれて、新しい彼女が出来たって聞いたばかりの時だったから、僕は同じことを言った。すると健ちゃんは僕を席に座らせると、頬を膨らませて言った。
「そりゃあ彼女は大切な存在だ。でも、オレにとっちゃ幼馴染みで親友の蒼生もすっげえ大事な存在なわけ。彼女は彼女、親友は親友、どっちも大事でいいじゃん!」
 なるほど、と思った。
「そもそもなんで蒼生は彼女が出来たら友達をほっといていいなんて思ってるんだよ」
「だってこうちゃんが、いつも友達との約束すっぽかして彼女とばっかり遊んでたからそういうものなんだと思って」
「こう兄を参考にしちゃだめ! アレは悪い例だから!」
 ……そっか。そうか。こうちゃんが特殊なのか。
 それを言った後、健ちゃんははっとしたように声を潜めた。
「あっ、駄目な例って言ったこと、こう兄には内緒な。女の人絡まなきゃこう兄だっていい人だよ」
 フォローになってるんだかなってないんだかわかんない。だけど僕はその言い分に納得した。だから、僕と健ちゃんの距離感はまだこれでいいんだ。
 それに、よくは知らないんだけど、笹原くんも彼女が途切れることがほとんどないらしい。森くんによると、しょっちゅう彼女が変わってるって。でも学校で僕や森くんと一緒にいる時には、彼女がいることをまったく感じさせない。つまりそれは、健ちゃんの言うとおり「彼女は彼女、友達は友達」っていうことなんだろう。
 はあ、みんな器用なんだな。ちゃんと切り替えてるんだ。とてもじゃないけど僕には出来そうもない。そういうのに興味なくてよかった。


 週が明けるとすぐに終業式だった。しかも僕のクラスは明日明後日で校外学習にでかける。普通こういうのってちょっとしてから始まるものだと思うんだけど、クラスごとで7月中に全部終わらせるにはどうしてもこういう日程になるらしい。もうそれって1学期の続きなのでは……。
 なんか億劫で、僕はだらだらと持って帰る荷物をまとめる。そうこうしてるうちに教室の中は人が少なくなっていた。
 前の席で外を眺めていた笹原くんがプリントの束を撫でる。
「夏休みの課題たくさん出たな」
 本当に、それ。勘弁してほしい。しかも終業式後、さっきのホームルームでとんでもない追撃があったのだ。
「科目ごとにもいろいろあるのに、まさか最後に日記まで課されるとは思ってなかった……」
 夏休みの宿題に日記、だなんて許されるのは小学生までなんじゃないんだろうか。いやわかんないけど。とりあえず絵日記じゃなかっただけセーフかな。
「箇条書きとかならなんとかなりそうな気がするけど、どっちにしてもいちいち行動履歴を報告するのも面倒だな」
「だよね。1日に1ページなんて絶対多いって」
 夏休みって1か月以上あるわけで、単調な日々だとどうしても体裁が悪い。結果、どこかに行ったり誰かに会わなきゃいけない気がしたり、出来事から日記が出来るわけじゃなくて日記に振り回される日々になる。それがどうにも嫌だった。
「あー、昔から日記の類はほんと苦手」
 思わず溜め息がこぼれた。と、笹原くんが顔を伏せて肩を震わせていた。うわ、しまった。気を抜いてた。この前いろいろバレちゃって、笹原くんにはもう繕っても仕方ないって思っちゃってたからつい……!
「……あ、ごめん」
 言うと、笹原くんは顔を上げた。あれ? 笑ってた?
「何が?」
 不思議そうにそう聞かれる。何って、えっと。
「いや、だから、こんなぐちぐち言っちゃってごめん、って。笹原くんと話してると楽で、つい気を抜いちゃう」
 笹原くんは柔らかい色の瞳をさらに和ませる。
「いや、素の野木沢と話してるの楽しいよ。こっちのほうが全然いい」
「本当? 笹原くんって本当に優しいよね」
 ん? なんですかその困惑した顔は。
「……初めて言われた」
「そう? だっていつもさりげなく助けてくれるじゃん。優しいから我慢してくれちゃうかもしれないけど、僕が嫌なこと言ったりとか調子に乗ったりしたらすぐに言ってね。僕、笹原くんとはずっと友達でいたいから」
 僕は、つい勢いでそこまでを一気に言った。
 いや、あの、いつか言いたかったんだ。笹原くんといるとなんだかすごく気持ちが落ち着く。それは僕が被ってた猫に気付かれたからとかそういうわけじゃない。空気がすごく気持ちいい人だと思った。だから、ずっと友達でいてほしいなってちょっと前から思ってて。……うう、いざ言葉にするとものすごく恥ずかしい。
 でも笹原くんは小さく笑って、頷いてくれた。
「……うん」
 本当に、笹原くんはいい人だ。これって僕を友達だって認めてくれたってことだよね。すごく嬉しい。

 笹原くんはプリントを鞄にすべて詰め込みながら、ぽつんと言った。
「そういえば土曜日、ショッピングセンターにいなかった?」
 土曜日。健ちゃんと服買ってた日だ。
「いたよ。……え、笹原くんもいたの? 声かけてくれればよかったのに」
「親と一緒だったみたいだから遠慮した」
 あー。そうか、そうだよね。自分が親といるの見られるのも微妙だし、友達の親に会うのも無駄に緊張するよね。
 笹原くんは、ふと目を落として黙る。そしてちょっと間を置いて僕のほうを見た。
「なあ、野木沢ってさ」
「うん?」
「家族にもあんなふうに笑ってるんだな」
「ああ……」
 本当に。笹原くんってよく見てるよなあ。ここまで隠し通して、僕、結構自信があったんだよ。
「だから言ったでしょ、これがバレたの笹原くんが初めてだって」
 秘密を全部知られてしまったみたいで正直照れる。しかもそれをこんな……、なんか、あれ、僕、今ものすごく恥ずかしい言い方したような……!?
 このままじゃダメだ、話題、話題変えよう。
「でも笹原くんだってずいぶん優しく笑うようになったよね」
 最初はなんの反応もしてくれなかったのに。最近はこんなふうに笑ってくれる。
「え?」
 きょとんとする笹原くん。え。びっくりしたのはこっちだ。うわ、これ、無自覚だったのか!


 校外学習を前に、笹原くんとこんなふうにもっと仲良くなれた。おかげで校外学習は楽しかった。僕、初めて学校行事が楽しいと思えたような気がする。
 本当は健ちゃんがいなくてめちゃくちゃ不安だったけど、なんとかなるものなんだなあ。
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