高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2023年11月06日 23:11    文字数:22,113

17こ目;君じゃなくちゃダメなんだ! 第5話

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告白した後の健太の話。
蒼生の反応に戸惑いながら、健太らしい前向きさで乗り切ろうとします。
でも色々問題が山積していて……。
前話と次話とで少々時系列が前後しますのでご了承くださいまし。

【今日の注意事項】軽微な自慰表現があります。
あと、ちょっと、無理矢理っぽい表現があります。

↑当時キャプション↑
2021/09/24初掲載。
ちょっとしんどい終わり方ですが、見守ってやってください…!
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1
 ぶっちゃけた話、蒼生に「そんなふうに思ったことなかった」って言われたのにはものすごい衝撃を受けた。あー、蒼生ってオレのこと恋愛目線で見たことなかったんだな、って。
 でもよく考えてみたら、オレだってこの気持ちに気付いたのはつい最近のことなんだよな。気が付いちゃうとずーっと昔から好きだったから、もうそれが当たり前みたいに思えたけどさ。だから蒼生がそう思ってなくても何の不思議もないんだ。
 それは、まあ、仕方ねえよ。
 たぶんオレがショックだったのは、蒼生がオレを選ばなかったことだ。オレは、たとえ冬矢っていう余計な選択肢があっても、蒼生が選ぶのは絶対オレだと思ってた。だけど……蒼生はすぐに答えを出せなかった。ずっと一緒にいたオレと天秤にかけて釣り合うほど、冬矢の存在は蒼生にとって重かったってことだ。
 つまりさ、もし冬矢の提案を拒否して「両方選ばせる」って選択肢を提示しなかったとしたら、蒼生は冬矢を選んでたんじゃねえかなって。
 ……考えるだけでぞっとする。
 そもそも、頭のいい冬矢ならそこまで読めててもおかしくないのに、なんであいつはあんなこと言い出したんだ? あいつの考えてることがわかんねえのがすごく不気味だ。なんか企んでるのか?
 いや、だとしても、だ。迷ってはいたけど、蒼生はオレとも付き合うって言ってくれた。それは事実だ。だからそれを信じよう。オレが信じるのは蒼生だけでいいんだ。冬矢が何考えてても気にすることねぇや、あいつとは正々堂々戦うだけだ。
 それで、最後には蒼生にオレを選んでもらうんだ。蒼生が胸を張って恋人ですって言えるようなちゃんとした人間にならなくちゃな!
 ……って、思ってはいるんだけどな~。
 オレはテスト結果の一覧を印字したペラ紙を手に、教室の机に突っ伏した。これはどう考えても胸張れる結果じゃねえんだよな~。
 さらに、伸び悩んでんのはこっちの成績だけでもなくて、実は、最近全然部活で結果を残せない。ベンチあっためるだけなことも増えた。色々潮時なのかな~。
 はぁ。
「部活やめっかなぁ……」
「へえ」
 っ! びっくりした!
 誰もいないと思ってたのに、いつの間にか冬矢が立ってる。
 たまにこいつ気配ないのなんなんだ。
「なんだよ、脅かすなよ。いるならいるってさぁ」
 抗議するけど、聞いてんのか聞いてねえのか、涼しい顔をしてやがる。
「辞めるのか、部活。好きでやってたんだろ」
「……体動かすのは好きだけど、種類は別にどうでもよかったんだ。そもそも、蒼生が上級生の練習風景見てかっこいいって言ってたからサッカーにしてただけで」
 冬矢は興味あんのかないのか、オレから離れた自分の席に座る。
「それ、蒼生は知ってるのか」
「言ってない」
「ふーん。辞めるなんて言ったら気にするだろうに」
「……うっ。だろうなあ……。だけどさ、好きでやっちゃいるけど全然結果残せないどころか勉強のほうの足も引っ張ってる現状って、プラマイゼロどころかマイナスなんじゃねえのかなって。それに蒼生にかっこいいとこ見せたくて始めたのに、蒼生との時間削られるのってどうなんだろ」
 オレは大きく息を吐いて、頭を抱える。
「それに今こんな成績下がるってさ、そっちも気にするんじゃね? 蒼生となんかあるたびガクッて下がるの、ヤバいと思うんだよな」
「たしかに、それだけ蒼生基準でやってきて、蒼生のせいで成績下がるんじゃ確かに格好悪いな」
「ぐっ。蒼生のせいとかそんなんじゃねぇけど、……傍目にはそう見えるんだよなあ……」
 オレ的にはかなり頑張って入った高校だ、本当は人並み以上に頑張らないとついていけないってことなんだよな。そろそろ一本化すべき時期ってことか。
 ただ、今すぐってわけにはいかねえわな。一応冬も視野に入れてメンバー組んでるんだから。
「あー、くそ、どうすりゃ蒼生が気にしないで丸く収められっかなぁ」
 こいつにぶちまけるのはちょっと悔しい気もするんだけど、なんかどうしても声に出してスッキリしたかった。普段ならオレのこと無視するこいつが珍しく席を立たないせいだと思う。壁に向かって話してるみたいなもんだ。
 いや、でも、蒼生にバレたらかっこ悪いな。
「……とりあえず全部決めてからだな。おい、サッカー辞めるって話、蒼生には言うなよ」
「なんで?」
「かっこ悪いだろ」
「今更だと思うけどな」
 なにがだ、なにが。
 あー、でも、どっちにしても考えなきゃいけないんだよな。


 結局その後、辞める云々は蒼生にバレた。しかも結構ソッコーのタイミングでバレた。いや、バラしたのは冬矢じゃない。どういう風の吹き回しか、冬矢はちゃんと約束を守ってくれた。オレが自分でバラしたんだ。しかも言うべきじゃないところで、さらにめちゃくちゃカッコ悪い感じにうっかり漏らした。
 案の定、蒼生は自分のせいだって思ったみたいで……。オレはその疑惑を払うために、ズタボロのテスト結果を蒼生とおまけに冬矢にも開示する結果になった。
 まあそのおかげで蒼生が一緒に勉強する時間増やしてくれることになったから、アレだ。怪我の功名とかいうやつだ!
 でも、自分のせいだって言った蒼生の真っ青な顔……。あんな顔見るの初めてだったな……。
 それに加えて、さっき一緒に勉強してた時のあの言葉だ。
「僕はただの口実で、本当は冬矢と健ちゃんが好き合ってるんじゃないかって」
 は? どういうこと? 頭が真っ白になるってああいうことか。一瞬なんか思考が飛んだ。どこをどう捕らえてどう解釈したらそういうことになるんだ? は? オレが? 冬矢を? え? そんなんチラリともかすったことねえよ。出来れば今すぐどっか行ってほしいとしか思ってねえんだけど。蒼生が嬉しそうにするから仕方なく近寄るの許してやってるだけなんだけど! オレは蒼生が好きなんだけど!
 まあな、気は合うかもな。お互い邪魔だと思ってるとこは一緒だからな。
 蒼生はいったんは納得したみたいだった。
 だけど……蒼生ってあんなこと言うんだ。いつも笑ってオレに頷く蒼生が、あんな暗い顔で、あんな突拍子もないことを。
 なんか、すっげえ、ショックかも。
 今日の分の勉強会を終えて蒼生の家を出ると、一気に体が重くなった。オレが告白するなんて言い出さなかったら、蒼生にああいう顔させなかったのかな。
「健太」
 なんだよ。オレより先に玄関を出たはずの冬矢が道路に出たとこに立ってる。さっさと帰ればいいのに。
「話がある」
 ……話?

 話が出来そうなとこを探して着いたのは、家の裏のほうにある児童公園だった。夕方で日が落ちてきたせいか、誰の姿もない。
 ここ、小さい頃はしょっちゅう蒼生と一緒に来てたな。茂みに囲まれた低い山があって、そこが秘密基地みたいで楽しかった。危ないからって今はなくなっちゃったけど。
 冬矢がブランコを囲む鉄製の手すりに腰をかけながら、長く息を吐いた。
「参ったな……」
 そっか。こいつもショック受けてるんだ。そりゃそうだよな。オレだって、
「……蒼生があんなふうに考えてるなんて思いもしなかった」
 告白を受け入れてくれてからも、蒼生、ずっと笑ってたじゃん。楽しそうにしてたのに。そうじゃなかったんだ。
 ちらり、冬矢がオレを見る。
「蒼生にはああいうところがあるんだよ。自分に自信がないから。いつも悪いほうに考えてひとりで落ち込むんだ。……さすがにあんなことを言い出すのは想定外だったけど」
 悪いほうに……? そんなこと、考えたこともなかった。いつだって穏やかで優しくて、みんなを明るくさせてくれる蒼生が、そんなふうに思ってるだなんて。
 さっきの蒼生を見るまでのオレだったら、冬矢の言葉は一蹴してたと思う。でも、あの顔は……。そんなあり得ないことを言い出すほど悪い想像が蒼生の中を巡ってたなんて。なんで。どうしてオレには言ってくれなかったんだ。
 勝手に息が零れる。
「言われてみりゃあ、たしかにオレら会話増えたよな。それは認める。でも、蒼生の話しかしてねえじゃん。なんでオレらがそういうふうに見えるんだよ」
「そう見えてしまうほど、自分が好かれてる自信がないんだろうな」
 オレの言葉は届いてなかったのかな……。
「……なんか、おまえの言うとおりだったわ。オレ、本当に今まで蒼生のことなんにも知らなかったんだな。オレにあんな態度見せたことなかった。それって信用されてなかったってことなのかな」
 ずっとそばにいたと思ってたのに。一番近くにいたと思ってたのに。オレじゃダメなのか。なあ、蒼生。
 冬矢は思いきり天を仰いで、はあっと溜め息のように息を吐いた。
「敵に塩を送りたくないから言うつもりなかったけど。……あんな態度取らなくてもおまえとは楽にいられたからだろ。でなきゃその距離は許されてない。自分で言ってたじゃないか、蒼生にとっておまえは特別なんだ。そういうことだよ」
「冬矢……」
 そうなのか、と思った。だけど、どこかそれを素直に受け取れない自分がいる。弱いところを見せなくて済む相手がオレだとして、見せてもいいのが冬矢だったってことだろ。
 少し離れた手すりに座り込む。ひやりとした感触。
 こっちに視線だけ寄越して、冬矢がぼそりと切り出す。
「……ちなみに、蒼生に嫌だとかやめてくれとか……最終的に断られたことってあるか」
 あっ。それちょっとしたトラウマワードじゃん。「やめて」って言われたの、昨日のことのように思い出すわ。あれはマジでしんどかった。今でもあの理由はわかんねえんだけど。
 だからその話はやめとこ。キッツイから。
「断られること、だろ。あるよ。外に誘うと5回に1回くらいやだって言われる。あ、でも、甘いものとかで釣ると結構ついてきてくれるかな。とはいっても、真夏にビーチバレー誘われたから一緒に行こって言った時には蒸発するからやだとかよくわかんないこと言われて断られたっけな」
 冬矢が背伸びをしたかと思うと、勢いをつけて立ち上がる。
「俺はまだ、1度も断られたことがない」
「自慢か」
「逆だ、逆。俺はまだ蒼生にわがままを言ってもらえるような段階にないってことだよ。それぞれにしか見せてない顔があるってことだ。つまり、俺たちはどちらもまだ蒼生の最奥に踏み込めてない」
 ああ、そういうことになるのか。
 オレには見せない顔……。そんなん絶対ないと思ってた。
 え、でも。ふと気付く。
「なあ、蒼生がオレの前であんなこと言ったのは、オレに対しても心境の変化があったってことか」
「だろうな。幼馴染みだけだった時とは違うんだ。恋人だからこそ不安になることがあるんじゃないのか」
 だからこそ、か。
 そうだよな、告白して、受け入れてもらって、それがゴールじゃねえもんな。
 蒼生が抱いた不安が、オレたちのこの意地の張り合いが原因なんだから、……ん?
 待てよ。
 やっぱり蒼生があんなこと言うの、オレたちのせいじゃねえ?
「だったらさ、オレらこんなケンカばっかしてる場合じゃないんじゃねぇか」
 迷うことなく冬矢が頷く。
「話があるって言ったのはそのことだ。俺は見誤ってた。目下のところ、戦うべき相手はお互いじゃない」
「敵は蒼生の“不安”ってことだろ」
「そういうことだ」
 だよな。
 さっきオレ自身が蒼生に言ったんじゃん。オレが見てるのは冬矢じゃねえ、蒼生なんだって。向こう側にしかいないはずのこいつのこと気にし過ぎたんだ。そりゃ蒼生が不安になっても仕方ねえよな。
「……どちらにしても。蒼生は俺たちのことを本気で恋人だと思うまでには至っていないんだろう」
「それは、ああ。そうなんだろうな。まずは蒼生に好きになってもらうとこから始めなきゃなんなかったんだ」
 おそらく、オレはその大事なとこをすっ飛ばしてきた。
 自分の気持ちばっか優先して、蒼生の気持ちをこっちに向けてもらう努力をしてなかった。
「休戦しよう。告白したのは俺たちのエゴだ、けど蒼生を幸せにしたいのも間違いなく本音なんだ。俺たちが諍いばかりしていて蒼生に誤解されたり悲しい思いをさせたりするのは絶対間違ってる」
「わかった。その通りだと思う」
 うん。そうだ。
 蒼生が笑ってくれなきゃ。
 蒼生が幸せでいてくれなきゃ。

 空は一気に暗い。
 公園の中央にある街灯に寄りかかった冬矢が、少し肩の力を抜いたように見えた。
「とにかく、慎重に進んでいかないといけないな。蒼生が自然に受け入れられるように、順序だててゆっくり、焦らないように。それから距離の詰め方をミスしないように。……どうしたらいいものかな」
 この姿も結構意外だ。冬矢って、全部計算してるのかと思ってたからさ。
「なんだよ」
「いや、噂によると百戦錬磨らしいじゃん。そんなおまえも悩むんだなって思ってさ」
「難しい言葉使うじゃないか」
「うるせえな」
 冬矢は大きく息を吐いた。オレたち、さっきから溜め息ばっかだな。
「そりゃあ、人より少し経験は豊富かもしれない。だけど、自分から触れたいと思うのは初めてなんだ。触れて怖がられないかって思うのも、下手なことを言って避けられないかと不安になるのも、全部蒼生が初めてなんだよ」
「……そっか、うん。そうだな。オレも今まで、別れた時は悲しいと思ってたけど、すぐに次があるやって切り替えられた。だけど蒼生は違う。嫌われたくない。次なんてない。蒼生は唯一の存在だもんな」
「ああ。次のステップに進むタイミングをちゃんと見極めないといけない。付き合ってすぐ手を出すような浅い関係じゃないんだからな。ただ、正直、そこに至るまでにどのくらい時間をかけたらいいのか、その経験がないからわからない」
 なるほどなー。数が多いからって全部わかるってもんでもないんだな。
 大事にしなきゃいけない関係ならなおさら、ちゃんと考えて……。
 ん。
 いやちょっと待て。
 今さらっとすげえこと言わなかった?
「待て。え? すぐ手ェ出すって……すぐHしちゃうってこと?」
「まあ。相手が望めば」
「え? すぐってどのくらい?」
「その日のこともあったし、次に会う日だったりもしたし、まちまちだな。望まない子はそのまま切れたりしてたから、間を開けることはなかったかもな」
「ええー……」
 マジかよ。
 なんかもしかして、こう兄のがマシなレベルなんじゃ?
 こいつ、初めて見た時からなんかヤバイ感じしたし、蒼生を近付けちゃいけない気がしてたけど、オレの勘って正しかったんじゃねえか、これ。
「今、オレの危険人物ランキングのトップにおまえが躍り出たのが見えたわ」
「それはそれは」
「蒼生に気軽に触るんじゃねえぞ!」
「だからその話をしてるんだろ」
 こいつ、敵に回さないほうがいいタイプの奴だ。味方にしてるのも怖いけどな。
 冬矢は何でもないことのように、いやたぶんほんとに何でもないんだろうな、首を傾げてみせる。
「おまえの噂だって聞いてるけど? 最近まで切れることなく彼女いたっていうじゃないか」
「高校入るまでの話だよ。それに、そんな流れになったの1回だけだわ。しかも全部相手主導だったわ」
「…………」
「…………」
 やっぱりこいつとは合わねえや。
 なんだその憐れむような眼は。
 どっちかっつったらおまえのほうが引かれるやつだからな!
 なんか今、オレって普通の人生歩んできたんだなあってしみじみしたわ!
「……今わかったのは、蒼生との関係において、俺たちが今まで積んできた経験がまったく役に立たないってことだな」
「……それは同意」
 なんにも参考にはならないんだから、手探りでやっていくしかないんだろうな。
 でもさ。
 蒼生は、オレたちとの関係に不安を抱いてるわけだ。
 でも、それって、未来を想像するから不安になるわけだよな?
 オレとのことを考えてくれてるってことの裏返しなんじゃないかと思うんだ。
 うん、よし。
 諦めない。
 頑張る。
 蒼生が不安に思うなら、その不安ごと支えられるようになろう。

 あ、そうだ。
 さっきからもう1個引っかかることがあったんだよな。
「あのさ、そもそも、次のステップって……なんなんだ? なんかこう、キスとか、触りっこ? みたいなのを想像してたんだけど、おまえの言い方聞いてると、なんかもっと先がありそうな気がするんだけど」
「……本気か?」
「え?」
「…………」
「……え? えぇ? ……もしかして、男同士って、その…………できんの? どうすんの?」
「俺に聞くなよ。というか、おまえだって俺に教わるの嫌じゃないか?」
「なんか知らんけどすっげぇ嫌だ」
「だろ。自分で勉強しとけ」
 え……えええ。
 なんか急に目の前にでっかい壁が現れた気がするんだけど……。


 とかいう話をしてたらさあ、普通、全部が慎重に進むと思うじゃん。
 ゆっくり時間をかけて進んで行くと思うじゃん。
 この前、いろんなこと考えながら、蒼生を身構えさせないように言葉も選んでデートに誘ったんだけどさ。なんだ、3人で付き合うって決めた以上冬矢を抜かすわけにもいかねえし、ちゃんとあいつも数に入れて遊びに行ったわけだよ。
 そしたら、あいつ、しれっと蒼生にキスしやがった……!
 おまえの言う慎重ってなんだったんだよ、ってもちろん問い詰めた。返答までしれっとしてやがって、
「大丈夫そうな雰囲気だったから」
 だって。いや、だからさあ!
「基準変わる時は一言くれっつう話だ! 報連相大事って言うだろ! 報告、連絡、相談!」
「善処する」
「どっちともとれる回答すんじゃねえわ。んじゃあ、ここから先、キスはいいんだな!」
「……おまえに対して禁止にすると、俺もとばっちりを食らうからな。仕方ない」
 あー、もう、ほんとこいつわかんねえ!
 やっぱ敵なのかもしれない!

 そんなわけで、オレは蒼生との距離を測るという今までやったことのないミッションに加え、冬矢の動きを確認するという複雑な作業を余儀なくされた。そうだ、あいつ手が早いんだった。いくら蒼生が特別だとはいえ、油断しちゃいけないんだ。
 しかし、蒼生との距離、か。考えたことないんだよな。ずーっとゼロ距離でやってきたからさ。むしろ離れるとあんまりよくないんじゃないかな。この前はちょっと物理的に離れちゃったけど、そのせいで蒼生は不安になったんだろ。するとやっぱゼロが正解なんだと思うんだ。
 とりあえずまずは、部活がない土日は蒼生の部屋で勉強会する。それを最低条件にしよう。
 蒼生を後ろからぎゅっと抱き締める。最近おやっと思うのが、こうすると蒼生はオレの腕に頭をことんと乗っけるようになった。え、可愛い。可愛いなこれ。
 机の向こうから冷たい声が飛んで来る。
「それじゃあ勉強の邪魔だろ」
 ちっ。うるせえ。大体なんで毎回おまえも来んの? 暇なの?
「僕はいいんだけど……健ちゃんも教科書読めないんじゃない?」
 む。蒼生がそう言うなら仕方ねえ。
 オレはもぞもぞと蒼生から離れ、代わりにベッドに置いてあったもちもちのクッションを手に取った。ピンクのそれには目と口が描かれてて、なにやらこっちをにこにこと見つめている。20センチ四方くらいのそいつを抱き締めてみたけど、ああ、物足りない。
「ほら、健ちゃん。後で好きにしていいから、今はこっち」
 蒼生が教科書をとんとんと叩く。はーい。
 ああ数字がたくさん並んでる。これはオレも蒼生も質問する側だ。つまりあんまり質問したくないから自分でなるべく頑張らなくちゃいけないってわけだ。あれ、でもこっちも大事なんだけど、週明けなんかなかったっけ。……あ、そうだ。
「そういえばさ、週明け音楽のテストだったよな」
「あー……」
 蒼生が突然机に突っ伏す。
「せっかく頭から追い出してたのに」
 そっか、昔から蒼生ってなんでだか楽器と相性悪いんだっけ。
「ギターと仲良くなれないんだよ。そもそも楽器って向き不向きがあると思うんだよね。それをテストで成績つけるのがどうも納得できない」
 前の蒼生だったらこんなこと絶対言わなかった。不得意なのは変わらないけど、いつもにこにこしながら大丈夫って言ってたから。こうやって文句言う奴だったんだなあ。なんか拗ねてるみたいでめちゃくちゃ可愛いなあ……。
「健ちゃんは上手だよね……」
「まあな」
「不思議だよな、おまえ不器用なくせに」
「それ関係あるか? 冬矢だってそんな得意じゃねえじゃん」
「小さい頃やってたからピアノだったら弾けるんだけどな」
「えっなにそれかっこいい!」
「うわー、なんか似合うのがめちゃくちゃムカつく……」
 なんなんだ、どんだけアピールしてくるんだこいつ! 最近ますます遠慮がなくなって来た気がするんだよな。
 えーと、オレが出来るアピールはなんだろ。とりあえずこの件については冬矢よりオレのが得意だから、よし、フォローは出来るよな。まだ机と仲良くしてる蒼生の肩に手を置く。
「テスト前の休み時間、最後の復習手伝うよ。大丈夫、蒼生は本番強いじゃん。いざって時にはオレより肝据わってるんだからさ」
「ありがと。うん、頼りにしてる……」
 頼りにされてるー……。嬉しい。
 ふうん、と呟いたのは冬矢だ。
「なんだよ」
「いや、なるほどと思っただけ」
 ったく、読めねぇ奴。

 文句言おうと思ったんだけど、その寸前でノックの音に邪魔される。え、誰だろ。蒼生ん家の人はみんなここまで上るの面倒がっていつも内線で連絡してくるのに。
「蒼生ー? 邪魔していいか?」
 こう兄の声だ。へー、さらに珍しい。蒼生も同じことを思ってるみたいできょとんとしてる。
「どうぞ」
 蒼生が返事をすると、ドアが開いてこう兄が入ってきた。手にはビニール袋を提げてる。
「お邪魔しまーす。……お、はじめましての顔があるな」
 そっか、こう兄って冬矢見るの初めてか。そもそもこう兄自体があんまり日中いないもんな。
 蒼生がきちんと座り直して、冬矢のほうを向く。
「あの、上の兄の紅輝」
「こんにちは~」
「それでこっちは、友人、の」
「笹原冬矢です。蒼生くんとは中学2年の頃から仲良くさせていただいてます」
「あー、最近蒼生がよく泊まりにいく冬矢くんって君かぁ」
 むむ。なんかイラッとする。なんだよこの恋人を家族に紹介しますみたいな雰囲気。そりゃ間違いないんだけど、オレだって蒼生の彼氏なんだぞ。冬矢もいつの間にか正座でぴしっと背筋伸ばしてるし。
「こうちゃん、どうしたの? 僕の部屋までわざわざ」
「ああ、うん」
 こう兄はビニール袋をどさりと机の上の空いたスペースに置いた。
「大学でゼミ会やってたらOBが大軍で来て、差し入れでお菓子とか飲み物いっぱいくれたんだ。余っちゃって持って帰ってきたらちょうどおまえらが勉強会やってるって聞いたからさ」
「そうなんだ、すごい量だね。ありがとう」
 蒼生は早速袋の中を覗き込むと、ごそごそやってペットボトルを1本取り出す。
「健ちゃんの好きな炭酸あるよ」
「サンキュー」
「冬矢は……お茶とコーヒーと紅茶とりんごジュースがあるけどどうする?」
「じゃあ紅茶をいただこうかな」
「はーい」
 ……こう兄は居座るつもりなんだろうか、飲み物を配る蒼生をしゃがむ体勢で見てる。いや、冬矢を見てる?
 さすがに冬矢もその視線に気付いたようだ。
「……俺が何か?」
 こう兄はにやにやしてる。
「いや、蒼生って面食いだなと思ってさ」
「は!?」
 裏返った声をあげたのはオレと蒼生だ。綺麗にハモった。
 この人、何を急に言い出すんだ!?
「なに、おまえ、友達を顔で選ぶタイプだったんか」
「そんなわけないじゃん、冬矢はすごくいい人なんだよ、顔だけじゃないよ!」
「そっかー。冬矢くん、うちの末っ子可愛いだろ」
「はい。とても」
「冬矢!?」
「これからもよろしくな」
「ぜひよろしくお願いします」
 こっちもかよ!
 何で普通に会話成り立たせてんの? なんなの? 間でわたわたしてるオレと蒼生がおかしいの?
 そのこう兄は、今度はオレのほうに身を乗り出したかと思うと、頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる。ガキ扱いかよ!
「健太、とうとう蒼生取られたのか~」
 はあ!?
「取られてねぇよ!」
 オレはとっさに蒼生を引き寄せる。
 こう兄は何一つ動じてないみたいだ。
「健太、覚えてる? おまえらが幼稚園の頃だっけ、健太んちの母ちゃんが蒼生をお婿さんに欲しい~って言ったら、おまえ、オレに向かって“じゃあオレのお婿さんが蒼生なの?”とか言い出してさぁ」
「!?」
「可愛かったなあ」
 何!? 何!? 知らねえし覚えてねえし!!
「こう兄もう出てって! 勉強の邪魔!」
「はいはい、冬矢くんまたな」
「はい」
 いや、だから!
 …………。
 こう兄が部屋を出ていっても、なんか余韻が酷かった。嵐か。嵐なのかあの人は。
 腕の中で蒼生も固まってる。
「……蒼生、こう兄の言ってたこと覚えてる?」
「……ううん……。たぶん僕聞いてないと思う」
「母さんが蒼生を婿に欲しいっていうのは聞いたことあったけど」
「そうなの?」
「なんかそれ聞いてみのりがその気らしい」
「えっ」
「絶対渡さねぇけどな」
 こう兄の話だから信用度は低いけど、こうなってみるとあり得るんだよなぁ……。
 ん? うつむいた蒼生の耳が赤い?
「それじゃ続き始めようか」
 !?
 え、冬矢、マジで? 今の流れでそこにさらっと戻れる?
「おまえ、怖……っ」
「蒼生から聞いてた、ノリの軽いお兄さんだろ。それに合わせて冗談に乗っただけだ。……まあ冗談であっても俺だって絶対渡さないよ」
 冬矢は涼しい顔だ。
 こう兄もアレだしこいつも相当だよ。こう兄の軽口をさらっと流せる奴初めて見た。そういやとっかえひっかえな男っていう共通点があったな。
「……いつか冬矢とこう兄でどっちが酷い男か対決させてやりてぇ」
「勝手にエントリーさせるな」
 蒼生がもぞもぞと顔を上げる。
「興味なくはないけど……聞きたくもない気がする……。でもちょっと気になる」
「蒼生も変な好奇心抱かない」
 自分で言っといてなんだけど、見てみたいなその対決。その隙にオレは蒼生連れて逃げるけど。

 あー、今日の勉強会はすっげぇドタバタしたな。こう兄のせいだ。あの人、人にちょっかい出すの好きだからなぁ。……いやダメだ。思い出として残すのもったいねえからもう考えない。もっと大事なことあるし。
 大事なこと……。
 今日も蒼生可愛かったな。抱き締めるとすり寄って来るあれ、思い出すだけで手ぇ震える。可愛すぎるだろ……。
 帰り際にちゅーするとさ、ぱって目開いてあちこちきょろきょろ見てから真っ赤な顔でにこにこするの。可愛くて可愛くて。ほんと、なんでオレ帰んなきゃいけないんだろって毎回思う。こんなに近いんだから別に帰る必要ないと思うんだけど。
 オレは部屋の時計を見上げる。もう少しで12時が来て、月曜日になる。明日……は、朝練があるから一緒には登校できないけど、学校に行ったら会える。さっきまで一緒にいたのに、足りない。
 やっぱさ、もう、オレら一緒に育ったんだし、全部一緒でいいじゃん。勉強するのだってしょっちゅう蒼生の部屋だしさ。いっそ荷物抱えて転がり込んじゃおうか。あーさすがに蒼生は迷惑がるかな。でもそのくらい一緒にいたい。せめてそう思ってることだけでも伝えたい。この距離がもどかしいんだって、伝えたい。
 あー、もう。
 今すぐ走り出していきたい気持ちを何とか抑え、ベッドに飛び込んで、枕を抱える。
 こうやって蒼生をぎゅって出来たらなぁ。
 勢いに任せて抱き締められたらなぁ。
 ……えー、その。冬矢が中途半端なこと言うからさ。調べたんだわ。色々。そのー……男同士でどうすんのか、ってやつ。正直、保健体育の授業ですらこんな真剣になったことねえなってくらいちゃんと真剣にさ。うん。冬矢が慎重になるのわかるよ。たしかに、これはしっかり勉強しとかねえと、蒼生を傷つけるし怖がらせるな、って。確実に、ちゃんと段階踏まなきゃいけないやつだ。
 うん……。割と衝撃的だったし、なんかこう、本当に大丈夫なのかなとか、そのへんはめちゃくちゃ考えた。それだけ大変ってことは普通はやんないことなのかな、とかも。それで、そういうことを、オレは蒼生に出来るのかなあっていうのも考えた。そりゃ薄っぺらい知識しかないから、そういう意味では不安はある。だけど、たぶん、出来る。いや、したい。蒼生に触れたい。隅々まで。
 そんで、冬矢もおそらくそうなんだろう。
 冬矢も今がどういう状況かっていうのを見極めてる途中だと思う。あいつは冷静で頭いい奴で、オレみたいに突っ走ったりしない。だからさすがにそこまで勝手に動いたりしないと思ってる。思っては、いる。だけどなあ、付き合ってから初めてのキスを何のためらいもなくかっさらってったもんな。必要以上に信用しちゃいけないとも思うんだ。いつ先を越されるかわかったもんじゃねえ。
 出来れば、最初に触れるのはオレでありたい。オレの目の届かないところであいつが蒼生に手を出すのだけは絶対阻止したい。
 あー。
 ……蒼生。
 もし、オレが、そういう……抱きたいって意味で抱き締めたら、どう思うんだろ。
 もし、今まで触れたことのない触れ方をしたら……。
 それでも蒼生はオレを受け入れてくれるかな。あのふんわりした笑顔で手を伸ばしてくれるかな。
 本当は、ちょっと怖いんだ。蒼生に拒否されたらどうしようって。今も耳に残る「やめて」って、あの時の言葉みたいに。
 だから早く確かめたい。抱き締めて、キスして、いつも服に隠されてるとこに触れてみたい。恥ずかしそうにオレを見上げる目が脳裏に浮かぶ。さらさらの肌を撫でたら、あの夜みたいにきっと身じろぎをする。それで真っ赤な顔して、オレの名前を呼ぶんだ。その頬の熱さはどのくらいだろう。どんな声で答えてくれるんだろう。オレをどんな目で見つめてくれるんだろう。
 やべ。ちんこいてぇ。最近こんなことばっかだ。我慢してんのしんどい。
 オレは体を起こしてカーテンを半分開ける。見上げる先にあるのは蒼生の部屋だ。カーテンの閉まった窓は電気がついてて、ぼんやりと水色の光が浮いてるみたいに見える。まだ起きてるんだな。今何してるんだろ。今何考えてるんだろ。少しはオレのこと、考えてくれてる?
 さすがにキツい。ズボンの中に手を突っ込むと、ぐちゃって音がした。蒼生。
 なあ、蒼生。オレ、今、蒼生のこと考えてこんなんなってる。
 蒼生がオレの至近距離で笑ってくれてる顔を思い浮かべて、これを突っ込んだらそれがどんなふうに変わるかなって思って、オナニーしてるよ。
 こんなオレをどう思うかな。
 蒼生。
 いっそ電話でもしてやろうか。その声でイけたらどんなに気持ちいいだろう。
 携帯電話に手を伸ばす。……いや、さすがのオレもちょっとためらう。ゆるゆると自分を慰めながら、利き手じゃないほうで画面をさする。
 あの夜、少しだけ触れた耳のひやりとした感触。埋めた首元のにおい。
 結局、どうしたらいいかわかんなくなって、「電気ついてるけど、まだ起きてる?」そんなどうでもいい言葉を打ち込んで、少し手を早く動かすタイミングで送信ボタンを押した。
 オレからのメッセージを見たら、オレのことが頭に浮かぶだろ? 今、蒼生、オレのこと考えてるだろ? あー、我ながらなんつー消極的なことしてんだ。
 ……健ちゃんも起きてるんだね、蒼生の声が聞こえる。
 僕のこと好き? って聞こえる。好きだよ。好きだ。どうしたって押さえられないくらい、おまえのこと好きだ。大好きだ。
 キスしたい。
 触れたい。
 蒼生……っ。
 …………。
 足の下で携帯が震えて、たぶんその瞬間にイッた気がする。
 ……はー。
 今週何回目だこれ……。こんな目と鼻の先でこんなふうに何度も何度も頭の中でぐちゃぐちゃにされてるなんて知ったら引くだろうな。ごめん蒼生……。
 あ、そうだ、携帯鳴ってたな。なんでこんなとこにあるんだ。えっと。……わ、蒼生からの返信だ。な、なんかごめん! ほんとにごめん!
 中身は、……「今から寝るとこ。健ちゃん明日早いよね。部活頑張ってね。おやすみなさい」……。はぁ……可愛い……好き……。


 今朝の蒼生も可愛かったなあ……。オレの顔を見るなり、
「昨日、眠れなかった? 大丈夫?」
 って心配そうに駆け寄ってきた。
 あの、その、蒼生のこと考えてヌいてましたーって言いそうになって焦る気持ちと、やっぱオレのこと考えてくれてたんだって嬉しい気持ちで脳内が大騒ぎになった。
「ん、大丈夫。もらった返事のおかげでよく寝られたよ」
 答えて笑うと、蒼生もつられたように笑う。んー……なんか、笑い方変わった、よな? ふんわりな時もあるんだけど、ふにゃっていうか……とろんっていうか……なんていうか……え、えっち? と、とにかく、いちいちオレの胸を刺し貫く威力がある。
 こんな可愛い子が恋人なんだと思うと、マジ、この世のすべてに感謝したい気持ちになってくる。
 ま、その蒼生は今日昼休みの図書室当番とかで今いないんだけど。仕方なくオレは部活の友人と学食に行ってきた。全員が3倍盛りを頼むっていうなかなかの迫力で、ちょっと笑える光景だった。蒼生が見たら面白がっただろうな。
 教室に戻ると、蒼生はまだ戻ってなかった。冬矢の奴もいねぇな。蒼生がいないなら冬矢とつるむ義理もないから、どこに行ったのかは知らない。ま、まさかあいつ図書室に詰めてるんじゃねえよな?
 オレの席の近くでは、5人組の女子が机を並べておしゃべりをしていた。机の上にはクッキーが2種類置いてある。ひそひそ話をしてるみたいだけど、席が近すぎて全部聞こえてくんだよ。
「……でね、そしたらね、野木沢くんがほとんど持ってくれたの!」
「優しいよね~」
 おお、蒼生の話か。そうそう。優しいんだよ蒼生は。ちっちゃい頃からずっとそう。
「私も部活で使う荷物ロッカーの上から下ろせなくて困ってたら手伝ってくれたよ」
 うんうん、蒼生は上背あるしな。力もあるし。まあオレのがどっちも勝ってるから、いつも蒼生はオレに任せてくれるんだよ。頼られるって嬉しいよな。
「最近ちょっと雰囲気変わったよね?」
 あ、気付いた?
「そう! なんだろ、なんか色っぽい感じだよね」
 わかる! それ! ホントそれなんだよ!
「彼女でも出来たのかなって思って探ってみたんだけど、そんな感じはないんだよね」
 うん、蒼生に出来たのは彼氏なもんで。
「ってことはまだ諦めちゃいけないってことだよね!」
 いやごめんそこは諦めてほしいんだわ。残念ながら蒼生はオレのものなんで。
「でも本当に全然そういう話聞かないよね。野木沢くんのタイプってどんな子なのかな」
 オレです。
 うー、いっそここで「蒼生の彼氏はオレ」宣言したら一発なんだけどなぁ! 蒼生って人前でそういう話したがらないし、許可なくバラしたりはできねぇよな。いいんだ、オレにしか見せない可愛い顔は独り占めするためのものなんだから。
「あ、ねー、寺田くん」
 っっっ、はい、オレです!
 あーびっくりした。突然輪の中から兼城さんが声をかけてきた。
「な、何?」
「寺田くんって野木沢くんと幼馴染みなんだよね」
「うん。生まれた時から、ずーっと一緒、の幼馴染みだよ」
 一部を強調したの、伝わったかな。
「じゃあさ、野木沢くんって今までどんな子と付き合ってたか知ってる? どんな子がタイプなのかな」
 伝わってねえなコレ。
 今までも何も、蒼生が付き合ったのはオレだけ……って言ったらあとであいつが怖ぇな、オレと冬矢だけだ。タイプだなんて話題にも上ったことがない。……あれ、そういえばたしかにそんな話したことないな。長い付き合いだけど、一度も。
「んー、タイプなぁ。あいつ奥手だから。友達と一緒にいるほうが楽だと思ってるんじゃないかな。自分にはまだそういうの早いって言ってたよ」
「え、高校生にもなって?」
「はは、そういうとこが奥手なんだよ」
 嘘は言ってないぞ。蒼生がそう言ってたの、オレちゃんとこの耳で聞いてるからな。小学生の時だけど!
「そっかー。野木沢くんて難攻不落な感じだもんね。あ、そしたら、寺田くんから見てどんな子が好きそうだと思う?」
「好きそうな……ねえ。ああいうおとなしい奴だから、ぐいぐい来る子は得意じゃないんじゃないかな。圧倒されちゃうから苦手だと思うなぁ」
「そうなの?」
「ホノカやばいじゃん、もっとおとなしくならなくちゃ!」
「ええ~っ」
 ……これが蒼生じゃなくて他の奴の話だったら、本当のこと言ったと思う。ごめんね兼城さん。明らかに蒼生を狙ってるなって思ったので、わざとあなたのことが苦手だって暗に言いました。ぐいぐい押して勢いで恋人にしてもらったオレが言うのもなんだけど、たぶん本当は蒼生は押しに弱いと思います。
「いいもん、これから頑張るもん。寺田くん、ありがと。はいお礼~」
 兼城さんが机の上のクッキーを1枚取り、オレの口元までそれを運ぶ。
「お、サンキュ」
 それをそのまま口で受け取る。この状態であえて手で受け取ったら、余計に変な感じだからな。
「へえ、美味しいじゃん」
「それミアが作ったんだよ」
「篠崎さんが? すっげえ、上手だね!」
「……寺田くんもモテるでしょ。でも彼女の話聞かないよね」
「あー、オレ? 今全部断ってるから」
「えっ? なんで?」
 そりゃあもちろん可愛い可愛い恋人がいるからだよ。とは言えないので、
「結構オレ頑張ってこの学校入ったじゃん? ずっと勉強してたからさ、今友達同士で遊ぶのが一番楽しいんだ。休みの日とかしょっちゅう蒼生と遊んでる」
 と答えた。
 兼城さんは「ずるい!」と声を上げたけど、仕方ないじゃん、恋人だもん。ついでに「休みの日は蒼生はオレとずっと一緒なので他の人といる時間はありません」アピールにもなったかな。
 と、そこに蒼生が戻ってきた。ひとりだ。
「ただいま。みんなでおしゃべり?」
 にこっと笑う蒼生に、兼城さんがちょっと背筋を伸ばして頷いた。おとなしく、を意識してるのかな。前のオレだったらかわいいなって思ったと思う。実際すごくかわいいし。でも、もう、蒼生しか見えないから。
「お疲れ様ー。結構ギリギリまでかかったな」
「駆け込みで本借りる人がいたから」
「冬矢は?」
「見てないけど……日直だったよね」
 あー、そうだったっけ。よかった、抜け駆けされてなくて。
 女子の皆さんの羨ましそうな視線を感じながら、蒼生の顔を見る。蒼生はじっと見つめるオレにちょっときょとんとしてから、首を傾げてふんわり笑った。か……っわいい……。
 反則だろこれ。それでなくとも最近の蒼生は色気がヤバいのに。無邪気のアイスに綺麗のストロベリーソースと優しいのフルーツをトッピングして可愛いの生クリームを山盛りにしたうえに色気のチョコソースをたっぷりかけて、仕上げに天使の笑顔ときた! もうなんなんだ、世界一のパティシエが作る最高傑作のパフェかよ!
「……あー……食いてぇ……」
「? なに?」
「うわっヤベっなんでもない!」
 声に出てた!? あーもう色々限界だ!

 今日からグラウンドに工事車両が止まるとかで、調整出来なかったらしく部活は本日休みだ。蒼生と一緒に帰りたい……でも掃除当番なんだよなあ。
「あっ、なあ、寺田」
 準備しようと机を後ろに運んでいると、声をかけてきたのは同じ当番の奴だ。
「んー、どした?」
「バイトでヘルプ頼まれちゃってさ。悪いんだけど今日の当番抜けていい?」
「おお、そりゃ大変だな。行ってこい行ってこい」
 予定が急に変わることなんて普通にあるもんな。当番なら他にもいるし、ひとり減ったってどってことないだろ。
 そこににこにこと首を突っ込んできたのが蒼生だ。
「僕が代わりに入るよ」
「えっ、野木沢マジ?」
「うん。早く行ってあげて」
「ありがと! 恩に着るわ!」
 他の当番にも声をかけながら慌てて出て行くその後ろ姿に手を振ると、蒼生はさて、と振り返る。
「さっさとやっちゃおう」
「いいの?」
「ああ、だって冬矢も日誌書いたり持ってったりで時間かかるし」
 う。冬矢を待つ間の時間潰し?
「それに、健ちゃんと一緒ならなんでも嬉しいし」
 ……蒼生! 好き……!
 掃除当番なんて面倒なだけだけど、探せば教室の中に必ず蒼生の姿が見えるとなると、なんだかそれだけでご褒美な気分になる。ほうき持ってるだけでもう可愛い。同じく当番の女子が近付いて話しかけたりしてるのも、いずれあの子たちの中で「野木沢くんが手伝ってくれた」になるんだろう。でも蒼生はオレのお手伝いをしてくれてるんだ。ふっふふ。
 邪魔にならないように教卓で日誌を書いてる冬矢の目線が時々刺さるけど、気にしないことにした。
「それじゃごみ捨てじゃんけんしよっか」
 掃除が一通り終わると、まあそうなるよな。なので自らさっと手を挙げる。
「あ、オレ行ってくるよ。蒼生、一緒に行こ」
「うん」
 先手必勝ってやつだ。……視線がざくざく刺さってる。気にしない気にしない。

 ごみ箱は教室の前と後ろにあるけど、1日に出るごみの量なんてたかが知れてる。袋に入れてまとめればペットボトルのと合わせてもひとりでも持てる量なんだけど、使えるもんは使うに越したことないと思うんだよな。一緒が嬉しいって言ってくれたもんな。
 同意を求めて蒼生に笑いかけると、言葉にはしてないのに蒼生も笑顔を返してくれる。最高。
「そういえばさー、この前言ってたゲームソフトあるじゃん」
「ああ、今度出るけど人気だからなかなか手に入らなそうだってやつ?」
「そ。あれ、コントローラー同包版予約出来たよ」
「抽選当たったんだ」
「うん、さっき連絡入ってさー。買ったらまた対戦しよ」
「僕、勝てたためしがないんだけどなあ」
 だから結局オレがやってるのを横で見るっていつものパターンになるやつな。でも文句言わずに付き合ってくれるから、つい誘っちゃう。
「休みの間中閉じこもってプレイすることになるかもな」
「えー、健ちゃんがそれで我慢できる?」
「……無理だ外行きたくなるわ」
「でしょ」
 楽しそうに笑う蒼生。あったかい気持ちにもなるし、ドキドキもする。
 あー。
 蒼生がそばで笑っててくれるって、なんて幸せなんだろう。
「なあ、蒼生」
「なに?」
「……蒼生からちゅーして」
「……へ?」
 言っちゃった。蒼生はびっくりした顔でぴたりと止まる。かっわ……。
 いや悪い、冗談冗談、言ってみたかっただけ。どんな顔するかなーって思ってさ。
 思ってた通り、可愛い反応で
 え。
「…………」
「…………」
「……ほっぺ?」
 呟いて蒼生を見ると、うつむいてて顔は見えない。でも耳が赤い。えっ。あの。今、頬に、ちゅって。
 うっわ。
 オレも顔から火ぃ出るわ。
 可愛い。可愛い。なんなの。
「こっ……こういうのは学校じゃなくて家で要求してください……っ」
 声が上擦ってる。えええ……。
「あっ蒼生……」
「はい……」
「好き……」
「……うん」
 周り、誰もいなくてよかった。冬矢には絶対内緒にしよう。うん。


 その日はオレの朝練がなくて、久々に3人して登校した。
「今日、帰りは?」
「部活ー」
 ああ、また一緒に帰れねえ。
「俺は今日から週明けまで親が出張でいないから、買い物して帰らないと」
「金曜から出張って、土日も仕事ってこと? 大変なんだね」
「繁忙期らしいよ」
「あ、それでおまえ飯とか作れんのか」
「まあね」
 自信たっぷりに冬矢がオレに向かって笑う。オレに向かって。くっそ。こいつは蒼生を自分の家に呼ぶたびに自分の作った飯食わせてるんだって。それを「おまえには出来ないだろう」って自分の特権みたいに自慢する。そりゃ出来ねえけども!
 冬矢の奴、帰りのその買い物に蒼生を連れてくつもりなんじゃないだろうな。ちょっとでも長く一緒にいたいのはわかるよ。オレだってそうだし。だから、下駄箱に辿り着いていったん三方向に分かれると、走る勢いで上履きを履いて蒼生の元へ戻る。
 ん?
 蒼生は自分の下駄箱の前で、上履きを片手に持ったまま小さな紙を見つめて固まっていた。蒼生?
「どうした?」
 声をかけると、不安げな顔をオレに向ける。
「……健ちゃん」
 なんだ、なんだ。その紙がどうした。
 ええと、第二倉庫前で……これは……。
「呼び出しか」
 なんだろ。普通に考えれば告白なんだろうと思うんだけど。何か引っかかる。折りたたんだ小さな紙。見たことあるような罫線。走り書きみたいな文字。
「出来れば今すぐ断りたいんだけど……」
 そりゃ、そうだ。なんか気持ち悪い感じがする。それがいい。だけど、その紙にはどこにも名前がない。
「オレも彼氏としては即突き返してやりてえけど、無記名だから突き返し先もわかんないな。オレも一緒に行こうか」
「うーん……。大丈夫、ちゃんと自分で行って断ってくる」
 蒼生は強く言って頷くと、その紙を鞄のポケットに押し込んだ。

 放課後。
 オレは億劫そうにこっそり教室を出て行く蒼生の背を見送った。やっぱついてったほうがいいんじゃないかな。でも蒼生が自分でやるって言うし。
 そわそわするけど仕方ない。待とう。
 そう決めたオレは同じように不満げに椅子に座る冬矢の背中に声をかける。
「なあ、帰んねえの。買い物あるんだろ」
 冬矢は振り返らない。
「おまえこそ部活はどうした」
「体調不良のため欠席いたします」
「……頻繁にサボるよな」
「蒼生が心配で体調不良なんだよ」
「そりゃやむを得ないか」
 へー。納得してやんの。
 そりゃそうか。蒼生を心配する気持ちは同じだもんな。
 はあ、と冬矢が溜め息をつく。
「さんざん牽制しても、釘さしても、まだかいくぐって告白してくる子がいるなんてな。蒼生は優しいから、断った相手の気持ちまで考えて傷付くんだ。そんな思いさせたくないのに」
 え。そっか。おまえ、そこまで考えてたのか。オレはなんか、恋人がいる蒼生に告白なんてっていうもやもやした思いだけだったのに。悔しいけど、本当にこいつは蒼生のことをよく見てる。こいつも蒼生のこと本気で好きなんだなあ。
 …………ん?
 今、なんか頭のどこかでかちりと音がした気がする。
 違和感の正体みたいなものが見えたような。
 蒼生のことが好き……?
 やっぱり変だ。
「……おかしい」
「? 健太?」
「告白ってことは、相手のことが好きってことじゃん。好きな子呼び出すのに、どっかからちぎったようなメモ使うのおかしいだろ。名前書かないのは、恥ずかしいとかそういうのあるかもしんねえけど、走り書きみたいな時間と場所だけって、普通ないよな? ……あー、あれ、そうだ、生徒手帳だ。後ろのほうにあるメモ用のページ。あれだ。あれ破って書いたんだ。絶対おかしい!」
「健太」
 いつの間にか冬矢がこっちを向いていた。
 そうだ。おかしい。だめだ。
 少なくとも好意のある行動じゃねえ。
「そのメモは?」
 問われて、オレはとっさに立ち上がる。
「たしか蒼生が鞄のポケットに」
「触らないほうがいい」
「え?」
「触る人間は少ないほうがいいと思う」
 冬矢が何を言ってるのかわからない。
 でもたしかにそんなような気がする。
 急に不安が大きく膨れて、体の中で破裂しそうだ。
「……廊下の端っこの窓、たしかあの倉庫見えたよな」
 オレは冬矢の返事を待たないで教室を飛び出した。廊下の端。工事中の建物が見える窓だ。そこがちょうどテニスコートに面してて、その脇にある第二倉庫も半分くらい見える。出来るだけ角度をつけて覗き込むと、まだ誰の姿もない。結構あそこまで行くの手間だもんな。テニス部の奴が文句言ってたっけ。
 そうだよな。手間なんだよな。そんな場所をわざわざ選ぶか……?
 コートには工事に使う資材かなんかが積まれてて、上から見てるから全体が見えるけど、相当視界は狭いんじゃないかな。これ、下から見たら結構圧迫感がありそうだ。そんなことを考えてると、手前の角から蒼生が出てきた。蒼生もあたりを窺うようにきょろきょろしながら倉庫のほうに向かっていく。奥にある倉庫の前まで行った蒼生は、しきりに倉庫の中を気にしてるようだ。……中? 扉が開いてるのか。開いてるか? 普通?
 ふいに、倉庫の陰で何かが動いた。人だ。制服姿、あれは、男子生徒、か。
 頭がぐらぐらする。
 背は蒼生より高い。肩幅もある。
 そいつは扉を覗き込む蒼生に何か話しかけたようだった。
 ほとんどそいつの背中で蒼生の姿は少ししか見えないけど、なんだか戸惑ってるみたいだ。
 そして、蒼生を、扉の中に向かって突き飛ばし て
 あ おい
「健太?」
 後ろから低く冬矢の声。
「蒼生が」
 オレはようやくそれだけを搾り出した。
 それとほぼ同時に走り出す音。オレも目に焼き付きそうになった今の光景を振り払うように廊下を蹴った。階段に差し掛かるあたりで冬矢に追いつく。数段ずつ飛ばしながら、とにかく下に向かうことしか考えなかった。
「誰」
「知らねえ。男」
「人数は」
「ひとり」
 昇降口から飛び出し、だだっ広い外階段を駆け下りる。
「健太、左だ」
 左?
 テニスコートに向かうには右へ曲がって校舎を回り込むしかなかったはずだ。
 けど、疑う理由もない。迷わず体育館の脇へ走り込む冬矢の後ろを追う。
 そこは細い道、いや道でもないのか。拳半分くらいの石が敷き詰められた、隣の敷地との境界だ。壁と体育館に挟まれたその先には、工事中の建物が。そうか、ここに出るのか。たしかにこっちのほうが近い。
 だたっぴろいはずのテニスコートは資材で半分くらいが埋まってて、反対側が見えなかった。オレは構わず端に積まれた木材の上を走り、張られていたロープを飛び越える。倉庫が見えた。扉は閉まってる。さっきは開いてたのに。
 金属製の扉。両側に開くやつ。鍵が付いたままの南京錠が片方にぶら下がってる。
 大きな音は、しない。
「同時に開ける。そいつの注意をひくんだ」
「その後は状況に応じて、だな」
「行くぞ」
「ああ。……せー、のっ」
 全体重をかける気持ちで開けた扉は、腹に響くような重い音を立てた。ほんの数秒のはずなのに、それは30秒にも1分にも感じられた。

 先に冬矢が飛び込んだ。
 オレはわずかに遅れてその後に。
 まず目に入ってきたのは男の背中だった。
 よっぽど夢中で何かをむさぼっていたように、オレたちに気付いたのはそれからだった。
 驚いたように振り返る男。
 その向こうに、蒼生。
 全身の血が一気に頭に上ったような気がした。
 熱い。
 静かだ。
 何も聞こえない。
 ただ、手が勝手に動いた。
 そいつの後ろ襟を掴んで、力任せに引き剥がす。
 男はあっけなく後ろに飛んで、地面を擦って扉にぶつかったような、気がした。
 でもべつにそんなのどうでもよかったんだ。
 蒼生が震える目でオレをみてる。
 上半身をはだけられた姿で。マットに横たわった姿で。
 蒼生。
 蒼生。
 真っ白な顔。
 唇が、オレの名前を呼ぶときのかたちに動いた。
 蒼生。
 肩を抱いて引き寄せ、抱きしめる。
 冷たい。
 力の加減が出来ない。
 いつもだったら蒼生が「痛い」って言うよりも、とにかく強く抱き締める。
 だけど蒼生は何も言わない。
 心臓が耳元にあるんじゃないかってくらい、ばくばくと大きな音がする。
 知らなかった。
 こんな怖いことがこの世に存在するなんて。
 だめだ。
 もう、一瞬たりともこの腕を離したくない。
 気を抜いたら攫われてしまう。
 でも、離さなきゃいけない気もしてる。
 だって、だめだ。
 こんな。
 こんなこと。
 オレはあの男が蒼生に何をしようとしていたか、理解してる。
 オレは、こんなことを……。
 蒼生にしようとしてたのか……。
 オレは。
 オレは。
 蒼生。
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17こ目;君じゃなくちゃダメなんだ! 第5話
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 ぶっちゃけた話、蒼生に「そんなふうに思ったことなかった」って言われたのにはものすごい衝撃を受けた。あー、蒼生ってオレのこと恋愛目線で見たことなかったんだな、って。
 でもよく考えてみたら、オレだってこの気持ちに気付いたのはつい最近のことなんだよな。気が付いちゃうとずーっと昔から好きだったから、もうそれが当たり前みたいに思えたけどさ。だから蒼生がそう思ってなくても何の不思議もないんだ。
 それは、まあ、仕方ねえよ。
 たぶんオレがショックだったのは、蒼生がオレを選ばなかったことだ。オレは、たとえ冬矢っていう余計な選択肢があっても、蒼生が選ぶのは絶対オレだと思ってた。だけど……蒼生はすぐに答えを出せなかった。ずっと一緒にいたオレと天秤にかけて釣り合うほど、冬矢の存在は蒼生にとって重かったってことだ。
 つまりさ、もし冬矢の提案を拒否して「両方選ばせる」って選択肢を提示しなかったとしたら、蒼生は冬矢を選んでたんじゃねえかなって。
 ……考えるだけでぞっとする。
 そもそも、頭のいい冬矢ならそこまで読めててもおかしくないのに、なんであいつはあんなこと言い出したんだ? あいつの考えてることがわかんねえのがすごく不気味だ。なんか企んでるのか?
 いや、だとしても、だ。迷ってはいたけど、蒼生はオレとも付き合うって言ってくれた。それは事実だ。だからそれを信じよう。オレが信じるのは蒼生だけでいいんだ。冬矢が何考えてても気にすることねぇや、あいつとは正々堂々戦うだけだ。
 それで、最後には蒼生にオレを選んでもらうんだ。蒼生が胸を張って恋人ですって言えるようなちゃんとした人間にならなくちゃな!
 ……って、思ってはいるんだけどな~。
 オレはテスト結果の一覧を印字したペラ紙を手に、教室の机に突っ伏した。これはどう考えても胸張れる結果じゃねえんだよな~。
 さらに、伸び悩んでんのはこっちの成績だけでもなくて、実は、最近全然部活で結果を残せない。ベンチあっためるだけなことも増えた。色々潮時なのかな~。
 はぁ。
「部活やめっかなぁ……」
「へえ」
 っ! びっくりした!
 誰もいないと思ってたのに、いつの間にか冬矢が立ってる。
 たまにこいつ気配ないのなんなんだ。
「なんだよ、脅かすなよ。いるならいるってさぁ」
 抗議するけど、聞いてんのか聞いてねえのか、涼しい顔をしてやがる。
「辞めるのか、部活。好きでやってたんだろ」
「……体動かすのは好きだけど、種類は別にどうでもよかったんだ。そもそも、蒼生が上級生の練習風景見てかっこいいって言ってたからサッカーにしてただけで」
 冬矢は興味あんのかないのか、オレから離れた自分の席に座る。
「それ、蒼生は知ってるのか」
「言ってない」
「ふーん。辞めるなんて言ったら気にするだろうに」
「……うっ。だろうなあ……。だけどさ、好きでやっちゃいるけど全然結果残せないどころか勉強のほうの足も引っ張ってる現状って、プラマイゼロどころかマイナスなんじゃねえのかなって。それに蒼生にかっこいいとこ見せたくて始めたのに、蒼生との時間削られるのってどうなんだろ」
 オレは大きく息を吐いて、頭を抱える。
「それに今こんな成績下がるってさ、そっちも気にするんじゃね? 蒼生となんかあるたびガクッて下がるの、ヤバいと思うんだよな」
「たしかに、それだけ蒼生基準でやってきて、蒼生のせいで成績下がるんじゃ確かに格好悪いな」
「ぐっ。蒼生のせいとかそんなんじゃねぇけど、……傍目にはそう見えるんだよなあ……」
 オレ的にはかなり頑張って入った高校だ、本当は人並み以上に頑張らないとついていけないってことなんだよな。そろそろ一本化すべき時期ってことか。
 ただ、今すぐってわけにはいかねえわな。一応冬も視野に入れてメンバー組んでるんだから。
「あー、くそ、どうすりゃ蒼生が気にしないで丸く収められっかなぁ」
 こいつにぶちまけるのはちょっと悔しい気もするんだけど、なんかどうしても声に出してスッキリしたかった。普段ならオレのこと無視するこいつが珍しく席を立たないせいだと思う。壁に向かって話してるみたいなもんだ。
 いや、でも、蒼生にバレたらかっこ悪いな。
「……とりあえず全部決めてからだな。おい、サッカー辞めるって話、蒼生には言うなよ」
「なんで?」
「かっこ悪いだろ」
「今更だと思うけどな」
 なにがだ、なにが。
 あー、でも、どっちにしても考えなきゃいけないんだよな。


 結局その後、辞める云々は蒼生にバレた。しかも結構ソッコーのタイミングでバレた。いや、バラしたのは冬矢じゃない。どういう風の吹き回しか、冬矢はちゃんと約束を守ってくれた。オレが自分でバラしたんだ。しかも言うべきじゃないところで、さらにめちゃくちゃカッコ悪い感じにうっかり漏らした。
 案の定、蒼生は自分のせいだって思ったみたいで……。オレはその疑惑を払うために、ズタボロのテスト結果を蒼生とおまけに冬矢にも開示する結果になった。
 まあそのおかげで蒼生が一緒に勉強する時間増やしてくれることになったから、アレだ。怪我の功名とかいうやつだ!
 でも、自分のせいだって言った蒼生の真っ青な顔……。あんな顔見るの初めてだったな……。
 それに加えて、さっき一緒に勉強してた時のあの言葉だ。
「僕はただの口実で、本当は冬矢と健ちゃんが好き合ってるんじゃないかって」
 は? どういうこと? 頭が真っ白になるってああいうことか。一瞬なんか思考が飛んだ。どこをどう捕らえてどう解釈したらそういうことになるんだ? は? オレが? 冬矢を? え? そんなんチラリともかすったことねえよ。出来れば今すぐどっか行ってほしいとしか思ってねえんだけど。蒼生が嬉しそうにするから仕方なく近寄るの許してやってるだけなんだけど! オレは蒼生が好きなんだけど!
 まあな、気は合うかもな。お互い邪魔だと思ってるとこは一緒だからな。
 蒼生はいったんは納得したみたいだった。
 だけど……蒼生ってあんなこと言うんだ。いつも笑ってオレに頷く蒼生が、あんな暗い顔で、あんな突拍子もないことを。
 なんか、すっげえ、ショックかも。
 今日の分の勉強会を終えて蒼生の家を出ると、一気に体が重くなった。オレが告白するなんて言い出さなかったら、蒼生にああいう顔させなかったのかな。
「健太」
 なんだよ。オレより先に玄関を出たはずの冬矢が道路に出たとこに立ってる。さっさと帰ればいいのに。
「話がある」
 ……話?

 話が出来そうなとこを探して着いたのは、家の裏のほうにある児童公園だった。夕方で日が落ちてきたせいか、誰の姿もない。
 ここ、小さい頃はしょっちゅう蒼生と一緒に来てたな。茂みに囲まれた低い山があって、そこが秘密基地みたいで楽しかった。危ないからって今はなくなっちゃったけど。
 冬矢がブランコを囲む鉄製の手すりに腰をかけながら、長く息を吐いた。
「参ったな……」
 そっか。こいつもショック受けてるんだ。そりゃそうだよな。オレだって、
「……蒼生があんなふうに考えてるなんて思いもしなかった」
 告白を受け入れてくれてからも、蒼生、ずっと笑ってたじゃん。楽しそうにしてたのに。そうじゃなかったんだ。
 ちらり、冬矢がオレを見る。
「蒼生にはああいうところがあるんだよ。自分に自信がないから。いつも悪いほうに考えてひとりで落ち込むんだ。……さすがにあんなことを言い出すのは想定外だったけど」
 悪いほうに……? そんなこと、考えたこともなかった。いつだって穏やかで優しくて、みんなを明るくさせてくれる蒼生が、そんなふうに思ってるだなんて。
 さっきの蒼生を見るまでのオレだったら、冬矢の言葉は一蹴してたと思う。でも、あの顔は……。そんなあり得ないことを言い出すほど悪い想像が蒼生の中を巡ってたなんて。なんで。どうしてオレには言ってくれなかったんだ。
 勝手に息が零れる。
「言われてみりゃあ、たしかにオレら会話増えたよな。それは認める。でも、蒼生の話しかしてねえじゃん。なんでオレらがそういうふうに見えるんだよ」
「そう見えてしまうほど、自分が好かれてる自信がないんだろうな」
 オレの言葉は届いてなかったのかな……。
「……なんか、おまえの言うとおりだったわ。オレ、本当に今まで蒼生のことなんにも知らなかったんだな。オレにあんな態度見せたことなかった。それって信用されてなかったってことなのかな」
 ずっとそばにいたと思ってたのに。一番近くにいたと思ってたのに。オレじゃダメなのか。なあ、蒼生。
 冬矢は思いきり天を仰いで、はあっと溜め息のように息を吐いた。
「敵に塩を送りたくないから言うつもりなかったけど。……あんな態度取らなくてもおまえとは楽にいられたからだろ。でなきゃその距離は許されてない。自分で言ってたじゃないか、蒼生にとっておまえは特別なんだ。そういうことだよ」
「冬矢……」
 そうなのか、と思った。だけど、どこかそれを素直に受け取れない自分がいる。弱いところを見せなくて済む相手がオレだとして、見せてもいいのが冬矢だったってことだろ。
 少し離れた手すりに座り込む。ひやりとした感触。
 こっちに視線だけ寄越して、冬矢がぼそりと切り出す。
「……ちなみに、蒼生に嫌だとかやめてくれとか……最終的に断られたことってあるか」
 あっ。それちょっとしたトラウマワードじゃん。「やめて」って言われたの、昨日のことのように思い出すわ。あれはマジでしんどかった。今でもあの理由はわかんねえんだけど。
 だからその話はやめとこ。キッツイから。
「断られること、だろ。あるよ。外に誘うと5回に1回くらいやだって言われる。あ、でも、甘いものとかで釣ると結構ついてきてくれるかな。とはいっても、真夏にビーチバレー誘われたから一緒に行こって言った時には蒸発するからやだとかよくわかんないこと言われて断られたっけな」
 冬矢が背伸びをしたかと思うと、勢いをつけて立ち上がる。
「俺はまだ、1度も断られたことがない」
「自慢か」
「逆だ、逆。俺はまだ蒼生にわがままを言ってもらえるような段階にないってことだよ。それぞれにしか見せてない顔があるってことだ。つまり、俺たちはどちらもまだ蒼生の最奥に踏み込めてない」
 ああ、そういうことになるのか。
 オレには見せない顔……。そんなん絶対ないと思ってた。
 え、でも。ふと気付く。
「なあ、蒼生がオレの前であんなこと言ったのは、オレに対しても心境の変化があったってことか」
「だろうな。幼馴染みだけだった時とは違うんだ。恋人だからこそ不安になることがあるんじゃないのか」
 だからこそ、か。
 そうだよな、告白して、受け入れてもらって、それがゴールじゃねえもんな。
 蒼生が抱いた不安が、オレたちのこの意地の張り合いが原因なんだから、……ん?
 待てよ。
 やっぱり蒼生があんなこと言うの、オレたちのせいじゃねえ?
「だったらさ、オレらこんなケンカばっかしてる場合じゃないんじゃねぇか」
 迷うことなく冬矢が頷く。
「話があるって言ったのはそのことだ。俺は見誤ってた。目下のところ、戦うべき相手はお互いじゃない」
「敵は蒼生の“不安”ってことだろ」
「そういうことだ」
 だよな。
 さっきオレ自身が蒼生に言ったんじゃん。オレが見てるのは冬矢じゃねえ、蒼生なんだって。向こう側にしかいないはずのこいつのこと気にし過ぎたんだ。そりゃ蒼生が不安になっても仕方ねえよな。
「……どちらにしても。蒼生は俺たちのことを本気で恋人だと思うまでには至っていないんだろう」
「それは、ああ。そうなんだろうな。まずは蒼生に好きになってもらうとこから始めなきゃなんなかったんだ」
 おそらく、オレはその大事なとこをすっ飛ばしてきた。
 自分の気持ちばっか優先して、蒼生の気持ちをこっちに向けてもらう努力をしてなかった。
「休戦しよう。告白したのは俺たちのエゴだ、けど蒼生を幸せにしたいのも間違いなく本音なんだ。俺たちが諍いばかりしていて蒼生に誤解されたり悲しい思いをさせたりするのは絶対間違ってる」
「わかった。その通りだと思う」
 うん。そうだ。
 蒼生が笑ってくれなきゃ。
 蒼生が幸せでいてくれなきゃ。

 空は一気に暗い。
 公園の中央にある街灯に寄りかかった冬矢が、少し肩の力を抜いたように見えた。
「とにかく、慎重に進んでいかないといけないな。蒼生が自然に受け入れられるように、順序だててゆっくり、焦らないように。それから距離の詰め方をミスしないように。……どうしたらいいものかな」
 この姿も結構意外だ。冬矢って、全部計算してるのかと思ってたからさ。
「なんだよ」
「いや、噂によると百戦錬磨らしいじゃん。そんなおまえも悩むんだなって思ってさ」
「難しい言葉使うじゃないか」
「うるせえな」
 冬矢は大きく息を吐いた。オレたち、さっきから溜め息ばっかだな。
「そりゃあ、人より少し経験は豊富かもしれない。だけど、自分から触れたいと思うのは初めてなんだ。触れて怖がられないかって思うのも、下手なことを言って避けられないかと不安になるのも、全部蒼生が初めてなんだよ」
「……そっか、うん。そうだな。オレも今まで、別れた時は悲しいと思ってたけど、すぐに次があるやって切り替えられた。だけど蒼生は違う。嫌われたくない。次なんてない。蒼生は唯一の存在だもんな」
「ああ。次のステップに進むタイミングをちゃんと見極めないといけない。付き合ってすぐ手を出すような浅い関係じゃないんだからな。ただ、正直、そこに至るまでにどのくらい時間をかけたらいいのか、その経験がないからわからない」
 なるほどなー。数が多いからって全部わかるってもんでもないんだな。
 大事にしなきゃいけない関係ならなおさら、ちゃんと考えて……。
 ん。
 いやちょっと待て。
 今さらっとすげえこと言わなかった?
「待て。え? すぐ手ェ出すって……すぐHしちゃうってこと?」
「まあ。相手が望めば」
「え? すぐってどのくらい?」
「その日のこともあったし、次に会う日だったりもしたし、まちまちだな。望まない子はそのまま切れたりしてたから、間を開けることはなかったかもな」
「ええー……」
 マジかよ。
 なんかもしかして、こう兄のがマシなレベルなんじゃ?
 こいつ、初めて見た時からなんかヤバイ感じしたし、蒼生を近付けちゃいけない気がしてたけど、オレの勘って正しかったんじゃねえか、これ。
「今、オレの危険人物ランキングのトップにおまえが躍り出たのが見えたわ」
「それはそれは」
「蒼生に気軽に触るんじゃねえぞ!」
「だからその話をしてるんだろ」
 こいつ、敵に回さないほうがいいタイプの奴だ。味方にしてるのも怖いけどな。
 冬矢は何でもないことのように、いやたぶんほんとに何でもないんだろうな、首を傾げてみせる。
「おまえの噂だって聞いてるけど? 最近まで切れることなく彼女いたっていうじゃないか」
「高校入るまでの話だよ。それに、そんな流れになったの1回だけだわ。しかも全部相手主導だったわ」
「…………」
「…………」
 やっぱりこいつとは合わねえや。
 なんだその憐れむような眼は。
 どっちかっつったらおまえのほうが引かれるやつだからな!
 なんか今、オレって普通の人生歩んできたんだなあってしみじみしたわ!
「……今わかったのは、蒼生との関係において、俺たちが今まで積んできた経験がまったく役に立たないってことだな」
「……それは同意」
 なんにも参考にはならないんだから、手探りでやっていくしかないんだろうな。
 でもさ。
 蒼生は、オレたちとの関係に不安を抱いてるわけだ。
 でも、それって、未来を想像するから不安になるわけだよな?
 オレとのことを考えてくれてるってことの裏返しなんじゃないかと思うんだ。
 うん、よし。
 諦めない。
 頑張る。
 蒼生が不安に思うなら、その不安ごと支えられるようになろう。

 あ、そうだ。
 さっきからもう1個引っかかることがあったんだよな。
「あのさ、そもそも、次のステップって……なんなんだ? なんかこう、キスとか、触りっこ? みたいなのを想像してたんだけど、おまえの言い方聞いてると、なんかもっと先がありそうな気がするんだけど」
「……本気か?」
「え?」
「…………」
「……え? えぇ? ……もしかして、男同士って、その…………できんの? どうすんの?」
「俺に聞くなよ。というか、おまえだって俺に教わるの嫌じゃないか?」
「なんか知らんけどすっげぇ嫌だ」
「だろ。自分で勉強しとけ」
 え……えええ。
 なんか急に目の前にでっかい壁が現れた気がするんだけど……。


 とかいう話をしてたらさあ、普通、全部が慎重に進むと思うじゃん。
 ゆっくり時間をかけて進んで行くと思うじゃん。
 この前、いろんなこと考えながら、蒼生を身構えさせないように言葉も選んでデートに誘ったんだけどさ。なんだ、3人で付き合うって決めた以上冬矢を抜かすわけにもいかねえし、ちゃんとあいつも数に入れて遊びに行ったわけだよ。
 そしたら、あいつ、しれっと蒼生にキスしやがった……!
 おまえの言う慎重ってなんだったんだよ、ってもちろん問い詰めた。返答までしれっとしてやがって、
「大丈夫そうな雰囲気だったから」
 だって。いや、だからさあ!
「基準変わる時は一言くれっつう話だ! 報連相大事って言うだろ! 報告、連絡、相談!」
「善処する」
「どっちともとれる回答すんじゃねえわ。んじゃあ、ここから先、キスはいいんだな!」
「……おまえに対して禁止にすると、俺もとばっちりを食らうからな。仕方ない」
 あー、もう、ほんとこいつわかんねえ!
 やっぱ敵なのかもしれない!

 そんなわけで、オレは蒼生との距離を測るという今までやったことのないミッションに加え、冬矢の動きを確認するという複雑な作業を余儀なくされた。そうだ、あいつ手が早いんだった。いくら蒼生が特別だとはいえ、油断しちゃいけないんだ。
 しかし、蒼生との距離、か。考えたことないんだよな。ずーっとゼロ距離でやってきたからさ。むしろ離れるとあんまりよくないんじゃないかな。この前はちょっと物理的に離れちゃったけど、そのせいで蒼生は不安になったんだろ。するとやっぱゼロが正解なんだと思うんだ。
 とりあえずまずは、部活がない土日は蒼生の部屋で勉強会する。それを最低条件にしよう。
 蒼生を後ろからぎゅっと抱き締める。最近おやっと思うのが、こうすると蒼生はオレの腕に頭をことんと乗っけるようになった。え、可愛い。可愛いなこれ。
 机の向こうから冷たい声が飛んで来る。
「それじゃあ勉強の邪魔だろ」
 ちっ。うるせえ。大体なんで毎回おまえも来んの? 暇なの?
「僕はいいんだけど……健ちゃんも教科書読めないんじゃない?」
 む。蒼生がそう言うなら仕方ねえ。
 オレはもぞもぞと蒼生から離れ、代わりにベッドに置いてあったもちもちのクッションを手に取った。ピンクのそれには目と口が描かれてて、なにやらこっちをにこにこと見つめている。20センチ四方くらいのそいつを抱き締めてみたけど、ああ、物足りない。
「ほら、健ちゃん。後で好きにしていいから、今はこっち」
 蒼生が教科書をとんとんと叩く。はーい。
 ああ数字がたくさん並んでる。これはオレも蒼生も質問する側だ。つまりあんまり質問したくないから自分でなるべく頑張らなくちゃいけないってわけだ。あれ、でもこっちも大事なんだけど、週明けなんかなかったっけ。……あ、そうだ。
「そういえばさ、週明け音楽のテストだったよな」
「あー……」
 蒼生が突然机に突っ伏す。
「せっかく頭から追い出してたのに」
 そっか、昔から蒼生ってなんでだか楽器と相性悪いんだっけ。
「ギターと仲良くなれないんだよ。そもそも楽器って向き不向きがあると思うんだよね。それをテストで成績つけるのがどうも納得できない」
 前の蒼生だったらこんなこと絶対言わなかった。不得意なのは変わらないけど、いつもにこにこしながら大丈夫って言ってたから。こうやって文句言う奴だったんだなあ。なんか拗ねてるみたいでめちゃくちゃ可愛いなあ……。
「健ちゃんは上手だよね……」
「まあな」
「不思議だよな、おまえ不器用なくせに」
「それ関係あるか? 冬矢だってそんな得意じゃねえじゃん」
「小さい頃やってたからピアノだったら弾けるんだけどな」
「えっなにそれかっこいい!」
「うわー、なんか似合うのがめちゃくちゃムカつく……」
 なんなんだ、どんだけアピールしてくるんだこいつ! 最近ますます遠慮がなくなって来た気がするんだよな。
 えーと、オレが出来るアピールはなんだろ。とりあえずこの件については冬矢よりオレのが得意だから、よし、フォローは出来るよな。まだ机と仲良くしてる蒼生の肩に手を置く。
「テスト前の休み時間、最後の復習手伝うよ。大丈夫、蒼生は本番強いじゃん。いざって時にはオレより肝据わってるんだからさ」
「ありがと。うん、頼りにしてる……」
 頼りにされてるー……。嬉しい。
 ふうん、と呟いたのは冬矢だ。
「なんだよ」
「いや、なるほどと思っただけ」
 ったく、読めねぇ奴。

 文句言おうと思ったんだけど、その寸前でノックの音に邪魔される。え、誰だろ。蒼生ん家の人はみんなここまで上るの面倒がっていつも内線で連絡してくるのに。
「蒼生ー? 邪魔していいか?」
 こう兄の声だ。へー、さらに珍しい。蒼生も同じことを思ってるみたいできょとんとしてる。
「どうぞ」
 蒼生が返事をすると、ドアが開いてこう兄が入ってきた。手にはビニール袋を提げてる。
「お邪魔しまーす。……お、はじめましての顔があるな」
 そっか、こう兄って冬矢見るの初めてか。そもそもこう兄自体があんまり日中いないもんな。
 蒼生がきちんと座り直して、冬矢のほうを向く。
「あの、上の兄の紅輝」
「こんにちは~」
「それでこっちは、友人、の」
「笹原冬矢です。蒼生くんとは中学2年の頃から仲良くさせていただいてます」
「あー、最近蒼生がよく泊まりにいく冬矢くんって君かぁ」
 むむ。なんかイラッとする。なんだよこの恋人を家族に紹介しますみたいな雰囲気。そりゃ間違いないんだけど、オレだって蒼生の彼氏なんだぞ。冬矢もいつの間にか正座でぴしっと背筋伸ばしてるし。
「こうちゃん、どうしたの? 僕の部屋までわざわざ」
「ああ、うん」
 こう兄はビニール袋をどさりと机の上の空いたスペースに置いた。
「大学でゼミ会やってたらOBが大軍で来て、差し入れでお菓子とか飲み物いっぱいくれたんだ。余っちゃって持って帰ってきたらちょうどおまえらが勉強会やってるって聞いたからさ」
「そうなんだ、すごい量だね。ありがとう」
 蒼生は早速袋の中を覗き込むと、ごそごそやってペットボトルを1本取り出す。
「健ちゃんの好きな炭酸あるよ」
「サンキュー」
「冬矢は……お茶とコーヒーと紅茶とりんごジュースがあるけどどうする?」
「じゃあ紅茶をいただこうかな」
「はーい」
 ……こう兄は居座るつもりなんだろうか、飲み物を配る蒼生をしゃがむ体勢で見てる。いや、冬矢を見てる?
 さすがに冬矢もその視線に気付いたようだ。
「……俺が何か?」
 こう兄はにやにやしてる。
「いや、蒼生って面食いだなと思ってさ」
「は!?」
 裏返った声をあげたのはオレと蒼生だ。綺麗にハモった。
 この人、何を急に言い出すんだ!?
「なに、おまえ、友達を顔で選ぶタイプだったんか」
「そんなわけないじゃん、冬矢はすごくいい人なんだよ、顔だけじゃないよ!」
「そっかー。冬矢くん、うちの末っ子可愛いだろ」
「はい。とても」
「冬矢!?」
「これからもよろしくな」
「ぜひよろしくお願いします」
 こっちもかよ!
 何で普通に会話成り立たせてんの? なんなの? 間でわたわたしてるオレと蒼生がおかしいの?
 そのこう兄は、今度はオレのほうに身を乗り出したかと思うと、頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる。ガキ扱いかよ!
「健太、とうとう蒼生取られたのか~」
 はあ!?
「取られてねぇよ!」
 オレはとっさに蒼生を引き寄せる。
 こう兄は何一つ動じてないみたいだ。
「健太、覚えてる? おまえらが幼稚園の頃だっけ、健太んちの母ちゃんが蒼生をお婿さんに欲しい~って言ったら、おまえ、オレに向かって“じゃあオレのお婿さんが蒼生なの?”とか言い出してさぁ」
「!?」
「可愛かったなあ」
 何!? 何!? 知らねえし覚えてねえし!!
「こう兄もう出てって! 勉強の邪魔!」
「はいはい、冬矢くんまたな」
「はい」
 いや、だから!
 …………。
 こう兄が部屋を出ていっても、なんか余韻が酷かった。嵐か。嵐なのかあの人は。
 腕の中で蒼生も固まってる。
「……蒼生、こう兄の言ってたこと覚えてる?」
「……ううん……。たぶん僕聞いてないと思う」
「母さんが蒼生を婿に欲しいっていうのは聞いたことあったけど」
「そうなの?」
「なんかそれ聞いてみのりがその気らしい」
「えっ」
「絶対渡さねぇけどな」
 こう兄の話だから信用度は低いけど、こうなってみるとあり得るんだよなぁ……。
 ん? うつむいた蒼生の耳が赤い?
「それじゃ続き始めようか」
 !?
 え、冬矢、マジで? 今の流れでそこにさらっと戻れる?
「おまえ、怖……っ」
「蒼生から聞いてた、ノリの軽いお兄さんだろ。それに合わせて冗談に乗っただけだ。……まあ冗談であっても俺だって絶対渡さないよ」
 冬矢は涼しい顔だ。
 こう兄もアレだしこいつも相当だよ。こう兄の軽口をさらっと流せる奴初めて見た。そういやとっかえひっかえな男っていう共通点があったな。
「……いつか冬矢とこう兄でどっちが酷い男か対決させてやりてぇ」
「勝手にエントリーさせるな」
 蒼生がもぞもぞと顔を上げる。
「興味なくはないけど……聞きたくもない気がする……。でもちょっと気になる」
「蒼生も変な好奇心抱かない」
 自分で言っといてなんだけど、見てみたいなその対決。その隙にオレは蒼生連れて逃げるけど。

 あー、今日の勉強会はすっげぇドタバタしたな。こう兄のせいだ。あの人、人にちょっかい出すの好きだからなぁ。……いやダメだ。思い出として残すのもったいねえからもう考えない。もっと大事なことあるし。
 大事なこと……。
 今日も蒼生可愛かったな。抱き締めるとすり寄って来るあれ、思い出すだけで手ぇ震える。可愛すぎるだろ……。
 帰り際にちゅーするとさ、ぱって目開いてあちこちきょろきょろ見てから真っ赤な顔でにこにこするの。可愛くて可愛くて。ほんと、なんでオレ帰んなきゃいけないんだろって毎回思う。こんなに近いんだから別に帰る必要ないと思うんだけど。
 オレは部屋の時計を見上げる。もう少しで12時が来て、月曜日になる。明日……は、朝練があるから一緒には登校できないけど、学校に行ったら会える。さっきまで一緒にいたのに、足りない。
 やっぱさ、もう、オレら一緒に育ったんだし、全部一緒でいいじゃん。勉強するのだってしょっちゅう蒼生の部屋だしさ。いっそ荷物抱えて転がり込んじゃおうか。あーさすがに蒼生は迷惑がるかな。でもそのくらい一緒にいたい。せめてそう思ってることだけでも伝えたい。この距離がもどかしいんだって、伝えたい。
 あー、もう。
 今すぐ走り出していきたい気持ちを何とか抑え、ベッドに飛び込んで、枕を抱える。
 こうやって蒼生をぎゅって出来たらなぁ。
 勢いに任せて抱き締められたらなぁ。
 ……えー、その。冬矢が中途半端なこと言うからさ。調べたんだわ。色々。そのー……男同士でどうすんのか、ってやつ。正直、保健体育の授業ですらこんな真剣になったことねえなってくらいちゃんと真剣にさ。うん。冬矢が慎重になるのわかるよ。たしかに、これはしっかり勉強しとかねえと、蒼生を傷つけるし怖がらせるな、って。確実に、ちゃんと段階踏まなきゃいけないやつだ。
 うん……。割と衝撃的だったし、なんかこう、本当に大丈夫なのかなとか、そのへんはめちゃくちゃ考えた。それだけ大変ってことは普通はやんないことなのかな、とかも。それで、そういうことを、オレは蒼生に出来るのかなあっていうのも考えた。そりゃ薄っぺらい知識しかないから、そういう意味では不安はある。だけど、たぶん、出来る。いや、したい。蒼生に触れたい。隅々まで。
 そんで、冬矢もおそらくそうなんだろう。
 冬矢も今がどういう状況かっていうのを見極めてる途中だと思う。あいつは冷静で頭いい奴で、オレみたいに突っ走ったりしない。だからさすがにそこまで勝手に動いたりしないと思ってる。思っては、いる。だけどなあ、付き合ってから初めてのキスを何のためらいもなくかっさらってったもんな。必要以上に信用しちゃいけないとも思うんだ。いつ先を越されるかわかったもんじゃねえ。
 出来れば、最初に触れるのはオレでありたい。オレの目の届かないところであいつが蒼生に手を出すのだけは絶対阻止したい。
 あー。
 ……蒼生。
 もし、オレが、そういう……抱きたいって意味で抱き締めたら、どう思うんだろ。
 もし、今まで触れたことのない触れ方をしたら……。
 それでも蒼生はオレを受け入れてくれるかな。あのふんわりした笑顔で手を伸ばしてくれるかな。
 本当は、ちょっと怖いんだ。蒼生に拒否されたらどうしようって。今も耳に残る「やめて」って、あの時の言葉みたいに。
 だから早く確かめたい。抱き締めて、キスして、いつも服に隠されてるとこに触れてみたい。恥ずかしそうにオレを見上げる目が脳裏に浮かぶ。さらさらの肌を撫でたら、あの夜みたいにきっと身じろぎをする。それで真っ赤な顔して、オレの名前を呼ぶんだ。その頬の熱さはどのくらいだろう。どんな声で答えてくれるんだろう。オレをどんな目で見つめてくれるんだろう。
 やべ。ちんこいてぇ。最近こんなことばっかだ。我慢してんのしんどい。
 オレは体を起こしてカーテンを半分開ける。見上げる先にあるのは蒼生の部屋だ。カーテンの閉まった窓は電気がついてて、ぼんやりと水色の光が浮いてるみたいに見える。まだ起きてるんだな。今何してるんだろ。今何考えてるんだろ。少しはオレのこと、考えてくれてる?
 さすがにキツい。ズボンの中に手を突っ込むと、ぐちゃって音がした。蒼生。
 なあ、蒼生。オレ、今、蒼生のこと考えてこんなんなってる。
 蒼生がオレの至近距離で笑ってくれてる顔を思い浮かべて、これを突っ込んだらそれがどんなふうに変わるかなって思って、オナニーしてるよ。
 こんなオレをどう思うかな。
 蒼生。
 いっそ電話でもしてやろうか。その声でイけたらどんなに気持ちいいだろう。
 携帯電話に手を伸ばす。……いや、さすがのオレもちょっとためらう。ゆるゆると自分を慰めながら、利き手じゃないほうで画面をさする。
 あの夜、少しだけ触れた耳のひやりとした感触。埋めた首元のにおい。
 結局、どうしたらいいかわかんなくなって、「電気ついてるけど、まだ起きてる?」そんなどうでもいい言葉を打ち込んで、少し手を早く動かすタイミングで送信ボタンを押した。
 オレからのメッセージを見たら、オレのことが頭に浮かぶだろ? 今、蒼生、オレのこと考えてるだろ? あー、我ながらなんつー消極的なことしてんだ。
 ……健ちゃんも起きてるんだね、蒼生の声が聞こえる。
 僕のこと好き? って聞こえる。好きだよ。好きだ。どうしたって押さえられないくらい、おまえのこと好きだ。大好きだ。
 キスしたい。
 触れたい。
 蒼生……っ。
 …………。
 足の下で携帯が震えて、たぶんその瞬間にイッた気がする。
 ……はー。
 今週何回目だこれ……。こんな目と鼻の先でこんなふうに何度も何度も頭の中でぐちゃぐちゃにされてるなんて知ったら引くだろうな。ごめん蒼生……。
 あ、そうだ、携帯鳴ってたな。なんでこんなとこにあるんだ。えっと。……わ、蒼生からの返信だ。な、なんかごめん! ほんとにごめん!
 中身は、……「今から寝るとこ。健ちゃん明日早いよね。部活頑張ってね。おやすみなさい」……。はぁ……可愛い……好き……。


 今朝の蒼生も可愛かったなあ……。オレの顔を見るなり、
「昨日、眠れなかった? 大丈夫?」
 って心配そうに駆け寄ってきた。
 あの、その、蒼生のこと考えてヌいてましたーって言いそうになって焦る気持ちと、やっぱオレのこと考えてくれてたんだって嬉しい気持ちで脳内が大騒ぎになった。
「ん、大丈夫。もらった返事のおかげでよく寝られたよ」
 答えて笑うと、蒼生もつられたように笑う。んー……なんか、笑い方変わった、よな? ふんわりな時もあるんだけど、ふにゃっていうか……とろんっていうか……なんていうか……え、えっち? と、とにかく、いちいちオレの胸を刺し貫く威力がある。
 こんな可愛い子が恋人なんだと思うと、マジ、この世のすべてに感謝したい気持ちになってくる。
 ま、その蒼生は今日昼休みの図書室当番とかで今いないんだけど。仕方なくオレは部活の友人と学食に行ってきた。全員が3倍盛りを頼むっていうなかなかの迫力で、ちょっと笑える光景だった。蒼生が見たら面白がっただろうな。
 教室に戻ると、蒼生はまだ戻ってなかった。冬矢の奴もいねぇな。蒼生がいないなら冬矢とつるむ義理もないから、どこに行ったのかは知らない。ま、まさかあいつ図書室に詰めてるんじゃねえよな?
 オレの席の近くでは、5人組の女子が机を並べておしゃべりをしていた。机の上にはクッキーが2種類置いてある。ひそひそ話をしてるみたいだけど、席が近すぎて全部聞こえてくんだよ。
「……でね、そしたらね、野木沢くんがほとんど持ってくれたの!」
「優しいよね~」
 おお、蒼生の話か。そうそう。優しいんだよ蒼生は。ちっちゃい頃からずっとそう。
「私も部活で使う荷物ロッカーの上から下ろせなくて困ってたら手伝ってくれたよ」
 うんうん、蒼生は上背あるしな。力もあるし。まあオレのがどっちも勝ってるから、いつも蒼生はオレに任せてくれるんだよ。頼られるって嬉しいよな。
「最近ちょっと雰囲気変わったよね?」
 あ、気付いた?
「そう! なんだろ、なんか色っぽい感じだよね」
 わかる! それ! ホントそれなんだよ!
「彼女でも出来たのかなって思って探ってみたんだけど、そんな感じはないんだよね」
 うん、蒼生に出来たのは彼氏なもんで。
「ってことはまだ諦めちゃいけないってことだよね!」
 いやごめんそこは諦めてほしいんだわ。残念ながら蒼生はオレのものなんで。
「でも本当に全然そういう話聞かないよね。野木沢くんのタイプってどんな子なのかな」
 オレです。
 うー、いっそここで「蒼生の彼氏はオレ」宣言したら一発なんだけどなぁ! 蒼生って人前でそういう話したがらないし、許可なくバラしたりはできねぇよな。いいんだ、オレにしか見せない可愛い顔は独り占めするためのものなんだから。
「あ、ねー、寺田くん」
 っっっ、はい、オレです!
 あーびっくりした。突然輪の中から兼城さんが声をかけてきた。
「な、何?」
「寺田くんって野木沢くんと幼馴染みなんだよね」
「うん。生まれた時から、ずーっと一緒、の幼馴染みだよ」
 一部を強調したの、伝わったかな。
「じゃあさ、野木沢くんって今までどんな子と付き合ってたか知ってる? どんな子がタイプなのかな」
 伝わってねえなコレ。
 今までも何も、蒼生が付き合ったのはオレだけ……って言ったらあとであいつが怖ぇな、オレと冬矢だけだ。タイプだなんて話題にも上ったことがない。……あれ、そういえばたしかにそんな話したことないな。長い付き合いだけど、一度も。
「んー、タイプなぁ。あいつ奥手だから。友達と一緒にいるほうが楽だと思ってるんじゃないかな。自分にはまだそういうの早いって言ってたよ」
「え、高校生にもなって?」
「はは、そういうとこが奥手なんだよ」
 嘘は言ってないぞ。蒼生がそう言ってたの、オレちゃんとこの耳で聞いてるからな。小学生の時だけど!
「そっかー。野木沢くんて難攻不落な感じだもんね。あ、そしたら、寺田くんから見てどんな子が好きそうだと思う?」
「好きそうな……ねえ。ああいうおとなしい奴だから、ぐいぐい来る子は得意じゃないんじゃないかな。圧倒されちゃうから苦手だと思うなぁ」
「そうなの?」
「ホノカやばいじゃん、もっとおとなしくならなくちゃ!」
「ええ~っ」
 ……これが蒼生じゃなくて他の奴の話だったら、本当のこと言ったと思う。ごめんね兼城さん。明らかに蒼生を狙ってるなって思ったので、わざとあなたのことが苦手だって暗に言いました。ぐいぐい押して勢いで恋人にしてもらったオレが言うのもなんだけど、たぶん本当は蒼生は押しに弱いと思います。
「いいもん、これから頑張るもん。寺田くん、ありがと。はいお礼~」
 兼城さんが机の上のクッキーを1枚取り、オレの口元までそれを運ぶ。
「お、サンキュ」
 それをそのまま口で受け取る。この状態であえて手で受け取ったら、余計に変な感じだからな。
「へえ、美味しいじゃん」
「それミアが作ったんだよ」
「篠崎さんが? すっげえ、上手だね!」
「……寺田くんもモテるでしょ。でも彼女の話聞かないよね」
「あー、オレ? 今全部断ってるから」
「えっ? なんで?」
 そりゃあもちろん可愛い可愛い恋人がいるからだよ。とは言えないので、
「結構オレ頑張ってこの学校入ったじゃん? ずっと勉強してたからさ、今友達同士で遊ぶのが一番楽しいんだ。休みの日とかしょっちゅう蒼生と遊んでる」
 と答えた。
 兼城さんは「ずるい!」と声を上げたけど、仕方ないじゃん、恋人だもん。ついでに「休みの日は蒼生はオレとずっと一緒なので他の人といる時間はありません」アピールにもなったかな。
 と、そこに蒼生が戻ってきた。ひとりだ。
「ただいま。みんなでおしゃべり?」
 にこっと笑う蒼生に、兼城さんがちょっと背筋を伸ばして頷いた。おとなしく、を意識してるのかな。前のオレだったらかわいいなって思ったと思う。実際すごくかわいいし。でも、もう、蒼生しか見えないから。
「お疲れ様ー。結構ギリギリまでかかったな」
「駆け込みで本借りる人がいたから」
「冬矢は?」
「見てないけど……日直だったよね」
 あー、そうだったっけ。よかった、抜け駆けされてなくて。
 女子の皆さんの羨ましそうな視線を感じながら、蒼生の顔を見る。蒼生はじっと見つめるオレにちょっときょとんとしてから、首を傾げてふんわり笑った。か……っわいい……。
 反則だろこれ。それでなくとも最近の蒼生は色気がヤバいのに。無邪気のアイスに綺麗のストロベリーソースと優しいのフルーツをトッピングして可愛いの生クリームを山盛りにしたうえに色気のチョコソースをたっぷりかけて、仕上げに天使の笑顔ときた! もうなんなんだ、世界一のパティシエが作る最高傑作のパフェかよ!
「……あー……食いてぇ……」
「? なに?」
「うわっヤベっなんでもない!」
 声に出てた!? あーもう色々限界だ!

 今日からグラウンドに工事車両が止まるとかで、調整出来なかったらしく部活は本日休みだ。蒼生と一緒に帰りたい……でも掃除当番なんだよなあ。
「あっ、なあ、寺田」
 準備しようと机を後ろに運んでいると、声をかけてきたのは同じ当番の奴だ。
「んー、どした?」
「バイトでヘルプ頼まれちゃってさ。悪いんだけど今日の当番抜けていい?」
「おお、そりゃ大変だな。行ってこい行ってこい」
 予定が急に変わることなんて普通にあるもんな。当番なら他にもいるし、ひとり減ったってどってことないだろ。
 そこににこにこと首を突っ込んできたのが蒼生だ。
「僕が代わりに入るよ」
「えっ、野木沢マジ?」
「うん。早く行ってあげて」
「ありがと! 恩に着るわ!」
 他の当番にも声をかけながら慌てて出て行くその後ろ姿に手を振ると、蒼生はさて、と振り返る。
「さっさとやっちゃおう」
「いいの?」
「ああ、だって冬矢も日誌書いたり持ってったりで時間かかるし」
 う。冬矢を待つ間の時間潰し?
「それに、健ちゃんと一緒ならなんでも嬉しいし」
 ……蒼生! 好き……!
 掃除当番なんて面倒なだけだけど、探せば教室の中に必ず蒼生の姿が見えるとなると、なんだかそれだけでご褒美な気分になる。ほうき持ってるだけでもう可愛い。同じく当番の女子が近付いて話しかけたりしてるのも、いずれあの子たちの中で「野木沢くんが手伝ってくれた」になるんだろう。でも蒼生はオレのお手伝いをしてくれてるんだ。ふっふふ。
 邪魔にならないように教卓で日誌を書いてる冬矢の目線が時々刺さるけど、気にしないことにした。
「それじゃごみ捨てじゃんけんしよっか」
 掃除が一通り終わると、まあそうなるよな。なので自らさっと手を挙げる。
「あ、オレ行ってくるよ。蒼生、一緒に行こ」
「うん」
 先手必勝ってやつだ。……視線がざくざく刺さってる。気にしない気にしない。

 ごみ箱は教室の前と後ろにあるけど、1日に出るごみの量なんてたかが知れてる。袋に入れてまとめればペットボトルのと合わせてもひとりでも持てる量なんだけど、使えるもんは使うに越したことないと思うんだよな。一緒が嬉しいって言ってくれたもんな。
 同意を求めて蒼生に笑いかけると、言葉にはしてないのに蒼生も笑顔を返してくれる。最高。
「そういえばさー、この前言ってたゲームソフトあるじゃん」
「ああ、今度出るけど人気だからなかなか手に入らなそうだってやつ?」
「そ。あれ、コントローラー同包版予約出来たよ」
「抽選当たったんだ」
「うん、さっき連絡入ってさー。買ったらまた対戦しよ」
「僕、勝てたためしがないんだけどなあ」
 だから結局オレがやってるのを横で見るっていつものパターンになるやつな。でも文句言わずに付き合ってくれるから、つい誘っちゃう。
「休みの間中閉じこもってプレイすることになるかもな」
「えー、健ちゃんがそれで我慢できる?」
「……無理だ外行きたくなるわ」
「でしょ」
 楽しそうに笑う蒼生。あったかい気持ちにもなるし、ドキドキもする。
 あー。
 蒼生がそばで笑っててくれるって、なんて幸せなんだろう。
「なあ、蒼生」
「なに?」
「……蒼生からちゅーして」
「……へ?」
 言っちゃった。蒼生はびっくりした顔でぴたりと止まる。かっわ……。
 いや悪い、冗談冗談、言ってみたかっただけ。どんな顔するかなーって思ってさ。
 思ってた通り、可愛い反応で
 え。
「…………」
「…………」
「……ほっぺ?」
 呟いて蒼生を見ると、うつむいてて顔は見えない。でも耳が赤い。えっ。あの。今、頬に、ちゅって。
 うっわ。
 オレも顔から火ぃ出るわ。
 可愛い。可愛い。なんなの。
「こっ……こういうのは学校じゃなくて家で要求してください……っ」
 声が上擦ってる。えええ……。
「あっ蒼生……」
「はい……」
「好き……」
「……うん」
 周り、誰もいなくてよかった。冬矢には絶対内緒にしよう。うん。


 その日はオレの朝練がなくて、久々に3人して登校した。
「今日、帰りは?」
「部活ー」
 ああ、また一緒に帰れねえ。
「俺は今日から週明けまで親が出張でいないから、買い物して帰らないと」
「金曜から出張って、土日も仕事ってこと? 大変なんだね」
「繁忙期らしいよ」
「あ、それでおまえ飯とか作れんのか」
「まあね」
 自信たっぷりに冬矢がオレに向かって笑う。オレに向かって。くっそ。こいつは蒼生を自分の家に呼ぶたびに自分の作った飯食わせてるんだって。それを「おまえには出来ないだろう」って自分の特権みたいに自慢する。そりゃ出来ねえけども!
 冬矢の奴、帰りのその買い物に蒼生を連れてくつもりなんじゃないだろうな。ちょっとでも長く一緒にいたいのはわかるよ。オレだってそうだし。だから、下駄箱に辿り着いていったん三方向に分かれると、走る勢いで上履きを履いて蒼生の元へ戻る。
 ん?
 蒼生は自分の下駄箱の前で、上履きを片手に持ったまま小さな紙を見つめて固まっていた。蒼生?
「どうした?」
 声をかけると、不安げな顔をオレに向ける。
「……健ちゃん」
 なんだ、なんだ。その紙がどうした。
 ええと、第二倉庫前で……これは……。
「呼び出しか」
 なんだろ。普通に考えれば告白なんだろうと思うんだけど。何か引っかかる。折りたたんだ小さな紙。見たことあるような罫線。走り書きみたいな文字。
「出来れば今すぐ断りたいんだけど……」
 そりゃ、そうだ。なんか気持ち悪い感じがする。それがいい。だけど、その紙にはどこにも名前がない。
「オレも彼氏としては即突き返してやりてえけど、無記名だから突き返し先もわかんないな。オレも一緒に行こうか」
「うーん……。大丈夫、ちゃんと自分で行って断ってくる」
 蒼生は強く言って頷くと、その紙を鞄のポケットに押し込んだ。

 放課後。
 オレは億劫そうにこっそり教室を出て行く蒼生の背を見送った。やっぱついてったほうがいいんじゃないかな。でも蒼生が自分でやるって言うし。
 そわそわするけど仕方ない。待とう。
 そう決めたオレは同じように不満げに椅子に座る冬矢の背中に声をかける。
「なあ、帰んねえの。買い物あるんだろ」
 冬矢は振り返らない。
「おまえこそ部活はどうした」
「体調不良のため欠席いたします」
「……頻繁にサボるよな」
「蒼生が心配で体調不良なんだよ」
「そりゃやむを得ないか」
 へー。納得してやんの。
 そりゃそうか。蒼生を心配する気持ちは同じだもんな。
 はあ、と冬矢が溜め息をつく。
「さんざん牽制しても、釘さしても、まだかいくぐって告白してくる子がいるなんてな。蒼生は優しいから、断った相手の気持ちまで考えて傷付くんだ。そんな思いさせたくないのに」
 え。そっか。おまえ、そこまで考えてたのか。オレはなんか、恋人がいる蒼生に告白なんてっていうもやもやした思いだけだったのに。悔しいけど、本当にこいつは蒼生のことをよく見てる。こいつも蒼生のこと本気で好きなんだなあ。
 …………ん?
 今、なんか頭のどこかでかちりと音がした気がする。
 違和感の正体みたいなものが見えたような。
 蒼生のことが好き……?
 やっぱり変だ。
「……おかしい」
「? 健太?」
「告白ってことは、相手のことが好きってことじゃん。好きな子呼び出すのに、どっかからちぎったようなメモ使うのおかしいだろ。名前書かないのは、恥ずかしいとかそういうのあるかもしんねえけど、走り書きみたいな時間と場所だけって、普通ないよな? ……あー、あれ、そうだ、生徒手帳だ。後ろのほうにあるメモ用のページ。あれだ。あれ破って書いたんだ。絶対おかしい!」
「健太」
 いつの間にか冬矢がこっちを向いていた。
 そうだ。おかしい。だめだ。
 少なくとも好意のある行動じゃねえ。
「そのメモは?」
 問われて、オレはとっさに立ち上がる。
「たしか蒼生が鞄のポケットに」
「触らないほうがいい」
「え?」
「触る人間は少ないほうがいいと思う」
 冬矢が何を言ってるのかわからない。
 でもたしかにそんなような気がする。
 急に不安が大きく膨れて、体の中で破裂しそうだ。
「……廊下の端っこの窓、たしかあの倉庫見えたよな」
 オレは冬矢の返事を待たないで教室を飛び出した。廊下の端。工事中の建物が見える窓だ。そこがちょうどテニスコートに面してて、その脇にある第二倉庫も半分くらい見える。出来るだけ角度をつけて覗き込むと、まだ誰の姿もない。結構あそこまで行くの手間だもんな。テニス部の奴が文句言ってたっけ。
 そうだよな。手間なんだよな。そんな場所をわざわざ選ぶか……?
 コートには工事に使う資材かなんかが積まれてて、上から見てるから全体が見えるけど、相当視界は狭いんじゃないかな。これ、下から見たら結構圧迫感がありそうだ。そんなことを考えてると、手前の角から蒼生が出てきた。蒼生もあたりを窺うようにきょろきょろしながら倉庫のほうに向かっていく。奥にある倉庫の前まで行った蒼生は、しきりに倉庫の中を気にしてるようだ。……中? 扉が開いてるのか。開いてるか? 普通?
 ふいに、倉庫の陰で何かが動いた。人だ。制服姿、あれは、男子生徒、か。
 頭がぐらぐらする。
 背は蒼生より高い。肩幅もある。
 そいつは扉を覗き込む蒼生に何か話しかけたようだった。
 ほとんどそいつの背中で蒼生の姿は少ししか見えないけど、なんだか戸惑ってるみたいだ。
 そして、蒼生を、扉の中に向かって突き飛ばし て
 あ おい
「健太?」
 後ろから低く冬矢の声。
「蒼生が」
 オレはようやくそれだけを搾り出した。
 それとほぼ同時に走り出す音。オレも目に焼き付きそうになった今の光景を振り払うように廊下を蹴った。階段に差し掛かるあたりで冬矢に追いつく。数段ずつ飛ばしながら、とにかく下に向かうことしか考えなかった。
「誰」
「知らねえ。男」
「人数は」
「ひとり」
 昇降口から飛び出し、だだっ広い外階段を駆け下りる。
「健太、左だ」
 左?
 テニスコートに向かうには右へ曲がって校舎を回り込むしかなかったはずだ。
 けど、疑う理由もない。迷わず体育館の脇へ走り込む冬矢の後ろを追う。
 そこは細い道、いや道でもないのか。拳半分くらいの石が敷き詰められた、隣の敷地との境界だ。壁と体育館に挟まれたその先には、工事中の建物が。そうか、ここに出るのか。たしかにこっちのほうが近い。
 だたっぴろいはずのテニスコートは資材で半分くらいが埋まってて、反対側が見えなかった。オレは構わず端に積まれた木材の上を走り、張られていたロープを飛び越える。倉庫が見えた。扉は閉まってる。さっきは開いてたのに。
 金属製の扉。両側に開くやつ。鍵が付いたままの南京錠が片方にぶら下がってる。
 大きな音は、しない。
「同時に開ける。そいつの注意をひくんだ」
「その後は状況に応じて、だな」
「行くぞ」
「ああ。……せー、のっ」
 全体重をかける気持ちで開けた扉は、腹に響くような重い音を立てた。ほんの数秒のはずなのに、それは30秒にも1分にも感じられた。

 先に冬矢が飛び込んだ。
 オレはわずかに遅れてその後に。
 まず目に入ってきたのは男の背中だった。
 よっぽど夢中で何かをむさぼっていたように、オレたちに気付いたのはそれからだった。
 驚いたように振り返る男。
 その向こうに、蒼生。
 全身の血が一気に頭に上ったような気がした。
 熱い。
 静かだ。
 何も聞こえない。
 ただ、手が勝手に動いた。
 そいつの後ろ襟を掴んで、力任せに引き剥がす。
 男はあっけなく後ろに飛んで、地面を擦って扉にぶつかったような、気がした。
 でもべつにそんなのどうでもよかったんだ。
 蒼生が震える目でオレをみてる。
 上半身をはだけられた姿で。マットに横たわった姿で。
 蒼生。
 蒼生。
 真っ白な顔。
 唇が、オレの名前を呼ぶときのかたちに動いた。
 蒼生。
 肩を抱いて引き寄せ、抱きしめる。
 冷たい。
 力の加減が出来ない。
 いつもだったら蒼生が「痛い」って言うよりも、とにかく強く抱き締める。
 だけど蒼生は何も言わない。
 心臓が耳元にあるんじゃないかってくらい、ばくばくと大きな音がする。
 知らなかった。
 こんな怖いことがこの世に存在するなんて。
 だめだ。
 もう、一瞬たりともこの腕を離したくない。
 気を抜いたら攫われてしまう。
 でも、離さなきゃいけない気もしてる。
 だって、だめだ。
 こんな。
 こんなこと。
 オレはあの男が蒼生に何をしようとしていたか、理解してる。
 オレは、こんなことを……。
 蒼生にしようとしてたのか……。
 オレは。
 オレは。
 蒼生。
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