高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2023年11月20日 22:14    文字数:3,882

21こ目;【番外編】シャワーを待つあいだに【健太と冬矢】

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前話( https://pictbland.net/items/detail/2158682 )で蒼生がシャワーに行っている間のお話。
健太と冬矢の短いやりとりです。
蒼生が部屋に戻る途中、ふたりがぼそぼそと話していたのはこういうことでした。

次回から数話、いちゃいちゃ番外編を展開します!
↑初公開時キャプション↑
2021/10/15初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1
「それじゃ、ちょっとシャワーお借りします」
 バスタオルを受け取ると、蒼生はそう言って笑った。冬矢が心配げにその顔を覗き込む。
「傷、しみないかな。手伝おうか?」
「あ、ううん、大丈夫大丈夫。……あの、これは本当に大丈夫のやつだから。いったん外歩くし、出来ればそれからシャワー浴びたいってだけだから、ほんと心配しないで」
 少々饒舌な蒼生の言葉は、必要な「準備」をする自分をふたりの精神的負担にさせまいとする気遣いから出たものだ。そこまでの知識がないふたりは、とりあえず筋の通った蒼生の言い分に納得した。
「ごめんね、ちょっとだけ待っててね」
「いってらっしゃーい」
 健太はひらりと手を振って、笑顔で蒼生を見送る。それを見た蒼生も安心したように笑った。

 ぱたぱた、と足音が浴室のほうに消えていった。廊下の向こうでドアが閉じる音がして、それを覗いて確認した冬矢がいったん部屋を出て行く。違うドアの音がして、その向こうから小さく物音が響いてきた。
 しんと静まりかえった部屋にひとり残された健太は、大きな息を吐くのと同時に顔から笑いを消した。そしてそのまま、綺麗に整えられたベッドの上に座り込む。数分も経たないうちに片手になにか袋のようなものを持って冬矢が戻ると、ようやくそこが他人のベッドだということに思い至った。
「……あ、ごめん、勝手に座った」
「それは別に構わないけど」
 頭を抱える健太に、冬矢は軽く首を捻る。
「蒼生に関しては常に強気なのかと思ってたけど、変なところで弱気になるんだな」
「……っ、だって。こんな便乗するみたいなタイミングで本当にいいのか? こんな、付け入るような真似……」
 健太の声には迷う色があった。健太にとって、蒼生の笑顔は絶対だ。それを守るのが自分の役目だと思ってきた。なのに、あんな形で蒼生に怯えた顔をさせてしまったあとで、それを利用するような行為が許されるはずがあるだろうか。
 少し間をおいて、冬矢も同じように息を吐いた。
「それについては俺も問題ないとは思ってない。こんな最悪のパターン、想定すらしてなかったからな。だけどさっきも言ったろ。あの状態のままの蒼生を放っておけない。こうなってしまった以上、早めに上書きするのが正解だと思う」
「言い方は綺麗だけどさ、でも、やろうとしてることは同じなんじゃねえの?」
 なるほど、引っかかっていたのはそれか。冬矢は表情の見えない健太の正面に立つ。
「おまえにも上書きが必要みたいだな。……あんなクズと自分を一緒にするな。同じかどうかは蒼生が決めることだ」
 一度言葉を切り、はっきりと告げる。
「自分は蒼生にとって特別だって言っていたのは、おまえ自身だろ」
 冬矢の言葉に、ぴくりと肩が揺れた。
 今の健太は弱気ではあるが、蒼生に対してまっすぐなのは変わらない。健太の言うことのほうがもしかすると正論なのかもしれないと思う。場合によっては傷口を広げることもあるかもしれないことは冬矢も理解していた。だが、他にどうすればいいかわからなかった。
 健太は指の隙間から、ちらりと目を覗かせる。
「……でもさ。蒼生たぶんそういう話苦手なんだ」
「そういうって?」
「あー……だからさ、その、セッ……あの」
「わかった。それで?」
「オレ……初めて、その……女の子とした時さ、蒼生に言おうとしたんだよ。でも、そういう話は聞きたくないって。もしかしたらそういうこと自体が嫌なんじゃねえのかな」
 冬矢は少し考えるような仕草をした。
「……それも蒼生に直接確認したらいい。ただ、本当に嫌なら蒼生はここまで来ないんじゃないか。俺相手はどうかわからないが、おまえには嫌なことは嫌って言うんだろ」
 健太が両手を顔から剥がし、今度は両膝をぐっと掴む。
「……すげえな。おまえ、よく冷静でいられるよなあ。オレなんかまだ頭ン中ぐちゃぐちゃなのにさ」
 冬矢はそれを一瞥すると、くるりと後ろを向き、キッチンから持ってきた袋を机の上に置く。
「俺が冷静なんだとしたら……それはまあ、おまえのおかげなんだろうな。おまえがストレートに感情を表に出すから、俺はそのぶん他のことに頭を回せるんだと思う。アレもおまえが投げ飛ばしてなかったら、入り口の側に置いてあったスコップで力一杯殴ってたところだ」
「え、ちょっ」
「咄嗟に凶器を探してたせいで出遅れたなと思ってる。だが、よく考えたら蒼生に傷害現場を目撃させるところだったから、結果的には良かったかもな」
 すらすらと未遂の犯行計画を話し出す冬矢に健太はぎょっとする。冬矢はその間も何か手を動かし続けていた。何をしているのかとその手元をよく見ると、食材を保存する時に使う密閉用の袋に、ハンカチを使って何かメモのようなものを入れているところだった。それは、見覚えのある紙切れ。
「なあ、冬矢、それって」
「アレが寄越した呼び出しの紙だね」
「え、さっき蒼生に処分するからって言って受け取ったやつじゃねえの?」
「そうだよ。アレの生徒手帳と照合すれば破った痕跡が合うはずだ」
 空気を抜いて口を閉じると、からっぽの袋に手を伸ばす。
「こっちは蒼生のシャツから落ちたボタン」
「は」
「これは蒼生の爪からぬぐった血のついたハンカチ」
「えっ」
「蒼生がつけられた傷の写真は日付入りでプリントアウトしておくべきかな。保護もかけとこう」
「おい」
「蒼生を襲ったことを告白した音声も録音してあるからな。バックアップも必要か」
「なあ」
「本当はシャツも保管したかったところだが、それを捨てることで蒼生が今日のアレ自体を捨てられるならそれに越したことはないだろ。ああ、今は紅輝さんの手元にあるのか。あの人ならうっすらと事情を話せばわかってくれそうだ」
 なるほど、相手が暴走すると逆にこっちが冷静になるとはこういうことかと健太は実感する。
「……いつの間にこんな」
「蒼生に気付かれると気にするだろうから全部こっそり集めたんだよ。次、アレが何か行動を起こすようなことがあったら、社会的にぶっ潰す」
 言って笑う冬矢の目は、完全に据わっていた。
(ああ、こいつ全然冷静じゃなかったわ。めちゃくちゃ怒ってたんだな。……そりゃそうか……そうだよな)

 冬矢が証拠の類を封筒に入れて机にしまうまで眺めているうちに、健太はじわじわと緊張が足元から這い上がってきているのに気が付いた。今更ながら、現在の状況が飲み込めてきたのかもしれない。ずっと迷って戸惑っていたが、それでも時間は過ぎていく。きっともうすぐ蒼生も戻ってくるだろう。そうしたら。そうしたら。
「ほら」
 はっと健太は顔を上げた。すっかり普段通りの表情に戻った冬矢が、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出している。健太が受け取ると、冬矢もベッドの足元の床に数本置かれていた同じペットボトルを拾い上げ、ベッドの少し離れた場所に座った。
「落ち着いたか」
「……今努力してるとこだ」
 冬矢に返事をしながら、おまえのほうが落ち着け、と思う。さっきまでの勢いで迫ったら、絶対に蒼生を怖がらせるだろう。とはいえ、健太も自分が緊張のピークにいることを自覚している。冬矢とは違う意味で落ち着きが必要だった。
 ふたりは同時にペットボトルのキャップを外し、普段通りの自分たちを取り戻そうと勢いよく水を飲んだ。
 蒼生のことを考えれば、今日は絶対冷静であるべきだ。本音を言えば、ここまで来て冷静になれというのは無茶だと思う。どんな経緯にせよ、好きな人とこれから初めて体を重ねることになるのだ。どんな暴走をしてもおかしくない状況だ。ただ、それではいけない。
 冬矢はふう、と息を吐いた。
「健太」
「……ん」
「とにかく、今日は、蒼生のケアだと心がけよう」
「ああ」
「欲望は二の次」
「わかってる」
「絶対無理はさせない」
「優しくする」
「急がない」
「気持ちよくする」
「嫌がることはやめる」
「ちゃんと話は聞く」
「暴走しない」
「途中でやめる勇気」
「痛いことは絶対しない」
 確認事項は、蒼生が戻ってくるまで延々と続いた。
 お互い口にはしないが、蒼生とふたりきりでなくてよかった、と心のどこかで思う健太と冬矢だ。何かあったら止める手がある。ふたりもいれば、どちらかは冷静さを保っていられるはずだ。どんな状況でも、蒼生を支える手がある。不安を慰める言葉も使える。
 そう。
 全部蒼生のためなんだ。


 なのに、である。
 戻って来た蒼生の言葉は、
「ぬ、脱がされるのに着てきたの……」
 だった。
 しかも頬を染めて。

 健太は仰のいて顔を手で覆う。
(ヤバいだろ、可愛すぎるだろ!! えっ、これ、オレの理性、勝てるか……!?)

 冬矢はめまいを覚えて頭を抱える。
(蒼生を守るために保とうとしている理性を当の蒼生が崩しにかかってくるんだからな……)



「……で、上書きできたか」
「できたできた。……っつうかあんな、オレの顔見て幸せだって泣かれちゃあなぁ……」
「俺ら、な」
「いいだろ」
「いいわけあるか」


 どうやら、振り回し振り回されの関係は、これからも続いていくようだ。
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「それじゃ、ちょっとシャワーお借りします」
 バスタオルを受け取ると、蒼生はそう言って笑った。冬矢が心配げにその顔を覗き込む。
「傷、しみないかな。手伝おうか?」
「あ、ううん、大丈夫大丈夫。……あの、これは本当に大丈夫のやつだから。いったん外歩くし、出来ればそれからシャワー浴びたいってだけだから、ほんと心配しないで」
 少々饒舌な蒼生の言葉は、必要な「準備」をする自分をふたりの精神的負担にさせまいとする気遣いから出たものだ。そこまでの知識がないふたりは、とりあえず筋の通った蒼生の言い分に納得した。
「ごめんね、ちょっとだけ待っててね」
「いってらっしゃーい」
 健太はひらりと手を振って、笑顔で蒼生を見送る。それを見た蒼生も安心したように笑った。

 ぱたぱた、と足音が浴室のほうに消えていった。廊下の向こうでドアが閉じる音がして、それを覗いて確認した冬矢がいったん部屋を出て行く。違うドアの音がして、その向こうから小さく物音が響いてきた。
 しんと静まりかえった部屋にひとり残された健太は、大きな息を吐くのと同時に顔から笑いを消した。そしてそのまま、綺麗に整えられたベッドの上に座り込む。数分も経たないうちに片手になにか袋のようなものを持って冬矢が戻ると、ようやくそこが他人のベッドだということに思い至った。
「……あ、ごめん、勝手に座った」
「それは別に構わないけど」
 頭を抱える健太に、冬矢は軽く首を捻る。
「蒼生に関しては常に強気なのかと思ってたけど、変なところで弱気になるんだな」
「……っ、だって。こんな便乗するみたいなタイミングで本当にいいのか? こんな、付け入るような真似……」
 健太の声には迷う色があった。健太にとって、蒼生の笑顔は絶対だ。それを守るのが自分の役目だと思ってきた。なのに、あんな形で蒼生に怯えた顔をさせてしまったあとで、それを利用するような行為が許されるはずがあるだろうか。
 少し間をおいて、冬矢も同じように息を吐いた。
「それについては俺も問題ないとは思ってない。こんな最悪のパターン、想定すらしてなかったからな。だけどさっきも言ったろ。あの状態のままの蒼生を放っておけない。こうなってしまった以上、早めに上書きするのが正解だと思う」
「言い方は綺麗だけどさ、でも、やろうとしてることは同じなんじゃねえの?」
 なるほど、引っかかっていたのはそれか。冬矢は表情の見えない健太の正面に立つ。
「おまえにも上書きが必要みたいだな。……あんなクズと自分を一緒にするな。同じかどうかは蒼生が決めることだ」
 一度言葉を切り、はっきりと告げる。
「自分は蒼生にとって特別だって言っていたのは、おまえ自身だろ」
 冬矢の言葉に、ぴくりと肩が揺れた。
 今の健太は弱気ではあるが、蒼生に対してまっすぐなのは変わらない。健太の言うことのほうがもしかすると正論なのかもしれないと思う。場合によっては傷口を広げることもあるかもしれないことは冬矢も理解していた。だが、他にどうすればいいかわからなかった。
 健太は指の隙間から、ちらりと目を覗かせる。
「……でもさ。蒼生たぶんそういう話苦手なんだ」
「そういうって?」
「あー……だからさ、その、セッ……あの」
「わかった。それで?」
「オレ……初めて、その……女の子とした時さ、蒼生に言おうとしたんだよ。でも、そういう話は聞きたくないって。もしかしたらそういうこと自体が嫌なんじゃねえのかな」
 冬矢は少し考えるような仕草をした。
「……それも蒼生に直接確認したらいい。ただ、本当に嫌なら蒼生はここまで来ないんじゃないか。俺相手はどうかわからないが、おまえには嫌なことは嫌って言うんだろ」
 健太が両手を顔から剥がし、今度は両膝をぐっと掴む。
「……すげえな。おまえ、よく冷静でいられるよなあ。オレなんかまだ頭ン中ぐちゃぐちゃなのにさ」
 冬矢はそれを一瞥すると、くるりと後ろを向き、キッチンから持ってきた袋を机の上に置く。
「俺が冷静なんだとしたら……それはまあ、おまえのおかげなんだろうな。おまえがストレートに感情を表に出すから、俺はそのぶん他のことに頭を回せるんだと思う。アレもおまえが投げ飛ばしてなかったら、入り口の側に置いてあったスコップで力一杯殴ってたところだ」
「え、ちょっ」
「咄嗟に凶器を探してたせいで出遅れたなと思ってる。だが、よく考えたら蒼生に傷害現場を目撃させるところだったから、結果的には良かったかもな」
 すらすらと未遂の犯行計画を話し出す冬矢に健太はぎょっとする。冬矢はその間も何か手を動かし続けていた。何をしているのかとその手元をよく見ると、食材を保存する時に使う密閉用の袋に、ハンカチを使って何かメモのようなものを入れているところだった。それは、見覚えのある紙切れ。
「なあ、冬矢、それって」
「アレが寄越した呼び出しの紙だね」
「え、さっき蒼生に処分するからって言って受け取ったやつじゃねえの?」
「そうだよ。アレの生徒手帳と照合すれば破った痕跡が合うはずだ」
 空気を抜いて口を閉じると、からっぽの袋に手を伸ばす。
「こっちは蒼生のシャツから落ちたボタン」
「は」
「これは蒼生の爪からぬぐった血のついたハンカチ」
「えっ」
「蒼生がつけられた傷の写真は日付入りでプリントアウトしておくべきかな。保護もかけとこう」
「おい」
「蒼生を襲ったことを告白した音声も録音してあるからな。バックアップも必要か」
「なあ」
「本当はシャツも保管したかったところだが、それを捨てることで蒼生が今日のアレ自体を捨てられるならそれに越したことはないだろ。ああ、今は紅輝さんの手元にあるのか。あの人ならうっすらと事情を話せばわかってくれそうだ」
 なるほど、相手が暴走すると逆にこっちが冷静になるとはこういうことかと健太は実感する。
「……いつの間にこんな」
「蒼生に気付かれると気にするだろうから全部こっそり集めたんだよ。次、アレが何か行動を起こすようなことがあったら、社会的にぶっ潰す」
 言って笑う冬矢の目は、完全に据わっていた。
(ああ、こいつ全然冷静じゃなかったわ。めちゃくちゃ怒ってたんだな。……そりゃそうか……そうだよな)

 冬矢が証拠の類を封筒に入れて机にしまうまで眺めているうちに、健太はじわじわと緊張が足元から這い上がってきているのに気が付いた。今更ながら、現在の状況が飲み込めてきたのかもしれない。ずっと迷って戸惑っていたが、それでも時間は過ぎていく。きっともうすぐ蒼生も戻ってくるだろう。そうしたら。そうしたら。
「ほら」
 はっと健太は顔を上げた。すっかり普段通りの表情に戻った冬矢が、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出している。健太が受け取ると、冬矢もベッドの足元の床に数本置かれていた同じペットボトルを拾い上げ、ベッドの少し離れた場所に座った。
「落ち着いたか」
「……今努力してるとこだ」
 冬矢に返事をしながら、おまえのほうが落ち着け、と思う。さっきまでの勢いで迫ったら、絶対に蒼生を怖がらせるだろう。とはいえ、健太も自分が緊張のピークにいることを自覚している。冬矢とは違う意味で落ち着きが必要だった。
 ふたりは同時にペットボトルのキャップを外し、普段通りの自分たちを取り戻そうと勢いよく水を飲んだ。
 蒼生のことを考えれば、今日は絶対冷静であるべきだ。本音を言えば、ここまで来て冷静になれというのは無茶だと思う。どんな経緯にせよ、好きな人とこれから初めて体を重ねることになるのだ。どんな暴走をしてもおかしくない状況だ。ただ、それではいけない。
 冬矢はふう、と息を吐いた。
「健太」
「……ん」
「とにかく、今日は、蒼生のケアだと心がけよう」
「ああ」
「欲望は二の次」
「わかってる」
「絶対無理はさせない」
「優しくする」
「急がない」
「気持ちよくする」
「嫌がることはやめる」
「ちゃんと話は聞く」
「暴走しない」
「途中でやめる勇気」
「痛いことは絶対しない」
 確認事項は、蒼生が戻ってくるまで延々と続いた。
 お互い口にはしないが、蒼生とふたりきりでなくてよかった、と心のどこかで思う健太と冬矢だ。何かあったら止める手がある。ふたりもいれば、どちらかは冷静さを保っていられるはずだ。どんな状況でも、蒼生を支える手がある。不安を慰める言葉も使える。
 そう。
 全部蒼生のためなんだ。


 なのに、である。
 戻って来た蒼生の言葉は、
「ぬ、脱がされるのに着てきたの……」
 だった。
 しかも頬を染めて。

 健太は仰のいて顔を手で覆う。
(ヤバいだろ、可愛すぎるだろ!! えっ、これ、オレの理性、勝てるか……!?)

 冬矢はめまいを覚えて頭を抱える。
(蒼生を守るために保とうとしている理性を当の蒼生が崩しにかかってくるんだからな……)



「……で、上書きできたか」
「できたできた。……っつうかあんな、オレの顔見て幸せだって泣かれちゃあなぁ……」
「俺ら、な」
「いいだろ」
「いいわけあるか」


 どうやら、振り回し振り回されの関係は、これからも続いていくようだ。
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