投稿日:2023年11月29日 22:20 文字数:6,703
24こ目;【番外編】みんな星のうえ
ステキ数:2
進行上の都合により、このお話で年が明けます。
明けましておめでとうございます。
何事も起きない回です。
ところで忘れられているといけないので補足しますと、野木沢家の兄弟は上から順に紅輝、緑、蒼生です。
タイトルの「みんな星のうえ」はアレです。
年越しにジャンプして云々の逆バージョン。
みんな一緒の大地の上にいます。
次回から、動き始めますよ。
↑初掲載時キャプション↑
2021/11/05初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
割と駆け足で季節に関係なく行事をこなしているのは、まさかこのシリーズを年単位で書くとは思っていなかったからです。
思えば遠くへ来たものです。
明けましておめでとうございます。
何事も起きない回です。
ところで忘れられているといけないので補足しますと、野木沢家の兄弟は上から順に紅輝、緑、蒼生です。
タイトルの「みんな星のうえ」はアレです。
年越しにジャンプして云々の逆バージョン。
みんな一緒の大地の上にいます。
次回から、動き始めますよ。
↑初掲載時キャプション↑
2021/11/05初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
割と駆け足で季節に関係なく行事をこなしているのは、まさかこのシリーズを年単位で書くとは思っていなかったからです。
思えば遠くへ来たものです。
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僕はひとつ息を吐いた。今年最後の食事を終えて、片付けも終わったら、なんだか気が抜けたみたい。特にすることもないし、大晦日にまで教科書広げなくてもいい気もするし、ダイニングのソファに座ってぼんやりと付いたままのテレビを眺める。別に見たいものもないので、元々そこにいたみどりちゃんがクイズ番組を見始めたのを一緒になってなんとなく見る。
「これ、あそこの港だよな」
「うん、イカのとこ」
「合ってた」
「ねー」
そこに後から来たこうちゃんが勢いよく座るもんだから、僕とみどりちゃんの体が跳ねた。僕はこうちゃんの肩に頭ぶつけるし、みどりちゃんは僕の膝上に肘をぐりってするし。地味に痛い。
「ちょっ……紅輝、雑!」
「こんなんで浮くなんて体幹弱いんじゃねえの? 鍛えろ鍛えろ」
「こうちゃんだって別に鍛えてないじゃん!」
「はいはい、ほら、次は? これどこだよ」
みどりちゃんが体を起こす。
「え? これ? 国立公園だよな。奇岩がたくさんあるとこ」
「梨の美味しいとこだ」
「蒼生は食べ物ばっかりだな」
「みどりちゃんだって名前出てこないじゃん」
すっかりぐだぐだだ。でもたまにはこういうのもいいのかもね。頭を使う番組のはずなんだけど、あんまり頭働かない。今日は早く寝ようかな。年越しに何かしようってほど情熱はないし。
そういえば例の木村くんのグループ……すっかり兼城さんたちのグループと統合して男女混合になったあのグループから、年越し初詣に行かないかって誘いを受けたんだよね。学校の近くの繁華街に買い物行った時に偶然会って、その時に。なにせ連絡先教えてないからさ。僕も、ちょうど隣にいた冬矢も「家で用事があるから」って断った。僕はわざわざ寒い中外に出たくないから適当なこと言ったんだけど、冬矢は本当にお父さんの赴任先にお母さんと泊まりに行った。だから今冬矢はこの町にいない。
しかしなあ、世の中の若者はそういう行動をしてるんだなあ。知らなかった。年またぎで友達と一緒にいるとか考えたことなかったよ。……そういえば健ちゃんと一緒だったこともないや。寺田家は毎年家族で年越し過ごすんだって。まあ、夜中だしね。
「3人とも、早くお風呂入っちゃいなさい」
お母さんが僕らを呼びに来る。
「えー。めんどい。オレ最後でいいや。緑、先に入れよ」
「問題の途中だから終わってからにする」
ふむ。
「じゃ、僕先に入っちゃっていい?」
「いいよー」
「どうぞー」
はー。浴槽にたっぷり張ったお湯につかる。あの調子じゃきっとすぐに入りそうもないよね。のんびりしよう。
それにしても。今年は本当にいろんなことがあったなあ。去年の僕が今の僕の話聞いたら腰でも抜かすんじゃないだろうか。
普通だったら高校入学が一番大きな出来事だったはずなんだけどね。それが、わりとすっ飛んじゃったとこがある。いや、だってさ。告白……されてさ、お付き合いするなんて、ほんと、思ってなかった。まさかそれで何度もデ、デートしてっ。キスとかしてっ。そ、その、あの、え、……えっち……までしちゃうなんてっ!
僕はばしゃっと頭からお湯をかぶる。
……今でも信じられない。あんなかっこいい恋人が僕にいるなんて。しかもそれがふたりっていうんだから、贅沢が過ぎるってものだよ。実はまだちょっと構えてるんだけど、ふたりが僕にどっちか選べって迫ってくることも今のところないし。うーん。
あと、いつ「冗談でした」って言われてもいいように、こっちについても身構えているんだ。……けど、それも一向にやってこない。いつでもふたりは僕に甘くて、優しくて、嬉しそうにする。触れてきて、笑って、それからキスをくれる。
……なんだかわからなくなってきた。本当にふたりは僕にどっちかを選ばせるつもりなんだろうか。そのつもりがあるなら、ええと、その、3人で、え、えっちするとかしないんじゃないかな。あれってわりと特殊な状態だと思うんだけど、違うかな。
と、とにかくだ。これは相当贅沢なんだから、そこにあぐらをかいてちゃ絶対ダメだと思う。もらうばっかりじゃダメなんだ。
よし。来年からはもっとちゃんとする。ふたりが自慢できるようなちゃんとした人になろう。次に会う時にはきっとなんか立派な人間に! ……なれるかなぁ。
……さすがに浸かり過ぎた気がする。ちょっと暑くなってきた。年越しをのぼせて終わるのも楽しくないし、そろそろ出よう。
脱衣所にもエアコンみたいなの欲しいなー。小さくて置けるタイプのやつもあるんだけど、家族に邪魔だって却下されたからなあ。ドライヤーかけてると暑いから便利だと思うのに。お母さんは「男の子にドライヤーいる?」って言うんだけど、枕とかシーツとかが濡れるの嫌だから早く寝たい時には必要なんだよなあ。
「こうちゃん、みどりちゃん、出たよ。いつでもどうぞー」
リビングに出て、声をかける。
「んー」
「はいよー」
「おかえりー」
適当な返事が返ってきた。テレビではさっきのクイズ番組をまだやっていて、ソファにはだらだらとそれを見る3人。……ん?
3人?
そういえば返事多かったな?
「どうしたの?」
裏返った声が出た。
さっきまで僕がいて空いてたソファの真ん中に、長袖Tシャツとジャージですっかり部屋着スタイルの健ちゃんが座ってる。なんで? えっ、まだ全然立派な人間になれてないのに。
健ちゃんは元気よくソファから体を起こした。
「蒼生に呼ばれたから来た!」
「えっ?」
僕メッセージ入れたっけ? 電話……はしてない、はず。
「蒼生驚いてるじゃん」
「やだな、みど兄~、ちゃんと蒼生が呼んでる電波受信したもん」
「……すごいな、相変わらず健太は適当だな」
みどりちゃんが呆れた顔をする。僕だってびっくりしてる。こうちゃんはニヤニヤしてるけど。
「それじゃ蒼生、部屋いこ。それともテレビ見る?」
「ううん。見ないでいい。いこ」
「ん。じゃ、こう兄みど兄、あとおじさんおばさんもおやすみなさい~よいお年を~」
あ、このまま泊ってくつもりなんだ。
部屋のドアを閉めるなり、健ちゃんは後ろから抱きついてきた。ずいぶん唐突だなあ、やっぱり何かあったんじゃ、と思って首だけ健ちゃんのほうに向けると、そのままキスされる。食いつくみたいなやつ。長くて、息をするのを忘れてしまいそうになる。あー……きもちいい。このまま溶けてしまいたい。
はっとする。ヤバい。想定してなかったから何にも準備してない。どうしよう。
と、急に健ちゃんが離れた。
「飲み物持ってきたよ。紅茶と甘いコーヒーとお茶、どれがいい?」
「……え、あ……紅茶」
「了解~」
え? それで終わり? ……そっかぁ。
健ちゃんはポケットから小さいペットボトルを3本取り出す。よく入ったなあ。それを僕に渡してくれる健ちゃんは、なんかもういつもの健ちゃんだ。キスからの切り替え早くない?
「オレがいてびっくりした?」
それより今は別のことで驚いてるけどね……。
「うん。今年は家で過ごさないんだ」
「そりゃあ、蒼生と一緒にいたいし」
そこはそう思ってくれてるらしい。のに。なのに。
「……僕に呼ばれたとか言うから、聞こえたかと思っちゃった」
「えっ、もしかして本当にオレのこと考えてくれてた?」
「うん」
「嬉しい~」
そう言って笑う。
で、終了?
うーん?
「蒼生、勝手に本読んでいい?」
「どうぞどうぞ」
ベッドにもたれかかって漫画を読み始める健ちゃん。
むー。とりあえず、健ちゃんにその気はない……っぽい。たしかにね、なんの支度もしてないからね、いいんだけど……。もしかしてふたりきりだとそういう雰囲気にならないのかな。そうか、僕もわりと普通っぽい対応しちゃってるしな。そっかー。
それとも、あれかな。直接言わないと伝わらない……?
うーん。ちょっと今後は考えよう。
まあ、とはいえ、こういう穏やかな雰囲気もいいよね。そういうことしなくても、側にいられるだけであったかいし、嬉しい。そうだよ、僕、健ちゃんとはそういうことしたいだけじゃないから。うん。
さて、そしたら僕は、読みかけの本の続きでも追っかけるか。僕はベッドの上に座り、枕の脇に置きっぱなしだった小説を手に取った。
……。
…………。
「ぃ……蒼生」
はっ。あ、あれ。見上げる時計の針が結構進んでる。びっくりした。相当集中しちゃってたらしい。床に座った健ちゃんがぼんやりとした目で見上げてくる。
「どしたの」
「なんか眠くなってきた」
「そろそろ寝る? 年越しにはまだ時間あるけど」
「ちょっとだけ休憩させて」
言うと、健ちゃんは膝立ちになって正面から僕の腰に抱きついてきた。危ういとこからはちょっと離れてるから、なんかセーフだ。
「あー……落ち着くー」
ふふ。ちっちゃい子みたい。
「なんだろ。めちゃくちゃいい匂いする。和むわー」
「石鹸の匂い?」
「そういうんじゃないんだよな……なんだろ……」
健ちゃんはぐりぐり頭を擦り付ける。昔からよく懐いてきてたもんね。ほんとあの頃から変わらない。
「よいしょ」
「わ」
いや、前言撤回。その体勢から体を持ち上げられて、あれっと思ってるうちにどさりとベッドに倒される。これはちっちゃい子には出来ない芸当だ。健ちゃんは腰に巻きついたまま僕のおなかあたりに頬ずりして、
「休憩、休憩」
なんてぼそぼそしゃべってたかなあと思うと、次の瞬間には小さな寝息を立てていた。
うーん。幼馴染みとしては大変可愛いと思うんだけど。恋人としてはどうなんですかね?
う、体抜けないし。ぐっ、がっちり掴まれた腕も外せないし。それに、重いし! ああ、……もう。僕に出来ることはもうないや。続き読も。
しばらくすると、電話の子機がポー、と緩い音で鳴った。内線だ。ヘッドボードの上に置いてあるんだけど、よっと……うー。手を伸ばして、なんとか、届いた。
「はい」
『出るの遅かったな』
こうちゃんだ。
「あー、健ちゃんが僕の上で寝ちゃったから身動き取れなくて」
『へー』
「ところで、何?」
『おお、母さんが年越し蕎麦茹でるってさ。いるなら2人分追加するけどって』
「うーん、健ちゃんも起きなそうだし……いいや。ありがとうって言っておいて」
『あいよー』
さて、この子機を戻すのも一苦労だ。取るのはなんとかなったけど、充電ケースに立てるのが……よっ。えい。もう少し。うう。……はあ、無理だこれ、諦めるほかないか。
ん? 誰かが階段を上ってくる音が聞こえる。ノックの音がしたのとほぼ同時にドアが開いた。
「こうちゃん? あれ、電話通じてなかった?」
「いんや、聞こえたけどさ。蕎麦いらないんだったらみかんでもどうぞ」
こうちゃんは手に持ったみかんを振って見せる。
「っていうのは建前で、健太が蒼生の上で寝てるっていうからどんなんなってるかなーって思ってさ」
「? こういう感じだけど」
そんなに面白いものでもないと思うんだけどなあ。たしかに絵に描いたように綺麗にホールドされてるけど。
「なんだ、ホントに寝てるだけか」
「だけ? ……それより、せっかく上まで来たんならちょっと健ちゃん剥がすの手伝って。重いしきついし全然動けないんだもん」
「んー。なんかめちゃくちゃ幸せそうな顔で寝てんじゃん。起こすのかわいそうだろ」
「えっ」
こうちゃんはにやにやしながらそう言うと、みかんを4つローテーブルの上に置いた。それから僕の手に握られた子機を充電器に戻す。
「それじゃ、おやすみ~」
「ちょっ、こうちゃん!」
そこに置いたらみかん取れないんだけど! 子機はありがとだけど!!
事態が何も変わってないんだけど、本当にこうちゃん何しに来たの?
結局、寝返りひとつ打てないまま、本一冊読み終わっちゃった。
もうすぐ年が変わる。いろいろドタバタしたけど、最後も不思議な感じで終わっていくんだなあ。
なんとなく健ちゃんの頭をぽんぽんと撫でながら、時計の針を眺める。ああ、あと1分切った。50秒……40秒……30秒……2うわっ。あ、携帯。携帯鳴ってる。あ、わ、わ。
急いで通話ボタンを押す。
耳に押し当てる。
『……蒼生』
「冬矢」
穏やかな声。
あ、“嬉しい”で心がいっぱいになる。
『蒼生、あけましておめでとう』
え、あ、時計……秒針が1を過ぎてる。
「おめでとう。ふふ」
時計を眺めながら僕に電話をかけるタイミングを計ってたんだなって思うと、胸の辺りがくすぐったい。声に気付いたのか、おなかの辺りも急にもぞもぞして、こっちは物理的にくすぐったい。
眠たそうに目を上げた健ちゃんの口が、「冬矢?」と動いた。僕が「うん」と頷くと、健ちゃんは腕の力をいっそう強くする。う。苦しいんですけど。
『ああ、健太もいるのか』
「えっ。なんでわかるの?」
『声。他の人と一緒にいる時より柔らかいけど、俺とふたりきりの時よりはしゃんとしてるからね』
そ、そんなのまでわかっちゃう? え、僕冬矢といる時そんなにふにゃふにゃしてる?
『年が明けて最初に聞く声が蒼生で本当に嬉しい。そうだ、このままふたりで内緒話しようか』
突然、健ちゃんが拗ねた顔で体を起こして僕の腕を掴むと、耳元から携帯を離してスピーカーのボタンを押した。
「聞こえてんだよ!」
『そうだろうと思ったからわざと言った。一応おめでとう』
「……オメデトウゴザイマス」
わあ。見事な棒読み。
「ところで、そっちはどう?」
『寒さには慣れてるつもりだったけどな。戻ったら暖かく感じそうだよ』
「そんなに寒いんだぁ」
『なにより、こっちには蒼生がいないからね』
「ひぇ」
さらっと仰る。そ、ソウデスネ……。
『まったく、蒼生不足で倒れそうだ』
あー、胸がぎゅっとなる。
「……早く会いたい」
『ふっ。……俺もだよ』
わー。
うわー。
えへへ。
健ちゃんがのしっと僕の上に乗っかる。わかりやすいなあ。
「オレは、毎日会ってるからな!」
『そんな毎日会ってる健太くんには内緒にしてさ、……蒼生。俺さ、新学期の予習と称して親より2日間早く帰る予定にしてるんだ。明後日の夜……空いてる?』
「! あ、空いてる。よっ、翌日も、大丈夫!」
『あははっ。じゃあ、会おう。俺の家においで』
「う、うん」
『健太には内緒な』
「何度も何度もっ……聞こえてるっつってんだろっ!」
健ちゃんの悪態に、冬矢は小さく笑った。顔は見えないけど、たぶん楽しそうに意地悪な顔してると思う。
『……それじゃあ、蒼生。明後日会おうね。好きだよ』
「ぼ、僕も好き……」
『うん。おやすみ』
おやすみ、を返すと、通話は切れた。はー。明後日。えへへ。
健ちゃんは頭を僕の肩にことんと乗せて、それから額ですりすりと懐く。
「……いいな。オレも蒼生に会いたいって言われたい」
なるほど。
でも実はそれって難しい問題なんだよね。
「離れないと会いたいは実現できないわけで……。それじゃあ僕たち、ちょっと距離置いてみる?」
「やだ! 蒼生と離れると心が凍えるから絶対やだ」
「うん、……ふふ、僕も冗談。だって健ちゃん、さっき僕が会いたいって思ったら、言う前に会いに来てくれたじゃない」
僕は健ちゃんの頭をぎゅっと抱き締める。
「あ、蒼生」
「好きだよ、健ちゃん」
「オレも好き。大好き!」
健ちゃんも僕にぎゅっを返してくれる。ふふふ。
好きな人の声を聞きながら、
好きな人の体温を感じて、
そうやって始まった新しい1年。
あー、こんなふうに繋がっていられるんだなあ。これはすごく幸先のいいスタートだよね。きっと今年もいいことがたくさん訪れるに違いない。僕は勝手に確信を持つことにした。
「これ、あそこの港だよな」
「うん、イカのとこ」
「合ってた」
「ねー」
そこに後から来たこうちゃんが勢いよく座るもんだから、僕とみどりちゃんの体が跳ねた。僕はこうちゃんの肩に頭ぶつけるし、みどりちゃんは僕の膝上に肘をぐりってするし。地味に痛い。
「ちょっ……紅輝、雑!」
「こんなんで浮くなんて体幹弱いんじゃねえの? 鍛えろ鍛えろ」
「こうちゃんだって別に鍛えてないじゃん!」
「はいはい、ほら、次は? これどこだよ」
みどりちゃんが体を起こす。
「え? これ? 国立公園だよな。奇岩がたくさんあるとこ」
「梨の美味しいとこだ」
「蒼生は食べ物ばっかりだな」
「みどりちゃんだって名前出てこないじゃん」
すっかりぐだぐだだ。でもたまにはこういうのもいいのかもね。頭を使う番組のはずなんだけど、あんまり頭働かない。今日は早く寝ようかな。年越しに何かしようってほど情熱はないし。
そういえば例の木村くんのグループ……すっかり兼城さんたちのグループと統合して男女混合になったあのグループから、年越し初詣に行かないかって誘いを受けたんだよね。学校の近くの繁華街に買い物行った時に偶然会って、その時に。なにせ連絡先教えてないからさ。僕も、ちょうど隣にいた冬矢も「家で用事があるから」って断った。僕はわざわざ寒い中外に出たくないから適当なこと言ったんだけど、冬矢は本当にお父さんの赴任先にお母さんと泊まりに行った。だから今冬矢はこの町にいない。
しかしなあ、世の中の若者はそういう行動をしてるんだなあ。知らなかった。年またぎで友達と一緒にいるとか考えたことなかったよ。……そういえば健ちゃんと一緒だったこともないや。寺田家は毎年家族で年越し過ごすんだって。まあ、夜中だしね。
「3人とも、早くお風呂入っちゃいなさい」
お母さんが僕らを呼びに来る。
「えー。めんどい。オレ最後でいいや。緑、先に入れよ」
「問題の途中だから終わってからにする」
ふむ。
「じゃ、僕先に入っちゃっていい?」
「いいよー」
「どうぞー」
はー。浴槽にたっぷり張ったお湯につかる。あの調子じゃきっとすぐに入りそうもないよね。のんびりしよう。
それにしても。今年は本当にいろんなことがあったなあ。去年の僕が今の僕の話聞いたら腰でも抜かすんじゃないだろうか。
普通だったら高校入学が一番大きな出来事だったはずなんだけどね。それが、わりとすっ飛んじゃったとこがある。いや、だってさ。告白……されてさ、お付き合いするなんて、ほんと、思ってなかった。まさかそれで何度もデ、デートしてっ。キスとかしてっ。そ、その、あの、え、……えっち……までしちゃうなんてっ!
僕はばしゃっと頭からお湯をかぶる。
……今でも信じられない。あんなかっこいい恋人が僕にいるなんて。しかもそれがふたりっていうんだから、贅沢が過ぎるってものだよ。実はまだちょっと構えてるんだけど、ふたりが僕にどっちか選べって迫ってくることも今のところないし。うーん。
あと、いつ「冗談でした」って言われてもいいように、こっちについても身構えているんだ。……けど、それも一向にやってこない。いつでもふたりは僕に甘くて、優しくて、嬉しそうにする。触れてきて、笑って、それからキスをくれる。
……なんだかわからなくなってきた。本当にふたりは僕にどっちかを選ばせるつもりなんだろうか。そのつもりがあるなら、ええと、その、3人で、え、えっちするとかしないんじゃないかな。あれってわりと特殊な状態だと思うんだけど、違うかな。
と、とにかくだ。これは相当贅沢なんだから、そこにあぐらをかいてちゃ絶対ダメだと思う。もらうばっかりじゃダメなんだ。
よし。来年からはもっとちゃんとする。ふたりが自慢できるようなちゃんとした人になろう。次に会う時にはきっとなんか立派な人間に! ……なれるかなぁ。
……さすがに浸かり過ぎた気がする。ちょっと暑くなってきた。年越しをのぼせて終わるのも楽しくないし、そろそろ出よう。
脱衣所にもエアコンみたいなの欲しいなー。小さくて置けるタイプのやつもあるんだけど、家族に邪魔だって却下されたからなあ。ドライヤーかけてると暑いから便利だと思うのに。お母さんは「男の子にドライヤーいる?」って言うんだけど、枕とかシーツとかが濡れるの嫌だから早く寝たい時には必要なんだよなあ。
「こうちゃん、みどりちゃん、出たよ。いつでもどうぞー」
リビングに出て、声をかける。
「んー」
「はいよー」
「おかえりー」
適当な返事が返ってきた。テレビではさっきのクイズ番組をまだやっていて、ソファにはだらだらとそれを見る3人。……ん?
3人?
そういえば返事多かったな?
「どうしたの?」
裏返った声が出た。
さっきまで僕がいて空いてたソファの真ん中に、長袖Tシャツとジャージですっかり部屋着スタイルの健ちゃんが座ってる。なんで? えっ、まだ全然立派な人間になれてないのに。
健ちゃんは元気よくソファから体を起こした。
「蒼生に呼ばれたから来た!」
「えっ?」
僕メッセージ入れたっけ? 電話……はしてない、はず。
「蒼生驚いてるじゃん」
「やだな、みど兄~、ちゃんと蒼生が呼んでる電波受信したもん」
「……すごいな、相変わらず健太は適当だな」
みどりちゃんが呆れた顔をする。僕だってびっくりしてる。こうちゃんはニヤニヤしてるけど。
「それじゃ蒼生、部屋いこ。それともテレビ見る?」
「ううん。見ないでいい。いこ」
「ん。じゃ、こう兄みど兄、あとおじさんおばさんもおやすみなさい~よいお年を~」
あ、このまま泊ってくつもりなんだ。
部屋のドアを閉めるなり、健ちゃんは後ろから抱きついてきた。ずいぶん唐突だなあ、やっぱり何かあったんじゃ、と思って首だけ健ちゃんのほうに向けると、そのままキスされる。食いつくみたいなやつ。長くて、息をするのを忘れてしまいそうになる。あー……きもちいい。このまま溶けてしまいたい。
はっとする。ヤバい。想定してなかったから何にも準備してない。どうしよう。
と、急に健ちゃんが離れた。
「飲み物持ってきたよ。紅茶と甘いコーヒーとお茶、どれがいい?」
「……え、あ……紅茶」
「了解~」
え? それで終わり? ……そっかぁ。
健ちゃんはポケットから小さいペットボトルを3本取り出す。よく入ったなあ。それを僕に渡してくれる健ちゃんは、なんかもういつもの健ちゃんだ。キスからの切り替え早くない?
「オレがいてびっくりした?」
それより今は別のことで驚いてるけどね……。
「うん。今年は家で過ごさないんだ」
「そりゃあ、蒼生と一緒にいたいし」
そこはそう思ってくれてるらしい。のに。なのに。
「……僕に呼ばれたとか言うから、聞こえたかと思っちゃった」
「えっ、もしかして本当にオレのこと考えてくれてた?」
「うん」
「嬉しい~」
そう言って笑う。
で、終了?
うーん?
「蒼生、勝手に本読んでいい?」
「どうぞどうぞ」
ベッドにもたれかかって漫画を読み始める健ちゃん。
むー。とりあえず、健ちゃんにその気はない……っぽい。たしかにね、なんの支度もしてないからね、いいんだけど……。もしかしてふたりきりだとそういう雰囲気にならないのかな。そうか、僕もわりと普通っぽい対応しちゃってるしな。そっかー。
それとも、あれかな。直接言わないと伝わらない……?
うーん。ちょっと今後は考えよう。
まあ、とはいえ、こういう穏やかな雰囲気もいいよね。そういうことしなくても、側にいられるだけであったかいし、嬉しい。そうだよ、僕、健ちゃんとはそういうことしたいだけじゃないから。うん。
さて、そしたら僕は、読みかけの本の続きでも追っかけるか。僕はベッドの上に座り、枕の脇に置きっぱなしだった小説を手に取った。
……。
…………。
「ぃ……蒼生」
はっ。あ、あれ。見上げる時計の針が結構進んでる。びっくりした。相当集中しちゃってたらしい。床に座った健ちゃんがぼんやりとした目で見上げてくる。
「どしたの」
「なんか眠くなってきた」
「そろそろ寝る? 年越しにはまだ時間あるけど」
「ちょっとだけ休憩させて」
言うと、健ちゃんは膝立ちになって正面から僕の腰に抱きついてきた。危ういとこからはちょっと離れてるから、なんかセーフだ。
「あー……落ち着くー」
ふふ。ちっちゃい子みたい。
「なんだろ。めちゃくちゃいい匂いする。和むわー」
「石鹸の匂い?」
「そういうんじゃないんだよな……なんだろ……」
健ちゃんはぐりぐり頭を擦り付ける。昔からよく懐いてきてたもんね。ほんとあの頃から変わらない。
「よいしょ」
「わ」
いや、前言撤回。その体勢から体を持ち上げられて、あれっと思ってるうちにどさりとベッドに倒される。これはちっちゃい子には出来ない芸当だ。健ちゃんは腰に巻きついたまま僕のおなかあたりに頬ずりして、
「休憩、休憩」
なんてぼそぼそしゃべってたかなあと思うと、次の瞬間には小さな寝息を立てていた。
うーん。幼馴染みとしては大変可愛いと思うんだけど。恋人としてはどうなんですかね?
う、体抜けないし。ぐっ、がっちり掴まれた腕も外せないし。それに、重いし! ああ、……もう。僕に出来ることはもうないや。続き読も。
しばらくすると、電話の子機がポー、と緩い音で鳴った。内線だ。ヘッドボードの上に置いてあるんだけど、よっと……うー。手を伸ばして、なんとか、届いた。
「はい」
『出るの遅かったな』
こうちゃんだ。
「あー、健ちゃんが僕の上で寝ちゃったから身動き取れなくて」
『へー』
「ところで、何?」
『おお、母さんが年越し蕎麦茹でるってさ。いるなら2人分追加するけどって』
「うーん、健ちゃんも起きなそうだし……いいや。ありがとうって言っておいて」
『あいよー』
さて、この子機を戻すのも一苦労だ。取るのはなんとかなったけど、充電ケースに立てるのが……よっ。えい。もう少し。うう。……はあ、無理だこれ、諦めるほかないか。
ん? 誰かが階段を上ってくる音が聞こえる。ノックの音がしたのとほぼ同時にドアが開いた。
「こうちゃん? あれ、電話通じてなかった?」
「いんや、聞こえたけどさ。蕎麦いらないんだったらみかんでもどうぞ」
こうちゃんは手に持ったみかんを振って見せる。
「っていうのは建前で、健太が蒼生の上で寝てるっていうからどんなんなってるかなーって思ってさ」
「? こういう感じだけど」
そんなに面白いものでもないと思うんだけどなあ。たしかに絵に描いたように綺麗にホールドされてるけど。
「なんだ、ホントに寝てるだけか」
「だけ? ……それより、せっかく上まで来たんならちょっと健ちゃん剥がすの手伝って。重いしきついし全然動けないんだもん」
「んー。なんかめちゃくちゃ幸せそうな顔で寝てんじゃん。起こすのかわいそうだろ」
「えっ」
こうちゃんはにやにやしながらそう言うと、みかんを4つローテーブルの上に置いた。それから僕の手に握られた子機を充電器に戻す。
「それじゃ、おやすみ~」
「ちょっ、こうちゃん!」
そこに置いたらみかん取れないんだけど! 子機はありがとだけど!!
事態が何も変わってないんだけど、本当にこうちゃん何しに来たの?
結局、寝返りひとつ打てないまま、本一冊読み終わっちゃった。
もうすぐ年が変わる。いろいろドタバタしたけど、最後も不思議な感じで終わっていくんだなあ。
なんとなく健ちゃんの頭をぽんぽんと撫でながら、時計の針を眺める。ああ、あと1分切った。50秒……40秒……30秒……2うわっ。あ、携帯。携帯鳴ってる。あ、わ、わ。
急いで通話ボタンを押す。
耳に押し当てる。
『……蒼生』
「冬矢」
穏やかな声。
あ、“嬉しい”で心がいっぱいになる。
『蒼生、あけましておめでとう』
え、あ、時計……秒針が1を過ぎてる。
「おめでとう。ふふ」
時計を眺めながら僕に電話をかけるタイミングを計ってたんだなって思うと、胸の辺りがくすぐったい。声に気付いたのか、おなかの辺りも急にもぞもぞして、こっちは物理的にくすぐったい。
眠たそうに目を上げた健ちゃんの口が、「冬矢?」と動いた。僕が「うん」と頷くと、健ちゃんは腕の力をいっそう強くする。う。苦しいんですけど。
『ああ、健太もいるのか』
「えっ。なんでわかるの?」
『声。他の人と一緒にいる時より柔らかいけど、俺とふたりきりの時よりはしゃんとしてるからね』
そ、そんなのまでわかっちゃう? え、僕冬矢といる時そんなにふにゃふにゃしてる?
『年が明けて最初に聞く声が蒼生で本当に嬉しい。そうだ、このままふたりで内緒話しようか』
突然、健ちゃんが拗ねた顔で体を起こして僕の腕を掴むと、耳元から携帯を離してスピーカーのボタンを押した。
「聞こえてんだよ!」
『そうだろうと思ったからわざと言った。一応おめでとう』
「……オメデトウゴザイマス」
わあ。見事な棒読み。
「ところで、そっちはどう?」
『寒さには慣れてるつもりだったけどな。戻ったら暖かく感じそうだよ』
「そんなに寒いんだぁ」
『なにより、こっちには蒼生がいないからね』
「ひぇ」
さらっと仰る。そ、ソウデスネ……。
『まったく、蒼生不足で倒れそうだ』
あー、胸がぎゅっとなる。
「……早く会いたい」
『ふっ。……俺もだよ』
わー。
うわー。
えへへ。
健ちゃんがのしっと僕の上に乗っかる。わかりやすいなあ。
「オレは、毎日会ってるからな!」
『そんな毎日会ってる健太くんには内緒にしてさ、……蒼生。俺さ、新学期の予習と称して親より2日間早く帰る予定にしてるんだ。明後日の夜……空いてる?』
「! あ、空いてる。よっ、翌日も、大丈夫!」
『あははっ。じゃあ、会おう。俺の家においで』
「う、うん」
『健太には内緒な』
「何度も何度もっ……聞こえてるっつってんだろっ!」
健ちゃんの悪態に、冬矢は小さく笑った。顔は見えないけど、たぶん楽しそうに意地悪な顔してると思う。
『……それじゃあ、蒼生。明後日会おうね。好きだよ』
「ぼ、僕も好き……」
『うん。おやすみ』
おやすみ、を返すと、通話は切れた。はー。明後日。えへへ。
健ちゃんは頭を僕の肩にことんと乗せて、それから額ですりすりと懐く。
「……いいな。オレも蒼生に会いたいって言われたい」
なるほど。
でも実はそれって難しい問題なんだよね。
「離れないと会いたいは実現できないわけで……。それじゃあ僕たち、ちょっと距離置いてみる?」
「やだ! 蒼生と離れると心が凍えるから絶対やだ」
「うん、……ふふ、僕も冗談。だって健ちゃん、さっき僕が会いたいって思ったら、言う前に会いに来てくれたじゃない」
僕は健ちゃんの頭をぎゅっと抱き締める。
「あ、蒼生」
「好きだよ、健ちゃん」
「オレも好き。大好き!」
健ちゃんも僕にぎゅっを返してくれる。ふふふ。
好きな人の声を聞きながら、
好きな人の体温を感じて、
そうやって始まった新しい1年。
あー、こんなふうに繋がっていられるんだなあ。これはすごく幸先のいいスタートだよね。きっと今年もいいことがたくさん訪れるに違いない。僕は勝手に確信を持つことにした。
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