投稿日:2023年12月21日 22:50 文字数:18,797
30こ目;【番外編】僕の彼氏がノーブレーキで突っ込んできます
ステキ数:1
前話から約2年後、卒業式の日のお話。
クラス会からの帰り道、ファミレスに寄った蒼生と冬矢は…。
別名、「ファミレスのY談」かもしれない。
“本編”のエピローグです。
余談ですが、当初告白を含めそれ以降は高2で起きる予定でした。
それを高1に前倒ししたのは、とにかく高校生カップル(×2)として青春を十分に味わってほしかったからです!
結果として高2高3をすっ飛ばす形になりましたが、きっとじたばたしながらも楽しい日々を過ごしていただろうと思います。
さて。
次週とその次週はおやすみをいただきます。
年明けからは! 新シーズン突入! です!! 全然書き足りませんでした!!
終わる終わる詐欺です。はい。
今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
↑初掲載時キャプション↑
2021/12/17初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
初掲載時のコメントなので、「次週」は「今週末」となります。
引き続きお付き合いくださいませ。
クラス会からの帰り道、ファミレスに寄った蒼生と冬矢は…。
別名、「ファミレスのY談」かもしれない。
“本編”のエピローグです。
余談ですが、当初告白を含めそれ以降は高2で起きる予定でした。
それを高1に前倒ししたのは、とにかく高校生カップル(×2)として青春を十分に味わってほしかったからです!
結果として高2高3をすっ飛ばす形になりましたが、きっとじたばたしながらも楽しい日々を過ごしていただろうと思います。
さて。
次週とその次週はおやすみをいただきます。
年明けからは! 新シーズン突入! です!! 全然書き足りませんでした!!
終わる終わる詐欺です。はい。
今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
↑初掲載時キャプション↑
2021/12/17初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
初掲載時のコメントなので、「次週」は「今週末」となります。
引き続きお付き合いくださいませ。
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ちりりん、ドアの上のベルが軽やかに鳴る。
「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」
「どこにする?」
「そうだな……あの柱の陰のところはどうかな」
「うん。すいててよかったね」
「ランチの時間過ぎてるから、ちょうどよかったのかもしれない」
ふたりはそんな会話をしながら、店の奥のほう、壁際で少し広めの席に向かう。席数の多い店の中では客の姿もまばらで、多少盛り上がっていても迷惑はかからなそうな雰囲気だ。少なくとも、同じ制服は見当たらない。
蒼生がソファの奥の席に座ると、冬矢も迷うことなくその隣に座った。それを一瞬あれっと言うような顔で見た蒼生は、すぐにふんわり微笑んだ。
「そういえば冬矢、卒業証書は?」
「荷物になるなと思って、家にいったん戻る父さんに渡した。母さんは午後から仕事行くっていうから」
「お父さんもその足で赴任先に戻るんでしょ。忙しくて大変だよね」
「年度末だからね。でも、蒼生も式の後ご両親と話してたじゃないか。持って帰ってもらえばよかったのに」
「たしかに、そうすればよかったなあ。みんなで写真撮るとか言うから一応持っておいたほうがいいかなと思ったんだけど、結局そんなに必要なかったね」
はあっと息を吐くと、蒼生は胸元の造花を引き抜いた。冬矢はとっくに外していたようだ。
「最終的にほぼクラスの集合写真状態になってたもんな。立食パーティなんて、食べた気にすらならないよ」
「だよね」
うんざりしたような冬矢に頷いて、蒼生はテーブルの端に立ったメニューに手を伸ばす。それをぱらぱらめくりながら、ゆっくりと背中をそらせた。
「ああ、疲れたぁ。卒業式終わって即クラス会なんて、みんなよく対応できるよね。式でいっぱい泣いてた人たちが普通に大騒ぎしてたし」
「俺は下手に別日に設定されるより、一度に片付けられて楽だと思ったよ」
「なるほど、それは確かに。……でも途中で抜けて大丈夫だったかな」
「ほぼ終わりの雰囲気だったし、声はかけたし、大丈夫だろ。そもそも自由参加って話だったからな」
参加は任意でという言葉が出た瞬間、それなら、と遠慮しようとしたふたりだったが、クラス総出で引き留められた。最後だから、写真だけでも、なんとかちょっとだけでも、と食い下がられて折れざるを得なかったのだ。任意とはなんだったのか。
その時、机の上でふたりの携帯が同時に鳴った。まるきり同時なので、見なくとも送信者がすぐにわかる。蒼生は画面を確認して改めて頷いた。
「健ちゃんだ」
「なんだって?」
「えっと、“どこ?”だって。それだけ」
「からかっておこうか」
「ふふ。はーい」
楽しそうに携帯の画面を眺め、ぱたぱたと指を動かしていく。冬矢はそんな蒼生の肩にわずかに寄りかかるようにして、広げられたメニューに目を落とした。
ちりりーん。
「いらっしゃいませー」
店に飛び込んだ健太は、ものすごい勢いで店内を見渡す。声をかけてきた店員に「待ち合わせです」と告げると、すぐに店の奥で楽しそうに笑いあうふたりの姿を見つけ、何とか押しとどめたぎりぎりのスピードでそこを目指した。
「っ、あー、もー!」
どさっと向かいの席に座る。少し前に気付いていたふたりは大して驚いた様子もなく、手にとったメニューでばたばたと首元を扇ぐ健太に笑顔でおしぼりを差し出した。健太はそれを受け取り、手と手首をぐるりと拭く。
「いや……なんつーか、まあ、抜けるのはいいんだ。声かけられたって幹事も言ってたわ。けどさ、声かけるべきはオレだと思うんだよなー」
「だって健ちゃん、いろんな人に囲まれてたでしょ。なんだか声かけづらいなって思って」
「なお、俺はそれを見て、チャンスだと考えたわけだ」
「あれっ、オレ囮だったってこと……?」
健太は大仰に首を傾げる。この性格で、最終的には男女問わず、すっかりクラスの人気者の座を確立した健太だ。昔から友達が多いタイプだったから当然だと蒼生は思う。最後にはみんなに囲まれるんだろうなあと思っていたが、まさしくその通りだった。
冬矢は笑いをこらえるように、手元のグラスに立ったストローをくるくると回した。
「どうせ二次会って話になったんだろ。あれだけ慕われてるんだから、行けばよかったんじゃないか?」
ほお、と低い声を出し、健太は冬矢に携帯を突きつける。
「ふたりして消えてからこんなメッセージ出しといてよく言うわ!」
「先に出るよって内容だろ」
「言い方あるだろ、なんだコレ『蒼生は預かった』って! 誘拐犯が使うやつだわ!」
耐え切れなくなったのか、蒼生が声をあげて笑う。
健太はすっと画面を下に流し、今度は蒼生にそれを見せる。
「蒼生も蒼生だよ、『今いいことしてる』って繋いだ手の写真送ってくるとか、そりゃ飛んでくるわ!」
「何を想像したんだ? 蒼生はちゃんと店の名前も伝えてるのに。ファミレスで何してると思ったんだかな」
「野獣とふたりきりにさせたらどうなるかわかんねえだろーが」
「はは、どっちが野獣だか」
そのやり取りを蒼生はにこにこ見ていたが、ふと目の前にあるクリームソーダを見て「あ」と呟き、氷の上に浮かんだバニラアイスを掬って中に突っ込んだかと思うと、スプーンを健太に差し出した。
「はい」
「お、ありがと。……んー、冷たいのが染み渡る……」
「ね。いいことしてる、でしょ?」
それがあまりに楽しそうな口調で、飲み込んだアイスと一緒にすっと気分まで落ち着いてしまう。もともと蒼生に対しては何の不満もないのだ。
「でもさ健ちゃん、冗談抜きに、この後って誘われてたんじゃないの」
「ああ、カラオケに行くとかなんとか。それはそれで楽しいかもしんねえけどさ、制服姿の蒼生と過ごす最後の時間のほうがオレにとっちゃ大事だからな」
蒼生はなんとなく自分の格好を見て、それから隣の冬矢と向かいの健太を順繰りに見る。
「そっか、最後か。……最後かあ。僕もふたりの制服姿、すごく好きだったんだけどなあ」
言ってから、しまった、という顔をする。ふたりの空気がふっと切り替わった気がしたからだ。慌てて、閉じていたメニューをばさばさとテーブルの上に広げた。
「ね、なんか食べよ。さっきほとんど食べてないから、さすがにおなかすいちゃった。健ちゃんが来るの待ってたんだよ!」
どうやらなんとか誤魔化せたらしい。と思う。たぶん。
「お待たせしましたー。大盛りポテト、ほうれん草とじゃこのサラダでーす」
ぱん、と健太が手を合わせる。蒼生と冬矢もそれに続く。
「いただきまーす」
健太の語尾とポテトに手が伸びるタイミングが重なっていたのはいつものことだが、今日は蒼生も少し手を出すスピードが速い。式典があったためいつもより朝食が早く、昼食となった立食パーティでほとんど何も食べられなかったせいだ。食べ物に手を出すよりも「一緒に写真を」の声がけのほうが圧倒的に早かった。あまり他人の写真に写り込みたくない蒼生は逃れる方法を模索したのだが、なんとか蒼生と撮りたいというクラスメイトたちの執念に負けたのだった。
そこで健太の携帯がぶるぶると震える。健太はポテトをつまむ手と反対の手でちらりと画面を見ると、そのまま伏せて再度ポテトに集中しはじめた。ほうれん草を口に運ぶ途中の蒼生がそれを気にする。
「メッセージ? 返事しなくて大丈夫なの?」
「あー、なんか卒業式後に告白したらうまくいったぜって報告と、写真。あとでゆっくり返信するわ」
どうやら駆け込みでの告白があちこちで行われていたらしい。かつて冬矢が「ラストコール」と称したあれだ。そういえば中学の時は結構あったな、と蒼生は思い返す。実は今日も数件対応したところだ。さんざん恋人いますアピールはしていたのだが、それでも最後だからどうしてもというパターンはあるようだ。昔はそれもしんどかったが、断る理由がきちんと出来てからは少し楽になった。
「冬矢は今日忙しかったみたいだね」
式の前と後と、クラス会の前と。おそらくあのままクラス会に付き合っていたら、おそらく数はもっと増えていただろう。
「途中から断り文句を文書にして配布しようかと思ったね。1人だけ男子も来たよ」
「へぇ。文書か、ちょっと面白いね」
「……待てよ、よく考えたらオレのとこは友情系の奴しか来てねえな」
「本当は声かけたかった人もいたと思うよ? でも、健ちゃん、ずっと人に囲まれてたから」
冬矢はやりとりのあれこれを思い出して息をつく。やはり蒼生のように恋人の存在を明らかにしたほうがよかったのかもしれない。今日は1日蒼生とずっと一緒にいるつもりだったのだが、最後にあれほど連弾を食らうとは思ってもみなかった。しかもその最後が後輩の男子生徒だった。
「……正直さ。同性同士って、蒼生のことが好きだって自覚するまでは思いつきもしなかったんだよな」
寄ってくるのは女の子ばかりだったから。
健太も頷く。
「ああ、それはオレもそう」
「そうなんだぁ」
「蒼生のことだって、別に同性だからどうって思ったわけじゃなくて、蒼生が蒼生だったから好きになったわけだけど」
「あ、ありがと」
「わかるわかる、男とか女とかじゃねえんだよな、蒼生なんだよな」
「なんだなんだ、ふたりして急に」
蒼生は赤くなった頬を隠すように、皿の上のほうれん草にフォークを突き立てる。が、健太は遠慮なくテーブル越しに距離を詰めてくる。
「蒼生もそうだった?」
んー、と蒼生は少し困ったように、ほうれん草を頬張る。咀嚼して飲み込み、それから小さく首を振った。
「僕は……そういう恋愛の形があることは結構前から知ってたし……。読んでた本に同性の恋人がいる登場人物がいて、なるほどそういうこともあるよねって理解したんだ。だから、ふたりに好き……って言われたことに特に疑問は抱かなかったよ」
「そっか、蒼生は男子にも告白されてたんだもんな」
「知識としては、それよりもずっと前からかな。だから、その、なんだ。えーと、……どうやって、や、やるのか、も、知ってた、し」
がたり。明らかに動揺した様子の健太と冬矢が、固いソファの背にぶつかった音だ。
蒼生はコップの水を一口飲む。
「だけど、まさか自分が誰かとお付き合いして……そ、そういうことになるなんて思ってもみなかったからなあ。あ、これは男女に関わらず、ね」
健太が冬矢をちらりと見る。冬矢は一瞬目をそらし、考え込む表情で健太に視線を戻す。それに気付いた蒼生はきょとんとして二度瞬きをした。
「なに?」
「……実は、俺たち、ずっと蒼生に聞けなかったことがあって」
「うん?」
「その、色々な、勉強してたわけだ、オレたちも。んで、そういうことって、最初っから気持ちよくなるの難しいですよ~、って学んでたんだわ」
「えっ」
「それに、すぐには繋がれないだろうって覚悟もしていたんだよ。何回か時間をかける覚悟はあった」
初耳が立て込んで、混乱しそうになる。まず、ふたりが蒼生のために勉強してくれていた、これはたしかに初耳だ。だが、道具の準備や落ち着いた手順を考えると、そうなのだろうと思っていた。それはいい。問題はもうひとつのほうだ。つまりその行為において、「最初から気持ちよくならない」だの「すぐには繋がれない」だのというひとくくり。
「待って待って、え、そうなの?」
「だから、ちょっと、あれ? って思ってたんだよな。もしかして演技だったのかな、あるいは初めてじゃなかったのかなーって」
「や、あの、まず、え、演技じゃないよ、あっ、あんなに、その、……かっ、感じたのはあれが初めてで!」
健太と冬矢がずい、と近付く。
「じゃあ……えっち自体初めてじゃなかったほう……?」
「ご、誤解! 大きな誤解がある! 正真正銘初めてでしたよ! わーびっくりした、その誤解はびっくりするわぁ!」
慌てて否定するが、不安そうなふたりの表情は変わらない。
実際、蒼生が参考にした動画に出ていたのは慣れた人たちだったのだろう。だから最初から気持ちいいものなのだと勝手に思い込んでいた。準備の手順は何度も確認していて、それ自体に根気がいるというのは理解していたものの、それが感覚の準備にも当てはまるとは考えもしなかった。そうか、感覚の準備を長年かけてやっていた結果か。
蒼生は両手で顔を覆う。
「あー……のね? 落ち着いて聞いてほしいんだけど。初めてそういう恋愛の形もあるんだって知った時にね? そういう方法で、本当に気持ちよくなるものなのか興味が沸いちゃってね? ……自分で……その……指使って……確かめようとした、っていうか……少しずつそうやってったら……結果的にはそれが、その、いわゆる……開発? になってたみたいで……」
「えっ、知った時って」
「だからその……ちゅーいち? くらい、から」
「!」
「特に、お付き合いを始めてからは、いつそういう雰囲気になってもいいように、ちゃんと準備を始めまして」
指の隙間から見ると、健太と冬矢は表情に困っているようだった。だよねえ、と蒼生は心の中で同意する。自分は前のめりにはなっていないぞとずっと言い聞かせていたが、実はきっかりその気がありました、というのを露呈した形だ。
「はい」
「何でしょう冬矢さん」
「つまり、俺と出会った頃ってもう」
「……そうですね」
「えっ、じゃ、あの事件の時って」
「あのままだったら割と結構すんなりいけちゃったのかもしれないので、今考えると大ピンチでしたね」
はー、と長い吐息。
「マジ助けられてよかったやつじゃん……」
「俺も傷害罪で捕まるところだった……」
「その節は本当に……」
健太と冬矢に、2年越しに改めて安堵感が押し寄せる。それは大事に至る前に救えたこともそうだし、蒼生が冗談を言うようにそれを口にしたことに対しても、だ。
少々沈黙が降りたあと、健太が「ん?」首を傾げる。何事かと思う間もなく、ばっと顔を上げ、その勢いで蒼生の顔を覆う両手を掴んで外した。驚いたような蒼生とばっちり目が合う。
「今気付いちゃったんだけど。それってさ、手ぇ出していいタイミング、ずいぶん前からあったってこと?」
「……結論から言うと、そういうことになりますね……」
「マジか……。たくさんチャンス逃してたんだな」
「あ、でも、あの時期はあの時期で楽しかった気がする。そわそわしたり、どきどきしたり、いつ、た、食べられちゃうのかなって考えてうわーってなってた……」
「うわーってなってたか~。なるほど~」
考え込むようにしていた冬矢は、姿勢を整えて座り直し、腕を組む。
「蒼生の好奇心は時々想像を超えるし、弾かれたみたいに飛んでいくことがあると思ったけど。そこにも働いてたのか」
「いざという時には度胸ある奴ってそういうとこ怖いな」
「だ、だって気になるじゃん」
蒼生の言い分もわからないではない。自分にもある器官で知らない感覚を味わえると知ったら、興味が湧いても不思議はない。ただ、それを確かめることは結構勇気がいると思う。穏やかでふわふわで消極的な蒼生が、よくそこに踏み出したうえに、継続してここまで自らを育てたものだと素直に感心する。
「少なくともオレは蒼生の姿見て、そうか気持ちいいのかぁ、とは思ったけど、試そうとは考えなかったぜ」
「うーんとね、なんかね、出来ちゃったんだよ。勢いで」
健太と蒼生はタイプが違うし、そこに至るまでの考え方も違うが、こうと決めたら飛び出していくところは似ているのかもしれない、と冬矢は心の中で深く頷いた。
それからふと考えて、蒼生の腕に緩く触れる。これから運ばれてくる料理のことを考えて皿に手を伸ばすかどうか迷っていた蒼生は、ん? と不思議そうに冬矢を見た。
「あのさ。そういうのに興味を持ったってことは、蒼生って、もともと男性が好き……とか?」
蒼生は大きめの瞬きを何度かして、うーん、と首を捻った。
「実はさ。僕もどうなんだろうなって考えたことがあるんだよね。……だけど結局わかんなかった。男女とか関係なく、告白が嬉しかったことは一度もなかったし、気になる人とか一切いなかったし、誰かを好きだって思うことなんか一瞬もなかった。本気で、人を好きになる気持ちが欠けちゃってるのかなって思ってたくらい」
だから、と蒼生は言葉を継ぐ。
「……好きになったひとは、健ちゃんと冬矢だけ。だからわかんない。さっき、ふたりは僕が僕だから好きになったって言ってくれたでしょ。僕も一緒。ふたりが……ふたりだけが僕にとっての特別なんだ」
ふわっと笑う。
健太は胸を押さえて机に突っ伏し、冬矢は思わず蒼生の腕を強く握り締めた。
「チーズクリームとサーモンのパスタのお客様~。こちら白身魚の甘酢あんかけ定食と、彩り野菜のキーマカレーです~。ローストビーフのサンドイッチはどちらに置きますか?」
パスタをあっという間に片付け、蒼生は大きく息を吐いた。
「あー、ようやく人心地ついたぁ」
「珍しいよね、蒼生がそんなに量食べるなんて」
なんなら中央に置かれたサンドイッチにも挑もうとしている。聞かれてからちょっと考え、結局サンドイッチを手に取る。
「なんだろうなあ。もしかして開放感を味わってるのかもしれない」
「ふーん。なるほどね」
普段の食事量は、蒼生と冬矢ではさほど変わらない。冬矢が満腹感を覚えているのに、まだ蒼生に余裕があるのは、おそらくそういうことなのだろう。後で苦しくならなければいいのだが。
それにしても中央の皿の減りが少ないような気がする。冬矢は大食漢の健太のほうを窺った。すると、なにやらスプーンを握ったまま机の下でごそごそとやっている。
「どうした?」
声をかけると、健太はちらりと蒼生を見てから、冬矢に携帯の画面を見せた。そこには、花壇に腰掛けて笑っている学ラン姿の蒼生。まさか、こいつ。
「なになに?」
蒼生が気付いて横から画面を覗き込み、ぴたりと動きを止める。
「……健ちゃん。一応意図を聞いても?」
「中1の蒼生」
ぐっ、と呻いて、蒼生が再び顔を覆う。
「こんなさー……きらきらで可愛い笑顔でふわふわしててまだ背もちっちゃい蒼生が……」
「そっ、想像するのやめて……」
「はあ、タイムマシンがあったらなあ……。この頃の蒼生にもう一度会って、オレが最初から一緒に開発してあげたい」
「おまえ、ちょっと外出て捕まってこい」
「冬矢だってこの頃の蒼生抱き締めて撫でていいって言われたらするだろ!」
「もちろん。言われなくてもする」
「……もしタイムマシンがあったら、僕はさっき時期まではっきり告げた自分を止めに行くと思う……」
冬矢は健太から携帯を受け取り、画面をしげしげと見つめる。少しサイズが小さくて粗めの写真は、携帯を変えた時に移したものだからだろう。それでも、呼ばれて振り向いた瞬間なのか、柔らかで暖かい表情からは蒼生の喜びの感情がはっきりと伝わってくる。きっと健太が撮った写真だ。蒼生がこんな表情を見せるのは、かつては健太に対してだけだったはずだから。
少なくとも、この頃にはお互いのことを思っていたのだろうなと思う。羨ましいが、どうしようもない。それこそタイムマシンでもない限り。
「……健太は蒼生と赤ん坊の頃から一緒なんだろ。恋愛感情はいつからあったんだ?」
「自覚した時期は高1だけど」
「それは知ってる。そうじゃなくて、今から思い返してみて、いつ頃っていうのがあるんじゃないか」
そうだなあ、と健太は腕を組んで天井を見上げる。
「広い意味で好きだったのは、たぶんずっとなんだよな。むしろオレの人生は“蒼生が好き”で構成されてんじゃねえかな」
冬矢の視界の端で、蒼生が顔を覆ったままびくんと肩を震わせた。
「恋愛感情ってのがはっきりこういうもんだってオレもよくわかんねえから、切り替わったのはいつなのか、はっきりとは言えねぇや。でも、えっちしたい、って思ったのはマジ告白する直前だったな。ただそれも今から思えばって話だよな、その頃オレやり方も知らなかったんだからさ。だから、なに? ただ触れたいっていうの? そういうやつ」
蒼生はじんわりと指先が痺れる感覚を覚えていた。健太にはそのつもりはないかもしれない。だが、これは壮大な告白だと思う。何度目かもわからない、告白だ。人生が、好き、で構成されているだなんて。健太は時々計算せずにこんなことをさらりと言い放つから、本当に心臓に悪い。
その様子を見ていた冬矢には、蒼生の心情がわかる。相手が健太でなければちょっとした乱闘になっていただろうなと思いつつ、やはり悔しいので少し意地悪を言う気になった。蒼生と付き合う前、散々他の子と付き合っていた口で何を言っているんだ、という気持ちを込めて。
「そうだよな、最初は同性で出来るのかって悩んでたもんな。じゃあ、それまでの自慰のネタは女子か」
「いや、蒼生」
は?
その驚くほどはっきりした即答に、冬矢は怪訝な顔で健太を見つめ、蒼生はぱっと顔を上げて思わず冬矢の腕にすがりつく。
「……いつから?」
「いつ、ってか。最初はグラビアとか眺めて、こんな子と気持ちいいこと出来たらなって思うんだけど、いつの間にか、蒼生だったらどうするかな、蒼生だったらどんな顔するかなって考えちゃって、気付いたら蒼生のことしか考えてなかった」
「なるほど? 女子と付き合いながら? 考えるのは蒼生のやましい姿だったって?」
「ただ、今考えると可愛い妄想だったよな~。実際はもっと、こう」
「おまえヤバいな……」
「えぇー……」
「いや頼むから蒼生は引くなよ!」
そう言われても。
ただ、それをもっと早く言ってほしかったな、とも思う蒼生だ。健太の話をまとめれば、ずっと前から蒼生とそうなりたいと思っていた、ということだ。それがわかっていれば。きっと、もっと。
……でも。
そうしたら、冬矢とは付き合えていなかったかもしれない。健太が好きだ。だが冬矢のことももちろん好きなのだ。
「あの、さ? 冬矢は?」
「俺?」
「うん。冬矢はわかる? ぼ、僕のこと……その、いつから好きでいてくれたの?」
「……俺は……いつだろうな。好きだと思う前に、蒼生のことが好きだって気が付いたから」
え、と短く呟いて、蒼生がぴしりと固まった。ぱっと頬が朱に染まる。
その様子に思わず笑みがこぼれ、冬矢は指の背で赤い頬を撫でた。
「かぁわい……」
縋り付いてきたままの手がきゅっと握られたのも可愛い。驚いたような目が、そらせなくなっているのも可愛い。触れた頬が熱いのも可愛い。触れた途端に纏う空気が柔らかくなったのも可愛い。
瞳が、指先が、表情が、自分の声と言葉に「気持ちいい」と訴えてくる。こんな蒼生を見ていると、それ以外のことがどうでもよく思えてくる。テーブルの向こうにいる相手に抱いていた小さな劣等感さえ。
とん、とん。
蒼生ははっとして音のしたほうを見る。健太が拗ねて、指の節でテーブルを叩いた音だ。すっかり冬矢の言葉に吸い寄せられていた蒼生は、おずおずと手を離して照れたように笑う。
「はー。よくもそんなキザったらしいセリフが出てくるもんだよなあ……。こういう奴だから女子もほっとかなかったんだろーな」
それを聞く冬矢は涼しい顔だ。
「何を言ってるんだ? 俺は本音しか言っていない。第一、こんな言葉が浮かんでくるのは後にも先にも蒼生にだけだ」
「は? マジ?」
「気の利く言葉ひとつ言えなかったよ、蒼生に会う前は。俺は、蒼生と出逢って初めて、世界には色があるんだって知ったんだ」
「とぉや……」
ばさっ。
健太があえて大きな音を出すように立ち上がる。目を上げるふたり、いや冬矢を見て、自分が座っていた場所を指した。
「おい、交代」
「なんで」
「今度はオレがいちゃいちゃするから」
「へっ?」
冬矢は小さく息を吐き、いちゃいちゃしている自覚はなかったらしい蒼生の頭を優しく撫でてから席を立つ。
「まあ、こっちは真正面から蒼生の顔を見られるからね」
「そ、そう言われるとそっちもよかったって気になっちゃうだろ」
「戻りたければいつでもどうぞ」
うう、と唸って、健太は空いた蒼生の隣に勢いよく座る。と、そのままぎゅうっと蒼生を抱き締めた。そして、ふたりが抗議の声を上げるよりも早く手を離すと、きちんとテーブルに向かって座る。なにやらよくわからなかったが、どうやらそれで少し落ち着いたらしい。サンドイッチに手を伸ばすと、一切れをまるごとひとつ口に放り込んだ。
「結局、オレも冬矢も気付いたら蒼生のこと好きだったってことなんだろーな。蒼生は?」
「……やっぱり僕にも聞くよね。でもたしかにさ、好きだって自覚してから思い返すと、明確な始まりってなかったのかなあって思う」
「だよな……」
付き合ったのがそうだとすれば「始まり」はそこなのだろうが、気持ちはずっと前から続いていたのだから。
「じゃあ、あれは?」
「あれって?」
「ひとりえっちの話」
「えっ」
蒼生は壁にぶつかるほどの勢いで飛び退いた。
「無理無理無理、ここでその話は出来ないよっ」
「えー、オレの話は聞いたじゃんっ!」
「聞きたいって言ってないぃ!」
「聞かせて」
「やだっ」
「なあ、お願い」
「無理だってば」
店内なので小声で言い合うが、いくら言っても健太はどうしてもそれが聞きたいらしい。とはいえ蒼生もさっきの失言があるので、これ以上の燃料の投下は危険だと思っている。何度も同じやりとりを繰り返した結果、折れたのは健太だ。
「……わかった。じゃあ、具体的な話はいいから、なんかエピソード教えて。オレが思わず引き下がっちゃうようなやつ」
さて、これは折れたと言えるかどうか。蒼生は困った顔をする。
「エピソードって、そんな、物語性を求められても……」
蒼生はちらりとテーブルの向かいに座った冬矢を見る。もちろん、助けを求めるためだ。こういう健太が暴走しがちな時、冬矢は止めてくれる。はず。だった。
目が合った冬矢は、黙ってにっこりと笑った。
ええ……と声にならない声が出る。まさか、あっちまでそれを聞きたがっていたとは。蒼生は、はあっと息を吐いた。
「……何の面白みもないけど、ちょっと印象が強かったなって、ことなら……」
膝に手を置き、そこに目を落として、さらに声のボリュームも下げる。周りに人はいないとはいえ、さすがに声は張れない。
「あの、さ。僕の部屋って、健ちゃんの部屋から見える窓、あるでしょ。いつだったかな、お付き合いはしたけどまだ……な頃。えっと、夜、その、ひとりで部屋で、し、してる時、窓のほう見てたんだけど、もうちょっとで一番気持ちよくなりそうって時に、『電気ついてるからまだ起きてるだろ』って健ちゃんからメッセージがきて、……その瞬間に……ってことが、あった」
「……同じ窓を見てたから?」
「カーテンしまってるから見えるはずないのに、み、見られてる気がして……」
「…………」
「そういうタイミングの良さって冬矢もあって、そういうの、してる時にメッセージが届くことが多かったんだよね。そのせいか、電話して、切った後で、声思い出してつい、……ってことも……」
「…………」
しーん。向こうの方、大声で話す人たちの笑い声と、店内のBGMだけが聞こえる。無反応だな、と思って蒼生はちらりと目を上げた。すると、じっと下を見る健太と、遠い窓の外を眺める冬矢の姿。
「ほ、ほら、引くから言いたくなかったのに……」
すると、地を這うような健太の低い声。
「いや、引いてねぇんだわ。逆なんだわ」
冬矢もやけに無機質な声で。
「ちょっと今円周率が50桁越えたところだからちょっと待って」
あ。蒼生はぴんと来てしまう。
「……あの、なんか、ごめんね?」
「お待たせしました~。ストロベリーティーとホットコーヒー、ジャスミン茶です~。こちらそれぞれポット熱くなっておりますのでご注意くださ~い。あとこちら、ごろごろステーキの贅沢ハンバーガーです~」
蒼生と冬矢は、健太の前に置かれたインパクト抜群のハンバーガーを戸惑った目で見つめた。チェーン店で出てくる、食べやすさに特化した小ぶりなものではない。テレビでよく見る専門店の、レポーターがナイフとフォークを使って食べているような、むしろどう手で食べさせるんだというレベルのハンバーガーだ。健太は、それをそのまま両手で持ち上げた。
「いただきまーす」
どっちに突っ込めばいいのだろう。まず、そのサイズを手で食べられるのかということだが、これはどうやらちゃんと出来ているらしい。次に、ここでこの量? である。健太は立食パーティーでも臆さず料理に手を出していたし、さっきまであれだけ食べていたのに。ただ、美味しそうに頬張っているからそれも愚問なのだろう。
「よく食べられるねえ……」
開放感で普段よりイケる、と思っていた蒼生も、この勢いは真似できない。少なくともしばらく休憩が欲しいなと考えていたところだ。
健太はにこにことバーガーの質量をみるみる減らしていく。
「美味しいよ」
「よかったねえ……」
「さっきサンドイッチ食ったじゃん? なんかパンの勢いがついちゃったんだよな」
「勢い……?」
不思議そうに蒼生が首を傾げる。冬矢は諦めたように首を振った。
「たぶん胃の構造が俺たちとは違うんだろ。……それより、苺のいい香りだね」
「うん。冬矢のお茶もいい香り。和むなあ。ここってお茶のバリエーションが多くて好きなんだ。そういえば、アフタヌーンティーみたいなのやってる時期もあるんだっけ。今日はやってなくて残念だったな」
「ここのってそういう名前なだけで、フルコースレベルの料理が出るって聞いたよ」
「え、そうなんだ。でも健ちゃんがいれば余裕でしょ」
「たしかに」
笑い合って、暖かいほっとする香りを胸いっぱいに吸い込む。冬矢が半分ほどを飲み干すと、蒼生はまだゆっくりとカップに唇をつけるところだった。紅の液体をじっと見ていた瞳。それがふとこちらを見て、またふわりと和らいだ。冬矢の表情も緩む。
あ、と蒼生が声を上げた。
「引っ越しの準備って終わった?」
「ああ。もう少しだな。洋服はとりあえず春先に着られるものだけ箱に詰めた。そんなに収納もないし、夏の分は送ってもらおうかなって思ってる。落ち着いた頃に改めて考える感じかな」
「へえ……」
蒼生はようやく、こくりと一口飲み込む。喉から胸の辺りまでが暖かくなった。
「あとは普段使ってるような小物をこれからまとめるところ」
「冬矢は引っ越し慣れてるもんね」
「気持ちとしてはね。ただ繰り返し引っ越してたのは小さい頃の話だし、自分で支度するのは勝手が違うなって何度も思った」
そうか。小学生の途中からはずっとここで暮らしていたのだったか。なるほど、それまでは手伝いはしても、冬矢自身が作業するということはなかったのだろう。
冬矢はカップを置き、指を組んだ。
「そういう蒼生は、順調?」
それに対して、わずかに考えるようにしてから蒼生が頷く。
「たぶん、順調、だと思う。なにせ本当に初めてだから、いるものといらないもの分けて考えてたんだけど。いるもの、とは? みたいになっちゃって。日用品以外がほとんどないかもしれない。本の他は」
ふふ、と冬矢が笑う。本の選択肢が抜けないところが蒼生らしい。
「日用品だって、いずれ新しいのを買いそろえていこう。せっかくだから色違いの同じものとか、並べたくない?」
蒼生はぴんっと背を伸ばす。
「並べたい!」
「だよね。最初は節約しなくちゃいけないから仕方ないけど」
「うん。いいなあ、そういうの」
ぱん、と乾いた音がした。
「ごちそうさま~」
「えっ」
手を合わせた健太の前を見ると、付け合わせまで完全になくなった綺麗な皿が1枚。目を離していた隙の、あっという間の出来事だ。
呆気にとられていると、健太が合わせた手をそのまま蒼生のほうに向ける。
「……蒼生さん。明日から引っ越しの準備、手伝ってください」
「ふふっ。はーい。なんかそんな気はしてました。もしかして全然やってないの?」
「全然ってことは……ない……と思うんだけど」
しどろもどろの様子を見るに、ほとんど終わっていないのだろう。幸いにして、まだ少しは日程に猶予がある。ふたりがかりでやればなんとかなるだろう。
蒼生は白いポットから、おかわりの紅茶をつぐ。
「それにしてもさ。大学からそんなに離れてないし、買い物とかも比較的しやすそうだし、いい物件見つかってよかったよね。相場よりちょっと家賃高いけど」
健太が深く頷く。
「そこは、これから3人で頑張っていこ」
「うん」
「家賃、引っ越し代、家電一式に入学金に授業料に……ある程度は餞別で免除してくれるとは言うけど、親への借金が結構あるからな。まあ、延滞料が取られないだけよかったよ。地道にやっていこう」
「コツコツ貯めたバイト代も吹っ飛んだしな」
ふと、蒼生が顔を曇らせる。
「……ふたりは僕に合わせなくてよかったのに。最初にかかるお金は全部出してくれるって言われたんだよね」
健太と冬矢は顔を見合わせる。頷いた冬矢を見て、隣の健太が冬矢の分も合わせてぽんぽんと蒼生の頭を撫でた。
「いいんだよ。どうせ一緒に暮らすなら、同じ条件で始めたかったんだ」
「そうそう。それに、今まで貯めてた積み立ては渡してくれるって話なんだろ? オレたちのほうもなんだかんだこっそりカンパはくれるって言うし、なんとかなるって。大丈夫大丈夫」
「……うん」
落ちた視線が戻らない。
健太は、腹に力を入れると、蒼生の肩をぐいっと強めに抱いた。
「それにしてもびっくりしたよな! 最初、蒼生ってば別々の部屋がいいとか言い出すんだからさぁ!」
「そうだな、あれは問題発言だった」
「だよな!」
明らかにわざと一段階明るい声を出すふたりに、蒼生ははっとしたように目を上げた。そうだ。新しい生活が始まる中で、ふたりの気持ちを沈み込ませるわけにはいかない。重い荷物になりたくない。何度も自分にそう言い聞かせてきたじゃないか。切り換えて、すう、と大きく息を吸う。
「だ、だって。いろいろ時間がずれたり、たくさん勉強しなきゃいけなくて、だったらひとりになる部屋がいるんじゃないかなって思ったんだよ。そのほうが迷惑かからないかなって」
「それはスペースをうまく区切ればいいはずだ。少なくとも寝室はひとつで十分だろう」
「そうだぞ、憧れの大きいベッド、めちゃくちゃ重要じゃねえか!」
少々話の流れがおかしくなってきたようだ。蒼生は首を捻る。その主張はまるで一緒に住むというよりも。
そうだ、と蒼生は少し背を伸ばす。聞きたいことがあったのを思い出したのだ。
健太の腕をそっと叩く。健太の腕は肩から下りて、……腰に落ち着いた。ん? と思ったが、とりあえず気にしないことにする。
「うん、間取りは、僕も最終的にはそれでいいと思ったわけだけど。でも、ちょっと聞きたいことがあって」
「なに?」
「もうちょっと安くて、大学にも近くて、広さももっと広いとこあったじゃん。なのにふたりしてほぼ同時に却下したよね。あんな便利で条件良さそうなとこ、なんで駄目だったの?」
健太と冬矢は、真面目な顔で声を揃える。
「壁が薄かったから」
「防音効果が薄かったから」
おや?
蒼生は反対側に首を傾ける。なにやら同じようなことを言われた気がするが、同時にちょっと違う言葉を言われたので理解が出来なかったようだ。改めて。
「ごめん、もう一回言って」
「防音が弱かった」
今度は言葉もぴったり揃う。なんとなく察してしまいそうな自分に首を振って、蒼生は頭を整理しようとする。が、健太と冬矢は気にする様子がない。
「防音は大事だよな」
「ついでに外気の影響も受けづらいのもある。一番は防音だけど」
「暑かったり寒かったりしたらいけねぇもんな。なにより防音だけど」
「……なんでこういうところは意見が合うのかなあ」
冬矢が健太を見て小さく笑う。健太は蒼生を見てきょとんとする。
「そりゃあ心ゆくまでセッ」
蒼生は両手で勢いよく健太の口を塞いだ。
「いちごたっぷり大きなパフェ、おまたせしました~。ごゆっくりどうぞ~」
脇に乗った半分サイズの苺にクリームを纏わせ、蒼生はほくほく顔で口に放り込んだ。
「あー。好きな生クリームのやつ……」
健太はちらりと覗くバニラアイスごと大きく掬い取る。
「クールダウンは大事だよな~」
そのふたりを見比べた冬矢は、目を細めて花びらのようにカットされた苺を口にする。
「蒼生は、本当に苺が好きだね」
言われた蒼生は動きを止めるが、すぐに「あっ」と声を上げた。
「苺かぶりしてる」
「好きなものを選ぶと、そうなることあるよな」
冬矢はまったく気が付かなかったらしい蒼生に笑いかけ、頂上に乗っていた一番大きな苺をスプーンで掬う。そしてそれを蒼生の前にある小さな皿に置いた。
「え?」
「健太が端からすごい勢いで侵食してきてるだろ。落ちちゃうからここに置いておくね」
「僕が食べていいの?」
「もちろん。蒼生のだよ」
「食べきれないならオレがもらってもいいけど」
「や、やだ」
さっと蒼生が皿を引く。その幼い表情に、健太と冬矢はドキリとする。視線に気付いた蒼生が照れて顔ごと目をそらしたせいで、一瞬しか見られなかったが。
その仕草のせいで、スプーンが蒼生の頬に触れた。
「あ。クリーム、ほっぺについてんぞ」
「え? どこ?」
「左のちょっと下のほう。舐めてとっていい?」
「は?」
健太の冗談をさらりと笑って流し、蒼生は左手の親指で頬をぬぐう。そこに白いものが付いたことを確認すると、唇に擦り付けるようにして舐めた。それから紙ナプキンで改めて頬と指を拭く。
それをじぃっと見ていたふたりの長い息が、はあぁ、と重なった。
「? どうしたの?」
「……翻弄されてるわあ」
零すような健太の声。
「可愛い顔見せたかとおもったら、色っぽい仕草するんだもんなあ……」
「これが無意識なんだっていうんだからね」
一体何を言い出したのか咄嗟には理解できず、蒼生は困ったようにふたりを交互に見る。その戸惑いに気付いた冬矢がにやりと笑った。
「蒼生は、本当に気持ちいいよね」
その意図を汲まないまま、健太は素直に頷く。
「わかるわかる、こういう仕草の何気ない可愛さもだけどさ、なんかめちゃくちゃ気持ちいいよな」
「いつも、思わない? これが、肌が合うってことなのかなって」
「あー、そういうやつな。ってか、その言い方すげえな、すごくよく伝わるわ」
「初めての時驚いたよな。気持ちも体も、ぴったり、しっくりきてさ」
「うん、うん。満たされ感すごいよな」
「違うベクトルの気持ちよさが両方ある感じで」
そのあたりになると、さすがに蒼生にも話の内容が見えてきた。それ故に逆に口を挟みづらくなってしまい、ひたすらストロベリーアイスに生クリームを重ねている。蒼生の表情を覗き込むように窺っていた冬矢は、テーブルの下で足を延ばし、蒼生の足の間にそれをねじ込んだ。
「……っ、冬矢……っ」
「聞いてる? 蒼生に触れるの、すごく気持ちいいねって話してるの」
「き……きいてる……」
ちら、と蒼生が目を上げる。
時々、冬矢はそれを口にする。触れながら、初めてだよ、気持ちいいよ、と何度も告げる。蒼生はそれを嬉しく感じながら聞いていたのだが。
「あ、の。……男女で、その、そんなに違うもの?」
健太は蒼生の腰を掴む手に力をこめる。
「オレにはどうこう言えるほど経験ないからあれだけど、なあ。冬矢先生?」
意地悪な顔をしていた冬矢が、ふっと雰囲気を和らげた。
「ああ。たぶん、そういうことじゃないと思うよ。本当に好きな人と肌を重ねるのは違うっていう話」
「そうなの……?」
「うん、全然違う。蒼生は他の人としたことがないからわからないかもしれないけど」
「ふぅん……」
会話に間が空いた。
蒼生は、健太と冬矢の熱しか知らない。触れたところから、すべて溶ける温度しか知らない。どろどろに融けた、甘い空気しか知らない。
冬矢が靴の先で、蒼生の踵を軽く叩いた。
「あーおい?」
びくっと蒼生が肩を震わせる。
「何考えた?」
「えっ? や、あの、その」
「試してみようとか考えたりしなかったよね? その振り切れた好奇心が顔出したりはしてないよね?」
「ん? 蒼生、そんなこと考えてるの?」
「えっえっ」
不穏な空気の冬矢と、珍しく目の据わっている健太に距離を詰められ、蒼生は思わず体を引こうとする。が、冬矢に足をかけられ、健太に腰を掴まれているので逃げ場がない。慌ててぶるぶると手と頭を振る。
「しないしないしない、無理無理無理っ! 絶対無理だからっ!」
「ふーん……」
そのまま頭を振り続けると、ようやくふたりの力が緩んだ。
はあっと息を吐いて、蒼生はくったりと健太の肩に寄りかかった。健太が笑う。
「ごめんごめん。ちょっとからかいすぎた」
「うー」
蒼生は適当に返事をして、置いたスプーンに手を伸ばす。アイスはだいぶ融け始めていた。それをソースのように苺に絡めて口に運ぶ。
そしてぼそりと呟いた。
「……なんか今日、えっちの話ばっかりしてる気がする」
健太は苺にフォークを刺す。
「たしかにそうかもな。でもさ、これからは周りを気にせずにずーっといちゃいちゃ出来るんだぜ? テンション上がっても仕方なくね?」
足先で蒼生にちょっかいを出したままの冬矢が頷く。
「そう。たとえば1日中延々蒼生のこと舐めまわしても誰にも止められない」
「……えっ。そ、それはさすがに僕が止めると思うけど!」
「そっかー。24時間耐久、とかも出来るんだ」
「いきなり加速しないで、それだいぶスピード違反だよ!?」
むぐぐ、と蒼生が唸る。
「僕らはあくまでも、勉強をするために行くのであって、そういう、やましいことが目的じゃないっていうか……」
冬矢が片手で頬杖をつく。
「俺が同棲を提案した時、即答でOKしたの蒼生だろ」
「うっ。……い、一緒に暮らそうって言われたけど、ど、ど、同棲……っ」
「恋人同士が一緒に暮らすなんて同棲以外の何物でもないじゃん」
改めて口の中で、同棲、と呟く。そうか。急に実感が湧いてきて、ぽーっと顔が熱くなる。
まっすぐ自分に向けられる健太と冬矢の笑顔が眩しくて、胸の真ん中あたりがきゅうっとなった。
ふたりと。
これから。
一緒に。
「持ってるものすべて捧げるつもりで可愛がるから」
「そ。覚悟しろよ」
「……なにとぞ……お手柔らかに……」
少々自分の体が心配になる蒼生だが、心はふわっと温かい。
健太が左手に触れる。冬矢が右手に触れる。
「これからもずーっと一緒にいような」
「蒼生のこと、ずーっと大切にするからね」
「……うん。よろしくお願いいたします。……僕も、ふたりのこと、ずーっと離さない、から」
嬉しい。
けれどちょっと照れ臭い。
蒼生は、そっと手を引っ込めると、取っておいた大きな苺にかじりついた。
「ありがとうございました~。またのご来店をお待ちしております~」
健太が大きく伸びをする。
「結構食ったなぁ。蒼生、夕飯も食べてくるって言ったんだろ?」
「うん」
「じゃあ夕飯買い込んで冬矢の家行こうぜ」
「うん?」
冬矢は信じられないものを見る目で健太を見た。
「……もうすぐ夕方だぞ。あれだけ食べて、数時間後に夕飯いけるか?」
「いけるだろ。体力使うし」
蒼生はピンと来た様子だ。けれどあえて黙って話の続きを待つ。
「さてはおまえ、最初からそのつもりだったな」
「冬矢だってしたいだろ、最後の現役制服えっち」
想像通りのセリフが健太の口から出た。あまりに思った通りで、思わず蒼生は笑ってしまう。
「それは、俺も当然。……蒼生は? 大丈夫?」
冬矢の心配そうな優しい口調がくすぐったい。
「制服、あんまり、汚さないでね?」
言うと、健太の背筋がぴんと伸びた。
「な、なんかものすごいえっちな言葉に聞こえてきた……」
冬矢は少し意地悪な顔で笑う。
「……それじゃあ蒼生にはいっぱい我慢してもらわなきゃね?」
「僕にいったい何をさせる気なんだろ」
蒼生は、ふふっと笑い、ふたりの腕に自分の腕を絡ませる。
影はひとつになって、長く長く伸びたまま、道の向こうに消えていった。
「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」
「どこにする?」
「そうだな……あの柱の陰のところはどうかな」
「うん。すいててよかったね」
「ランチの時間過ぎてるから、ちょうどよかったのかもしれない」
ふたりはそんな会話をしながら、店の奥のほう、壁際で少し広めの席に向かう。席数の多い店の中では客の姿もまばらで、多少盛り上がっていても迷惑はかからなそうな雰囲気だ。少なくとも、同じ制服は見当たらない。
蒼生がソファの奥の席に座ると、冬矢も迷うことなくその隣に座った。それを一瞬あれっと言うような顔で見た蒼生は、すぐにふんわり微笑んだ。
「そういえば冬矢、卒業証書は?」
「荷物になるなと思って、家にいったん戻る父さんに渡した。母さんは午後から仕事行くっていうから」
「お父さんもその足で赴任先に戻るんでしょ。忙しくて大変だよね」
「年度末だからね。でも、蒼生も式の後ご両親と話してたじゃないか。持って帰ってもらえばよかったのに」
「たしかに、そうすればよかったなあ。みんなで写真撮るとか言うから一応持っておいたほうがいいかなと思ったんだけど、結局そんなに必要なかったね」
はあっと息を吐くと、蒼生は胸元の造花を引き抜いた。冬矢はとっくに外していたようだ。
「最終的にほぼクラスの集合写真状態になってたもんな。立食パーティなんて、食べた気にすらならないよ」
「だよね」
うんざりしたような冬矢に頷いて、蒼生はテーブルの端に立ったメニューに手を伸ばす。それをぱらぱらめくりながら、ゆっくりと背中をそらせた。
「ああ、疲れたぁ。卒業式終わって即クラス会なんて、みんなよく対応できるよね。式でいっぱい泣いてた人たちが普通に大騒ぎしてたし」
「俺は下手に別日に設定されるより、一度に片付けられて楽だと思ったよ」
「なるほど、それは確かに。……でも途中で抜けて大丈夫だったかな」
「ほぼ終わりの雰囲気だったし、声はかけたし、大丈夫だろ。そもそも自由参加って話だったからな」
参加は任意でという言葉が出た瞬間、それなら、と遠慮しようとしたふたりだったが、クラス総出で引き留められた。最後だから、写真だけでも、なんとかちょっとだけでも、と食い下がられて折れざるを得なかったのだ。任意とはなんだったのか。
その時、机の上でふたりの携帯が同時に鳴った。まるきり同時なので、見なくとも送信者がすぐにわかる。蒼生は画面を確認して改めて頷いた。
「健ちゃんだ」
「なんだって?」
「えっと、“どこ?”だって。それだけ」
「からかっておこうか」
「ふふ。はーい」
楽しそうに携帯の画面を眺め、ぱたぱたと指を動かしていく。冬矢はそんな蒼生の肩にわずかに寄りかかるようにして、広げられたメニューに目を落とした。
ちりりーん。
「いらっしゃいませー」
店に飛び込んだ健太は、ものすごい勢いで店内を見渡す。声をかけてきた店員に「待ち合わせです」と告げると、すぐに店の奥で楽しそうに笑いあうふたりの姿を見つけ、何とか押しとどめたぎりぎりのスピードでそこを目指した。
「っ、あー、もー!」
どさっと向かいの席に座る。少し前に気付いていたふたりは大して驚いた様子もなく、手にとったメニューでばたばたと首元を扇ぐ健太に笑顔でおしぼりを差し出した。健太はそれを受け取り、手と手首をぐるりと拭く。
「いや……なんつーか、まあ、抜けるのはいいんだ。声かけられたって幹事も言ってたわ。けどさ、声かけるべきはオレだと思うんだよなー」
「だって健ちゃん、いろんな人に囲まれてたでしょ。なんだか声かけづらいなって思って」
「なお、俺はそれを見て、チャンスだと考えたわけだ」
「あれっ、オレ囮だったってこと……?」
健太は大仰に首を傾げる。この性格で、最終的には男女問わず、すっかりクラスの人気者の座を確立した健太だ。昔から友達が多いタイプだったから当然だと蒼生は思う。最後にはみんなに囲まれるんだろうなあと思っていたが、まさしくその通りだった。
冬矢は笑いをこらえるように、手元のグラスに立ったストローをくるくると回した。
「どうせ二次会って話になったんだろ。あれだけ慕われてるんだから、行けばよかったんじゃないか?」
ほお、と低い声を出し、健太は冬矢に携帯を突きつける。
「ふたりして消えてからこんなメッセージ出しといてよく言うわ!」
「先に出るよって内容だろ」
「言い方あるだろ、なんだコレ『蒼生は預かった』って! 誘拐犯が使うやつだわ!」
耐え切れなくなったのか、蒼生が声をあげて笑う。
健太はすっと画面を下に流し、今度は蒼生にそれを見せる。
「蒼生も蒼生だよ、『今いいことしてる』って繋いだ手の写真送ってくるとか、そりゃ飛んでくるわ!」
「何を想像したんだ? 蒼生はちゃんと店の名前も伝えてるのに。ファミレスで何してると思ったんだかな」
「野獣とふたりきりにさせたらどうなるかわかんねえだろーが」
「はは、どっちが野獣だか」
そのやり取りを蒼生はにこにこ見ていたが、ふと目の前にあるクリームソーダを見て「あ」と呟き、氷の上に浮かんだバニラアイスを掬って中に突っ込んだかと思うと、スプーンを健太に差し出した。
「はい」
「お、ありがと。……んー、冷たいのが染み渡る……」
「ね。いいことしてる、でしょ?」
それがあまりに楽しそうな口調で、飲み込んだアイスと一緒にすっと気分まで落ち着いてしまう。もともと蒼生に対しては何の不満もないのだ。
「でもさ健ちゃん、冗談抜きに、この後って誘われてたんじゃないの」
「ああ、カラオケに行くとかなんとか。それはそれで楽しいかもしんねえけどさ、制服姿の蒼生と過ごす最後の時間のほうがオレにとっちゃ大事だからな」
蒼生はなんとなく自分の格好を見て、それから隣の冬矢と向かいの健太を順繰りに見る。
「そっか、最後か。……最後かあ。僕もふたりの制服姿、すごく好きだったんだけどなあ」
言ってから、しまった、という顔をする。ふたりの空気がふっと切り替わった気がしたからだ。慌てて、閉じていたメニューをばさばさとテーブルの上に広げた。
「ね、なんか食べよ。さっきほとんど食べてないから、さすがにおなかすいちゃった。健ちゃんが来るの待ってたんだよ!」
どうやらなんとか誤魔化せたらしい。と思う。たぶん。
「お待たせしましたー。大盛りポテト、ほうれん草とじゃこのサラダでーす」
ぱん、と健太が手を合わせる。蒼生と冬矢もそれに続く。
「いただきまーす」
健太の語尾とポテトに手が伸びるタイミングが重なっていたのはいつものことだが、今日は蒼生も少し手を出すスピードが速い。式典があったためいつもより朝食が早く、昼食となった立食パーティでほとんど何も食べられなかったせいだ。食べ物に手を出すよりも「一緒に写真を」の声がけのほうが圧倒的に早かった。あまり他人の写真に写り込みたくない蒼生は逃れる方法を模索したのだが、なんとか蒼生と撮りたいというクラスメイトたちの執念に負けたのだった。
そこで健太の携帯がぶるぶると震える。健太はポテトをつまむ手と反対の手でちらりと画面を見ると、そのまま伏せて再度ポテトに集中しはじめた。ほうれん草を口に運ぶ途中の蒼生がそれを気にする。
「メッセージ? 返事しなくて大丈夫なの?」
「あー、なんか卒業式後に告白したらうまくいったぜって報告と、写真。あとでゆっくり返信するわ」
どうやら駆け込みでの告白があちこちで行われていたらしい。かつて冬矢が「ラストコール」と称したあれだ。そういえば中学の時は結構あったな、と蒼生は思い返す。実は今日も数件対応したところだ。さんざん恋人いますアピールはしていたのだが、それでも最後だからどうしてもというパターンはあるようだ。昔はそれもしんどかったが、断る理由がきちんと出来てからは少し楽になった。
「冬矢は今日忙しかったみたいだね」
式の前と後と、クラス会の前と。おそらくあのままクラス会に付き合っていたら、おそらく数はもっと増えていただろう。
「途中から断り文句を文書にして配布しようかと思ったね。1人だけ男子も来たよ」
「へぇ。文書か、ちょっと面白いね」
「……待てよ、よく考えたらオレのとこは友情系の奴しか来てねえな」
「本当は声かけたかった人もいたと思うよ? でも、健ちゃん、ずっと人に囲まれてたから」
冬矢はやりとりのあれこれを思い出して息をつく。やはり蒼生のように恋人の存在を明らかにしたほうがよかったのかもしれない。今日は1日蒼生とずっと一緒にいるつもりだったのだが、最後にあれほど連弾を食らうとは思ってもみなかった。しかもその最後が後輩の男子生徒だった。
「……正直さ。同性同士って、蒼生のことが好きだって自覚するまでは思いつきもしなかったんだよな」
寄ってくるのは女の子ばかりだったから。
健太も頷く。
「ああ、それはオレもそう」
「そうなんだぁ」
「蒼生のことだって、別に同性だからどうって思ったわけじゃなくて、蒼生が蒼生だったから好きになったわけだけど」
「あ、ありがと」
「わかるわかる、男とか女とかじゃねえんだよな、蒼生なんだよな」
「なんだなんだ、ふたりして急に」
蒼生は赤くなった頬を隠すように、皿の上のほうれん草にフォークを突き立てる。が、健太は遠慮なくテーブル越しに距離を詰めてくる。
「蒼生もそうだった?」
んー、と蒼生は少し困ったように、ほうれん草を頬張る。咀嚼して飲み込み、それから小さく首を振った。
「僕は……そういう恋愛の形があることは結構前から知ってたし……。読んでた本に同性の恋人がいる登場人物がいて、なるほどそういうこともあるよねって理解したんだ。だから、ふたりに好き……って言われたことに特に疑問は抱かなかったよ」
「そっか、蒼生は男子にも告白されてたんだもんな」
「知識としては、それよりもずっと前からかな。だから、その、なんだ。えーと、……どうやって、や、やるのか、も、知ってた、し」
がたり。明らかに動揺した様子の健太と冬矢が、固いソファの背にぶつかった音だ。
蒼生はコップの水を一口飲む。
「だけど、まさか自分が誰かとお付き合いして……そ、そういうことになるなんて思ってもみなかったからなあ。あ、これは男女に関わらず、ね」
健太が冬矢をちらりと見る。冬矢は一瞬目をそらし、考え込む表情で健太に視線を戻す。それに気付いた蒼生はきょとんとして二度瞬きをした。
「なに?」
「……実は、俺たち、ずっと蒼生に聞けなかったことがあって」
「うん?」
「その、色々な、勉強してたわけだ、オレたちも。んで、そういうことって、最初っから気持ちよくなるの難しいですよ~、って学んでたんだわ」
「えっ」
「それに、すぐには繋がれないだろうって覚悟もしていたんだよ。何回か時間をかける覚悟はあった」
初耳が立て込んで、混乱しそうになる。まず、ふたりが蒼生のために勉強してくれていた、これはたしかに初耳だ。だが、道具の準備や落ち着いた手順を考えると、そうなのだろうと思っていた。それはいい。問題はもうひとつのほうだ。つまりその行為において、「最初から気持ちよくならない」だの「すぐには繋がれない」だのというひとくくり。
「待って待って、え、そうなの?」
「だから、ちょっと、あれ? って思ってたんだよな。もしかして演技だったのかな、あるいは初めてじゃなかったのかなーって」
「や、あの、まず、え、演技じゃないよ、あっ、あんなに、その、……かっ、感じたのはあれが初めてで!」
健太と冬矢がずい、と近付く。
「じゃあ……えっち自体初めてじゃなかったほう……?」
「ご、誤解! 大きな誤解がある! 正真正銘初めてでしたよ! わーびっくりした、その誤解はびっくりするわぁ!」
慌てて否定するが、不安そうなふたりの表情は変わらない。
実際、蒼生が参考にした動画に出ていたのは慣れた人たちだったのだろう。だから最初から気持ちいいものなのだと勝手に思い込んでいた。準備の手順は何度も確認していて、それ自体に根気がいるというのは理解していたものの、それが感覚の準備にも当てはまるとは考えもしなかった。そうか、感覚の準備を長年かけてやっていた結果か。
蒼生は両手で顔を覆う。
「あー……のね? 落ち着いて聞いてほしいんだけど。初めてそういう恋愛の形もあるんだって知った時にね? そういう方法で、本当に気持ちよくなるものなのか興味が沸いちゃってね? ……自分で……その……指使って……確かめようとした、っていうか……少しずつそうやってったら……結果的にはそれが、その、いわゆる……開発? になってたみたいで……」
「えっ、知った時って」
「だからその……ちゅーいち? くらい、から」
「!」
「特に、お付き合いを始めてからは、いつそういう雰囲気になってもいいように、ちゃんと準備を始めまして」
指の隙間から見ると、健太と冬矢は表情に困っているようだった。だよねえ、と蒼生は心の中で同意する。自分は前のめりにはなっていないぞとずっと言い聞かせていたが、実はきっかりその気がありました、というのを露呈した形だ。
「はい」
「何でしょう冬矢さん」
「つまり、俺と出会った頃ってもう」
「……そうですね」
「えっ、じゃ、あの事件の時って」
「あのままだったら割と結構すんなりいけちゃったのかもしれないので、今考えると大ピンチでしたね」
はー、と長い吐息。
「マジ助けられてよかったやつじゃん……」
「俺も傷害罪で捕まるところだった……」
「その節は本当に……」
健太と冬矢に、2年越しに改めて安堵感が押し寄せる。それは大事に至る前に救えたこともそうだし、蒼生が冗談を言うようにそれを口にしたことに対しても、だ。
少々沈黙が降りたあと、健太が「ん?」首を傾げる。何事かと思う間もなく、ばっと顔を上げ、その勢いで蒼生の顔を覆う両手を掴んで外した。驚いたような蒼生とばっちり目が合う。
「今気付いちゃったんだけど。それってさ、手ぇ出していいタイミング、ずいぶん前からあったってこと?」
「……結論から言うと、そういうことになりますね……」
「マジか……。たくさんチャンス逃してたんだな」
「あ、でも、あの時期はあの時期で楽しかった気がする。そわそわしたり、どきどきしたり、いつ、た、食べられちゃうのかなって考えてうわーってなってた……」
「うわーってなってたか~。なるほど~」
考え込むようにしていた冬矢は、姿勢を整えて座り直し、腕を組む。
「蒼生の好奇心は時々想像を超えるし、弾かれたみたいに飛んでいくことがあると思ったけど。そこにも働いてたのか」
「いざという時には度胸ある奴ってそういうとこ怖いな」
「だ、だって気になるじゃん」
蒼生の言い分もわからないではない。自分にもある器官で知らない感覚を味わえると知ったら、興味が湧いても不思議はない。ただ、それを確かめることは結構勇気がいると思う。穏やかでふわふわで消極的な蒼生が、よくそこに踏み出したうえに、継続してここまで自らを育てたものだと素直に感心する。
「少なくともオレは蒼生の姿見て、そうか気持ちいいのかぁ、とは思ったけど、試そうとは考えなかったぜ」
「うーんとね、なんかね、出来ちゃったんだよ。勢いで」
健太と蒼生はタイプが違うし、そこに至るまでの考え方も違うが、こうと決めたら飛び出していくところは似ているのかもしれない、と冬矢は心の中で深く頷いた。
それからふと考えて、蒼生の腕に緩く触れる。これから運ばれてくる料理のことを考えて皿に手を伸ばすかどうか迷っていた蒼生は、ん? と不思議そうに冬矢を見た。
「あのさ。そういうのに興味を持ったってことは、蒼生って、もともと男性が好き……とか?」
蒼生は大きめの瞬きを何度かして、うーん、と首を捻った。
「実はさ。僕もどうなんだろうなって考えたことがあるんだよね。……だけど結局わかんなかった。男女とか関係なく、告白が嬉しかったことは一度もなかったし、気になる人とか一切いなかったし、誰かを好きだって思うことなんか一瞬もなかった。本気で、人を好きになる気持ちが欠けちゃってるのかなって思ってたくらい」
だから、と蒼生は言葉を継ぐ。
「……好きになったひとは、健ちゃんと冬矢だけ。だからわかんない。さっき、ふたりは僕が僕だから好きになったって言ってくれたでしょ。僕も一緒。ふたりが……ふたりだけが僕にとっての特別なんだ」
ふわっと笑う。
健太は胸を押さえて机に突っ伏し、冬矢は思わず蒼生の腕を強く握り締めた。
「チーズクリームとサーモンのパスタのお客様~。こちら白身魚の甘酢あんかけ定食と、彩り野菜のキーマカレーです~。ローストビーフのサンドイッチはどちらに置きますか?」
パスタをあっという間に片付け、蒼生は大きく息を吐いた。
「あー、ようやく人心地ついたぁ」
「珍しいよね、蒼生がそんなに量食べるなんて」
なんなら中央に置かれたサンドイッチにも挑もうとしている。聞かれてからちょっと考え、結局サンドイッチを手に取る。
「なんだろうなあ。もしかして開放感を味わってるのかもしれない」
「ふーん。なるほどね」
普段の食事量は、蒼生と冬矢ではさほど変わらない。冬矢が満腹感を覚えているのに、まだ蒼生に余裕があるのは、おそらくそういうことなのだろう。後で苦しくならなければいいのだが。
それにしても中央の皿の減りが少ないような気がする。冬矢は大食漢の健太のほうを窺った。すると、なにやらスプーンを握ったまま机の下でごそごそとやっている。
「どうした?」
声をかけると、健太はちらりと蒼生を見てから、冬矢に携帯の画面を見せた。そこには、花壇に腰掛けて笑っている学ラン姿の蒼生。まさか、こいつ。
「なになに?」
蒼生が気付いて横から画面を覗き込み、ぴたりと動きを止める。
「……健ちゃん。一応意図を聞いても?」
「中1の蒼生」
ぐっ、と呻いて、蒼生が再び顔を覆う。
「こんなさー……きらきらで可愛い笑顔でふわふわしててまだ背もちっちゃい蒼生が……」
「そっ、想像するのやめて……」
「はあ、タイムマシンがあったらなあ……。この頃の蒼生にもう一度会って、オレが最初から一緒に開発してあげたい」
「おまえ、ちょっと外出て捕まってこい」
「冬矢だってこの頃の蒼生抱き締めて撫でていいって言われたらするだろ!」
「もちろん。言われなくてもする」
「……もしタイムマシンがあったら、僕はさっき時期まではっきり告げた自分を止めに行くと思う……」
冬矢は健太から携帯を受け取り、画面をしげしげと見つめる。少しサイズが小さくて粗めの写真は、携帯を変えた時に移したものだからだろう。それでも、呼ばれて振り向いた瞬間なのか、柔らかで暖かい表情からは蒼生の喜びの感情がはっきりと伝わってくる。きっと健太が撮った写真だ。蒼生がこんな表情を見せるのは、かつては健太に対してだけだったはずだから。
少なくとも、この頃にはお互いのことを思っていたのだろうなと思う。羨ましいが、どうしようもない。それこそタイムマシンでもない限り。
「……健太は蒼生と赤ん坊の頃から一緒なんだろ。恋愛感情はいつからあったんだ?」
「自覚した時期は高1だけど」
「それは知ってる。そうじゃなくて、今から思い返してみて、いつ頃っていうのがあるんじゃないか」
そうだなあ、と健太は腕を組んで天井を見上げる。
「広い意味で好きだったのは、たぶんずっとなんだよな。むしろオレの人生は“蒼生が好き”で構成されてんじゃねえかな」
冬矢の視界の端で、蒼生が顔を覆ったままびくんと肩を震わせた。
「恋愛感情ってのがはっきりこういうもんだってオレもよくわかんねえから、切り替わったのはいつなのか、はっきりとは言えねぇや。でも、えっちしたい、って思ったのはマジ告白する直前だったな。ただそれも今から思えばって話だよな、その頃オレやり方も知らなかったんだからさ。だから、なに? ただ触れたいっていうの? そういうやつ」
蒼生はじんわりと指先が痺れる感覚を覚えていた。健太にはそのつもりはないかもしれない。だが、これは壮大な告白だと思う。何度目かもわからない、告白だ。人生が、好き、で構成されているだなんて。健太は時々計算せずにこんなことをさらりと言い放つから、本当に心臓に悪い。
その様子を見ていた冬矢には、蒼生の心情がわかる。相手が健太でなければちょっとした乱闘になっていただろうなと思いつつ、やはり悔しいので少し意地悪を言う気になった。蒼生と付き合う前、散々他の子と付き合っていた口で何を言っているんだ、という気持ちを込めて。
「そうだよな、最初は同性で出来るのかって悩んでたもんな。じゃあ、それまでの自慰のネタは女子か」
「いや、蒼生」
は?
その驚くほどはっきりした即答に、冬矢は怪訝な顔で健太を見つめ、蒼生はぱっと顔を上げて思わず冬矢の腕にすがりつく。
「……いつから?」
「いつ、ってか。最初はグラビアとか眺めて、こんな子と気持ちいいこと出来たらなって思うんだけど、いつの間にか、蒼生だったらどうするかな、蒼生だったらどんな顔するかなって考えちゃって、気付いたら蒼生のことしか考えてなかった」
「なるほど? 女子と付き合いながら? 考えるのは蒼生のやましい姿だったって?」
「ただ、今考えると可愛い妄想だったよな~。実際はもっと、こう」
「おまえヤバいな……」
「えぇー……」
「いや頼むから蒼生は引くなよ!」
そう言われても。
ただ、それをもっと早く言ってほしかったな、とも思う蒼生だ。健太の話をまとめれば、ずっと前から蒼生とそうなりたいと思っていた、ということだ。それがわかっていれば。きっと、もっと。
……でも。
そうしたら、冬矢とは付き合えていなかったかもしれない。健太が好きだ。だが冬矢のことももちろん好きなのだ。
「あの、さ? 冬矢は?」
「俺?」
「うん。冬矢はわかる? ぼ、僕のこと……その、いつから好きでいてくれたの?」
「……俺は……いつだろうな。好きだと思う前に、蒼生のことが好きだって気が付いたから」
え、と短く呟いて、蒼生がぴしりと固まった。ぱっと頬が朱に染まる。
その様子に思わず笑みがこぼれ、冬矢は指の背で赤い頬を撫でた。
「かぁわい……」
縋り付いてきたままの手がきゅっと握られたのも可愛い。驚いたような目が、そらせなくなっているのも可愛い。触れた頬が熱いのも可愛い。触れた途端に纏う空気が柔らかくなったのも可愛い。
瞳が、指先が、表情が、自分の声と言葉に「気持ちいい」と訴えてくる。こんな蒼生を見ていると、それ以外のことがどうでもよく思えてくる。テーブルの向こうにいる相手に抱いていた小さな劣等感さえ。
とん、とん。
蒼生ははっとして音のしたほうを見る。健太が拗ねて、指の節でテーブルを叩いた音だ。すっかり冬矢の言葉に吸い寄せられていた蒼生は、おずおずと手を離して照れたように笑う。
「はー。よくもそんなキザったらしいセリフが出てくるもんだよなあ……。こういう奴だから女子もほっとかなかったんだろーな」
それを聞く冬矢は涼しい顔だ。
「何を言ってるんだ? 俺は本音しか言っていない。第一、こんな言葉が浮かんでくるのは後にも先にも蒼生にだけだ」
「は? マジ?」
「気の利く言葉ひとつ言えなかったよ、蒼生に会う前は。俺は、蒼生と出逢って初めて、世界には色があるんだって知ったんだ」
「とぉや……」
ばさっ。
健太があえて大きな音を出すように立ち上がる。目を上げるふたり、いや冬矢を見て、自分が座っていた場所を指した。
「おい、交代」
「なんで」
「今度はオレがいちゃいちゃするから」
「へっ?」
冬矢は小さく息を吐き、いちゃいちゃしている自覚はなかったらしい蒼生の頭を優しく撫でてから席を立つ。
「まあ、こっちは真正面から蒼生の顔を見られるからね」
「そ、そう言われるとそっちもよかったって気になっちゃうだろ」
「戻りたければいつでもどうぞ」
うう、と唸って、健太は空いた蒼生の隣に勢いよく座る。と、そのままぎゅうっと蒼生を抱き締めた。そして、ふたりが抗議の声を上げるよりも早く手を離すと、きちんとテーブルに向かって座る。なにやらよくわからなかったが、どうやらそれで少し落ち着いたらしい。サンドイッチに手を伸ばすと、一切れをまるごとひとつ口に放り込んだ。
「結局、オレも冬矢も気付いたら蒼生のこと好きだったってことなんだろーな。蒼生は?」
「……やっぱり僕にも聞くよね。でもたしかにさ、好きだって自覚してから思い返すと、明確な始まりってなかったのかなあって思う」
「だよな……」
付き合ったのがそうだとすれば「始まり」はそこなのだろうが、気持ちはずっと前から続いていたのだから。
「じゃあ、あれは?」
「あれって?」
「ひとりえっちの話」
「えっ」
蒼生は壁にぶつかるほどの勢いで飛び退いた。
「無理無理無理、ここでその話は出来ないよっ」
「えー、オレの話は聞いたじゃんっ!」
「聞きたいって言ってないぃ!」
「聞かせて」
「やだっ」
「なあ、お願い」
「無理だってば」
店内なので小声で言い合うが、いくら言っても健太はどうしてもそれが聞きたいらしい。とはいえ蒼生もさっきの失言があるので、これ以上の燃料の投下は危険だと思っている。何度も同じやりとりを繰り返した結果、折れたのは健太だ。
「……わかった。じゃあ、具体的な話はいいから、なんかエピソード教えて。オレが思わず引き下がっちゃうようなやつ」
さて、これは折れたと言えるかどうか。蒼生は困った顔をする。
「エピソードって、そんな、物語性を求められても……」
蒼生はちらりとテーブルの向かいに座った冬矢を見る。もちろん、助けを求めるためだ。こういう健太が暴走しがちな時、冬矢は止めてくれる。はず。だった。
目が合った冬矢は、黙ってにっこりと笑った。
ええ……と声にならない声が出る。まさか、あっちまでそれを聞きたがっていたとは。蒼生は、はあっと息を吐いた。
「……何の面白みもないけど、ちょっと印象が強かったなって、ことなら……」
膝に手を置き、そこに目を落として、さらに声のボリュームも下げる。周りに人はいないとはいえ、さすがに声は張れない。
「あの、さ。僕の部屋って、健ちゃんの部屋から見える窓、あるでしょ。いつだったかな、お付き合いはしたけどまだ……な頃。えっと、夜、その、ひとりで部屋で、し、してる時、窓のほう見てたんだけど、もうちょっとで一番気持ちよくなりそうって時に、『電気ついてるからまだ起きてるだろ』って健ちゃんからメッセージがきて、……その瞬間に……ってことが、あった」
「……同じ窓を見てたから?」
「カーテンしまってるから見えるはずないのに、み、見られてる気がして……」
「…………」
「そういうタイミングの良さって冬矢もあって、そういうの、してる時にメッセージが届くことが多かったんだよね。そのせいか、電話して、切った後で、声思い出してつい、……ってことも……」
「…………」
しーん。向こうの方、大声で話す人たちの笑い声と、店内のBGMだけが聞こえる。無反応だな、と思って蒼生はちらりと目を上げた。すると、じっと下を見る健太と、遠い窓の外を眺める冬矢の姿。
「ほ、ほら、引くから言いたくなかったのに……」
すると、地を這うような健太の低い声。
「いや、引いてねぇんだわ。逆なんだわ」
冬矢もやけに無機質な声で。
「ちょっと今円周率が50桁越えたところだからちょっと待って」
あ。蒼生はぴんと来てしまう。
「……あの、なんか、ごめんね?」
「お待たせしました~。ストロベリーティーとホットコーヒー、ジャスミン茶です~。こちらそれぞれポット熱くなっておりますのでご注意くださ~い。あとこちら、ごろごろステーキの贅沢ハンバーガーです~」
蒼生と冬矢は、健太の前に置かれたインパクト抜群のハンバーガーを戸惑った目で見つめた。チェーン店で出てくる、食べやすさに特化した小ぶりなものではない。テレビでよく見る専門店の、レポーターがナイフとフォークを使って食べているような、むしろどう手で食べさせるんだというレベルのハンバーガーだ。健太は、それをそのまま両手で持ち上げた。
「いただきまーす」
どっちに突っ込めばいいのだろう。まず、そのサイズを手で食べられるのかということだが、これはどうやらちゃんと出来ているらしい。次に、ここでこの量? である。健太は立食パーティーでも臆さず料理に手を出していたし、さっきまであれだけ食べていたのに。ただ、美味しそうに頬張っているからそれも愚問なのだろう。
「よく食べられるねえ……」
開放感で普段よりイケる、と思っていた蒼生も、この勢いは真似できない。少なくともしばらく休憩が欲しいなと考えていたところだ。
健太はにこにことバーガーの質量をみるみる減らしていく。
「美味しいよ」
「よかったねえ……」
「さっきサンドイッチ食ったじゃん? なんかパンの勢いがついちゃったんだよな」
「勢い……?」
不思議そうに蒼生が首を傾げる。冬矢は諦めたように首を振った。
「たぶん胃の構造が俺たちとは違うんだろ。……それより、苺のいい香りだね」
「うん。冬矢のお茶もいい香り。和むなあ。ここってお茶のバリエーションが多くて好きなんだ。そういえば、アフタヌーンティーみたいなのやってる時期もあるんだっけ。今日はやってなくて残念だったな」
「ここのってそういう名前なだけで、フルコースレベルの料理が出るって聞いたよ」
「え、そうなんだ。でも健ちゃんがいれば余裕でしょ」
「たしかに」
笑い合って、暖かいほっとする香りを胸いっぱいに吸い込む。冬矢が半分ほどを飲み干すと、蒼生はまだゆっくりとカップに唇をつけるところだった。紅の液体をじっと見ていた瞳。それがふとこちらを見て、またふわりと和らいだ。冬矢の表情も緩む。
あ、と蒼生が声を上げた。
「引っ越しの準備って終わった?」
「ああ。もう少しだな。洋服はとりあえず春先に着られるものだけ箱に詰めた。そんなに収納もないし、夏の分は送ってもらおうかなって思ってる。落ち着いた頃に改めて考える感じかな」
「へえ……」
蒼生はようやく、こくりと一口飲み込む。喉から胸の辺りまでが暖かくなった。
「あとは普段使ってるような小物をこれからまとめるところ」
「冬矢は引っ越し慣れてるもんね」
「気持ちとしてはね。ただ繰り返し引っ越してたのは小さい頃の話だし、自分で支度するのは勝手が違うなって何度も思った」
そうか。小学生の途中からはずっとここで暮らしていたのだったか。なるほど、それまでは手伝いはしても、冬矢自身が作業するということはなかったのだろう。
冬矢はカップを置き、指を組んだ。
「そういう蒼生は、順調?」
それに対して、わずかに考えるようにしてから蒼生が頷く。
「たぶん、順調、だと思う。なにせ本当に初めてだから、いるものといらないもの分けて考えてたんだけど。いるもの、とは? みたいになっちゃって。日用品以外がほとんどないかもしれない。本の他は」
ふふ、と冬矢が笑う。本の選択肢が抜けないところが蒼生らしい。
「日用品だって、いずれ新しいのを買いそろえていこう。せっかくだから色違いの同じものとか、並べたくない?」
蒼生はぴんっと背を伸ばす。
「並べたい!」
「だよね。最初は節約しなくちゃいけないから仕方ないけど」
「うん。いいなあ、そういうの」
ぱん、と乾いた音がした。
「ごちそうさま~」
「えっ」
手を合わせた健太の前を見ると、付け合わせまで完全になくなった綺麗な皿が1枚。目を離していた隙の、あっという間の出来事だ。
呆気にとられていると、健太が合わせた手をそのまま蒼生のほうに向ける。
「……蒼生さん。明日から引っ越しの準備、手伝ってください」
「ふふっ。はーい。なんかそんな気はしてました。もしかして全然やってないの?」
「全然ってことは……ない……と思うんだけど」
しどろもどろの様子を見るに、ほとんど終わっていないのだろう。幸いにして、まだ少しは日程に猶予がある。ふたりがかりでやればなんとかなるだろう。
蒼生は白いポットから、おかわりの紅茶をつぐ。
「それにしてもさ。大学からそんなに離れてないし、買い物とかも比較的しやすそうだし、いい物件見つかってよかったよね。相場よりちょっと家賃高いけど」
健太が深く頷く。
「そこは、これから3人で頑張っていこ」
「うん」
「家賃、引っ越し代、家電一式に入学金に授業料に……ある程度は餞別で免除してくれるとは言うけど、親への借金が結構あるからな。まあ、延滞料が取られないだけよかったよ。地道にやっていこう」
「コツコツ貯めたバイト代も吹っ飛んだしな」
ふと、蒼生が顔を曇らせる。
「……ふたりは僕に合わせなくてよかったのに。最初にかかるお金は全部出してくれるって言われたんだよね」
健太と冬矢は顔を見合わせる。頷いた冬矢を見て、隣の健太が冬矢の分も合わせてぽんぽんと蒼生の頭を撫でた。
「いいんだよ。どうせ一緒に暮らすなら、同じ条件で始めたかったんだ」
「そうそう。それに、今まで貯めてた積み立ては渡してくれるって話なんだろ? オレたちのほうもなんだかんだこっそりカンパはくれるって言うし、なんとかなるって。大丈夫大丈夫」
「……うん」
落ちた視線が戻らない。
健太は、腹に力を入れると、蒼生の肩をぐいっと強めに抱いた。
「それにしてもびっくりしたよな! 最初、蒼生ってば別々の部屋がいいとか言い出すんだからさぁ!」
「そうだな、あれは問題発言だった」
「だよな!」
明らかにわざと一段階明るい声を出すふたりに、蒼生ははっとしたように目を上げた。そうだ。新しい生活が始まる中で、ふたりの気持ちを沈み込ませるわけにはいかない。重い荷物になりたくない。何度も自分にそう言い聞かせてきたじゃないか。切り換えて、すう、と大きく息を吸う。
「だ、だって。いろいろ時間がずれたり、たくさん勉強しなきゃいけなくて、だったらひとりになる部屋がいるんじゃないかなって思ったんだよ。そのほうが迷惑かからないかなって」
「それはスペースをうまく区切ればいいはずだ。少なくとも寝室はひとつで十分だろう」
「そうだぞ、憧れの大きいベッド、めちゃくちゃ重要じゃねえか!」
少々話の流れがおかしくなってきたようだ。蒼生は首を捻る。その主張はまるで一緒に住むというよりも。
そうだ、と蒼生は少し背を伸ばす。聞きたいことがあったのを思い出したのだ。
健太の腕をそっと叩く。健太の腕は肩から下りて、……腰に落ち着いた。ん? と思ったが、とりあえず気にしないことにする。
「うん、間取りは、僕も最終的にはそれでいいと思ったわけだけど。でも、ちょっと聞きたいことがあって」
「なに?」
「もうちょっと安くて、大学にも近くて、広さももっと広いとこあったじゃん。なのにふたりしてほぼ同時に却下したよね。あんな便利で条件良さそうなとこ、なんで駄目だったの?」
健太と冬矢は、真面目な顔で声を揃える。
「壁が薄かったから」
「防音効果が薄かったから」
おや?
蒼生は反対側に首を傾ける。なにやら同じようなことを言われた気がするが、同時にちょっと違う言葉を言われたので理解が出来なかったようだ。改めて。
「ごめん、もう一回言って」
「防音が弱かった」
今度は言葉もぴったり揃う。なんとなく察してしまいそうな自分に首を振って、蒼生は頭を整理しようとする。が、健太と冬矢は気にする様子がない。
「防音は大事だよな」
「ついでに外気の影響も受けづらいのもある。一番は防音だけど」
「暑かったり寒かったりしたらいけねぇもんな。なにより防音だけど」
「……なんでこういうところは意見が合うのかなあ」
冬矢が健太を見て小さく笑う。健太は蒼生を見てきょとんとする。
「そりゃあ心ゆくまでセッ」
蒼生は両手で勢いよく健太の口を塞いだ。
「いちごたっぷり大きなパフェ、おまたせしました~。ごゆっくりどうぞ~」
脇に乗った半分サイズの苺にクリームを纏わせ、蒼生はほくほく顔で口に放り込んだ。
「あー。好きな生クリームのやつ……」
健太はちらりと覗くバニラアイスごと大きく掬い取る。
「クールダウンは大事だよな~」
そのふたりを見比べた冬矢は、目を細めて花びらのようにカットされた苺を口にする。
「蒼生は、本当に苺が好きだね」
言われた蒼生は動きを止めるが、すぐに「あっ」と声を上げた。
「苺かぶりしてる」
「好きなものを選ぶと、そうなることあるよな」
冬矢はまったく気が付かなかったらしい蒼生に笑いかけ、頂上に乗っていた一番大きな苺をスプーンで掬う。そしてそれを蒼生の前にある小さな皿に置いた。
「え?」
「健太が端からすごい勢いで侵食してきてるだろ。落ちちゃうからここに置いておくね」
「僕が食べていいの?」
「もちろん。蒼生のだよ」
「食べきれないならオレがもらってもいいけど」
「や、やだ」
さっと蒼生が皿を引く。その幼い表情に、健太と冬矢はドキリとする。視線に気付いた蒼生が照れて顔ごと目をそらしたせいで、一瞬しか見られなかったが。
その仕草のせいで、スプーンが蒼生の頬に触れた。
「あ。クリーム、ほっぺについてんぞ」
「え? どこ?」
「左のちょっと下のほう。舐めてとっていい?」
「は?」
健太の冗談をさらりと笑って流し、蒼生は左手の親指で頬をぬぐう。そこに白いものが付いたことを確認すると、唇に擦り付けるようにして舐めた。それから紙ナプキンで改めて頬と指を拭く。
それをじぃっと見ていたふたりの長い息が、はあぁ、と重なった。
「? どうしたの?」
「……翻弄されてるわあ」
零すような健太の声。
「可愛い顔見せたかとおもったら、色っぽい仕草するんだもんなあ……」
「これが無意識なんだっていうんだからね」
一体何を言い出したのか咄嗟には理解できず、蒼生は困ったようにふたりを交互に見る。その戸惑いに気付いた冬矢がにやりと笑った。
「蒼生は、本当に気持ちいいよね」
その意図を汲まないまま、健太は素直に頷く。
「わかるわかる、こういう仕草の何気ない可愛さもだけどさ、なんかめちゃくちゃ気持ちいいよな」
「いつも、思わない? これが、肌が合うってことなのかなって」
「あー、そういうやつな。ってか、その言い方すげえな、すごくよく伝わるわ」
「初めての時驚いたよな。気持ちも体も、ぴったり、しっくりきてさ」
「うん、うん。満たされ感すごいよな」
「違うベクトルの気持ちよさが両方ある感じで」
そのあたりになると、さすがに蒼生にも話の内容が見えてきた。それ故に逆に口を挟みづらくなってしまい、ひたすらストロベリーアイスに生クリームを重ねている。蒼生の表情を覗き込むように窺っていた冬矢は、テーブルの下で足を延ばし、蒼生の足の間にそれをねじ込んだ。
「……っ、冬矢……っ」
「聞いてる? 蒼生に触れるの、すごく気持ちいいねって話してるの」
「き……きいてる……」
ちら、と蒼生が目を上げる。
時々、冬矢はそれを口にする。触れながら、初めてだよ、気持ちいいよ、と何度も告げる。蒼生はそれを嬉しく感じながら聞いていたのだが。
「あ、の。……男女で、その、そんなに違うもの?」
健太は蒼生の腰を掴む手に力をこめる。
「オレにはどうこう言えるほど経験ないからあれだけど、なあ。冬矢先生?」
意地悪な顔をしていた冬矢が、ふっと雰囲気を和らげた。
「ああ。たぶん、そういうことじゃないと思うよ。本当に好きな人と肌を重ねるのは違うっていう話」
「そうなの……?」
「うん、全然違う。蒼生は他の人としたことがないからわからないかもしれないけど」
「ふぅん……」
会話に間が空いた。
蒼生は、健太と冬矢の熱しか知らない。触れたところから、すべて溶ける温度しか知らない。どろどろに融けた、甘い空気しか知らない。
冬矢が靴の先で、蒼生の踵を軽く叩いた。
「あーおい?」
びくっと蒼生が肩を震わせる。
「何考えた?」
「えっ? や、あの、その」
「試してみようとか考えたりしなかったよね? その振り切れた好奇心が顔出したりはしてないよね?」
「ん? 蒼生、そんなこと考えてるの?」
「えっえっ」
不穏な空気の冬矢と、珍しく目の据わっている健太に距離を詰められ、蒼生は思わず体を引こうとする。が、冬矢に足をかけられ、健太に腰を掴まれているので逃げ場がない。慌ててぶるぶると手と頭を振る。
「しないしないしない、無理無理無理っ! 絶対無理だからっ!」
「ふーん……」
そのまま頭を振り続けると、ようやくふたりの力が緩んだ。
はあっと息を吐いて、蒼生はくったりと健太の肩に寄りかかった。健太が笑う。
「ごめんごめん。ちょっとからかいすぎた」
「うー」
蒼生は適当に返事をして、置いたスプーンに手を伸ばす。アイスはだいぶ融け始めていた。それをソースのように苺に絡めて口に運ぶ。
そしてぼそりと呟いた。
「……なんか今日、えっちの話ばっかりしてる気がする」
健太は苺にフォークを刺す。
「たしかにそうかもな。でもさ、これからは周りを気にせずにずーっといちゃいちゃ出来るんだぜ? テンション上がっても仕方なくね?」
足先で蒼生にちょっかいを出したままの冬矢が頷く。
「そう。たとえば1日中延々蒼生のこと舐めまわしても誰にも止められない」
「……えっ。そ、それはさすがに僕が止めると思うけど!」
「そっかー。24時間耐久、とかも出来るんだ」
「いきなり加速しないで、それだいぶスピード違反だよ!?」
むぐぐ、と蒼生が唸る。
「僕らはあくまでも、勉強をするために行くのであって、そういう、やましいことが目的じゃないっていうか……」
冬矢が片手で頬杖をつく。
「俺が同棲を提案した時、即答でOKしたの蒼生だろ」
「うっ。……い、一緒に暮らそうって言われたけど、ど、ど、同棲……っ」
「恋人同士が一緒に暮らすなんて同棲以外の何物でもないじゃん」
改めて口の中で、同棲、と呟く。そうか。急に実感が湧いてきて、ぽーっと顔が熱くなる。
まっすぐ自分に向けられる健太と冬矢の笑顔が眩しくて、胸の真ん中あたりがきゅうっとなった。
ふたりと。
これから。
一緒に。
「持ってるものすべて捧げるつもりで可愛がるから」
「そ。覚悟しろよ」
「……なにとぞ……お手柔らかに……」
少々自分の体が心配になる蒼生だが、心はふわっと温かい。
健太が左手に触れる。冬矢が右手に触れる。
「これからもずーっと一緒にいような」
「蒼生のこと、ずーっと大切にするからね」
「……うん。よろしくお願いいたします。……僕も、ふたりのこと、ずーっと離さない、から」
嬉しい。
けれどちょっと照れ臭い。
蒼生は、そっと手を引っ込めると、取っておいた大きな苺にかじりついた。
「ありがとうございました~。またのご来店をお待ちしております~」
健太が大きく伸びをする。
「結構食ったなぁ。蒼生、夕飯も食べてくるって言ったんだろ?」
「うん」
「じゃあ夕飯買い込んで冬矢の家行こうぜ」
「うん?」
冬矢は信じられないものを見る目で健太を見た。
「……もうすぐ夕方だぞ。あれだけ食べて、数時間後に夕飯いけるか?」
「いけるだろ。体力使うし」
蒼生はピンと来た様子だ。けれどあえて黙って話の続きを待つ。
「さてはおまえ、最初からそのつもりだったな」
「冬矢だってしたいだろ、最後の現役制服えっち」
想像通りのセリフが健太の口から出た。あまりに思った通りで、思わず蒼生は笑ってしまう。
「それは、俺も当然。……蒼生は? 大丈夫?」
冬矢の心配そうな優しい口調がくすぐったい。
「制服、あんまり、汚さないでね?」
言うと、健太の背筋がぴんと伸びた。
「な、なんかものすごいえっちな言葉に聞こえてきた……」
冬矢は少し意地悪な顔で笑う。
「……それじゃあ蒼生にはいっぱい我慢してもらわなきゃね?」
「僕にいったい何をさせる気なんだろ」
蒼生は、ふふっと笑い、ふたりの腕に自分の腕を絡ませる。
影はひとつになって、長く長く伸びたまま、道の向こうに消えていった。
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