高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2023年12月24日 20:09    文字数:6,528

31こ目;【番外編】本日はおやすみです~せっかくのイブなので~

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「おやすみ」なので短編です!
クリスマスイブの3人の様子をお届け。
前回のキャプションから、舌の根も乾かないうちに高2のお話でございます。

↑初投稿時キャプション↑
2021/12/24初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1
 金色の光が、視界の至る所で輝いている。あちこちに見えるショーウィンドウの中も、街灯から吊される商店街のバナーも、そこここの店頭に置かれた個性豊かなツリーも、ぐるぐるに線を巻かれた街路樹も。
 それは目には暖かいが、実際のところビル風が強く吹いていて、かなり寒い。それになによりも、ガードレールの隣に寄り掛かっている相手が、お互い、大変に不本意だ。
「あー……なんだってこんなクリスマスイブ当日に、おまえと隣り合ってなきゃなんねえんだ……」
 沈黙に耐えきれなくなった健太が低く唸る。
「だったら今すぐ帰ればいいだけの話だろう」
 冬矢は心底どうでもいいような口調で吐き捨てる。
 目の前を通っていく楽しそうな人の流れに反して、ここにだけは殺伐とした空気が漂っていた。内情をまったく知らない通りすがりの女性たちが、並んだふたりをちらりと見てはひそひそ囁きあったり小さく騒いだりしているのが見える。確かに、見目のいい男子が2人、黙って座っている様子は、やたらと絵になるうえに意味ありげだ。しかもそれがクリスマス・イブの出来事だというのだから、何事かと思われても仕方ないだろう。
 大体は遠巻きにするくらいだが、中には勇気を持って近付いてくる女性たちもいた。
「あの、私たちも2人なんですけど……寒いですし、よかったらお茶でもしません?」
 顔を上げた冬矢は、感情が0.1グラムも乗らない、完全な営業スマイルを作る。
「すみません、僕たち人と待ち合わせをしているので」
「あっ、そうなんですかぁ……」
 彼女たちが残念そうに去って行くと、余韻も見せず、すっと表情を消す。
「……それ、もはや芸だな」
「失敬な。穏やかに場をやり過ごす処世術だ」
 健太は小さく息をついた。初めて会った頃の冬矢は、愛想というものをおよそ知らないような人間だった。興味のないものはすべて切って捨てるようなタイプだと思っていたら、後々になってそもそもあらゆることに興味がなかったというのを知って驚愕したのを覚えている。周りに波風が立とうが何をしようが、どうでもよかったらしい。それが、上手に立ち回って、波も風も立ちましたか? くらいに収めるようになった。
 おそらく、その変化を一番近くで客観的に見ていたのが健太だ。好きな人が出来るってこういうことなんだな、と素直に感心する。

 がちゃり。目の前の小さなドアからノブが回る音がして、ふたりははっと腰を浮かせる。開いていくに従って、漏れてくる中の光。それは街の灯りよりも明るく感じられた。
「お疲れ様でした」
 凜とした声が聞こえて、胸が震える。
 開いたドアに、浮かぶシルエット。
「あ」
 少し上擦った声。
「……綺麗だ」
「後光差してるもん……」
 ぱっと喜んだ顔が、呻くような言葉を聞いて不審げに変わる。
「冬矢? 健ちゃん? なに言ってるの?」
 言いながら、蒼生はぱたぱたとふたりの元に駆け寄る。
「バイトお疲れ様」
「今日は!? 変な客いなかった!?」
「あ、うん、ありがとう。大丈夫だよ、そんなの滅多にいないから。たぶん」
 健太が右手を、冬矢が左手を取る。嬉しそうに撫でてくるその手は、どちらも冷たい。蒼生はその冷たさに複雑な気分になる。
「いつからここにいたの? すっかり冷えてる。ごめんね。どこか中にいてくれればよかったのに」
「だって出てくる瞬間の蒼生に会いたかったんだもん」
「もし入れ違いになっちゃったら嫌だからね」
 蒼生は少し困った顔をして腰をかがめると、ふたりの手を両頬に押し当てる。
「……冷たい」
 それから、ふわっと笑った。
 さっきまで寒いと思っていたのだが、それだけですっ飛んでしまった。健太は抱き締めたい衝動を抑え、冬矢は口づけを我慢する。ああ、なんて綺麗な。街の景色より、ずっときらきらして見える。
「でも、びっくりした。ふたりしてどうしたの?」
「蒼生が遅くなる日はいつも迎えに来てるじゃん」
「揃って来ることはないのに」
「揃って来たわけじゃないよ」
「え?」
 蒼生が首を傾げると、健太と冬矢は同時にお互いを指さす。
「蒼生に会いたくて来たらこいつも来た」
 まるきり。同時に。
 ふっ、と肩を震わせた蒼生は、こらえきれなくなったのか声を上げて笑った。
「そっか。じゃあしょうがないね。ふふ。明日会う約束してるのに」
 健太は内心で、めちゃくちゃ可愛いな、とドキドキしながら、あえて拗ねた顔を見せる。
「てか、イブにバイト入れる蒼生が悪いと思う。イブもクリスマスも恋人と一緒にいてくれるべきだと思う。むしろ、いて」
「僕もそうしたかったけど……恋人といたい人は僕だけじゃないでしょ。シフトが穴だらけになっちゃう」
 冬矢は蒼生の頬に寄せられたままの自分の手の甲で、暖かなその頬を撫でる。
「蒼生の優しさが痛いな……。だから今日は、この後、付き合ってもらうから」
 え、と蒼生が呟く。健太は蒼生の手を強く握った。
「そ。イブだからイチャイチャする会~!」
「なにそれ?」
 健太と冬矢が、にっこりと笑った。

 小部屋の中は、いつもと違って壁にぐるりと電飾が巡らされていた。机の上には申し訳程度の小さなツリーがちょこんと乗っている。
「へー、カラオケボックスのクリスマスイベントかあ。こんなのやってるんだね」
 電飾の小さなライトをちょんちょんとつつきながらの蒼生の声は、いつもよりほんの少し高い。喜んでくれているんだなあ、と健太はきゅんとする。
「今日の今日だし、駄目だろうなって思って聞いたら、急にキャンセルが出たって話でさ。とにかく押さえてみたんだ」
「そうなんだ、ありがとう!」
 冬矢はメニューの上に置かれたコピー用紙を手に取る。どうやら期間限定のチラシのようだ。
「クリスマス特別メニュー……。一応ケーキもあるんだな。チキンもある。どうしようか?」
「頼もうぜ!」
「ケーキは明日も食べるだろ」
「いいじゃん、明日は明日、今日は今日だし」
 絶対そう言うだろうなと思っていた蒼生は、早速ケーキの選定に入る健太を嬉しそうに見つめた。一方、健太にチラシを手渡した冬矢は、廊下を通る影を数えている。
「? どしたの?」
「ああ、結構人がいるなと思ってね」
 健太が頷く。
「全館満員ですって書いてあったからなあ。……あ、さてはえっちなことしようと思ってたんだろ」
「!?」
 ぎょっとする蒼生をよそに、冬矢は呆れた顔をする。
「普段こんなに混んでいる場所でもないのに、イベントの力はすごいんだなと思っていただけだ。公共の場でそんなことするわけないだろ。おまえじゃあるまいし」
「オレじゃあるまいしっておまえ……。そりゃしてぇけどさ。今この瞬間だって」
「!?」
 蒼生が、さっと取ったメニューで体をガードしたのを見て、健太が分かりやすく慌てる。
「し、しないよ!? そこまで常識なくねぇよ!? だって冬矢が絶対許さないじゃん!」
「許すわけないだろ。万が一見つかって通報でもされたらどうするんだ。蒼生に危害が及ぶようなことはさせないからな」
「イベント中だし、見逃してもらえないもんか」
「さっきから家族連れが外通ってる。余計無理だろう」
 メニューの影からちらりとふたりの様子を覗き、蒼生は小さく笑った。内容自体は他人に聞かせられたものではないが、ふたりのやりとりはこんなに楽しいんですよと自慢したいくらい気持ちがいい。
 冬矢が、くすくす笑う蒼生に気が付いた。
「蒼生? ……さっきから、嬉しそうだね」
 目を細めた蒼生が、冬矢の視線を受け止めてから、その肩にぽすんと寄り掛かった。
「嬉しいよ。さっきは言えなかったけど、外に出た瞬間、ふたりの顔が見えて本当に嬉しかったんだ。羽があったら飛んでたかもしれないくらい」
「羽……」
 健太がうっとりと呟く。その脳内が容易に想像できて、さらに蒼生は笑う。
「もったいなかったなーって思うのは、僕、ふたりが気付く前に出たかったなって」
「どうして?」
「だって、イルミネーションをバックにしてこんなにかっこいいふたりが並んで座ってるとこ、写真に撮っておきたかった。待ち受け画面にしたかったぁ」
 今の、頬を染めてはにかむ蒼生の顔こそ本当に撮っておくべきだった、と速攻で後悔するふたりだ。
 あ、と蒼生が言葉を繋げる。
「もしかして、声とかかけられたりしたんじゃない?」
「したした。だけど冬矢が見事にさらりと流したから」
「……そう」
 笑ったその顔が意味するのは、安堵……?
 突然、健太が蒼生の腰を、冬矢が蒼生の肩を抱く。
「え? え?」
 きょろきょろと左右を見比べる蒼生。その目が、部屋の外を通りかかった男性と合う。一瞬だったから、どう思われたかはわからない。
「あ、あの、人が、外」
 ふたりは手を離さない。
「足りなかったんだ。蒼生成分を補給させて」
「寒かったから、暖めてほしい」
 蒼生は戸惑ったような、それでもどこか満たされたような、不思議な気持ちで抱かれた手の感触をかみしめる。
 健太が、蒼生の耳元に口を寄せた。
「ケーキ、チョコにしていい?」

 浮かれた足取りで健太は夜道を歩く。後ろを歩く蒼生は、それこそ飛んでいくのではないかくらいのその浮かれっぷりが面白くて仕方ないようだ。蒼生と並んだ冬矢も、仕方ない奴とは思っているが、同時に少し微笑ましくも思っている。
「ああ、休みの日って最高」
 まるで冬休みのピークが今日だったように健太が呟く。冬矢が短く息を吐いた。
「蒼生は働いてたんだけどな」
「あ」
「いいよぉ。ふたりが来てくれたから、働いてたのなんか昨日のことみたい」
 健太のことを言えないくらい、蒼生もふわふわした気持ちだ。今日会えると思っていなかった。明日を楽しみしていたのに、それが前倒しで訪れた。しかも、ちゃんと明日も会える。それが嬉しくて嬉しくて仕方がない。
 ただ、「でも」と思う。
 このまま一緒にいられたらいいのに。帰りたくない。なのに帰らなくちゃいけない。明日だって帰るのは自分の家だ。きっとそれは高校生のうちには仕方のないことだとわかっているけれど、やはりもどかしい気持ちもある。
 蒼生は頭を振った。今を嘆いても仕方がない。今だからしか出来ないことをすればいい。それはふたりが教えてくれたから。
「明日、楽しみだね」
 健太が飛び上がる勢いで振り向いた。
「オレも楽しみ! いやあ、蒼生がまさかスケートデートをOKしてくれるとは思わなかった!」
「そうだねえ、基本アウトドアはお断りしてたから……。だって一緒に行っても健ちゃんについて行ける気がしないもん。でも、スケートなら一応滑れるし、大丈夫かなって」
「これで夕方に帰らなきゃいけないんじゃなかったらさらに最高だったんだけどな~」
「みのりちゃんがどうしてもって言うんだから、妹孝行してあげなくちゃ」
「んー……」
 冬矢がひんやりした目で健太をちらりと見る。
「両家合同クリスマス会なんだろ。どちらにしてもおまえは蒼生といられるじゃないか」
「まあな……。でもふたりきりじゃねえもん。昼のデートだって、冬矢は断るかと思ってたんだけどな」
「蒼生が行くのに何故俺が断るんだ?」
「たしかに」
 ふたりのやりとりに、そんなにすぐ納得するんだ、と微笑ましく思いながら、蒼生は明日の光景を想像する。
「……きっと冬矢は上手なんだろうなあ」
「ふふ。蒼生、滑れないふりしてもいいよ? 俺がエスコートしてあげる」
「ひぇ……」
「ほんっとおまえマジでなんでも出来んのな……」
 考えるだけでわくわくする。誘われた時の、冬場友達とリンクに行っていたという健太の発言には、一瞬「うん?」と思った蒼生だ。けれど、当時誘われてもきっと断っていただろうから、そこは気にしないことにする。運動神経のいい健太は、誘ってくるくらいだから上手だろうし、冬矢だってこの自信だ、とても上手に滑るのだろう。たしかにこれは滑れなかったほうがいい目を見られたかな、と思う。
 しかし蒼生は知っている。どんなパターンであっても、ふたりといれば最高の1日が約束されることを。
「オレ、昼も楽しみなんだよな。リンクの周りの屋台で買い食いなんてさ。あんまり蒼生たちとやらないじゃん」
「うん。そういえばそうだね」
「健太がいつもかっこつけたがるからだろ」
「……んー、そう、だっけ?」
「僕はねー、そういうのも好き。だから僕もごはん楽しみ」
 健太は首を捻る。間食ならともかく、食事にそんな選択肢を一切口にしない冬矢に言われる筋合いがあるだろうか。どちらかといえば、冬矢と屋台のイメージが重ならないから避けていたような自覚がある。つまり、今まで自分は冬矢のこともしっかり考慮に入れていたのか、とちょっと愕然とする。が、蒼生が楽しそうなのでどうでもいいということにした。
 思い付いたことを思い付いたタイミングで言う健太は、後から考えたら、少しズレている提案をしていることがある。けれど蒼生はその多くをそのまま受け入れる。それは蒼生の妥協ではなく、素直に健太を受け止める気持ちなのだ。健太にはそれが嬉しい。
「ケーキは今回、蒼生が選んでくれたんだよな」
「そう! 前にお父さんの友達が手土産に持ってきてくれた洋菓子店のなんだけど、すごく美味しかったんだ。なかなか予約取れない有名なケーキなんだって。いつかふたりに食べさせたいと思ってたんだけど、まさかクリスマスの抽選に当たるなんて想像もしてなくて」
「せっかく店まで取りに行くんだから、他にも美味しそうなお菓子買って帰ろうね」
「どんなのがあるかな。わくわくしておきたいから調べないで行くんだ」
 楽しそうな蒼生。冬矢もそれに笑ってみせる。いつか食べさせたい、と言ってくれた、その言葉だけで満足してしまいそうだ。蒼生が自分のためにとずっと考えていてくれることが嬉しい。それは蒼生の心にいつも自分がいるということだから。本当は、蒼生にだけこっそり作ったケーキをプレゼントする計画もあった。だが、その当選を知った蒼生がその足で嬉しそうに伝えてきてくれたから、それは来年以降のいつかに実行することにした。そのチャンスはいくらでもあるのだから。それにしても、まだ残暑の季節にクリスマスケーキの話をしてきたあの時の蒼生は、本当に可愛かった。
 楽しい道のりは、一瞬だ。
 自分の家を目にした蒼生は、家に帰ってきた安心感よりも離れがたさが勝る心を押しとどめ、笑う。
「今日はありがとう。嬉しかった。あと、送ってくれてありがとう。また、明日ね」
 もちろん、そんな蒼生に気付かないふたりではない。
 冬矢が辺りを見回し、頷く。健太がそれに頷き返し、蒼生の家の門扉をできる限りゆっくり、音が鳴らないように開ける。それからそっと中に入って塀の影にしゃがみ込むと、蒼生を手で招く。自分の家に招かれた形になった蒼生は、不思議そうにその隣にしゃがみ込んだ。その後ろに続いた冬矢が、蒼生を家の中から隠す位置で膝を落とす。
「健ちゃん? 冬矢?」
 なんとなくそうしたほうがいい気がして、蒼生は小さな声でふたりの名前を呼んだ。
 ふたりは笑って、
 順番にキスをくれた。
「……わ、あ」
 顔を真っ赤にし、蒼生は頬を押さえる。
 まさか。
 こんな場所で。
 健太は蒼生の手を握る。
 冬矢は蒼生の髪を撫でる。
 それから、
「この続きは、来週ね」
 そう言って、もう一度ずつ、蒼生に優しくキスをした。 
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 金色の光が、視界の至る所で輝いている。あちこちに見えるショーウィンドウの中も、街灯から吊される商店街のバナーも、そこここの店頭に置かれた個性豊かなツリーも、ぐるぐるに線を巻かれた街路樹も。
 それは目には暖かいが、実際のところビル風が強く吹いていて、かなり寒い。それになによりも、ガードレールの隣に寄り掛かっている相手が、お互い、大変に不本意だ。
「あー……なんだってこんなクリスマスイブ当日に、おまえと隣り合ってなきゃなんねえんだ……」
 沈黙に耐えきれなくなった健太が低く唸る。
「だったら今すぐ帰ればいいだけの話だろう」
 冬矢は心底どうでもいいような口調で吐き捨てる。
 目の前を通っていく楽しそうな人の流れに反して、ここにだけは殺伐とした空気が漂っていた。内情をまったく知らない通りすがりの女性たちが、並んだふたりをちらりと見てはひそひそ囁きあったり小さく騒いだりしているのが見える。確かに、見目のいい男子が2人、黙って座っている様子は、やたらと絵になるうえに意味ありげだ。しかもそれがクリスマス・イブの出来事だというのだから、何事かと思われても仕方ないだろう。
 大体は遠巻きにするくらいだが、中には勇気を持って近付いてくる女性たちもいた。
「あの、私たちも2人なんですけど……寒いですし、よかったらお茶でもしません?」
 顔を上げた冬矢は、感情が0.1グラムも乗らない、完全な営業スマイルを作る。
「すみません、僕たち人と待ち合わせをしているので」
「あっ、そうなんですかぁ……」
 彼女たちが残念そうに去って行くと、余韻も見せず、すっと表情を消す。
「……それ、もはや芸だな」
「失敬な。穏やかに場をやり過ごす処世術だ」
 健太は小さく息をついた。初めて会った頃の冬矢は、愛想というものをおよそ知らないような人間だった。興味のないものはすべて切って捨てるようなタイプだと思っていたら、後々になってそもそもあらゆることに興味がなかったというのを知って驚愕したのを覚えている。周りに波風が立とうが何をしようが、どうでもよかったらしい。それが、上手に立ち回って、波も風も立ちましたか? くらいに収めるようになった。
 おそらく、その変化を一番近くで客観的に見ていたのが健太だ。好きな人が出来るってこういうことなんだな、と素直に感心する。

 がちゃり。目の前の小さなドアからノブが回る音がして、ふたりははっと腰を浮かせる。開いていくに従って、漏れてくる中の光。それは街の灯りよりも明るく感じられた。
「お疲れ様でした」
 凜とした声が聞こえて、胸が震える。
 開いたドアに、浮かぶシルエット。
「あ」
 少し上擦った声。
「……綺麗だ」
「後光差してるもん……」
 ぱっと喜んだ顔が、呻くような言葉を聞いて不審げに変わる。
「冬矢? 健ちゃん? なに言ってるの?」
 言いながら、蒼生はぱたぱたとふたりの元に駆け寄る。
「バイトお疲れ様」
「今日は!? 変な客いなかった!?」
「あ、うん、ありがとう。大丈夫だよ、そんなの滅多にいないから。たぶん」
 健太が右手を、冬矢が左手を取る。嬉しそうに撫でてくるその手は、どちらも冷たい。蒼生はその冷たさに複雑な気分になる。
「いつからここにいたの? すっかり冷えてる。ごめんね。どこか中にいてくれればよかったのに」
「だって出てくる瞬間の蒼生に会いたかったんだもん」
「もし入れ違いになっちゃったら嫌だからね」
 蒼生は少し困った顔をして腰をかがめると、ふたりの手を両頬に押し当てる。
「……冷たい」
 それから、ふわっと笑った。
 さっきまで寒いと思っていたのだが、それだけですっ飛んでしまった。健太は抱き締めたい衝動を抑え、冬矢は口づけを我慢する。ああ、なんて綺麗な。街の景色より、ずっときらきらして見える。
「でも、びっくりした。ふたりしてどうしたの?」
「蒼生が遅くなる日はいつも迎えに来てるじゃん」
「揃って来ることはないのに」
「揃って来たわけじゃないよ」
「え?」
 蒼生が首を傾げると、健太と冬矢は同時にお互いを指さす。
「蒼生に会いたくて来たらこいつも来た」
 まるきり。同時に。
 ふっ、と肩を震わせた蒼生は、こらえきれなくなったのか声を上げて笑った。
「そっか。じゃあしょうがないね。ふふ。明日会う約束してるのに」
 健太は内心で、めちゃくちゃ可愛いな、とドキドキしながら、あえて拗ねた顔を見せる。
「てか、イブにバイト入れる蒼生が悪いと思う。イブもクリスマスも恋人と一緒にいてくれるべきだと思う。むしろ、いて」
「僕もそうしたかったけど……恋人といたい人は僕だけじゃないでしょ。シフトが穴だらけになっちゃう」
 冬矢は蒼生の頬に寄せられたままの自分の手の甲で、暖かなその頬を撫でる。
「蒼生の優しさが痛いな……。だから今日は、この後、付き合ってもらうから」
 え、と蒼生が呟く。健太は蒼生の手を強く握った。
「そ。イブだからイチャイチャする会~!」
「なにそれ?」
 健太と冬矢が、にっこりと笑った。

 小部屋の中は、いつもと違って壁にぐるりと電飾が巡らされていた。机の上には申し訳程度の小さなツリーがちょこんと乗っている。
「へー、カラオケボックスのクリスマスイベントかあ。こんなのやってるんだね」
 電飾の小さなライトをちょんちょんとつつきながらの蒼生の声は、いつもよりほんの少し高い。喜んでくれているんだなあ、と健太はきゅんとする。
「今日の今日だし、駄目だろうなって思って聞いたら、急にキャンセルが出たって話でさ。とにかく押さえてみたんだ」
「そうなんだ、ありがとう!」
 冬矢はメニューの上に置かれたコピー用紙を手に取る。どうやら期間限定のチラシのようだ。
「クリスマス特別メニュー……。一応ケーキもあるんだな。チキンもある。どうしようか?」
「頼もうぜ!」
「ケーキは明日も食べるだろ」
「いいじゃん、明日は明日、今日は今日だし」
 絶対そう言うだろうなと思っていた蒼生は、早速ケーキの選定に入る健太を嬉しそうに見つめた。一方、健太にチラシを手渡した冬矢は、廊下を通る影を数えている。
「? どしたの?」
「ああ、結構人がいるなと思ってね」
 健太が頷く。
「全館満員ですって書いてあったからなあ。……あ、さてはえっちなことしようと思ってたんだろ」
「!?」
 ぎょっとする蒼生をよそに、冬矢は呆れた顔をする。
「普段こんなに混んでいる場所でもないのに、イベントの力はすごいんだなと思っていただけだ。公共の場でそんなことするわけないだろ。おまえじゃあるまいし」
「オレじゃあるまいしっておまえ……。そりゃしてぇけどさ。今この瞬間だって」
「!?」
 蒼生が、さっと取ったメニューで体をガードしたのを見て、健太が分かりやすく慌てる。
「し、しないよ!? そこまで常識なくねぇよ!? だって冬矢が絶対許さないじゃん!」
「許すわけないだろ。万が一見つかって通報でもされたらどうするんだ。蒼生に危害が及ぶようなことはさせないからな」
「イベント中だし、見逃してもらえないもんか」
「さっきから家族連れが外通ってる。余計無理だろう」
 メニューの影からちらりとふたりの様子を覗き、蒼生は小さく笑った。内容自体は他人に聞かせられたものではないが、ふたりのやりとりはこんなに楽しいんですよと自慢したいくらい気持ちがいい。
 冬矢が、くすくす笑う蒼生に気が付いた。
「蒼生? ……さっきから、嬉しそうだね」
 目を細めた蒼生が、冬矢の視線を受け止めてから、その肩にぽすんと寄り掛かった。
「嬉しいよ。さっきは言えなかったけど、外に出た瞬間、ふたりの顔が見えて本当に嬉しかったんだ。羽があったら飛んでたかもしれないくらい」
「羽……」
 健太がうっとりと呟く。その脳内が容易に想像できて、さらに蒼生は笑う。
「もったいなかったなーって思うのは、僕、ふたりが気付く前に出たかったなって」
「どうして?」
「だって、イルミネーションをバックにしてこんなにかっこいいふたりが並んで座ってるとこ、写真に撮っておきたかった。待ち受け画面にしたかったぁ」
 今の、頬を染めてはにかむ蒼生の顔こそ本当に撮っておくべきだった、と速攻で後悔するふたりだ。
 あ、と蒼生が言葉を繋げる。
「もしかして、声とかかけられたりしたんじゃない?」
「したした。だけど冬矢が見事にさらりと流したから」
「……そう」
 笑ったその顔が意味するのは、安堵……?
 突然、健太が蒼生の腰を、冬矢が蒼生の肩を抱く。
「え? え?」
 きょろきょろと左右を見比べる蒼生。その目が、部屋の外を通りかかった男性と合う。一瞬だったから、どう思われたかはわからない。
「あ、あの、人が、外」
 ふたりは手を離さない。
「足りなかったんだ。蒼生成分を補給させて」
「寒かったから、暖めてほしい」
 蒼生は戸惑ったような、それでもどこか満たされたような、不思議な気持ちで抱かれた手の感触をかみしめる。
 健太が、蒼生の耳元に口を寄せた。
「ケーキ、チョコにしていい?」

 浮かれた足取りで健太は夜道を歩く。後ろを歩く蒼生は、それこそ飛んでいくのではないかくらいのその浮かれっぷりが面白くて仕方ないようだ。蒼生と並んだ冬矢も、仕方ない奴とは思っているが、同時に少し微笑ましくも思っている。
「ああ、休みの日って最高」
 まるで冬休みのピークが今日だったように健太が呟く。冬矢が短く息を吐いた。
「蒼生は働いてたんだけどな」
「あ」
「いいよぉ。ふたりが来てくれたから、働いてたのなんか昨日のことみたい」
 健太のことを言えないくらい、蒼生もふわふわした気持ちだ。今日会えると思っていなかった。明日を楽しみしていたのに、それが前倒しで訪れた。しかも、ちゃんと明日も会える。それが嬉しくて嬉しくて仕方がない。
 ただ、「でも」と思う。
 このまま一緒にいられたらいいのに。帰りたくない。なのに帰らなくちゃいけない。明日だって帰るのは自分の家だ。きっとそれは高校生のうちには仕方のないことだとわかっているけれど、やはりもどかしい気持ちもある。
 蒼生は頭を振った。今を嘆いても仕方がない。今だからしか出来ないことをすればいい。それはふたりが教えてくれたから。
「明日、楽しみだね」
 健太が飛び上がる勢いで振り向いた。
「オレも楽しみ! いやあ、蒼生がまさかスケートデートをOKしてくれるとは思わなかった!」
「そうだねえ、基本アウトドアはお断りしてたから……。だって一緒に行っても健ちゃんについて行ける気がしないもん。でも、スケートなら一応滑れるし、大丈夫かなって」
「これで夕方に帰らなきゃいけないんじゃなかったらさらに最高だったんだけどな~」
「みのりちゃんがどうしてもって言うんだから、妹孝行してあげなくちゃ」
「んー……」
 冬矢がひんやりした目で健太をちらりと見る。
「両家合同クリスマス会なんだろ。どちらにしてもおまえは蒼生といられるじゃないか」
「まあな……。でもふたりきりじゃねえもん。昼のデートだって、冬矢は断るかと思ってたんだけどな」
「蒼生が行くのに何故俺が断るんだ?」
「たしかに」
 ふたりのやりとりに、そんなにすぐ納得するんだ、と微笑ましく思いながら、蒼生は明日の光景を想像する。
「……きっと冬矢は上手なんだろうなあ」
「ふふ。蒼生、滑れないふりしてもいいよ? 俺がエスコートしてあげる」
「ひぇ……」
「ほんっとおまえマジでなんでも出来んのな……」
 考えるだけでわくわくする。誘われた時の、冬場友達とリンクに行っていたという健太の発言には、一瞬「うん?」と思った蒼生だ。けれど、当時誘われてもきっと断っていただろうから、そこは気にしないことにする。運動神経のいい健太は、誘ってくるくらいだから上手だろうし、冬矢だってこの自信だ、とても上手に滑るのだろう。たしかにこれは滑れなかったほうがいい目を見られたかな、と思う。
 しかし蒼生は知っている。どんなパターンであっても、ふたりといれば最高の1日が約束されることを。
「オレ、昼も楽しみなんだよな。リンクの周りの屋台で買い食いなんてさ。あんまり蒼生たちとやらないじゃん」
「うん。そういえばそうだね」
「健太がいつもかっこつけたがるからだろ」
「……んー、そう、だっけ?」
「僕はねー、そういうのも好き。だから僕もごはん楽しみ」
 健太は首を捻る。間食ならともかく、食事にそんな選択肢を一切口にしない冬矢に言われる筋合いがあるだろうか。どちらかといえば、冬矢と屋台のイメージが重ならないから避けていたような自覚がある。つまり、今まで自分は冬矢のこともしっかり考慮に入れていたのか、とちょっと愕然とする。が、蒼生が楽しそうなのでどうでもいいということにした。
 思い付いたことを思い付いたタイミングで言う健太は、後から考えたら、少しズレている提案をしていることがある。けれど蒼生はその多くをそのまま受け入れる。それは蒼生の妥協ではなく、素直に健太を受け止める気持ちなのだ。健太にはそれが嬉しい。
「ケーキは今回、蒼生が選んでくれたんだよな」
「そう! 前にお父さんの友達が手土産に持ってきてくれた洋菓子店のなんだけど、すごく美味しかったんだ。なかなか予約取れない有名なケーキなんだって。いつかふたりに食べさせたいと思ってたんだけど、まさかクリスマスの抽選に当たるなんて想像もしてなくて」
「せっかく店まで取りに行くんだから、他にも美味しそうなお菓子買って帰ろうね」
「どんなのがあるかな。わくわくしておきたいから調べないで行くんだ」
 楽しそうな蒼生。冬矢もそれに笑ってみせる。いつか食べさせたい、と言ってくれた、その言葉だけで満足してしまいそうだ。蒼生が自分のためにとずっと考えていてくれることが嬉しい。それは蒼生の心にいつも自分がいるということだから。本当は、蒼生にだけこっそり作ったケーキをプレゼントする計画もあった。だが、その当選を知った蒼生がその足で嬉しそうに伝えてきてくれたから、それは来年以降のいつかに実行することにした。そのチャンスはいくらでもあるのだから。それにしても、まだ残暑の季節にクリスマスケーキの話をしてきたあの時の蒼生は、本当に可愛かった。
 楽しい道のりは、一瞬だ。
 自分の家を目にした蒼生は、家に帰ってきた安心感よりも離れがたさが勝る心を押しとどめ、笑う。
「今日はありがとう。嬉しかった。あと、送ってくれてありがとう。また、明日ね」
 もちろん、そんな蒼生に気付かないふたりではない。
 冬矢が辺りを見回し、頷く。健太がそれに頷き返し、蒼生の家の門扉をできる限りゆっくり、音が鳴らないように開ける。それからそっと中に入って塀の影にしゃがみ込むと、蒼生を手で招く。自分の家に招かれた形になった蒼生は、不思議そうにその隣にしゃがみ込んだ。その後ろに続いた冬矢が、蒼生を家の中から隠す位置で膝を落とす。
「健ちゃん? 冬矢?」
 なんとなくそうしたほうがいい気がして、蒼生は小さな声でふたりの名前を呼んだ。
 ふたりは笑って、
 順番にキスをくれた。
「……わ、あ」
 顔を真っ赤にし、蒼生は頬を押さえる。
 まさか。
 こんな場所で。
 健太は蒼生の手を握る。
 冬矢は蒼生の髪を撫でる。
 それから、
「この続きは、来週ね」
 そう言って、もう一度ずつ、蒼生に優しくキスをした。 
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