投稿日:2023年12月31日 21:19 文字数:15,236
32こ目;【番外編】本日はおやすみです~せっかくの大晦日なので~
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「おやすみ」なので短編…? あれ…? そうでもないな…?
なんとなく金曜日が定期更新日みたいになってたら偶然イブと大晦日だったのでこれは書かざるを得なかった番外第2弾です。
蒼生が健太と冬矢とカウントダウン?をするお話。
次回からは予告通り新シーズンに入ります。
1年間ありがとうございました。
この3人のことを考えて下半期が終わりましたが、少なくとも来年上半期もそんな感じかと思います。
今年の更新はこれで終了です。
皆様、よいお年を。
↑初掲載時キャプション↑
2021/12/31初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
初掲載時は毎週金曜日に公開する感じのスケジュールだったのでした。
次回からは、初掲載から約2年後の同日に再掲する予定です。
いろいろあってズレるとは思いますが、気長にお付き合いのほど、よろしくお願いします!
なんとなく金曜日が定期更新日みたいになってたら偶然イブと大晦日だったのでこれは書かざるを得なかった番外第2弾です。
蒼生が健太と冬矢とカウントダウン?をするお話。
次回からは予告通り新シーズンに入ります。
1年間ありがとうございました。
この3人のことを考えて下半期が終わりましたが、少なくとも来年上半期もそんな感じかと思います。
今年の更新はこれで終了です。
皆様、よいお年を。
↑初掲載時キャプション↑
2021/12/31初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
初掲載時は毎週金曜日に公開する感じのスケジュールだったのでした。
次回からは、初掲載から約2年後の同日に再掲する予定です。
いろいろあってズレるとは思いますが、気長にお付き合いのほど、よろしくお願いします!
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なんだか、わくわくするような。そわそわするような。僕は何度も時計を見ては立ち上がり、あたりをうろうろしてからまた時計を見て座り込む。無駄なことをしてる自覚はあるんだけど、どうにも落ち着かなくて。
「蒼生、邪魔ー」
「あっ、ごめん」
テレビの前を往復すると、さすがにこうちゃんから抗議の声。そりゃそうだよね。
でも、こうちゃんは別に怒ってるとかではないらしい。ニヤニヤしながらこっちを見てる。
「まあな? はしゃぐ気持ちはわかるけどな?」
「そ、そんなはしゃいでるとかじゃ……」
ない、と言おうとしたけど、……うん、無理だよね。
駄目だ、やっぱり落ち着かない。僕はこうちゃんの邪魔にならないように、台所のほうに向かう。冷蔵庫を開けて、ペットボトルが数種類入ってるのを確認する。……さっきもやったのに。
そもそものきっかけは、健ちゃんのお姉さんであるゆみちゃんが、大ファンだっていう海外アーティストの地元カウントダウンコンサートの抽選に当たったことだった。そのチケットは2枚組で、同じくファンだった妹のみのりちゃんが、自分もどうしても行くって言って聞かなかった。
ゆみちゃんも大学生になったし、危ない都市でもないし、1人で海外旅行もありなのでは……みたいな雰囲気が最初はあったんだけど、みのりちゃんが名乗り出たことで風向きが変わった。そもそも受験生が海外なんて、ってところから紆余曲折あり、せめて家族が一緒に行って上の誰かが勉強を見よう、直前の気分転換にもなるし、たかが数日だし、って流れになった。
そこからトントン拍子に2家族で海外旅行って話に、……なりかけた。
みのりちゃんは僕に勉強を見てほしいって言ってきた。そりゃ、みのりちゃんは妹みたいなもんだし、手伝ってあげたいよ? でも、僕は、どうしても飛行機が苦手なんだ。だから、勉強云々じゃなくて、交通手段が駄目なんだって謝り倒して、断った。母さんは僕が拒否したことを快く思わなかったみたいだったけど、駄目なものは駄目なんだから仕方ない。昔の僕だったら我慢してたと思う。でも、なんだか今なら言える気がして。
そしたら、だけど1人で家に置いておけないでしょう、って言われた。そんなことはない、大丈夫だと思うんだけど。そしたら健ちゃんが、
「蒼生が行かないならオレも行かない」
って言った。僕を助けようとしてくれたのか、僕と一緒にいたいと思ってくれたからなのか、どっちかはわかんない。でも、どっちであっても嬉しかったから、どっちでもいい。
「オレも友達と予定あるからパス」
こうちゃんもそう断って、まあ3人いるなら大丈夫だろうって話になり、みのりちゃんの勉強はみどりちゃんが見てくれることになった。名前が似てるからここも昔からセット扱いで、仲もいいしちょうどいいよねって。
かくして僕たちはカウントダウンを家で過ごすことになりました、って報告したら、冬矢も両親に駄々をこねたらしい。あの、冬矢が! や、もちろん子供みたいなああいう駄々じゃなくて、きちんと説明したんだろうけど。
結果、冬矢とお母さんがお父さんの赴任先に行くんじゃなくて、お父さんが帰ってくることになったらしい。でもちゃんと家族で揃おうとするんだから、いいご家庭だよね。それで、年越しは、友達と過ごしますってちゃんと許可も取ってきたって。
はー。
そんなこんなで、今日は健ちゃんと冬矢が家に来る。イベントとか派手なことはなんにもないけど、でも、こんなカウントダウンがあっていいんだろうか。どうしよう。ドキドキする。
「蒼生ってさー」
ん? 椅子に座って固まってた僕は、こうちゃんを見る。相変わらずニヤニヤしてるけど、ちょっと優しい目をしてた。なんなの。
「ホント、ずーっと猫被ってたんだな。おまえのこと、優等生のいい子ちゃんだと思ってきたけどさ。そーいう慌てたりはしゃいだり、オレに年相応の反応見せてくれるようになったよな」
「えっ」
……言われてみれば、こうちゃんにはあんまり身構えなくなった気がする。なんか、去年くらいだろうか、昔は当たり障りのない態度だったこうちゃんが積極的に僕に絡むようになってきて、ああこれ「顔」作っても無駄なのかなーって、思っては、いた。でも態度に出してるつもりはなかったんだけど。
「たぶんあれなんだろうな、健太と冬矢くんのおかげなんだろうな」
あー……。そっか。そういえば、僕が家で3人して勉強会しだしてから、こうちゃんってやたら構ってくるようになったかも。部屋に突撃してくることもしょっちゅうだから、気を抜いてる僕を結構見られちゃってる。そんなこんなで、今更いいやって思ったのかもしれない。
「蒼生がそうやって楽でいられるなら、おにーちゃんも嬉しいよ」
「……こうちゃんがお兄ちゃんぽいこと言うの、なんか怖いなあ……」
「ははは。酷ぇな」
こうちゃんだって、そうやって普通に笑うようになったじゃん。前は揶揄ってくるばっかりだったのにさ。こんなふうに、たまにお兄ちゃんみたいな顔するから、今では、ちょっと頼りになるかも、なんて思っちゃってる。
そこに突然、ピンポーン、って音。
あっ。時間っ。
「オレ行こうかぁ?」
「結構ですっ!」
あれだけ時計気にしてたのに。僕は慌てて玄関に向かう。ドアを開けると、ふたりの笑顔が並んでて。胸が、ぎゅってなる。
「いらっしゃいませー」
「お待たせしましたー」
なんて言い合う僕と健ちゃんを、冬矢がやれやれ、という感じで笑う。
「健太、家の前で張ってたんだよ。俺が自分より早く着いて先に蒼生に会ったら悔しいからってさ」
「そりゃ抜け駆けされそうだからさあ」
「思うんだけど、だったら自分が先に来ていればよかったんじゃないか?」
「そ、それもフェアじゃねえし」
……うわあ。いい子じゃん。
「僕ね、最近健ちゃんのこと可愛いなって思うことが結構あるよ」
「そうだな、俺も可愛い奴だなと思う」
「蒼生はともかく冬矢にそう言われんのめちゃくちゃ気味悪ぃな!」
「幼い、って意味だよ」
「だろうな! 違ったら怖いわ!」
なんていうかなあ。素直で律儀なとこ、ホントそう思うんだよね。小さい頃はずーっと可愛いなって思ってて、それがいつの間にかかっこいいなに変わって、今はどっちも思う。
リビングに入ると、ペットボトルのお茶とコップが3つ、テーブルの上に置いてあった。こうちゃんがしてくれたんだ。
「おお、いらっしゃい。早速賑やかだな」
すっと進み出た冬矢が、手に持ってた袋をこうちゃんに差し出す。
「お邪魔します。すみません、こんな年の瀬に。これ、母からなんですけど、食事の足し前に」
「へえ、わざわざありがとな。……冬矢くんももうちょっと打ち解けていいんだぜ? 他人じゃないみたいなもんだし、さ」
「……そうですね」
そう言う冬矢の笑顔は、外向けのやつだ。こうちゃんはそれに苦笑すると、受け取った袋を持って台所のほうに向かっていった。
健ちゃんが荷物とコートを適当にそのへんに放り出す。
「おまえいつまで経ってもこう兄に懐かないよなあ。マジで適当でいいって。こう兄って、フレンドリーなやりとりのほうが嬉しいタイプだって自分で言ってたしさ」
それは僕もそう思う。もっと気軽に付き合って大丈夫だよ。
冬矢は、小さく首を傾げて、ぽつりと言った。
「たぶん、あの人は蒼生たちが思うより、慎重で注意深くて、物事をよく見ていると思うよ」
へ?
「なんだ、それは属性が同じだから感じる何かがあんの?」
「今の紅輝さんがどうかは知らないから明言は避けるけど、俺は蒼生一筋だよ?」
「まあ、どうやらそうっぽいな」
ひとすじ。そっか。
それを聞いて舞い上がっちゃう僕って、ちょっと単純すぎやしないだろうか。僕の中の「嬉しいと思う単語リスト」がどんどん膨大になってく気がする。いや、実際にはそんなの作ってないよ。でも確かに存在してる気がするので、もし目に見える形になったとしたら一度眺めてみたいリストだ。……とか思ってみたものの、本当に読んだら恥ずかしくて倒れるかもしれないなぁ。
そういえば、付き合って1年以上が経つけど……冬矢が今まで付き合った子の話って、ふんわりとした概要しか聞いたことがない。その、じゃあ聞きたいかって聞かれると……気にはなる……ううん、あんまり聞きたくないような気もする……。とにかく、ほとんど知らないせいか、冬矢がそんなふうなお付き合いをしていたなんて、単なる噂だったんじゃないの? くらいにしか思えない。それだけ冬矢は、僕をきちんと大事にしてくれてるから……。
夕飯は、一応大晦日だしおそばかなって話をしてたので、それと買ってきた天ぷらを並べた。冬矢のお母さんが作ってくれた煮物も一緒に。どのくらいの量がいるかなって思って最初に茹でた4人前は、先に健ちゃんを座らせちゃったせいで、あっという間に消えた。
「おまえ、瞬間芸か!」
それだけで面白かったのに、突っ込むこうちゃんも面白くて、僕は笑いながら続きを茹でた。楽しい。慌てたせいでちょっと茹ですぎたかなって思ったけど、誰も文句は言わなかったし、笑いが絶えなかったし、煮物も美味しかったし、うん。いい日だ。
僕は食器を洗いながら冬矢とこうちゃんが難しい話をしてるのを聞いてる。健ちゃんは今お風呂だ。……大学の研究の話? 今何をやってるのかって冬矢が聞いたのをきっかけにこうちゃんが色々話してるんだけど、専門用語? がちょいちょい出てきて素人にはなんだかわからない。そういえばこうちゃんが何やってるかなんて聞いたことなかったかも。冬矢が話について行ってるのがすごい。
健ちゃんが出てきて、今度は冬矢がお風呂に行く。冬矢の家では片付けさせてもらえないからね、いつも気にしてたんだ。今日は堂々と、家人たる僕がやりますとも。お先にごめんね、と言って席を立った冬矢を見送るのは、ちょっと気分がよかった。だって人が何かしてるのに自分だけ座ってるの、すごく気になるじゃん。自分がやる分には気になんないんだけどさ。……お、健ちゃんとこうちゃんは漫画の話だ。苦手なやつだから僕は読んでないけど、健ちゃん好きだもんね。こうちゃんと話して楽しそうだった。
洗い物が終わったので一応そこに加わるけど、とりあえず2人の話は見えない。どうやら流行ってるんだな~って思ったくらいかな。でも健ちゃんが楽しそうなのでいいや。
そうこうしてるうちに冬矢が戻ってきた。
「オレ最後でいいわ。蒼生、風呂、先行ってこいよ」
と、こうちゃん。
……うん。うん。そうなんだけど。なんか。
なんていうか、なんか。
僕がこの場を離れてもいいのかなって、なんか。
…………うーん。
「……じゃあ、先、入るけど。変な話しないでね」
「変なって?」
「う、あの……。とにかく、一切僕の話しないでくれればそれでいい」
「ほぼ唯一の共通話題なのに?」
「なんか気になるからっ」
「弟の悪口なんか言わねえよ? せいぜいセンシティブな話するくらいじゃね?」
「それが駄目だって言ってるんだってば!」
「ははは、冗談冗談。わかったから早よ行ってこい」
健ちゃんは笑ってたし、冬矢も頷いてたから、大丈夫だと思う。でも、僕をよく知ってる3人が、僕のいないところで揃ってるって、なんだかものすごく気になる。悪口なんか言わないって? そりゃそんなこと言わない人たちだから大丈夫だと思うけど、信頼してるから大丈夫だと思うけど、ううう。
そもそもこうちゃんって予定があるんじゃなかったっけ。それで旅行に行かなかったんだよね。どうしてずっと家にいるんだろう。こうちゃんがいなければ、って言い方は酷いから使わないけど、そうだったら、もうちょっと……。
もちろん、じゃあ健ちゃんの家は誰もいないんだからそっちに行けばいいんじゃ、っていうのも考えたのは考えた。だけど、逆にこうちゃんをひとりにして3人で誰もいない家にいるっていうのはそれもちょっと誤解を招きそうじゃない? 誤解じゃないんだけど、こうちゃんだって変に思うだろうし。あと、なんか、冬矢が健ちゃんの部屋に行くのにちょっと抵抗あったみたいだし。
以上を踏まえまして、……ちょっと悩んでるのが今の僕。どうしよう。こうちゃんがいるから、で、できない、よね。だけど万が一そういうことになったら、そこから時間かかるのも……。うーん。一応、準備、しておこうかな。一応ね。……あと、そうならなくてもがっかりしないように心積もりしなくちゃ。
気は急くけど、ある程度ちゃんと時間をかけて、その、……いろいろして、僕はリビングに戻った。
笑って話してた3人が、僕に気付いて顔を上げる。よいしょ、とこうちゃんが腰を上げた。
「まあ大体そんなもんかな。オレも又聞きだから、今度ちゃんと聞いておくよ。いざって時は力になるから。……で、オレが風呂行ってる間に上に行くだろ? 飲み物とか適当に持ってって」
こうちゃんは僕の横を通りすぎがてら、ぽんと肩を叩いた。
「おやすみ、蒼生」
…………?
「うん、おやすみ」
なんだ? なんの話をしてたんだ?
え、怖っ。
思わずふたりの顔を見る。
「ははっ。そんな怯えた顔すんなよ。約束通り、蒼生の話はしてねえよ」
「うん。大学の話……主に大学生活について色々聞いてた」
そっか。そうなのか。たしかに、僕も一応なんとなくぼんやり決めてることはあるものの、きっかりこうだと言い切れる夢があるわけでもない。ふたりがどう考えてるかわかんないけど、現役のこうちゃんに聞くのはきっと理に適ってると思う。でも。
「……僕の話が出ないっていうのも、それはそれでさみしいもんだね……」
健ちゃんが笑う。
「かわいい~」
むむ。なんだと。そりゃ、わがままなのはわかってるよ……。
「それにしても、なんで蒼生の話しちゃいけなかったんだ? 紅輝さんも言ってたけど、俺たちは蒼生が傷付くようなこと陰で言うなんて絶対しないよ」
「そうじゃなくて……それは絶対ないって言い切れるんだけど……。だ、だって、実の兄と彼氏と彼氏だよ!? そんな3人が僕のこと話してたら、なんか……恥ずかしいじゃん……」
「……可愛い」
「冬矢までぇ……」
冬矢は口元を緩ませると、僕の頭をゆっくり撫でた。
「部屋、行こうか」
……うん。
ドアを開けると、あったかい風がふわっと髪を揺らしていく。エアコンのタイマー、入れておいてよかった。ちょうどいい感じだ。
「お客様用の布団って下に置いてあるんだ。後で取りに行けばいいかなって思って、まだ持ってきてないんだよね。手伝ってくれる?」
「布団、いる?」
「さすがにいるでしょ……。僕のベッド広くないもん」
なんて話をしながら部屋に入り、ドアがぱたんと閉まる。それとほぼ同時、冬矢が僕の体を引いて、噛みつく勢いでキスをしてくる。
僕はバランスを取り損ねて、膝が崩れて、倒れそうになる。
でもその時には後ろに健ちゃんがいて、体重をかける冬矢ごと僕を支えて、僕の左の耳朶を噛む。
「……んんっ……」
ぞくぞくする。
何度も何度も角度を変える冬矢の口から漏れる熱い吐息。
僕の体をゆっくりと床に下ろすかたわら、腰から足にかけて撫でてくる健ちゃんの手。
冬矢がふっと顔を上げ、その隙を突いて健ちゃんが上から被さるようにキス。
舌を強く吸われて息を詰めると、首筋から唇で辿られるぞわっとした感覚が鮮明になる。
「……っは、っは……ぁ」
ようやくその手が緩む頃には、すっかり僕の息も上がっていた。
「はー……ちょっと落ち着いた」
吐息と一緒に呟く健ちゃん。……それは、よかったです。はい。
冬矢は僕の頬をすっと撫でる。
「先週からずっと我慢してたんだ、“待て”が長すぎたな。ごめん、大丈夫?」
「だい、じょ、ぶ……。気持ちいいだけ……」
ぼーっとする。健ちゃんに全身を預けてることも、もう気持ちよすぎて。
健ちゃんが、僕の頭に頬を擦り付ける。
「でもさ、先週に引き続き、今日も駄目なんだろ?」
「紅輝さんがいるからな。静かな家だと物音で気付かれるかもしれないし。危険を冒さないに越したことはない」
だよねえ……。
「ごめんね」
「蒼生が謝ることじゃないだろ。いいんだ、こうやって触れられれば満足だよ」
本当は僕は満足…………してますよ、気持ちいいもん、してますが、やっぱり、むむ。
ぐい、と僕を立たせるように腕を上げた健ちゃんが、明るい声で言った。
「それじゃ、大晦日だからイチャイチャする会~!」
僕は思わず笑ってしまった。
「なんか、それ、先週も似たような会聞いた気がする」
「週1開催だからな。なお、その間ミニイベントが週6で開催される」
「毎日だねえ」
「毎日だなあ」
ふふ。
健ちゃんは、僕のベッドの羽毛布団を手際よくたたむと、部屋の端っこに追いやってたローテーブルの上に乗せた。それからベッドに乗り、壁に背中を付けて座り込む。
「会場はこちらです」
「はい」
会場って。僕も笑いながらベッドに乗り、健ちゃんの隣に座って足を投げ出す。冬矢も僕の隣に来る。両腕がふたりに触れてて、あったかい。だけどイチャイチャがそれで終わるはずは、当然なくて。
健ちゃんが、右頬にキスをくれる。それから、耳に。口を開けて、舌で耳の輪郭をなぞる、その音が直接響く。くすぐったい。左手が僕の右手を掴んで、指を絡ませてくる。
冬矢は、さっきの続きをするみたいに首筋に唇を這わせる。右手が僕の左腕の内側をゆっくりと上ってくる。左手は、膝から股の辺りをゆったりと上下する。
右を向けば、健ちゃんが笑ってキスしてくれる。
左を向けば、冬矢が目を和ませて「好きだよ」って呟く。
ああ、……嬉しい。
健ちゃんの右手が、ついっと伸びて、パジャマの上から僕のおちんちんに触った。わ。突然だったから、びくっとしちゃった。
「な。蒼生。はぁ……触りっこしよ。そのくらいならいいだろ」
「ん、うん……」
それくらい、なら。バレない。きっと。
「脱いで……」
「うん」
僕は左手をベッドにつき、腰を浮かせる。パジャマの腰のとこに反対側の手をかけると、健ちゃんの手が手伝ってくれる。途中から冬矢の手も加わって、太ももの所まで下ろす……と思ったんだけど、ふたりの手はそのまま僕の足からパジャマを引き抜いた。
「ぇ……? ここまで脱ぐの……?」
「へへ、脱がせちゃった」
そっかあ。
あー、ちょっと反応しちゃってるの、見えてるよね……。本当は、さっきのキスで、火がついた。「今日はしない」、それが最初からわかってたから、ふたりは深いキスを出来るだけ我慢してる。だけど、僕はあの瞬間、もっと、って思った。
全部バレちゃってもいいんじゃないかな! もう!
なんかそう思ってしまうくらい、ぼーっとする。まだなにもしてないのに。期待する。しちゃう。ああ。
「蒼生、可愛い。ほんとは、触ってほしかった?」
健ちゃんの囁き。僕は何も考えられなくなって、ただ、頷く。
目の端で、健ちゃんがズボンを下ろす。なんだ。健ちゃんだってそうじゃないか。
僕は右手でそれに触れる。熱い。どくどくいってる。
「蒼生、俺にも、出来る?」
冬矢が僕の左手を引く。導かれて触れた熱は、こっちも熱い。
ちがうタイミングの脈、でもどっちも速い。
はあ、こんなに、心臓が早鐘を打つほどに、ああ、こんなに。僕のことを。
両手に濡れた感触。
交互に目をやりながら、愛しい熱を、てのひらで、指先で、感じたくて、手に余るそれを、余すところなく触れたくてっ、……これ……っ。もっと、ほしい……。
「……ひゃっ……う……」
ふたりの手が、僕に伸びた。触れられた瞬間、びりっと電流が走ったよう。2本の手が。先のほうを、根元のほうを、優しく。強く。ゆっくりと。速く。
「あっ……ああっ、や、……あぁっ」
駄目。声。駄目なのに。
きもち、い。
冬矢が、僕の左足の上に、自分の右足をかけた。
ふぇ……?
なに……?
「健太」
「あ?」
「足」
「……ああ」
健ちゃんもふっと笑って、僕の右足の上に足を……?
え?
ふたりの足に、ぐっと力が入る。
それで、あ、と思った。
「やっ……え、あ、これ……っ、……足、あ、閉じらんないぃ……はあっ、あ」
逃げたいわけじゃない。
だけど、逃げられない、その状況は、なんでか腰の奥からぎゅんっとくる感覚を呼ぶ。
足を開かされてる、って思うと、ぞくぞくが……止まんない。
「……あっ……ん……っう、ぅ……」
腰が勝手に動く。
健ちゃんと冬矢は、あいたほうの手で、それぞれに触れる僕の手を包み込む。ああ。こっちも、外せない。ふたりの思うとおりに動かされる。
だめ。
これは。
おかしくなる……っ。
「っも、むり……イッちゃ……ぁ、あ」
だめ、
声が抑えられな……っ。
咄嗟に冬矢に顔を向ける。悟ってくれたのかどうか、一瞬のことだったからわからない。だけど冬矢は、僕の口を塞ぐみたいなキスをした。
「……んっ、んんんーっ……」
あ。
……あー。
全身から力が抜ける。でも、両手、動かさなきゃ。ただたぶん、僕の力なんてほとんど意味なくて、ふたりの手が僕の手を動かしてる。
だから僕はぼんやりと、その熱さを堪能し続ける。
「…………っ」
「……はぁっ」
それが順番に大きく脈打つのを手の中で感じるのが、すごく、心地よかった。
ちょっと情けないけどさ。
荒い息だけが聞こえる。
「ごめんね……最後、僕、役に立ってなかったでしょ」
だけど、冬矢はまったく気にしてないみたいに笑う。
「すべすべで気持ちよかったよ」
健ちゃんも満足げに頷く。
「蒼生の手使っちゃったなんて、すっげぇ贅沢」
そっか。嬉しくなってふたりにすがりつき……たくなったんだけど、あっ。両手。健ちゃんと冬矢も自分の手を見て、ふ、ふふ。なんだか笑えてきた。全員手が汚れてるの。なんだこの状況。
ふふふ。
僕たちは、顔を見合わせて笑い合う。
とんとんとん、と音が響いた。
僕は文字通り飛び跳ねる。
ドアの音じゃない、もっと下のほう、たぶん階段の壁が叩かれた音だ。
「あーおーいー」
僕は咄嗟にふたりの手を握る。
「な、なにー!?」
こうちゃんだ。いや、こうちゃん以外誰もいないからこうちゃんじゃなかったら怖いんだけど。
「ああ、ごめん、もう寝てたー?」
「大丈夫! だけど!」
待って、来ないで、を頭の中で必死に念じる。
「オレ、彼女と年越しイチャイチャしてくっから出かけるなー。戸締まりはしてくから。そちらもごゆっくり~」
「あ、えっと、いってらっしゃーい!」
……はあ。
びっくりした。そうか、彼女さんと予定があったのか。はー。
なんかさっき、もういっそバレてしまえとか思ってたんだけど、いざバレそうになるとやっぱりひやひやしちゃうなあ。
「これは九分九厘……」
冬矢が難しい顔でぼそっと呟く。なに?
その顔を覗き込むと、冬矢は僕を見てふっと笑った。
「蒼生、手」
え? 手? ……あっ。
「うわ、あ、握っ……わー、ぐちゃぐちゃだ、ご、ごめん!」
ああ~……白いのがべったり……。
「いちいち謝んなくていいよ。いいじゃん。オレと蒼生の精液混じっちゃったな。なんかこういうの、興奮しねえ?」
ひぇ……っ。
とにかく手を拭いて、ふたりにも拭いてもらって、ゴミ箱に残骸を捨てる。あー、咄嗟とはいえ、なんか、え、えっちだったな。ぼ、僕め……。
「それで?」
ん? 冬矢が穏やかな目で僕を見てる。
「それで、って?」
「紅輝さんは出かけて、もうこの家には俺たちしかいないわけだ。続き、どうする?」
はっ、そうか。
こうちゃんがいつ入ってくるかわかんないから、出来ないって言ったけど。
かあっと頭に血が上った。
だから、ベッドに座ったままの冬矢の隣に行って、その肩にぐわんぐわんする頭を乗っけた。
「続き、したい……」
冬矢は嬉しそうに笑って、僕のパジャマのボタンに手をかけた。僕はその手元に目を落とし、優しい手つきを見つめる。冬矢って、僕の服を脱がせるのが好きだから。そして、僕がそれを見てるのを見るのが好きなんだって。だから僕は冬矢に任せる。
だけどそれを待っていられないのが健ちゃんだ。着てた服を床に全部脱ぎ捨てた健ちゃんは、僕の足を撫で、甲にキスをする。足の指の間に舌を滑らせ、ふくらはぎを腕に抱く。
「く、くすぐったい……」
けど、気持ちいい。足が健ちゃんの肌に触れるのも。盛り上がった筋肉がぴったりと寄り添ってくるのも。
何度身体を重ねても、ふたりが緩やかに僕を高めようとしてくれる瞬間が、いつでも新鮮で、嬉しい。
自分も服を脱いだ冬矢が、ぎゅっと抱き締めてくれる。直接肌が触れ合うのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。心臓の音が直に伝わるような、暖かさ。
そこに。
「これさ……年越す瞬間、どっちが中にいるんだろうな」
は?
健ちゃん?
別の意味で頭が真っ白になる。なんだって?
僕の指をてのひらで撫でながら、冬矢は下のほうにいる健ちゃんに呆れた目を向ける。
「おまえ……それを今言うかな」
「……あっ。……いや、だけどさ、この時間だと、そういうこと考えちゃわね?」
「そういうことは気付いても黙っておけよ。全員がそれを気にするだろ」
たしかに。そう言われた瞬間、僕は時計を見た。せっかく気持ちよくなってても、時計を気にしてたら気が散っちゃうよね。たぶん、そんなセリフ言うってことは、ふたりとも、そ、そうやって年越したいんでしょ?
僕はどっちだっていいんだ。あ、言い方がちょっと違うかな。どっちでも嬉しい、っていうのも、……うーん。あの、ね、でっ、出来れば、ほんとは、「どっちも」って言いたい。だけどまだちょっと怖い。うーん。
ああ、じゃあもう、これしかない。
「ちょっと、ごめんね」
僕はベッドから立ち上がる。健ちゃんと冬矢の手が僕からするりと落ちる。あ、力が抜ける。ふらつく。頭の中身がだいぶふわふわになってきちゃってるからだな。それでも壁に辿り着き、柱の上、かかっていた時計を少々よろけながら外す。で、机の上に伏せて置く。ベッドに戻りがてら、目覚まし時計も後ろ向きにする。よし。
ベッドに手をついて、冬矢が広げた腕の中に、背を向けるようにして倒れ込む。ふう。
「これで、その瞬間がわからないってわけだ」
「うん。ふたりは、自分だった、って思ってて」
「なるほどね」
冬矢が後ろから僕の腰を抱いて、肩にキスをくれる。
健ちゃんもこれでいいかな。見ると、……なにそのでれっとした顔。
「健ちゃん?」
「ん? ああ、いや。時計に向かって手を伸ばしてる後ろ姿がよかったなーって思ってさ。腕から縦にすらーっと伸びる線がさ、たまんねぇな……。ちょっと離れると、頭から足の先まで裸の蒼生が全部見られるのかあ。なんかいいな、これ。今度じっくり眺めさせて」
「うっわ」
急に恥ずかしくなる。さんざん見られてるけど、急にそんな凝視してますアピールされちゃうと!
僕は冬矢に足をかがめて縋り付き、冬矢が僕を抱き締める。
「……そんな危険な奴には蒼生は触れさせられないな」
「あっ。酷ぇ」
健ちゃんは慌てていつものところからゴムとローションを取り出して、恭しくこっちに捧げる。
「これでなにとぞご容赦ください」
「ふふっ」
なんだそりゃ。
……駄目だ、笑っちゃった。だって面白すぎるでしょ。意味がわかんないもん。
冬矢も口元に手をやって、小さく笑ってる。冬矢が反対の手を差し出すと、健ちゃんは「ははー」とか言いながら、その手にローションを垂らす。まだ面白いの、勘弁して。
「あははは、……っあ」
濡れた指の節で、冬矢が僕の後ろをくすぐる。
それから、ぷちゅっと、指先を。
「ぁっ、あ」
そういえば、こういうことにはなんないだろうなって思ってたから、準備はしたけど、これでオッケー、なとこまでは慣らしてないんだよね。大丈夫かな。でも多少やったから大丈夫だと思、
「今日、ちょっとキツいね」
えっ。
こんな簡単にバレるの?
「もしかして、オレの言動がマジで嫌だったとか……!? 拒否!?」
「ち、違うよ、ひっ、久し振りだから……」
テストだなんだでご無沙汰だったから、嘘じゃない。
「そう。じゃあ、じっくりやろうね」
「オレも手伝うし」
優しい冬矢の指に、健ちゃんの遠慮ない指が並んで入って、く、る。
「んん……っ。ふ、うぅ……」
あー。全身に。ぞくぞくが。腰から上って。
これ、を、慣れるまで。
待てよ、普段自分でやるのはほぼ事務的だからあんまり感じたりしないんだけど、ふたりに触られると、…………。
このふんわり気持ちいいのをずっと? あっ、しくじったかもしれない。
「今日はどんなかっこしたい?」
「ど、どん、な……っあ、って……んっ、あぁ……っ」
冬矢が笑う。
「蒼生は、今日は、どっちだかわからなくなるのがしたいんだよね?」
え?
あれ?
ニュアンスが違……。
「……っあ、っあ、ふ、……あ、は、……うぅう……んっ」
わかんない。
だめ。
僕は両腕をベッドに投げ出して、ただ、大きな波に翻弄されてる。
最初は、なんか、うわあって思って、ふたりに捕まろうとしたり、動こうとしたりしたけど。
途中から、わかんなくなった。
どれくらい経った?
今何時?
きもちぃ……。
冬矢が、僕の上で息を荒くしてる。
全部がとけてしまいそう。
ぴったりと。
合って。
「……ひぅっ……」
ぬるりと出て行く感覚。
それがまた挿入ってくると、
「あぁあっ、あ!」
ち、ちがうとこが突き上げられる。
健ちゃんの顔。
笑って、僕の髪を撫でる。
それから冬矢が横から顔を見せて、近付いて、キス。
ふかいやつ。
あ、入ってきて、僕の舌を吸う。
「……んー……っん、う、」
離れて、やだ、いかないで。
伸ばそうとした手は、やっぱりシーツの上でもぞもぞと動くだけだった。
また、足の間がすうっと涼しくなる。
それから熱くなって、
「っあ! あ、あっ、あぁ……」
身体のなかがいっぱいになる。
空を切る僕の手を掴んだのは健ちゃんだ。
指を絡めて、おなかを撫で上げた手で乳首をこすり、反対の乳首をちゅうって吸う。
きもち、い。
もう、自分で息をしてるのかどうかもわかんない。
揺さぶられる速度で、勝手に空気が出たり入ったりしてるんじゃないだろうか。
あ。
ぐぐ、って。
何かがせり上がるかんじ。
来る。
あ、
「……ぅ、あ」
また、いなくなる。
さっきからこの繰り返しだった。
もうちょっとなのに。
もうちょっと、なのに。
また冬矢の顔が近付いて来て、やさしい指でほっぺをなでる。
それだけで身体がびくりと跳ねる。
あー。
僕は精一杯の力で、腕を上げる。
冬矢の、首にすがりつく。
「どうしたの?」
やさしいあまい声が、耳元で。
「と、ぉやぁ……いっ、イかせ、て……ぇっ」
「我慢できなく、なっちゃった?」
「うん……うぅ、おねが、い……おかしく、な、ァ、なるか、らぁあ……」
くすっと笑う息が、耳にかかる。
「あ!」
冬矢の手が、おちんちんにかかる。ずっと、いじってもらえなかった、そこ。
ちょっと強めにこすりあげられた、だけ。
なのに。
「……ああ、ん、あ、あ、っあぁ……っ!」
…………。
ばたん、と音がしそうな勢いで、僕の腕が落ちた。
もう動けない……。
「はぁ……あ、」
全力疾走した時みたいに、息が上がって、言葉も出てきやしない。
健ちゃんが僕から出てく。
これで、全身で力が入ってるとこはどこにもないぞってくらい、力が抜けた。
「大丈夫?」
冬矢が汗で貼り付いた僕の前髪をかき上げてくれる。大丈夫かどうかわかんないけど、とりあえずまだ言葉の意味は理解出来たので、とりあえず頷く。
「水、飲もうか」
それにも、頷く。
健ちゃんがベッドのヘッドボードに置いてあった水のペットボトルを取ると、冬矢は僕の体を起こしてくれる。一応僕もそれを取ろうとしたんだけど、ぷるぷるしちゃって。笑った健ちゃんが、僕の首の角度に合わせるようにペットボトルを傾けてくれる。なんだこれ。
でも、これで少し喉が潤って、声が出そうな気がした。
「……あ、あー。はあ。やっとしゃべれる……」
なにせもう、内臓が押しつぶされ続けたみたいで、言葉を発する余裕なかったから。
「はー、やっぱ最高。可愛い。好き」
健ちゃんが、ちゅって短いキスをくれる。それから、冬矢も。
「なんかもう、途中でよくわかんなくなっちゃった。でも気持ちよかったぁ」
息を吐きながら言って、僕は冬矢に寄り掛かる。
いや。
寄り掛かろうとした。
え?
冬矢はそのまま、ぽすんと僕をベッドに倒した。
え?
「もう終わりだと思った?」
なんだって?
「蒼生がちょこっとずつ休みをくれるもんだからさー。なあ、気付いてた? オレらまだ満足するまでイッてないの」
「へ?」
「健太、今何時?」
「さあ、時計がないからわかんねえな」
「え、ちょっ」
だ、だからっ。
そういう意味じゃ……っ!!
今度はもう、冗談でも何でもなく、指の1本も動かない。
ぐでっと冬矢の足に頭を乗っけたまんま、見慣れた天井のでこぼこを見てる。
冬矢がその視界に割り込んできた。
「大丈夫?」
……むぐぐ。
「もう頷かないよ……」
言うと、声を上げて笑う。だってさっき酷い目に遭ったもん。
そりゃあね、僕だって、ふたりにもちゃんと気持ちよくなってほしいし、満足するまで付き合いたいよ? だけどさあ、限度ってもんがさあ……。
ま、まあ、僕もきもちかったからいいんだけど。
そこに健ちゃんが戻ってきた。
「あったかいタオル持ってきたよ」
「うー、ありがと」
健ちゃんは、持ってきたうちの1枚を冬矢に渡し、冬矢とふたりがかりで僕の体を拭いてくれる。
「ごめん、こんなことまでやらせちゃって」
「だから謝んなくていいってば。蒼生の体力全部持ってっちゃったのはオレたちだからさ」
「懐かしいな。最初の頃はもっと体力なくて、蒼生、毎回寝落ちしてたから、こんなふうにふたりがかりで体を拭いていたことを思い出すよ」
そうだったねえ……。
今でこそ、そういうことはなくなった。あ、でもさすがに今日は気を失うかと思ったけど。
「健太、今何時?」
っ。
冬矢の顔を見ると、意地悪な顔で笑ってる。わざとだっ。すっ、好きな表情だけども!
健ちゃんはすんなり立ち上がると、僕が伏せて置いた時計を柱にかけ直す。それは、とっくに12時を過ぎた真夜中を指していた。
これ、結構前に過ぎてたな?
健ちゃんが振り向いて、笑う。
「というわけで、あけましておめでとうございます」
ああ、そうか。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
なんて言い合いながら、僕たちはお互いに頭を下げる。
「……さて。いい加減、服着るか」
ふふふ。
だよねえ、ちゃんとした挨拶したけど、全員全裸だもんね。
とは言うものの、健ちゃんは脱いだ服を跨いでベッドに飛び乗った。
それから、僕を冬矢から引き剥がすようにぎゅっと抱き締める。
負けじと冬矢も後ろから僕を抱き締める。
きつい、きつい。
でも、嬉しい。
「今年も大好きな蒼生と、幸せな1年が過ごせますように!」
「俺も。ずーっと蒼生と一緒にいられますように」
「ふたりと、かわらず笑顔でいられますように」
新しい年が、みんなみんな、幸せな1年でありますように!
「蒼生、邪魔ー」
「あっ、ごめん」
テレビの前を往復すると、さすがにこうちゃんから抗議の声。そりゃそうだよね。
でも、こうちゃんは別に怒ってるとかではないらしい。ニヤニヤしながらこっちを見てる。
「まあな? はしゃぐ気持ちはわかるけどな?」
「そ、そんなはしゃいでるとかじゃ……」
ない、と言おうとしたけど、……うん、無理だよね。
駄目だ、やっぱり落ち着かない。僕はこうちゃんの邪魔にならないように、台所のほうに向かう。冷蔵庫を開けて、ペットボトルが数種類入ってるのを確認する。……さっきもやったのに。
そもそものきっかけは、健ちゃんのお姉さんであるゆみちゃんが、大ファンだっていう海外アーティストの地元カウントダウンコンサートの抽選に当たったことだった。そのチケットは2枚組で、同じくファンだった妹のみのりちゃんが、自分もどうしても行くって言って聞かなかった。
ゆみちゃんも大学生になったし、危ない都市でもないし、1人で海外旅行もありなのでは……みたいな雰囲気が最初はあったんだけど、みのりちゃんが名乗り出たことで風向きが変わった。そもそも受験生が海外なんて、ってところから紆余曲折あり、せめて家族が一緒に行って上の誰かが勉強を見よう、直前の気分転換にもなるし、たかが数日だし、って流れになった。
そこからトントン拍子に2家族で海外旅行って話に、……なりかけた。
みのりちゃんは僕に勉強を見てほしいって言ってきた。そりゃ、みのりちゃんは妹みたいなもんだし、手伝ってあげたいよ? でも、僕は、どうしても飛行機が苦手なんだ。だから、勉強云々じゃなくて、交通手段が駄目なんだって謝り倒して、断った。母さんは僕が拒否したことを快く思わなかったみたいだったけど、駄目なものは駄目なんだから仕方ない。昔の僕だったら我慢してたと思う。でも、なんだか今なら言える気がして。
そしたら、だけど1人で家に置いておけないでしょう、って言われた。そんなことはない、大丈夫だと思うんだけど。そしたら健ちゃんが、
「蒼生が行かないならオレも行かない」
って言った。僕を助けようとしてくれたのか、僕と一緒にいたいと思ってくれたからなのか、どっちかはわかんない。でも、どっちであっても嬉しかったから、どっちでもいい。
「オレも友達と予定あるからパス」
こうちゃんもそう断って、まあ3人いるなら大丈夫だろうって話になり、みのりちゃんの勉強はみどりちゃんが見てくれることになった。名前が似てるからここも昔からセット扱いで、仲もいいしちょうどいいよねって。
かくして僕たちはカウントダウンを家で過ごすことになりました、って報告したら、冬矢も両親に駄々をこねたらしい。あの、冬矢が! や、もちろん子供みたいなああいう駄々じゃなくて、きちんと説明したんだろうけど。
結果、冬矢とお母さんがお父さんの赴任先に行くんじゃなくて、お父さんが帰ってくることになったらしい。でもちゃんと家族で揃おうとするんだから、いいご家庭だよね。それで、年越しは、友達と過ごしますってちゃんと許可も取ってきたって。
はー。
そんなこんなで、今日は健ちゃんと冬矢が家に来る。イベントとか派手なことはなんにもないけど、でも、こんなカウントダウンがあっていいんだろうか。どうしよう。ドキドキする。
「蒼生ってさー」
ん? 椅子に座って固まってた僕は、こうちゃんを見る。相変わらずニヤニヤしてるけど、ちょっと優しい目をしてた。なんなの。
「ホント、ずーっと猫被ってたんだな。おまえのこと、優等生のいい子ちゃんだと思ってきたけどさ。そーいう慌てたりはしゃいだり、オレに年相応の反応見せてくれるようになったよな」
「えっ」
……言われてみれば、こうちゃんにはあんまり身構えなくなった気がする。なんか、去年くらいだろうか、昔は当たり障りのない態度だったこうちゃんが積極的に僕に絡むようになってきて、ああこれ「顔」作っても無駄なのかなーって、思っては、いた。でも態度に出してるつもりはなかったんだけど。
「たぶんあれなんだろうな、健太と冬矢くんのおかげなんだろうな」
あー……。そっか。そういえば、僕が家で3人して勉強会しだしてから、こうちゃんってやたら構ってくるようになったかも。部屋に突撃してくることもしょっちゅうだから、気を抜いてる僕を結構見られちゃってる。そんなこんなで、今更いいやって思ったのかもしれない。
「蒼生がそうやって楽でいられるなら、おにーちゃんも嬉しいよ」
「……こうちゃんがお兄ちゃんぽいこと言うの、なんか怖いなあ……」
「ははは。酷ぇな」
こうちゃんだって、そうやって普通に笑うようになったじゃん。前は揶揄ってくるばっかりだったのにさ。こんなふうに、たまにお兄ちゃんみたいな顔するから、今では、ちょっと頼りになるかも、なんて思っちゃってる。
そこに突然、ピンポーン、って音。
あっ。時間っ。
「オレ行こうかぁ?」
「結構ですっ!」
あれだけ時計気にしてたのに。僕は慌てて玄関に向かう。ドアを開けると、ふたりの笑顔が並んでて。胸が、ぎゅってなる。
「いらっしゃいませー」
「お待たせしましたー」
なんて言い合う僕と健ちゃんを、冬矢がやれやれ、という感じで笑う。
「健太、家の前で張ってたんだよ。俺が自分より早く着いて先に蒼生に会ったら悔しいからってさ」
「そりゃ抜け駆けされそうだからさあ」
「思うんだけど、だったら自分が先に来ていればよかったんじゃないか?」
「そ、それもフェアじゃねえし」
……うわあ。いい子じゃん。
「僕ね、最近健ちゃんのこと可愛いなって思うことが結構あるよ」
「そうだな、俺も可愛い奴だなと思う」
「蒼生はともかく冬矢にそう言われんのめちゃくちゃ気味悪ぃな!」
「幼い、って意味だよ」
「だろうな! 違ったら怖いわ!」
なんていうかなあ。素直で律儀なとこ、ホントそう思うんだよね。小さい頃はずーっと可愛いなって思ってて、それがいつの間にかかっこいいなに変わって、今はどっちも思う。
リビングに入ると、ペットボトルのお茶とコップが3つ、テーブルの上に置いてあった。こうちゃんがしてくれたんだ。
「おお、いらっしゃい。早速賑やかだな」
すっと進み出た冬矢が、手に持ってた袋をこうちゃんに差し出す。
「お邪魔します。すみません、こんな年の瀬に。これ、母からなんですけど、食事の足し前に」
「へえ、わざわざありがとな。……冬矢くんももうちょっと打ち解けていいんだぜ? 他人じゃないみたいなもんだし、さ」
「……そうですね」
そう言う冬矢の笑顔は、外向けのやつだ。こうちゃんはそれに苦笑すると、受け取った袋を持って台所のほうに向かっていった。
健ちゃんが荷物とコートを適当にそのへんに放り出す。
「おまえいつまで経ってもこう兄に懐かないよなあ。マジで適当でいいって。こう兄って、フレンドリーなやりとりのほうが嬉しいタイプだって自分で言ってたしさ」
それは僕もそう思う。もっと気軽に付き合って大丈夫だよ。
冬矢は、小さく首を傾げて、ぽつりと言った。
「たぶん、あの人は蒼生たちが思うより、慎重で注意深くて、物事をよく見ていると思うよ」
へ?
「なんだ、それは属性が同じだから感じる何かがあんの?」
「今の紅輝さんがどうかは知らないから明言は避けるけど、俺は蒼生一筋だよ?」
「まあ、どうやらそうっぽいな」
ひとすじ。そっか。
それを聞いて舞い上がっちゃう僕って、ちょっと単純すぎやしないだろうか。僕の中の「嬉しいと思う単語リスト」がどんどん膨大になってく気がする。いや、実際にはそんなの作ってないよ。でも確かに存在してる気がするので、もし目に見える形になったとしたら一度眺めてみたいリストだ。……とか思ってみたものの、本当に読んだら恥ずかしくて倒れるかもしれないなぁ。
そういえば、付き合って1年以上が経つけど……冬矢が今まで付き合った子の話って、ふんわりとした概要しか聞いたことがない。その、じゃあ聞きたいかって聞かれると……気にはなる……ううん、あんまり聞きたくないような気もする……。とにかく、ほとんど知らないせいか、冬矢がそんなふうなお付き合いをしていたなんて、単なる噂だったんじゃないの? くらいにしか思えない。それだけ冬矢は、僕をきちんと大事にしてくれてるから……。
夕飯は、一応大晦日だしおそばかなって話をしてたので、それと買ってきた天ぷらを並べた。冬矢のお母さんが作ってくれた煮物も一緒に。どのくらいの量がいるかなって思って最初に茹でた4人前は、先に健ちゃんを座らせちゃったせいで、あっという間に消えた。
「おまえ、瞬間芸か!」
それだけで面白かったのに、突っ込むこうちゃんも面白くて、僕は笑いながら続きを茹でた。楽しい。慌てたせいでちょっと茹ですぎたかなって思ったけど、誰も文句は言わなかったし、笑いが絶えなかったし、煮物も美味しかったし、うん。いい日だ。
僕は食器を洗いながら冬矢とこうちゃんが難しい話をしてるのを聞いてる。健ちゃんは今お風呂だ。……大学の研究の話? 今何をやってるのかって冬矢が聞いたのをきっかけにこうちゃんが色々話してるんだけど、専門用語? がちょいちょい出てきて素人にはなんだかわからない。そういえばこうちゃんが何やってるかなんて聞いたことなかったかも。冬矢が話について行ってるのがすごい。
健ちゃんが出てきて、今度は冬矢がお風呂に行く。冬矢の家では片付けさせてもらえないからね、いつも気にしてたんだ。今日は堂々と、家人たる僕がやりますとも。お先にごめんね、と言って席を立った冬矢を見送るのは、ちょっと気分がよかった。だって人が何かしてるのに自分だけ座ってるの、すごく気になるじゃん。自分がやる分には気になんないんだけどさ。……お、健ちゃんとこうちゃんは漫画の話だ。苦手なやつだから僕は読んでないけど、健ちゃん好きだもんね。こうちゃんと話して楽しそうだった。
洗い物が終わったので一応そこに加わるけど、とりあえず2人の話は見えない。どうやら流行ってるんだな~って思ったくらいかな。でも健ちゃんが楽しそうなのでいいや。
そうこうしてるうちに冬矢が戻ってきた。
「オレ最後でいいわ。蒼生、風呂、先行ってこいよ」
と、こうちゃん。
……うん。うん。そうなんだけど。なんか。
なんていうか、なんか。
僕がこの場を離れてもいいのかなって、なんか。
…………うーん。
「……じゃあ、先、入るけど。変な話しないでね」
「変なって?」
「う、あの……。とにかく、一切僕の話しないでくれればそれでいい」
「ほぼ唯一の共通話題なのに?」
「なんか気になるからっ」
「弟の悪口なんか言わねえよ? せいぜいセンシティブな話するくらいじゃね?」
「それが駄目だって言ってるんだってば!」
「ははは、冗談冗談。わかったから早よ行ってこい」
健ちゃんは笑ってたし、冬矢も頷いてたから、大丈夫だと思う。でも、僕をよく知ってる3人が、僕のいないところで揃ってるって、なんだかものすごく気になる。悪口なんか言わないって? そりゃそんなこと言わない人たちだから大丈夫だと思うけど、信頼してるから大丈夫だと思うけど、ううう。
そもそもこうちゃんって予定があるんじゃなかったっけ。それで旅行に行かなかったんだよね。どうしてずっと家にいるんだろう。こうちゃんがいなければ、って言い方は酷いから使わないけど、そうだったら、もうちょっと……。
もちろん、じゃあ健ちゃんの家は誰もいないんだからそっちに行けばいいんじゃ、っていうのも考えたのは考えた。だけど、逆にこうちゃんをひとりにして3人で誰もいない家にいるっていうのはそれもちょっと誤解を招きそうじゃない? 誤解じゃないんだけど、こうちゃんだって変に思うだろうし。あと、なんか、冬矢が健ちゃんの部屋に行くのにちょっと抵抗あったみたいだし。
以上を踏まえまして、……ちょっと悩んでるのが今の僕。どうしよう。こうちゃんがいるから、で、できない、よね。だけど万が一そういうことになったら、そこから時間かかるのも……。うーん。一応、準備、しておこうかな。一応ね。……あと、そうならなくてもがっかりしないように心積もりしなくちゃ。
気は急くけど、ある程度ちゃんと時間をかけて、その、……いろいろして、僕はリビングに戻った。
笑って話してた3人が、僕に気付いて顔を上げる。よいしょ、とこうちゃんが腰を上げた。
「まあ大体そんなもんかな。オレも又聞きだから、今度ちゃんと聞いておくよ。いざって時は力になるから。……で、オレが風呂行ってる間に上に行くだろ? 飲み物とか適当に持ってって」
こうちゃんは僕の横を通りすぎがてら、ぽんと肩を叩いた。
「おやすみ、蒼生」
…………?
「うん、おやすみ」
なんだ? なんの話をしてたんだ?
え、怖っ。
思わずふたりの顔を見る。
「ははっ。そんな怯えた顔すんなよ。約束通り、蒼生の話はしてねえよ」
「うん。大学の話……主に大学生活について色々聞いてた」
そっか。そうなのか。たしかに、僕も一応なんとなくぼんやり決めてることはあるものの、きっかりこうだと言い切れる夢があるわけでもない。ふたりがどう考えてるかわかんないけど、現役のこうちゃんに聞くのはきっと理に適ってると思う。でも。
「……僕の話が出ないっていうのも、それはそれでさみしいもんだね……」
健ちゃんが笑う。
「かわいい~」
むむ。なんだと。そりゃ、わがままなのはわかってるよ……。
「それにしても、なんで蒼生の話しちゃいけなかったんだ? 紅輝さんも言ってたけど、俺たちは蒼生が傷付くようなこと陰で言うなんて絶対しないよ」
「そうじゃなくて……それは絶対ないって言い切れるんだけど……。だ、だって、実の兄と彼氏と彼氏だよ!? そんな3人が僕のこと話してたら、なんか……恥ずかしいじゃん……」
「……可愛い」
「冬矢までぇ……」
冬矢は口元を緩ませると、僕の頭をゆっくり撫でた。
「部屋、行こうか」
……うん。
ドアを開けると、あったかい風がふわっと髪を揺らしていく。エアコンのタイマー、入れておいてよかった。ちょうどいい感じだ。
「お客様用の布団って下に置いてあるんだ。後で取りに行けばいいかなって思って、まだ持ってきてないんだよね。手伝ってくれる?」
「布団、いる?」
「さすがにいるでしょ……。僕のベッド広くないもん」
なんて話をしながら部屋に入り、ドアがぱたんと閉まる。それとほぼ同時、冬矢が僕の体を引いて、噛みつく勢いでキスをしてくる。
僕はバランスを取り損ねて、膝が崩れて、倒れそうになる。
でもその時には後ろに健ちゃんがいて、体重をかける冬矢ごと僕を支えて、僕の左の耳朶を噛む。
「……んんっ……」
ぞくぞくする。
何度も何度も角度を変える冬矢の口から漏れる熱い吐息。
僕の体をゆっくりと床に下ろすかたわら、腰から足にかけて撫でてくる健ちゃんの手。
冬矢がふっと顔を上げ、その隙を突いて健ちゃんが上から被さるようにキス。
舌を強く吸われて息を詰めると、首筋から唇で辿られるぞわっとした感覚が鮮明になる。
「……っは、っは……ぁ」
ようやくその手が緩む頃には、すっかり僕の息も上がっていた。
「はー……ちょっと落ち着いた」
吐息と一緒に呟く健ちゃん。……それは、よかったです。はい。
冬矢は僕の頬をすっと撫でる。
「先週からずっと我慢してたんだ、“待て”が長すぎたな。ごめん、大丈夫?」
「だい、じょ、ぶ……。気持ちいいだけ……」
ぼーっとする。健ちゃんに全身を預けてることも、もう気持ちよすぎて。
健ちゃんが、僕の頭に頬を擦り付ける。
「でもさ、先週に引き続き、今日も駄目なんだろ?」
「紅輝さんがいるからな。静かな家だと物音で気付かれるかもしれないし。危険を冒さないに越したことはない」
だよねえ……。
「ごめんね」
「蒼生が謝ることじゃないだろ。いいんだ、こうやって触れられれば満足だよ」
本当は僕は満足…………してますよ、気持ちいいもん、してますが、やっぱり、むむ。
ぐい、と僕を立たせるように腕を上げた健ちゃんが、明るい声で言った。
「それじゃ、大晦日だからイチャイチャする会~!」
僕は思わず笑ってしまった。
「なんか、それ、先週も似たような会聞いた気がする」
「週1開催だからな。なお、その間ミニイベントが週6で開催される」
「毎日だねえ」
「毎日だなあ」
ふふ。
健ちゃんは、僕のベッドの羽毛布団を手際よくたたむと、部屋の端っこに追いやってたローテーブルの上に乗せた。それからベッドに乗り、壁に背中を付けて座り込む。
「会場はこちらです」
「はい」
会場って。僕も笑いながらベッドに乗り、健ちゃんの隣に座って足を投げ出す。冬矢も僕の隣に来る。両腕がふたりに触れてて、あったかい。だけどイチャイチャがそれで終わるはずは、当然なくて。
健ちゃんが、右頬にキスをくれる。それから、耳に。口を開けて、舌で耳の輪郭をなぞる、その音が直接響く。くすぐったい。左手が僕の右手を掴んで、指を絡ませてくる。
冬矢は、さっきの続きをするみたいに首筋に唇を這わせる。右手が僕の左腕の内側をゆっくりと上ってくる。左手は、膝から股の辺りをゆったりと上下する。
右を向けば、健ちゃんが笑ってキスしてくれる。
左を向けば、冬矢が目を和ませて「好きだよ」って呟く。
ああ、……嬉しい。
健ちゃんの右手が、ついっと伸びて、パジャマの上から僕のおちんちんに触った。わ。突然だったから、びくっとしちゃった。
「な。蒼生。はぁ……触りっこしよ。そのくらいならいいだろ」
「ん、うん……」
それくらい、なら。バレない。きっと。
「脱いで……」
「うん」
僕は左手をベッドにつき、腰を浮かせる。パジャマの腰のとこに反対側の手をかけると、健ちゃんの手が手伝ってくれる。途中から冬矢の手も加わって、太ももの所まで下ろす……と思ったんだけど、ふたりの手はそのまま僕の足からパジャマを引き抜いた。
「ぇ……? ここまで脱ぐの……?」
「へへ、脱がせちゃった」
そっかあ。
あー、ちょっと反応しちゃってるの、見えてるよね……。本当は、さっきのキスで、火がついた。「今日はしない」、それが最初からわかってたから、ふたりは深いキスを出来るだけ我慢してる。だけど、僕はあの瞬間、もっと、って思った。
全部バレちゃってもいいんじゃないかな! もう!
なんかそう思ってしまうくらい、ぼーっとする。まだなにもしてないのに。期待する。しちゃう。ああ。
「蒼生、可愛い。ほんとは、触ってほしかった?」
健ちゃんの囁き。僕は何も考えられなくなって、ただ、頷く。
目の端で、健ちゃんがズボンを下ろす。なんだ。健ちゃんだってそうじゃないか。
僕は右手でそれに触れる。熱い。どくどくいってる。
「蒼生、俺にも、出来る?」
冬矢が僕の左手を引く。導かれて触れた熱は、こっちも熱い。
ちがうタイミングの脈、でもどっちも速い。
はあ、こんなに、心臓が早鐘を打つほどに、ああ、こんなに。僕のことを。
両手に濡れた感触。
交互に目をやりながら、愛しい熱を、てのひらで、指先で、感じたくて、手に余るそれを、余すところなく触れたくてっ、……これ……っ。もっと、ほしい……。
「……ひゃっ……う……」
ふたりの手が、僕に伸びた。触れられた瞬間、びりっと電流が走ったよう。2本の手が。先のほうを、根元のほうを、優しく。強く。ゆっくりと。速く。
「あっ……ああっ、や、……あぁっ」
駄目。声。駄目なのに。
きもち、い。
冬矢が、僕の左足の上に、自分の右足をかけた。
ふぇ……?
なに……?
「健太」
「あ?」
「足」
「……ああ」
健ちゃんもふっと笑って、僕の右足の上に足を……?
え?
ふたりの足に、ぐっと力が入る。
それで、あ、と思った。
「やっ……え、あ、これ……っ、……足、あ、閉じらんないぃ……はあっ、あ」
逃げたいわけじゃない。
だけど、逃げられない、その状況は、なんでか腰の奥からぎゅんっとくる感覚を呼ぶ。
足を開かされてる、って思うと、ぞくぞくが……止まんない。
「……あっ……ん……っう、ぅ……」
腰が勝手に動く。
健ちゃんと冬矢は、あいたほうの手で、それぞれに触れる僕の手を包み込む。ああ。こっちも、外せない。ふたりの思うとおりに動かされる。
だめ。
これは。
おかしくなる……っ。
「っも、むり……イッちゃ……ぁ、あ」
だめ、
声が抑えられな……っ。
咄嗟に冬矢に顔を向ける。悟ってくれたのかどうか、一瞬のことだったからわからない。だけど冬矢は、僕の口を塞ぐみたいなキスをした。
「……んっ、んんんーっ……」
あ。
……あー。
全身から力が抜ける。でも、両手、動かさなきゃ。ただたぶん、僕の力なんてほとんど意味なくて、ふたりの手が僕の手を動かしてる。
だから僕はぼんやりと、その熱さを堪能し続ける。
「…………っ」
「……はぁっ」
それが順番に大きく脈打つのを手の中で感じるのが、すごく、心地よかった。
ちょっと情けないけどさ。
荒い息だけが聞こえる。
「ごめんね……最後、僕、役に立ってなかったでしょ」
だけど、冬矢はまったく気にしてないみたいに笑う。
「すべすべで気持ちよかったよ」
健ちゃんも満足げに頷く。
「蒼生の手使っちゃったなんて、すっげぇ贅沢」
そっか。嬉しくなってふたりにすがりつき……たくなったんだけど、あっ。両手。健ちゃんと冬矢も自分の手を見て、ふ、ふふ。なんだか笑えてきた。全員手が汚れてるの。なんだこの状況。
ふふふ。
僕たちは、顔を見合わせて笑い合う。
とんとんとん、と音が響いた。
僕は文字通り飛び跳ねる。
ドアの音じゃない、もっと下のほう、たぶん階段の壁が叩かれた音だ。
「あーおーいー」
僕は咄嗟にふたりの手を握る。
「な、なにー!?」
こうちゃんだ。いや、こうちゃん以外誰もいないからこうちゃんじゃなかったら怖いんだけど。
「ああ、ごめん、もう寝てたー?」
「大丈夫! だけど!」
待って、来ないで、を頭の中で必死に念じる。
「オレ、彼女と年越しイチャイチャしてくっから出かけるなー。戸締まりはしてくから。そちらもごゆっくり~」
「あ、えっと、いってらっしゃーい!」
……はあ。
びっくりした。そうか、彼女さんと予定があったのか。はー。
なんかさっき、もういっそバレてしまえとか思ってたんだけど、いざバレそうになるとやっぱりひやひやしちゃうなあ。
「これは九分九厘……」
冬矢が難しい顔でぼそっと呟く。なに?
その顔を覗き込むと、冬矢は僕を見てふっと笑った。
「蒼生、手」
え? 手? ……あっ。
「うわ、あ、握っ……わー、ぐちゃぐちゃだ、ご、ごめん!」
ああ~……白いのがべったり……。
「いちいち謝んなくていいよ。いいじゃん。オレと蒼生の精液混じっちゃったな。なんかこういうの、興奮しねえ?」
ひぇ……っ。
とにかく手を拭いて、ふたりにも拭いてもらって、ゴミ箱に残骸を捨てる。あー、咄嗟とはいえ、なんか、え、えっちだったな。ぼ、僕め……。
「それで?」
ん? 冬矢が穏やかな目で僕を見てる。
「それで、って?」
「紅輝さんは出かけて、もうこの家には俺たちしかいないわけだ。続き、どうする?」
はっ、そうか。
こうちゃんがいつ入ってくるかわかんないから、出来ないって言ったけど。
かあっと頭に血が上った。
だから、ベッドに座ったままの冬矢の隣に行って、その肩にぐわんぐわんする頭を乗っけた。
「続き、したい……」
冬矢は嬉しそうに笑って、僕のパジャマのボタンに手をかけた。僕はその手元に目を落とし、優しい手つきを見つめる。冬矢って、僕の服を脱がせるのが好きだから。そして、僕がそれを見てるのを見るのが好きなんだって。だから僕は冬矢に任せる。
だけどそれを待っていられないのが健ちゃんだ。着てた服を床に全部脱ぎ捨てた健ちゃんは、僕の足を撫で、甲にキスをする。足の指の間に舌を滑らせ、ふくらはぎを腕に抱く。
「く、くすぐったい……」
けど、気持ちいい。足が健ちゃんの肌に触れるのも。盛り上がった筋肉がぴったりと寄り添ってくるのも。
何度身体を重ねても、ふたりが緩やかに僕を高めようとしてくれる瞬間が、いつでも新鮮で、嬉しい。
自分も服を脱いだ冬矢が、ぎゅっと抱き締めてくれる。直接肌が触れ合うのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。心臓の音が直に伝わるような、暖かさ。
そこに。
「これさ……年越す瞬間、どっちが中にいるんだろうな」
は?
健ちゃん?
別の意味で頭が真っ白になる。なんだって?
僕の指をてのひらで撫でながら、冬矢は下のほうにいる健ちゃんに呆れた目を向ける。
「おまえ……それを今言うかな」
「……あっ。……いや、だけどさ、この時間だと、そういうこと考えちゃわね?」
「そういうことは気付いても黙っておけよ。全員がそれを気にするだろ」
たしかに。そう言われた瞬間、僕は時計を見た。せっかく気持ちよくなってても、時計を気にしてたら気が散っちゃうよね。たぶん、そんなセリフ言うってことは、ふたりとも、そ、そうやって年越したいんでしょ?
僕はどっちだっていいんだ。あ、言い方がちょっと違うかな。どっちでも嬉しい、っていうのも、……うーん。あの、ね、でっ、出来れば、ほんとは、「どっちも」って言いたい。だけどまだちょっと怖い。うーん。
ああ、じゃあもう、これしかない。
「ちょっと、ごめんね」
僕はベッドから立ち上がる。健ちゃんと冬矢の手が僕からするりと落ちる。あ、力が抜ける。ふらつく。頭の中身がだいぶふわふわになってきちゃってるからだな。それでも壁に辿り着き、柱の上、かかっていた時計を少々よろけながら外す。で、机の上に伏せて置く。ベッドに戻りがてら、目覚まし時計も後ろ向きにする。よし。
ベッドに手をついて、冬矢が広げた腕の中に、背を向けるようにして倒れ込む。ふう。
「これで、その瞬間がわからないってわけだ」
「うん。ふたりは、自分だった、って思ってて」
「なるほどね」
冬矢が後ろから僕の腰を抱いて、肩にキスをくれる。
健ちゃんもこれでいいかな。見ると、……なにそのでれっとした顔。
「健ちゃん?」
「ん? ああ、いや。時計に向かって手を伸ばしてる後ろ姿がよかったなーって思ってさ。腕から縦にすらーっと伸びる線がさ、たまんねぇな……。ちょっと離れると、頭から足の先まで裸の蒼生が全部見られるのかあ。なんかいいな、これ。今度じっくり眺めさせて」
「うっわ」
急に恥ずかしくなる。さんざん見られてるけど、急にそんな凝視してますアピールされちゃうと!
僕は冬矢に足をかがめて縋り付き、冬矢が僕を抱き締める。
「……そんな危険な奴には蒼生は触れさせられないな」
「あっ。酷ぇ」
健ちゃんは慌てていつものところからゴムとローションを取り出して、恭しくこっちに捧げる。
「これでなにとぞご容赦ください」
「ふふっ」
なんだそりゃ。
……駄目だ、笑っちゃった。だって面白すぎるでしょ。意味がわかんないもん。
冬矢も口元に手をやって、小さく笑ってる。冬矢が反対の手を差し出すと、健ちゃんは「ははー」とか言いながら、その手にローションを垂らす。まだ面白いの、勘弁して。
「あははは、……っあ」
濡れた指の節で、冬矢が僕の後ろをくすぐる。
それから、ぷちゅっと、指先を。
「ぁっ、あ」
そういえば、こういうことにはなんないだろうなって思ってたから、準備はしたけど、これでオッケー、なとこまでは慣らしてないんだよね。大丈夫かな。でも多少やったから大丈夫だと思、
「今日、ちょっとキツいね」
えっ。
こんな簡単にバレるの?
「もしかして、オレの言動がマジで嫌だったとか……!? 拒否!?」
「ち、違うよ、ひっ、久し振りだから……」
テストだなんだでご無沙汰だったから、嘘じゃない。
「そう。じゃあ、じっくりやろうね」
「オレも手伝うし」
優しい冬矢の指に、健ちゃんの遠慮ない指が並んで入って、く、る。
「んん……っ。ふ、うぅ……」
あー。全身に。ぞくぞくが。腰から上って。
これ、を、慣れるまで。
待てよ、普段自分でやるのはほぼ事務的だからあんまり感じたりしないんだけど、ふたりに触られると、…………。
このふんわり気持ちいいのをずっと? あっ、しくじったかもしれない。
「今日はどんなかっこしたい?」
「ど、どん、な……っあ、って……んっ、あぁ……っ」
冬矢が笑う。
「蒼生は、今日は、どっちだかわからなくなるのがしたいんだよね?」
え?
あれ?
ニュアンスが違……。
「……っあ、っあ、ふ、……あ、は、……うぅう……んっ」
わかんない。
だめ。
僕は両腕をベッドに投げ出して、ただ、大きな波に翻弄されてる。
最初は、なんか、うわあって思って、ふたりに捕まろうとしたり、動こうとしたりしたけど。
途中から、わかんなくなった。
どれくらい経った?
今何時?
きもちぃ……。
冬矢が、僕の上で息を荒くしてる。
全部がとけてしまいそう。
ぴったりと。
合って。
「……ひぅっ……」
ぬるりと出て行く感覚。
それがまた挿入ってくると、
「あぁあっ、あ!」
ち、ちがうとこが突き上げられる。
健ちゃんの顔。
笑って、僕の髪を撫でる。
それから冬矢が横から顔を見せて、近付いて、キス。
ふかいやつ。
あ、入ってきて、僕の舌を吸う。
「……んー……っん、う、」
離れて、やだ、いかないで。
伸ばそうとした手は、やっぱりシーツの上でもぞもぞと動くだけだった。
また、足の間がすうっと涼しくなる。
それから熱くなって、
「っあ! あ、あっ、あぁ……」
身体のなかがいっぱいになる。
空を切る僕の手を掴んだのは健ちゃんだ。
指を絡めて、おなかを撫で上げた手で乳首をこすり、反対の乳首をちゅうって吸う。
きもち、い。
もう、自分で息をしてるのかどうかもわかんない。
揺さぶられる速度で、勝手に空気が出たり入ったりしてるんじゃないだろうか。
あ。
ぐぐ、って。
何かがせり上がるかんじ。
来る。
あ、
「……ぅ、あ」
また、いなくなる。
さっきからこの繰り返しだった。
もうちょっとなのに。
もうちょっと、なのに。
また冬矢の顔が近付いて来て、やさしい指でほっぺをなでる。
それだけで身体がびくりと跳ねる。
あー。
僕は精一杯の力で、腕を上げる。
冬矢の、首にすがりつく。
「どうしたの?」
やさしいあまい声が、耳元で。
「と、ぉやぁ……いっ、イかせ、て……ぇっ」
「我慢できなく、なっちゃった?」
「うん……うぅ、おねが、い……おかしく、な、ァ、なるか、らぁあ……」
くすっと笑う息が、耳にかかる。
「あ!」
冬矢の手が、おちんちんにかかる。ずっと、いじってもらえなかった、そこ。
ちょっと強めにこすりあげられた、だけ。
なのに。
「……ああ、ん、あ、あ、っあぁ……っ!」
…………。
ばたん、と音がしそうな勢いで、僕の腕が落ちた。
もう動けない……。
「はぁ……あ、」
全力疾走した時みたいに、息が上がって、言葉も出てきやしない。
健ちゃんが僕から出てく。
これで、全身で力が入ってるとこはどこにもないぞってくらい、力が抜けた。
「大丈夫?」
冬矢が汗で貼り付いた僕の前髪をかき上げてくれる。大丈夫かどうかわかんないけど、とりあえずまだ言葉の意味は理解出来たので、とりあえず頷く。
「水、飲もうか」
それにも、頷く。
健ちゃんがベッドのヘッドボードに置いてあった水のペットボトルを取ると、冬矢は僕の体を起こしてくれる。一応僕もそれを取ろうとしたんだけど、ぷるぷるしちゃって。笑った健ちゃんが、僕の首の角度に合わせるようにペットボトルを傾けてくれる。なんだこれ。
でも、これで少し喉が潤って、声が出そうな気がした。
「……あ、あー。はあ。やっとしゃべれる……」
なにせもう、内臓が押しつぶされ続けたみたいで、言葉を発する余裕なかったから。
「はー、やっぱ最高。可愛い。好き」
健ちゃんが、ちゅって短いキスをくれる。それから、冬矢も。
「なんかもう、途中でよくわかんなくなっちゃった。でも気持ちよかったぁ」
息を吐きながら言って、僕は冬矢に寄り掛かる。
いや。
寄り掛かろうとした。
え?
冬矢はそのまま、ぽすんと僕をベッドに倒した。
え?
「もう終わりだと思った?」
なんだって?
「蒼生がちょこっとずつ休みをくれるもんだからさー。なあ、気付いてた? オレらまだ満足するまでイッてないの」
「へ?」
「健太、今何時?」
「さあ、時計がないからわかんねえな」
「え、ちょっ」
だ、だからっ。
そういう意味じゃ……っ!!
今度はもう、冗談でも何でもなく、指の1本も動かない。
ぐでっと冬矢の足に頭を乗っけたまんま、見慣れた天井のでこぼこを見てる。
冬矢がその視界に割り込んできた。
「大丈夫?」
……むぐぐ。
「もう頷かないよ……」
言うと、声を上げて笑う。だってさっき酷い目に遭ったもん。
そりゃあね、僕だって、ふたりにもちゃんと気持ちよくなってほしいし、満足するまで付き合いたいよ? だけどさあ、限度ってもんがさあ……。
ま、まあ、僕もきもちかったからいいんだけど。
そこに健ちゃんが戻ってきた。
「あったかいタオル持ってきたよ」
「うー、ありがと」
健ちゃんは、持ってきたうちの1枚を冬矢に渡し、冬矢とふたりがかりで僕の体を拭いてくれる。
「ごめん、こんなことまでやらせちゃって」
「だから謝んなくていいってば。蒼生の体力全部持ってっちゃったのはオレたちだからさ」
「懐かしいな。最初の頃はもっと体力なくて、蒼生、毎回寝落ちしてたから、こんなふうにふたりがかりで体を拭いていたことを思い出すよ」
そうだったねえ……。
今でこそ、そういうことはなくなった。あ、でもさすがに今日は気を失うかと思ったけど。
「健太、今何時?」
っ。
冬矢の顔を見ると、意地悪な顔で笑ってる。わざとだっ。すっ、好きな表情だけども!
健ちゃんはすんなり立ち上がると、僕が伏せて置いた時計を柱にかけ直す。それは、とっくに12時を過ぎた真夜中を指していた。
これ、結構前に過ぎてたな?
健ちゃんが振り向いて、笑う。
「というわけで、あけましておめでとうございます」
ああ、そうか。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
なんて言い合いながら、僕たちはお互いに頭を下げる。
「……さて。いい加減、服着るか」
ふふふ。
だよねえ、ちゃんとした挨拶したけど、全員全裸だもんね。
とは言うものの、健ちゃんは脱いだ服を跨いでベッドに飛び乗った。
それから、僕を冬矢から引き剥がすようにぎゅっと抱き締める。
負けじと冬矢も後ろから僕を抱き締める。
きつい、きつい。
でも、嬉しい。
「今年も大好きな蒼生と、幸せな1年が過ごせますように!」
「俺も。ずーっと蒼生と一緒にいられますように」
「ふたりと、かわらず笑顔でいられますように」
新しい年が、みんなみんな、幸せな1年でありますように!
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閲覧する際は、キーワードタグや作品の説明をよくご確認頂き、閲覧して下さい。
32こ目;【番外編】本日はおやすみです~せっかくの大晦日なので~
僕+君→Waltz! 創作BL 創作BL小説 幼馴染 三角関係 3P R18「おやすみ」なので短編…? あれ…? そうでもないな…?
なんとなく金曜日が定期更新日みたいになってたら偶然イブと大晦日だったのでこれは書かざるを得なかった番外第2弾です。
蒼生が健太と冬矢とカウントダウン?をするお話。
次回からは予告通り新シーズンに入ります。
1年間ありがとうございました。
この3人のことを考えて下半期が終わりましたが、少なくとも来年上半期もそんな感じかと思います。
今年の更新はこれで終了です。
皆様、よいお年を。
↑初掲載時キャプション↑
2021/12/31初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
初掲載時は毎週金曜日に公開する感じのスケジュールだったのでした。
次回からは、初掲載から約2年後の同日に再掲する予定です。
いろいろあってズレるとは思いますが、気長にお付き合いのほど、よろしくお願いします!
32こ目;【番外編】本日はおやすみです~せっかくの大晦日なので~
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なんだか、わくわくするような。そわそわするような。僕は何度も時計を見ては立ち上がり、あたりをうろうろしてからまた時計を見て座り込む。無駄なことをしてる自覚はあるんだけど、どうにも落ち着かなくて。
「蒼生、邪魔ー」
「あっ、ごめん」
テレビの前を往復すると、さすがにこうちゃんから抗議の声。そりゃそうだよね。
でも、こうちゃんは別に怒ってるとかではないらしい。ニヤニヤしながらこっちを見てる。
「まあな? はしゃぐ気持ちはわかるけどな?」
「そ、そんなはしゃいでるとかじゃ……」
ない、と言おうとしたけど、……うん、無理だよね。
駄目だ、やっぱり落ち着かない。僕はこうちゃんの邪魔にならないように、台所のほうに向かう。冷蔵庫を開けて、ペットボトルが数種類入ってるのを確認する。……さっきもやったのに。
そもそものきっかけは、健ちゃんのお姉さんであるゆみちゃんが、大ファンだっていう海外アーティストの地元カウントダウンコンサートの抽選に当たったことだった。そのチケットは2枚組で、同じくファンだった妹のみのりちゃんが、自分もどうしても行くって言って聞かなかった。
ゆみちゃんも大学生になったし、危ない都市でもないし、1人で海外旅行もありなのでは……みたいな雰囲気が最初はあったんだけど、みのりちゃんが名乗り出たことで風向きが変わった。そもそも受験生が海外なんて、ってところから紆余曲折あり、せめて家族が一緒に行って上の誰かが勉強を見よう、直前の気分転換にもなるし、たかが数日だし、って流れになった。
そこからトントン拍子に2家族で海外旅行って話に、……なりかけた。
みのりちゃんは僕に勉強を見てほしいって言ってきた。そりゃ、みのりちゃんは妹みたいなもんだし、手伝ってあげたいよ? でも、僕は、どうしても飛行機が苦手なんだ。だから、勉強云々じゃなくて、交通手段が駄目なんだって謝り倒して、断った。母さんは僕が拒否したことを快く思わなかったみたいだったけど、駄目なものは駄目なんだから仕方ない。昔の僕だったら我慢してたと思う。でも、なんだか今なら言える気がして。
そしたら、だけど1人で家に置いておけないでしょう、って言われた。そんなことはない、大丈夫だと思うんだけど。そしたら健ちゃんが、
「蒼生が行かないならオレも行かない」
って言った。僕を助けようとしてくれたのか、僕と一緒にいたいと思ってくれたからなのか、どっちかはわかんない。でも、どっちであっても嬉しかったから、どっちでもいい。
「オレも友達と予定あるからパス」
こうちゃんもそう断って、まあ3人いるなら大丈夫だろうって話になり、みのりちゃんの勉強はみどりちゃんが見てくれることになった。名前が似てるからここも昔からセット扱いで、仲もいいしちょうどいいよねって。
かくして僕たちはカウントダウンを家で過ごすことになりました、って報告したら、冬矢も両親に駄々をこねたらしい。あの、冬矢が! や、もちろん子供みたいなああいう駄々じゃなくて、きちんと説明したんだろうけど。
結果、冬矢とお母さんがお父さんの赴任先に行くんじゃなくて、お父さんが帰ってくることになったらしい。でもちゃんと家族で揃おうとするんだから、いいご家庭だよね。それで、年越しは、友達と過ごしますってちゃんと許可も取ってきたって。
はー。
そんなこんなで、今日は健ちゃんと冬矢が家に来る。イベントとか派手なことはなんにもないけど、でも、こんなカウントダウンがあっていいんだろうか。どうしよう。ドキドキする。
「蒼生ってさー」
ん? 椅子に座って固まってた僕は、こうちゃんを見る。相変わらずニヤニヤしてるけど、ちょっと優しい目をしてた。なんなの。
「ホント、ずーっと猫被ってたんだな。おまえのこと、優等生のいい子ちゃんだと思ってきたけどさ。そーいう慌てたりはしゃいだり、オレに年相応の反応見せてくれるようになったよな」
「えっ」
……言われてみれば、こうちゃんにはあんまり身構えなくなった気がする。なんか、去年くらいだろうか、昔は当たり障りのない態度だったこうちゃんが積極的に僕に絡むようになってきて、ああこれ「顔」作っても無駄なのかなーって、思っては、いた。でも態度に出してるつもりはなかったんだけど。
「たぶんあれなんだろうな、健太と冬矢くんのおかげなんだろうな」
あー……。そっか。そういえば、僕が家で3人して勉強会しだしてから、こうちゃんってやたら構ってくるようになったかも。部屋に突撃してくることもしょっちゅうだから、気を抜いてる僕を結構見られちゃってる。そんなこんなで、今更いいやって思ったのかもしれない。
「蒼生がそうやって楽でいられるなら、おにーちゃんも嬉しいよ」
「……こうちゃんがお兄ちゃんぽいこと言うの、なんか怖いなあ……」
「ははは。酷ぇな」
こうちゃんだって、そうやって普通に笑うようになったじゃん。前は揶揄ってくるばっかりだったのにさ。こんなふうに、たまにお兄ちゃんみたいな顔するから、今では、ちょっと頼りになるかも、なんて思っちゃってる。
そこに突然、ピンポーン、って音。
あっ。時間っ。
「オレ行こうかぁ?」
「結構ですっ!」
あれだけ時計気にしてたのに。僕は慌てて玄関に向かう。ドアを開けると、ふたりの笑顔が並んでて。胸が、ぎゅってなる。
「いらっしゃいませー」
「お待たせしましたー」
なんて言い合う僕と健ちゃんを、冬矢がやれやれ、という感じで笑う。
「健太、家の前で張ってたんだよ。俺が自分より早く着いて先に蒼生に会ったら悔しいからってさ」
「そりゃ抜け駆けされそうだからさあ」
「思うんだけど、だったら自分が先に来ていればよかったんじゃないか?」
「そ、それもフェアじゃねえし」
……うわあ。いい子じゃん。
「僕ね、最近健ちゃんのこと可愛いなって思うことが結構あるよ」
「そうだな、俺も可愛い奴だなと思う」
「蒼生はともかく冬矢にそう言われんのめちゃくちゃ気味悪ぃな!」
「幼い、って意味だよ」
「だろうな! 違ったら怖いわ!」
なんていうかなあ。素直で律儀なとこ、ホントそう思うんだよね。小さい頃はずーっと可愛いなって思ってて、それがいつの間にかかっこいいなに変わって、今はどっちも思う。
リビングに入ると、ペットボトルのお茶とコップが3つ、テーブルの上に置いてあった。こうちゃんがしてくれたんだ。
「おお、いらっしゃい。早速賑やかだな」
すっと進み出た冬矢が、手に持ってた袋をこうちゃんに差し出す。
「お邪魔します。すみません、こんな年の瀬に。これ、母からなんですけど、食事の足し前に」
「へえ、わざわざありがとな。……冬矢くんももうちょっと打ち解けていいんだぜ? 他人じゃないみたいなもんだし、さ」
「……そうですね」
そう言う冬矢の笑顔は、外向けのやつだ。こうちゃんはそれに苦笑すると、受け取った袋を持って台所のほうに向かっていった。
健ちゃんが荷物とコートを適当にそのへんに放り出す。
「おまえいつまで経ってもこう兄に懐かないよなあ。マジで適当でいいって。こう兄って、フレンドリーなやりとりのほうが嬉しいタイプだって自分で言ってたしさ」
それは僕もそう思う。もっと気軽に付き合って大丈夫だよ。
冬矢は、小さく首を傾げて、ぽつりと言った。
「たぶん、あの人は蒼生たちが思うより、慎重で注意深くて、物事をよく見ていると思うよ」
へ?
「なんだ、それは属性が同じだから感じる何かがあんの?」
「今の紅輝さんがどうかは知らないから明言は避けるけど、俺は蒼生一筋だよ?」
「まあ、どうやらそうっぽいな」
ひとすじ。そっか。
それを聞いて舞い上がっちゃう僕って、ちょっと単純すぎやしないだろうか。僕の中の「嬉しいと思う単語リスト」がどんどん膨大になってく気がする。いや、実際にはそんなの作ってないよ。でも確かに存在してる気がするので、もし目に見える形になったとしたら一度眺めてみたいリストだ。……とか思ってみたものの、本当に読んだら恥ずかしくて倒れるかもしれないなぁ。
そういえば、付き合って1年以上が経つけど……冬矢が今まで付き合った子の話って、ふんわりとした概要しか聞いたことがない。その、じゃあ聞きたいかって聞かれると……気にはなる……ううん、あんまり聞きたくないような気もする……。とにかく、ほとんど知らないせいか、冬矢がそんなふうなお付き合いをしていたなんて、単なる噂だったんじゃないの? くらいにしか思えない。それだけ冬矢は、僕をきちんと大事にしてくれてるから……。
夕飯は、一応大晦日だしおそばかなって話をしてたので、それと買ってきた天ぷらを並べた。冬矢のお母さんが作ってくれた煮物も一緒に。どのくらいの量がいるかなって思って最初に茹でた4人前は、先に健ちゃんを座らせちゃったせいで、あっという間に消えた。
「おまえ、瞬間芸か!」
それだけで面白かったのに、突っ込むこうちゃんも面白くて、僕は笑いながら続きを茹でた。楽しい。慌てたせいでちょっと茹ですぎたかなって思ったけど、誰も文句は言わなかったし、笑いが絶えなかったし、煮物も美味しかったし、うん。いい日だ。
僕は食器を洗いながら冬矢とこうちゃんが難しい話をしてるのを聞いてる。健ちゃんは今お風呂だ。……大学の研究の話? 今何をやってるのかって冬矢が聞いたのをきっかけにこうちゃんが色々話してるんだけど、専門用語? がちょいちょい出てきて素人にはなんだかわからない。そういえばこうちゃんが何やってるかなんて聞いたことなかったかも。冬矢が話について行ってるのがすごい。
健ちゃんが出てきて、今度は冬矢がお風呂に行く。冬矢の家では片付けさせてもらえないからね、いつも気にしてたんだ。今日は堂々と、家人たる僕がやりますとも。お先にごめんね、と言って席を立った冬矢を見送るのは、ちょっと気分がよかった。だって人が何かしてるのに自分だけ座ってるの、すごく気になるじゃん。自分がやる分には気になんないんだけどさ。……お、健ちゃんとこうちゃんは漫画の話だ。苦手なやつだから僕は読んでないけど、健ちゃん好きだもんね。こうちゃんと話して楽しそうだった。
洗い物が終わったので一応そこに加わるけど、とりあえず2人の話は見えない。どうやら流行ってるんだな~って思ったくらいかな。でも健ちゃんが楽しそうなのでいいや。
そうこうしてるうちに冬矢が戻ってきた。
「オレ最後でいいわ。蒼生、風呂、先行ってこいよ」
と、こうちゃん。
……うん。うん。そうなんだけど。なんか。
なんていうか、なんか。
僕がこの場を離れてもいいのかなって、なんか。
…………うーん。
「……じゃあ、先、入るけど。変な話しないでね」
「変なって?」
「う、あの……。とにかく、一切僕の話しないでくれればそれでいい」
「ほぼ唯一の共通話題なのに?」
「なんか気になるからっ」
「弟の悪口なんか言わねえよ? せいぜいセンシティブな話するくらいじゃね?」
「それが駄目だって言ってるんだってば!」
「ははは、冗談冗談。わかったから早よ行ってこい」
健ちゃんは笑ってたし、冬矢も頷いてたから、大丈夫だと思う。でも、僕をよく知ってる3人が、僕のいないところで揃ってるって、なんだかものすごく気になる。悪口なんか言わないって? そりゃそんなこと言わない人たちだから大丈夫だと思うけど、信頼してるから大丈夫だと思うけど、ううう。
そもそもこうちゃんって予定があるんじゃなかったっけ。それで旅行に行かなかったんだよね。どうしてずっと家にいるんだろう。こうちゃんがいなければ、って言い方は酷いから使わないけど、そうだったら、もうちょっと……。
もちろん、じゃあ健ちゃんの家は誰もいないんだからそっちに行けばいいんじゃ、っていうのも考えたのは考えた。だけど、逆にこうちゃんをひとりにして3人で誰もいない家にいるっていうのはそれもちょっと誤解を招きそうじゃない? 誤解じゃないんだけど、こうちゃんだって変に思うだろうし。あと、なんか、冬矢が健ちゃんの部屋に行くのにちょっと抵抗あったみたいだし。
以上を踏まえまして、……ちょっと悩んでるのが今の僕。どうしよう。こうちゃんがいるから、で、できない、よね。だけど万が一そういうことになったら、そこから時間かかるのも……。うーん。一応、準備、しておこうかな。一応ね。……あと、そうならなくてもがっかりしないように心積もりしなくちゃ。
気は急くけど、ある程度ちゃんと時間をかけて、その、……いろいろして、僕はリビングに戻った。
笑って話してた3人が、僕に気付いて顔を上げる。よいしょ、とこうちゃんが腰を上げた。
「まあ大体そんなもんかな。オレも又聞きだから、今度ちゃんと聞いておくよ。いざって時は力になるから。……で、オレが風呂行ってる間に上に行くだろ? 飲み物とか適当に持ってって」
こうちゃんは僕の横を通りすぎがてら、ぽんと肩を叩いた。
「おやすみ、蒼生」
…………?
「うん、おやすみ」
なんだ? なんの話をしてたんだ?
え、怖っ。
思わずふたりの顔を見る。
「ははっ。そんな怯えた顔すんなよ。約束通り、蒼生の話はしてねえよ」
「うん。大学の話……主に大学生活について色々聞いてた」
そっか。そうなのか。たしかに、僕も一応なんとなくぼんやり決めてることはあるものの、きっかりこうだと言い切れる夢があるわけでもない。ふたりがどう考えてるかわかんないけど、現役のこうちゃんに聞くのはきっと理に適ってると思う。でも。
「……僕の話が出ないっていうのも、それはそれでさみしいもんだね……」
健ちゃんが笑う。
「かわいい~」
むむ。なんだと。そりゃ、わがままなのはわかってるよ……。
「それにしても、なんで蒼生の話しちゃいけなかったんだ? 紅輝さんも言ってたけど、俺たちは蒼生が傷付くようなこと陰で言うなんて絶対しないよ」
「そうじゃなくて……それは絶対ないって言い切れるんだけど……。だ、だって、実の兄と彼氏と彼氏だよ!? そんな3人が僕のこと話してたら、なんか……恥ずかしいじゃん……」
「……可愛い」
「冬矢までぇ……」
冬矢は口元を緩ませると、僕の頭をゆっくり撫でた。
「部屋、行こうか」
……うん。
ドアを開けると、あったかい風がふわっと髪を揺らしていく。エアコンのタイマー、入れておいてよかった。ちょうどいい感じだ。
「お客様用の布団って下に置いてあるんだ。後で取りに行けばいいかなって思って、まだ持ってきてないんだよね。手伝ってくれる?」
「布団、いる?」
「さすがにいるでしょ……。僕のベッド広くないもん」
なんて話をしながら部屋に入り、ドアがぱたんと閉まる。それとほぼ同時、冬矢が僕の体を引いて、噛みつく勢いでキスをしてくる。
僕はバランスを取り損ねて、膝が崩れて、倒れそうになる。
でもその時には後ろに健ちゃんがいて、体重をかける冬矢ごと僕を支えて、僕の左の耳朶を噛む。
「……んんっ……」
ぞくぞくする。
何度も何度も角度を変える冬矢の口から漏れる熱い吐息。
僕の体をゆっくりと床に下ろすかたわら、腰から足にかけて撫でてくる健ちゃんの手。
冬矢がふっと顔を上げ、その隙を突いて健ちゃんが上から被さるようにキス。
舌を強く吸われて息を詰めると、首筋から唇で辿られるぞわっとした感覚が鮮明になる。
「……っは、っは……ぁ」
ようやくその手が緩む頃には、すっかり僕の息も上がっていた。
「はー……ちょっと落ち着いた」
吐息と一緒に呟く健ちゃん。……それは、よかったです。はい。
冬矢は僕の頬をすっと撫でる。
「先週からずっと我慢してたんだ、“待て”が長すぎたな。ごめん、大丈夫?」
「だい、じょ、ぶ……。気持ちいいだけ……」
ぼーっとする。健ちゃんに全身を預けてることも、もう気持ちよすぎて。
健ちゃんが、僕の頭に頬を擦り付ける。
「でもさ、先週に引き続き、今日も駄目なんだろ?」
「紅輝さんがいるからな。静かな家だと物音で気付かれるかもしれないし。危険を冒さないに越したことはない」
だよねえ……。
「ごめんね」
「蒼生が謝ることじゃないだろ。いいんだ、こうやって触れられれば満足だよ」
本当は僕は満足…………してますよ、気持ちいいもん、してますが、やっぱり、むむ。
ぐい、と僕を立たせるように腕を上げた健ちゃんが、明るい声で言った。
「それじゃ、大晦日だからイチャイチャする会~!」
僕は思わず笑ってしまった。
「なんか、それ、先週も似たような会聞いた気がする」
「週1開催だからな。なお、その間ミニイベントが週6で開催される」
「毎日だねえ」
「毎日だなあ」
ふふ。
健ちゃんは、僕のベッドの羽毛布団を手際よくたたむと、部屋の端っこに追いやってたローテーブルの上に乗せた。それからベッドに乗り、壁に背中を付けて座り込む。
「会場はこちらです」
「はい」
会場って。僕も笑いながらベッドに乗り、健ちゃんの隣に座って足を投げ出す。冬矢も僕の隣に来る。両腕がふたりに触れてて、あったかい。だけどイチャイチャがそれで終わるはずは、当然なくて。
健ちゃんが、右頬にキスをくれる。それから、耳に。口を開けて、舌で耳の輪郭をなぞる、その音が直接響く。くすぐったい。左手が僕の右手を掴んで、指を絡ませてくる。
冬矢は、さっきの続きをするみたいに首筋に唇を這わせる。右手が僕の左腕の内側をゆっくりと上ってくる。左手は、膝から股の辺りをゆったりと上下する。
右を向けば、健ちゃんが笑ってキスしてくれる。
左を向けば、冬矢が目を和ませて「好きだよ」って呟く。
ああ、……嬉しい。
健ちゃんの右手が、ついっと伸びて、パジャマの上から僕のおちんちんに触った。わ。突然だったから、びくっとしちゃった。
「な。蒼生。はぁ……触りっこしよ。そのくらいならいいだろ」
「ん、うん……」
それくらい、なら。バレない。きっと。
「脱いで……」
「うん」
僕は左手をベッドにつき、腰を浮かせる。パジャマの腰のとこに反対側の手をかけると、健ちゃんの手が手伝ってくれる。途中から冬矢の手も加わって、太ももの所まで下ろす……と思ったんだけど、ふたりの手はそのまま僕の足からパジャマを引き抜いた。
「ぇ……? ここまで脱ぐの……?」
「へへ、脱がせちゃった」
そっかあ。
あー、ちょっと反応しちゃってるの、見えてるよね……。本当は、さっきのキスで、火がついた。「今日はしない」、それが最初からわかってたから、ふたりは深いキスを出来るだけ我慢してる。だけど、僕はあの瞬間、もっと、って思った。
全部バレちゃってもいいんじゃないかな! もう!
なんかそう思ってしまうくらい、ぼーっとする。まだなにもしてないのに。期待する。しちゃう。ああ。
「蒼生、可愛い。ほんとは、触ってほしかった?」
健ちゃんの囁き。僕は何も考えられなくなって、ただ、頷く。
目の端で、健ちゃんがズボンを下ろす。なんだ。健ちゃんだってそうじゃないか。
僕は右手でそれに触れる。熱い。どくどくいってる。
「蒼生、俺にも、出来る?」
冬矢が僕の左手を引く。導かれて触れた熱は、こっちも熱い。
ちがうタイミングの脈、でもどっちも速い。
はあ、こんなに、心臓が早鐘を打つほどに、ああ、こんなに。僕のことを。
両手に濡れた感触。
交互に目をやりながら、愛しい熱を、てのひらで、指先で、感じたくて、手に余るそれを、余すところなく触れたくてっ、……これ……っ。もっと、ほしい……。
「……ひゃっ……う……」
ふたりの手が、僕に伸びた。触れられた瞬間、びりっと電流が走ったよう。2本の手が。先のほうを、根元のほうを、優しく。強く。ゆっくりと。速く。
「あっ……ああっ、や、……あぁっ」
駄目。声。駄目なのに。
きもち、い。
冬矢が、僕の左足の上に、自分の右足をかけた。
ふぇ……?
なに……?
「健太」
「あ?」
「足」
「……ああ」
健ちゃんもふっと笑って、僕の右足の上に足を……?
え?
ふたりの足に、ぐっと力が入る。
それで、あ、と思った。
「やっ……え、あ、これ……っ、……足、あ、閉じらんないぃ……はあっ、あ」
逃げたいわけじゃない。
だけど、逃げられない、その状況は、なんでか腰の奥からぎゅんっとくる感覚を呼ぶ。
足を開かされてる、って思うと、ぞくぞくが……止まんない。
「……あっ……ん……っう、ぅ……」
腰が勝手に動く。
健ちゃんと冬矢は、あいたほうの手で、それぞれに触れる僕の手を包み込む。ああ。こっちも、外せない。ふたりの思うとおりに動かされる。
だめ。
これは。
おかしくなる……っ。
「っも、むり……イッちゃ……ぁ、あ」
だめ、
声が抑えられな……っ。
咄嗟に冬矢に顔を向ける。悟ってくれたのかどうか、一瞬のことだったからわからない。だけど冬矢は、僕の口を塞ぐみたいなキスをした。
「……んっ、んんんーっ……」
あ。
……あー。
全身から力が抜ける。でも、両手、動かさなきゃ。ただたぶん、僕の力なんてほとんど意味なくて、ふたりの手が僕の手を動かしてる。
だから僕はぼんやりと、その熱さを堪能し続ける。
「…………っ」
「……はぁっ」
それが順番に大きく脈打つのを手の中で感じるのが、すごく、心地よかった。
ちょっと情けないけどさ。
荒い息だけが聞こえる。
「ごめんね……最後、僕、役に立ってなかったでしょ」
だけど、冬矢はまったく気にしてないみたいに笑う。
「すべすべで気持ちよかったよ」
健ちゃんも満足げに頷く。
「蒼生の手使っちゃったなんて、すっげぇ贅沢」
そっか。嬉しくなってふたりにすがりつき……たくなったんだけど、あっ。両手。健ちゃんと冬矢も自分の手を見て、ふ、ふふ。なんだか笑えてきた。全員手が汚れてるの。なんだこの状況。
ふふふ。
僕たちは、顔を見合わせて笑い合う。
とんとんとん、と音が響いた。
僕は文字通り飛び跳ねる。
ドアの音じゃない、もっと下のほう、たぶん階段の壁が叩かれた音だ。
「あーおーいー」
僕は咄嗟にふたりの手を握る。
「な、なにー!?」
こうちゃんだ。いや、こうちゃん以外誰もいないからこうちゃんじゃなかったら怖いんだけど。
「ああ、ごめん、もう寝てたー?」
「大丈夫! だけど!」
待って、来ないで、を頭の中で必死に念じる。
「オレ、彼女と年越しイチャイチャしてくっから出かけるなー。戸締まりはしてくから。そちらもごゆっくり~」
「あ、えっと、いってらっしゃーい!」
……はあ。
びっくりした。そうか、彼女さんと予定があったのか。はー。
なんかさっき、もういっそバレてしまえとか思ってたんだけど、いざバレそうになるとやっぱりひやひやしちゃうなあ。
「これは九分九厘……」
冬矢が難しい顔でぼそっと呟く。なに?
その顔を覗き込むと、冬矢は僕を見てふっと笑った。
「蒼生、手」
え? 手? ……あっ。
「うわ、あ、握っ……わー、ぐちゃぐちゃだ、ご、ごめん!」
ああ~……白いのがべったり……。
「いちいち謝んなくていいよ。いいじゃん。オレと蒼生の精液混じっちゃったな。なんかこういうの、興奮しねえ?」
ひぇ……っ。
とにかく手を拭いて、ふたりにも拭いてもらって、ゴミ箱に残骸を捨てる。あー、咄嗟とはいえ、なんか、え、えっちだったな。ぼ、僕め……。
「それで?」
ん? 冬矢が穏やかな目で僕を見てる。
「それで、って?」
「紅輝さんは出かけて、もうこの家には俺たちしかいないわけだ。続き、どうする?」
はっ、そうか。
こうちゃんがいつ入ってくるかわかんないから、出来ないって言ったけど。
かあっと頭に血が上った。
だから、ベッドに座ったままの冬矢の隣に行って、その肩にぐわんぐわんする頭を乗っけた。
「続き、したい……」
冬矢は嬉しそうに笑って、僕のパジャマのボタンに手をかけた。僕はその手元に目を落とし、優しい手つきを見つめる。冬矢って、僕の服を脱がせるのが好きだから。そして、僕がそれを見てるのを見るのが好きなんだって。だから僕は冬矢に任せる。
だけどそれを待っていられないのが健ちゃんだ。着てた服を床に全部脱ぎ捨てた健ちゃんは、僕の足を撫で、甲にキスをする。足の指の間に舌を滑らせ、ふくらはぎを腕に抱く。
「く、くすぐったい……」
けど、気持ちいい。足が健ちゃんの肌に触れるのも。盛り上がった筋肉がぴったりと寄り添ってくるのも。
何度身体を重ねても、ふたりが緩やかに僕を高めようとしてくれる瞬間が、いつでも新鮮で、嬉しい。
自分も服を脱いだ冬矢が、ぎゅっと抱き締めてくれる。直接肌が触れ合うのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。心臓の音が直に伝わるような、暖かさ。
そこに。
「これさ……年越す瞬間、どっちが中にいるんだろうな」
は?
健ちゃん?
別の意味で頭が真っ白になる。なんだって?
僕の指をてのひらで撫でながら、冬矢は下のほうにいる健ちゃんに呆れた目を向ける。
「おまえ……それを今言うかな」
「……あっ。……いや、だけどさ、この時間だと、そういうこと考えちゃわね?」
「そういうことは気付いても黙っておけよ。全員がそれを気にするだろ」
たしかに。そう言われた瞬間、僕は時計を見た。せっかく気持ちよくなってても、時計を気にしてたら気が散っちゃうよね。たぶん、そんなセリフ言うってことは、ふたりとも、そ、そうやって年越したいんでしょ?
僕はどっちだっていいんだ。あ、言い方がちょっと違うかな。どっちでも嬉しい、っていうのも、……うーん。あの、ね、でっ、出来れば、ほんとは、「どっちも」って言いたい。だけどまだちょっと怖い。うーん。
ああ、じゃあもう、これしかない。
「ちょっと、ごめんね」
僕はベッドから立ち上がる。健ちゃんと冬矢の手が僕からするりと落ちる。あ、力が抜ける。ふらつく。頭の中身がだいぶふわふわになってきちゃってるからだな。それでも壁に辿り着き、柱の上、かかっていた時計を少々よろけながら外す。で、机の上に伏せて置く。ベッドに戻りがてら、目覚まし時計も後ろ向きにする。よし。
ベッドに手をついて、冬矢が広げた腕の中に、背を向けるようにして倒れ込む。ふう。
「これで、その瞬間がわからないってわけだ」
「うん。ふたりは、自分だった、って思ってて」
「なるほどね」
冬矢が後ろから僕の腰を抱いて、肩にキスをくれる。
健ちゃんもこれでいいかな。見ると、……なにそのでれっとした顔。
「健ちゃん?」
「ん? ああ、いや。時計に向かって手を伸ばしてる後ろ姿がよかったなーって思ってさ。腕から縦にすらーっと伸びる線がさ、たまんねぇな……。ちょっと離れると、頭から足の先まで裸の蒼生が全部見られるのかあ。なんかいいな、これ。今度じっくり眺めさせて」
「うっわ」
急に恥ずかしくなる。さんざん見られてるけど、急にそんな凝視してますアピールされちゃうと!
僕は冬矢に足をかがめて縋り付き、冬矢が僕を抱き締める。
「……そんな危険な奴には蒼生は触れさせられないな」
「あっ。酷ぇ」
健ちゃんは慌てていつものところからゴムとローションを取り出して、恭しくこっちに捧げる。
「これでなにとぞご容赦ください」
「ふふっ」
なんだそりゃ。
……駄目だ、笑っちゃった。だって面白すぎるでしょ。意味がわかんないもん。
冬矢も口元に手をやって、小さく笑ってる。冬矢が反対の手を差し出すと、健ちゃんは「ははー」とか言いながら、その手にローションを垂らす。まだ面白いの、勘弁して。
「あははは、……っあ」
濡れた指の節で、冬矢が僕の後ろをくすぐる。
それから、ぷちゅっと、指先を。
「ぁっ、あ」
そういえば、こういうことにはなんないだろうなって思ってたから、準備はしたけど、これでオッケー、なとこまでは慣らしてないんだよね。大丈夫かな。でも多少やったから大丈夫だと思、
「今日、ちょっとキツいね」
えっ。
こんな簡単にバレるの?
「もしかして、オレの言動がマジで嫌だったとか……!? 拒否!?」
「ち、違うよ、ひっ、久し振りだから……」
テストだなんだでご無沙汰だったから、嘘じゃない。
「そう。じゃあ、じっくりやろうね」
「オレも手伝うし」
優しい冬矢の指に、健ちゃんの遠慮ない指が並んで入って、く、る。
「んん……っ。ふ、うぅ……」
あー。全身に。ぞくぞくが。腰から上って。
これ、を、慣れるまで。
待てよ、普段自分でやるのはほぼ事務的だからあんまり感じたりしないんだけど、ふたりに触られると、…………。
このふんわり気持ちいいのをずっと? あっ、しくじったかもしれない。
「今日はどんなかっこしたい?」
「ど、どん、な……っあ、って……んっ、あぁ……っ」
冬矢が笑う。
「蒼生は、今日は、どっちだかわからなくなるのがしたいんだよね?」
え?
あれ?
ニュアンスが違……。
「……っあ、っあ、ふ、……あ、は、……うぅう……んっ」
わかんない。
だめ。
僕は両腕をベッドに投げ出して、ただ、大きな波に翻弄されてる。
最初は、なんか、うわあって思って、ふたりに捕まろうとしたり、動こうとしたりしたけど。
途中から、わかんなくなった。
どれくらい経った?
今何時?
きもちぃ……。
冬矢が、僕の上で息を荒くしてる。
全部がとけてしまいそう。
ぴったりと。
合って。
「……ひぅっ……」
ぬるりと出て行く感覚。
それがまた挿入ってくると、
「あぁあっ、あ!」
ち、ちがうとこが突き上げられる。
健ちゃんの顔。
笑って、僕の髪を撫でる。
それから冬矢が横から顔を見せて、近付いて、キス。
ふかいやつ。
あ、入ってきて、僕の舌を吸う。
「……んー……っん、う、」
離れて、やだ、いかないで。
伸ばそうとした手は、やっぱりシーツの上でもぞもぞと動くだけだった。
また、足の間がすうっと涼しくなる。
それから熱くなって、
「っあ! あ、あっ、あぁ……」
身体のなかがいっぱいになる。
空を切る僕の手を掴んだのは健ちゃんだ。
指を絡めて、おなかを撫で上げた手で乳首をこすり、反対の乳首をちゅうって吸う。
きもち、い。
もう、自分で息をしてるのかどうかもわかんない。
揺さぶられる速度で、勝手に空気が出たり入ったりしてるんじゃないだろうか。
あ。
ぐぐ、って。
何かがせり上がるかんじ。
来る。
あ、
「……ぅ、あ」
また、いなくなる。
さっきからこの繰り返しだった。
もうちょっとなのに。
もうちょっと、なのに。
また冬矢の顔が近付いて来て、やさしい指でほっぺをなでる。
それだけで身体がびくりと跳ねる。
あー。
僕は精一杯の力で、腕を上げる。
冬矢の、首にすがりつく。
「どうしたの?」
やさしいあまい声が、耳元で。
「と、ぉやぁ……いっ、イかせ、て……ぇっ」
「我慢できなく、なっちゃった?」
「うん……うぅ、おねが、い……おかしく、な、ァ、なるか、らぁあ……」
くすっと笑う息が、耳にかかる。
「あ!」
冬矢の手が、おちんちんにかかる。ずっと、いじってもらえなかった、そこ。
ちょっと強めにこすりあげられた、だけ。
なのに。
「……ああ、ん、あ、あ、っあぁ……っ!」
…………。
ばたん、と音がしそうな勢いで、僕の腕が落ちた。
もう動けない……。
「はぁ……あ、」
全力疾走した時みたいに、息が上がって、言葉も出てきやしない。
健ちゃんが僕から出てく。
これで、全身で力が入ってるとこはどこにもないぞってくらい、力が抜けた。
「大丈夫?」
冬矢が汗で貼り付いた僕の前髪をかき上げてくれる。大丈夫かどうかわかんないけど、とりあえずまだ言葉の意味は理解出来たので、とりあえず頷く。
「水、飲もうか」
それにも、頷く。
健ちゃんがベッドのヘッドボードに置いてあった水のペットボトルを取ると、冬矢は僕の体を起こしてくれる。一応僕もそれを取ろうとしたんだけど、ぷるぷるしちゃって。笑った健ちゃんが、僕の首の角度に合わせるようにペットボトルを傾けてくれる。なんだこれ。
でも、これで少し喉が潤って、声が出そうな気がした。
「……あ、あー。はあ。やっとしゃべれる……」
なにせもう、内臓が押しつぶされ続けたみたいで、言葉を発する余裕なかったから。
「はー、やっぱ最高。可愛い。好き」
健ちゃんが、ちゅって短いキスをくれる。それから、冬矢も。
「なんかもう、途中でよくわかんなくなっちゃった。でも気持ちよかったぁ」
息を吐きながら言って、僕は冬矢に寄り掛かる。
いや。
寄り掛かろうとした。
え?
冬矢はそのまま、ぽすんと僕をベッドに倒した。
え?
「もう終わりだと思った?」
なんだって?
「蒼生がちょこっとずつ休みをくれるもんだからさー。なあ、気付いてた? オレらまだ満足するまでイッてないの」
「へ?」
「健太、今何時?」
「さあ、時計がないからわかんねえな」
「え、ちょっ」
だ、だからっ。
そういう意味じゃ……っ!!
今度はもう、冗談でも何でもなく、指の1本も動かない。
ぐでっと冬矢の足に頭を乗っけたまんま、見慣れた天井のでこぼこを見てる。
冬矢がその視界に割り込んできた。
「大丈夫?」
……むぐぐ。
「もう頷かないよ……」
言うと、声を上げて笑う。だってさっき酷い目に遭ったもん。
そりゃあね、僕だって、ふたりにもちゃんと気持ちよくなってほしいし、満足するまで付き合いたいよ? だけどさあ、限度ってもんがさあ……。
ま、まあ、僕もきもちかったからいいんだけど。
そこに健ちゃんが戻ってきた。
「あったかいタオル持ってきたよ」
「うー、ありがと」
健ちゃんは、持ってきたうちの1枚を冬矢に渡し、冬矢とふたりがかりで僕の体を拭いてくれる。
「ごめん、こんなことまでやらせちゃって」
「だから謝んなくていいってば。蒼生の体力全部持ってっちゃったのはオレたちだからさ」
「懐かしいな。最初の頃はもっと体力なくて、蒼生、毎回寝落ちしてたから、こんなふうにふたりがかりで体を拭いていたことを思い出すよ」
そうだったねえ……。
今でこそ、そういうことはなくなった。あ、でもさすがに今日は気を失うかと思ったけど。
「健太、今何時?」
っ。
冬矢の顔を見ると、意地悪な顔で笑ってる。わざとだっ。すっ、好きな表情だけども!
健ちゃんはすんなり立ち上がると、僕が伏せて置いた時計を柱にかけ直す。それは、とっくに12時を過ぎた真夜中を指していた。
これ、結構前に過ぎてたな?
健ちゃんが振り向いて、笑う。
「というわけで、あけましておめでとうございます」
ああ、そうか。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
なんて言い合いながら、僕たちはお互いに頭を下げる。
「……さて。いい加減、服着るか」
ふふふ。
だよねえ、ちゃんとした挨拶したけど、全員全裸だもんね。
とは言うものの、健ちゃんは脱いだ服を跨いでベッドに飛び乗った。
それから、僕を冬矢から引き剥がすようにぎゅっと抱き締める。
負けじと冬矢も後ろから僕を抱き締める。
きつい、きつい。
でも、嬉しい。
「今年も大好きな蒼生と、幸せな1年が過ごせますように!」
「俺も。ずーっと蒼生と一緒にいられますように」
「ふたりと、かわらず笑顔でいられますように」
新しい年が、みんなみんな、幸せな1年でありますように!
「蒼生、邪魔ー」
「あっ、ごめん」
テレビの前を往復すると、さすがにこうちゃんから抗議の声。そりゃそうだよね。
でも、こうちゃんは別に怒ってるとかではないらしい。ニヤニヤしながらこっちを見てる。
「まあな? はしゃぐ気持ちはわかるけどな?」
「そ、そんなはしゃいでるとかじゃ……」
ない、と言おうとしたけど、……うん、無理だよね。
駄目だ、やっぱり落ち着かない。僕はこうちゃんの邪魔にならないように、台所のほうに向かう。冷蔵庫を開けて、ペットボトルが数種類入ってるのを確認する。……さっきもやったのに。
そもそものきっかけは、健ちゃんのお姉さんであるゆみちゃんが、大ファンだっていう海外アーティストの地元カウントダウンコンサートの抽選に当たったことだった。そのチケットは2枚組で、同じくファンだった妹のみのりちゃんが、自分もどうしても行くって言って聞かなかった。
ゆみちゃんも大学生になったし、危ない都市でもないし、1人で海外旅行もありなのでは……みたいな雰囲気が最初はあったんだけど、みのりちゃんが名乗り出たことで風向きが変わった。そもそも受験生が海外なんて、ってところから紆余曲折あり、せめて家族が一緒に行って上の誰かが勉強を見よう、直前の気分転換にもなるし、たかが数日だし、って流れになった。
そこからトントン拍子に2家族で海外旅行って話に、……なりかけた。
みのりちゃんは僕に勉強を見てほしいって言ってきた。そりゃ、みのりちゃんは妹みたいなもんだし、手伝ってあげたいよ? でも、僕は、どうしても飛行機が苦手なんだ。だから、勉強云々じゃなくて、交通手段が駄目なんだって謝り倒して、断った。母さんは僕が拒否したことを快く思わなかったみたいだったけど、駄目なものは駄目なんだから仕方ない。昔の僕だったら我慢してたと思う。でも、なんだか今なら言える気がして。
そしたら、だけど1人で家に置いておけないでしょう、って言われた。そんなことはない、大丈夫だと思うんだけど。そしたら健ちゃんが、
「蒼生が行かないならオレも行かない」
って言った。僕を助けようとしてくれたのか、僕と一緒にいたいと思ってくれたからなのか、どっちかはわかんない。でも、どっちであっても嬉しかったから、どっちでもいい。
「オレも友達と予定あるからパス」
こうちゃんもそう断って、まあ3人いるなら大丈夫だろうって話になり、みのりちゃんの勉強はみどりちゃんが見てくれることになった。名前が似てるからここも昔からセット扱いで、仲もいいしちょうどいいよねって。
かくして僕たちはカウントダウンを家で過ごすことになりました、って報告したら、冬矢も両親に駄々をこねたらしい。あの、冬矢が! や、もちろん子供みたいなああいう駄々じゃなくて、きちんと説明したんだろうけど。
結果、冬矢とお母さんがお父さんの赴任先に行くんじゃなくて、お父さんが帰ってくることになったらしい。でもちゃんと家族で揃おうとするんだから、いいご家庭だよね。それで、年越しは、友達と過ごしますってちゃんと許可も取ってきたって。
はー。
そんなこんなで、今日は健ちゃんと冬矢が家に来る。イベントとか派手なことはなんにもないけど、でも、こんなカウントダウンがあっていいんだろうか。どうしよう。ドキドキする。
「蒼生ってさー」
ん? 椅子に座って固まってた僕は、こうちゃんを見る。相変わらずニヤニヤしてるけど、ちょっと優しい目をしてた。なんなの。
「ホント、ずーっと猫被ってたんだな。おまえのこと、優等生のいい子ちゃんだと思ってきたけどさ。そーいう慌てたりはしゃいだり、オレに年相応の反応見せてくれるようになったよな」
「えっ」
……言われてみれば、こうちゃんにはあんまり身構えなくなった気がする。なんか、去年くらいだろうか、昔は当たり障りのない態度だったこうちゃんが積極的に僕に絡むようになってきて、ああこれ「顔」作っても無駄なのかなーって、思っては、いた。でも態度に出してるつもりはなかったんだけど。
「たぶんあれなんだろうな、健太と冬矢くんのおかげなんだろうな」
あー……。そっか。そういえば、僕が家で3人して勉強会しだしてから、こうちゃんってやたら構ってくるようになったかも。部屋に突撃してくることもしょっちゅうだから、気を抜いてる僕を結構見られちゃってる。そんなこんなで、今更いいやって思ったのかもしれない。
「蒼生がそうやって楽でいられるなら、おにーちゃんも嬉しいよ」
「……こうちゃんがお兄ちゃんぽいこと言うの、なんか怖いなあ……」
「ははは。酷ぇな」
こうちゃんだって、そうやって普通に笑うようになったじゃん。前は揶揄ってくるばっかりだったのにさ。こんなふうに、たまにお兄ちゃんみたいな顔するから、今では、ちょっと頼りになるかも、なんて思っちゃってる。
そこに突然、ピンポーン、って音。
あっ。時間っ。
「オレ行こうかぁ?」
「結構ですっ!」
あれだけ時計気にしてたのに。僕は慌てて玄関に向かう。ドアを開けると、ふたりの笑顔が並んでて。胸が、ぎゅってなる。
「いらっしゃいませー」
「お待たせしましたー」
なんて言い合う僕と健ちゃんを、冬矢がやれやれ、という感じで笑う。
「健太、家の前で張ってたんだよ。俺が自分より早く着いて先に蒼生に会ったら悔しいからってさ」
「そりゃ抜け駆けされそうだからさあ」
「思うんだけど、だったら自分が先に来ていればよかったんじゃないか?」
「そ、それもフェアじゃねえし」
……うわあ。いい子じゃん。
「僕ね、最近健ちゃんのこと可愛いなって思うことが結構あるよ」
「そうだな、俺も可愛い奴だなと思う」
「蒼生はともかく冬矢にそう言われんのめちゃくちゃ気味悪ぃな!」
「幼い、って意味だよ」
「だろうな! 違ったら怖いわ!」
なんていうかなあ。素直で律儀なとこ、ホントそう思うんだよね。小さい頃はずーっと可愛いなって思ってて、それがいつの間にかかっこいいなに変わって、今はどっちも思う。
リビングに入ると、ペットボトルのお茶とコップが3つ、テーブルの上に置いてあった。こうちゃんがしてくれたんだ。
「おお、いらっしゃい。早速賑やかだな」
すっと進み出た冬矢が、手に持ってた袋をこうちゃんに差し出す。
「お邪魔します。すみません、こんな年の瀬に。これ、母からなんですけど、食事の足し前に」
「へえ、わざわざありがとな。……冬矢くんももうちょっと打ち解けていいんだぜ? 他人じゃないみたいなもんだし、さ」
「……そうですね」
そう言う冬矢の笑顔は、外向けのやつだ。こうちゃんはそれに苦笑すると、受け取った袋を持って台所のほうに向かっていった。
健ちゃんが荷物とコートを適当にそのへんに放り出す。
「おまえいつまで経ってもこう兄に懐かないよなあ。マジで適当でいいって。こう兄って、フレンドリーなやりとりのほうが嬉しいタイプだって自分で言ってたしさ」
それは僕もそう思う。もっと気軽に付き合って大丈夫だよ。
冬矢は、小さく首を傾げて、ぽつりと言った。
「たぶん、あの人は蒼生たちが思うより、慎重で注意深くて、物事をよく見ていると思うよ」
へ?
「なんだ、それは属性が同じだから感じる何かがあんの?」
「今の紅輝さんがどうかは知らないから明言は避けるけど、俺は蒼生一筋だよ?」
「まあ、どうやらそうっぽいな」
ひとすじ。そっか。
それを聞いて舞い上がっちゃう僕って、ちょっと単純すぎやしないだろうか。僕の中の「嬉しいと思う単語リスト」がどんどん膨大になってく気がする。いや、実際にはそんなの作ってないよ。でも確かに存在してる気がするので、もし目に見える形になったとしたら一度眺めてみたいリストだ。……とか思ってみたものの、本当に読んだら恥ずかしくて倒れるかもしれないなぁ。
そういえば、付き合って1年以上が経つけど……冬矢が今まで付き合った子の話って、ふんわりとした概要しか聞いたことがない。その、じゃあ聞きたいかって聞かれると……気にはなる……ううん、あんまり聞きたくないような気もする……。とにかく、ほとんど知らないせいか、冬矢がそんなふうなお付き合いをしていたなんて、単なる噂だったんじゃないの? くらいにしか思えない。それだけ冬矢は、僕をきちんと大事にしてくれてるから……。
夕飯は、一応大晦日だしおそばかなって話をしてたので、それと買ってきた天ぷらを並べた。冬矢のお母さんが作ってくれた煮物も一緒に。どのくらいの量がいるかなって思って最初に茹でた4人前は、先に健ちゃんを座らせちゃったせいで、あっという間に消えた。
「おまえ、瞬間芸か!」
それだけで面白かったのに、突っ込むこうちゃんも面白くて、僕は笑いながら続きを茹でた。楽しい。慌てたせいでちょっと茹ですぎたかなって思ったけど、誰も文句は言わなかったし、笑いが絶えなかったし、煮物も美味しかったし、うん。いい日だ。
僕は食器を洗いながら冬矢とこうちゃんが難しい話をしてるのを聞いてる。健ちゃんは今お風呂だ。……大学の研究の話? 今何をやってるのかって冬矢が聞いたのをきっかけにこうちゃんが色々話してるんだけど、専門用語? がちょいちょい出てきて素人にはなんだかわからない。そういえばこうちゃんが何やってるかなんて聞いたことなかったかも。冬矢が話について行ってるのがすごい。
健ちゃんが出てきて、今度は冬矢がお風呂に行く。冬矢の家では片付けさせてもらえないからね、いつも気にしてたんだ。今日は堂々と、家人たる僕がやりますとも。お先にごめんね、と言って席を立った冬矢を見送るのは、ちょっと気分がよかった。だって人が何かしてるのに自分だけ座ってるの、すごく気になるじゃん。自分がやる分には気になんないんだけどさ。……お、健ちゃんとこうちゃんは漫画の話だ。苦手なやつだから僕は読んでないけど、健ちゃん好きだもんね。こうちゃんと話して楽しそうだった。
洗い物が終わったので一応そこに加わるけど、とりあえず2人の話は見えない。どうやら流行ってるんだな~って思ったくらいかな。でも健ちゃんが楽しそうなのでいいや。
そうこうしてるうちに冬矢が戻ってきた。
「オレ最後でいいわ。蒼生、風呂、先行ってこいよ」
と、こうちゃん。
……うん。うん。そうなんだけど。なんか。
なんていうか、なんか。
僕がこの場を離れてもいいのかなって、なんか。
…………うーん。
「……じゃあ、先、入るけど。変な話しないでね」
「変なって?」
「う、あの……。とにかく、一切僕の話しないでくれればそれでいい」
「ほぼ唯一の共通話題なのに?」
「なんか気になるからっ」
「弟の悪口なんか言わねえよ? せいぜいセンシティブな話するくらいじゃね?」
「それが駄目だって言ってるんだってば!」
「ははは、冗談冗談。わかったから早よ行ってこい」
健ちゃんは笑ってたし、冬矢も頷いてたから、大丈夫だと思う。でも、僕をよく知ってる3人が、僕のいないところで揃ってるって、なんだかものすごく気になる。悪口なんか言わないって? そりゃそんなこと言わない人たちだから大丈夫だと思うけど、信頼してるから大丈夫だと思うけど、ううう。
そもそもこうちゃんって予定があるんじゃなかったっけ。それで旅行に行かなかったんだよね。どうしてずっと家にいるんだろう。こうちゃんがいなければ、って言い方は酷いから使わないけど、そうだったら、もうちょっと……。
もちろん、じゃあ健ちゃんの家は誰もいないんだからそっちに行けばいいんじゃ、っていうのも考えたのは考えた。だけど、逆にこうちゃんをひとりにして3人で誰もいない家にいるっていうのはそれもちょっと誤解を招きそうじゃない? 誤解じゃないんだけど、こうちゃんだって変に思うだろうし。あと、なんか、冬矢が健ちゃんの部屋に行くのにちょっと抵抗あったみたいだし。
以上を踏まえまして、……ちょっと悩んでるのが今の僕。どうしよう。こうちゃんがいるから、で、できない、よね。だけど万が一そういうことになったら、そこから時間かかるのも……。うーん。一応、準備、しておこうかな。一応ね。……あと、そうならなくてもがっかりしないように心積もりしなくちゃ。
気は急くけど、ある程度ちゃんと時間をかけて、その、……いろいろして、僕はリビングに戻った。
笑って話してた3人が、僕に気付いて顔を上げる。よいしょ、とこうちゃんが腰を上げた。
「まあ大体そんなもんかな。オレも又聞きだから、今度ちゃんと聞いておくよ。いざって時は力になるから。……で、オレが風呂行ってる間に上に行くだろ? 飲み物とか適当に持ってって」
こうちゃんは僕の横を通りすぎがてら、ぽんと肩を叩いた。
「おやすみ、蒼生」
…………?
「うん、おやすみ」
なんだ? なんの話をしてたんだ?
え、怖っ。
思わずふたりの顔を見る。
「ははっ。そんな怯えた顔すんなよ。約束通り、蒼生の話はしてねえよ」
「うん。大学の話……主に大学生活について色々聞いてた」
そっか。そうなのか。たしかに、僕も一応なんとなくぼんやり決めてることはあるものの、きっかりこうだと言い切れる夢があるわけでもない。ふたりがどう考えてるかわかんないけど、現役のこうちゃんに聞くのはきっと理に適ってると思う。でも。
「……僕の話が出ないっていうのも、それはそれでさみしいもんだね……」
健ちゃんが笑う。
「かわいい~」
むむ。なんだと。そりゃ、わがままなのはわかってるよ……。
「それにしても、なんで蒼生の話しちゃいけなかったんだ? 紅輝さんも言ってたけど、俺たちは蒼生が傷付くようなこと陰で言うなんて絶対しないよ」
「そうじゃなくて……それは絶対ないって言い切れるんだけど……。だ、だって、実の兄と彼氏と彼氏だよ!? そんな3人が僕のこと話してたら、なんか……恥ずかしいじゃん……」
「……可愛い」
「冬矢までぇ……」
冬矢は口元を緩ませると、僕の頭をゆっくり撫でた。
「部屋、行こうか」
……うん。
ドアを開けると、あったかい風がふわっと髪を揺らしていく。エアコンのタイマー、入れておいてよかった。ちょうどいい感じだ。
「お客様用の布団って下に置いてあるんだ。後で取りに行けばいいかなって思って、まだ持ってきてないんだよね。手伝ってくれる?」
「布団、いる?」
「さすがにいるでしょ……。僕のベッド広くないもん」
なんて話をしながら部屋に入り、ドアがぱたんと閉まる。それとほぼ同時、冬矢が僕の体を引いて、噛みつく勢いでキスをしてくる。
僕はバランスを取り損ねて、膝が崩れて、倒れそうになる。
でもその時には後ろに健ちゃんがいて、体重をかける冬矢ごと僕を支えて、僕の左の耳朶を噛む。
「……んんっ……」
ぞくぞくする。
何度も何度も角度を変える冬矢の口から漏れる熱い吐息。
僕の体をゆっくりと床に下ろすかたわら、腰から足にかけて撫でてくる健ちゃんの手。
冬矢がふっと顔を上げ、その隙を突いて健ちゃんが上から被さるようにキス。
舌を強く吸われて息を詰めると、首筋から唇で辿られるぞわっとした感覚が鮮明になる。
「……っは、っは……ぁ」
ようやくその手が緩む頃には、すっかり僕の息も上がっていた。
「はー……ちょっと落ち着いた」
吐息と一緒に呟く健ちゃん。……それは、よかったです。はい。
冬矢は僕の頬をすっと撫でる。
「先週からずっと我慢してたんだ、“待て”が長すぎたな。ごめん、大丈夫?」
「だい、じょ、ぶ……。気持ちいいだけ……」
ぼーっとする。健ちゃんに全身を預けてることも、もう気持ちよすぎて。
健ちゃんが、僕の頭に頬を擦り付ける。
「でもさ、先週に引き続き、今日も駄目なんだろ?」
「紅輝さんがいるからな。静かな家だと物音で気付かれるかもしれないし。危険を冒さないに越したことはない」
だよねえ……。
「ごめんね」
「蒼生が謝ることじゃないだろ。いいんだ、こうやって触れられれば満足だよ」
本当は僕は満足…………してますよ、気持ちいいもん、してますが、やっぱり、むむ。
ぐい、と僕を立たせるように腕を上げた健ちゃんが、明るい声で言った。
「それじゃ、大晦日だからイチャイチャする会~!」
僕は思わず笑ってしまった。
「なんか、それ、先週も似たような会聞いた気がする」
「週1開催だからな。なお、その間ミニイベントが週6で開催される」
「毎日だねえ」
「毎日だなあ」
ふふ。
健ちゃんは、僕のベッドの羽毛布団を手際よくたたむと、部屋の端っこに追いやってたローテーブルの上に乗せた。それからベッドに乗り、壁に背中を付けて座り込む。
「会場はこちらです」
「はい」
会場って。僕も笑いながらベッドに乗り、健ちゃんの隣に座って足を投げ出す。冬矢も僕の隣に来る。両腕がふたりに触れてて、あったかい。だけどイチャイチャがそれで終わるはずは、当然なくて。
健ちゃんが、右頬にキスをくれる。それから、耳に。口を開けて、舌で耳の輪郭をなぞる、その音が直接響く。くすぐったい。左手が僕の右手を掴んで、指を絡ませてくる。
冬矢は、さっきの続きをするみたいに首筋に唇を這わせる。右手が僕の左腕の内側をゆっくりと上ってくる。左手は、膝から股の辺りをゆったりと上下する。
右を向けば、健ちゃんが笑ってキスしてくれる。
左を向けば、冬矢が目を和ませて「好きだよ」って呟く。
ああ、……嬉しい。
健ちゃんの右手が、ついっと伸びて、パジャマの上から僕のおちんちんに触った。わ。突然だったから、びくっとしちゃった。
「な。蒼生。はぁ……触りっこしよ。そのくらいならいいだろ」
「ん、うん……」
それくらい、なら。バレない。きっと。
「脱いで……」
「うん」
僕は左手をベッドにつき、腰を浮かせる。パジャマの腰のとこに反対側の手をかけると、健ちゃんの手が手伝ってくれる。途中から冬矢の手も加わって、太ももの所まで下ろす……と思ったんだけど、ふたりの手はそのまま僕の足からパジャマを引き抜いた。
「ぇ……? ここまで脱ぐの……?」
「へへ、脱がせちゃった」
そっかあ。
あー、ちょっと反応しちゃってるの、見えてるよね……。本当は、さっきのキスで、火がついた。「今日はしない」、それが最初からわかってたから、ふたりは深いキスを出来るだけ我慢してる。だけど、僕はあの瞬間、もっと、って思った。
全部バレちゃってもいいんじゃないかな! もう!
なんかそう思ってしまうくらい、ぼーっとする。まだなにもしてないのに。期待する。しちゃう。ああ。
「蒼生、可愛い。ほんとは、触ってほしかった?」
健ちゃんの囁き。僕は何も考えられなくなって、ただ、頷く。
目の端で、健ちゃんがズボンを下ろす。なんだ。健ちゃんだってそうじゃないか。
僕は右手でそれに触れる。熱い。どくどくいってる。
「蒼生、俺にも、出来る?」
冬矢が僕の左手を引く。導かれて触れた熱は、こっちも熱い。
ちがうタイミングの脈、でもどっちも速い。
はあ、こんなに、心臓が早鐘を打つほどに、ああ、こんなに。僕のことを。
両手に濡れた感触。
交互に目をやりながら、愛しい熱を、てのひらで、指先で、感じたくて、手に余るそれを、余すところなく触れたくてっ、……これ……っ。もっと、ほしい……。
「……ひゃっ……う……」
ふたりの手が、僕に伸びた。触れられた瞬間、びりっと電流が走ったよう。2本の手が。先のほうを、根元のほうを、優しく。強く。ゆっくりと。速く。
「あっ……ああっ、や、……あぁっ」
駄目。声。駄目なのに。
きもち、い。
冬矢が、僕の左足の上に、自分の右足をかけた。
ふぇ……?
なに……?
「健太」
「あ?」
「足」
「……ああ」
健ちゃんもふっと笑って、僕の右足の上に足を……?
え?
ふたりの足に、ぐっと力が入る。
それで、あ、と思った。
「やっ……え、あ、これ……っ、……足、あ、閉じらんないぃ……はあっ、あ」
逃げたいわけじゃない。
だけど、逃げられない、その状況は、なんでか腰の奥からぎゅんっとくる感覚を呼ぶ。
足を開かされてる、って思うと、ぞくぞくが……止まんない。
「……あっ……ん……っう、ぅ……」
腰が勝手に動く。
健ちゃんと冬矢は、あいたほうの手で、それぞれに触れる僕の手を包み込む。ああ。こっちも、外せない。ふたりの思うとおりに動かされる。
だめ。
これは。
おかしくなる……っ。
「っも、むり……イッちゃ……ぁ、あ」
だめ、
声が抑えられな……っ。
咄嗟に冬矢に顔を向ける。悟ってくれたのかどうか、一瞬のことだったからわからない。だけど冬矢は、僕の口を塞ぐみたいなキスをした。
「……んっ、んんんーっ……」
あ。
……あー。
全身から力が抜ける。でも、両手、動かさなきゃ。ただたぶん、僕の力なんてほとんど意味なくて、ふたりの手が僕の手を動かしてる。
だから僕はぼんやりと、その熱さを堪能し続ける。
「…………っ」
「……はぁっ」
それが順番に大きく脈打つのを手の中で感じるのが、すごく、心地よかった。
ちょっと情けないけどさ。
荒い息だけが聞こえる。
「ごめんね……最後、僕、役に立ってなかったでしょ」
だけど、冬矢はまったく気にしてないみたいに笑う。
「すべすべで気持ちよかったよ」
健ちゃんも満足げに頷く。
「蒼生の手使っちゃったなんて、すっげぇ贅沢」
そっか。嬉しくなってふたりにすがりつき……たくなったんだけど、あっ。両手。健ちゃんと冬矢も自分の手を見て、ふ、ふふ。なんだか笑えてきた。全員手が汚れてるの。なんだこの状況。
ふふふ。
僕たちは、顔を見合わせて笑い合う。
とんとんとん、と音が響いた。
僕は文字通り飛び跳ねる。
ドアの音じゃない、もっと下のほう、たぶん階段の壁が叩かれた音だ。
「あーおーいー」
僕は咄嗟にふたりの手を握る。
「な、なにー!?」
こうちゃんだ。いや、こうちゃん以外誰もいないからこうちゃんじゃなかったら怖いんだけど。
「ああ、ごめん、もう寝てたー?」
「大丈夫! だけど!」
待って、来ないで、を頭の中で必死に念じる。
「オレ、彼女と年越しイチャイチャしてくっから出かけるなー。戸締まりはしてくから。そちらもごゆっくり~」
「あ、えっと、いってらっしゃーい!」
……はあ。
びっくりした。そうか、彼女さんと予定があったのか。はー。
なんかさっき、もういっそバレてしまえとか思ってたんだけど、いざバレそうになるとやっぱりひやひやしちゃうなあ。
「これは九分九厘……」
冬矢が難しい顔でぼそっと呟く。なに?
その顔を覗き込むと、冬矢は僕を見てふっと笑った。
「蒼生、手」
え? 手? ……あっ。
「うわ、あ、握っ……わー、ぐちゃぐちゃだ、ご、ごめん!」
ああ~……白いのがべったり……。
「いちいち謝んなくていいよ。いいじゃん。オレと蒼生の精液混じっちゃったな。なんかこういうの、興奮しねえ?」
ひぇ……っ。
とにかく手を拭いて、ふたりにも拭いてもらって、ゴミ箱に残骸を捨てる。あー、咄嗟とはいえ、なんか、え、えっちだったな。ぼ、僕め……。
「それで?」
ん? 冬矢が穏やかな目で僕を見てる。
「それで、って?」
「紅輝さんは出かけて、もうこの家には俺たちしかいないわけだ。続き、どうする?」
はっ、そうか。
こうちゃんがいつ入ってくるかわかんないから、出来ないって言ったけど。
かあっと頭に血が上った。
だから、ベッドに座ったままの冬矢の隣に行って、その肩にぐわんぐわんする頭を乗っけた。
「続き、したい……」
冬矢は嬉しそうに笑って、僕のパジャマのボタンに手をかけた。僕はその手元に目を落とし、優しい手つきを見つめる。冬矢って、僕の服を脱がせるのが好きだから。そして、僕がそれを見てるのを見るのが好きなんだって。だから僕は冬矢に任せる。
だけどそれを待っていられないのが健ちゃんだ。着てた服を床に全部脱ぎ捨てた健ちゃんは、僕の足を撫で、甲にキスをする。足の指の間に舌を滑らせ、ふくらはぎを腕に抱く。
「く、くすぐったい……」
けど、気持ちいい。足が健ちゃんの肌に触れるのも。盛り上がった筋肉がぴったりと寄り添ってくるのも。
何度身体を重ねても、ふたりが緩やかに僕を高めようとしてくれる瞬間が、いつでも新鮮で、嬉しい。
自分も服を脱いだ冬矢が、ぎゅっと抱き締めてくれる。直接肌が触れ合うのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。心臓の音が直に伝わるような、暖かさ。
そこに。
「これさ……年越す瞬間、どっちが中にいるんだろうな」
は?
健ちゃん?
別の意味で頭が真っ白になる。なんだって?
僕の指をてのひらで撫でながら、冬矢は下のほうにいる健ちゃんに呆れた目を向ける。
「おまえ……それを今言うかな」
「……あっ。……いや、だけどさ、この時間だと、そういうこと考えちゃわね?」
「そういうことは気付いても黙っておけよ。全員がそれを気にするだろ」
たしかに。そう言われた瞬間、僕は時計を見た。せっかく気持ちよくなってても、時計を気にしてたら気が散っちゃうよね。たぶん、そんなセリフ言うってことは、ふたりとも、そ、そうやって年越したいんでしょ?
僕はどっちだっていいんだ。あ、言い方がちょっと違うかな。どっちでも嬉しい、っていうのも、……うーん。あの、ね、でっ、出来れば、ほんとは、「どっちも」って言いたい。だけどまだちょっと怖い。うーん。
ああ、じゃあもう、これしかない。
「ちょっと、ごめんね」
僕はベッドから立ち上がる。健ちゃんと冬矢の手が僕からするりと落ちる。あ、力が抜ける。ふらつく。頭の中身がだいぶふわふわになってきちゃってるからだな。それでも壁に辿り着き、柱の上、かかっていた時計を少々よろけながら外す。で、机の上に伏せて置く。ベッドに戻りがてら、目覚まし時計も後ろ向きにする。よし。
ベッドに手をついて、冬矢が広げた腕の中に、背を向けるようにして倒れ込む。ふう。
「これで、その瞬間がわからないってわけだ」
「うん。ふたりは、自分だった、って思ってて」
「なるほどね」
冬矢が後ろから僕の腰を抱いて、肩にキスをくれる。
健ちゃんもこれでいいかな。見ると、……なにそのでれっとした顔。
「健ちゃん?」
「ん? ああ、いや。時計に向かって手を伸ばしてる後ろ姿がよかったなーって思ってさ。腕から縦にすらーっと伸びる線がさ、たまんねぇな……。ちょっと離れると、頭から足の先まで裸の蒼生が全部見られるのかあ。なんかいいな、これ。今度じっくり眺めさせて」
「うっわ」
急に恥ずかしくなる。さんざん見られてるけど、急にそんな凝視してますアピールされちゃうと!
僕は冬矢に足をかがめて縋り付き、冬矢が僕を抱き締める。
「……そんな危険な奴には蒼生は触れさせられないな」
「あっ。酷ぇ」
健ちゃんは慌てていつものところからゴムとローションを取り出して、恭しくこっちに捧げる。
「これでなにとぞご容赦ください」
「ふふっ」
なんだそりゃ。
……駄目だ、笑っちゃった。だって面白すぎるでしょ。意味がわかんないもん。
冬矢も口元に手をやって、小さく笑ってる。冬矢が反対の手を差し出すと、健ちゃんは「ははー」とか言いながら、その手にローションを垂らす。まだ面白いの、勘弁して。
「あははは、……っあ」
濡れた指の節で、冬矢が僕の後ろをくすぐる。
それから、ぷちゅっと、指先を。
「ぁっ、あ」
そういえば、こういうことにはなんないだろうなって思ってたから、準備はしたけど、これでオッケー、なとこまでは慣らしてないんだよね。大丈夫かな。でも多少やったから大丈夫だと思、
「今日、ちょっとキツいね」
えっ。
こんな簡単にバレるの?
「もしかして、オレの言動がマジで嫌だったとか……!? 拒否!?」
「ち、違うよ、ひっ、久し振りだから……」
テストだなんだでご無沙汰だったから、嘘じゃない。
「そう。じゃあ、じっくりやろうね」
「オレも手伝うし」
優しい冬矢の指に、健ちゃんの遠慮ない指が並んで入って、く、る。
「んん……っ。ふ、うぅ……」
あー。全身に。ぞくぞくが。腰から上って。
これ、を、慣れるまで。
待てよ、普段自分でやるのはほぼ事務的だからあんまり感じたりしないんだけど、ふたりに触られると、…………。
このふんわり気持ちいいのをずっと? あっ、しくじったかもしれない。
「今日はどんなかっこしたい?」
「ど、どん、な……っあ、って……んっ、あぁ……っ」
冬矢が笑う。
「蒼生は、今日は、どっちだかわからなくなるのがしたいんだよね?」
え?
あれ?
ニュアンスが違……。
「……っあ、っあ、ふ、……あ、は、……うぅう……んっ」
わかんない。
だめ。
僕は両腕をベッドに投げ出して、ただ、大きな波に翻弄されてる。
最初は、なんか、うわあって思って、ふたりに捕まろうとしたり、動こうとしたりしたけど。
途中から、わかんなくなった。
どれくらい経った?
今何時?
きもちぃ……。
冬矢が、僕の上で息を荒くしてる。
全部がとけてしまいそう。
ぴったりと。
合って。
「……ひぅっ……」
ぬるりと出て行く感覚。
それがまた挿入ってくると、
「あぁあっ、あ!」
ち、ちがうとこが突き上げられる。
健ちゃんの顔。
笑って、僕の髪を撫でる。
それから冬矢が横から顔を見せて、近付いて、キス。
ふかいやつ。
あ、入ってきて、僕の舌を吸う。
「……んー……っん、う、」
離れて、やだ、いかないで。
伸ばそうとした手は、やっぱりシーツの上でもぞもぞと動くだけだった。
また、足の間がすうっと涼しくなる。
それから熱くなって、
「っあ! あ、あっ、あぁ……」
身体のなかがいっぱいになる。
空を切る僕の手を掴んだのは健ちゃんだ。
指を絡めて、おなかを撫で上げた手で乳首をこすり、反対の乳首をちゅうって吸う。
きもち、い。
もう、自分で息をしてるのかどうかもわかんない。
揺さぶられる速度で、勝手に空気が出たり入ったりしてるんじゃないだろうか。
あ。
ぐぐ、って。
何かがせり上がるかんじ。
来る。
あ、
「……ぅ、あ」
また、いなくなる。
さっきからこの繰り返しだった。
もうちょっとなのに。
もうちょっと、なのに。
また冬矢の顔が近付いて来て、やさしい指でほっぺをなでる。
それだけで身体がびくりと跳ねる。
あー。
僕は精一杯の力で、腕を上げる。
冬矢の、首にすがりつく。
「どうしたの?」
やさしいあまい声が、耳元で。
「と、ぉやぁ……いっ、イかせ、て……ぇっ」
「我慢できなく、なっちゃった?」
「うん……うぅ、おねが、い……おかしく、な、ァ、なるか、らぁあ……」
くすっと笑う息が、耳にかかる。
「あ!」
冬矢の手が、おちんちんにかかる。ずっと、いじってもらえなかった、そこ。
ちょっと強めにこすりあげられた、だけ。
なのに。
「……ああ、ん、あ、あ、っあぁ……っ!」
…………。
ばたん、と音がしそうな勢いで、僕の腕が落ちた。
もう動けない……。
「はぁ……あ、」
全力疾走した時みたいに、息が上がって、言葉も出てきやしない。
健ちゃんが僕から出てく。
これで、全身で力が入ってるとこはどこにもないぞってくらい、力が抜けた。
「大丈夫?」
冬矢が汗で貼り付いた僕の前髪をかき上げてくれる。大丈夫かどうかわかんないけど、とりあえずまだ言葉の意味は理解出来たので、とりあえず頷く。
「水、飲もうか」
それにも、頷く。
健ちゃんがベッドのヘッドボードに置いてあった水のペットボトルを取ると、冬矢は僕の体を起こしてくれる。一応僕もそれを取ろうとしたんだけど、ぷるぷるしちゃって。笑った健ちゃんが、僕の首の角度に合わせるようにペットボトルを傾けてくれる。なんだこれ。
でも、これで少し喉が潤って、声が出そうな気がした。
「……あ、あー。はあ。やっとしゃべれる……」
なにせもう、内臓が押しつぶされ続けたみたいで、言葉を発する余裕なかったから。
「はー、やっぱ最高。可愛い。好き」
健ちゃんが、ちゅって短いキスをくれる。それから、冬矢も。
「なんかもう、途中でよくわかんなくなっちゃった。でも気持ちよかったぁ」
息を吐きながら言って、僕は冬矢に寄り掛かる。
いや。
寄り掛かろうとした。
え?
冬矢はそのまま、ぽすんと僕をベッドに倒した。
え?
「もう終わりだと思った?」
なんだって?
「蒼生がちょこっとずつ休みをくれるもんだからさー。なあ、気付いてた? オレらまだ満足するまでイッてないの」
「へ?」
「健太、今何時?」
「さあ、時計がないからわかんねえな」
「え、ちょっ」
だ、だからっ。
そういう意味じゃ……っ!!
今度はもう、冗談でも何でもなく、指の1本も動かない。
ぐでっと冬矢の足に頭を乗っけたまんま、見慣れた天井のでこぼこを見てる。
冬矢がその視界に割り込んできた。
「大丈夫?」
……むぐぐ。
「もう頷かないよ……」
言うと、声を上げて笑う。だってさっき酷い目に遭ったもん。
そりゃあね、僕だって、ふたりにもちゃんと気持ちよくなってほしいし、満足するまで付き合いたいよ? だけどさあ、限度ってもんがさあ……。
ま、まあ、僕もきもちかったからいいんだけど。
そこに健ちゃんが戻ってきた。
「あったかいタオル持ってきたよ」
「うー、ありがと」
健ちゃんは、持ってきたうちの1枚を冬矢に渡し、冬矢とふたりがかりで僕の体を拭いてくれる。
「ごめん、こんなことまでやらせちゃって」
「だから謝んなくていいってば。蒼生の体力全部持ってっちゃったのはオレたちだからさ」
「懐かしいな。最初の頃はもっと体力なくて、蒼生、毎回寝落ちしてたから、こんなふうにふたりがかりで体を拭いていたことを思い出すよ」
そうだったねえ……。
今でこそ、そういうことはなくなった。あ、でもさすがに今日は気を失うかと思ったけど。
「健太、今何時?」
っ。
冬矢の顔を見ると、意地悪な顔で笑ってる。わざとだっ。すっ、好きな表情だけども!
健ちゃんはすんなり立ち上がると、僕が伏せて置いた時計を柱にかけ直す。それは、とっくに12時を過ぎた真夜中を指していた。
これ、結構前に過ぎてたな?
健ちゃんが振り向いて、笑う。
「というわけで、あけましておめでとうございます」
ああ、そうか。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
なんて言い合いながら、僕たちはお互いに頭を下げる。
「……さて。いい加減、服着るか」
ふふふ。
だよねえ、ちゃんとした挨拶したけど、全員全裸だもんね。
とは言うものの、健ちゃんは脱いだ服を跨いでベッドに飛び乗った。
それから、僕を冬矢から引き剥がすようにぎゅっと抱き締める。
負けじと冬矢も後ろから僕を抱き締める。
きつい、きつい。
でも、嬉しい。
「今年も大好きな蒼生と、幸せな1年が過ごせますように!」
「俺も。ずーっと蒼生と一緒にいられますように」
「ふたりと、かわらず笑顔でいられますように」
新しい年が、みんなみんな、幸せな1年でありますように!
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