高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2024年02月22日 12:42    文字数:8,532

40こ目;My pretty tail

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大学2年冬のお話。たぶん。
だいぶ先に書くはずでしたが、2022年2月22日という2並びについ順番無視して持って来てしまいました。
しかもいつも更新している金曜日から動かしてもやりたかった…。
あと誰もがやるお馴染みのシチュエーションもやりたかった…。
猫の日にはしゃぐ3人の様子をお楽しみください

↑初掲載時のキャプション↑
2022/02/22初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1
 健太は家に向かう道をランニング感覚で走っていた。頬にあたる風はひんやり冷たく、吐く息はすっかり白い。手に持った袋を出来るだけ揺らさないようにしながら、それでも急く足を止められないまま、明るい色の家を目指す。
「ただいまぁ」
 リビングのドアを開けた途端、ふわっと暖かい。走ったせいで逆に暑くなってしまったが、吸い込む空気が暖かいのにはほっとする。
 ソファに座ってテレビのほうを見ていた蒼生が、顔を上げてふんわりと笑った。
「おかえりなさい。おつかれさま」
 それだけで1日の疲れが消えていくから、蒼生の癒やし効果はすごい。
「あっおい~!」
 コートと鞄を投げ捨てて飛び込むと、蒼生はくすくすと笑いながら受け止めてくれた。触れた指の暖かさが、体どころかバイト中の小さなモヤモヤさえあっという間に消し去っていく。
「おかえり」
 キッチンから声がする。
「あ、冬矢いたんだ」
「いるよ。……ちょうど蒼生のリクエストでココア入れるところだけど、おまえは?」
「飲む!」
 だろうな、と肩をすくめ、冬矢はちらりと床を見た。
「それよりまず、その辺に散らかした荷物をちゃんと片付けておけよ。蒼生が踏んで滑るようなことになったら、……どうなるかわかるな」
「へーい」
 健太は飛び込んだ勢いで斜めになっている蒼生をもう一度ぎゅっと抱き締めると、渋々腕を放した。
「ったく、あいつ母さんよりうるせぇんだから」
「あはは、ななママはほとんどなにも言わない人だもんね」
 とはいえ、冬矢の言うことはもっともだ。もし蒼生にケガなんてさせたらと思うと、背筋が寒くなる。
 大人しくコートをハンガーに掛け、鞄を所定の位置に置く。今日はついテンションが上がってしまっただけで、いつもはちゃんと片付けているのだと心の中で反論する。そもそもテンションが跳ね上がる日は、蒼生が「おかえり」を言ってくれる日だと決まっている。だからまあまあの確率なのだが、仕方ない。だって蒼生がいたら嬉しくなるのは当然のことだからだ。
 そうして健太が蒼生のもとに戻る頃、冬矢がマグカップを3つ持って来た。そろいの柄で、蒼生には青、冬矢には白、健太にはオレンジ。ローテーブルの上に置かれると、ゆったりのぼる湯気が見える。
「ありがとう」
 言った蒼生がカップを取る。息を吹きかけると、ふぅっと甘い香りが広がる。冬矢はその様子を嬉しそうに見ると、蒼生の隣に座った。
「あ」
 後れを取るまいとソファに急ぐ健太の足に、がさりと紙袋が当たる。そうだ、蒼生の顔を見た嬉しさで、すっかりこの存在を忘れていた。
「それ、なに?」
「そうだ、帰ったら真っ先に出そうと思ってたんだった。崩れちゃって正規の売値で出せないやつ、従業員価格でもらってきたんだよ」
 紙袋を手に取りながら、蒼生の隣、冬矢の反対側に座る。
「中身はなんだろ」
「クリームチーズのデニッシュ。おやつにいいかなって」
「わ、好き!」
「だろー。蒼生がそう言うと思ってさ」
 中の3つのビニール袋を取り出す。ひとつずつ割れないように大きく膨らませた袋に入ったデニッシュは、端っこが欠けていたりチーズが大きく割れていたりしている。が、味は一緒だ。
 せっかくの作りたてだ、すぐにいただくことにした。仲良く袋を開けると、ふんわりといい香りが漂う。
「ん、美味しい。ぱりぱりー」
「ここのデニッシュ、バターの割合がちょうどいいんだよな」
「オレもまかないがパンとかデニッシュだと、ちょっと嬉しい」
「冬矢のココアがビターだから、また合うんだよね。ふふ、おいしい」
「ありがと」
 予想外の豪華なおやつタイムに、蒼生はにこにこしている。スリッパの爪先が、楽しそうに前後に揺れる。それを見つめるふたりも嬉しそうだ。
 健太はそこで初めてテレビに目をやる。薄茶色と白の仔猫が、ぴょこぴょこと互いに飛びかかるようにじゃれ合っている姿が映っていた。
「なんかさ、蒼生って動物もの好きだよな」
「え……そうかなあ」
「たまにテレビ見てるなって思うと、大体、動物か宇宙か怖いのの番組じゃん」
「う、うーん……。で、でも、ほら、動物、可愛いじゃん。何も考えずに見てられるし」
 その言葉を聞いた健太と冬矢は、蒼生の目線を追うように画面を見た。親猫とおぼしき猫が、ぐっと背を伸ばしながらあくびをしているシーンだった。たしかに平和な光景だとは思うが。ちら、と視線を戻す。どう見たって、ほわほわした目で画面を眺めている横顔のほうが可愛い。
 蒼生はカップを持ったまま、ソファの背もたれにぽすんと倒れ込んだ。
「いいよねえ、優雅な暮らしって感じで」
「ああ、たしかに、ペット飼うってなんか優雅な感じするよな」
「じゃなくて、猫みたいな暮らし」
「……そっち?」
 飼いたい、という話ではないのか。怪訝なふたりの視線をよそに、蒼生はココアを飲み干す。
「日がな一日、ごろごろひなたぼっこしたり好きなところで眠ったり、何かをしなきゃいけないこともなくて、ゆったりのんびり気ままに暮らすの。ちょっと憧れる」
「だけどさ、それって暇じゃねえ? なんかずーっと家の中にいたら飽きそうな気ぃしちゃうな」
「健ちゃんならそうかもしれないけど。でもこの子たちは満足してるんじゃない?」
「そりゃ、家の中しか知らなきゃなあ」
「やっぱり飽きちゃうかなぁ……」
 冬矢が、マグカップをことんと置いた。
「試してみる?」
「へ?」
 突然の提案。蒼生と健太は意味を図りかねてぽかんとした顔で冬矢を見た。冬矢は動じず、にこにこと笑っている。
「そうだね。早速、今週末にでも試してみようね」
「え……」
 なんだろう。笑顔だが、なんとなく不穏に感じる。

 あっという間に週末がやってきた。
 あれ以来冬矢がその話題に触れることはなかったから、もしかしたら冗談なのかもしれないと思ったりもした。だが、冬矢は冗談なんか滅多に言わないし、たとえそうだったとしてもその場ですぐそう言ってくれる。蒼生が気にして長時間モヤモヤするようなことは、基本的にはしない。だから蒼生は、付け耳でも持ってくるのかなとか、しっぽの付いたベルトだのしっぽ付きの服だのを着せられるのかなとか、なんとなくそんなふうに思っていた。
 なのに。
 蒼生はローテーブルの上に置かれたいくつかの道具を前に、正座をして固まった。冬矢は、あの時のにこにこ顔で蒼生を見下ろしている。健太は不思議そうにしゃがんで、並んでいるそれを眺めた。
「黒い猫耳……はわかるけど、他はなんだ? ふわふわの輪っかは、これ、サポーターだよな?」
「そう。手とか膝が痛くならないように」
「ふーん。じゃあこっちは? しっぽだけど、端っこに団子だか風呂の栓? みたいなのがくっついてる。ゴム? いやシリコンか? なんだこりゃ」
 健太がさらりとそれを持ち上げたので、蒼生はびくっと肩を震わせる。それを見た冬矢の笑顔に、すうっと意地悪な色が乗った。
「あーおい?」
「……はい」
「これが何か、知っているんだよね? 健太に教えてあげたら?」
「う……」
 ちら、と上目遣いで冬矢を見た蒼生は、そっと健太に視線を移す。健太はぶらぶらとそれを揺らしながらきょとんとしている。
「……っあ、アナルプラグ……」
「? なにそれ」
「だ、だからね、それ、……挿入れるとね、しっぽ生えてるみたいに見えるっていう……」
 健太は少々考え込んで、突然はっと目を見開いた。みるみるうちにその頬が赤くなる。
「えっ! なっ……! そ、そんなのあるの!? マジ!? え!? こっ、これ……? マジで!? うっわぁ……」
 それを聞いて、健太より顔を赤くした蒼生が、両手で顔を覆う。
「……これ、を、蒼生に……?」
「僕以外、いない、よねぇー……」
 冬矢がすっと蒼生の前に膝を落とす。
「嫌?」
 蒼生はわずかに開けた指の隙間から、冬矢を見つめた。
「や、では、ない……けど、だいぶ恥ずかしい……」
「やめてもいいよ」
「……見たいって、思ってくれてる?」
「うん」
「健ちゃん、も?」
 ちらりと蒼生の視線を受け、健太は狼狽する。どうやら初めて見る道具への衝撃がまだ薄れておらず、脳内の処理が追い付いていないようだ。だが、蒼生のえっちな姿は見たい。当然見たい。とても見たい。
「ぜ……っ、ぜひ」
「……じゃあ、やる」
 その格好をしてみるだけなら、すぐにでも出来たはずだ。けれど冬矢は、蒼生を一糸纏わぬ姿にしたうえで、ゆっくりと念入りに解してくる。それも、真昼のリビングというシチュエーションだ。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで、蒼生は支えてくれる健太の腕をぎゅっと掴んだ。それを黙って見つめる健太の脳内も実は既にめちゃくちゃだ。
「このくらいすればいいかな。じゃあ、これ」
 冬矢はほとんど脱力している蒼生の膝と手に、ふわふわとした柔らかなピンクのサポーターを付けさせる。そして四つん這いの格好にさせると、ローションでよくぬめらせたプラグをそっとあてがう。
「力抜いててね」
「う、うん……」
 円錐のような形は、ゆっくりと、難なくそこを広げながら、蒼生の中へと埋まっていく。
「……っは」
 さほど大きくもないので、苦しい感じはしなかった。ただ、冷たいものに開かれている感覚は、なんだか変な感じがする。それでも、十分に慣らされていたおかげで、最初のくぼみまでするりと収まった。それを見て、冬矢は健太に目配せをする。
「やってみる?」
 健太は黙ったまま、いやテンパったまま、のそりと蒼生の後ろに回った。冬矢の手からしっぽの根元を渡されると、さらにゆっくりそれを押し込んでいく。
「あっ」
 蒼生が小さく声を上げる。
「……すげえ。こんなふうに広がるんだな」
「はっきり言われるの恥ずかしい、んだけど……」
 いつもは挿入ることに夢中で、こんなにじっくり見たことはなかった。可愛い皺が健気に口を開いて、黒い玉を飲み込んでいく。くちゅん、と音がして、シリコンの部分がすべて埋まる。すると、蒼生から本当にしっぽが生えたように見えた。
「あ……あ、っは」
「しっぽ、出来たよ。うん、可愛い可愛い」
「うー……」
 蒼生はぺたりと横向きに腰を落とす。もじもじと両腕を足の間に入れようとするのは、少し反応してしまっているのだろうか。
「ね、ねえ、せめてタオルかなにか巻かせてくれない? すごく心許ないというかなんというか……」
「俺たちに裸見られるなんて今更だろ?」
「そ、そうなんだけどぉ……」
 見られることについてはその通りなので、たしかに気にはならない。だが、きっちり着込んでいる健太と冬矢に対し、自分だけこういう格好というのは、どうも落ち着かない感じがするのだ。
「そもそも、僕は猫みたいなのんびりした暮らしをいいなあと言ったわけであって、猫になりたいって言ったわけじゃないから趣旨が」
「しっ」
 冬矢が蒼生の唇に人差し指を押しつける。
 それから、耳付きのカチューシャを蒼生の頭に付けた。
「はい。これから、蒼生は猫だよ。だからもうしゃべっちゃダメ。健太もちゃんとそう扱うこと、な」
「わかっ」
「蒼生?」
「…………にゃ、にゃあ……」
 自分で言って、さすがにこれは無理があるだろうとドン引きする蒼生だ。が、その目に健太が頭を抱えてうずくまるのが見える。
「かっ……可愛い……!」
 よくわからないが、これでいいらしい。

 窓から少し離れた、それでも日の当たる場所に、白くて毛足の長いラグが置かれていた。もちろん、レースのカーテンはしっかり閉められている。さらに、ベランダの物干し竿にはぴっちりシーツが掛けられて、万が一の視線を遮る役目を果たしていた。窓の外では冷たい風が吹いているのが、時折揺れるシーツの動きでわかる。けれど、部屋の中はエアコンが効いていて、ほかほかと暖かかった。
 蒼生はラグの上にごろんと横になって、ふわふわの毛に頬ずりをしていた。それが気持ちよくて、さっきから何度もうとうとしかけている。なんと、これもわざわざ用意したものらしい。この事態は蒼生の言葉に端を発しているものの、完全に冬矢の悪ふざけなのだが、こんな至れり尽くせりの悪ふざけがあるだろうか。時々通りすがるふたりが、そのたびに頭を撫でてくれるのが嬉しかった。
 ただ問題があるとすれば、床に直に座ると、しっぽの付け根がぐりっと当たって外側の部分が痛い。そのため足を崩しているか正座をするか、それかこうして横になっているかくらいしか出来る姿勢がない。先程、試しに四つん這いで歩いてみたりもしたのだが、サポーターのおかげで手足は痛くないものの、やはり動きづらい。そのうえ、動き回ったからといって特にすることもないので、すぐにラグの上に戻ってきてしまった。
 そして時間が経つにつれ、もうひとつ問題が出てきた。ずっと後ろでくわえ込んでいる経験がないため、慣れない感覚に下半身がどうもむずむずして収まらない。あえてのこういう構造なのか、中のいいところに当たる訳でもないので、ただただもどかしい感じが続いている。ついさっき、冬矢がローションを足して、ぬめりを確かめるために少し動かしてくれたのだが、それが逆にもどかしさを増幅させてしまったようだ。
 次第に、むずむずがさらにきゅんきゅんに変わっていく。こうなると、さすがに我慢も限界だ。
 蒼生はえいやと力を入れて体を起こす。膝を前に出すと、しっぽが振れて中をぐりっと抉る。
「……んんっ……」
 けれど、届かない。
 蒼生が目を上げた先に、ソファで雑誌を読む健太の姿がある。
 早く動いてしまうとしんどいので、ゆったりとした動きでその足下を目指す。そして、そっと足に擦り寄る。が、健太は健太で大変なことになっているのだろう。一度ぴくっと体を揺らしたものの、蒼生のほうをちらりと見る素振りをみせたと思ったら、ぎゅっと目をつぶって窓の方向に顔をやった。
 蒼生は素直にショックを受ける。まさか。あの。健太に。拒否を。
 だが蒼生はすぐに首を振る。健太の心の内を思えば、こんな特殊な状況では仕方ない。健太なりの精一杯なのだと自分に言い聞かせ、キッチンに向かうことにした。
 キッチンには冬矢が立っている。蒼生の目線からは何も見えないが、夕飯の支度を始めているようだ。ここまで来ると出汁の香りがより一層強くなる。それはとても美味しそうな香りだが、何をしているのかわからないのは寂しい、と思う。
「……にゃ」
 小声で冬矢を呼ぶ。冬矢はそこでようやく気が付いたふうに、蒼生にしれっと笑いかける。
「キッチンに入ってきたら危ないよ」
 寂しさが急にぶわっと膨れ上がる。ここは自分の場所でもあるのに。思わず揺れた蒼生の瞳に、冬矢の表情が一瞬崩れかかる。だが、冬矢は強敵だ。すぐに感情を立て直すと、すっとしゃがみ込んで、蒼生の口元に鰹節の薄いひとかけらを差し出した。
 蒼生は、冬矢の指先のそれを躊躇いもなく舐め取る。「あ」と思った時には、冬矢の指ごと口に含んでいた。指。いつも可愛がってくれる冬矢の指だ。気が付いた時にはもう遅い。その指を舐めて、吸って、舌で転がす。ほしい。もっとほしい。足りない。
 ふっと笑った冬矢が、反対の手で蒼生の頭を撫でた。そしてゆっくり、蒼生の口から指を抜く。蒼生の唇が、名残惜しそうにそれを追った。だが、言葉はさらに容赦がない。
「向こうに行ってな」
 冬矢はそう言ったかと思うと、すぐに立ち上がってコンロに向かう。それきり、こちらを窺う様子は見せなかった。
 ダメだ。冬矢は難易度が高い。この状態で、情に流されてくれそうな気がしない。今ので完全にスイッチを入れられてしまった蒼生は、はあっと大きく息を吐く。こうなれば、先程拒否された健太を攻略するしかない。
 蒼生は健太の元に戻ると、ソファに顎をぽすんと乗せる。それから、健太の足に頬を寄せた。ぎくしゃくとぎこちなく健太の左手が動く。だがそれは、一度頭の上に乗ると、いつも通りに優しく髪を梳いた。胸の奥がきゅっとする。健ちゃん、と声に出さずにつぶやき、今まで腕があって届かなかった健太の足の上に顎を乗せる。健太の体がびくっとして、右手に握ったままの雑誌がぐしゃりと音を立てた。その蒼生の目の前には、ふっくらと存在感を増している部分がある。そこに、すっと鼻先を当てる。熱い。唇で触れると、布越しでも脈打つのがわかる。
「あっ……蒼生っ……」
 頭に乗ったままの手に、わずかに力がこもる。蒼生は、そのまま腕に力を入れると、健太の腕の中に収まるように足の上に座って、肩に頭を乗せた。
 健太は思わず視線を落としてしまう。そして、目に入れてしまった。触れてほしそうに丸く存在感をアピールする、ピンク色のふたつの肉球を。それから、ふるふると震えて蜜を溢れさせる、もう一本の甘いしっぽを。
 蒼生はそっと健太の襟を掴み、頬をぺろっと舐めた。
「にゃあ……」
「!」
 ばさり。健太が雑誌を床に放り投げた。
 そしてそのまま、蒼生を抱き上げる。
「あ、ん」
 その勢いでぐり、と入っていたプラグが中を抉る。
「……ダメだもう限界っ」
 小さな健太の声。健太はばたばたとキッチンの前に走り込んだ。
「おかーさん! 面倒みるからこの子飼っていいよね!!」
「誰がお母さんだ」
「なんかそういうのの許可出すのってお母さんってイメージじゃない?」
「それは知らないけど」
 冬矢は苦笑し、手を止めてキッチンから出てきた。健太の腕の中には、すっかりとろけた顔で瞼を閉じ、息を乱す蒼生がいる。その顎の下を優しく撫でてやる。
「あ、あ……」
「……降参する?」
 薄く目を開け、蒼生はこくんと頷いた。
「ぎ、ギブ……。人にするやり方でかわいがってください……」

 枕に顔を埋めて倒れ込む蒼生の背中をそっと撫でてやると、びくん、と反応が返ってくる。それが可愛くてもう一度撫でる。今度は小さく震え、拗ねたような目線が健太の元にやってきた。
「へとへとだから勘弁して……」
 少し掠れた声。
「あー、イキすぎて疲れちゃった?」
「そうですその通りですまったく休ませてもらえなかったもので」
「……ダメだった?」
「よ、よかったけどぉ……」
 うう、と蒼生は唸って、ひどくだるそうに起き上がる。
「ね、これもう取っていい?」
 蒼生が重そうな腕を上げて触れたのは、付けたままのカチューシャだ。
「えー。せっかく可愛いのに……」
「最初は大丈夫だったんだけど、頭締め付けられるみたいで、どんどん痛くなってくるんだもん」
「ああ、ごめんね。あんまり自然だから付けてることに気が付かなかった」
 冬矢はにこにこ言って、蒼生の頭から猫の耳を外す。散々別の意味で鳴かされた蒼生は、冬矢にも同じ目線を送った。
「僕を猫として扱う冬矢の演技力には、ほんとびっくりしたよ」
「ふふ。蒼生を可愛くするためなら、そういうことも出来るみたいだな。自分でも意外だったよ。まあ、健太は大根だったけどな」
「不名誉な扱いすんなよ。いや、マジ、無理だろ、猫可愛いと蒼生可愛いは全っ然、別のベクトルじゃねえか……。やっぱ蒼生は蒼生のままがいいわ」
 健太は蒼生を引き寄せ、抱き締める。もうほとんど力も入らないし、まったく嫌な気はしないのでそのまま抱き締められる蒼生だ。
 冬矢もふたりのもとにずい、と近付き、蒼生の手をきゅっと握る。
「だけど、こういうのも楽しかっただろ?」
「えっ」
 蒼生は、少し複雑な顔をしている健太と、にやにや笑っている冬矢を交互に見る。
 そして、
「……うん。面白かった」
 言ってから、少し頬を膨らませた。
「だけど、途中でほっとくのはよくないと思う。冬矢に邪険にされたり健ちゃんにそっぽ向かれて、悲しかったもん。寂しいのはやだ。もっとちゃんと構って?」
 今度は冬矢と健太が顔を見合わせる番だ。そして、笑って両側から蒼生の頬にキスをする。
「ごめんね。気を付けるよ」
「だけど、そういうこと言う蒼生も大好き」
「……ふふ。僕も、楽しいことしてくれるふたりとも、大好き!」
 蒼生はふたりの腕をぎゅっと抱き締めた。

 なお、その後、耳としっぽは綺麗な状態でクローゼットにしまわれたうえ、時々日の目を見るのだという。
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40こ目;My pretty tail

キーワードタグ 僕+君→Waltz!  創作BL  創作BL小説  三角関係  幼馴染  3P  R18 
作品の説明 大学2年冬のお話。たぶん。
だいぶ先に書くはずでしたが、2022年2月22日という2並びについ順番無視して持って来てしまいました。
しかもいつも更新している金曜日から動かしてもやりたかった…。
あと誰もがやるお馴染みのシチュエーションもやりたかった…。
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↑初掲載時のキャプション↑
2022/02/22初掲載
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
40こ目;My pretty tail
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 健太は家に向かう道をランニング感覚で走っていた。頬にあたる風はひんやり冷たく、吐く息はすっかり白い。手に持った袋を出来るだけ揺らさないようにしながら、それでも急く足を止められないまま、明るい色の家を目指す。
「ただいまぁ」
 リビングのドアを開けた途端、ふわっと暖かい。走ったせいで逆に暑くなってしまったが、吸い込む空気が暖かいのにはほっとする。
 ソファに座ってテレビのほうを見ていた蒼生が、顔を上げてふんわりと笑った。
「おかえりなさい。おつかれさま」
 それだけで1日の疲れが消えていくから、蒼生の癒やし効果はすごい。
「あっおい~!」
 コートと鞄を投げ捨てて飛び込むと、蒼生はくすくすと笑いながら受け止めてくれた。触れた指の暖かさが、体どころかバイト中の小さなモヤモヤさえあっという間に消し去っていく。
「おかえり」
 キッチンから声がする。
「あ、冬矢いたんだ」
「いるよ。……ちょうど蒼生のリクエストでココア入れるところだけど、おまえは?」
「飲む!」
 だろうな、と肩をすくめ、冬矢はちらりと床を見た。
「それよりまず、その辺に散らかした荷物をちゃんと片付けておけよ。蒼生が踏んで滑るようなことになったら、……どうなるかわかるな」
「へーい」
 健太は飛び込んだ勢いで斜めになっている蒼生をもう一度ぎゅっと抱き締めると、渋々腕を放した。
「ったく、あいつ母さんよりうるせぇんだから」
「あはは、ななママはほとんどなにも言わない人だもんね」
 とはいえ、冬矢の言うことはもっともだ。もし蒼生にケガなんてさせたらと思うと、背筋が寒くなる。
 大人しくコートをハンガーに掛け、鞄を所定の位置に置く。今日はついテンションが上がってしまっただけで、いつもはちゃんと片付けているのだと心の中で反論する。そもそもテンションが跳ね上がる日は、蒼生が「おかえり」を言ってくれる日だと決まっている。だからまあまあの確率なのだが、仕方ない。だって蒼生がいたら嬉しくなるのは当然のことだからだ。
 そうして健太が蒼生のもとに戻る頃、冬矢がマグカップを3つ持って来た。そろいの柄で、蒼生には青、冬矢には白、健太にはオレンジ。ローテーブルの上に置かれると、ゆったりのぼる湯気が見える。
「ありがとう」
 言った蒼生がカップを取る。息を吹きかけると、ふぅっと甘い香りが広がる。冬矢はその様子を嬉しそうに見ると、蒼生の隣に座った。
「あ」
 後れを取るまいとソファに急ぐ健太の足に、がさりと紙袋が当たる。そうだ、蒼生の顔を見た嬉しさで、すっかりこの存在を忘れていた。
「それ、なに?」
「そうだ、帰ったら真っ先に出そうと思ってたんだった。崩れちゃって正規の売値で出せないやつ、従業員価格でもらってきたんだよ」
 紙袋を手に取りながら、蒼生の隣、冬矢の反対側に座る。
「中身はなんだろ」
「クリームチーズのデニッシュ。おやつにいいかなって」
「わ、好き!」
「だろー。蒼生がそう言うと思ってさ」
 中の3つのビニール袋を取り出す。ひとつずつ割れないように大きく膨らませた袋に入ったデニッシュは、端っこが欠けていたりチーズが大きく割れていたりしている。が、味は一緒だ。
 せっかくの作りたてだ、すぐにいただくことにした。仲良く袋を開けると、ふんわりといい香りが漂う。
「ん、美味しい。ぱりぱりー」
「ここのデニッシュ、バターの割合がちょうどいいんだよな」
「オレもまかないがパンとかデニッシュだと、ちょっと嬉しい」
「冬矢のココアがビターだから、また合うんだよね。ふふ、おいしい」
「ありがと」
 予想外の豪華なおやつタイムに、蒼生はにこにこしている。スリッパの爪先が、楽しそうに前後に揺れる。それを見つめるふたりも嬉しそうだ。
 健太はそこで初めてテレビに目をやる。薄茶色と白の仔猫が、ぴょこぴょこと互いに飛びかかるようにじゃれ合っている姿が映っていた。
「なんかさ、蒼生って動物もの好きだよな」
「え……そうかなあ」
「たまにテレビ見てるなって思うと、大体、動物か宇宙か怖いのの番組じゃん」
「う、うーん……。で、でも、ほら、動物、可愛いじゃん。何も考えずに見てられるし」
 その言葉を聞いた健太と冬矢は、蒼生の目線を追うように画面を見た。親猫とおぼしき猫が、ぐっと背を伸ばしながらあくびをしているシーンだった。たしかに平和な光景だとは思うが。ちら、と視線を戻す。どう見たって、ほわほわした目で画面を眺めている横顔のほうが可愛い。
 蒼生はカップを持ったまま、ソファの背もたれにぽすんと倒れ込んだ。
「いいよねえ、優雅な暮らしって感じで」
「ああ、たしかに、ペット飼うってなんか優雅な感じするよな」
「じゃなくて、猫みたいな暮らし」
「……そっち?」
 飼いたい、という話ではないのか。怪訝なふたりの視線をよそに、蒼生はココアを飲み干す。
「日がな一日、ごろごろひなたぼっこしたり好きなところで眠ったり、何かをしなきゃいけないこともなくて、ゆったりのんびり気ままに暮らすの。ちょっと憧れる」
「だけどさ、それって暇じゃねえ? なんかずーっと家の中にいたら飽きそうな気ぃしちゃうな」
「健ちゃんならそうかもしれないけど。でもこの子たちは満足してるんじゃない?」
「そりゃ、家の中しか知らなきゃなあ」
「やっぱり飽きちゃうかなぁ……」
 冬矢が、マグカップをことんと置いた。
「試してみる?」
「へ?」
 突然の提案。蒼生と健太は意味を図りかねてぽかんとした顔で冬矢を見た。冬矢は動じず、にこにこと笑っている。
「そうだね。早速、今週末にでも試してみようね」
「え……」
 なんだろう。笑顔だが、なんとなく不穏に感じる。

 あっという間に週末がやってきた。
 あれ以来冬矢がその話題に触れることはなかったから、もしかしたら冗談なのかもしれないと思ったりもした。だが、冬矢は冗談なんか滅多に言わないし、たとえそうだったとしてもその場ですぐそう言ってくれる。蒼生が気にして長時間モヤモヤするようなことは、基本的にはしない。だから蒼生は、付け耳でも持ってくるのかなとか、しっぽの付いたベルトだのしっぽ付きの服だのを着せられるのかなとか、なんとなくそんなふうに思っていた。
 なのに。
 蒼生はローテーブルの上に置かれたいくつかの道具を前に、正座をして固まった。冬矢は、あの時のにこにこ顔で蒼生を見下ろしている。健太は不思議そうにしゃがんで、並んでいるそれを眺めた。
「黒い猫耳……はわかるけど、他はなんだ? ふわふわの輪っかは、これ、サポーターだよな?」
「そう。手とか膝が痛くならないように」
「ふーん。じゃあこっちは? しっぽだけど、端っこに団子だか風呂の栓? みたいなのがくっついてる。ゴム? いやシリコンか? なんだこりゃ」
 健太がさらりとそれを持ち上げたので、蒼生はびくっと肩を震わせる。それを見た冬矢の笑顔に、すうっと意地悪な色が乗った。
「あーおい?」
「……はい」
「これが何か、知っているんだよね? 健太に教えてあげたら?」
「う……」
 ちら、と上目遣いで冬矢を見た蒼生は、そっと健太に視線を移す。健太はぶらぶらとそれを揺らしながらきょとんとしている。
「……っあ、アナルプラグ……」
「? なにそれ」
「だ、だからね、それ、……挿入れるとね、しっぽ生えてるみたいに見えるっていう……」
 健太は少々考え込んで、突然はっと目を見開いた。みるみるうちにその頬が赤くなる。
「えっ! なっ……! そ、そんなのあるの!? マジ!? え!? こっ、これ……? マジで!? うっわぁ……」
 それを聞いて、健太より顔を赤くした蒼生が、両手で顔を覆う。
「……これ、を、蒼生に……?」
「僕以外、いない、よねぇー……」
 冬矢がすっと蒼生の前に膝を落とす。
「嫌?」
 蒼生はわずかに開けた指の隙間から、冬矢を見つめた。
「や、では、ない……けど、だいぶ恥ずかしい……」
「やめてもいいよ」
「……見たいって、思ってくれてる?」
「うん」
「健ちゃん、も?」
 ちらりと蒼生の視線を受け、健太は狼狽する。どうやら初めて見る道具への衝撃がまだ薄れておらず、脳内の処理が追い付いていないようだ。だが、蒼生のえっちな姿は見たい。当然見たい。とても見たい。
「ぜ……っ、ぜひ」
「……じゃあ、やる」
 その格好をしてみるだけなら、すぐにでも出来たはずだ。けれど冬矢は、蒼生を一糸纏わぬ姿にしたうえで、ゆっくりと念入りに解してくる。それも、真昼のリビングというシチュエーションだ。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで、蒼生は支えてくれる健太の腕をぎゅっと掴んだ。それを黙って見つめる健太の脳内も実は既にめちゃくちゃだ。
「このくらいすればいいかな。じゃあ、これ」
 冬矢はほとんど脱力している蒼生の膝と手に、ふわふわとした柔らかなピンクのサポーターを付けさせる。そして四つん這いの格好にさせると、ローションでよくぬめらせたプラグをそっとあてがう。
「力抜いててね」
「う、うん……」
 円錐のような形は、ゆっくりと、難なくそこを広げながら、蒼生の中へと埋まっていく。
「……っは」
 さほど大きくもないので、苦しい感じはしなかった。ただ、冷たいものに開かれている感覚は、なんだか変な感じがする。それでも、十分に慣らされていたおかげで、最初のくぼみまでするりと収まった。それを見て、冬矢は健太に目配せをする。
「やってみる?」
 健太は黙ったまま、いやテンパったまま、のそりと蒼生の後ろに回った。冬矢の手からしっぽの根元を渡されると、さらにゆっくりそれを押し込んでいく。
「あっ」
 蒼生が小さく声を上げる。
「……すげえ。こんなふうに広がるんだな」
「はっきり言われるの恥ずかしい、んだけど……」
 いつもは挿入ることに夢中で、こんなにじっくり見たことはなかった。可愛い皺が健気に口を開いて、黒い玉を飲み込んでいく。くちゅん、と音がして、シリコンの部分がすべて埋まる。すると、蒼生から本当にしっぽが生えたように見えた。
「あ……あ、っは」
「しっぽ、出来たよ。うん、可愛い可愛い」
「うー……」
 蒼生はぺたりと横向きに腰を落とす。もじもじと両腕を足の間に入れようとするのは、少し反応してしまっているのだろうか。
「ね、ねえ、せめてタオルかなにか巻かせてくれない? すごく心許ないというかなんというか……」
「俺たちに裸見られるなんて今更だろ?」
「そ、そうなんだけどぉ……」
 見られることについてはその通りなので、たしかに気にはならない。だが、きっちり着込んでいる健太と冬矢に対し、自分だけこういう格好というのは、どうも落ち着かない感じがするのだ。
「そもそも、僕は猫みたいなのんびりした暮らしをいいなあと言ったわけであって、猫になりたいって言ったわけじゃないから趣旨が」
「しっ」
 冬矢が蒼生の唇に人差し指を押しつける。
 それから、耳付きのカチューシャを蒼生の頭に付けた。
「はい。これから、蒼生は猫だよ。だからもうしゃべっちゃダメ。健太もちゃんとそう扱うこと、な」
「わかっ」
「蒼生?」
「…………にゃ、にゃあ……」
 自分で言って、さすがにこれは無理があるだろうとドン引きする蒼生だ。が、その目に健太が頭を抱えてうずくまるのが見える。
「かっ……可愛い……!」
 よくわからないが、これでいいらしい。

 窓から少し離れた、それでも日の当たる場所に、白くて毛足の長いラグが置かれていた。もちろん、レースのカーテンはしっかり閉められている。さらに、ベランダの物干し竿にはぴっちりシーツが掛けられて、万が一の視線を遮る役目を果たしていた。窓の外では冷たい風が吹いているのが、時折揺れるシーツの動きでわかる。けれど、部屋の中はエアコンが効いていて、ほかほかと暖かかった。
 蒼生はラグの上にごろんと横になって、ふわふわの毛に頬ずりをしていた。それが気持ちよくて、さっきから何度もうとうとしかけている。なんと、これもわざわざ用意したものらしい。この事態は蒼生の言葉に端を発しているものの、完全に冬矢の悪ふざけなのだが、こんな至れり尽くせりの悪ふざけがあるだろうか。時々通りすがるふたりが、そのたびに頭を撫でてくれるのが嬉しかった。
 ただ問題があるとすれば、床に直に座ると、しっぽの付け根がぐりっと当たって外側の部分が痛い。そのため足を崩しているか正座をするか、それかこうして横になっているかくらいしか出来る姿勢がない。先程、試しに四つん這いで歩いてみたりもしたのだが、サポーターのおかげで手足は痛くないものの、やはり動きづらい。そのうえ、動き回ったからといって特にすることもないので、すぐにラグの上に戻ってきてしまった。
 そして時間が経つにつれ、もうひとつ問題が出てきた。ずっと後ろでくわえ込んでいる経験がないため、慣れない感覚に下半身がどうもむずむずして収まらない。あえてのこういう構造なのか、中のいいところに当たる訳でもないので、ただただもどかしい感じが続いている。ついさっき、冬矢がローションを足して、ぬめりを確かめるために少し動かしてくれたのだが、それが逆にもどかしさを増幅させてしまったようだ。
 次第に、むずむずがさらにきゅんきゅんに変わっていく。こうなると、さすがに我慢も限界だ。
 蒼生はえいやと力を入れて体を起こす。膝を前に出すと、しっぽが振れて中をぐりっと抉る。
「……んんっ……」
 けれど、届かない。
 蒼生が目を上げた先に、ソファで雑誌を読む健太の姿がある。
 早く動いてしまうとしんどいので、ゆったりとした動きでその足下を目指す。そして、そっと足に擦り寄る。が、健太は健太で大変なことになっているのだろう。一度ぴくっと体を揺らしたものの、蒼生のほうをちらりと見る素振りをみせたと思ったら、ぎゅっと目をつぶって窓の方向に顔をやった。
 蒼生は素直にショックを受ける。まさか。あの。健太に。拒否を。
 だが蒼生はすぐに首を振る。健太の心の内を思えば、こんな特殊な状況では仕方ない。健太なりの精一杯なのだと自分に言い聞かせ、キッチンに向かうことにした。
 キッチンには冬矢が立っている。蒼生の目線からは何も見えないが、夕飯の支度を始めているようだ。ここまで来ると出汁の香りがより一層強くなる。それはとても美味しそうな香りだが、何をしているのかわからないのは寂しい、と思う。
「……にゃ」
 小声で冬矢を呼ぶ。冬矢はそこでようやく気が付いたふうに、蒼生にしれっと笑いかける。
「キッチンに入ってきたら危ないよ」
 寂しさが急にぶわっと膨れ上がる。ここは自分の場所でもあるのに。思わず揺れた蒼生の瞳に、冬矢の表情が一瞬崩れかかる。だが、冬矢は強敵だ。すぐに感情を立て直すと、すっとしゃがみ込んで、蒼生の口元に鰹節の薄いひとかけらを差し出した。
 蒼生は、冬矢の指先のそれを躊躇いもなく舐め取る。「あ」と思った時には、冬矢の指ごと口に含んでいた。指。いつも可愛がってくれる冬矢の指だ。気が付いた時にはもう遅い。その指を舐めて、吸って、舌で転がす。ほしい。もっとほしい。足りない。
 ふっと笑った冬矢が、反対の手で蒼生の頭を撫でた。そしてゆっくり、蒼生の口から指を抜く。蒼生の唇が、名残惜しそうにそれを追った。だが、言葉はさらに容赦がない。
「向こうに行ってな」
 冬矢はそう言ったかと思うと、すぐに立ち上がってコンロに向かう。それきり、こちらを窺う様子は見せなかった。
 ダメだ。冬矢は難易度が高い。この状態で、情に流されてくれそうな気がしない。今ので完全にスイッチを入れられてしまった蒼生は、はあっと大きく息を吐く。こうなれば、先程拒否された健太を攻略するしかない。
 蒼生は健太の元に戻ると、ソファに顎をぽすんと乗せる。それから、健太の足に頬を寄せた。ぎくしゃくとぎこちなく健太の左手が動く。だがそれは、一度頭の上に乗ると、いつも通りに優しく髪を梳いた。胸の奥がきゅっとする。健ちゃん、と声に出さずにつぶやき、今まで腕があって届かなかった健太の足の上に顎を乗せる。健太の体がびくっとして、右手に握ったままの雑誌がぐしゃりと音を立てた。その蒼生の目の前には、ふっくらと存在感を増している部分がある。そこに、すっと鼻先を当てる。熱い。唇で触れると、布越しでも脈打つのがわかる。
「あっ……蒼生っ……」
 頭に乗ったままの手に、わずかに力がこもる。蒼生は、そのまま腕に力を入れると、健太の腕の中に収まるように足の上に座って、肩に頭を乗せた。
 健太は思わず視線を落としてしまう。そして、目に入れてしまった。触れてほしそうに丸く存在感をアピールする、ピンク色のふたつの肉球を。それから、ふるふると震えて蜜を溢れさせる、もう一本の甘いしっぽを。
 蒼生はそっと健太の襟を掴み、頬をぺろっと舐めた。
「にゃあ……」
「!」
 ばさり。健太が雑誌を床に放り投げた。
 そしてそのまま、蒼生を抱き上げる。
「あ、ん」
 その勢いでぐり、と入っていたプラグが中を抉る。
「……ダメだもう限界っ」
 小さな健太の声。健太はばたばたとキッチンの前に走り込んだ。
「おかーさん! 面倒みるからこの子飼っていいよね!!」
「誰がお母さんだ」
「なんかそういうのの許可出すのってお母さんってイメージじゃない?」
「それは知らないけど」
 冬矢は苦笑し、手を止めてキッチンから出てきた。健太の腕の中には、すっかりとろけた顔で瞼を閉じ、息を乱す蒼生がいる。その顎の下を優しく撫でてやる。
「あ、あ……」
「……降参する?」
 薄く目を開け、蒼生はこくんと頷いた。
「ぎ、ギブ……。人にするやり方でかわいがってください……」

 枕に顔を埋めて倒れ込む蒼生の背中をそっと撫でてやると、びくん、と反応が返ってくる。それが可愛くてもう一度撫でる。今度は小さく震え、拗ねたような目線が健太の元にやってきた。
「へとへとだから勘弁して……」
 少し掠れた声。
「あー、イキすぎて疲れちゃった?」
「そうですその通りですまったく休ませてもらえなかったもので」
「……ダメだった?」
「よ、よかったけどぉ……」
 うう、と蒼生は唸って、ひどくだるそうに起き上がる。
「ね、これもう取っていい?」
 蒼生が重そうな腕を上げて触れたのは、付けたままのカチューシャだ。
「えー。せっかく可愛いのに……」
「最初は大丈夫だったんだけど、頭締め付けられるみたいで、どんどん痛くなってくるんだもん」
「ああ、ごめんね。あんまり自然だから付けてることに気が付かなかった」
 冬矢はにこにこ言って、蒼生の頭から猫の耳を外す。散々別の意味で鳴かされた蒼生は、冬矢にも同じ目線を送った。
「僕を猫として扱う冬矢の演技力には、ほんとびっくりしたよ」
「ふふ。蒼生を可愛くするためなら、そういうことも出来るみたいだな。自分でも意外だったよ。まあ、健太は大根だったけどな」
「不名誉な扱いすんなよ。いや、マジ、無理だろ、猫可愛いと蒼生可愛いは全っ然、別のベクトルじゃねえか……。やっぱ蒼生は蒼生のままがいいわ」
 健太は蒼生を引き寄せ、抱き締める。もうほとんど力も入らないし、まったく嫌な気はしないのでそのまま抱き締められる蒼生だ。
 冬矢もふたりのもとにずい、と近付き、蒼生の手をきゅっと握る。
「だけど、こういうのも楽しかっただろ?」
「えっ」
 蒼生は、少し複雑な顔をしている健太と、にやにや笑っている冬矢を交互に見る。
 そして、
「……うん。面白かった」
 言ってから、少し頬を膨らませた。
「だけど、途中でほっとくのはよくないと思う。冬矢に邪険にされたり健ちゃんにそっぽ向かれて、悲しかったもん。寂しいのはやだ。もっとちゃんと構って?」
 今度は冬矢と健太が顔を見合わせる番だ。そして、笑って両側から蒼生の頬にキスをする。
「ごめんね。気を付けるよ」
「だけど、そういうこと言う蒼生も大好き」
「……ふふ。僕も、楽しいことしてくれるふたりとも、大好き!」
 蒼生はふたりの腕をぎゅっと抱き締めた。

 なお、その後、耳としっぽは綺麗な状態でクローゼットにしまわれたうえ、時々日の目を見るのだという。
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