投稿日:2024年03月18日 21:48 文字数:21,844
43こ目;君の手を引く
ステキ数:2
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
健太目線で、蒼生とデートするおはなし。
今日もラブラブです。
「蒼生の手を引く」というのは、健太の本質というか、健太そのものな気がします。
幼い頃から今に至るまで、彼を貫く「芯」なのかもしれません。
↑初公開時キャプション↑
2022/03/18初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
今日もラブラブです。
「蒼生の手を引く」というのは、健太の本質というか、健太そのものな気がします。
幼い頃から今に至るまで、彼を貫く「芯」なのかもしれません。
↑初公開時キャプション↑
2022/03/18初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
| 1 / 1 |
ある平日の夕方、ゲームをこつこつ進めているところに、インターホンが鳴った。そろそろ蒼生が帰ってくる時間だけど、蒼生だったら鳴らす必要ないもんな。なんだろうと外を映した画面を見ると、制服の……ああ、宅配業者っぽい。
「はい」
ボタンを押して返事をすると、伝票を見ていたその人はさっと顔を上げた。
『どうも、こうさぎ運輸でーす。野木沢様宛にお荷物のお届けです』
「はーい、今開けますんで、ちょっと待っててください」
へえ、蒼生宛? 誰からだろ。
宅配の兄ちゃんから受け取ったのは、一抱えもあるでっかい箱だ。差出人は、野木沢紅輝……あれ、こう兄じゃん。
「誰から?」
リビングに戻ると、冬矢が聞いてくる。だよな、気になるよな。
「こう兄」
「ああ、紅輝さん? 中身は?」
「んー。衣類って書いてある。確かにそのくらいの重さかも」
「ふーん」
とりあえずこっちのテーブル……に置いたら邪魔だな。でけえもん。まだローテーブルのほうがいいか。それにしたって突然どうしたんだろ。
それからいくらもしないうちに蒼生が帰ってきた。はー。ほっとする。今日も無事に帰ってきてくれた。
「ただいま」
「おかえりー。蒼生、おかえりのぎゅー」
腕を広げると、蒼生はにこにこしながら飛び込んでくる。あー。なんて愛しい存在なんだろう。遠慮なく抱き締めると、少ししてぱたぱたと背中で蒼生の手が動いた。え、きつかった? ちょっと力を緩める。蒼生は顔を上げながら、「ぷはっ」と息を吸った。
「はー、苦しかった」
「ごめんごめん。テンション上がっちまった。……あ、そうだ、こう兄から荷物届いてるよ」
「こうちゃん?」
ぱちぱち、と瞬きをする。オレが箱のほうを見ると、蒼生も追っかけるようにそっちを見た。それから首を傾げる。
「なんだろ」
「先に連絡とかなかったの」
「特になかったよ」
だよな、こう兄だもんな。そりゃ事前連絡なんてしてこないよな。
オレの手の中からするりと抜けて、蒼生は箱の前に立つ。なんとなくオレがそばに寄ると、冬矢も近くにやってきた。蒼生は不思議そうにしたまま、箱に張り付いたラベルを取って、テープをびーっと剥がした。開けてみると、……服だな。品名通りだ。
ずいぶん余裕のある箱の中には、わりと適当な感じに洋服が詰められてた。見覚えのある柄もんのシャツが一番上に乗ってるな。ズボンとか薄手のジャケットとか、今の時期に重宝しそうなのがいっぱい入ってるけど、マジでどうしたんだろ。
ん? なんか今文字が見えたような。
「あれ、蒼生、蓋の裏になんか書いてね?」
「え? あ、ほんとだ」
蒼生が箱の蓋を押し開ける。そこには見慣れたこう兄の字があった。なになに、社会人になると大学生までに着てたような服って着る機会減るよな~、いらなくなったの送るから、蒼生じゃなくてもオレか冬矢が着れんじゃないの、余ったやつは処分して~、……簡単にまとめるとそんなようなことが書いてある。もっともそうに書いてるけどさ、こう兄、社会人になったの今年じゃないじゃん。
「こうちゃんので着られるサイズあったかなぁ」
特に疑問は抱かなかったのか、蒼生はごそごそと箱の中身を探る。そうだな、こう兄の体型だと一番冬矢が近いかもしれない。でもこう兄ってオーバーサイズが好きだから、オレが着ても大丈夫なやつもありそうだ。ただ、こう兄のザ・趣味みたいな服は入ってねえな。こう兄、着るもんもテンションも派手だったけど。んー、見せるまでもなくいらないだろって判断したのか、それとも。
「……こんなの、こうちゃん着てたっけ」
奥のほうから引っ張り出したシャツを眺めて蒼生が呟く。比較的ちゃんとたたんであるそのへんは、どっちかといえばおとなしめの服が多くて、サイズも1サイズ小さい。
オレは冬矢に目をやった。同じことを考えてるみたいで、冬矢も頷く。だよな。たぶんこれ、蒼生のために買ってるよな。こう兄も素直じゃねえんだから。弟可愛がんのに照れてんのかな。あはは、可愛いとこあんじゃん。まあ、そういうことにしておいてあげよう。
「オレも見覚えないな。買ったはいいけど、後で自分の趣味じゃないってなったんじゃね?」
「そっかあ。だけど、こういうのだったら着られそう。後でこうちゃんにお礼言っとかなくちゃ。そうだ、なんかお菓子とか送ろうかな」
蒼生、嬉しそうだな。うん。よかった。
その時、
「なんだろう」
箱を覗き込んでいた冬矢が、箱の中に1枚封筒が入ってるのに気が付いた。何の変哲もない茶封筒だ。取り出して蒼生に手渡すと、蒼生はやっぱり不思議そうにそれを開けた。中から出てきたのは。
「映画のチケットだ」
……へえ? 蒼生の手元を覗き込むと、ペアチケット? あ、しかもこれ、ちょっと前に話題になってたホラーのやつだ。すっげえ怖いらしいけど、小さい映画館でしか上映してないんだよな。狭いとこで観てほしいっていう監督の意向らしいけど。そこにはふせんが貼ってあって、「もらったけど、1時間半も電車に乗って観に行くほど好きなやつじゃないからやる」だって。
蒼生はそれを見てそわそわしてる。
「どこでやってるのかな。近いところあるのかな」
だよなあ、蒼生、こういうの好きだもんな。
「いいじゃん、ちょっと遠くたって行こうぜ。な、冬矢」
ん? あれ。冬矢の奴、なんか難しい顔してるな。蒼生が行くって言ってんのに二つ返事じゃねえの、珍しいな。冬矢はさんざん悩む仕草をして、それから厳しい表情で首を振った。
「どっちにしてもペアチケットだし、ふたりで観ておいで」
「えっ」
何があった!?
「……言いづらいんだけど、オカルト系のホラーだろう? そういうの得意じゃないんだ。そのジャンルの作品でも、ミステリーのテイストが強ければ大丈夫なんだがな……」
オレと蒼生は顔を見合わせる。冬矢だったらいくら苦手でも、外で待ってるくらいのことは言いそうだと思ったんだけどな。
「蒼生。健太が迷子にならないようにちゃんとリード持っておくんだよ」
「? うん」
いやそっちかよ! オレに蒼生を任せてくれるとかそういう意味だと思ったんだけど、……こっちも素直じゃねえなあ。
蒼生が調べてくれたところ、ほんとにその映画をやってるとこは数えるほどしかなかった。一番近いのは有名な繁華街の、駅から少し離れた奥のほうだ。昔、家族旅行で来た時に駅の周りを車で通ったり、引っ越してきた頃大通り沿いの店をちょこっと見ただけだっていうのに、さらにその奥ときたもんだ。
それにしても、すげえな。休日の昼間ってこんな感じなのかあ。人しか見えねえ。人、人、人、人、ビル、ビル、ちょっと空、って感じ。道は蒼生が調べてきてくれたから、オレは蒼生の後にしっかりついていきつつ、周りを見て歩く。道に面した店はガラス張りがほとんどで、どこもかしこも人でいっぱいだった。
ちょっと脇道にそれて、人が少なくなって……いやそれでもギリ人の間に道路の灰色が見えるかな程度なんだけど、だいぶ歩きやすくなった。それから少し行ったところに、なんだか古い感じの映画館があった。
「雰囲気あるね……」
「そうだなぁ」
蒼生はオレに半分隠れるようにその建物を見上げてる。ふっ……ふふ。
中に入ると、さらに雰囲気があった。最新の、動きに連動したシステムとか音のリアルさがすごいとか疲れない座席とか、そういうのとは真逆な感じ。なんていうのかな、レトロ? そういうやつ。でもトイレも綺麗だったし座席数が少ない割にスクリーンが大きいから、この構造ってわざとなのかな。あえて古い感じにしてるのか。建物自体がアトラクションみたいだ。
蒼生は席に着くなり、オレを不安げに見る。
「……健ちゃん、怖かったら、捕まってもいい?」
「もちろん。いつものことじゃん」
オレが笑って返すと、嬉しそうに頷いた。
で、いざ映画が始まると、だ。あー、これはガチめのだな。明るいシーンからの落差がすごいや。わー、いるじゃん。暗い隙間に。今、確実になんかいたなあ。
別にオレもさ、ホラー映画ってそんな好きじゃねえんだ。どっちかっていうと映画ならアクションとかのド派手なほうが好き。冬矢みたいにはっきり苦手ってわけじゃなくて、ちゃんと見られはするんだけどな。オレはどっちかっつーと、
「…………っ!」
蒼生はかなり頭のほうのシーンから、オレの腕に縋りついてきた。途中からは反対の手もオレのシャツを掴んできて、その手を握ってやると、ぎゅうっと握り返してくる。
くー……。これこれ。これなんだよ! ホラー映画の醍醐味! 蒼生は怖いの見るの大好きなくせに、めちゃくちゃ怖がりなんだよな。必ずこの体勢になってくんの。もー、可愛くて可愛くて可愛くて! この蒼生を堪能するために、怖い映画は一緒に見るって決めてるんだ。
蒼生も絶対こうなるのがわかってるから、他の奴には声かけないんだよな。それも気分がいい一因かも。あー可愛い。
オチまで結構怖いやつだったせいか、蒼生は映画が終わって外に出ても、オレのシャツの後ろを掴んだままだった。
「こっ……怖かったね」
「あのオチにはびっくりしたけどな!」
「うん。お、面白かった。怖かったけど! それにしても、エンドロールのあれは完全にやられた」
「安心したとこであれはなぁ。狭い映画館でしかやらないってこういうことだったんだな」
楽しかったみたいだけど、ちょっとぐったりしてる。
あ、そうだ。
「びっくり疲れたろ? さっき通ったとこでクレープ食べない?」
「! 食べる食べる。縮こまってたら肩こっちゃった気がするもん」
「だろー」
来る時に見たんだけど、量販店の入り口にワゴンが停まってて、クレープとかアイスとか売ってたんだ。ああいうの、テレビで見たことがあって、食べてみたかったんだよな。
戻ってみるとそこそこ並んでた。でも、こういうのって並ぶのも楽しみのひとつなんじゃねえかなって思う。その証拠に、映画の感想を話しながら待ってると、あっという間にレジに辿り着いた。たっくさんメニューがある中から、オレは生クリームたっぷりのチョコバナナクレープ。蒼生はシンプルなシュガーバターのクレープを選ぶ。
「嬉しい。こういうの、ないところが多いから」
うん、うん。にこにこして頬張るの、ほんと可愛い。蒼生、生クリームとか好きだけど、クレープはそういうのが入ってないシンプルなのが好きだもんな。
蒼生は道行く人を眺めながら、もぐもぐしてた口の中身をごくりと飲み込んだ。
「みんな結構歩きながら食べるんだねえ」
「ん? あ、ほんとだ」
「器用だよね。僕なんか、落とす自信あるけど」
「あはは。いいじゃん、真似しなくたって。オレたちは落ち着いて食べよ。ほら、こっちもどうぞ」
「ありがと。……美味しい。生クリームでふんにゃりした生地も美味しいよね」
「じゃあオレもいただきまーす。……うん、シンプルなのももっちりしてて、オレも好き」
オレの持ってる食べ物に蒼生がそのままかじりついてくる光景、何度見てもいいよなー。もう愛しくてたまんなくなる。
楽しいなあ。
やっぱりどこにいても蒼生と一緒が一番楽しい。
……このまま帰るの、なんかもったいない気がする。だって、せっかく遠出してるんだから。ちょっといろんな景色見てみたいじゃん? 冒険だよ、冒険。
「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。うーんと、これから……えっ、健ちゃん?」
オレは蒼生の手を取る。
「来た道戻るんじゃ面白くないから、別のルート通ってこ」
「健ちゃん、駅の方向わかる?」
「たぶんこっちだろ。ってことは隣の駅はこっちのほうだよな。大丈夫大丈夫、歩いてりゃたぶん着くから」
「つ、着くかなあ」
そのままオレは歩いてきた道を横切って、直角に走る別の道に入る。蒼生はオレの手を離さないまま、あたりをきょろきょろ見ながらついてくる。来た時と反対だな。
細い道は、さっきと違って細長いビルとか建物自体が小さい店とかが並んでた。人はそんなにいない。裏道だからかな。美容室がいっぱいあって、なんかカフェっぽい看板があって。輸入雑貨屋? っぽい、昼間っからぎらぎらのライトがついてる店とか。あとまだ閉まってるらしいバーとか。
「……いろんなお店があって面白いね」
「だろ?」
いつの間にか、蒼生はオレの隣を歩いてる。やっぱりカフェに興味がありそうだ。寄ってもいいかな、だけど今早めのおやつしたばっかだから、オレは大丈夫だけど蒼生はまだ食べられないだろうな。
ん? すれ違った人が、オレと蒼生の顔を見比べていったのにふと気付いた。なんだ? ……あ、手。そのままだった。やべ、離したほうがいいかな。ちょっと手から力を抜……こうとしたけど、蒼生は逆にぎゅっと握り返してきた。
あ、蒼生……。
オレと手を繋いだまま歩きたいと思ってくれてんの?
はあ、好き……。
なんか内心はしゃぎながら歩いてると、ちょっと大きな道路に出て、よく聞くでっかい文房具屋の前に出て、あ~これが有名な、……って話をしたあたりまではスムーズな感じがしてたんだけど、そのあたりからはまた道が細くなってった。急に店の数が減った気がする。人の姿もまったくなくなったわけじゃないけどずいぶん少ない。
「ねえ、健ちゃん……。これ、ちゃんと着くのかなあ」
「わかんね。けど人がいるってことは、道繋がってるんだから平気だって」
「そう、かな……?」
蒼生は少し心配そうだ。たけどたぶん方向は合ってると思うんだよな。
そこに。
運悪く、ざあっと雨が降り出した。
ずいぶん急だな!?
「ええっ?」
「わ、とりあえず、濡れないとこ行こ」
マジかよ。今の今までめちゃくちゃ晴れてたじゃん! 周りにいた人たちも、ビルの中とかに逃げたのか、あっという間に見えなくなる。オレたちはとっさに、目の前、建物のエントランスに張り出した屋根の下に駆け込んだ。
「今日は降水確率ゼロだって言ってたから、折り畳み傘置いてきちゃった……」
「すぐにやむかな」
「だといいんだけど。うーん、どこかにコンビニとかあれば傘買えると思うけど、まずここはどこなんだろ」
蒼生は髪から滴る雫を気にもせずに、ポケットから取り出した携帯で地図を呼び出そうとしてる。ちぇ、せっかくの冒険もここまでかあ。地図は見ないから面白いのに。オレは頭を振って水滴を飛ばす。……と、入り口の脇に看板があるのに気が付いた。……これ……。ああ、そういう……。ん? 周り見回してみると、同じような看板がいっぱい……。
あ!
そっか。
いいじゃん。
ナイスタイミングだ。
「蒼生」
「なぁに?」
「雨、止むまでここに入ろ」
「えっ?」
蒼生の手を掴んで中に向かって引っ張る。珍しく、わずかに抵抗する気配。
「待って、ねえ、勝手に入って大丈夫なの?」
オレは蒼生に、たくさん並ぶ写真のパネルと料金表を指さして見せる。
「だって、ラブホだもん」
「えっ……」
蒼生が言葉を失う。それからまたちょっと足に力が入った。
「なっ、なおさらいいの? 入れる? 大丈夫?」
「いいから料金書いてあるんじゃね? ほらほら、見てみなって。すげえよ、いろんな部屋がある」
言っておきながら、オレもその時点で初めてパネルをしっかり見た。なんか普通のホテルっぽい部屋もあれば、やたら観葉植物が置いてあるっぽい部屋もある。海の絵が描いてあるの、なんか黒いばってんがあるの、メリーゴーランドがあるの、やたら種類があるんだなあ。オレが入ったことあるのって1回だけだけど、あの時はたしか普通の部屋だったよな。
「……へえ。こんな感じなんだ……」
お。蒼生が興味示したぞ。
ドアを開けると、うわー。
「しっろ!」
蒼生も後ろから入ってきて、きょろきょろと部屋の中を落ち着きなく眺める。
「それはどっちの?」
「色が白いのもだし、城っぽいってなるほどなーって。なあ、蒼生、シャンデリア!」
へー、すげえ。とりあえず空いてる部屋で目に付いたとこ適当に選んだら、コンセプトがお城、って書いてあった部屋だった。インテリアが基本的に白い。金縁のソファとかガラスのテーブルとか無駄に出っ張ってる柱とか、とにかく白い。じゃらじゃらしたシャンデリアも白くびかびかと光ってる。暖炉なんかもある。もちろん使えねえみたいだけど。上に置いてある女の人の像とか誰だかわかんねえ絵とか、あー、それっぽい! ベッドはやたらでかくて、ここには薄いピンク色のカーテンのやつがついてる。
「すごい。天蓋付きのベッドだ」
「あ、それだ。なんて言うんだっけって今考えてた」
「やっぱこういうメルヘンチックな部屋、似合わない気がする……」
「えー、面白いじゃん」
オレはしゃがみ込んで暖炉の中を覗き込む。やっぱ上の煙突には繋がってなくて、四角い空間があるだけだ。
そこに。
蒼生がオレの隣に来て同じようにしゃがみ込むと、肩をとん、と寄せてきた。
「……ねえ、健ちゃん」
「ん?」
「そういうコト、するの?」
ちっちゃい声。見ると、ちょっとほっぺたが赤い。可愛い。
肩で肩を押し返す。
「そういうコトするとこで、そういうコトしてみたくね?」
「して、みたい」
「だろ? オレもしたい」
こっくりと蒼生は頷いた。へへ。嬉しいな。
「……じゃ、準備する」
言うと、蒼生は鞄のとこに行って中をごそごそし出す。
「なに?」
「だから、準備の道具。携帯用の」
うっわ。そう。そうなんだ。へえ……。
「蒼生、折り畳み傘は持ってこなかったのに、オレとえっちするための道具は持ってくるんだあ」
「! け、健ちゃんのばーか!」
えっ。
蒼生はなんか袋を抱えると、ばたばたと向こうの方に走ってく。
今、「ばーか」って言われたな? ……かっ……かっっっっわいい……。え、可愛い。最高に可愛い。ふっふふふ。そっかー、蒼生にとって、雨が降る確率よりも、オレとなにかしちゃう確率のが高かったんだぁ。へへへ。
んーと。準備終わったら、まずシャワーとか浴びるよなー。風呂場とかどうなってんだろ。部屋についてるドアは、城にしちゃ普通のドアだ。風呂場のドアを開けると、……おお。脱衣所と風呂場の間は全面ガラスなんだ。あ、風呂、でけえ。丸い。なんだこれ! 丸い! これはテンション上がる! 絶対入んなきゃだろ、これは。うわ、奥にでっかい画面があるな、テレビとか見れるのかな? よし、お湯張っとこ。
なんかわくわくしながら水かさを増してく湯船を見てると、すっかり湯気で曇った脱衣所のガラスのドアが開いた。
「健ちゃん、おまたせ……うわぁ、広い!」
「すごくね? ふたりで寝転がっても余裕なくらいあるよな! 一緒に入ろうぜ」
「うん」
オレと蒼生は脱衣所に戻って、ふたりしてまだ湿ってる服を脱いだ。それを丁寧にたたんでカゴの中に入れようとする蒼生の手を引く。
「あとでいいじゃん。早く入ろ」
「あ、そうだね」
そんで、さっさと体を洗い終えると、その広い浴槽に飛び込んだ。あちこち歩いたし、なんか普通に風呂入れて嬉しいかも。
「はー、あったけー。疲れ取れる~」
蒼生はやっぱりきょろきょろしながら、浴槽の底にたくさんある半分になった金属の玉と、横にも底にもあるライトっぽいのをつついている。
「これ何かな?」
「んー。……あ、壁にパネルがある」
ボタンがいくつもあるな。室内直接、室内間接っていうのと、バブル、ライト、あとディスプレイってのと上下のボタンが2つずつ。蒼生がオレの背にくっつくようにして後ろから覗き込んできた。
「バブルかな」
「よし」
そのボタンを押した途端、玉からすごい勢いで空気がぶわっと吹き出してくる。うわ。これ、どっかのプールで入ったことあるかも。ぼこぼこと音まですごい。泡に押されて体が浮きそう!
「あ、あはは、くすぐったいね、これ」
「あははははは、面白ぇ!」
蒼生にすがりついて力を抜くと、なんかホントに浮いた。おー。
「ねえ、こっちも押してみようよ」
ライトのボタンを蒼生が押すと、浴槽の中のライトがいろんな色に光り出した。次々と違う色に変わってって、え、何これ。
「すっげ、これ、派手!」
「あははは、なんかライブ会場みたいだね」
やっべ、楽しい。だって、浮いて光るとか、面白すぎるだろ。
なんか笑いすぎて、オレたちはぜえぜえと息をする。なんだかんだ、オレと蒼生は笑うツボが似てると思うんだよな。
蒼生ははあっと大きく息を吐いた。
「……あー、面白い」
「これで雰囲気出せるカップルとかいんのかな」
「さあ? 僕はこういうのより、湯船に浮かべてライト付けると天井に星空が映るやつとかのほうが欲しいなあ」
「あー、なるほどなるほど」
たしかに、こんなびかびか光るファンキーな風呂より、そっちのほうが雰囲気出そうだ。せめてピンク一色とかになんなかったのかな、これ。
しかし落ち着かねえなこりゃ。とりあえずライトだけでも消しとくか。よっと手を伸ばして、パネルのボタンを押した。ライトのやつ……のつもりだったんだけど、ディスプレイのボタンを押したな、今。
『ああっ、ああ~ん、あっ、あんっ、だめぇ……』
「!」
突然画面に絡み合う裸の男女の姿が大写しになる。しかも、がっつり入ってるやつじゃん!
「……まあ、そうだよねえ」
感情の読めない蒼生の声がして、オレは全力でもう1度ボタンを押した。突き指しそうなくらい勢いよく押した。
「ごっ、ごっ、ごめん!!」
画面は付いた時と同じようにぱっと消えた。おそるおそる蒼生の表情を窺うと、……蒼生はなんでもない顔をしてた。うっ。気を遣ってくれてんだろうか。
「わざとじゃないんだ、わざとじゃ……」
「え? 見たいなら見てもいいんだよ? 僕、気にしないし」
あああ、どっちなんだ。気にしてんの? してないの?
「だって健ちゃん、こういうの普通に見るんでしょ」
「そりゃ、まあ、見るけど」
「ああ、やっぱ見るんだ」
えっ、誘導尋問? だけど蒼生はやっぱり涼しい顔をしてて、怒ってるとかは全然なさそうだ。だけど、どうなんだろ、こういうの、恋人が見てたら嫌なもんじゃないの? よくわかんねえけども!
蒼生が笑う。
「何変な顔してんの。本当に気にしないってば」
「いや、見ないよ。だって蒼生といるのに時間もったいないだろ」
「そっか。……いっそ一緒に見る?」
「! いやいやいや、蒼生がAV見るのなんて……うっわ口にすんのもしんどい! だいぶ無理!」
「あはははは。いつものやつだ」
「だ……って、可愛い幼馴染みとそういう、その、エロいの見れなくね!?」
オレの腕を掴んだ蒼生が、そのまま抱きついてくる。わ。え。蒼生?
「……その可愛い幼馴染みをラブホテルに連れ込んだのは誰だろうね」
「あ」
たしかに。
オレたちは風呂から出ると、備え付けてあったバスローブを着る。ば、バスローブ。蒼生が。ヤバい。えっちだ。白いタオル地のバスローブから、膝下がすらりと素肌を晒してる。綺麗だなぁ。
「ねえ、お水とかってどこかにあるかな」
「ふ、普通のホテルだとタダで置いてあったりするけど、どうなんだろ。冷蔵庫に入ってたり?」
「冷蔵庫、冷蔵庫……。ここかな」
蒼生は入り口の近く、腰から下の位置にある棚を開けた。それから、
「うわー」
って言った。なんだ。
「お水売ってた。とりあえず2本はいるよね。他にも色々売ってるみたいだけど」
「色々?」
自動販売機になってんのか。蒼生はしゃがんでコインを入れると、水のペットボトルを2本取り出した。……って。
オレも隣にしゃがみ込む。うっわ。こ、これ、その、いわゆる、おっ、大人のおもちゃってやつ!? 動画で見たことあるのがいくつか、……あとはなんだ? わかんねえのもある。なんだこのぐねぐねしたの。こっちの細いの何? てか、値段って、こんな感じなのか。へぇ……。
「すっげえ。初めて見た! こーゆーとこで売ってんのか!」
「ね。ゴムとかローションもあるよ。買う?」
「それは無料のが枕元にあるし、そもそも持ってるから大丈夫だけども」
「持ってるんだあ」
蒼生はくすくす笑って、「僕のこと言えないじゃん」と言った。うん。まあな。常日頃からちゃんと持ち歩いてるよ。いつ何時蒼生と出来るチャンスがあるかわかんねえからな! 備えあればなんちゃらって言うじゃんか、なあ。
「…………」
「…………」
んー。
なんか。変な沈黙が下りる。
たぶん、同じこと考えてる。蒼生って好奇心が勝っちゃうタイプだから。オレだって興味あるし。
「……よし、欲しいやつ、せーので指さすか」
「うん」
「せーの、」
こつん。
ボタンを軽く叩いた音。
オレと蒼生は違うとこを指で示してた。オレは、あの、いわゆるローターってやつ。なんかちっちゃいし、安いし、とっかかりとしてはこういうのいいかなって。一度使ってみたかったしさ。んで、蒼生が指してるのは、ぬいぐるみみたいなふわふわの輪っかの間に鎖がついた、……手錠……?
「蒼生ってやっぱこういうの好きなんだ?」
「うん。動けなくして、シてほしい」
「……蒼生のえっち」
「えへへ」
いたずらするみたいな顔で蒼生が笑う。なんかもうシてる時っぽいこと言うなあ。いつもだったら照れたり誤魔化したりしそうなもんなのに。
……待てよ。
オレとこんなところにふたりきりで……もしかして、蒼生の中では、オレとのえっち、始まってるんじゃ。こんなふうにおもちゃ選ぶのも、前戯の一部だって思ってるってことか? マジで? か……可愛い。愛しい。どうにかなっちゃいそう!
「せっかくだから、両方買っちゃおう? えい」
えっ。
蒼生はなんのためらいもなくボタンを押すと、ピンクのふわふわがついた手錠とこっちもどぎついピンクのローターを手に取った。で、そのまんま、手錠を袋から出したりローターの箱の説明書きを読んだりしてる。
……ダメだこれオレの許容範囲を超えるやつ!
「あ、蒼生はそんなの持っちゃダメ!」
オレが言うと蒼生はきょとんとして。
それから、にっこり笑った。
「じゃあ、健ちゃんに全部やってもらわなきゃ、だね?」
う、わ。
オレはしゃがんだ蒼生を、その格好のまま持ち上げた。蒼生はちょっとびっくりしたみたいだけど、気にしてる余裕とか、もう、ダメだ、全然。
抱えた蒼生をベッドに半ば放り投げるみたいに下ろす。あ、やべ。勢いづいちまった。痛くしなかったかな。けど蒼生は、頭を枕に落としたそのままの体勢で、なんか嬉しそうににこにこしてる。だから、しかけた反省をぽいっと捨てて、ついでに着たばかりのバスローブを脱ぎ捨てた。
「臨戦態勢だぁ」
「そりゃ、こんなひらひらの付いた可愛いベッドで、可愛い可愛い囚われのお姫様が待ってるんだから、当然こうもなるさ」
「お姫様って柄じゃないけど」
「このシチュエーションならそういう役どころじゃね? そんでオレは、お姫様を捕まえた悪党ってとこか」
「あれ、助けに来たほうじゃないんだ」
「だってこれから、そこに縛り付けちゃうんだろ?」
「……うん。ふふ」
笑いながら、蒼生も腰の紐を解く。バスローブから腕を抜いて、裸でオレのほうに手を伸ばす姿は、これ、いや、本当に一枚の絵にして取っておきてえ。昔の画家の気持ちが急に理解出来る。
蒼生。
体を重ねるみたいにして、蒼生にキスする。蒼生はオレの首に腕を巻き付けてくる。はあ、蒼生。何度も何度もキスして、頭の中が熱くなってくる。オレは、そっと片方の腕を取ると、手錠の片っぽをかちゃんと付けた。
「……ふわふわ」
ちゃんと傷付かないようになってんだな。蒼生はキスの合間に、手首にはまった手錠を興味深そうに眺める。じゃらっと軽い音。
「ん……。鎖……金属じゃねえんだな……っ」
「初心者用って書いてあった……から、ん。ほら、ここ、も、強く引っ張ったら、外れるように、……ん」
「あー、ホントにやだったら逃げられるように、か」
「よく、出来てる、……んっ」
ちらりとベッドの頭のほうを見た。なんかわざとらしく可愛らしい傘が付いたランプが置かれてて、明らかに棚に溶接されてる。なるほどな、ここにプラスチックの鎖を巻いても傷付かねえってわけだ。
蒼生の両手を挙げさせると、手錠の鎖をランプの後ろに通す。それから反対側の手首にも手錠を付けた。それを上目遣いに見ていた蒼生の表情が、とろんと溶ける。……そうだ、せっかくだし。オレは体を起こして、蒼生の腰を掴む。それから、ずるっと足下の方向に蒼生の体を引っ張った。バンザイの姿勢になった蒼生は、不思議そうにオレを見る。
「なに?」
「こうしておけば、腕でその可愛い顔も隠せないだろ?」
「ひぇ……」
蒼生はぱっと頬を染める。ここで照れる? 可愛いんだから。
「そうだ、こういうのって目隠しもセットだよな」
「ああ、それっぽいね」
「……んー。じゃあこれで」
オレはくすくす笑う蒼生の目を覆うように、半分に折ったタオルで頭を巻く。
「即席って感じだね」
「アイマスクでもあればよかったんだけどなー。んじゃ、ちょっと待ってて」
ほっぺにキスして、いったん蒼生の側を離れる。ゴムとかローションとかはまだ鞄の中だから。いやあ、本当に持っておくもんだなあ。
「……健ちゃん?」
「んー?」
置いてあるやつ使ってもいいんだけど、普段使ってるやつのがなんか安心だ。……お、あったあった。紳士のたしなみってやつだ。
「ね……けんちゃ」
あれ。
蒼生の声が、ずいぶん心細そうだ。オレはベッドに戻って、蒼生のそばに寄る。ぎしりとベッドが軋むと、蒼生はオレがびっくりするほど、びくん、と体を揺らした。
「どうした? 蒼生?」
蒼生はかすかに頬を緩ませて、ほぉっと息を吐く。
「あのね、健ちゃん、これ……、ちょっと、嫌かも……」
「外そうか」
「目。目のやつ、取って……」
あ。そっか。忘れかけてたけど、今日はめちゃくちゃ怖い映画観たんだったな。暗闇からあれこれ出てくるやつ。怖いのか。へへ、可愛い。
タオルを取ると、さっきの、映画終わってすぐ後みたいな怖がって泣きそうだった目が、オレを見た途端ふわんと嬉しそうに和んだ。あー、好き。
もう一回キスをして、オレは自分のちんこに手を伸ばす。……さすがに、ちょっとそろそろしんどい。蒼生は、すぐにそれに気が付いたみたいだ。
「……健ちゃん? 挿入れていいよ?」
「ばっ、……ダメだろ、まだ慣らしてないんだから」
「ちょっとは、やってるから、……んっ、たぶん大丈夫だよ?」
でも、無理させたくねえんだよ……。
「あ、じゃあ、あーん」
へ?
蒼生はにこにこと、口を大きく開けた。え?
「い、いいの?」
「早くちょうだい?」
うわー。
いいのかな、マジで。いや、今までだって何度も口でシてもらってるけど、こんな、体も動かせない状況で? で、でも、蒼生がいいって言ってるし!
ちんこを近付けると、蒼生は先端にちゅっとキスをくれてから、そのまま、口の中に、……っう。
「はっ……やっべぇ……」
さっきから我慢しきれねえってなってる、から、柔らかい唇と、丁寧に動く舌の動きだけで、もー……。手を動かせないから、頭の動きだけで一生懸命舐めたり吸ったりしてくれてるのが、可愛くてっ……。だけどさすがにここまで瞬殺だとかっこつかねえだろっ。
オレは、ごめんな、と思いながら蒼生の顔を跨ぐ。ホントごめんな。んで、ちょっとだけ反応してる蒼生のちんこにむしゃぶりついた。
「んぅ……っ!?」
腰だけがわずかに反る。だろうな、両足を抱え込んだから、それ以上動けないんだ。ああ、可愛い。口の中で、ぴくんと反応するのも、可愛い。オレはさっき持って来たローションの小袋を掴んで開け、手にぶちまけると、そのまま蒼生の後ろを探る。
「んーっ……ぅ、む、ぐ」
っと。危ねえ。あんまり腰落とさないようにしないと。あんまり深くまで咥えさせたら、蒼生が苦しくなっちゃうもんな。
指は2本、すんなり入った。ちょっと解した、って言う蒼生の言葉通りだな。ああ、ナカ、ふわふわだ。柔らかいっていうか、ふわふわなんだよな。そんで、指を動かすたびに蒼生は、口も、ナカも、もちろんオレが咥えたままのちんこも、全部反応させてくる。可愛い。
ふと、目の端に動くものがあった気がして目を横に向ける。ベッドの脇、壁のところが鏡になってた。蒼生を貪る自分と目が合う。な、なんか気まずいな。自分なのに。
「……んっ」
「ぅんっ!?」
あ。蒼生が、オレのちんこをじゅーって吸う。くっ、反撃に出たな。負けるか。……いや待て、これは一瞬鏡に目が行って動きを止めたオレへの抗議かもしれない。だとしたら可愛いな、もう! しゃぶるのと指をリンクさせるように同時に動かして、ナカの好きなとこをごりごりこすってやる。
「……! あ! ひゃめっ……」
! 蒼生の悲鳴、が。響いて……ッ。
オレは慌てて蒼生の口から自分のちんこを引き抜く。と、ほぼ同時に、
「……っは」
蒼生の胸元を汚してた。
ちぇ、蒼生を先にイかせるつもりだったのに。
その蒼生は、オレの出したので汚れた胸を大きく上下させて、ぼやんと天井を見つめていた。……あ、そうだ。
「蒼生」
唇を近付けると、ねだるように首を傾ける。蒼生、キス大好きだもんな。
その隙に、自分で散らした精液をそっと指に取り、塗りたくるように可愛い乳首をこすった。
「あ!」
「……可愛い。オレのでぬるぬるなの」
「あ、や……っ、きもちい……」
柔らかいそこは、ちょっと弄るとすぐにつんと可愛らしく身を固める。ここに使ってみたかったんだ。そっと、例のピンクのやつをそこに押し当てる。
「え」
ひんやりしたんだろう、ちょっと肩が跳ねた。で、コントローラーのダイヤルを回してやる、と。
「……っあ! あぁっ!」
蒼生の声が一気に甲高くなる。どんなもんかと思ったけど、ローターって結構な振動なんだな。オレの指先もちりちりする。これ、今、蒼生はどう感じてるんだろ。
「な。どんな感じ?」
「あ! は、あ、あぁっ、びりびり、おく、あ、おくまで、きて、あ、」
「奥? このへん?」
蒼生の腰の下に手を差し入れる。いつも、ここに集まるって言うから。
「……っああぁ、あ、……そこ、とどい、て」
そっか。そこを、撫でる。骨。から、辿って、下の方。
「あっ! けんちゃ、あ、ぁ」
蒼生の足が浮く。そして、オレの腰を両足で抱え込む。
「おく、おくがずくずくする、から、ね、もぉ、いれてぇ、あ」
可愛い。可愛い。
「ん。……待ってな、今準備するから」
「やだ、そのままほしい……」
蒼生のせがむ声。そりゃ……オレだってしたい。してみたい。蒼生のナカに直接ぶちまけたい。ずっと思ってる。
「ダメ。冬矢に絶対だめって言われてるんだからさ」
「とぉや……?」
「そ。なんつってたかな、難しいこと言ってたけど……早い話、腹壊すんだって」
「……いい、のに」
「大好きな可愛い蒼生にそんなしんどい思いさせれるわけないだろ」
「ええー……」
どういう仕組みだか、あいつはあれこれ言ってたけど、なんかよくわかんなかった。ただ、蒼生のためだっていうのはわかったから、それでいいんだ。
オレは蒼生にキスをする。
「いい子で待ってて」
「……はぁい」
ちょっと拗ねた顔。可愛い。好き。
待たすのも可哀想だし、でも急いでしくじるのもよくないし。そのギリギリのラインで準備する。蒼生はもどかしそうに、何度も体をくねらせてた。ヤバい。
「ごめんな、お待たせ」
「健ちゃん……早くぅ……」
腰を振る、その動きに合わせて、先っぽを濡れさせたちんこが揺れる。……うっ。マジかよ。えっろ……。
「はー……好き。可愛い。や、べ……っ」
「あー……っ」
ゆっくり。蒼生のナカに挿入る。キツいとこ抜けて。包み込まれる。あー、ふわふわ。熱い。絡みつく。優しく、ぎゅーっとされて……気持ちいい。
「蒼生……痛くない?」
「な、い……あ、はぁっ、も、動いて……」
「……ん」
奥がずくずくしてるって言ってたもんな。蒼生も我慢の限界なんだろ。うん。
蒼生が好きなとこを、先でとんとん叩いてやる。
「あっ! ぁあ、あ……ん、あー……」
蒼生は頭を振る、でも拒絶じゃない。
その証拠に、足の先がオレの足を、腰を、引き寄せるように動いてる。
そこから腰を掴んで、奥に少し進む。
「……あ、あ、好き……っ、そこも好きぃ……そこ、ぐりぐりしてぇ……」
甘い声。たまんねぇ。
「あはっ……蒼生、めちゃくちゃえっちだなぁ」
「! ごめ……健ちゃんには、言って、も、あっ、いいかって、思っ、て……」
「嬉しい。もっと言って……。最高に可愛いよ……」
言われた通りに擦ると、蒼生はいっそう甲高い声をあげて体をよじった。
……あー。
もっと耳元で聞きてぇ。
オレはぐぐっと手を伸ばす。
「は、あっ」
そして蒼生の右手、手錠のロックを外す。わずかに腕を下げた蒼生は不思議そうな顔をした。
「外しちゃう、の……?」
「オレも蒼生にぎゅってしてほしくなった」
ぱっと蒼生の顔が、ちっちゃい頃みたいになる。それから、ふんわりとろける笑顔で、オレの背中に手を伸ばしてきた。
「えへへ……。健ちゃん、だいすき……っ」
う、ぞくっとした。
……んー。
動けないのが好き、っていうのも蒼生の本音だと思う。でも、こうやって抱き合うのも好きなんだろうな。どっちも蒼生らしい。どっちも可愛い。
オレの、背中で、じゃらりと鎖の音がした。うわ。それから、ふわっとした感触、外れた手錠が揺れる。背中をこする。ぞわぞわする。手。蒼生の手が、背中の骨のとこを、すっと撫でて。
「あっ」
「はー、ごめ、ちょっと、動くわ」
「ふふ……、うん、いま、おっきくなったもん、ねえ……。けんちゃ、も、きもちくなって?」
「……ん」
もーやべぇくらい気持ちいいんだけどな……。
ちょこっと、動きを速くする。蒼生の息が、追っかけるような速度になる。それを、キスで塞ぐ。蒼生は背中にあった手を、首に回してきた。
「……んんっ、ぅう~……」
離さねえつもり? かっわいい……。
そっと蒼生のちんこに手を伸ばす。熱くて、どくどくしてて、はっきり興奮してくれてんのがわかるの、嬉しい。
あー。
きもちい。
好き。
「……ぃく……っ」
「んーっ……」
蒼生が震えて、オレの手の中に射精した。その熱を感じたからかな、少し遅れて、オレも蒼生のナカに吐き出す。あー……。
はあっ、と蒼生は深呼吸をする。でも、乱れた息は、整えるのが大変そうだ。なんか可愛くて、その最中にキスで邪魔してるオレが言うのもなんだけど。
「もぉ……健ちゃんめ」
オレの両頬を手で挟んで、蒼生が睨んでくる。もちろん本気じゃねえから、それもやっぱり可愛い顔になる。
「だって、キスしたいんだからしょうがないと思うだろ?」
「う……。まあ、うん。それは、僕も思うけど……」
ほら。意見が一致した。
「じゃあいいじゃん」
オレは蒼生の両手をそっと外すと、もう一回唇にキスした。それから、頬に。首に。ころんとうつ伏せにして、肩に。さっき蒼生が手を這わせてくれたのと同じ位置の骨に。背骨に。それを舌でなぞって。
「や、あ、健ちゃん……、くすぐったい」
くすぐったい、かあ。オレはそっと腰の下に手を入れる。
「あっ」
「蒼生、勃ってる」
「……だって。健ちゃんだってそうじゃん。そのつもりでそこら中キスされたら、そ、その気になっちゃう」
「だよなあ」
ほんと。幼馴染みがこんなにえっちだったなんて、全然気付かなかった。ふわふわ優しくて穏やかだと思ってたのに。全部脱がしてみたら、拗ねたり照れたり困ったり表情豊かで、すごく可愛くて、すっごくえっちだった……なんて、もー、どんどん好きになっちゃうよな。
蒼生の腰を持ち上げて、膝で立たせる。すると蒼生はすっと両手をベッドについた。
「え、なんでわかるの」
「健ちゃん、これ好きだから」
あああああ。
臨戦態勢再びなんですけど。
「わかってくれるのさすが……。だけどさ、」
「っ!」
「蒼生はあんまりこのかっこ好きじゃないだろ?」
ごめん、言いながら、後ろから挿入れちゃってホントにごめん。
「あ、あ……っ。は、ん、3人で、する時は、やじゃない……。あ、顔が、見えな、い、のが、んんっ、好きじゃない、だけ……あー……」
えっちの仕方を勉強してる時に、この体勢のほうが負担が少ないってどっかのページに書いてあったのを見た気がする。けど、蒼生はそれより顔が見えるほうがいいって言う。
んー。
あ、そうだ。
「蒼生、ちょっとごめんな」
「ひゃ……ぁ」
蒼生の体を持ち上げ、ちょっと角度を変える。
「顔、上げてみな」
「え? ……っあ」
さっき気が付いた、鏡。蒼生は自分と目が合って、視線をきょろきょろと泳がせた。だよな、戸惑うだろ? 四つん這いで、真っ赤な顔して、後ろにオレがいるの。角度的にはどうかな、揺れる自分のちんこは見えてんのかな。
「見える? オレだよ。今、蒼生のナカにいるのは」
「う、ん……見える。健ちゃんだあ……」
蒼生は嬉しそうに笑う。
オレもちょっと嬉しかった。そりゃ、蒼生が気持ちよくなってる顔を見るのはいつだって出来るけどさ。オレが後ろから挿入れてるのと、それで蒼生が気持ちよさそうにしてるの、いっぺんに見れるなんて。ああ、なんか、いいなって。
「はぁ……あ、けんちゃ……けんちゃ……あ、ふぅ、う、き、もちぃ……」
蒼生は、最初こそ自分の顔を困ったように見てたけど、鏡の中のオレと目が合うと、そこから一度も視線を離さなかった。
ゆさゆさ揺れながら、ずーっとオレを見てる。
嬉しそうに見てる。
好きだ。
こんなに「好き」をぶつけられて、オレの好きも溢れちまう……。
あ。
よくない考えがふとよぎる。
蒼生。
あんまりにも可愛いから、ちょっとだけいたずらさせて。
オレはほったらかしだった、ローターの電源を改めて入れると、それを掴んだまま蒼生のちんこの先を握った。
「やっ!」
びくんと体中が跳ねる。
「あっ、あっ、あっ、だ、だめ、そこぉ……!」
きゅんっと蒼生がオレのちんこを締め付ける。っ。
「……きもちい?」
「ああっ、や、きも、ち、い、あ、だめだめ、もうイッちゃうから、だめえ!」
オレは蒼生のナカをかき混ぜて。
それでも手を離さない。
「あーっ、あ、や、あぁっ、けんちゃ、あっん、あっ」
「いいよ。イッて……?」
「っ! あ……あぁーっ……!」
びくびく、と腰が震えて。それから、ナカが、ぎゅーっとなって、ぐちゃぐちゃに搾り取るみたいに、……っ!
……うわぁ。もってかれた。
あー。
最高。
オレがそっと体を引くと、蒼生はその場にぺしゃんと潰れた。
「……大丈夫?」
「だ、だい、じょう、ぶ……。びっくりした、けど……」
「すげえな、道具ってやっぱちゃんとそれ用に作られてんだなあ」
咄嗟に放り投げちゃったけど、オレの脇でまだぶるぶるしてる、最後に蒼生が出したので白いまだら模様になったローターの電源を落とす。ありがとうございました。
「ね。きもちかった……。あの、もちろん健ちゃんがしてくれたからだよ?」
ちら、と蒼生がオレを見る。うう、可愛い。好き。
「蒼生、ちゅーしよ」
「ふふ。うん」
後ろから覗き込むように顔を近付けると、蒼生は振り向いてキスを受けてくれる。可愛い。
オレも蒼生の上に寝転んだ。重い、と苦情が来たけど、とぼけたらそれきり蒼生は何も言わなかった。へへ。
ふと、目を上げると、例の鏡が見える。だいぶ今回いい仕事してくれた鏡だ。顔を上げた蒼生と、また鏡の中で目が合った。
「なあ、蒼生。うちの寝室にもこういう大きな鏡欲しくね?」
「えー? クローゼットのとこに全身映せる鏡あるでしょ」
「だって足下のほうだからさ、ベッドからは見えないじゃんか。だからこういう使い方できないし」
蒼生は少し間を開けた。なんか考えてるかな。たぶん蒼生、鏡に映ったのを見るの、嫌じゃなかったんだと思う。だけど結局、首を横に振った。
「着替えには支障がないから、いらない。ベッドから鏡が見えて……夜中ふと目を覚まして何か映ってたら怖いからやだ」
「映画は好きなのに」
「作り物の怖いのは好きだけど、ほんとに怖いのはやだ!」
そう言って、蒼生は投げ出したままのオレの腕を引き寄せた。怖いの、思い出しちゃったかな。可愛い。
正直なとこ、まだ足りなかった。もっとベタベタして、いちゃいちゃして、また入った風呂の中で初めての風呂セックスしたかった。だけど、冬矢より遅く帰ったら何言われるかわかんねえからな。それに何より、蒼生を動けなくしちゃったら、帰るのに大変な思いをさせちまう。家だったら確実にあと2回はしてた。
冬矢はオレたちが出かけるって言うんで急遽バイト入れたんだよな。せめて帰ってくる前に辿り着けるかな、と淡い期待をしてたんだけど。
「おかえり」
あー。間に合わなかったかぁ。
いや、言われてねえよ、別になんにも。だけど、オレたちがデートしてて、冬矢が働いてて、そんでオレたちのが遅いってさすがに申し訳ねえと思うわけだよ。だけど、
「ただいまあ」
蒼生が近くでにっこり笑うと、冬矢も表情を崩した。簡単な奴だ。
「映画どうだった?」
「すっごく怖かった……。面白かったんだよ、話の流れが見事で、難しいんだけど引き込まれちゃう。だけど映像が綺麗だから余計に怖かった。ジェットコースターかな? ってくらいに怖いのの連続で」
「ああ、俺は観なくて正解だったな。……それで、その後はずいぶん同じ所に長くいたね?」
……あ。
こいつ、位置見てたな。そりゃ、蒼生が長時間戻ってこなかったら、心配になるよな。わかるわかる。でもおまえバイト中じゃなかったんか。
でもまあ、隠すことでもねえしな。
「雨降って来たからさ、ラブホ入ってた」
「なるほど。まあ、そうかなとは思ってたけど」
蒼生はぱっと顔を輝かせて、冬矢の腕を掴む。
「そう。初めて連れて行ってもらったんだけど、面白かったよ。いろんな部屋があって、今日はお城だったんだ」
「でも、めちゃくちゃちぐはぐなのな! インテリアがそれっぽいだけで、ドアふっつうだったし。ド派手に光る風呂とかあれ爆笑したもんな」
「城っぽいお風呂って期待して入ったら、大きな画面に、ぼこぼこバブルの出る浴槽だもんね。急に現実感~って感じだったよ」
冬矢はオレたちの話を面白そうに聞いてた。でも、冬矢には耳タコかもしんねえけどな。たくさんの女子とお付き合いしてたんだからさ。
「でもおまえは腐るほど行ってんだろ? 珍しい話でもねえか」
「は? 行ったことなんてないよ」
「は?」
オレと蒼生がハモった。蒼生までびっくりするとは思わなかったけど。
いや、それはともかく、冬矢が? マジで? さんざんとっかえひっかえしてた奴が? 行ったことねえの?
「え……。おまえ地元のとこは軒並み制覇してて、おすすめのホテルとか部屋の種類に至るまで情報網羅してるとかじゃねえの?」
冬矢は呆れたように息を吐いた。
「あのなあ。そういう付き合い方してた頃、俺がいくつだったと思っているんだ。例え相手が条件をクリアしていたとしても、子供が入れるわけないだろう」
あ、そっか。なんか数が多いって聞くから麻痺してたけど、そういえば蒼生と付き合い始めたのって高1だし、少なくともそれより前ってことだもんな。
でも、ふーん。条件をクリアするような相手とも付き合いがあったってことか。すげえな。
「え、じゃあ普段はどこで?」
「大体相手の家だったな。親がいない時間を狙って。でなければ空き……いや、この話はやめよう」
「なんでだよ、興味あんのに」
「蒼生に聞かせたくないんだよ」
……やべ。だよな、恋人の過去の付き合いなんて聞きたくねえよな。慌てて蒼生を見ると、あれ、蒼生? 冬矢の隣にいたはずの蒼生は、いつの間にかソファに座って映ってもいないテレビ画面を見ていた。
「あ、僕は平気なので、どうぞ続けていただいて」
いやいやいや、複雑な顔してんじゃん。
「ごめん、オレが調子に乗ったから」
オレは蒼生の隣に座りながらその顔を覗き込む。
「違うんだよ、僕が消化し切れてないだけで……」
そうだよなあ、オレだって蒼生の過去の恋人の話とか聞きたくねえもんな。いねえけど! オレが最初で最後だけど! そんなんいたら自分がどうなっちまうかわかんねえよ。
でも。
ちょっとだけオレも複雑。
「だけど、蒼生、オレの過去の話は平気だろ?」
なんで冬矢にだけ。
蒼生は、ものすごく難しいことを考えているような顔をする。
「…………。健ちゃんは逐一報告してくれてたし、今から考えると、その都度ショック受けてたよ。だから今更聞いても、その件については全部ショックを受け終えてるから、としか……」
「うっわ。ご、ごめん」
「健ちゃんのことも冬矢のことも過ぎたことだし、その頃付き合ってたわけじゃないから、僕に言えることは何もないわけで……余計に今どういう顔をしていいかの正解がわかんないんだよね」
んー。たしかに。オレもわからん。
冬矢が笑って反対側に座る。
「正直俺も、どこまで恋人の過去の話を知っているべきかなんて、答えはわからない。全員わからないことを考えても仕方ないんじゃないかな。それより、今日は楽しかったんだろ? 蒼生が楽しく過ごせたのなら何よりだよ」
少し蒼生の表情が緩む。
「うん。楽しかった。ラブホテル、今度は冬矢も一緒に行こうね」
「そうだね。俺の“はじめて”もらってくれる?」
「! うん」
蒼生はようやく嬉しそうに笑った。
あ、こいつ、今言質取ったな。蒼生と一緒に行く口実作ったな。
そうか、こいつの初ラブホは蒼生がもらってくのか。そう考えるとちょっと悔しい気がする。いやいや、でも蒼生の初はオレがもらったわけだし。むむ。
冬矢がそっと手を伸ばす。
「……でも蒼生、たまには……うん、いいや」
「冬矢?」
抱き寄せながらの冬矢の言葉に、蒼生は首を傾げる。
だけど、オレにはわかったよ、冬矢の言いたいことが。立場は一緒だもんな。そう、蒼生、えっちなことのお誘いってしてくれるんだよな。なのに、普通のデートのお誘いはまだ一度もしてくれたことないんだ。とはいえ、それを伝えて、蒼生に言わせるのも違うしなあ。いつかちゃんと言ってほしいな。
オレは蒼生の腰に手を回して引き寄せる。
「なんだ、まだ足りないのか」
冬矢から不満げな声。
「そりゃ、足りるわけがねえよな」
「たしかに」
いくら手に入れても、もっとほしくなる。
もっと。
大好きな蒼生。
その蒼生は、オレと冬矢の腕をぎゅっと両腕で抱き締めた。
「……あのさ。ああいうところって3人でも入れると思う?」
「!」
そんなこと考えてたのか。
「ふふ。じゃあそういうホテル、探してみようね」
ほんと、可愛いが溢れて止まんなくなる。
まあ、そうだな。
こいつがいても、きっと楽しいもんな。
間に蒼生がいて、ずーっと笑ってくれるからなあ。
そっと蒼生の手を握ると、蒼生はオレを見てふんわりと笑う。
あったかい手。
うん。
絶対、この手は離さない。
「はい」
ボタンを押して返事をすると、伝票を見ていたその人はさっと顔を上げた。
『どうも、こうさぎ運輸でーす。野木沢様宛にお荷物のお届けです』
「はーい、今開けますんで、ちょっと待っててください」
へえ、蒼生宛? 誰からだろ。
宅配の兄ちゃんから受け取ったのは、一抱えもあるでっかい箱だ。差出人は、野木沢紅輝……あれ、こう兄じゃん。
「誰から?」
リビングに戻ると、冬矢が聞いてくる。だよな、気になるよな。
「こう兄」
「ああ、紅輝さん? 中身は?」
「んー。衣類って書いてある。確かにそのくらいの重さかも」
「ふーん」
とりあえずこっちのテーブル……に置いたら邪魔だな。でけえもん。まだローテーブルのほうがいいか。それにしたって突然どうしたんだろ。
それからいくらもしないうちに蒼生が帰ってきた。はー。ほっとする。今日も無事に帰ってきてくれた。
「ただいま」
「おかえりー。蒼生、おかえりのぎゅー」
腕を広げると、蒼生はにこにこしながら飛び込んでくる。あー。なんて愛しい存在なんだろう。遠慮なく抱き締めると、少ししてぱたぱたと背中で蒼生の手が動いた。え、きつかった? ちょっと力を緩める。蒼生は顔を上げながら、「ぷはっ」と息を吸った。
「はー、苦しかった」
「ごめんごめん。テンション上がっちまった。……あ、そうだ、こう兄から荷物届いてるよ」
「こうちゃん?」
ぱちぱち、と瞬きをする。オレが箱のほうを見ると、蒼生も追っかけるようにそっちを見た。それから首を傾げる。
「なんだろ」
「先に連絡とかなかったの」
「特になかったよ」
だよな、こう兄だもんな。そりゃ事前連絡なんてしてこないよな。
オレの手の中からするりと抜けて、蒼生は箱の前に立つ。なんとなくオレがそばに寄ると、冬矢も近くにやってきた。蒼生は不思議そうにしたまま、箱に張り付いたラベルを取って、テープをびーっと剥がした。開けてみると、……服だな。品名通りだ。
ずいぶん余裕のある箱の中には、わりと適当な感じに洋服が詰められてた。見覚えのある柄もんのシャツが一番上に乗ってるな。ズボンとか薄手のジャケットとか、今の時期に重宝しそうなのがいっぱい入ってるけど、マジでどうしたんだろ。
ん? なんか今文字が見えたような。
「あれ、蒼生、蓋の裏になんか書いてね?」
「え? あ、ほんとだ」
蒼生が箱の蓋を押し開ける。そこには見慣れたこう兄の字があった。なになに、社会人になると大学生までに着てたような服って着る機会減るよな~、いらなくなったの送るから、蒼生じゃなくてもオレか冬矢が着れんじゃないの、余ったやつは処分して~、……簡単にまとめるとそんなようなことが書いてある。もっともそうに書いてるけどさ、こう兄、社会人になったの今年じゃないじゃん。
「こうちゃんので着られるサイズあったかなぁ」
特に疑問は抱かなかったのか、蒼生はごそごそと箱の中身を探る。そうだな、こう兄の体型だと一番冬矢が近いかもしれない。でもこう兄ってオーバーサイズが好きだから、オレが着ても大丈夫なやつもありそうだ。ただ、こう兄のザ・趣味みたいな服は入ってねえな。こう兄、着るもんもテンションも派手だったけど。んー、見せるまでもなくいらないだろって判断したのか、それとも。
「……こんなの、こうちゃん着てたっけ」
奥のほうから引っ張り出したシャツを眺めて蒼生が呟く。比較的ちゃんとたたんであるそのへんは、どっちかといえばおとなしめの服が多くて、サイズも1サイズ小さい。
オレは冬矢に目をやった。同じことを考えてるみたいで、冬矢も頷く。だよな。たぶんこれ、蒼生のために買ってるよな。こう兄も素直じゃねえんだから。弟可愛がんのに照れてんのかな。あはは、可愛いとこあんじゃん。まあ、そういうことにしておいてあげよう。
「オレも見覚えないな。買ったはいいけど、後で自分の趣味じゃないってなったんじゃね?」
「そっかあ。だけど、こういうのだったら着られそう。後でこうちゃんにお礼言っとかなくちゃ。そうだ、なんかお菓子とか送ろうかな」
蒼生、嬉しそうだな。うん。よかった。
その時、
「なんだろう」
箱を覗き込んでいた冬矢が、箱の中に1枚封筒が入ってるのに気が付いた。何の変哲もない茶封筒だ。取り出して蒼生に手渡すと、蒼生はやっぱり不思議そうにそれを開けた。中から出てきたのは。
「映画のチケットだ」
……へえ? 蒼生の手元を覗き込むと、ペアチケット? あ、しかもこれ、ちょっと前に話題になってたホラーのやつだ。すっげえ怖いらしいけど、小さい映画館でしか上映してないんだよな。狭いとこで観てほしいっていう監督の意向らしいけど。そこにはふせんが貼ってあって、「もらったけど、1時間半も電車に乗って観に行くほど好きなやつじゃないからやる」だって。
蒼生はそれを見てそわそわしてる。
「どこでやってるのかな。近いところあるのかな」
だよなあ、蒼生、こういうの好きだもんな。
「いいじゃん、ちょっと遠くたって行こうぜ。な、冬矢」
ん? あれ。冬矢の奴、なんか難しい顔してるな。蒼生が行くって言ってんのに二つ返事じゃねえの、珍しいな。冬矢はさんざん悩む仕草をして、それから厳しい表情で首を振った。
「どっちにしてもペアチケットだし、ふたりで観ておいで」
「えっ」
何があった!?
「……言いづらいんだけど、オカルト系のホラーだろう? そういうの得意じゃないんだ。そのジャンルの作品でも、ミステリーのテイストが強ければ大丈夫なんだがな……」
オレと蒼生は顔を見合わせる。冬矢だったらいくら苦手でも、外で待ってるくらいのことは言いそうだと思ったんだけどな。
「蒼生。健太が迷子にならないようにちゃんとリード持っておくんだよ」
「? うん」
いやそっちかよ! オレに蒼生を任せてくれるとかそういう意味だと思ったんだけど、……こっちも素直じゃねえなあ。
蒼生が調べてくれたところ、ほんとにその映画をやってるとこは数えるほどしかなかった。一番近いのは有名な繁華街の、駅から少し離れた奥のほうだ。昔、家族旅行で来た時に駅の周りを車で通ったり、引っ越してきた頃大通り沿いの店をちょこっと見ただけだっていうのに、さらにその奥ときたもんだ。
それにしても、すげえな。休日の昼間ってこんな感じなのかあ。人しか見えねえ。人、人、人、人、ビル、ビル、ちょっと空、って感じ。道は蒼生が調べてきてくれたから、オレは蒼生の後にしっかりついていきつつ、周りを見て歩く。道に面した店はガラス張りがほとんどで、どこもかしこも人でいっぱいだった。
ちょっと脇道にそれて、人が少なくなって……いやそれでもギリ人の間に道路の灰色が見えるかな程度なんだけど、だいぶ歩きやすくなった。それから少し行ったところに、なんだか古い感じの映画館があった。
「雰囲気あるね……」
「そうだなぁ」
蒼生はオレに半分隠れるようにその建物を見上げてる。ふっ……ふふ。
中に入ると、さらに雰囲気があった。最新の、動きに連動したシステムとか音のリアルさがすごいとか疲れない座席とか、そういうのとは真逆な感じ。なんていうのかな、レトロ? そういうやつ。でもトイレも綺麗だったし座席数が少ない割にスクリーンが大きいから、この構造ってわざとなのかな。あえて古い感じにしてるのか。建物自体がアトラクションみたいだ。
蒼生は席に着くなり、オレを不安げに見る。
「……健ちゃん、怖かったら、捕まってもいい?」
「もちろん。いつものことじゃん」
オレが笑って返すと、嬉しそうに頷いた。
で、いざ映画が始まると、だ。あー、これはガチめのだな。明るいシーンからの落差がすごいや。わー、いるじゃん。暗い隙間に。今、確実になんかいたなあ。
別にオレもさ、ホラー映画ってそんな好きじゃねえんだ。どっちかっていうと映画ならアクションとかのド派手なほうが好き。冬矢みたいにはっきり苦手ってわけじゃなくて、ちゃんと見られはするんだけどな。オレはどっちかっつーと、
「…………っ!」
蒼生はかなり頭のほうのシーンから、オレの腕に縋りついてきた。途中からは反対の手もオレのシャツを掴んできて、その手を握ってやると、ぎゅうっと握り返してくる。
くー……。これこれ。これなんだよ! ホラー映画の醍醐味! 蒼生は怖いの見るの大好きなくせに、めちゃくちゃ怖がりなんだよな。必ずこの体勢になってくんの。もー、可愛くて可愛くて可愛くて! この蒼生を堪能するために、怖い映画は一緒に見るって決めてるんだ。
蒼生も絶対こうなるのがわかってるから、他の奴には声かけないんだよな。それも気分がいい一因かも。あー可愛い。
オチまで結構怖いやつだったせいか、蒼生は映画が終わって外に出ても、オレのシャツの後ろを掴んだままだった。
「こっ……怖かったね」
「あのオチにはびっくりしたけどな!」
「うん。お、面白かった。怖かったけど! それにしても、エンドロールのあれは完全にやられた」
「安心したとこであれはなぁ。狭い映画館でしかやらないってこういうことだったんだな」
楽しかったみたいだけど、ちょっとぐったりしてる。
あ、そうだ。
「びっくり疲れたろ? さっき通ったとこでクレープ食べない?」
「! 食べる食べる。縮こまってたら肩こっちゃった気がするもん」
「だろー」
来る時に見たんだけど、量販店の入り口にワゴンが停まってて、クレープとかアイスとか売ってたんだ。ああいうの、テレビで見たことがあって、食べてみたかったんだよな。
戻ってみるとそこそこ並んでた。でも、こういうのって並ぶのも楽しみのひとつなんじゃねえかなって思う。その証拠に、映画の感想を話しながら待ってると、あっという間にレジに辿り着いた。たっくさんメニューがある中から、オレは生クリームたっぷりのチョコバナナクレープ。蒼生はシンプルなシュガーバターのクレープを選ぶ。
「嬉しい。こういうの、ないところが多いから」
うん、うん。にこにこして頬張るの、ほんと可愛い。蒼生、生クリームとか好きだけど、クレープはそういうのが入ってないシンプルなのが好きだもんな。
蒼生は道行く人を眺めながら、もぐもぐしてた口の中身をごくりと飲み込んだ。
「みんな結構歩きながら食べるんだねえ」
「ん? あ、ほんとだ」
「器用だよね。僕なんか、落とす自信あるけど」
「あはは。いいじゃん、真似しなくたって。オレたちは落ち着いて食べよ。ほら、こっちもどうぞ」
「ありがと。……美味しい。生クリームでふんにゃりした生地も美味しいよね」
「じゃあオレもいただきまーす。……うん、シンプルなのももっちりしてて、オレも好き」
オレの持ってる食べ物に蒼生がそのままかじりついてくる光景、何度見てもいいよなー。もう愛しくてたまんなくなる。
楽しいなあ。
やっぱりどこにいても蒼生と一緒が一番楽しい。
……このまま帰るの、なんかもったいない気がする。だって、せっかく遠出してるんだから。ちょっといろんな景色見てみたいじゃん? 冒険だよ、冒険。
「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。うーんと、これから……えっ、健ちゃん?」
オレは蒼生の手を取る。
「来た道戻るんじゃ面白くないから、別のルート通ってこ」
「健ちゃん、駅の方向わかる?」
「たぶんこっちだろ。ってことは隣の駅はこっちのほうだよな。大丈夫大丈夫、歩いてりゃたぶん着くから」
「つ、着くかなあ」
そのままオレは歩いてきた道を横切って、直角に走る別の道に入る。蒼生はオレの手を離さないまま、あたりをきょろきょろ見ながらついてくる。来た時と反対だな。
細い道は、さっきと違って細長いビルとか建物自体が小さい店とかが並んでた。人はそんなにいない。裏道だからかな。美容室がいっぱいあって、なんかカフェっぽい看板があって。輸入雑貨屋? っぽい、昼間っからぎらぎらのライトがついてる店とか。あとまだ閉まってるらしいバーとか。
「……いろんなお店があって面白いね」
「だろ?」
いつの間にか、蒼生はオレの隣を歩いてる。やっぱりカフェに興味がありそうだ。寄ってもいいかな、だけど今早めのおやつしたばっかだから、オレは大丈夫だけど蒼生はまだ食べられないだろうな。
ん? すれ違った人が、オレと蒼生の顔を見比べていったのにふと気付いた。なんだ? ……あ、手。そのままだった。やべ、離したほうがいいかな。ちょっと手から力を抜……こうとしたけど、蒼生は逆にぎゅっと握り返してきた。
あ、蒼生……。
オレと手を繋いだまま歩きたいと思ってくれてんの?
はあ、好き……。
なんか内心はしゃぎながら歩いてると、ちょっと大きな道路に出て、よく聞くでっかい文房具屋の前に出て、あ~これが有名な、……って話をしたあたりまではスムーズな感じがしてたんだけど、そのあたりからはまた道が細くなってった。急に店の数が減った気がする。人の姿もまったくなくなったわけじゃないけどずいぶん少ない。
「ねえ、健ちゃん……。これ、ちゃんと着くのかなあ」
「わかんね。けど人がいるってことは、道繋がってるんだから平気だって」
「そう、かな……?」
蒼生は少し心配そうだ。たけどたぶん方向は合ってると思うんだよな。
そこに。
運悪く、ざあっと雨が降り出した。
ずいぶん急だな!?
「ええっ?」
「わ、とりあえず、濡れないとこ行こ」
マジかよ。今の今までめちゃくちゃ晴れてたじゃん! 周りにいた人たちも、ビルの中とかに逃げたのか、あっという間に見えなくなる。オレたちはとっさに、目の前、建物のエントランスに張り出した屋根の下に駆け込んだ。
「今日は降水確率ゼロだって言ってたから、折り畳み傘置いてきちゃった……」
「すぐにやむかな」
「だといいんだけど。うーん、どこかにコンビニとかあれば傘買えると思うけど、まずここはどこなんだろ」
蒼生は髪から滴る雫を気にもせずに、ポケットから取り出した携帯で地図を呼び出そうとしてる。ちぇ、せっかくの冒険もここまでかあ。地図は見ないから面白いのに。オレは頭を振って水滴を飛ばす。……と、入り口の脇に看板があるのに気が付いた。……これ……。ああ、そういう……。ん? 周り見回してみると、同じような看板がいっぱい……。
あ!
そっか。
いいじゃん。
ナイスタイミングだ。
「蒼生」
「なぁに?」
「雨、止むまでここに入ろ」
「えっ?」
蒼生の手を掴んで中に向かって引っ張る。珍しく、わずかに抵抗する気配。
「待って、ねえ、勝手に入って大丈夫なの?」
オレは蒼生に、たくさん並ぶ写真のパネルと料金表を指さして見せる。
「だって、ラブホだもん」
「えっ……」
蒼生が言葉を失う。それからまたちょっと足に力が入った。
「なっ、なおさらいいの? 入れる? 大丈夫?」
「いいから料金書いてあるんじゃね? ほらほら、見てみなって。すげえよ、いろんな部屋がある」
言っておきながら、オレもその時点で初めてパネルをしっかり見た。なんか普通のホテルっぽい部屋もあれば、やたら観葉植物が置いてあるっぽい部屋もある。海の絵が描いてあるの、なんか黒いばってんがあるの、メリーゴーランドがあるの、やたら種類があるんだなあ。オレが入ったことあるのって1回だけだけど、あの時はたしか普通の部屋だったよな。
「……へえ。こんな感じなんだ……」
お。蒼生が興味示したぞ。
ドアを開けると、うわー。
「しっろ!」
蒼生も後ろから入ってきて、きょろきょろと部屋の中を落ち着きなく眺める。
「それはどっちの?」
「色が白いのもだし、城っぽいってなるほどなーって。なあ、蒼生、シャンデリア!」
へー、すげえ。とりあえず空いてる部屋で目に付いたとこ適当に選んだら、コンセプトがお城、って書いてあった部屋だった。インテリアが基本的に白い。金縁のソファとかガラスのテーブルとか無駄に出っ張ってる柱とか、とにかく白い。じゃらじゃらしたシャンデリアも白くびかびかと光ってる。暖炉なんかもある。もちろん使えねえみたいだけど。上に置いてある女の人の像とか誰だかわかんねえ絵とか、あー、それっぽい! ベッドはやたらでかくて、ここには薄いピンク色のカーテンのやつがついてる。
「すごい。天蓋付きのベッドだ」
「あ、それだ。なんて言うんだっけって今考えてた」
「やっぱこういうメルヘンチックな部屋、似合わない気がする……」
「えー、面白いじゃん」
オレはしゃがみ込んで暖炉の中を覗き込む。やっぱ上の煙突には繋がってなくて、四角い空間があるだけだ。
そこに。
蒼生がオレの隣に来て同じようにしゃがみ込むと、肩をとん、と寄せてきた。
「……ねえ、健ちゃん」
「ん?」
「そういうコト、するの?」
ちっちゃい声。見ると、ちょっとほっぺたが赤い。可愛い。
肩で肩を押し返す。
「そういうコトするとこで、そういうコトしてみたくね?」
「して、みたい」
「だろ? オレもしたい」
こっくりと蒼生は頷いた。へへ。嬉しいな。
「……じゃ、準備する」
言うと、蒼生は鞄のとこに行って中をごそごそし出す。
「なに?」
「だから、準備の道具。携帯用の」
うっわ。そう。そうなんだ。へえ……。
「蒼生、折り畳み傘は持ってこなかったのに、オレとえっちするための道具は持ってくるんだあ」
「! け、健ちゃんのばーか!」
えっ。
蒼生はなんか袋を抱えると、ばたばたと向こうの方に走ってく。
今、「ばーか」って言われたな? ……かっ……かっっっっわいい……。え、可愛い。最高に可愛い。ふっふふふ。そっかー、蒼生にとって、雨が降る確率よりも、オレとなにかしちゃう確率のが高かったんだぁ。へへへ。
んーと。準備終わったら、まずシャワーとか浴びるよなー。風呂場とかどうなってんだろ。部屋についてるドアは、城にしちゃ普通のドアだ。風呂場のドアを開けると、……おお。脱衣所と風呂場の間は全面ガラスなんだ。あ、風呂、でけえ。丸い。なんだこれ! 丸い! これはテンション上がる! 絶対入んなきゃだろ、これは。うわ、奥にでっかい画面があるな、テレビとか見れるのかな? よし、お湯張っとこ。
なんかわくわくしながら水かさを増してく湯船を見てると、すっかり湯気で曇った脱衣所のガラスのドアが開いた。
「健ちゃん、おまたせ……うわぁ、広い!」
「すごくね? ふたりで寝転がっても余裕なくらいあるよな! 一緒に入ろうぜ」
「うん」
オレと蒼生は脱衣所に戻って、ふたりしてまだ湿ってる服を脱いだ。それを丁寧にたたんでカゴの中に入れようとする蒼生の手を引く。
「あとでいいじゃん。早く入ろ」
「あ、そうだね」
そんで、さっさと体を洗い終えると、その広い浴槽に飛び込んだ。あちこち歩いたし、なんか普通に風呂入れて嬉しいかも。
「はー、あったけー。疲れ取れる~」
蒼生はやっぱりきょろきょろしながら、浴槽の底にたくさんある半分になった金属の玉と、横にも底にもあるライトっぽいのをつついている。
「これ何かな?」
「んー。……あ、壁にパネルがある」
ボタンがいくつもあるな。室内直接、室内間接っていうのと、バブル、ライト、あとディスプレイってのと上下のボタンが2つずつ。蒼生がオレの背にくっつくようにして後ろから覗き込んできた。
「バブルかな」
「よし」
そのボタンを押した途端、玉からすごい勢いで空気がぶわっと吹き出してくる。うわ。これ、どっかのプールで入ったことあるかも。ぼこぼこと音まですごい。泡に押されて体が浮きそう!
「あ、あはは、くすぐったいね、これ」
「あははははは、面白ぇ!」
蒼生にすがりついて力を抜くと、なんかホントに浮いた。おー。
「ねえ、こっちも押してみようよ」
ライトのボタンを蒼生が押すと、浴槽の中のライトがいろんな色に光り出した。次々と違う色に変わってって、え、何これ。
「すっげ、これ、派手!」
「あははは、なんかライブ会場みたいだね」
やっべ、楽しい。だって、浮いて光るとか、面白すぎるだろ。
なんか笑いすぎて、オレたちはぜえぜえと息をする。なんだかんだ、オレと蒼生は笑うツボが似てると思うんだよな。
蒼生ははあっと大きく息を吐いた。
「……あー、面白い」
「これで雰囲気出せるカップルとかいんのかな」
「さあ? 僕はこういうのより、湯船に浮かべてライト付けると天井に星空が映るやつとかのほうが欲しいなあ」
「あー、なるほどなるほど」
たしかに、こんなびかびか光るファンキーな風呂より、そっちのほうが雰囲気出そうだ。せめてピンク一色とかになんなかったのかな、これ。
しかし落ち着かねえなこりゃ。とりあえずライトだけでも消しとくか。よっと手を伸ばして、パネルのボタンを押した。ライトのやつ……のつもりだったんだけど、ディスプレイのボタンを押したな、今。
『ああっ、ああ~ん、あっ、あんっ、だめぇ……』
「!」
突然画面に絡み合う裸の男女の姿が大写しになる。しかも、がっつり入ってるやつじゃん!
「……まあ、そうだよねえ」
感情の読めない蒼生の声がして、オレは全力でもう1度ボタンを押した。突き指しそうなくらい勢いよく押した。
「ごっ、ごっ、ごめん!!」
画面は付いた時と同じようにぱっと消えた。おそるおそる蒼生の表情を窺うと、……蒼生はなんでもない顔をしてた。うっ。気を遣ってくれてんだろうか。
「わざとじゃないんだ、わざとじゃ……」
「え? 見たいなら見てもいいんだよ? 僕、気にしないし」
あああ、どっちなんだ。気にしてんの? してないの?
「だって健ちゃん、こういうの普通に見るんでしょ」
「そりゃ、まあ、見るけど」
「ああ、やっぱ見るんだ」
えっ、誘導尋問? だけど蒼生はやっぱり涼しい顔をしてて、怒ってるとかは全然なさそうだ。だけど、どうなんだろ、こういうの、恋人が見てたら嫌なもんじゃないの? よくわかんねえけども!
蒼生が笑う。
「何変な顔してんの。本当に気にしないってば」
「いや、見ないよ。だって蒼生といるのに時間もったいないだろ」
「そっか。……いっそ一緒に見る?」
「! いやいやいや、蒼生がAV見るのなんて……うっわ口にすんのもしんどい! だいぶ無理!」
「あはははは。いつものやつだ」
「だ……って、可愛い幼馴染みとそういう、その、エロいの見れなくね!?」
オレの腕を掴んだ蒼生が、そのまま抱きついてくる。わ。え。蒼生?
「……その可愛い幼馴染みをラブホテルに連れ込んだのは誰だろうね」
「あ」
たしかに。
オレたちは風呂から出ると、備え付けてあったバスローブを着る。ば、バスローブ。蒼生が。ヤバい。えっちだ。白いタオル地のバスローブから、膝下がすらりと素肌を晒してる。綺麗だなぁ。
「ねえ、お水とかってどこかにあるかな」
「ふ、普通のホテルだとタダで置いてあったりするけど、どうなんだろ。冷蔵庫に入ってたり?」
「冷蔵庫、冷蔵庫……。ここかな」
蒼生は入り口の近く、腰から下の位置にある棚を開けた。それから、
「うわー」
って言った。なんだ。
「お水売ってた。とりあえず2本はいるよね。他にも色々売ってるみたいだけど」
「色々?」
自動販売機になってんのか。蒼生はしゃがんでコインを入れると、水のペットボトルを2本取り出した。……って。
オレも隣にしゃがみ込む。うっわ。こ、これ、その、いわゆる、おっ、大人のおもちゃってやつ!? 動画で見たことあるのがいくつか、……あとはなんだ? わかんねえのもある。なんだこのぐねぐねしたの。こっちの細いの何? てか、値段って、こんな感じなのか。へぇ……。
「すっげえ。初めて見た! こーゆーとこで売ってんのか!」
「ね。ゴムとかローションもあるよ。買う?」
「それは無料のが枕元にあるし、そもそも持ってるから大丈夫だけども」
「持ってるんだあ」
蒼生はくすくす笑って、「僕のこと言えないじゃん」と言った。うん。まあな。常日頃からちゃんと持ち歩いてるよ。いつ何時蒼生と出来るチャンスがあるかわかんねえからな! 備えあればなんちゃらって言うじゃんか、なあ。
「…………」
「…………」
んー。
なんか。変な沈黙が下りる。
たぶん、同じこと考えてる。蒼生って好奇心が勝っちゃうタイプだから。オレだって興味あるし。
「……よし、欲しいやつ、せーので指さすか」
「うん」
「せーの、」
こつん。
ボタンを軽く叩いた音。
オレと蒼生は違うとこを指で示してた。オレは、あの、いわゆるローターってやつ。なんかちっちゃいし、安いし、とっかかりとしてはこういうのいいかなって。一度使ってみたかったしさ。んで、蒼生が指してるのは、ぬいぐるみみたいなふわふわの輪っかの間に鎖がついた、……手錠……?
「蒼生ってやっぱこういうの好きなんだ?」
「うん。動けなくして、シてほしい」
「……蒼生のえっち」
「えへへ」
いたずらするみたいな顔で蒼生が笑う。なんかもうシてる時っぽいこと言うなあ。いつもだったら照れたり誤魔化したりしそうなもんなのに。
……待てよ。
オレとこんなところにふたりきりで……もしかして、蒼生の中では、オレとのえっち、始まってるんじゃ。こんなふうにおもちゃ選ぶのも、前戯の一部だって思ってるってことか? マジで? か……可愛い。愛しい。どうにかなっちゃいそう!
「せっかくだから、両方買っちゃおう? えい」
えっ。
蒼生はなんのためらいもなくボタンを押すと、ピンクのふわふわがついた手錠とこっちもどぎついピンクのローターを手に取った。で、そのまんま、手錠を袋から出したりローターの箱の説明書きを読んだりしてる。
……ダメだこれオレの許容範囲を超えるやつ!
「あ、蒼生はそんなの持っちゃダメ!」
オレが言うと蒼生はきょとんとして。
それから、にっこり笑った。
「じゃあ、健ちゃんに全部やってもらわなきゃ、だね?」
う、わ。
オレはしゃがんだ蒼生を、その格好のまま持ち上げた。蒼生はちょっとびっくりしたみたいだけど、気にしてる余裕とか、もう、ダメだ、全然。
抱えた蒼生をベッドに半ば放り投げるみたいに下ろす。あ、やべ。勢いづいちまった。痛くしなかったかな。けど蒼生は、頭を枕に落としたそのままの体勢で、なんか嬉しそうににこにこしてる。だから、しかけた反省をぽいっと捨てて、ついでに着たばかりのバスローブを脱ぎ捨てた。
「臨戦態勢だぁ」
「そりゃ、こんなひらひらの付いた可愛いベッドで、可愛い可愛い囚われのお姫様が待ってるんだから、当然こうもなるさ」
「お姫様って柄じゃないけど」
「このシチュエーションならそういう役どころじゃね? そんでオレは、お姫様を捕まえた悪党ってとこか」
「あれ、助けに来たほうじゃないんだ」
「だってこれから、そこに縛り付けちゃうんだろ?」
「……うん。ふふ」
笑いながら、蒼生も腰の紐を解く。バスローブから腕を抜いて、裸でオレのほうに手を伸ばす姿は、これ、いや、本当に一枚の絵にして取っておきてえ。昔の画家の気持ちが急に理解出来る。
蒼生。
体を重ねるみたいにして、蒼生にキスする。蒼生はオレの首に腕を巻き付けてくる。はあ、蒼生。何度も何度もキスして、頭の中が熱くなってくる。オレは、そっと片方の腕を取ると、手錠の片っぽをかちゃんと付けた。
「……ふわふわ」
ちゃんと傷付かないようになってんだな。蒼生はキスの合間に、手首にはまった手錠を興味深そうに眺める。じゃらっと軽い音。
「ん……。鎖……金属じゃねえんだな……っ」
「初心者用って書いてあった……から、ん。ほら、ここ、も、強く引っ張ったら、外れるように、……ん」
「あー、ホントにやだったら逃げられるように、か」
「よく、出来てる、……んっ」
ちらりとベッドの頭のほうを見た。なんかわざとらしく可愛らしい傘が付いたランプが置かれてて、明らかに棚に溶接されてる。なるほどな、ここにプラスチックの鎖を巻いても傷付かねえってわけだ。
蒼生の両手を挙げさせると、手錠の鎖をランプの後ろに通す。それから反対側の手首にも手錠を付けた。それを上目遣いに見ていた蒼生の表情が、とろんと溶ける。……そうだ、せっかくだし。オレは体を起こして、蒼生の腰を掴む。それから、ずるっと足下の方向に蒼生の体を引っ張った。バンザイの姿勢になった蒼生は、不思議そうにオレを見る。
「なに?」
「こうしておけば、腕でその可愛い顔も隠せないだろ?」
「ひぇ……」
蒼生はぱっと頬を染める。ここで照れる? 可愛いんだから。
「そうだ、こういうのって目隠しもセットだよな」
「ああ、それっぽいね」
「……んー。じゃあこれで」
オレはくすくす笑う蒼生の目を覆うように、半分に折ったタオルで頭を巻く。
「即席って感じだね」
「アイマスクでもあればよかったんだけどなー。んじゃ、ちょっと待ってて」
ほっぺにキスして、いったん蒼生の側を離れる。ゴムとかローションとかはまだ鞄の中だから。いやあ、本当に持っておくもんだなあ。
「……健ちゃん?」
「んー?」
置いてあるやつ使ってもいいんだけど、普段使ってるやつのがなんか安心だ。……お、あったあった。紳士のたしなみってやつだ。
「ね……けんちゃ」
あれ。
蒼生の声が、ずいぶん心細そうだ。オレはベッドに戻って、蒼生のそばに寄る。ぎしりとベッドが軋むと、蒼生はオレがびっくりするほど、びくん、と体を揺らした。
「どうした? 蒼生?」
蒼生はかすかに頬を緩ませて、ほぉっと息を吐く。
「あのね、健ちゃん、これ……、ちょっと、嫌かも……」
「外そうか」
「目。目のやつ、取って……」
あ。そっか。忘れかけてたけど、今日はめちゃくちゃ怖い映画観たんだったな。暗闇からあれこれ出てくるやつ。怖いのか。へへ、可愛い。
タオルを取ると、さっきの、映画終わってすぐ後みたいな怖がって泣きそうだった目が、オレを見た途端ふわんと嬉しそうに和んだ。あー、好き。
もう一回キスをして、オレは自分のちんこに手を伸ばす。……さすがに、ちょっとそろそろしんどい。蒼生は、すぐにそれに気が付いたみたいだ。
「……健ちゃん? 挿入れていいよ?」
「ばっ、……ダメだろ、まだ慣らしてないんだから」
「ちょっとは、やってるから、……んっ、たぶん大丈夫だよ?」
でも、無理させたくねえんだよ……。
「あ、じゃあ、あーん」
へ?
蒼生はにこにこと、口を大きく開けた。え?
「い、いいの?」
「早くちょうだい?」
うわー。
いいのかな、マジで。いや、今までだって何度も口でシてもらってるけど、こんな、体も動かせない状況で? で、でも、蒼生がいいって言ってるし!
ちんこを近付けると、蒼生は先端にちゅっとキスをくれてから、そのまま、口の中に、……っう。
「はっ……やっべぇ……」
さっきから我慢しきれねえってなってる、から、柔らかい唇と、丁寧に動く舌の動きだけで、もー……。手を動かせないから、頭の動きだけで一生懸命舐めたり吸ったりしてくれてるのが、可愛くてっ……。だけどさすがにここまで瞬殺だとかっこつかねえだろっ。
オレは、ごめんな、と思いながら蒼生の顔を跨ぐ。ホントごめんな。んで、ちょっとだけ反応してる蒼生のちんこにむしゃぶりついた。
「んぅ……っ!?」
腰だけがわずかに反る。だろうな、両足を抱え込んだから、それ以上動けないんだ。ああ、可愛い。口の中で、ぴくんと反応するのも、可愛い。オレはさっき持って来たローションの小袋を掴んで開け、手にぶちまけると、そのまま蒼生の後ろを探る。
「んーっ……ぅ、む、ぐ」
っと。危ねえ。あんまり腰落とさないようにしないと。あんまり深くまで咥えさせたら、蒼生が苦しくなっちゃうもんな。
指は2本、すんなり入った。ちょっと解した、って言う蒼生の言葉通りだな。ああ、ナカ、ふわふわだ。柔らかいっていうか、ふわふわなんだよな。そんで、指を動かすたびに蒼生は、口も、ナカも、もちろんオレが咥えたままのちんこも、全部反応させてくる。可愛い。
ふと、目の端に動くものがあった気がして目を横に向ける。ベッドの脇、壁のところが鏡になってた。蒼生を貪る自分と目が合う。な、なんか気まずいな。自分なのに。
「……んっ」
「ぅんっ!?」
あ。蒼生が、オレのちんこをじゅーって吸う。くっ、反撃に出たな。負けるか。……いや待て、これは一瞬鏡に目が行って動きを止めたオレへの抗議かもしれない。だとしたら可愛いな、もう! しゃぶるのと指をリンクさせるように同時に動かして、ナカの好きなとこをごりごりこすってやる。
「……! あ! ひゃめっ……」
! 蒼生の悲鳴、が。響いて……ッ。
オレは慌てて蒼生の口から自分のちんこを引き抜く。と、ほぼ同時に、
「……っは」
蒼生の胸元を汚してた。
ちぇ、蒼生を先にイかせるつもりだったのに。
その蒼生は、オレの出したので汚れた胸を大きく上下させて、ぼやんと天井を見つめていた。……あ、そうだ。
「蒼生」
唇を近付けると、ねだるように首を傾ける。蒼生、キス大好きだもんな。
その隙に、自分で散らした精液をそっと指に取り、塗りたくるように可愛い乳首をこすった。
「あ!」
「……可愛い。オレのでぬるぬるなの」
「あ、や……っ、きもちい……」
柔らかいそこは、ちょっと弄るとすぐにつんと可愛らしく身を固める。ここに使ってみたかったんだ。そっと、例のピンクのやつをそこに押し当てる。
「え」
ひんやりしたんだろう、ちょっと肩が跳ねた。で、コントローラーのダイヤルを回してやる、と。
「……っあ! あぁっ!」
蒼生の声が一気に甲高くなる。どんなもんかと思ったけど、ローターって結構な振動なんだな。オレの指先もちりちりする。これ、今、蒼生はどう感じてるんだろ。
「な。どんな感じ?」
「あ! は、あ、あぁっ、びりびり、おく、あ、おくまで、きて、あ、」
「奥? このへん?」
蒼生の腰の下に手を差し入れる。いつも、ここに集まるって言うから。
「……っああぁ、あ、……そこ、とどい、て」
そっか。そこを、撫でる。骨。から、辿って、下の方。
「あっ! けんちゃ、あ、ぁ」
蒼生の足が浮く。そして、オレの腰を両足で抱え込む。
「おく、おくがずくずくする、から、ね、もぉ、いれてぇ、あ」
可愛い。可愛い。
「ん。……待ってな、今準備するから」
「やだ、そのままほしい……」
蒼生のせがむ声。そりゃ……オレだってしたい。してみたい。蒼生のナカに直接ぶちまけたい。ずっと思ってる。
「ダメ。冬矢に絶対だめって言われてるんだからさ」
「とぉや……?」
「そ。なんつってたかな、難しいこと言ってたけど……早い話、腹壊すんだって」
「……いい、のに」
「大好きな可愛い蒼生にそんなしんどい思いさせれるわけないだろ」
「ええー……」
どういう仕組みだか、あいつはあれこれ言ってたけど、なんかよくわかんなかった。ただ、蒼生のためだっていうのはわかったから、それでいいんだ。
オレは蒼生にキスをする。
「いい子で待ってて」
「……はぁい」
ちょっと拗ねた顔。可愛い。好き。
待たすのも可哀想だし、でも急いでしくじるのもよくないし。そのギリギリのラインで準備する。蒼生はもどかしそうに、何度も体をくねらせてた。ヤバい。
「ごめんな、お待たせ」
「健ちゃん……早くぅ……」
腰を振る、その動きに合わせて、先っぽを濡れさせたちんこが揺れる。……うっ。マジかよ。えっろ……。
「はー……好き。可愛い。や、べ……っ」
「あー……っ」
ゆっくり。蒼生のナカに挿入る。キツいとこ抜けて。包み込まれる。あー、ふわふわ。熱い。絡みつく。優しく、ぎゅーっとされて……気持ちいい。
「蒼生……痛くない?」
「な、い……あ、はぁっ、も、動いて……」
「……ん」
奥がずくずくしてるって言ってたもんな。蒼生も我慢の限界なんだろ。うん。
蒼生が好きなとこを、先でとんとん叩いてやる。
「あっ! ぁあ、あ……ん、あー……」
蒼生は頭を振る、でも拒絶じゃない。
その証拠に、足の先がオレの足を、腰を、引き寄せるように動いてる。
そこから腰を掴んで、奥に少し進む。
「……あ、あ、好き……っ、そこも好きぃ……そこ、ぐりぐりしてぇ……」
甘い声。たまんねぇ。
「あはっ……蒼生、めちゃくちゃえっちだなぁ」
「! ごめ……健ちゃんには、言って、も、あっ、いいかって、思っ、て……」
「嬉しい。もっと言って……。最高に可愛いよ……」
言われた通りに擦ると、蒼生はいっそう甲高い声をあげて体をよじった。
……あー。
もっと耳元で聞きてぇ。
オレはぐぐっと手を伸ばす。
「は、あっ」
そして蒼生の右手、手錠のロックを外す。わずかに腕を下げた蒼生は不思議そうな顔をした。
「外しちゃう、の……?」
「オレも蒼生にぎゅってしてほしくなった」
ぱっと蒼生の顔が、ちっちゃい頃みたいになる。それから、ふんわりとろける笑顔で、オレの背中に手を伸ばしてきた。
「えへへ……。健ちゃん、だいすき……っ」
う、ぞくっとした。
……んー。
動けないのが好き、っていうのも蒼生の本音だと思う。でも、こうやって抱き合うのも好きなんだろうな。どっちも蒼生らしい。どっちも可愛い。
オレの、背中で、じゃらりと鎖の音がした。うわ。それから、ふわっとした感触、外れた手錠が揺れる。背中をこする。ぞわぞわする。手。蒼生の手が、背中の骨のとこを、すっと撫でて。
「あっ」
「はー、ごめ、ちょっと、動くわ」
「ふふ……、うん、いま、おっきくなったもん、ねえ……。けんちゃ、も、きもちくなって?」
「……ん」
もーやべぇくらい気持ちいいんだけどな……。
ちょこっと、動きを速くする。蒼生の息が、追っかけるような速度になる。それを、キスで塞ぐ。蒼生は背中にあった手を、首に回してきた。
「……んんっ、ぅう~……」
離さねえつもり? かっわいい……。
そっと蒼生のちんこに手を伸ばす。熱くて、どくどくしてて、はっきり興奮してくれてんのがわかるの、嬉しい。
あー。
きもちい。
好き。
「……ぃく……っ」
「んーっ……」
蒼生が震えて、オレの手の中に射精した。その熱を感じたからかな、少し遅れて、オレも蒼生のナカに吐き出す。あー……。
はあっ、と蒼生は深呼吸をする。でも、乱れた息は、整えるのが大変そうだ。なんか可愛くて、その最中にキスで邪魔してるオレが言うのもなんだけど。
「もぉ……健ちゃんめ」
オレの両頬を手で挟んで、蒼生が睨んでくる。もちろん本気じゃねえから、それもやっぱり可愛い顔になる。
「だって、キスしたいんだからしょうがないと思うだろ?」
「う……。まあ、うん。それは、僕も思うけど……」
ほら。意見が一致した。
「じゃあいいじゃん」
オレは蒼生の両手をそっと外すと、もう一回唇にキスした。それから、頬に。首に。ころんとうつ伏せにして、肩に。さっき蒼生が手を這わせてくれたのと同じ位置の骨に。背骨に。それを舌でなぞって。
「や、あ、健ちゃん……、くすぐったい」
くすぐったい、かあ。オレはそっと腰の下に手を入れる。
「あっ」
「蒼生、勃ってる」
「……だって。健ちゃんだってそうじゃん。そのつもりでそこら中キスされたら、そ、その気になっちゃう」
「だよなあ」
ほんと。幼馴染みがこんなにえっちだったなんて、全然気付かなかった。ふわふわ優しくて穏やかだと思ってたのに。全部脱がしてみたら、拗ねたり照れたり困ったり表情豊かで、すごく可愛くて、すっごくえっちだった……なんて、もー、どんどん好きになっちゃうよな。
蒼生の腰を持ち上げて、膝で立たせる。すると蒼生はすっと両手をベッドについた。
「え、なんでわかるの」
「健ちゃん、これ好きだから」
あああああ。
臨戦態勢再びなんですけど。
「わかってくれるのさすが……。だけどさ、」
「っ!」
「蒼生はあんまりこのかっこ好きじゃないだろ?」
ごめん、言いながら、後ろから挿入れちゃってホントにごめん。
「あ、あ……っ。は、ん、3人で、する時は、やじゃない……。あ、顔が、見えな、い、のが、んんっ、好きじゃない、だけ……あー……」
えっちの仕方を勉強してる時に、この体勢のほうが負担が少ないってどっかのページに書いてあったのを見た気がする。けど、蒼生はそれより顔が見えるほうがいいって言う。
んー。
あ、そうだ。
「蒼生、ちょっとごめんな」
「ひゃ……ぁ」
蒼生の体を持ち上げ、ちょっと角度を変える。
「顔、上げてみな」
「え? ……っあ」
さっき気が付いた、鏡。蒼生は自分と目が合って、視線をきょろきょろと泳がせた。だよな、戸惑うだろ? 四つん這いで、真っ赤な顔して、後ろにオレがいるの。角度的にはどうかな、揺れる自分のちんこは見えてんのかな。
「見える? オレだよ。今、蒼生のナカにいるのは」
「う、ん……見える。健ちゃんだあ……」
蒼生は嬉しそうに笑う。
オレもちょっと嬉しかった。そりゃ、蒼生が気持ちよくなってる顔を見るのはいつだって出来るけどさ。オレが後ろから挿入れてるのと、それで蒼生が気持ちよさそうにしてるの、いっぺんに見れるなんて。ああ、なんか、いいなって。
「はぁ……あ、けんちゃ……けんちゃ……あ、ふぅ、う、き、もちぃ……」
蒼生は、最初こそ自分の顔を困ったように見てたけど、鏡の中のオレと目が合うと、そこから一度も視線を離さなかった。
ゆさゆさ揺れながら、ずーっとオレを見てる。
嬉しそうに見てる。
好きだ。
こんなに「好き」をぶつけられて、オレの好きも溢れちまう……。
あ。
よくない考えがふとよぎる。
蒼生。
あんまりにも可愛いから、ちょっとだけいたずらさせて。
オレはほったらかしだった、ローターの電源を改めて入れると、それを掴んだまま蒼生のちんこの先を握った。
「やっ!」
びくんと体中が跳ねる。
「あっ、あっ、あっ、だ、だめ、そこぉ……!」
きゅんっと蒼生がオレのちんこを締め付ける。っ。
「……きもちい?」
「ああっ、や、きも、ち、い、あ、だめだめ、もうイッちゃうから、だめえ!」
オレは蒼生のナカをかき混ぜて。
それでも手を離さない。
「あーっ、あ、や、あぁっ、けんちゃ、あっん、あっ」
「いいよ。イッて……?」
「っ! あ……あぁーっ……!」
びくびく、と腰が震えて。それから、ナカが、ぎゅーっとなって、ぐちゃぐちゃに搾り取るみたいに、……っ!
……うわぁ。もってかれた。
あー。
最高。
オレがそっと体を引くと、蒼生はその場にぺしゃんと潰れた。
「……大丈夫?」
「だ、だい、じょう、ぶ……。びっくりした、けど……」
「すげえな、道具ってやっぱちゃんとそれ用に作られてんだなあ」
咄嗟に放り投げちゃったけど、オレの脇でまだぶるぶるしてる、最後に蒼生が出したので白いまだら模様になったローターの電源を落とす。ありがとうございました。
「ね。きもちかった……。あの、もちろん健ちゃんがしてくれたからだよ?」
ちら、と蒼生がオレを見る。うう、可愛い。好き。
「蒼生、ちゅーしよ」
「ふふ。うん」
後ろから覗き込むように顔を近付けると、蒼生は振り向いてキスを受けてくれる。可愛い。
オレも蒼生の上に寝転んだ。重い、と苦情が来たけど、とぼけたらそれきり蒼生は何も言わなかった。へへ。
ふと、目を上げると、例の鏡が見える。だいぶ今回いい仕事してくれた鏡だ。顔を上げた蒼生と、また鏡の中で目が合った。
「なあ、蒼生。うちの寝室にもこういう大きな鏡欲しくね?」
「えー? クローゼットのとこに全身映せる鏡あるでしょ」
「だって足下のほうだからさ、ベッドからは見えないじゃんか。だからこういう使い方できないし」
蒼生は少し間を開けた。なんか考えてるかな。たぶん蒼生、鏡に映ったのを見るの、嫌じゃなかったんだと思う。だけど結局、首を横に振った。
「着替えには支障がないから、いらない。ベッドから鏡が見えて……夜中ふと目を覚まして何か映ってたら怖いからやだ」
「映画は好きなのに」
「作り物の怖いのは好きだけど、ほんとに怖いのはやだ!」
そう言って、蒼生は投げ出したままのオレの腕を引き寄せた。怖いの、思い出しちゃったかな。可愛い。
正直なとこ、まだ足りなかった。もっとベタベタして、いちゃいちゃして、また入った風呂の中で初めての風呂セックスしたかった。だけど、冬矢より遅く帰ったら何言われるかわかんねえからな。それに何より、蒼生を動けなくしちゃったら、帰るのに大変な思いをさせちまう。家だったら確実にあと2回はしてた。
冬矢はオレたちが出かけるって言うんで急遽バイト入れたんだよな。せめて帰ってくる前に辿り着けるかな、と淡い期待をしてたんだけど。
「おかえり」
あー。間に合わなかったかぁ。
いや、言われてねえよ、別になんにも。だけど、オレたちがデートしてて、冬矢が働いてて、そんでオレたちのが遅いってさすがに申し訳ねえと思うわけだよ。だけど、
「ただいまあ」
蒼生が近くでにっこり笑うと、冬矢も表情を崩した。簡単な奴だ。
「映画どうだった?」
「すっごく怖かった……。面白かったんだよ、話の流れが見事で、難しいんだけど引き込まれちゃう。だけど映像が綺麗だから余計に怖かった。ジェットコースターかな? ってくらいに怖いのの連続で」
「ああ、俺は観なくて正解だったな。……それで、その後はずいぶん同じ所に長くいたね?」
……あ。
こいつ、位置見てたな。そりゃ、蒼生が長時間戻ってこなかったら、心配になるよな。わかるわかる。でもおまえバイト中じゃなかったんか。
でもまあ、隠すことでもねえしな。
「雨降って来たからさ、ラブホ入ってた」
「なるほど。まあ、そうかなとは思ってたけど」
蒼生はぱっと顔を輝かせて、冬矢の腕を掴む。
「そう。初めて連れて行ってもらったんだけど、面白かったよ。いろんな部屋があって、今日はお城だったんだ」
「でも、めちゃくちゃちぐはぐなのな! インテリアがそれっぽいだけで、ドアふっつうだったし。ド派手に光る風呂とかあれ爆笑したもんな」
「城っぽいお風呂って期待して入ったら、大きな画面に、ぼこぼこバブルの出る浴槽だもんね。急に現実感~って感じだったよ」
冬矢はオレたちの話を面白そうに聞いてた。でも、冬矢には耳タコかもしんねえけどな。たくさんの女子とお付き合いしてたんだからさ。
「でもおまえは腐るほど行ってんだろ? 珍しい話でもねえか」
「は? 行ったことなんてないよ」
「は?」
オレと蒼生がハモった。蒼生までびっくりするとは思わなかったけど。
いや、それはともかく、冬矢が? マジで? さんざんとっかえひっかえしてた奴が? 行ったことねえの?
「え……。おまえ地元のとこは軒並み制覇してて、おすすめのホテルとか部屋の種類に至るまで情報網羅してるとかじゃねえの?」
冬矢は呆れたように息を吐いた。
「あのなあ。そういう付き合い方してた頃、俺がいくつだったと思っているんだ。例え相手が条件をクリアしていたとしても、子供が入れるわけないだろう」
あ、そっか。なんか数が多いって聞くから麻痺してたけど、そういえば蒼生と付き合い始めたのって高1だし、少なくともそれより前ってことだもんな。
でも、ふーん。条件をクリアするような相手とも付き合いがあったってことか。すげえな。
「え、じゃあ普段はどこで?」
「大体相手の家だったな。親がいない時間を狙って。でなければ空き……いや、この話はやめよう」
「なんでだよ、興味あんのに」
「蒼生に聞かせたくないんだよ」
……やべ。だよな、恋人の過去の付き合いなんて聞きたくねえよな。慌てて蒼生を見ると、あれ、蒼生? 冬矢の隣にいたはずの蒼生は、いつの間にかソファに座って映ってもいないテレビ画面を見ていた。
「あ、僕は平気なので、どうぞ続けていただいて」
いやいやいや、複雑な顔してんじゃん。
「ごめん、オレが調子に乗ったから」
オレは蒼生の隣に座りながらその顔を覗き込む。
「違うんだよ、僕が消化し切れてないだけで……」
そうだよなあ、オレだって蒼生の過去の恋人の話とか聞きたくねえもんな。いねえけど! オレが最初で最後だけど! そんなんいたら自分がどうなっちまうかわかんねえよ。
でも。
ちょっとだけオレも複雑。
「だけど、蒼生、オレの過去の話は平気だろ?」
なんで冬矢にだけ。
蒼生は、ものすごく難しいことを考えているような顔をする。
「…………。健ちゃんは逐一報告してくれてたし、今から考えると、その都度ショック受けてたよ。だから今更聞いても、その件については全部ショックを受け終えてるから、としか……」
「うっわ。ご、ごめん」
「健ちゃんのことも冬矢のことも過ぎたことだし、その頃付き合ってたわけじゃないから、僕に言えることは何もないわけで……余計に今どういう顔をしていいかの正解がわかんないんだよね」
んー。たしかに。オレもわからん。
冬矢が笑って反対側に座る。
「正直俺も、どこまで恋人の過去の話を知っているべきかなんて、答えはわからない。全員わからないことを考えても仕方ないんじゃないかな。それより、今日は楽しかったんだろ? 蒼生が楽しく過ごせたのなら何よりだよ」
少し蒼生の表情が緩む。
「うん。楽しかった。ラブホテル、今度は冬矢も一緒に行こうね」
「そうだね。俺の“はじめて”もらってくれる?」
「! うん」
蒼生はようやく嬉しそうに笑った。
あ、こいつ、今言質取ったな。蒼生と一緒に行く口実作ったな。
そうか、こいつの初ラブホは蒼生がもらってくのか。そう考えるとちょっと悔しい気がする。いやいや、でも蒼生の初はオレがもらったわけだし。むむ。
冬矢がそっと手を伸ばす。
「……でも蒼生、たまには……うん、いいや」
「冬矢?」
抱き寄せながらの冬矢の言葉に、蒼生は首を傾げる。
だけど、オレにはわかったよ、冬矢の言いたいことが。立場は一緒だもんな。そう、蒼生、えっちなことのお誘いってしてくれるんだよな。なのに、普通のデートのお誘いはまだ一度もしてくれたことないんだ。とはいえ、それを伝えて、蒼生に言わせるのも違うしなあ。いつかちゃんと言ってほしいな。
オレは蒼生の腰に手を回して引き寄せる。
「なんだ、まだ足りないのか」
冬矢から不満げな声。
「そりゃ、足りるわけがねえよな」
「たしかに」
いくら手に入れても、もっとほしくなる。
もっと。
大好きな蒼生。
その蒼生は、オレと冬矢の腕をぎゅっと両腕で抱き締めた。
「……あのさ。ああいうところって3人でも入れると思う?」
「!」
そんなこと考えてたのか。
「ふふ。じゃあそういうホテル、探してみようね」
ほんと、可愛いが溢れて止まんなくなる。
まあ、そうだな。
こいつがいても、きっと楽しいもんな。
間に蒼生がいて、ずーっと笑ってくれるからなあ。
そっと蒼生の手を握ると、蒼生はオレを見てふんわりと笑う。
あったかい手。
うん。
絶対、この手は離さない。
| 1 / 1 |
この作品を運営事務局に報告する
コメントを送りました
ステキ!を送りました
ステキ!を取り消しました
ブックマークに登録しました
ブックマークから削除しました
コメント
ログインするとコメントを投稿できます
あなたのひとことが作者の支えになります。
コメントを投稿する事で作者の支えとなり次作品に繋がるかもしれません。
あまり長いコメントを考えずひとこと投稿だけでも大丈夫です。
コメントは作品投稿者とあなたにしか表示されないため、お気軽に投稿頂ければ幸いです。
あまり長いコメントを考えずひとこと投稿だけでも大丈夫です。
コメントは作品投稿者とあなたにしか表示されないため、お気軽に投稿頂ければ幸いです。
この作品に関連のあるpictSQUAREのイベント
-
2026年08月29日 22:30〜翌22:20受付中桃彩鬼縁夢綴桃源暗鬼 夢創作 夢小説 夢絵 tgakプラス tgak夢 頒布のみOK 展示のみOK 初心者歓迎サークル参加受付期間23 / 50sp
12月20日 00:00 〜 08月01日 00:00
2026年08月22日 14:00〜23:50受付中一次創作イベント、虹色の幻覚を見よう。011一次創作 アングラ ロリィタ ロリータ ゴシック 交流歓迎 ファンタジー メルヘン 当日不在可 オリジナルサークル参加受付期間3 / 24sp
03月07日 00:00 〜 08月19日 23:50閲覧制限が掛かった作品です
この作品は投稿者から閲覧制限が掛けられています。性的な描写やグロテスクな表現などがある可能性がありますが閲覧しますか?
閲覧する際は、キーワードタグや作品の説明をよくご確認頂き、閲覧して下さい。
43こ目;君の手を引く
僕+君→Waltz! 創作BL 創作BL小説 一次創作 小説 幼馴染 三角関係 R18健太目線で、蒼生とデートするおはなし。
今日もラブラブです。
「蒼生の手を引く」というのは、健太の本質というか、健太そのものな気がします。
幼い頃から今に至るまで、彼を貫く「芯」なのかもしれません。
↑初公開時キャプション↑
2022/03/18初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
43こ目;君の手を引く
| 1 / 1 |
ある平日の夕方、ゲームをこつこつ進めているところに、インターホンが鳴った。そろそろ蒼生が帰ってくる時間だけど、蒼生だったら鳴らす必要ないもんな。なんだろうと外を映した画面を見ると、制服の……ああ、宅配業者っぽい。
「はい」
ボタンを押して返事をすると、伝票を見ていたその人はさっと顔を上げた。
『どうも、こうさぎ運輸でーす。野木沢様宛にお荷物のお届けです』
「はーい、今開けますんで、ちょっと待っててください」
へえ、蒼生宛? 誰からだろ。
宅配の兄ちゃんから受け取ったのは、一抱えもあるでっかい箱だ。差出人は、野木沢紅輝……あれ、こう兄じゃん。
「誰から?」
リビングに戻ると、冬矢が聞いてくる。だよな、気になるよな。
「こう兄」
「ああ、紅輝さん? 中身は?」
「んー。衣類って書いてある。確かにそのくらいの重さかも」
「ふーん」
とりあえずこっちのテーブル……に置いたら邪魔だな。でけえもん。まだローテーブルのほうがいいか。それにしたって突然どうしたんだろ。
それからいくらもしないうちに蒼生が帰ってきた。はー。ほっとする。今日も無事に帰ってきてくれた。
「ただいま」
「おかえりー。蒼生、おかえりのぎゅー」
腕を広げると、蒼生はにこにこしながら飛び込んでくる。あー。なんて愛しい存在なんだろう。遠慮なく抱き締めると、少ししてぱたぱたと背中で蒼生の手が動いた。え、きつかった? ちょっと力を緩める。蒼生は顔を上げながら、「ぷはっ」と息を吸った。
「はー、苦しかった」
「ごめんごめん。テンション上がっちまった。……あ、そうだ、こう兄から荷物届いてるよ」
「こうちゃん?」
ぱちぱち、と瞬きをする。オレが箱のほうを見ると、蒼生も追っかけるようにそっちを見た。それから首を傾げる。
「なんだろ」
「先に連絡とかなかったの」
「特になかったよ」
だよな、こう兄だもんな。そりゃ事前連絡なんてしてこないよな。
オレの手の中からするりと抜けて、蒼生は箱の前に立つ。なんとなくオレがそばに寄ると、冬矢も近くにやってきた。蒼生は不思議そうにしたまま、箱に張り付いたラベルを取って、テープをびーっと剥がした。開けてみると、……服だな。品名通りだ。
ずいぶん余裕のある箱の中には、わりと適当な感じに洋服が詰められてた。見覚えのある柄もんのシャツが一番上に乗ってるな。ズボンとか薄手のジャケットとか、今の時期に重宝しそうなのがいっぱい入ってるけど、マジでどうしたんだろ。
ん? なんか今文字が見えたような。
「あれ、蒼生、蓋の裏になんか書いてね?」
「え? あ、ほんとだ」
蒼生が箱の蓋を押し開ける。そこには見慣れたこう兄の字があった。なになに、社会人になると大学生までに着てたような服って着る機会減るよな~、いらなくなったの送るから、蒼生じゃなくてもオレか冬矢が着れんじゃないの、余ったやつは処分して~、……簡単にまとめるとそんなようなことが書いてある。もっともそうに書いてるけどさ、こう兄、社会人になったの今年じゃないじゃん。
「こうちゃんので着られるサイズあったかなぁ」
特に疑問は抱かなかったのか、蒼生はごそごそと箱の中身を探る。そうだな、こう兄の体型だと一番冬矢が近いかもしれない。でもこう兄ってオーバーサイズが好きだから、オレが着ても大丈夫なやつもありそうだ。ただ、こう兄のザ・趣味みたいな服は入ってねえな。こう兄、着るもんもテンションも派手だったけど。んー、見せるまでもなくいらないだろって判断したのか、それとも。
「……こんなの、こうちゃん着てたっけ」
奥のほうから引っ張り出したシャツを眺めて蒼生が呟く。比較的ちゃんとたたんであるそのへんは、どっちかといえばおとなしめの服が多くて、サイズも1サイズ小さい。
オレは冬矢に目をやった。同じことを考えてるみたいで、冬矢も頷く。だよな。たぶんこれ、蒼生のために買ってるよな。こう兄も素直じゃねえんだから。弟可愛がんのに照れてんのかな。あはは、可愛いとこあんじゃん。まあ、そういうことにしておいてあげよう。
「オレも見覚えないな。買ったはいいけど、後で自分の趣味じゃないってなったんじゃね?」
「そっかあ。だけど、こういうのだったら着られそう。後でこうちゃんにお礼言っとかなくちゃ。そうだ、なんかお菓子とか送ろうかな」
蒼生、嬉しそうだな。うん。よかった。
その時、
「なんだろう」
箱を覗き込んでいた冬矢が、箱の中に1枚封筒が入ってるのに気が付いた。何の変哲もない茶封筒だ。取り出して蒼生に手渡すと、蒼生はやっぱり不思議そうにそれを開けた。中から出てきたのは。
「映画のチケットだ」
……へえ? 蒼生の手元を覗き込むと、ペアチケット? あ、しかもこれ、ちょっと前に話題になってたホラーのやつだ。すっげえ怖いらしいけど、小さい映画館でしか上映してないんだよな。狭いとこで観てほしいっていう監督の意向らしいけど。そこにはふせんが貼ってあって、「もらったけど、1時間半も電車に乗って観に行くほど好きなやつじゃないからやる」だって。
蒼生はそれを見てそわそわしてる。
「どこでやってるのかな。近いところあるのかな」
だよなあ、蒼生、こういうの好きだもんな。
「いいじゃん、ちょっと遠くたって行こうぜ。な、冬矢」
ん? あれ。冬矢の奴、なんか難しい顔してるな。蒼生が行くって言ってんのに二つ返事じゃねえの、珍しいな。冬矢はさんざん悩む仕草をして、それから厳しい表情で首を振った。
「どっちにしてもペアチケットだし、ふたりで観ておいで」
「えっ」
何があった!?
「……言いづらいんだけど、オカルト系のホラーだろう? そういうの得意じゃないんだ。そのジャンルの作品でも、ミステリーのテイストが強ければ大丈夫なんだがな……」
オレと蒼生は顔を見合わせる。冬矢だったらいくら苦手でも、外で待ってるくらいのことは言いそうだと思ったんだけどな。
「蒼生。健太が迷子にならないようにちゃんとリード持っておくんだよ」
「? うん」
いやそっちかよ! オレに蒼生を任せてくれるとかそういう意味だと思ったんだけど、……こっちも素直じゃねえなあ。
蒼生が調べてくれたところ、ほんとにその映画をやってるとこは数えるほどしかなかった。一番近いのは有名な繁華街の、駅から少し離れた奥のほうだ。昔、家族旅行で来た時に駅の周りを車で通ったり、引っ越してきた頃大通り沿いの店をちょこっと見ただけだっていうのに、さらにその奥ときたもんだ。
それにしても、すげえな。休日の昼間ってこんな感じなのかあ。人しか見えねえ。人、人、人、人、ビル、ビル、ちょっと空、って感じ。道は蒼生が調べてきてくれたから、オレは蒼生の後にしっかりついていきつつ、周りを見て歩く。道に面した店はガラス張りがほとんどで、どこもかしこも人でいっぱいだった。
ちょっと脇道にそれて、人が少なくなって……いやそれでもギリ人の間に道路の灰色が見えるかな程度なんだけど、だいぶ歩きやすくなった。それから少し行ったところに、なんだか古い感じの映画館があった。
「雰囲気あるね……」
「そうだなぁ」
蒼生はオレに半分隠れるようにその建物を見上げてる。ふっ……ふふ。
中に入ると、さらに雰囲気があった。最新の、動きに連動したシステムとか音のリアルさがすごいとか疲れない座席とか、そういうのとは真逆な感じ。なんていうのかな、レトロ? そういうやつ。でもトイレも綺麗だったし座席数が少ない割にスクリーンが大きいから、この構造ってわざとなのかな。あえて古い感じにしてるのか。建物自体がアトラクションみたいだ。
蒼生は席に着くなり、オレを不安げに見る。
「……健ちゃん、怖かったら、捕まってもいい?」
「もちろん。いつものことじゃん」
オレが笑って返すと、嬉しそうに頷いた。
で、いざ映画が始まると、だ。あー、これはガチめのだな。明るいシーンからの落差がすごいや。わー、いるじゃん。暗い隙間に。今、確実になんかいたなあ。
別にオレもさ、ホラー映画ってそんな好きじゃねえんだ。どっちかっていうと映画ならアクションとかのド派手なほうが好き。冬矢みたいにはっきり苦手ってわけじゃなくて、ちゃんと見られはするんだけどな。オレはどっちかっつーと、
「…………っ!」
蒼生はかなり頭のほうのシーンから、オレの腕に縋りついてきた。途中からは反対の手もオレのシャツを掴んできて、その手を握ってやると、ぎゅうっと握り返してくる。
くー……。これこれ。これなんだよ! ホラー映画の醍醐味! 蒼生は怖いの見るの大好きなくせに、めちゃくちゃ怖がりなんだよな。必ずこの体勢になってくんの。もー、可愛くて可愛くて可愛くて! この蒼生を堪能するために、怖い映画は一緒に見るって決めてるんだ。
蒼生も絶対こうなるのがわかってるから、他の奴には声かけないんだよな。それも気分がいい一因かも。あー可愛い。
オチまで結構怖いやつだったせいか、蒼生は映画が終わって外に出ても、オレのシャツの後ろを掴んだままだった。
「こっ……怖かったね」
「あのオチにはびっくりしたけどな!」
「うん。お、面白かった。怖かったけど! それにしても、エンドロールのあれは完全にやられた」
「安心したとこであれはなぁ。狭い映画館でしかやらないってこういうことだったんだな」
楽しかったみたいだけど、ちょっとぐったりしてる。
あ、そうだ。
「びっくり疲れたろ? さっき通ったとこでクレープ食べない?」
「! 食べる食べる。縮こまってたら肩こっちゃった気がするもん」
「だろー」
来る時に見たんだけど、量販店の入り口にワゴンが停まってて、クレープとかアイスとか売ってたんだ。ああいうの、テレビで見たことがあって、食べてみたかったんだよな。
戻ってみるとそこそこ並んでた。でも、こういうのって並ぶのも楽しみのひとつなんじゃねえかなって思う。その証拠に、映画の感想を話しながら待ってると、あっという間にレジに辿り着いた。たっくさんメニューがある中から、オレは生クリームたっぷりのチョコバナナクレープ。蒼生はシンプルなシュガーバターのクレープを選ぶ。
「嬉しい。こういうの、ないところが多いから」
うん、うん。にこにこして頬張るの、ほんと可愛い。蒼生、生クリームとか好きだけど、クレープはそういうのが入ってないシンプルなのが好きだもんな。
蒼生は道行く人を眺めながら、もぐもぐしてた口の中身をごくりと飲み込んだ。
「みんな結構歩きながら食べるんだねえ」
「ん? あ、ほんとだ」
「器用だよね。僕なんか、落とす自信あるけど」
「あはは。いいじゃん、真似しなくたって。オレたちは落ち着いて食べよ。ほら、こっちもどうぞ」
「ありがと。……美味しい。生クリームでふんにゃりした生地も美味しいよね」
「じゃあオレもいただきまーす。……うん、シンプルなのももっちりしてて、オレも好き」
オレの持ってる食べ物に蒼生がそのままかじりついてくる光景、何度見てもいいよなー。もう愛しくてたまんなくなる。
楽しいなあ。
やっぱりどこにいても蒼生と一緒が一番楽しい。
……このまま帰るの、なんかもったいない気がする。だって、せっかく遠出してるんだから。ちょっといろんな景色見てみたいじゃん? 冒険だよ、冒険。
「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。うーんと、これから……えっ、健ちゃん?」
オレは蒼生の手を取る。
「来た道戻るんじゃ面白くないから、別のルート通ってこ」
「健ちゃん、駅の方向わかる?」
「たぶんこっちだろ。ってことは隣の駅はこっちのほうだよな。大丈夫大丈夫、歩いてりゃたぶん着くから」
「つ、着くかなあ」
そのままオレは歩いてきた道を横切って、直角に走る別の道に入る。蒼生はオレの手を離さないまま、あたりをきょろきょろ見ながらついてくる。来た時と反対だな。
細い道は、さっきと違って細長いビルとか建物自体が小さい店とかが並んでた。人はそんなにいない。裏道だからかな。美容室がいっぱいあって、なんかカフェっぽい看板があって。輸入雑貨屋? っぽい、昼間っからぎらぎらのライトがついてる店とか。あとまだ閉まってるらしいバーとか。
「……いろんなお店があって面白いね」
「だろ?」
いつの間にか、蒼生はオレの隣を歩いてる。やっぱりカフェに興味がありそうだ。寄ってもいいかな、だけど今早めのおやつしたばっかだから、オレは大丈夫だけど蒼生はまだ食べられないだろうな。
ん? すれ違った人が、オレと蒼生の顔を見比べていったのにふと気付いた。なんだ? ……あ、手。そのままだった。やべ、離したほうがいいかな。ちょっと手から力を抜……こうとしたけど、蒼生は逆にぎゅっと握り返してきた。
あ、蒼生……。
オレと手を繋いだまま歩きたいと思ってくれてんの?
はあ、好き……。
なんか内心はしゃぎながら歩いてると、ちょっと大きな道路に出て、よく聞くでっかい文房具屋の前に出て、あ~これが有名な、……って話をしたあたりまではスムーズな感じがしてたんだけど、そのあたりからはまた道が細くなってった。急に店の数が減った気がする。人の姿もまったくなくなったわけじゃないけどずいぶん少ない。
「ねえ、健ちゃん……。これ、ちゃんと着くのかなあ」
「わかんね。けど人がいるってことは、道繋がってるんだから平気だって」
「そう、かな……?」
蒼生は少し心配そうだ。たけどたぶん方向は合ってると思うんだよな。
そこに。
運悪く、ざあっと雨が降り出した。
ずいぶん急だな!?
「ええっ?」
「わ、とりあえず、濡れないとこ行こ」
マジかよ。今の今までめちゃくちゃ晴れてたじゃん! 周りにいた人たちも、ビルの中とかに逃げたのか、あっという間に見えなくなる。オレたちはとっさに、目の前、建物のエントランスに張り出した屋根の下に駆け込んだ。
「今日は降水確率ゼロだって言ってたから、折り畳み傘置いてきちゃった……」
「すぐにやむかな」
「だといいんだけど。うーん、どこかにコンビニとかあれば傘買えると思うけど、まずここはどこなんだろ」
蒼生は髪から滴る雫を気にもせずに、ポケットから取り出した携帯で地図を呼び出そうとしてる。ちぇ、せっかくの冒険もここまでかあ。地図は見ないから面白いのに。オレは頭を振って水滴を飛ばす。……と、入り口の脇に看板があるのに気が付いた。……これ……。ああ、そういう……。ん? 周り見回してみると、同じような看板がいっぱい……。
あ!
そっか。
いいじゃん。
ナイスタイミングだ。
「蒼生」
「なぁに?」
「雨、止むまでここに入ろ」
「えっ?」
蒼生の手を掴んで中に向かって引っ張る。珍しく、わずかに抵抗する気配。
「待って、ねえ、勝手に入って大丈夫なの?」
オレは蒼生に、たくさん並ぶ写真のパネルと料金表を指さして見せる。
「だって、ラブホだもん」
「えっ……」
蒼生が言葉を失う。それからまたちょっと足に力が入った。
「なっ、なおさらいいの? 入れる? 大丈夫?」
「いいから料金書いてあるんじゃね? ほらほら、見てみなって。すげえよ、いろんな部屋がある」
言っておきながら、オレもその時点で初めてパネルをしっかり見た。なんか普通のホテルっぽい部屋もあれば、やたら観葉植物が置いてあるっぽい部屋もある。海の絵が描いてあるの、なんか黒いばってんがあるの、メリーゴーランドがあるの、やたら種類があるんだなあ。オレが入ったことあるのって1回だけだけど、あの時はたしか普通の部屋だったよな。
「……へえ。こんな感じなんだ……」
お。蒼生が興味示したぞ。
ドアを開けると、うわー。
「しっろ!」
蒼生も後ろから入ってきて、きょろきょろと部屋の中を落ち着きなく眺める。
「それはどっちの?」
「色が白いのもだし、城っぽいってなるほどなーって。なあ、蒼生、シャンデリア!」
へー、すげえ。とりあえず空いてる部屋で目に付いたとこ適当に選んだら、コンセプトがお城、って書いてあった部屋だった。インテリアが基本的に白い。金縁のソファとかガラスのテーブルとか無駄に出っ張ってる柱とか、とにかく白い。じゃらじゃらしたシャンデリアも白くびかびかと光ってる。暖炉なんかもある。もちろん使えねえみたいだけど。上に置いてある女の人の像とか誰だかわかんねえ絵とか、あー、それっぽい! ベッドはやたらでかくて、ここには薄いピンク色のカーテンのやつがついてる。
「すごい。天蓋付きのベッドだ」
「あ、それだ。なんて言うんだっけって今考えてた」
「やっぱこういうメルヘンチックな部屋、似合わない気がする……」
「えー、面白いじゃん」
オレはしゃがみ込んで暖炉の中を覗き込む。やっぱ上の煙突には繋がってなくて、四角い空間があるだけだ。
そこに。
蒼生がオレの隣に来て同じようにしゃがみ込むと、肩をとん、と寄せてきた。
「……ねえ、健ちゃん」
「ん?」
「そういうコト、するの?」
ちっちゃい声。見ると、ちょっとほっぺたが赤い。可愛い。
肩で肩を押し返す。
「そういうコトするとこで、そういうコトしてみたくね?」
「して、みたい」
「だろ? オレもしたい」
こっくりと蒼生は頷いた。へへ。嬉しいな。
「……じゃ、準備する」
言うと、蒼生は鞄のとこに行って中をごそごそし出す。
「なに?」
「だから、準備の道具。携帯用の」
うっわ。そう。そうなんだ。へえ……。
「蒼生、折り畳み傘は持ってこなかったのに、オレとえっちするための道具は持ってくるんだあ」
「! け、健ちゃんのばーか!」
えっ。
蒼生はなんか袋を抱えると、ばたばたと向こうの方に走ってく。
今、「ばーか」って言われたな? ……かっ……かっっっっわいい……。え、可愛い。最高に可愛い。ふっふふふ。そっかー、蒼生にとって、雨が降る確率よりも、オレとなにかしちゃう確率のが高かったんだぁ。へへへ。
んーと。準備終わったら、まずシャワーとか浴びるよなー。風呂場とかどうなってんだろ。部屋についてるドアは、城にしちゃ普通のドアだ。風呂場のドアを開けると、……おお。脱衣所と風呂場の間は全面ガラスなんだ。あ、風呂、でけえ。丸い。なんだこれ! 丸い! これはテンション上がる! 絶対入んなきゃだろ、これは。うわ、奥にでっかい画面があるな、テレビとか見れるのかな? よし、お湯張っとこ。
なんかわくわくしながら水かさを増してく湯船を見てると、すっかり湯気で曇った脱衣所のガラスのドアが開いた。
「健ちゃん、おまたせ……うわぁ、広い!」
「すごくね? ふたりで寝転がっても余裕なくらいあるよな! 一緒に入ろうぜ」
「うん」
オレと蒼生は脱衣所に戻って、ふたりしてまだ湿ってる服を脱いだ。それを丁寧にたたんでカゴの中に入れようとする蒼生の手を引く。
「あとでいいじゃん。早く入ろ」
「あ、そうだね」
そんで、さっさと体を洗い終えると、その広い浴槽に飛び込んだ。あちこち歩いたし、なんか普通に風呂入れて嬉しいかも。
「はー、あったけー。疲れ取れる~」
蒼生はやっぱりきょろきょろしながら、浴槽の底にたくさんある半分になった金属の玉と、横にも底にもあるライトっぽいのをつついている。
「これ何かな?」
「んー。……あ、壁にパネルがある」
ボタンがいくつもあるな。室内直接、室内間接っていうのと、バブル、ライト、あとディスプレイってのと上下のボタンが2つずつ。蒼生がオレの背にくっつくようにして後ろから覗き込んできた。
「バブルかな」
「よし」
そのボタンを押した途端、玉からすごい勢いで空気がぶわっと吹き出してくる。うわ。これ、どっかのプールで入ったことあるかも。ぼこぼこと音まですごい。泡に押されて体が浮きそう!
「あ、あはは、くすぐったいね、これ」
「あははははは、面白ぇ!」
蒼生にすがりついて力を抜くと、なんかホントに浮いた。おー。
「ねえ、こっちも押してみようよ」
ライトのボタンを蒼生が押すと、浴槽の中のライトがいろんな色に光り出した。次々と違う色に変わってって、え、何これ。
「すっげ、これ、派手!」
「あははは、なんかライブ会場みたいだね」
やっべ、楽しい。だって、浮いて光るとか、面白すぎるだろ。
なんか笑いすぎて、オレたちはぜえぜえと息をする。なんだかんだ、オレと蒼生は笑うツボが似てると思うんだよな。
蒼生ははあっと大きく息を吐いた。
「……あー、面白い」
「これで雰囲気出せるカップルとかいんのかな」
「さあ? 僕はこういうのより、湯船に浮かべてライト付けると天井に星空が映るやつとかのほうが欲しいなあ」
「あー、なるほどなるほど」
たしかに、こんなびかびか光るファンキーな風呂より、そっちのほうが雰囲気出そうだ。せめてピンク一色とかになんなかったのかな、これ。
しかし落ち着かねえなこりゃ。とりあえずライトだけでも消しとくか。よっと手を伸ばして、パネルのボタンを押した。ライトのやつ……のつもりだったんだけど、ディスプレイのボタンを押したな、今。
『ああっ、ああ~ん、あっ、あんっ、だめぇ……』
「!」
突然画面に絡み合う裸の男女の姿が大写しになる。しかも、がっつり入ってるやつじゃん!
「……まあ、そうだよねえ」
感情の読めない蒼生の声がして、オレは全力でもう1度ボタンを押した。突き指しそうなくらい勢いよく押した。
「ごっ、ごっ、ごめん!!」
画面は付いた時と同じようにぱっと消えた。おそるおそる蒼生の表情を窺うと、……蒼生はなんでもない顔をしてた。うっ。気を遣ってくれてんだろうか。
「わざとじゃないんだ、わざとじゃ……」
「え? 見たいなら見てもいいんだよ? 僕、気にしないし」
あああ、どっちなんだ。気にしてんの? してないの?
「だって健ちゃん、こういうの普通に見るんでしょ」
「そりゃ、まあ、見るけど」
「ああ、やっぱ見るんだ」
えっ、誘導尋問? だけど蒼生はやっぱり涼しい顔をしてて、怒ってるとかは全然なさそうだ。だけど、どうなんだろ、こういうの、恋人が見てたら嫌なもんじゃないの? よくわかんねえけども!
蒼生が笑う。
「何変な顔してんの。本当に気にしないってば」
「いや、見ないよ。だって蒼生といるのに時間もったいないだろ」
「そっか。……いっそ一緒に見る?」
「! いやいやいや、蒼生がAV見るのなんて……うっわ口にすんのもしんどい! だいぶ無理!」
「あはははは。いつものやつだ」
「だ……って、可愛い幼馴染みとそういう、その、エロいの見れなくね!?」
オレの腕を掴んだ蒼生が、そのまま抱きついてくる。わ。え。蒼生?
「……その可愛い幼馴染みをラブホテルに連れ込んだのは誰だろうね」
「あ」
たしかに。
オレたちは風呂から出ると、備え付けてあったバスローブを着る。ば、バスローブ。蒼生が。ヤバい。えっちだ。白いタオル地のバスローブから、膝下がすらりと素肌を晒してる。綺麗だなぁ。
「ねえ、お水とかってどこかにあるかな」
「ふ、普通のホテルだとタダで置いてあったりするけど、どうなんだろ。冷蔵庫に入ってたり?」
「冷蔵庫、冷蔵庫……。ここかな」
蒼生は入り口の近く、腰から下の位置にある棚を開けた。それから、
「うわー」
って言った。なんだ。
「お水売ってた。とりあえず2本はいるよね。他にも色々売ってるみたいだけど」
「色々?」
自動販売機になってんのか。蒼生はしゃがんでコインを入れると、水のペットボトルを2本取り出した。……って。
オレも隣にしゃがみ込む。うっわ。こ、これ、その、いわゆる、おっ、大人のおもちゃってやつ!? 動画で見たことあるのがいくつか、……あとはなんだ? わかんねえのもある。なんだこのぐねぐねしたの。こっちの細いの何? てか、値段って、こんな感じなのか。へぇ……。
「すっげえ。初めて見た! こーゆーとこで売ってんのか!」
「ね。ゴムとかローションもあるよ。買う?」
「それは無料のが枕元にあるし、そもそも持ってるから大丈夫だけども」
「持ってるんだあ」
蒼生はくすくす笑って、「僕のこと言えないじゃん」と言った。うん。まあな。常日頃からちゃんと持ち歩いてるよ。いつ何時蒼生と出来るチャンスがあるかわかんねえからな! 備えあればなんちゃらって言うじゃんか、なあ。
「…………」
「…………」
んー。
なんか。変な沈黙が下りる。
たぶん、同じこと考えてる。蒼生って好奇心が勝っちゃうタイプだから。オレだって興味あるし。
「……よし、欲しいやつ、せーので指さすか」
「うん」
「せーの、」
こつん。
ボタンを軽く叩いた音。
オレと蒼生は違うとこを指で示してた。オレは、あの、いわゆるローターってやつ。なんかちっちゃいし、安いし、とっかかりとしてはこういうのいいかなって。一度使ってみたかったしさ。んで、蒼生が指してるのは、ぬいぐるみみたいなふわふわの輪っかの間に鎖がついた、……手錠……?
「蒼生ってやっぱこういうの好きなんだ?」
「うん。動けなくして、シてほしい」
「……蒼生のえっち」
「えへへ」
いたずらするみたいな顔で蒼生が笑う。なんかもうシてる時っぽいこと言うなあ。いつもだったら照れたり誤魔化したりしそうなもんなのに。
……待てよ。
オレとこんなところにふたりきりで……もしかして、蒼生の中では、オレとのえっち、始まってるんじゃ。こんなふうにおもちゃ選ぶのも、前戯の一部だって思ってるってことか? マジで? か……可愛い。愛しい。どうにかなっちゃいそう!
「せっかくだから、両方買っちゃおう? えい」
えっ。
蒼生はなんのためらいもなくボタンを押すと、ピンクのふわふわがついた手錠とこっちもどぎついピンクのローターを手に取った。で、そのまんま、手錠を袋から出したりローターの箱の説明書きを読んだりしてる。
……ダメだこれオレの許容範囲を超えるやつ!
「あ、蒼生はそんなの持っちゃダメ!」
オレが言うと蒼生はきょとんとして。
それから、にっこり笑った。
「じゃあ、健ちゃんに全部やってもらわなきゃ、だね?」
う、わ。
オレはしゃがんだ蒼生を、その格好のまま持ち上げた。蒼生はちょっとびっくりしたみたいだけど、気にしてる余裕とか、もう、ダメだ、全然。
抱えた蒼生をベッドに半ば放り投げるみたいに下ろす。あ、やべ。勢いづいちまった。痛くしなかったかな。けど蒼生は、頭を枕に落としたそのままの体勢で、なんか嬉しそうににこにこしてる。だから、しかけた反省をぽいっと捨てて、ついでに着たばかりのバスローブを脱ぎ捨てた。
「臨戦態勢だぁ」
「そりゃ、こんなひらひらの付いた可愛いベッドで、可愛い可愛い囚われのお姫様が待ってるんだから、当然こうもなるさ」
「お姫様って柄じゃないけど」
「このシチュエーションならそういう役どころじゃね? そんでオレは、お姫様を捕まえた悪党ってとこか」
「あれ、助けに来たほうじゃないんだ」
「だってこれから、そこに縛り付けちゃうんだろ?」
「……うん。ふふ」
笑いながら、蒼生も腰の紐を解く。バスローブから腕を抜いて、裸でオレのほうに手を伸ばす姿は、これ、いや、本当に一枚の絵にして取っておきてえ。昔の画家の気持ちが急に理解出来る。
蒼生。
体を重ねるみたいにして、蒼生にキスする。蒼生はオレの首に腕を巻き付けてくる。はあ、蒼生。何度も何度もキスして、頭の中が熱くなってくる。オレは、そっと片方の腕を取ると、手錠の片っぽをかちゃんと付けた。
「……ふわふわ」
ちゃんと傷付かないようになってんだな。蒼生はキスの合間に、手首にはまった手錠を興味深そうに眺める。じゃらっと軽い音。
「ん……。鎖……金属じゃねえんだな……っ」
「初心者用って書いてあった……から、ん。ほら、ここ、も、強く引っ張ったら、外れるように、……ん」
「あー、ホントにやだったら逃げられるように、か」
「よく、出来てる、……んっ」
ちらりとベッドの頭のほうを見た。なんかわざとらしく可愛らしい傘が付いたランプが置かれてて、明らかに棚に溶接されてる。なるほどな、ここにプラスチックの鎖を巻いても傷付かねえってわけだ。
蒼生の両手を挙げさせると、手錠の鎖をランプの後ろに通す。それから反対側の手首にも手錠を付けた。それを上目遣いに見ていた蒼生の表情が、とろんと溶ける。……そうだ、せっかくだし。オレは体を起こして、蒼生の腰を掴む。それから、ずるっと足下の方向に蒼生の体を引っ張った。バンザイの姿勢になった蒼生は、不思議そうにオレを見る。
「なに?」
「こうしておけば、腕でその可愛い顔も隠せないだろ?」
「ひぇ……」
蒼生はぱっと頬を染める。ここで照れる? 可愛いんだから。
「そうだ、こういうのって目隠しもセットだよな」
「ああ、それっぽいね」
「……んー。じゃあこれで」
オレはくすくす笑う蒼生の目を覆うように、半分に折ったタオルで頭を巻く。
「即席って感じだね」
「アイマスクでもあればよかったんだけどなー。んじゃ、ちょっと待ってて」
ほっぺにキスして、いったん蒼生の側を離れる。ゴムとかローションとかはまだ鞄の中だから。いやあ、本当に持っておくもんだなあ。
「……健ちゃん?」
「んー?」
置いてあるやつ使ってもいいんだけど、普段使ってるやつのがなんか安心だ。……お、あったあった。紳士のたしなみってやつだ。
「ね……けんちゃ」
あれ。
蒼生の声が、ずいぶん心細そうだ。オレはベッドに戻って、蒼生のそばに寄る。ぎしりとベッドが軋むと、蒼生はオレがびっくりするほど、びくん、と体を揺らした。
「どうした? 蒼生?」
蒼生はかすかに頬を緩ませて、ほぉっと息を吐く。
「あのね、健ちゃん、これ……、ちょっと、嫌かも……」
「外そうか」
「目。目のやつ、取って……」
あ。そっか。忘れかけてたけど、今日はめちゃくちゃ怖い映画観たんだったな。暗闇からあれこれ出てくるやつ。怖いのか。へへ、可愛い。
タオルを取ると、さっきの、映画終わってすぐ後みたいな怖がって泣きそうだった目が、オレを見た途端ふわんと嬉しそうに和んだ。あー、好き。
もう一回キスをして、オレは自分のちんこに手を伸ばす。……さすがに、ちょっとそろそろしんどい。蒼生は、すぐにそれに気が付いたみたいだ。
「……健ちゃん? 挿入れていいよ?」
「ばっ、……ダメだろ、まだ慣らしてないんだから」
「ちょっとは、やってるから、……んっ、たぶん大丈夫だよ?」
でも、無理させたくねえんだよ……。
「あ、じゃあ、あーん」
へ?
蒼生はにこにこと、口を大きく開けた。え?
「い、いいの?」
「早くちょうだい?」
うわー。
いいのかな、マジで。いや、今までだって何度も口でシてもらってるけど、こんな、体も動かせない状況で? で、でも、蒼生がいいって言ってるし!
ちんこを近付けると、蒼生は先端にちゅっとキスをくれてから、そのまま、口の中に、……っう。
「はっ……やっべぇ……」
さっきから我慢しきれねえってなってる、から、柔らかい唇と、丁寧に動く舌の動きだけで、もー……。手を動かせないから、頭の動きだけで一生懸命舐めたり吸ったりしてくれてるのが、可愛くてっ……。だけどさすがにここまで瞬殺だとかっこつかねえだろっ。
オレは、ごめんな、と思いながら蒼生の顔を跨ぐ。ホントごめんな。んで、ちょっとだけ反応してる蒼生のちんこにむしゃぶりついた。
「んぅ……っ!?」
腰だけがわずかに反る。だろうな、両足を抱え込んだから、それ以上動けないんだ。ああ、可愛い。口の中で、ぴくんと反応するのも、可愛い。オレはさっき持って来たローションの小袋を掴んで開け、手にぶちまけると、そのまま蒼生の後ろを探る。
「んーっ……ぅ、む、ぐ」
っと。危ねえ。あんまり腰落とさないようにしないと。あんまり深くまで咥えさせたら、蒼生が苦しくなっちゃうもんな。
指は2本、すんなり入った。ちょっと解した、って言う蒼生の言葉通りだな。ああ、ナカ、ふわふわだ。柔らかいっていうか、ふわふわなんだよな。そんで、指を動かすたびに蒼生は、口も、ナカも、もちろんオレが咥えたままのちんこも、全部反応させてくる。可愛い。
ふと、目の端に動くものがあった気がして目を横に向ける。ベッドの脇、壁のところが鏡になってた。蒼生を貪る自分と目が合う。な、なんか気まずいな。自分なのに。
「……んっ」
「ぅんっ!?」
あ。蒼生が、オレのちんこをじゅーって吸う。くっ、反撃に出たな。負けるか。……いや待て、これは一瞬鏡に目が行って動きを止めたオレへの抗議かもしれない。だとしたら可愛いな、もう! しゃぶるのと指をリンクさせるように同時に動かして、ナカの好きなとこをごりごりこすってやる。
「……! あ! ひゃめっ……」
! 蒼生の悲鳴、が。響いて……ッ。
オレは慌てて蒼生の口から自分のちんこを引き抜く。と、ほぼ同時に、
「……っは」
蒼生の胸元を汚してた。
ちぇ、蒼生を先にイかせるつもりだったのに。
その蒼生は、オレの出したので汚れた胸を大きく上下させて、ぼやんと天井を見つめていた。……あ、そうだ。
「蒼生」
唇を近付けると、ねだるように首を傾ける。蒼生、キス大好きだもんな。
その隙に、自分で散らした精液をそっと指に取り、塗りたくるように可愛い乳首をこすった。
「あ!」
「……可愛い。オレのでぬるぬるなの」
「あ、や……っ、きもちい……」
柔らかいそこは、ちょっと弄るとすぐにつんと可愛らしく身を固める。ここに使ってみたかったんだ。そっと、例のピンクのやつをそこに押し当てる。
「え」
ひんやりしたんだろう、ちょっと肩が跳ねた。で、コントローラーのダイヤルを回してやる、と。
「……っあ! あぁっ!」
蒼生の声が一気に甲高くなる。どんなもんかと思ったけど、ローターって結構な振動なんだな。オレの指先もちりちりする。これ、今、蒼生はどう感じてるんだろ。
「な。どんな感じ?」
「あ! は、あ、あぁっ、びりびり、おく、あ、おくまで、きて、あ、」
「奥? このへん?」
蒼生の腰の下に手を差し入れる。いつも、ここに集まるって言うから。
「……っああぁ、あ、……そこ、とどい、て」
そっか。そこを、撫でる。骨。から、辿って、下の方。
「あっ! けんちゃ、あ、ぁ」
蒼生の足が浮く。そして、オレの腰を両足で抱え込む。
「おく、おくがずくずくする、から、ね、もぉ、いれてぇ、あ」
可愛い。可愛い。
「ん。……待ってな、今準備するから」
「やだ、そのままほしい……」
蒼生のせがむ声。そりゃ……オレだってしたい。してみたい。蒼生のナカに直接ぶちまけたい。ずっと思ってる。
「ダメ。冬矢に絶対だめって言われてるんだからさ」
「とぉや……?」
「そ。なんつってたかな、難しいこと言ってたけど……早い話、腹壊すんだって」
「……いい、のに」
「大好きな可愛い蒼生にそんなしんどい思いさせれるわけないだろ」
「ええー……」
どういう仕組みだか、あいつはあれこれ言ってたけど、なんかよくわかんなかった。ただ、蒼生のためだっていうのはわかったから、それでいいんだ。
オレは蒼生にキスをする。
「いい子で待ってて」
「……はぁい」
ちょっと拗ねた顔。可愛い。好き。
待たすのも可哀想だし、でも急いでしくじるのもよくないし。そのギリギリのラインで準備する。蒼生はもどかしそうに、何度も体をくねらせてた。ヤバい。
「ごめんな、お待たせ」
「健ちゃん……早くぅ……」
腰を振る、その動きに合わせて、先っぽを濡れさせたちんこが揺れる。……うっ。マジかよ。えっろ……。
「はー……好き。可愛い。や、べ……っ」
「あー……っ」
ゆっくり。蒼生のナカに挿入る。キツいとこ抜けて。包み込まれる。あー、ふわふわ。熱い。絡みつく。優しく、ぎゅーっとされて……気持ちいい。
「蒼生……痛くない?」
「な、い……あ、はぁっ、も、動いて……」
「……ん」
奥がずくずくしてるって言ってたもんな。蒼生も我慢の限界なんだろ。うん。
蒼生が好きなとこを、先でとんとん叩いてやる。
「あっ! ぁあ、あ……ん、あー……」
蒼生は頭を振る、でも拒絶じゃない。
その証拠に、足の先がオレの足を、腰を、引き寄せるように動いてる。
そこから腰を掴んで、奥に少し進む。
「……あ、あ、好き……っ、そこも好きぃ……そこ、ぐりぐりしてぇ……」
甘い声。たまんねぇ。
「あはっ……蒼生、めちゃくちゃえっちだなぁ」
「! ごめ……健ちゃんには、言って、も、あっ、いいかって、思っ、て……」
「嬉しい。もっと言って……。最高に可愛いよ……」
言われた通りに擦ると、蒼生はいっそう甲高い声をあげて体をよじった。
……あー。
もっと耳元で聞きてぇ。
オレはぐぐっと手を伸ばす。
「は、あっ」
そして蒼生の右手、手錠のロックを外す。わずかに腕を下げた蒼生は不思議そうな顔をした。
「外しちゃう、の……?」
「オレも蒼生にぎゅってしてほしくなった」
ぱっと蒼生の顔が、ちっちゃい頃みたいになる。それから、ふんわりとろける笑顔で、オレの背中に手を伸ばしてきた。
「えへへ……。健ちゃん、だいすき……っ」
う、ぞくっとした。
……んー。
動けないのが好き、っていうのも蒼生の本音だと思う。でも、こうやって抱き合うのも好きなんだろうな。どっちも蒼生らしい。どっちも可愛い。
オレの、背中で、じゃらりと鎖の音がした。うわ。それから、ふわっとした感触、外れた手錠が揺れる。背中をこする。ぞわぞわする。手。蒼生の手が、背中の骨のとこを、すっと撫でて。
「あっ」
「はー、ごめ、ちょっと、動くわ」
「ふふ……、うん、いま、おっきくなったもん、ねえ……。けんちゃ、も、きもちくなって?」
「……ん」
もーやべぇくらい気持ちいいんだけどな……。
ちょこっと、動きを速くする。蒼生の息が、追っかけるような速度になる。それを、キスで塞ぐ。蒼生は背中にあった手を、首に回してきた。
「……んんっ、ぅう~……」
離さねえつもり? かっわいい……。
そっと蒼生のちんこに手を伸ばす。熱くて、どくどくしてて、はっきり興奮してくれてんのがわかるの、嬉しい。
あー。
きもちい。
好き。
「……ぃく……っ」
「んーっ……」
蒼生が震えて、オレの手の中に射精した。その熱を感じたからかな、少し遅れて、オレも蒼生のナカに吐き出す。あー……。
はあっ、と蒼生は深呼吸をする。でも、乱れた息は、整えるのが大変そうだ。なんか可愛くて、その最中にキスで邪魔してるオレが言うのもなんだけど。
「もぉ……健ちゃんめ」
オレの両頬を手で挟んで、蒼生が睨んでくる。もちろん本気じゃねえから、それもやっぱり可愛い顔になる。
「だって、キスしたいんだからしょうがないと思うだろ?」
「う……。まあ、うん。それは、僕も思うけど……」
ほら。意見が一致した。
「じゃあいいじゃん」
オレは蒼生の両手をそっと外すと、もう一回唇にキスした。それから、頬に。首に。ころんとうつ伏せにして、肩に。さっき蒼生が手を這わせてくれたのと同じ位置の骨に。背骨に。それを舌でなぞって。
「や、あ、健ちゃん……、くすぐったい」
くすぐったい、かあ。オレはそっと腰の下に手を入れる。
「あっ」
「蒼生、勃ってる」
「……だって。健ちゃんだってそうじゃん。そのつもりでそこら中キスされたら、そ、その気になっちゃう」
「だよなあ」
ほんと。幼馴染みがこんなにえっちだったなんて、全然気付かなかった。ふわふわ優しくて穏やかだと思ってたのに。全部脱がしてみたら、拗ねたり照れたり困ったり表情豊かで、すごく可愛くて、すっごくえっちだった……なんて、もー、どんどん好きになっちゃうよな。
蒼生の腰を持ち上げて、膝で立たせる。すると蒼生はすっと両手をベッドについた。
「え、なんでわかるの」
「健ちゃん、これ好きだから」
あああああ。
臨戦態勢再びなんですけど。
「わかってくれるのさすが……。だけどさ、」
「っ!」
「蒼生はあんまりこのかっこ好きじゃないだろ?」
ごめん、言いながら、後ろから挿入れちゃってホントにごめん。
「あ、あ……っ。は、ん、3人で、する時は、やじゃない……。あ、顔が、見えな、い、のが、んんっ、好きじゃない、だけ……あー……」
えっちの仕方を勉強してる時に、この体勢のほうが負担が少ないってどっかのページに書いてあったのを見た気がする。けど、蒼生はそれより顔が見えるほうがいいって言う。
んー。
あ、そうだ。
「蒼生、ちょっとごめんな」
「ひゃ……ぁ」
蒼生の体を持ち上げ、ちょっと角度を変える。
「顔、上げてみな」
「え? ……っあ」
さっき気が付いた、鏡。蒼生は自分と目が合って、視線をきょろきょろと泳がせた。だよな、戸惑うだろ? 四つん這いで、真っ赤な顔して、後ろにオレがいるの。角度的にはどうかな、揺れる自分のちんこは見えてんのかな。
「見える? オレだよ。今、蒼生のナカにいるのは」
「う、ん……見える。健ちゃんだあ……」
蒼生は嬉しそうに笑う。
オレもちょっと嬉しかった。そりゃ、蒼生が気持ちよくなってる顔を見るのはいつだって出来るけどさ。オレが後ろから挿入れてるのと、それで蒼生が気持ちよさそうにしてるの、いっぺんに見れるなんて。ああ、なんか、いいなって。
「はぁ……あ、けんちゃ……けんちゃ……あ、ふぅ、う、き、もちぃ……」
蒼生は、最初こそ自分の顔を困ったように見てたけど、鏡の中のオレと目が合うと、そこから一度も視線を離さなかった。
ゆさゆさ揺れながら、ずーっとオレを見てる。
嬉しそうに見てる。
好きだ。
こんなに「好き」をぶつけられて、オレの好きも溢れちまう……。
あ。
よくない考えがふとよぎる。
蒼生。
あんまりにも可愛いから、ちょっとだけいたずらさせて。
オレはほったらかしだった、ローターの電源を改めて入れると、それを掴んだまま蒼生のちんこの先を握った。
「やっ!」
びくんと体中が跳ねる。
「あっ、あっ、あっ、だ、だめ、そこぉ……!」
きゅんっと蒼生がオレのちんこを締め付ける。っ。
「……きもちい?」
「ああっ、や、きも、ち、い、あ、だめだめ、もうイッちゃうから、だめえ!」
オレは蒼生のナカをかき混ぜて。
それでも手を離さない。
「あーっ、あ、や、あぁっ、けんちゃ、あっん、あっ」
「いいよ。イッて……?」
「っ! あ……あぁーっ……!」
びくびく、と腰が震えて。それから、ナカが、ぎゅーっとなって、ぐちゃぐちゃに搾り取るみたいに、……っ!
……うわぁ。もってかれた。
あー。
最高。
オレがそっと体を引くと、蒼生はその場にぺしゃんと潰れた。
「……大丈夫?」
「だ、だい、じょう、ぶ……。びっくりした、けど……」
「すげえな、道具ってやっぱちゃんとそれ用に作られてんだなあ」
咄嗟に放り投げちゃったけど、オレの脇でまだぶるぶるしてる、最後に蒼生が出したので白いまだら模様になったローターの電源を落とす。ありがとうございました。
「ね。きもちかった……。あの、もちろん健ちゃんがしてくれたからだよ?」
ちら、と蒼生がオレを見る。うう、可愛い。好き。
「蒼生、ちゅーしよ」
「ふふ。うん」
後ろから覗き込むように顔を近付けると、蒼生は振り向いてキスを受けてくれる。可愛い。
オレも蒼生の上に寝転んだ。重い、と苦情が来たけど、とぼけたらそれきり蒼生は何も言わなかった。へへ。
ふと、目を上げると、例の鏡が見える。だいぶ今回いい仕事してくれた鏡だ。顔を上げた蒼生と、また鏡の中で目が合った。
「なあ、蒼生。うちの寝室にもこういう大きな鏡欲しくね?」
「えー? クローゼットのとこに全身映せる鏡あるでしょ」
「だって足下のほうだからさ、ベッドからは見えないじゃんか。だからこういう使い方できないし」
蒼生は少し間を開けた。なんか考えてるかな。たぶん蒼生、鏡に映ったのを見るの、嫌じゃなかったんだと思う。だけど結局、首を横に振った。
「着替えには支障がないから、いらない。ベッドから鏡が見えて……夜中ふと目を覚まして何か映ってたら怖いからやだ」
「映画は好きなのに」
「作り物の怖いのは好きだけど、ほんとに怖いのはやだ!」
そう言って、蒼生は投げ出したままのオレの腕を引き寄せた。怖いの、思い出しちゃったかな。可愛い。
正直なとこ、まだ足りなかった。もっとベタベタして、いちゃいちゃして、また入った風呂の中で初めての風呂セックスしたかった。だけど、冬矢より遅く帰ったら何言われるかわかんねえからな。それに何より、蒼生を動けなくしちゃったら、帰るのに大変な思いをさせちまう。家だったら確実にあと2回はしてた。
冬矢はオレたちが出かけるって言うんで急遽バイト入れたんだよな。せめて帰ってくる前に辿り着けるかな、と淡い期待をしてたんだけど。
「おかえり」
あー。間に合わなかったかぁ。
いや、言われてねえよ、別になんにも。だけど、オレたちがデートしてて、冬矢が働いてて、そんでオレたちのが遅いってさすがに申し訳ねえと思うわけだよ。だけど、
「ただいまあ」
蒼生が近くでにっこり笑うと、冬矢も表情を崩した。簡単な奴だ。
「映画どうだった?」
「すっごく怖かった……。面白かったんだよ、話の流れが見事で、難しいんだけど引き込まれちゃう。だけど映像が綺麗だから余計に怖かった。ジェットコースターかな? ってくらいに怖いのの連続で」
「ああ、俺は観なくて正解だったな。……それで、その後はずいぶん同じ所に長くいたね?」
……あ。
こいつ、位置見てたな。そりゃ、蒼生が長時間戻ってこなかったら、心配になるよな。わかるわかる。でもおまえバイト中じゃなかったんか。
でもまあ、隠すことでもねえしな。
「雨降って来たからさ、ラブホ入ってた」
「なるほど。まあ、そうかなとは思ってたけど」
蒼生はぱっと顔を輝かせて、冬矢の腕を掴む。
「そう。初めて連れて行ってもらったんだけど、面白かったよ。いろんな部屋があって、今日はお城だったんだ」
「でも、めちゃくちゃちぐはぐなのな! インテリアがそれっぽいだけで、ドアふっつうだったし。ド派手に光る風呂とかあれ爆笑したもんな」
「城っぽいお風呂って期待して入ったら、大きな画面に、ぼこぼこバブルの出る浴槽だもんね。急に現実感~って感じだったよ」
冬矢はオレたちの話を面白そうに聞いてた。でも、冬矢には耳タコかもしんねえけどな。たくさんの女子とお付き合いしてたんだからさ。
「でもおまえは腐るほど行ってんだろ? 珍しい話でもねえか」
「は? 行ったことなんてないよ」
「は?」
オレと蒼生がハモった。蒼生までびっくりするとは思わなかったけど。
いや、それはともかく、冬矢が? マジで? さんざんとっかえひっかえしてた奴が? 行ったことねえの?
「え……。おまえ地元のとこは軒並み制覇してて、おすすめのホテルとか部屋の種類に至るまで情報網羅してるとかじゃねえの?」
冬矢は呆れたように息を吐いた。
「あのなあ。そういう付き合い方してた頃、俺がいくつだったと思っているんだ。例え相手が条件をクリアしていたとしても、子供が入れるわけないだろう」
あ、そっか。なんか数が多いって聞くから麻痺してたけど、そういえば蒼生と付き合い始めたのって高1だし、少なくともそれより前ってことだもんな。
でも、ふーん。条件をクリアするような相手とも付き合いがあったってことか。すげえな。
「え、じゃあ普段はどこで?」
「大体相手の家だったな。親がいない時間を狙って。でなければ空き……いや、この話はやめよう」
「なんでだよ、興味あんのに」
「蒼生に聞かせたくないんだよ」
……やべ。だよな、恋人の過去の付き合いなんて聞きたくねえよな。慌てて蒼生を見ると、あれ、蒼生? 冬矢の隣にいたはずの蒼生は、いつの間にかソファに座って映ってもいないテレビ画面を見ていた。
「あ、僕は平気なので、どうぞ続けていただいて」
いやいやいや、複雑な顔してんじゃん。
「ごめん、オレが調子に乗ったから」
オレは蒼生の隣に座りながらその顔を覗き込む。
「違うんだよ、僕が消化し切れてないだけで……」
そうだよなあ、オレだって蒼生の過去の恋人の話とか聞きたくねえもんな。いねえけど! オレが最初で最後だけど! そんなんいたら自分がどうなっちまうかわかんねえよ。
でも。
ちょっとだけオレも複雑。
「だけど、蒼生、オレの過去の話は平気だろ?」
なんで冬矢にだけ。
蒼生は、ものすごく難しいことを考えているような顔をする。
「…………。健ちゃんは逐一報告してくれてたし、今から考えると、その都度ショック受けてたよ。だから今更聞いても、その件については全部ショックを受け終えてるから、としか……」
「うっわ。ご、ごめん」
「健ちゃんのことも冬矢のことも過ぎたことだし、その頃付き合ってたわけじゃないから、僕に言えることは何もないわけで……余計に今どういう顔をしていいかの正解がわかんないんだよね」
んー。たしかに。オレもわからん。
冬矢が笑って反対側に座る。
「正直俺も、どこまで恋人の過去の話を知っているべきかなんて、答えはわからない。全員わからないことを考えても仕方ないんじゃないかな。それより、今日は楽しかったんだろ? 蒼生が楽しく過ごせたのなら何よりだよ」
少し蒼生の表情が緩む。
「うん。楽しかった。ラブホテル、今度は冬矢も一緒に行こうね」
「そうだね。俺の“はじめて”もらってくれる?」
「! うん」
蒼生はようやく嬉しそうに笑った。
あ、こいつ、今言質取ったな。蒼生と一緒に行く口実作ったな。
そうか、こいつの初ラブホは蒼生がもらってくのか。そう考えるとちょっと悔しい気がする。いやいや、でも蒼生の初はオレがもらったわけだし。むむ。
冬矢がそっと手を伸ばす。
「……でも蒼生、たまには……うん、いいや」
「冬矢?」
抱き寄せながらの冬矢の言葉に、蒼生は首を傾げる。
だけど、オレにはわかったよ、冬矢の言いたいことが。立場は一緒だもんな。そう、蒼生、えっちなことのお誘いってしてくれるんだよな。なのに、普通のデートのお誘いはまだ一度もしてくれたことないんだ。とはいえ、それを伝えて、蒼生に言わせるのも違うしなあ。いつかちゃんと言ってほしいな。
オレは蒼生の腰に手を回して引き寄せる。
「なんだ、まだ足りないのか」
冬矢から不満げな声。
「そりゃ、足りるわけがねえよな」
「たしかに」
いくら手に入れても、もっとほしくなる。
もっと。
大好きな蒼生。
その蒼生は、オレと冬矢の腕をぎゅっと両腕で抱き締めた。
「……あのさ。ああいうところって3人でも入れると思う?」
「!」
そんなこと考えてたのか。
「ふふ。じゃあそういうホテル、探してみようね」
ほんと、可愛いが溢れて止まんなくなる。
まあ、そうだな。
こいつがいても、きっと楽しいもんな。
間に蒼生がいて、ずーっと笑ってくれるからなあ。
そっと蒼生の手を握ると、蒼生はオレを見てふんわりと笑う。
あったかい手。
うん。
絶対、この手は離さない。
「はい」
ボタンを押して返事をすると、伝票を見ていたその人はさっと顔を上げた。
『どうも、こうさぎ運輸でーす。野木沢様宛にお荷物のお届けです』
「はーい、今開けますんで、ちょっと待っててください」
へえ、蒼生宛? 誰からだろ。
宅配の兄ちゃんから受け取ったのは、一抱えもあるでっかい箱だ。差出人は、野木沢紅輝……あれ、こう兄じゃん。
「誰から?」
リビングに戻ると、冬矢が聞いてくる。だよな、気になるよな。
「こう兄」
「ああ、紅輝さん? 中身は?」
「んー。衣類って書いてある。確かにそのくらいの重さかも」
「ふーん」
とりあえずこっちのテーブル……に置いたら邪魔だな。でけえもん。まだローテーブルのほうがいいか。それにしたって突然どうしたんだろ。
それからいくらもしないうちに蒼生が帰ってきた。はー。ほっとする。今日も無事に帰ってきてくれた。
「ただいま」
「おかえりー。蒼生、おかえりのぎゅー」
腕を広げると、蒼生はにこにこしながら飛び込んでくる。あー。なんて愛しい存在なんだろう。遠慮なく抱き締めると、少ししてぱたぱたと背中で蒼生の手が動いた。え、きつかった? ちょっと力を緩める。蒼生は顔を上げながら、「ぷはっ」と息を吸った。
「はー、苦しかった」
「ごめんごめん。テンション上がっちまった。……あ、そうだ、こう兄から荷物届いてるよ」
「こうちゃん?」
ぱちぱち、と瞬きをする。オレが箱のほうを見ると、蒼生も追っかけるようにそっちを見た。それから首を傾げる。
「なんだろ」
「先に連絡とかなかったの」
「特になかったよ」
だよな、こう兄だもんな。そりゃ事前連絡なんてしてこないよな。
オレの手の中からするりと抜けて、蒼生は箱の前に立つ。なんとなくオレがそばに寄ると、冬矢も近くにやってきた。蒼生は不思議そうにしたまま、箱に張り付いたラベルを取って、テープをびーっと剥がした。開けてみると、……服だな。品名通りだ。
ずいぶん余裕のある箱の中には、わりと適当な感じに洋服が詰められてた。見覚えのある柄もんのシャツが一番上に乗ってるな。ズボンとか薄手のジャケットとか、今の時期に重宝しそうなのがいっぱい入ってるけど、マジでどうしたんだろ。
ん? なんか今文字が見えたような。
「あれ、蒼生、蓋の裏になんか書いてね?」
「え? あ、ほんとだ」
蒼生が箱の蓋を押し開ける。そこには見慣れたこう兄の字があった。なになに、社会人になると大学生までに着てたような服って着る機会減るよな~、いらなくなったの送るから、蒼生じゃなくてもオレか冬矢が着れんじゃないの、余ったやつは処分して~、……簡単にまとめるとそんなようなことが書いてある。もっともそうに書いてるけどさ、こう兄、社会人になったの今年じゃないじゃん。
「こうちゃんので着られるサイズあったかなぁ」
特に疑問は抱かなかったのか、蒼生はごそごそと箱の中身を探る。そうだな、こう兄の体型だと一番冬矢が近いかもしれない。でもこう兄ってオーバーサイズが好きだから、オレが着ても大丈夫なやつもありそうだ。ただ、こう兄のザ・趣味みたいな服は入ってねえな。こう兄、着るもんもテンションも派手だったけど。んー、見せるまでもなくいらないだろって判断したのか、それとも。
「……こんなの、こうちゃん着てたっけ」
奥のほうから引っ張り出したシャツを眺めて蒼生が呟く。比較的ちゃんとたたんであるそのへんは、どっちかといえばおとなしめの服が多くて、サイズも1サイズ小さい。
オレは冬矢に目をやった。同じことを考えてるみたいで、冬矢も頷く。だよな。たぶんこれ、蒼生のために買ってるよな。こう兄も素直じゃねえんだから。弟可愛がんのに照れてんのかな。あはは、可愛いとこあんじゃん。まあ、そういうことにしておいてあげよう。
「オレも見覚えないな。買ったはいいけど、後で自分の趣味じゃないってなったんじゃね?」
「そっかあ。だけど、こういうのだったら着られそう。後でこうちゃんにお礼言っとかなくちゃ。そうだ、なんかお菓子とか送ろうかな」
蒼生、嬉しそうだな。うん。よかった。
その時、
「なんだろう」
箱を覗き込んでいた冬矢が、箱の中に1枚封筒が入ってるのに気が付いた。何の変哲もない茶封筒だ。取り出して蒼生に手渡すと、蒼生はやっぱり不思議そうにそれを開けた。中から出てきたのは。
「映画のチケットだ」
……へえ? 蒼生の手元を覗き込むと、ペアチケット? あ、しかもこれ、ちょっと前に話題になってたホラーのやつだ。すっげえ怖いらしいけど、小さい映画館でしか上映してないんだよな。狭いとこで観てほしいっていう監督の意向らしいけど。そこにはふせんが貼ってあって、「もらったけど、1時間半も電車に乗って観に行くほど好きなやつじゃないからやる」だって。
蒼生はそれを見てそわそわしてる。
「どこでやってるのかな。近いところあるのかな」
だよなあ、蒼生、こういうの好きだもんな。
「いいじゃん、ちょっと遠くたって行こうぜ。な、冬矢」
ん? あれ。冬矢の奴、なんか難しい顔してるな。蒼生が行くって言ってんのに二つ返事じゃねえの、珍しいな。冬矢はさんざん悩む仕草をして、それから厳しい表情で首を振った。
「どっちにしてもペアチケットだし、ふたりで観ておいで」
「えっ」
何があった!?
「……言いづらいんだけど、オカルト系のホラーだろう? そういうの得意じゃないんだ。そのジャンルの作品でも、ミステリーのテイストが強ければ大丈夫なんだがな……」
オレと蒼生は顔を見合わせる。冬矢だったらいくら苦手でも、外で待ってるくらいのことは言いそうだと思ったんだけどな。
「蒼生。健太が迷子にならないようにちゃんとリード持っておくんだよ」
「? うん」
いやそっちかよ! オレに蒼生を任せてくれるとかそういう意味だと思ったんだけど、……こっちも素直じゃねえなあ。
蒼生が調べてくれたところ、ほんとにその映画をやってるとこは数えるほどしかなかった。一番近いのは有名な繁華街の、駅から少し離れた奥のほうだ。昔、家族旅行で来た時に駅の周りを車で通ったり、引っ越してきた頃大通り沿いの店をちょこっと見ただけだっていうのに、さらにその奥ときたもんだ。
それにしても、すげえな。休日の昼間ってこんな感じなのかあ。人しか見えねえ。人、人、人、人、ビル、ビル、ちょっと空、って感じ。道は蒼生が調べてきてくれたから、オレは蒼生の後にしっかりついていきつつ、周りを見て歩く。道に面した店はガラス張りがほとんどで、どこもかしこも人でいっぱいだった。
ちょっと脇道にそれて、人が少なくなって……いやそれでもギリ人の間に道路の灰色が見えるかな程度なんだけど、だいぶ歩きやすくなった。それから少し行ったところに、なんだか古い感じの映画館があった。
「雰囲気あるね……」
「そうだなぁ」
蒼生はオレに半分隠れるようにその建物を見上げてる。ふっ……ふふ。
中に入ると、さらに雰囲気があった。最新の、動きに連動したシステムとか音のリアルさがすごいとか疲れない座席とか、そういうのとは真逆な感じ。なんていうのかな、レトロ? そういうやつ。でもトイレも綺麗だったし座席数が少ない割にスクリーンが大きいから、この構造ってわざとなのかな。あえて古い感じにしてるのか。建物自体がアトラクションみたいだ。
蒼生は席に着くなり、オレを不安げに見る。
「……健ちゃん、怖かったら、捕まってもいい?」
「もちろん。いつものことじゃん」
オレが笑って返すと、嬉しそうに頷いた。
で、いざ映画が始まると、だ。あー、これはガチめのだな。明るいシーンからの落差がすごいや。わー、いるじゃん。暗い隙間に。今、確実になんかいたなあ。
別にオレもさ、ホラー映画ってそんな好きじゃねえんだ。どっちかっていうと映画ならアクションとかのド派手なほうが好き。冬矢みたいにはっきり苦手ってわけじゃなくて、ちゃんと見られはするんだけどな。オレはどっちかっつーと、
「…………っ!」
蒼生はかなり頭のほうのシーンから、オレの腕に縋りついてきた。途中からは反対の手もオレのシャツを掴んできて、その手を握ってやると、ぎゅうっと握り返してくる。
くー……。これこれ。これなんだよ! ホラー映画の醍醐味! 蒼生は怖いの見るの大好きなくせに、めちゃくちゃ怖がりなんだよな。必ずこの体勢になってくんの。もー、可愛くて可愛くて可愛くて! この蒼生を堪能するために、怖い映画は一緒に見るって決めてるんだ。
蒼生も絶対こうなるのがわかってるから、他の奴には声かけないんだよな。それも気分がいい一因かも。あー可愛い。
オチまで結構怖いやつだったせいか、蒼生は映画が終わって外に出ても、オレのシャツの後ろを掴んだままだった。
「こっ……怖かったね」
「あのオチにはびっくりしたけどな!」
「うん。お、面白かった。怖かったけど! それにしても、エンドロールのあれは完全にやられた」
「安心したとこであれはなぁ。狭い映画館でしかやらないってこういうことだったんだな」
楽しかったみたいだけど、ちょっとぐったりしてる。
あ、そうだ。
「びっくり疲れたろ? さっき通ったとこでクレープ食べない?」
「! 食べる食べる。縮こまってたら肩こっちゃった気がするもん」
「だろー」
来る時に見たんだけど、量販店の入り口にワゴンが停まってて、クレープとかアイスとか売ってたんだ。ああいうの、テレビで見たことがあって、食べてみたかったんだよな。
戻ってみるとそこそこ並んでた。でも、こういうのって並ぶのも楽しみのひとつなんじゃねえかなって思う。その証拠に、映画の感想を話しながら待ってると、あっという間にレジに辿り着いた。たっくさんメニューがある中から、オレは生クリームたっぷりのチョコバナナクレープ。蒼生はシンプルなシュガーバターのクレープを選ぶ。
「嬉しい。こういうの、ないところが多いから」
うん、うん。にこにこして頬張るの、ほんと可愛い。蒼生、生クリームとか好きだけど、クレープはそういうのが入ってないシンプルなのが好きだもんな。
蒼生は道行く人を眺めながら、もぐもぐしてた口の中身をごくりと飲み込んだ。
「みんな結構歩きながら食べるんだねえ」
「ん? あ、ほんとだ」
「器用だよね。僕なんか、落とす自信あるけど」
「あはは。いいじゃん、真似しなくたって。オレたちは落ち着いて食べよ。ほら、こっちもどうぞ」
「ありがと。……美味しい。生クリームでふんにゃりした生地も美味しいよね」
「じゃあオレもいただきまーす。……うん、シンプルなのももっちりしてて、オレも好き」
オレの持ってる食べ物に蒼生がそのままかじりついてくる光景、何度見てもいいよなー。もう愛しくてたまんなくなる。
楽しいなあ。
やっぱりどこにいても蒼生と一緒が一番楽しい。
……このまま帰るの、なんかもったいない気がする。だって、せっかく遠出してるんだから。ちょっといろんな景色見てみたいじゃん? 冒険だよ、冒険。
「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。うーんと、これから……えっ、健ちゃん?」
オレは蒼生の手を取る。
「来た道戻るんじゃ面白くないから、別のルート通ってこ」
「健ちゃん、駅の方向わかる?」
「たぶんこっちだろ。ってことは隣の駅はこっちのほうだよな。大丈夫大丈夫、歩いてりゃたぶん着くから」
「つ、着くかなあ」
そのままオレは歩いてきた道を横切って、直角に走る別の道に入る。蒼生はオレの手を離さないまま、あたりをきょろきょろ見ながらついてくる。来た時と反対だな。
細い道は、さっきと違って細長いビルとか建物自体が小さい店とかが並んでた。人はそんなにいない。裏道だからかな。美容室がいっぱいあって、なんかカフェっぽい看板があって。輸入雑貨屋? っぽい、昼間っからぎらぎらのライトがついてる店とか。あとまだ閉まってるらしいバーとか。
「……いろんなお店があって面白いね」
「だろ?」
いつの間にか、蒼生はオレの隣を歩いてる。やっぱりカフェに興味がありそうだ。寄ってもいいかな、だけど今早めのおやつしたばっかだから、オレは大丈夫だけど蒼生はまだ食べられないだろうな。
ん? すれ違った人が、オレと蒼生の顔を見比べていったのにふと気付いた。なんだ? ……あ、手。そのままだった。やべ、離したほうがいいかな。ちょっと手から力を抜……こうとしたけど、蒼生は逆にぎゅっと握り返してきた。
あ、蒼生……。
オレと手を繋いだまま歩きたいと思ってくれてんの?
はあ、好き……。
なんか内心はしゃぎながら歩いてると、ちょっと大きな道路に出て、よく聞くでっかい文房具屋の前に出て、あ~これが有名な、……って話をしたあたりまではスムーズな感じがしてたんだけど、そのあたりからはまた道が細くなってった。急に店の数が減った気がする。人の姿もまったくなくなったわけじゃないけどずいぶん少ない。
「ねえ、健ちゃん……。これ、ちゃんと着くのかなあ」
「わかんね。けど人がいるってことは、道繋がってるんだから平気だって」
「そう、かな……?」
蒼生は少し心配そうだ。たけどたぶん方向は合ってると思うんだよな。
そこに。
運悪く、ざあっと雨が降り出した。
ずいぶん急だな!?
「ええっ?」
「わ、とりあえず、濡れないとこ行こ」
マジかよ。今の今までめちゃくちゃ晴れてたじゃん! 周りにいた人たちも、ビルの中とかに逃げたのか、あっという間に見えなくなる。オレたちはとっさに、目の前、建物のエントランスに張り出した屋根の下に駆け込んだ。
「今日は降水確率ゼロだって言ってたから、折り畳み傘置いてきちゃった……」
「すぐにやむかな」
「だといいんだけど。うーん、どこかにコンビニとかあれば傘買えると思うけど、まずここはどこなんだろ」
蒼生は髪から滴る雫を気にもせずに、ポケットから取り出した携帯で地図を呼び出そうとしてる。ちぇ、せっかくの冒険もここまでかあ。地図は見ないから面白いのに。オレは頭を振って水滴を飛ばす。……と、入り口の脇に看板があるのに気が付いた。……これ……。ああ、そういう……。ん? 周り見回してみると、同じような看板がいっぱい……。
あ!
そっか。
いいじゃん。
ナイスタイミングだ。
「蒼生」
「なぁに?」
「雨、止むまでここに入ろ」
「えっ?」
蒼生の手を掴んで中に向かって引っ張る。珍しく、わずかに抵抗する気配。
「待って、ねえ、勝手に入って大丈夫なの?」
オレは蒼生に、たくさん並ぶ写真のパネルと料金表を指さして見せる。
「だって、ラブホだもん」
「えっ……」
蒼生が言葉を失う。それからまたちょっと足に力が入った。
「なっ、なおさらいいの? 入れる? 大丈夫?」
「いいから料金書いてあるんじゃね? ほらほら、見てみなって。すげえよ、いろんな部屋がある」
言っておきながら、オレもその時点で初めてパネルをしっかり見た。なんか普通のホテルっぽい部屋もあれば、やたら観葉植物が置いてあるっぽい部屋もある。海の絵が描いてあるの、なんか黒いばってんがあるの、メリーゴーランドがあるの、やたら種類があるんだなあ。オレが入ったことあるのって1回だけだけど、あの時はたしか普通の部屋だったよな。
「……へえ。こんな感じなんだ……」
お。蒼生が興味示したぞ。
ドアを開けると、うわー。
「しっろ!」
蒼生も後ろから入ってきて、きょろきょろと部屋の中を落ち着きなく眺める。
「それはどっちの?」
「色が白いのもだし、城っぽいってなるほどなーって。なあ、蒼生、シャンデリア!」
へー、すげえ。とりあえず空いてる部屋で目に付いたとこ適当に選んだら、コンセプトがお城、って書いてあった部屋だった。インテリアが基本的に白い。金縁のソファとかガラスのテーブルとか無駄に出っ張ってる柱とか、とにかく白い。じゃらじゃらしたシャンデリアも白くびかびかと光ってる。暖炉なんかもある。もちろん使えねえみたいだけど。上に置いてある女の人の像とか誰だかわかんねえ絵とか、あー、それっぽい! ベッドはやたらでかくて、ここには薄いピンク色のカーテンのやつがついてる。
「すごい。天蓋付きのベッドだ」
「あ、それだ。なんて言うんだっけって今考えてた」
「やっぱこういうメルヘンチックな部屋、似合わない気がする……」
「えー、面白いじゃん」
オレはしゃがみ込んで暖炉の中を覗き込む。やっぱ上の煙突には繋がってなくて、四角い空間があるだけだ。
そこに。
蒼生がオレの隣に来て同じようにしゃがみ込むと、肩をとん、と寄せてきた。
「……ねえ、健ちゃん」
「ん?」
「そういうコト、するの?」
ちっちゃい声。見ると、ちょっとほっぺたが赤い。可愛い。
肩で肩を押し返す。
「そういうコトするとこで、そういうコトしてみたくね?」
「して、みたい」
「だろ? オレもしたい」
こっくりと蒼生は頷いた。へへ。嬉しいな。
「……じゃ、準備する」
言うと、蒼生は鞄のとこに行って中をごそごそし出す。
「なに?」
「だから、準備の道具。携帯用の」
うっわ。そう。そうなんだ。へえ……。
「蒼生、折り畳み傘は持ってこなかったのに、オレとえっちするための道具は持ってくるんだあ」
「! け、健ちゃんのばーか!」
えっ。
蒼生はなんか袋を抱えると、ばたばたと向こうの方に走ってく。
今、「ばーか」って言われたな? ……かっ……かっっっっわいい……。え、可愛い。最高に可愛い。ふっふふふ。そっかー、蒼生にとって、雨が降る確率よりも、オレとなにかしちゃう確率のが高かったんだぁ。へへへ。
んーと。準備終わったら、まずシャワーとか浴びるよなー。風呂場とかどうなってんだろ。部屋についてるドアは、城にしちゃ普通のドアだ。風呂場のドアを開けると、……おお。脱衣所と風呂場の間は全面ガラスなんだ。あ、風呂、でけえ。丸い。なんだこれ! 丸い! これはテンション上がる! 絶対入んなきゃだろ、これは。うわ、奥にでっかい画面があるな、テレビとか見れるのかな? よし、お湯張っとこ。
なんかわくわくしながら水かさを増してく湯船を見てると、すっかり湯気で曇った脱衣所のガラスのドアが開いた。
「健ちゃん、おまたせ……うわぁ、広い!」
「すごくね? ふたりで寝転がっても余裕なくらいあるよな! 一緒に入ろうぜ」
「うん」
オレと蒼生は脱衣所に戻って、ふたりしてまだ湿ってる服を脱いだ。それを丁寧にたたんでカゴの中に入れようとする蒼生の手を引く。
「あとでいいじゃん。早く入ろ」
「あ、そうだね」
そんで、さっさと体を洗い終えると、その広い浴槽に飛び込んだ。あちこち歩いたし、なんか普通に風呂入れて嬉しいかも。
「はー、あったけー。疲れ取れる~」
蒼生はやっぱりきょろきょろしながら、浴槽の底にたくさんある半分になった金属の玉と、横にも底にもあるライトっぽいのをつついている。
「これ何かな?」
「んー。……あ、壁にパネルがある」
ボタンがいくつもあるな。室内直接、室内間接っていうのと、バブル、ライト、あとディスプレイってのと上下のボタンが2つずつ。蒼生がオレの背にくっつくようにして後ろから覗き込んできた。
「バブルかな」
「よし」
そのボタンを押した途端、玉からすごい勢いで空気がぶわっと吹き出してくる。うわ。これ、どっかのプールで入ったことあるかも。ぼこぼこと音まですごい。泡に押されて体が浮きそう!
「あ、あはは、くすぐったいね、これ」
「あははははは、面白ぇ!」
蒼生にすがりついて力を抜くと、なんかホントに浮いた。おー。
「ねえ、こっちも押してみようよ」
ライトのボタンを蒼生が押すと、浴槽の中のライトがいろんな色に光り出した。次々と違う色に変わってって、え、何これ。
「すっげ、これ、派手!」
「あははは、なんかライブ会場みたいだね」
やっべ、楽しい。だって、浮いて光るとか、面白すぎるだろ。
なんか笑いすぎて、オレたちはぜえぜえと息をする。なんだかんだ、オレと蒼生は笑うツボが似てると思うんだよな。
蒼生ははあっと大きく息を吐いた。
「……あー、面白い」
「これで雰囲気出せるカップルとかいんのかな」
「さあ? 僕はこういうのより、湯船に浮かべてライト付けると天井に星空が映るやつとかのほうが欲しいなあ」
「あー、なるほどなるほど」
たしかに、こんなびかびか光るファンキーな風呂より、そっちのほうが雰囲気出そうだ。せめてピンク一色とかになんなかったのかな、これ。
しかし落ち着かねえなこりゃ。とりあえずライトだけでも消しとくか。よっと手を伸ばして、パネルのボタンを押した。ライトのやつ……のつもりだったんだけど、ディスプレイのボタンを押したな、今。
『ああっ、ああ~ん、あっ、あんっ、だめぇ……』
「!」
突然画面に絡み合う裸の男女の姿が大写しになる。しかも、がっつり入ってるやつじゃん!
「……まあ、そうだよねえ」
感情の読めない蒼生の声がして、オレは全力でもう1度ボタンを押した。突き指しそうなくらい勢いよく押した。
「ごっ、ごっ、ごめん!!」
画面は付いた時と同じようにぱっと消えた。おそるおそる蒼生の表情を窺うと、……蒼生はなんでもない顔をしてた。うっ。気を遣ってくれてんだろうか。
「わざとじゃないんだ、わざとじゃ……」
「え? 見たいなら見てもいいんだよ? 僕、気にしないし」
あああ、どっちなんだ。気にしてんの? してないの?
「だって健ちゃん、こういうの普通に見るんでしょ」
「そりゃ、まあ、見るけど」
「ああ、やっぱ見るんだ」
えっ、誘導尋問? だけど蒼生はやっぱり涼しい顔をしてて、怒ってるとかは全然なさそうだ。だけど、どうなんだろ、こういうの、恋人が見てたら嫌なもんじゃないの? よくわかんねえけども!
蒼生が笑う。
「何変な顔してんの。本当に気にしないってば」
「いや、見ないよ。だって蒼生といるのに時間もったいないだろ」
「そっか。……いっそ一緒に見る?」
「! いやいやいや、蒼生がAV見るのなんて……うっわ口にすんのもしんどい! だいぶ無理!」
「あはははは。いつものやつだ」
「だ……って、可愛い幼馴染みとそういう、その、エロいの見れなくね!?」
オレの腕を掴んだ蒼生が、そのまま抱きついてくる。わ。え。蒼生?
「……その可愛い幼馴染みをラブホテルに連れ込んだのは誰だろうね」
「あ」
たしかに。
オレたちは風呂から出ると、備え付けてあったバスローブを着る。ば、バスローブ。蒼生が。ヤバい。えっちだ。白いタオル地のバスローブから、膝下がすらりと素肌を晒してる。綺麗だなぁ。
「ねえ、お水とかってどこかにあるかな」
「ふ、普通のホテルだとタダで置いてあったりするけど、どうなんだろ。冷蔵庫に入ってたり?」
「冷蔵庫、冷蔵庫……。ここかな」
蒼生は入り口の近く、腰から下の位置にある棚を開けた。それから、
「うわー」
って言った。なんだ。
「お水売ってた。とりあえず2本はいるよね。他にも色々売ってるみたいだけど」
「色々?」
自動販売機になってんのか。蒼生はしゃがんでコインを入れると、水のペットボトルを2本取り出した。……って。
オレも隣にしゃがみ込む。うっわ。こ、これ、その、いわゆる、おっ、大人のおもちゃってやつ!? 動画で見たことあるのがいくつか、……あとはなんだ? わかんねえのもある。なんだこのぐねぐねしたの。こっちの細いの何? てか、値段って、こんな感じなのか。へぇ……。
「すっげえ。初めて見た! こーゆーとこで売ってんのか!」
「ね。ゴムとかローションもあるよ。買う?」
「それは無料のが枕元にあるし、そもそも持ってるから大丈夫だけども」
「持ってるんだあ」
蒼生はくすくす笑って、「僕のこと言えないじゃん」と言った。うん。まあな。常日頃からちゃんと持ち歩いてるよ。いつ何時蒼生と出来るチャンスがあるかわかんねえからな! 備えあればなんちゃらって言うじゃんか、なあ。
「…………」
「…………」
んー。
なんか。変な沈黙が下りる。
たぶん、同じこと考えてる。蒼生って好奇心が勝っちゃうタイプだから。オレだって興味あるし。
「……よし、欲しいやつ、せーので指さすか」
「うん」
「せーの、」
こつん。
ボタンを軽く叩いた音。
オレと蒼生は違うとこを指で示してた。オレは、あの、いわゆるローターってやつ。なんかちっちゃいし、安いし、とっかかりとしてはこういうのいいかなって。一度使ってみたかったしさ。んで、蒼生が指してるのは、ぬいぐるみみたいなふわふわの輪っかの間に鎖がついた、……手錠……?
「蒼生ってやっぱこういうの好きなんだ?」
「うん。動けなくして、シてほしい」
「……蒼生のえっち」
「えへへ」
いたずらするみたいな顔で蒼生が笑う。なんかもうシてる時っぽいこと言うなあ。いつもだったら照れたり誤魔化したりしそうなもんなのに。
……待てよ。
オレとこんなところにふたりきりで……もしかして、蒼生の中では、オレとのえっち、始まってるんじゃ。こんなふうにおもちゃ選ぶのも、前戯の一部だって思ってるってことか? マジで? か……可愛い。愛しい。どうにかなっちゃいそう!
「せっかくだから、両方買っちゃおう? えい」
えっ。
蒼生はなんのためらいもなくボタンを押すと、ピンクのふわふわがついた手錠とこっちもどぎついピンクのローターを手に取った。で、そのまんま、手錠を袋から出したりローターの箱の説明書きを読んだりしてる。
……ダメだこれオレの許容範囲を超えるやつ!
「あ、蒼生はそんなの持っちゃダメ!」
オレが言うと蒼生はきょとんとして。
それから、にっこり笑った。
「じゃあ、健ちゃんに全部やってもらわなきゃ、だね?」
う、わ。
オレはしゃがんだ蒼生を、その格好のまま持ち上げた。蒼生はちょっとびっくりしたみたいだけど、気にしてる余裕とか、もう、ダメだ、全然。
抱えた蒼生をベッドに半ば放り投げるみたいに下ろす。あ、やべ。勢いづいちまった。痛くしなかったかな。けど蒼生は、頭を枕に落としたそのままの体勢で、なんか嬉しそうににこにこしてる。だから、しかけた反省をぽいっと捨てて、ついでに着たばかりのバスローブを脱ぎ捨てた。
「臨戦態勢だぁ」
「そりゃ、こんなひらひらの付いた可愛いベッドで、可愛い可愛い囚われのお姫様が待ってるんだから、当然こうもなるさ」
「お姫様って柄じゃないけど」
「このシチュエーションならそういう役どころじゃね? そんでオレは、お姫様を捕まえた悪党ってとこか」
「あれ、助けに来たほうじゃないんだ」
「だってこれから、そこに縛り付けちゃうんだろ?」
「……うん。ふふ」
笑いながら、蒼生も腰の紐を解く。バスローブから腕を抜いて、裸でオレのほうに手を伸ばす姿は、これ、いや、本当に一枚の絵にして取っておきてえ。昔の画家の気持ちが急に理解出来る。
蒼生。
体を重ねるみたいにして、蒼生にキスする。蒼生はオレの首に腕を巻き付けてくる。はあ、蒼生。何度も何度もキスして、頭の中が熱くなってくる。オレは、そっと片方の腕を取ると、手錠の片っぽをかちゃんと付けた。
「……ふわふわ」
ちゃんと傷付かないようになってんだな。蒼生はキスの合間に、手首にはまった手錠を興味深そうに眺める。じゃらっと軽い音。
「ん……。鎖……金属じゃねえんだな……っ」
「初心者用って書いてあった……から、ん。ほら、ここ、も、強く引っ張ったら、外れるように、……ん」
「あー、ホントにやだったら逃げられるように、か」
「よく、出来てる、……んっ」
ちらりとベッドの頭のほうを見た。なんかわざとらしく可愛らしい傘が付いたランプが置かれてて、明らかに棚に溶接されてる。なるほどな、ここにプラスチックの鎖を巻いても傷付かねえってわけだ。
蒼生の両手を挙げさせると、手錠の鎖をランプの後ろに通す。それから反対側の手首にも手錠を付けた。それを上目遣いに見ていた蒼生の表情が、とろんと溶ける。……そうだ、せっかくだし。オレは体を起こして、蒼生の腰を掴む。それから、ずるっと足下の方向に蒼生の体を引っ張った。バンザイの姿勢になった蒼生は、不思議そうにオレを見る。
「なに?」
「こうしておけば、腕でその可愛い顔も隠せないだろ?」
「ひぇ……」
蒼生はぱっと頬を染める。ここで照れる? 可愛いんだから。
「そうだ、こういうのって目隠しもセットだよな」
「ああ、それっぽいね」
「……んー。じゃあこれで」
オレはくすくす笑う蒼生の目を覆うように、半分に折ったタオルで頭を巻く。
「即席って感じだね」
「アイマスクでもあればよかったんだけどなー。んじゃ、ちょっと待ってて」
ほっぺにキスして、いったん蒼生の側を離れる。ゴムとかローションとかはまだ鞄の中だから。いやあ、本当に持っておくもんだなあ。
「……健ちゃん?」
「んー?」
置いてあるやつ使ってもいいんだけど、普段使ってるやつのがなんか安心だ。……お、あったあった。紳士のたしなみってやつだ。
「ね……けんちゃ」
あれ。
蒼生の声が、ずいぶん心細そうだ。オレはベッドに戻って、蒼生のそばに寄る。ぎしりとベッドが軋むと、蒼生はオレがびっくりするほど、びくん、と体を揺らした。
「どうした? 蒼生?」
蒼生はかすかに頬を緩ませて、ほぉっと息を吐く。
「あのね、健ちゃん、これ……、ちょっと、嫌かも……」
「外そうか」
「目。目のやつ、取って……」
あ。そっか。忘れかけてたけど、今日はめちゃくちゃ怖い映画観たんだったな。暗闇からあれこれ出てくるやつ。怖いのか。へへ、可愛い。
タオルを取ると、さっきの、映画終わってすぐ後みたいな怖がって泣きそうだった目が、オレを見た途端ふわんと嬉しそうに和んだ。あー、好き。
もう一回キスをして、オレは自分のちんこに手を伸ばす。……さすがに、ちょっとそろそろしんどい。蒼生は、すぐにそれに気が付いたみたいだ。
「……健ちゃん? 挿入れていいよ?」
「ばっ、……ダメだろ、まだ慣らしてないんだから」
「ちょっとは、やってるから、……んっ、たぶん大丈夫だよ?」
でも、無理させたくねえんだよ……。
「あ、じゃあ、あーん」
へ?
蒼生はにこにこと、口を大きく開けた。え?
「い、いいの?」
「早くちょうだい?」
うわー。
いいのかな、マジで。いや、今までだって何度も口でシてもらってるけど、こんな、体も動かせない状況で? で、でも、蒼生がいいって言ってるし!
ちんこを近付けると、蒼生は先端にちゅっとキスをくれてから、そのまま、口の中に、……っう。
「はっ……やっべぇ……」
さっきから我慢しきれねえってなってる、から、柔らかい唇と、丁寧に動く舌の動きだけで、もー……。手を動かせないから、頭の動きだけで一生懸命舐めたり吸ったりしてくれてるのが、可愛くてっ……。だけどさすがにここまで瞬殺だとかっこつかねえだろっ。
オレは、ごめんな、と思いながら蒼生の顔を跨ぐ。ホントごめんな。んで、ちょっとだけ反応してる蒼生のちんこにむしゃぶりついた。
「んぅ……っ!?」
腰だけがわずかに反る。だろうな、両足を抱え込んだから、それ以上動けないんだ。ああ、可愛い。口の中で、ぴくんと反応するのも、可愛い。オレはさっき持って来たローションの小袋を掴んで開け、手にぶちまけると、そのまま蒼生の後ろを探る。
「んーっ……ぅ、む、ぐ」
っと。危ねえ。あんまり腰落とさないようにしないと。あんまり深くまで咥えさせたら、蒼生が苦しくなっちゃうもんな。
指は2本、すんなり入った。ちょっと解した、って言う蒼生の言葉通りだな。ああ、ナカ、ふわふわだ。柔らかいっていうか、ふわふわなんだよな。そんで、指を動かすたびに蒼生は、口も、ナカも、もちろんオレが咥えたままのちんこも、全部反応させてくる。可愛い。
ふと、目の端に動くものがあった気がして目を横に向ける。ベッドの脇、壁のところが鏡になってた。蒼生を貪る自分と目が合う。な、なんか気まずいな。自分なのに。
「……んっ」
「ぅんっ!?」
あ。蒼生が、オレのちんこをじゅーって吸う。くっ、反撃に出たな。負けるか。……いや待て、これは一瞬鏡に目が行って動きを止めたオレへの抗議かもしれない。だとしたら可愛いな、もう! しゃぶるのと指をリンクさせるように同時に動かして、ナカの好きなとこをごりごりこすってやる。
「……! あ! ひゃめっ……」
! 蒼生の悲鳴、が。響いて……ッ。
オレは慌てて蒼生の口から自分のちんこを引き抜く。と、ほぼ同時に、
「……っは」
蒼生の胸元を汚してた。
ちぇ、蒼生を先にイかせるつもりだったのに。
その蒼生は、オレの出したので汚れた胸を大きく上下させて、ぼやんと天井を見つめていた。……あ、そうだ。
「蒼生」
唇を近付けると、ねだるように首を傾ける。蒼生、キス大好きだもんな。
その隙に、自分で散らした精液をそっと指に取り、塗りたくるように可愛い乳首をこすった。
「あ!」
「……可愛い。オレのでぬるぬるなの」
「あ、や……っ、きもちい……」
柔らかいそこは、ちょっと弄るとすぐにつんと可愛らしく身を固める。ここに使ってみたかったんだ。そっと、例のピンクのやつをそこに押し当てる。
「え」
ひんやりしたんだろう、ちょっと肩が跳ねた。で、コントローラーのダイヤルを回してやる、と。
「……っあ! あぁっ!」
蒼生の声が一気に甲高くなる。どんなもんかと思ったけど、ローターって結構な振動なんだな。オレの指先もちりちりする。これ、今、蒼生はどう感じてるんだろ。
「な。どんな感じ?」
「あ! は、あ、あぁっ、びりびり、おく、あ、おくまで、きて、あ、」
「奥? このへん?」
蒼生の腰の下に手を差し入れる。いつも、ここに集まるって言うから。
「……っああぁ、あ、……そこ、とどい、て」
そっか。そこを、撫でる。骨。から、辿って、下の方。
「あっ! けんちゃ、あ、ぁ」
蒼生の足が浮く。そして、オレの腰を両足で抱え込む。
「おく、おくがずくずくする、から、ね、もぉ、いれてぇ、あ」
可愛い。可愛い。
「ん。……待ってな、今準備するから」
「やだ、そのままほしい……」
蒼生のせがむ声。そりゃ……オレだってしたい。してみたい。蒼生のナカに直接ぶちまけたい。ずっと思ってる。
「ダメ。冬矢に絶対だめって言われてるんだからさ」
「とぉや……?」
「そ。なんつってたかな、難しいこと言ってたけど……早い話、腹壊すんだって」
「……いい、のに」
「大好きな可愛い蒼生にそんなしんどい思いさせれるわけないだろ」
「ええー……」
どういう仕組みだか、あいつはあれこれ言ってたけど、なんかよくわかんなかった。ただ、蒼生のためだっていうのはわかったから、それでいいんだ。
オレは蒼生にキスをする。
「いい子で待ってて」
「……はぁい」
ちょっと拗ねた顔。可愛い。好き。
待たすのも可哀想だし、でも急いでしくじるのもよくないし。そのギリギリのラインで準備する。蒼生はもどかしそうに、何度も体をくねらせてた。ヤバい。
「ごめんな、お待たせ」
「健ちゃん……早くぅ……」
腰を振る、その動きに合わせて、先っぽを濡れさせたちんこが揺れる。……うっ。マジかよ。えっろ……。
「はー……好き。可愛い。や、べ……っ」
「あー……っ」
ゆっくり。蒼生のナカに挿入る。キツいとこ抜けて。包み込まれる。あー、ふわふわ。熱い。絡みつく。優しく、ぎゅーっとされて……気持ちいい。
「蒼生……痛くない?」
「な、い……あ、はぁっ、も、動いて……」
「……ん」
奥がずくずくしてるって言ってたもんな。蒼生も我慢の限界なんだろ。うん。
蒼生が好きなとこを、先でとんとん叩いてやる。
「あっ! ぁあ、あ……ん、あー……」
蒼生は頭を振る、でも拒絶じゃない。
その証拠に、足の先がオレの足を、腰を、引き寄せるように動いてる。
そこから腰を掴んで、奥に少し進む。
「……あ、あ、好き……っ、そこも好きぃ……そこ、ぐりぐりしてぇ……」
甘い声。たまんねぇ。
「あはっ……蒼生、めちゃくちゃえっちだなぁ」
「! ごめ……健ちゃんには、言って、も、あっ、いいかって、思っ、て……」
「嬉しい。もっと言って……。最高に可愛いよ……」
言われた通りに擦ると、蒼生はいっそう甲高い声をあげて体をよじった。
……あー。
もっと耳元で聞きてぇ。
オレはぐぐっと手を伸ばす。
「は、あっ」
そして蒼生の右手、手錠のロックを外す。わずかに腕を下げた蒼生は不思議そうな顔をした。
「外しちゃう、の……?」
「オレも蒼生にぎゅってしてほしくなった」
ぱっと蒼生の顔が、ちっちゃい頃みたいになる。それから、ふんわりとろける笑顔で、オレの背中に手を伸ばしてきた。
「えへへ……。健ちゃん、だいすき……っ」
う、ぞくっとした。
……んー。
動けないのが好き、っていうのも蒼生の本音だと思う。でも、こうやって抱き合うのも好きなんだろうな。どっちも蒼生らしい。どっちも可愛い。
オレの、背中で、じゃらりと鎖の音がした。うわ。それから、ふわっとした感触、外れた手錠が揺れる。背中をこする。ぞわぞわする。手。蒼生の手が、背中の骨のとこを、すっと撫でて。
「あっ」
「はー、ごめ、ちょっと、動くわ」
「ふふ……、うん、いま、おっきくなったもん、ねえ……。けんちゃ、も、きもちくなって?」
「……ん」
もーやべぇくらい気持ちいいんだけどな……。
ちょこっと、動きを速くする。蒼生の息が、追っかけるような速度になる。それを、キスで塞ぐ。蒼生は背中にあった手を、首に回してきた。
「……んんっ、ぅう~……」
離さねえつもり? かっわいい……。
そっと蒼生のちんこに手を伸ばす。熱くて、どくどくしてて、はっきり興奮してくれてんのがわかるの、嬉しい。
あー。
きもちい。
好き。
「……ぃく……っ」
「んーっ……」
蒼生が震えて、オレの手の中に射精した。その熱を感じたからかな、少し遅れて、オレも蒼生のナカに吐き出す。あー……。
はあっ、と蒼生は深呼吸をする。でも、乱れた息は、整えるのが大変そうだ。なんか可愛くて、その最中にキスで邪魔してるオレが言うのもなんだけど。
「もぉ……健ちゃんめ」
オレの両頬を手で挟んで、蒼生が睨んでくる。もちろん本気じゃねえから、それもやっぱり可愛い顔になる。
「だって、キスしたいんだからしょうがないと思うだろ?」
「う……。まあ、うん。それは、僕も思うけど……」
ほら。意見が一致した。
「じゃあいいじゃん」
オレは蒼生の両手をそっと外すと、もう一回唇にキスした。それから、頬に。首に。ころんとうつ伏せにして、肩に。さっき蒼生が手を這わせてくれたのと同じ位置の骨に。背骨に。それを舌でなぞって。
「や、あ、健ちゃん……、くすぐったい」
くすぐったい、かあ。オレはそっと腰の下に手を入れる。
「あっ」
「蒼生、勃ってる」
「……だって。健ちゃんだってそうじゃん。そのつもりでそこら中キスされたら、そ、その気になっちゃう」
「だよなあ」
ほんと。幼馴染みがこんなにえっちだったなんて、全然気付かなかった。ふわふわ優しくて穏やかだと思ってたのに。全部脱がしてみたら、拗ねたり照れたり困ったり表情豊かで、すごく可愛くて、すっごくえっちだった……なんて、もー、どんどん好きになっちゃうよな。
蒼生の腰を持ち上げて、膝で立たせる。すると蒼生はすっと両手をベッドについた。
「え、なんでわかるの」
「健ちゃん、これ好きだから」
あああああ。
臨戦態勢再びなんですけど。
「わかってくれるのさすが……。だけどさ、」
「っ!」
「蒼生はあんまりこのかっこ好きじゃないだろ?」
ごめん、言いながら、後ろから挿入れちゃってホントにごめん。
「あ、あ……っ。は、ん、3人で、する時は、やじゃない……。あ、顔が、見えな、い、のが、んんっ、好きじゃない、だけ……あー……」
えっちの仕方を勉強してる時に、この体勢のほうが負担が少ないってどっかのページに書いてあったのを見た気がする。けど、蒼生はそれより顔が見えるほうがいいって言う。
んー。
あ、そうだ。
「蒼生、ちょっとごめんな」
「ひゃ……ぁ」
蒼生の体を持ち上げ、ちょっと角度を変える。
「顔、上げてみな」
「え? ……っあ」
さっき気が付いた、鏡。蒼生は自分と目が合って、視線をきょろきょろと泳がせた。だよな、戸惑うだろ? 四つん這いで、真っ赤な顔して、後ろにオレがいるの。角度的にはどうかな、揺れる自分のちんこは見えてんのかな。
「見える? オレだよ。今、蒼生のナカにいるのは」
「う、ん……見える。健ちゃんだあ……」
蒼生は嬉しそうに笑う。
オレもちょっと嬉しかった。そりゃ、蒼生が気持ちよくなってる顔を見るのはいつだって出来るけどさ。オレが後ろから挿入れてるのと、それで蒼生が気持ちよさそうにしてるの、いっぺんに見れるなんて。ああ、なんか、いいなって。
「はぁ……あ、けんちゃ……けんちゃ……あ、ふぅ、う、き、もちぃ……」
蒼生は、最初こそ自分の顔を困ったように見てたけど、鏡の中のオレと目が合うと、そこから一度も視線を離さなかった。
ゆさゆさ揺れながら、ずーっとオレを見てる。
嬉しそうに見てる。
好きだ。
こんなに「好き」をぶつけられて、オレの好きも溢れちまう……。
あ。
よくない考えがふとよぎる。
蒼生。
あんまりにも可愛いから、ちょっとだけいたずらさせて。
オレはほったらかしだった、ローターの電源を改めて入れると、それを掴んだまま蒼生のちんこの先を握った。
「やっ!」
びくんと体中が跳ねる。
「あっ、あっ、あっ、だ、だめ、そこぉ……!」
きゅんっと蒼生がオレのちんこを締め付ける。っ。
「……きもちい?」
「ああっ、や、きも、ち、い、あ、だめだめ、もうイッちゃうから、だめえ!」
オレは蒼生のナカをかき混ぜて。
それでも手を離さない。
「あーっ、あ、や、あぁっ、けんちゃ、あっん、あっ」
「いいよ。イッて……?」
「っ! あ……あぁーっ……!」
びくびく、と腰が震えて。それから、ナカが、ぎゅーっとなって、ぐちゃぐちゃに搾り取るみたいに、……っ!
……うわぁ。もってかれた。
あー。
最高。
オレがそっと体を引くと、蒼生はその場にぺしゃんと潰れた。
「……大丈夫?」
「だ、だい、じょう、ぶ……。びっくりした、けど……」
「すげえな、道具ってやっぱちゃんとそれ用に作られてんだなあ」
咄嗟に放り投げちゃったけど、オレの脇でまだぶるぶるしてる、最後に蒼生が出したので白いまだら模様になったローターの電源を落とす。ありがとうございました。
「ね。きもちかった……。あの、もちろん健ちゃんがしてくれたからだよ?」
ちら、と蒼生がオレを見る。うう、可愛い。好き。
「蒼生、ちゅーしよ」
「ふふ。うん」
後ろから覗き込むように顔を近付けると、蒼生は振り向いてキスを受けてくれる。可愛い。
オレも蒼生の上に寝転んだ。重い、と苦情が来たけど、とぼけたらそれきり蒼生は何も言わなかった。へへ。
ふと、目を上げると、例の鏡が見える。だいぶ今回いい仕事してくれた鏡だ。顔を上げた蒼生と、また鏡の中で目が合った。
「なあ、蒼生。うちの寝室にもこういう大きな鏡欲しくね?」
「えー? クローゼットのとこに全身映せる鏡あるでしょ」
「だって足下のほうだからさ、ベッドからは見えないじゃんか。だからこういう使い方できないし」
蒼生は少し間を開けた。なんか考えてるかな。たぶん蒼生、鏡に映ったのを見るの、嫌じゃなかったんだと思う。だけど結局、首を横に振った。
「着替えには支障がないから、いらない。ベッドから鏡が見えて……夜中ふと目を覚まして何か映ってたら怖いからやだ」
「映画は好きなのに」
「作り物の怖いのは好きだけど、ほんとに怖いのはやだ!」
そう言って、蒼生は投げ出したままのオレの腕を引き寄せた。怖いの、思い出しちゃったかな。可愛い。
正直なとこ、まだ足りなかった。もっとベタベタして、いちゃいちゃして、また入った風呂の中で初めての風呂セックスしたかった。だけど、冬矢より遅く帰ったら何言われるかわかんねえからな。それに何より、蒼生を動けなくしちゃったら、帰るのに大変な思いをさせちまう。家だったら確実にあと2回はしてた。
冬矢はオレたちが出かけるって言うんで急遽バイト入れたんだよな。せめて帰ってくる前に辿り着けるかな、と淡い期待をしてたんだけど。
「おかえり」
あー。間に合わなかったかぁ。
いや、言われてねえよ、別になんにも。だけど、オレたちがデートしてて、冬矢が働いてて、そんでオレたちのが遅いってさすがに申し訳ねえと思うわけだよ。だけど、
「ただいまあ」
蒼生が近くでにっこり笑うと、冬矢も表情を崩した。簡単な奴だ。
「映画どうだった?」
「すっごく怖かった……。面白かったんだよ、話の流れが見事で、難しいんだけど引き込まれちゃう。だけど映像が綺麗だから余計に怖かった。ジェットコースターかな? ってくらいに怖いのの連続で」
「ああ、俺は観なくて正解だったな。……それで、その後はずいぶん同じ所に長くいたね?」
……あ。
こいつ、位置見てたな。そりゃ、蒼生が長時間戻ってこなかったら、心配になるよな。わかるわかる。でもおまえバイト中じゃなかったんか。
でもまあ、隠すことでもねえしな。
「雨降って来たからさ、ラブホ入ってた」
「なるほど。まあ、そうかなとは思ってたけど」
蒼生はぱっと顔を輝かせて、冬矢の腕を掴む。
「そう。初めて連れて行ってもらったんだけど、面白かったよ。いろんな部屋があって、今日はお城だったんだ」
「でも、めちゃくちゃちぐはぐなのな! インテリアがそれっぽいだけで、ドアふっつうだったし。ド派手に光る風呂とかあれ爆笑したもんな」
「城っぽいお風呂って期待して入ったら、大きな画面に、ぼこぼこバブルの出る浴槽だもんね。急に現実感~って感じだったよ」
冬矢はオレたちの話を面白そうに聞いてた。でも、冬矢には耳タコかもしんねえけどな。たくさんの女子とお付き合いしてたんだからさ。
「でもおまえは腐るほど行ってんだろ? 珍しい話でもねえか」
「は? 行ったことなんてないよ」
「は?」
オレと蒼生がハモった。蒼生までびっくりするとは思わなかったけど。
いや、それはともかく、冬矢が? マジで? さんざんとっかえひっかえしてた奴が? 行ったことねえの?
「え……。おまえ地元のとこは軒並み制覇してて、おすすめのホテルとか部屋の種類に至るまで情報網羅してるとかじゃねえの?」
冬矢は呆れたように息を吐いた。
「あのなあ。そういう付き合い方してた頃、俺がいくつだったと思っているんだ。例え相手が条件をクリアしていたとしても、子供が入れるわけないだろう」
あ、そっか。なんか数が多いって聞くから麻痺してたけど、そういえば蒼生と付き合い始めたのって高1だし、少なくともそれより前ってことだもんな。
でも、ふーん。条件をクリアするような相手とも付き合いがあったってことか。すげえな。
「え、じゃあ普段はどこで?」
「大体相手の家だったな。親がいない時間を狙って。でなければ空き……いや、この話はやめよう」
「なんでだよ、興味あんのに」
「蒼生に聞かせたくないんだよ」
……やべ。だよな、恋人の過去の付き合いなんて聞きたくねえよな。慌てて蒼生を見ると、あれ、蒼生? 冬矢の隣にいたはずの蒼生は、いつの間にかソファに座って映ってもいないテレビ画面を見ていた。
「あ、僕は平気なので、どうぞ続けていただいて」
いやいやいや、複雑な顔してんじゃん。
「ごめん、オレが調子に乗ったから」
オレは蒼生の隣に座りながらその顔を覗き込む。
「違うんだよ、僕が消化し切れてないだけで……」
そうだよなあ、オレだって蒼生の過去の恋人の話とか聞きたくねえもんな。いねえけど! オレが最初で最後だけど! そんなんいたら自分がどうなっちまうかわかんねえよ。
でも。
ちょっとだけオレも複雑。
「だけど、蒼生、オレの過去の話は平気だろ?」
なんで冬矢にだけ。
蒼生は、ものすごく難しいことを考えているような顔をする。
「…………。健ちゃんは逐一報告してくれてたし、今から考えると、その都度ショック受けてたよ。だから今更聞いても、その件については全部ショックを受け終えてるから、としか……」
「うっわ。ご、ごめん」
「健ちゃんのことも冬矢のことも過ぎたことだし、その頃付き合ってたわけじゃないから、僕に言えることは何もないわけで……余計に今どういう顔をしていいかの正解がわかんないんだよね」
んー。たしかに。オレもわからん。
冬矢が笑って反対側に座る。
「正直俺も、どこまで恋人の過去の話を知っているべきかなんて、答えはわからない。全員わからないことを考えても仕方ないんじゃないかな。それより、今日は楽しかったんだろ? 蒼生が楽しく過ごせたのなら何よりだよ」
少し蒼生の表情が緩む。
「うん。楽しかった。ラブホテル、今度は冬矢も一緒に行こうね」
「そうだね。俺の“はじめて”もらってくれる?」
「! うん」
蒼生はようやく嬉しそうに笑った。
あ、こいつ、今言質取ったな。蒼生と一緒に行く口実作ったな。
そうか、こいつの初ラブホは蒼生がもらってくのか。そう考えるとちょっと悔しい気がする。いやいや、でも蒼生の初はオレがもらったわけだし。むむ。
冬矢がそっと手を伸ばす。
「……でも蒼生、たまには……うん、いいや」
「冬矢?」
抱き寄せながらの冬矢の言葉に、蒼生は首を傾げる。
だけど、オレにはわかったよ、冬矢の言いたいことが。立場は一緒だもんな。そう、蒼生、えっちなことのお誘いってしてくれるんだよな。なのに、普通のデートのお誘いはまだ一度もしてくれたことないんだ。とはいえ、それを伝えて、蒼生に言わせるのも違うしなあ。いつかちゃんと言ってほしいな。
オレは蒼生の腰に手を回して引き寄せる。
「なんだ、まだ足りないのか」
冬矢から不満げな声。
「そりゃ、足りるわけがねえよな」
「たしかに」
いくら手に入れても、もっとほしくなる。
もっと。
大好きな蒼生。
その蒼生は、オレと冬矢の腕をぎゅっと両腕で抱き締めた。
「……あのさ。ああいうところって3人でも入れると思う?」
「!」
そんなこと考えてたのか。
「ふふ。じゃあそういうホテル、探してみようね」
ほんと、可愛いが溢れて止まんなくなる。
まあ、そうだな。
こいつがいても、きっと楽しいもんな。
間に蒼生がいて、ずーっと笑ってくれるからなあ。
そっと蒼生の手を握ると、蒼生はオレを見てふんわりと笑う。
あったかい手。
うん。
絶対、この手は離さない。
| 1 / 1 |
ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!
ステキ!を送ることで、作品への共感や作者様への敬意を伝えることができます。
また、そのステキ!が作者様の背中を押し、次の作品へと繋がっていくかもしれません。
ステキ!は匿名非公開で送ることもできますので、少しでもいいなと思ったら是非、ステキ!を送ってみましょう!

