高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2024年05月20日 22:50    文字数:14,297

52こ目;彼シャツチャレンジ

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休みのある日、のんびり過ごしていた3人の話題は「彼シャツ」に。
そこから始まるいつものいちゃいちゃ話。

なんだか奇抜というかちょっと偏った始まりのえっちばかり書いている気がしますが、
もちろん普段はそればかりではないです。
「しよ?」「うん、しよ」なことが多いです。
そんな話も、いずれ、きっと。

↑初公開時キャプション↑
2022/05/20初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1

 冬矢は脚の間に座らせた蒼生を後ろから抱き締めながら、その肩に顎を乗せて録画していた科学番組を眺めていた。
「重くない?」
 と蒼生が聞いたが触れ合う暖かさのほうが大切だった。
「邪魔じゃない?」
 とも聞かれたが、蒼生を邪魔だと思ったことなんて一度たりともない。
 外からの日差しは眩しく、暖かい。こんな穏やかな休日、腕の中で大人しく本を読んでいる蒼生の呼吸を全身で感じると、それだけで満たされる。すべてがこの手の中にあるようだ。
 見下ろせば、蒼生の手元にあるのは漫画の本で、例によって健太が友人から借りてきた本だ。しかし冬矢が見ている番組も気になるらしく、時折手を止めては画面を見つめている。
「すごいねえ、あれだけでいろんなことがわかっちゃうんだねえ」
 今は完全に画面に夢中になっていたらしい。同じところで感心していた冬矢は小さく笑う。蒼生は知的好奇心が強い。それにもともと論理的思考を好む者同士だ。趣味が合うんだろうな、と思う。
「蒼生、全然ページ進んでないね」
「えっ? あー、……どっちも面白くて、両方見ちゃう」
「なるほど。ちなみに、それはどういう話?」
「一言で言ったら、ラブコメかな。端から見たら完全に両想いなのに、どっちも無自覚で、面白いくらいすれ違うの」
 昔の誰かさんたちみたいだな、と冬矢は思う。矢印はお互いに向いているのに、その矢印の存在自体に気付いていない。それを知った自分は、自覚されてしまう前に、その間に入り込んで矢印の先を奪おうとした。けれど、蒼生はそれを捨てることなく、新しい矢印を作って冬矢に向けてきた。今でも変わらず、その矢印を両手でにこにこと無邪気にふたりに向け続けている。その純粋な姿が蒼生そのものだ。こんな愛しい存在、その両手の矢印ごと愛さずにいられるわけがない。
 冬矢は蒼生の首筋に唇を寄せる。蒼生が笑う気配。
「くすぐったい」
 その声の柔らかさに、思考が溶けそうになる。両腕に力を込めると、蒼生はぱたんと本を閉じて寄り掛かってきた。
「いいの? 面白いところだったんだろ」
「後で読むから、いいの。ちょうど突然の雨に降られた2人が主人公の家に駆け込んだシーンで、服がびしょびしょになっちゃって彼女が主人公の服を借りて着たのを見た主人公がこれって彼シャツじゃ? いや彼って! 自分はまだ彼氏じゃないし、え、まだ? ……って混乱してるとこだった」
 早口の説明に、つい笑ってしまう。
「それ、物語が動くところじゃないか。蒼生なら早く続きが読みたいと思いそうだけど、違った?」
「今は続きよりも、冬矢に甘えたくなっちゃった。だめ?」
「……駄目なわけないだろ。可愛いことを言うんだから」
 冬矢は蒼生の足を抱き上げ、横向きに蒼生を抱き締める。蒼生は嬉しそうに冬矢の肩に頬を寄せた。愛しい仕草。髪に唇を落とした途端、ぴくりと震える肩が可愛い。
 その蒼生が、ちらと目を上げる。
「冬矢は、してもらったことあるの?」
「何を?」
「彼シャツってやつ。こういうシチュエーションって憧れるもの?」
 ああ……と冬矢は曖昧に頷く。あるかないかで言えば、ある。だが、こちらからさせたことはない。すべて、脱いだ服を事後に勝手に着られた、というパターンだ。照れながら着る子やはしゃいで着る子がいたりしたが、自分の服に他人が袖を通すことそのものが気持ち悪いと思っていた冬矢にとっては、苦痛以外の何物でもなかった。そのうえ許可を得ずにされたことが、苛立ちをいっそう強くさせていたのだ。
 だがそれは蒼生に伝えることではない。
「……俺は、……今まで憧れるとかいいなとか、そんなふうに思ったことはないかな」
「そっかぁ」
「蒼生は気になる?」
「うーん、僕も別に。ほら、そういう場面になったことがないからさ。考えたこともなかったし。女の子が自分の服着てるの見るの、普通はどう思うものなのかなーって、ちょっと聞いてみたかっただけ」
「ふうん」
 なるほど、と思う。蒼生もまずは女の子に着させる、という想像をするのか。読んでいた本の視点で考えたのかもしれない。自分に当てはめるところまで考えが至っていないのだろうな、と思うが、一瞬でも蒼生の思考を奪った幻の誰かに嫉妬してしまう。
「……でも、蒼生が着てくれるならありかもしれないな」
「え? ……あ、そっか。僕たちで言ったらそうだね。僕が冬矢の……」
 ん、と蒼生が首を捻る。
「でもさ、最近、僕と冬矢って普通にお互いの服着てるよね」
「ほぼサイズも一緒だからな。だから、ああいう絵に描いたようなオーバーサイズにはならないね」
 ふたりの身長は冬矢のほうが高いが、数パターンしかない服のサイズでいえば同じだ。であれば、お互いの趣味で納得できる服を1着買えば、ふたりで着られる。収納場所が少なくて済むし、節約になるのではないか、と提案したのは冬矢だ。大学では学部が離れているし、指摘されることもほぼないと考えてのことだった。自分の着る服にほとんど興味がなく、気温に合っていればいいやと適当に考えている蒼生には、その提案に特に反対する理由はなかった。なので、最近は兼用出来そうな服を多く買っている。
 服の貸し借りすら嫌だった冬矢にとって、その提案は大きな崖を登るようなものだった。蒼生が着た服を自分が着て、また自分が着た服を着る蒼生を見て、不快に感じたらどうすればいいのだろうと不安で潰されそうになった。けれど、そんな心配は必要なかった。サイズ確認のために、お互いの服を交換した時。冬矢は「ぴったりだ」と笑った。蒼生も少し長めの裾を持って「うん」と笑った。それだけだった。蒼生さえいれば、崖なんてただの段差になってしまうのだ。
 あえて冬矢は、声のトーンを落とす。
「ということは、蒼生はずっと彼シャツしてるってことだね」
「……え」
「普段から、そんなえっちなことしてるんだ」
「っ……」
 蒼生がきゅっと体を縮める。
「や、今度から冬矢の服着てる時、へんなきもちになっちゃうから言わないで……」
 可愛い。だから追い打ちをかけたくなる。
「どうして? 考えていてよ。ずっと俺に抱き締められているんだって」
「そ、外で我慢できなくなっちゃう……」
「できなくなっちゃうの?」
「そしたら、冬矢も困るもん」
 公共の場ではしないという約束が染みついていることと、そういう気分になって真っ先にシてほしいと思うのは自分なのだということ。蒼生がそう認識していると思うと、じんわり熱い気持ちがこみ上げてくる。たまらず腰の辺りを撫でると、体がびくんと大きく震えた。
「蒼生……好きだよ……」
 答えの代わりに、はあ、と、濡れた吐息が耳に届き、かすかに指先で感じる温度が高くなる。
 がちゃり。
 リビングのドアが開く。
「お、なんだなんだ。真っ昼間からイチャついてんな」
「健ちゃん」
 冬矢は心の中で舌打ちする。実際に音にしてしまったら蒼生が気にするからだ。
「……おまえのタイミングってどうなってるんだ」
「どうもこうも、シャワー浴びる時間なんてこんなもんだろ」
 さっきランニングから帰ってきた健太は、そのままシャワーを浴びにいった。健太の言うことはもっともだと思うのだが、今まさにそういう雰囲気になりかけたところで戻ってくるとは。蒼生に何かあったらすぐにわかるセンサーでもついているのだろうか。
 健太はまっすぐふたりのもとに来ると、蒼生の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
「あっおーい。オレもいちゃいちゃに入れて」
「えへへ。うん」
「やったー」
 そのまま健太が蒼生の胸元にぐりぐりと頭を擦り付け、くすぐったそうに蒼生が笑う。その顔を見れば、冬矢の頭の中は蒼生で満たされてしまう。
「……本当に可愛いな、蒼生は……」
「へ?」
「なんだ、急に真実を口にして、どーした。ふたりして蒼生が可愛くてどうしようもないって話でもしてたのか?」
「え!? し、してない、少なくとも僕がそんなこと言うわけないでしょ。あのね、彼シャツってされたらどんなかなって話を」
「あー。オレが借りてきた本のやつか。はいはいなるほどなー」
 健太は納得して、胸に顔を埋めたままの位置で深呼吸をする。静かになったな、とふたりが思った途端。健太が突然がばっと顔を上げた。
「オレはしてほしい!!」
 バグったような大きな声に、蒼生と冬矢が揃って耳を塞ぐ。
「な、何?」
「だから、オレ、してほしい! そだ、ちょっと持ってくるから、待ってて!」
 急に立ち上がったかと思うとあっという間に寝室に駆け込んでいった健太を、蒼生はきょとんとした目で追う。
 が、冬矢には意図がはっきり見えている。故に、この後の展開があまりにも容易に想像できてしまう。思わず苦い笑いが浮かんだ。

 ずいぶん時間をかけて健太がクローゼットから引っ張り出してきたのは、ぴしっとしたワイシャツだった。入学式で着たスーツのものだろうか。
「これ! これ着て! お願い!」
 蒼生は首を傾げる。
「健ちゃんのを着てもそんなに変わんないと思うんだけど……」
 いくら健太の体格がいいからと言っても、大きな差はないはずだ。凹凸のなさも骨格自体も、同性なのだからそこまで変わらないだろう。ふたりと比べてしまえば頼りなく見えるかもしれないが、蒼生も決して華奢なわけではない。
 とはいえ健太がにこにこと差し出してくるので、蒼生はそれを受け取る。
「どうしてわざわざワイシャツを出してきたんだ?」
「って、そりゃ、見たかったからだよ」
「そうか」
 何故そこで冬矢も納得してしまうんだろう、と不思議に思いながら、蒼生は着ていたシャツを脱いでダイニングテーブルの椅子の背にかける。
「…………」
 蒼生がぴくりと肩を揺らす。後ろを向く格好になっているので見えはしないのだが、服を脱いだ辺りから、健太と冬矢が何も言葉を発さなくなった。こんなにあからさまに“視線を感じる”、ということがあるのだろうか。上半身をさらけ出したところで本当に今更なのだが、刺さる視線がくすぐったい気がする。
 が、それを気にしていてはキリがない。蒼生は糊の利いたワイシャツをばさりと広げる。きちんとたたまれて保管されていたものを、こんなことのためにわざわざ出さなくても、と思うのだが、健太のお願いなので仕方がない。袖を通すと、するりと腕が入る。素肌に、ひんやりとした感触。
 あれ、と思う。袖が長い。まっすぐ伸ばすと、手の甲が見えないくらいだ。まさか、と胸のボタンをとめにかかる。こちらは特に問題なくぴたりと……しているかと思ったが、胸元を引っ張るとずいぶん余裕がある。裾の脇側、短くなっている部分が腰どころか足の付け根を余裕で越えるのは、仕様だ、そのはずだ。
「ぼ、僕……健ちゃんとこんなに体格差ある……?」
 正直ショックを受けながら振り返る。案の定、完全に観覧体勢になっていたふたりは、ほぼ同時に頷いた。
「傍から見ていると結構違うよ」
「厚みがあるからな。そこに取られる分、長くなってんじゃねえか」
「袖が長くて手が出ない……なんかごそごそする……」
「蒼生って、手に布がかかるの苦手だよね。でも、そこを折ればオーバーサイズで通りそうな気もするけど」
 蒼生は自分の手を見る。冬矢の言うとおりだが、それにしても少し長い気がする。
 ぐっと健太が身を乗り出した。
「でも、彼シャツだろ。ズボン脱いでよ」
「えっ」
「だってああいうの、下履かないもんだろ?」
「あー……そう、かな……?」
 断言されて、蒼生が戸惑う様子を見せる。それでも素直にズボンのベルトに手をかけると、そこに追い打ちがかかった。
「下着もだよ?」
「ひぇ」
 言われてみれば、大体ああいう格好をするのは事後だ。それだけを着るというのが定義であるならば、たしかに健太の言うとおりかもしれない。とはいえ下着だけを単独で脱ぐのは、なんというか、刺激的すぎる気がする。なので、迷った挙げ句、下着をズボンと一緒に脱ぐ方法を選んだ。刺さってくる視線については、とりあえず気が付かなかったことにする。
「えっと……これでいい……?」
 ワイシャツ1枚になると、不安というわけではないが、とても心許ない感じがする。足が空気に触れて涼しいし、股間を隠すには長さがギリギリだ。それに、健太の目がなんだかやたらと真剣で。
「健ちゃん、その……満足した?」
「いや……」
 なにやら不穏な空気。蒼生は半歩後退る。
「満足どころか、逆だ、逆。めちゃくちゃ煽られた……!」
「させたの健ちゃんなのに!?」
「蒼生さん、ちょっともうひとつお願いが。ベッドに来てください」
 そう告げると、健太は勢いよく立ち上がり、ワイシャツを探しに行った時のように寝室に消えた。一体何が起ころうとしているのだろう。救いを求めて冬矢を見ると、冬矢は困ったように笑った。
「まあ、ついて行ってみようか。呆れるかもしれないけど、悪いようにはならないよ。……たぶん」
「冬矢でも確信持てないの?」
「あいつは突拍子もないことをし出すからな」
 溜め息をついて仕方なさそうにしながら、さりげなく冬矢が蒼生の肩を抱く。ふたりで寝室に入ると、健太は綺麗に整えられていた掛け布団をわざと膨らませたりへこませたりしていた。
「……どういう作業?」
「えっとね、この辺に座ってもらってもいいかな」
 答える気がないのか、話を聞く余裕がないのか、ベッドの手前側に作った窪みをぱんぱんと叩く健太。おそらく後ろのほうが正解だ。頭の中は、一刻も早く蒼生に触れることでいっぱいなのだろう。どちらにしても、理解するより従ったほうが早そうだ。蒼生は言われたあたりにぽすんと座る。
「あ、正座して、正座。それから横に崩れる感じ……出来る?」
「こう?」
「そうそう。さすが、蒼生、体柔らかいもんな。んでー、そっちの手で、大事なとこ見えちゃだめ、って感じで裾のあたり押さえて」
「……うん?」
「もう片っぽの手は、袖持って、口元隠して」
「…………」
 健太があまりにもいきいきと指示を出してくるので、素直に言うとおりにしてしまうが、正直混乱する。なんだこの状況は。
「あーっ、可愛い! やっぱ可愛い、最高に可愛いよ……! あと、ボタン、上から2個くらい外していい?」
「とっ、冬矢ぁ……」
 困り果てて、再び冬矢に助けを求める。壁に寄りかかって傍観することに決めたらしい冬矢が、ふっと笑った。
「悪いようにはなってないから、大丈夫じゃないか?」
「なってないかなあ、これ……」
 そこに、軽やかに響くシャッター音。蒼生はぱちぱちと目を瞬かせる。
「……あ、そういうこと?」
「写真撮っていい?」
「いいよ、けど、……絶対他の人に見られないようにしてね」
「あっ上目遣い可愛い! 恥ずかしそうな顔もめちゃくちゃ可愛い! もっちろん、厳重に管理する! オレだけしか見ないから! 冬矢にも見せないし!」
「おい」
「ふ、ふふっ」
「うわー、やっぱ笑った顔、最っ高に可愛い……はー、食べちゃいたい。体中……全部、舐めて、噛んで、味わい尽くしたい! あ、その顔も好き!」
 こうなってくると本当にどうしていいかわからない。健太の言葉に反射で応えるしかない。
 頭が真っ白になったところで冷静に考えると、完全に申請が後出しだったな、と気付く。だが、目の前の健太が嬉しそうなのでよしとする。もともと健太が蒼生に前もって許可を得ることは少ないのだ。いつだって許されると思っているから、遠慮がないのかもしれない。実際、そうなってしまうようにしたのは結果として蒼生であるし、今となってはそれが気持ちよくもあった。
「でも、健ちゃん。そんなに同じアングルばっかり撮ってて、後で見る時に飽きない?」
「飽きるわけないじゃん、一瞬一瞬で表情が違うんだから。びっくりするくらい全部可愛いよ。けど、だったら、そうだな」
 はあ、と息を吐いた健太が、ベッドに片膝を乗せる。
「おっきさせて……そのぬるぬるでシャツ濡らしてるとこが見たい」
「は?」
 声を上げたのは冬矢だ。蒼生は突然のセリフにさらに真っ白になって、理解が追いつかないようだ。
「……おまえは筋金入りだな」
「なんとでも言えよ。だって絶対可愛いだろ」
 両腕を落としてきょとんと見上げてくる蒼生の肩を、健太は後ろから手を回して、そっと抱く。
「ね。自分でおっきくできる?」
「っ……!」
 蒼生はそこでようやく言葉の意味が繋がったらしい、耳まで一気に赤くした。そして慌てたように肩に添えられた腕を掴み、ぶんぶんと首を振る。
「む、無理、はっ恥ずかしい……っ」
「じゃあオレがしてあげる」
「っあ」
 健太の手が優しく触れると、そこは既に熱を持っていた。
「あれ、ちょっとかたくなってる」
「……だ、だって、健ちゃんがえっちな言い方するから……」
「そっか、ずっと期待しちゃってたんだ」
 腕を掴む手がぴくっと動く。可愛い。布越しに爪で軽く擦ると、その手に力が入ってくる。根元のほうを擦れば耐えるように俯き、先端を弾けばはぁっと甘い吐息が漏れる。たまらず、そのままやんわりと手で包み込む。すると蒼生が潤んだ目を上げた。
「だめ、けんちゃ……」
「ん? なんで?」
「シャツ汚しちゃうからやだぁ……」
「! へぇ……」
 蒼生の言葉が健太のアクセルを踏んだらしい。健太は身を乗り出して蒼生にのしかかり、片手で抱き込む。
「もう手遅れじゃね? ほら、もう、染みてきてる」
 恐る恐る視線を落とした蒼生は、シャツの一部が透け、じわじわと赤い色をうっすら浮かべているのに気付いて、きゅっと体を縮こめる。が、健太は構わずその隙間で手を動かす。ぐちゅ、と濡れた音が響く。
「や、ぁ、あ……っ、こすれ、て、変な感じがする……っ」
 咄嗟に蒼生の手が押しとどめるように健太の腕を掴むが、健太は遠慮のないその手を止めなかった。蒼生の息が、どんどん乱れてくるのが、抱き締める腕に伝わってくる。その鼓動の早さに、つられてしまう。
「……っは、これ、我慢できねえや」
 ぱっと健太が体を離す。解放された蒼生がベッドに腕をついて大きく息をつき、寸前まで高められた快感をこらえるように、足指をぎゅっと曲げる。けれど健太は蒼生が落ち着くまで待つことはせず、両足首を掴むと自分のほうに引き寄せ、足を投げ出す格好にさせる。バランスを崩した蒼生が両手を後ろについた隙に、健太は足の間に体を滑らせ、露わにした自らのペニスを布越しに擦りつけた。
「あぁ……っ!」
 同じ熱さを感じて、蒼生が背を反らせる。
「蒼生ぃ……」
「んんっ、あ、け、んちゃ、んっ……」
 健太は両手でお互いのペニスを包み込み、まとめてこすり上げる。シャツが間にあることで、動かしづらく感覚がいつもと違う。だがそれすらも刺激になる。
 蒼生は倒れないように手を突っ張るが、がくがくと震えて体勢が上手く保てない。ついに、ぐら、と体が傾く。そこに、いつの間にかベッドに上がってきた冬矢が、そっと抱き締めるようにその体を支えた。
「……ふぁ」
 安心したように、蒼生の腕から力が抜け、冬矢に体を預ける格好になる。それで健太の手に集中出来るようになったのだろう、体の震えが大きくなる。
 そういうことだとは思うが、少々悪態のひとつもつきたくなるのは当然だし、許されるはずだ。
「……なんだ、今日はおまえ見学じゃなかったのかよ」
「おまえがやりたいのがどんなことなのかを見ていただけだ。本格的に蒼生に触るなら、黙って見ているわけがないだろう」
 蒼生はそのやりとりを聞いて「うれしい」と思う。内容を考えている余裕はなかった。ただ、頭上でやりとりがされている。ふたりに挟まれている。それが気持ちよさを増幅させる。
「やぁ……止めないで、ぇ……」
「ん、ごめんな、ほら」
「ぅ、ふ……ぅんっ、あっ、あ、あ、健ちゃん……っ、ぼ、く、ぁ、もう……っ」
「あー、さすが、オレと蒼生……。そういう、とこも、一緒になんだな……」
 ちらりと健太を見た冬矢が、蒼生の首筋に唇を落とす。おそらく健太だけが蒼生を気持ちよくしていることに嫉妬しているんだろうなと、脳の片隅で思う。が、すぐにそんな些細なことは頭から飛んでいった。
「っ、う、けんちゃ……あぁっ」
「蒼生……っ!」
 ほぼ同時に、ふたりは体を震わせる。
 はあっと大きく息を吐いた蒼生の髪を、冬矢が優しく撫で、そのまま唇を合わせた。吐息さえも奪いたいほど、冬矢も余裕がないのだろう。
 とろりとした目をふたりに向けた蒼生が、ことんと首を傾げた。
「……いれる?」
 小さな声。笑った冬矢が頷くと、一拍遅れて健太がぶんぶんと頭を縦に振る。
「じゃ、ちょっと、タイム」
 健太は首を痛めるのではないかというほど一層激しく頭を振った。

 戻った蒼生が寝室を覗くと、声を上げる暇もなく、すぐさま健太に捕まった。
「おかえり! お待たせ!」
 お待たせ? 準備のために待たせていたのは自分なのに、と思いながら肩越しに部屋を見る。すると、掛け布団がどかされ、シーツが整えられ、ゴムとローションが綺麗に並べられている。ふたりの姿も下着1枚だ。そうか、ただ待たせたわけではなく、自分たちも準備をしていた、というふたりの気遣いなのだ。蒼生はくすぐったい嬉しさでいっぱいになった。
 冬矢が蒼生の肩を撫でながら、触れるだけのキスをする。
「続き、しようね」
「うん!」
「お願いした通り、さっきのシャツ着てきてくれたんだ」
「うん、でももう、かぴかぴになっちゃってる」
「そいじゃ、また濡らすかぁ」
「あはは、そういうふうに解釈する?」
 笑い合いながら、3人はベッドに飛び込むように倒れ込む。
 蒼生は、シャツを着ているせいでふたりの肌に直接触れさせてもらえないことを一瞬もどかしく思う。
 が、横たわった瞬間、ふたりの目の色が変わった。
 それに気付いてしまうと、頭がそれでいっぱいになる。腰のあたりがぞくぞくして、胸が締め付けられる。ぎらりと光るその色は、欲情の色だ。自分を抱きたい、という明確な意思だ。優しいふたりが、攻撃的な目を見せてくれる。それだけでイッてしまいそうになる。
「蒼生……触るね」
 けれど、声は、触れる手は、やはり優しい。
「ん、うん……っ」
 冬矢の長い指が、蒼生の、ふたりを受け入れたくてひくひくと震える場所を柔らかく撫で、そのままつぷりと入り込んで来る。あっ、と呟いた健太の指も、抜け駆けを咎めるように追いかけてくる。
「……っあ、あーっ……」
 蒼生の中でバラバラに動く指は、まるで競うように気持ちいい場所を探していく。まるで張り合うふたりの姿そのものだ。個性はぶつかり合うのに、蒼生を気持ちよくしたい、というところで一致する。その重なり合う思いが、とても気持ちいい、と思う。
「蒼生……、蒼生、好き……」
「可愛いね、蒼生……」
 そして同時に、頬に、耳に、額に、髪に、唇に。ふたりがかりで左右から降らされるキスの雨。
「……気持ちぃ……」
 優しくゆりかごを揺らされるような、穏やかな愛撫だ。ぬるま湯に浮いているようだと言ってもいいかもしれない。それは心地よいが、「けど」と思う。次第に、腹の奥、深いところがじわりじわりとうずいてくる。内側から触れて欲しいと暴れ出してしまいそうな、熱。
「……あ……あの、ね」
「ん?」
「いっ……挿入れて、ほしい……んっ……。おなかの奥がぎゅってする……」
「どっちに?」
「え」
 意地悪く冬矢が笑う。驚いて少し考えていた蒼生は、どうしようもなくなって目を泳がせる。
「……や、だぁ……どっちも、がいい、のに」
「ふふ、ごめん。冗談だよ。今日は健太が先だって」
「健ちゃん……?」
「うん。オレの服着てくれてるんだから、オレが先でしょ」
「納得できない理屈だけどな」
 そっか、とほっとする。健太が先。つまり、冬矢が後だ。ふたりとも、ちゃんと奥に触れてくれるつもりなのだ。
 健太に向かって手を伸ばす。
「け、んちゃぁ……おねがい、ちょうだい……」
「後ろからしても、いい?」
「うん、ぅん」
 笑った健太が、軽いものでも持ち上げるように、蒼生の身体をひっくり返す。あっという間に四つん這いの姿にさせられる。
 ふたりの指を感じていた穴が空気にさらされ、きゅっと寂しくなったのがバレたのだろうか。冬矢が体を起こし、笑いながらキスをくれた。
 それにやきもちを妬いた健太が、後ろからのしかかってくる。
「蒼生ぃ……もう挿入ってもいいよな?」
「ん、きてぇ……」
 吐息混じりの蒼生の言葉に満足したのか、健太ははち切れそうになったペニスをそっとあてがう。くち、と濡れた音。
「おじゃましまーす」
「あー……ッ」
 そこの熱さが、ぶわっと身体中に広がる。蒼生の中で健太の塊がどんどんと存在感を増していくたび、胸が少しずつ締め付けられていく。それは、「嬉しい」という感情そのものだ。
「あ、あ、ふか、ぁ」
 本当に、胸のほうまで届いているような気すらする。
 熱い。
 胸の奥が。
 ぎゅっとシーツを握り締める。
「……っは、きもち……」
「あ、はーっ、……あっ、あ、うぁ、ん……ぼ、僕、も……っ」
「あのね……オレが、蒼生に出たり入ったりするのが、シャツで見え隠れしてて……すっごいえっち」
「! や、やだぁ、なに、見、てぇ……」
「すげえ、なんかイケナイことしてるみたい……」
 健太の言葉に、下腹部がきゅっとなる。
 いけない、こと。
 冬矢がにやっと笑った。
「もっとそういう気分を味わわせてあげようか」
 蒼生と健太は同時にクエスチョンマークを頭に浮かべる。冬矢は構わず、シーツを握る蒼生の両手を片手でまとめると、そのまま体から離すようにずるずると引っ張っていく。
「え、冬矢、なに……っんぅ」
 体を支えきれなくなり、蒼生はシーツに顔を突っ込んだ。
「どう?」
「ぅ!」
 突っ伏す形になったのに気付き、蒼生が目を見開く。健太に腰を抱えられ、冬矢に手を押さえられている、この体勢は。
「っ、たしかに、めちゃくちゃイケナイ感じだな、こりゃ」
 健太は短く息を吐く。シャツのままの蒼生を見下ろす光景。しかも自分のモノが、動けない蒼生のナカにある。そう思うと頭がかーっとなって、そのままずくんと下半身に血が集まっていくのがわかる。その熱さにびくりと反応する蒼生に、つい勢いをつけて腰を打ち付けてしまった。
「うーっ!」
 蒼生のこもった声。
 蒼生自身も、冬矢に押さえつけられて、健太に好きにされている状況に、ひどく気分が高揚する。自分の声がシーツに吸い込まれていくのも、好きなだけ叫んでいいと許されているようで。
「はー、すご……。蒼生、ナカ、きゅんきゅんしてる……気持ちいい……」
「んーっ、ん、ふぅんっ、ん、ん、……んーっ、うーっ……」
 冬矢も耳に届くその声に突き動かされそうになる。そのまま背中を這い上がるぞくりとした感覚に溺れそうになって、なんとかこみ上げる感情を抑えこむ。蒼生が喘ぎながら、指を泳がせて、自分の手に絡みつこうとしている。早く、早く終われと頭の中が騒がしい。
「あ、あお、い……っ、すっげ……締まる、ちょっと、力抜ける……っ?」
「んーん……っ、むぃ、れきな、いぃ……」
「……っ。これ、やべぇ、……もってか、れ……」
「ううぅ、ん、んーっ、ぅ」
「イ……っ!」
 びくっ、健太が震える。
 一度、二度。
 震えながら、薄い膜の中に精を吐き出す。
 はあっ、と息をつくが、蒼生は顔を上げない。上げられない。
「あー、ごめん。オレ先にイッちゃって」
「んん……っ」
 ぼんやりする頭では、そう呻くだけで精一杯だった。
 黙っていた冬矢がすっと手を離し、蒼生を抱き締めて自分のほうに引き寄せる。
「ひぁっ……」
「あっ!」
 無理矢理引き抜かれる形になって、蒼生と健太が同時に声を上げた。
「おま、冬矢、そりゃねえだろ……」
「うるさいな。ここまで待ってやったんだ。こっちだって限界なんだよ」
 言いながら蒼生を仰向けに転がしたかと思うと、覆い被さるようにキスをした。蒼生の驚いた顔が、瞬時にとろける。
「もっとじっくりしてあげたいけど、それは後でいい?」
 キスの合間に聞く。潤んだ目が冬矢を見上げてくる。
「ん、うん、いれて、いれて」
「可愛い……」
 もう一度キスを。すると、蒼生の手が泳いで、冬矢の首にすがりつく。既に準備を終えていた冬矢は、それに目を細め、蒼生の中にゆっくりと挿入っていく。
「んぅ……っ、ん」
 健太の形に馴染んでいたそこは、あっという間に冬矢を受け入れる。そしてすぐに柔らかく冬矢を包み込んでくる。
「……蒼生、じょうず。ちゃんと俺をナカで覚えてるね」
「あ、ぁう、ん、うんっ……」
 理解しているのかどうか、蒼生は背中全体を押し上げるような心地よい感覚に浮かされながら、ただ、頷く。ぴくぴくと小さな震えが冬矢に伝わっていることも気付かないように、先程までと違う鼓動を身体の奥で感じていた。冬矢は、優しくくすぐるように、それでも的確に気持ちいい場所を捏ねてくる。
 ふと、冬矢の指がついっと動き、シャツの上から乳首を掻いた。
「ふぁっ……?」
 服に完全に覆われた胸元には触れられないと思っていたのだろうか、蒼生は大きく見開いた目をぱちぱちと瞬かせた。
「ああ、触ってないのにこんなに硬くしてたんだ。待ってたんだね」
「っあ……、あ、や、くすぐ、った……っ」
 蒼生は身体をよじる。いつもならすぐに気持ちいいと思えるのに、少し硬い生地越しのせいか、くすぐったい感覚が強い。冬矢もそれをわかっているようで、敢えてひたすら引っ掻く。
「とぉ、やぁ……」
「もどかしいね? でもそれが気持ちいいんだろ。蒼生のナカ、俺の指が動くのと一緒に絡みついてくるよ」
「うー……」
 指摘されると意識してしまう。冬矢にバレないようにと思えば思うほど、繋がっているところが乳首の刺激と同時にひくついているのが自分でわかってしまう。頭より先に、身体が気持ちいいと訴えてくる。
 蒼生の腕から力が抜ける、そのわずかな隙間を見つけて、健太が頭を割り込ませる。もちろん、健太が黙って見ているだけとは思えないので、冬矢には想定内だ。少し体をずらしてやると、身を乗り出した健太は蒼生についばむようなキスを数回して、その唇を反対側の胸元に下ろしていく。
「……っあ、ああ、ん、っけ、んちゃ」
 咄嗟に伸ばされた蒼生の腕を掴み、健太は布越しに探るように乳首を舐め上げる。
「ひっ、ぁ」
 唾液に濡れた熱い布がまとわりつく感覚に、蒼生はふるふると首を振った。待って、の意味だとふたりはすぐにわかる。けれど待てない、待つつもりはない。
 冬矢は乳首を弾きながら蒼生のナカを丁寧に捏ね回していく。健太は乳首を吸い、それでも足りずにシャツに手を差し入れて蒼生のペニスをやんわりと握る。
「あ!」
 蒼生の腰が大きく反る。
「や、あ、あ、はぁ、う、ぁあっ、ん、ちゃ……っ、あ、……ぉやっ」
 声が言葉を成さない。
 翻弄されて、こぼれ落ちる音にしかならない。
 そもそも、言葉は成り立つはずがなかった。
 ただ、ひたすら、「きもちいい」という感覚で溢れて。
 それを表す言葉なんて出てこない。
 身体のすべてから、せり上がっていく何かに身を委ねるしかなかった。
「イッ……あ、も、あぁっ、はぁ、あ、イッちゃ……」
 胸からようやくそれだけが吐き出せた。
 揺られる。
 白い。
 景色が、白く。
「ああぁー……っ!」
 解放。
 再びシャツを内側から汚した蒼生は、高いところから落ちてきたような気がして、ぱたんと腕をシーツに投げ出した。
 冬矢はずるりと身を引くと、ゴムを剥ぎ取り、自らペニスを擦って蒼生の足に吐精する。半分ほどが勢いでシャツにかかるのを、蒼生はぼうっと眺めていた。
「オレのシャツなんですけど」
 心臓の音ばかりが響いて現実から離れてしまったような蒼生の耳に、ふいに不満げな健太の声が飛び込んできて、思わず笑ってしまった。そのおかげで、乱れた呼吸はまったく整ってくれる様子もないが、ふわふわしていた頭のほうはようやく動き出す。しかも、健太に文句を言われても冬矢がしれっとしているのがまた面白い。
「ふ、ふふ……っはぁ……」
 笑っているような息を乱しているような蒼生に、すぐふたりの優しい顔が近付いて来た。
「大丈夫?」
「ん、うん……」
 撫でてくれる手。熱い、も好きだが、こんなふうに暖かいのもとても好きだと思う。
「……シャツ。3人ぶん汚れちゃってるし、もう手遅れだと思う……」
 言うと、健太も笑った。
「だな」

 とはいえ、余所行きの服をずいぶん派手に汚したことは確かだ。クリーニングに出すことも考えなければならないが、当然そのままというわけにはいかない。
 さすがに健太もそれは理解しているようで、蒼生から脱がせたシャツを抱えると、下着姿のまま洗面所のほうに走って行った。
「……くしゅっ」
 見送った途端、くしゃみが出た。ずっと着たままシていたのを、今になって裸になったのだから、寒く感じるのは当然だろう。そういえば服はリビングに置いたままだった。取りに行きたいところだが、まだ力が入らず、ベッドに座り込むので限界だ。
 その肩に、ぱさりと何かが掛かる。
「ありがと」
「いいえ」
 冬矢がしてくれたのだとすぐわかったのでお礼を言ってから、自分の肩を見る。いつも冬矢が室内で上着にしているパーカーだ。ふわっと、冬矢の匂いがする。
「……なるほど」
「え?」
 顔を上げると、冬矢はベッドサイドから感慨深げに蒼生を見下ろしている。
「普段着で彼シャツっていうのも悪くなかったが、裸に羽織らせるだけっていうのもなかなか興奮するね」
「ひぇ」
 急に恥ずかしい気がして、蒼生は慌てて袖に腕を通した。“羽織る”よりは着ているほうが恥ずかしくないように思ったからだ。が、冬矢の匂いがもっと強くなって、しまったと思う。
「蒼生?」
「…………。でも、たっ、たしかに……終わった後も好きな人の匂いに包まれてるのって、……幸せかも」
「ふうん」
 蒼生の体がわずかに傾く。冬矢がベッドに上ってきたのだ。
「せっかくなら、直接包まれたほうがいいんじゃないかな」
 正面に座り、蒼生の腰を抱く。
「え……もう一回するの?」
「さっきは健太のを着たままだったろ。今度は俺の番。だめ?」
「駄目……じゃない。……えへへ……嬉しい」
「蒼生には彼氏がふたりいるんだから。頑張らないとね」
「ふふ、はーい」
 蒼生はふんわりと笑って冬矢の肩に手をかけた。
 そこに健太が戻ってくる。
「え! ちょっと待って、オレもオレも!」
「あはは」
 健太は慌ててベッドに飛び乗ると、蒼生を後ろから抱き締める。が、すぐにその手が止まった。
「どしたの?」
「……オレが抱き締めてるのは蒼生なのに、触ってんのは冬矢の服じゃん。複雑……」
 こらえきれず、蒼生が噴き出す。言われてみればその通りだ。
「言っておくが、さっきは俺がそう思っていたんだからな」
「さっき……。あ、おまえオレの服汚したよな。っし、こうなったらさっきの仕返しだ! 見てろよ、ぐちゃぐちゃにしてやるからな!」
 それを聞いた蒼生が、ちらっと健太を横目に見る。
「ぐちゃぐちゃにするの? 冬矢の服を? ……それとも、僕を?」
「!!」
 健太のみならず、冬矢もぴたりと動きを止めた。
 それからすぐ、ふたりがかりで蒼生をベッドに突き倒す。
「……蒼生をぐちゃぐちゃにします」
 健太の言葉を聞いた蒼生は、にこにこと笑っている。
「……きて?」
 差し伸べられた両手に、ふたりが迷わず飛び込んだのは、言うまでもない。

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52こ目;彼シャツチャレンジ

キーワードタグ 僕+君→Waltz!  創作BL  創作BL小説  一次創作  BL  幼馴染  三角関係  3P  R18 
作品の説明 休みのある日、のんびり過ごしていた3人の話題は「彼シャツ」に。
そこから始まるいつものいちゃいちゃ話。

なんだか奇抜というかちょっと偏った始まりのえっちばかり書いている気がしますが、
もちろん普段はそればかりではないです。
「しよ?」「うん、しよ」なことが多いです。
そんな話も、いずれ、きっと。

↑初公開時キャプション↑
2022/05/20初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
52こ目;彼シャツチャレンジ
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 冬矢は脚の間に座らせた蒼生を後ろから抱き締めながら、その肩に顎を乗せて録画していた科学番組を眺めていた。
「重くない?」
 と蒼生が聞いたが触れ合う暖かさのほうが大切だった。
「邪魔じゃない?」
 とも聞かれたが、蒼生を邪魔だと思ったことなんて一度たりともない。
 外からの日差しは眩しく、暖かい。こんな穏やかな休日、腕の中で大人しく本を読んでいる蒼生の呼吸を全身で感じると、それだけで満たされる。すべてがこの手の中にあるようだ。
 見下ろせば、蒼生の手元にあるのは漫画の本で、例によって健太が友人から借りてきた本だ。しかし冬矢が見ている番組も気になるらしく、時折手を止めては画面を見つめている。
「すごいねえ、あれだけでいろんなことがわかっちゃうんだねえ」
 今は完全に画面に夢中になっていたらしい。同じところで感心していた冬矢は小さく笑う。蒼生は知的好奇心が強い。それにもともと論理的思考を好む者同士だ。趣味が合うんだろうな、と思う。
「蒼生、全然ページ進んでないね」
「えっ? あー、……どっちも面白くて、両方見ちゃう」
「なるほど。ちなみに、それはどういう話?」
「一言で言ったら、ラブコメかな。端から見たら完全に両想いなのに、どっちも無自覚で、面白いくらいすれ違うの」
 昔の誰かさんたちみたいだな、と冬矢は思う。矢印はお互いに向いているのに、その矢印の存在自体に気付いていない。それを知った自分は、自覚されてしまう前に、その間に入り込んで矢印の先を奪おうとした。けれど、蒼生はそれを捨てることなく、新しい矢印を作って冬矢に向けてきた。今でも変わらず、その矢印を両手でにこにこと無邪気にふたりに向け続けている。その純粋な姿が蒼生そのものだ。こんな愛しい存在、その両手の矢印ごと愛さずにいられるわけがない。
 冬矢は蒼生の首筋に唇を寄せる。蒼生が笑う気配。
「くすぐったい」
 その声の柔らかさに、思考が溶けそうになる。両腕に力を込めると、蒼生はぱたんと本を閉じて寄り掛かってきた。
「いいの? 面白いところだったんだろ」
「後で読むから、いいの。ちょうど突然の雨に降られた2人が主人公の家に駆け込んだシーンで、服がびしょびしょになっちゃって彼女が主人公の服を借りて着たのを見た主人公がこれって彼シャツじゃ? いや彼って! 自分はまだ彼氏じゃないし、え、まだ? ……って混乱してるとこだった」
 早口の説明に、つい笑ってしまう。
「それ、物語が動くところじゃないか。蒼生なら早く続きが読みたいと思いそうだけど、違った?」
「今は続きよりも、冬矢に甘えたくなっちゃった。だめ?」
「……駄目なわけないだろ。可愛いことを言うんだから」
 冬矢は蒼生の足を抱き上げ、横向きに蒼生を抱き締める。蒼生は嬉しそうに冬矢の肩に頬を寄せた。愛しい仕草。髪に唇を落とした途端、ぴくりと震える肩が可愛い。
 その蒼生が、ちらと目を上げる。
「冬矢は、してもらったことあるの?」
「何を?」
「彼シャツってやつ。こういうシチュエーションって憧れるもの?」
 ああ……と冬矢は曖昧に頷く。あるかないかで言えば、ある。だが、こちらからさせたことはない。すべて、脱いだ服を事後に勝手に着られた、というパターンだ。照れながら着る子やはしゃいで着る子がいたりしたが、自分の服に他人が袖を通すことそのものが気持ち悪いと思っていた冬矢にとっては、苦痛以外の何物でもなかった。そのうえ許可を得ずにされたことが、苛立ちをいっそう強くさせていたのだ。
 だがそれは蒼生に伝えることではない。
「……俺は、……今まで憧れるとかいいなとか、そんなふうに思ったことはないかな」
「そっかぁ」
「蒼生は気になる?」
「うーん、僕も別に。ほら、そういう場面になったことがないからさ。考えたこともなかったし。女の子が自分の服着てるの見るの、普通はどう思うものなのかなーって、ちょっと聞いてみたかっただけ」
「ふうん」
 なるほど、と思う。蒼生もまずは女の子に着させる、という想像をするのか。読んでいた本の視点で考えたのかもしれない。自分に当てはめるところまで考えが至っていないのだろうな、と思うが、一瞬でも蒼生の思考を奪った幻の誰かに嫉妬してしまう。
「……でも、蒼生が着てくれるならありかもしれないな」
「え? ……あ、そっか。僕たちで言ったらそうだね。僕が冬矢の……」
 ん、と蒼生が首を捻る。
「でもさ、最近、僕と冬矢って普通にお互いの服着てるよね」
「ほぼサイズも一緒だからな。だから、ああいう絵に描いたようなオーバーサイズにはならないね」
 ふたりの身長は冬矢のほうが高いが、数パターンしかない服のサイズでいえば同じだ。であれば、お互いの趣味で納得できる服を1着買えば、ふたりで着られる。収納場所が少なくて済むし、節約になるのではないか、と提案したのは冬矢だ。大学では学部が離れているし、指摘されることもほぼないと考えてのことだった。自分の着る服にほとんど興味がなく、気温に合っていればいいやと適当に考えている蒼生には、その提案に特に反対する理由はなかった。なので、最近は兼用出来そうな服を多く買っている。
 服の貸し借りすら嫌だった冬矢にとって、その提案は大きな崖を登るようなものだった。蒼生が着た服を自分が着て、また自分が着た服を着る蒼生を見て、不快に感じたらどうすればいいのだろうと不安で潰されそうになった。けれど、そんな心配は必要なかった。サイズ確認のために、お互いの服を交換した時。冬矢は「ぴったりだ」と笑った。蒼生も少し長めの裾を持って「うん」と笑った。それだけだった。蒼生さえいれば、崖なんてただの段差になってしまうのだ。
 あえて冬矢は、声のトーンを落とす。
「ということは、蒼生はずっと彼シャツしてるってことだね」
「……え」
「普段から、そんなえっちなことしてるんだ」
「っ……」
 蒼生がきゅっと体を縮める。
「や、今度から冬矢の服着てる時、へんなきもちになっちゃうから言わないで……」
 可愛い。だから追い打ちをかけたくなる。
「どうして? 考えていてよ。ずっと俺に抱き締められているんだって」
「そ、外で我慢できなくなっちゃう……」
「できなくなっちゃうの?」
「そしたら、冬矢も困るもん」
 公共の場ではしないという約束が染みついていることと、そういう気分になって真っ先にシてほしいと思うのは自分なのだということ。蒼生がそう認識していると思うと、じんわり熱い気持ちがこみ上げてくる。たまらず腰の辺りを撫でると、体がびくんと大きく震えた。
「蒼生……好きだよ……」
 答えの代わりに、はあ、と、濡れた吐息が耳に届き、かすかに指先で感じる温度が高くなる。
 がちゃり。
 リビングのドアが開く。
「お、なんだなんだ。真っ昼間からイチャついてんな」
「健ちゃん」
 冬矢は心の中で舌打ちする。実際に音にしてしまったら蒼生が気にするからだ。
「……おまえのタイミングってどうなってるんだ」
「どうもこうも、シャワー浴びる時間なんてこんなもんだろ」
 さっきランニングから帰ってきた健太は、そのままシャワーを浴びにいった。健太の言うことはもっともだと思うのだが、今まさにそういう雰囲気になりかけたところで戻ってくるとは。蒼生に何かあったらすぐにわかるセンサーでもついているのだろうか。
 健太はまっすぐふたりのもとに来ると、蒼生の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
「あっおーい。オレもいちゃいちゃに入れて」
「えへへ。うん」
「やったー」
 そのまま健太が蒼生の胸元にぐりぐりと頭を擦り付け、くすぐったそうに蒼生が笑う。その顔を見れば、冬矢の頭の中は蒼生で満たされてしまう。
「……本当に可愛いな、蒼生は……」
「へ?」
「なんだ、急に真実を口にして、どーした。ふたりして蒼生が可愛くてどうしようもないって話でもしてたのか?」
「え!? し、してない、少なくとも僕がそんなこと言うわけないでしょ。あのね、彼シャツってされたらどんなかなって話を」
「あー。オレが借りてきた本のやつか。はいはいなるほどなー」
 健太は納得して、胸に顔を埋めたままの位置で深呼吸をする。静かになったな、とふたりが思った途端。健太が突然がばっと顔を上げた。
「オレはしてほしい!!」
 バグったような大きな声に、蒼生と冬矢が揃って耳を塞ぐ。
「な、何?」
「だから、オレ、してほしい! そだ、ちょっと持ってくるから、待ってて!」
 急に立ち上がったかと思うとあっという間に寝室に駆け込んでいった健太を、蒼生はきょとんとした目で追う。
 が、冬矢には意図がはっきり見えている。故に、この後の展開があまりにも容易に想像できてしまう。思わず苦い笑いが浮かんだ。

 ずいぶん時間をかけて健太がクローゼットから引っ張り出してきたのは、ぴしっとしたワイシャツだった。入学式で着たスーツのものだろうか。
「これ! これ着て! お願い!」
 蒼生は首を傾げる。
「健ちゃんのを着てもそんなに変わんないと思うんだけど……」
 いくら健太の体格がいいからと言っても、大きな差はないはずだ。凹凸のなさも骨格自体も、同性なのだからそこまで変わらないだろう。ふたりと比べてしまえば頼りなく見えるかもしれないが、蒼生も決して華奢なわけではない。
 とはいえ健太がにこにこと差し出してくるので、蒼生はそれを受け取る。
「どうしてわざわざワイシャツを出してきたんだ?」
「って、そりゃ、見たかったからだよ」
「そうか」
 何故そこで冬矢も納得してしまうんだろう、と不思議に思いながら、蒼生は着ていたシャツを脱いでダイニングテーブルの椅子の背にかける。
「…………」
 蒼生がぴくりと肩を揺らす。後ろを向く格好になっているので見えはしないのだが、服を脱いだ辺りから、健太と冬矢が何も言葉を発さなくなった。こんなにあからさまに“視線を感じる”、ということがあるのだろうか。上半身をさらけ出したところで本当に今更なのだが、刺さる視線がくすぐったい気がする。
 が、それを気にしていてはキリがない。蒼生は糊の利いたワイシャツをばさりと広げる。きちんとたたまれて保管されていたものを、こんなことのためにわざわざ出さなくても、と思うのだが、健太のお願いなので仕方がない。袖を通すと、するりと腕が入る。素肌に、ひんやりとした感触。
 あれ、と思う。袖が長い。まっすぐ伸ばすと、手の甲が見えないくらいだ。まさか、と胸のボタンをとめにかかる。こちらは特に問題なくぴたりと……しているかと思ったが、胸元を引っ張るとずいぶん余裕がある。裾の脇側、短くなっている部分が腰どころか足の付け根を余裕で越えるのは、仕様だ、そのはずだ。
「ぼ、僕……健ちゃんとこんなに体格差ある……?」
 正直ショックを受けながら振り返る。案の定、完全に観覧体勢になっていたふたりは、ほぼ同時に頷いた。
「傍から見ていると結構違うよ」
「厚みがあるからな。そこに取られる分、長くなってんじゃねえか」
「袖が長くて手が出ない……なんかごそごそする……」
「蒼生って、手に布がかかるの苦手だよね。でも、そこを折ればオーバーサイズで通りそうな気もするけど」
 蒼生は自分の手を見る。冬矢の言うとおりだが、それにしても少し長い気がする。
 ぐっと健太が身を乗り出した。
「でも、彼シャツだろ。ズボン脱いでよ」
「えっ」
「だってああいうの、下履かないもんだろ?」
「あー……そう、かな……?」
 断言されて、蒼生が戸惑う様子を見せる。それでも素直にズボンのベルトに手をかけると、そこに追い打ちがかかった。
「下着もだよ?」
「ひぇ」
 言われてみれば、大体ああいう格好をするのは事後だ。それだけを着るというのが定義であるならば、たしかに健太の言うとおりかもしれない。とはいえ下着だけを単独で脱ぐのは、なんというか、刺激的すぎる気がする。なので、迷った挙げ句、下着をズボンと一緒に脱ぐ方法を選んだ。刺さってくる視線については、とりあえず気が付かなかったことにする。
「えっと……これでいい……?」
 ワイシャツ1枚になると、不安というわけではないが、とても心許ない感じがする。足が空気に触れて涼しいし、股間を隠すには長さがギリギリだ。それに、健太の目がなんだかやたらと真剣で。
「健ちゃん、その……満足した?」
「いや……」
 なにやら不穏な空気。蒼生は半歩後退る。
「満足どころか、逆だ、逆。めちゃくちゃ煽られた……!」
「させたの健ちゃんなのに!?」
「蒼生さん、ちょっともうひとつお願いが。ベッドに来てください」
 そう告げると、健太は勢いよく立ち上がり、ワイシャツを探しに行った時のように寝室に消えた。一体何が起ころうとしているのだろう。救いを求めて冬矢を見ると、冬矢は困ったように笑った。
「まあ、ついて行ってみようか。呆れるかもしれないけど、悪いようにはならないよ。……たぶん」
「冬矢でも確信持てないの?」
「あいつは突拍子もないことをし出すからな」
 溜め息をついて仕方なさそうにしながら、さりげなく冬矢が蒼生の肩を抱く。ふたりで寝室に入ると、健太は綺麗に整えられていた掛け布団をわざと膨らませたりへこませたりしていた。
「……どういう作業?」
「えっとね、この辺に座ってもらってもいいかな」
 答える気がないのか、話を聞く余裕がないのか、ベッドの手前側に作った窪みをぱんぱんと叩く健太。おそらく後ろのほうが正解だ。頭の中は、一刻も早く蒼生に触れることでいっぱいなのだろう。どちらにしても、理解するより従ったほうが早そうだ。蒼生は言われたあたりにぽすんと座る。
「あ、正座して、正座。それから横に崩れる感じ……出来る?」
「こう?」
「そうそう。さすが、蒼生、体柔らかいもんな。んでー、そっちの手で、大事なとこ見えちゃだめ、って感じで裾のあたり押さえて」
「……うん?」
「もう片っぽの手は、袖持って、口元隠して」
「…………」
 健太があまりにもいきいきと指示を出してくるので、素直に言うとおりにしてしまうが、正直混乱する。なんだこの状況は。
「あーっ、可愛い! やっぱ可愛い、最高に可愛いよ……! あと、ボタン、上から2個くらい外していい?」
「とっ、冬矢ぁ……」
 困り果てて、再び冬矢に助けを求める。壁に寄りかかって傍観することに決めたらしい冬矢が、ふっと笑った。
「悪いようにはなってないから、大丈夫じゃないか?」
「なってないかなあ、これ……」
 そこに、軽やかに響くシャッター音。蒼生はぱちぱちと目を瞬かせる。
「……あ、そういうこと?」
「写真撮っていい?」
「いいよ、けど、……絶対他の人に見られないようにしてね」
「あっ上目遣い可愛い! 恥ずかしそうな顔もめちゃくちゃ可愛い! もっちろん、厳重に管理する! オレだけしか見ないから! 冬矢にも見せないし!」
「おい」
「ふ、ふふっ」
「うわー、やっぱ笑った顔、最っ高に可愛い……はー、食べちゃいたい。体中……全部、舐めて、噛んで、味わい尽くしたい! あ、その顔も好き!」
 こうなってくると本当にどうしていいかわからない。健太の言葉に反射で応えるしかない。
 頭が真っ白になったところで冷静に考えると、完全に申請が後出しだったな、と気付く。だが、目の前の健太が嬉しそうなのでよしとする。もともと健太が蒼生に前もって許可を得ることは少ないのだ。いつだって許されると思っているから、遠慮がないのかもしれない。実際、そうなってしまうようにしたのは結果として蒼生であるし、今となってはそれが気持ちよくもあった。
「でも、健ちゃん。そんなに同じアングルばっかり撮ってて、後で見る時に飽きない?」
「飽きるわけないじゃん、一瞬一瞬で表情が違うんだから。びっくりするくらい全部可愛いよ。けど、だったら、そうだな」
 はあ、と息を吐いた健太が、ベッドに片膝を乗せる。
「おっきさせて……そのぬるぬるでシャツ濡らしてるとこが見たい」
「は?」
 声を上げたのは冬矢だ。蒼生は突然のセリフにさらに真っ白になって、理解が追いつかないようだ。
「……おまえは筋金入りだな」
「なんとでも言えよ。だって絶対可愛いだろ」
 両腕を落としてきょとんと見上げてくる蒼生の肩を、健太は後ろから手を回して、そっと抱く。
「ね。自分でおっきくできる?」
「っ……!」
 蒼生はそこでようやく言葉の意味が繋がったらしい、耳まで一気に赤くした。そして慌てたように肩に添えられた腕を掴み、ぶんぶんと首を振る。
「む、無理、はっ恥ずかしい……っ」
「じゃあオレがしてあげる」
「っあ」
 健太の手が優しく触れると、そこは既に熱を持っていた。
「あれ、ちょっとかたくなってる」
「……だ、だって、健ちゃんがえっちな言い方するから……」
「そっか、ずっと期待しちゃってたんだ」
 腕を掴む手がぴくっと動く。可愛い。布越しに爪で軽く擦ると、その手に力が入ってくる。根元のほうを擦れば耐えるように俯き、先端を弾けばはぁっと甘い吐息が漏れる。たまらず、そのままやんわりと手で包み込む。すると蒼生が潤んだ目を上げた。
「だめ、けんちゃ……」
「ん? なんで?」
「シャツ汚しちゃうからやだぁ……」
「! へぇ……」
 蒼生の言葉が健太のアクセルを踏んだらしい。健太は身を乗り出して蒼生にのしかかり、片手で抱き込む。
「もう手遅れじゃね? ほら、もう、染みてきてる」
 恐る恐る視線を落とした蒼生は、シャツの一部が透け、じわじわと赤い色をうっすら浮かべているのに気付いて、きゅっと体を縮こめる。が、健太は構わずその隙間で手を動かす。ぐちゅ、と濡れた音が響く。
「や、ぁ、あ……っ、こすれ、て、変な感じがする……っ」
 咄嗟に蒼生の手が押しとどめるように健太の腕を掴むが、健太は遠慮のないその手を止めなかった。蒼生の息が、どんどん乱れてくるのが、抱き締める腕に伝わってくる。その鼓動の早さに、つられてしまう。
「……っは、これ、我慢できねえや」
 ぱっと健太が体を離す。解放された蒼生がベッドに腕をついて大きく息をつき、寸前まで高められた快感をこらえるように、足指をぎゅっと曲げる。けれど健太は蒼生が落ち着くまで待つことはせず、両足首を掴むと自分のほうに引き寄せ、足を投げ出す格好にさせる。バランスを崩した蒼生が両手を後ろについた隙に、健太は足の間に体を滑らせ、露わにした自らのペニスを布越しに擦りつけた。
「あぁ……っ!」
 同じ熱さを感じて、蒼生が背を反らせる。
「蒼生ぃ……」
「んんっ、あ、け、んちゃ、んっ……」
 健太は両手でお互いのペニスを包み込み、まとめてこすり上げる。シャツが間にあることで、動かしづらく感覚がいつもと違う。だがそれすらも刺激になる。
 蒼生は倒れないように手を突っ張るが、がくがくと震えて体勢が上手く保てない。ついに、ぐら、と体が傾く。そこに、いつの間にかベッドに上がってきた冬矢が、そっと抱き締めるようにその体を支えた。
「……ふぁ」
 安心したように、蒼生の腕から力が抜け、冬矢に体を預ける格好になる。それで健太の手に集中出来るようになったのだろう、体の震えが大きくなる。
 そういうことだとは思うが、少々悪態のひとつもつきたくなるのは当然だし、許されるはずだ。
「……なんだ、今日はおまえ見学じゃなかったのかよ」
「おまえがやりたいのがどんなことなのかを見ていただけだ。本格的に蒼生に触るなら、黙って見ているわけがないだろう」
 蒼生はそのやりとりを聞いて「うれしい」と思う。内容を考えている余裕はなかった。ただ、頭上でやりとりがされている。ふたりに挟まれている。それが気持ちよさを増幅させる。
「やぁ……止めないで、ぇ……」
「ん、ごめんな、ほら」
「ぅ、ふ……ぅんっ、あっ、あ、あ、健ちゃん……っ、ぼ、く、ぁ、もう……っ」
「あー、さすが、オレと蒼生……。そういう、とこも、一緒になんだな……」
 ちらりと健太を見た冬矢が、蒼生の首筋に唇を落とす。おそらく健太だけが蒼生を気持ちよくしていることに嫉妬しているんだろうなと、脳の片隅で思う。が、すぐにそんな些細なことは頭から飛んでいった。
「っ、う、けんちゃ……あぁっ」
「蒼生……っ!」
 ほぼ同時に、ふたりは体を震わせる。
 はあっと大きく息を吐いた蒼生の髪を、冬矢が優しく撫で、そのまま唇を合わせた。吐息さえも奪いたいほど、冬矢も余裕がないのだろう。
 とろりとした目をふたりに向けた蒼生が、ことんと首を傾げた。
「……いれる?」
 小さな声。笑った冬矢が頷くと、一拍遅れて健太がぶんぶんと頭を縦に振る。
「じゃ、ちょっと、タイム」
 健太は首を痛めるのではないかというほど一層激しく頭を振った。

 戻った蒼生が寝室を覗くと、声を上げる暇もなく、すぐさま健太に捕まった。
「おかえり! お待たせ!」
 お待たせ? 準備のために待たせていたのは自分なのに、と思いながら肩越しに部屋を見る。すると、掛け布団がどかされ、シーツが整えられ、ゴムとローションが綺麗に並べられている。ふたりの姿も下着1枚だ。そうか、ただ待たせたわけではなく、自分たちも準備をしていた、というふたりの気遣いなのだ。蒼生はくすぐったい嬉しさでいっぱいになった。
 冬矢が蒼生の肩を撫でながら、触れるだけのキスをする。
「続き、しようね」
「うん!」
「お願いした通り、さっきのシャツ着てきてくれたんだ」
「うん、でももう、かぴかぴになっちゃってる」
「そいじゃ、また濡らすかぁ」
「あはは、そういうふうに解釈する?」
 笑い合いながら、3人はベッドに飛び込むように倒れ込む。
 蒼生は、シャツを着ているせいでふたりの肌に直接触れさせてもらえないことを一瞬もどかしく思う。
 が、横たわった瞬間、ふたりの目の色が変わった。
 それに気付いてしまうと、頭がそれでいっぱいになる。腰のあたりがぞくぞくして、胸が締め付けられる。ぎらりと光るその色は、欲情の色だ。自分を抱きたい、という明確な意思だ。優しいふたりが、攻撃的な目を見せてくれる。それだけでイッてしまいそうになる。
「蒼生……触るね」
 けれど、声は、触れる手は、やはり優しい。
「ん、うん……っ」
 冬矢の長い指が、蒼生の、ふたりを受け入れたくてひくひくと震える場所を柔らかく撫で、そのままつぷりと入り込んで来る。あっ、と呟いた健太の指も、抜け駆けを咎めるように追いかけてくる。
「……っあ、あーっ……」
 蒼生の中でバラバラに動く指は、まるで競うように気持ちいい場所を探していく。まるで張り合うふたりの姿そのものだ。個性はぶつかり合うのに、蒼生を気持ちよくしたい、というところで一致する。その重なり合う思いが、とても気持ちいい、と思う。
「蒼生……、蒼生、好き……」
「可愛いね、蒼生……」
 そして同時に、頬に、耳に、額に、髪に、唇に。ふたりがかりで左右から降らされるキスの雨。
「……気持ちぃ……」
 優しくゆりかごを揺らされるような、穏やかな愛撫だ。ぬるま湯に浮いているようだと言ってもいいかもしれない。それは心地よいが、「けど」と思う。次第に、腹の奥、深いところがじわりじわりとうずいてくる。内側から触れて欲しいと暴れ出してしまいそうな、熱。
「……あ……あの、ね」
「ん?」
「いっ……挿入れて、ほしい……んっ……。おなかの奥がぎゅってする……」
「どっちに?」
「え」
 意地悪く冬矢が笑う。驚いて少し考えていた蒼生は、どうしようもなくなって目を泳がせる。
「……や、だぁ……どっちも、がいい、のに」
「ふふ、ごめん。冗談だよ。今日は健太が先だって」
「健ちゃん……?」
「うん。オレの服着てくれてるんだから、オレが先でしょ」
「納得できない理屈だけどな」
 そっか、とほっとする。健太が先。つまり、冬矢が後だ。ふたりとも、ちゃんと奥に触れてくれるつもりなのだ。
 健太に向かって手を伸ばす。
「け、んちゃぁ……おねがい、ちょうだい……」
「後ろからしても、いい?」
「うん、ぅん」
 笑った健太が、軽いものでも持ち上げるように、蒼生の身体をひっくり返す。あっという間に四つん這いの姿にさせられる。
 ふたりの指を感じていた穴が空気にさらされ、きゅっと寂しくなったのがバレたのだろうか。冬矢が体を起こし、笑いながらキスをくれた。
 それにやきもちを妬いた健太が、後ろからのしかかってくる。
「蒼生ぃ……もう挿入ってもいいよな?」
「ん、きてぇ……」
 吐息混じりの蒼生の言葉に満足したのか、健太ははち切れそうになったペニスをそっとあてがう。くち、と濡れた音。
「おじゃましまーす」
「あー……ッ」
 そこの熱さが、ぶわっと身体中に広がる。蒼生の中で健太の塊がどんどんと存在感を増していくたび、胸が少しずつ締め付けられていく。それは、「嬉しい」という感情そのものだ。
「あ、あ、ふか、ぁ」
 本当に、胸のほうまで届いているような気すらする。
 熱い。
 胸の奥が。
 ぎゅっとシーツを握り締める。
「……っは、きもち……」
「あ、はーっ、……あっ、あ、うぁ、ん……ぼ、僕、も……っ」
「あのね……オレが、蒼生に出たり入ったりするのが、シャツで見え隠れしてて……すっごいえっち」
「! や、やだぁ、なに、見、てぇ……」
「すげえ、なんかイケナイことしてるみたい……」
 健太の言葉に、下腹部がきゅっとなる。
 いけない、こと。
 冬矢がにやっと笑った。
「もっとそういう気分を味わわせてあげようか」
 蒼生と健太は同時にクエスチョンマークを頭に浮かべる。冬矢は構わず、シーツを握る蒼生の両手を片手でまとめると、そのまま体から離すようにずるずると引っ張っていく。
「え、冬矢、なに……っんぅ」
 体を支えきれなくなり、蒼生はシーツに顔を突っ込んだ。
「どう?」
「ぅ!」
 突っ伏す形になったのに気付き、蒼生が目を見開く。健太に腰を抱えられ、冬矢に手を押さえられている、この体勢は。
「っ、たしかに、めちゃくちゃイケナイ感じだな、こりゃ」
 健太は短く息を吐く。シャツのままの蒼生を見下ろす光景。しかも自分のモノが、動けない蒼生のナカにある。そう思うと頭がかーっとなって、そのままずくんと下半身に血が集まっていくのがわかる。その熱さにびくりと反応する蒼生に、つい勢いをつけて腰を打ち付けてしまった。
「うーっ!」
 蒼生のこもった声。
 蒼生自身も、冬矢に押さえつけられて、健太に好きにされている状況に、ひどく気分が高揚する。自分の声がシーツに吸い込まれていくのも、好きなだけ叫んでいいと許されているようで。
「はー、すご……。蒼生、ナカ、きゅんきゅんしてる……気持ちいい……」
「んーっ、ん、ふぅんっ、ん、ん、……んーっ、うーっ……」
 冬矢も耳に届くその声に突き動かされそうになる。そのまま背中を這い上がるぞくりとした感覚に溺れそうになって、なんとかこみ上げる感情を抑えこむ。蒼生が喘ぎながら、指を泳がせて、自分の手に絡みつこうとしている。早く、早く終われと頭の中が騒がしい。
「あ、あお、い……っ、すっげ……締まる、ちょっと、力抜ける……っ?」
「んーん……っ、むぃ、れきな、いぃ……」
「……っ。これ、やべぇ、……もってか、れ……」
「ううぅ、ん、んーっ、ぅ」
「イ……っ!」
 びくっ、健太が震える。
 一度、二度。
 震えながら、薄い膜の中に精を吐き出す。
 はあっ、と息をつくが、蒼生は顔を上げない。上げられない。
「あー、ごめん。オレ先にイッちゃって」
「んん……っ」
 ぼんやりする頭では、そう呻くだけで精一杯だった。
 黙っていた冬矢がすっと手を離し、蒼生を抱き締めて自分のほうに引き寄せる。
「ひぁっ……」
「あっ!」
 無理矢理引き抜かれる形になって、蒼生と健太が同時に声を上げた。
「おま、冬矢、そりゃねえだろ……」
「うるさいな。ここまで待ってやったんだ。こっちだって限界なんだよ」
 言いながら蒼生を仰向けに転がしたかと思うと、覆い被さるようにキスをした。蒼生の驚いた顔が、瞬時にとろける。
「もっとじっくりしてあげたいけど、それは後でいい?」
 キスの合間に聞く。潤んだ目が冬矢を見上げてくる。
「ん、うん、いれて、いれて」
「可愛い……」
 もう一度キスを。すると、蒼生の手が泳いで、冬矢の首にすがりつく。既に準備を終えていた冬矢は、それに目を細め、蒼生の中にゆっくりと挿入っていく。
「んぅ……っ、ん」
 健太の形に馴染んでいたそこは、あっという間に冬矢を受け入れる。そしてすぐに柔らかく冬矢を包み込んでくる。
「……蒼生、じょうず。ちゃんと俺をナカで覚えてるね」
「あ、ぁう、ん、うんっ……」
 理解しているのかどうか、蒼生は背中全体を押し上げるような心地よい感覚に浮かされながら、ただ、頷く。ぴくぴくと小さな震えが冬矢に伝わっていることも気付かないように、先程までと違う鼓動を身体の奥で感じていた。冬矢は、優しくくすぐるように、それでも的確に気持ちいい場所を捏ねてくる。
 ふと、冬矢の指がついっと動き、シャツの上から乳首を掻いた。
「ふぁっ……?」
 服に完全に覆われた胸元には触れられないと思っていたのだろうか、蒼生は大きく見開いた目をぱちぱちと瞬かせた。
「ああ、触ってないのにこんなに硬くしてたんだ。待ってたんだね」
「っあ……、あ、や、くすぐ、った……っ」
 蒼生は身体をよじる。いつもならすぐに気持ちいいと思えるのに、少し硬い生地越しのせいか、くすぐったい感覚が強い。冬矢もそれをわかっているようで、敢えてひたすら引っ掻く。
「とぉ、やぁ……」
「もどかしいね? でもそれが気持ちいいんだろ。蒼生のナカ、俺の指が動くのと一緒に絡みついてくるよ」
「うー……」
 指摘されると意識してしまう。冬矢にバレないようにと思えば思うほど、繋がっているところが乳首の刺激と同時にひくついているのが自分でわかってしまう。頭より先に、身体が気持ちいいと訴えてくる。
 蒼生の腕から力が抜ける、そのわずかな隙間を見つけて、健太が頭を割り込ませる。もちろん、健太が黙って見ているだけとは思えないので、冬矢には想定内だ。少し体をずらしてやると、身を乗り出した健太は蒼生についばむようなキスを数回して、その唇を反対側の胸元に下ろしていく。
「……っあ、ああ、ん、っけ、んちゃ」
 咄嗟に伸ばされた蒼生の腕を掴み、健太は布越しに探るように乳首を舐め上げる。
「ひっ、ぁ」
 唾液に濡れた熱い布がまとわりつく感覚に、蒼生はふるふると首を振った。待って、の意味だとふたりはすぐにわかる。けれど待てない、待つつもりはない。
 冬矢は乳首を弾きながら蒼生のナカを丁寧に捏ね回していく。健太は乳首を吸い、それでも足りずにシャツに手を差し入れて蒼生のペニスをやんわりと握る。
「あ!」
 蒼生の腰が大きく反る。
「や、あ、あ、はぁ、う、ぁあっ、ん、ちゃ……っ、あ、……ぉやっ」
 声が言葉を成さない。
 翻弄されて、こぼれ落ちる音にしかならない。
 そもそも、言葉は成り立つはずがなかった。
 ただ、ひたすら、「きもちいい」という感覚で溢れて。
 それを表す言葉なんて出てこない。
 身体のすべてから、せり上がっていく何かに身を委ねるしかなかった。
「イッ……あ、も、あぁっ、はぁ、あ、イッちゃ……」
 胸からようやくそれだけが吐き出せた。
 揺られる。
 白い。
 景色が、白く。
「ああぁー……っ!」
 解放。
 再びシャツを内側から汚した蒼生は、高いところから落ちてきたような気がして、ぱたんと腕をシーツに投げ出した。
 冬矢はずるりと身を引くと、ゴムを剥ぎ取り、自らペニスを擦って蒼生の足に吐精する。半分ほどが勢いでシャツにかかるのを、蒼生はぼうっと眺めていた。
「オレのシャツなんですけど」
 心臓の音ばかりが響いて現実から離れてしまったような蒼生の耳に、ふいに不満げな健太の声が飛び込んできて、思わず笑ってしまった。そのおかげで、乱れた呼吸はまったく整ってくれる様子もないが、ふわふわしていた頭のほうはようやく動き出す。しかも、健太に文句を言われても冬矢がしれっとしているのがまた面白い。
「ふ、ふふ……っはぁ……」
 笑っているような息を乱しているような蒼生に、すぐふたりの優しい顔が近付いて来た。
「大丈夫?」
「ん、うん……」
 撫でてくれる手。熱い、も好きだが、こんなふうに暖かいのもとても好きだと思う。
「……シャツ。3人ぶん汚れちゃってるし、もう手遅れだと思う……」
 言うと、健太も笑った。
「だな」

 とはいえ、余所行きの服をずいぶん派手に汚したことは確かだ。クリーニングに出すことも考えなければならないが、当然そのままというわけにはいかない。
 さすがに健太もそれは理解しているようで、蒼生から脱がせたシャツを抱えると、下着姿のまま洗面所のほうに走って行った。
「……くしゅっ」
 見送った途端、くしゃみが出た。ずっと着たままシていたのを、今になって裸になったのだから、寒く感じるのは当然だろう。そういえば服はリビングに置いたままだった。取りに行きたいところだが、まだ力が入らず、ベッドに座り込むので限界だ。
 その肩に、ぱさりと何かが掛かる。
「ありがと」
「いいえ」
 冬矢がしてくれたのだとすぐわかったのでお礼を言ってから、自分の肩を見る。いつも冬矢が室内で上着にしているパーカーだ。ふわっと、冬矢の匂いがする。
「……なるほど」
「え?」
 顔を上げると、冬矢はベッドサイドから感慨深げに蒼生を見下ろしている。
「普段着で彼シャツっていうのも悪くなかったが、裸に羽織らせるだけっていうのもなかなか興奮するね」
「ひぇ」
 急に恥ずかしい気がして、蒼生は慌てて袖に腕を通した。“羽織る”よりは着ているほうが恥ずかしくないように思ったからだ。が、冬矢の匂いがもっと強くなって、しまったと思う。
「蒼生?」
「…………。でも、たっ、たしかに……終わった後も好きな人の匂いに包まれてるのって、……幸せかも」
「ふうん」
 蒼生の体がわずかに傾く。冬矢がベッドに上ってきたのだ。
「せっかくなら、直接包まれたほうがいいんじゃないかな」
 正面に座り、蒼生の腰を抱く。
「え……もう一回するの?」
「さっきは健太のを着たままだったろ。今度は俺の番。だめ?」
「駄目……じゃない。……えへへ……嬉しい」
「蒼生には彼氏がふたりいるんだから。頑張らないとね」
「ふふ、はーい」
 蒼生はふんわりと笑って冬矢の肩に手をかけた。
 そこに健太が戻ってくる。
「え! ちょっと待って、オレもオレも!」
「あはは」
 健太は慌ててベッドに飛び乗ると、蒼生を後ろから抱き締める。が、すぐにその手が止まった。
「どしたの?」
「……オレが抱き締めてるのは蒼生なのに、触ってんのは冬矢の服じゃん。複雑……」
 こらえきれず、蒼生が噴き出す。言われてみればその通りだ。
「言っておくが、さっきは俺がそう思っていたんだからな」
「さっき……。あ、おまえオレの服汚したよな。っし、こうなったらさっきの仕返しだ! 見てろよ、ぐちゃぐちゃにしてやるからな!」
 それを聞いた蒼生が、ちらっと健太を横目に見る。
「ぐちゃぐちゃにするの? 冬矢の服を? ……それとも、僕を?」
「!!」
 健太のみならず、冬矢もぴたりと動きを止めた。
 それからすぐ、ふたりがかりで蒼生をベッドに突き倒す。
「……蒼生をぐちゃぐちゃにします」
 健太の言葉を聞いた蒼生は、にこにこと笑っている。
「……きて?」
 差し伸べられた両手に、ふたりが迷わず飛び込んだのは、言うまでもない。

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