62こ目;上書きの夏旅行~後編~
いろいろ遊び終えて3人は部屋に戻ることにしました。
そこで待っていたのは、冬矢が咄嗟に計画したイベントで…。
いちゃいちゃ回です。
やっぱり全員テンション高いです。
↑初公開時キャプション↑
2022/08/19初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
こちらは後編です。前編( https://pictbland.net/items/detail/2285290 )からお読みいただくことをおすすめします!
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ひとしきり会場を回って満足した俺たちは、ホテルへと戻ってきた。浴衣の返却は、着替えてからさっきの会場へ戻せばいいらしい。だからまずは着替えだ。部屋に入って、電気を付けて、とにもかくにも蒼生を正面から抱き締める。
「えっ、と、冬矢?」
全力でその体温を確認し、深呼吸をする。ああ。洗い立ての浴衣の匂いの中に、はっきり感じる蒼生のにおい。暑い外を歩いたせいか、汗の香りも混じって、セックスの最中に吸い込むにおいに似ている。たまらないな。もう、ホテルの敷地に入ってからは、蒼生に触れたくて、頭がいっぱいだった。
健太が黙って後ろから蒼生の肩を引く。蒼生が小さくよろけて健太を見上げ、俺との間に空間を作る。その一瞬のうちに軽く前襟を引っ張って、肩越しにわずかに開いた隙間から胸元を覗き込んだ。
「……よし」
「? どういう……?」
蒼生は俺たちの行動を不思議そうに見比べる。健太がやたら真剣な様子で腕を組んだ。
「ホテルもいいけど、次は旅館。絶対旅館」
ぶつぶつと呟くのを見て、蒼生はさらに首を傾げる。
まあ、健太は、寝間着として浴衣が用意されている宿泊施設に泊まりたいと前から言っていたからな。楽だからつい洋室を選んでしまうけれど、たしかに和室もいいだろうな。きっと蒼生は部屋に似合う。窓から緑が見えるような部屋に、障子の柔らかい光。絵になりすぎる。想像だけで圧倒される美しさだ。そうだな、次は旅館だ。
「あーっ! こっ……のまま勢いで突き進みたいんだけどー……! これ、今日中に返却なんだよな……っ」
いかにも無念そうに健太が声を振り絞る。それについては全くの同意だ。蒼生が汚れるのを気にするだけなのだったら、すべて脱がせてしまえばいいのだから、今すぐにそうしたっていい。けれど、時間の制限がある。
「ほら、健ちゃん。ちゃんと先に返してこよう?」
そう言って健太の肩を叩く蒼生。
蒼生だって内心は勢いに飲まれたいと思っているはずだ。けれど、定められたことはきちんとしたいと考え、行動に移せるところが蒼生らしい。蒼生自身は、融通が利かない自分が嫌だ、などと思っているらしいが、そこまで度が過ぎて真面目なわけではない。蒼生の場合は他人や施設に迷惑をかけたくないという優しさが根底にあるだけなんだ。
うん。蒼生の意見は尊重しよう。それに、俺にもまだ計画がある。
「蒼生の言う通りだ。そろそろ時間だからな。早く着替えて、風呂の準備をしよう」
「へ? 時間?」
「準備って、上の大浴場にでも行くのか?」
「さて、な。とりあえずは俺についてきてもらおうか」
ふたりはきょとんと俺を見る。それに対して俺は特に説明せず、ただ急かして着替えさせる。健太は蒼生の浴衣を脱がせたいと駄々をこねたけれど、帯をほどく手伝いだけにとどめさせた。健太の我慢がいつまでもつかわからない以上、下手に手を出させられない。着させるより脱がすほうが、刺激が強いのは当然だ。……俺だっていつまで自制できるかわからないんだから。
蒼生はその不穏な気配を感じ取っているようで、手伝ってくれた健太に「ありがとうっ」と言ったかと思うと、あっという間にシャツを被っていた。蒼生は蒼生で、健太に帯を解かれることに対してよからぬことでも考えていたのかな。加えて、俺が「時間」と言ったから、それを守ろうとしてくれているのもあるのかもしれない。説明をしなくとも信じてくれているのだろう。律儀で可愛い。
そうして宴会場に浴衣を返し、フロントで鍵を借りてから、上のフロアにやってきた。格子状の扉が幾つも並んでいる、その中から鍵に記された数字と同じ番号の扉を探す。あった、ここか。ふたりがぽかんと扉の上に掲げられたプレートを見上げる。
「……家族風呂」
「浴衣借りる時、何かしてるなーと思ったら、ここ借りる手続きしてたんだ」
「ああ。せっかくだから、部屋以外の風呂も入りたいだろ」
言いながら格子を開けると、目の前に靴箱があって、横に暖簾の掛かった普通のドアがある。鍵を差し込んでドアを開けると、待ちきれなくなった健太が真っ先に飛び込んだ。続いてきょろきょろしながら蒼生が入り、最後に俺が入って鍵を閉める。これで、ここから先は密室だ。
……へえ。申し込みのページで写真は見ていたが……脱衣所も結構広いな。棚は大きく余裕があるし、大きな竹のベンチも置いてある。棚と向かい合わせの洗面台には大きな鏡。そこにきちんと並べられた籐の椅子。なるほど、これだけスペースがあれば、子供たちが着替えたり遊んだりしていても、母親が鏡の前でゆったり身支度を調えることもできそうだな。使い捨てのスポンジやブラシなど様々な道具も自由に使っていいように置いてある。充実しているじゃないか。
蒼生と健太が横開きのドアを開けて眺めている浴室を後ろから覗き込むと、ふうん。こっちも広い。洗い場には蛇口が両側に3つずつ、併せて6つある。浴槽は、ああ、さらに向こうのドアの先にあるのか。壁がない、半露天になっているようだ。
「すごい、広いね」
「家族って書いてあったけど、友達同士の大人数でも余裕で入れるじゃん」
たしかに、他人の混じらない大きな浴室はなかなかないからな。そういうところにも需要があるのかもしれない。家族に限定したものではなく、個人のグループを総称して家族風呂と名付けているんだろう。
俺は、珍しそうに浴室を見渡す蒼生の肩にそっと手を置く。
「大きな風呂が苦手な蒼生でも、このくらいなら怖くないと思って」
目を見開いた蒼生が、その表情をぱあっと輝かせる。次第にきらきらしていく目。
「……っ、嬉しい! 怖くない! 人がいても、健ちゃんと冬矢がいたら平気なんだけど、……でもこっちのほうがすっごく嬉しい! 冬矢ありがとう!」
驚かせた時の。この、喜びの表情に変わる瞬間が好きだ。嬉しい。喜んでくれた。……本当に、なんて可愛いんだろう。
「じゃあ入ろうか」
「うんっ!」
大きく頷く蒼生。よかった。
それにしても、我ながらいい選択だったと思う。蒼生が怖がらずに入れるなら、と真っ先に思ったのはたしかだ。だがそれと同時に、蒼生を他人の目に触れさせずに済むというメリットもあったわけだ。
健太のように開けっぴろげなのは論外だが、自分が好意的に見られているという概念がない蒼生は、逆に人目を気にせず肌を見られても平気なのではないかと思っていた。もちろんそういうところもある。さっきのプールなんかも、蒼生は誰に見られても気にしない。おそらくラッシュガードがなくとも普通に売店にだって行ったはずだ。が、こと風呂に関してはそうではないらしく、きっかり肌を隠すようにタオルを使う。この前の合宿で初めて気付いたことだ。俺と健太に対してはその行動を起こさないから、今まで気付かなかった。おそらく、何か理由があるが、蒼生自身もわからないようだから今のところは対処療法しかない。
けれど、今は本当に俺たちだけだ。だから蒼生はまったく躊躇せずに服を脱いで、裸のまま丁寧にそれをたたんでカゴに入れていく。本人は意識していないのだろうが、許されているのだ、とつくづく感じる。
「さー、行くか!」
健太がタオルを首に掛けながらドアに向かっていく。またこいつは、堂々と。この前はもう少し人目を気にしていたと思ったが。……いや、そうだな。今更か。望んだわけではないが、こいつの全身は残念ながらくまなく見てしまっている。健太も俺に見られることをなんとも思っていないのだろう。思っていたら、まあ、同時にセックスなんて出来ないか。
健太の手がドアにかかるのを見た蒼生が、薄く笑ってひらひらと手を振った。
「あ、ちょっと、あれなので、……先に行ってて」
……ああ。うん。
「! わかった」
「うん」
「慌てないでいいからね」
「ありがと」
脱衣所に蒼生を残し、俺と健太は浴室に入った。
「……まだアレはさせてくんねえんだな」
ぽつりと健太。言いたいことも、その気持ちもよくわかる。だが。
「蒼生が抵抗あるって言うんだから、そこは尊重しないといけないだろう」
「そんなんで引くと思ってんのかなぁ」
「恋人だからこそ嫌なこともあるんじゃないか? 焦ることはないさ、いつかは慣れてくれるかもしれないからな」
「慣れ、か。んー……」
と言っても、なかなか難しいとは思う。洗浄という行為は、ただ身体を重ねるよりデリケートな印象を伴う。俺からしてみれば、蒼生が気にするほどのことはないし、そこからすべてやってやりたいと思うけれども、それは俺が決めることではない。無理に通して蒼生を傷付けるわけにはいかない。まだ俺にはその説得方法がわからないし、少しでも強要だと思われたくない。難しいな。
俺と健太は、席をひとつ空けて座る。もちろん蒼生の場所だ。蒼生が来るまでにあらかた済ませておきたい。一刻も早く蒼生に触れたいからな。視界の端では、ドアに近い健太が、体を泡だらけにしながらそわそわとそちらを窺っている。よほど待ちわびているのだろう。
だから、ドアがからからと横に開いたのを見て、文字通り飛び上がったんだな。わかりやす過ぎる。
「蒼生っ」
嬉しそうに弾んだ声に迎えられ、腕にタオルを掛けた蒼生も嬉しそうだった。
「ごめんね、お待たせ」
健太に笑いかけ、それから奥にいる俺に視線をくれる。とろけるような柔らかな表情。手を伸ばせば、同じように手を伸ばしてくれる。そのまま手を繋いで、隣に座る蒼生。
手。蒼生の手。……嬉しいな。こうして触れられることが。堪えきれなくなりそうなほど嬉しい。
さりげなく、反対の手を健太が掴んだ。
「な、蒼生。オレさ、やりたいことがあるんだ」
「うん、なに?」
「あのな、体の洗いっこってやつ! やっぱおっきな風呂っつったら背中流し合うやつだろ? 家の風呂じゃできねえし、合宿の時は木之下も他のお客さんもいて、言い出せなかったからさ」
「ああ、いいねえ!」
ふーん? この期に及んでそんな提案が出来るんだな。我慢出来なくなるかと思ったけれど、そういう楽しいことを優先するのが健太らしい。蒼生も乗り気みたいだ。
「んと、僕はどっちを向けばいいのかな?」
そうだな……俺は、蒼生にしてもらうのは、少し……違うように思う。
「俺が蒼生を洗うから、蒼生はそっち」
「うん!」
「蒼生に洗って貰うのかー。うわ、なんか嬉しいなー」
健太はでれでれした声でくるりと体の向きを変えた。
「小さい頃から一緒だと……特に蒼生たちの関係だとそういうこと普通にやっていそうだけどな」
そうでもないのか。意外だな。
「んー、そうだなあ。もしかすると昔どっかであったかもしんねえけど……。意識するようになってからは、ないな?」
「うん。体を洗うなんて、自分でやらなきゃいけないことだったから、その発想がなかったのかもしれないね」
「だよな、こんなえっちな関係になるとは思わなかったもんな」
「ねー」
なるほど。純粋にお互い兄弟のように思いながら育ったならば、大きくなったら手伝わない、という考えになるのかな。だからいっそう健太はこれをやりたいと思うのか。
……それにしても、蒼生の白い背中の、綺麗な肩甲骨の形や腰にかけての優しいラインを、ただ洗うだけというのも……なかなかに気力がいるな。せめて泡をいっぱいにして、包み込んでやろう。無心にならなければ。俺は、綺麗な宝石を、傷付けないように磨かなければならない。
「蒼生、痛くない?」
「全然。気持ちいいよー。ありがと。もうちょっと強くても大丈夫」
もう少し、か。力加減を、間違わないように……。それでなくとも、しなやかに動く背中の筋肉が泡越しに伝わってきて、思わず力んでしまいそうなのをなんとか制御しているところなのだから。
だが、蒼生のこの動きは健太に対するものなのだと思うと、少し妬けてしまうのもたしかだ。俺は視線をずらして蒼生の手の先を眺める。
「健ちゃんはどう? 気持ちいい?」
「うん、すごく上手~。自分じゃ力入れて洗えねえもんな、人に洗ってもらうのいいなー。……ってか、やべ、別の意味で気持ちよくなりそ……」
「どこ? どのへん?」
「あっ、勘弁して……」
「広いから探すの大変だなあ。こっち?」
「うわ、た、楽しそうだな、蒼生……」
「嫌? だったらやめるけど……」
「ううう、嫌なわけねえじゃん……。オレの背中流してる蒼生可愛いありがてぇ嬉しい……」
ふ。あちらはあちらで大変そうだ。たしかあいつ、背中が弱かったはずだ。最中に、蒼生の手が回ると時々息を詰めているのを見たことがある。蒼生はまだ気付いていないようだが、まあこの様子では時間の問題だろう。
「はい、終わったよ、蒼生」
やれやれ。なんとか脳内を暴走させることもなく、本来の目的をこなすことが出来た。
「じゃあ、今度は反対?」
無邪気に振り向く蒼生。いや、それは。
「ううん。髪洗ってあげるよ」
「えー? 冬矢を洗うんじゃなくて?」
「俺は蒼生が来るまでに全部洗い終わっているからね」
「そっかあ」
ちょっと不満げなのが可愛いな。ごめんね。俺はいいんだ。俺は蒼生には全部をしてあげたい。
その可愛い顔の向こうで、健太が目を光らせたのが見えた。
「そしたら、オレは体の前のほう、洗ったげるな!」
「えっ」
ああ。その手があったか。先手を取られたな……。自分が蒼生のされるがままになっていたから、やり返すつもりになったらしい。
「でも、こっちは、その」
「いいからいいから。オレに任せて」
健太は蒼生の手からスポンジを取ると、そのまま手から腕へと滑らせていく。
俺もシャワーの温度を確かめる。
「ほら、蒼生。頭あげて」
「え、あ、うん」
戸惑った表情で、俺と健太を交互に見る蒼生。雰囲気がじわりと変わったのを蒼生自身感じたのだろう。
健太はきちんと丁寧に、蒼生の腕を、首筋を、胸元を洗っていく。俺もぬるめの湯でゆっくりと蒼生の髪を流していく。
空気を完全に切り替えたのは、健太だ。わざと避けていた乳首を、小さく擦ったのが見えた。
「ぁんっ」
漏れた声。
ぱっと蒼生は自分の口を手で塞ぐ。
「なにそれ、可愛い~」
「は、恥ずかし……っ」
俺はシャワーの湯を蒼生の後頭部に当て、指の腹でそっと撫でる。
「っあ、あ」
びくびく、と肩が跳ねる。ふふっ。
「ここ気持ちいいもんな?」
「ん、うん……っ」
たぶん蒼生も気付いている。この体勢は、昨日の夜の続きだって。
そうやって俺と健太が蒼生の全身を洗い終える頃には、蒼生は肩で息をしていて、触れるだけでぴくんと動くようになっていた。肩越しに覗き込めば、素直に反応したペニスがふるふると震えている。
「あー、ホント、やべぇな……かわいぃ」
「ん、ぅ」
健太が身を乗り出して、蒼生にキスをする。その重みで、蒼生の身体が俺に寄り掛かってくる。支えながら、手を取って指を絡ませる。濡れた髪にキスをすれば、くぐもった声がする。
すっと健太の手が動いた。
「……っあ!」
「ここも綺麗にしような」
その手が上下に動くと、泡とは違う、粘度の高い音がかすかに聞こえた。
「だ、だめ、健ちゃんっ……。ち、んちん、今、触っちゃだめっ……」
「なんで? こんなに触って欲しそうなのに?」
「よ、汚しちゃ駄目な場所、だもんっ……掃除の、人、困るから……っ」
……そうか。蒼生はそういうの、気にする子だもんね。
「蒼生は優しいね」
「ん。わかった。汚さなきゃいいんだよな?」
そこからの健太の行動は早い。桶に溜まったお湯で蒼生の身体に残った泡をざあっと流すと、そのまま蒼生のペニスを咥え込む。理に適った行動だ。飲んでしまえば汚さないからな。
「あ、健ちゃ、あ、やっあ、ぁ」
俺の手を、蒼生がぎゅっと握る。ああ……、この指先の感じは、絶頂が近いな。散々我慢してきた分、上り詰めるのも早いんだね。
「こ、公共の、場は、だめ、って」
蒼生が困ったような、でもとろけて気持ちよさそうな目で俺を見上げてくる。
「大丈夫、鍵は閉めてあるんだから、ここには俺たちしかいない。今は俺たちの場所だよ。それでも気になるなら、口を塞いであげようか」
「んっ、うん、あ、ん、塞いで……」
「いいよ」
軽く開けられた蒼生の口から、舌を吸い出す。甘い。跳ねる肩を後ろから抱き締め、柔らかく動いて俺についてこようとする舌の感触を堪能する。たまらなくなって抱き上げると、少しずつ、その隙間から漏れる息が荒くなっていく。可愛い。
腰を浮かせた蒼生の、奥まった穴に指を伸ばす。そこは蒼生のした処理と、落ちてきた泡でぬるりと滑る。
「っん」
蒼生が身をよじったので気付いたのだろう、俺の指にこつんと触れたのは健太の指だ。そうして、そこをゆっくりほぐしていく。優しく。撫でるように。わずかに忍び込ませる程度に、やんわりと、丁寧に。じっくりと。ふたりがかりで。
「ん……、んんっ、ぅん、んーっ!」
中に触れた指が締め付けられたかと思うと、大きく震え、蒼生の身体から力が抜ける。離した唇から、ふっと甘い息が漏れる。それごと飲み込んで、頬を撫でれば、くすぐったそうに小さく笑う。
はーっと健太が息を吐いた。
「ごちそうさま。でもやっぱちょっと石鹸の味したわ。後で口直しさせて? な」
反対側の頬を撫でる健太にも、頷いて笑う。
「……さ、いったんあったまろうか」
さすがにこの場所でこのまま、というわけにはいかない。タイルの床と壁では、どの体勢でも蒼生の体を痛めてしまうから。滑ると危ないしな。健太も、俺も、かなり限界ではあったけれど、大切なのは蒼生だ。
「そうだな、せっかくの露天風呂なんだから」
「うん。……でも、その前に、ふたりとも、……指抜いてぇ……」
え?
……ああ。
「あ。忘れてた」
「ごめんね、触り心地が良くて」
「そ、そんなことある……?」
柔らかいその場所が、吸い付くように包み込んでくれるのが心地よすぎるんだ。そんなこともあってもいいと思わない? 抜いた指の刺激でまたぴくんと肩を跳ねさせるのも愛おしい。
改めて、きちんと椅子に座り直させ、髪から体から丁寧に洗い流してやる。泡がついてしまったから、後ろも壁に手をつかせて洗ったけれど……なんの抵抗もなかった。いったん自分で処理すれば、こんな触れ方をしても気にならないのだろうか。
ようやく、もうひとつのドアを開ける。浴槽は木製で、外に出た途端にとてもいい香りがした。壁のない開けた空間だが、きちんと屋根は風呂を覆うくらいに張り出している。
「屋根があるから、雨でも入れるようになっているんだな」
「本当だ。それに、外側は作り物の岩が積み上がってベランダみたいな構造だね。これって視線対策?」
「だろうね。だから空くらいしか見えない」
「でも空が見えるの、いいな」
蒼生は嬉しそうだ。開放感がある風呂自体は嫌いではないらしい。
ちなみに、両脇も木製の壁で仕切られていて、おそらくこの向こうは隣の家族風呂だ。ここではさすがに無体なことは出来ないだろうな。
周辺の構造を考えながら俺たちがそんなことを話している後ろで、健太はさっさと湯に浸かっている。
「ふたりとも早く入りなよ。気持ちいいぜ~」
俺と蒼生は顔を見合わせる。たしかにその通りだ。時間貸しだから終了時刻は決められている。好奇心で周囲を確認してしまう癖のある俺たちだが、ここは健太のように素直に風呂を堪能するのが正解だろう。
俺が湯船に入ると、すぐ後から入って来た蒼生は当然のように俺と健太の間に座った。
「はー……。気持ちいい」
そうだな。蒼生の好きな、ぬるめの温度。リラックス効果のある木の香り。空が見えて、多くはないが星も確認できる。きっと蒼生はこの状況を心地よく感じているのだろう。俺の願望を含めて言えば、隣に俺たちがいることも。
夏の空気はじっとり熱いが、湯の中にいれば風はわずかに涼しい。端に据えられた木製の注ぎ口から落ちる水音が、リズミカルに耳に届く。世界にはもうそれだけなのではないかと思えてしまう。隣に蒼生がいる、この空間がすべてだというのなら、それもいい。
ふと。透明な水の中……、蒼生の手が動いて、健太の腕に絡むのが見えた。俺は一瞬それを羨ましく思いかけた。が、すぐに蒼生の頭がことんと俺の肩に乗ってきたので、可愛い、で頭がいっぱいになってしまう。
「……蒼生?」
「んー? なんか……いっぱい楽しいし、すごく嬉しいし、満たされすぎてて、眠くなってきちゃった」
蒼生の言葉を聞いた健太がものすごい勢いで体を起こしたので、俺と蒼生は頭から湯を被ることになった。
「……わ、なに、健ちゃん」
「っ、なにをするんだ」
ぎゅっと蒼生の両手を握る健太は、焦った顔をしている。
「待って、まだ眠くなんないで? オレもう我慢の限界なんだけど!」
「え、そんなに?」
蒼生はきょとんとする。え? って。……ふふ、自分ばかりがシたいとでも思っていたんだろうか。そんなわけがないだろう?
「蒼生は気付いていなかったかもしれないけど、健太は昨日からずっと、必死で他のことを考えて性欲を散らしていたんだよ」
俺が代弁しても、蒼生の表情はそのままだ。
「え、そうだったの?」
「そうだよ……なんで冬矢にバレてんのかはわかんねえけども、夏休み中に仕上げるべき課題が家に帰ったらそのまま全部書き終わるくらい思考がまとまるまで、必死に考えてました」
蒼生は可愛い顔を俺にも向ける。
「もしかして、冬矢もそう?」
だから、腰を引き寄せて抱き締める。
「どの瞬間の蒼生も可愛くて、つい触れることを考えてしまっていたよ。俺もレポートの1本くらい新規で書けるかもな」
ふにゃり、と蒼生は表情を崩す。
「……じゃあ、部屋に戻ったら、シよ」
もちろん、そのつもりだよ。
部屋に入るなり、健太が蒼生を担ぎ上げた。俺は蒼生の手から荷物を取ってやり、鞄の上に置く。蒼生が余計なことを考えないように。蒼生は俺たちのことだけ考えていればいい。
ベッドの上に半分放り投げられるように横たえられた蒼生は、とろりとした目で俺たちを見ている。その手がズボンにかかる、それより早く健太の手が下着ごとズボンを下ろし、サンダルをベッドの下に落とした。俺はシャツが裏返しになるのも構わず脱がせて、頭が抜けた瞬間にキスをする。
「ん、うれしい、はやく……」
可愛い。
可愛い蒼生。
何度も何度も唇を重ねる。
まだ濡れている髪を梳き、そこにもキスを。
それから頬に。
その隙に服を放り投げた健太が割り込んできて、蒼生の唇を奪う。
今度は俺が服を捨てる番だ。
シャツから腕を抜いていると、一旦離れたせいか、ぱたぱたと蒼生の手がシーツを叩く。
ふ。
大丈夫。
すぐに行くよ。
「蒼生……」
「んっ、とぉ、やぁ……」
いつもの凜とした優しい声が、甘くとろけてぐずぐずになっているのが、可愛くて仕方ない。
ふたりがかりで抱き締めて、代わる代わるキスをする。
合間に息継ぎのように吐く息が、部屋の空気に甘く溶ける。
可愛い。
俺の、蒼生。
膝が俺の上に乗ってくる。その行動の意味はすぐにわかる。熱くなったペニスが、俺の腰に擦り付けられたからだ。
「いいよ、一緒に触ろうね……」
「ぁっ、うん……」
素直にねだってくるのが、本当に可愛い。
蒼生の左手ごと、ふたりぶんのペニスを握る。ぞくっ、と、腰の辺りがざわめく。ああ。この熱を、俺も待っていたんだろう。期待と焦りで頭に血が上りそうだ。重なり合う感覚が、ずきずきと鼓動に合わせて、体の中心をさらに熱くする。
「あ、ぁあ、んー……っ」
音が、濡れていくのがわかる。俺は蒼生の上に乗るように体を合わせ、優しく、強く、手を動かす。粘って、擦れ合うのが、気持ちいい。
「蒼生、オレはこっち」
健太が蒼生の右手を引いた。そして自分のペニスを握らせると、蒼生の頭を足の付け根に乗せる。蒼生はそれを躊躇いもなく咥え込んだ。
そちらに夢中になるかと思いきや、左手も俺の手の動きを誘うようにするりと動く。いいね。欲しがりになった蒼生を見ると、愛おしくてどうしようもなくなる。
だから、顔を横に向けたせいで無防備になった首筋を舐め上げ、赤く火照った耳たぶを噛む。ふわふわで、唇が気持ちいい。舌で転がす。……美味しい。
「ん、ぅう、ん、ん、む……ひぅっ」
口の中に閉じ込められた声。
中で蠢く健太のペニスで、リズミカルに膨らむ頬まで可愛い。それを人差し指の関節で擦ってやると、ふたりが同時に飛び跳ねる。
「ちょ……っ、おま、なに……っ」
「んうー、うーう」
ふ、ふふ。
蒼生のびっくりした目が、ぱちぱち瞬いて可愛い。たまにはちょっかいも出してみるものだな。
再び手の動きを激しくしてやると、すぐにその目はとろりと甘くなる。
……ああ。
余裕があるつもりだったけれど。
今日1日、無邪気にはしゃぐ可愛い蒼生を堪能しつつも、俺は限界だったらしい。
流し目の角度が、体の内部の疼きを押し上げる。
「あ、出る……っ」
健太の呻き声が先だったか。自分が限界を迎えたのが先だったか。それを意識しているだけの余裕すらなかった。ただ、弾けるように解き放たれた感覚と、蒼生の手が先端を撫でていた感じ、わかったのはそれだけだ。
力が抜けた俺の下で、蒼生がごそごそと動く。なんだろうと思っていると、握った左手を口元に持って行って、……は?
咄嗟にその手首をつかんだ時には、蒼生の手は空っぽになっている。
「何をしてるの?」
「ん」
蒼生がぱかっと口を開ける。そこには、白く濁った、…………。
「蒼生っ! ぺってしな!」
「んーんっ」
吐かそうとしたけれど、蒼生は首を振って拒否をする。両手首を掴むと、その喉から、嚥下の音が聞こえた。
そんな、好んで飲むようなものじゃないだろ?
健太も蒼生の行動に驚いているようだ。けれど蒼生は意にも介せず、口をもごもごと動かす。
「……量が多いから飲みにくい。あと喋りづらい」
「そうだろうね、健太、それ」
「あ、ああ、うん」
「ほら、蒼生、水。飲んで」
「うー」
蒼生は、健太が傾けたペットボトルから、勢いよく水を飲む。
そして一息つくと、「あのね」と切り出した。
「3人分、混ぜたらどんな味がするかなって思って」
いや……うん。そうか。なるほど。蒼生の好奇心は、それを気にしてしまうんだな。
「それで、どうだった?」
「うーん。混ぜたらどう違うかわかんなかった。……でも、全部、混ぜて僕の中に入れちゃった。ふふ」
蒼生の行動が不思議だ、と思うのは変わらない。だが、それを聞いて、何故だかぐっときてしまった。たぶん、蒼生が言いたいことがなんとなくわかったからだと思う。全部、混ぜて、ひとつに。蒼生の中で。
おそらく、蒼生自身が自覚する以上に、蒼生は俺たちを求めてくれているんだと思う。気付かないほど深い場所で、俺たちを愛してくれている。
愛しい蒼生。
キスをして口内を探ると、残った味が鼻に抜ける。
「蒼生ぃ」
こいつにも感じるところがあったのだろうか、蒼生の名を呼びながら、健太が俺の肩を叩く。仕方ない。体を起こして蒼生から離れると、隙間を狙って健太が頭を割り込ませてくる。深いキスで、味を確かめているようだ。
「……違い、やっぱわかんねえな」
「ん……。やっぱり別々に比べてみなきゃわかんないよね」
「それが出来んのは蒼生だけだけどな」
「あ、そっか」
その答えに笑った健太は、ぽんぽん、と優しく蒼生の頭を叩く。それからちらりと俺を見た。
「冬矢、そのまま上下逆になれるか」
逆? 蒼生を上にしてやれってことか。健太が何を言い出したかわからず、目をぱちくりさせている蒼生を抱き締め、体を回転させる。蒼生の体重がすべて自分にかかってきて、心地いい。
「蒼生は冬矢にくっついてて。で、膝は立たせててね」
「? な、に?」
シーツに膝をつき、腰だけを高く上げる格好に、蒼生が不安げな声を上げる。蒼生からは健太が見えない。だから何をされるかわからなくて心配になるのだろう。
代わりに俺が視線をやると、健太は少し緊張した面持ちをしている。目が合った。すると小さく頷くので、健太が何をしたいのかを悟る。それから、こいつが俺に望む対応も。その意思は前から聞いていたからな。俺は蒼生を抱き締める手にぎゅっと力を込めた。ごめん、いい子にしててね。
健太は優しく蒼生の腰を撫で、顔を落としていく。俺の視界からそれが半分ほど双丘の向こうに隠れた瞬間、蒼生がびくんと大きく身体を跳ねさせた。
「……ひゃっ、あ!」
意識していなければ、蒼生は俺の手から逃れていただろう。それだけ蒼生の驚愕は大きかったようだ。聡い蒼生は、穴に触れたのが健太の舌だと、すぐに気が付いたらしい。
「や、やだやだ、だめ、な、なんでぇ……?」
蒼生が俺の腕の中でもがく。
「んー? ローション持ってこなかったから」
「う、嘘だぁ、僕、ちゃんと鞄に入れたもん……」
誤魔化そうとした健太の嘘は、瞬時に見抜かれる。相変わらず嘘はすぐバレるな。健太自身が気付いていなければバレなかったかもしれないのに。だが、蒼生は隠れていたつもりらしいが、旅行の準備をするのにいそいそとボトルを入れる姿を、俺たちは見てしまっている。……あれは可愛かった。
「うん。言い訳してごめん。本当は、ずっと、したかったから、だよ。ここも可愛い、ね」
「やだぁ……。だって、汚いよ……」
ふるふる、と頭を振って、腕を突っ張ろうとする。
「全員分の精液を混ぜて飲みたいとか言い出す子が言っても説得力なくね?」
「……そ、それは」
「それにさ。あれだけ丁寧に洗ったじゃん。てか、オレ、蒼生の全身、頭の先から爪先まで、汚いなんて思わねえもん。全部食べちゃいたいってずっと思ってた」
蒼生は体をよじらせる。
「でも、ひっ、ぁ、け、健ちゃんが具合とか悪くしちゃったら、や、やだよぉ……」
動揺のせいか、涙声だ。この声を聞いてしまうと胸が痛む。
ああ、だが、わかった。
なるほど。
自分の嫌悪感ではない。
健太の心配をしているのか。
「あーおい……」
「……ぅ?」
今にも涙をこぼしそうな眦に、キスを落とす。それから、瞼に、頬に。唇に。
「落ち着いて俺を見て。わかる?」
「ぅ……ん」
「大丈夫だよ。ね。俺の舌に集中して」
もう一度唇を合わせ、舌で唇をなぞる。
「これは? 気持ちいい?」
「ん……っ、は、気持ちいい……」
「いい子だね。可愛い……。じゃあ、それだけ考えて。大丈夫、頭空っぽにしていいよ。……ほら。全部、気持ちいいね?」
「きもひぃ……」
髪を撫でて、角度を変えながらキスを繰り返す。
少しずつ、表情から険しさが消えていく。
腕をわずかに緩めても、逃げる気配がなくなった。
「教えて。おしり、どんなふうに気持ちいいの?」
「ん、ぁ……ぬるぬる、するの、気持ちぃ……。んっ、は、あ、あ、まわ、り、くるくるしてるの、も……あぁっ、あ、ナカ、ぁ、気持ちいいよぉ……っ」
ふふ。
「俺のキスも?」
「うん……っ、あ、どっちのお口も、気持ちぃの……」
ぞくぞくする。
俺の言葉で気持ちよくなっているのか。
健太に対する心配で味わえなかった快感を、俺が言い聞かせたら、素直に受け止めるようになった。
可愛い。
そうか、俺が言えば、君は。
「蒼生、大好きだよ……」
とろけた顔が、ふわりと嬉しそうに笑う。
俺は。
蒼生さえいれば。
「気持ちいい?」
健太がそう言って顔を上げる。蒼生は反射のように二度頷いた。
「ん、けんちゃ……きも、ちぃ……。けど……もっと、ナカにも、ほしくなっちゃう……」
控えめな、けれど強く誘い込む言葉。
俺と健太が同時に笑ってしまったのは、あまりの可愛さに限界を超えたせいだ。
「それじゃあ、挿入れてもいい?」
「……ちょう、だい……」
もう少し自由に動けるほうが楽かな。俺は蒼生の背中から腕を外す。どいてやろうかと体を起こそうとするが、蒼生は俺の首筋に顔を埋め、抱え込むように背中から肩を抱いてくる。
「蒼生?」
「離しちゃやだ……撫でてぇ……」
…………っ。
俺をどうする気なんだろうな、まったく。
全力で甘えてほしいとは思ったし言ったけれど、こんなに甘え上手になるなんて……嬉しすぎる誤算だ。
頭をぽんぽんと叩き、背中を撫でてやると、満足げに息を吐く。
ああ、好きだな……。
「は、う……ふぁっ、あ」
反り返る背の感触で、健太が蒼生に挿入ったのを知る。
「……はぁっ、熱い……」
「あ、ぁ、いっぱい、はい、って……」
「だってもう、待ちきれなかったんだもん……あー、蒼生も待ってくれてたんだあ」
「ん、うん、うん……っ、あ、うぅーっ」
耳に直接、蒼生の気持ちよさそうな声が届く。必死に縋りついてくる手。ベッドのスプリングのせいで俺まで酷く揺らされるのは癪だが、それに従って蒼生の息が荒くなるのを感じられるのは嬉しい。
快感に浸って喘ぐ蒼生は、とにかく愛しい。
もっと声を聞かせてほしい。
たくさん啼いて。
もっと。
ほら。
「……あ、は、ぁ、あ、とぉ、やぁ……」
「うん。なに?」
「か、噛んで、いい……っ?」
それを聞くの? ふふ。
「いいよ」
「んっ……ふ、うぅ、ん……っ」
蒼生の唇が、俺の肩を辿る。
ぬめる舌の感覚。
ちりっとした痛み。
くすぐったい。
ああ、もう、可愛い。
きっと限界なんだろう、俺の腕に抱かれ、耐えるように体全体で取りすがる蒼生。
愛しい人を抱き締めることが何物にも代えがたい幸せなのだと、教えてくれた蒼生。
胸がつぶれそうだよ。
「……う、はぁっ、あ、……っあ、ん、んーっ……!」
可愛い、俺の蒼生。
蒼生。
「ひぅっ」
短い悲鳴と共に体の力を抜いて覆い被さってきたのは、健太が体を引いたからだろう。
荒い息を隠そうともせず、ぐったりと俺にもたれかかる。蒼生の体力からしたら、そろそろ疲れ果てる頃だろうな。明日のこともあるし、無理はしないほうがいい。顔を覗き込むと、ほら、もう眠たそうだ。
「蒼生……。疲れただろ。もう寝てもいいよ」
ぴく、と肩が揺れる。ゆったりと俺を見た蒼生は、どこか拗ねたような表情をしていた。
「……やだ。冬矢のも挿入れてもらう」
俺を気遣っているのだろうか。俺はたくさん甘えてもらったし、やめても構わない。俺の欲望より蒼生の体が大切だ。
けれど、蒼生は首を振る。
「こんな、熱くて硬くなってるの、もったいないもん。ねぇ、挿入れてぇ」
っ……。先走りでぬめっているせいで、蒼生の身体は俺の上を滑らかに動く。そうやって身体で擦られると、挟まれた俺のペニスが期待に疼く。駄目だよ、せっかくの我慢が無駄になるだろ……。
そこに、一度離れて洗面所に入っていた健太が戻ってくる。
「どうしたの?」
「冬矢が挿入れてくれないの……」
「なんで?」
「もう、蒼生、疲れ切っているだろ。旅先なんだから、明日困るかもしれないじゃないか」
「でも蒼生が欲しがってるならあげたらいいのに。な、蒼生」
「ねー……」
ふう。
まったく……。
俺は蒼生を抱えたまま起き上がり、その勢いで蒼生をベッドに倒す。
「……疲れたからやめたいって思ったら、途中で止めるんだよ。ちゃんと聞くからね」
「ふふ。はぁい」
止める気がないな、これは。あーあ、嬉しそうにして……。
そんなに、俺がほしいの?
ぎしりとベッドを軋ませ、寝転がった蒼生の隣に座った健太が、にやにやと俺にゴムを差し出してくる。
「どうぞ」
「どうも」
昔は自分にこんなに性欲があるなんて思いもしなかったのにな。
改めて、蒼生の腰を担ぎ上げ、両足を抱え込む。ひくひく可愛く待ちわびるそこに先端を当てると、はあっと蒼生が息を吐いた。
投げ出されたままの腕は疲れを感じさせるのに、目がきらきらと俺を見ている。
可愛い、な。
「あぁー……っ」
少し掠れた声。
蒼生のナカは、飲み込むように俺を受け入れる。
掴んだ腰を支点に少しえぐってやると、
「は、あぁんっ」
両手がシーツを強く握る。
それから、ここ。
好きだよね。
「……ぅ、あ、んっ、ひっ、あ、……ぁう、ん、ふぁ、」
唇が、意味をなさない言葉を紡ぐ。
健太が身を乗り出して、蒼生の乳首に口づける。
「ひゃぅ……っ」
っ、絞られる……っ。
「うぅ、ん、んーっ……」
乳首に指を残して、健太の舌は少しずつ降りていく。
それに合わせるように好きなところを擦り上げると、蒼生は強く腰をそらせる。
「っあ、あ、きも、ち……ぃ……っ」
可愛い。
揺れる足が俺の腰をきゅっと締める。
可愛い。
気持ちいい。
好きだ。
蒼生。
とうとう健太の口が、蒼生のペニスを捕らえる。
「あぅ!」
跳ねる腰をふたりがかりで押さえつける。
「ぁ……だ、め、あ、りょ、うほ、っ、」
高くなる蒼生の声。
気持ちいい。
「あ、あぁんっあ、や、あぁ……」
可愛いね。
可愛い。
蒼生が、手を伸ばした。
両手を、それぞれ俺たちに向けて。
「て……」
「ん?」
「手ぇ……にぎって、ぇ」
……この子は。
ああ、もう。
健太が右手を差し出し、蒼生の左手を掴む。
俺は左手を、蒼生の右手に絡める。
蒼生は、にこりと微笑む。
溜まっていた涙がすうっとこぼれる……綺麗だ。
「……蒼生。蒼生」
名を呼べば、ナカが答えるようにうねる。
「ぁえ、もぉ、あ、れちゃ、ぅぅっ」
「いいよ。健太にあげな。俺も一緒にイクから、ね……」
「ぅん、うんっ……あ、」
愛しい。
「け、んちゃ、ぁ、とぉやぁ……っ、す、き、らいすきっ……!」
俺も。
大好きだよ。
…………蒼生の快感に引っ張られるように、俺もすぐに己を解放した。
はぁ……。
見下ろす蒼生は、目を閉じ、大きく胸を上下させていた。
口から酸素を取り込もうとしている、そのそばに顔を近付ける。
気が付いた蒼生が、緩やかに目を開けた。
それから、笑う。
「……ふたりとも、大好き」
胸の中が、熱い喜びの気持ちでいっぱいになる。
だから答える代わりに、キスを落とす。
蒼生は照れたように笑って、……すぅっと目を閉じた。
「寝ちゃった?」
さっき石鹸の味がするからと言っていた健太が、おかわりをして満足そうな顔で蒼生を覗き込む。
「うん。今日は朝から遊んで疲れていたからね」
「だよな。じゃあタオル濡らして持ってくるわ」
「ああ、よろしく」
すとんとベッドを降り、健太が洗面所に向かう。足取りが軽いのはさすがだな。
俺は、もう一度蒼生を見る。
そして、頬にそっとキスをした。
翌朝。
さすがの健太も今日ばかりは朝の運動は取りやめたらしい。静かな部屋で、一番先に目を覚ましたのは俺だった。
蒼生はすやすやと気持ちよさそうに眠っている。体の向きを変えて、その顔をもっとよく見ようと近付くと、その手が伸びる。きゅっと指先で俺のシャツの胸元をつまみ、体ごと俺にすり寄ってきた。
……朝から、可愛い。
嬉しくなり、乾かし切らずに寝かせてしまったせいでぴょんと可愛らしく寝癖のついた髪をそっと撫でると、蒼生はぱちりと目を開けた。
「んぅ……おぁよ……」
「おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん……だいじょぶ……」
言いながら、きょろきょろとあたりを見回す。
「どうしたの?」
「ああ、すっごく幸せな、いい夢見たなぁって思ってたけど……ふふ、夢じゃなかった」
かわ……っ。
俺は思わず、寝転がったまま、蒼生を抱き締める。
「わっ」
「幸せなのは俺のほうだよ。大丈夫、もし夢だったとしても、ちゃんと現実にしてあげるからね」
「……そっか。嬉しい」
「それに、夢じゃないって証拠もあるよ」
俺はシャツの襟を引っ張って、肩を見せる。昨夜、蒼生が付けた跡。あの後見たら、きっかり残っていた。必死に縋りついてきた、愛おしい跡だ。
「あっ」
蒼生はぽっと頬を朱に染めると、布団をもぞもぞと引っ張る。
隠れようとしているのかな。
そこに、起きてきた健太がどさりとのしかかってきた。
「朝からずるい! オレもいちゃいちゃする!」
「お、重いぃ……おはよ健ちゃん」
「おはよ蒼生!」
さりげなく蒼生を奪おうとするので、とりあえず軽く蹴飛ばしておく。
きちんと蒼生の髪を綺麗に整えてやり、ホテルの広いレストランで朝食を食べ、少し部屋でゆっくりして、チェックアウトぎりぎりに俺たちはホテルを出た。帰りの電車の時間は午後の早い時間だ。だから、どこに行くというわけでもなく、駅に向かう道沿いにある土産屋を覗くことにした。蒼生はそれがしたかったと言うからちょうどいい。
蒼生と健太は、どこにでもありそうな土産用の菓子箱をあれこれ比べて見ている。全員一緒の家に帰るんだ、土産も何もあったものではないが。
「なあ、これ、美味しそうじゃね?」
「クッキー食べたい!」
楽しそうに箱を抱えるふたり。俺は、ついつられて笑ってしまう。……楽しい。どこにでもありそうなものでも、土地の名前が書いてあるだけで、蒼生と一緒に来た思い出なのだと嬉しく思える。旅行っていいものだな。
俺の幼い頃は、それこそ短ければ数か月で引っ越しをする、常に生活が旅行のようなものだったから、旅行なんて珍しくも楽しくもなかったのに。そういえば、付き合い始めてから行った旅行も、まだどこかでその気持ちが抜けなかったな。もちろん蒼生と一緒にいられて楽しかったけれど、あの頃は、別々の家に帰ることを寂しく感じていた。そのせいで、思い出の最後を寂しさで締めくくっていたせいもあるのかもしれない。
けれど今は違う。ずっと一緒だ。
出かける時も。旅行の間も。帰ってからも。
袋を抱えて店を出ると、隣は地元の魚を扱う鮮魚店だ。
「わあ。冬矢、見て、美味しそうな魚」
大好きな蒼生。
「そうだね。買って帰って、今日の夕飯にしようか」
「うん、やった!」
嬉しそうに笑う蒼生。
その顔が嬉しい。
健太も屈託なく笑っている。
そう、俺たちは、蒼生が楽しんでくれることが何より嬉しい。
「健ちゃん、冬矢、連れてきてくれてありがとう」
ああ。
一緒に来てくれて、と言おうとしたのに。
ふふ、先を越されたな。
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62こ目;上書きの夏旅行~後編~
僕+君→Waltz! 創作BL小説 創作BL 一次創作 幼馴染 三角関係 3P R18サークル合宿のリベンジを行うべくやってきた旅行の2日目。
いろいろ遊び終えて3人は部屋に戻ることにしました。
そこで待っていたのは、冬矢が咄嗟に計画したイベントで…。
いちゃいちゃ回です。
やっぱり全員テンション高いです。
↑初公開時キャプション↑
2022/08/19初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
こちらは後編です。前編( https://pictbland.net/items/detail/2285290 )からお読みいただくことをおすすめします!
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ひとしきり会場を回って満足した俺たちは、ホテルへと戻ってきた。浴衣の返却は、着替えてからさっきの会場へ戻せばいいらしい。だからまずは着替えだ。部屋に入って、電気を付けて、とにもかくにも蒼生を正面から抱き締める。
「えっ、と、冬矢?」
全力でその体温を確認し、深呼吸をする。ああ。洗い立ての浴衣の匂いの中に、はっきり感じる蒼生のにおい。暑い外を歩いたせいか、汗の香りも混じって、セックスの最中に吸い込むにおいに似ている。たまらないな。もう、ホテルの敷地に入ってからは、蒼生に触れたくて、頭がいっぱいだった。
健太が黙って後ろから蒼生の肩を引く。蒼生が小さくよろけて健太を見上げ、俺との間に空間を作る。その一瞬のうちに軽く前襟を引っ張って、肩越しにわずかに開いた隙間から胸元を覗き込んだ。
「……よし」
「? どういう……?」
蒼生は俺たちの行動を不思議そうに見比べる。健太がやたら真剣な様子で腕を組んだ。
「ホテルもいいけど、次は旅館。絶対旅館」
ぶつぶつと呟くのを見て、蒼生はさらに首を傾げる。
まあ、健太は、寝間着として浴衣が用意されている宿泊施設に泊まりたいと前から言っていたからな。楽だからつい洋室を選んでしまうけれど、たしかに和室もいいだろうな。きっと蒼生は部屋に似合う。窓から緑が見えるような部屋に、障子の柔らかい光。絵になりすぎる。想像だけで圧倒される美しさだ。そうだな、次は旅館だ。
「あーっ! こっ……のまま勢いで突き進みたいんだけどー……! これ、今日中に返却なんだよな……っ」
いかにも無念そうに健太が声を振り絞る。それについては全くの同意だ。蒼生が汚れるのを気にするだけなのだったら、すべて脱がせてしまえばいいのだから、今すぐにそうしたっていい。けれど、時間の制限がある。
「ほら、健ちゃん。ちゃんと先に返してこよう?」
そう言って健太の肩を叩く蒼生。
蒼生だって内心は勢いに飲まれたいと思っているはずだ。けれど、定められたことはきちんとしたいと考え、行動に移せるところが蒼生らしい。蒼生自身は、融通が利かない自分が嫌だ、などと思っているらしいが、そこまで度が過ぎて真面目なわけではない。蒼生の場合は他人や施設に迷惑をかけたくないという優しさが根底にあるだけなんだ。
うん。蒼生の意見は尊重しよう。それに、俺にもまだ計画がある。
「蒼生の言う通りだ。そろそろ時間だからな。早く着替えて、風呂の準備をしよう」
「へ? 時間?」
「準備って、上の大浴場にでも行くのか?」
「さて、な。とりあえずは俺についてきてもらおうか」
ふたりはきょとんと俺を見る。それに対して俺は特に説明せず、ただ急かして着替えさせる。健太は蒼生の浴衣を脱がせたいと駄々をこねたけれど、帯をほどく手伝いだけにとどめさせた。健太の我慢がいつまでもつかわからない以上、下手に手を出させられない。着させるより脱がすほうが、刺激が強いのは当然だ。……俺だっていつまで自制できるかわからないんだから。
蒼生はその不穏な気配を感じ取っているようで、手伝ってくれた健太に「ありがとうっ」と言ったかと思うと、あっという間にシャツを被っていた。蒼生は蒼生で、健太に帯を解かれることに対してよからぬことでも考えていたのかな。加えて、俺が「時間」と言ったから、それを守ろうとしてくれているのもあるのかもしれない。説明をしなくとも信じてくれているのだろう。律儀で可愛い。
そうして宴会場に浴衣を返し、フロントで鍵を借りてから、上のフロアにやってきた。格子状の扉が幾つも並んでいる、その中から鍵に記された数字と同じ番号の扉を探す。あった、ここか。ふたりがぽかんと扉の上に掲げられたプレートを見上げる。
「……家族風呂」
「浴衣借りる時、何かしてるなーと思ったら、ここ借りる手続きしてたんだ」
「ああ。せっかくだから、部屋以外の風呂も入りたいだろ」
言いながら格子を開けると、目の前に靴箱があって、横に暖簾の掛かった普通のドアがある。鍵を差し込んでドアを開けると、待ちきれなくなった健太が真っ先に飛び込んだ。続いてきょろきょろしながら蒼生が入り、最後に俺が入って鍵を閉める。これで、ここから先は密室だ。
……へえ。申し込みのページで写真は見ていたが……脱衣所も結構広いな。棚は大きく余裕があるし、大きな竹のベンチも置いてある。棚と向かい合わせの洗面台には大きな鏡。そこにきちんと並べられた籐の椅子。なるほど、これだけスペースがあれば、子供たちが着替えたり遊んだりしていても、母親が鏡の前でゆったり身支度を調えることもできそうだな。使い捨てのスポンジやブラシなど様々な道具も自由に使っていいように置いてある。充実しているじゃないか。
蒼生と健太が横開きのドアを開けて眺めている浴室を後ろから覗き込むと、ふうん。こっちも広い。洗い場には蛇口が両側に3つずつ、併せて6つある。浴槽は、ああ、さらに向こうのドアの先にあるのか。壁がない、半露天になっているようだ。
「すごい、広いね」
「家族って書いてあったけど、友達同士の大人数でも余裕で入れるじゃん」
たしかに、他人の混じらない大きな浴室はなかなかないからな。そういうところにも需要があるのかもしれない。家族に限定したものではなく、個人のグループを総称して家族風呂と名付けているんだろう。
俺は、珍しそうに浴室を見渡す蒼生の肩にそっと手を置く。
「大きな風呂が苦手な蒼生でも、このくらいなら怖くないと思って」
目を見開いた蒼生が、その表情をぱあっと輝かせる。次第にきらきらしていく目。
「……っ、嬉しい! 怖くない! 人がいても、健ちゃんと冬矢がいたら平気なんだけど、……でもこっちのほうがすっごく嬉しい! 冬矢ありがとう!」
驚かせた時の。この、喜びの表情に変わる瞬間が好きだ。嬉しい。喜んでくれた。……本当に、なんて可愛いんだろう。
「じゃあ入ろうか」
「うんっ!」
大きく頷く蒼生。よかった。
それにしても、我ながらいい選択だったと思う。蒼生が怖がらずに入れるなら、と真っ先に思ったのはたしかだ。だがそれと同時に、蒼生を他人の目に触れさせずに済むというメリットもあったわけだ。
健太のように開けっぴろげなのは論外だが、自分が好意的に見られているという概念がない蒼生は、逆に人目を気にせず肌を見られても平気なのではないかと思っていた。もちろんそういうところもある。さっきのプールなんかも、蒼生は誰に見られても気にしない。おそらくラッシュガードがなくとも普通に売店にだって行ったはずだ。が、こと風呂に関してはそうではないらしく、きっかり肌を隠すようにタオルを使う。この前の合宿で初めて気付いたことだ。俺と健太に対してはその行動を起こさないから、今まで気付かなかった。おそらく、何か理由があるが、蒼生自身もわからないようだから今のところは対処療法しかない。
けれど、今は本当に俺たちだけだ。だから蒼生はまったく躊躇せずに服を脱いで、裸のまま丁寧にそれをたたんでカゴに入れていく。本人は意識していないのだろうが、許されているのだ、とつくづく感じる。
「さー、行くか!」
健太がタオルを首に掛けながらドアに向かっていく。またこいつは、堂々と。この前はもう少し人目を気にしていたと思ったが。……いや、そうだな。今更か。望んだわけではないが、こいつの全身は残念ながらくまなく見てしまっている。健太も俺に見られることをなんとも思っていないのだろう。思っていたら、まあ、同時にセックスなんて出来ないか。
健太の手がドアにかかるのを見た蒼生が、薄く笑ってひらひらと手を振った。
「あ、ちょっと、あれなので、……先に行ってて」
……ああ。うん。
「! わかった」
「うん」
「慌てないでいいからね」
「ありがと」
脱衣所に蒼生を残し、俺と健太は浴室に入った。
「……まだアレはさせてくんねえんだな」
ぽつりと健太。言いたいことも、その気持ちもよくわかる。だが。
「蒼生が抵抗あるって言うんだから、そこは尊重しないといけないだろう」
「そんなんで引くと思ってんのかなぁ」
「恋人だからこそ嫌なこともあるんじゃないか? 焦ることはないさ、いつかは慣れてくれるかもしれないからな」
「慣れ、か。んー……」
と言っても、なかなか難しいとは思う。洗浄という行為は、ただ身体を重ねるよりデリケートな印象を伴う。俺からしてみれば、蒼生が気にするほどのことはないし、そこからすべてやってやりたいと思うけれども、それは俺が決めることではない。無理に通して蒼生を傷付けるわけにはいかない。まだ俺にはその説得方法がわからないし、少しでも強要だと思われたくない。難しいな。
俺と健太は、席をひとつ空けて座る。もちろん蒼生の場所だ。蒼生が来るまでにあらかた済ませておきたい。一刻も早く蒼生に触れたいからな。視界の端では、ドアに近い健太が、体を泡だらけにしながらそわそわとそちらを窺っている。よほど待ちわびているのだろう。
だから、ドアがからからと横に開いたのを見て、文字通り飛び上がったんだな。わかりやす過ぎる。
「蒼生っ」
嬉しそうに弾んだ声に迎えられ、腕にタオルを掛けた蒼生も嬉しそうだった。
「ごめんね、お待たせ」
健太に笑いかけ、それから奥にいる俺に視線をくれる。とろけるような柔らかな表情。手を伸ばせば、同じように手を伸ばしてくれる。そのまま手を繋いで、隣に座る蒼生。
手。蒼生の手。……嬉しいな。こうして触れられることが。堪えきれなくなりそうなほど嬉しい。
さりげなく、反対の手を健太が掴んだ。
「な、蒼生。オレさ、やりたいことがあるんだ」
「うん、なに?」
「あのな、体の洗いっこってやつ! やっぱおっきな風呂っつったら背中流し合うやつだろ? 家の風呂じゃできねえし、合宿の時は木之下も他のお客さんもいて、言い出せなかったからさ」
「ああ、いいねえ!」
ふーん? この期に及んでそんな提案が出来るんだな。我慢出来なくなるかと思ったけれど、そういう楽しいことを優先するのが健太らしい。蒼生も乗り気みたいだ。
「んと、僕はどっちを向けばいいのかな?」
そうだな……俺は、蒼生にしてもらうのは、少し……違うように思う。
「俺が蒼生を洗うから、蒼生はそっち」
「うん!」
「蒼生に洗って貰うのかー。うわ、なんか嬉しいなー」
健太はでれでれした声でくるりと体の向きを変えた。
「小さい頃から一緒だと……特に蒼生たちの関係だとそういうこと普通にやっていそうだけどな」
そうでもないのか。意外だな。
「んー、そうだなあ。もしかすると昔どっかであったかもしんねえけど……。意識するようになってからは、ないな?」
「うん。体を洗うなんて、自分でやらなきゃいけないことだったから、その発想がなかったのかもしれないね」
「だよな、こんなえっちな関係になるとは思わなかったもんな」
「ねー」
なるほど。純粋にお互い兄弟のように思いながら育ったならば、大きくなったら手伝わない、という考えになるのかな。だからいっそう健太はこれをやりたいと思うのか。
……それにしても、蒼生の白い背中の、綺麗な肩甲骨の形や腰にかけての優しいラインを、ただ洗うだけというのも……なかなかに気力がいるな。せめて泡をいっぱいにして、包み込んでやろう。無心にならなければ。俺は、綺麗な宝石を、傷付けないように磨かなければならない。
「蒼生、痛くない?」
「全然。気持ちいいよー。ありがと。もうちょっと強くても大丈夫」
もう少し、か。力加減を、間違わないように……。それでなくとも、しなやかに動く背中の筋肉が泡越しに伝わってきて、思わず力んでしまいそうなのをなんとか制御しているところなのだから。
だが、蒼生のこの動きは健太に対するものなのだと思うと、少し妬けてしまうのもたしかだ。俺は視線をずらして蒼生の手の先を眺める。
「健ちゃんはどう? 気持ちいい?」
「うん、すごく上手~。自分じゃ力入れて洗えねえもんな、人に洗ってもらうのいいなー。……ってか、やべ、別の意味で気持ちよくなりそ……」
「どこ? どのへん?」
「あっ、勘弁して……」
「広いから探すの大変だなあ。こっち?」
「うわ、た、楽しそうだな、蒼生……」
「嫌? だったらやめるけど……」
「ううう、嫌なわけねえじゃん……。オレの背中流してる蒼生可愛いありがてぇ嬉しい……」
ふ。あちらはあちらで大変そうだ。たしかあいつ、背中が弱かったはずだ。最中に、蒼生の手が回ると時々息を詰めているのを見たことがある。蒼生はまだ気付いていないようだが、まあこの様子では時間の問題だろう。
「はい、終わったよ、蒼生」
やれやれ。なんとか脳内を暴走させることもなく、本来の目的をこなすことが出来た。
「じゃあ、今度は反対?」
無邪気に振り向く蒼生。いや、それは。
「ううん。髪洗ってあげるよ」
「えー? 冬矢を洗うんじゃなくて?」
「俺は蒼生が来るまでに全部洗い終わっているからね」
「そっかあ」
ちょっと不満げなのが可愛いな。ごめんね。俺はいいんだ。俺は蒼生には全部をしてあげたい。
その可愛い顔の向こうで、健太が目を光らせたのが見えた。
「そしたら、オレは体の前のほう、洗ったげるな!」
「えっ」
ああ。その手があったか。先手を取られたな……。自分が蒼生のされるがままになっていたから、やり返すつもりになったらしい。
「でも、こっちは、その」
「いいからいいから。オレに任せて」
健太は蒼生の手からスポンジを取ると、そのまま手から腕へと滑らせていく。
俺もシャワーの温度を確かめる。
「ほら、蒼生。頭あげて」
「え、あ、うん」
戸惑った表情で、俺と健太を交互に見る蒼生。雰囲気がじわりと変わったのを蒼生自身感じたのだろう。
健太はきちんと丁寧に、蒼生の腕を、首筋を、胸元を洗っていく。俺もぬるめの湯でゆっくりと蒼生の髪を流していく。
空気を完全に切り替えたのは、健太だ。わざと避けていた乳首を、小さく擦ったのが見えた。
「ぁんっ」
漏れた声。
ぱっと蒼生は自分の口を手で塞ぐ。
「なにそれ、可愛い~」
「は、恥ずかし……っ」
俺はシャワーの湯を蒼生の後頭部に当て、指の腹でそっと撫でる。
「っあ、あ」
びくびく、と肩が跳ねる。ふふっ。
「ここ気持ちいいもんな?」
「ん、うん……っ」
たぶん蒼生も気付いている。この体勢は、昨日の夜の続きだって。
そうやって俺と健太が蒼生の全身を洗い終える頃には、蒼生は肩で息をしていて、触れるだけでぴくんと動くようになっていた。肩越しに覗き込めば、素直に反応したペニスがふるふると震えている。
「あー、ホント、やべぇな……かわいぃ」
「ん、ぅ」
健太が身を乗り出して、蒼生にキスをする。その重みで、蒼生の身体が俺に寄り掛かってくる。支えながら、手を取って指を絡ませる。濡れた髪にキスをすれば、くぐもった声がする。
すっと健太の手が動いた。
「……っあ!」
「ここも綺麗にしような」
その手が上下に動くと、泡とは違う、粘度の高い音がかすかに聞こえた。
「だ、だめ、健ちゃんっ……。ち、んちん、今、触っちゃだめっ……」
「なんで? こんなに触って欲しそうなのに?」
「よ、汚しちゃ駄目な場所、だもんっ……掃除の、人、困るから……っ」
……そうか。蒼生はそういうの、気にする子だもんね。
「蒼生は優しいね」
「ん。わかった。汚さなきゃいいんだよな?」
そこからの健太の行動は早い。桶に溜まったお湯で蒼生の身体に残った泡をざあっと流すと、そのまま蒼生のペニスを咥え込む。理に適った行動だ。飲んでしまえば汚さないからな。
「あ、健ちゃ、あ、やっあ、ぁ」
俺の手を、蒼生がぎゅっと握る。ああ……、この指先の感じは、絶頂が近いな。散々我慢してきた分、上り詰めるのも早いんだね。
「こ、公共の、場は、だめ、って」
蒼生が困ったような、でもとろけて気持ちよさそうな目で俺を見上げてくる。
「大丈夫、鍵は閉めてあるんだから、ここには俺たちしかいない。今は俺たちの場所だよ。それでも気になるなら、口を塞いであげようか」
「んっ、うん、あ、ん、塞いで……」
「いいよ」
軽く開けられた蒼生の口から、舌を吸い出す。甘い。跳ねる肩を後ろから抱き締め、柔らかく動いて俺についてこようとする舌の感触を堪能する。たまらなくなって抱き上げると、少しずつ、その隙間から漏れる息が荒くなっていく。可愛い。
腰を浮かせた蒼生の、奥まった穴に指を伸ばす。そこは蒼生のした処理と、落ちてきた泡でぬるりと滑る。
「っん」
蒼生が身をよじったので気付いたのだろう、俺の指にこつんと触れたのは健太の指だ。そうして、そこをゆっくりほぐしていく。優しく。撫でるように。わずかに忍び込ませる程度に、やんわりと、丁寧に。じっくりと。ふたりがかりで。
「ん……、んんっ、ぅん、んーっ!」
中に触れた指が締め付けられたかと思うと、大きく震え、蒼生の身体から力が抜ける。離した唇から、ふっと甘い息が漏れる。それごと飲み込んで、頬を撫でれば、くすぐったそうに小さく笑う。
はーっと健太が息を吐いた。
「ごちそうさま。でもやっぱちょっと石鹸の味したわ。後で口直しさせて? な」
反対側の頬を撫でる健太にも、頷いて笑う。
「……さ、いったんあったまろうか」
さすがにこの場所でこのまま、というわけにはいかない。タイルの床と壁では、どの体勢でも蒼生の体を痛めてしまうから。滑ると危ないしな。健太も、俺も、かなり限界ではあったけれど、大切なのは蒼生だ。
「そうだな、せっかくの露天風呂なんだから」
「うん。……でも、その前に、ふたりとも、……指抜いてぇ……」
え?
……ああ。
「あ。忘れてた」
「ごめんね、触り心地が良くて」
「そ、そんなことある……?」
柔らかいその場所が、吸い付くように包み込んでくれるのが心地よすぎるんだ。そんなこともあってもいいと思わない? 抜いた指の刺激でまたぴくんと肩を跳ねさせるのも愛おしい。
改めて、きちんと椅子に座り直させ、髪から体から丁寧に洗い流してやる。泡がついてしまったから、後ろも壁に手をつかせて洗ったけれど……なんの抵抗もなかった。いったん自分で処理すれば、こんな触れ方をしても気にならないのだろうか。
ようやく、もうひとつのドアを開ける。浴槽は木製で、外に出た途端にとてもいい香りがした。壁のない開けた空間だが、きちんと屋根は風呂を覆うくらいに張り出している。
「屋根があるから、雨でも入れるようになっているんだな」
「本当だ。それに、外側は作り物の岩が積み上がってベランダみたいな構造だね。これって視線対策?」
「だろうね。だから空くらいしか見えない」
「でも空が見えるの、いいな」
蒼生は嬉しそうだ。開放感がある風呂自体は嫌いではないらしい。
ちなみに、両脇も木製の壁で仕切られていて、おそらくこの向こうは隣の家族風呂だ。ここではさすがに無体なことは出来ないだろうな。
周辺の構造を考えながら俺たちがそんなことを話している後ろで、健太はさっさと湯に浸かっている。
「ふたりとも早く入りなよ。気持ちいいぜ~」
俺と蒼生は顔を見合わせる。たしかにその通りだ。時間貸しだから終了時刻は決められている。好奇心で周囲を確認してしまう癖のある俺たちだが、ここは健太のように素直に風呂を堪能するのが正解だろう。
俺が湯船に入ると、すぐ後から入って来た蒼生は当然のように俺と健太の間に座った。
「はー……。気持ちいい」
そうだな。蒼生の好きな、ぬるめの温度。リラックス効果のある木の香り。空が見えて、多くはないが星も確認できる。きっと蒼生はこの状況を心地よく感じているのだろう。俺の願望を含めて言えば、隣に俺たちがいることも。
夏の空気はじっとり熱いが、湯の中にいれば風はわずかに涼しい。端に据えられた木製の注ぎ口から落ちる水音が、リズミカルに耳に届く。世界にはもうそれだけなのではないかと思えてしまう。隣に蒼生がいる、この空間がすべてだというのなら、それもいい。
ふと。透明な水の中……、蒼生の手が動いて、健太の腕に絡むのが見えた。俺は一瞬それを羨ましく思いかけた。が、すぐに蒼生の頭がことんと俺の肩に乗ってきたので、可愛い、で頭がいっぱいになってしまう。
「……蒼生?」
「んー? なんか……いっぱい楽しいし、すごく嬉しいし、満たされすぎてて、眠くなってきちゃった」
蒼生の言葉を聞いた健太がものすごい勢いで体を起こしたので、俺と蒼生は頭から湯を被ることになった。
「……わ、なに、健ちゃん」
「っ、なにをするんだ」
ぎゅっと蒼生の両手を握る健太は、焦った顔をしている。
「待って、まだ眠くなんないで? オレもう我慢の限界なんだけど!」
「え、そんなに?」
蒼生はきょとんとする。え? って。……ふふ、自分ばかりがシたいとでも思っていたんだろうか。そんなわけがないだろう?
「蒼生は気付いていなかったかもしれないけど、健太は昨日からずっと、必死で他のことを考えて性欲を散らしていたんだよ」
俺が代弁しても、蒼生の表情はそのままだ。
「え、そうだったの?」
「そうだよ……なんで冬矢にバレてんのかはわかんねえけども、夏休み中に仕上げるべき課題が家に帰ったらそのまま全部書き終わるくらい思考がまとまるまで、必死に考えてました」
蒼生は可愛い顔を俺にも向ける。
「もしかして、冬矢もそう?」
だから、腰を引き寄せて抱き締める。
「どの瞬間の蒼生も可愛くて、つい触れることを考えてしまっていたよ。俺もレポートの1本くらい新規で書けるかもな」
ふにゃり、と蒼生は表情を崩す。
「……じゃあ、部屋に戻ったら、シよ」
もちろん、そのつもりだよ。
部屋に入るなり、健太が蒼生を担ぎ上げた。俺は蒼生の手から荷物を取ってやり、鞄の上に置く。蒼生が余計なことを考えないように。蒼生は俺たちのことだけ考えていればいい。
ベッドの上に半分放り投げられるように横たえられた蒼生は、とろりとした目で俺たちを見ている。その手がズボンにかかる、それより早く健太の手が下着ごとズボンを下ろし、サンダルをベッドの下に落とした。俺はシャツが裏返しになるのも構わず脱がせて、頭が抜けた瞬間にキスをする。
「ん、うれしい、はやく……」
可愛い。
可愛い蒼生。
何度も何度も唇を重ねる。
まだ濡れている髪を梳き、そこにもキスを。
それから頬に。
その隙に服を放り投げた健太が割り込んできて、蒼生の唇を奪う。
今度は俺が服を捨てる番だ。
シャツから腕を抜いていると、一旦離れたせいか、ぱたぱたと蒼生の手がシーツを叩く。
ふ。
大丈夫。
すぐに行くよ。
「蒼生……」
「んっ、とぉ、やぁ……」
いつもの凜とした優しい声が、甘くとろけてぐずぐずになっているのが、可愛くて仕方ない。
ふたりがかりで抱き締めて、代わる代わるキスをする。
合間に息継ぎのように吐く息が、部屋の空気に甘く溶ける。
可愛い。
俺の、蒼生。
膝が俺の上に乗ってくる。その行動の意味はすぐにわかる。熱くなったペニスが、俺の腰に擦り付けられたからだ。
「いいよ、一緒に触ろうね……」
「ぁっ、うん……」
素直にねだってくるのが、本当に可愛い。
蒼生の左手ごと、ふたりぶんのペニスを握る。ぞくっ、と、腰の辺りがざわめく。ああ。この熱を、俺も待っていたんだろう。期待と焦りで頭に血が上りそうだ。重なり合う感覚が、ずきずきと鼓動に合わせて、体の中心をさらに熱くする。
「あ、ぁあ、んー……っ」
音が、濡れていくのがわかる。俺は蒼生の上に乗るように体を合わせ、優しく、強く、手を動かす。粘って、擦れ合うのが、気持ちいい。
「蒼生、オレはこっち」
健太が蒼生の右手を引いた。そして自分のペニスを握らせると、蒼生の頭を足の付け根に乗せる。蒼生はそれを躊躇いもなく咥え込んだ。
そちらに夢中になるかと思いきや、左手も俺の手の動きを誘うようにするりと動く。いいね。欲しがりになった蒼生を見ると、愛おしくてどうしようもなくなる。
だから、顔を横に向けたせいで無防備になった首筋を舐め上げ、赤く火照った耳たぶを噛む。ふわふわで、唇が気持ちいい。舌で転がす。……美味しい。
「ん、ぅう、ん、ん、む……ひぅっ」
口の中に閉じ込められた声。
中で蠢く健太のペニスで、リズミカルに膨らむ頬まで可愛い。それを人差し指の関節で擦ってやると、ふたりが同時に飛び跳ねる。
「ちょ……っ、おま、なに……っ」
「んうー、うーう」
ふ、ふふ。
蒼生のびっくりした目が、ぱちぱち瞬いて可愛い。たまにはちょっかいも出してみるものだな。
再び手の動きを激しくしてやると、すぐにその目はとろりと甘くなる。
……ああ。
余裕があるつもりだったけれど。
今日1日、無邪気にはしゃぐ可愛い蒼生を堪能しつつも、俺は限界だったらしい。
流し目の角度が、体の内部の疼きを押し上げる。
「あ、出る……っ」
健太の呻き声が先だったか。自分が限界を迎えたのが先だったか。それを意識しているだけの余裕すらなかった。ただ、弾けるように解き放たれた感覚と、蒼生の手が先端を撫でていた感じ、わかったのはそれだけだ。
力が抜けた俺の下で、蒼生がごそごそと動く。なんだろうと思っていると、握った左手を口元に持って行って、……は?
咄嗟にその手首をつかんだ時には、蒼生の手は空っぽになっている。
「何をしてるの?」
「ん」
蒼生がぱかっと口を開ける。そこには、白く濁った、…………。
「蒼生っ! ぺってしな!」
「んーんっ」
吐かそうとしたけれど、蒼生は首を振って拒否をする。両手首を掴むと、その喉から、嚥下の音が聞こえた。
そんな、好んで飲むようなものじゃないだろ?
健太も蒼生の行動に驚いているようだ。けれど蒼生は意にも介せず、口をもごもごと動かす。
「……量が多いから飲みにくい。あと喋りづらい」
「そうだろうね、健太、それ」
「あ、ああ、うん」
「ほら、蒼生、水。飲んで」
「うー」
蒼生は、健太が傾けたペットボトルから、勢いよく水を飲む。
そして一息つくと、「あのね」と切り出した。
「3人分、混ぜたらどんな味がするかなって思って」
いや……うん。そうか。なるほど。蒼生の好奇心は、それを気にしてしまうんだな。
「それで、どうだった?」
「うーん。混ぜたらどう違うかわかんなかった。……でも、全部、混ぜて僕の中に入れちゃった。ふふ」
蒼生の行動が不思議だ、と思うのは変わらない。だが、それを聞いて、何故だかぐっときてしまった。たぶん、蒼生が言いたいことがなんとなくわかったからだと思う。全部、混ぜて、ひとつに。蒼生の中で。
おそらく、蒼生自身が自覚する以上に、蒼生は俺たちを求めてくれているんだと思う。気付かないほど深い場所で、俺たちを愛してくれている。
愛しい蒼生。
キスをして口内を探ると、残った味が鼻に抜ける。
「蒼生ぃ」
こいつにも感じるところがあったのだろうか、蒼生の名を呼びながら、健太が俺の肩を叩く。仕方ない。体を起こして蒼生から離れると、隙間を狙って健太が頭を割り込ませてくる。深いキスで、味を確かめているようだ。
「……違い、やっぱわかんねえな」
「ん……。やっぱり別々に比べてみなきゃわかんないよね」
「それが出来んのは蒼生だけだけどな」
「あ、そっか」
その答えに笑った健太は、ぽんぽん、と優しく蒼生の頭を叩く。それからちらりと俺を見た。
「冬矢、そのまま上下逆になれるか」
逆? 蒼生を上にしてやれってことか。健太が何を言い出したかわからず、目をぱちくりさせている蒼生を抱き締め、体を回転させる。蒼生の体重がすべて自分にかかってきて、心地いい。
「蒼生は冬矢にくっついてて。で、膝は立たせててね」
「? な、に?」
シーツに膝をつき、腰だけを高く上げる格好に、蒼生が不安げな声を上げる。蒼生からは健太が見えない。だから何をされるかわからなくて心配になるのだろう。
代わりに俺が視線をやると、健太は少し緊張した面持ちをしている。目が合った。すると小さく頷くので、健太が何をしたいのかを悟る。それから、こいつが俺に望む対応も。その意思は前から聞いていたからな。俺は蒼生を抱き締める手にぎゅっと力を込めた。ごめん、いい子にしててね。
健太は優しく蒼生の腰を撫で、顔を落としていく。俺の視界からそれが半分ほど双丘の向こうに隠れた瞬間、蒼生がびくんと大きく身体を跳ねさせた。
「……ひゃっ、あ!」
意識していなければ、蒼生は俺の手から逃れていただろう。それだけ蒼生の驚愕は大きかったようだ。聡い蒼生は、穴に触れたのが健太の舌だと、すぐに気が付いたらしい。
「や、やだやだ、だめ、な、なんでぇ……?」
蒼生が俺の腕の中でもがく。
「んー? ローション持ってこなかったから」
「う、嘘だぁ、僕、ちゃんと鞄に入れたもん……」
誤魔化そうとした健太の嘘は、瞬時に見抜かれる。相変わらず嘘はすぐバレるな。健太自身が気付いていなければバレなかったかもしれないのに。だが、蒼生は隠れていたつもりらしいが、旅行の準備をするのにいそいそとボトルを入れる姿を、俺たちは見てしまっている。……あれは可愛かった。
「うん。言い訳してごめん。本当は、ずっと、したかったから、だよ。ここも可愛い、ね」
「やだぁ……。だって、汚いよ……」
ふるふる、と頭を振って、腕を突っ張ろうとする。
「全員分の精液を混ぜて飲みたいとか言い出す子が言っても説得力なくね?」
「……そ、それは」
「それにさ。あれだけ丁寧に洗ったじゃん。てか、オレ、蒼生の全身、頭の先から爪先まで、汚いなんて思わねえもん。全部食べちゃいたいってずっと思ってた」
蒼生は体をよじらせる。
「でも、ひっ、ぁ、け、健ちゃんが具合とか悪くしちゃったら、や、やだよぉ……」
動揺のせいか、涙声だ。この声を聞いてしまうと胸が痛む。
ああ、だが、わかった。
なるほど。
自分の嫌悪感ではない。
健太の心配をしているのか。
「あーおい……」
「……ぅ?」
今にも涙をこぼしそうな眦に、キスを落とす。それから、瞼に、頬に。唇に。
「落ち着いて俺を見て。わかる?」
「ぅ……ん」
「大丈夫だよ。ね。俺の舌に集中して」
もう一度唇を合わせ、舌で唇をなぞる。
「これは? 気持ちいい?」
「ん……っ、は、気持ちいい……」
「いい子だね。可愛い……。じゃあ、それだけ考えて。大丈夫、頭空っぽにしていいよ。……ほら。全部、気持ちいいね?」
「きもひぃ……」
髪を撫でて、角度を変えながらキスを繰り返す。
少しずつ、表情から険しさが消えていく。
腕をわずかに緩めても、逃げる気配がなくなった。
「教えて。おしり、どんなふうに気持ちいいの?」
「ん、ぁ……ぬるぬる、するの、気持ちぃ……。んっ、は、あ、あ、まわ、り、くるくるしてるの、も……あぁっ、あ、ナカ、ぁ、気持ちいいよぉ……っ」
ふふ。
「俺のキスも?」
「うん……っ、あ、どっちのお口も、気持ちぃの……」
ぞくぞくする。
俺の言葉で気持ちよくなっているのか。
健太に対する心配で味わえなかった快感を、俺が言い聞かせたら、素直に受け止めるようになった。
可愛い。
そうか、俺が言えば、君は。
「蒼生、大好きだよ……」
とろけた顔が、ふわりと嬉しそうに笑う。
俺は。
蒼生さえいれば。
「気持ちいい?」
健太がそう言って顔を上げる。蒼生は反射のように二度頷いた。
「ん、けんちゃ……きも、ちぃ……。けど……もっと、ナカにも、ほしくなっちゃう……」
控えめな、けれど強く誘い込む言葉。
俺と健太が同時に笑ってしまったのは、あまりの可愛さに限界を超えたせいだ。
「それじゃあ、挿入れてもいい?」
「……ちょう、だい……」
もう少し自由に動けるほうが楽かな。俺は蒼生の背中から腕を外す。どいてやろうかと体を起こそうとするが、蒼生は俺の首筋に顔を埋め、抱え込むように背中から肩を抱いてくる。
「蒼生?」
「離しちゃやだ……撫でてぇ……」
…………っ。
俺をどうする気なんだろうな、まったく。
全力で甘えてほしいとは思ったし言ったけれど、こんなに甘え上手になるなんて……嬉しすぎる誤算だ。
頭をぽんぽんと叩き、背中を撫でてやると、満足げに息を吐く。
ああ、好きだな……。
「は、う……ふぁっ、あ」
反り返る背の感触で、健太が蒼生に挿入ったのを知る。
「……はぁっ、熱い……」
「あ、ぁ、いっぱい、はい、って……」
「だってもう、待ちきれなかったんだもん……あー、蒼生も待ってくれてたんだあ」
「ん、うん、うん……っ、あ、うぅーっ」
耳に直接、蒼生の気持ちよさそうな声が届く。必死に縋りついてくる手。ベッドのスプリングのせいで俺まで酷く揺らされるのは癪だが、それに従って蒼生の息が荒くなるのを感じられるのは嬉しい。
快感に浸って喘ぐ蒼生は、とにかく愛しい。
もっと声を聞かせてほしい。
たくさん啼いて。
もっと。
ほら。
「……あ、は、ぁ、あ、とぉ、やぁ……」
「うん。なに?」
「か、噛んで、いい……っ?」
それを聞くの? ふふ。
「いいよ」
「んっ……ふ、うぅ、ん……っ」
蒼生の唇が、俺の肩を辿る。
ぬめる舌の感覚。
ちりっとした痛み。
くすぐったい。
ああ、もう、可愛い。
きっと限界なんだろう、俺の腕に抱かれ、耐えるように体全体で取りすがる蒼生。
愛しい人を抱き締めることが何物にも代えがたい幸せなのだと、教えてくれた蒼生。
胸がつぶれそうだよ。
「……う、はぁっ、あ、……っあ、ん、んーっ……!」
可愛い、俺の蒼生。
蒼生。
「ひぅっ」
短い悲鳴と共に体の力を抜いて覆い被さってきたのは、健太が体を引いたからだろう。
荒い息を隠そうともせず、ぐったりと俺にもたれかかる。蒼生の体力からしたら、そろそろ疲れ果てる頃だろうな。明日のこともあるし、無理はしないほうがいい。顔を覗き込むと、ほら、もう眠たそうだ。
「蒼生……。疲れただろ。もう寝てもいいよ」
ぴく、と肩が揺れる。ゆったりと俺を見た蒼生は、どこか拗ねたような表情をしていた。
「……やだ。冬矢のも挿入れてもらう」
俺を気遣っているのだろうか。俺はたくさん甘えてもらったし、やめても構わない。俺の欲望より蒼生の体が大切だ。
けれど、蒼生は首を振る。
「こんな、熱くて硬くなってるの、もったいないもん。ねぇ、挿入れてぇ」
っ……。先走りでぬめっているせいで、蒼生の身体は俺の上を滑らかに動く。そうやって身体で擦られると、挟まれた俺のペニスが期待に疼く。駄目だよ、せっかくの我慢が無駄になるだろ……。
そこに、一度離れて洗面所に入っていた健太が戻ってくる。
「どうしたの?」
「冬矢が挿入れてくれないの……」
「なんで?」
「もう、蒼生、疲れ切っているだろ。旅先なんだから、明日困るかもしれないじゃないか」
「でも蒼生が欲しがってるならあげたらいいのに。な、蒼生」
「ねー……」
ふう。
まったく……。
俺は蒼生を抱えたまま起き上がり、その勢いで蒼生をベッドに倒す。
「……疲れたからやめたいって思ったら、途中で止めるんだよ。ちゃんと聞くからね」
「ふふ。はぁい」
止める気がないな、これは。あーあ、嬉しそうにして……。
そんなに、俺がほしいの?
ぎしりとベッドを軋ませ、寝転がった蒼生の隣に座った健太が、にやにやと俺にゴムを差し出してくる。
「どうぞ」
「どうも」
昔は自分にこんなに性欲があるなんて思いもしなかったのにな。
改めて、蒼生の腰を担ぎ上げ、両足を抱え込む。ひくひく可愛く待ちわびるそこに先端を当てると、はあっと蒼生が息を吐いた。
投げ出されたままの腕は疲れを感じさせるのに、目がきらきらと俺を見ている。
可愛い、な。
「あぁー……っ」
少し掠れた声。
蒼生のナカは、飲み込むように俺を受け入れる。
掴んだ腰を支点に少しえぐってやると、
「は、あぁんっ」
両手がシーツを強く握る。
それから、ここ。
好きだよね。
「……ぅ、あ、んっ、ひっ、あ、……ぁう、ん、ふぁ、」
唇が、意味をなさない言葉を紡ぐ。
健太が身を乗り出して、蒼生の乳首に口づける。
「ひゃぅ……っ」
っ、絞られる……っ。
「うぅ、ん、んーっ……」
乳首に指を残して、健太の舌は少しずつ降りていく。
それに合わせるように好きなところを擦り上げると、蒼生は強く腰をそらせる。
「っあ、あ、きも、ち……ぃ……っ」
可愛い。
揺れる足が俺の腰をきゅっと締める。
可愛い。
気持ちいい。
好きだ。
蒼生。
とうとう健太の口が、蒼生のペニスを捕らえる。
「あぅ!」
跳ねる腰をふたりがかりで押さえつける。
「ぁ……だ、め、あ、りょ、うほ、っ、」
高くなる蒼生の声。
気持ちいい。
「あ、あぁんっあ、や、あぁ……」
可愛いね。
可愛い。
蒼生が、手を伸ばした。
両手を、それぞれ俺たちに向けて。
「て……」
「ん?」
「手ぇ……にぎって、ぇ」
……この子は。
ああ、もう。
健太が右手を差し出し、蒼生の左手を掴む。
俺は左手を、蒼生の右手に絡める。
蒼生は、にこりと微笑む。
溜まっていた涙がすうっとこぼれる……綺麗だ。
「……蒼生。蒼生」
名を呼べば、ナカが答えるようにうねる。
「ぁえ、もぉ、あ、れちゃ、ぅぅっ」
「いいよ。健太にあげな。俺も一緒にイクから、ね……」
「ぅん、うんっ……あ、」
愛しい。
「け、んちゃ、ぁ、とぉやぁ……っ、す、き、らいすきっ……!」
俺も。
大好きだよ。
…………蒼生の快感に引っ張られるように、俺もすぐに己を解放した。
はぁ……。
見下ろす蒼生は、目を閉じ、大きく胸を上下させていた。
口から酸素を取り込もうとしている、そのそばに顔を近付ける。
気が付いた蒼生が、緩やかに目を開けた。
それから、笑う。
「……ふたりとも、大好き」
胸の中が、熱い喜びの気持ちでいっぱいになる。
だから答える代わりに、キスを落とす。
蒼生は照れたように笑って、……すぅっと目を閉じた。
「寝ちゃった?」
さっき石鹸の味がするからと言っていた健太が、おかわりをして満足そうな顔で蒼生を覗き込む。
「うん。今日は朝から遊んで疲れていたからね」
「だよな。じゃあタオル濡らして持ってくるわ」
「ああ、よろしく」
すとんとベッドを降り、健太が洗面所に向かう。足取りが軽いのはさすがだな。
俺は、もう一度蒼生を見る。
そして、頬にそっとキスをした。
翌朝。
さすがの健太も今日ばかりは朝の運動は取りやめたらしい。静かな部屋で、一番先に目を覚ましたのは俺だった。
蒼生はすやすやと気持ちよさそうに眠っている。体の向きを変えて、その顔をもっとよく見ようと近付くと、その手が伸びる。きゅっと指先で俺のシャツの胸元をつまみ、体ごと俺にすり寄ってきた。
……朝から、可愛い。
嬉しくなり、乾かし切らずに寝かせてしまったせいでぴょんと可愛らしく寝癖のついた髪をそっと撫でると、蒼生はぱちりと目を開けた。
「んぅ……おぁよ……」
「おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん……だいじょぶ……」
言いながら、きょろきょろとあたりを見回す。
「どうしたの?」
「ああ、すっごく幸せな、いい夢見たなぁって思ってたけど……ふふ、夢じゃなかった」
かわ……っ。
俺は思わず、寝転がったまま、蒼生を抱き締める。
「わっ」
「幸せなのは俺のほうだよ。大丈夫、もし夢だったとしても、ちゃんと現実にしてあげるからね」
「……そっか。嬉しい」
「それに、夢じゃないって証拠もあるよ」
俺はシャツの襟を引っ張って、肩を見せる。昨夜、蒼生が付けた跡。あの後見たら、きっかり残っていた。必死に縋りついてきた、愛おしい跡だ。
「あっ」
蒼生はぽっと頬を朱に染めると、布団をもぞもぞと引っ張る。
隠れようとしているのかな。
そこに、起きてきた健太がどさりとのしかかってきた。
「朝からずるい! オレもいちゃいちゃする!」
「お、重いぃ……おはよ健ちゃん」
「おはよ蒼生!」
さりげなく蒼生を奪おうとするので、とりあえず軽く蹴飛ばしておく。
きちんと蒼生の髪を綺麗に整えてやり、ホテルの広いレストランで朝食を食べ、少し部屋でゆっくりして、チェックアウトぎりぎりに俺たちはホテルを出た。帰りの電車の時間は午後の早い時間だ。だから、どこに行くというわけでもなく、駅に向かう道沿いにある土産屋を覗くことにした。蒼生はそれがしたかったと言うからちょうどいい。
蒼生と健太は、どこにでもありそうな土産用の菓子箱をあれこれ比べて見ている。全員一緒の家に帰るんだ、土産も何もあったものではないが。
「なあ、これ、美味しそうじゃね?」
「クッキー食べたい!」
楽しそうに箱を抱えるふたり。俺は、ついつられて笑ってしまう。……楽しい。どこにでもありそうなものでも、土地の名前が書いてあるだけで、蒼生と一緒に来た思い出なのだと嬉しく思える。旅行っていいものだな。
俺の幼い頃は、それこそ短ければ数か月で引っ越しをする、常に生活が旅行のようなものだったから、旅行なんて珍しくも楽しくもなかったのに。そういえば、付き合い始めてから行った旅行も、まだどこかでその気持ちが抜けなかったな。もちろん蒼生と一緒にいられて楽しかったけれど、あの頃は、別々の家に帰ることを寂しく感じていた。そのせいで、思い出の最後を寂しさで締めくくっていたせいもあるのかもしれない。
けれど今は違う。ずっと一緒だ。
出かける時も。旅行の間も。帰ってからも。
袋を抱えて店を出ると、隣は地元の魚を扱う鮮魚店だ。
「わあ。冬矢、見て、美味しそうな魚」
大好きな蒼生。
「そうだね。買って帰って、今日の夕飯にしようか」
「うん、やった!」
嬉しそうに笑う蒼生。
その顔が嬉しい。
健太も屈託なく笑っている。
そう、俺たちは、蒼生が楽しんでくれることが何より嬉しい。
「健ちゃん、冬矢、連れてきてくれてありがとう」
ああ。
一緒に来てくれて、と言おうとしたのに。
ふふ、先を越されたな。
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