高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2024年12月24日 20:00    文字数:18,831

73こ目;夜空にリボンをかけて

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一緒に暮らし始めて、最初のクリスマス。
張り切る健太は、どこに行こうか、何を見ようかあれこれ考えているようです。

↑初公開時キャプション↑
2022/12/24初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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 どーしよっかなー。やっぱクリスマスだし、とりあえずツリーは見なくちゃじゃん? すごいよな、どこかに大きなツリーないかなって調べたらさ、あっちこっち、いたるところにあるんだから。マジで選び放題ってやつだ。うーん。どこのを見に行こうか。
 もちろん、一緒に暮らして初めてのクリスマスだし、家でゆっくりのんびり過ごすのも悪くないなって考えた。きっと蒼生もそのほうが好きだろうなって。だけど、それはいつだってできるわけで、せっかく新しい土地に来たんだし、見たことない街の景色を見るのもいいじゃんって思うんだ。それに、なんと、外で遊んで家に帰ってきてからのんびり過ごすことも出来るんだぜ! これはすげえことだ。クリスマスの夜を誰にも邪魔されないでずっと一緒に過ごせるなんて、夢みたいだよな。今までだって一晩中一緒にいたいと思って、お願いしたことはあったんだ。クリスマスだから蒼生とどっかに泊まりに行きたい、ってさ。そしたら、オレら両方の親から大体おんなじ理由できっぱり却下食らったからな。
「隣の家にいるんだから、わざわざ泊まる必要ないでしょ」
「わざわざ高い時期に泊まりに行かなくてもいいんじゃないか。そんなにパーティをしたいなら家でやろう」
 それをわざわざ一緒にいたいのが恋人同士ってやつじゃん! って思ったけど、オレも蒼生も、付き合ってること黙ってるから、引き下がるほかなかったんだ。で、結局、「ちゃんと自分の部屋で寝なさい」って引き離されてさ。
 それが今は、どこに行っても帰る場所は同じなんだよなぁ。初めての、寂しくないクリスマスだ。ふっふふ。
 さーて、引き続きリサーチ、リサーチ、と。……お、これは冬矢が気にしてたイルミネーションか。あいつもな~、涼しい顔して、頭の中は蒼生を喜ばせることでいっぱいだもんな~。うん。せっかくだからこのへん中心で考えてみるか。えーと、この近くにツリーは、と。なるほど、ここにあるのか。え、こっちにもあるんじゃん。あれ、これ、……へえ。いいかも。んー、と、すると……食事はこのへんだな。どこかあるかなー。わ、肉、美味しそう。けど、食べ放題だとクリスマスっぽくない? いや、でも、ダメってことはないだろ。デザートメニューが一応季節ものっぽくなってるし。よし、早めにしといたほうがいいな、一応押さえておこう。後で蒼生にここでいいか確認しなくちゃ。
「ただいまー」
 なんだかんだやってるうちに、蒼生が帰って来た。ぱっと顔を上げると、リビングに入って来た蒼生と目が合って、ふわっと笑う顔。
「うっわ可愛い。おかえり!」
 蒼生はちょっと首を傾げると、オレが座ってる椅子のところにぱたぱたとやってきた。で、隣まで来てそわそわしてるから、あっと思って手を伸ばす。すると、ぴょんと跳ねるように腕の中に飛び込んできて、ぎゅっとオレの頭を抱き締めてくれる。うう……可愛い。可愛い可愛い。ずっと家の中にいてあったかくなってたせいか、冷たい手が頭に乗っかるのが、ひやっとして気持ちいい。ゆっくり撫でてくれる手が嬉しい。涼しい風のにおいがして、その中からふんわりといいにおいがする。蒼生だ。蒼生だぁ。胸がぎゅーっとする。自信があるんだけど、蒼生にときめいてる回数は、絶対オレがこの世で一番多いよな。
「? 健ちゃん、調べ物?」
 あ、バレた。蒼生が帰ってくる直前まで店に電話してたから、画面に大きな肉がどーんと出たままだ。いいや、どうせ相談するつもりだったんだから。
「あのさ、もうすぐクリスマスじゃん? イルミネーション見てー、ツリー見て、ごはん食べようかなって思ってるんだ」
 どんな顔するかな。もしかして、混んでるとこ嫌がるかな。
「……デート?」
「もちろん、デート」
「そっか」
 わ。可愛い! そのとろけそうな笑顔!
「それで、そのお肉のお店?」
「そう! クリスマスのメニューもあって。ほら、見て! デザートにイチゴのケーキがつくんだって!」
「うん。……ふふふ。嬉しい。楽しみだね」
 ああ、にこにこしてくれてる。喜んでくれてるんだ。胸がほこほこあったかい。
 そういえば、冬矢には相談してねえけど……まあいいか。蒼生がいいって言うんだもんな!


 イブの日は、すっきり晴れたいい天気だった。この天気はきっかり明日までもつらしい。たぶん日頃の行いがいいからだな。
「それじゃ、蒼生。行ってくるね」
 身なりを整えた冬矢が鞄を持つ。みんなで出来るだけ今日明日のバイトは避けようとしたんだけど、冬矢だけ逃れられなかった。とはいっても、朝からの半日でなんとか済んだらしい。どっちにしたって出かけようとしてるのは夜だから、夕方以降体が空けばいいんだ。
 まだパジャマ姿の蒼生が、そのあとについていく。
「行ってらっしゃい、冬矢。気を付けて」
「ごめんね、蒼生には頑張って予定あけてもらったのに」
 だよな。優しい蒼生は周りも忙しいからって言って、他人の予定を優先する。もちろんそれも大事なことだと思うんだけどさ……。でも、そこを、今年こそオレたちを最優先してほしいって蒼生に頼み込んだんだ。結果、蒼生は今日までの数日、びっしりバイトでめちゃくちゃ忙しそうにしてた。それは申し訳ないと思う。
 でも蒼生は、穏やかな表情で首を振る。
「ううん。僕なら大丈夫。それより、あんまり頑張りすぎないでね」
「そうだね。今日はそのあとのほうが大事なんだから。……蒼生、寒いからここでいいよ」
 そっと蒼生を押しとどめると、冬矢は名残惜しそうに蒼生の頬を撫でた。そりゃそうだ、オレらは本当なら、一瞬たりとも蒼生と離れたくないんだ。
「ほら、遅れるぜ。あとでな!」
「うん。蒼生、ついでに健太も、あとで」
 せっつくと、冬矢がリビングのドアから出て行く。あー、見送る蒼生の背中が寂しそうだ。なんか、すっげえ悪いことした気になるな。けど、あいつだってバイトに遅刻したらいけないし。……いや、のんきに見てる場合じゃない、蒼生を元気づけなくちゃ。
「蒼生ー、時間あるし、なにしようか。ゲーム? 本読む? 二度寝する?」
 ソファから立ち上がりながら声をかけると、あれ。振り向いた蒼生はにこにこしてる。
「えっとね。健ちゃんと少しだらだらしたい。いいかな」
 へ? オレと? そんなん願ったり叶ったりだけど。え、あ、そう、そうなんだぁ。蒼生はオレとふたりでだらだらしたいのか。えー、すっげえ、嬉しい。思わず頬の筋肉が緩んじゃう。
「もちろんいいよ! どこでだらだらする?」
「じゃあ、あっち」
 蒼生が指さしたのは、寝室のほうだった。出かける前だし、そういうお誘いじゃないってわかってんだけど、ちょっとドキッとする。
 ふたりして寝室に入ると、蒼生はそそくさとベッドに上って、自分の定位置より少しオレ寄りのとこにごろんと転がった。嬉しそうな顔でオレを見てて、……。あっ、これ、かなり我慢がいるやつだ。
「ではお邪魔しまーす」
 なんて言いながら、蒼生の上に半分覆い被さるように寝転がる。
「重い」
 すぐに抗議が来たけど、その声はくすくすと笑ってた。んー。小刻みに動くのがくすぐったい。あったかい。かわいい。どうしよう、好きだ。
 下敷きになってないほうの手が伸びてきて、オレの背中に乗っかった。指先が服を手繰り寄せる感じがして、ぞくぞくっとしたのが腰から上ってくる。
「……はー。健ちゃん、好き……」
「! え、オレ、声に出てた?」
「うん? 声?」
「あ、いや。ちょうどオレも今、蒼生のことすっごく好きだなって思ってたとこだったから、聞こえちゃったのかなって思った」
「ふ、ふふ、一緒に思ってたんだね」
「だね」
 あー、好き。
 昔から蒼生の体温が好きだった。家族や友達とも気軽にハグしてたけど、蒼生に抱きつく時だけ、呼び起こされるように胃の辺りからじんわりあったかいのが湧き上がってくるような気がしてた。蒼生は優しくてあったかいから、それが伝わってくるんだろうなって思ってたけど、きっとあれはオレと蒼生が好き合ってたからなんだろうな。
 蒼生はオレの肩に擦り寄ってくる。へへ。
「そういえば、今日見に行くツリーってどんなの?」
 あれ、言ってなかったっけ。
「行こうと思ってるとこのは、今年はね、リボンのツリーだって」
「リボン? 毎年変わるんだ」
「うん。色々やってるらしいよ。で、今年はいろんな地域のリボンで飾られたツリーがいっぱいあるんだって。ちょっとテーマがかわいらしすぎちゃうかなと思ったんだけど、珍しいのが見られるならいいかなって思ってさ」
 うんうんと蒼生が頷く。だよな、珍しいの好きだもんな。あ、そういえば、サイトに画像が載ってたっけ。オレは携帯を取りだした。
「どういうのがあるか、写真見てみる?」
「え、ううん、やめとく。いきなり実物見たほうが面白そうだし」
「なるほど、そりゃそうだな」
 出した携帯を引っ込め……ようとした手を、蒼生の手が止めた。あー、せっかく背中に乗っかってた温かい手が。
「……前から思ってたけど、健ちゃんの携帯の画面ってシンプルだよね」
 んー。まあな。必要なのがちょこっと乗っかってるだけだから、大学の友達にはよく殺風景だって言われてる。
「蒼生だってほぼなんにもないじゃん」
「まあ、僕は必要最低限しか使わないし……。でも、ほら、健ちゃんってゲーム好きでしょ。大学の周りの人、みんな画面いっぱいにアイコンがぎっしり詰め込まれてて。何かと思ったら、遊んでるゲームなんだって」
 へー……蒼生と携帯の画面見せあう奴がいんのか。いや、当然いるだろうけど、なんだろ。なんかむずむずする。
「……オレはあんまり携帯のゲームとかやんないよ」
「だよね。なんで?」
「だって、ハマったら通学時間や休み時間じゃ足りなくなるんだろ? そんなに時間取られるのもったいないじゃん。家にいる時はずーっと蒼生のこと見てたいし。そもそも、蒼生のこと考えてて頭いっぱいだから、そんな暇ないもん」
「ひぇ」
 オレは上半身を起こして、両手で蒼生の頬を包む。すべすべ。前髪をかきあげておでこを出させてみたり。綺麗な鼻筋をなぞってみたり。ひんやりした耳たぶをつまんでみたり。困ったような照れたような形になってる眉毛を撫でてみたり。柔らかい唇をそっとつついてみたり。
 蒼生は黙って全部させてくれる。他の人には絶対させない。オレと冬矢だけの特権。
 もじもじしてた両手が、オレの首に回ってきた。引き寄せられるままに、抱き締める。んー、今日はやけに甘えてくるなあ。
「どした? あ、もしかして、冬矢が出かけちゃったから寂しい?」
 ぴく、と肩が跳ねる。それから、抱きついてくる腕の力がぎゅっと強くなる。
「健ちゃんに嘘ついてもしょうがないからはっきり言うと、寂しいのは寂しいよ。でも、そうじゃなくって。……これからデートだって思うと嬉しくなっちゃって、さっきからテンションが上がりっぱなしなんだ。これでもなんとか抑えてるつもりなんだけど……」
 オレの腕の中から、くぐもった声。え、そ、そんなこと考えてたの? もしかして、起きてすぐに着替える蒼生がずっとパジャマだったのも、オレとこうしたかったからなの? かっ……。
「可愛いぃ……」
「ん、きつぃ……」
 首の後ろをぱたぱたと叩かれる。うー、ちょっと待って、もうちょっと、もうちょっとだけ!

 プレゼントっていつ渡すのが普通なんだろうな? 早いかなーと思ったけど、今日着てほしかったから、先に渡すことにした。そのベージュのコートを着た蒼生は、……可愛い。綺麗。素敵。上品。美人。めちゃくちゃ似合う。うん、店先で見かけた時、絶対蒼生に似合うってピンと来たんだ。しかも、オレからもらったっていうのが嬉しいらしくて、割増で上機嫌なのがすっげぇ可愛い。
 駅で待ち合わせした冬矢も、蒼生の姿を見るなり目を細めた。
「似合うね」
「健ちゃんがプレゼントしてくれたんだ」
「うん、可愛いよ」
 そうだろうとも。可愛いだろー。ずーっと蒼生のこと見てて、こんな服が似合うだろうな、あんなコーディネートさせてみたいなって思ってたんだから。今はそれを堂々と行動に移せるんだもん、恋人同士っていいな~。
 そうして無事合流したオレたちは、程よく暗くなってきた街を、駅に背を向けるようにして歩く。歩道は広くて、ほとんどの人が同じ方向に歩いてるから、3人で並んでても大丈夫そうだった。それにしても……ある程度は予想してたけど、すごい人数が集まってるなあ。きっとみんな目的も一緒なんだろう。しかも、見渡す限りカップルばっかりなのがすげぇ。だって、ここにいるこの人たち、全員がお互いのこと好きなんだぜ。もちろん、その中にいるオレたちもそうなんだなって思うと、なんかじーんとする。
 こんなに人がたくさんいて歩きづらくないかな、と思って隣を見ると、気が付いた蒼生がにこっと笑う。それからそっと肩を寄せてきた。うわ。結構寒いなって思ってたんだけど、そんなのすっ飛んでいっちゃうくらい可愛い……。
 もういっそ、くっついたままずっと歩いていきたいなと思ってるうちに、目指してたとこに着いちゃった。その道路は車両通行止めにされてるらしい。警備の人が道路の近くでライトを振ってたから、きっとここを曲がるんだな。なるほど、こっちからあっちに向かって、歩行者も車みたいに一方通行になってるってことなのか。そりゃごちゃごちゃしなくていいな。
「わあ」
 曲がるなり、蒼生が声を上げた。
 ……おお。たしかに、すごい。小さな電球がたっくさん付いた門が、遠くのほうまでいくつも続いてる。門の上側には赤とか青とかいろんな色のライトがぴかぴか光って、本当の門を飾る宝石みたいだ。その真ん中にあるのは、これは光ってない普通の緑のリースだな。そこに真っ白い、周りよりひとまわり大きな電球が巻き付いてる。で、門と門はさらに光の線で繋がれてて、なんだかトンネルっぽい。見上げながら歩くと、真っ黒な空が光の線で分割されてるみたい。ところどころ大きなライトが点いてて、そこだけやたら明るい。んー、全体的にかなり眩しい感じだ。
 蒼生はそのひとつひとつを、きらきらする目で見上げてた。瞳に映るあったかい色の光は、反射してるからだってもちろんわかってる。だけど、蒼生自身の輝きに思えてしょうがない。今見える世界の中で、一番輝いて見えるのは、蒼生だ。
「すごいね。綺麗だ」
 声の響きがすごく嬉しそうで、可愛い。ここに蒼生を連れてきたがってた冬矢も、そんな蒼生を嬉しそうに見てる。たぶん、これは蒼生のほうが綺麗だと思ってる顔だな。オレと同じで、あまりにも雑踏の中すぎて口に出来てないけど。
 んー。蒼生が冬矢を見てるのがなんか悔しいぞ。他にないかな、蒼生が喜びそうな物は。……お。
「見て、蒼生。道路の両脇にいろんな動物がいる」
 耳元で伝えると、オレの指の先を追った視線が、電球の塊みたいなウサギを見つけたみたいだ。人通りが多いことを見越して、たぶん台座かなんかに乗せられてるんだろうな、人の頭の向こうに長い耳が見える。体は……半分くらいしか見えないけど。
「ほんとだ。ウサギとか猫とか……あっちはなんだろ、キツネ?」
「っぽいけど、なんだろうな?」
 なんせ全部ちっちゃいライトで覆われてるから、顔とか色とかで判別付かないんだよな。
「犬にも見えるね」
 冬矢までそんなことを言い出すから、ますます正体がわからない。なんかそれだけのことなのに、クイズみたいでものすごく面白い。なんだあれ、熊?
 ……って、危ない危ない。動物探しに夢中になってて、行きたいビルを通り過ぎるとこだった。一方通行なんだから、行き過ぎたらまた大回りしなきゃいけないとこだ。
「蒼生。あのビルだよ。ツリーがあるの」
「あれがそう? すごい、ガラス全面にリボンがかかってるみたいだね」
 見上げると、ホントだ。ピンクの大きなリボンが、ビルをプレゼントにするように巻かれてる。もちろん本物じゃない、シールかなんか貼ってあるのかな。そこに書かれた文字はイベントの名前なんだろうけど、そこをゆっくり見るのは大変そうだ。人の波に逆らうことになるからさ。だから、オレたちは邪魔になんないように、少しずつそこに近付いていった。
 このあたりで一番目玉のツリーって、この道路を一番奥に行ったとこにある。きっと、みんなそっちを見に行くんだと思う。だからなのか、入ったビルにはそこそこ人がいるみたいだけど、ものすっごく混んでるわけじゃなかった。入口を抜けると、いきなり吹き抜けのホールになってて、目の前には大きいツリーがある。地元で一番大きかったやつとおんなじくらいあるのに、これでもまだこのあたりじゃ小さい方なんだって。
「へえ……すっごく綺麗だね」
 蒼生は眩しそうにそう呟くと、足早にツリーに近付いてく。オレたちもそのあとを追った。その大きな木に電球はついてなくて、周りからのスポットライトでぼんやりと照らされてるだけで、少し薄暗い感じがした。それがなんか大人っぽい雰囲気を演出してるってことなのかな。緑の葉っぱでふさふさして見える木にはよく映える赤い幅広のリボンがたくさん巻かれてて、やっぱり赤くてつやつやしたボールみたいな飾りがいっぱい。あと、雪の結晶が金色の針金みたいので作られてて、それも数え切れないくらいたくさんある。蒼生はそれもきょろきょろ見てたけど、一番気になってたのはリボンらしい。ツリーを囲む柵から身を乗り出すようにして眺めてる。
「金色の模様がすごく細かくて綺麗。ほら、見て。結晶の模様があるの。これ、印刷? じゃ、ないか、刺繍かな……」
 どれどれ。お、なるほど。飾られてる結晶と同じ形がリボンの中に規則的に並んでる。蒼生に言われなきゃ気付かなかったな。遠目に見ると可愛らしい感じだけど、近くで見るとずいぶん繊細だなぁ。
「周りにも小さいツリーがあるよ」
 会場内を見渡してた冬矢が言った。小さい? 蒼生とふたりで視線を巡らせる。あ。壁際にもぽつんぽつんと並んでるんだ。
「それぞれ種類が違うみたいだね」
「え、マジか」
「行ってみよう」
 そういや、いろんな種類のリボンがーっていうのがここの特徴だったっけ。ってか、小さいツリーっていってもオレよりデカいから、迫力はあるな。
 まず向かった端っこのツリーには、銀色のテープみたいなリボン。次のやつは、複雑な色が混じり合ってる。それから、緑地に白で雪だるまが描いてあるのとか。ピンクのふわふわしたやつに、黒いやつ。畳の端っこみたいな柄のもあった。え、まだたくさんあるじゃん。これ、全部違うの? すっげ、いくつあるんだ?
 次のは……。あ、これはメインのツリーに巻かれてるのと同じ柄で、幅だけ狭いリボンだ。
「わー、これ、刺繍だ。ってことは、あっちのツリーのリボンも刺繍ってこと? すごい」
 蒼生、楽しそうだな。へへ。かーわいい。綺麗なのとか細かいのとか好きだもんね。いっぱいあるツリーのリボンをひとつひとつ食い入るように見てる。ツリーの近くにはそれぞれパネルがあって、どこどこの国の伝統的な模様で、とかなんとか説明文が書いてある。オレなんかは「へー」で終わりだけど、蒼生には全部が価値のある情報らしい。
 目を輝かせてる横顔が、いつもより幼く見える。いや、ちょっと珍しそうだな~とか思って軽い気持ちで選んだけど、ここにしてよかった。蒼生が喜んでくれるの、ホントに嬉しい。
 順番に見てくと、奥の方は仮設の店になってた。移動式のワゴンに乗っかって、クリスマスの飾りがいっぱい売ってる。えーと、これはオーナメントコーナー……。あ、オーナメントって飾りのことなのか。へー。セットとかバラ売りで、ボールとか杖みたいのとか家とかサンタとか、いろんなのがある。他にも、水晶玉みたいなのの中に水が入って雪が降ってるように見えるのとか、お、これはオルゴールか。豆電球が繋がった光るやつなんかもあるな。うーん、種類が多いし名前が複雑でよくわかんねえや。とりあえず、小さい子が好きそうな、原色ぴかぴかのオモチャとかはないんだな。ツリーもそうだけど、完全に大人向けなんだなあ。
 そこでもやっぱり蒼生はリボンが気になるみたいだ。刺繍が細かいやつとか、つるつるの素材のやつとか、さっきのツリーにあったやつとか、手に取ってはうーんと悩んで棚に戻す、を何度も繰り返す。
「そんなに気になるなら、少し買っていく?」
「綺麗だけど……。使い道がないものを買うのは勿体ないし」
 難しい顔でリボンを見つめながら、そんなことを言う。なるほど。……んー。使い道……。そうだなぁ……。なにか、人に贈り物でもする時? でもそれにしちゃ幅があるから、結びづらいかもしれない。言われてみりゃ、何に使うんだ、これ。
 蒼生の手元を見て考えてたふうの冬矢が、「あ」と声を上げた。
「お。なんか使い道思い浮かんだか?」
「うん。蒼生、これを布に付けて、俺にブックカバーを作ってくれないか」
「……ブックカバー?」
「そう。例えばこれだと、薄いグリーンがいいかな。無地の布にリボンをこう1本付けるだけで、華やかなブックカバーが出来そうだろ」
 へえ。いいこと言うなぁ。それならいつでも持ち歩けるし、普通のブックカバーよりかっこいいじゃん。本が好きな蒼生にもぴったりだし。
 蒼生もぱっと顔を輝かせる。
「いいね。じゃあ、作ってみる」
 えっ、冬矢にだけはズルい!
「オレも欲しい!」
「ふ。それなら健太も進んで本を読むようになるんじゃないか?」
「お、おお……」
「あははっ。そうだね。ちょっとお揃いみたいなの、作ってみようかな」
 いくつかのリボンを手に取った蒼生は、なんだかほっとしたような顔をしてた。

 夜ご飯はこのビルの吹き抜けに面したレストランです! って言ったら、どーんと大きな肉の塊が写ったその店のパネルを見た冬矢が、若干不満げな顔をした。いや、まあ、言いたいことはわかる。こういう時、洒落た店でフルコースとか蒼生に振る舞いたいタイプもんな。
「健ちゃんらしいチョイスだよね」
 って蒼生がにこにこしてたから、その顔は一切蒼生には見せずに「そうだな」とかなんとか言って笑ってたけど、オレに向ける視線はずいぶんひんやりしてた。でも、それも、吹き抜けの窓側の席に案内されて下を覗き込んだ蒼生が、
「見て見て、健ちゃん、冬矢! すごいよ! 席から下のツリーが見える!」
 控えめだけどはしゃいだ可愛い声で目を輝かせたので、全部解決したらしい。ほんっと、こいつ、蒼生のこと大好きだよな。もちろんオレもだけど。
 それにしても、店は混んでて、順番待ちの行列がすごいことになってた。予約しておいてよかったなー。蒼生はパスタが美味しいってすっごく喜んでたし、文句ありそうだった冬矢も海鮮の焼き物を気に入ってたみたいだし。んー、組んだプランが予定通りなうえ同行者にびったり合って、しかも喜んでもらえるって最高だよな。
 帰りの電車は、早い時間だからかまだ空いてた。オレたちの間に座った蒼生が、嬉しそうに小声でイルミネーションやツリーの感想を話すのを、オレはすごくあったかい気持ちで聞いてた。
 ……でも、ちょっと電車乗ってる時間が長くなると……。
「なあ、やっぱ、ケーキ買って帰らねえ?」
 ふたりがきょとんとオレを見る。
「あれだけ食べたあとだろう」
「そうなんだけどさー」
 最初はイブに買って食べようねって話だったのを、夕飯の時にデザートでケーキが出るからいいかってなんとなくそんな流れになってた。食べた後にさらにケーキじゃ重いよねって。確かに、蒼生と冬矢の食べる量から考えると、当然そうなるだろうと思ってた。だけど、なんかやっぱ物足りない。
「せっかくだし、やっぱ、大きなケーキを切ってこそのクリスマスじゃね?」
「うーん……。まあ、雰囲気は出るよね」
「そうだな、残っても明日食べるという選択肢があるわけだから、それもいいかもしれないな」
「だろ! じゃ、駅前のケーキ屋寄ってこ!」
「残ってるかなあ」
 ふたりはオレの提案に、あんまり悩まずに頷いてくれた。やった。
 これでもオレは、昔、甘いものが少し苦手だったんだ。どっちかっつうと辛党でさ。だけど、蒼生と一緒にいろんな甘いもの食べに行くうちに平気になってって、今じゃデザートがないとなんとなく落ち着かない。ひとりで食べる時はそんなことはないんだけどなあ。
 駅から出ると、すぐにロータリーに面したケーキ屋が見える。2階が喫茶店になってて食べて帰ることも出来るらしいんだけど、一度も上ったことがない。だってここまで来たら、早く家に帰りたいじゃん。蒼生が食べて帰りたいって言ったら別だけどさ。……おっ、結構お客さん入ってる。そりゃクリスマスだ、同じこと考える人は多いよな。
 と、その時、蒼生の電話が鳴った。……えー。イブだよ? イブの夜に電話かけてくるとか、誰だよ。蒼生は画面に目を落とし、首を傾げる。覗き込むと、蒼生のバイト先からじゃん。え、蒼生は予約済みなんですけど!
「ごめんね、先にお店入ってて」
 申し訳なさそうに言って、蒼生はもしもし、と電話に出た。その電話の向こうの相手に向けて、「蒼生は忙しいです蒼生はオレたちと一緒に過ごすんです邪魔しないでください」と念を飛ばしながら、しょうがなく冬矢とふたりで店に入る。こいつとふたりでケーキ屋に? うーむ。非常に心外だ。
「いらっしゃいませー」
 店員のおねえさんがにっこり笑う。どうも、と会釈してオレたちはショーケースを覗き込んだ。そこには、たくさんのケーキが並んでる。
「よかった、まだあるじゃん」
「そうだな」
 1個もありませんでした、っていうのも想定してたくらいだから、これだけ種類があるのはちょっと意外だったな。これは、蒼生、悩んじゃうぞ。ド定番のショートケーキもあるけど、他にもクリスマスっぽい飾り付けのケーキがいろいろある。ド定番も悪くないんだけどさ、蒼生ってイチゴは好きだけど、生クリームに得意不得意があるんだよな。だから外れを引く可能性があるショートケーキはわりと普段から避けがちだ。それに、さっきのデザートがそれっぽいやつだったから、他のにしたほうがいいと思う。
「どれにしようか。……わ、すっげぇ、でっかくて四角いケーキだ」
「おまえの胃袋基準で考えるなよ」
「いや、さすがにオレもここまででかいのは入んねえよ。どう考えても大勢でパーティとかする奴向けだろ」
「見た目も綺麗だし、クリームよりフルーツがたくさん入っているから、味自体は蒼生も好きだろうけど」
「あー……。だったらこっちの小ぶりのやつのほうが好きそうだな」
 そうだよな、小さめの。でも綺麗なやつがいいな。どれがいいかな。どれが好きかな。
「こっちはどうだ?」
「これも美味しそうだよなあ」
「蒼生はこういうのも好きだろ」
「あっちも好きだよ」
 そうやって話を進めてくうちに、なんとなく絞れてきた。冬矢の推薦する爽やかでさっぱり美味しそうなレモンパイと、オレが気になる細長いのやカラフルなチョコで飾られた丸太型のチョコレートケーキと。どっちかにするかってとこまでまとまったタイミングで、蒼生が店に飛び込んでくる。
「ごめん、お待たせ!」
「おー。何だって?」
「あ、年明けのシフトで調整しなきゃいけないところがあったみたい。1日少なくなっちゃった。……って、それより、まだ買ってない? 間に合った?」
 ん? 間に合うって……。
 冬矢が笑う。
「慌てなくても、蒼生の好きなものを選ぶから大丈夫だよ」
「だから、それだよ!」
 それ? じぃっと蒼生がオレたちの顔を拗ねたような可愛い表情で見る。
「ふたりが選ぶと、僕が好きなものになっちゃうでしょ。僕のことばっかりじゃなくて、ふたりが好きなのにしようよ。ほら、いっぱいあるじゃん。健ちゃん、冬矢、なにが一番好き?」
 そんなん、決まってる。
「蒼生の笑顔」
 あ。オレと冬矢の声がぴったり揃った。
 一瞬固まった蒼生が、ぱっと頬を赤くする。で、それを隠すためかな、両手で顔を覆った。可愛い。
「えっ……えぇ……」
「つまり、そういうことだよ」
「そういう、って……」
 うん、だから、そういうこと。
「な、蒼生。このレモンパイとチョコケーキどっちにしようか迷ってるんだ。どっちにする?」
 蒼生は指の隙間からオレたちが指差すケーキを見比べる。両方クリスマス仕様で可愛らしいから、蒼生には選びづらいかな。
 やっぱり蒼生はちょっと困ったようにして、それから小さく言った。
「……どっちも」
 !
「どっちもか! よし、両方買お!」
「そうだね。すみません、注文よろしいですか」
 そうかそうか~。どっちもか~。
 へへへ。
 明るい街灯の下。目の前には、楽しそうに話をしながら歩くふたりの姿がある。それを見ながらずっしりした袋を持ってると、嬉しさがどんどん増えてくる気がする。2個だもん、そりゃ重くもなるよな。ついでにレジ横にあったクッキーも買っちゃったしな!
 ふーっと息を吐きながら空を見上げる。暗い空に、明るい星がいくつも光ってる。このへんだと、地元と同じくらい星が見えるんだよな。……へへ、なんか、今日、ずっと嬉しい。いや違うな。今日も、だ。オレのそばで蒼生が笑っててくれるのが嬉しい。
 …………っあ。
 空に線…………っ流れ星!
「蒼生蒼生蒼生っ!!」
「えっ? あ、はいっ……え?」
 蒼生がびっくりしたみたいに振り向く。冬矢も不審げな視線を寄越す。あー、だよな、急に名前を早口で何回も呼んだら、突然どうしたんだって思われて当然だ。
「あっははは。ごめんごめん、流れ星が見えてさぁ。ほら、3回願いをかけたら叶うんだろ」
 ……って、ふたりはなんか顔を見合わせてる。冬矢が肩をすくめた。
「さて、どうだかな」
「なんだよ、夢のない奴だな。オレだってそのくらいわかってるよ。迷信だってわかってたって、ついやりたくなるじゃん」
 蒼生はふわっと表情を和らげる。
「僕は、それだけ短い時間に3回思い浮かべられるほど強い願いなら、もともと叶えたい気持ちが強い願いだから、実現する確率が高いんじゃないかって思う」
 へえ、蒼生はそういうふうに考えてたんだ。冬矢も蒼生に向かって笑いかける。
「蒼生らしいね。俺も荒唐無稽な考え方ではないと思っていたよ。言葉にすると、叶えたい願いが具体的になるから、目標が定めやすくなるというのもあるんじゃないかな」
 ちゃんとそういうのも真面目に考えてんだな。ふたりともすげえや。
「なるほどなあ。ふたりの話聞いてると納得出来るわ。オレなんか中学入る頃まで、マジで誰かがお願い聞いてくれるんだと思ってたからさあ」
 すると、蒼生がオレの隣に来た。それから、そっと肩で触れてくる。あったかい。
「でもね、僕、健ちゃんのそういうロマンチックな考え方も大好き。それで叶ったら素敵だもん。……ただ、さっきのは短すぎて何の願い事にもなってない気がするよ」
「んー。瞬間的に、何かお願いしなきゃと思ったら、蒼生のことしか浮かばなかったんだよな」
「おまえの頭の中には蒼生のことしかないもんな」
「まあな」
 えっ、と蒼生が小さく声を上げる。
「とすれば、さっきのおまえの願い事では何が叶うんだろうな」
「そうだなー、蒼生が今夜、えっちなお願い聞いてくれるって願いかな」
 あ、蒼生がそのまんまのかっこで固まってる。
「……こっ、この流れは……僕が叶えるパターンでは……」
 へへ。他に誰がいるのかな?
 ぽんっと蒼生の肩を叩くと、冬矢も同じように蒼生の腰を軽く叩いた。オレたちの顔を見て、少し困った顔をする蒼生。その歩く速さが少し早くなったから、たぶん、外でどういう顔をしていいか困ってたってことなんだろうな。あー、可愛い。

 結局、2つのケーキをいっぺんに食べるのはやめて、半分は明日の楽しみに取っておくことにした。皿の上に並ぶ2種類のケーキを、蒼生はすっごく嬉しそうに眺めて、にっこにこしながら美味しそうに食べてた。うん、どっちも美味しかったもんな。レモンは酸っぱいのかなと思ってたけど結構甘くて、底がチーズケーキみたいになってたのが嬉しかったみたい。チョコレートも中のチョコクリームに入ってたナッツをすごく気に入ったようだった。ふんにゃりした顔が、もー、可愛いのなんのって。今すぐ蒼生のこと食べちゃおうか!? ってつい口から出そうになった。……まあ、これからきちんといただいちゃうんですけどね。
 冬矢がベッドメイクをしている間、オレは洗い物を片付ける。勿体ないけど、すすぎにはお湯を使ってる。だって、蒼生に触れた時に冷たかったら可哀想だからさ。首筋とかに冷たい手で触ってびくびくさせちゃうのも可愛いんだけど、体に触れて寒い思いはさせたくないもんな。
 ちょうど使った食器を全部洗い終わったところで、蒼生がリビングに戻ってきた。
「おまたせ~」
「おかえり~」
 わ。パジャマ姿の蒼生、可愛い。何回見ても新鮮に可愛い。思わず抱き締めると、風呂上がりのほかほかと石鹸の香りが蒼生の可愛さと一緒に飛び込んで来て、もう頭の処理能力が限界を超える。つい勢いでそのまま抱き上げても、蒼生はぎゅーっとオレの首に巻き付いたまま腕を放さないんだよな~。それどころか肩に頬を擦り付けてきてて。これ……あの……こんな可愛くて大丈夫?
 寝室に入ると、綺麗に整えられたシーツの上で、冬矢が笑って蒼生に手を伸ばす。顔を上げた蒼生がそっちに手を伸ばすから、オレは蒼生の体をゆっくりベッドに乗せた。蒼生の片手は冬矢に向かう、でももう片っぽの手がオレから離れない。もうヤバい。蒼生のスリッパを弾き飛ばす勢いで脱がせる。あー、好き。大好き。ずっと我慢してた、ずっとキスしたかった。蒼生。
「ふ、ふふ」
 かわるがわる、ふたりがかりでキスを繰り返すと、蒼生が笑う。だからつられて、オレたちも笑う。だって、全員が全員、待ちきれなかったみたいなキスをするんだもん。そりゃ、人前で出来なかったぶん、欲しくなっちゃうよな。
 はー。蒼生の舌が応えてくれる。嬉しい、蒼生。
 冬矢の手が、先を急ぐように蒼生のパジャマのボタンにかかる。オレはそっとズボンに手を伸ばした。
 ん? ちょっと蒼生がぴくんとした。わずかな抵抗感。それはすぐに消えたけど。きっと、冬矢が袖から腕を抜こうとするところだったから、そっちが早くて優先されちゃったのかな? って。思ってたんだけど。
 するっと、ズボンを脱がせた、そこから覗いたのは、……え?
 オレの視線に気付いたのか、蒼生が真っ赤な顔を両手で覆う。冬矢も驚いたように蒼生を見る。
 だって、びっくりもするだろ。え、いや、びっくりっていうか、……かっ、可愛い。ちょっと厚めの布で、めちゃくちゃ可愛い、面積の少ない、水色のぱんつ。その、腰のところで、両側に紐がぽってりとリボン結びになっ…………。え、えぇ? え? 夢? これ夢?
「か……可愛い……っ」
 もう、それしか言葉が出てこない。可愛い紐つきのぱんつ1枚の蒼生が、目の前に横たわってんの。え? え?
 ちら、と蒼生の目がオレを見る。
「……あ、の、……その、ずっと前、リボンの話したでしょ……。全身は無理だけど、このくらいなら、と、思って……」
 えっ。
 それ……誕生日の時の話? オレが、すっぽんぽんにリボン巻いて、自分がプレゼント~ってやって欲しいって言ったから? う、嘘だろ、こんな愛おしいことってある? たった一言の、冗談みたいな言葉を、ずっと覚えてて?
「ひっ、……引くよね、やっぱり……」
「引くわけあるか! こ、こんな、あー、もー……言葉になんねえ……。大好きが溢れて溺れそうだわ」
 わずかに、蒼生がほっとしたように息を吐く。めちゃくちゃ緊張して恥ずかしがっちゃうくせに、オレのためにこんな格好してくれたんだ。
 もー、どうしよう。目の前の全部が愛しい。一番近くにあった可愛い乳首をそっと擦る。ふわふわ。
「っあ!」
 びくっと蒼生が震える。今ここに手が伸びると思ってなかったんだろうな。
 顔を覆った手を左手で外せば、蒼生と目が合う。そのままきゅっと硬くなってくる乳首を撫で続けると、蒼生は可愛らしく身をよじった。
「ねえ、こんな可愛いぱんつ、どこで買ったの」
 指で挟んで、捏ねる。
「んっ……ぅ、お店だと恥ずかしいっ、から、つ、通販で」
 その反応がたまんなかったんだろう、冬矢が首を伸ばして、蒼生の反対の乳首に口づける。
「ふぁっ」
「えー、いつの間に頼んでたの?」
「ず、ずいぶん、っん、あ、前ぇ……」
 じゃあ、オレがあの話をしてから、すぐだったのかな。
「……は、あ、ぁの、いつかやろうと思ったんだけど、っあぅ……。勇気がなくて……っ」
「でも今日は穿いてくれたんだ」
「だ、だって、健ちゃんがリボンの話、ぅ、するから……。今日しかない、って、思っ……あ、あぁっ……」
 なんてこった。オレは、自ら幸運を呼び込んだってことか! オレの選択はひとつも間違ってなかったんだな! もちろん、それを叶えてくれたのは、全部蒼生だけど。
「綺麗な色だね。とても似合ってる」
 舌先で乳首を転がしながら、冬矢が笑う。蒼生は首を仰のかせる。
「あっ、ん……、なに、いろ、か、迷った、んだけ、ど」
 オレも舐めたい。
「ひぁっ! ……っ、健ちゃんの好きな色っ、と、冬矢の好きっ、ぁ、なの、ちが、……っからぁ」
 ああ、それで困った挙げ句、自分の色と自覚してる色を選んだの? 可愛い!
「やっ……ふたり、とも、そこばっか、ぁ」
 だって、もう目に入っちゃってるんだ。そのわずかな布を健気に持ち上げる塊が、キュートな水色を濃い色に変えてきてるのを。
「オレたちの好きな色で迷う蒼生、可愛い……」
 ちょっと噛んでみると、蒼生の体がびくっと跳ねた。
「だっ……て、ふたりとも、好き、だも、んっ……。まさか下着の色で、迷う日が、来るなんて……っあ、ねぇ、あ、」
 冬矢はすっかり色づいた乳首を弾きながら、何度も何度もそこにキスをする。
「……もしかして、蒼生。ずっとこれ、穿いてた?」
 えっ。
 おまえ何言って……え?
 蒼生は真っ赤な顔で唇を噛みながら、こくこくと頷く。
「きょ、ぉ、デートっ、ずっと、穿いっ……て、ぇ」
「! ずっと!? あー、途中で見せてもらえば良かった!」
 綺麗な蒼生の足が、片方、悶えるように宙に浮かぶ。
「あっ、ああっ、んっ、ぁ!」
 じゃあ、流れ星見た時点で、オレのお願い、既に叶ってたってことじゃん! マジで途中で見せてもらえば良かった。堂々と公道で……だと怒られるから、こっそり、トイレの隙とかにでも覗けば良かった!
 なんか、蒼生がずーっとこれを履いてオレたちとデートしてたかと思うと、すっげぇこみ上げてくるもんがある。それが自分じゃどうにもできなくて、とにかく赤く尖った乳首を口の中で転がして、吸った。蒼生の早い鼓動が舌先から伝わってきそうだ。甘くて美味しくて、愛しい。
「っん! あ、あぁっ!」
 びく、びくって、オレたちの下で蒼生が体を震わせた。
 ……あれ。
 蒼生?
 足を突っ張らせてたはずの蒼生は、体から力を抜いて、息を荒くしてた。
「……びっくり、した」
 ちょっと間を開けて、呆然と蒼生が呟く。オレはかすかに震えるぱんつの布を、そっと持ち上げて覗き込む。白く糸を引くその中身に、……やっば。マジで? はあ、めちゃくちゃ興奮する。
「蒼生、乳首だけでイッちゃったの?」
「う……。えっと……そ、そうみたい。えぇー……」
「ふふ。気持ちよかったんだね?」
「ん、……うん」
 どんな顔をしていいか困ったように、蒼生はオレたちを見る。戸惑ってるの? ああ大変だ、国宝レベルに可愛い。
「な。蒼生って、ここだけでイッたことってあるっけ」
「ないと思う……。というか、ふたりが知らなきゃ、ないってことでしょ」
「そりゃそうか。じゃ、初めてだ」
「はっ、初めて……」
 ……おお。ちょっと恥ずかしそうな表情。これは緊急事態だ。今すぐ蒼生のナカに挿入りたい。蒼生の温度をもっと感じたい。
 けど、オレが飛び付くより早く、蒼生がオレに向かって手を差し伸べた。蒼生に呼ばれちゃ、そりゃ、何を差し置いても側に行くだろ。なに、と聞くよりも早く、近付いたオレの首に蒼生がぎゅっと巻き付いてきた。
「っ、あ、どした?」
「あの……照れ隠し……」
「うわ」
 わー……。
 かっわ……。
 頭を撫でると、はあっと甘い吐息が聞こえる。それから、頬に柔らかい感触。蒼生の唇だ。……あ、キスか。蒼生もキスしてほしいんだ。顔をずらせば、とろんとした蒼生の目がまっすぐにオレを見てる。わずかに開かれた唇に舌を差し入れると、ちうちうと吸ってくる。あー。
「っんぅ……っ」
 喉の奥で蒼生が言葉にならない声を上げる。見てないけど、冬矢が蒼生のナカを探ってるんだろう。ああ、先を越された。
 だけど、悔しいとかは思わない。だって今、蒼生に潤んだ目でキスをせがまれてるのはオレだから。
 抱き合ってキスしてる、それだけで気持ちいい。
 泣きそうになるくらい嬉しい。
「蒼生」
 切羽詰まった声の冬矢が、オレの背中にある蒼生の手を奪った。指を絡ませて、体全体で寄り添う。
「挿入れていい、ね? 今日はちゃんと自分で準備してきてくれたんだ」
「あ、ふ、……だ、大好きなふたりのっ……早く、ほしかった、っ、からぁ……」
 最近はオレたちにさせてくれるんだけどな。あ、そっか、蒼生も待ちきれなかったんだ。ずっと待っててくれたんだ。オレと一緒の気持ちだったんだね。
 冬矢がふっと笑う。
「うん。上手だね。いい子……」
「ん……」
 冬矢のキスを蒼生が受ける。その仰のく首が可愛くて、無防備なうなじにキスをする。そしたら、蒼生はもっと嬉しそうに笑った。
 ごそごそやってた冬矢が、ぐいっと腰を動かす。
「っあ」
 柔らかな吐息が漏れる。
「あ、はっ……あ、ん、ん、ぁ」
 可愛い。気持ちよさそうな顔。首に回ってた蒼生の手が、オレの腕に降りてきた。それからぱたぱたと指が動く。うん。手、繋ぎたいんだな。
 ぎゅっとオレの手を掴んだ蒼生は、安心したように体を大きくしならせる。
「蒼生……蒼生、好きだよ……」
「はぅ、う、っあ、ぼ、くもっ、……すきぃ、あぁ……っ、と、おやぁ……」
 自分じゃない動きに身を任せる蒼生は、なまめかしくて、でもやっぱり可愛い。
 ……あ。冬矢め、ぱんつ穿かせたまま挿入れてんのか。まあたしかに、こんな可愛いの脱がせたら勿体ない気がするのはオレも同じだ。
 んで、その冬矢の動きに合わせて、青くなった布がふるふると震えてる。……美味しそうだな。体を起こしてそっちに顔を近付ける。蒼生はオレの手を離してくれない。離したくないのが伝わってくる。だから繋いだまま、片手でその布をそっとどかしてやった。ぷるん、と、跳ねるようにピンクのちんこが顔を出す。うわ、玉が布地の中に残ったまま揺れてんの、めっちゃくちゃいじらしくて可愛いじゃん。
「ん、ぐ……んっ」
 冬矢に塞がれてる口から、可愛い悲鳴が聞こえる。口いっぱいに頬張ると、蒼生が身をよじる。あー、さっき出したのでどろどろだから、すっごく味が濃い。へへ、なんか得した気分。
 はあ……。蒼生の匂いで頭がいっぱいになる。布越しにやわやわと丸いのを揉むと、さらに口の中でどくんどくんと脈を打つ。その熱さが直接オレの中に火を移してくるみたいだ。
「あっ、あ、きも、ちぃ……、健ちゃ……っ、あ、うぁ……っふ、ぅ」
「はぁ……かわい……。きもちい?」
「ん、うんっ、うんっ、あ、ぁ、うーっ……」
 ぎゅーっと手が引っ張られる。
 ああ、うん。
 たぶん、もうすぐだ。
 全部がびくびくしてるもん。
「ん。蒼生ぃ、ちょうだい」
「っあ、やぁっ、きちゃ……っ、あ、んぅぅっんーっ!」
 強い力で蒼生が手を掴んで。
 それから、オレの口の中に全部出してくれた。
 熱くて、愛しい、蒼生の。
「は、はぁ、あ、は……っ」
 オレはまた体を起こすと、気持ちよさそうに息を吐く蒼生を見下ろす。
 ぱち、と開いた目が、照れたように細くなる。
 可愛い。
 冬矢がそっと体を引くと、「ひぅっ」と小さな声。
 あー……さすがに限界。
「ねえ、蒼生。ほどいてもいい?」
「……ぇ?」
 ぽーっとしてて一瞬わからなかったみたいだけど、蒼生はすぐに理解してくれた。綺麗な顔で、微笑む。
「ふふ。半分ずつ、お願いします」
 あはは、なんかの儀式みたいじゃん。
 3人して笑って。それから、オレと冬矢はホントに儀式でもやるような感じで、蒼生の両側の腰に鎮座するリボンに手をかけた。
 蒼生はなんだかくすぐったそうだった。
「……脱がされるのとほどかれるのとでは、またなんか違うドキドキがあるね」
 あー、もう。えっちなかっこしてるのに、言うことは可愛いんだから。

 シャワーまではなんとか頑張ってたけど、寝室に戻るなり、蒼生は吸い込まれるように寝ちゃった。
 だよな、蒼生、朝からテンション高いって自己申告してたもんな。そんであれだけいっぱいシちゃったから、体力使い果たしちゃっても無理はない。
 もちろん、今の蒼生は、普通の下着を穿いて寝てる。また穿くのは難しいくらいにどろどろになっちゃったもんね。可愛いのはあれだけだって話だからさ。んー。うん。なるほど。
 いやぁ……。それにしても、今日の蒼生も可愛かったぁ。ナカでいっぱいオレのことぎゅーってしてくれたのが愛しくて愛しくて……。って、いやいやいやいや、ダメだ、あんまり詳細に思い出しちゃダメだ。今日のところは、まずそっと思い出の中にしまい込まなくちゃ。あんまり興奮したら、せっかく気持ちよさそうに寝てる蒼生を起こしちゃうかもしれないもんな。
 ……はあ。さっきからずっと見てるのに、全然見飽きない。オレの腕を抱えてすやすや寝息を立てる蒼生は、なんて可愛らしいんだろう。反対の手で冬矢にくっついてんだと思うと、それも可愛い。両手に好きな奴抱えて、こんな満足げにしてるなんて。
 …………うん。
 好き。
 大好き、蒼生。
「……このままずっと、ずーっと一緒にいるからね」
 小声で告げて、こっそり頬にキスをする。このくらいなら許されるよな。
 オレは蒼生の横顔を眺めて、そのまま目を閉じた。きっと明日の朝、目を開けたら同じ光景が広がるはずだ。でも、今日の朝とは違う朝なんだよな。だって、今日感じた「好き」をまたひとつ積み上げて始まる1日なんだからさ。
 そうやって、新しい1日を毎日蒼生と一緒に過ごしていくんだ。
 また明日ね。
 おやすみ、蒼生……愛してるよ!

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73こ目;夜空にリボンをかけて

キーワードタグ 僕+君→Waltz!  創作BL  創作BL小説  幼馴染  三角関係  一次創作  小説  3P  R18 
作品の説明 一緒に暮らし始めて、最初のクリスマス。
張り切る健太は、どこに行こうか、何を見ようかあれこれ考えているようです。

↑初公開時キャプション↑
2022/12/24初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
73こ目;夜空にリボンをかけて
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 どーしよっかなー。やっぱクリスマスだし、とりあえずツリーは見なくちゃじゃん? すごいよな、どこかに大きなツリーないかなって調べたらさ、あっちこっち、いたるところにあるんだから。マジで選び放題ってやつだ。うーん。どこのを見に行こうか。
 もちろん、一緒に暮らして初めてのクリスマスだし、家でゆっくりのんびり過ごすのも悪くないなって考えた。きっと蒼生もそのほうが好きだろうなって。だけど、それはいつだってできるわけで、せっかく新しい土地に来たんだし、見たことない街の景色を見るのもいいじゃんって思うんだ。それに、なんと、外で遊んで家に帰ってきてからのんびり過ごすことも出来るんだぜ! これはすげえことだ。クリスマスの夜を誰にも邪魔されないでずっと一緒に過ごせるなんて、夢みたいだよな。今までだって一晩中一緒にいたいと思って、お願いしたことはあったんだ。クリスマスだから蒼生とどっかに泊まりに行きたい、ってさ。そしたら、オレら両方の親から大体おんなじ理由できっぱり却下食らったからな。
「隣の家にいるんだから、わざわざ泊まる必要ないでしょ」
「わざわざ高い時期に泊まりに行かなくてもいいんじゃないか。そんなにパーティをしたいなら家でやろう」
 それをわざわざ一緒にいたいのが恋人同士ってやつじゃん! って思ったけど、オレも蒼生も、付き合ってること黙ってるから、引き下がるほかなかったんだ。で、結局、「ちゃんと自分の部屋で寝なさい」って引き離されてさ。
 それが今は、どこに行っても帰る場所は同じなんだよなぁ。初めての、寂しくないクリスマスだ。ふっふふ。
 さーて、引き続きリサーチ、リサーチ、と。……お、これは冬矢が気にしてたイルミネーションか。あいつもな~、涼しい顔して、頭の中は蒼生を喜ばせることでいっぱいだもんな~。うん。せっかくだからこのへん中心で考えてみるか。えーと、この近くにツリーは、と。なるほど、ここにあるのか。え、こっちにもあるんじゃん。あれ、これ、……へえ。いいかも。んー、と、すると……食事はこのへんだな。どこかあるかなー。わ、肉、美味しそう。けど、食べ放題だとクリスマスっぽくない? いや、でも、ダメってことはないだろ。デザートメニューが一応季節ものっぽくなってるし。よし、早めにしといたほうがいいな、一応押さえておこう。後で蒼生にここでいいか確認しなくちゃ。
「ただいまー」
 なんだかんだやってるうちに、蒼生が帰って来た。ぱっと顔を上げると、リビングに入って来た蒼生と目が合って、ふわっと笑う顔。
「うっわ可愛い。おかえり!」
 蒼生はちょっと首を傾げると、オレが座ってる椅子のところにぱたぱたとやってきた。で、隣まで来てそわそわしてるから、あっと思って手を伸ばす。すると、ぴょんと跳ねるように腕の中に飛び込んできて、ぎゅっとオレの頭を抱き締めてくれる。うう……可愛い。可愛い可愛い。ずっと家の中にいてあったかくなってたせいか、冷たい手が頭に乗っかるのが、ひやっとして気持ちいい。ゆっくり撫でてくれる手が嬉しい。涼しい風のにおいがして、その中からふんわりといいにおいがする。蒼生だ。蒼生だぁ。胸がぎゅーっとする。自信があるんだけど、蒼生にときめいてる回数は、絶対オレがこの世で一番多いよな。
「? 健ちゃん、調べ物?」
 あ、バレた。蒼生が帰ってくる直前まで店に電話してたから、画面に大きな肉がどーんと出たままだ。いいや、どうせ相談するつもりだったんだから。
「あのさ、もうすぐクリスマスじゃん? イルミネーション見てー、ツリー見て、ごはん食べようかなって思ってるんだ」
 どんな顔するかな。もしかして、混んでるとこ嫌がるかな。
「……デート?」
「もちろん、デート」
「そっか」
 わ。可愛い! そのとろけそうな笑顔!
「それで、そのお肉のお店?」
「そう! クリスマスのメニューもあって。ほら、見て! デザートにイチゴのケーキがつくんだって!」
「うん。……ふふふ。嬉しい。楽しみだね」
 ああ、にこにこしてくれてる。喜んでくれてるんだ。胸がほこほこあったかい。
 そういえば、冬矢には相談してねえけど……まあいいか。蒼生がいいって言うんだもんな!


 イブの日は、すっきり晴れたいい天気だった。この天気はきっかり明日までもつらしい。たぶん日頃の行いがいいからだな。
「それじゃ、蒼生。行ってくるね」
 身なりを整えた冬矢が鞄を持つ。みんなで出来るだけ今日明日のバイトは避けようとしたんだけど、冬矢だけ逃れられなかった。とはいっても、朝からの半日でなんとか済んだらしい。どっちにしたって出かけようとしてるのは夜だから、夕方以降体が空けばいいんだ。
 まだパジャマ姿の蒼生が、そのあとについていく。
「行ってらっしゃい、冬矢。気を付けて」
「ごめんね、蒼生には頑張って予定あけてもらったのに」
 だよな。優しい蒼生は周りも忙しいからって言って、他人の予定を優先する。もちろんそれも大事なことだと思うんだけどさ……。でも、そこを、今年こそオレたちを最優先してほしいって蒼生に頼み込んだんだ。結果、蒼生は今日までの数日、びっしりバイトでめちゃくちゃ忙しそうにしてた。それは申し訳ないと思う。
 でも蒼生は、穏やかな表情で首を振る。
「ううん。僕なら大丈夫。それより、あんまり頑張りすぎないでね」
「そうだね。今日はそのあとのほうが大事なんだから。……蒼生、寒いからここでいいよ」
 そっと蒼生を押しとどめると、冬矢は名残惜しそうに蒼生の頬を撫でた。そりゃそうだ、オレらは本当なら、一瞬たりとも蒼生と離れたくないんだ。
「ほら、遅れるぜ。あとでな!」
「うん。蒼生、ついでに健太も、あとで」
 せっつくと、冬矢がリビングのドアから出て行く。あー、見送る蒼生の背中が寂しそうだ。なんか、すっげえ悪いことした気になるな。けど、あいつだってバイトに遅刻したらいけないし。……いや、のんきに見てる場合じゃない、蒼生を元気づけなくちゃ。
「蒼生ー、時間あるし、なにしようか。ゲーム? 本読む? 二度寝する?」
 ソファから立ち上がりながら声をかけると、あれ。振り向いた蒼生はにこにこしてる。
「えっとね。健ちゃんと少しだらだらしたい。いいかな」
 へ? オレと? そんなん願ったり叶ったりだけど。え、あ、そう、そうなんだぁ。蒼生はオレとふたりでだらだらしたいのか。えー、すっげえ、嬉しい。思わず頬の筋肉が緩んじゃう。
「もちろんいいよ! どこでだらだらする?」
「じゃあ、あっち」
 蒼生が指さしたのは、寝室のほうだった。出かける前だし、そういうお誘いじゃないってわかってんだけど、ちょっとドキッとする。
 ふたりして寝室に入ると、蒼生はそそくさとベッドに上って、自分の定位置より少しオレ寄りのとこにごろんと転がった。嬉しそうな顔でオレを見てて、……。あっ、これ、かなり我慢がいるやつだ。
「ではお邪魔しまーす」
 なんて言いながら、蒼生の上に半分覆い被さるように寝転がる。
「重い」
 すぐに抗議が来たけど、その声はくすくすと笑ってた。んー。小刻みに動くのがくすぐったい。あったかい。かわいい。どうしよう、好きだ。
 下敷きになってないほうの手が伸びてきて、オレの背中に乗っかった。指先が服を手繰り寄せる感じがして、ぞくぞくっとしたのが腰から上ってくる。
「……はー。健ちゃん、好き……」
「! え、オレ、声に出てた?」
「うん? 声?」
「あ、いや。ちょうどオレも今、蒼生のことすっごく好きだなって思ってたとこだったから、聞こえちゃったのかなって思った」
「ふ、ふふ、一緒に思ってたんだね」
「だね」
 あー、好き。
 昔から蒼生の体温が好きだった。家族や友達とも気軽にハグしてたけど、蒼生に抱きつく時だけ、呼び起こされるように胃の辺りからじんわりあったかいのが湧き上がってくるような気がしてた。蒼生は優しくてあったかいから、それが伝わってくるんだろうなって思ってたけど、きっとあれはオレと蒼生が好き合ってたからなんだろうな。
 蒼生はオレの肩に擦り寄ってくる。へへ。
「そういえば、今日見に行くツリーってどんなの?」
 あれ、言ってなかったっけ。
「行こうと思ってるとこのは、今年はね、リボンのツリーだって」
「リボン? 毎年変わるんだ」
「うん。色々やってるらしいよ。で、今年はいろんな地域のリボンで飾られたツリーがいっぱいあるんだって。ちょっとテーマがかわいらしすぎちゃうかなと思ったんだけど、珍しいのが見られるならいいかなって思ってさ」
 うんうんと蒼生が頷く。だよな、珍しいの好きだもんな。あ、そういえば、サイトに画像が載ってたっけ。オレは携帯を取りだした。
「どういうのがあるか、写真見てみる?」
「え、ううん、やめとく。いきなり実物見たほうが面白そうだし」
「なるほど、そりゃそうだな」
 出した携帯を引っ込め……ようとした手を、蒼生の手が止めた。あー、せっかく背中に乗っかってた温かい手が。
「……前から思ってたけど、健ちゃんの携帯の画面ってシンプルだよね」
 んー。まあな。必要なのがちょこっと乗っかってるだけだから、大学の友達にはよく殺風景だって言われてる。
「蒼生だってほぼなんにもないじゃん」
「まあ、僕は必要最低限しか使わないし……。でも、ほら、健ちゃんってゲーム好きでしょ。大学の周りの人、みんな画面いっぱいにアイコンがぎっしり詰め込まれてて。何かと思ったら、遊んでるゲームなんだって」
 へー……蒼生と携帯の画面見せあう奴がいんのか。いや、当然いるだろうけど、なんだろ。なんかむずむずする。
「……オレはあんまり携帯のゲームとかやんないよ」
「だよね。なんで?」
「だって、ハマったら通学時間や休み時間じゃ足りなくなるんだろ? そんなに時間取られるのもったいないじゃん。家にいる時はずーっと蒼生のこと見てたいし。そもそも、蒼生のこと考えてて頭いっぱいだから、そんな暇ないもん」
「ひぇ」
 オレは上半身を起こして、両手で蒼生の頬を包む。すべすべ。前髪をかきあげておでこを出させてみたり。綺麗な鼻筋をなぞってみたり。ひんやりした耳たぶをつまんでみたり。困ったような照れたような形になってる眉毛を撫でてみたり。柔らかい唇をそっとつついてみたり。
 蒼生は黙って全部させてくれる。他の人には絶対させない。オレと冬矢だけの特権。
 もじもじしてた両手が、オレの首に回ってきた。引き寄せられるままに、抱き締める。んー、今日はやけに甘えてくるなあ。
「どした? あ、もしかして、冬矢が出かけちゃったから寂しい?」
 ぴく、と肩が跳ねる。それから、抱きついてくる腕の力がぎゅっと強くなる。
「健ちゃんに嘘ついてもしょうがないからはっきり言うと、寂しいのは寂しいよ。でも、そうじゃなくって。……これからデートだって思うと嬉しくなっちゃって、さっきからテンションが上がりっぱなしなんだ。これでもなんとか抑えてるつもりなんだけど……」
 オレの腕の中から、くぐもった声。え、そ、そんなこと考えてたの? もしかして、起きてすぐに着替える蒼生がずっとパジャマだったのも、オレとこうしたかったからなの? かっ……。
「可愛いぃ……」
「ん、きつぃ……」
 首の後ろをぱたぱたと叩かれる。うー、ちょっと待って、もうちょっと、もうちょっとだけ!

 プレゼントっていつ渡すのが普通なんだろうな? 早いかなーと思ったけど、今日着てほしかったから、先に渡すことにした。そのベージュのコートを着た蒼生は、……可愛い。綺麗。素敵。上品。美人。めちゃくちゃ似合う。うん、店先で見かけた時、絶対蒼生に似合うってピンと来たんだ。しかも、オレからもらったっていうのが嬉しいらしくて、割増で上機嫌なのがすっげぇ可愛い。
 駅で待ち合わせした冬矢も、蒼生の姿を見るなり目を細めた。
「似合うね」
「健ちゃんがプレゼントしてくれたんだ」
「うん、可愛いよ」
 そうだろうとも。可愛いだろー。ずーっと蒼生のこと見てて、こんな服が似合うだろうな、あんなコーディネートさせてみたいなって思ってたんだから。今はそれを堂々と行動に移せるんだもん、恋人同士っていいな~。
 そうして無事合流したオレたちは、程よく暗くなってきた街を、駅に背を向けるようにして歩く。歩道は広くて、ほとんどの人が同じ方向に歩いてるから、3人で並んでても大丈夫そうだった。それにしても……ある程度は予想してたけど、すごい人数が集まってるなあ。きっとみんな目的も一緒なんだろう。しかも、見渡す限りカップルばっかりなのがすげぇ。だって、ここにいるこの人たち、全員がお互いのこと好きなんだぜ。もちろん、その中にいるオレたちもそうなんだなって思うと、なんかじーんとする。
 こんなに人がたくさんいて歩きづらくないかな、と思って隣を見ると、気が付いた蒼生がにこっと笑う。それからそっと肩を寄せてきた。うわ。結構寒いなって思ってたんだけど、そんなのすっ飛んでいっちゃうくらい可愛い……。
 もういっそ、くっついたままずっと歩いていきたいなと思ってるうちに、目指してたとこに着いちゃった。その道路は車両通行止めにされてるらしい。警備の人が道路の近くでライトを振ってたから、きっとここを曲がるんだな。なるほど、こっちからあっちに向かって、歩行者も車みたいに一方通行になってるってことなのか。そりゃごちゃごちゃしなくていいな。
「わあ」
 曲がるなり、蒼生が声を上げた。
 ……おお。たしかに、すごい。小さな電球がたっくさん付いた門が、遠くのほうまでいくつも続いてる。門の上側には赤とか青とかいろんな色のライトがぴかぴか光って、本当の門を飾る宝石みたいだ。その真ん中にあるのは、これは光ってない普通の緑のリースだな。そこに真っ白い、周りよりひとまわり大きな電球が巻き付いてる。で、門と門はさらに光の線で繋がれてて、なんだかトンネルっぽい。見上げながら歩くと、真っ黒な空が光の線で分割されてるみたい。ところどころ大きなライトが点いてて、そこだけやたら明るい。んー、全体的にかなり眩しい感じだ。
 蒼生はそのひとつひとつを、きらきらする目で見上げてた。瞳に映るあったかい色の光は、反射してるからだってもちろんわかってる。だけど、蒼生自身の輝きに思えてしょうがない。今見える世界の中で、一番輝いて見えるのは、蒼生だ。
「すごいね。綺麗だ」
 声の響きがすごく嬉しそうで、可愛い。ここに蒼生を連れてきたがってた冬矢も、そんな蒼生を嬉しそうに見てる。たぶん、これは蒼生のほうが綺麗だと思ってる顔だな。オレと同じで、あまりにも雑踏の中すぎて口に出来てないけど。
 んー。蒼生が冬矢を見てるのがなんか悔しいぞ。他にないかな、蒼生が喜びそうな物は。……お。
「見て、蒼生。道路の両脇にいろんな動物がいる」
 耳元で伝えると、オレの指の先を追った視線が、電球の塊みたいなウサギを見つけたみたいだ。人通りが多いことを見越して、たぶん台座かなんかに乗せられてるんだろうな、人の頭の向こうに長い耳が見える。体は……半分くらいしか見えないけど。
「ほんとだ。ウサギとか猫とか……あっちはなんだろ、キツネ?」
「っぽいけど、なんだろうな?」
 なんせ全部ちっちゃいライトで覆われてるから、顔とか色とかで判別付かないんだよな。
「犬にも見えるね」
 冬矢までそんなことを言い出すから、ますます正体がわからない。なんかそれだけのことなのに、クイズみたいでものすごく面白い。なんだあれ、熊?
 ……って、危ない危ない。動物探しに夢中になってて、行きたいビルを通り過ぎるとこだった。一方通行なんだから、行き過ぎたらまた大回りしなきゃいけないとこだ。
「蒼生。あのビルだよ。ツリーがあるの」
「あれがそう? すごい、ガラス全面にリボンがかかってるみたいだね」
 見上げると、ホントだ。ピンクの大きなリボンが、ビルをプレゼントにするように巻かれてる。もちろん本物じゃない、シールかなんか貼ってあるのかな。そこに書かれた文字はイベントの名前なんだろうけど、そこをゆっくり見るのは大変そうだ。人の波に逆らうことになるからさ。だから、オレたちは邪魔になんないように、少しずつそこに近付いていった。
 このあたりで一番目玉のツリーって、この道路を一番奥に行ったとこにある。きっと、みんなそっちを見に行くんだと思う。だからなのか、入ったビルにはそこそこ人がいるみたいだけど、ものすっごく混んでるわけじゃなかった。入口を抜けると、いきなり吹き抜けのホールになってて、目の前には大きいツリーがある。地元で一番大きかったやつとおんなじくらいあるのに、これでもまだこのあたりじゃ小さい方なんだって。
「へえ……すっごく綺麗だね」
 蒼生は眩しそうにそう呟くと、足早にツリーに近付いてく。オレたちもそのあとを追った。その大きな木に電球はついてなくて、周りからのスポットライトでぼんやりと照らされてるだけで、少し薄暗い感じがした。それがなんか大人っぽい雰囲気を演出してるってことなのかな。緑の葉っぱでふさふさして見える木にはよく映える赤い幅広のリボンがたくさん巻かれてて、やっぱり赤くてつやつやしたボールみたいな飾りがいっぱい。あと、雪の結晶が金色の針金みたいので作られてて、それも数え切れないくらいたくさんある。蒼生はそれもきょろきょろ見てたけど、一番気になってたのはリボンらしい。ツリーを囲む柵から身を乗り出すようにして眺めてる。
「金色の模様がすごく細かくて綺麗。ほら、見て。結晶の模様があるの。これ、印刷? じゃ、ないか、刺繍かな……」
 どれどれ。お、なるほど。飾られてる結晶と同じ形がリボンの中に規則的に並んでる。蒼生に言われなきゃ気付かなかったな。遠目に見ると可愛らしい感じだけど、近くで見るとずいぶん繊細だなぁ。
「周りにも小さいツリーがあるよ」
 会場内を見渡してた冬矢が言った。小さい? 蒼生とふたりで視線を巡らせる。あ。壁際にもぽつんぽつんと並んでるんだ。
「それぞれ種類が違うみたいだね」
「え、マジか」
「行ってみよう」
 そういや、いろんな種類のリボンがーっていうのがここの特徴だったっけ。ってか、小さいツリーっていってもオレよりデカいから、迫力はあるな。
 まず向かった端っこのツリーには、銀色のテープみたいなリボン。次のやつは、複雑な色が混じり合ってる。それから、緑地に白で雪だるまが描いてあるのとか。ピンクのふわふわしたやつに、黒いやつ。畳の端っこみたいな柄のもあった。え、まだたくさんあるじゃん。これ、全部違うの? すっげ、いくつあるんだ?
 次のは……。あ、これはメインのツリーに巻かれてるのと同じ柄で、幅だけ狭いリボンだ。
「わー、これ、刺繍だ。ってことは、あっちのツリーのリボンも刺繍ってこと? すごい」
 蒼生、楽しそうだな。へへ。かーわいい。綺麗なのとか細かいのとか好きだもんね。いっぱいあるツリーのリボンをひとつひとつ食い入るように見てる。ツリーの近くにはそれぞれパネルがあって、どこどこの国の伝統的な模様で、とかなんとか説明文が書いてある。オレなんかは「へー」で終わりだけど、蒼生には全部が価値のある情報らしい。
 目を輝かせてる横顔が、いつもより幼く見える。いや、ちょっと珍しそうだな~とか思って軽い気持ちで選んだけど、ここにしてよかった。蒼生が喜んでくれるの、ホントに嬉しい。
 順番に見てくと、奥の方は仮設の店になってた。移動式のワゴンに乗っかって、クリスマスの飾りがいっぱい売ってる。えーと、これはオーナメントコーナー……。あ、オーナメントって飾りのことなのか。へー。セットとかバラ売りで、ボールとか杖みたいのとか家とかサンタとか、いろんなのがある。他にも、水晶玉みたいなのの中に水が入って雪が降ってるように見えるのとか、お、これはオルゴールか。豆電球が繋がった光るやつなんかもあるな。うーん、種類が多いし名前が複雑でよくわかんねえや。とりあえず、小さい子が好きそうな、原色ぴかぴかのオモチャとかはないんだな。ツリーもそうだけど、完全に大人向けなんだなあ。
 そこでもやっぱり蒼生はリボンが気になるみたいだ。刺繍が細かいやつとか、つるつるの素材のやつとか、さっきのツリーにあったやつとか、手に取ってはうーんと悩んで棚に戻す、を何度も繰り返す。
「そんなに気になるなら、少し買っていく?」
「綺麗だけど……。使い道がないものを買うのは勿体ないし」
 難しい顔でリボンを見つめながら、そんなことを言う。なるほど。……んー。使い道……。そうだなぁ……。なにか、人に贈り物でもする時? でもそれにしちゃ幅があるから、結びづらいかもしれない。言われてみりゃ、何に使うんだ、これ。
 蒼生の手元を見て考えてたふうの冬矢が、「あ」と声を上げた。
「お。なんか使い道思い浮かんだか?」
「うん。蒼生、これを布に付けて、俺にブックカバーを作ってくれないか」
「……ブックカバー?」
「そう。例えばこれだと、薄いグリーンがいいかな。無地の布にリボンをこう1本付けるだけで、華やかなブックカバーが出来そうだろ」
 へえ。いいこと言うなぁ。それならいつでも持ち歩けるし、普通のブックカバーよりかっこいいじゃん。本が好きな蒼生にもぴったりだし。
 蒼生もぱっと顔を輝かせる。
「いいね。じゃあ、作ってみる」
 えっ、冬矢にだけはズルい!
「オレも欲しい!」
「ふ。それなら健太も進んで本を読むようになるんじゃないか?」
「お、おお……」
「あははっ。そうだね。ちょっとお揃いみたいなの、作ってみようかな」
 いくつかのリボンを手に取った蒼生は、なんだかほっとしたような顔をしてた。

 夜ご飯はこのビルの吹き抜けに面したレストランです! って言ったら、どーんと大きな肉の塊が写ったその店のパネルを見た冬矢が、若干不満げな顔をした。いや、まあ、言いたいことはわかる。こういう時、洒落た店でフルコースとか蒼生に振る舞いたいタイプもんな。
「健ちゃんらしいチョイスだよね」
 って蒼生がにこにこしてたから、その顔は一切蒼生には見せずに「そうだな」とかなんとか言って笑ってたけど、オレに向ける視線はずいぶんひんやりしてた。でも、それも、吹き抜けの窓側の席に案内されて下を覗き込んだ蒼生が、
「見て見て、健ちゃん、冬矢! すごいよ! 席から下のツリーが見える!」
 控えめだけどはしゃいだ可愛い声で目を輝かせたので、全部解決したらしい。ほんっと、こいつ、蒼生のこと大好きだよな。もちろんオレもだけど。
 それにしても、店は混んでて、順番待ちの行列がすごいことになってた。予約しておいてよかったなー。蒼生はパスタが美味しいってすっごく喜んでたし、文句ありそうだった冬矢も海鮮の焼き物を気に入ってたみたいだし。んー、組んだプランが予定通りなうえ同行者にびったり合って、しかも喜んでもらえるって最高だよな。
 帰りの電車は、早い時間だからかまだ空いてた。オレたちの間に座った蒼生が、嬉しそうに小声でイルミネーションやツリーの感想を話すのを、オレはすごくあったかい気持ちで聞いてた。
 ……でも、ちょっと電車乗ってる時間が長くなると……。
「なあ、やっぱ、ケーキ買って帰らねえ?」
 ふたりがきょとんとオレを見る。
「あれだけ食べたあとだろう」
「そうなんだけどさー」
 最初はイブに買って食べようねって話だったのを、夕飯の時にデザートでケーキが出るからいいかってなんとなくそんな流れになってた。食べた後にさらにケーキじゃ重いよねって。確かに、蒼生と冬矢の食べる量から考えると、当然そうなるだろうと思ってた。だけど、なんかやっぱ物足りない。
「せっかくだし、やっぱ、大きなケーキを切ってこそのクリスマスじゃね?」
「うーん……。まあ、雰囲気は出るよね」
「そうだな、残っても明日食べるという選択肢があるわけだから、それもいいかもしれないな」
「だろ! じゃ、駅前のケーキ屋寄ってこ!」
「残ってるかなあ」
 ふたりはオレの提案に、あんまり悩まずに頷いてくれた。やった。
 これでもオレは、昔、甘いものが少し苦手だったんだ。どっちかっつうと辛党でさ。だけど、蒼生と一緒にいろんな甘いもの食べに行くうちに平気になってって、今じゃデザートがないとなんとなく落ち着かない。ひとりで食べる時はそんなことはないんだけどなあ。
 駅から出ると、すぐにロータリーに面したケーキ屋が見える。2階が喫茶店になってて食べて帰ることも出来るらしいんだけど、一度も上ったことがない。だってここまで来たら、早く家に帰りたいじゃん。蒼生が食べて帰りたいって言ったら別だけどさ。……おっ、結構お客さん入ってる。そりゃクリスマスだ、同じこと考える人は多いよな。
 と、その時、蒼生の電話が鳴った。……えー。イブだよ? イブの夜に電話かけてくるとか、誰だよ。蒼生は画面に目を落とし、首を傾げる。覗き込むと、蒼生のバイト先からじゃん。え、蒼生は予約済みなんですけど!
「ごめんね、先にお店入ってて」
 申し訳なさそうに言って、蒼生はもしもし、と電話に出た。その電話の向こうの相手に向けて、「蒼生は忙しいです蒼生はオレたちと一緒に過ごすんです邪魔しないでください」と念を飛ばしながら、しょうがなく冬矢とふたりで店に入る。こいつとふたりでケーキ屋に? うーむ。非常に心外だ。
「いらっしゃいませー」
 店員のおねえさんがにっこり笑う。どうも、と会釈してオレたちはショーケースを覗き込んだ。そこには、たくさんのケーキが並んでる。
「よかった、まだあるじゃん」
「そうだな」
 1個もありませんでした、っていうのも想定してたくらいだから、これだけ種類があるのはちょっと意外だったな。これは、蒼生、悩んじゃうぞ。ド定番のショートケーキもあるけど、他にもクリスマスっぽい飾り付けのケーキがいろいろある。ド定番も悪くないんだけどさ、蒼生ってイチゴは好きだけど、生クリームに得意不得意があるんだよな。だから外れを引く可能性があるショートケーキはわりと普段から避けがちだ。それに、さっきのデザートがそれっぽいやつだったから、他のにしたほうがいいと思う。
「どれにしようか。……わ、すっげぇ、でっかくて四角いケーキだ」
「おまえの胃袋基準で考えるなよ」
「いや、さすがにオレもここまででかいのは入んねえよ。どう考えても大勢でパーティとかする奴向けだろ」
「見た目も綺麗だし、クリームよりフルーツがたくさん入っているから、味自体は蒼生も好きだろうけど」
「あー……。だったらこっちの小ぶりのやつのほうが好きそうだな」
 そうだよな、小さめの。でも綺麗なやつがいいな。どれがいいかな。どれが好きかな。
「こっちはどうだ?」
「これも美味しそうだよなあ」
「蒼生はこういうのも好きだろ」
「あっちも好きだよ」
 そうやって話を進めてくうちに、なんとなく絞れてきた。冬矢の推薦する爽やかでさっぱり美味しそうなレモンパイと、オレが気になる細長いのやカラフルなチョコで飾られた丸太型のチョコレートケーキと。どっちかにするかってとこまでまとまったタイミングで、蒼生が店に飛び込んでくる。
「ごめん、お待たせ!」
「おー。何だって?」
「あ、年明けのシフトで調整しなきゃいけないところがあったみたい。1日少なくなっちゃった。……って、それより、まだ買ってない? 間に合った?」
 ん? 間に合うって……。
 冬矢が笑う。
「慌てなくても、蒼生の好きなものを選ぶから大丈夫だよ」
「だから、それだよ!」
 それ? じぃっと蒼生がオレたちの顔を拗ねたような可愛い表情で見る。
「ふたりが選ぶと、僕が好きなものになっちゃうでしょ。僕のことばっかりじゃなくて、ふたりが好きなのにしようよ。ほら、いっぱいあるじゃん。健ちゃん、冬矢、なにが一番好き?」
 そんなん、決まってる。
「蒼生の笑顔」
 あ。オレと冬矢の声がぴったり揃った。
 一瞬固まった蒼生が、ぱっと頬を赤くする。で、それを隠すためかな、両手で顔を覆った。可愛い。
「えっ……えぇ……」
「つまり、そういうことだよ」
「そういう、って……」
 うん、だから、そういうこと。
「な、蒼生。このレモンパイとチョコケーキどっちにしようか迷ってるんだ。どっちにする?」
 蒼生は指の隙間からオレたちが指差すケーキを見比べる。両方クリスマス仕様で可愛らしいから、蒼生には選びづらいかな。
 やっぱり蒼生はちょっと困ったようにして、それから小さく言った。
「……どっちも」
 !
「どっちもか! よし、両方買お!」
「そうだね。すみません、注文よろしいですか」
 そうかそうか~。どっちもか~。
 へへへ。
 明るい街灯の下。目の前には、楽しそうに話をしながら歩くふたりの姿がある。それを見ながらずっしりした袋を持ってると、嬉しさがどんどん増えてくる気がする。2個だもん、そりゃ重くもなるよな。ついでにレジ横にあったクッキーも買っちゃったしな!
 ふーっと息を吐きながら空を見上げる。暗い空に、明るい星がいくつも光ってる。このへんだと、地元と同じくらい星が見えるんだよな。……へへ、なんか、今日、ずっと嬉しい。いや違うな。今日も、だ。オレのそばで蒼生が笑っててくれるのが嬉しい。
 …………っあ。
 空に線…………っ流れ星!
「蒼生蒼生蒼生っ!!」
「えっ? あ、はいっ……え?」
 蒼生がびっくりしたみたいに振り向く。冬矢も不審げな視線を寄越す。あー、だよな、急に名前を早口で何回も呼んだら、突然どうしたんだって思われて当然だ。
「あっははは。ごめんごめん、流れ星が見えてさぁ。ほら、3回願いをかけたら叶うんだろ」
 ……って、ふたりはなんか顔を見合わせてる。冬矢が肩をすくめた。
「さて、どうだかな」
「なんだよ、夢のない奴だな。オレだってそのくらいわかってるよ。迷信だってわかってたって、ついやりたくなるじゃん」
 蒼生はふわっと表情を和らげる。
「僕は、それだけ短い時間に3回思い浮かべられるほど強い願いなら、もともと叶えたい気持ちが強い願いだから、実現する確率が高いんじゃないかって思う」
 へえ、蒼生はそういうふうに考えてたんだ。冬矢も蒼生に向かって笑いかける。
「蒼生らしいね。俺も荒唐無稽な考え方ではないと思っていたよ。言葉にすると、叶えたい願いが具体的になるから、目標が定めやすくなるというのもあるんじゃないかな」
 ちゃんとそういうのも真面目に考えてんだな。ふたりともすげえや。
「なるほどなあ。ふたりの話聞いてると納得出来るわ。オレなんか中学入る頃まで、マジで誰かがお願い聞いてくれるんだと思ってたからさあ」
 すると、蒼生がオレの隣に来た。それから、そっと肩で触れてくる。あったかい。
「でもね、僕、健ちゃんのそういうロマンチックな考え方も大好き。それで叶ったら素敵だもん。……ただ、さっきのは短すぎて何の願い事にもなってない気がするよ」
「んー。瞬間的に、何かお願いしなきゃと思ったら、蒼生のことしか浮かばなかったんだよな」
「おまえの頭の中には蒼生のことしかないもんな」
「まあな」
 えっ、と蒼生が小さく声を上げる。
「とすれば、さっきのおまえの願い事では何が叶うんだろうな」
「そうだなー、蒼生が今夜、えっちなお願い聞いてくれるって願いかな」
 あ、蒼生がそのまんまのかっこで固まってる。
「……こっ、この流れは……僕が叶えるパターンでは……」
 へへ。他に誰がいるのかな?
 ぽんっと蒼生の肩を叩くと、冬矢も同じように蒼生の腰を軽く叩いた。オレたちの顔を見て、少し困った顔をする蒼生。その歩く速さが少し早くなったから、たぶん、外でどういう顔をしていいか困ってたってことなんだろうな。あー、可愛い。

 結局、2つのケーキをいっぺんに食べるのはやめて、半分は明日の楽しみに取っておくことにした。皿の上に並ぶ2種類のケーキを、蒼生はすっごく嬉しそうに眺めて、にっこにこしながら美味しそうに食べてた。うん、どっちも美味しかったもんな。レモンは酸っぱいのかなと思ってたけど結構甘くて、底がチーズケーキみたいになってたのが嬉しかったみたい。チョコレートも中のチョコクリームに入ってたナッツをすごく気に入ったようだった。ふんにゃりした顔が、もー、可愛いのなんのって。今すぐ蒼生のこと食べちゃおうか!? ってつい口から出そうになった。……まあ、これからきちんといただいちゃうんですけどね。
 冬矢がベッドメイクをしている間、オレは洗い物を片付ける。勿体ないけど、すすぎにはお湯を使ってる。だって、蒼生に触れた時に冷たかったら可哀想だからさ。首筋とかに冷たい手で触ってびくびくさせちゃうのも可愛いんだけど、体に触れて寒い思いはさせたくないもんな。
 ちょうど使った食器を全部洗い終わったところで、蒼生がリビングに戻ってきた。
「おまたせ~」
「おかえり~」
 わ。パジャマ姿の蒼生、可愛い。何回見ても新鮮に可愛い。思わず抱き締めると、風呂上がりのほかほかと石鹸の香りが蒼生の可愛さと一緒に飛び込んで来て、もう頭の処理能力が限界を超える。つい勢いでそのまま抱き上げても、蒼生はぎゅーっとオレの首に巻き付いたまま腕を放さないんだよな~。それどころか肩に頬を擦り付けてきてて。これ……あの……こんな可愛くて大丈夫?
 寝室に入ると、綺麗に整えられたシーツの上で、冬矢が笑って蒼生に手を伸ばす。顔を上げた蒼生がそっちに手を伸ばすから、オレは蒼生の体をゆっくりベッドに乗せた。蒼生の片手は冬矢に向かう、でももう片っぽの手がオレから離れない。もうヤバい。蒼生のスリッパを弾き飛ばす勢いで脱がせる。あー、好き。大好き。ずっと我慢してた、ずっとキスしたかった。蒼生。
「ふ、ふふ」
 かわるがわる、ふたりがかりでキスを繰り返すと、蒼生が笑う。だからつられて、オレたちも笑う。だって、全員が全員、待ちきれなかったみたいなキスをするんだもん。そりゃ、人前で出来なかったぶん、欲しくなっちゃうよな。
 はー。蒼生の舌が応えてくれる。嬉しい、蒼生。
 冬矢の手が、先を急ぐように蒼生のパジャマのボタンにかかる。オレはそっとズボンに手を伸ばした。
 ん? ちょっと蒼生がぴくんとした。わずかな抵抗感。それはすぐに消えたけど。きっと、冬矢が袖から腕を抜こうとするところだったから、そっちが早くて優先されちゃったのかな? って。思ってたんだけど。
 するっと、ズボンを脱がせた、そこから覗いたのは、……え?
 オレの視線に気付いたのか、蒼生が真っ赤な顔を両手で覆う。冬矢も驚いたように蒼生を見る。
 だって、びっくりもするだろ。え、いや、びっくりっていうか、……かっ、可愛い。ちょっと厚めの布で、めちゃくちゃ可愛い、面積の少ない、水色のぱんつ。その、腰のところで、両側に紐がぽってりとリボン結びになっ…………。え、えぇ? え? 夢? これ夢?
「か……可愛い……っ」
 もう、それしか言葉が出てこない。可愛い紐つきのぱんつ1枚の蒼生が、目の前に横たわってんの。え? え?
 ちら、と蒼生の目がオレを見る。
「……あ、の、……その、ずっと前、リボンの話したでしょ……。全身は無理だけど、このくらいなら、と、思って……」
 えっ。
 それ……誕生日の時の話? オレが、すっぽんぽんにリボン巻いて、自分がプレゼント~ってやって欲しいって言ったから? う、嘘だろ、こんな愛おしいことってある? たった一言の、冗談みたいな言葉を、ずっと覚えてて?
「ひっ、……引くよね、やっぱり……」
「引くわけあるか! こ、こんな、あー、もー……言葉になんねえ……。大好きが溢れて溺れそうだわ」
 わずかに、蒼生がほっとしたように息を吐く。めちゃくちゃ緊張して恥ずかしがっちゃうくせに、オレのためにこんな格好してくれたんだ。
 もー、どうしよう。目の前の全部が愛しい。一番近くにあった可愛い乳首をそっと擦る。ふわふわ。
「っあ!」
 びくっと蒼生が震える。今ここに手が伸びると思ってなかったんだろうな。
 顔を覆った手を左手で外せば、蒼生と目が合う。そのままきゅっと硬くなってくる乳首を撫で続けると、蒼生は可愛らしく身をよじった。
「ねえ、こんな可愛いぱんつ、どこで買ったの」
 指で挟んで、捏ねる。
「んっ……ぅ、お店だと恥ずかしいっ、から、つ、通販で」
 その反応がたまんなかったんだろう、冬矢が首を伸ばして、蒼生の反対の乳首に口づける。
「ふぁっ」
「えー、いつの間に頼んでたの?」
「ず、ずいぶん、っん、あ、前ぇ……」
 じゃあ、オレがあの話をしてから、すぐだったのかな。
「……は、あ、ぁの、いつかやろうと思ったんだけど、っあぅ……。勇気がなくて……っ」
「でも今日は穿いてくれたんだ」
「だ、だって、健ちゃんがリボンの話、ぅ、するから……。今日しかない、って、思っ……あ、あぁっ……」
 なんてこった。オレは、自ら幸運を呼び込んだってことか! オレの選択はひとつも間違ってなかったんだな! もちろん、それを叶えてくれたのは、全部蒼生だけど。
「綺麗な色だね。とても似合ってる」
 舌先で乳首を転がしながら、冬矢が笑う。蒼生は首を仰のかせる。
「あっ、ん……、なに、いろ、か、迷った、んだけ、ど」
 オレも舐めたい。
「ひぁっ! ……っ、健ちゃんの好きな色っ、と、冬矢の好きっ、ぁ、なの、ちが、……っからぁ」
 ああ、それで困った挙げ句、自分の色と自覚してる色を選んだの? 可愛い!
「やっ……ふたり、とも、そこばっか、ぁ」
 だって、もう目に入っちゃってるんだ。そのわずかな布を健気に持ち上げる塊が、キュートな水色を濃い色に変えてきてるのを。
「オレたちの好きな色で迷う蒼生、可愛い……」
 ちょっと噛んでみると、蒼生の体がびくっと跳ねた。
「だっ……て、ふたりとも、好き、だも、んっ……。まさか下着の色で、迷う日が、来るなんて……っあ、ねぇ、あ、」
 冬矢はすっかり色づいた乳首を弾きながら、何度も何度もそこにキスをする。
「……もしかして、蒼生。ずっとこれ、穿いてた?」
 えっ。
 おまえ何言って……え?
 蒼生は真っ赤な顔で唇を噛みながら、こくこくと頷く。
「きょ、ぉ、デートっ、ずっと、穿いっ……て、ぇ」
「! ずっと!? あー、途中で見せてもらえば良かった!」
 綺麗な蒼生の足が、片方、悶えるように宙に浮かぶ。
「あっ、ああっ、んっ、ぁ!」
 じゃあ、流れ星見た時点で、オレのお願い、既に叶ってたってことじゃん! マジで途中で見せてもらえば良かった。堂々と公道で……だと怒られるから、こっそり、トイレの隙とかにでも覗けば良かった!
 なんか、蒼生がずーっとこれを履いてオレたちとデートしてたかと思うと、すっげぇこみ上げてくるもんがある。それが自分じゃどうにもできなくて、とにかく赤く尖った乳首を口の中で転がして、吸った。蒼生の早い鼓動が舌先から伝わってきそうだ。甘くて美味しくて、愛しい。
「っん! あ、あぁっ!」
 びく、びくって、オレたちの下で蒼生が体を震わせた。
 ……あれ。
 蒼生?
 足を突っ張らせてたはずの蒼生は、体から力を抜いて、息を荒くしてた。
「……びっくり、した」
 ちょっと間を開けて、呆然と蒼生が呟く。オレはかすかに震えるぱんつの布を、そっと持ち上げて覗き込む。白く糸を引くその中身に、……やっば。マジで? はあ、めちゃくちゃ興奮する。
「蒼生、乳首だけでイッちゃったの?」
「う……。えっと……そ、そうみたい。えぇー……」
「ふふ。気持ちよかったんだね?」
「ん、……うん」
 どんな顔をしていいか困ったように、蒼生はオレたちを見る。戸惑ってるの? ああ大変だ、国宝レベルに可愛い。
「な。蒼生って、ここだけでイッたことってあるっけ」
「ないと思う……。というか、ふたりが知らなきゃ、ないってことでしょ」
「そりゃそうか。じゃ、初めてだ」
「はっ、初めて……」
 ……おお。ちょっと恥ずかしそうな表情。これは緊急事態だ。今すぐ蒼生のナカに挿入りたい。蒼生の温度をもっと感じたい。
 けど、オレが飛び付くより早く、蒼生がオレに向かって手を差し伸べた。蒼生に呼ばれちゃ、そりゃ、何を差し置いても側に行くだろ。なに、と聞くよりも早く、近付いたオレの首に蒼生がぎゅっと巻き付いてきた。
「っ、あ、どした?」
「あの……照れ隠し……」
「うわ」
 わー……。
 かっわ……。
 頭を撫でると、はあっと甘い吐息が聞こえる。それから、頬に柔らかい感触。蒼生の唇だ。……あ、キスか。蒼生もキスしてほしいんだ。顔をずらせば、とろんとした蒼生の目がまっすぐにオレを見てる。わずかに開かれた唇に舌を差し入れると、ちうちうと吸ってくる。あー。
「っんぅ……っ」
 喉の奥で蒼生が言葉にならない声を上げる。見てないけど、冬矢が蒼生のナカを探ってるんだろう。ああ、先を越された。
 だけど、悔しいとかは思わない。だって今、蒼生に潤んだ目でキスをせがまれてるのはオレだから。
 抱き合ってキスしてる、それだけで気持ちいい。
 泣きそうになるくらい嬉しい。
「蒼生」
 切羽詰まった声の冬矢が、オレの背中にある蒼生の手を奪った。指を絡ませて、体全体で寄り添う。
「挿入れていい、ね? 今日はちゃんと自分で準備してきてくれたんだ」
「あ、ふ、……だ、大好きなふたりのっ……早く、ほしかった、っ、からぁ……」
 最近はオレたちにさせてくれるんだけどな。あ、そっか、蒼生も待ちきれなかったんだ。ずっと待っててくれたんだ。オレと一緒の気持ちだったんだね。
 冬矢がふっと笑う。
「うん。上手だね。いい子……」
「ん……」
 冬矢のキスを蒼生が受ける。その仰のく首が可愛くて、無防備なうなじにキスをする。そしたら、蒼生はもっと嬉しそうに笑った。
 ごそごそやってた冬矢が、ぐいっと腰を動かす。
「っあ」
 柔らかな吐息が漏れる。
「あ、はっ……あ、ん、ん、ぁ」
 可愛い。気持ちよさそうな顔。首に回ってた蒼生の手が、オレの腕に降りてきた。それからぱたぱたと指が動く。うん。手、繋ぎたいんだな。
 ぎゅっとオレの手を掴んだ蒼生は、安心したように体を大きくしならせる。
「蒼生……蒼生、好きだよ……」
「はぅ、う、っあ、ぼ、くもっ、……すきぃ、あぁ……っ、と、おやぁ……」
 自分じゃない動きに身を任せる蒼生は、なまめかしくて、でもやっぱり可愛い。
 ……あ。冬矢め、ぱんつ穿かせたまま挿入れてんのか。まあたしかに、こんな可愛いの脱がせたら勿体ない気がするのはオレも同じだ。
 んで、その冬矢の動きに合わせて、青くなった布がふるふると震えてる。……美味しそうだな。体を起こしてそっちに顔を近付ける。蒼生はオレの手を離してくれない。離したくないのが伝わってくる。だから繋いだまま、片手でその布をそっとどかしてやった。ぷるん、と、跳ねるようにピンクのちんこが顔を出す。うわ、玉が布地の中に残ったまま揺れてんの、めっちゃくちゃいじらしくて可愛いじゃん。
「ん、ぐ……んっ」
 冬矢に塞がれてる口から、可愛い悲鳴が聞こえる。口いっぱいに頬張ると、蒼生が身をよじる。あー、さっき出したのでどろどろだから、すっごく味が濃い。へへ、なんか得した気分。
 はあ……。蒼生の匂いで頭がいっぱいになる。布越しにやわやわと丸いのを揉むと、さらに口の中でどくんどくんと脈を打つ。その熱さが直接オレの中に火を移してくるみたいだ。
「あっ、あ、きも、ちぃ……、健ちゃ……っ、あ、うぁ……っふ、ぅ」
「はぁ……かわい……。きもちい?」
「ん、うんっ、うんっ、あ、ぁ、うーっ……」
 ぎゅーっと手が引っ張られる。
 ああ、うん。
 たぶん、もうすぐだ。
 全部がびくびくしてるもん。
「ん。蒼生ぃ、ちょうだい」
「っあ、やぁっ、きちゃ……っ、あ、んぅぅっんーっ!」
 強い力で蒼生が手を掴んで。
 それから、オレの口の中に全部出してくれた。
 熱くて、愛しい、蒼生の。
「は、はぁ、あ、は……っ」
 オレはまた体を起こすと、気持ちよさそうに息を吐く蒼生を見下ろす。
 ぱち、と開いた目が、照れたように細くなる。
 可愛い。
 冬矢がそっと体を引くと、「ひぅっ」と小さな声。
 あー……さすがに限界。
「ねえ、蒼生。ほどいてもいい?」
「……ぇ?」
 ぽーっとしてて一瞬わからなかったみたいだけど、蒼生はすぐに理解してくれた。綺麗な顔で、微笑む。
「ふふ。半分ずつ、お願いします」
 あはは、なんかの儀式みたいじゃん。
 3人して笑って。それから、オレと冬矢はホントに儀式でもやるような感じで、蒼生の両側の腰に鎮座するリボンに手をかけた。
 蒼生はなんだかくすぐったそうだった。
「……脱がされるのとほどかれるのとでは、またなんか違うドキドキがあるね」
 あー、もう。えっちなかっこしてるのに、言うことは可愛いんだから。

 シャワーまではなんとか頑張ってたけど、寝室に戻るなり、蒼生は吸い込まれるように寝ちゃった。
 だよな、蒼生、朝からテンション高いって自己申告してたもんな。そんであれだけいっぱいシちゃったから、体力使い果たしちゃっても無理はない。
 もちろん、今の蒼生は、普通の下着を穿いて寝てる。また穿くのは難しいくらいにどろどろになっちゃったもんね。可愛いのはあれだけだって話だからさ。んー。うん。なるほど。
 いやぁ……。それにしても、今日の蒼生も可愛かったぁ。ナカでいっぱいオレのことぎゅーってしてくれたのが愛しくて愛しくて……。って、いやいやいやいや、ダメだ、あんまり詳細に思い出しちゃダメだ。今日のところは、まずそっと思い出の中にしまい込まなくちゃ。あんまり興奮したら、せっかく気持ちよさそうに寝てる蒼生を起こしちゃうかもしれないもんな。
 ……はあ。さっきからずっと見てるのに、全然見飽きない。オレの腕を抱えてすやすや寝息を立てる蒼生は、なんて可愛らしいんだろう。反対の手で冬矢にくっついてんだと思うと、それも可愛い。両手に好きな奴抱えて、こんな満足げにしてるなんて。
 …………うん。
 好き。
 大好き、蒼生。
「……このままずっと、ずーっと一緒にいるからね」
 小声で告げて、こっそり頬にキスをする。このくらいなら許されるよな。
 オレは蒼生の横顔を眺めて、そのまま目を閉じた。きっと明日の朝、目を開けたら同じ光景が広がるはずだ。でも、今日の朝とは違う朝なんだよな。だって、今日感じた「好き」をまたひとつ積み上げて始まる1日なんだからさ。
 そうやって、新しい1日を毎日蒼生と一緒に過ごしていくんだ。
 また明日ね。
 おやすみ、蒼生……愛してるよ!

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