アトリ~Every Life is Freedom~
レイもルックもシーナも、気が遠くなりそうになりながらこつこつ活動を続け、ファンの人数もどんどん増えていっているようです。
そんな中、マネージャであるナナミは裏でせっせとある作業をしていました。
ある日レイはそれ…「ファンクラブ発足」を知ってしまいます。
いやむしろ教えてあげてください!(笑)
相変わらず不憫な3人です。
初公開当時はリアルに会員募集したり会誌発行したりしようかと本気で考えていたりしました。
勢いって怖い。
(2003/6/2初公開:ほぼ全編書き直し)
Q.ところで世界観的に英語にこだわるのは違和感なのですが?
A.CDデビューとかペンライトとか出てる時点で諦めてください
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控え室はしんと静まり返っていた。部屋の中央あたりに設置されたテーブルの周囲は、窓の外の明るさを無視してベールでもかけたようにどんよりと薄暗い。テーブルを囲む椅子は4つ。座っているのは、俯いているのと突っ伏しているのと腕を組んで天井を眺めているの、合わせて3人だ。
もはやこれもありふれた光景になってきた。じっと押し黙っている3人の姿は、事情を知らない純粋な心を持つ者が目にすれば「本番直前の程よい緊張感」と捉えるだろう。たしかにドアの外側には“自分たちの仕事に向け集中力を高めていますので声をかけないでください”と張り紙をしてあるから、通りがかるスタッフたちは姿を見なくともそう受け取ってくれるはずだ。だがそんなものはただの言い訳だった。これから無理やりにでも明るい姿を見せなければいけないことを考えてぐったりしているせいで他人と話すような余裕がない、それだけの話だったりする。
彼らの成功は夢物語のようだと誰もが言った。
スタッフらも最高の夢だと喜んでいた。
だが、当事者にとっては。
「……悪夢だよな……」
「せめて覚めるやつならよかったんだけどね……」
「今からでも遅くないから冗談でしたって言ってくれないかなぁ……」
はあっと息を重ね、3人はちらりと壁際に目をやった。3つ並んだ衣装ラックにそれぞれ吊された華やかな衣装の数々。それがあまりにも色鮮やかであるがゆえに、さらに気分が重くなるのだ。
きっかけは、しばらく前にさかのぼる。
その日、いつものようにプライベートスペースから事務所に出てきたレイは、事務机で封書をせっせと仕分けしているナナミとアップルに気が付いた。薄い色合いのものや明るい色が多いその封筒の束は、おそらくファンから送られてきたものだろう。
ふと、最初に“ファンレター”とやらが手元に届いたときの光景がレイの脳裏に浮かぶ。それは早くもデビュー前のことだった。ポスターを見て気になって送ったという内容に、それだけで書簡を送ろうと思い立つのはずいぶん行動力があるものだと面食らったものだが、驚いたのは内容だけにではない。その数がぎりぎり片手で持ちきれないくらい多かったことにも正直恐怖を覚えた。しかし自分たち宛と書かれていて、しかも大変な生活をしている中で送ったであろうくたびれた封筒の束を無視することも出来ず、レイは覚悟を決めてすべて読んだのだった。どれもこれも明るい期待と希望に溢れており、デビューが楽しみですとまっすぐな言葉が綴られていた。
(あれを読んじゃったから……。あー、この戦争の渦中にあって明るい話題って大事なんだよなあ、僕が我慢すればこの人たちは喜んでくれるのかー、……って思っちゃったんだよね)
あのとき、シーナはさらりと読んでいたし、ルックは3通で音を上げていた。2人のように受け流せばよかったなとつくづく思う。
ナナミたちの作業を見なかったことにして通り過ぎようとしたレイは、ふといくつかの違和感に気付く。まず、封筒がとても綺麗で同じ種類の色違いが多いことだ。これについては何となく察しが付く。数か月前だが、アップルが見知らぬ男性と話しているのを見たことがあった。彼女も軍の中枢を担うメンバーのひとりだ、本業の話でもしているのだろうとさして気にも留めなかった。後にその男性が大手の紙問屋だと偶然知る機会があり、またなにがしか商売になる手立てを企てているのかなくらいに思っていたのだ。おそらくその商売こそがこの「ファンレターに使いやすい綺麗な便せんと封筒」なのだろう。まったくよく考えるものだと感心する。
しかしそれより違和感を覚えるのが、その量だ。デビューしてから明らかに数が増え、毎日のようにひとかかえもある紙束が届いてぞっとしていたのだが、今日のぶんはひときわ多い。机の上に山が出来て、さらには足元に袋がいくつも置いてあり、ナナミとアップルの手は止まる気配がない。
「……あー、おはようございます」
声をかけると、ようやくこちらに気付いたのかアップルが顔を上げた。
「おはようございます。気付かなくてごめんなさい」
あまりにも楽しそうな笑顔にレイのほうがたじろぐ。
軍主ユウキに誘われこの城に出入りするようになってからだいぶマシになったとはいえ、自分の師を戦いに引き出したことへの恨みを込めた彼女の眼差しはレイの記憶に鮮明に焼き付いていた。そのせいで未だに後ろめたい気持ちがある。ルックは否定していたが、アイドル稼業が自分への復讐だとしてもおかしくないと思っていた。
だが、目の前の笑顔にはまったく作為が感じられない。もしや本当に納得してくれたのだろうか。それとも表面だけの演技で、実は暗黒の策略を隠し持っているのだろうか。なにせ彼女は軍師の道を歩む者で、挙げ句の果てにはあのシュウの妹弟子なのだ。一応味方であるのだから信用すべきだとも思うのだが、現状において本当に味方かどうかわからない。今信じられるのは、同じ境遇にあるルックとシーナだけだ。
「……朝から作業お疲れ様です。ずいぶんと今日は早くから仕事してるんだね。それは、あれかな? 量がとても多いから、かな?」
「はい。昨日までが締め切りだったので、すべて集まってから作業をしたほうが効率的だと思ったので」
レイは首を傾げる。またもや自分たちは聞かされていない。締め切りという言葉が出る以上なんらかの募集をしていたのだろうが、それが自分たちに関係ないと考えるのはあまりにも不自然だ。どうせ自分たちの不利益かつ首謀者たちの利益になることに違いない。ならば堂々と確認しても構わないだろう。意を決して、アップルの手元を覗き込んだ。
「入会係……名称応募係……?」
封筒の表には城の名前と事務所名が書かれている。それはいつものことだが、多くはレイが読み上げた2つのどちらかが記載されていた。ほんのり嫌な予感がする。
そこで向こう側の事務机で作業をしていたナナミがようやく顔を上げた。
「ふー。……あれっ。レイさんだ。おはよー」
「おはよう。朝から……なんだか……その……」
「ああ、うん。すごい量だよね~。期待してたけど、ほんと想定以上! おかげでちょっと事務処理は大変だけど、全然気にしないで! みんなのためにも頑張っちゃうから! ほんとは入金システムが完全に整ってからにしたかったんだけど、各地の調整に少し手間取ってね~。結局まずは紙ベースで入会申し込みしてもらって仮の会員証を発行することにしたの。どっちにしても一緒に名前も募集してるから正式なやつは間に合わないの当たり前なんだけどね。だから逆にいいかなって思って。番号はその時点で振るから、それ使って申し込みは出来るし問題ないでしょ。流れとしては、名前決まりました~バーン! からの、本カード発行しますバーン! って方向にするつもり」
「うん、ナナミ、ちょっと待って。早い。何もかもが早い」
両手で押しとどめるような格好をすると、ナナミとアップルが首を傾げる。
「どうしたの?」
「……もしかして私たち、レイさんたちにきちんと説明していないという可能性があるのでは」
「えーっ? したよね? デビューイベントの時。ファンクラブ作らなきゃーって」
ぎゅっとレイは目をつむる。残念ながら、覚えている。テンションの上がったナナミが「ファンクラブは必要」みたいなことを言っていた。だがそれきり話題に上がらないので、自ら落とし穴に飛び込むような真似をしたくなかったレイは忘れたことにして日々を過ごしてきたのだ。
つまり。その時が来てしまった、というわけだ。
「ファンクラブ発足します、のお知らせと一緒に、みんなで名称を考えようって告知も出したの。初めは入会申し込みの書類の端っこに名称案を書く欄を作ろうと思ってたんだけどね、全員が入会したいとも限らないし、複数案を持ってる人がいるかもしれないし、事務処理は別にしたかったし。とかっていろいろ考えた結果、それぞれ係で分けて手紙を送ってもらうことにしたんだよね。それで今入会と名称募集で選別してるとこ。スタッフのほうで名称はある程度絞り込むから、最終的にはレイさんたちが選んでね」
「あっ、はい。……えっ? 僕たちが?」
「そりゃあ、ファンのみんなが考えてくれたんだから、本人たちがいいなって思うものがいいでしょ!」
自分たちのグループ名すら勝手に決められたというのに? 即座にそう反論しようとして、レイは言葉を飲み込んだ。じゃあ今後の名称決定はすべて3人に決めてもらいましょうなどという流れになったら面倒すぎると思ったからだ。墓穴を掘る手前で踏みとどまることができたレイは、ほっとしてひとつ息を吐く。が、この事務所において心の平穏など保てるはずがなかったのだ。
「あ。あとあれ言ってないかも」
ナナミがぽんと手を叩く。本日2回目の嫌な予感を覚え、レイは半歩後退った。
生真面目なレイが呼ばれてもいないのに事務所に出て行ったのを見送り、ルックは紅茶のおかわりをいれた。近頃のレイは、毎朝こうして今日の予定の確認などをするために自ら行動を起こす。受け身で予定表を叩きつけられるより、自分で確認を取ってその際に意見も聞いてもらうほうが結果的に楽だという結論になったらしい。レイはそれを自分の性分だと笑っていたし、全員で行く必要はないと言われたのでそれに甘えることにしている。たしかにスケジュール会議に出向いたところで、自分の機嫌が悪くなるだけだ。……もちろんそれに対して申し訳ないという気持ちもないわけではない。
わずかに許された静かな時間を堪能していると、バタンと大きな音をたてて自室からシーナが出てきた。
「んー……おはよぉ、ルック」
「おはよう。レイはもう事務所に行ったよ」
「えっ。もうそんな時間? わー、ずいぶん寝ちゃったな」
「とっとと顔洗ってきなよ。寝起きの二目と見られない顔してるよ」
「さては世紀の美青年のプライベートショットに見とれちゃったな~?」
「言語が通じないのは残念だ」
しっしっ、と手で追い払うと、シーナはからからと笑って洗面所に消えていった。
それからほんのわずかに間を開けて、かちゃぱたん、と背後でドアの音がする。今度は事務所に続くドアからだ。おやと思って振り向くと、レイががっくりと肩を落として戻ってきたところだった。
「おかえり。ずいぶん早かったね。……ああ。またあいつら、何か良くないことを企んでるのか」
それに対して、レイはうっすら笑いを返してきた。なるほど、間違いなく悲報が聞けそうだ。
レイが口を開きかけたとたん、タイミングよくシーナが戻ってくる。そして「あ、レイもおはよ~」とのんびり手を挙げたかと思うと、手を下ろす勢いでルックにがばっと抱きついた。
「……っ、重っ。この馬鹿、鬱陶しいんだよ!」
「え~、いいじゃん、オレたちの仲でしょ」
「どんな仲だよ」
「愛し合う同士」
「他人です」
「一緒に暮らす仲じゃんか~」
「不可抗力だろっ」
お決まりのやりとりをしていたルックは、内心首を傾げる。普段であれば助け船を出してくれるはずのレイが何も言ってこないのだ。見れば、腕を組んでソファに座って天井を眺めている。巻き付いてくるシーナの腕をぽんぽんと叩いてからレイのほうを指し示すと、シーナもレイの元気がないことを察したようだ。
「ずいぶんしょぼくれてんじゃん。あ、レイもオレからの熱い朝の抱擁いる? いるよな? だよなー。オレが足りない感じだよなー」
「疲れてるレイがもっと疲れるようなことしなくていいんだよ。ほら、話を聞こう」
本当にレイに突進しかねないシーナの襟首を掴み、2人並んでレイの前に座る。レイはすうっと大きく息を吸ってきちんと座り直す。
「えーと……。お二方に聞きたくないだろう話ともっと聞きたくないだろう話がございます。どっちから聞きたい?」
「普通それっていいニュースと悪いニュースってテイで話すやつじゃん」
「オチは見えたね。どっちでもいいから落ち着いて話して」
「はぁい……」
力なく返事をしたレイは、両手でぱたんとソファの座面を叩いた。
「ひとつめね。……待望のファンクラブが発足しまーす」
「……おめでとうございます」
「他人事みたいに言うなよ。……ああ、そう……。聞かなかったことにしてたけど、本気だったんだね」
はあ、と溜め息がハモる。
シーナが縋るような目でレイを見た。
「でもレイはさぁ、リーダーやってたときにはほぼファンクラブみたいな連中もいただろ。慣れてたりしないの」
「冗談でしょ。僕がそういうのめちゃくちゃ苦手だったの、シーナだって知ってるじゃん。それまで家名の付属品みたいな扱いだったのが急にもてはやされるってだけでぐったりだったよ。しかも曲がり角の向こうからじーっと見つめてくる子もいて、あれはもう恐怖だったね。さりげなく進路変えるの、結構大変だったなあ……。そういうシーナこそ女の子に注目されるのは慣れてるでしょ」
「まあね。むしろ嬉しい! ただ、照れ屋さんな子が多くてなんでだかそっぽ向かれることのほうが多かったけど」
「ああ」
「だろうね」
「2人とも、反応が早いうえに酷いなぁ」
言葉だけを捕らえると抗議のようだが、シーナは何やら手を擦りあわせながらにやにやしている。大方2人が反応を返したことが嬉しいのだろう。
ルックはそれを無視し、レイのほうに身を乗り出した。
「で? そのファンクラブとやらはもう発足されてる感じ?」
「いや、あー……。どの時点を持って発足っていうのかわかんないんだけど、今は名称を募集しつつ仮登録を始めてるって段階みたい。名称が決まったら発表と同時に正式な会員証を発行するとか言ってた。で、名前は候補を絞っていって、いずれ僕たちが最終的に決めることになるんだって」
「はあ?」
思わずルックが声を零す。
「僕たちが? 自分たちのユニット名すら勝手に決められた僕たちに対して、そこだけ自分の意思で選べって?」
「あはは……。僕も同じことを考えました……。ナナミたちには言えなかったけど」
「……はあ。そうだね。今更そんなことあの人たちに言っても、ましてや僕たちだけで言い争ったところでまったくの無意味だ。……とはいえ、これはおそらくなんだけど、ファンクラブっていうのはつまりあのイベントで見た大群がひとつにまとめられるって話だろ? だとすると事務処理がやりやすくなったり集金がしやすくなったりすることがナナミたちの目的なんだと思うよ。だとすれば僕たちには直接害はないと考えても支障はないんじゃない」
隣でシーナがこくこくと頷く。
「オレもそう思う。きっと統制を取りやすくするみたいな感じでしょ。定期的な収入になるし、ちょっとの特典でも付けると人が集まりやすいとかなんとかアップルも言ってたし」
「…………。まあいいや。その話を先にしたってことは、どちらかというとレイはもうひとつの話題のほうを嫌がってるんだろ。なんとなく察してるから早く言いなよ」
そう言い放つと、ルックはもう一度大きな息を吐き、ついっと視線を逸らした。レイは顔をしかめて再び天井を仰ぐ。CD発売。アイドルデビュー。ファンクラブ発足。そう来たら、次に来るのは。
「ええと……ライブ……」
ぼそぼそと呟くような音声に、シーナが思わず腰を浮かせる。
「えっ。マジ? とうとう? やるって言ってた?」
「た、たぶん。なんかその単語を聞いた瞬間目眩がしてここに戻ってきちゃったから、もしかしたら聞き間違いかも。いや、聞き間違いであってほしい。聞き間違いであれ」
「おっ、落ち着けってレイ、そうだ、オレもまだ寝てるのかもっ」
顔をつきあわせて慌てる2人を眺めて一度頭を抱えたルックが、溜め息と一緒によろりと立ち上がった。それがまるで幽鬼のようだったので、思わず2人は言い合いをぱたりと止める。
「ルック……?」
「とりあえず話を聞きに行こう」
ルックが自分から動くのは珍しい。ぽかんとしていて一瞬出遅れたレイとシーナだったが、そのままふらふらとドアに向かっていくルックに気付いて弾かれたように追いかける。もしかすると、ルックが一番「信じたくない」という思いが強いのかもしれない。
おそるおそるドアを開けるが、事務所には誰もいなかった。少々拍子抜けした3人は、肩の力を抜いて事務所の中に入る。
レイは先程までアップルがいたデスクに向かう。デスクの上には何もなかったが、足元に置かれている2つの箱には封筒がごっそり入っている。覗いてみると、きちんと入会申し込みと名称応募に分けられているようだ。とりあえず作業は終わったのだろう。
ふらりとルックが先日設置されたばかりの行動表と書かれたボードの前に立つ。全員「外出」の札がかかっていた。そうだろう、彼らには本来の役割があるのだから、自分たちにばかり関わっている暇はない。であれば、ほっといてほしいと思うのだが。
「出直す?」
困ったように言うシーナに、ルックが首を振る。
「いや、なんらかの証拠はあるはずだ。企画書とかチラシとか、そんなようなの」
「そういえばさっき、ファンクラブの申込用紙があるって言ってたな。もしかしたらライブのお知らせも載ってるかも。少なくとも同時期に配布したチラシは近くにあるかもしれない。僕はあっちの棚を見てみる。ルックはデスク周りをお願い。シーナはあっちの棚」
「わかった」
「おー」
三方に散り、それぞれの場所で手がかりを探す。入会申込書は欲しいと言われればすぐに出す必要があるので、奥底深くに沈んでいるということはないだろう。ファイルを開き、棚のボックスを開け、紙の束をめくる。ところが、3人がかりで探せばすぐ見つかると思っていたのだが、これが意外と見つからない。
そして、初めて触れる書類の数々に、3人の思いは図らずも一致する。
(……奴ら、本気だ)
収支報告や事業計画、宣伝計画書など、ふざけているにしては真面目すぎる書類が山のようにあるのだ。もちろん今までのことを考えれば、冗談で済むような作業量ではない。だがその態度はどこかおちゃらけていて、適当に遊ばれている感じがあった。だからどこかで「遊びに巻き込まれちゃったよやれやれ」という付き合ってやってるぞ感で受け流すことができたような気がする。
しかし。このクソ真面目な書類を見てしまった。彼らは立派な大人のガチでマジの本気でもって、レイたちをアイドルに仕立て上げようとしているのだ。
「……怖」
「その一言で済ませようとするレイも大物だよ」
いや、とレイが否定しようとしたタイミングで、ごちんと大きな音がした。レイとルックがそちらを見ると、シーナが「いってぇ……」と呟いて頭をさすっている。
「どうした?」
「あー……この端っこのとこに頭ぶつけた……。それから、これ、チラシ見つけた……」
「なんだ、そっちを先に言いなよ」
2人で駆け寄ってシーナが開き戸の中で見つけたチラシを覗き込んだ。まずは自分たちの顔がどんっと大きく印刷されているのに目が回る。
「……うっわ」
「はー……」
「2人とも、気を確かに。よく見て、素晴らしく美しい1枚じゃん。ほらぁ、レイもルックもこんなに可愛……かっこよく撮れてるんだから。ああ、でも見て見て。オレも輝いてるーっ! ねえ、オレってやっぱり美形じゃない?」
「どうでもいいよ」
さっと切り捨て、ルックはシーナの手からチラシを取った。顔やグループ名のロゴなど今更見ても仕方がない。問題ははっきり書かれた文字列のほうだ。
──アトリビュートFirstライブ決定! "Scene of The 1st stage"
読み間違えようがない。どう見てもきっかりライブ告知だ。日程は1日だけ。場所はサウスウィンドウホール。どこだそれは。そんな施設あったかなと思うが、まあ、出来たのだろう。
そして下半分にはファンクラブ発足とその名称募集のお知らせが載っており、切り取り線を挟んでさらに下側が入会申込書になっている。
「へーえ……。名前を考えてくれた人には抽選でサイン入りブロマイドが当たるんだってぇ……」
「レイ、応募してみたら?」
「残念ながら締め切り過ぎてますんで」
それを聞いたシーナが、空いた両手をばっと挙げた。
「あ、オレならいつでもサインするよ! 2人の私物にひたっすらサイン書いてあげようか!? いつでもオレと一緒気分を味わえるんじゃない?」
「何言ってるんだよ。いつでも一緒にいるじゃないか。ほぼ軟禁状態なんだから」
「まったく。本人だけで充分だよ鬱陶しい」
溜め息交じりのレイとルックの言葉は、現状を嘆くものだった。だが、うっかり滲み出てしまったものがある。目の前の数字に衝撃を受けている本人たちは失言だと気付いていないが、対象であるシーナからしてみれば「いつでも一緒」「シーナ自身は迷惑でない」と捉えても差し支えのない発言だ。思わず頬が緩んでも無理はない。
「あー……500枚かあ……。サインて僕たちが書くんだよね……」
「残念ながらそうだろうね。……って、何にやにやしてんの、シーナ。気持ち悪いんだけど」
「ええー? オレ、今なら1,000枚でも2,000枚でもサイン書けそう」
でれでれと表情を崩し、なんなら動きまでふにゃふにゃしだしたシーナを2人は怪訝な顔で一瞥する。勝手にやってろと言いたいところだったが、そこに邪魔が入った。
「あっ。みんなおはよ~」
用事が終わったのか、出入り口のドアを開けたところでナナミがのんきに手を振っている。後ろには丸めた大きな紙をいくつも抱えるユウキの姿もあった。ユウキは3人の姿に気付くとぱっと顔を輝かせる。
「おはようございます! ファンクラブの入会希望、すごい数になってるみたいですね! おめでとうございます!」
「あ……あー、うん……?」
レイが返答に迷っていると、ユウキはぱたぱたと3人のそばをすり抜け、事務所の奥にあるケースに紙を1本ずつ丁寧に入れていく。
「いやぁ、みなさんの華やかさにはいろんな人が惹かれるだろうなと思っていましたけど、たくさんの方に魅力を気付いていただけて僕は嬉しいです! これからも積極的に支えていきますので、どうぞよろしくお願いします。そうそう、ファンクラブのイベントやりたくて、今内容の調整とか場所の選定とかしてるんですよ~。楽しそうでいいですよね! あ、でもまずはライブですね。だいぶコンセプトとかは詰めてきてるんですけど、レイさんたちの意見を伺いたいところもあって。追って打ち合わせとかしたいんで予定入れさせてもらいますね。諸々細かいところは、それじゃ、よろしくお願いしまーす」
「はーい」
返事をしたのはナナミだ。ユウキはささっと片づけを済ませると、にこにこ手を振って事務所から出て行った。あまりにも素早く無駄のない身のこなしに思わず3人は感心してしまう。
3人が呆けていると、ナナミは小脇に抱えていたケースのようなものを事務机に置いた。
「ところで、楽器って弾ける?」
ぞくり。
背中を悪寒が駆け上る。それはなんでもない雑談の始まりのようだ。だが3人は知っている。ここのスタッフたちがなんでもない雑談をするはずがないと。
ルックが普段は見せないスピードでぶんぶんと首を振る。
「ない。そんなのないよ。何もやったことがない。そんなのとは無縁の生活だったから。無理だからね」
シーナは目の前で両手をばたばたと振り回す。
「一応っ。一応ね、習い事としてピアノは触ったことあるけどっ! 練習とかかったるくなっちゃって、まともに弾けるとこまで習ってないんだよねぇっ!」
レイも自信なさげに胸のあたりで指を組む。
「僕は……その、バイオリンを……少々……」
精一杯の「無理です」を詰め込んだ言葉。それをナナミはにこにこしながら聞いていた。頷いてもいたし、話が通じたのだろうと思っていた。のだが。
「ありがと、わかった。じゃあ、レイさんとシーナさんはギターを習ってね。ルックくんはピアノで」
「えっ」
「は?」
「ちょ」
またもやさらりと告げられた内容に、3人は言葉を失って事務机に押しかける。
「ぼ、僕たちの話聞いてた? 誰もまともに触れないって言ったと思うんだけど」
なんとかそう口にしたレイに対し、ナナミは得意げに腕を組んだ。
「あのね。私、正直言って、3人の歌はものすごく上手だと思うの。特にハモリパートなんて鳥肌が立つくらい。ダンスも素晴らしいと思ってるのね」
「……ありがとう……?」
「だからね、何か“挑戦”するべきものが欲しいなって思ったんだ。少しずつ出来るようになっていく過程っていうか、成長の様子を、ファンの人たちが長く長~く見守れるような。それには、もとから出来るものじゃダメなんだよ」
「あ、それは……そうかも……?」
「完璧な姿を見せつつ! 一生懸命頑張る姿も見せる! ギャップ大作戦だよ!」
ナナミはケースから冊子を取り出す。そこには『はじめてのギター』『はじめてのピアノ』という文字が書かれていた。
翌日からライブに向けた打ち合わせが始まった。当日のセットリストなどはあらかじめたたき台が作られており、それに3人が口を挟むことで正式な流れが決まっていく。いつもは強引に進められて頷くほかないのだが、実際ステージに上がるのは3人であるからか、今回ばかりは比較的意見を取り入れてくれた。3人としてはやりたくないことを阻止したいために発言をしたのだが、積極的に話し合いに参加してくれて嬉しいと言われ、ちょっとばかり「しまった」と思ったが後の祭りだ。
そして同時に楽器のレッスンも始まってしまった。だがこちらは思ったより優しく、基礎の基礎を教えてもらう程度だった。おそらく、最初から勢いよく上達してしまっては、ナナミたちが期待するところの“成長物語”が成立しないからだろう。舞台で恥をかくのは本意ではないが、温かく見守ってもらえるポイントを作るのはあながち悪いことでもないのだろうと納得した3人だ。
今日も楽器に少々触れただけで練習が終わった。きっかり予定時間通りに終わったので、それぞれのレッスンスタジオから出た3人はロビーでばったりと顔を合わせた。
「……おつかれ」
「おつかれさまぁ。どうだった、今日は」
まだ元気が残っているらしいシーナが聞くと、レイとルックは目を見合わせ、げんなりと肩を落とす。
「まあまあかな……。弦を、こう……押さえるじゃん? いつも使わない筋肉を使ってる感じで、攣りそうになるんだ。そういえば昔バイオリン習ってた時もそれでやめたんだっけって今更思い出したよ。もともと武術訓練のほうが好きだったし」
「ああ、攣りそうな感覚、僕もわかる。鍵盤のこっちからこっちまで指伸ばせって言われるんだけど、物理的に届かないんだよ。いい加減にしてほしい」
シーナは困ったように笑って、2人の手を取った。
「そうだよね、プロの人ってわけわかんないくらい指動くもん。んー、けど、2人とも決して小さい手ってわけじゃないんだよなあ。レイはバランスが整ってて、ルックは指が長くて綺麗」
「シーナこそ意外とがっしりしてて男の手って感じだよね」
「羨ましいよ」
ぱちぱち、とシーナは目をしばたたかせる。すぐに振り払われると思った手は、意外にも触り返されている。これは役得だ。
「3人とも、お疲れ様~」
そこにまたナナミがひょいと顔を出す。なんとも間のいい登場だ。ぱっと手を離されてしかめっ面のシーナがいるにもかかわらず、ナナミはまったく気にしない様子で持っていた封筒をばさりとレイに手渡した。
「? なに?」
聞きながら中に手を差し入れると、厚めの紙が手に触れた。それを引っ張り出したレイは、思わずぎょっとする。それを左右両側から覗き込んだルックとシーナも目を見開いた。
ひとり得意げなナナミが胸を張る。
「前に言ってたファンクラブの名称候補リストだよ。こっちである程度絞ったから、この中から選んでね。とはいってもみんなの意見が大事だから、アレンジしたり組み合わせたりしても大丈夫!」
「……絞った? これで?」
馴染みのあるサイズの紙に、わずかな余白を残して小さな文字がぎっしり敷き詰められている。しかもそれが3枚。
「ほら、選択肢があるわけじゃないでしょ。だから被る名前が少なくて。これがペットの名前とかだとある程度票はまとまるはずなんだけどねー。これでも怪しい言葉とか敵軍に関わる言葉とかは抜かしたんだよ」
「はあ……」
「それじゃ、よろしくね。あんまり急がなくていいけど、早いと嬉しいな!」
「ああ……」
そうして3人に課題を残し、ナナミはぱーっとどこかに行ってしまった。なにやら事務的な作業で忙しいらしいが、手渡された文字の圧に押されていた3人にはもはやどうでもいいことだった。
部屋に戻った3人は荷物を自室に放り込むと、まっすぐにダイニングテーブルに集まった。幸か不幸か、紙は3枚だ。ひとり1枚片付ければ終わる。
「もう、とっととやっちゃおう。後回しにしても気が重くなるだけだよ」
「レイの言う通りだね。とりあえず目を通して、気になるものにチェックを入れていこう」
「おっけー。できるだけマシなやつ選ぼうな」
テーブルになみなみと水を入れたピッチャーをどんと置き、一気に片付けてしまう体勢を整える。
さあ、やるぞ。
それぞれが紙とペンを手に、じっくり文字と向き合い始めた。
静かな部屋。
時々ぱたぱたとペンで紙を叩く音がする。
それに混じる、溜め息。
なんとか文字列に向き合おうとする3人。
が。
「うぁー……もーダメ。しんどい」
まずシーナの集中力が途切れてしまった。もとより不本意な作業なので集中するには普段以上の精神力が必要なのだから無理もない。
「な、やっぱ黙って選ぶの無理。レイ、ルック、楽しくおしゃべりしながら決めようぜ」
文字は頭に入ってくるが意味がよく分からなくなってきていたレイとルックもひとつ息を吐いて頷いた。
「うーん、そうだね。ひとりで向き合うには重たいや。楽しくなるかどうかはともかく、3人で相談しながらのほうが気楽でいいと思う」
「僕も今吐きそうになってたところだからありがたい進言だよ」
では、と改めて3人は顔を突き合わせる。
「僕の手元にあるのは……『First Love』に『Love’s Love』、『Your Love’s time』……」
「なんでラブばっかなんだ?」
「さあ。夢見がちなんじゃないの」
「そりゃオレたちの間には熱い愛情があるわけだけども」
「無視します」
「同じく」
「あっはっは、照れちゃってぇ」
疲れた表情のシーナがわざとらしく両手でハートマークを作るので、言葉通り見なかったことにする。
「はあ、僕のほうも、夢だの愛だのみたいなふわっふわした単語が並んでるよ。それから、昔話やおとぎばなしにしか出てこないような未知の生き物の名前とか」
「アイドルって存在が別世界の生き物に見えるのかもなあ……」
「僕たちも普通の一般人なんだけどね……」
「レイが一般人かどうかは再考の余地があると思うけど。僕らの経歴って、ちょっと一般人の枠から外れてない?」
「……言われてみればそうかも。し、シーナのほうはどう? よさげなのあった?」
「んー。こっちにはエルフとかドラゴンとか街の名前とかここの軍の名前とか、なんかやたらと現実が紛れ込んでる」
「種族限られちゃうのもよくないよね」
「じゃあ夢見がちなほうがまだマシなのかな。どうせ僕らの名前じゃなくて、ファンの人たちの名称なんだから」
「ああ、そしたらこっちの『Sweet Lover』とか『Love & Love』とか」
「結局そこに戻るわけ?」
「オレらそんなに甘く見えるんだなあ」
3人は改めて頭を抱える。あれやこれやと口に出して響きを確かめてみるが、いまいちピンとこない。しかも量が多すぎて、いつまで経っても見終わらない。
レイはグラスに残った水をぐーっと飲みほした。
「駄目だ! 埒あかない! もう何選んでも変わんない気がしてきた」
ぐったりと首を仰のかせたルックがペンを放り投げる。
「そうだね。なんでもいいよ。適当に決めて」
シーナも頷き、ポケットをごそごそと探った。
「いっそ3人でコインでも落として、そこにあったやつにしようぜ」
「賛成」
「僕も賛成」
面倒くさくなった3人は、目を見合わせて頷いた。
そして、キラキラ輝くコインをひとりずつ手に持つ。いい加減な方法かもしれないが、考えが全くまとまらないのだから、これが最善のような気がしてきた。
「目をつぶって、誰のコインかわかんないようにしようぜ。誰にも責任はないってことで。12の3、で落とす。な」
「うん」
「わかった」
3人は目を閉じ、テーブルの上に手をかざす。
「1、」
「2の、」
「3」
一斉にコインを落とす。かつん、ころころ、かちん。それから、くわんくわんと小さな音。それが完全に静かになったところで、「行くよ」というレイの言葉でおそるおそる目を開けた。
コインの1枚は紙から遠く離れたところに落ちていた。もう1枚は余白にあり、最後の1枚が文字の上に横たわっている。この中央が指し示しているのが、運命の言葉だ。
目配せをし、レイがそーっと手を伸ばす。
「……『I think, every life is freedom, always』……」
読み上げられた言葉に、ルックは大きく息をつく。
「もはや文章じゃないか。僕たちのことを言ってるのかどうかもわからないし」
「すべての命は常に自由であると思う、か。うーん……」
「……ああ。けどさ、そういうコンセプトで活動を始めたことになってるよね、僕たち。こんな世の中だからこそ、明るくいてほしい。自由に好きなものを好きでいてほしい、って」
ぽん、とシーナが手を叩く。
「はいはい。そういやそんなふうなことも言ってたな。そうだ、これを略しちゃえばいいんじゃないか? every life is freedom……文字の頭を取ってELF、エルフ」
「それじゃさっきの種族の話に戻っちゃうじゃないか。いっそほとんど使って、こういうのとかにしたら。他の何かと被ることもないだろ」
ルックが手元の紙に「Telifa」と書きつける。2人は目を見開いてその文字を眺めた。
「おー。めちゃくちゃそれっぽい。Iは?」
「いらないでしょ。語呂が悪い」
「ね、最後のaを大文字にしたらさらにそれっぽくない?」
「それだそれだ」
3人は目を合わせ、深く頷きあう。
「では、読み方はテリファ、綴りがTelifA、意味としては『I think, every life is freedom, always』で決定ということで。なにか異議はありますか」
「ありません!」
「ないです」
大仕事を終えた3人は、はあっと大きな溜め息を吐いた。
本当の大仕事はこれからなのだが、今日ばかりは忘れても許されるだろう。
そして話はようやく冒頭へ戻る。
ファンクラブの名称は無事スタッフたちに承諾を得、正式に「TelifA」が発足することとなった。そこから事務作業が勢いよく進んだらしいが、そのあたりは知ったことではない。
いっそこのまま時間が止まってしまえばいいのに。
そんな願いが叶うはずは当然なく、控え室のドアは無情にも大きな音をさせて開いた。
「3人ともお待たせ! 準備を始めるよ!」
元気なナナミの声。そう、今日が3人の本格的なライブデビューの日なのだ。
「はあ……」
「もうどうしようもないよね……。行くしかないんだよね……」
「そうみたいだなぁ……」
「帰りたい……」
「会場に行ったら誰もいなかったらいいのに」
「それいいな……」
ぐったりしていた3人は、ゆらりと立ち上がった。
で。
アトリビュートファーストライブ“Scene of The 1st Stage”は、3人の思惑をよそに見事大成功を収めた。
チケットは仮ファンクラブの抽選申し込みが大盛況、一般発売も発売からわずか5分でソールド・アウト。幕が開けば、ひとつの空席もない鮮やかな満員御礼。ファンクラブ「TelifA」の正式発足発表には会場が割れんばかりの大きな歓声が上がった。アンコールは鳴り止まず、2回の再登場の後に強制退場のアナウンスを流さねばならなかった。グッズの売れ行きも大変好調で、購入制限をしたにもかかわらず品切れのアイテムが相次ぎ、その場で受注生産が発表された。
それほど3人のパフォーマンスは大好評だった。息の合ったダンス、曲の合間のスムーズなトーク、そしてなにより聴く者の心に突き刺さる歌声。そのどれもが集まった観客たちを魅了した。始めたばかりで拙いですが、と前置きして始まった楽器演奏もまだたどたどしいのが可愛らしいと評判になっていた。
結局、不満ながらも与えられた課題をこなしてしまう真面目なレイを筆頭に、ルックもシーナもなんだかんだお人好しなのだ。
「ね? アップルちゃん。あの3人、アイドルにして正解でしょ?」
ナナミが両手を握りしめ無邪気に笑う。
「まさかこんなに上手くいくなんて」
自分が関わって練った計画の順調さに、アップルはうっとりと笑う。
「本当に才能ある人たちだったんですねえ」
ユウキは何を考えているのか、ひどく楽しそうに笑う。
「これで今年度は、城がひっくり返っても黒字になるな……」
そしてシュウは絵に描いたような悪役顔で笑うのだった。
なお、ファンクラブは事前申し込みだけでも相当数があったのだが、ライブ当日の会場申し込み受付にも長い行列が出来ていたそうだ。正確な数はこれから集計して会員証を発行するとのことだが、何やら5桁を超えたらしい。
ちなみにファンクラブナンバー1桁番台はプラチナ会員扱いで、親類縁者が埋めたということだ。その番号は話し合いで決められたのだが、本人の申し出と全員の承諾により、1番はグレミオが受け取ったのだとか。
そのあたりの話を後日聞いたレイは、遠くを見つめてぽつんと呟いた。
「なんだっけ……ファンクラブの長い名称……」
「えっと……『I think, every life is freedom, always』だっけ? たしか」
「あれ、否定文にしてもいいかな……」
「not、ってこと? ……僕たちの中では、最初からそうなんじゃないの?」
「ごもっとも……」
「オレたちの自由はどこに……」
レイにつられて、ルックとシーナも明後日の方向を眺める。
背後で次の予定をひそひそ話し合う首謀者たちの姿があったが、3人は全力で見ないふりをするのだった。
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